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特許7673476電池監視装置及びそれが搭載された電動車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】電池監視装置及びそれが搭載された電動車両
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/3828 20190101AFI20250430BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20250430BHJP
   G01R 31/378 20190101ALI20250430BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20250430BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20250430BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20250430BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20250430BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20250430BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20250430BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20250430BHJP
【FI】
G01R31/3828
H02J7/00 Y
H02J7/00 P
H02J7/00 M
G01R31/378
G01R31/389
G01R31/387
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/12
H01M10/48 P
H01M10/44 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021071859
(22)【出願日】2021-04-21
(65)【公開番号】P2022166578
(43)【公開日】2022-11-02
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】内山 正規
(72)【発明者】
【氏名】倉知 大祐
(72)【発明者】
【氏名】堀 裕基
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-342044(JP,A)
【文献】特開2004-093551(JP,A)
【文献】特開2020-048318(JP,A)
【文献】特開2012-145403(JP,A)
【文献】国際公開第2012/081104(WO,A1)
【文献】特開2010-232104(JP,A)
【文献】特開2018-128769(JP,A)
【文献】特開平11-174136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/3828
H02J 7/00
G01R 31/378
G01R 31/389
G01R 31/387
B60L 3/00
B60L 50/60
B60L 58/12
H01M 10/48
H01M 10/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極に黒鉛を有する複数のセル電池(B)の直列接続体を有する電池パック(93)を監視する電池監視装置(96)において、
前記電池パックの蓄電量が時間経過に伴い変化するパック蓄電量変化時において、複数の前記セル電池のインピーダンス(Z)を検出するインピーダンス検出部(31)と、
検出されている前記インピーダンスの変化傾向(Zd)の変化(Zdd)に基づいて、前記セル電池の蓄電量(Q)を演算するセル蓄電量演算部(33)と、
演算された前記セル電池の蓄電量に基づいて、前記電池パックの蓄電量(ΣQ)を演算するパック蓄電量演算部(34)と、
前記電池パックの充電時に、検出された前記インピーダンスの減少が所定基準以上急激に促進及び抑制されるタイミングで、ベース蓄電量(Qb)をそれぞれ第1特定蓄電量(QL)及び第2特定蓄電量(QU)に特定するベース蓄電量特定部(32)と、
を有し、
前記セル蓄電量演算部は、前記電池パックの充電時に、前記ベース蓄電量と、前記ベース蓄電量がそれぞれ前記第1特定蓄電量及び前記第2特定蓄電量に特定された特定タイミング(tP,tS)以降における、前記セル電池の電流又は電力の積算値(∫Idt)とに基づいて、前記セル電池の蓄電量を演算する、電池監視装置。
【請求項2】
前記ベース蓄電量特定部は、前記電池パックの放電時に、検出された前記インピーダンスの減少が所定基準以上急激に促進及び抑制されるタイミングで、前記ベース蓄電量をそれぞれ前記第2特定蓄電量(QU)及び前記第1特定蓄電量(QL)に特定し、
前記セル蓄電量演算部は、前記電池パックの放電時に、前記ベース蓄電量と、前記ベース蓄電量がそれぞれ前記第2特定蓄電量及び前記第1特定蓄電量に特定された特定タイミング(tP,tS)以降における、前記セル電池の電流又は電力の積算値とに基づいて、前記セル電池の蓄電量を演算する、請求項1に記載の電池監視装置。
【請求項3】
前記蓄電量は、蓄えられている電荷の量を示すものであり、前記パック蓄電量演算部は、演算された蓄電量が最小の前記セル電池の当該蓄電量(Qmin)を、前記電池パックの蓄電量として演算する、又は、
前記蓄電量は、蓄えられているエネルギーの量を示すものであり、前記パック蓄電量演算部は、演算された蓄電量が最小の前記セル電池の当該蓄電量に、前記電池パックが有する前記セル電池の数を乗じた値を、前記電池パックの蓄電量として演算する、
請求項1又は2に記載の電池監視装置。
【請求項4】
前記インピーダンスは、交流抵抗を含み、
前記電池パックに交流電圧を印加する交流印加回路(40)を有し、
前記インピーダンス検出部は、前記電池パックに前記交流電圧が印加されているときの前記セル電池のインピーダンスを検出する、請求項1~3のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項5】
前記交流印加回路は、前記電池パックの定電流充電中に前記交流電圧を印加し、前記インピーダンス検出部は、前記定電流充電中において前記交流電圧が印加されているときの前記インピーダンスを検出する、請求項4に記載の電池監視装置。
【請求項6】
前記セル電池は、正極にオリビン構造を有する請求項1~のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項7】
演算された前記電池パックの蓄電量を用いて、前記電池パックをその蓄電容量まで充電するのに必要な時間である残充電時間を演算する残充電時間演算部(36)と、
演算された前記電池パックの蓄電量を用いて、電力が不足するか否かを判定する電欠判定部(37)と、
演算された前記電池パックの蓄電量を用いて、前記電池パックが故障しているか否かを判定する電池故障判定部(38)と、
のうちの少なくともいずれか1つを有する、請求項1~のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の前記電池監視装置が搭載された電動車両(90)であって、
演算された前記電池パックの蓄電量を用いて、前記電動車両が走行可能な距離としての航続可能距離を演算する航続可能距離演算部(97)を有する電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセル電池の直列接続体を有する電池パックを監視する電池監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電池監視装置の中には、セル電池の電圧に基づいてセル電池の蓄電量等を演算するものがある。そのような技術を示す文献としては、次の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-44734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池パックの充電中や電力使用中においては、セル電池の内部抵抗に電流が流れるため、セル電池の真の電圧、すなわちOCV(開回路電圧)を検出することができない。そのため、電池パックの充電中や電力使用中においては、セル電池の電圧に基づいてセル電池の蓄電量を演算するのが難しい。
【0005】
さらにセル電池の中には、蓄電量変化に対する電圧変化が小さいプラトー領域を含むものがある。そのプラトー領域においては、セル電池の電圧に基づいてセル電池の蓄電量を演算するのがさらに難しい。そして、セル電池の蓄電量を演算するのが難しい場合には、当然、そのセル電池を複数有する電池パックの蓄電量を演算するのも難しい。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、セル電池の電圧に基づいてセル電池の蓄電量を演算するのが難しい状況下においても、電池パックの蓄電量を演算できるようにすることを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電池監視装置は、複数のセル電池の直列接続体を有する電池パックを監視する。前記電池監視装置は、インピーダンス検出部とセル蓄電量演算部とパック蓄電量演算部とを有する。
【0008】
前記インピーダンス検出部は、前記電池パックの蓄電量が時間経過に伴い変化するパック蓄電量変化時において、複数の前記セル電池のインピーダンスを検出する。前記セル蓄電量演算部は、検出されている前記インピーダンスの変化傾向の変化に基づいて、前記セル電池の蓄電量を演算する。前記パック蓄電量演算部は、演算された前記セル電池の蓄電量に基づいて、前記電池パックの蓄電量を演算する。
【0009】
本発明によれば、以下の効果が得られる。電池パックの充電時や電力使用時等のパック蓄電量変化時には、各セル電池において、その時々の蓄電量に応じてインピーダンスの変化傾向が変化する。そこで、本発明では、当該変化傾向の変化に基づいて電池セルの蓄電量を演算する。そのセル電池の蓄電量に基づいて、電池パックの蓄電量を演算する。そのため、セル電池の電圧に基づいてセル電池の蓄電量を演算するのが難しい状況下においても、セル電池のインピーダンスに基づいてセル電池の蓄電量を演算して、電池パックの蓄電量を演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の電池監視装置及びその周辺を示す回路図
図2】電池パックに交流電圧が印加された時の電池電流の波形を示すグラフ
図3】セル電池の蓄電量の増加に伴う各値の推移を示すグラフ
図4】充電時間の経過に伴う各値の推移を示すグラフ
図5】電池監視装置による制御を示すフローチャート
図6】充電時及びその前後の各値の推移を示すグラフ
図7】充電時から車両起動時まで並びにその前後の各値の推移を示すグラフ
図8】第2実施形態において、放電時間の経過に伴う各値の推移を示すグラフ
図9】電池監視装置による制御を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施できる。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の電池監視装置96及びその周辺を示す回路図である。電動車両90には、走行用モータや車載電気機器等の負荷91と、負荷91に給電する電池パック93と、電池パック93を監視する電池監視装置96とが搭載されている。電動車両90は、エンジンを備ないものであってもよいし、エンジンを備えるプラグインハイブリッド車等であってもよい。以下では、「電気的に接続」されていることを、単に「接続」されているという。
【0013】
電池パック93は、セル電池Bの直列接続体を有する。各セル電池Bは、LFPバッテリー(リン酸鉄リチウムイオン電池)である。電池パック93は負荷91に接続されている。そして、電池パック93を充電する充電時には、電池パック93に外部電源80が接続される。外部電源80は、電池パック93が満充電になる直前までCC充電(定電流充電)を行い、当該直前にCV充電(定電圧充電)に切り替える。
【0014】
以下では、電池パック93に流れる電流を「電池電流I」という。よって、電池電流Iは、各セル電池Bに流れる電流でもある。また以下では、電池電流Iを時間積分したものを「電流積算値∫Idt」という。そして、セル電池Bの電圧を「セル電圧V」といい、セル電池Bに蓄えられている電荷(Ah:アンペアアワー)を「セル蓄電量Q」という。そして、セル蓄電量Qが最小のセル電池Bの当該セル蓄電量Qを「最小セル蓄電量Qmin」という。
【0015】
また以下では、電池パック93に蓄えられている放電可能な電荷(Ah)を「パック蓄電量ΣQ」という。そのパック蓄電量ΣQは、最小セル蓄電量Qminに相当する。また以下では、満充電時におけるパック蓄電量ΣQを、「パック蓄電容量ΣQf」という。
【0016】
また以下では、交流に対するセル電池Bのインピーダンスを「セルインピーダンスZ」という。そのセルインピーダンスZは、セル電池Bの内部に存在する抵抗や容量成分やインダクタ成分等による。そして、セルインピーダンスZを時間微分したものを「インピーダンス変化Zd」といい、そのインピーダンス変化Zdをさらに時間微分したものを「インピーダンス2回微分Zdd」という。つまり、インピーダンス2回微分Zddは、セルインピーダンスZの変化傾向の変化を示すものである。
【0017】
電池監視装置96は、電流センサ10と電圧センサ20とBMU30とを有する。なお、BMUは、「Battery Management Unit」の略である。電流センサ10は、電池パック93に対する配線の電流を計測することにより、電池電流Iを計測する。電圧センサ20は、電池パック93の両端子と、電池パック93内において直列に隣り合う各2つのセル電池Bどうしの間とに接続されている。つまり、電圧センサ20は、各セル電池Bの両端子に接続されている。電圧センサ20は、マルチプレクサ等を有しており、各セル電池Bの電圧を計測可能に構成されている。
【0018】
BMU30は、CPU、ROM、RAM等を有するECU(電子制御ユニット)であって、電流センサ10により計測された電池電流Iと、電圧センサ20により計測されたセル電圧Vとに基づいて、電池パック93を監視する。
【0019】
次に、図3図4を参照しつつ、本実施形態で解決すべき課題とその解決手段の概要とについて説明する。
【0020】
図3(a)は、セル蓄電量Q(横軸)とセル電圧V(縦軸)との関係を示すグラフである。前述の通り、各セル電池Bは、LFPバッテリーである。その特性上、各セル電池Bには、セル蓄電量Q(横軸)の変化に対するセル電圧V(縦軸)の変化が所定基準よりも小さいプラトー領域が存在する。以下では、セル蓄電量Qがプラトー領域内である時を「プラトー領域時」といい、セル蓄電量Qがプラトー領域外である時を「非プラトー領域時」という。プラトー領域時には、セル電圧V(縦軸)に基づいてセル蓄電量Q(横軸)を演算することが難しい。よって、当然、それらのセル蓄電量Qに基づいて、パック蓄電量ΣQを演算することも難しい。
【0021】
そこで、本実施形態では、プラトー領域時には、セルインピーダンスZに基づいてセル蓄電量Qを演算して、それらのセル蓄電量Qに基づいてパック蓄電量ΣQを演算する。そのメカニズムについて以下に説明する。以下では、セル電池Bでの発熱を「セル発熱」といい、セル電池Bの温度を「セル温度T」といい、セル電圧Vをセル温度Tで微分したものを「発熱係数dV/dT」という。
【0022】
セル発熱は、電池電流Iにより発生するジュール発熱と、次に示す反応熱との和になる。その反応熱は、セル温度Tと電池電流Iと発熱係数dV/dTとの積(T×I×dV/dT)である。そのことから、発熱係数dV/dTが大きいほど、セル発熱が大きくなる。
【0023】
図3(b)は、セル蓄電量Q(横軸)と発熱係数dV/dT(縦軸)との関係を示すグラフである。セル蓄電量Qが所定の高発熱区間(QL~QU)内の時に、発熱係数dV/dTが大きくなり、セル発熱が大きくなる。以下では、その高発熱区間(QL~QU)の下限となる蓄電量を「区間下限量QL」といい、高発熱区間(QL~QU)の上限となる蓄電量を「区間上限量QU」という。
【0024】
そして、LFPバッテリーであるセル電池Bでは、セル温度Tが高いほどセルインピーダンスZが小さくなる。そのため、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)内の時は、セル発熱が大きくなりセル温度Tの上昇が大きくなることなり、セルインピーダンスZの減少が大きくなる。
【0025】
図4(a)は、電池パック93の充電時におけるセルインピーダンスZの推移を示すグラフであり、図4(b)は、充電時におけるセル蓄電量Qの推移を示すグラフである。図4(b)に示すように、セル電池Bが略空の状態から充電を開始した場合、セル蓄電量Qが区間下限量QLに達するまでの間は、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)外であるので、セル発熱は小さくセル温度Tの上昇は緩やかである。そのため、図4(a)に示すセルインピーダンスZの減少は緩やかである。
【0026】
その後、図4(b)に示すように、セル蓄電量Qが区間下限量QLに達すると、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)に入ることにより、図3(b)に示す発熱係数dV/dTが急増してセル発熱が急増する。それにより、セル温度Tの上昇が急激に促進されて、図4(a)に示すセルインピーダンスZの減少が急激に促進される。以下では、このようにセルインピーダンスZの減少が急激に促進されるタイミングを「促進タイミングtP」という。その促進タイミングtPでのセル蓄電量Qを、図4(b)に示す区間下限量QLに特定できる。
【0027】
その後、図4(b)に示すように、充電によりセル蓄電量Qが区間上限量QUに達すると、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)から脱することにより、図3(b)に示す発熱係数dV/dTが急減する。それにより、セル発熱が急減して、セル温度Tの上昇が急激に抑制されることにより、図4(a)に示すセルインピーダンスZの減少が急激に抑制される。以下では、このようにセルインピーダンスZの減少が急激に抑制されるタイミングを「抑制タイミングtS」という。その抑制タイミングtSでのセル蓄電量Qを、図4(b)に示す区間上限量QUに特定できる。
【0028】
そのため、セル蓄電量Qを例えば電流積算値∫Idt等に基づいて演算する場合、セル蓄電量Qの誤差を、セル蓄電量Qが区間下限量QLに達したタイミングと、区間上限量QUに達したタイミングとでリセットすることができる。つまり、プラトー領域時等においても、セル蓄電量Qを演算することができる。それらのセル蓄電量Qに基づいて、パック蓄電量ΣQを演算することができる。
【0029】
次に、再び図1を参照しつつ、以上に示したセルインピーダンスZに基づくパック蓄電量ΣQの演算のための構成について説明する。当該構成として、電池監視装置96は、さらに交流印加回路40を有すると共に、BMU30内に、インピーダンス検出部31とベース蓄電量特定部32とセル蓄電量演算部33とパック蓄電量演算部34とを有する。そしてさらに、各セル電池Bが、負極に黒鉛を有すると共に、正極にオリビン構造を有する。なお、オリビン構造とは、六方密充填酸素骨格を持つ結晶構造である。
【0030】
セル電池Bが負極に黒鉛を有するのは、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)内の時に、発熱係数dV/dTが顕著に大きくなるからである。他方、正極にオリビン構造を有するのは、正極での発熱係数dV/dTの変化が抑制されるからである。つまり、負極での発熱係数dV/dTの変化に対して、正極での発熱係数dV/dTの変化がノイズとして重畳するのを抑制できるからである。
【0031】
交流印加回路40の一方の端子は、電池パック93の正極端子に接続され、交流印加回路40の他方の端子は、電池パック93の負極端子に接続されている。そして、交流印加回路40は、電池パック93のCC充電(定電流充電)中に電池パック93に対して交流電圧を印加する。
【0032】
図2は、CC充電中における電池電流Iの波形を示すグラフである。CC充電中に電池パック93に対して交流電圧が印加されると、充電電流であるCC電流(定電流)に交流電流が重畳される。なお、このようにCC充電中に交流電圧を印加するのは、CC充電中なら充電電流が一定なので、充電電流の変化による交流ノイズが、交流電流に重畳する心配がないからである。
【0033】
図1に示すインピーダンス検出部31は、電池パック93のCC充電中において交流印加回路40により交流電圧が印加されているときの、各セル電圧V及び電池電流Iに基づいて、各セルインピーダンスZを演算する。具体的には、例えば、セル電圧Vにおける交流成分の実効値を、電池電流Iにおける交流成分の実効値で割った値(交流抵抗)を、セルインピーダンスZとして演算する。
【0034】
ベース蓄電量特定部32は、CC充電時において、セル蓄電量Qを演算する際のベースとなるベース蓄電量Qbを、促進タイミングtPで区間下限量QLに特定(更新)すると共に、抑制タイミングtSで区間上限量QUに特定(更新)する。それらの区間下限量QLや区間上限量QUは、予め実験やシミュレーション等により求めておくとよい。なお、本実施形態では、少なくとも区間上限量QUがプラトー領域に含まれている。
【0035】
具体的には、ベース蓄電量特定部32は、開始時及び終了時を除くCC充電中において、演算されているセルインピーダンスZの減少が所定基準以上急激に促進されるタイミングを、促進タイミングtPと特定する。より具体的には、開始時及び終了時を除くCC充電中において、インピーダンス2回微分Zddが、負の促進判定値ZddPを下回ったことを条件に、促進タイミングtPであると判定する。その促進タイミングtPで、前述の通り、ベース蓄電量Qbを区間下限量QLに更新する。
【0036】
また、ベース蓄電量特定部32は、充電開始時及び終了時を除くCC充電中において、演算されているセルインピーダンスZの減少が所定基準以上急激に抑制されるタイミングを、抑制タイミングtSと特定する。より具体的には、開始時及び終了時を除くCC充電中において、インピーダンス2回微分Zddが、正の抑制判定値ZddSを上回ったことを条件に、抑制タイミングtSであると判定する。その抑制タイミングtSで、前述の通り、ベース蓄電量Qbを区間上限量QUに更新する。
【0037】
また、BMU30は、非プラトー領域時且つOCV(開回路電圧)を計測可能な状況下では、セル電圧Vに基づいてセル蓄電量Qが演算する。なお、このようなセル電圧Vに基づくセル蓄電量Qの演算手法自体については、公知のものでよいため、その詳細な説明は省略する。
【0038】
そして、このように、セル電圧Vに基づいてセル蓄電量Qが演算された際には、ベース蓄電量特定部32は、ベース蓄電量Qbを、当該演算されたセル蓄電量Qに更新する。以下では、このようにセル電圧Vが計測されるタイミングを「電圧計測タイミングtV」といい、そのセル電圧Vに基づいて演算されるセル蓄電量Qを「セル電圧Vに基づく蓄電量Qv」という。よって、ベース蓄電量特定部32は、電圧計測タイミングtVで、ベース蓄電量Qbを、セル電圧Vに基づく蓄電量Qvに更新する。
【0039】
セル蓄電量演算部33は、ベース蓄電量Qbと電流積算値∫Idtとの和(Qb+∫Idt)を、現在のセル蓄電量Qとして演算する。ここで、セル蓄電量演算部33は、ベース蓄電量Qbが更新されれば、電流積算値∫Idtをゼロにリセットする。そのため、セル蓄電量演算部33は、ベース蓄電量Qbに、ベース蓄電量Qbを更新したタイミング以降における電流積算値∫Idtを足し合わせることにより、現在のセル蓄電量Qを演算することになる。
【0040】
具体的には、セル蓄電量演算部33は、CC充電時における促進タイミングtP以降においては、区間下限量QLに、促進タイミングtP以降における電流積算値∫Idtを足し合わせることにより、現在のセル蓄電量Qを演算する。そして、CC充電時における抑制タイミングtS以降においては、区間上限量QUに、抑制タイミングtS以降における電流積算値∫Idtを足し合わせることにより、現在のセル蓄電量Qを演算する。そして、電圧計測タイミングtV以降においては、セル電圧Vに基づく蓄電量Qvに、電圧計測タイミングtV以降における電流積算値∫Idtを足し合わせることにより、現在のセル蓄電量Qを演算する。
【0041】
パック蓄電量演算部34は、それらの演算されたセル蓄電量Qの最小値である最小セル蓄電量Qminを、パック蓄電量ΣQとして演算する。
【0042】
次に、以上により演算されたパック蓄電量ΣQの活用について説明する。その活用のための構成として、BMU30は、さらに残充電時間演算部36と電欠判定部37と電池故障判定部38とを有し、電動車両90は、さらに航続可能距離演算部97を有する。
【0043】
残充電時間演算部36は、演算されたパック蓄電量ΣQを用いて、パック蓄電量ΣQがパック蓄電容量ΣQfになるまで電池パック93を充電するのに必要な時間である残充電時間を演算する。よって、パック蓄電容量ΣQfとパック蓄電量ΣQとの差(ΣQf-ΣQ)が大きいほど、残充電時間を大きく見積もる。
【0044】
電欠判定部37は、演算されたパック蓄電量ΣQを用いて、電力が不足するか否かを判定する。具体的には、例えばパック蓄電量ΣQが所定値よりも小さいことを条件に、電力が不足すると判定する。
【0045】
電池故障判定部38は、演算されたパック蓄電量ΣQを用いて、電池パック93が故障しているか否かを判定する。具体的には、例えばパック蓄電量ΣQが所定の下限閾値よりも小さいことを条件に、過放電故障と判定し、パック蓄電量ΣQが所定の上限閾値よりも大きいことを条件に、過充電故障と判定する。
【0046】
航続可能距離演算部97は、演算されたパック蓄電量ΣQを用いて、電動車両90が走行可能な距離としての航続可能距離を演算する。よって、パック蓄電量ΣQが大きいほど、航続可能距離を大きく見積もる。具体的には、航続可能距離は、パック蓄電量ΣQとその時々の消費電力とから演算してもよいし、電費を既定の値として演算してもよい。
【0047】
図5は、電池監視装置96による制御を示すフローチャートである。このフローは、例えば所定周期毎に繰り返し実施される。
【0048】
まず、S101において、非プラトー領域時であり且つOCVを計測可能か否か判定する。非プラトー領域時であるか否かは、例えばセル電圧Vやセル蓄電量Q(演算値)が所定範囲内であるか否かに基づいて判定してもよいし、直近のセル蓄電量Q(演算値)の時間変化に対するセル電圧Vの時間変化が所定値よりも小さいか否かに基づいて判定してもよい。OCVを計測可能か否かは、例えば、充電終了時や放電終了時から所定時間以上経過したか否かに基づいて判定することができる。
【0049】
S101でプラトー領域時であると判定した場合やOCVを計測不能と判定した場合(S101:NO)、S102に進み、CC充電中であるか否か判定する。CC充電中であるか否かは、例えば、残充電時間が所定値以上であるか否かに基づいて判定することができる。S102で、CC充電中であると判定した場合(S102:YES)、S201に進む。そのS201から、後述するS403までのフローはセル電池B毎に実施する。
【0050】
S201では、インピーダンス検出部31により、セルインピーダンスZを検出する。次くS202では、ベース蓄電量特定部32により、セルインピーダンスZの減少が所定基準以上、急激に促進されているか否か判定する。急激に促進されていると判定した場合(S202:YES)、S203に進み、ベース蓄電量Qbを区間下限量QLに更新してから、S401に進む。
【0051】
他方、遡るS203において、セルインピーダンスZの減少が所定基準以上、急激に促進されていると判定しない場合(S202:NO)、S204に進む。そのS204では、同じくベース蓄電量特定部32により、セルインピーダンスZの減少が所定基準以上、急激に抑制されているか否か判定する。急激に抑制されていると判定した場合(S204:YES)、S205に進み、ベース蓄電量Qbを区間上限量QUに更新してからS401に進む。
【0052】
他方、S204において、セルインピーダンスZの減少が所定基準以上、急激に抑制されていると判定しない場合(S204:NO)、S402に進み、セル蓄電量演算部33により、電流積算値∫Idtを更新する。具体的には、前回のフローでのS401から今回のフローでのS401までの間での電池電流Iの時間積分値だけ、前回の電流積算値∫Idtに加えることにより、今回の電流積算値∫Idtを更新する。そして、S403に進む。
【0053】
他方、遡るS101において、非プラトー領域時であり且つOCVを計測可能と判定した場合、S301に進む。そのS301から、後述するS403までのフローはセル電池B毎に実施する。S301では、電圧センサ20により、セル電圧Vを計測する。続くS302では、BMU30により、セル電圧Vに基づく蓄電量Qvを演算する。続くS303では、ベース蓄電量特定部32により、ベース蓄電量Qbをセル電圧Vに基づく蓄電量Qvに更新して、S401に進む。
【0054】
S401では、セル蓄電量演算部33により、電流積算値∫Idtをゼロにリセットしてから、S403に進む。そのS403では、セル蓄電量演算部33により、ベース蓄電量Qbに電流積算値∫Idtを足し合わせたもの(Qb+∫Idt)を、セル蓄電量Qとして演算する。
【0055】
続くS404では、パック蓄電量演算部34により、S403で演算されたセル蓄電量Qの最小値である最小セル蓄電量Qminを、パック蓄電量ΣQとして演算してから、S501,S502,S503,S504に進む。
【0056】
S501では、残充電時間演算部36が残充電時間を演算する。S502では、電欠判定部37が電力が不足するか否か判定する。S503では、電池故障判定部38が電池故障か否か判定する。S504では、航続可能距離演算部97が航続可能距離を演算する。これらS501~S504が終了するとフローが終了する。
【0057】
図6は、CC充電時及びその前後における各値の推移をタイムチャートである。ここでは、図6(a)に示すように、所定の第1タイミングt1から第2タイミングt2までの間に、電池パック93がCC充電された場合を示している。このCC充電は、セル蓄電量Qが区間下限量QL以上かつ区間上限量QU以下、つまりセル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)の状態から、区間上限量QUよりも大きくなるまで、実施されたものとする。
【0058】
このとき、図6(b)に示すように、CC充電が開始される第1タイミングt1からしばらくの間は、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)内にあって発熱係数dV/dTが大きいことから、セルインピーダンスZが顕著に減少する。
【0059】
その後、所定のタイミング(tS(B))でセル蓄電量Qが区間上限量QUに達すると、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)から脱することにより、発熱係数dV/dTが急減して、図6(b)に示すように、セルインピーダンスZの減少が急激に抑制される。このとき、図6(c)に示すように、インピーダンス2回微分Zddが、一瞬急激に大きくなり、正の抑制判定値ZddSを上回る。それにより、抑制タイミングtS(B)と判定されて、ベース蓄電量Qbが区間上限量QUに更新されると共に、図6(d)に示すように、電流積算値∫Idtがリセットされる。
【0060】
その抑制タイミングtS(B)での更新及びリセットにより、最小セル蓄電量Qmin(演算値)が変化した場合、それに伴いパック蓄電量ΣQ=Qmin(演算値)も、図6(e)に示すように変化する。その後、別のセル電池Bのセル蓄電量Qが区間上限量QUに達すると、そのセル電池Bのベース蓄電量Qbが区間上限量QUに更新されると共に、電流積算値∫Idtがリセットされる。そして、このタイミングでも、最小セル蓄電量Qmin(演算値)が変化した場合には、同様にパック蓄電量ΣQ=Qmin(演算値)が変化する。以上により、いずれかのセル蓄電量Qが区間上限量QUに達して、ベース蓄電量Qbの更新及び電流積算値∫Idtのリセットがされる度に、パック蓄電量ΣQの演算値が真値(Qmin)に近づいていく。
【0061】
図7は、CC充電時、その後の電動車両90の走行時、及びその後の電動車両90の起動時、並びにそれらの前後における各値の推移をタイムチャートである。第7(a)に示すように、前述の通り第1タイミングt1から第2タイミングt2までの間にCC充電が行われたものとする。そして、第2タイミングt2からその後の第3タイミングt3までの間に、電動車両90が走行し、第3タイミングt3からその後の第4タイミングt4まで、電動車両90が停車したものとする。そして、第4タイミングt4からその後の第5タイミングt5までの間に、電動車両90が起動し、第5タイミングt5からその後の第6タイミングt6までの間に、電動車両90が再び走行したものとする。
【0062】
この図7(a)に示すように、走行中(t2~t3)には、放電方向(グラフでは負の方向)に電池電流Iが流れる。その放電により、図7(d)の第2タイミングt2から第3タイミングt3に示すように、セル蓄電量Qが減少していく。その減少に伴い、セル蓄電量Qの演算値(実線)と真値(破線)との乖離も徐々に大きくなっていく。
【0063】
図7(c)に示すように、走行を終了した第3タイミングt3よりも後においても、しばらくの間は、セル電圧Vの信頼性が低い。セル電池Bには、電力使用(放電)により分極が発生するが、その分極は、走行終了時である第3タイミングt3からしばらく経過しないと収まらないからである。ここでは、この図7(c)に示すように、電動車両90が起動を開始する第4タイミングt4までに、分極が収まってセル電圧Vの信頼性が回復したものとする。
【0064】
この場合、起動時である第4タイミングt4に、BMU30が、OCVであるセル電圧Vに基づく蓄電量Qvを演算する。そして、ベース蓄電量特定部32が、ベース蓄電量Qbをセル電圧Vに基づく蓄電量Qvに更新する。そして、セル蓄電量演算部33が、電流積算値∫Idtをゼロにリセットする。
【0065】
その第4タイミングt4でのベース蓄電量Qbの更新及び電流積算値∫Idtのリセットにより、最小セル蓄電量Qmin(演算値)が変化した場合、それに伴いパック蓄電量ΣQ=Qmin(演算値)も、図7(e)に示すように変化する。これにより、パック蓄電量ΣQの演算値が真値に近づく。
【0066】
以下に本実施形態の効果をまとめる。
【0067】
電池パック93の充電時には、その時々のセル蓄電量Qに応じてセルインピーダンスZの変化傾向が変化する。そこで、インピーダンス検出部31は、電池パック93の充電時にセルインピーダンスZを検出する。セル蓄電量演算部33は、そのセルインピーダンスZの変化傾向の変化であるインピーダンス2回微分Zddに基づいて、セル蓄電量Qを演算する。パック蓄電量演算部34は、それらセル蓄電量Qに基づいて、パック蓄電量ΣQを演算する。そのため、プラトー領域時やOCVを計測できない時等、セル電圧Vに基づいてセル蓄電量Qを演算するのが難しい状況下においても、セルインピーダンスZに基づいてセル蓄電量Qを演算して、それらのセル蓄電量Qに基づいてパック蓄電量ΣQを演算することができる。
【0068】
また、セル蓄電量演算部33は、ベース蓄電量Qbと、ベース蓄電量Qbを特定したタイミング以降における電流積算値∫Idtとに基づいて、セル蓄電量Qを演算する。そのため、単にベース蓄電量Qbと、ベース蓄電量Qbを特定したタイミングからの経過時間とに基づいて、セル蓄電量Qを演算する場合に比べて、精度良くセル蓄電量Qを演算できる。そのため、精度よくパック蓄電量ΣQを演算できる。
【0069】
また、電池パック93に蓄えられている電荷は、最小セル蓄電量Qminが零付近の放電可能な下限蓄電量になるまでしか放電することができない。その点、パック蓄電量演算部34は、最小セル蓄電量Qminを、パック蓄電量ΣQとして演算する。そのため、電池パック93が放電可能な電荷(Ah)を、パック蓄電量ΣQとして演算することができる。
【0070】
また、交流印加回路40は、電池パック93に交流電圧を印加する。そして、インピーダンス検出部31は、電池パック93に交流電圧が印加されているときのセル電池Bのインピーダンスを検出する。そのため、セル電池Bが有する交流抵抗を、セルインピーダンスZとして計測できる。
【0071】
さらに、交流印加回路40は、CC充電中に交流電圧を電池パック93に印加する。そのため、当該交流電圧による交流電流に、充電電流の変化による交流ノイズが重畳する心配がない。そのため、インピーダンス検出部31は、精度良くセルインピーダンスZを検出できる。そのため、精度良く促進タイミングtPや抑制タイミングtSを特定できる。そのため、この点でも精度良くセル蓄電量Qを演算して、精度良くパック蓄電量ΣQを演算できる。
【0072】
また、セル蓄電量演算部33は、CC充電時におけるプラトー領域時等に、セルインピーダンスZに基づいてセル蓄電量Qを演算するだけでなく、非プラトー領域時且つOCVを計測可能な時にも、セル電圧Vに基づく蓄電量Qvを演算する。そのため、CC充電中のみならず、非プラトー領域時且つOCVを計測可能な時においても、パック蓄電量ΣQを演算できる。
【0073】
また、セル電池Bは、負極に黒鉛を有する。その黒鉛により、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)内になった時の発熱係数dV/dTが顕著に大きくなる。そのため、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)に入った時のセルインピーダンスZの減少の促進や、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)から脱した時のセルインピーダンスZの減少の抑制が顕著になる。そのため、この点でも、精度良く促進タイミングtPや抑制タイミングtSを特定して、精度よくパック蓄電量ΣQを演算できる。
【0074】
しかも、セル電池Bは、正極にオリビン構造を有する。そのオリビン構造により、正極での発熱係数dV/dTの変化が抑制される。それにより、負極での発熱係数dV/dTの変化に対して、正極での発熱係数dV/dTの変化がノイズとして重畳するのを抑制できる。そのため、この点でも、精度良く促進タイミングtPや抑制タイミングtSを特定して、精度よくパック蓄電量ΣQを演算できる。
【0075】
また、以上のようにして演算されたパック蓄電量ΣQを用いて、残充電時間演算部36が残充電時間を演算し、電欠判定部37が、電力が不足するか否か判定し、電池故障判定部38が、電池パック93が故障しているか否か判定し、航続可能距離演算部97が航続可能距離を演算する。そのため、プラトー領域時等であっても、問題なく、残充電時間の演算や、電欠判定や、電池パック93の故障判定や、航続可能距離の演算を実施できる。
【0076】
[第2実施形態]
次に第2実施形態について説明する。以下の実施形態においては、それ以前の実施形態のものと同一の又は対応する部材等について同一の符号を付する。本実施形態については、第1実施形態をベースにこれと異なる点を中心に説明し、第1実施形態と同一又は類似の部分については、適宜説明を省略する。
【0077】
本実施形態では、CC充電時のみならず電力使用時(放電時)にも、セルインピーダンスZに基づいてセル蓄電量Qを演算して、それらのセル蓄電量Qに基づいてパック蓄電量ΣQを演算する。そのメカニズムについて以下に説明する。
【0078】
図8(a)は、電池パック93の電力使用時におけるセルインピーダンスZの推移を示すグラフであり、図8(b)は、電力使用時におけるセル蓄電量Qの推移を示すグラフである。図8(b)に示すように、セル電池Bが略満充電の状態から電力使用を開始した場合、セル蓄電量Qが区間上限量QUに減少するまでの間は、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)外であるので、セル発熱は小さい。そのため、図8(a)に示すセルインピーダンスZの減少は緩やかである。
【0079】
その後、図8(b)に示すように、電力使用によりセル蓄電量Qが区間上限量QUにまで減少すると、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)に入ることにより、発熱係数dV/dTが急増してセル発熱が急増する。それにより、セル温度Tの上昇が急激に促進されて、図8(a)に示すセルインピーダンスZの減少が急激に促進される。その促進タイミングtPでのセル蓄電量Qを、図8(b)に示す区間上限量QUと特定できる。よって、前述の充電時には、促進タイミングtPでのセル蓄電量Qを、区間下限量QLと特定できるのに対して、電力使用時には、促進タイミングtPでのセル蓄電量Qを、区間上限量QUと特定できる点で相違している。
【0080】
その後、図8(b)に示すように、電力使用によりセル蓄電量Qが区間下限量QLにまで減少すると、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)から脱することにより、発熱係数dV/dTが急減してセル発熱が急減する。それにより、セル温度Tの上昇が急激に抑制されて、図8(a)に示すセルインピーダンスZの減少が急激に抑制される。その抑制タイミングtSでのセル蓄電量Qを、図8(b)に示す区間下限量QLと特定できる。よって、前述の充電時には、抑制タイミングtSでのセル蓄電量Qを、区間上限量QUと特定できるのに対して、電力使用時には、抑制タイミングtSでのセル蓄電量Qを、区間下限量QLと特定できる点で相違している。
【0081】
以上より、セル蓄電量Qの誤差を、セル蓄電量Qが区間上限量QUにまで減少したタイミングと、区間下限量QLにまで減少したタイミングとでリセットすることができる。つまり、プラトー領域時等においても、セル蓄電量Qを演算することができる。それらのセル蓄電量Qに基づいて、パック蓄電量ΣQを演算することができる。
【0082】
次に、第1実施形態と同じ図1を参照しつつ、電力使用時におけるセルインピーダンスZに基づくパック蓄電量ΣQの演算とのための構成について説明する。
【0083】
交流印加回路40は、CC充電中のみならず電力使用中にも、電池パック93に対して交流電圧を印加する。インピーダンス検出部31は、その電力使用中の交流電圧が印加されているときの、各セル電圧V及び電池電流Iに基づいて、各セルインピーダンスZを演算する。
【0084】
ベース蓄電量特定部32は、電力使用量が所定基準以上安定している状態において、検出されているセルインピーダンスZの減少が所定基準以上急激に促進されるタイミングを、促進タイミングtPと特定する。より具体的には、電力使用量が所定基準以上安定している状態において、インピーダンス2回微分Zddが、負の促進判定値ZddPを下回ったことを条件に、促進タイミングtPであると判定する。その促進タイミングtPに、ベース蓄電量Qbを区間上限量QUに更新する。
【0085】
また、ベース蓄電量特定部32は、電力使用量が所定基準以上安定している状態において、検出されているセルインピーダンスZの減少が所定基準以上急激に抑制されるタイミングを、抑制タイミングtSと特定する。より具体的には、電力使用量が所定基準以上安定している状態において、インピーダンス2回微分Zddが、正の抑制判定値ZddSを上回ったことを条件に、抑制タイミングtSであると判定する。その抑制タイミングtSに、ベース蓄電量Qbを区間下限量QLに更新する。
【0086】
図9は、電池監視装置96による制御を示すフローチャートである。このフローは、例えば所定周期毎に繰り返し実施される。このフローは、S103,S211,S212,S214を有する点で、第1実施形態の図5のフロート相違している。
【0087】
具体的には、S101でプラトー領域時であると判定した場合やOCVを計測不能と判定した場合(S101:NO)において、S102でCC充電中ではないと判定した場合(S102:NO)、S103に進む。そのS103では、電力使用中であるか否か判定する。具体的には、例えば電池電流Iが、放電方向に所定値以上であることを条件に電力使用中であると判定する。S103で、電力使用中ではないと判定した場合(S103:NO)、S402に進み、電流積算値∫Idtを更新する。他方、S103で、電力使用中であると判定した場合、S211に進む。
【0088】
S211では、インピーダンス検出部31が、セルインピーダンスZを演算する。続くS212では、ベース蓄電量特定部32が、セルインピーダンスZの減少が所定基準以上、急激に促進されているか否かを判定する。急激に促進されていると判定した場合(S212:YES)、S205に進み、ベース蓄電量Qbを区間上限量QUに更新してから、S401に進む。
【0089】
他方、遡るS212において、セルインピーダンスZの減少が所定基準以上、急激に促進されていると判定しない場合(S212:NO)、S214に進む。そのS214では、ベース蓄電量特定部32が、セルインピーダンスZの減少が所定基準以上、急激に抑制されているか否かを判定する。急激に抑制されていると判定した場合(S214:YES)、S203に進み、ベース蓄電量Qbを区間下限量QLに更新してからS401に進む。他方、S214において、セルインピーダンスZの減少が所定基準以上、急激に抑制されていると判定しない場合(S214:NO)、S402に進み、電流積算値∫Idtをゼロにリセットする。以降は、第1実施形態の場合と同様である。
【0090】
本実施形態によれば、充電中のみならず、電力使用中においても、セルインピーダンスZに基づいてセル蓄電量Qを演算して、それらのセル蓄電量Qに基づいてパック蓄電量ΣQを演算することができる。
【0091】
[他の実施形態]
以上に示した実施形態は、例えば次のように変更して実施できる。
【0092】
第1、第2実施形態では、セル電池BがLFPバッテリーであるが、これに代えて、その他の、プラトー領域を有するバッテリーにしてもよいし、プラトー領域を有しないバッテリーにしてもよい。すなわち、セル電池Bがプラトー領域を有しない場合であっても、充電中や電力使用中はOCVを取得できないので、プラトー領域時ほどではないにしろ、セル電圧Vに基づいてセル蓄電量Qを演算するのが難しい。よって、セル電池Bがプラトー領域を有しない場合であっても、セル電圧Vに基づいてセル蓄電量Qを演算するのが難しい際に、セルインピーダンスZに基づいてパック蓄電量ΣQを演算できるといった効果は奏する。
【0093】
第1、第2実施形態では、セル蓄電量Qの変化に対するセル電圧Vの変化が所定基準以上小さい領域を「プラトー領域」とし、セル蓄電量Qがプラトー領域内の蓄電量である時を「プラトー領域時」としている。これに代えて、セル電圧Vが所定範囲内にあるときや、セル蓄電量Qが所定範囲内にあるときを、「プラトー領域時」としてもよい。
【0094】
第1、第2実施形態では、セルインピーダンスZを時間微分したものを「インピーダンス変化Zd」とし、そのインピーダンス変化Zdをさらに時間微分したのもを「インピーダンス2回微分Zdd」としている。これに代えて、セルインピーダンスZを電流積算値∫Idtで微分したものを「インピーダンス変化Zd」とし、そのインピーダンス変化Zdをさらに電流積算値∫Idtで微分を「インピーダンス2回微分Zdd」としてもよい。この態様によれば、電流が一定でない状況下においても、精度良く促進タイミングtPや抑制タイミングtSを特定できる。
【0095】
第1、第2実施形態では、セル電池Bに蓄えられている蓄電荷(Ah:アンペアアワー)を「セル蓄電量Q」としている。これに代えて、セル電池Bに蓄えられている蓄電エネルギー(Wh:ワットアワー)を「セル蓄電量」としてもよい。その場合には、セル蓄電量演算部33は、電荷換算のベース蓄電量Qb(Ah)と電流積算値∫Idt(Ah)との代わりに、エネルギー換算のベース蓄電量(Wh)と電力積算値(Wh)とを用いて、エネルギー換算のセル蓄電量(Wh)を演算するようにすればよい。なお、電力積算値は、セル電圧Vと電池電流Iとの積の時間積分値(∫VIdt)である。そして、この場合には、エネルギー換算の最小セル蓄電量(Wh)に、電池パック93が有するセル電池Bの数であるセル数を乗じた値を、エネルギー換算の「パック蓄電量(Wh)」として演算すればよい。
【0096】
また、このように蓄電エネルギーを蓄電量とする場合において、セルインピーダンスZを電力積算値で微分したものを「インピーダンス変化Zd」とし、そのインピーダンス変化Zdをさらに電力積算値で微分したものを「インピーダンス2回微分Zdd」としてもよい。この態様によれば、電力が一定でない状況下においても、精度良く促進タイミングtPや抑制タイミングtSを特定できる。
【0097】
第1、第2実施形態では、ベース蓄電量Qbと電流積算値∫Idtとに基づいて、セル蓄電量Qを演算している。これに代えて、単にベース蓄電量Qbと、ベース蓄電量Qbが更新されたタイミングからの経過時間とに基づいて、セル蓄電量Qを演算するようにしてもよい。
【0098】
第1、第2実施形態では、ベース蓄電量Qbと電流積算値∫Idtとの和を、セル蓄電量Qとして演算している。これに代えて、ベース蓄電量Qbと電流積算値∫Idtとの和に、所定の補正を施したものを、セル蓄電量Qとして演算してもよい。
【0099】
パック蓄電量演算部34は、最小セル蓄電量Qminをパック蓄電量ΣQとして演算している。これに代えて、例えばセル蓄電量Qの平均値をパック蓄電量ΣQとして演算してもよい。また例えば、上記のように蓄電エネルギーを蓄電量とする場合において、最小セル蓄電量(Wh)にセル数を乗じた値の代わりに、各セル蓄電量(Wh)を足し合わせた値をパック蓄電量(Wh)として演算してもよい。
【0100】
第1、第2実施形態では、電池監視装置96は、交流印加回路40を有する。これに代えて、例えば、セル電池Bごとに放電スイッチをON、OFFすることにより、セル電池Bごとに特定の電流変化を発生させるようにしてもよい。そして、そのときのセル電池Bのインピーダンス(交流抵抗)をセルインピーダンスZとして検出するようにしてもよい。
【0101】
第1、第2実施形態では、交流に対するセル電池Bのインピーダンスを「セルインピーダンスZ」としている。これに代えて、直流に対するセル電池Bのインピーダンスを「セルインピーダンスZ」としてもよい。
【0102】
第1、第2実施形態では、外部電源80は、CC充電とCV充電とを実施するものであり、交流印加回路40は、CC充電中に交流電圧を電池パック93に印加する。これに代えて、例えば外部電源80を、CP充電(定電力充電)とCV充電とを実施するものにして、交流印加回路40を、CP充電中に交流電圧を電池パック93に印加するものにしてもよい。
【0103】
第1、第2実施形態では、セルインピーダンスZに基づいてパック蓄電量ΣQを演算しているのに加え、非プラトー領域時且つOCVを計測可能な時には、セル電圧Vにも基づいてパック蓄電量ΣQを演算している。これに代えて、セルインピーダンスZにのみ基づいてパック蓄電量ΣQを演算するようにしてもよい。
【0104】
第1、第2実施形態では、セルインピーダンスZに基づくパック蓄電量ΣQの演算を、CC充電中と電力使用中との両方に実施している。これに代えて、CC充電中にのみや電力使用中にのみ実施するようにしてもよい。
【0105】
第1、第2実施形態でいう電動車両90は、前述の通り、エンジンを有するハイブリッド車であってもよい。この場合において、電動車両90は、演算されたパック蓄電量ΣQが所定閾値よりも小さいことを条件に、エンジン燃焼が必要と判定する等の、パック蓄電量ΣQに基づいてエンジン燃焼の要否を判定するエンジン燃焼要否判定部を有していてもよい。
【符号の説明】
【0106】
31…インピーダンス検出部、33…セル蓄電量演算部、34…パック蓄電量演算部、93…電池パック、96…電池監視装置、B…セル電池、Q…セル蓄電量、Z…セルインピーダンス、Zd…インピーダンス変化、Zdd…インピーダンス2回微分、ΣQ…パック蓄電量。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9