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特許7673764ノイズ除去装置、物体検出装置およびノイズ除去方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】ノイズ除去装置、物体検出装置およびノイズ除去方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/487 20060101AFI20250430BHJP
【FI】
G01S7/487
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023028105
(22)【出願日】2023-02-27
(65)【公開番号】P2023143756
(43)【公開日】2023-10-06
【審査請求日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2022048098
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 啓子
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-505545(JP,A)
【文献】国際公開第2021/210415(WO,A1)
【文献】特開2003-130954(JP,A)
【文献】特開2019-100885(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121741(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0309923(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107479032(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - G01S 7/51
G01S 17/00 - G01S 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の反射を用いて検出対象を認識する際に生じるノイズを除去するノイズ除去装置(30)であって、
所定の範囲に向けて射出された光の射出方向に対応する方向から到達する到達光の強度を、前記光の射出からの経過時間に沿って計測する計測部(31)と、
前記計測した到達光に、所定以上の強度のエコーが存在する場合、前記エコーの強度と前記経過時間に対応する距離である検知距離とを用いて、前記エコーが、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものであるか否かを判断する判断部(32)と、
前記検出対象によって反射されたものでないと判断された前記エコーをノイズとして除去する除去部(33)と、
を備え、
前記判断部は、
前記計測部が前記到達光に含まれる前記エコーとして、第1エコーとこれより前記経過時間の長い第2エコーとを検出した場合には、前記第1エコーの強度を予め定めた第1の値の強度閾値と比較し、
前記計測部が前記到達光に含まれる前記エコーとして、第1エコーより前記経過時間の長い第2エコーを検出しなかった場合には、前記第1エコーの強度を、前記第1の値より小さな第2の値の強度閾値と比較し、
前記第1エコーの強度が、前記強度閾値より小さい場合には、前記第1エコーを前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものでないと判断する、
ノイズ除去装置。
【請求項2】
前記判断部は、前記計測部が計測した前記到達光に、前記エコーとして第1エコーとこれより前記経過時間の長い第2エコーとが含まれており、前記第1エコーが、予め定めた第1距離範囲内からのものである場合には、前記第1エコーは前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものでないと判断する、
請求項1に記載のノイズ除去装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のノイズ除去装置であって、
前記計測部は、前記エコーとして、前記所定の範囲のうちの一点である対象点からの前記到達光に含まれるエコーと、前記対象点に近接する少なくとも二つの近接点からの前記到達光に含まれるエコーとを検出し、
前記判断部は、前記対象点からの前記到達光に含まれるエコーの前記経過時間と前記近接点における前記到達光に含まれるエコーの前記経過時間との差に対応する距離差が予め定めた距離閾値以下の前記近接点の数である近接点数が、予め定めた点数閾値以下の場合には、前記対象点からの前記到達光に含まれるエコーは、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものでないと判断する、ノイズ除去装置。
【請求項4】
前記対象点および前記近接点は所定の方向に並んでおり、前記所定の方向は鉛直方向の成分および水平方向の成分のうち、少なくとも一方を含む、請求項3に記載のノイズ除去装置。
【請求項5】
前記判断部は、
前記対象点および前記近接点が、所定の方向に沿って順に並んだ状態で、前記対象点および前記近接点からの前記到達光のそれぞれに含まれる前記エコーの前記経過時間に対応する前記検知距離のそれぞれが、この順に単調増加または単調減少である第1条件が満たされている場合に前記近接点数を求めるために前記距離差と比較する前記距離閾値を第1距離閾値とし、
前記第1条件が満たされる場合以外では、前記近接点数を求めるために前記距離差と比較する前記距離閾値を、前記第1距離閾値より小さな第2距離閾値とする、
請求項3に記載のノイズ除去装置。
【請求項6】
前記経過時間に対応する前記検知距離の短長に応じて、前記点数閾値を少なくとも2段階に増減する、請求項3に記載のノイズ除去装置。
【請求項7】
前記判断部は、
前記所定の範囲のうちの一点である前記対象点を順次変更して、前記近接点数が前記点数閾値以下であるか否かの判断を行ない、
前記判断によって、前記所定の範囲のうちの他の対象点について、前記近接点数が前記点数閾値以下であると既に判断していても、前記対象点および前記近接点が、所定の方向に沿って順に並んだ状態で、前記対象点および前記近接点からの前記到達光のそれぞれに含まれる前記エコーの前記経過時間に対応する前記検知距離のそれぞれが、この順に単調増加または単調減少である第1条件が満たされている場合には、前記他の対象点からの前記到達光に含まれるエコーは、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものであると判断する、請求項3に記載のノイズ除去装置。
【請求項8】
前記判断部は、前記到達光に含まれる前記エコーの強度を、予め定めた強度閾値である上限値と比較し、前記エコーの強度が前記上限値以上の場合は、前記エコーを前記判断の対象外とする、請求項1または請求項2に記載のノイズ除去装置。
【請求項9】
前記判断部は、前記到達光に含まれる前記エコーの強度を、前記上限値および前記上限値より小さい下限値と比較し、前記強度が、前記下限値以上かつ前記上限値未満のエコーを、前記判断の対象とする、請求項8に記載のノイズ除去装置。
【請求項10】
前記判断部は、前記判断において、前記エコーが取り得る最大強度と外光強度の差分である最大強度差に対する、前記エコーのピーク強度と外光強度の差分である実強度差の強度比を、前記エコーの強度として扱う、請求項1または請求項2に記載のノイズ除去装置。
【請求項11】
請求項1または請求項2に記載のノイズ除去装置(30,30A,30B)と、
前記ノイズ除去装置によって前記ノイズが除去された信号に含まれる前記エコーに基づき物体を検出する物体検出部(40,45)と、
を備えた物体検出装置(10,10A,10B)。
【請求項12】
光の反射を用いて検出対象を認識する際に生じるノイズを除去方法であって、
所定の範囲に向けて射出された光の射出方向に対応する方向から到達する到達光の強度を、前記光の射出からの経過時間に沿って計測し、
前記計測した到達光に、所定以上の強度のエコーが存在する場合、前記エコーの強度と前記経過時間に対応する距離である検知距離とを用いて、前記エコーが、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものであるか否かを判断し、当該判断において、
前記到達光に含まれる前記エコーとして、第1エコーとこれより前記経過時間の長い第2エコーとを検出した場合には、前記第1エコーの強度を予め定めた第1の値の強度閾値と比較し、
前記到達光に含まれる前記エコーとして、第1エコーより前記経過時間の長い第2エコーを検出しなかった場合には、前記第1エコーの強度を、前記第1の値より小さな第2の値の強度閾値と比較し、
前記第1エコーの強度が、前記強度閾値より小さい場合には、前記第1エコーを前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものでないと判断し、
前記検出対象によって反射されたものでないと判断された前記エコーをノイズとして除去する、
ノイズ除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光の反射を用いて検出対象を認識する際に生じるノイズを除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外光などの光を所定の範囲に照射し、その範囲に存在する検出対象からの反射光を検出して、検出対象を認識したり、検出対象までの距離を計測するといった技術が知られている。こうした光学的計測においては、外乱光などの影響によるノイズの除去が検討され、例えば特許文献1では、反射波を複数回受信し、これを重ね合わせることで、ノイズ成分を除去している。また、特許文献2では、周辺画素と比べて、距離が大きく異なる孤立点を、ノイズとして除去することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-9841号公報
【文献】特許第6763992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうしたノイズの除去技術には種々の課題が残されていた。一つには、屋外での検出対象の認識や距離の計測を光学的に行なう場合、降雨や外乱光の影響を受けるが、雨滴等からの反射波の強度が高い場合もあり、例えば複数回の計測結果を重ねても除去できない場合がある。こうした問題は、計測点に近い位置での雨滴や外乱光によるクラッタなどでは顕著である。また、照射する光を反射しにくい物体、例えば黒色に塗装された車体などでは、反射光の強度が小さい場合があり、単純に、ノイズ成分を除くための閾値を高くしたのでは、検出対象の認識や距離の計測が困難になってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
本開示の第1の態様は、光の反射を用いて検出対象(OJT)を認識する際に生じるノイズを除去するノイズ除去装置(30)としての態様である。このノイズ除去装置は、所定の範囲に向けて射出された光の射出方向に対応する方向から到達する到達光の強度を、前記光の射出からの経過時間に沿って計測する計測部(31)と、前記計測した到達光に、所定以上の強度のエコーが存在する場合、前記エコーの強度と前記経過時間に対応する距離である検知距離とを用いて、前記エコーが、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものであるか否かを判断する判断部(32)と、前記検出対象によって反射されたものでないと判断された前記エコーをノイズとして除去する除去部(33)とを備える。
【0007】
本開示の他の態様は、光の反射を用いて検出対象を認識する際に生じるノイズを除去方法としての態様である。このノイズ除去方法は、所定の範囲に向けて射出された光の前記射出方向に対応する検出方向からの光である到達光を検出し(ステップS110)、前記光の射出から前記到達光を検出するまでの時間である検出時間と、前記到達光に対応する光の前記射出方向とを抽出し、前記計測した到達光に、所定以上の強度のエコーが存在する場合、前記エコーの強度と前記経過時間に対応する検知距離とを用いて、前記エコーが、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものであるか否かを判断し(ステップS332からS336)、前記検出対象によって反射されたものでないと判断された前記エコーをノイズとして除去する(ステップS337、S338)
本開示の更に他の態様は、光の反射を用いて検出対象を認識する際に生じるノイズを除去するノイズ除去装置(30)としての態様であって、所定の範囲に向けて射出された光の射出方向に対応する方向から到達する到達光の強度を、前記光の射出からの経過時間に沿って計測する計測部(31)と、前記計測した到達光に、所定以上の強度のエコーが存在する場合、前記エコーの強度と前記経過時間に対応する距離である検知距離とを用いて、前記エコーが、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものであるか否かを判断する判断部(32)と、前記検出対象によって反射されたものでないと判断された前記エコーをノイズとして除去する除去部(33)と、前記計測した到達光に前記所定以上の強度のエコーが存在する場合であるとの判断を行なう際の、前記エコーの強度と前記経過時間に対応する距離である検知距離とに関する判断条件の組み合わせを、当該ノイズ除去装置が置かれた環境と前記計測部の特性との少なくとも一方により設定する条件設定部と、を備えるノイズ除去装置としての態様である。なお、本開示は、このノイズ除去装置に対応するノイズ除去方法としても実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】車両が物標認識を行なう様子を示す説明図。
図2】第1実施形態のノイズ除去装置を組み込んだ物標認識装置の構成を示す概略構成図。
図3A】受発光部の概略構成を示す説明図。
図3B】発光信号と受光信号のとの関係を例示する説明図。
図4】物標認識処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
図5】2段階閾値判定処理の一例を示すフローチャート。
図6A】受光信号の強度として扱う強度比について説明する説明図。
図6B】受光信号に含まれるエコーに対する処理の概要を示す説明図。
図7】ノイズ除去処理の一例を示すフローチャート。
図8】雨滴や黒塗り車からの反射光の存在を、検出対象までの距離と信号強度との関係において示す説明図。
図9】ノイズと実信号とを切り分ける閾値の一例を示す説明図。
図10】孤立点除去処理の一例を示すフローチャート。
図11】路面からの反射光の様子を示す説明図。
図12】近接点数のカウントを行なう処理一例を示すフローチャート。
図13】第2実施形態のノイズ除去装置を組み込んだ物表認識装置の内部構成を示す概略構成図。
図14A】補正係数取得処理ルーチンを示すフローチャート。
図14B】補正係数を求めるための一次元テーブルを模式的に示すグラフ。
図15】第2実施例における2段階閾値判定処理ルーチンを示すフローチャート。
図16】第2実施形態における第1ノイズ除去処理を示すフローチャート。
図17】ノイズ除去の様子を示す説明図。
図18】第3実施形態のノイズ除去装置を組み込んだ物標認識装置を搭載した車両の概略構成図。
図19】第3実施形態におけるノイズレベル較正処理ルーチンを示すフローチャート。
図20】較正処理の一例を示す説明図。
図21】第4実施形態のノイズ判定処理を示すフローチャート。
図22】検出対象領域を切り換えてノイズ除去を行なう様子を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
(A1)ハードウェア構成:
第1実施形態のノイズ除去装置30を備えた物標認識装置10の動作の概要を図1に示した。図示するように、この物標認識装置10は、車両100に搭載され、車両100の前方の周囲に存在する物標、例えば、他の車両や歩行者や建物等までの距離を測定するとともに、物標を認識する。本実施形態では、物標認識装置10は、LiDAR(Light Detection And Ranging)により構成されている。物標認識装置10は、予め定められた所定範囲SCAに対し、パルス光である照射光Lzを走査しながら照射し、照射光Lzに対応する反射光を受光する。例えば、所定範囲SCAに検出対象があれば、照射光Lzが物体に当たり、物体による反射光が返ってくる。反射光の強弱は、物体の有無のみならず、物体表面の反射率の違う部分、例えば黒色の部分と白色の部分とでは異なる。一例を挙げれば、路面上の白線からの反射光により白線を認識する場合もあり得る。このためこうした検出や認識の対象をまとめて「物標」と呼ぶことがある。
【0010】
本実施形態の物標認識装置10は、この反射光を受光し、反射光に対応して得られた受光信号に含まれるノイズを、ノイズ除去装置90によって除去した後、検出対象までの距離や、物標が何であるか、を認識する。以下、ノイズ除去装置30について、物標認識装置10としての構成と働きと共に説明するが、ノイズ除去装置30を単独で動作させたり、物標認識装置10以外の装置として実施させたりすることも可能である。
【0011】
図1では、照射光Lzの射出中心位置を原点とし、車両100の前後方向をY軸とし、原点を通り車両100の幅方向をX軸とし、原点を通り鉛直方向をZ軸として表している。なお、車両100の前方を+Y方向、車両100の後方を-Y方向とし、車両100の右方向を+X方向、車両100の左方向を-X方向とし、鉛直上方を+Z方向、鉛直下方を-Z方向とする。照射光Lzは、後述する用に、Z軸方向に配列された複数の発光素子から光の集合であり、その投光領域はZ方向に沿った縦長の形状である。この縦長の照射光Lzを、X軸方向に一次元走査することで、所定の範囲が照射される。図1の実線の太い矢印で示すように、照射光Lzを、車両100の前方方向に向かって左から右側に走査しながら、複数の発光素子を所定の時間間隔で発光させる。照射光Lzはパルス光なので、図に細い実線で示したマス目毎に照射されていると見做すことができる。パルス光であるこの照射光Lzのスキャンの速度とパルス間隔が、物標認識装置10のX軸方向の分解能θ1を決定する。物標認識装置10のZ軸方向の分解能は、複数の発光素子のZ方向の間隔により決定される。
【0012】
物標認識装置10は、照射光Lzを照射してから反射光を受光するまでの時間、すなわち、光の飛行時間TOF(Time of Flight)を測定し、飛行時間TOFから物標までの距離を算出することによって、物標を測距点群として検出する。測距点とは、物標認識装置10が測距可能な範囲において、反射光によって特定される物標の少なくとも一部が存在し得る位置を示す点を意味する。また、測距点群とは、所定期間における測距点の集合を意味する。物標認識装置10は、検出された測距点群の3次元座標により特定される形状、および、測距点群の反射特性を用いて、物標を認識する。
【0013】
物標認識装置10は、図2に示すように、CPU20と、記憶装置50と、入出力インターフェース60と、発光部70と、受光部80と、を備える。CPU20と、記憶装置50と、入出力インターフェース60は、CPU20に接続されている。記憶装置50は、ROM、RAM、およびEEPROMのような半導体記憶装置の他、ハードディスクなどの磁気記憶装置等も含む。入出力インターフェース60には、発光部70および受光部80が接続されている。
【0014】
CPU20は、記憶装置50に記憶されているコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより、ノイズ除去装置30としての機能の他、発光制御部22、距離算出部40、物標認識部45として機能する。なお、発光制御部22、距離算出部40、物標認識部45は、CPU20からの指示により動作する別の装置として構成されていてもよい。
【0015】
発光制御部22は、入出力インターフェース60を介して一定の間隔で発光信号を発光部70に発信する。発光部70は、発光素子72とスキャナ74を備えている。発光素子72は、図3Aに例示するように、Z方向に配列された複数のレーザダイオードLD1~LD8から構成されている。パルス状の発光信号を受信すると、レーザダイオードLD1~LD8は、パルスに応じて発光し、照射光Lzを射出する。レーザダイオードLD1~LD8は、照射光Lzとして、例えば赤外光を発光する。スキャナ74は、例えばミラーやDMD(Digital Mirror Device)で構成されており、レーザダイオードLD1~LD8から射出された照射光を一定の間隔でーx方向から+x方向に走査する。レーザダイオードは1つでもよく複数であってもよい。1つまたは少数の場合には、スキャナ74をX軸方向に加えてZ軸方向にも、つまり2次元方向にスキャン可能な構成とすればよい。また、発光素子72がX方向およびZ方向に2次元的に配列し、スキャナ74による走査を省略する構成としてもよい。
【0016】
受光部80は、複数の受光素子82を備える。受光素子82は、符号SP1~SP8で示すように、z方向に8つ配列されている。一つの受光素子82は、2次元に配列された5×5のマイクロSPAD(msp11~msp55)からなり、25個のマイクロSPADで1つの受光素子82を構成している。マイクロSPADは、Single Photon Avalanche Diodeであり、光子が入射したか否かを、2値的な信号として出力するが、25個のマイクロSPADからなる受光素子82は、マイクロSPADのいくつが反射光を検出したかに対応した信号、つまり受光素子82に到達した到達光の強度を示す強度信号を出力可能である。マイクロSPADの配列は、3×6など、他の構成でも差し支えない。
【0017】
図3Bに示したように、CPU20の発光制御部22から発光信号LDFが出力されて、発光素子72を構成するレーザダイオードLD1~LD8の一つが発光すると、その照射光が検出対象OJTに反射した反射光が受光素子82に入射する。すると、受光素子82は、発光素子72の発光からの経過時間に沿って反射光の強度に応じた信号を出力する。なお、受光素子82に到達する到達光の大部分は発光素子72から射出された光が物体に反射した反射光であるが、外光や複数回反射した迷光なども入射する。受光素子82自体は、到達光に含まれる反射光のみを検出するといったことはできないので、CPU20により実現されるノイズ除去装置30などが、外光の影響などを取り除いて、検出対象OJTからの反射光により、検出対象OJTまでの距離や反射光強度などを演算している。
【0018】
検出対象OJTが、物標認識装置10から所定距離だけ隔たった場所に存在する壁のようなものであり、検出対象OJTまでの間に何もなければ、受光信号は、図3Bの(A)に例示するように、発光信号LDFから検出対象OJTでの距離に応じた時間TOFだけ隔たったところにピークSS3を有する信号となる。しかし実際には、様々な要因により生じるノイズが受光信号に重畳され、例えば図示(B)に示すように、その他のピークSS1やSS2が、受光信号に現われることがある。入出力インターフェース60を介して受光信号を受け取るノイズ除去装置30は、受光信号からこうしたノイズを除去する。ノイズ除去装置30は、受光部80からの信号を受け取って信号強度や経過時間などの計測を行なう計測部31、計測した受光信号に存在するエコーが検出対象からの反射光によるエコーか否かを判断する判断部32、ノイズの除去を行なう除去部33などを備える。除去部33が行なうノイズ除去処理の内容については、後で詳しく説明する。
【0019】
ノイズ除去装置30の出力する受光信号、つまりノイズが除去された受光信号は、距離算出部40に出力される。距離算出部40は、発光から受光信号を受けるまでの時間(TOF)に基づいて、物標認識装置10から検出対象OJTまでの距離を算出する。具体的には、距離算出部40は、発光素子LD1~LD8が照射光Lzを発光してから照射光Lzが検出対象OJTに当たり、その反射光Rzが受光部80の受光素子82に受光されるまでの時間TOFを用いて、物標認識装置10から検出対象OJTの反射点までの距離Dを算出する。光速をcとすると、物標認識装置10から検出対象OJTの反射点までの距離Dは、
D=TOF/(2・c)
として求めることができる。物標認識部45は、距離算出部40の算出結果を受けて、検出対象OJTの反射点の方向と反射点までの距離Dとから、検出対象OJTの反射点の位置を知り、その集合から、物標を認識する。
【0020】
CPU20がおこなう物標認識の処理の概要を、図4のフローチャートを用いて説明する。図示する物標認識処理ルーチンは、車両100の図示しないイグニッションスイッチがオンにされ、物標認識装置10への通電が開始されると、所定のインターバルで繰り返し実行される。図示するルーチンは、大きくは3つに分けられ、所定範囲SCAに対するレーザ光によるスキャンを行なって、所定範囲SCAに属する全ての画素における反射光の受光信号のデータを収集するスキャン処理(ステップS100)と、収集した受光信号のデータに対してノイズ除去の処理を行なうノイズ除去処理(ステップS300)と、ノイズを除去した後で、所定範囲SCAに存在する物標までの距離を演算して物標を認識する認識処理(ステップS500)とである。
【0021】
スキャン処理(ステップS100)が開始されると、まずスキャナ74を起動し、レーザ光によるスキャンを開始する(ステップS100s)。このスキャン以下の処理(ステップS110~S130)は、スキャンの終了(ステップS100e)まで繰り返される。スキャンの開始から終了までとは、図1に示した所定範囲SCAを、原点から、その対角の終点まで、走査することに相当する。
【0022】
スキャンを開始すると、まず発光・受光動作を行なう(ステップS110)。この処理は、既に説明した様に、所定の時間間隔で発光素子72の一つに発光信号LDFを出力し、受光部80の受光素子82の一つからの受光信号を受け取る処理である。受光信号は所定範囲SCAを構成する複数の画素のうちの1つの画素に対応した信号である。受光信号TSには、種々の要因により、ピークを有する所定時間幅の山形の信号波形が現われる。このピークを含む山形の信号波形を、ピーク値の大小を問わず、以下の説明ではエコーと呼ぶ。エコーは、一つには検出対象OJTからの反射光により生じるが、いわゆるクラッタによっても生じることがあり得る。この受光信号に対して、2段階閾値判定処理(ステップS120)を行なって、受光信号の強度により、受光信号に含まれるエコーTSnの抽出を行なう。
【0023】
この2段階閾値判定処理の概要を、図5に示した。2段階閾値判定処理(ステップS120)で扱う受光信号TSは、ステップS110において読み込まれた信号である。受光素子82からの信号をそのまま受光信号TSとして処理の対象としてもよいし、一旦記憶装置50に記憶したものを、順次読み込んで、信号処理の対象としてもよい。2段階閾値判定処理では、まず、受光信号TSの信号強度RTを、発光信号LDFが出力された時点を時刻0として時系列的に読み出し(ステップS210)、受光信号TSの信号強度RTに第1閾値Th1より大きい箇所があるか否かを判別する(ステップS220)。受光信号TSの信号強度RTとは、時間軸上の一点において、受光素子82から得られた信号の強度であり、本実施形態では、25個のマイクロSPADのうちの幾つが、光子を検出して出力をアクティブにしたかに対応する信号である。なお、受光信号TSの強度は、図6Aに示したように、受光信号の取り得る最大強度RTmax と外光強度Enaとの差分である最大強度差ΔRmax に対する、前記エコーのピーク強度RTnと外光強度Enaとの差分である実強度差Δrmax の強度比RRn、つまり
RRn=Δrn /ΔRmax =(RTn-Ena)/(RTmax-Ena)
として求め、これを受光信号の強度として扱ってもよい。
【0024】
時系列的に読み出された受光信号TSの信号強度RTが、
RT>Th1
となっている期間が見つかると、これをエコーTSnとして取り出す(ステップS230)。ここで、nは初期値が1であり、受光信号TSの信号強度RTが第1閾値Th1より大きい期間が見つかる毎にインクリメントされる整数値である。この様子を、図6Bの欄(A)に示した。この例では、受光信号TSの信号強度RTが第1閾値Th1より大きい期間がエコーTS1として抽出される。ここで、第1閾値Th1は、受光素子82が検出する背景光の強さに対応した外光強度Enaより大きな値として設定される。受光信号TSの信号強度RTが第1閾値Th1より大きいとして取り出されたエコーTSnのピーク強度RTnが、第1閾値Th1より大きい値として予め定められた第2閾値Th2より大きいかの否かの判断を行なう(ステップS240)。
【0025】
ステップS240での判断の結果、そのエコーTSnが、
RTn>Th2
となっていれば、このエコーTSnは、物標からの反射光によるものであると判断し、エコーTSnを、物標からの反射光による信号として扱うものとする(ステップS250)。他方、エコーTSnのピーク強度RTnが、
RTn>Th2
となっていなければ、このエコーTSnは、物標からの反射光によるものとは言い切れず、ノイズである可能性もあると判断し、エコーTSnをノイズ判定の対象として扱うものとする(ステップS260)。その後、受光信号TSを時系列的に最後まで読み出したか判定し(ステップS270)、最後まで読み出していれば、「NEXT」に抜けて本処理ルーチンを終了し、最後まで読み出していなければ、ステップS210に戻って、上述した受光信号TSを時系列的に読み出す処理が繰り返す。
【0026】
通常、物標認識装置10から射出されたレーザ光の方角に物標が存在すれば、その物標より遠い場所の物標からの反射光は存在しないから、物標からの反射光によるエコーは一つになることが多い。しかしながら、例えば降雨時には、雨滴による反射光によるエコーや雨滴を通過したレーザ光が物標に反射した反射光によるエコーなど、物標認識装置10のスキャナ74が検出する受光信号には、複数のエコーTSnが含まれることがある。この結果、受光信号TSを時系列的に最後まで読み出すと、図6Bの欄(A)に示すように、場合によっては、そのピーク強度RTnが第1閾値Th1を超える期間としての複数のエコーTSn(図の例では、TS1からTS4の4つ)が抽出される。更に、そのうちのエコーTS2,TS3,TS4は、同図の欄(B)(C)に示すように、そのピーク強度RT2,RT3,RT4が第2閾値Th2を超えていることから、ノイズ判定の対象ではないと判断され、他方、エコーTS1は、そのピーク強度RT1が第1閾値Th1から第2閾値Th2の間に入っていることから、同図の欄(D)に示すように、後述する第1ノイズ判定処理の対象とされる。
【0027】
以上説明した2段階閾値判定処理を行なった後、スキャンされた位置における受光信号に含まれるエコーの信号強度RTnとそのエコーの検知距離、つまり発光信号LDFが出力されてからエコーTSnのピークが検出されるまでの時間に対応した検知距離LTnとを対応付けて、一旦記憶装置50に記憶する(ステップS130)。上述した処理(ステップS110からS130)を、所定範囲SCAの全範囲についてスキャンが終了するまで繰り返す(ステップS100e)。所定範囲SCAの全範囲について、スキャン処理が完了すると、次にノイズ除去処理(ステップS300)を行なう。
【0028】
(A2)ノイズ除去処理の概要:
ノイズ除去処理(ステップS300)について説明する。本実施形態では、ノイズ除去処理(ステップS300)を実行するCPU20がノイズ除去装置30に相当するが、CPU20とは別にノイズ除去装置30に相当するハードウェアを用意しても差し支えない。受光素子82から得られる受光信号には、電気的なノイズも重畳するが、本実施形態のノイズ除去装置30が除去しようとするノイズは、電気的なノイズではなく、クラッタである。ここでクラッタとは、所定範囲SCAからの光によって受光素子82に生じる信号波形のうち、物標認識における不要なものを指す。受光素子82には、発光信号LDFにより発光素子72が射出したレーザ光の検出対象OJTからの反射の光のみならず、背景光なども含めて様々な光が入射する。例えば、降雨時であれば、雨粒によりレーザ光の一部が反射して、これが受光素子82に入射することがある。また、所定範囲SCAに存在する物体に複数回反射した光(迷光)が入射することもある。受光素子82のマイクロSPADは光子一つでもこれを検出する感度を有するから、受光信号は、図3Bに例示したように、検出対象OJTに対するピークが一つだけ存在するという場合(同図(A))もあり得るが、時間軸に沿って複数のピークを有するような波形になる場合(同図(B))もあり得る。
【0029】
図3Bに即して言えば、同図(A)では、受光信号に含まれるエコーは一つ(符号SS0)だが、同図(B)では、受光信号に含まれるエコーは符号SS1からSS5まで、5つ描かれている。後者の場合に、ノイズとして排除するエコーを特定し、検出対象に対応したエコーを特定する処理が必要になる。これがノイズ除去処理である。
【0030】
ノイズ除去処理(ステップS300)には、近傍の雨滴などにより発生するクラッタノイズを除去する第1ノイズ除去処理(ステップS330)と、孤立点ノイズを除去する第2ノイズ除去処理(ステップS340)とが含まれる。第1ノイズ除去処理(ステップS330)と第2ノイズ除去処理(ステップS340)とは、本実施例では続けて実行するものとしたが、それぞれ単独で実施してもよい。いずれの処理も、受光信号の強度と検知距離とから、受光信号に含まれるエコーが検出対象からの反射光によるものか否かを判断している点で共通している。ノイズ除去処理(ステップS300)が開始されると、スキャン処理(ステップS100)により記憶装置50に記憶された所定範囲SCA内の全画素について、以下の処理(ステップS320からS340)を繰り返す(ステップS300sからS300e)。まず、ノイズ判定を行なうか否かの判断を行なう(ステップS320)。対象画素に、上述した2段階閾値判定処理(ステップS120)によってノイズ判定を行なうとされたエコーTSnが含まれていれば、このエコーTSnを対象として、第1ノイズ除去処理(ステップS330)を行ない、その後、第2ノイズ除去処理を行なう。図6Bに示したエコーTS2からTS4のように、検出対象からの反射光であると判断されたものは、第1ノイズ除去処理(ステップS330)を行なわず、第2ノイズ除去処理(ステップS340)を行なう。他方、ノイズ判定を行なうべきエコーがあると判断されると、第1ノイズ除去処理(ステップS330)と第2ノイズ除去処理(ステップS340)とを行なう。なお、ステップS320の判断を行なわず、全てについて、第1ノイズ除去処理(ステップS330)と第2ノイズ除去処理(ステップS340)とを行なうものとしてもよい。
【0031】
(A3)第1ノイズ除去処理:
第1ノイズ除去処理(ステップS330)について、図7を用いて説明する。第1ノイズ除去処理は、近傍の雨滴による反射光などにより生じるクラッタノイズを除去する処理である。この処理が開始されると、まずノイズ判定対象のエコーTSn(nの初期値は1)を特定する(ステップS331)。次に、発光信号LDFが出力されてからエコーTSnのピークが検出されるまでの時間に対応した検知距離LTnが、予め定めた第1距離閾値TL1以下か否かの判断を行なう(ステップS332)。仮にエコーTSnが検出対象からの反射光による信号だとすると、検出対象までの距離である検知距離LTnは、発光信号LDFからエコーのピークまでの時間をtn、光の速度をc/秒として、
LTn=c・tn/2
により求められる。但し、信号処理としては、検知距離に等価である時間(以下、検知時間tnという)により扱ってもよい。
【0032】
ステップS332の判断により、エコーTSnの検知距離LTnが第1距離閾値TL1(例えば、10m程度)以下でない場合には、エコーTSnが遠方であることから、これはノイズであると判定せず、以下の処理を行なわない。他方、エコーTSnの検知距離LTnが第1距離閾値TL1以下であれば(ステップS332:「YES」)、次に着目しているエコーTSnより後方にエコーが存在するか否かを判断する(ステップS333)。後方にエコーがあるとは、例えば、図6Bに示したように、ノイズ判定の対象となった第1エコーTS1よりも時間軸上で後方、つまり物標認識装置10から見て遠方に第2エコーTS2等がある場合を言う。図6Bでは、ノイズ判定の対象となっているのは第1エコーTS1のみだが、仮に、第2エコーTS2が、第1閾値Th1より大きく第2閾値Th2より小さければ、第2エコーTS2がノイズ判定の対象となり、これより後方の第3エコーTS3等が、後方に存在するエコーとして扱われる。
【0033】
ノイズ判定の対象となっているエコーTSnより後方に、ノイズ判定の対象となっていないエコーがあれば(ステップS333:「YES」)、更に、判定対象となっているエコーTSnの検知距離LTnは、第1距離閾値TL1より大きな第2距離閾値TL2より小さいか否かの判断を行なう(ステップS334)。この一連の判断(ステップS332~S334)の結果、ノイズ判定処理の対象となっているエコーTSnの検知距離LTnが第1距離閾値TL1より近くにあり(ステップS332:「YES」)、エコーTSnより後方に更にエコーがあり(ステップS333:「YES」)、かつエコーTSnの検知距離LTnが第2距離閾値TL2より小さい(ステップS334:「YES」)場合には、エコーTSnはノイズであるとして除去する(ステップS338)。
【0034】
他方、ステップS333およびS334の判断のいずれかが「YES」でない場合でも、以下の場合には、エコーTSnはノイズであるとして同様に、ステップS338において、これを除去する。その判断処理は、以下のように行なわれる。すなわち、ノイズ判定処理の対象となっているエコーTSnの検知距離LTnが第1距離閾値TL1より近くにある場合で(ステップS332:「YES」)、エコーTSnより後方に更にエコーがない(ステップS333:「NO」)場合には、ノイズ判定閾値TRに小閾値TrSを設定し(ステップS350)、他方、エコーTSnより後方に更にエコーがあっても(ステップS333:「YES」)エコーTSnの検知距離LTnが第2距離閾値TL2より小さくない(ステップS334:「NO」)場合には、ノイズ判定閾値TRに小閾値TrSより大きな大閾値TrLを設定する(ステップS360)。その上で、ノイズ判断の対処となっているエコーTSnのピーク強度RTnが、ノイズ判定閾値TR以下か否かの判定を行ない(ステップS337)、着目しているエコーTSnのピーク強度RTnがノイズ判定閾値TR以下であれば(ステップS337:「YES」)、このエコーTSnをノイズとして除去するのである(ステップS338)。この判断に用いられる大閾値TrLおよび小閾値TrSの決定方法については、後で詳しく説明する。
【0035】
上記以外の場合、つまり、エコーTSnの検知距離LTnが第1距離閾値TL1以内ではない場合(ステップS332:「NO」)、または着目しているエコーTSnのピーク強度RTnがノイズ判定閾値TR以下でない場合(ステップS337:「NO」)には、エコーTSnはノイズと判定できなかったとして、ステップS339に移行する。ステップS339において、抽出したエコーTSnについての判断が全て完了していなければ、ステップS331に戻って上述した処理(ステップS331からS338)を繰り返し、抽出したエコーTSnについての判断が全て完了していれば、本ノイズ除去処理を終了する。
【0036】
以上説明した処理は、雨滴による反射光に拠って生じたエコーTSnなどをクラッタノイズであると判定し、黒色車両など、検出すべき検出対象からの反射光によって生じたエコーTSnをノイズではないと判断する。これは、雨滴等による反射光と検出対象による反射光とが、以下に説明する特徴を持っていることを利用している。上記の処理で用いられた第1距離閾値TL1、第2距離閾値TL2、小閾値TrS、大閾値TrLは、この反射光の特徴に基づいて設定されている。図8は、物標認識装置10、つまり車両100からの距離LTと受光信号の信号強度RTとの関係を示す説明図である。図8に示したグラフRNav、RNav+σ、RNav+2σ、RNav+3σは、ノイズ除去処理において除こうとしているノイズの原因となっている雨滴による反射信号の分布の範囲を示す。また、グラフBCav、BCav-σ、BCav-2σは、ノイズではなく夜間の目視による検出が困難な場合があり得る検出対象の一例である黒色の車両からの反射信号の分布の範囲を示す。
【0037】
ここで、各グラフにおける「σ」とは、雨滴または黒色車両からの反射光の強度分布における標準偏差である。雨滴による反射光の強度は、雨滴の大きさや発光素子72から射出されたレーザ光と雨滴との位置関係などにより、雨滴までの距離が一定であっても均一なものとはならず、バラつくが、統計的には、一定の範囲の分布として捉えることができる。グラフRNavは、雨滴からの反射光強度が平均値までの反射光が分布している範囲の上限を示す。同様に、グラフRNav+3σは、標準偏差σの3倍まで反射光の分布範囲の上限を示す。換言すれば、雨滴による反射光の分布が正規分布であれば、反射光の強度がグラフRNav+σを上限とする範囲に収まる確率は約67%、グラフRNav+2σを上限とする範囲に収まる確率は約95%、グラフRNav+3σを上限とする範囲に収まる確率は約99.7%、であると言える。
【0038】
黒色車両などの検出対象による反射光の強度も、統計的に見て、一定の範囲の分布として捉えられるが、検出対象は検出したい対象なので、反射光の強度が弱い側の分布を考量する必要がある。黒色車両などの検出対象からの反射光が弱くてもこれを正しく検出するために、検出対象からの反射光のうち信号強度の低い反射光がどのような分布を取るかを検討した。図8におけるグラフBCavは、検出対象からの反射光強度が平均値までの反射光が分布している範囲の下限を示す。同様に、グラフBCav+2σは、反射光の強度が低い方の標準偏差σの2倍まで反射光の分布範囲の下限を示す。換言すれば、検出対象による反射光の分布が正規分布であれば、反射光の強度がグラフBCav+σを下限とする範囲に収まる確率は約67%、グラフBCav+2σを下限とする範囲に収まる確率は約95%、であると言える。図8には示していないが、仮にグラフBCav+3σを下限とする範囲を考えれば、検出対象からの反射光の強度がこの範囲に収まる確率は約99.7%、であると言える。
【0039】
雨滴による反射光のようにノイズとして除きたい信号は、雨滴からの反射光のバラツキのうち、信号強度の高い側の分布を考慮し、他方、黒色車両のように、検出対象として扱いたい信号は、信号強度の低い側の分布を考慮し、両者を分離できる条件を検討した。図8に例示したように、ノイズとして判定すべき雨滴による反射光の強度分布は、車両100からの距離LTが大きくなるのに従って急激にその出現範囲が狭くなり、ある距離以上ではほぼ一定の信号強度RT以下になる。他方、ノイズと判定すべきでない検出対象からの反射光の信号強度RTは、車両100からの距離LTが小さくなるほど、その出現範囲は信号強度RTの高い側に分布範囲を広げる。そこで、第1距離閾値TL1と第2距離閾値TL2とは、図示するように、雨滴による反射によって生じる受光信号の強度の分布範囲と、検出対象による反射によって生じる強度信号の分布範囲とを、信号強度RTの大きさで区別可能な範囲の上限の距離と下限の距離として設定される。一例を挙げれば、第2距離閾値TL2は2~4m程度、第1距離閾値TL1は8~10m程度が想定でき、実験やシミュレーションにより決定すればよい。他方、小閾値TrSと大閾値TrLとは、雨滴による反射によって生じる強度信号の分布範囲と、検出対象による反射によって生じる強度信号の分布範囲とを区別する閾値であって、後方にエコーTSnが存在する場合には、雨滴による反射光によって生じるエコーTSnをノイズと確実に判定するよう、大閾値TrLが、距離LTが第2閾値Th2から第1閾値Th1までの間で、グラフRNav+3σより高い値となるよう設定される。また、後方にエコーTSnが存在しない場合には、そのエコーTSnを誤ってノイズと判定しにくくするように、小閾値TrSが、距離LTが第2閾値Th2から第1閾値Th1までの間で、グラフRNav+3σと同程度の値となるよう設定される。一例として、
・条件1:着目したエコーTSnが第2距離閾値TL2より近くにありかつ後方にエコーがない場合や、着目したエコーTSnが第2距離閾値TL2から第1距離閾値TL1までの間にあり、かつ後方にエコーがない場合、
小閾値TrSを、雨滴による信号の分布RNav+2σと、黒色車両からの信号の分布BCav-2σとから両者を区別可能な大きさに決定し、
・条件2:着目したエコーTSnが第2距離閾値TL2から第1距離閾値TL1までの間にあり、かつ後方にエコーがある場合、
大閾値TrLを、雨滴による信号の分布RNav+3σと、黒色車両からの信号の分布BCav-2σとから、両者を区別可能な大きさに決定する。
【0040】
この結果、エコーTSnは以下のように判断される。
[1]車両100からの距離が、第1距離閾値TL1(例ば10m)以上であれば、そのエコーTSnはノイズであるとは言えないと判定して除去せず(ステップS332)、
[2]車両100からの距離が、第1距離閾値TL1より小さく第2距離閾値TL2以上である場合には、後方にエコーがあるか否かにより異なる閾値(小閾値TrSまたは大閾値TrL)と比較して、閾値より小さければ、ノイズと判定して除去し(ステップS332からS338)、閾値より大きければノイズであるとは言えないと判定して除去せず(ステップS332からS337)、
[3]後方にエコーがあり、車両100からの距離が、第2距離閾値TL2未満であれば、エコーTSnはノイズであると判定して除去(ステップS332,S333,S334,S338)、
[4]後方にエコーがなく、車両100からの距離が、第2距離閾値TL2未満であれば、小閾値TrSと比較して(ステップS332,S333,S335,S337)、閾値より小さければ、ノイズと判定して除去し(ステップS338)、小閾値TrSより大きければノイズであるとは言えないと判定して除去しない(ステップS337,S339)。
【0041】
この結果、車両100近傍(第2閾値Th2以内)の雨滴からの反射光は後方にエコーがなければノイズとして除去され、後方にエコーがあれば小閾値TrSの大小によりノイズとして除去されるか否かが決まり、車両100から所定距離だけ隔たった範囲(第2閾値Th2から第1閾値Th1まで)からのエコーTSnは、小閾値TrSと大閾値TrLとにより、ノイズか検出対象からの反射光か正しく弁別される。なお、上記実施形態では、小閾値TrSや大閾値TrLは、車両100からの距離LTによらず一定としたが、図9に示すように、距離LTが増加するにつれて漸減する値として設定してもよい。雨滴による反射強度は、第2閾値Th2以上では検出対象からの反射強度と区別可能な程度に小さくなっているものの、距離LTに応じて低下する傾向にあるからである。こうすれば、エコーTSnに対応する検知距離LTnが第2閾値Th2以上第1閾値Th1未満でのノイズの弁別精度を一層高くすることができる。なお、図示は省略したが、降雨時でなければ、第2距離閾値TL2以下の領域の反射光の分布は、第2距離閾値TL2から第1距離閾値TL1までの間の分布と大きな差はなく、ノイズの分布は強度が高い側に僅かに広がる程度である。従って、降雨時でない場合は、クラッタノイズはほとんど生じず、上述したアルゴリズム(図7)によりノイズは除去できる。上記の判断では、小閾値TrSや大閾値TrLは、雨滴からの反射光の強度分布や黒色車両からの反射光の強度分布に基づいて決定している。いずれの反射光による信号も所定の確率でそれぞれの分布範囲に入るとされており、現実には例外的に大きな反射信号が雨滴からもたらされる場合があり得る。そうした例外的に大きな強度のエコーがある場合には、図7に示した判断では、ノイズとは言えないと判断される場合があるが、こうしたエコーは、孤立点になるので、以下に説明する第2ノイズ除去処理より、ノイズとして除かれる。
【0042】
(A4)第2ノイズ除去処理:
次に、第1ノイズ除去処理(図4、ステップS330)に続いて行なわれる第2ノイズ除去処理(ステップS340)について説明する。第2ノイズ除去処理は、エコーTSnが孤立点からのものである場合、これをノイズとして除去する処理である。なお、エコーTSnが第1ノイズ除去処理の対象でないとされた場合(ステップS320:「NO」)や、図7に例示した第1ノイズ除去処理で、第1閾値Th1より遠くからのエコーTSnであると判断されて検出対象からの反射光によるものとして扱われた場合(ステップS332:「NO」)でも、この第2ノイズ除去処理(ステップS340)により、孤立点であると判定されればノイズとして除去される。第2ノイズ除去処理により孤立点でないと判断されれば、最終的に物標からの反射光として扱われる。
【0043】
第2ノイズ除去処理の一例を、図10のフローチャートを用いて説明する。第2ノイズ除去処理では、物標認識装置10がスキャンする所定範囲SCAの左上を原点として、所定範囲SCAに属する全ての画素について、順次、以下の処理(ステップS410からS490)を行なう。処理の対象となっている画素を対象点N(初期値1)と呼ぶ。この処理が開始されると、まず対象点Nに対応する画素について記憶装置50に記憶されたデータを読み出し、対象点Nに対応する画素からの反射光のピーク強度RTnを特定する(ステップS410)。このピーク強度RTnは、ノイズであると判定されなかったエコーTSnの信号強度である。
【0044】
次に、この対象点Nの反射光のピーク強度RTnが、第3閾値Th3以下か否かを判定する(ステップS420)。第3閾値Th3は、例えば第2閾値Th2よりは大きく、例え孤立点であっても、意味のある反射光として扱うべきかを判定すべきレベルの閾値として設定されている。エコーTSnのピーク強度RTnが第3閾値Th3以下の場合(ステップS420:「YES」)には、対象点Nが孤立点であるかを判定するとして、以下の処理を行なう。まず、判定している対象である対象点Nまでの検知距離LTnを取得する(ステップS430)。次に、この対象点Nの画素の上下±m画素に対応する近接点を探索する(ステップS440)。
【0045】
画素の上下の近接点とは、図1における所定範囲SCAの上下の意味であり、仮に図11に示すように、路面からの反射光を検出している場合には、車両100から見れば遠近の近接点となる。もとより、トンネルの天井からの反射光を検出している場合は、車両100から見た上下とは、車両100に対して近遠の近接点となる。図11は、対象点Nの近接点として、上下方向に-2、-1、+1、+2の4つの近接点を見いだした例を示す。ステップS440では、上下方向の近接点を探索したが、横方向(図1のX軸方向)の近接点であってもよい。もとより、X軸方向、Z軸方向の一つに限らず、X-Z平面内の任意の方向の近接点を探索しても良い。探索方向は一つに限らず、複数探索しても良い。また、mは、値1でも、値3以上であってもよい。また、対象点から±mでなく、対象点から特定の方向にm個であってもよい。
【0046】
対象点Nの画素の±m個の近接点を探索すると、次に、上下方向に並ぶ対象点および近接点の距離の変化が単調増加または単調減少であるか否かを判断する(ステップS450)。変化が単調であれば(ステップS450:「YES」)、距離閾値ΔLhに、第1距離閾値LLを設定し(ステップS460)、変化が単調でなければ(ステップS450:「NO」)、距離閾値ΔLhに、第1距離閾値より小さな第2距離閾値LSを設定する(ステップS465)。この距離閾値ΔLhは、続いて行なわれる所定の近接点のカウント処理(ステップS600)において参照される。
【0047】
所定の近接点のカウント処理(ステップS600)の詳細を、図12のフローチャートを用いて説明する。この処理は、カウンタCNTの値を値0に初期化した後(ステップS605)、近接点を示す変数mをデクリメントしながら、処理をm-1回繰り返す(ステップS610sからS610e)。本実施例では、m=2、1、-1、-2だけステップS620からS640までの処理を繰り返す。まず、対象点Nと近接点N+mとの距離差DLmを演算する(ステップS620)。図11に、対象点Nと近接点N+1までの距離差DLmを例示した。次にこの距離差DLmが、先の処理(ステップS460またはS465)で設定した距離閾値ΔLh以下か否かを判断し(ステップS630)、距離差DLmが距離閾値ΔLh以下であれば、両者は近接しているとして、カウンタCNTを値1だけインクリメントする(ステップS640)。距離差DLmが距離閾値ΔLhより大きければ、カウンタCNTのインクリメントは行なわない。
【0048】
上記処理を、変数mを変えて繰り返し、全ての変数mについての判断とカウンタをインクリメントする/しないの処理とを行なった後、「NEXT」に抜けて、本処理ルーチンを終了する。その上で、図10に示した第2ノイズ除去処理に戻って、カウンタCNTの値が、予め定めた点数閾値Thc以下か否かを判断し(ステップS470)、カウンタCNTの値が点数閾値Thc以下ならば、対象点Nをノイズとして除去する(ステップS480)。他方、カウンタCNTの値が点数閾値Thcより大きければ(ステップS470:「NO」)、対象点Nはノイズとは判断できないとして、何も行なわない。
【0049】
エコーTSnのピーク強度RTnが、第3閾値Th3以上と判断された場合(ステップS420:「YES」)の他、対象点をノイズとして除去した場合(ステップS480)やカウンタCNTの値が点数閾値Thcより大きい場合(ステップS470:「NO」)には、ステップS490に移行し、所定範囲SCAの画素全てについて孤立点除去を行なう第2ノイズ除去処理が完了したかを判断し(ステップS490)、処理が完了するまで、上述したステップS410からS490までの処理を繰り返す。全ての画素について、第2ノイズ除去処理が完了すれば、「NEXT」に抜けて処理を終了する。
【0050】
こうすることで、対象点Nの近傍に存在する近接点までの距離が単調増加または単調減少していれば、近接点までの距離差が大きくても、これを近接点としてカウントし、他方、対象点Nの近傍に存在する近接点までの距離が単調増加または単調減少していなければ、近接点までの距離差が小さいものだけを近接点としてカウントする。この結果、孤立点の判断において、路面や壁など、所定方向に継続する点の連続となりやすい物標の存在を考慮することが可能となる。なお、上記ステップS470における判断に用いる点数閾値Thcは、一律の値としてもよいし、距離に応じた値としてもよい。距離に応じた値とは、対象点Nまでの距離が大きくなるほど小さな値にすることが考えられる。点数閾値は距離の関数としてもよいし、予め定めた距離の前後で2段階や3段階など複数の段階に切り換えものとしてもよい。点数閾値の大きさは、全点(m=2ならば、2・m)としても良いし、その8割程度の値としてもよい。
【0051】
その後、ノイズであるとして除去されたものを除き、反射光があるとされた点について、図4に示した物標認識処理(ステップS500)を行なう。物標認識処理では、まず各対象点Nにおける反射光の検出タイミングにより、対象点Nまでの検知距離LTnを演算し、あるいは既に演算し記憶装置50記憶されていればこれを読み出し、対象点Nまでの距離から、検出対象OJTを認識する。具体的には、ノイズが除かれた検出点とこれに近接している近接点とを用いて、路面の抽出や、白線の認識、あるいはターゲットのクラスタリングやトラッキングなどの物標認識を行なう。
【0052】
以上説明した第1実施形態のノイズ除去装置30によれば、雨滴や塵埃などによって生じるクラッタノイズを、エコーの強度と検知距離とを用いて、除去できる。また、周辺の点とは検知距離が異なる孤立点を単に除去するのではなく、特定の配列関係にある点はこれをノイズとしないので、物標でない孤立点はノイズとして除去しつつ、白線などは除去しないといった柔軟な判断を行なうことができる。この結果、降雨時の雨滴と黒塗りの車両などの検出対象OJTとを区別でき、検出対象OJTを見落とすといった可能性を低減できる。
【0053】
B.第2実施形態:
第2実施形態のノイズ除去装置30を備えた物標認識装置10Aの概略構成を図13に示した。図示するように、この物標認識装置10Aは、第1実施形態の物標認識装置10とほぼ同様の構成を備え、ノイズ除去装置30Aの内部処理が相違する点、その処理のために環境条件を検出する各種センサを備える点、更に受光部80の較正を行なうための較正部を備える点で相違している。
【0054】
第2実施形態では、CPU20の内部に、条件設定部121が設けられている。これに条件設定部121は、ノイズ除去装置30Aなどと同様に、CPU20が後述するプログラムを実行することにより実現される。条件設定部121、環境条件を検出するための照度センサ111、気象センサ112、時刻検出器113などが接続されている。照度センサ111は、物標認識装置10Aの環境の明るさ(照度)を検出する。照度は、アナログ値として検出してもよいし、「明るい」「薄暗い」「暗い」「真っ暗」などの複数段階を示す指標として検出してもよい。
【0055】
気象センサ112は、「晴れ」、「曇り」、「雨」などの気象条件を検出するセンサである。気象センサ112は、照度や雨滴検出などのセンサを組み合わせて実現してもよいし、地域の気象状態を検出し求めに応じて提供するサイトなどと無線通信により接続し、気象条件を取得するようにしてもよい。時刻検出器113は、リアルタイムクロックなどにより容易に実現できるが、外部の基準クロック、例えばGPSに含まれる時刻情報を取得する構成や電波時計から時刻を取得する構成、等でもよい。
【0056】
実施形態では、これらの3つのセンサが設けられているものとして、以下説明するが、センサは一つでも良いし、二つでよい。また、車両100が置かれた環境を検出する他のセンサ、例えば湿度センサや風速センサ、降雪検出器、霧やガスの検出器、路面の冠水の状況を反射光などで検出するセンサなど、必要なセンサを設けてもよい。
【0057】
条件設定部121の動作について説明する。図14Aは、条件設定部121が実現する補正係数取得処理ルーチンを示すフローチャートである。後述するように、条件設定部121は、環境条件から補正係数を取得し、この補正係数を用いて、ノイズ除去装置30Aにおけるノイズ除去の判断条件を修正する。
【0058】
図示した補正係数取得処理を開始すると、まず条件設定部121に接続された各種センサ111から113からパラメータを取得する(ステップS710)。パラメータは、照度センサ111あれば照度Bであり、気象センサ112であれば気象情報Mであり、時刻検出器113であれば時刻Tである。パラメータを取得した後、マップを参照して補正係数を取得する処理を行なう(ステップS720)。参照するマップの概念を、図14Bに示した。図示するマップは概念的なものであり、実際のパラメータと補正係数との関係は、実験的あるいは経験的に定めれば良い。
【0059】
この例では、照度M、気象M、時刻Tに対して、複数の補正係数a1,a2,b1,b2,c1,c2が取得される。補正係数の意義と利用の形態について後述するが、全ての補正係数が取得される必要はなく、マップを用いて取得される補正係数は一部でも良い。図示する例では、照度Bが低くなるほど補正係数の値は大きく、照度Bが高くなるほど補正係数の値は小さくなり、気象Mが雨の側に近づくほど補正係数の値は大きく、気象Mが晴れの側に近づくほど補正係数の値は小さくなり、時刻Tが夜(24時間表示で0時)に近づくほど補正係数の値は大きく、時刻Tが昼(24時間表記で12時)に近づくほど補正係数の値は小さくなる。この例では、各パラメータに対する補正係数の値をアナログ的に示したが、補正係数は、パラメータの所定の範囲に対して、一定の値をとるようなマップとしてもよい。なお、複数のパラメータを用いる場合、パラメータに対応して複数の補正係数が得られるが、複数の補正係数のうち一番小さい値を用いるようにすればよい。こうすれば最も影響の強い条件により補正係数を設定できる。もとより、平均値を用いるなどの対応も可能であり、補正係数が3以上の場合には中央値を用いることも可能である。
【0060】
次に、補正係数の適用について説明する。図15は、第1実施形態の図5で示した2段階閾値判定処理に対応する第2実施形態での処理ルーチンを示すフローチャートである。各ステップは、図5に対応しており、接辞aが付いたステップS220a,S240a以外は同一である。ステップS220aでは、第1閾値Th1に補正係数a1が乗じられており、ステップS240aでは、第2閾値Th2に補正係数a2が乗じられている点で、第1実施形態と異なっている。このため、例えば照度Bが高い場合や気象Mが晴れである場合、あるいは時刻Tが昼である場合には、補正係数はa1,a2は値1.0より小さな値となる。この結果、信号強度RTのエコーをノイズ判定の対象として扱う(ステップS260)と判断する信号強度の範囲(図6B参照)は低い強度範囲に設定される。なお、補正係数a1,a2は同一の値である必要はなく、設定される信号強度の範囲(Th1~Th2)は、広くすることも可能であるし、狭くすることも可能である。あるいは、補正係数a1,a2は、いずれか一方のみを照度B等により定め、他方は固定値のままとしてもよい。いずれにせよ、ノイズ判定の対象として扱うか否かの範囲を、照度B,気象M,時刻Tなどのパラメータにより自由に設定できる。もとより、照度B,気象M,時刻Tのうち、いずれか1つまたは2つを用いて、補正係数a1,a2を設定する様にしてもよい。
【0061】
このようにすれば、2段階閾値によってノイズ判定の対象を絞り込むという第1実施形態と同様の作用効果を奏する上、ノイズ判定処理(ステップS260)により、検出されたエコーをノイズ判定の対象とするか否かの判断を、物標認識装置10Aの置かれた環境に合わせて一層適切に行なうことができる。
【0062】
同様に、第1ノイズ除去処理における第1距離閾値TL1,第2距離閾値TL2や、小閾値TrSや大閾値TrLを、照度B,気象M,時刻Tなどにより補正することも可能である。この例を、図16に示した。図16は、第1実施形態の図7に示した第1ノイズ除去処理に対応する第2実施形態での処理ルーチンを示すフローチャートである。各ステップは、図7に対応しており、接辞bが付いたステップS332b,S334b,S335b,S336b以外は同一である。ステップS332bでは、第1距離閾値TL1に補正係数b1が乗じられており、ステップS334bでは、第2距離閾値TL2に補正係数b2が乗じられており、ステップS335bでは、小閾値TrSに補正係数c1が乗じられており、ステップS336bでは、大閾値TrSに補正係数c2が乗じられている点で、第1実施形態と異なっている。
【0063】
これらの補正係数b1,b2,c1,c2が、照度B,気象M,時刻Tなどパラメータにより設定されることは、2段階閾値判定処理(図15)における補正係数a1,a2と同様である。また、全ての補正係数を設定する必要がないことや、照度B,気象M,時刻Tのいずれを用いるか、複数用いる場合の設定の仕方、照度B等のパラメータと補正係数b1等のとの大小関係などについても、2段階閾値判定処理(図15)の場合と同様に、多様な設定が可能である。
【0064】
図16に示した処理によりノイズ判定がどのように行なわれるかの一例を、図17に示した。図における上段は雨天の場合を示し、下段は晴天の場合を示す。補正係数b1は、図14Bに示したテーブルでは、雨天の場合には値1.0に近い値に設定され、晴天の場合にはこれより小さな値に設定される。このため、ステップS332bで判定に用いられる閾値b1×TL1は、雨天の場合には図示破線rr1に、晴天の場合はこれより低い図示破線ss1に、それぞれ設定される。この結果、信号に、大きい順にエコーTSS2、TSS3、TSS1が含まれているケースを想定すると、雨天では、閾値が高く設定されるので、雨滴によるクラッタノイズTSS3は除かれ、晴天では、閾値が相対的に低く設定されるので、物標からのエコーTSS3が検出され得る。
【0065】
このように、第1ノイズ除去処理における第1距離閾値TL1,第2距離閾値TL2や、小閾値TrSや大閾値TrLを、照度B,気象M,時刻Tなどをパラメータとして、図14Bに一例を示したテーブル2より補正すれば、物標認識装置10Aの置かれた環境に応じて、第1実施形態と同様の作用効果を奏する上、更に、一層適切なノイズ除去を行なうことが可能となる。
【0066】
C.第3実施形態:
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態の物標認識装置10Bは、図18に示すように、車両100B内に設けられる。この物標認識装置10Bは、第1実施形態の物標認識装置10と同様の構成を備え、較正部130と指示部131とを備える点、およびノイズ除去装置30Bでの処理に、後述する較正処理が含まれる点で相違している。この実施形態では、指示部131が利用者の指示を受けて、較正処理の実施の指示を出力すると、較正部130がノイズ除去装置30Bに較正処理を実施させ、この較正処理のために、入出力インターフェース60を解して、発光部70を駆動する。以下、較正処理について説明する。
【0067】
図19は、ノイズレベル較正処理ルーチンを示すフローチャートである。この処理は、所定以上の強度のエコーが存在する場合、つまり信号がノイズでないと判断を行なう際の判断条件を、ノイズ除去装置において信号を計測する計測部、ここでは受光部80の特性により設定するものである。図示する処理の実施に先立って、車両100Bの利用者は、車両100を車庫など、較正板CALが接地されている場所に駐車する。較正板CALは、発光部70および受光部80の特性を較正するためのものであり、反射率の高い色、例えば白色に均一に塗られた板である。車両100Bの利用者は、こうした較正板CALを駐車上の書面の壁などに設けている。
【0068】
図示するノイズレベル較正処理が開始されると、まず、較正指示が入力されたか否かの判断を行なう(ステップS751)。利用者が、指示部131を操作すると、ノイズ除去装置30Bは、較正指示が入力されたと判断し、計測処理を実行する(ステップS752)。具体的には、発光部70を用いて計測可能な範囲にレーザパルスを出力し、計測部31が、受光部80を用いて反射光の検出を行なう。車両100B正面がCALに相対する位置に停車した上で、指示部131が操作され、計測処理が行なわれると、受光部80が受光する光は、均一な白色の較正板CALからの反射光なので、一定の距離からのものとなる。
【0069】
そこで、この点に着目し、較正板CALらの反射光を検出しているかを判断する(ステップS753)。検出した対象物が均一な距離からのものであれば、較正板CALあると判断し、均一な距離からのものでなければ、較正板CALでないと判断する。較正板CALであると判断した場合は、全領域のスキャンを行なう(ステップS754)。較正板CALからの反射光を検出している場合には、均一な距離の均一な白色による全反射を検出しているので、発光部70からの発光されるレーザ光パルスの強度が、スキャン位置によらず一定であり、受光部80による受光の感度が受光位置によらず一定であれば、均一な画像が得られるはずである。こうした理想的な条件で得られた画像を、図20の上段に示した。
【0070】
他方、現実に得られる画像は、同図下段のように、ムラのある画像である。これは、発光部70からの発光されるレーザ光パルスの強度が、スキャン位置によって均一ではなく、受光部80による受光の感度が受光位置によって異なっていることがあるからである。これは、雨滴などによるものではなく、ハードウェアにより生じるクラッタであり、計測の都度異なることはなく、再現性を有する。また、出荷時にこうしたクラッタがないように受光素子毎の感度を調整したとしても、経年変化などにより、生じることがある。そこで、次にクラッタの内容を判別し、ハードウェアにより生じるクラッタであるか否かを判別し(ステップS760)、ハードウェアにより生じるクラッタであると判断した場合には(ステップS755:「YES」)、較正値CRTnを設定し(ステップS756)、本ルーチンを終了する。
【0071】
較正値CRTnは、スキャン位置に対応して設定される閾値であり、反射光のピーク強度RTnを求める際、受光部80が検出したエコーTSnのピーク強度RTnから較正値CRTn分を差し引きするのに用いられる。2段階閾値判定処理(図5図15)や第1ノイズ除去処理(図7図16)、更には第2ノイズ除去処理(図10)におけるエコーTSnのピーク強度RTnは、受光部80が検出したピーク強度RTnから較正値CRTnを差し引いた値である。
【0072】
こうすることで、受光部80などに生じたハードウェア上の感度のムラなどにより生じるクラッタの影響を除去、もしくは軽減できる。こうした較正処理は、車両100Bや物標認識装置10Bの工場出荷時に行なうものとしてもよいし、車検などの際に行なうものとしてもよい。また、較正板CALを付属品として提供し、利用者が駐車上に較正板CALを設置して、定期的にあるいは任意のタイミングで較正処理を行なうものとしてもよい。
【0073】
上記の実施形態では、クラッタの発生箇所を検出して、その影響を低減するように、較正値CRTnを設定したが、発光部70や受光部80の特性として、例えば計測範囲の左右端近傍での発光部70の発光強度が低いことが分かっていれば、計測することなく、計測範囲の左右端近傍での較正値CRTnを小さな値として、あるいはマイナスの値として設定するようにしてもよい。こうすれば計測範囲の左右端近傍での検出感度の低下を解消できる。こうした修正は、左右端近傍に限るものではなく、発光部70や受光部80の特性上必要な箇所において行なえばよい。また、上記実施継体では、感度の修正は、較正値CRTnの値を設定し、これを検出したエコーTSnのピーク強度RTnから差し引きして行なっているが、エコーを検出する際に比較する第1,第2閾値Th1,Th2を、クラッタの強度に応じて、あるいは計測範囲の場所に応じて、修正するようにしてもよい。
【0074】
D:第4実施形態:
次に第4実施形態について説明する。第4実施形態の物標認識装置10やノイズ除去装置30は、第1実施形態と同様のハードウェア構成を備え、ノイズ除去装置30が行なう処理の一部のみが相違する。第1実施形態では、2段階閾値判定処理(図5)により、受光信号に含まれるエコーTSnに対し、これを、ノイズではなく物標からの反射信号として扱うか(ステップS250)、ノイズであるか否かの判定の対象とするか(ステップS260)、を判断している。第4実施形態では、ノイズであるか否かの判定の対象とするエコーTSnを減らすために、以下の処理を付加的に行なう。
【0075】
ノイズ除去装置30が付加的に行なうノイズ判定処理ルーチンを、図21のフローチャートに示した。図21示した処理は、図5におけるステップS260の処理、つまり「ノイズ判定の対象として扱う」という処理の内容に対応している。図5に示したように、2段階閾値判定処理により、ピーク強度RTnが第1閾値Th1より大きく第2閾値Th2より小さいエコーTSnについてはノイズ判定の対象とすると判断するが(ステップS260)、更に詳細には、図21に示すように、ノイズ判定の対象であることを確認した上で(ステップS261:「YES」)、ノイズ除去装置30は、受光部80からの信号の読み出し範囲、つまりエコーTSnの検出対象領域ROIを狭くする処理を行なう(ステップS262)。検出対象領域ROIを狭くする処理は、本実施形態では、ノイズ除去装置30の計測部31が受光部80から受光信号を読み出す範囲を狭くすることによって行なっている。なお、検出対象領域ROIを狭くする処理は、発光部70と受光部80とを直接ハードウェアにより制御して実現することも可能である。
【0076】
検出対象領域ROIを狭くした後で、ノイズ除去装置30は、再度エコーTSnを検出する処理を行なう(ステップS263)。この様子を、図22に示した。酢の上段は、検出対象領域ROIを狭くする以前の通常の状態での検出の一例を模式的に示している。検出対象領域ROIは、受光部80における最大範囲ROI1であり、このとき、検出のダイナミックレンジを広く、ノイズは多い。見かけ上、4つのエコーTSa,TSb,TSc,TSdが存在する。これらのエコーのうち、エコーTSb,TSdは、図5に示した2段階閾値判定処理により、ノイズ判定の対象として扱うとされたエコーである。
【0077】
この判定を受けて、上述したステップS262により検出対象領域ROIを狭い範囲ROI2とし、再度検出を行なうと、図22の下段に示した様に、検出範囲が狭くなったことによりダイナミックレンジが小さくなった結果、エコーTSb,TSdは消失した。こうした場合には、ステップS264での判断は、「YES」、つまり、ノイズは消失したと判断できるから、ノイズはないと判断する(ステップS265)。他方、ノイズが消失していなければ、エコーTSb,TSdは、ノイズの可能性があると判定する(ステップS266)。その後、検出対象領域ROIを元に戻す処理を行ない(ステップS267)、本ルーチンを終了する。
【0078】
以上説明した第4実施形態では、エコーを検出する際の検出対象領域ROIの広さを広狭に切り換え、ダイナミックレンジを大または小に切り換えることで、広い検出対象領域ROIとノイズ除去とを共に実現できる。この結果、ノイズか否かの判定を行なう対象を低減でき、処理に要する時間を短縮できる。
【0079】
本実施形態では、2段階閾値判定処理の後で、ノイズ判定を行なうべきエコーが見つかったときに、検出対象領域ROIを狭い範囲に切り換えて、ノイズであればこれを取り除いているが、検出対象領域ROIを狭くすることによるノイズ除去を2段階判定の前に行なうものとしてもよい。また、計測の度に検出対象領域ROIの広狭を切り換え、検出対象領域ROIが広い場合と狭い場合の検出とをペアで行ない、ノイズの削減と広い検出対象領域ROIとの両立を図ってもよい。なお、上記の点を除いて、本実施形態の物標認識装置10やノイズ除去装置30は、第1実施継体と同様の作用効果を奏する。
【0080】
E.他の実施形態:
(1)光の反射を用いて検出対象を認識する際に生じるノイズを除去するノイズ除去装置として、以下の実施形態も可能である。このノイズ除去装置は、所定の範囲に向けて射出された光の射出方向に対応する方向から到達する到達光の強度を、前記光の射出からの経過時間に沿って計測する計測部と、前記計測した到達光に、所定以上の強度のエコーが存在する場合、前記エコーの強度と前記経過時間に対応する距離である検知距離とを用いて、前記エコーが、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものであるか否かを判断する判断部と、前記検出対象によって反射されたものでないと判断された前記エコーをノイズとして除去する除去部とを備える。こうすれば、エコーの強度と経過時間に対応する距離である検知距離とを用いて判断するので、単に強度が弱いものをノイズと判断するといったことがなく、ノイズ除去の精度を高めることができる。ここで、処理としては、検知距離を用いる代わりに、検知距離と等価な経過時間を用いて判断してもよい。エコーの強度と経過時間に対応する距離である検知距離とを用いて、エコーが、所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものであるか否かを判断する場合、エコーの強度と検知距離とを組み合わせた判定を行なってノイズか否かを判断するようにしてもよいし、両者を予めマッピングしておき、エコーの強度と検知距離とによりマップを参照して、ノイズか否かを判断するようにしてもよい。
【0081】
この装置は、ノイズ除去に単独で利用してもよいが、ノイズを除去した後の信号を物標認識装置に出力し、物標認識に利用してもよい。所定範囲へ照射する光は、レーザ光であってもよく、発光ダイオードなどからの赤外光であってもよい。所定範囲に対する照射は、点光源からの光を所定範囲に亘ってスキャンしてもよく、スキャンは2次元方向に行なってもよい。また、光を射出する発光部を一方向に複数配列し、この方向とは交叉する方向に一次元的にスキャンして、所定の範囲のから到達する到達光の強度を検出してもよい。更に、発光部を2次元的に多数配列し、一度の照射で、所定範囲からの到達光を検出するようにしてもよい。
【0082】
(2)こうした構成において、前記判断部は、前記計測部が計測した前記到達光に、前記エコーとして第1エコーとこれより前記経過時間の長い第2エコーとが含まれており、前記第1エコーが、予め定めた第1距離範囲内からのものである場合には、前記第1エコーは前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものでないと判断するものとしてよい。こうすれば、一つの到達光に複数のエコーが含まれており、そのうちの第1エコーとこれより経過時間の長い第2エコーとについて、第1エコーが、予め定めた第1距離範囲内からのものである場合には、第1エコーは所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものでないと判断することができる。一つの射出方向に対応する方向からの到達光に複数のエコーが含まれている場合、雨滴などよる反射と雨滴を通過した光の反射とが想定されるので、近い側のエコーである第1エコーが、予め定めた第1距離範囲内からのものであれば、第1エコーを、ノイズと判定するのである。第1距離範囲としては、このノイズ除去装置の使用される場所により一律ではないが、例えば車両に搭載した場合には、数メートルの範囲とすることができる。もとより、レーダドームなどの設置し、遠距離の検出対象の検出に利用する場合は、10メートル程度の範囲、あるいはそれ以上の範囲としてもよい。なお、第1エコーは、複数のエコーのうちの最初のものに限る必要はなく、仮にエコーが3個以上あれば、2番目のエコーを第1エコー、3番目のエコーを第2エコーとして、上記の判断を行なってもよい。これは以下の構成においても同様である。
【0083】
(3)上記(1)または(2)の構成において、前記判断部は、前記計測部が前記到達光に含まれる前記エコーとして、第1エコーとこれより前記経過時間の長い第2エコーとを検出した場合には、前記第1エコーの強度を予め定めた第1の値の強度閾値と比較し、前記計測部が前記到達光に含まれる前記エコーとして、第1エコーより前記経過時間の長い第2エコーを検出しなかった場合には、前記第1エコーの強度を、前記第1の値より小さな第2の値の強度閾値と比較し、前記第1エコーの強度が、前記強度閾値より小さい場合には、前記第1エコーを前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものでないと判断するものとしてよい。こうすれば、第1エコーの後方に第2エコーがあるかないかにより、第1エコーの強度を比較する強度閾値の大きさを変えるので、第1エコーが検出対象によって反射されたものでないとの判断の精度を向上できる。後方に第2エコーがあれば、第1エコーは雨滴などによる反射光によるものである可能性が高いので、第1エコーの強度を、後方にエコーがない場合に強度閾値に設定される第2の値より大きな第1の値と比較することで、検出対象からの反射光でないと判定できる可能性が高められるからである。強度閾値に設定され第1の値と第2の値とは、予め設定した値であってもよいし、第2の値は第1の値の80%のように割合で決めてもよい。また、背景光などの強度に対応して変化させてもよい。
【0084】
(4)上記(1)から(3)の構成において、前記計測部は、前記エコーとして、前記所定の範囲のうちの一点である対象点からの前記到達光に含まれるエコーと、前記対象点に近接する少なくとも二つの近接点からの前記到達光に含まれるエコーとを検出し、前記判断部は、前記対象点からの前記到達光に含まれるエコーの前記経過時間と前記近接点における前記到達光に含まれるエコーの前記経過時間との差に対応する距離差が予め定めた距離閾値以下の前記近接点の数である近接点数が、予め定めた点数閾値以下の場合には、前記対象点からの前記到達光に含まれるエコーは、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものでないと判断するものとしてよい。こうすれば、着目した対象点が孤立点であるか、近接点を含む何らかの検出対象からの到達光であって、孤立点でないかを精度よく判別できる。もとより、対象点が孤立点か否かは他の手法で判断とてもよい。例えば、対象点の検知距離の変化と近接点の検知距離の変化とが同期しているか否かにより判断してもよい。あるいは対象点や近接点からの到達光の強度の比率と、検知距離の比率との間に一定の関係があるか否かにより判断してもよい。
【0085】
(5)上記(4)構成において、前記対象点および前記近接点は所定の方向に並んでおり、前記所定の方向は鉛直方向の成分および水平方向の成分のうち、少なくとも一方を含むものとしてよい。こうすれば、対象点や近接点が、鉛直方向や水平方向の成分を含む場合、これを検出対象に属するものとして容易に判別できる。こうした検出対象として、例えば、路面や壁、あるいは道路上の白線や段差、ガードレールなどを想定できる。所定の方向に含まれる成分は、鉛直方向、水平方向の成分のいずれか一方でも良いし、両方でもよい。
【0086】
(6)上記(4)または(5)の構成において、前記判断部は、前記対象点および前記近接点が、所定の方向に沿って順に並んだ状態で、前記対象点および前記近接点からの前記到達光のそれぞれに含まれる前記エコーの前記経過時間に対応する前記検知距離のそれぞれが、この順に単調増加または単調減少である第1条件が満たされている場合に前記近接点数を求めるために前記距離差と比較する前記距離閾値を第1距離閾値とし、前記第1条件が満たされる場合以外では、前記近接点数を求めるために前記距離差と比較する前記距離閾値を、前記第1距離閾値より小さな第2距離閾値とするものとしてよい。こうすれば、上述した白線などの線状の検出対象上の対象点を、近接点が対象点に対して一方向に並んでいない場合よりも容易に孤立点でないと判断できる。
【0087】
(7)上記(4)から(6)の構成において、前記経過時間に対応する前記検知距離の短長に応じて、前記点数閾値を少なくとも2段階に増減するものとしてよい。こうすれば、対象点が遠い場合、点数閾値を低減するので、対象点が遠い場合でも、孤立点でないと判断しやすくなる。こうした点数閾値は、予め2段階以上の値を設定しておき、設定値の間で切り替えてもよいし、所定の比率により増減するものとしてもよい。
【0088】
(8)上述した第1実施形態では、図10のフローチャートに示したように、対象点や近接点までの検知距離が単調増加または単調減少であるか否かにより、距離閾値ΔLhに第1距離閾値LLまたは第2距離閾値LSを設定し(ステップS450からS465)、その上で、距離差DLmが距離閾値ΔLhより小さい点の数をカウントして(図12)、対象点がノイズ判定の対象とするか否かを判断した(図10、ステップS470)。これに対して、以下のように、近接点数に関する判断を、単調増加または単調減少であるとの判断より、優先して行なうものとしてもよい。すなわち、判断部は、前記所定の範囲のうちの一点である前記対象点を順次変更して、前記近接点数が前記点数閾値以下であるか否かの判断を行ない、前記判断によって、前記所定の範囲のうちの他の対象点について、前記近接点数が前記点数閾値以下であると既に判断していても、前記対象点および前記近接点が、所定の方向に沿って順に並んだ状態で、前記対象点および前記近接点からの前記到達光のそれぞれに含まれる前記エコーの前記経過時間に対応する前記検知距離のそれぞれが、この順に単調増加または単調減少である場合には、前記他の対象点からの前記到達光に含まれるエコーは、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものであると判断するものとしてもよい。図10に即して説明すれば、ステップS450の判断をステップS470の後に移動して行ない、対象点および近接点の検知距離がこの順に単調増加または単調減少であれば、ステップS480の処理を行なわないとする。こうすれば、対象点および近接点の検知距離がこの順に単調増加または単調減少である場合には、近接点の数が少なくて、その点からの到達光に含まれるエコーは、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものでないと既に判断していたとしても、その対象点は孤立点でないと判断できる。なお、図10の処理順序であれば、単調増加・単調減少であると判断したら、近接点数に関する判断を行なわないものとしてもよい。もとより、近接点数の関する判断を行なった上で、対象点および近接点まで検知距離が、この順に単調増加または単調減少である場合に、近接点数に関する判断結果を覆すようにしてもよい。
【0089】
(9)上述した第1実施形態では、図5および図6Bに示したように、下限値である第1閾値Th1以上でかつ上限値である第2閾値Th2未満の信号強度を有するエコーを、ノイズ判定の対象であると判断したが(図5、ステップS220、S240)、上限値である第2閾値Th2についてのみ判断を行なうものとしてもよい。この場合、判断部は、前記到達光に含まれる前記エコーの強度を、予め定めた強度閾値である上限値と比較し、前記エコーの強度が前記上限値以上の場合は、前記エコーを前記判断の対象外とするものとしてもよい。こうすれば、エコーがノイズ判定の対象となるエコーの数を、簡単な判断で減らすことができ、ノイズ判定の処理を高速化できる。また、強度は、ピーク値で判断してもよいし、強度が所定値以上となるエコーの幅(例えは半値幅)やエコーの強度が所定値以上である面積で判断してもよい。
【0090】
(10)上記(9)の構成において、前記判断部は、前記到達光に含まれる前記エコーの強度を、前記上限値および前記上限値より小さな下限値と比較し、前記強度が、前記下限値以上かつ前記上限値未満のエコーを、前記判断の対象とするものとしてよい。こうすれば、エコーが検出対象からのものか否かの判断を行なう対象を更に減らすことができ、ノイズ除去の処理を一層高速化できる。もとより、所定の強度以下のエコーを、ノイズ判定の対象とすると判断してもよい。
【0091】
(11)上記(1)から(9)の構成において、前記判断部は、前記判断において、前記エコーが取り得る最大強度と外光強度の差分である最大強度差に対する、前記エコーのピーク強度と外光強度の差分である実強度差の強度比を、前記エコーの強度として扱うものとしてよい。こうすれば、外光強度の影響を受けにくくできる。もとよりエコーのピーク強度をそのまま用いてもよい。
【0092】
(12)本開示の他の構成として、光の反射を用いて検出対象を認識する際に生じるノイズを除去するノイズ除去装置が可能である。このノイズ除去装置は、所定の範囲に向けて射出された光の射出方向に対応する方向から到達する到達光の強度を、前記光の射出からの経過時間に沿って計測する計測部と、前記計測した到達光に、所定以上の強度のエコーが存在する場合、前記エコーの強度と前記経過時間に対応する距離である検知距離とを用いて、前記エコーが、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものであるか否かを判断する判断部と、前記検出対象によって反射されたものでないと判断された前記エコーをノイズとして除去する除去部と、前記計測した到達光に前記所定以上の強度のエコーが存在する場合であるとの判断を行なう際の判断条件を、当該ノイズ除去装置が置かれた環境と前記計測部の特性との少なくとも一方により設定する条件設定部と、を備える。こうすれば、ノイズ除去装置が置かれた環境や計測部の特性による影響を低減して、計測した到達光に所定以上の強度のエコーが存在するか否かの判断を行なうことができる。
【0093】
こうしたノイズ除去装置が置かれた環境としては、エコーの検出に影響を与えるノイズ除去装置の計測部が計測する対象の照度や気候、時刻などがある。もとより、これらに限らず、湿度や風速、降雪、霧やガス、路面の冠水の状況などを考慮してもよい。また、計測部の特性としては、計測部の計測箇所毎の感度の違いや、電気的な雑音としてのノイズの強度の分布、などを考慮してよい。こうした計測部の特性は、工場出荷時における相違だけでなく、経時的、経年的な変化なども生じ得るため、定期的に、あるいは使用時間毎に、特性値を取得して設定するものとしてよい。
【0094】
(13)上記(12)の構成において、前記条件設定部は、前記環境を雨天と判断した第1の場合、前記環境を晴天と判断した第2の場合、前記環境を曇天と判断した第3の場合、前記環境を夜間と判断した第4の場合のうちの少なくとも二つの場合について、前記エコーの強度と比較する第1閾値および前記検知距離と比較する第2閾値の少なくとも一方の設定を行ない、第iの場合と第jの場合(i<j、i,j=1~4)において、第iの場合は、前記第1閾値を、前記第jの場合より大きな値に設定する第1設定と、前記第2閾値を、前記第jの場合より近い距離に設定する第2設定との少なくとも一方を行なうものとしてよい。こうすれば、天候などによる影響を軽減できる。区分は第1から第4の場合に限らず、少ない場合分けでも、これより多数の場合分けであってもよい。
【0095】
(14)上記(12)または(13)の構成において、前記条件設定部は、前記判断条件を、前記計測部の計測位置において予め検出または学習したノイズの大きさに応じて、前記ノイズの影響を低減するよう修正するものとしてよい。こうすれば、計測部の計測位置におけるノイズの影響を低減できる。こうした、いわゆる較正処理は、ノイズ除去装置の工場出荷時に行なうものとしてもよいし、車検などの際に行なうものとしてもよい。また、定期的にあるいは任意のタイミングで較正処理を行なうものとしてもよい。
【0096】
(15)上記(12)から(14))の構成において、更に、前記計測部が計測可能な計測範囲から、前記到達光の強度を読み出す範囲を、第1の範囲と、前記第1の範囲より狭い第2の範囲とに切り換える検出範囲切換部を備え、前記条件設定部は、前記判断条件として、前記第1の範囲または前記第2の範囲のいずれかを選択するものとしてよい。こうすれば、検出範囲の広狭により検出のダイナミックレンジが変化するので、ノイズの検出され易さを変更することができる。そこで、検出範囲の切換を行なって、ノイズの可能性があるとされたエコーがノイズであるか否かを簡易に判断するようにしてもよい。
【0097】
(16)上記(15)の構成において、検出範囲の切換は、特定のタイミング、例えばノイズか否かを判定したいエコーを検出したタイミングで行なってもよいし、動的におこなってもよい。後者の場合には、動的に行なうので、検出範囲の切換を行なうタイミングか否かを判断する処理をいちいち行なう必要がない。
【0098】
(17)上述したノイズ除去装置のいずれか一つと、前記ノイズ除去装置によって前記ノイズが除去された前記信号に含まれる前記エコーに基づき物体を検出する物体検出部とを備える物体検出装置として、本開示を実施してもよい。こうすれば、ノイズを精度よく除去した上で、物体を検出するので物体の検出精度を高めることができる。物体は、所定の範囲に照射した光に対して、その方向からノイズ検出装置に到達する到達光に含まれるエコーからノイズを除去することで、検知距離に存在する点を検出し、その集合として物体を検出してもよい。更にその物体の外形形状や動きなどから、その物体が、車両や2輪車、歩行者、ドローン、標識、ガードレール、路面上の白線、植栽、塀のいずれか一つであると認識する物標認識を行なうものとしてもよい。
【0099】
(18)本開示は、光の反射を用いて検出対象を認識する際に生じるノイズを除去方法として実施することも可能である。このノイズ除去方法は、所定の範囲に向けて射出された光の射出方向に対応する方向から到達する到達光の強度を、前記光の射出からの経過時間に沿って計測し、前記計測した到達光に、所定以上の強度のエコーが存在する場合、前記エコーの強度と前記経過時間に対応する距離である検知距離とを用いて、前記エコーが、前記所定の範囲に存在する検出対象によって反射されたものであるか否かを判断し、前記検出対象によって反射されたものでないと判断された前記エコーをノイズとして除去する。こうすれば、エコーの強度と経過時間に対応する距離である検知距離とを用いて判断するので、単に強度が弱いものをノイズと判断するといったことがなく、ノイズ除去の精度を高めることができる。ここで、処理としては、検知距離を用いる代わりに、検知距離と等価な経過時間を用いて判断してもよいなど、上述したノイズ除去装置について説明した手法を、ノイズ除去方法に適用することも可能である。例えば、エコーの強度と経過時間に対応する距離である検知距離とを用いて、エコーが、所定の範囲に存在する検出対象からの到達光であるか否かを判断する場合、エコーの強度と検知距離とを組み合わせた判定を行なってノイズか否かを判断するようにしてもよいし、両者を予めマッピングしておき、エコーの強度と検知距離とによりマップを参照して、ノイズか否かを判断するようにしてもよい。他も同様である。
【0100】
(19)上記各実施形態において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。ソフトウェアによって実現されていた構成の少なくとも一部は、ディスクリートな回路構成により実現することも可能である。また、本開示の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD-ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピュータに固定されている外部記憶装置も含んでいる。すなわち、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、データパケットを一時的ではなく固定可能な任意の記録媒体を含む広い意味を有している。
【0101】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0102】
10,10A,10B…物標認識装置、20…CPU、22…発光制御部、30,30A,30B…ノイズ除去装置、31…計測部、32…判断部、33…除去部、40…距離算出部、45…物標認識部、50…記憶装置、60…入出力インターフェース、70…発光部、72…発光素子、74…スキャナ、80…受光部、82…受光素子、90…ノイズ除去装置、100,100B…車両、111…照度センサ、112…気象センサ、113…時刻検出器、121…条件設定部、131…指示部、132…較正部、CAL…較正板、TS…受光信号、TSn…エコー、RT…信号強度、RTn…ピーク強度、LTn…検知距離
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
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図17
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図22