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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】燃料電池セル構造
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0273 20160101AFI20250430BHJP
   H01M 8/0282 20160101ALI20250430BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20250430BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20250430BHJP
【FI】
H01M8/0273
H01M8/0282
C04B37/02 Z
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021051914
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149659
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三由 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】入月 桂太
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-049323(JP,A)
【文献】特開2006-172946(JP,A)
【文献】特開2019-003795(JP,A)
【文献】特開2004-207170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/0297
H01M 8/08-8/2495
C04B 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極層、空気極層、及び前記燃料極層と前記空気極層の間に設けられる電解質層を有する燃料電池セル構造であって、
前記電解質層の周縁部に設けられ、前記燃料極層に流通する燃料ガスと前記空気極層に流通する空気とを分離する枠状部材と、
前記枠状部材と前記電解質層を相互に接合するとともに、金属及びセラミックスを含む接合部材と、
前記枠状部材の内周部と該内周部に接触する前記接合部材の領域により画定されるシール対象領域を前記電解質層に対して気密に密着させるように設けられたシール部材と、を備え
前記接合部材は、前記電解質層に含まれるセラミックスと、前記枠状部材を構成する金属と、を含有する組成物により構成される、
燃料電池セル構造。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池セル構造であって、
前記枠状部材及び前記接合部材には、前記シール対象領域よりも外周側に溶接部が設けられる、
燃料電池セル構造。
【請求項3】
請求項に記載の燃料電池セル構造であって、
前記シール部材は、前記接合部材に含まれる前記セラミックスと結合するガラスを主成分とするガラス組成物により構成される、
燃料電池セル構造。
【請求項4】
請求項1~の何れか1項に記載の燃料電池セル構造であって、
前記接合部材は、ガス遮蔽性を備えるように緻密に形成される、
燃料電池セル構造。
【請求項5】
請求項1~の何れか1項に記載の燃料電池セル構造であって、
前記接合部材は、前記シール部材と接する部分が多孔質に形成される、
燃料電池セル構造。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の燃料電池セル構造であって、
前記枠状部材の内周部において、前記シール部材と接する表面に酸化物の被膜が形成される、
燃料電池セル構造。
【請求項7】
燃料極層、空気極層、及び前記燃料極層と前記空気極層の間に設けられる電解質層を有する燃料電池セル構造であって、
前記電解質層の周縁部に設けられ、前記燃料極層に流通する燃料ガスと前記空気極層に流通する空気とを分離する枠状部材と、
前記枠状部材と前記電解質層を相互に接合するとともに、金属及びセラミックスを含む接合部材と、
前記枠状部材の内周部と該内周部に接触する前記接合部材の領域により画定されるシール対象領域を前記電解質層に対して気密に密着させるように設けられたシール部材と、を備え、
前記枠状部材及び前記接合部材には、前記シール対象領域よりも外周側に溶接部が設けられ、
前記シール部材は、前記溶接部を覆うように構成される、
燃料電池セル構造。
【請求項8】
燃料極層、空気極層、及び前記燃料極層と前記空気極層の間に設けられる電解質層を有する燃料電池セル構造であって、
前記電解質層の周縁部に設けられ、前記燃料極層に流通する燃料ガスと前記空気極層に流通する空気とを分離する枠状部材と、
前記枠状部材と前記電解質層を相互に接合するとともに、金属及びセラミックスを含む接合部材と、
前記枠状部材の内周部と該内周部に接触する前記接合部材の領域により画定されるシール対象領域を前記電解質層に対して気密に密着させるように設けられたシール部材と、を備え、
前記接合部材は、前記金属に対する前記セラミックスの体積比率が前記枠状部材に近いほど小さく且つ前記電解質層に近いほど大きくなるように構成される、
燃料電池セル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、電解質の周縁部の領域に、シール部を設けた燃料電池の構造が提案されている。このシール部は、電解質の周縁部に設けられた金属の枠状のセパレータ(以下、「金属フレーム」と称する)と電解質膜とを気密に接合する。さらに、シール部は、電解質に含まれる金属元素又は半金属元素、及び金属フレームに含まれる金属又は半金属元素の双方を含むガラス組成物で構成される。これにより、シール部は、金属フレームと電解質とを接合させる機能、及び両者の間をシールして空気(酸化雰囲気)と燃料ガス(還元雰囲気)を分離する機能を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-185883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のシール部は、外側の端部が還元雰囲気に晒される一方で、内側の端部が酸化雰囲気に晒される。そして、上述のように、シール部は金属成分を含むので、このようにシール部の内側が外側に比べてより酸化雰囲気に継続的に晒されることによって、当該シール部の内側部分に含まれる金属成分(例えば鉄)が局所的に酸化膨張して、当該シール部にクラックが生じる恐れがある。その結果、求められるシール性及び接合強度が十分に担保できないといった問題があった。
【0005】
このような事情に鑑み、本発明の目的は、シール性及び接合強度の低下を抑制することのできる燃料電池セル構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、燃料極層、空気極層、及び燃料極層と空気極層の間に設けられる電解質層を有する燃料電池セル構造が提供される。この燃料電池セル構造は、電解質層の周縁部に設けられ、燃料極層に流通する燃料ガスと空気極層に流通する空気とを分離する枠状部材と、枠状部材と電解質層を相互に接合するとともに、金属及びセラミックスを含む接合部材と、枠状部材の内周部と該内周部に接触する接合部材の領域により画定されるシール対象領域を電解質層に対して気密に密着させるように設けられたシール部材と、を備え、接合部材は、電解質層に含まれるセラミックスと、枠状部材を構成する金属と、を含有する組成物により構成される
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シール性及び接合強度の低下を抑制することのできる燃料電池セル構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の第1実施形態による燃料電池セル構造の構成を説明する図である。
図2図2は、第1実施形態の燃料電池セル構造における支持・シール構造部を説明する図である。
図3図3は、溶接部による作用効果を説明するための図である。
図4図4は、第2実施形態の支持・シール構造部を説明する図である。
図5図5は、第3実施形態の支持・シール構造部を説明する図である。
図6図6は、第4実施形態の支持・シール構造部を説明する図である。
図7図7は、第5実施形態の支持・シール構造部を説明する図である。
図8図8は、第6実施形態の支持・シール構造部を説明する図である。
図9図9は、変形例に係る支持・シール構造部の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る燃料電池セル構造としての燃料電池スタック10の構成を説明する図である。なお、以下では、説明の便宜のため、XYZ直交座標系を各図中に示す。また、必要に応じて図中のX軸方向を「電極幅方向X」、Y軸方向を「ガス流れ方向Y」、及びZ軸方向を「積層方向Z」とそれぞれ称する。
【0011】
図示のように、本実施形態の燃料電池スタック10は、固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cells:SOFC)として構成される複数(図1では2つを示す)の単セル20とセパレータ30が順次積層されてなる積層型燃料電池である。
【0012】
特に、本実施形態の燃料電池スタック10は、各種電気機器の電源等としての定置電源用途、及び電気自動車やハイブリッド自動車等の移動車両に搭載される移動体用の電源用途の何れにも適用可能である。
【0013】
<単セル20>
本実施形態の単セル20は、主として、アノード電極層24、カソード電極層28、電解質層26、及び集電補助層29を含む。そして、単セル20におけるカソード電極層28の一方面(電解質層26に対向する面とは反対側の面)には、集電補助層29を介してセパレータ30が設けられる。
【0014】
さらに、本実施形態の各単セル20には、その周縁部(電極幅方向Xにおける端部)に支持・シール構造部Sが設けられている。この支持・シール構造部Sについては後に詳細に説明する。
【0015】
<アノード電極層24>
アノード電極層24は、燃料極層であって、燃料ガスと酸化剤ガス由来の酸化物イオンを反応させて、燃料ガスの酸化物を生成するとともに電子を取り出す機能を果たす層である。アノード電極層24は、電解質層26の図上の下面に接するように設けられた板状の多孔質部材として構成される。また、アノード電極層24は、還元雰囲気Rrに耐性を有するとともに、燃料ガスを透過させるガス透過性、電子伝導性、及びイオン電導性が高くなるように構成される。なお、本実施形態では、アノード電極層24がカソード電極層28よりも厚く且つより広い面積に構成されるとともに、燃料ガスを酸化物イオンと反応させる酸化反応に対する触媒機能を有する。特に、本実施形態の単セル20は、このように肉厚に構成されたアノード電極層24によりセル構造を支持するための機械的強度を確保したいわゆるアノードサポートセルとして構成されている。
【0016】
アノード電極層24の構成材料としては、例えばニッケル若しくは鉄等の金属、又は該金属と固体酸化物セラミックスとのサーメット等が挙げられる。さらに、固体酸化物セラミックスとしては、希土類酸化物(例えば、Y23、Sc23、Gd23、Sm23、Yb23、及びNd23なる群から選択される1種又は2種以上の材料)をドープした安定化ジルコニア、セリア系固溶体、又はペロブスカイト型酸化物(例えば、SrCeO3、BaCeO3、CaZrO3、又はSrZrO3等)などが挙げられる。
【0017】
なお、本実施形態の燃料電池スタック10において用いることが可能な燃料は、水素の発生源となる任意の炭化水素系燃料、特にアルカン、アルケン、アルキン、又は芳香族炭化水素の他、炭化水素以外の元素(例えば酸素)を含む官能基を含む、アルコール、アルデヒド、ケトン、又はエーテル等、特にメタン(CH4)燃料が用いられる。
【0018】
<電解質層26>
電解質層26は、燃料ガスと酸化剤ガスを分離する機能を有する。電解質層26は、カソード電極層28からアノード電極層24に向かって酸化物イオンを通過させつつ、ガスと電子を通過させないように構成される。特に、本実施形態の電解質層26は、アノード電極層24と略同一の面積で構成されている。
【0019】
また、電解質層26は、アノードガスやカソードガスを遮蔽し、高いイオン伝導性を発現するために、緻密に構成される。より詳細に、電解質層26の緻密度は、ガス遮蔽性を有する限りにおいて特に限定されないが、90%以上あることが好ましく、96%以上であることがより好ましく、98%以上であることが特に好ましい。また、電解質層26は、数十ミクロン程度の厚さを有する板体として形成されている。
【0020】
電解質層26の構成材料としては、希土類酸化物(例えば、Y23、Sc23、Gd23、Sm23、Yb23、及びNd23からなる群から選択される1種又は2種以上の材料)をドープした安定化ジルコニア、セリア系固溶体、又はペロブスカイト型酸化物(例えば、SrCeO3、BaCeO3、CaZrO3、又はSrZrO3等)などの固体酸化物セラミックスが挙げられる。より具体的には、電解質層26の構成材料として、YSZ(イットリア安定化ジルコニア:Zr1-xx2)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア:Zr1-xcx2)、SDC(サマリウムドープトセリア:Ce1-xSmx2)、GDC(ガドリウムドープトセリア:Ce1-xGdx2)、又はLSGM(ランタンストロンチウムマグネシウムガレート:La1-xSrxGa1-yMgy3)などを用いることができる。
【0021】
<カソード電極層28>
カソード電極層28は、酸化剤極であって、酸化剤ガス(特に空気)と電子を反応させて、酸素分子を酸化物イオンに変換する機能を果たす層である。カソード電極層28は、電解質層26の積層方向Zにおける上面に接するように設けられた板状の多孔質部材として構成される。また、カソード電極層28は、酸化雰囲気Roに耐性を有し、酸化剤ガスを透過させるガス透過性、電子伝導性、及びイオン電導性が高くなるように構成される。さらに、カソード電極層28は、酸素分子を酸素イオンに変換する還元反応に対する触媒機能を有する。
【0022】
カソード電極層28の構成材料としては、例えば、ランタン、ストロンチウム、マンガン(Mn)、及びコバルトからなる群から選択される1種の金属又は2種以上の金属からなる合金の酸化物が挙げられる。特に、カソード電極層28の構成材料として、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物(LSCF)を用いることができる。
【0023】
<集電補助層29>
集電補助層29は、例えば金網上のエキスパンドメタル等により形成され、セパレータ30と単セル20との電気的な接触を補助する。また、セパレータ30は、鉄又はクロム等の導電性金属材料をプレス成型することにより、電極幅方向Xに延在する断面凹凸状の部材として構成される。当該断面形状により、セパレータ30とアノード電極層24の表面との間の空間が燃料ガスを供給するための燃料ガス流路32として構成される。また、セパレータ30と集電補助層29の表面との間の空間が酸化剤ガス(空気)を供給するための酸化剤ガス流路34として構成される。
【0024】
<支持・シール構造部S>
本実施形態の支持・シール構造部Sは、単セル20の周縁部に設けられる。
【0025】
図2は、本実施形態における支持・シール構造部Sの構成を説明する図である。図示のように、支持・シール構造部Sは、主として、各単セル20ごとに設けられた枠状部材としてのフレーム体40、接合用枠体42、シール部材44、及び溶接部46により構成される。
【0026】
フレーム体40は、中央に矩形の孔が形成された枠形状の部材であり、電解質層26の周縁部に沿うように設けられる。特に、本実施形態のフレーム体40は、電解質層26におけるカソード電極層28と対向しない領域に配置されている。さらに、フレーム体40の外周は単セル20の外側に突出し、当該外側の端部がシール材60を介してセパレータ30の端部30aに接合されている。このような構造により、フレーム体40は、振動等の外力から単セル20の構造(特に、単セル20に含まれる各層の層構造)を保持する機能を発揮する。また、フレーム体40とセパレータ30の端部30aの間には、これらの間の電気的導通を遮断する(短絡を防止する)ための絶縁部材62が設けられている。
【0027】
また、本実施形態の支持・シール構造部Sでは、このフレーム体40によってカソード電極層28の周辺の酸化雰囲気Roとアノード電極層24の周辺の還元雰囲気Rrとが区画される。したがって、フレーム体40は、上記単セル20の保持機能を実現しつつ、還元雰囲気Rrと酸化雰囲気Roとの間のガスの流通を遮断するために適切な材料、特に金属組成物で構成されることが好ましい。特に、金属組成物はステンレスであることが好ましく、アルミニウムを含有したフェライト系ステンレスであることがより好ましく、特に単セル20の線膨張係数に近いものが好ましい。なお、フレーム体40は、電解質層26に対して接合用枠体42を介して接着(融着)される。
【0028】
接合用枠体42は、フレーム体40と電解質層26を接合する機能を有する部材である。接合用枠体42もフレーム体40と同様に枠状形状に構成される。なお、接合用枠体42は所定の接合方法により電解質層26と接合された後にフレーム体40を加圧接合されることで、図2に示すフレーム体40、接合用枠体42、及び電解質層26からなる層構造が実現される。特に、本実施形態の支持・シール構造部Sは、当該層構造が実現された状態において、フレーム体40の内周面と接合用枠体42の内周面が相互に略面一となるように構成されている。
【0029】
さらに、接合用枠体42は、電解質層26に含まれるセラミックスと同種のセラミックス、及びフレーム体40を構成する金属と同種の金属を含有する組成物から構成される。例えば、電解質層26がYSZ(イットリア安定化ジルコニア:Zr1-xx2)で構成され、特にフレーム体40を構成する金属組成物として母材中にAlが含有されたフェライト系ステンレスが用いられる場合には、接合用枠体42は、YSZ及びフェライト系ステンレスを含有する組成物により構成されることが好ましい。このように、接合用枠体42がフレーム体40及び電解質層26とそれぞれ同種の金属及びセラミックスを含むことで、当該接合用枠体42とフレーム体40及び電解質層26のそれぞれの接合における親和性が向上し、接合強度を高めることができる。さらに、接合用枠体42は、還元雰囲気Rrと酸化雰囲気Roとの間のガスの流通をある程度遮断することができる気密性を備えるように、一定程度の緻密性を有することが好ましい。
【0030】
シール部材44は、フレーム体40の内周部(以下、「フレーム体内周部40a」と称する)と該フレーム体内周部40aに接触する接合部材の領域(以下、「接合部材内周部42a」と称する)により画定されるシール対象領域Rsを電解質層26に対して気密に密着させるように設けられる。ここで、シール対象領域Rsは、フレーム体内周部40aと接合部材内周部42aの接合界面付近の領域であって、還元雰囲気Rrからの燃料ガス又は酸化雰囲気Roからの空気の流通路が生じ易い領域として定められる。
【0031】
これにより、還元雰囲気Rrと酸化雰囲気Roとの間のガスの流通を遮断するシール機能が実現される。特に、このようにシール部材44を設けることで、接合用枠体42そのものに気密性を与えずとも、所望のシール機能が実現されることとなる。また、シール部材44は、ガラスを主成分とするガラス組成物により構成される。これにより、シール部材44にガラス由来の絶縁性がもたらされるため、短絡(フレーム体40がアノード電極層24と等電位となる場合に、アノード電極層24とカソード電極層28との間でフレーム体40を介して生じる短絡)を抑制することも発揮される。特に、接合用枠体42に含まれるセラミックス材料と結合するガラス組成物、例えば、BaO、Al23、及びSiO2を主成分(マトリックス)として、当該マトリックス中にリューサイト結晶等(KASi26又は4SiO2・Al23・K2O)を析出させたガラス組成物を用いることが好ましい。このように、シール部材44がセラミックスと結合するガラスを主成分とするガラス組成物により構成されることで、当該シール部材44と接合用枠体42との間の接合強度をより高めることができる。
【0032】
溶接部46は、フレーム体40と接合用枠体42との間において施される溶接により形成される。特に、本実施形態の溶接部46は、フレーム体40及び接合用枠体42においてシール対象領域Rsよりも外側(図上のY軸正方向外側)に形成される。より詳細には、フレーム体40の側面から接合用枠体42の側面の一部領域に対してレーザー溶接を行うことで、溶接部46が形成される。このように、溶接部46が形成されることによりフレーム体40と接合用枠体42との間の接合強度をより向上させることができる。さらに、本実施形態における支持・シール構造部Sの構成であれば溶接部46を設けることにより以下で説明する作用効果も実現される。
【0033】
図3は、溶接部46を設けたことにより作用効果を説明する図である。例えば、単セル20を積み重ねて燃料電池スタック10を構成するためのスタッキング圧力を付与した場合、或いは燃料電池スタック10が設置される環境などに応じて生じる振動などによっては、単セル20の周縁部に積層方向Z(セル上下方向)の外力が作用することが想定される。これに対して、本実施形態の燃料電池セル構造であれば、当該外力を図3(A)及び図3(B)に示すフレーム体40の変形により緩和して各層を当該外力から保護することができる。
【0034】
しかしながら、外力の大きさによってはフレーム体40の変形が大きくなり、シール部材44が接合用枠体42及びシール部材44(特にシール対象領域Rs)から剥離する要因となり得る。これに対して、本実施形態の燃料電池セル構造では、フレーム体40及び接合用枠体42におけるシール対象領域Rsよりも外周側の溶接部46の位置において接合強度がより高くなる(特に最も高くなる)ので、当該溶接部46の位置のフレーム体40の変形の起点とすることができる。すなわち、フレーム体40に作用する外力の伝達を溶接部46の位置で止めることができるので、シール対象領域Rsにおいてシール部材44が剥離することをより確実に防止することができる。特に、この作用効果は、燃料電池スタック10が車両等の移動体に搭載される場合、すなわち燃料電池スタック10を振動等による外力が生じ易い用途に用いる場合において特に有益である。
【0035】
以上説明した本実施形態の燃料電池スタック10の構成及びそれによる作用効果についてまとめて説明する。
【0036】
本実施形態の燃料電池スタック10は、燃料極層(アノード電極層24)、空気極層(カソード電極層28)、及びアノード電極層24とカソード電極層28の間に設けられた電解質層26を有する燃料電池セル構造として構成される。特に、この燃料電池スタック10は、電解質層26の周縁部に設けられ、アノード電極層24に流通する燃料ガスとカソード電極層28に流通する空気とを分離する枠状部材としてのフレーム体40と、フレーム体40と電解質層26を相互に接合するとともに、金属及びセラミックスを含む接合部材としての接合用枠体42と、フレーム体40の内周部(フレーム体内周部40a)と該フレーム体内周部40aに接触する接合用枠体42の領域(接合部材内周部42a)により画定されるシール対象領域Rsを電解質層26に対して気密に密着させるように設けられる。
【0037】
これにより、接合用枠体42に含有される金属成分及びセラミックス成分によってフレーム体40及び電解質層26に対する好適な接合性を確保する一方で、当該接合用枠体42とは別に構成されたシール部材44によって、アノード電極層24の周辺の還元雰囲気Rrとカソード電極層28の周辺の酸化雰囲気Roとの間におけるガスの流通を遮断することができる。したがって、接合用枠体42はシール部材44により酸化雰囲気Roから隔離される一方、シール部材44はフレーム体40及び接合用枠体42により還元雰囲気Rrから隔離されることとなる。このため、接合用枠体42及びシール部材44の劣化が防止され、燃料電池セル構造(特に単セル20を構成する各層)において求められるシール性及び接合強度の低下が抑制されることとなる。
【0038】
また、本実施形態の燃料電池スタック10では、フレーム体40及び接合用枠体42には、シール対象領域Rsよりも外周側に溶接部46が設けられる。
【0039】
これにより、フレーム体40と接合用枠体42の間の接合をより強固にすることができる。特に、溶接部46がシール対象領域Rsよりも外周側に位置することで、スタッキング時や振動等で外力が入力した際に生じるフレーム体40の曲げ変形を当該溶接部46の位置で止めることができる。結果として、シール部材44がシール対象領域Rsから剥離することを抑制し、当該シール部材44によるシール機能をより確実に維持することができる。
【0040】
さらに、本実施形態の燃料電池スタック10では、接合用枠体42は、電解質層26と同種のセラミックス材料を含む。
【0041】
これにより、接合用枠体42と電解質層26の間の接合の親和性をより向上させることができ、燃料電池セル構造における各層の接合強度の低下をより確実に抑制することができる。
【0042】
特に、シール部材44は、接合用枠体42に含まれるセラミックス材料と結合するガラスを主成分とするガラス組成物により構成される。
【0043】
これにより、シール部材44と接合用枠体42との間の接合強度を高めることができ、当該シール部材44によるシールの信頼性をより向上させることができる。また、シール部材44にガラス由来の絶縁性をもたらすことができるので、短絡の防止にも寄与することができる。
【0044】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0045】
図4は、本実施形態における支持・シール構造部Sの構成を説明する図である。図示のように、本実施形態の燃料電池スタック10における支持・シール構造部Sでは、接合用枠体42に含有される金属に対するセラミックスの体積比率を、積層方向Zにおいて異なるようにした点で第1実施形態と異なる。
【0046】
特に、接合用枠体42は、積層方向Zにおいてフレーム体40に相対的に近い部分(以下、「フレーム側領域42A」とも称する)において、セラミックスの含有量が金属の含有量に比べて大きくなるように構成されている。一方、接合用枠体42は、積層方向Zにおいて電解質層26に相対的に近い部分(以下、「電解質側領域42B」とも称する)において、金属の含有量がセラミックスの含有量に比べて大きくなるように構成されている。
【0047】
すなわち、本実施形態の燃料電池スタック10では、接合用枠体42は、金属に対するセラミックスの体積比率がフレーム体40に近いほど小さく且つ電解質層26に近いほど大きくなるように構成される。
【0048】
これにより、接合用枠体42のフレーム側領域42Aに多く含まれる金属によりフレーム体40(特に、金属製のフレーム体40)との間の接合強度を向上させるとともに、電解質側領域42Bに多く含まれるセラミックスにより電解質層26(特に、セラミックス材料を主構成成分とする電解質層26)との接合強度を向上させることができる。
【0049】
さらに、本実施形態のように、フレーム体40と接合用枠体42との間を溶接する構成(溶接部46を設ける構成)を採用した場合には、上述のように電解質側領域42Bにおけるセラミックス含有量の比率を高くすることで、溶接ビードの伸長範囲を電解質層26よりも手前(フレーム側領域42Aの部分)に留めることができる。結果として、溶接ビードに起因した電解質層26における応力集中の発生を抑制することができ、当該電解質層26をより好適に保護することができる。
【0050】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について説明する。なお、第1又は第2実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0051】
図5は、本実施形態における支持・シール構造部Sの構成を説明する図である。図示のように、本実施形態の燃料電池スタック10における支持・シール構造部Sでは、接合用枠体42に、さらにガス遮断性を備えるように緻密に形成される点で第1実施形態と異なる。
【0052】
これにより、接合用枠体42自体に、還元雰囲気Rrと酸化雰囲気Roとの間におけるガスの流通を遮断する機能をより確実与えることができるため、シール性がより向上する。
【0053】
さらに、本実施形態の支持・シール構造部Sでは、フレーム体40の側面及び接合用枠体42の側面の一部領域に亘り溶接部46が形成されているので、当該溶接部46の溶接ラインが還元雰囲気Rrと酸化雰囲気Roとの間のガス遮断機能を奏することとなる。このため、接合用枠体42自体及び溶接部46の溶接ラインが二重のシール材として機能することとなるので、シール機能に冗長性を持たせてその信頼性を向上させることができる。
【0054】
なお、図5では、第1実施形態の支持・シール構造部Sを前提として接合用枠体42を緻密に形成する例を示した。しかしながら、これに限られず、第2実施形態の支持・シール構造部Sを前提として接合用枠体42を緻密に形成する構成を採用しても良い。
【0055】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について説明する。なお、第1~第3実施形態の何れかと同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0056】
図6は、本実施形態における支持・シール構造部Sの構成を説明する図である。特に、図6(A)は支持・シール構造部Sの要部全体構成を示す図であり、図6(B)はシール対象領域Rsの周辺の要部拡大図である。
【0057】
図示のように、本実施形態の燃料電池スタック10における支持・シール構造部Sでは、接合用枠体42においてシール部材44と接する内周部(接合部材内周部42a)が多孔質に形成される点で第1実施形態と異なる。なお、以下では、説明の便宜のため、この多孔質に形成される部分を「多孔質部42C」とも称する。
【0058】
特に、多孔質部42Cは、接合用枠体42における他の部分と比較して相対的に多孔度(ポロシティ)が大きくなるように構成され、電極幅方向Xにおいて少なくともシール部材44の一部がその内部に侵入することを許容する程度の長さに形成されている。なお、接合用枠体42によるシール性(緻密性)をできるだけ確保する観点から、多孔質部42Cはシール部材44の進入を許容しつつも、電極幅方向Xに沿った長さができるだけ短くなるように(例えば、シール対象領域Rsの電極幅方向Xにおける延在長さ以下となるように)構成することが好ましい。
【0059】
以上説明した本実施形態の燃料電池スタック10では、接合用枠体42は、シール部材44と接する部分が多孔質に形成される。
【0060】
これにより、シール部材44を接合用枠体42の多孔質部42Cに侵入させることができる。このため、シール部材44と接合用枠体42の間でアンカー効果を発揮させることができるので、シール部材44と接合用枠体42を含む単セル20を構成する各層との間の接合強度をより向上させることができる。
【0061】
なお、図6では、第1実施形態の支持・シール構造部Sを前提として接合用枠体42に多孔質部42Cを構成する例を説明したが、これに限られず、第2実施形態又は第3実施形態の支持・シール構造部Sを前提として当該構成を採用しても良い。
【0062】
(第5実施形態)
以下、第5実施形態について説明する。なお、第1~第4実施形態の何れかと同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0063】
図7は、本実施形態における支持・シール構造部Sの構成を説明する図である。図示のように、本実施形態の燃料電池スタック10における支持・シール構造部Sでは、フレーム体40の内周部(フレーム体内周部40a)において、シール部材44と接する表面に酸化物の被膜(以下、「酸化物被膜50」とも称する)が形成される点で第1実施形態と異なる。
【0064】
これにより、フレーム体40とシール部材44の接合を実質的に酸化物被膜50とシール部材44の間の接合により実現することができる。すなわち、接合強度の低いフレーム体40の金属とシール部材44のセラミックス(特にガラス)との間の接合を排することができるので、シール部材44とフレーム体40を含む各層との間の接合強度をより向上させることができる。
【0065】
なお、図7では、第1実施形態の支持・シール構造部Sを前提としてフレーム体内周部40aに酸化物被膜50を設ける例を説明したが、これに限られず、第2~第4実施形態の何れかの支持・シール構造部Sを前提として当該構成を採用しても良い。
【0066】
(第6実施形態)
以下、第6実施形態について説明する。なお、第1~第5実施形態の何れかと同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0067】
図8は、本実施形態における支持・シール構造部Sの構成を説明する図である。図示のように、本実施形態の燃料電池スタック10における支持・シール構造部Sでは、シール部材44が溶接部46を覆うように設けられる点で第1実施形態と異なる。
【0068】
これにより、溶接部46がシール部材44により酸化雰囲気Roから保護されるので、溶接ラインの酸化による接合強度の低下が抑制される。結果として、燃料電池セル構造における各層の接合強度の低下をより確実に抑制することができる。
【0069】
なお、図8では、第1実施形態の支持・シール構造部Sを前提としてシール部材44が溶接部46を覆うように設けられる例を説明したが、これに限られず、第2~第5実施形態の何れかの支持・シール構造部Sを前提として当該構成を採用しても良い。
【0070】
(変形例)
図9は、変形例に係る燃料電池スタック10の構成を説明する図である。図示のように、本変形例の燃料電池スタック10では、アノード電極層24をカソード電極層28と略同一の厚さに構成するとともに、セパレータ30とアノード電極層24との間に金属支持体22が設けられている点で、第1実施形態と異なる。すなわち、本変形例の燃料電池スタック10は、金属支持体22によりセル構造を支持するための機械的強度を確保したいわゆるメタルサポートセルとして構成されており、その上で、第1実施形態の支持・シール構造部Sが設けられている。
【0071】
なお、図9では、メタルサポートセルに第1実施形態の支持・シール構造部Sを採用した例を説明したが、これに限られず、メタルサポートセルに第2~第6実施形態の何れかの支持・シール構造部Sを採用しても良い。
【0072】
また、上記各実施形態で説明した支持・シール構造部Sは、図1図8に示したいわゆるアノードサポートセル、又は図9に示したメタルサポートセルに限られず、当該支持・シール構造部Sを設けることが可能な単セル20のセル外周縁の構造を有するものであれば任意のタイプのものに適用することができる。例えば、アノード電極層24に比べてカソード電極層28を厚くして当該カソード電極層28によりセル構造を支持するカソードサポートセル、又は電解質層26を相対的に厚くして当該電解質層26によりセル構造を支持する電解質サポートセルにおいて、上記各実施形態で説明した支持・シール構造部Sを適用しても良い。
【0073】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、上記各実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記各実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0074】
例えば、フレーム体40と接合用枠体42との間の溶接部46における溶接接合は必須でなく、これを省略するか、適宜、代替の接合手段を採用しても良い。代替の接合手段としては、例えば、フレーム体40と接合用枠体42との間のろう付けなど、これらの部材の間の金属結合を促進する接合手段が挙げられる。
【符号の説明】
【0075】
10 燃料電池スタック
20 単セル
22 金属支持体
24 アノード電極層
26 電解質層
28 カソード電極層
40 フレーム体
42 接合用枠体
44 シール部材
46 溶接部
50 酸化物被膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9