(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】個人専用化天然設計僧帽弁補綴具製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20250430BHJP
A61B 34/10 20160101ALI20250430BHJP
【FI】
A61F2/24
A61B34/10
(21)【出願番号】P 2022562938
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(86)【国際出願番号】 SG2021050212
(87)【国際公開番号】W WO2021211062
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2024-03-04
(31)【優先権主張番号】10202003458Y
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(73)【特許権者】
【識別番号】521453758
【氏名又は名称】ナショナル ユニバーシティ ホスピタル (シンガポール) ピーティーイー エルティーディー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コフィディス テオドロス
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0054448(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0289484(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0321168(US,A1)
【文献】特表2020-510503(JP,A)
【文献】特許第6664024(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/20-2/90
A61B 34/10
G06T 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定患者のための個人専用化僧帽弁補綴具
を製造する方法であって、
撮像手段を用い前記特定患者
の生来の僧帽弁のサイズ及び形状を計測
するステップと、
前記個人専用化僧帽弁補綴具の製作元素材についてのデータを提供
するステップと、
前記特定患者
の生来の僧帽弁のサイズ及び形状と前記素材についてのデータとに基づき
前記個人専用化僧帽弁補綴具の3Dモデルを構築
するステップと、
FEM法を用い
ることで前記3Dモデルを最適化
するステップと、
前記最適化された前記3DモデルであるFEMモデルに基づいて、前記素材
を輪状環
、前小葉
、後小葉
、及び腱の態に切り、
前記前小葉及び
前記後小葉を前記輪状環に連結
することによって、前記個人専用化僧帽弁補綴具を作製するステップと、
前記腱を
前記前小葉及び
前記後小葉に連結する
ステップと、を含み、
前記特定患者の生来の僧帽弁のサイズ及び形状を計測することが、輪状環周(AC)、輪面積(AA)、前後間径(A-P)、前外後内間径(AL-PM)、縫合部差渡し(C-C)、前小葉長(ALL)、後小葉長(PLL)、僧帽弁形状及び腱索長(ACL及びPCL)を含む僧帽弁関連パラメタを計測することを含み、
前記輪状環周(AC)を計測することが、等式(iii):
AC(2)=[2π(径(A-P)-2d)/2+4((径(AL-PM)-2d)/2-(径(A-P)-2d)/2)]×(1-λ)に基づいて、前記前小葉の上縁たる前小葉輪状環周(AAC)と、前記後小葉の上縁たる後小葉輪状環周(PAC)と、を組み合わせることを含み、
前記等式において、dは前記輪状環の縁の幅であり、λは生来の輪状環周から前記個人専用化僧帽弁補綴具の輪状環へのAC縮小比であり、更に
前記個人専用化僧帽弁補綴具を作製することが、前記前小葉及び前記後小葉それぞれの前記上縁を折る又は重ねることによって、前記輪状環を多層強化構造に形成することを含む、方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の方法であって、前記特定患者の左心室の天然幾何形状に
前記個人専用化僧帽弁補綴具を適正フィットさせるため前記前小葉及び前記後小葉それぞれの上縁が真っすぐとされ又は曲げられている
、方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の方法であって、
前記前小葉及び前記後小葉を連結
することが、前記前小葉・後小葉間に接合が生じるよう前記前小葉の縁
を前記後小葉の縁と結合
することを含む、方法。
【請求項4】
請求項
1~3のうち何れか一項
に記載の方法であって、
前記前小葉及び前記後小葉を連結
することが、
前記前小葉及び
前記後小葉を一体結合
して2個の縫合部
を形成
することを含み、
前記2個の縫合部が円錐角(δ
1
)にて内方傾斜することで、前記個人専用化僧帽弁補綴具に円錐形状が生じ前記特定患者
の生来の左心室内にフィットする
、方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の方法であって、前記円錐角(δ
1)が等式(x):
δ
1=arctan[(2・sin(δ
0))/(π・cos(δ
0))]
をもとに、
前記前小葉及び
前記後小葉の各縫合部縁の傾斜角(δ
0)により決定され
る、方法。
【請求項6】
請求項
1~5のうち何れか一項
に記載の方法であって、
前記前小葉及び前記後小葉を連結
することが、前外側を前外側に連結し且つ後内側を後内側に連結することで前記前小葉
を前記後小葉に連結
することを含む、方法。
【請求項7】
請求項
6に記載の
方法であって、前記
前小葉を前記後小葉に連結
することが縫合
することを含む、方法。
【請求項8】
請求項
4に記載の
方法であって、前記計測
することが、等式(xi):
自由縁長={2π×(ALL(又はPLL)-CH×cos(δ
0)-CoaptH)+4[(1/2)・AAC(又はPAC)-CH×sin(δ
0)-(ALL(又はPLL)-CH×cos(δ
0)-CoaptH)]}/2
をもとに各小葉縁の長さを計算すべく
、前記特定患者生来の輪状環のサイズ及び形状、縫合部高(CH)、傾斜角(δ
0)、前小葉長(ALL)及び後小葉長(PLL)並びに接合部高(CoaptH)
を計測
することを含む、方法。
【請求項9】
請求項
1~3のうち何れか一項
に記載の方法であって、前記輪状環周(AC)が、等式(iii)に基づく前記前後間径(A-P)及び前記前外後内間径(AL-PM)の関数である
、方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の方法であって、計測
することが、前記前後間径(A-P)及び前記前外後内間径(AL-PM)の計測が、左心室収縮期中であり前記僧帽弁が閉じているときに実行され
ることを含む、方法。
【請求項11】
請求項
1~3のうち何れか一項
に記載の方法であって、
前記個人専用化僧帽弁補綴具の前記輪状環周(AC)の計算が等式(iii)中の比(λ)に基づくものである
、方法。
【請求項12】
請求項
1に記載の方法であって、前記輪状環
は、非対称であり
、前小葉輪
周(AAC)及び
前記後小葉輪
周(PAC)を含む環周を有し、
前記前小葉輪周(AAC)が
前記後小葉輪周(PAC)よりも小さく、比(R)たるAAC/PACが
前記環周の49/51~30/70である
、方法。
【請求項13】
請求項
12に記載の方法であって、
前記比(R)たるAAC/PACが35/65~42/58である
、方法。
【請求項14】
請求項
12に記載の方法であって、
前記比(R)たるAAC/PACが40/60である
、方法。
【請求項15】
請求項
12に記載の方法であって、
前記比(R)たるAAC/PACが前小葉長(ALL)及び後小葉長(PLL)間の比である
、方法。
【請求項16】
請求項
1~15のうち何れか一項
に記載の方法であって、
前記個人専用化僧帽弁補綴具の前記3Dモデルを構築する
ことが、縫合位置A及びBに基づき前小葉輪周(AAC)及び後小葉輪周(PAC)
を計算
することを含む、方法。
【請求項17】
請求項
8に記載の方法であって、
前記個人専用化僧帽弁補綴具の前記3Dモデルを構築する
ことが、等式(viii)及び(ix):
ALL=(径(A-P))/2+10 (ミリメートル単位)
PLL=(径(A-P))/2+5 (ミリメートル単位)
をもとに、(a)接合に係る理論的最小距離たる前後間径(A-P)、(b)ALL対PLL間の比(r)、(c)接合部深度(Cd)、(d)前記接合部高(CoaptH)及び(e)腱長(Lc)に基づき、前記前小葉長(ALL)及び後小葉長(PLL)
を計算
することを含む、方法。
【請求項18】
請求項
1~17のうち何れか一項
に記載の方法であって、連結
することが、前記前小葉及び前記後小葉を一体連結
して前記個人専用化僧帽弁補綴具の体部
を形成
することを含む、方法。
【請求項19】
請求項
1~18のうち何れか一項
に記載の方法であって、前記前小葉それぞれ及び前記後小葉それぞれが前外側腱及び後内側腱なる二組の腱を備え、前記前外側腱及び後内側腱それぞれが3本の副腱を備え、それら腱が各側から各縁のうち少なくとも3/8に沿い均等分布している
、方法。
【請求項20】
請求項
19に記載の方法であって、前記3Dモデルを構築する
ことが各腱の長さ
を計算
することを含み、各腱の長さの計算が、小葉長、接合部高及び接合部深度を含むパラメタに基づいている
、方法。
【請求項21】
請求項
1~20のうち何れか一項
に記載の方法であって、計測
することが、前記
個人専用化僧帽弁補綴具
の腱の長さを示すべく乳頭筋頂から接合部縁までの距離
を計測
することを含み、更に、前記腱がそのなかへとまとめられ各組の腱の端部が合流するプレジット様腱キャップのオンサイト計測及び調整
を行うことを含む、方法。
【請求項22】
請求項
1~21のうち何れか一項
に記載の方法であって、前記3Dモデルを構築する
ことが、前記特定患者に関する前記輪状環、前記前小葉、前記後小葉及び前記腱の計算済幾何形状及び寸法
を工学製図ソフトウェア又は製図ツール向け入力として提供
することを含む、方法。
【請求項23】
請求項
22に記載の方法であって、前記工学製図ソフトウェア又は製図ツールが、自
前記個人専用化僧帽弁補綴具の前記小葉をマニュアル切り出しするためのテンプレートを出力するものである
、方法。
【請求項24】
請求項
22に記載の方法であって、前記工学製図ソフトウェア又は製図ツールが、前記小葉をマシン切り出しするためのテンプレートを出力するものである
、方法。
【請求項25】
請求項
1~24のうち何れか一項
に記載の
方法であって、更に、使用
向けにリリース
する前に
、前記個人専用化僧帽弁補綴具を包装、ラベル付け及び滅菌
することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
僧帽弁(mitral valve)即ち左房室弁は二尖弁(即ち2個の小葉が備わる弁)であり、心臓内にあって左心房と左心室を分けている弁である。僧帽弁の働きにより、心室拡張期においては左心房から左心室へと血液が流れうるようになる一方、収縮期においては逆流が妨げられることとなる。天然に発生する僧帽弁は輪、2個の小葉(尖)、心房筋、腱索、乳頭筋及び心室筋で構成されている。
【0002】
僧帽弁置換は、その実行により病的又は機能不全な弁を交換しうるよう設計されている手順である。僧帽弁置換手順においては、患者の僧帽弁が除去され、補綴具(prosthesis)で以て置き換えられる。僧帽弁は独特な構成であるので、長持ちし正常に機能する僧帽弁補綴具を作り出すことは難題である。
【背景技術】
【0003】
生体式及び機械式の僧帽弁補綴具は商業的に入手することができる。ヒト(人間)の僧帽弁が軟組織であり非対称形状であるのと対照的に、生体式補綴具及び機械式補綴具は共に堅固であり円形である。機械弁にはもう一つの短所があり、それは、弁の機械部品上で血液が凝固し弁の機能が不正常になる傾向があることである。機械弁を付けている患者は、血塊が弁上で形成され発作が起きるリスクを抑えるため、抗凝血剤を摂取しなければならない。生体式の弁は、機械式の弁に比べ血塊形成リスクが少ないものの耐久性が低めであるため、より頻繁な交換が求められる。生体式の弁は、機械式の弁がそうであるのと同じく堅固な金属骨格を有しており、また、植込み用縫合糸を通せるようシリコン又はその他の合成素材で被覆された金属環を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第6074417号明細書
【文献】米国特許第5415667号明細書
【文献】米国特許第6358277号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在入手可能な僧帽弁補綴具は、不自然な円形要領にて構築されているのが普通であり、堅固素材で製作されていることが多い。また、それらは3個の対称的な小葉を備えていることが多いが、人間生来の僧帽弁に備わる小葉は、大きめな前小葉(前尖)と小さめな後小葉(後尖)の2個だけである。その構成が堅固且つ不自然であるため、そうした僧帽弁補綴具は心臓生来の解剖学的構造を歪ませる。それら補綴具周囲の心筋は、植込み手術後にあまり回復しない。それら補綴具は平均で7~10年しかもたず、患者が自身の生存中に2回目、場合によっては3回目の手術を受けねばならないため、患者が高リスクな開胸手術を受けることとなる。
【0006】
商業的に入手可能な補綴具では、健康な人間生来の僧帽弁に備わる血行動態性能が達成されない。これは、左心腔の顕著なエネルギ損失、顕著な経時損傷、また最終的には心不全その他の有害事象をもたらす。
【0007】
他のある種の入手可能な僧帽弁補綴具には、特許文献1に記載の通り同種移植片を補強することで形成可能なものがあるが、それを行うには、患者に最良整合するものを見つけるため医師が様々なサイズの弁を調べねばならず、しかも弁が採取される動物が犠牲になる。更に他の入手可能な僧帽弁補綴具には、特許文献2に記載の通り複数個の心膜層を縫い合わせることで形成可能なものがあるが、それを行うと、複数本の縫合糸が存在しているエリアにて凝血が生じることがある。
【0008】
特許文献3にて開示されている他形態の房室弁、例えば僧帽弁では、膜素材からなるテンプレートを患者の僧帽弁輪上に縫い付けている。この種の弁には高背な不自然形状の輪が備わっているので、補綴弁(prosthetic valve)の周が嵩張り襟のように隆起する。更に、テンプレートが標準サイズで提供されるため、それをトリミングして患者に適合化させねばならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
個別患者毎に精密にフィットし機能する天然設計個人専用化(personalized)僧帽弁補綴具を製造する方法を提供する。具体的には、本方法に含まれる一連の操作又は手順は、僧帽弁補綴具のカスタム化/個人専用化オーダを画像診断及び画像分析結果と併せ受け取ることで以て始まり、確認済アルゴリズムを用いその弁補綴具の幾何形状及び寸法を定量し、個人別化(individualized)されたレシピエント(受入先)患者の幾何形状及び寸法に従い弁を生産し、そして各特定患者の解剖学的構造及び臨床状態にフィットするよう特別に製作された個人専用化弁補綴具の態に組み上げ、更にその個人専用化弁補綴具を包装及び滅菌して最終的な僧帽弁補綴具の態にし、その特定患者への植込みのため送付し、そしてその個人専用化補綴僧帽弁をその患者に埋め込むものである。
【0010】
天然設計個人専用化僧帽弁補綴具を、その弁補綴具の製作対象たる特定患者に精密フィットするよう製造する方法を提供する。本方法によれば、撮像法を用いその特定患者生来の僧帽弁のサイズ及び形状を計測し、確認済アルゴリズムに依拠しその特定患者に係る輪状環(annular ring)、前小葉(anterior leaflet)、後小葉(posterior leaflet)及び腱(chord)の幾何形状及び寸法を計算し、そしてそれら輪状環、前小葉、後小葉及び腱を切り出して連結することで個人専用化補綴僧帽弁を形成することができる。
【0011】
ある種の実施形態によれば、その撮像法を2D又は3D心エコー検査法、コンピュータ断層撮像法(CT)、心磁気共鳴法(CMR)或いはそれらの何らかの組合せによるものとすることができる。
【0012】
ある種の実施形態によれば、患者生来の僧帽弁のサイズ及び形状を計測する際に僧帽弁関連パラメタを計測することができ、それらパラメタのなかに輪状環周(AC)、輪面積(AA)、前後間径(anterior-posterior diameter)(A-P)、前外後内間径(anterolateral-posteromedial diameter)(AL-PM)、縫合部差渡し(commissural diameter)(C-C)、前小葉長(AL)、後小葉長(PL)、僧帽弁形状及び腱索(chordae tendineae)長(ACL及びPCL)を含めることができる。
【0013】
ある種の実施形態によれば、本方法にて更に、その特定患者についての生理情報を計算用に集めること、植込みが済み心臓弁機能が改善された心臓の幾何形状をその計算により予測すること、その生理情報に身長、体重、年齢、人種及び性別を含めることができる。
【0014】
個人専用化僧帽弁補綴具であって、特定患者生来の僧帽弁輪と整合するよう寸法設定された可撓な輪状環と、その特定患者生来の僧帽弁小葉と整合するよう寸法設定された可撓な前小葉及び可撓な後小葉でありその輪状環に連結されている小葉と、その特定患者生来の僧帽弁小葉と整合するよう寸法設定されている腱であり心臓の乳頭筋(papillary muscle)につがれることとなる腱と、を備えるものを提供する。本個人専用化僧帽弁補綴具は、
撮像法を用いその特定患者生来の僧帽弁のサイズ及び形状を計測し、
確認済アルゴリズムに依拠しその特定患者に係る輪状環、小葉及び腱の幾何形状及び寸法を計算し、且つ
それら輪状環、小葉及び腱を切り出し連結して個人専用化補綴僧帽弁を形成することで、
形成することができる。
【0015】
ある種の実施形態によれば、その撮像法を2D又は3D心エコー検査法、コンピュータ断層撮像法(CT)、心磁気共鳴法(CMR)或いはそれらの何らかの組合せによるものとすることができる。
【0016】
ある種の実施形態によれば、患者の僧帽弁のサイズ及び形状を計測する際に僧帽弁関連パラメタを計測することができ、それらパラメタのなかに輪状環周(AC)、輪面積(AA)、前後間径(A-P)、前外後内間径(AL-PM)、縫合部差渡し(C-C)、前小葉長(ALL)、後小葉長(PLL)、僧帽弁形状及び腱索長(ACL及びPCL)を含めることができる。
【0017】
ある種の実施形態によれば、本個人専用化僧帽弁補綴具を更に、その特定患者についての生理情報を計算用に集めること、心臓弁機能が改善された植込み後心臓の幾何形状をその計算により予測すること、その生理情報に身長、体重、年齢、人種及び性別を含めることにより、形成することができる。
【0018】
ある種の実施形態によれば、計算に際し、輪状環周(AC)を、前小葉の上縁たる前小葉輪状環周(AAC)と、後小葉の上縁たる後小葉輪状環周(PAC)と、の組合せとして後述の等式(iii)をもとに計算することができる。ある種の実施形態によれば、前小葉及び後小葉それぞれの上縁を折り又は重ねることによって、輪状環を多層強化構造の態に形成することができる。
【0019】
ある種の実施形態によれば、その特定患者の左心室の天然幾何形状に対し本個人専用化僧帽弁補綴具を適正フィットさせるため、前小葉及び後小葉それぞれの上縁を真っすぐなもの又は曲がったものとすることができる。
【0020】
ある種の実施形態によれば、連結に際し、前小葉・後小葉間接合(癒合)(coaptation)が生じるよう前小葉縁を後小葉縁と結合させることができる。ある種の実施形態によれば、その接合によって弁オリフィス(開口部)のサイズを制御すること、ひいては経僧帽弁圧力勾配に影響を及ぼすことで、その個人専用化僧帽弁補綴具の機能及び性能を制御することができる。
【0021】
ある種の実施形態によれば、連結に際し2個の小葉を一体結合させることで2個の縫合部を形成させること、それら2個の縫合部を円錐角(δ1)にて内方傾斜させることでその個人専用化僧帽弁補綴具の体部に僅かな円錐形状を発生させること、それによりその個人専用化僧帽弁補綴具をその特定患者生来の形状及び輪郭の左心室内に適正フィットさせることができる。
【0022】
ある種の実施形態によれば、その円錐角(δ1)を、等式(x)をもとに2個の小葉の各縫合部縁の傾斜角(δ0)により決定することができる。
【0023】
ある種の実施形態によれば、連結に際し、前外側を前外側に連結し且つ後内側を後内側に連結することで、前小葉を後小葉に連結することができる。
【0024】
ある種の実施形態によれば、後小葉に対する前小葉の連結を縫合とすることができる。
【0025】
ある種の実施形態によれば、計測に際し、後述の等式(xi)をもとに各小葉縁の長さを計算すべく、その特定患者生来の輪状環のサイズ及び形状、縫合部高(CH)、傾斜角(δ0)、前小葉長(ALL)及び後小葉長(PLL)並びに接合部高(CoaptH)を計測することができる。
【0026】
ある種の実施形態によれば、その強化輪状環の高さを1mm~4mmとすることができる。
【0027】
ある種の実施形態によれば、その強化輪状環の高さを2mm~3mmとすることができる。
【0028】
ある種の実施形態によれば、輪状環周(AC)を、後述の等式(iii)に基づく前後間径(A-P)及び前外後内間径(AL-PM)の関数とすることができる。
【0029】
ある種の実施形態によれば、前後間径(A-P)及び前外後内間径(AL-PM)の計測を、左心室収縮期中であり僧帽弁が閉じているときに行うことができる。
【0030】
ある種の実施形態によれば、その補綴具の輪状環周(AC)の計算を、臨床手術中に保存された生来の小葉の輪状環幅(d)に基づき行うことができる。
【0031】
ある種の実施形態によれば、その補綴具の輪状環周(AC)の計算を等式(iii)中の比(λ)に基づき行うことができる。
【0032】
ある種の実施形態によれば、輪状環を非対称なものとすることができる。ある種の実施形態によれば、その輪状環を前小葉輪及び後小葉輪の組合せで形成すること、前小葉輪周(AAC)を後小葉輪周(PAC)より小さなものとすること、その比(R)たるAAC/PACを49/51~30/70とすることができる。
【0033】
ある種の実施形態によれば、比(R)たるAAC/PACを35/65~42/58とすることができる。
【0034】
ある種の実施形態によれば、比(R)たるAAC/PACを40/60とすることができる。
【0035】
ある種の実施形態によれば、比(R)たるAAC/PACを前小葉長(ALL)・後小葉長(PLL)間の比とすることができ、それを重用して本補綴弁を確と適正に開閉させることができる。
【0036】
ある種の実施形態によれば、計算に際し、それぞれ後述の等式(viii)及び(ix)をもとに、(a)接合に係る理論的最小距離たる前後間径(A-P)、(b)ALL対PL間の比(r)、(c)接合部深度(Cd)、(d)接合部高(CoaptH)及び(e)腱長(Lc)に基づき、前小葉長(ALL)及び後小葉長(PLL)を計算することができる。
【0037】
ある種の実施形態によれば、連結に際し、2個の小葉を一体に連結することでその個人専用化僧帽弁補綴具の体部を形成させることができる。
【0038】
ある種の実施形態によれば、前小葉それぞれ及び後小葉それぞれを、前外側腱及び後内側腱なる二組の腱を備えるものとすることができる。ある種の実施形態によれば、それら前外側腱及び後内側腱それぞれを3本の副腱が備わるものとすることで、各端から各縁のうち少なくとも3/8に沿い腱を均等分布させることができる。
【0039】
ある種の実施形態によれば、計算に際し、その個人専用化僧帽弁補綴具が確と適正開閉されうるものになるよう各腱の長さを計算することができ、また各腱の長さの計算を、小葉長、接合部高及び接合部深度を含む数個のパラメタに基づき行うことができる。
【0040】
ある種の実施形態によれば、計測に際し、補綴具腱長を示すべく乳頭筋頂から接合部縁までの距離を計測することができ、更に、腱がそのなかへとまとめられ各組の腱の端部が合流するプレジット様腱キャップを、オンサイト計測及び調整することができる。
【0041】
ある種の実施形態によれば、本個人専用化僧帽弁補綴具を更に、その特定患者に係る輪状環、前小葉、後小葉及び腱の計算済幾何形状及び寸法を工学製図ソフトウェア又は製図ツールに入力として与えることで、形成することができる。
【0042】
ある種の実施形態によれば、その工学製図ソフトウェア又は製図ツールから、その弁補綴具の小葉をマニュアル切り出しするためのテンプレートを出力させることができる。
【0043】
ある種の実施形態によれば、その工学製図ソフトウェア又は製図ツールから、小葉をマシン切り出しするためのテンプレートを出力させることができる。
【0044】
ある種の実施形態によれば、本個人専用化僧帽弁補綴具を更に、使用に備えリリースされる前に包装、ラベル付け及び滅菌される形態のものとすることができる。
【0045】
ある種の実施形態によれば、本個人専用化僧帽弁補綴具を更に、包装前に弁ホルダ上へと組み付けられる形態のものとすることができる。
【0046】
ある種の実施形態によれば、本個人専用化僧帽弁補綴具を更に、その特定患者内に植え込まれる形態のものとすることができる。
【0047】
患者生来の僧帽弁に似せて設計された補綴弁を提供する。2個の可撓な小葉と非対称且つ可撓な環とを、心周期中に心筋の自然な歪付きで動かせるものである。患者生来の腱索に似せた腱が組み込まれた補綴弁であり、心房内への血液の逆流の自然な防止を模すことができ、且つ収縮期にて左心室への支援を担うことができる。
【0048】
ある種の実施形態によれば、心臓内に移植される僧帽弁補綴具が、
患者生来の僧帽弁輪を模すよう寸法設定された非対称環であり、可撓素材をその弁の外側に向かいそれ自身の上に巻き重ねることで構成された非対称環を有し、
その非対称環から懸架されており且つ実質的に相互接合されるよう構成されている可撓な前小葉及び可撓な後小葉を有し、
それら前小葉及び後小葉それぞれの形状が、生来の僧帽弁形状を模すよう、ひいてはその中を血液が一方向に流れるオリフィスがそれら前小葉及び後小葉により形成されるよう、構成されており、
各組の腱が第1端側で前又は後小葉に取り付けられ且つ第2端側でキャップ内に取り付けられる少なくとも二組の腱を有し、そのキャップが自キャップの他端側にて心臓の乳頭筋上に取り付けられるよう構成されたものとされる。
【0049】
ある種の実施形態によれば、その僧帽弁補綴具を更に、前小葉及び後小葉のうち各1個に連なり且つ各組の腱が取り付けられている接合面を備え、その接合面がその僧帽弁補綴具の封止が増強されるよう構成されたものと、することができる。
【0050】
ある種の実施形態によれば、非対称環を更に、コイルドコイル(多重コイル)構造の態に構成された少なくとも2本のストランド(紐)を備えるものと、することができる。
【0051】
ある種の実施形態によれば、非対称環を、弾性をもたらすよう一緒に折り畳まれた2個の素材層と、構造的安定性をもたらす第3の層とを、備えるものとすることができる。
【0052】
ある種の実施形態によれば、非対称環を、2個のウシ(牛)心膜層と、グリシン又はプロリンからなり強度をもたらす第3の層とを、備えるものとすることができる。
【0053】
ある種の実施形態によれば、それら2個の層を、縫合糸、ステープラ針、糊又はそれらの何らかの組合せにより一体連結されたものとすることができる。
【0054】
ある種の実施形態によれば、非対称環、可撓な前小葉及び可撓な後小葉、少なくとも二組の腱、キャップ又はそれらの何らかの組合せを、ウシ心膜で製作されたものとすることができる。
【0055】
ある種の実施形態によれば、より良好な接合及び腱取付を行えるよう、小葉形状を1~5mm分だけ延長されたものとすることができる。
【0056】
ある種の実施形態によれば、接合時に両小葉により「S」字状封止が生成されるよう、可撓な前小葉及び可撓な後小葉の長さの半分に沿い半円様式に従い小葉形状を設計することができる。
【0057】
ある種の実施形態によれば、その僧帽弁を更に、少なくとも1本の二次腱を備えるものとすることができ、その少なくとも1本の二次腱を、一端側で後小葉の中部に、また他端側で一次腱の中部に、取り付けることができる。
【0058】
ある種の実施形態によれば、それら少なくとも二組の腱をそのキャップに取り付けること、またその開口をそのキャップの中部に所在させることができる。
【0059】
ある種の実施形態によれば、それら少なくとも二組の腱それぞれを、天然発生する僧帽弁を模すべく前又は後小葉の中部に取り付けることができる。
【0060】
ある種の実施形態によれば、前小葉及び後小葉を、単一ユニットで製作し、非対称環に連結し、そして少なくとも二組の腱に取り付けることができる。
【0061】
ある種の実施形態によれば、その僧帽弁を更に延長部を備えるものとし、その延長部を一端側で可撓な前小葉、他端側で少なくとも二組の腱に連結すること、並びに可撓な前小葉と可撓な後小葉との間の接合が可能になるよう構成することができる。
【0062】
ある種の実施形態によれば、心臓内に移植される僧帽弁補綴具を、
患者生来の僧帽弁輪を模すよう寸法設定された非対称環であり、可撓素材をその弁の外側に向かいそれ自身の上に巻き重ねることで構成された非対称環と、
その非対称環から懸架されている2個の小葉であり、その構成個所が、非対称環の構成元素材と似た素材に沿い製作された切り込みを挟み向かい合わせの側にあり、それを介し血液が一方向に流れるオリフィスがその切込みにより生成されている小葉と、
各組の腱が第1端側でそれら2個の小葉のうち一方に取り付けられ且つ第2端側で束をなし取り付けられている少なくとも二組の腱と、
自キャップの一端側でそれら少なくとも二組の腱に連結されており且つ自キャップの他端側で心臓の乳頭筋上に縫合されうるよう構成されているキャップと、
を備えるものとすることができる。
【0063】
ある種の実施形態によれば、各組の腱が、2個の小葉間の接合が可能となるよう構成されている延長部を介し、それら2個の小葉のうち一方に取り付けられる。
【0064】
ある種の実施形態によれば、僧帽弁補綴具作成方法にて、
撮像法により患者の僧帽弁のサイズ及び形状を計測し、
単一素材片から対象者の僧帽弁のレプリカを切り出し、
その単一素材片に沿い切り込みを入れることで、血流用のオリフィス及び2個の小葉を、そのオリフィスの各側に小葉1個ずつの態で生成し、
撮像法により必要な腱の長さを計測し、
それら腱を2個のキャップのうち一方に取り付け、そして
小葉上に可撓な環を取り付けることで、特定患者生来の僧帽弁を模した僧帽弁補綴具全体を生成することができる。
【0065】
ある種の実施形態によれば、必要な腱の長さの計測を、対象者の僧帽弁のサイズ及び形状の計測と同時に、実行することができる。
【0066】
ある種の実施形態によれば、本方法にて更に、腱を2個のキャップのうち一方に取り付けるのに先立ち、それらの腱を担持すべく2個の小葉それぞれに延長部を取り付けることができる。
【0067】
天然設計個人専用化僧帽弁補綴具を、その弁補綴具の製作対象たる特定患者に精密フィットするよう製造する方法を提供する。本方法によれば、
撮像手段を用いその特定患者生来の僧帽弁のサイズ及び形状を計測し、
その個人専用化僧帽弁補綴具の製作元素材についてのデータを提供し、
その特定患者生来の僧帽弁のサイズ及び形状と前記素材についてのデータとに基づきその個人専用化僧帽弁補綴具の3Dモデルを構築し、
FEM法を用いその3Dモデルを最適化し、且つ
その最適化FEMモデルをもとにその個人専用化僧帽弁補綴具を作成することができる。
【0068】
ある種の実施形態によれば、本方法にて更に、その最適化操作の後にその個人専用化僧帽弁補綴具モデルを視覚化することができる。
【0069】
ある種の実施形態によれば、その撮像手段を2D又は3D心エコー検査法、コンピュータ断層撮像法(CT)、心磁気共鳴法(CMR)或いはそれらの何らかの組合せによるものとすることができる。
【0070】
ある種の実施形態によれば、患者生来の僧帽弁のサイズ及び形状を計測する際に、輪状環周(AC)、輪面積(AA)、前後間径(A-P)、前外後内間径(AL-PM)、縫合部差渡し(C-C)、前小葉長(AL)、後小葉長(PL)、僧帽弁形状及び腱索長(ACL及びPCL)を含む僧帽弁関連パラメタが計測される。
【0071】
ある種の実施形態によれば、本方法にて更に、その特定患者についての生理情報が集められてその個人専用化僧帽弁補綴具の植込み後の心臓の幾何形状が予測され、またその生理情報が身長、体重、年齢、人種及び性別を含むものとされる。
【0072】
ある種の実施形態では個人専用化僧帽弁補綴具を提供する。本個人専用化僧帽弁補綴具は、特定患者生来の僧帽弁輪と整合するよう寸法設定された可撓な輪状環と、その特定患者生来の僧帽弁小葉と整合するよう寸法設定された可撓な前小葉及び可撓な後小葉であり輪状環に連結されている小葉と、その特定患者生来の僧帽弁小葉と整合するよう寸法設定された腱であり、可撓な前小葉及び可撓な後小葉に連結されている腱であり、それら可撓な前小葉及び可撓な後小葉を心臓の乳頭筋につなげうるよう構成されている腱と、を備えるものとすることができる。ある種の実施形態によれば、その個人専用化僧帽弁補綴具を、
撮像手段を用いその特定患者生来の僧帽弁のサイズ及び形状を計測し、
その個人専用化僧帽弁補綴具の製作元素材についてのデータを提供し、
その特定患者生来の僧帽弁のサイズ及び形状と前記素材についてのデータとに基づきその個人専用化僧帽弁補綴具の3Dモデルを構築し、
FEM法を用いその3Dモデルを最適化し、且つ
前記素材を輪状環、可撓な前小葉及び可撓な後小葉並びに腱の態に切り、それら可撓な前小葉及び可撓な後小葉を輪状環に連結し、且つ腱をそれら可撓な前小葉及び可撓な後小葉に連結することで、その最適化FEMモデルをもとにその個人専用化僧帽弁補綴具を作成することによって、
形成されたものとすることができる。ある種の実施形態によれば、その個人専用化補綴僧帽弁をオプション的に更に、その作成操作の前にその個人専用化僧帽弁補綴具モデルを視覚化することで形成することができる。
【0073】
ある種の実施形態によれば、その撮像手段が2D又は3D心エコー検査法、コンピュータ断層撮像法(CT)、心磁気共鳴法(CMR)或いはそれらの何らかの組合せによるものとされる。
【0074】
ある種の実施形態によれば、患者の僧帽弁のサイズ及び形状を計測する際に、輪状環周(AC)、輪面積(AA)、前後間径(A-P)、前外後内間径(AL-PM)、縫合部差渡し(C-C)、前小葉長(ALL)、後小葉長(PLL)、僧帽弁形状及び腱索長(ACL及びPCL)を含む僧帽弁関連パラメタが計測される。
【0075】
ある種の実施形態によれば、その個人専用化補綴僧帽弁を更に、その特定患者についての生理情報を集め個人専用化僧帽弁補綴具植込み後の心臓の幾何形状を予測することで形成すること、またその生理情報に身長、体重、年齢、人種及び性別を含めることができる。
【0076】
ある種の実施形態によれば、その計測に際し、輪状環周(AC)が、前小葉の上縁たる前小葉輪状環周(AAC)と、後小葉の上縁たる後小葉輪状環周(PAC)と、の組合せとして、等式(iii)をもとに計測される。
【0077】
ある種の実施形態によれば、前小葉及び後小葉それぞれの上縁を折り又は重ねることで輪状環が多層強化構造の態に形成される。
【0078】
ある種の実施形態によれば、その特定患者の左心室の天然幾何形状に対しその個人専用化僧帽弁補綴具を適正フィットさせるため前小葉及び後小葉それぞれの上縁が真っすぐなもの又は曲がったものとされる。
【0079】
ある種の実施形態によれば、連結に際し、前小葉・後小葉間接合が生じるよう前小葉の縁を後小葉の縁と結合させる。
【0080】
ある種の実施形態によれば、連結に際し、可撓な前小葉及び可撓な後小葉を一体結合させることで2個の縫合部が形成され、その個人専用化僧帽弁補綴具に円錐形状が生じその特定患者生来の左心室内にフィットすることとなるようそれら2個の縫合部が円錐角(δ1)にて内方傾斜される。
【0081】
ある種の実施形態によれば、その円錐角(δ1)が、等式(x)をもとに、可撓な前小葉及び可撓な後小葉の各縫合部縁の傾斜角(δ0)により決定される。
【0082】
ある種の実施形態によれば、その連結に際し、前外側を前外側に連結し且つ後内側を後内側に連結することで前小葉が後小葉に連結される。
【0083】
ある種の実施形態によれば、後小葉に対する前小葉の連結が縫合によるものとされる。
【0084】
ある種の実施形態によれば、その計測に際し、等式(xi)をもとに各小葉縁の長さを計算すべくその特定患者生来の輪状環のサイズ及び形状、縫合部高(CH)、傾斜角(δ0)、前小葉長(ALL)及び後小葉長(PLL)並びに接合部高(CoaptH)が計測される。
【0085】
ある種の実施形態によれば、その強化輪状環の高さが1mm~4mmとされる。
【0086】
ある種の実施形態によれば、その強化輪状環の高さが2mm~3mmとされる。
【0087】
ある種の実施形態によれば、輪状環周(AC)が、等式(iii)に基づく前後間径(A-P)及び前外後内間径(AL-PM)の関数とされる。
【0088】
ある種の実施形態によれば、計測に際し、前後間径(A-P)及び前外後内間径(AL-PM)の計測が、左心室収縮期中であり僧帽弁が閉じているときに実行される。
【0089】
ある種の実施形態によれば、その補綴具の輪状環周(AC)の計算が等式(iii)中の比(λ)に基づき行われる。
【0090】
ある種の実施形態によれば、輪状環が非対称とされ、更に、その輪状環が前小葉輪及び後小葉輪の組合せで形成され、前小葉輪周(AAC)が後小葉輪周(PAC)よりも小さくされ、比(R)たるAAC/PACが49/51~30/70とされる。
【0091】
ある種の実施形態によれば、比(R)たるAAC/PACが35/65~42/58とされる。
【0092】
ある種の実施形態によれば、比(R)たるAAC/PACが40/60とされる。
【0093】
ある種の実施形態によれば、比(R)たるAAC/PACが前小葉長(ALL)・後小葉長(PLL)間の比とされる。
【0094】
ある種の実施形態によれば、その個人専用化僧帽弁補綴具の3Dモデルを構築する際に、縫合位置A及びBに基づき前小葉輪周(AAC)及び後小葉輪周(PAC)が計算される。
【0095】
ある種の実施形態によれば、その個人専用化僧帽弁補綴具の3Dモデルを構築する際に、等式(viii)及び(ix)をもとに、(a)接合に係る理論的最小距離たる前後間径(A-P)、(b)ALL対PLL間の比(r)、(c)接合部深度(Cd)、(d)接合部高(CoaptH)及び(e)腱長(Lc)に基づき、前小葉長(ALL)及び後小葉長(PLL)が計算される。
【0096】
ある種の実施形態によれば、連結に際し前小葉及び前記後小葉を一体連結することでその個人専用化僧帽弁補綴具の体部が形成される。
【0097】
ある種の実施形態によれば、各前小葉及び各後小葉が前外側腱及び後内側腱なる二組の腱を備え、それら前外側腱及び後内側腱それぞれが3本の副腱を備えるものとされ、それら腱が各側から各縁のうち少なくとも3/8に沿い均等分布される。
【0098】
ある種の実施形態によれば、3Dモデルを構築する際に各腱の長さが計算され、各腱の長さの計算が、小葉長、接合部高及び接合部深度を含むパラメタに基づき行われる。
【0099】
ある種の実施形態によれば、計測に際し、補綴具腱長を示すべく乳頭筋頂から接合部縁までの距離が計測され、更に、腱がそのなかへとまとめられ各組の腱の端部が合流するプレジット様腱キャップのオンサイト計測及び調整が行われる。
【0100】
ある種の実施形態によれば、3Dモデルを構築する際に、その特定患者に関する輪状環、前小葉、後小葉及び腱の計算済幾何形状及び寸法が工学製図ソフトウェア又は製図ツールに入力として提供される。
【0101】
ある種の実施形態によれば、その工学製図ソフトウェア又は製図ツールが、その弁補綴具の小葉をマニュアル切り出しするためのテンプレートを出力するものとされる。
【0102】
ある種の実施形態によれば、その工学製図ソフトウェア又は製図ツールが、小葉をマシン切り出しするためのテンプレートを出力するものとされる。
【0103】
ある種の実施形態によれば、本方法にて更に、使用に備えリリースされる前にその個人専用化僧帽弁補綴具に包装、ラベル付け及び滅菌を施すことができる。
【0104】
ある種の実施形態によれば、本方法にて更に、包装前に弁ホルダ上へとその個人専用化僧帽弁補綴具を組み付けることができる。
【0105】
ある種の実施形態によれば、本方法にて更に、その特定患者内にその個人専用化僧帽弁補綴具を植え込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【
図1A】本発明の諸実施形態の模式図である。本件開示のある種の実施形態に従い、開位置の補綴僧帽弁が描かれ且つ小葉への取付前の腱が示されている。
【
図1B】本発明の諸実施形態の模式図である。本件開示のある種の実施形態に従い、閉位置の補綴僧帽弁が描かれ且つ小葉への取付後の腱が示されている。
【
図2】本件開示のある種の実施形態に係り、心臓に埋め込まれている本発明の一実施形態の模式図である。
【
図3】本件開示のある種の実施形態に係り、3DCT像分析ソフトウェアでの僧帽弁エリア3D再構成像を示す図である。
【
図4】本件開示のある種の実施形態に係り、3D印刷弁モールド(型)及びブタ(豚)心膜僧帽弁小葉の写真を示す図である。
【
図5】本件開示のある種の実施形態に係り、生体外試験下での補綴弁の写真を示す図である。
【
図6A】本件開示のある種の実施形態に係る補綴僧帽弁の前小葉及び後小葉の側面外観の模式図である。
【
図6B】本件開示のある種の実施形態に係る小葉の相互接合時上面外観の模式的図である。
【
図6C】本件開示の諸実施形態に係る僧帽弁補綴具の上面外観の模式図であり、左心房から左心室の方へと見下ろされている(弁が開いていて血液が左心室内に入り込める拡張期でのもの)。
【
図6D】本件開示の諸実施形態に係り、前小葉及び後小葉を備える単一素材片の模式図である。
【
図7A】本件開示の諸実施形態に係り、腱を心臓の乳頭筋につなげうるキャップの模式図である。
【
図7B】本件開示の諸実施形態に係り、2個のキャップが腱に取り付けられている僧帽弁補綴具の模式図である。
【
図8A】本件開示のある種の実施形態に係り、小葉に対し腱が採りうる位置の模式図である。
【
図8B】本件開示のある種の実施形態に係り、小葉取付時における腱の断面の模式図である。
【
図9A】本件開示のある種の実施形態に係り、湾曲(楕円体/小滴)構成例えば接合面拡張用のそれを特徴とする代替設計に従い2個の小葉が取り付けられている補綴僧帽弁の模式図である。
【
図9B】本件開示のある種の実施形態に係る潜在的な接合面構成の模式図である。
【
図10】本件開示のある種の実施形態に係り、2D又は3D心エコー像から導出された患者僧帽弁の計測コピーの模式図である。
【
図11】本件開示のある種の実施形態に係る二小葉補綴具形成の模式図である。
【
図12】本件開示のある種の実施形態に係り、小葉セクションの沿面に形成されている開口の模式図である。
【
図13】本件開示のある種の実施形態に係り、患者の左心腔又は心室の心エコー検査又はMRI走査像を示す模式図である。
【
図14A】本件開示のある種の実施形態に係り、拡張期における患者の左心室を示す模式図である。
【
図14B】本件開示のある種の実施形態に係り、収縮期における患者の左心室を示す模式図である。
【
図15A】本件開示のある種の実施形態に係り、前小葉に取り付けられている延長部の模式図である。
【
図15B】本件開示のある種の実施形態に係り、後小葉に取り付けられている延長部の模式図である。
【
図16A】本件開示のある種の実施形態に係り、延長部を有し且つ腱が取り付けられている僧帽弁補綴具の拡張期側面外観を示す模式図である。
【
図16B】本件開示のある種の実施形態に係り、延長部を有し且つ腱が取り付けられている僧帽弁補綴具の収縮期側面外観を示す模式図である。
【
図17】本件開示のある種の実施形態に係り、弁補綴具の周上への非対称可撓環の取付による生来の輪の模擬の模式図である。
【
図18A】本件開示のある種の実施形態に係り、巻回型弁環内に組み込まれる弾性素材の環巻回前模式図である。
【
図18B】本件開示のある種の実施形態に係り、巻回型弁環内に組み込まれる弾性素材の環巻回後模式図である。
【
図19】本件開示のある種の実施形態に係る僧帽弁補綴具作成方法が描かれている模式的フローチャートである。
【
図20A】本件開示のある種の実施形態に係る個人専用化僧帽弁補綴具製造方法が描かれている模式図である。
【
図20B】本件開示のある種の実施形態に係る個人専用化僧帽弁補綴具製造方法が描かれている模式的フローチャートである。
【
図21A】本件開示のある種の実施形態に係り、臨床診療にて生来の僧帽弁が除去される際に保存された環状心膜縁の模式図である。
【
図21B】本件開示のある種の実施形態に係り、弁補綴具の輪状環周(AC)を計算するのに用いられ径(AL-PM)を長軸、径(A-P)を短軸とする楕円輪モデルの模式図である。
【
図22A】本件開示のある種の実施形態に係る前小葉設計例の模式図である。
【
図22B】本件開示のある種の実施形態に係る後小葉設計例の模式図である。
【
図22C】本件開示のある種の実施形態に係る僧帽弁補綴具アセンブリ設計例の模式図である。
【
図22D】本件開示のある種の実施形態に係り2個の乳頭筋が示されている輪モデル模式図である。
【
図22E】本件開示のある種の実施形態に係るカスタム化前小葉モデルの模式図である。
【
図22F】本件開示のある種の実施形態に係るカスタム化後小葉モデルの模式図である。
【
図23A】本件開示のある種の実施形態に係り、その小葉の自由縁の理論長が描かれている前又は後小葉例模式図である。
【
図23B】本件開示のある種の実施形態に係り、その小葉の自由縁の理論長が描かれている別の前又は後小葉例模式図である。
【
図23C】本件開示のある種の実施形態に係り、補綴具小葉接合時に影響し合う複数個のパラメタの関係の模式図である。
【
図23D】本件開示のある種の実施形態に係りFEMを用いるカスタム化僧帽弁設計方法が描かれている模式的フローチャートである。
【
図24A】本件開示のある種の実施形態に係る僧帽弁小葉接合の側面外観の模式図である。
【
図24B】本件開示のある種の実施形態に係る僧帽弁小葉接合の斜視外観の模式図である。
【
図25】本件開示の方法に従い製造された天然設計個人専用化僧帽弁補綴具が植え込まれているヒツジ(羊)心臓の心エコー検査写真を示す図である。
【
図26A】本件開示のある種の実施形態に係る後小葉の模式図である。
【
図26B】本件開示のある種の実施形態に係る前小葉の模式図である。
【
図27】本件開示のある種の実施形態に係る補綴僧帽弁の最終カスタム化3Dモデルの模式図である。
【
図28】本件開示のある種の実施形態に係るカスタム化補綴僧帽弁モデルのFEMシミュレーション最適化結果の模式図である。
【
図29A】本件開示のある種の実施形態に係り流体力学試験チャンバ内にある補綴僧帽弁の開構成時模式図である。
【
図29B】本件開示のある種の実施形態に係り流体力学試験チャンバ内にある補綴僧帽弁の閉構成時模式図である。
【
図30】ブタ心臓内に植え込まれたカスタム化補綴僧帽弁の閉構成時心エコー図である。
【
図31】カスタム化補綴僧帽弁が植え込まれたブタ心臓での血圧勾配図である。
【発明を実施するための形態】
【0107】
本発明の例示的諸実施形態であり、様々な視角の図面を通じ同一部材に同様の参照符号を付す態で添付図面に描かれている実施形態についての、後掲のより具体的な記述から、以上の事項が明らかになろう。図面は忠実縮尺であるとは限らず、寧ろ、本発明の諸実施形態を描出することに重点が置かれている。
【0108】
図1A及び
図1Bには本発明の僧帽弁補綴具が示されている。本僧帽弁補綴具100は、ヒトの天然な僧帽弁に似た生理学的形状を有している。本僧帽弁補綴具は、可撓な非対称環1と、その非対称環1から懸架されている2個の可撓な膜状の小葉2とを有している。本僧帽弁補綴具は、心臓の腱索を模した二組の腱3をも有している。各組の腱3は、一端側にて小葉2の余裕部(マージン)及び/又は体部に取り付けうるよう、且つ他端側にて固定用のキャップ8内に集合させうるよう、構成されている。固定キャップ8は左心室の乳頭筋上に縫い付けうるよう構成されている。
【0109】
図中の僧帽弁100のうち、
図1A中のものは腱3が小葉2に取り付けられていないもの、
図1B中のものは取り付けられているものである。腱3は、手術に先立ち小葉2に取り付けても手術中に取り付けてもよい。例えば、腱3・小葉2間取付具9を縫合糸としてもよいし、それらをエンブロック(一体)作成されたものとしてもよい。図中の僧帽弁100のうち、
図1A中のものは開状態、
図1B中のもの閉状態である。閉状態では、図示の通り小葉2が接合されうる。
【0110】
図2には、心臓内に植え込まれた僧帽弁100が描かれている。図中の僧帽弁100は生来の僧帽弁輪12の所在個所に植え込まれており、その片側が、大動脈7の付け根を左心室につないでいる大動脈弁6に隣り合い、またその逆側が、差し向かいの心室壁5に面している。図中の腱3は乳頭筋4に取り付けられている。
【0111】
可撓環1は、患者の心臓の超音波検査を踏まえカスタム製作することができる。具体的には、三次元心エコー検査による検討を実行することで、その患者の心臓につき詳細な解剖学的計測結果を得ること及び/又は三次元モデルをレンダリングすることができ、それらをもとにカスタム化又は個人専用化僧帽弁を生産することができる。小葉2及び腱3も、その対象者生来の僧帽弁及びその周りの解剖学的構造についての超音波撮像を踏まえ、カスタム化することができる。カスタム化/個人専用化僧帽弁を、三次元情報をもたらす他の撮像方式例えば心CT及び心MRIにより得られたデータをもとに、生産することもできる。故に、本発明の僧帽弁補綴具は、その患者の個別的な解剖学的構造と整合するよう選択又は設計することができる。
【0112】
可撓環1は、例えば弾性弁輪形成環で形成することができる。小葉2は天然素材又は生体適合複合素材で形成することができ、それにより凝血に抗すること、並びにそれらを患者生来の前小葉及び後小葉と同様に機能させることができる。少なくとも二組の腱を設け、その第1端を2個の小葉のうち一方、第2端を乳頭筋に取り付けて、それらを患者生来の腱索と同様に機能させることができる。腱3は、こうして小葉2をその患者の乳頭筋に係留することで、心周期全体を通じ左心室壁に対する支持を担い、小葉が心房洞内に向かい開くことを妨げている。
【0113】
僧帽弁補綴具100はこれら可撓環1、小葉2及び腱3を有しており、その外見も挙動も、健康な生来の僧帽弁に似ている。加えて、本発明の僧帽弁補綴具は天然素材で以て生産することができ、異物例えばプレジット(綿撒糸)の入り込みを避けうるものである。同種移植素材及び/又は複合素材、例えば同種移植、異種移植及び/又は自家移植素材の様々な組合せを用い、それら可撓環、小葉、腱及びキャップを作成することができる。弁環及び小葉を形成する素材たりうるものには、これに限られるものではないがヒト、ウシ又はブタの心膜、脱細胞化された生体補綴素材、細胞が組み込まれた生分解性織ポリマ、並びに細胞外素材がある。生分解性の天然ポリマたりうるものには、これに限られるものではないがフィブリン、コラーゲン、キトサン、ゼラチン、ヒアルロン酸、並びにそれらの類似素材がある。生分解性の合成ポリマスカフォルドであり細胞及び細胞外マトリクス素材を浸透させうるものには、これに限られるものではないがポリ(L-ラクチド)、ポリグリコール酸、乳酸グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリオルトエステル、ポリジオキサノン、ポリ無水物、ポリトリメチレンカーボネート、ポリホスファゼン、並びにそれらの類似素材がある。可撓環を更にカスタム化し、その患者向けに個人別化された可撓性又は剛性がもたらされるようにすることができる。加えて、僧帽弁補綴具の幾つかの構成部材、例えば腱3を、その患者の自家心膜により手術中に誂えることができる。
【0114】
例えば、僧帽弁補綴具をその患者自身の心膜から作成することができる。これに代え、僧帽弁補綴具を異種素材(例.動物の組織例えば既存の弁)から作成し、その上に、生体組織工学によりその患者自身の培養細胞の層を付けることもできる。
【0115】
人工弁(artificial valve)は、往々にして、既知毒素であり再生を促進するグルタルアルデヒドで以て固定される。本発明の僧帽弁補綴具はグルタルアルデヒドに依拠しない方法、例えば染料介在光定着により固定することができる。本発明の僧帽弁は、これに代わる架橋剤、例えばエポキシ化合物、カルボジイミド、ジグリシジル、ロイテリン、ゲニピン、ジフェニルリン酸アジド、アシルアジド及びシアナミドを用いること、或いは物理的な方法例えば紫外光及び脱水を用いることでも、固定することができる。
【0116】
僧帽弁補綴具、或いはそれら補綴具の幾つかの構成部材を、生物素材を用い生物学的三次元(3D)印刷で以て直に生産することができる。これに代え、僧帽弁補綴具、或いはそれら補綴具の幾つかの構成部材を、手術前に三次元撮像を実行することで詳細寸法を取得し、その詳細寸法に基づく三次元印刷によりテンプレート又はモールド(型)を構築し、そのテンプレート又はモールドを用いることで、生産することもできる。
【0117】
僧帽弁補綴具植込み方法も提供される。植込みに先立ち、その患者についての心エコー検査診断結果(或いは他の撮像診断結果)を取得する。その撮像診断結果をもとに、心腔のサイズ及び動きを計測する。患者の僧帽弁輪、小葉及び腱の詳細寸法も、その取得画像をもとに計測する。加えて、置換対象弁の三次元描写をレンダリングすることができる。その患者生来の弁の計測及び三次元モデル化を踏まえ、その患者生来の僧帽弁と密に整合しており既存の病理学との関連で補正されている僧帽弁補綴具を、生産することができる。
【0118】
三次元心エコー検査診断は、例えば、経食道心エコー検査(TEE)プローブ又は経胸隔心エコー検査(TTE)プローブで以て実行することができる。僧帽弁の諸セグメントは、eSieValves(商標)(Siemens Medical Solutions USA, Inc.,米国ペンシルバニア州マルバーン)等のソフトウェアを用い、三次元的及び四次元的にモデル化及び計測することができる。関連計測項目たりうるものには、その輪の外径及び内径、輪面積、三角間(intertrigonal)距離及び縫合部間(intercomm)距離、並びに前及び後小葉の諸軸に沿った長さがある。
【0119】
これに加え又は代え、僧帽弁の三次元診断を、コンピュータ断層撮像法(CT)又は磁気共鳴撮像法(MRI)で以て実行することができる。例えば、
図3に示されている通り、CT撮像法(SOMATOM(登録商標)DefinitionFlash,Siemens Healthcare,独国エルランゲン)を用いブタ心臓の3D再構成像を得たところ、その心臓の僧帽弁エリアがその像の右側に見えた。その僧帽弁エリアのセグメント化を、画像分析ソフトウェアを用い実行することができ、また関連する計測結果を得ることができる。
【0120】
本僧帽弁補綴具は患者向けに完全にカスタム化することができ、それにより各構成部材(例.環、小葉、腱、キャップ)を患者生来の弁のそれらと整合する寸法にすることができる。例として、
図4に示されている通り、撮像された弁の3D再構成像に基づき僧帽弁の3D印刷モールドを作ってみた。
図4に示されている3D印刷弁は、心周期のうち拡張期即ち開放相にてモデル化されたものである。この3Dモールドをもとにした補綴弁も
図4に示されている。このモールドによりブタ心膜の切り出しを案内して、小葉及び腱取付サイトの態にすることができる。これに代え、既作成の僧帽弁又は既作成の僧帽弁構成部材のなかから、患者生来の弁又は生来の弁構成部材に対し、形状及びサイズ的に最も近いものを、植込み向けに選択することもできる。
【0121】
図5には、生体外試験システム内の縫い付けられた補綴弁プロトタイプの画像が示されている。図示の弁プロトタイプは、外植された丸ごとの心臓に縫い付けられている。塩ボーラスが管を介し心臓の左心室内に注入されており、大動脈がクランプされているので、その塩が左心室内に封じ込められ圧力が生じている。その注入圧は、例えばその注入ラインに連結されている圧力ゲージ上で監視することができる。その上で、生理学的圧力下でその弁プロトタイプの適格性(例.逆流及び弁小葉脱出がないこと)を監視することができる。弁の適格性の計測や監視は、左心室が収縮していて収縮期圧となっている間、即ち生来の弁が閉じる圧力である間に、行うことができる。
【0122】
図6A及び
図6Bは、順に、本件開示のある種の実施形態に係る補綴僧帽弁の僧帽弁前小葉及び後小葉の模式的描写と、相互接合時の小葉の模式的描写である。
図6A及び
図6Bによれば、本補綴僧帽弁を補綴僧帽弁600とすることができる。ある種の実施形態によれば、弁600を2個の小葉を備えるもの、例えば僧帽弁前小葉602A及び僧帽弁後小葉602Pを備えるものとすることができる。僧帽弁後小葉602P及び前小葉602Aは、それぞれ、その患者の心臓の断面像に基づき、その患者の個別的な生理学的及び解剖学的構造にフィットするよう、モノコック(単一片)として手術前に設計し作り出すことができる。その患者自身の心臓から採取された計測結果を用い、各小葉例えば602A,602Pの長さ、幅及び高さを決めることで、各小葉がその患者の天然の小葉と実質的に同じものとなるようにすることができる。各小葉の形状を、腱(例.腱604,606,608,610)が組み込まれており、且つ環状部(例.前環状部601A及び後環状部601P)が形成されるよう付加的素材が組み込まれている形状に、することができる。腱の長さは、後に詳述する通り、その患者にフィットするよう外科医が決めることができる。小葉は、ナイフ又は鋏を用い単一素材片から切り出すことができ、また僧帽弁置換手術中に外科医が縫い合わせてその患者の天然の僧帽弁に似た僧帽弁を形成させることができる。
【0123】
例えば、前小葉(AL)の高さを約30mm、ALの長さを約45mm、後小葉(PL)の高さを約15mm、後小葉の長さを約60mmとすることができる。
図6Aに描かれている通り、医学界では630Aのことを前小葉602Aの高さ、630Pのことを後小葉602Pの高さと呼ぶ一方、各小葉の長さをその小葉の周部分と称しており、例えば632Aのことを前小葉602Aの長さ、632Pのことを後小葉602Pの長さと呼んでいる。
【0124】
ある種の実施形態によれば、各小葉602A及び602Pを同じ又は別の素材片から別々に切り出すこと、並びに各環状部601A及び601Pを別々に切り出すことで、その補綴僧帽弁を植込み向けに準備する人員、例えば外科医を楽にすることができる。それら小葉を2個の別々な部分として切り出すと共にそれら環状部を2個の別々な部分として切り出し、小葉をその環に取り付け更に腱を各小葉に取り付けることで、その準備時間と、外科手術による補綴弁植込みの実行所要時間とが、それら小葉及び腱を単一素材片から単一ユニットとして切り出した場合に比べ短縮される。それら小葉及び腱を単一ユニットとして切り出し単一片補綴具を植え込むことは、小葉部分・腱部分間連結を無傷に保ちつつそれら小葉及び各腱を切り出すのに高い正確度が必要なことからすれば、本願開示の方法に比べ複雑で時間消費的となる。
【0125】
ある種の実施形態では、各環状部601A及び601Pが、各小葉の後側が弁600の外側に向かいそれ自身の上に折り重なり又は巻き重なるよう(例.巻回型の前側部分605A及び巻回型の後側部分605Pとなるよう)、各小葉の後側の巻き付けを通じて作り出される。本実施形態によれば、各小葉の後端のサイズを5~10mmの付加素材分だけ増やすことができ、その付加素材を用い小葉の後端をそれ自身の上に巻き重ねて環状部(例えば僧帽弁前小葉の環状部601Aと僧帽弁後小葉の環状部601P)を作り出すことができる。弁600の外側に向かいそれ自身の上にその環(又は各環状部601A及び601P)を巻き又は折り重ねることで、弁600内凝血発生の回避を助けることができ、また凝血が発生しつつあっても、それらが現れそうなところが、弁600の外側面のうちその環又は環状部の折り重ね又は巻き重ねエリアのみとなるので、弁600の効率的動作が損なわれるリスクはほとんど課されない。ある種の付加的実施形態によれば、その環(又は各環状部601A及び601P)を素材ストリップ(細片)(図示せず)の付加、例えば好適なバイオメディカル繊維又はポリマの付加により、更に強化することができる。そうしたストリップは、弁600の製作元素材片から製作することができ、また各環状部601A,601P内にフィットするよう寸法設定することができる。好ましくは、それらストリップの幅を1~3mm、長さを10~20mmとする。各環状部601A,601Pを巻く際にそれら素材ストリップを弁600に付加することで、それらストリップを各環状部601A,601P内に配置することができる。こうした素材ストリップは弾性的なものとすることができ、また様々な成分、例えば生体適合ラバー、反跳金属ワイヤ又は合成素材で製作することができる。
【0126】
図6Bによれば、小葉602Aを半楕円体形状又は平凸形状としうる一方、小葉602Pを平凹形状とすることができる。ある種の実施形態によれば、弁600を、少なくとも二組の腱を備えるものとすることができる。ある種の実施形態によれば、それら少なくとも二組の腱それぞれを各小葉の中部に取り付けて生来の僧帽弁を模すことができる。例えばある種の実施形態によれば、小葉602Aを、少なくとも一組の腱603Aを備えるものとすること、それらを小葉602Aの一端側にて小葉602Aの中部に連結させること、また典型的にはその逆側の端にて小葉602Aを環状部601Aに連結させることができる。ある種の実施形態によれば、その少なくとも一組の腱603Aに少なくとも2個の腱サブセットを含めること、例えば腱サブセット604及び腱サブセット606を含めることができる。ある種の実施形態によれば、それら腱サブセット604及び606の間に間隔を設け、約3~5ミリメートルのギャップをそれら2個の腱サブセット間に確保することで、より効率的な接合を可能にすることができる。その腱サブセット604・606間ギャップにはそれら小葉上の張力分布をより均等にする働きもあり、摩損及び破損を減らすことも可能である。
図7A及び
図7Bとの関連で詳細に説明されることとなる通り、それら腱サブセット604及び606を相異なる別々なキャップに連結し、そのキャップによりそのサブセットの腱を心臓の乳頭筋につなぐことができる。
【0127】
ある種の実施形態によれば、小葉602Pを、少なくとも一組の腱603Pを備えるものにすること、それらを小葉602Pの一端側で小葉602Pの中部に連結させること、また典型的にはその逆側の端で小葉602Pを環状部601Pに連結させることができる。
【0128】
ある種の実施形態によれば、その少なくとも一組の腱603Pに少なくとも2個の腱サブセットを含めること、例えば腱サブセット608及び腱サブセット610を含めることができる。それら腱サブセット608及び610の間に間隔を設け、約5~8ミリメートルのギャップを2個の腱サブセット間にて確保することで、より効率的な接合を可能とすることができる。
図7A及び
図7Bとの関連で詳細に説明されることとなる通り、それら腱サブセット608及び610を相異なる別々なキャップに連結し、そのキャップによりそのサブセットの腱を心臓の乳頭筋につなぐことができる。
【0129】
ある種の実施形態によれば、腱603A及び/又は腱603Pの幅を1mm~2mmとすることも、それ以外の幅で実施することもできる。ある種の実施形態によれば、僧帽弁後小葉602Pを一方の側で非対称環の環状部601Pに連結することができる。環状部601Pへの環状部601Aの取付、例えば縫合糸、ファスナ等によるそれを経て、完全な非対称可撓環を形成することができる。
【0130】
ある種の実施形態によれば、僧帽弁前小葉における腱間距離634Aを8~10mmとすることができる。ある種の実施形態によれば、僧帽弁後小葉における腱間距離634Aを10~15mmとすることができる。ある種の実施形態によれば、縫合部エリアにおける前小葉・後小葉間の腱間距離、即ち距離636及び/又は638と記されているそれを、5~7mmとすることができる。
【0131】
ある種の実施形態によれば、
図6Bに描かれている通り、前小葉602Aを後小葉602Pに連結し且つ環状部601Aを環状部601Pに連結することで、補綴僧帽弁600を構成することができる。小葉602Aが小葉602Pに連結されたときに小葉602A・小葉602P間に生じるオリフィス620により、血流を一方向にすること、即ち左心房から左心室に向かう血流にすることができる。従って、小葉602A・小葉602P間に生じたオリフィス620を適宜構成することで、逆流即ち左心室から左心房に向かう流れを禁ずることができる。小葉602A、小葉602P、並びにある種の接合で以てそれら小葉を相互連結する手法、並びに環状部601A及び環状部601Pを適宜構成することで、人間生来の僧帽弁の形状、サイズ、ひいては機能を模すことができる。具体的には、生来の僧帽弁の前側輪を模すよう環状部601Aを構成する一方、後側輪を模すよう環状部601Pを構成することができる。ある種の実施形態によれば、各小葉の形状を延ばし、約1~5mm分を環状部・腱間に所在させることで、それら2個の小葉間の接合をより良好なものにすること、並びに各小葉への腱取付をより良好なものにすることができる。
【0132】
ある種の実施形態によれば、前小葉602Aを少なくとも2個の腱サブセット、例えば腱サブセット腱604及び腱サブセット606を備えるものとし、それらを小葉602Aの別々な側にて小葉602Aに連結させることができる。ある種の実施形態によれば、後小葉602Pを少なくとも2個の腱サブセット、例えば腱サブセット608及び腱サブセット610を備えるものとし、それらを小葉602Pの別々な側に連結させることができる。天然の僧帽弁でそうである通り、腱は心臓の乳頭筋につなげられるべきである。より具体的には、人間の天然の僧帽弁においては、各腱サブセットが乳頭筋の別々のエリアに付いている。従って、補綴弁600を、小葉毎に少なくとも2個の腱サブセットを備えるものとし、各腱サブセットを別々の乳頭筋エリアに取り付けるようにすることで、天然の僧帽弁の構成、ひいては働きは密に模されるようにすることができる。
図6C、
図7A及び
図7Bとの関連で説明されることとなる通り、各腱サブセットをキャップによって乳頭筋につなぐことで、どの腱サブセットと乳頭筋との間の取付も確と容易なものとし、しかも十分に安定且つ丈夫なものとすることができる。各腱サブセット、例えば604、606、608及び610における腱の本数が異なっていても同じであってもよい。ある種の実施形態によれば、各腱サブセットに少なくとも2本の腱を含めることができる。
【0133】
図6Cは本件開示の諸実施形態に係る僧帽弁補綴具の上面外観の模式的描写であり、左心房から左心室の方を見下ろしている。
図6Cによれば、後小葉602Pを、取付線例えば縫合線609を介し前小葉602Aに取り付けることができる。ある種の実施形態によれば、環状部601Aを、例えば線609に沿い環状部601Pに取り付けること、並びに弁600の外側の方に向かいそれ自身の上に巻き重ねられたものとすることができる。ある種の実施形態によれば、前小葉602Aを2個の腱サブセット、例えばサブセット604及び606を備えるものとすることができ、またそれら腱サブセットそれぞれを、別々のキャップ要素700を介し別々の乳頭筋720につなぐことができる。それに倣い、後小葉602Pも2個の腱サブセット608及び610を備えるものとすることができ、また各腱サブセットを、別々のキャップ要素700を介し乳頭筋720に取り付けることができる。例えば、前腱604を第1のキャップ700によって第1の乳頭筋720につなぐ一方、後腱608もそれと同じ第1のキャップ700によって同じく第1の乳頭筋につなぐことができる。同様に、前腱606を第2のキャップ700によって第2の乳頭筋720につなぐ一方、後腱610もそれと同じ第2のキャップ700によって同じく第2の乳頭筋につなぐことができる。
【0134】
図6Dによれば、ある種の実施形態に従い、小葉602P及び602Aを単一のモノコックから切り出すこと、並びに連結例えば縫合による完全な弁の形成を縫合線609に沿い実行することができる。ある種の実施形態によれば、その患者についての手術前走査結果を踏まえ、そのレシピエント/患者の個別的な最適腱長との関連で、腱を調整することができる。
【0135】
図7A及び
図7Bは、順に、本件開示の諸実施形態に係り腱を心臓の乳頭筋につなげるキャップと、2個のキャップが腱に取り付けられている僧帽弁補綴具の、模式的描写である。ある種の実施形態によれば、キャップ700の展開構成時形状を弧形状とすることができる。ある種の実施形態によれば、キャップ700の閉構成時形状をテーパ付円錐形状に似せること、その上端702に小さな開口730を設けること、またその下端704により大きな開口を設けることができ、またその弧の端を、外科縫合706を用い互いに又は重ね合わせて縫合することで、閉構成が生じるようにすることができる。縫合706は、キャップ700を乳頭筋720の頂部上に配置するのに先立ち実行することができる。ある種の実施形態によれば、キャップ700の寸法を、各所における直径が5mm~10mm、長さが5~10mmのそれとすることができる。ある種の実施形態によれば、キャップ700をキャップ形状の単一素材片で製作することができ、また他の諸実施形態によれば、キャップ700を2個の展開されている小葉又は同素材片で製作しておき、それらを一体に縫い合わせてからいちどきに乳頭筋上へと縫い付けるように、することができる。例えば、それら2個のキャップ700構成素材片の片側に縫い糸を入れ始め、キャップ700構成部分例えばキャップ700を乳頭筋上に取り付けるための部分から出すことを繰り返すことで、それら2個のキャップ700構成部分を全面的に相互連結させたものを、心臓の乳頭筋につなげればよい。
【0136】
ある種の実施形態によれば、補綴弁600のキャップ700を、心膜(例.ヒト源泉、ウシ又はブタ由来のそれ)を巻いて閉構成にすることで形成することができる。他のある種の構成によれば、キャップをバイオメディカルポリマにより形成することができる。ある種の実施形態によれば、キャップ700のサイズを5mm又は5mm超とすることができる。ある種の実施形態によれば、僧帽弁の腱を小葉及び/又はキャップのそれと同じ素材で製作することができる。ある種の実施形態によれば、その腱を、キャップ700、前小葉602A及び後小葉602Pの採取元と同じ源泉例えば同じ動物、例えば同じ雌ウシから採取された腱とすることで、キャップ700、前小葉602A及び後小葉602Pと同じ細胞構造及び同じ起源を有するという利点を付加することができる。
【0137】
キャップ700が乳頭筋720上に配置された後、縫合糸710を用い腱例えば腱サブセット604,608をキャップ700に連結することができ、それにより腱、キャップ700及び乳頭筋720を一体に結び付けることができる。ある種の実施形態によれば、キャップ開口730によりキャップ形状を調整し乳頭筋720のそれに合わせることができるので、キャップ開口730によりキャップ700・乳頭筋720間良好フィットを達成することができる。ある種の実施形態によれば、キャップ700の一端に縫合糸710等で腱サブセット604及び608に取り付けうる一方、キャップ700の他端、典型的にはキャップ700の逆側にあり下端704の近くにある端を、縫合糸706等で心臓の乳頭筋に取り付けることができる。キャップ700は、キャップ700の下端704全周に亘り乳頭筋720につないでもよいが、実施形態によっては、キャップ700を、キャップ700の下端704の周沿いの特定部分により乳頭筋720につなぐこともある。
【0138】
ある種の実施形態によれば、腱同士を結び付けて腱束を形成することができる。腱を結び付けてできた束を、それら腱の端部(例.小葉602に連結されている腱サブセット604及び608の端部)にてキャップ700に連結することができる。ある種の実施形態に従い腱、例えば腱サブセット604及び608をキャップ700により乳頭筋720につなぐことは、腱を乳頭筋720に直につなぐことよりも容易であるし、直につなぐとより大規模な取付手順が必要になりかねない。例えばその取付方法が縫合である場合、個々の腱を乳頭筋720に縫い付けることは、それら腱を展開状態のキャップ700に縫い付けキャップ700たる大きな単一片を乳頭筋720上に縫い付けるのに比べ、複雑且つ時間消費的なことである。本件開示の補綴具を迎え入れる患者は心肺バイパス、通称人工心肺につながっているので、僧帽弁置換は速やかに実施されるのが望ましい。
【0139】
図7Aでは2個の腱サブセット604しか示されておらず2個の腱サブセット608がキャップ700に取り付けられているが、察せられるべきことに、付加的な腱をキャップ700に連結することもできる。腱サブセット604,608に含める腱を1本としても複数本としてもよい。ある種の実施形態では、
図6Cに示されている通り、僧帽弁前小葉602Aの右スカラップに発する4本の腱604と、僧帽弁後小葉602Pの左スカラップに発する4本の腱608とが、キャップ700に連結される。
【0140】
ある種の実施形態によれば、各腱サブセット604、606、608及び610がキャップ700に連結されるところを、キャップ700の外側面沿いとすることができる。他の諸実施形態によれば、補綴弁に備わる腱又はそのうち幾本かの腱を開口730経由でキャップ700に取り付けることができ、またその開口730をキャップ700の中部に所在させることができる。即ち、それらの腱を開口730内に通し、キャップ700の内側面に取り付けることができる。
【0141】
ある種の実施形態によれば、各サブセット604、606、608及び610を互いに結び付けて束の形態とし、それをキャップ700に連結することができる。
【0142】
図7Bに描かれている通り、補綴僧帽弁600は、可撓で非対称な環601を備えておりそれが2個の小葉(例.小葉602A及び602P)に取り付けられているものと、することができる。ある種の実施形態によれば、それら2個の小葉それぞれに一組の腱、例えば腱サブセット604(図示せず)、606(図示せず)、608及び610に取り付けることができる。ある種の実施形態によれば、それら2個の小葉それぞれに係る各組の腱を単一のキャップ700に取り付けること、各キャップ700により僧帽弁補綴具600を心臓の乳頭筋720につなぐこと、またそれを各腱サブセット610とそれに対応するキャップ700との連結を介し行うことができる。
【0143】
上述の通り、ある種の実施形態によれば、各腱サブセット604(図示せず)、606(図示せず)、608及び610を、前小葉及び後小葉の製作元素材と同じ素材片で製作することができる。その種の腱はそれぞれ小葉602A及び602Pの延長部と見なすことができ、一次腱と呼ぶことができる。ある種の実施形態によれば、更なる腱を前小葉602A及び後小葉602Pの両者に取り付けることができる。こうした二次腱は、それぞれ、小葉及び一次腱を構成するのに用いられているそれとは別種別体の素材片から製作することができる。それら二次腱は、各小葉602A及び602Pの下側面を一次腱沿いの一点に連結しうるよう構成することができる。一次腱沿いにある二次腱連結点はその一次腱の中部とすることができるが、実施に当たり一次腱沿いの他の個所を連結点としより良好な小葉接合の達成を図ってもよい。二次腱は、典型的には、その一端側にて前小葉602A又は後小葉602Pに縫い付け他端側にて一次腱に縫い付ければよい。二次腱を前小葉602A又は後小葉602Pそれぞれに例えば縫合により取り付ける際には、前小葉602A外面又は後小葉602P外面の外傷を回避することで、その取付線例えば縫合線沿いでの凝血を防ぐべきである。例えば顕微縫合を用いれば、小葉602Aや小葉602Pが外傷を被る機会が些少となる。二次腱の目的は、収縮期中に補綴弁の心室側に加わる圧力に抗し、その補綴弁への付加的支援を担うことにある。
【0144】
図8A及び
図8Bは、順に、本件開示のある種の実施形態にて後小葉に対し二次腱が採りうる位置と、一次及び二次腱の前小葉取付時断面の、模式的描写である。
図8Aに描かれている通り、後小葉602Pをその後端上に巻き重ねて環601を形成することができる。ある種の実施形態によれば、僧帽弁後小葉602Pを数個のエリアに区分することができる。エリア812及び814を、二次腱例えば腱603が連結されうるエリアとすることができる。他方で、後小葉602P沿いに備わるあるエリア816を無腱にすべきエリアとすること、即ちそのエリア816を二次腱が連結されるべきでないエリアとすることができる。こうするのは、エリア816が、後小葉602Pが補綴弁の一部として心臓につなげられた後、心室収縮期中に高圧が加わるエリアであるためである。ある種の実施形態によれば、エリア816のなかに、後小葉602Pの中線810から見て右側に約2~5mmまでと、後小葉602Pの中線810から見て左側に約2~5mmまでとを、含めることができる。ある種の実施形態によれば、エリア816を、後小葉602Pの中線810から見て右側に3mmまで、左側に3mmまでのところとすることができる。二次腱を適宜設計することで、心室収縮期中の圧力勾配上昇時に後小葉602Pへの付加的支援の提供を助けることができる。
【0145】
実施形態によっては、二次腱603が、展開構成時にて後小葉602Pのエリア812及び814の端部に到達しないようにすべきである。実施形態によっては、腱が、エリア812及び814の端部即ち環601の至近に連結されないようにすべきである。例えば、腱を、後小葉602Pの中線810に対し後小葉602Pの全体レイアウトのうち約20°~70°に沿いエリア812及び814沿いに所在させればよい。それ以外のエリア、即ち後小葉602Pのうち中線810から各側に約15~20°までと中線810との間に所在しているエリアを、二次腱無しに保てばよい。
【0146】
図8Bには後側僧帽弁断面が模式的に描かれており、後小葉602Pに取り付けられているときの一次及び二次腱が示されている。
図8Bに描かれている一次腱608は、小葉と同じ素材片で製作されたものである。一次腱608は、その一端側にある後小葉602Pから延びていて、その他端側にてキャップ700に取り付けられている。ある種の実施形態によれば、一次腱608同士を結び付けて束(図示せず)の形態にし、それを更にキャップ700の外側面に連結することができる。その上でキャップ700を乳頭筋720につなげばよい。
【0147】
ある種の実施形態によれば、一次腱608を二次腱603に連結するに当たり、各二次腱603の一端例えば端823を後小葉602Pに連結すること、並びに各二次腱603の逆端例えば825を一次腱沿いの接触点に連結することができる。実施形態によっては、二次腱603が、一次腱608と比べ約30~40%厚手及び幅広なものとされるべきである。望まれる補綴具にもよるが、1~4本のうち何れかの本数の二次腱を、僧帽弁後小葉(602P)の各小葉スカラップ向けに用いることができる。
【0148】
図9A及び
図9Bは、順に、本件開示のある種の実施形態に係り湾曲(楕円体/小滴)構成例えば接合面拡張用のそれを特徴とする代替設計に従い2個の小葉が取り付けられている補綴僧帽弁と、潜在的な接合面構成の、模式的描写である。
図9Aによれば、補綴僧帽弁1100を2個の小葉例えば前小葉1602A及び後小葉1602Pが備わるものとすること、各小葉1602A及び1602Pの形状を半円形状とすること、並びにそれら2個の小葉の協働で「陰陽」形状を発生させることができる。ある種の実施形態によれば、その小葉形状を、各小葉の半長に沿い半円様式にて設計することで、接合時に両小葉により「S」字状封止が生成されるようにすることができる。
【0149】
こうしたユニークな形状により、十分な前小葉1602A・後小葉1602P間接合、具体的にはエリア1120におけるそれを可能にすることができる。ある種の実施形態によれば、エリア1120沿いで前小葉1602A・後小葉1602P間に接合又は重複部を設けることができる。これと対称的に、後小葉1602P・前小葉1602A間に類似した接合又は重複エリアを設けることができる(図示せず)。先に詳述した弁600と同様、各小葉を個別の環、例えば環601A及び環601Pを備えるものとすることができ、各小葉の構成元素材の端部をそれ自体の上に巻き重ねることでその環を形成することができる。
【0150】
図9Bによれば、その接合エリアのすぐ近くに、2個の前小葉1602A・後小葉1602P間接合構造を設けることができる。ある種の実施形態によれば、補綴弁600に関してと同様、補綴弁1100も一次腱及び二次腱なる二種類の腱を備えるものとすることができる。ある種の実施形態によれば、前又は後小葉1602A及び1602Pそれぞれにとっての延長部として、一次腱を構成することができる。即ち、一次腱例えば一次腱1102A及び1102Pを、対応する小葉即ち前小葉1602A及び後小葉1602Pと同じ素材片で構成することができる。一次腱1102A及び/又は1102Pは、一端側で個々の小葉の中部から延ばし他端側でキャップに連結することができる。ある種の実施形態によれば、二次腱例えば腱1104Pを後小葉1602Pのみに取り付けることができる。二次腱例えば腱1104Pを一端側で前記後小葉1602Pの中部に、他端側で一次腱1102Pの中部に連結することができる。ある種の実施形態によれば、二次腱1104Pを付加することで生来の僧帽弁、即ち後小葉と後側の一次腱との間をつなぐ付加的で短めな腱を有するそれを、より良好に模することができる。二次腱の追加により、後小葉を、収縮期中にその後小葉に加わる圧力に耐えうるものにすること、心サイクルの収縮期中に小葉の適正接合を発生させる(即ち閉じさせる)こと、更には拡張期中にそれら小葉を開かせることができる。
【0151】
例えば、後小葉1602Pを二次腱1104Pが取り付けられたものとし、その取付個所を小葉1602Pの後縁上とすることができる。その二次腱1104Pを、更に、一次腱1102Pの中部に連結されたものとすることができる。
【0152】
ある種の実施形態によれば、各腱束及び/又は各腱をキャップ、例えばキャップ700に取り付け、それにより腱を心臓の乳頭筋につなぐことができる。
【0153】
図10は、本件開示のある種の実施形態に係る患者僧帽弁の計測コピーの模式的描写である。ある種の実施形態によれば、小葉セクションの長さ、幅及び高さの計測値を心エコー検査により得ることができ、また他の撮像法、例えば心CT、心MRI等も用いることができる。即ち、補綴僧帽弁1200の寸法及び形状を、実質的に、患者の天然又は生来の僧帽弁の厳密コピーとすることができる。
【0154】
図11には、本件開示のある種の実施形態に係る二小葉補綴具の形成が模式的に描かれている。ある種の実施形態によれば、その弁の基本部分即ち小葉セクションを、
図12に描かれている通り想定レシピエントの心臓の断面像に基づき、単一素材片1210から切り出すことができる。そのサイズの小葉セクションを切り出す要領は、1:1スケールにてその補綴具像が複製されるそれとすればよく、切り込み1220を小葉セクションの中部に沿い三日月又は半円形態にて作成することで、
図12に描かれている通り、開口1230と2個の小葉例えば前小葉1202A及び後小葉1202Pの輪郭とを、提供することができる。
【0155】
図12には、本件開示のある種の実施形態に従い小葉セクションに沿い形成された開口が模式的に描かれている。ある種の実施形態によれば、開口又はオリフィス1230を単一素材片1210内に形成する(例.切り入れる)ことができ、また開口1230の相対向側に都合2個の小葉1202A及び1202Pを形成することができる。単一素材片1210内を切ることによりオリフィス1230を設けた後、フラップ形態の2個の小葉例えば前小葉1202A及び後小葉1202Pをオリフィス1230内に陥入させることで、更に、オリフィス1230内単一方向血流即ち心臓の左心房から左心室に向かうそれを生成可能とすることができる。
【0156】
図13には、本件開示のある種の実施形態における患者の左心腔又は心室の心エコー検査又はMRI走査像が模式的に描かれている。ある種の実施形態によれば、患者の左心室1500を心エコー検査、CT又はMRI、或いはその他の撮像技術により撮像又は走査することができる。左心室1500のそうした像又は走査結果により、乳頭筋1520の突端から弁小葉1502A及び1502Pに至る、必要な患者腱の厳密な長さ、或いは実質的に厳密な長さを提供することができる。これにより、患者の解剖学的及び生理学的必要条件に見合ったカスタム化補綴僧帽弁を作成することが可能となる。
【0157】
図14A及び
図14Bは、本件開示のある種の実施形態に係り、順に拡張期,収縮期における患者左心室の模式的描写である。ある種の実施形態によれば、
図14Bに描かれている通り、収縮期左心室たる左心室1610の輪径1640が、
図14Aに描かれている拡張期左心室1612の輪径1650に比べ、小さくなりうる。拡張期においては左心室内に血液が流入し、左心室1612が血液で満たされていくため、輪径1650が大きくなる。収縮期においては、血液が左心室から患者身体の血液系へと流れた後、例えば諸組織に達しつつあるときに、血液が左心室1610を去っていく。即ち、収縮期における左心室1610の容積は拡張期における左心室1612のそれに比べ小さいので、収縮期輪径1640は拡張期輪径1650に比べ小さくなる。
【0158】
輪並びに小葉1502A及び1502Pには、心機能の再発諸相(即ち収縮期及び拡張期)にてそれらの直径及びサイズが反復的に変化する際に可撓性を呈しうることが求められるので、明白な通り、輪及び小葉を、天然の僧帽弁の構成組織と同じく弾性素材で製作するのが望ましい。そのため、ステント無し、金属環無し且つ堅固素材無しの補綴具を開示しているのであり、小葉1502A及び1502P並びに環の製造向けに選定される素材には、ある程度のコンプライアンス及び弾性が求められる。
【0159】
図15A及び
図15Bは、順に、本件開示のある種の実施形態に係り前小葉,後小葉に取り付けられている延長部の模式的描写である。ある種の実施形態によれば、
図15Aに描かれている通り、前小葉1202Aを延長部1703が備わるものとし、それに備わる付加的素材により前小葉1202Aのサイズを引き延ばすことができる。延長部1703は、約1~5mmの長さとなるよう、且つ前小葉形成用に作成された切り込み(例.
図11の切り込み1220)と実質的に同じ幅となるよう寸法設定されている。実施形態によっては、延長部1703の一端側が前小葉1202Aの縁(
図11の切り込み1220参照)に縫い付けられ、他端側が腱1704例えば
図6Aの腱604,606に似たそれを備えるものとされよう。
【0160】
図15Bに描かれている通り、後小葉1202Pを延長部1709が備わるものとし、それに備わる付加的素材により前小葉1202Pのサイズを引き延ばすことができる。延長部1709は、約1~5mmの長さ、並びに前小葉形成用に作成された切り込み(例.
図11の切り込み1220)と実質的に同じ幅となるよう寸法設定されている。実施形態によっては、延長部1709の一端側が前小葉1202Pの縁(
図11の切り込み1220参照)に縫い付けられ、他端側が腱1708例えば
図6Aの腱608,610に似たそれを備えるものとされよう。
【0161】
図15Bに描かれている通り、後小葉1202Pの一端(小葉端)には延長部1709、他端には腱1708が取り付けられている。腱1708の一端は延長部109、他端はキャップ1870、例えば
図7Aとの関連で述べたキャップと構造的に似ているキャップに連結される。前小葉1202Aの一端(小葉端)には延長部1703、他端には腱1704が取り付けられている。腱1704の一端は延長部1703、他端はキャップ1870、例えば
図7Aとの関連で述べたキャップと構造的に似ているキャップに連結される。
【0162】
各腱1704及び1708は、本願中で一次腱とも記されている数本の腱、例えば4本の一次腱で構成されうるものの、他の何本の腱として実施してもよいのであり、それは各患者の具体的必要条件次第である。ある種の実施形態によれば、腱を、上述した通り二次腱(図示せず)を備えるものとすることもできる。
【0163】
図16A及び
図16Bは、順に、本件開示のある種の実施形態に係り延長部を有し且つ腱が取り付けられている僧帽弁補綴具の、拡張期,収縮期における側面外観の模式的描写である。参照したところによれば、
図16Aは心臓が拡張期であるときの僧帽弁補綴具のプロファイルを示す僧帽弁補綴具の側面外観であり、
図16Bは心臓が拡張期であるときの僧帽弁補綴具の側面外観である。前小葉1202Aと後小葉1202Pとが、互いにある距離隔たる配置であるときには、小葉1202A・1202P間オリフィスを通じ血液が左心室内へと流れうる。延長部1703,1709により、この弁補綴具を、増強された接合プロファイルを呈するものとすることができる。各小葉1202A及び1202Pに延長部1703,1709が取り付けられていて、それにより付加的素材が前小葉及び後小葉にもたらされているため、必要な接合が収縮期にてもたらされるので、心房内への血液逆流を防ぎ収縮期にて左心室を支援することができる。
【0164】
ある種の実施形態では、延長部1703と延長部1709とが、異なるサイズ(例.長さ、幅及び形状)となるよう調製される。ある種の実施形態によれば、キャップ1870への取付に先立ち、腱1704,1708を束ね縫合により一体固定させることができる。
【0165】
延長部1703及び1709は、それぞれ、生来の心臓弁の腱に似た対応する腱(1704,1708)を担持しうるよう構成されると共に、心腔内への挿入及び心臓壁筋又は乳頭筋上への取付が想定されるものである。例えば、延長部1703により腱又は組をなす腱1704を担持することができ、また延長部1709により腱又は組をなす腱1708を担持することができる。それら少なくとも2本の腱それぞれの他端(各延長部に連結されている端とは逆の端)側を、その弁を乳頭筋に取り付けうるよう構成されているキャップ1870に、連結することができる。
【0166】
ある種の実施形態によれば、
図16Aに描かれている通り、拡張期にて、小葉1202A及び1202P並びにそれに対応する延長部1703及び1709を互いにある距離隔たる配置とし、左心房から左心室に向かい一方向に血液が流れうるようにすることができる。
【0167】
ある種の実施形態によれば、
図16Bに描かれている通り、収縮期にて、小葉1202A及び1202P並びにそれに対応する延長部1703及び1709を互いに至近な配置とし、逆方向の、即ち左心室から左心房に向かう血液の漏れ又は逆流を禁ずることができる。ある種の実施形態によれば、延長部例えば延長部1703及び1709によりその弁に必要な接合又は閉止を担い、左心室から左心房に向かう血液の逆流又は漏れを不可能にすることができる。
【0168】
ある種の実施形態によれば、延長部を切って小葉の縁にフィットさせることができ、また5mm未満とならないようにしつつ別の幅に設定して十分な接合を確保することができる。延長部の小葉への取付は、縫合、糊付け、ステープル止めその他により、小葉の縁に取り付けることで行うことができる。
【0169】
ある種の実施形態によれば、腱例えば腱1704及び1708を、心腔壁又は乳頭筋に対し例えば縫合により個別取付することができ、またその特定患者にとり最適と判別された設計に従い例えば対、四つ組等の態で一体に束ねることができる。
【0170】
ある種の実施形態によれば、腱を非対称なものとすることができる。即ち、左心腔内に2個ある乳頭筋の間で腱のサイズを違えることや、小葉延長部のどの点に発する腱かによりその長さ並びにそれらの筋の上縁からの距離を違えることができる。即ち、各腱又は腱束の長さを個人別化させ、他のそれと異なるものにすることができる。こうすることで、補綴弁の完全な閉止及び十分な接合部長が確保されることとなる。
【0171】
ある種の実施形態によれば、それぞれ小葉延長部例えば延長部1703及び1709に発する腱例えば腱1704及び1708を、前及び後小葉延長部の縁に沿い分散配置することで、その弁を生体内で動かしたときの張力をそれら小葉のマージンに沿い均等分布させること、ひいてはその補綴弁の摩損及び破損を減らすことができる。
【0172】
図17は、本件開示のある種の実施形態に係る弁補綴具の周上への非対称可撓環の取付による生来の輪の模擬の、模式的描写である。ある種の実施形態によれば、長尺素材片をそれ自身の上に巻き重ね環形状にして閉ざすこと、或いは中央に穴がある素材片をその素材の外側に向かいそれ自身の上に巻き重ねることにより、可撓環1901の形態にすることができる。ある種の実施形態によれば、巻かれてできた環1901を僧帽弁補綴具1200の周に取り付けることで、外科的取付、例えば患者の環への縫い付けが可能となるため、より良好な剛性の環を提供することができ、また弾性素材使用時には、心サイクルにおける収縮期・拡張期間変化のさなかにより良好な弾性を提供することができる。巻かれてできた環1901は、初期的に切り出された弁1200(
図10)の周にフィットさせることができる。
【0173】
ある種の実施形態によれば、その外側強化環1901を、可変弾性を呈する弾性素材で製作することで、心サイクルの拡張期,収縮期それぞれでの補綴弁の可変拡張,収縮を可能にすることができる。ある種の実施形態によれば、環1901の弾性を、3D心エコー検査診断に依拠する患者生来の環の動きの継続的診断で導出することができる。
【0174】
ある種の実施形態によれば、その強化環19010を心臓内血液環境にさらすことができ、或いはそれを巻いて弾性素材組込みサンドイッチの態にすること、またそれをその周りの小葉と同じ素材で製作することができる。
【0175】
図17に描かれている通り、補綴弁1200は、(延長部により又はそれ無しで)前小葉1202Aに取り付けうる腱1704及び1706と、(延長部により又はそれ無しで)後小葉1202Pに取り付けうる腱1708及び1710とを、備えるものとすることができる。
図16A及び
図16Bに描かれている通り、それらの腱を少なくとも2個のキャップに取り付けること、また弁1200を心臓の乳頭筋に取り付けうるようそのキャップを構成しておくことで、患者左心室への補綴僧帽弁1200の好適な装着を、その特定患者の具体的な解剖学的及び生理学的必要条件を踏まえ行うことが可能となる。
【0176】
図18A及び
図18Bは、順に、本件開示のある種の実施形態に係り巻回型の弁環内に組み込まれる弾性素材の環巻回前,環巻回後の模式的描写である。ある種の実施形態によれば、
図18A及び
図18Bに描かれている通り、弁環2201を追加の弾性素材2205が備わるものとしそれを環2201内に組み込むことができ、ひいては弾性素材2205上に環2201を巻き付け弾性素材2205を環2201内で「サンドイッチ」することができる。環2201内の追加弾性素材2205により追加的な弾性が環2201にもたらされるので、それを助けとして生来の僧帽弁の弾性特性をより良好に模すことができる。ある種の実施形態によれば、弾性素材2205を、ラバーその他、何らかの生体適合性合成素材とすることができる。ある種の実施形態によれば、弾性素材2205の形状を、その挿入先たる環2201の形状に似せること、ひいては環2201内への弾性素材2205の組込みを容易なことにすることができる。
【0177】
ある種の実施形態によれば、
図18Bに描かれている通り、環2201(例えば小葉と同じ素材で製作されたもの或いは小葉の外輪に取り付けられている代替素材延長部から製作されたもの)をその合成弁の内側方向、例えば切り込み2220の方に向かい弾性素材2205上に巻き付けること、またその切込みを三日月又は半円形態にて小葉セクションの中部に沿い製作することで、切り込み2220によりその輪郭が定まる2個の小葉間、例えば前小葉2202A・後小葉2202P間に開口を設けることができる。切り込み2220は、実のところ、それを介し血液が左心房から左心室へと流れていく実僧帽弁補綴具オリフィスである。従って、その僧帽弁補綴具の外マージンを環2201が備わるものとすること、更に環2201に小葉、例えば小葉2201A及び2202Pの主表面を連結すること、そしてそれら小葉を腱例えば腱2204によりキャップ2270を介し乳頭筋につなぐことができる。
【0178】
図19は、本件開示のある種の実施形態に係る僧帽弁補綴具作成方法が描かれている模式的フローチャートである。ある種の実施形態によれば、患者向けにカスタム化された僧帽弁補綴具を作成する方法2000に、撮像法により患者僧帽弁のサイズ及び形状を計測する操作2002を含めることができる。特定患者の僧帽弁の形状及びサイズが計測される撮像法は、心エコー検査、心CT、心MRIその他、どのような撮像法ともすることができる。方法2000には、更に、1:1スケールにて単一素材片から患者僧帽弁のレプリカを切り出す操作2004を含めることができる。ある種の実施形態によれば、方法2000に、その単一素材片に沿い切り込みを入れることにより、そのオリフィスの各側に小葉1個ずつの態で血流用オリフィス及び2個の小葉を作り出す操作2006を、含めることができる。方法2000には、撮像法により必要な腱の長さを計測する操作2008を含めることができ、またその撮像法を、操作2002でのそれの如く僧帽弁の形状及びサイズが計測される撮像法に類するものとすることができる。
【0179】
ある種の実施形態によれば、方法2000に更に、腱を心臓の乳頭筋に取り付けうるよう構成されている2個のキャップのうち1個にそれらの腱を取り付ける操作2010を、含めることができる。
【0180】
ある種の実施形態によれば、方法2000に、それら小葉上に可撓環を取り付けることによって特定患者生来の僧帽弁を模した僧帽弁補綴具全体を作り出す操作2012を、含めることができる。
【0181】
ある種の実施形態によれば、方法2000に更に、操作2008にて計測されたところに従い、腱を担持するための延長部を2個の小葉それぞれに取り付ける、というオプション的な操作を、含めることができる。それら延長部の助けにより、心サイクルの収縮期における適切な接合及び閉止を担うことができる。
【0182】
本件開示の諸実施形態に従い、天然設計個人専用化僧帽弁補綴具製造方法を実施する動機は、各患者の厳密な解剖学的寸法及び制限事項にフィットするようその個人専用化弁が製造されるため、その弁が現状の弁補綴具よりも長持ちすることが期待されることにある。個人別化補綴具は、その患者にフィットするよう製作されたものであり、秀逸な血行動態性能と補綴具植込み後の迅速又は良好な心回復とを実現可能なものであるので、入手できる最良品質補綴具の何れよりも良好に働くものとなろう。
【0183】
ここで参照する
図20Aは模式図であり、本件開示のある種の実施形態に係る個人専用化僧帽弁補綴具製造方法2020が描かれている。方法2020に係る弁補綴具は、現行慣習とは違い既製品ではない。その代わりに、操作2022での個人専用化僧帽弁補綴具の発注を経て操作2024にてリモート診断撮像走査が実行され、それを基礎として用い操作2026にて僧帽弁補綴具寸法が個人別化されるので、操作2028にて、個別患者向けに、より正確な個人専用化弁補綴具を製造することができる。ある種の実施形態によれば、方法2020に、その天然設計個人専用化僧帽弁補綴具をその特定患者への植込み用に包装及び出荷する操作2030を、含めることができる。ある種の実施形態によれば、製造2028に先立ちごく短時間の走査を行い、その個人専用化僧帽弁補綴具をその患者に全面適合させることができる。
【0184】
次に参照する
図20Bは模式的フローチャートであり、本件開示のある種の実施形態に係る個人専用化僧帽弁補綴具製造方法2040が描かれている。方法2040は方法2020と似ているが、これには別の操作を含めることができる。ある種の実施形態によれば、方法2040に、撮像法により患者生来の僧帽弁のサイズ及び形状を計測する操作2042を、含めることができる。その診断撮像技術は、2D及び3D心エコー検査法、コンピュータ断層撮像法(CT)又は心磁気共鳴法(CMR)を初めとする現行の撮像技術に限定されない。
【0185】
ある種の実施形態によれば、方法2040に更に、確認済アルゴリズムに依拠しその患者に係る僧帽弁補綴具の輪状環、小葉及び腱の幾何形状及び寸法を計算する操作2044を、含めることができる。その確認済アルゴリズム、例えば各特定患者に見合う僧帽弁補綴具寸法の決定を助ける計算については後述する。
【0186】
ある種の実施形態によれば、方法2040に、その計算を踏まえ、個人専用化補綴僧帽弁の全部品、即ち輪状環、小葉及び腱を切り出して連結する操作2046を含めることができ、またそれを、その患者の具体的な解剖学的構造及び個人的な生理機能を踏まえ患者毎に実行することで個人専用化補綴僧帽弁を形成させることができる。
【0187】
ある種の実施形態によれば、方法2040に、その個人専用化僧帽弁補綴具の製造対象患者の心臓内にその個人専用化補綴僧帽弁を植え込む操作2048を、含めることができる。
【0188】
次に参照する
図21A及び
図21Bには、順に、本件開示のある種の実施形態に係り臨床診療にて生来の僧帽弁が除去される際に保存された環状心膜縁の模式的描写と、弁補綴具の輪状環周(AC)を計算するのに用いられ径(AL-PM)を長軸、径(A-P)を短軸とする楕円輪モデルの模式的描写とが、描かれている。
【0189】
幾つかの実施形態では、以下の略語を、僧帽弁補綴具環構成部材に関し用いている:
僧帽弁輪(MA)、
輪状環周(AC)、
前後間径(A-P)、
前外後内間径(AL-PM)、
縫合部差渡し(C-C)及び
輪面積(AA)。
【0190】
僧帽弁補綴具環:
ある種の実施形態によれば、本件開示の個人専用化僧帽弁補綴具に備わる可撓輪状環の寸法を、患者生来の僧帽弁輪と整合させることができる。本件開示によれば、その僧帽弁補綴具を、以下の諸特性に基づき個人別化又は個人専用化することができる。
【0191】
第1の特性は、本補綴具の輪状環が何であれ堅固なフレームに由来する制約無しに製造されるため、患者の僧帽弁輪に対し柔順なことである。
【0192】
第2の特性は、その特定患者の診断撮像結果、例えば
図20Bの操作2022の実行結果に基づき、その補綴具輪状環の寸法のうち周と呼ばれるものが個人別化されることである。ある種の実施形態では、補綴具輪状環の寸法が、左心室収縮期中であり僧帽弁が閉じているときにおける
図21A描出の前後間径(A-P)及び
図21A描出の前外後内間径(AL-PM)の関数として、計算される。
【0193】
第3の特性は、臨床診療にて生来の僧帽弁が取り除かれる際に環状心膜縁が保存され(
図21A)、本補綴具の輪状環がその生来の心膜縁上に縫い付けられること、言い換えればその襟足状生来輪上に縫い付けられることである。本個人専用化補綴具の輪状環寸法のうち輪状環周(AC)と呼ばれるものは、等式(i)
(i) AC=f(径(A-P),径(AL-PM),d)
に従い計算することができる。但し、
径(A-P)は前後間径、
径(AL-PM)は前外後内間径、
dは輪状環の縁の幅である。
【0194】
径(AL-PM)を長軸、径(A-P)を短軸とする楕円形状輪(
図21B)から導出される近似式を用いることで、等式(ii)
(ii) AC(1)=2π(径(A-P)-2d)/2+4((径(AL-PM)-2d)/2-(径(A-P)-2d)/2)
に基づきその弁補綴具のAC(1)を計算することができる。
【0195】
実施形態によっては、本僧帽弁補綴具の輪状環周(AC)につき、患者生来の環と比べての更なる調整が必要になることがあり、その調整は通常は輪状環周(AC)のサイズ縮小となる。こうした状況下では、その僧帽弁補綴具の輪状環を、拡張輪の弁輪形成処置として、その問題に苦しむ患者の一部で役立てることができる。ある態様によれば、そのAC縮小比を0%~20%の範囲内とすることができ、またその実際値を、既存の臨床診断法により、或いはビッグデータ分析によって確立される数学的モデルにより、好適に決定することができ、また単純且つより現実的には、健康人の体表面積(BSA)に付索されている値との比較を踏まえ決定することができる。また、ある態様によれば、AC縮小が、新たな弁補綴具により小葉接合が除去されたときの補綴具植込み後の輪リモデリング(再モデル化)傾向によっても必要とされるので、その縮小比(λ)がその患者の心臓の回復見込みによっても左右されることとなる。結論として、その僧帽弁補綴具のAC(2)、即ちその個人専用化僧帽弁補綴具の輪周のより正確な値は、等式(iii)
(iii) AC(2)=[2π(径(A-P)-2d)/2+4((径(AL-PM)-2d)/2-(径(A-P)-2d)/2)]×(1-λ)
に従い計算することができる。但し、λは(生来の輪状環周から本個人専用化補綴具の輪状環への)AC縮小比である。
【0196】
ある種の実施形態によれば、AC縮小が必要なときに輪縫縮技術を用いることができる。その輪縫縮は、輪形成の際に通常実施される局所的な輪縫縮ではなく、その輪に沿った均一な輪縫縮とすることができる。本件開示の諸実施形態に係る輪縫縮は、後小葉が僧帽弁全周のうち大きい方の部分を組成しているため、後小葉輪をより重視するものとなろう。加えて、人心臓の後側輪は繊維骨格を欠いているので対称的又は非対称的な拡張が生じやすく、後側輪が拡がって小葉の遠ざかりや漏れが生じる余地がある。
【0197】
第4の特性の基本とされうるものに、本件開示に係る僧帽弁補綴具が、いわば、前小葉2210(
図22A)及び後小葉2220(
図22B)で組成される二小葉補綴弁であることがある。そのため、本弁補綴具の輪状環も、前小葉輪及び後小葉輪なる2個の部分を備えるものとすることができる。それら前小葉及び後小葉の上縁を、前外側が前外側、後内側が後内側に相対する方向に従い一体結合させることで、本僧帽弁補綴具の輪状環2230(
図22C)を形成することができる。即ち、前小葉2210の前外側が後小葉2220の前外側、前小葉2210の後内側が後小葉2220の後内側に取り付けられる。
【0198】
輪状環2230は多層小葉素材から製作されており、強化構造を有するものとすることができる。輪状環2230の高さを1mm~4mmの範囲内、より好ましくは2mm~3mmの範囲内とすることができ、それにより、臨床外科医がその弁輪を患者の心臓の僧帽弁輪に縫い付けうるようにすることができる。層の個数は、それら前小葉及び後小葉の上縁をそれら自身の上に折り重ねること又は重ね合わせることで、2個~4個とすることができる。ある種の実施形態によれば、その輪状環を、輪状環補強用の外科縫合部2316を備えるものとすることができる。
【0199】
本件開示の僧帽弁補綴具は、強化された小葉上縁たる前小葉輪及び後小葉輪の組合せで形成された、非対称輪状環を有するものとすることができる。そうした非対称輪状環の一例であり
図22A及び
図22Bに示されているものでは、前小葉輪周(AAC)2212が後小葉輪周(PAC)2222よりも小さく、その比(R)たるAAC/PACを49/51~30/70の範囲内、より好ましくは35/65~42/58の範囲内とすることができる。それら前小葉輪周(AAC)2212及び後小葉輪周(PAC)2222は、順に、等式(iv)及び(v)
(iv) AAC=AC×R/(1+R)
(v) PAC=AC×1/(1+R)
に従い計算することができる。
【0200】
次に参照する
図22D、
図22E及び
図22Fには、順に、2個の乳頭筋が指し示されている輪モデル、カスタム化された前小葉モデル並びにカスタム化された後小葉モデルが描かれている。ある種の実施形態によれば、
図22Dに示されている新たな縫合位置A及びBを用い、前小葉輪周(AAC)及び後小葉輪周(PAC)を定義することができる。それら新たな縫合位置A及びBは、2個の乳頭筋PM1及びPM2それぞれの所在個所に基づき選定することができ、それらにより前小葉例えば前小葉602A(
図6A)と後小葉例えば後小葉602P(
図6A)とを相互的に定めAAC及びPACを決めることができる。ある種の実施形態によれば、弁腱例えば腱604,606,608,610(
図6A)、前小葉及び後小葉を新たな縫合個所A及びBに基づき製造することができるので、腱を乳頭筋PM1及びPM2に縫い付ける際に、他の縫合位置例えば輪状環沿いでのそれに基づく補綴弁に比べ植込み後の歪を少なくすることができる。ある種の実施形態に従い、
図22E及び
図22Fに、それら新たな縫合位置A及びBを実施した後の前小葉及び後小葉モデルを示す。現行の輪モデルによれば、前小葉輪周(AAC)が後小葉輪周(PAC)よりもわずかに長くなりうるけれども、これは
図22A及び
図22Bの開示とは逆であり、その開示によればPACがAACよりも長くなる。現行の輪モデルにおける前小葉及び後小葉の表面積は互いに似通っているので、血圧作用下ではそれらが小葉の適切な閉止を担うことができる。
【0201】
僧帽弁補綴具小葉:
次に参照する
図23Cは、本件開示のある種の実施形態に係り、補綴具小葉接合時に互いに影響し合う複数個のパラメタの関係の模式的描写であり、
図24A及び
図24Bは、順に、本件開示のある種の実施形態に係る僧帽弁小葉接合の側面外観及び斜視外観の模式的描写である。ある種の実施形態によれば、本件開示の僧帽弁補綴具を2個の可撓で膜状の小葉が備わるものとし、それらを非対称輪状環2230から懸架することができる。それら2個の小葉は拡張期サイクルにて開いて左心房から左心室へと血液を流せるようになり、その後は収縮期サイクルにてそれら2個の小葉がぴったり閉じて心臓内血流が一方向となるので、この弁を通じた逆流はない。それら2個の小葉の寸法は、確とその補綴弁を適正に開閉させる上で肝要である。
【0202】
健康な僧帽弁の代わりであれば、その小葉長を診断撮像結果から複製して弁補綴具を誂えることができる。しかしながら、僧帽弁が機能不全であり置換する必要がある患者に関しては、前小葉長(La)及び後小葉長(Lp)の計測値は、新たな弁補綴具を個人別化又は個人専用化する上で適切でも有用でもない。その代わりに、前後間径(A-P,A2P2とも称しうる)を基準として用い、小葉接合に係る最小距離又は長さを表すことができる。前小葉長対後小葉長の比(r)は、1/1から2/1(これらは参照比)まで変化させることができる。
【0203】
実施形態によっては、小葉長が、前後間径(A-P)及び比(r)に加え接合部深度(Cd)、接合部高(CoaptH)及び腱長(Lc)によっても影響される。従って、前小葉長(ALL)及び後小葉長(PLL)を、等式(vi)及び(vii)
(vi) ALL=f(径(A-P),r,Cd,Ch,Lc)
(vii) PLL=f(径(A-P),r,Cd,Ch,Lc)
により表される通り、上述のパラメタ全ての関数とすることができる。
【0204】
ある種の実施形態によれば、前後間径(A-P)が28mm未満であるときに、動物モデルに係る経験式を用い前小葉長(ALL)及び後小葉長(PLL)を計算することができる。それらの式は、判明しているところによれば、ブタ又はヒツジモデルでうまく働き、低い平均経僧帽弁圧力勾配及び許容される小葉接合を示すものである(
図24)。その式(viii)及び(ix)は
(viii) ALL=(径(A-P))/2+10 (ミリメートル単位)
(ix) PLL=(径(A-P))/2+5 (ミリメートル単位)
の通りである。
【0205】
ある種の実施形態では、前小葉及び後小葉の上縁によりその弁補綴具の多層強化輪状環、例えば非対称輪状環2230が形成される。小葉の上縁は、真っすぐなものであれ曲がっているもの即ち半楕円状のものであれ、仕上がった弁補綴具が左心室の天然幾何形状に対しより正確にフィットすることとなっていればよい。輪状環の下方では、2個の小葉の一体結合により2個の縫合部、例えば縫合部2310及び2312(
図22C)が形成される。それら縫合部を内方傾斜させ、弁補綴具の体部に僅かな円錐形状を付与することで、その弁補綴具が形状及び輪郭の面で左心室内により良好にフィットすることとなる。その傾斜角(δ
0)は5°~20°の範囲内とすることができる。円錐角(δ
1)は、等式(x)
(x) δ
1=arctan[(2・sin(δ
0))/(π・cos(δ
0) )]
に従い、小葉の縫合部縁の傾斜角(δ
0)によって定まる。
【0206】
ある種の実施形態によれば、両小葉で傾斜角(δ0)が等しくされ、ひいては両小葉で円錐角(δ1)が等しくされる。
【0207】
ある種の実施形態によれば、補綴具小葉に備わる別の要素であり個人別化又は個人専用化されるべきものが自由縁とされる。前小葉・後小葉間縁対縁接合でその補綴弁の機能及び性能が制御される。幾何学的には、本発明における小葉自由縁は半楕円状である。その自由縁の長さは、等式(xi)
(xi) 自由縁長={2π×|ALL(又はPLL)-b-CH×cos(δ
0)-CoaptH|+4[a-CH×sin(δ
0)-|ALL(又はPLL)-b-CH×cos(δ
0)-CoaptH|]}/2
に従い計算することができる。但し、CHは、それぞれ
図22A及び
図22Bに示されている縫合部縁2214及び2216の長さを表している。
【0208】
パラメタ「a」及び「b」は、前小葉又は後小葉の上縁形状を定義及び形成するのに必要な幾何パラメタであり、その上縁形状は、
図23Aに描かれている通り「a」を長軸、「b」を短軸とする半楕円の態に湾曲されれたものか、或いは
図23Bに描かれている通り直線とされる。
【0209】
図23Bは、小葉の上縁が「a=(1/2)・AAC(PAC)」及び「b=0」なる直線とされている極端な例であり、その小葉の自由縁を等式(xi)
(xi) 自由縁長={2π×(ALL(又はPLL)-CH×cos(δ
0)-CoaptH)+4[(1/2)・AAC(又はPAC)-CH×sin(δ
0)-(ALL(又はPLL)-CH×cos(δ
0)-CoaptH)]}/2
に従い計算することができる。
【0210】
ある種の実施形態によれば、カスタム化僧帽弁補綴具小葉長を計算するための改善版アルゴリズムを提供することができる。小葉長は、効率的且つ効果的要領での弁開閉に影響を及ぼす根幹要因である。本件開示のある種の実施形態によれば、有限要素法(FEM)を用い前及び後小葉長を最適化して最適な前及び後小葉長を計算し、それにより接合を増強し且つ弁漏れを減らすことができる。この種の実施形態によれば、入来ウシ心膜データ或いはその補綴僧帽弁の製作元素材たりうる他の何らかの素材についての入来データ、例えば厚み及び素材特性の変動がまず持ち込まれ、それによりカスタム化弁設計が計算される。ウシ心膜その他の素材の厚み及び素材特性その他の特性は、その弁が開閉する要領にも影響しうる。
【0211】
次に参照する
図23Dは、FEMを用いカスタム化僧帽弁を設計する方法が描かれている模式的フローチャートである。ある種の実施形態によれば、方法2300に、患者僧帽弁関連データを提供する操作2320、例えば特定患者の天然の僧帽弁のサイズ及び形状を提供するそれを、含めることができる。その患者僧帽弁関連データには、例えば輪周長、輪径、乳頭筋位置等も含めることができる。方法2300には更に、供給された(即ち入来する)ウシ心膜の素材特性に関する入来ウシ心膜データを提供する、操作2330を含めることができる。ある種の実施形態によれば、その補綴僧帽弁の作成元素材についての入来データ、例えば入来ウシ心膜データのなかに、例えばウシ心膜厚、引張試験データ例えばヤング率、応力歪曲線等を含めることができる。
【0212】
ある種の実施形態によれば、方法2300に、補綴僧帽弁のカスタム化3Dモデルを構築し、入来ウシ心膜データ及び患者僧帽弁データ双方を入力として用いそれらに基づくFEM分析を通じてそのモデルを最適化する、操作2340を含めることができる。ある種の実施形態によれば、最適な前小葉長、最適な後小葉長、最適な腱幅等を、色々な前小葉長、後小葉長、腱幅及び付加的パラメタ並びにそれらの何らかの組合せを選んで弁パラメタ検討を行い、それを通じFEM最適化を行うことで、決定することができる。小葉変形、最大主応力、等価(フォンミーゼス)応力、小葉接触検出面積等を用い弁性能を評価しつつ、上述した弁パラメタ及びその他の弁パラメタを変化させることで、最適弁性能が実現される最適パラメタを選び出すことができる。
【0213】
ある種の実施形態によれば、方法2300にオプション的に、そのカスタム化補綴僧帽弁を視覚化する操作2350を含めることができる。実施形態によっては、方法2300にて操作2350が必要でないこともある。操作2350におけるカスタム化補綴僧帽弁3Dモデルの視覚化は、操作2340にて実行される補綴僧帽弁寸法の定式化、例えば前小葉寸法、後小葉寸法、前側周、後側周、輪径、前及び後小葉高、腱幅等のそれに従い行うことができる。ある種の実施形態によれば、方法2300に、構築された3Dモデルに従い且つ操作2350におけるモデル視覚化に後続し補綴僧帽弁を作成する操作2360を、含めることができる。
【0214】
ある種の実施形態によれば、カスタム化補綴僧帽弁設計が完成し、視覚化及び作成された後に、方法2300にて付加的な操作2370を行い、そのカスタム化補綴僧帽弁についての性能確認試験、例えば生体外流体力学チャンバ内での試験を実行することができる。
【0215】
ある種の実施形態によれば、カスタム化弁設計法に、それぞれ操作2320及び2330に関する患者僧帽弁パラメタ及び入来ウシ心膜データの提供を組み込むことができる。そうしたデータの一例が下記の表1にて提示されている。この例では、患者弁の縫合部差渡しが36mmとされている。
【表1】
【0216】
本方法では、患者にフィットするカスタム化後及び前小葉パラメタでありFEMパラメタ最適化により操作2340に従い実装されるそれが、下記の表2の如くもたらされる。
【表2】
【0217】
ある種の実施形態によれば、前小葉長(ALL)及び後小葉長(PLL)に患者僧帽弁データ、例えば縫合部差渡し、乳頭筋距離等や、入来ウシ心膜データ例えばウシ心膜厚及びヤング率の影響を及ぼさせることができる。即ち、ALL及びPLLを、順に式(xii)及び(xiii)
(xii) ALL=f(CC,DBPM,ZH,BPTH,BPYM等)
(xiii) PLL=f(CC,DBPM,ZH,BPTH,BPYM等)
に従い上述のパラメタ及び付加的パラメタの関数とすることができる。但し、
CCは縫合部差渡しを表し、
DBPMは乳頭筋間距離を表し、
ZHは乳頭筋から輪状環までのZ高を表し、
BPTHはウシ心膜厚を表し、そして
BPYMはウシ心膜ヤング率を表している。
【0218】
ある種の実施形態によれば、上述のCC36.0mmFEM関連データに基づき他の患者向けに前小葉長(ALL)及び後小葉長(PLL)を計算しうる経験式を、提唱することができる。それによる最終的な前小葉長及び後小葉長を、FEM法により確認する必要がある。ある種の実施形態によれば、ALL及びPLLを順に等式(xiv)及び(xv)
(xiv) ALL=(CC*DBPM*ZH*BPTH/BPYM)*α
(xv) PLL=(CC*DBPM*ZH*BPTH/BPYM)*β
により計算することができる。但し、
αは前小葉長増幅率例えば0.1033であり、
βは後小葉長増幅率例えば0.1033である。
【0219】
僧帽弁補綴具腱:
正常な僧帽弁では、腱が乳頭筋に発する扇状であり、小葉内へと入り込んでいる。それらは、どこに付いているかによって一次腱、二次腱及び三次腱に区分される。
【0220】
本件開示の僧帽弁補綴具には、前小葉又は後小葉の自由縁に取り付けられた一次腱のみを備えるものがある。二組の腱(
図24A)及び各組内の3本の腱(
図24B)が、各端からその自由縁のうち3/8に沿い均一に分散配置され、それらが前外側腱及び後内側腱とされるものがある。
【0221】
それらの腱は、その弁補綴具の適切な開閉を確保するという重要な役を演じている。僧帽弁の他の幾何特性に比べると、腱の幾何特性、具体的には腱長は、現状では、臨床予備診断、特に弁置換に関するそれの際にあまり検討されていない。腱計測値は、乳頭筋頂から輪平面までの距離、乳頭筋頂から接合部縁までの距離、或いは乳頭筋頂から輪までの距離として定義することができる。
【0222】
補綴具腱長を個人専用化するためには、小葉長(ALL又はPLL)、小葉接合部高(CoaptH)、小葉接合部深度(Cd)、並びに乳頭筋頂から小葉接合部縁までの距離(Lc)を関連付けることで、その複雑構造化補綴具の機能を確保しなければならない。即ち、前外側腱長(ACL)及び後内側腱長(PCL)を、下記の等式(xvi)及び(xvii)
(xvi) ACL=f(ALL,CoaptH,Cd,Lc(前外側))
(xvii) PCL=f(ALL,CoaptH,Cd,Lc(後内側))
に従い複数パラメタの関数として表現することができる。
【0223】
乳頭筋頂から接合部縁までの計測距離を補綴具腱長として用いることにより単純化された方法、即ちACL=Lc(前外側)及びPCL=Lc(後内側)とする方法も、本件開示にて導入されるものであり、設計レベルで各組3本の腱がその自由端に集合すること及びプレジット様腱キャップ2240内でまとまることとなる(
図22A及び
図22B)。臨床外科医は、オンサイト計測及び調整を実行することで、この僧帽弁補綴具の個人専用化又はカスタム化の最終部分をやり遂げることができる。
図25は、本件開示の方法に従い製造された天然設計個人専用化僧帽弁補綴具が植え込まれているヒツジ心臓の心エコー検査写真である。
【0224】
次に参照する
図26A及び
図26Bは、順に、本件開示のある種の実施形態に係る後小葉及び前小葉の模式的描写であり、腱幅及び腱距離が描かれている。ある種の実施形態によれば、腱幅(CW)、後小葉に係る腱距離(DCPL)、並びに前小葉に係る腱距離(DCAL)を、FEM法により決定することができる。CCが36.0mmである例に関して言えば、前小葉及び後小葉のどちらに関してもCWが3mmとなる。ある種の実施形態によれば、腱幅(CW)を、CC36.0mm弁であることを踏まえ等式(xviii)
(xviii) CW=(CC*DBPM*ZH*BPTH/BPYM)*γ
により計算することができる。但し、
γは腱幅増幅率例えば0.0124を表している。
【0225】
実施形態によっては、最終的な腱幅を、FEM法を用い確認する必要がある。
【0226】
ある種の実施形態によれば、後小葉における腱距離(DCPL)と前小葉における腱距離(DCAL)とを、2個の乳頭筋間の距離(DBPM)に依存させることができる。
【0227】
図27は、D字状輪状環を備える補綴僧帽弁の最終カスタム化3Dモデルの模式的描写である。この補綴僧帽弁3Dモデルは、方法2300の操作2320にて提供される患者僧帽弁データに基づき、更には操作2330にて提供される入来ウシ心膜データに基づき、構築することができる。
【0228】
図28は、方法2300の操作2340による、カスタム化補綴僧帽弁モデルのFEMシミュレーション最適化結果の模式的描写である。
図28には、閉構成時における補綴僧帽弁のFEMモデルが描かれている。明白な通り、この弁モデルの輪状環はD字状であり、天然僧帽弁の輪状環形状に似ている。
【0229】
操作2350におけるカスタム化補綴僧帽弁可視化の後、操作2360におけるカスタム化補綴僧帽弁作成に後続して、操作2370にて、そのカスタム化補綴僧帽弁の性能確認試験を実行することができる。
図29A及び
図29Bは、順に、開及び閉構成時における、流体力学試験チャンバ内の補綴僧帽弁の模式的描写である。
【0230】
図30及び
図31は、順に、ブタ心臓内に植え込まれているカスタム化補綴僧帽弁の閉構成時心エコーを表す画像と、植込み後のブタ心臓の血圧勾配を表す画像である。このカスタム化補綴僧帽弁は非常に効率的且つ効果的な要領で開閉させることができ、どのような漏れも呈さない。その最大圧力勾配は3.87mmHg、平均圧力勾配は1.61mmHgとなりえ、これはヒトの天然な僧帽弁が呈する圧力に類似している。
【0231】
以上論じてきた個人専用化幾何形状及び寸法は、様々な工学製図ソフトウェア又は製図ツール向けの入力として採用することができる。
【0232】
その図面をテンプレートとして印刷出力し、そのテンプレートに従い弁補綴具の小葉をマニュアル的に切り出すこと、例えば顕微鏡下でハンドカット(手裁断)することができる。
【0233】
その図面をマシニングツール内、例えばレーザ切断機内にプログラミングし、そのツールにてマニュアル切り出しに比べより一層精密且つ効率的に、小葉を切り出すことができる。
【0234】
その図面をやはりマシニングツール内にプログラミングすることで個人専用化モールドカッタ又はダイカッタを作成し、それを用い、レーザ切断が行われる温度よりも低い温度で小葉切出しを行うことで、切断され弁補綴具となる素材に対する熱的効果を最小化することができる。
【0235】
僧帽弁補綴具を、前外側が前外側、後内側が後内側に相対する方向に従い輪並びに前小葉及び後小葉の縫合部縁を一体結合させることで、生成することができる(
図22C)。ある方法によれば、2個の小葉の一体結合を、外科縫合糸による縫合、例えば
図22C中の縫合2314によるものとすることができる。
【0236】
上述した弁補綴具を、更に包装、ラベル付け及び滅菌を施したうえで、使用向けに、即ちその弁補綴具の個人専用化製造対象患者への植込み向けにリリースすることができる。
【0237】
作業の容易性に鑑み、上述の弁補綴具を包装に先立ち弁ホルダ上に組み付けることができる。
【0238】
本件開示の弁補綴具は、特定患者への個人別化植込み用の完成品として、移送例えば出荷することができる。
【0239】
ある種の実施形態によれば、開示されているあらゆる前小葉及び後小葉、あらゆる輪、あらゆる腱(及びあらゆる腱サブセット)、あらゆるキャップ及び/又はそれらのあらゆる組合せを天然素材から生産することができ、それにより異物例えばプレジットの入り込みを回避することができる。同種移植素材及び/又は複合素材、例えば同種移植、異種移植及び/又は自家移植素材の様々な組合せも、可撓環、小葉、腱及びキャップの作成に用いることができる。弁環及び小葉の形成元素材に含まれうるものには、これに限られるものではないが、ヒト、ウシ又はブタの心膜、脱細胞化生体補綴素材、細胞が組み込まれている生分解性織ポリマ、並びに細胞外素材がある。生分解性天然ポリマに含まれうるものには、これに限られるものではないがフィブリン、コラーゲン、キトサン、ゼラチン、ヒアルロン酸及びそれらに類似する素材がある。細胞及び細胞外マトリクス素材を浸透させうる生分解性合成ポリマスカフォルドに含まれうるものには、これに限られるものではないが、ポリ(L-ラクチド)、ポリグリコール酸、乳酸グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリオルトエステル、ポリジオキサノン、ポリ無水物、ポリトリメチレンカーボネート、ポリホスファゼン及びそれらに類似する素材がある。可撓環は、更に、その患者向けに個人別化された可撓性又は剛性を提供すべくカスタム化することができる。加えて、本僧帽弁補綴具の幾つかの構成部材、例えば腱を、その患者の自家心膜により手術中に造形することができる。
【0240】
ある種の実施形態によれば、開示されているあらゆる非対称可撓環を、前環状部及び後環状部を備えるものであれ単一ユニットとして製作されているものであれ、その又はそれらの小葉の縁をそれ自体の上に巻き重ね又は折り重ねることにより形成することができる。他の諸実施形態によれば、その可撓環を更に、少なくとも2個の素材ストランド又は層、例えばヒト、ウシ又はブタの心膜又は先に列挙した諸素材のうち何れかのそれを、備えるものとすることができ、またそれら少なくとも2個のストランド又は層を巻回し、捩じり、編み込み、或いは互いを巡りループ化することができる。コイルドコイルの態で環状構造化することで、単に小葉の縁をそれ自身の上に巻き重ねて形成される環に比べ強度を高めることができるが、そのコイルド環自体の弾性が保たれるべきである。
【0241】
ある種の実施形態によれば、その環を、弾性をもたらすべく一体に折り畳まれた2個の素材ストランド又は層を備えると共に、構造的安定性をもたらすべく第3の層が追加されたものとすることができる。ある種の実施形態によれば、その環を、ウシ心膜で製作された2個の層を備える一方、その環に強度をもたらすべく第3のストランド又は層がグリシン又はプロリンで製作されているものとすることができる。
【0242】
ある種の実施形態によれば、それら少なくとも2個の層又はストランドを互いに取り付けること、例えば縫い合わせることができる。ある種の実施形態によれば、その第3の層を、その環のそれら少なくとも2個の層に取り付けること、例えば縫い付けることができる。
【0243】
ある種の実施形態によれば、補綴僧帽弁の構成部材を幾通りかの連結方法により互いに取り付け又は連結することができる。例えば、補綴僧帽弁の構成部材を、縫い糸、ステープラ針、糊或いは他の何らかの取付手段によって相互連結することができる。
【0244】
ある種の実施形態によれば、その縫合糸又は縫い糸を非生分解性合成素材、例えばナイロン(エチロン(登録商標))、プロリーン(登録商標)(ポリプロピレン)、ノバフィル(登録商標)、ポリエステル等で製作されたものとすることができる。ある種の実施形態によれば、その縫合糸又は縫い糸を非生分解性合成素材、例えば外科用絹又は外科用綿で製作されたものとすることができる。
【0245】
ある種の実施形態によれば、そのステープラ針を生体適合性素材、例えばステンレス鋼又はチタンで製作されたものとすることができる。
【0246】
ある種の実施形態によれば、糊を生体適合性素材、例えばアルデヒドベースの糊、フィブリンシーラント、コラーゲンベースの接着剤、ポリエチレングリコールポリマ(ヒドロゲル)又はシアノアクリレートで製作されたものとすることができる。
【0247】
ある種の実施形態によれば、あらゆる小葉、あらゆる環、あらゆる腱(及びあらゆる腱サブセット)及び/又はそれらのあらゆる組合せを、患者生来の僧帽弁及びその周辺の解剖学的構造の超音波撮像を踏まえ、患者毎にカスタム化することができる。カスタム化僧帽弁を、更に、三次元情報をもたらす他の撮像方式、例えば心エコー検査、心CT及び心MRIにより得られたデータに基づき、生産することができる。そのため、本件開示の僧帽弁補綴具は、その患者の個別的な解剖学的構造と整合するよう選択又は設計することができ、それにより、その患者の周辺組織例えばその補綴具周辺の心筋における補綴具受入性向上見込みを高めることができる。
【0248】
患者への植込み準備に際しては、僧帽弁手術で通例な通り、その患者の心臓を停止させる。植込み中には、その補綴具の可撓環を縫合糸により生来の輪に固定し、乳頭キャップを生来の乳頭筋に縫い付ける。例えば、2回の縫合を生来の乳頭筋それぞれの突端に適用することで、キャップをその筋に固定することができる。臨床医は、相応な圧力下にて生理食塩水で以て心室腔を満たすこと、並びにその作用圧力により閉止される際にその置換弁の挙動及び適性をチェックすることで、確とその弁が完全開閉されるようにする。植込み後は、心臓閉胸及び心拍再開の後に、経食道心エコー検査(TEE)で以てその弁を調べる。
【0249】
必要であれば、植込み後に対象者を抗凝血剤療法に委ねることができる。天然形状及び天然素材を用い本発明の僧帽弁補綴具が構成されている場合は、大抵の患者で小投与量の抗凝血剤療法又は抗凝血剤療法無しとされることが見込まれる。
【0250】
現在入手可能な生体式及び機械式補綴具には、大きな異物が入り込む、強い抗凝血剤療法が必要とされる、耐用期間が短いため置換所要時に患者が次の手術を受けねばならない、植込みからの効率的回復という点では心臓の助けとならない等、幾つかの短所がある。本発明には、上述した生体式及び機械式の補綴具に勝る幾つかの長所がある。患者生来の僧帽弁に対しより密に整合する設計であり、天然素材から作成されているので、本願記載の僧帽弁補綴具では、患者回復所要時間が短くなること、耐用期間が長くなること、並びに抗凝血剤療法の必要性が減り又はなくなることが見込まれる。
【0251】
本願にて引用された全ての特許、公開済出願及び参照文献による教示の全容を、参照により本願に繰り入れる。
【0252】
その例示的諸実施形態を参照し本発明を具体的に図示及び記述したが、ご理解頂けるように、本件技術分野に習熟した者(いわゆる当業者)には、添付されている諸請求項により包括される発明の技術的範囲から離隔することなく形態及び細部に様々な改変を施せることが、理解されよう。