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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】金属部材の接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/02 20060101AFI20250430BHJP
   F16H 48/40 20120101ALI20250430BHJP
【FI】
B23K11/02 330
B23K11/02 510
F16H48/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021113663
(22)【出願日】2021-07-08
(65)【公開番号】P2023009962
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2024-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】橋本 晃
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-147305(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056386(WO,A1)
【文献】特開2021-016862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/02
F16H 48/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側金属部材の外周面部と外側金属部材の内周面部とを軸方向に加圧しつつ通電による抵抗発熱によって接合する金属部材の接合方法であって、
前記内側金属部材の前記外周面部に、接合外径部を形成し、
前記外側金属部材の前記内周面部に、前記接合外径部に対応する接合内径部を形成し、
前記内側金属部材の前記接合外径部と前記外側金属部材の前記接合内径部との間に形成される接合部の近傍に、前記内側金属部材の前記外周面部と前記外側金属部材の前記内周面部とを接合するときに生じるバリを通して流れる電流を妨げる絶縁部を配設し、
前記内側金属部材の前記接合外径部と前記外側金属部材の前記接合内径部とを軸方向他端側から軸方向一端側に向けて加圧しつつ通電による抵抗発熱によって、前記接合外径部と前記接合内径部との間において前記接合部を形成する、
ことを特徴とする金属部材の接合方法。
【請求項2】
前記内側金属部材の前記接合外径部と前記外側金属部材の前記接合内径部とを再度通電による抵抗発熱によって、前記接合部を再度加熱することを特徴とする請求項1に記載の金属部材の接合方法。
【請求項3】
前記外側金属部材には、前記接合内径部に対して軸方向一端側に位置して、前記接合内径部から径方向外側に延びる内壁部が設けられ、
前記絶縁部は、前記内壁部に施された塗料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属部材の接合方法。
【請求項4】
前記外側金属部材には、前記接合内径部に対して軸方向一端側に位置して、前記接合内径部から径方向外側に延びる内壁部が設けられ、
前記絶縁部は、前記内壁部に配設された紙シート部材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属部材の接合方法。
【請求項5】
前記内側金属部材の前記外周面部に、前記接合外径部に対して軸方向一端側に位置する嵌合テーパ外径部を形成し、
前記外側金属部材の前記内周面部に、前記嵌合テーパ外径部に対応する嵌合テーパ内径部を形成し、
前記外側金属部材には、前記接合内径部に対して軸方向一端側に位置して、前記接合内径部から径方向外側に延びる内壁部が設けられ、
前記絶縁部は、前記外側金属部材の前記内壁部から前記嵌合テーパ内径部まで設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の金属部材の接合方法。
【請求項6】
前記内側金属部材の前記外周面部に、前記接合外径部に対して軸方向一端側に位置する第1の嵌合テーパ外径部と、前記接合外径部に対して軸方向他端側に位置する第2の嵌合テーパ外径部とを形成し、
前記外側金属部材の前記内周面部に、前記第1の嵌合テーパ外径部に対応する第1の嵌合テーパ内径部と、前記第2の嵌合テーパ外径部に対応する第2の嵌合テーパ内径部とを形成し、
前記外側金属部材には、前記接合内径部に対して軸方向一端側に位置して、前記接合内径部から径方向外側に延びる内壁部が設けられ、
前記絶縁部は、前記内壁部に設けられ、
前記内側金属部材の前記接合外径部と前記外側金属部材の前記接合内径部とを軸方向に加圧しつつ通電による抵抗発熱によって、前記接合外径部と前記接合内径部との間において前記接合部を形成するとき、前記内側金属部材の前記第1の嵌合テーパ外径部及び前記第2の嵌合テーパ外径部と前記外側金属部材の前記第1の嵌合テーパ内径部及び前記第2の嵌合テーパ内径部とが嵌合して、第1のテーパ嵌合部及び第2のテーパ嵌合部を形成することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の金属部材の接合方法。
【請求項7】
前記内側金属部材がデフケースであり、前記外側金属部材がリングギヤであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の金属部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部にエンジンなどの駆動源と変速機とを軸心が車体前後方向に延びるように配置し、変速機から伝達される駆動力を車体後方に延びる後輪用出力軸から後輪用プロペラシャフト及び後輪用デファレンシャル装置を介して主駆動輪としての後輪に伝達するように構成した所謂FR(フロントエンジン・リヤドライブ)ベースの車両が知られている。
【0003】
このような車両に配設されている後輪用デファレンシャル装置(以下、デファレンシャル装置と呼称する)は、例えば車両が旋回するとき、後輪用プロペラシャフト(以下、プロペラシャフトと呼称する)から伝達される駆動力を対応する左右の駆動輪に分配して、左右の駆動輪の間に発生する車輪回転速度の差を調整するように構成されている。
【0004】
このデファレンシャル装置は、プロペラシャフトから駆動力が伝達されるリングギヤと、リングギヤと接合されて共に回転するデフケースとを備える。このデフケースには、リングギヤから伝達される駆動力を左右の駆動輪に分配する左右一対のサイドギヤと、リングギヤと直交する方向に延びるピニオンシャフトと、該ピニオンシャフトに設けられて左右一対のサイドギヤと噛み合い、駆動輪の間に発生する車輪回転速度の差を調整するピニオンギヤとが配設されている。
【0005】
リングギヤとデフケースとの接合方法として、例えば、内側金属部材であるデフケースと外側金属部材であるリングギヤとを軸方向に加圧しつつ通電による抵抗発熱によって接触部分の金属を軟化させ、塑性流動を発生させて拡散接合させるリングマッシュ接合が知られている。
【0006】
例えば特許文献1には、内側金属部材の外周壁部において、接合用外径部と、接合用外径部に対して軸方向両側の少なくとも一方に位置する傾斜面部とが設けられ、外側金属部材の内周壁部において、接合用外径部に対応する接合用内径部と、内側金属部材の傾斜面部に対応する傾斜面部とが設けられることにより、内側金属部材の外周壁部と外側金属部材の内周壁部とを軸方向に加圧しつつ通電による抵抗発熱によって接合用外径部と接合用内径部とが互いに接合する接合部を形成するとき、内側金属部材の傾斜面部と外側金属部材の傾斜面部とが互いに嵌合するテーパ嵌合部を形成するリングマッシュ接合が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6119795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のリングマッシュ接合により、外側金属部材や内側金属部材に外力が与えられるときに生じる応力が接合部とテーパ嵌合部のそれぞれに分散するため、応力集中が接合部に起きることが避けられると共に、繰り返しの衝撃に強い接合構造が得られる。
【0009】
一方、実際のリングマッシュ接合では、接合部から延びる軟化した金属のバリが形成され得る。例えば、内側金属部材が鋳鉄から形成されていると共に、外側金属部材が鋼から形成されている場合、内側金属部材の外周面部と外側金属部材の内周面部とを軸方向他端側から軸方向一端側に向けて加圧しつつ通電による抵抗発熱によって接合外径部と接合内径部とが互いに接合する接合部を形成するとき、外側金属部材において、接合内径部の軸方向一端側に接合内径部から径方向外側に延びる内壁部が設けられている場合、該内壁部に当接するように、接合部の軸方向一端側から径方向外側に沿って延びるバリが形成され得る。外側金属部材の内壁部に当接するバリが形成されると、バリを通して電流が流れ、電流が接合部とバリの両方に向けて分流するため、接合部を良好に接合することができなくなるおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、バリによる通電を抑制し、接合部を良好に接合できる金属部材の接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0012】
まず、本発明は、内側金属部材の外周面部と外側金属部材の内周面部とを軸方向に加圧しつつ通電による抵抗発熱によって接合する金属部材の接合方法であって、
前記内側金属部材の前記外周面部に、接合外径部を形成し、
前記外側金属部材の前記内周面部に、前記接合外径部に対応する接合内径部を形成し、
前記内側金属部材の前記接合外径部と前記外側金属部材の前記接合内径部との間に形成される接合部の近傍に、前記内側金属部材の前記外周面部と前記外側金属部材の前記内周面部とを接合するときに生じるバリを通して流れる電流を妨げる絶縁部を配設し、
前記内側金属部材の前記接合外径部と前記外側金属部材の前記接合内径部とを軸方向他端側から軸方向一端側に向けて加圧しつつ通電による抵抗発熱によって、前記接合外径部と前記接合内径部との間において前記接合部を形成する、
ことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、内側金属部材の接合外径部と外側金属部材の接合内径部との間に形成される接合部の近傍に絶縁部を配設することにより、内側金属部材の接合外径部と外側金属部材の接合内径部とを軸方向他端側から軸方向一端側に向けて加圧しつつ通電による抵抗発熱によって、接合外径部と接合内径部との間において接合部を形成するときに、外側金属部材において、接合内径部に対して軸方向一端側に位置して、接合内径部から径方向外側に延びる内壁部が設けられている場合、絶縁部によって、接合部の軸方向一端側から径方向外側に沿って延びるバリが外側金属部材の該内壁部に当接することを抑制することができる。したがって、バリを通して電流が流れることを抑制し、電流は接合部に集中して流れるため、接合部を良好に接合することができる。
【0014】
また、前記内側金属部材の前記接合外径部と前記外側金属部材の前記接合内径部とを再度通電による抵抗発熱によって、前記接合部を再度加熱してもよい。
【0015】
本構成によれば、内側金属部材と外側金属部材とを再度通電による抵抗発熱によって接合部を再度加熱するとき、バリを通して電流が流れることを抑制し、電流は接合部に集中して流れるため、接合部が抵抗発熱によって加熱されることにより、接合部の焼き戻しを行うことができ、接合部の強度向上を図ることができる。
【0016】
また、前記外側金属部材には、前記接合内径部に対して軸方向一端側に位置して、前記接合内径部から径方向外側に延びる内壁部が設けられ、
前記絶縁部は、前記内壁部に施された塗料であってもよい。
【0017】
本構成によれば、外側金属部材の内壁部に塗料を塗る、例えばカチオン塗装を行うことにより、絶縁部が配設される。したがって、塗料によって電流がバリを流れないようにすることができる。
【0018】
また、前記外側金属部材には、前記接合内径部に対して軸方向一端側に位置して、前記接合内径部から径方向外側に延びる内壁部が設けられ、
前記絶縁部は、前記内壁部に配設された紙シート部材であってもよい。
【0019】
本構成によれば、外側金属部材の内壁部に紙シート部材を配置することにより、絶縁部が配設される。したがって、紙シート部材によって電流がバリを流れないようにすることができる。
【0020】
また、前記内側金属部材の前記外周面部に、前記接合外径部に対して軸方向一端側に位置する嵌合テーパ外径部を形成し、
前記外側金属部材の前記内周面部に、前記嵌合テーパ外径部に対応する嵌合テーパ内径部を形成し、
前記外側金属部材には、前記接合内径部に対して軸方向一端側に位置して、前記接合内径部から径方向外側に延びる内壁部が設けられ、
前記絶縁部は、前記外側金属部材の前記内壁部から前記嵌合テーパ内径部まで設けられてもよい。
【0021】
本構成によれば、絶縁部を外側金属部材の内壁部から嵌合テーパ内径部まで設けることにより、内側金属部材の接合外径部と外側金属部材の接合内径部とを軸方向他端側から軸方向一端側に向けて加圧しつつ通電による抵抗発熱によって、接合外径部と接合内径部との間において接合部を形成するとき、絶縁部によってバリが外側金属部材の内壁部に当接することを抑制することができ、接合部を良好に接合することができる。また、内側金属部材と外側金属部材との間に応力が作用するとき、テーパ嵌合部によって接合部への応力集中を抑制できる。さらに、絶縁部が嵌合テーパ外径部と嵌合テーパ内径部との間に配設されるため、内側金属部材と外側金属部材とを再度通電による抵抗発熱によって接合部を再度加熱するとき、電流はテーパ嵌合部を流れることがない。したがって、再度の通電が行われるとき、電流は接合部に集中して流れるため、接合部が抵抗発熱によって加熱されることにより、接合部の焼き戻しを行うことができ、接合部の強度向上を図ることができる。
【0022】
また、前記内側金属部材の前記外周面部に、前記接合外径部に対して軸方向一端側に位置する第1の嵌合テーパ外径部と、前記接合外径部に対して軸方向他端側に位置する第2の嵌合テーパ外径部とを形成し、
前記外側金属部材の前記内周面部に、前記第1の嵌合テーパ外径部に対応する第1の嵌合テーパ内径部と、前記第2の嵌合テーパ外径部に対応する第2の嵌合テーパ内径部とを形成し、
前記外側金属部材には、前記接合内径部に対して軸方向一端側に位置して、前記接合内径部から径方向外側に延びる内壁部が設けられ、
前記絶縁部は、前記内壁部に設けられ、
前記内側金属部材の前記接合外径部と前記外側金属部材の前記接合内径部とを軸方向に加圧しつつ通電による抵抗発熱によって、前記接合外径部と前記接合内径部との間において前記接合部を形成するとき、前記内側金属部材の前記第1の嵌合テーパ外径部及び前記第2の嵌合テーパ外径部と前記外側金属部材の前記第1の嵌合テーパ内径部及び前記第2の嵌合テーパ内径部とが嵌合して、第1のテーパ嵌合部及び第2のテーパ嵌合部を形成してもよい。
【0023】
本構成によれば、内側金属部材の接合外径部と外側金属部材の接合内径部とを軸方向他端側から軸方向一端側に向けて加圧しつつ通電による抵抗発熱によって、接合外径部と接合内径部との間において接合部を形成するとき、接合部の軸方向両側に第1のテーパ嵌合部及び第2のテーパ嵌合部が設けられる。接合部の軸方向両側に設けられる第1のテーパ嵌合部及び第2のテーパ嵌合部によって、接合部への応力集中をより抑制できる。
【0024】
また、前記内側金属部材がデフケースであり、前記外側金属部材がリングギヤであってもよい。
【0025】
本構成によれば、内側金属部材がデフケースであり、外側金属部材がリングギヤであることにより、デフケースとリングギヤとの間の接合部を良好に接合することができる。
【発明の効果】
【0028】
したがって、本発明に係る金属部材の接合方法によれば、バリによる通電を抑制し、接合部を良好に接合できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係る金属部材の接合構造を備えたデファレンシャル装置を示す概略図である。
図2図1の一点鎖線の円IIで囲まれた範囲における部分拡大図である。
図3】金属部材の接合方法を説明する説明図である。
図4図3の一点鎖線の円IVで囲まれた範囲における部分拡大図である。
図5】金属部材の接合時における通電の出力推移を示す概略図である。
図6】別の実施形態における絶縁部を示す概略図である。
図7】本発明の別の実施形態に係る金属部材の接合構造を備えたデファレンシャル装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る金属部材の接合構造を備えたデファレンシャル装置を示す概略図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る金属部材の接合構造を備えたデファレンシャル装置は、フロントエンジン・リヤドライブ車の後輪用のデファレンシャル装置1として構成されている。
【0032】
デファレンシャル装置1は、デファレンシャル装置1の外側金属部材として構成されているリングギヤ2と、デファレンシャル装置1の内側金属部材として構成されているデフケース3とを備える。このリングギヤ2は、炭素鋼から形成される傘歯車である。また、デフケース3は、鋳鉄から形成される略円筒状の部品である。
【0033】
リングギヤ2は、略円筒状の内周面部21を備える。この内周面部21に、リングギヤ2の軸方向に延びる接合内径部22が形成される。また、リングギヤ2の軸方向他端側の外周には、外側に向かうにつれてリングギヤ2の軸方向一端側に傾斜する傘歯25が設けられている。
【0034】
図2は、図1の一点鎖線の円IIで囲まれた範囲における部分拡大図である。
【0035】
リングギヤ2の内周面部21には、接合内径部22に対して軸方向一端側に位置して、径方向外側に略直線状に延びる内壁部24が設けられている。
【0036】
図1に戻り、デフケース3は、略円筒状の外周面部31を備える。この外周面部31に、リングギヤ2の接合内径部22と嵌合するように、接合内径部22と略同等の大きさの外径を有して、デフケース3の軸方向に延びる略円筒状の接合外径部32が形成される。デフケース3は、また、外周面部31より内側に形成されている略球形の内部空間33を備える。また、デフケース3の外周面部31には、接合外径部32に対して軸方向一端側に位置して、径方向外側に延びる略円形のフランジ34が設けられている。
【0037】
デフケース3の外周面部31のフランジ34の径方向外側端部に、接合外径部32に対して軸方向一端側に位置して、外側に向かうにつれてデフケース3の軸方向一端側に傾斜する嵌合テーパ外径部35が形成される。一方、リングギヤ2の内周面部21に、接合内径部22と内壁部24に対して軸方向一端側に位置して、外側に向かうにつれてリングギヤ2の軸方向一端側に傾斜する嵌合テーパ内径部23が形成される。嵌合テーパ外径部35と嵌合テーパ内径部23は、互いに嵌合できるように、同じ角度で傾斜するように形成されている。
【0038】
また、デフケース3には、外周面部31より内側において、内部空間33を通過するように外周面部31の軸と直交する方向に延びるシャフト穴41と、シャフト穴41を通して延びるように取り付けられるピニオンシャフト42とが配設されている。このピニオンシャフト42には、内部空間33に収容される図示しないピニオンギヤが連結されている。
【0039】
本実施形態において、デフケース3の接合外径部32とリングギヤ2の接合内径部22との間に形成される接合部60の近傍に位置するリングギヤ2の内壁部24には、デフケース3の外周面部31とリングギヤ2の内周面部21とを接合するときに生じるバリ62を通して流れる電流を妨げる絶縁部として構成される塗料50が配設されている。嵌合テーパ内径部23にも、絶縁部として構成される塗料50が配設されている。この塗料50は、カチオン塗装により、内壁部24と嵌合テーパ内径部23の表面に塗装されている。
【0040】
次に、リングギヤ2とデフケース3の接合方法を説明する。
【0041】
図3は、金属部材の接合方法を説明する説明図である。
【0042】
第1通電ステップとして、まず、外周面部31に、接合外径部32と、接合外径部32に対して軸方向一端側に位置する嵌合テーパ外径部35とが形成されたデフケース3を準備する。次に、内周面部21に、接合外径部32に対応する接合内径部22と、嵌合テーパ外径部35に対応する嵌合テーパ内径部23とが形成されたリングギヤ2を準備する。リングギヤ2の内壁部24と嵌合テーパ内径部23には、塗料50が同時に施されている。上述のデフケース3をリングギヤ2に挿入して、デフケース3の接合外径部32の軸方向他端側と、リングギヤ2の接合内径部22の軸方向一端側とを全周にわたって当接させる。これにより、リングギヤ2とデフケース3は同軸状態となる。
【0043】
図4は、図3の一点鎖線の円IVで囲まれた範囲における部分拡大図である。
【0044】
実際には、デフケース3の接合外径部32は、リングギヤ2の接合内径部22と径方向にオーバーラップするように、接合内径部22より大径に形成され、オーバーラップ代が0.6mmなどに形成される。
【0045】
図3に戻り、リングギヤ2の内周面部21の軸方向他端側と、デフケース3のフランジ34の軸方向一端側にそれぞれ環状の電極51,52を設置する。電極51,52は、リングギヤ2の接合内径部22とデフケース3の接合外径部32とを軸方向に挟み、かつ、互いにできるだけ径方向に接近するように配置する。この電極51,52は、通電の出力が制御されるように、コントローラ53と電気的に接続されている。また、電極51とコントローラ53との間には、電極51を軸方向に移動させるモータ54が配設されている。このモータ54は、電極51を軸方向一端側に向けて移動させることにより、リングギヤ2とデフケース3とを軸方向に加圧するように構成されている。
【0046】
次に、電極51,52を介してリングギヤ2とデフケース3とを軸方向に加圧しつつコントローラ53により通電し、リングマッシュ接合を行う。図3において破線で示すコントローラ53から供給される電流は、リングギヤ2側の電極51から、リングギヤ2の接合内径部22の軸方向一端側とデフケース3の接合外径部32の軸方向他端側との接触部を通って、デフケース3側の電極52に流れる。この通電により、接合外径部32と接合内径部22の径方向にオーバーラップした部分が抵抗発熱によって約900℃に発熱して軟化し、塑性流動する。
【0047】
図5は、金属部材の接合時における通電の出力推移を示す概略図である。図5に示すように、コントローラ53は、上述のように通電を開始してから時間T1に達するまで、リングギヤ2側の電極51からデフケース3側の電極52に流れる電流の出力を一定の出力P1に維持する。
【0048】
デフケース3とリングギヤ2は軸方向に加圧されているため、上述の接合外径部32と接合内径部22との間のオーバーラップした部分の発熱、軟化及び塑性流動が加圧方向に進行してゆくにつれ、図1に示すように、リングギヤ2は、リングギヤ2の嵌合テーパ内径部23が塗料50を介してデフケース3の嵌合テーパ外径部35に当接するまで、デフケース3に対して押し込まれてゆく。このとき、接合外径部32と接合内径部22のオーバーラップした部分において、軟化した金属のバリが、軸方向一端側から径方向外側に沿って徐々に延びるように形成される。
【0049】
通電を開始してから時間T1に達すると、リングギヤ2の嵌合テーパ内径部23は塗料50を介してデフケース3の嵌合テーパ外径部35に当接する。このとき、コントローラ53は、リングギヤ2側の電極51からデフケース3側の電極52に流れる電流の出力を一時的に減少させて0にする。
【0050】
リングギヤ2の接合内径部22とデフケース3の接合外径部32は、リングマッシュ接合により接合部60を形成する。リングギヤ2の嵌合テーパ内径部23は、塗料50を介してデフケース3の嵌合テーパ外径部35に嵌合して、テーパ嵌合部61を形成する。また、接合部60の軸方向一端側には、径方向外側に沿って、軸方向一端側に向けて円弧状に湾曲するバリ62が形成される。このバリ62は、リングギヤ2の内壁部24に向かって延び、バリ62が大きくなってリングギヤ2の内壁部24に接近する場合、塗料50を介してリングギヤ2の内壁部24に当接する。
【0051】
図5に戻り、上述の第1通電ステップにおいて、通電を開始してから時間T1に達して、リングギヤ2側の電極51からデフケース3側の電極52に流れる電流の出力が一時的に0になった後、一定の時間が経過すると、第2通電ステップが開始される。
【0052】
本実施形態において、第2通電ステップは、時間T1から3~4秒が経過した後の時間T2において開始される。
【0053】
第2通電ステップとして、電極51,52を用いて、リングギヤ2とデフケース3との間の接合部60を再度の通電による抵抗発熱によって加熱する。このとき、リングギヤ2側の電極51からデフケース3側の電極52に流れる電流の出力は、接合内径部22と接合外径部32との間に形成される接合部60が大きくなっていることから、出力P1よりも120~130%大きい出力P2を維持することが好ましい。
【0054】
図1に戻り、図1において破線で示すコントローラ53から供給される電流は、リングギヤ2側の電極51から、リングギヤ2の接合内径部22とデフケース3の接合外径部32との間の接合部60を通って、デフケース3側の電極52に流れる。一方、リングギヤ2の嵌合テーパ内径部23とデフケース3の嵌合テーパ外径部35との間には、絶縁部として塗料50が配設されているため、電流は嵌合テーパ内径部23と嵌合テーパ外径部35との間のテーパ嵌合部61を流れない。また、接合部60から延びるバリ62が塗料50を介してリングギヤ2の内壁部24に当接する場合においても、リングギヤ2の内壁部24とバリ62との間に、絶縁部として塗料50が配設されるため、電流は内壁部24からバリ62に向けて流れない。したがって、電流が接合部60とテーパ嵌合部61とバリ62の三方向に分かれて分流することがないため、接合部60を約700℃などの焼き戻し温度まで再び加熱することができる。図5に示す時間T2から2秒などの設定時間に渡る通電の後、通電を停止する。これにより、接合部60の焼き戻しが行われる。
【0055】
本実施形態では、第1通電ステップ及び第2通電ステップを行っているが、第1通電ステップのみ行うようにしてもよい。
【0056】
このように、本発明の実施形態に係る金属部材の接合構造では、リングギヤ2の内壁部24及び嵌合テーパ内径部23には、電流を妨げる絶縁部として構成されている塗料50が配設されている。
【0057】
本発明の実施形態に係る金属の接合では、デフケース3の接合外径部32とリングギヤ2の接合内径部22との間に形成される接合部60の近傍に、デフケース3の外周面部31とリングギヤ2の内周面部21とを接合するときに生じるバリ62を通して流れる電流を妨げる塗料50を配設して、デフケース3の接合外径部32とリングギヤ2の接合内径部22とを軸方向他端側から軸方向一端側に向けて加圧しつつ通電による抵抗発熱によって、接合外径部32と接合内径部22との間において接合部60を形成する第1通電ステップと、デフケース3の接合外径部32とリングギヤ2の接合内径部22とを再度通電による抵抗発熱によって、接合部60を再度加熱する第2通電ステップとを備える。
【0058】
デフケース3の接合外径部32とリングギヤ2の接合内径部22との間に形成される接合部60の近傍に塗料50を配設することにより、デフケース3の接合外径部32とリングギヤ2の接合内径部22とを軸方向他端側から軸方向一端側に向けて加圧しつつ通電による抵抗発熱によって、接合外径部32と接合内径部22との間において接合部60を形成するときに、リングギヤ2において、接合内径部22に対して軸方向一端側に位置して、接合内径部22から径方向外側に延びる内壁部24が設けられている場合、塗料50によって、接合部60の軸方向一端側から径方向外側に沿って延びるバリ62がリングギヤ2の内壁部24に当接することを抑制することができる。したがって、バリ62を通して電流が流れることを抑制し、電流は接合部60に集中して流れるため、接合部60を良好に接合することができる。
【0059】
また、デフケース3の接合外径部32とリングギヤ2の接合内径部22とを再度通電による抵抗発熱によって、接合部60を再度加熱する第2通電ステップにより、バリ62を通して電流が流れることを抑制し、電流は接合部60に集中して流れるため、接合部60が抵抗発熱によって加熱されることにより、接合部60の焼き戻しを行うことができ、接合部60の強度向上を図ることができる。
【0060】
また、塗料50をリングギヤ2の内壁部24から嵌合テーパ内径部23まで設けることにより、デフケース3の接合外径部32とリングギヤ2の接合内径部22とを軸方向他端側から軸方向一端側に向けて加圧しつつ通電による抵抗発熱によって、接合外径部32と接合内径部22との間において接合部を形成するとき、塗料50によってバリ62がリングギヤ2の内壁部24に当接することを抑制することができ、接合部60を良好に接合することができる。また、デフケース3とリングギヤ2との間に応力が作用するとき、テーパ嵌合部61によって接合部60への応力集中を抑制できる。さらに、塗料50が嵌合テーパ外径部35と嵌合テーパ内径部23との間に配設されるため、デフケース3とリングギヤ2とを再度通電による抵抗発熱によって接合部60を再度加熱するとき、電流はテーパ嵌合部61を流れることがない。したがって、再度の通電が行われるとき、電流は接合部60に集中して流れるため、接合部60が抵抗発熱によって加熱されることにより、接合部60の焼き戻しを行うことができ、接合部60の強度向上を図ることができる。
【0061】
また、内側金属部材がデフケース3であり、外側金属部材がリングギヤ2であることにより、デフケース3とリングギヤ2との間の接合部60を良好に接合することができる。
【0062】
また、リングギヤ2の内壁部24に塗料を塗る、例えばカチオン塗装を行うことにより、塗料50が配設される。したがって、塗料50によって電流がバリ62を流れないようにすることができる。
【0063】
図6は、別の実施形態における絶縁部を示す概略図である。
【0064】
前述した実施形態では、絶縁部として構成されている塗料50がリングギヤ2の内壁部24と嵌合テーパ内径部23に配設されているが、図4に示す環状の紙シート部材150が、例えば接着剤によって内壁部24と嵌合テーパ内径部23に貼り付けられることにより、絶縁部として配設されてもよい。以下、この紙シート部材150は、紙パッキンと呼称される。紙パッキン150は、略円錐状の形状を有しており、軸方向と略直交して径方向に延びる上面部151と、外側に向かうにつれてリングギヤ2の軸方向一端側に傾斜する傾斜側面部152を有する。
【0065】
紙パッキン150の上面部151は、リングギヤ2の内壁部24に貼り付けられ、紙パッキン150の傾斜側面部152は、リングギヤ2の嵌合テーパ内径部23に貼り付けられる。したがって、紙パッキン150によって電流がバリ62を流れないようにすることができる。
【0066】
図7は、本発明の別の実施形態に係る金属部材の接合構造を備えたデファレンシャル装置を示す概略図である。
【0067】
前述した実施形態では、リングギヤ2には、1つの嵌合テーパ内径部23が設けられていると共に、デフケース3には、1つの嵌合テーパ外径部35が設けられているが、図7に示す第1の嵌合テーパ内径部223aと第2の嵌合テーパ内径部223b、及び第1の嵌合テーパ外径部235aと第2の嵌合テーパ外径部235bがリングギヤ202とデフケース203にそれぞれ設けられていてもよい。
【0068】
図7に示すように、デフケース203の外周面部231のフランジ234の径方向外側端部に、接合外径部232に対して軸方向一端側に位置して、外側に向かうにつれてデフケース203の軸方向一端側に傾斜する第1の嵌合テーパ外径部235aが形成される。また、デフケース203の外周面部231に、接合外径部232に対して軸方向他端側に位置して、外側に向かうにつれてデフケース203の軸方向一端側に傾斜する第2の嵌合テーパ外径部235bが形成される。一方、リングギヤ202の内周面部221に、接合内径部222に対して軸方向一端側に位置して、外側に向かうにつれてリングギヤ202の軸方向一端側に傾斜する第1の嵌合テーパ内径部223aが形成される。また、リングギヤ202の内周面部221に、接合内径部222に対して軸方向他端側に位置して、外側に向かうにつれてリングギヤ202の軸方向一端側に傾斜する第2の嵌合テーパ内径部223bが形成される。
【0069】
上述の第1の嵌合テーパ外径部235aと第2の嵌合テーパ外径部235b、及び第1の嵌合テーパ内径部223aと第2の嵌合テーパ内径部223bは、互いに嵌合できるように、同じ角度で傾斜するように形成されている。また、絶縁部として構成されている塗料250a,250bが、内壁部224及び第1の嵌合テーパ内径部223aと第2の嵌合テーパ内径部223bとにそれぞれ配設されている。
【0070】
本実施形態では、デフケース3の接合外径部32とリングギヤ2の接合内径部22とを軸方向他端側から軸方向一端側に向けて加圧しつつ通電による抵抗発熱によって、接合外径部32と接合内径部22との間において接合部60を形成するとき、デフケース203の第1の嵌合テーパ外径部235aと第2の嵌合テーパ外径部235b、及びリングギヤ202の第1の嵌合テーパ内径部223aと第2の嵌合テーパ内径部223bが、それぞれ嵌合して、第1のテーパ嵌合部261aと第2のテーパ嵌合部261bを形成する。これにより、接合部260への応力集中をより抑制できる。
【0071】
この場合においても、絶縁部としての塗料に代えて、紙パッキンなどの絶縁部を設けるようにしてもよい。
【0072】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【0073】
以上のように、本発明によれば、バリによる通電を抑制し、接合部を良好に接合できることから、金属部材の接合技術分野において、好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0074】
2 外側金属部材(リングギヤ)
3 内側金属部材(デフケース)
21 内周面部
22 接合内径部
31 外周面部
32 接合外径部
50 絶縁部(塗料)
60 接合部
62 バリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7