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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】誘電体材料およびキャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H01G 7/00 20060101AFI20250430BHJP
   H01G 4/14 20060101ALI20250430BHJP
【FI】
H01G7/00 Z
H01G4/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022542845
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2021029454
(87)【国際公開番号】W WO2022034870
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2024-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2020137063
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年9月6日筑波大学において開催された社団法人日本液晶学会討論会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】荒岡 史人
(72)【発明者】
【氏名】西川 浩矢
【審査官】西間木 祐紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-156449(JP,A)
【文献】特開平6-263691(JP,A)
【文献】特開平4-3947(JP,A)
【文献】特開昭55-27609(JP,A)
【文献】特開2006-227220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 7/00
H01G 4/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電率異方性を有するネマチック液晶化合物と、
基底状態でトランス異性体であるアゾ化合物と、
を含有し、
前記アゾ化合物は、
第1波長の光を吸収するとシス異性体に変換され、
第1波長よりも波長が長い第2波長の光を吸収するとトランス異性体に変換される、
誘電体材料。
【請求項2】
前記ネマチック液晶化合物が、1000以上の比誘電率を有する、請求項1に記載の誘電体材料。
【請求項3】
前記ネマチック液晶化合物が、ハロゲノビフェニルとハロゲノフェニルジオキサン誘導体とのエステル化合物である、請求項1または2に記載の誘電体材料。
【請求項4】
前記第1波長が300nm以上390nm以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の誘電体材料。
【請求項5】
前記第2波長が400nm以上490nm以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の誘電体材料。
【請求項6】
前記アゾ化合物が、アゾベンゼン誘導体である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の誘電体材料。
【請求項7】
アゾベンゼン誘導体が、ジメチルブチルアゾベンゼン化合物である、請求項6に記載の誘電体材料。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の誘電体材料を用いたキャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体材料およびキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の誘電体材料は、静電容量が変化する性質を利用して、キャパシタの誘電体などに用いられる。このような誘電体材料としては、例えば、チタン酸バリウム等の強誘電体を用いたものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-55745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、誘電率の変化量が大きい誘電体材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る誘電体材料は、誘電率異方性を有するネマチック液晶化合物と、基底状態でトランス異性体であるアゾ化合物と、を含有し、前記アゾ化合物は、第1波長の光を吸収するとシス異性体に変換され、第1波長よりも波長が長い第2波長の光を吸収するとトランス異性体に変換される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、誘電率の変化量が大きい誘電体材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】誘電体材料に含まれるネマチック液晶化合物の一般式。
図2図1の一般式における置換基の化学式。
図3】ネマチック液晶化合物の具体例を示す一般式。
図4】ネマチック液晶化合物の一例を示す化学式。
図5】ネマチック液晶化合物の他の一例を示す化学式。
図6】誘電体材料に含まれるアゾ化合物(トランス異性体)の一例を示す化学式。
図7】誘電体材料に含まれるアゾ化合物(シス異性体)の一例を示す化学式。
図8】アゾ化合物の他の例(ヘテロアレーン型アゾ化合物)を示す化学式。
図9】アゾ化合物の他の例(ジハロゲノボラン配位型アゾ化合物)を示す化学式。
図10】誘電体材料の性能を評価するための評価セルを示す図。
図11図10の評価セルに誘電体材料が充填される状態を示す図。
図12図11で誘電体材料が充填された評価セルを示す図。
図13図12で評価セルに紫外線を照射する状態を示す図。
図14図13で紫外線を照射した後の評価セルに可視光線を照射した状態を示す図。
図15】誘電体材料の性能を評価するための評価システムを示す図。
図16】ネマチック液晶化合物、アゾ化合物(トランス異性体)における、吸収波長と吸光度の関係を示すグラフ。
図17】初期(紫外線および可視光線を照射する前)、紫外線照射後、および可視光線照射後の誘電体材料における、誘電体材料の吸収波長と吸光度の関係を示すグラフ。
図18】誘電体材料、およびネマチック液晶化合物における、温度と比誘電率の関係を示すグラフ。
図19】初期(紫外線未照射で可視光線照射後)、紫外線照射後、および可視光線再照射後の誘電体材料の、周波数と比誘電率の関係を示すグラフ。
図20】初期(紫外線および可視光線を照射する前)の誘電体材料の組織を示す偏光顕微鏡画像。
図21】紫外線照射後の誘電体材料の組織を示す偏光顕微鏡画像。
図22】可視光線照射後の誘電体材料の組織を示す偏光顕微鏡画像。
図23】誘電体材料の紫外線照射時の照射時間と静電容量の関係を示すグラフ。
図24】誘電体材料の紫外線照射時の照射時間と発振周波数の関係を示すグラフ。
図25】誘電体材料の可視光線照射時の照射時間と静電容量の関係を示すグラフ。
図26】誘電体材料の可視光線照射時の照射時間と発振周波数の関係を示すグラフ。
図27】誘電体材料における紫外線の照射強度と比誘電率の関係を示すグラフ。
図28】誘電体材料における可視光線の照射強度と比誘電率の関係を示すグラフ。
図29】誘電体材料の紫外線照射後の経時変化を示すグラフ。
図30】誘電体材料(アゾ化合物がBDMABの場合)の紫外線照射後の経時変化を示すグラフ。
図31】初期(紫外線未照射で可視光線照射後)、紫外線照射後、および可視光線照射後の誘電体材料(アゾ化合物がBDMABの場合)の、周波数と比誘電率の関係を示すグラフ。
図32】誘電体材料(アゾ化合物がBDMABの場合)における紫外線の照射強度と比誘電率の関係を示すグラフ。
図33】誘電体材料(アゾ化合物がBDMABの場合)における可視光線の照射強度と比誘電率の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分については、同一のまたは対応する符号を付して説明を省略する場合がある。
【0009】
本実施形態に係る誘電体材料は、誘電率異方性を有するネマチック液晶化合物と、基底状態でトランス異性体であるアゾ化合物と、を含有し、該アゾ化合物は、第1波長の光を吸収するとシス異性体に変換され、第1波長よりも波長が長い第2波長の光を吸収するとトランス異性体に変換される。
【0010】
本明細書において、誘電体材料は、本実施形態に係る誘電体材料の一例である。誘電体材料は、誘電分極を生じ、正の電荷を帯びる部分と負の電荷を帯びる部分とに分かれる物質の素材である。誘電体材料は、ネマチック液晶化合物とアゾ化合物とを含有する。
【0011】
ネマチック液晶化合物は、構成分子が配向秩序を持つが、三次元的な位置秩序を持たない流動性のある液体様の物質である。本実施形態では、ネマチック液晶化合物が誘電率異方性を有する。ここで、誘電率異方性とは、分極のしやすさに異方性があることを示す。
【0012】
誘電率異方性を有するネマチック液晶化合物の比誘電率は、特に限定されないが、好ましくは、1000以上、より好ましくは5000以上20000以下、さらに好ましくは8000以上15000以下である。本明細書において、比誘電率は、媒質の誘電率と真空の誘電率の比(ε/ε=ε)を示す。
【0013】
ネマチック液晶化合物の成分は、特に限定されないが、例えば、図1の一般式(1)で示される化合物である。
【0014】
図1の式(1)中、R11は、P11-Sp11-、水素、または炭素数1~20のアルキルであり、このアルキル中の任意の-CH-は、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-、-CF=CF-、または-C≡C-で置き換えられてもよく、このアルキル基中の任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよい。ここで、P11は重合性基を表し、Sp11は単結合またはスペーサー基を表す。
【0015】
11は、好ましくは、炭素数1~7のアルキルであり、このアルキル中の任意の-CH-が、-O-、-CH=CH-、または-C≡C-で置き換えられてもよく、該アルキル基の任意の水素がハロゲンに置き換えられてもよい。
【0016】
12は、P12-Sp12-、水素、ハロゲン、-CN、-N=C=O、-N=C=S、-CF、-OCF、または炭素数1~3のアルキルである。このアルキル中の任意の-CH-は、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-、-CF=CF-、または-C≡C-で置き換えられてもよく、このアルキル中の任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく、このアルキル中の-CHは-CNで置き換えられてもよい。
【0017】
ここで、P12は重合性基を表し、Sp12は単結合またはスペーサー基を表す。好ましくは、R12は、ハロゲン、-CN、-N=C=S、-CF、-OCF、または炭素数1~3のアルキルであり、このアルキルの任意の水素がハロゲンで置き換えられていてもよい。
【0018】
11~A15は独立に、5~8員環または炭素数9以上の縮合環であり、これらの環の任意の水素がハロゲン、炭素数1~5のアルキル、またはハロゲン化アルキルで置き換えられてもよい。
【0019】
この炭素数1~5のアルキルまたはハロゲン化アルキルの任意の-CH-は、-O-、-S-、または-NH-で置き換えられてもよく、該環の-CH-は、-O-、-S-、または-NH-で置き換えられてもよく、該環の-CH=は、-N=で置き換えられてもよい。
【0020】
好ましくは、A11~A14が、図2に示す(A-1)~(A-5)からなる群から選択される環であり、A15が、図2に示す(A-1)~(A-3)からなる群から選択される環である。
【0021】
11~Z14は独立に、単結合または炭素数1~8のアルキレンであり、このアルキレン中の任意の-CH-は、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-CSO-、-OCS-、-N=N-、-CH=N-、-N=CH-、-N(O)=N-、-N=N(O)-、-CH=CH-、-CF=CF-、または-C≡C-で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよい。
【0022】
好ましくは、Z11~Z14は独立に、単結合、-COO-、または-CFO-である。より好ましくは、Z11~Z14のうちの少なくとも一つは、-COO-または-CFO-である。
【0023】
そして、n11~n13は独立に、0または1であるが、好ましくは、n11~n13の合計(n11+n12+n13)が2または3である。
【0024】
また、ネマチック液晶化合物は、図3に示す式(2)および式(3)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含んでいてもよい。これらの化学式で表される化合物は、ネマチック液晶化合物中に60重量%以上、好ましくは80重量%以上含んでいてもよい。
【0025】
図3の式(2)中、R21は、炭素数1~12のアルキル、炭素数2~12のアルケニル、または炭素数1~11のアルコキシであり、Z21およびZ22は独立に、単結合、-COO-、または-CFO-であり、X21は、フッ素、塩素、-CF、または-OCFであり、L21~L23は独立に、水素またはフッ素である。
【0026】
また、図3の式(3)中、R31は、炭素数1~12のアルキルまたは炭素数1~11のアルコキシアルキルであり、Z31およびZ32は独立に、単結合、-COO-、または-CFO-であり、X31は、フッ素、塩素、-CF、または-OCFであり、L31~L34は独立に、水素またはフッ素である。
【0027】
ネマチック液晶化合物は、これらの中でも、上記式(3)に示す化合物が好ましく、より好ましくは上記式(3)に示す化合物のR31が炭素数3のアルキル基であり、L33が水素であり、Z32が単結合であり、L31、L32、L34、およびX31がフッ素であり、Z31が-COO-である図4の下記式(4)で表される、ハロゲノビフェニルとハロゲノフェニルジオキサン誘導体とのエステル化合物(以下、DIOと表記する)である。
【0028】
なお、図4に示すDIO(ハロゲノビフェニルとハロゲノフェニルジオキサン誘導体とのエステル化合物)は、比誘電率が10000以上の誘電率異方性を有するネマチック液晶化合物として知られている。したがって、このDIOは、本実施形態の誘電体材料に用いられるネマチック液晶化合物(比誘電率が1000以上の誘電率異方性を有するネマチック液晶化合物)として好適である。
【0029】
また、比誘電率が1000以上の誘電率異方性を有するネマチック液晶化合物としては、DIOの他にも、図5に示す4-[(4-ニトロフェノキシ)カルボニル]フェニル2,4-ジメトキシ安息香酸(以下、RM734と表記する)が知られている。したがって、本実施形態の誘電体材料に用いられるネマチック液晶化合物(比誘電率が1000以上の誘電率異方性を有するネマチック液晶化合物)としては、DIOの他にも、このRM734を適用できると考えられる。
【0030】
なお、本発明のネマチック液晶化合物は、上記式(1)~(4)に示す化合物のうちの少なくとも1種の化合物と高分子化合物との複合材料であってもよく、例えば、ネマチック液晶化合物内に高分子のネットワークが形成されていてもよい。
【0031】
アゾ化合物は、基底状態でトランス異性体である。本明細書において、アゾ化合物は、アゾ基(-N=N-)をもつ有機化合物を示す。基底状態とは、エネルギーの最も低い状態を示す。トランス異性体は、アゾ基のアゾ基を挟んだ両側に異なる2つの置換基を持つ場合に、アゾ基の二重結合を軸として置換基が反対側に結合した異性体を示す。以下、トランス異性体は、トランス体、またはトランス型という場合がある。
【0032】
また、アゾ化合物は、第1波長の光を吸収するとシス異性体に変換される。本明細書において、シス異性体は、アゾ基のアゾ基を挟んだ両側に異なる2つの置換基を持つ場合に、アゾ基の二重結合を軸として置換基が同じ側に結合した異性体を示す。以下、シス異性体は、シス体、またはシス型という場合がある。ここで、第1波長の光は、所与の波長を有する電磁波(例えば、紫外線、可視光線、赤外線)を示す。
【0033】
第1波長の長さは、特に限定されず、例えば300nm以上390nm以下であり、好ましくは310nm以上380nm以下、より好ましくは320nm以上370nm以下である。なお、300nm以上390nm以下の波長をもつ光(電磁波)は、紫外光(紫外線)の性質を持つ。
【0034】
さらに、アゾ化合物は、第1波長よりも波長が長い第2波長の光を吸収するとトランス体に変換される。ここで、第2波長の光は、第1波長よりも長い波長を有する電磁波を示す。例えば、第1波長の電磁波が紫外線(UV)の場合は、第2波長の電磁波は可視光線(VIS)または赤外線(IR)である。
【0035】
第2波長の長さは、特に限定されず、例えば400nm以上490nm以下であり、好ましくは410nm以上480nm以下、より好ましくは420nm以上470nm以下である。なお、400nm以上490nm以下の波長をもつ光(電磁波)は、可視光(可視光線)の性質を持つ。
【0036】
アゾ化合物は、特に限定されないが、上述の光学特性を有する観点から、アゾベンゼン誘導体であることが好ましい。アゾベンゼンは、2個のベンゼン環が-N=N-二重結合(アゾ基)でつながった構造(C-N=N-C)を有する化合物であり、アゾベンゼン誘電体は、このようなアゾベンゼンの誘電体である。
【0037】
アゾベンゼン誘電体は、上述の光学特性を有する観点から、図6図7に示すようにシス-トランス異性体を有するものであることが好ましい。このようなアゾベンゼン誘電体は、例えば、アゾベンゼン骨格の両端の少なくとも一方がアルキル基、アルコキシ基で置換され、他方がアルキル基、アルコキシ基、シアノ基、メトキシ基、ハロゲノ基などで置換されたアゾベンゼン化合物を用いることができる。
【0038】
アゾベンゼン誘電体は、これらの中でも、アゾベンゼン骨格の両端の一方がアルキル基で置換され、他方がアルコキシ基で置換されたアルキルアルコキシアゾベンゼン化合物であることが好ましい。
【0039】
アルキルアルコキシアゾベンゼン化合物の具体例としては、図6の式(6)で表されるアルキルアルコキシアゾベンゼン化合物において、Rが水素である4-ブチル-4'-メトキシアゾベンゼン(以下、BMABと表記する)、あるいはRがメチル基である4-ブチル-2、5-ジメチル-4'-メトキシアゾベンゼン(以下、BDMABと表記する)等が挙げられる。
【0040】
なお、図6の式(6)に示すアゾベンゼン化合物は、トランス体を示し、具体的には、基底状態のトランス異性体、または第2波長の光を吸収してシス異性体から変換したトランス異性体を示す。また、図7の式(7)に示すアゾベンゼン化合物は、図6の式(6)を示すアゾベンゼン化合物に対してシス異性体を示し、具体的には、第1波長の光を吸収してトランス異性体から変換したシス異性体を示す。
【0041】
なお、本実施形態の誘電体材料に含まれるアゾ化合物(基底状態でトランス異性体であり、第1波長の光を吸収するとシス異性体に変換され、第1波長よりも波長が長い第2波長の光を吸収するとトランス異性体に変換されるアゾ化合物)としては、BMAB、BDMABの他にも、図8の式(8-1)~(8-12)で表されるヘテロアレーン型アゾ化合物、及び図9の式(9)で表されるジハロゲノボラン配位型アゾ化合物が挙げられる。
【0042】
ここで、図8を示す式(8-1)では、Rがメチル基、Rが水素またはメチル基、Rが水素、Rが水素またはメチル基である。式(8-2)では、Rがメチル基、Rがメチル基、Rがメチル基、R4が水素またはメチル基である。式(8-3)では、Rが水素またはメチル基、Rがメチル基、Rが水素またはメチル基である。式(8-4)では、Rが水素またはメチル基、Rがメチル基、Rが水素またはメチル基である。式(8-5)では、Rがメチル基、Rが水素、Rが水素またはメチル基である。式(8-6)では、Rがメチル基、Rが水素、Rが水素である。式(8-7)では、Rが水素、Rがメチル基、Rが水素である。式(8-8)では、Rがメチル基、Rが水素、Rが水素である。式(8-9)では、Rが水素、Rがトリチル基、Rが水素である。式(8-10)では、Rがメチル基、Rが水素、Rが水素である。式(8-11)では、Rがメチル基、Rが水素である。式(8-12)では、Rがニトロジメチルスルホン基、Rが水素、Rが水素である。
【0043】
また、図9の式(9)では、Rが水素、Rが水素、メトキシ基、ニトロジメチル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、メチルピペラジニル基、またはモルホリニル基、Rが水素、Rが水素、またはメトキシ基である。
【0044】
したがって、本実施形態の誘電体材料に用いられるアゾ化合物(基底状態でトランス異性体であり、第1波長の光を吸収するとシス異性体に変換され、第1波長よりも波長が長い第2波長の光を吸収するとトランス異性体に変換されるアゾ化合物)としては、BMAB、BDMABの他にも、この図8に示すヘテロアレーン型アゾ化合物、または図9に示すジハロゲノボラン配位型アゾ化合物を適用することができると考えられる。
【0045】
誘電体材料中のネマチック液晶化合物とアゾ化合物との含有量は、任意であるが、好ましくはネマチック液晶化合物100重量%に対してアゾ化合物0.1重量%以上10重量%以下であり、好ましくは0.5重量%以上5重量%、より好ましくは1重量%以上4重量%である。
【0046】
誘電体材料中の製造方法は、任意であり、例えば、ネマチック液晶化合物100重量%とアゾ化合物2重量%を室温の有機溶媒中で撹拌し、ネマチック液晶化合物とアゾ化合物との混合溶液を作製し、これを加熱下で減圧蒸留して室温で固化することにより誘電体材料が得られる。
【0047】
なお、本実施形態の誘電体材料は、誘電体材料の効果を損なわない範囲で他の成分が含まれていてもよい。例えば、誘電体材料に含まれるネマチック液晶化合物にメソゲンを有さない重合体および/または、メソゲンを有する重合体を含んでいてもよい。また、メソゲンを有する重合体として、末端にR11としてP11-Sp11-を有する一般式(1)に示す化合物が重合してできた重合体を含んでいてもよい。
【0048】
重合性基P11は、例えばアクリル基、メタクリル基、ビニル基、イソシアナート基、イソチオシアナート基、エポキシ基、アジリジン基、またはアズラクトン基等である。該重合体には、誘電体材料の効果を損なわない範囲で、重合開始剤、硬化剤、触媒、安定剤、二色性色素、またはフォトクロミック化合物等を、含まれていてもよい。
【0049】
また、本実施形態の誘電体材料は、重合性基を含む化合物、または、別の重合性化合物を用いることによって、誘電体材料に含まれる誘電率異方性を有するネマチック液晶化合物の性質(高誘電率等の特性)を有する可塑性部材を形成することができる。
【0050】
さらに、本実施形態の誘電体材料は、誘電体材料の効果を損なわない範囲で充填剤(フィラー)を含有していてもよい。充填剤としては、例えば、光透過性材料が好ましい。
【0051】
光透過性材料としては、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、エポキシ系樹脂やオキセタン系樹脂のような環状エーテル系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリシラン、ポリシラザン、ベンゾシクロブテン系樹脂やノルボルネン系樹脂等の環状オレフィン系樹脂のような各種樹脂材料の他、石英ガラス、ホウケイ酸ガラスのような各種ガラス材料、サファイア、水晶のような各種結晶材料等を用いることができ、これらの中でも可撓性を有する充填剤を用いるのが好ましい。
【0052】
本実施形態に係るキャパシタは、該キャパシタを構成する誘電体として、上述の誘電体材料が用いられている。本実施形態のキャパシタにおいて、誘電体材料を適用する態様は、任意であり、既存の手法によりキャパシタの電極間に配置することができる。
【0053】
以下、実施形態の効果について説明する。本実施形態の誘電体材料は、上述のように、誘電率異方性を有するネマチック液晶化合物と、基底状態でトランス異性体であり、第1波長の光を吸収するとシス異性体に変換され、第1波長よりも波長が長い第2波長の光を吸収するとトランス異性体に変換されるアゾ化合物とを含有する。これにより、誘電率の変化量が大きい誘電体材料を得ることができる。
【0054】
具体的には、誘電体材料が第1波長の光を吸収すると、誘電体材料に含まれるアゾ化合物が、トランス異性体(図6)からシス異性体(図7)に変換され、誘電体材料中でアゾ化合物が屈曲する(またはねじれる)。
【0055】
そうすると、屈曲したシス型のアゾ化合物の作用により、あるいはアゾ化合物に生じた電気分極により、誘電体材料に含まれるネマチック液晶化合物(図3)に擾乱が生じる。これにより、誘電体材料中でネマチック液晶化合物の配向構造が崩れ、誘電体材料の誘電率が大きく減少するものと考えられる。
【0056】
また、誘電体材料が第2波長の光を吸収すると、誘電体材料に含まれるアゾ化合物がシス異性体(図7)からトランス異性体(図6)に変換され、誘電体材料中でアゾ化合物は元の状態に戻る(図6)。そうすると、アゾ化合物の屈曲状態あるいは分極状態が解消され、誘電体材料に含まれるネマチック液晶化合物(図4)の擾乱が解消する。
【0057】
これにより、誘電体材料中でネマチック液晶化合物の配向構造が元の状態(または元に近い状態)に戻り、誘電体材料の誘電率は大きく増加し、元の誘電率(または元に近い誘電率)を示すものと考えられる。
【0058】
さらに、第1波長の光と第2波長の光を交互に吸収することにより、本実施形態の誘電体材料は、シス体とトランス体の相互の変換を可逆的に行うことができる。このように、本実施形態の誘電体材料は、波長の異なる2種類の光を交互に吸収することにより、誘電率の大幅な増減を繰り返すことができる。そのため、本実施形態の誘電体材料は、光照射による誘電率の制御が可能となり、誘電率の変化量を大きくすることができる。
【0059】
本実施形態の誘電体材料は、上述のように、光照射により誘電率の変化量を大きく制御することができるため、キャパシタの電極間に配置される誘電体に適用することができる。
【0060】
また、本実施形態の誘電体材料は、上述のように、ネマチック液晶化合物およびアゾ化合物を含有し、ネマチック液晶化合物およびアゾ化合物はいずれも可撓性を有する有機化合物であるため、フレキシブルな誘電体材料を構成することができる。そのため、本実施形態の誘電体材料は、ウェアラブルデバイス等の柔軟性が要求されるデバイスに利用することができる。
【0061】
本実施形態では、上述のように、誘電体材料に含まれるネマチック液晶化合物として、比誘電率が1000以上のネマチック液晶化合物を用いることにより、変化する誘電率の上限を高くすることができる。これにより、本実施形態によれば、誘電体材料における誘電率の変化量をさらに大きくすることができる。
【0062】
本実施形態の誘電体材料は、上述のように、誘電体材料に含まれるネマチック液晶化合物として、DIO(ハロゲノビフェニルとハロゲノフェニルジオキサン誘導体とのエステル化合物)を用いることで、DIOは10000を超える比誘電率を有するため、比誘電率が1000以上のネマチック液晶化合物を含有する誘電体材料を高い精度で実現することができる。
【0063】
本実施形態では、第1波長の範囲を300nm以上390nm以下に調整することで、アゾ化合物に紫外線を照射することができる。紫外線は電磁波の中でもエネルギー強度が高いため、エネルギー状態の低い基底状態のアゾ化合物は、このような紫外線を吸収することにより、エネルギー状態の高い励起状態になりやすい。
【0064】
そのため、本実施形態では、紫外線に相当する第1波長を誘電体材料に照射することで、誘電体材料中のアゾ化合物はトランス体からシス体に変換しやすくなる。これにより、本実施形態では、誘電体材料に含まれるネマチック液晶化合物に擾乱が生じやすくなり、誘電体材料中でネマチック液晶化合物の配向構造が崩れ、誘電体材料の誘電率の大きな減少を高い精度で実現することができる。
【0065】
本実施形態では、第2波長の範囲を400nm以上490nm以下に調整することで、アゾ化合物に可視光線を照射することができる。可視光線は、紫外線よりもエネルギー強度が低いため、エネルギー状態の高い励起状態のアゾ化合物は、このような可視光線を吸収することにより、エネルギー状態の低い基底状態になりやすい。
【0066】
そのため、本実施形態では、可視光線に相当する第2波長を誘電体材料に照射することで、誘電体材料中のアゾ化合物はシス体からトランス体に変換しやすくなる。これにより、本実施形態では、誘電体材料に含まれるネマチック液晶化合物の擾乱が解消されやすくなり、誘電体材料中でネマチック液晶化合物の配向構造が元の状態に戻り、誘電体材料の誘電率の大きな増加を高い精度で実現することができる。
【0067】
本実施形態では、上述のように、誘電体材料に含まれるアゾ化合物として、アゾベンゼン誘導体を用いることで、アゾベンゼン誘導体はトランス異性体からシス異性体に変換される際の屈曲またはねじれが大きいため、あるいはシス異性体の持つ電気分極が大きいため、誘電体材料中のアゾベンゼン誘導体の作用によりネマチック液晶化合物に擾乱を大きくすることができる。
【0068】
そのため、誘電体材料中でネマチック液晶化合物の配向構造を大きく崩すことができ、誘電体材料の誘電率の減少をさらに大きくすることができる。
【0069】
本実施形態では、上述のように、誘電体材料に含まれるアゾ化合物としてアゾベンゼン誘導体の中でもジメチルブチルアゾベンゼン化合物を用いることで、ジメチルブチルアゾベンゼン化合物は、トランス異性体からシス異性体に変換される際の屈曲またはねじれが非常に安定しているため、誘電体材料中で屈曲したアゾベンゼン誘導体の作用によるネマチック液晶化合物に生じる擾乱をさらに安定に引き起こすことができる。
【0070】
そのため、誘電体材料中でネマチック液晶化合物の配向構造をさらに長期的に崩すことができ、誘電体材料の誘電率の減少状態を長期間にわたって維持することができる。
【0071】
本実施形態のキャパシタでは、上述のように、本実施形態の誘電体材料を用いることで、光応答により誘電率(静電容量)を変調することができる従来にないキャパシタを構成することができる。また、このようなキャパシタは、誘電率(静電容量)の変化量を大きくすることができるため、大容量の充放電が可能なキャパシタ、急速充放電が可能なキャパシタ等を実現することができる。
【0072】
また、本実施形態キャパシタは、該キャパシタを構成する誘電体として、上述のように、フレキシブルな誘電体材料が用いられている。そのため、本実施形態のキャパシタは、ウェアラブルデバイス等の柔軟性が要求されるデバイスに利用することができる。
【実施例
【0073】
以下、本実施形態について、実施例により詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、各種の試験および評価は、下記の方法に従う。また、誘電率は、比誘電率を意味する。
【0074】
<試料>
誘電体材料の試料を作製した。具体的には、ネマチック液晶化合物として図4の下記式(4)で表されるDIO(ハロゲノビフェニルとハロゲノフェニルジオキサン誘導体とのエステル化合物)100重量%と、アゾ化合物として図6の式(6)で表されるBMAB(4-ブチル-4'-メトキシアゾベンゼン)2重量%、またはBDMAB(4-ブチル-2、5-ジメチル-4'-メトキシアゾベンゼン)2重量%とを、アルミニウム製パン内で120℃で5分間ピペッティングして混合溶液を作製した。
【0075】
これを室温で冷却して固体の試料を得た。以下、DIOとBMABを含有する誘電体材料をBMAB/DIOと表記し、DIOとBDMABを含有する誘電体材料をBDMAB/DIOと表記する。
【0076】
<評価セル>
誘電体材料の性能を評価するための評価セル10を作成した。評価セル10は、図10に示すように、セル11、電極12、集電体13、14、配線15、16、リード線17、18を備える。セル11は、ITO(酸化インジウムスズ)製の面積が50mm、上面と下面で挟まれた間隔が14μmの空間と図示しない開口を有する。
【0077】
電極12は、セル11の空間内の下面側に形成され、試料の電荷を検出する正極と負極を構成する。集電体13、14は、電極12の正極と負極に接続され、配線15、16は、電極12と集電体13、14との間に配置され、リード線17、18は、集電体13、14に接続されて外部と電気的に接続されている(図10)。
【0078】
セル11には、セル11の開口から誘電体材料の試料(ネマチック液晶化合物中のアゾ化合物の含有量が2重量%)がセル11の空間に充填され(図11)、試料20が充填された評価セル10が完成する(図12)。なお、評価セル10には、誘電体材料に含まれるネマチック液晶化合物、アゾ化合物がそれぞれ単体で充填された評価セル10も作製した。
【0079】
これらの評価セル10には、後述する紫外可視LED光源30から紫外線および可視光線が照射される。なお、紫外可視LED光源30は、紫外線を照射する場合は紫外光源31を構成し、可視光線を照射する場合は可視光源32を構成する(図13図14)。
【0080】
<評価システム>
誘電体材料の性能を評価するための評価システムを構築した。評価システムは、図15に示すように、紫外可視LED光源30、偏光顕微鏡40、温度制御装置50、インピーダンスアナラザ60、可聴周波増幅器70、コンピュータ80を備える。
【0081】
紫外可視LED光源30は、後述の偏光顕微鏡40に接続され、偏光顕微鏡40の光源を構成する。紫外可視LED光源30は、紫外線および可視光線を照射することができる。本実施形態では、紫外可視LED光源30により、紫外線(波長365nm、強度2.3mW/cm)、可視光線(波長450nm、強度3.0mW/cm)を評価セル10に照射した。
【0082】
なお、紫外可視LED光源30の代わりに水銀ランプを用いてよい。水銀ランプの場合は、365nm、450nm付近のバンドパスフィルターと組み合わせるのが好ましい。
【0083】
偏光顕微鏡(POM)40は、ステージ41、鏡筒42、対物レンズ43、接眼レンズ44を少なくとも備え、偏光顕微像を撮像する。
【0084】
偏光顕微鏡40のステージ41には、プレパラートとして上述の評価セル10が固定される。鏡筒42には、対物レンズ43、および接眼レンズ44が設けられている。鏡筒42には、さらに紫外可視LED光源30が接続され、固定された評価セル10に対して紫外線および可視光線を照射する。
【0085】
温度制御装置50は、偏光顕微鏡40のステージ41に接続され、ステージ41の温度を制御し、プレパラートとして固定された評価セル10の温度を調節する。本実施形態では、ステージ41の温度を55.6℃に調節した。
【0086】
インピーダンスアナラザ60は、インターフェース61、本体62、メモリー63、及びディスプレイ64を備え、インターフェース61を介して偏光顕微鏡40のステージ41に接続されている。インピーダンスアナラザ60は、測定周波数1MHz~1Hz、交流電圧0.1mVで、評価セル10のインピーダンスを測定し、得られたインピーダンスの実部および虚部の値から見かけの比誘電率(ε´)を算出する。
【0087】
可聴周波増幅器70は、本体71、直流安定化電源72、及びオシロスコープ73を備え、本体71を介して偏光顕微鏡40のステージ41に接続されている。可聴周波増幅器70の本体71には、可聴周波発振器回路(図示せず)が内蔵されており、関係式1/T=1.44/(R+2R)Cにより周波数(波形)を測定する。
【0088】
なお、この関係式において、Cは静電容量、Tは周期(時間)、R、Rは抵抗値を示す。本実施形態では、抵抗値をR=200Ω、R=20kΩに調整した。これらの抵抗値は、適宜組み替えることで変調周波数を拡張することができる。オシロスコープ73は、測定した周波数(波形)を表示する。
【0089】
コンピュータ80は、中央処理載置(CPU)81、及びディスプレイ82を備える。中央処理載置(CPU)81は、評価システムを構成する紫外可視LED光源30、偏光顕微鏡40、温度制御装置50、インピーダンスアナラザ60、可聴周波増幅器70の各動作を制御する。ディスプレイ82には、可視化された評価システムの各動作が表示される。
【0090】
[実施例1]
ネマチック液晶化合物(DIO)とトランス型のアゾ化合物(BMAB)の吸収波長をそれぞれ測定した。結果を図16に示す。
【0091】
図16は、ネマチック液晶化合物、トランス型のアゾ化合物における、吸収波長と吸光度の関係を示すグラフである。図16によれば、ネマチック液晶化合物(DIO)の吸収波長は245nm付近でピークを示し、トランス型のアゾ化合物(BMAB)の吸収波長は350nm付近でピークを示した。すなわち、ネマチック液晶化合物(DIO)とトランス型のアゾ化合物(BMAB)とでは吸収波長のピークが重ならないことが確認された。
【0092】
このことから、ネマチック液晶化合物(DIO)およびトランス型のアゾ化合物(BMAB)を含有する誘電体材料に300nm以上の電磁波を照射した場合、誘電体材料中でネマチック液晶化合物(DIO)は励起せず、トランス型のアゾ化合物(BMAB)だけが励起する(シス型のアゾ化合物に変換する)ことが考えられる。
【0093】
[実施例2]
誘電体材料(BMAB/DIO)について、初期(紫外線および可視光線を照射する前)、紫外線10分照射後、および可視光線10分照射後の吸収波長のピーク(nm)をそれぞれ測定した。結果を図17に示す。
【0094】
図17は、初期(紫外線および可視光線を照射する前)、紫外線10分照射後、および可視光線10分照射後の誘電体材料における、吸収波長と吸光度の関係を示すグラフである。図17によれば、初期(紫外線および可視光線を照射する前)と可視光線10分照射後の誘電体材料(BMAB/DIO)の吸収波長は、350nm付近にピークを示し、紫外線10分照射後の誘電体材料(BMAB/DIO)は445nm付近でピークを示した。
【0095】
すなわち、誘電体材料(BMAB/DIO)は、その状態によって互いにピークが重ならない2つ吸収波長をもつことが確認された。このことから、誘電体材料(BMAB/DIO)に、350nm付近の電磁波(紫外線)と445nm付近の電磁波(可視光線)を照射することで、誘電体材料(BMAB/DIO)の状態が変化することが考えられる。
【0096】
[実施例3]
本実施形態の誘電体材料(BMAB/DIO)とネマチック液晶化合(DIO)の単体について、温度による比誘電率を測定した。結果を図18に示す。
【0097】
図18は、誘電体材料(BMAB/DIO)およびネマチック液晶化合物(DIO)の単体における、温度と比誘電率の関係を示すグラフである。
【0098】
図18によれば、ネマチック液晶化合(DIO)の単体は、約60℃~70℃の範囲で比誘電率が約14000からほぼ0に変化し、誘電体材料(BMAB/DIO)は、約50℃~60℃の範囲で比誘電率が約13800からほぼ0に変化することが確認された。このことから、ネマチック液晶化合物(DIO)は、低温領域(100℃以下)で、非常に高い比誘電率(10000以上)を示すことが判った。
【0099】
また、ネマチック液晶化合物(DIO)は、低温領域(100℃以下)で、高い比誘電率(10000以上)が大幅に減少し得ることが判った。さらに、ネマチック液晶化合物(DIO)は、誘電体材料(BMAB/DIO)の状態でも、低温領域(100℃以下)で、高い比誘電率(10000以上)を示し、比誘電率(10000以上)が大幅に減少する特性が維持されることが判った。
【0100】
[実施例4]
誘電体材料(BMAB/DIO)について、初期(紫外線未照射で可視光線5分照射後)、紫外線5分照射後、および再度の可視光線5分照射後の、周波数(1MHz~1Hz、交流電圧0.1V)による比誘電率を測定した。結果を図19に示す。
【0101】
図19は、初期(紫外線未照射で可視光線照射後)、紫外線照射後、および可視光線再照射後の誘電体材料(BMAB/DIO)の、周波数(logf)と比誘電率の関係を示すグラフである。図19によれば、誘電体材料(BMAB/DIO)の初期(紫外線未照射で可視光線5分照射後)と紫外線5分照射後とを1000Hz(logf=3)付近で比較すると、比誘電率に10000以上の差が生じていることが確認された。
【0102】
また、誘電体材料(BMAB/DIO)の紫外線5分照射後と初期(紫外線未照射で可視光線5分照射後)と可視光線5分照射後とを1000Hz(logf=3)付近で比較すると、比誘電率に10000以上の差が生じていることが確認された。
【0103】
なお、この比誘電率の差(変化量)は、静電容量に換算すると7nFから0.34μFの変化量に相当する。このことから、誘電体材料(BMAB/DIO)は、紫外線と可視光線を交互に照射することにより、比誘電率(静電容量)の大幅な増減を行うことができ、光変調による比誘電率(静電容量)の制御が可能になると考えられる。
【0104】
[実施例5]
誘電体材料(BMAB/DIO)について、温度55.6℃で、初期(紫外線および可視光線を照射する前)、紫外線5分照射後、および可視光線5分照射後の偏光顕微鏡画像を撮像した。結果を図20~22に示す。
【0105】
図20は、初期(紫外線および可視光線を照射する前)の誘電体材料の組織を示す偏光顕微鏡画像であり、図21は、紫外線5分照射後の誘電体材料の組織を示す偏光顕微鏡画像であり、図22は、可視光線5分照射後の誘電体材料の組織を示す顕微鏡画像である。
【0106】
図20図22によれば、初期(紫外線および可視光線を照射する前)と可視光線5分照射後の誘電体材料(BMAB/DIO)の組織は、規則性のある層状を示している。また、図21によれば、紫外線5分照射後の誘電体材料(BMAB/DIO)の組織は、不規則な砂状を示している。
【0107】
このことから、誘電体材料(BMAB/DIO)に、350nm付近の電磁波(紫外線)と445nm付近の電磁波(可視光線)を照射することで、誘電体材料(BMAB/DIO)の組織が変化することが判った。また、この組織変化は、誘電率の変化に対応しているものと考えられる。
【0108】
[実施例6]
誘電体材料(BMAB/DIO)について、紫外線照射による静電容量の変化および発振周波数の変化を測定した。具体的には、誘電体材料(BMAB/DIO)の試料20に、波長365nmの紫外線を120秒照射したときの照射時間と静電容量の関係をインピーダンスアナラザ60で確認し、照射時間と発振周波数の関係を可聴周波増幅器70(オシロスコープ73)で確認した。結果を図23図24に示す。
【0109】
図23は、誘電体材料の紫外線照射時の照射時間と静電容量の関係を示すグラフであり、図24は、誘電体材料の紫外線照射時の照射時間と発振周波数の関係を示すグラフである。
【0110】
図23によれば、誘電体材料(BMAB/DIO)の静電容量は、紫外線の照射時間の経過とともに指数関数的に減少することが確認された。また、図24によれば、誘電体材料(BMAB/DIO)の発振周波数は、紫外線の照射時間の経過とともに、ピッチが高くなることが確認された。
【0111】
このことから、誘電体材料(BMAB/DIO)は、紫外線(波長365nm)を照射することにより、静電容量および発振周波数を制御できる可能性を見出した。
【0112】
[実施例7]
誘電体材料(BMAB/DIO)について、紫外線照射後の可視光線照射による静電容量の変化および発振周波数の変化を測定した。具体的には、誘電体材料(BMAB/DIO)の試料20に、波長450nmの可視光線65秒照射したときの、照射時間と静電容量の関係をインピーダンスアナラザ60で確認し、照射時間と発振周波数の関係を可聴周波増幅器70(オシロスコープ73)で確認した。結果を図25図26に示す。
【0113】
図25は、誘電体材料の可視光線照射時の照射時間と静電容量の関係を示すグラフであり、図26は、誘電体材料の可視光線照射時の照射時間と発振周波数の関係を示すグラフである。
【0114】
図25によれば、誘電体材料(BMAB/DIO)の静電容量は、可視光線の照射時間の経過とともに指数関数的に増加することが確認された。また、図26によれば、誘電体材料(BMAB/DIO)の発振周波数は、可視光線の照射時間の経過とともに、ピッチが低くなることが確認された。
【0115】
このことから、誘電体材料(BMAB/DIO)は、可視光線(波長365nm)を照射することにより、静電容量および発振周波数を制御できる可能性が見出された。
【0116】
[実施例8]
誘電体材料(BMAB/DIO)について、温度55.6℃、周波数1kHzで、紫外線(波長365nm)の照射強度IUVを2.3、1.0、0.36、0.15としたときの比誘電率を測定した。結果を図27に示す。
【0117】
図27は、誘電体材料における紫外線の照射強度と比誘電率の関係を示すグラフである。図27によれば、紫外線(波長365nm)の照射強度IUVが2.3、1.0の場合は、紫外線の照射時間が約0.2分以内で比誘電率が急激に減少し、照射強度IUVが0.36の場合は、紫外線の照射時間が約1分以内にし、照射強度IUVが0.15の場合は、紫外線の照射時間が約2分以内に緩やかに減少することが確認された。
【0118】
このことから、誘電体材料(BMAB/DIO)は、紫外線の照射強度を変化させることにより、比誘電率が減少する速度を制御できる可能性が見出された。
【0119】
[実施例9]
誘電体材料(BMAB/DIO)について、温度55.6℃、周波数1kHzで、可視光線(波長450nm)の照射強度IVISを3.0、1.7、0.6、0.2としたときの比誘電率を測定した。結果を図28に示す。
【0120】
図28は、誘電体材料における可視光線の照射強度と比誘電率の関係を示すグラフである。図28によれば、可視光線(波長450nm)の照射強度IVISが3.0、1.7の場合は、可視光線の照射時間が約0.4分以内で比誘電率が急激に増加し、照射強度IVISが0.6の場合は、可視光線の照射時間が約1分以内に増加し、照射強度IVISが0.2の場合は、可視光線の照射時間が約3分以内に緩やかに増加することが確認された。
【0121】
このことから、誘電体材料(BMAB/DIO)は、可視光線の照射強度を変化させることにより、比誘電率を増加させる速度を制御できる可能性が見出された。
【0122】
[実施例10]
誘電体材料(BMAB/DIO)について、紫外線(波長365nm、強度2.3)を十分に照射後、停止温度55.6℃に固定し、暗室で放置したときの、比誘電率の経時変化を確認した。結果を図29に示す。
【0123】
図29は、誘電体材料(BMAB/DIO)の紫外線照射後の経時変化を示すグラフである。図29によれば、誘電体材料(BMAB/DIO)の比誘電率は、紫外線照射を停止してから約10分間は、ほぼ0を維持し、約16分後は約8000に増加し、約24分後は元の約14000に増加することが確認された。このことから、紫外線照射後に照射を停止した後も16分程度は低い誘電率を維持することが判った。
【0124】
[実施例11]
誘電体材料(BMAB/DIO)の代わりに誘電体材料(BDMAB/DIO)について、比誘電率の経時変化を確認した以外は、実施例10と同様に測定した。結果を図30に示す。
【0125】
図30は、誘電体材料(BDMAB/DIO)の紫外線照射後の経時変化を示すグラフである。図30によれば、誘電体材料(BDMAB/DIO)の比誘電率は、紫外線照射を停止してから約8時間は、ほぼ0に近い比誘電率を維持し、約10時間後は約9000に増加し、約12時間後は約13000に増加することが確認された。このことから、紫外線照射後に照射を停止した後も10時間程度は低い誘電率を維持することが判った。
【0126】
[実施例12]
誘電体材料(BMAB/DIO)の代わりに誘電体材料(BDMAB/DIO)について、温度による比誘電率を測定した以外は、実施例5と同様に測定した。結果を図18に示す。
【0127】
図18は、誘電体材料(BDMAB/DIO)における、温度と比誘電率の関係を示すグラフでもある。図18によれば、誘電体材料(BDMAB/DIO)は、約55℃~65℃の範囲で比誘電率が約12800からほぼ0に変化することが確認された。このことから、ネマチック液晶化合物(DIO)は、誘電体材料(BMAB/DIO)の状態でも、低温領域(100℃以下)で、高い比誘電率(10000以上)を示し、比誘電率(10000以上)が大幅に減少する特性が維持されることが判った。
【0128】
[実施例13]
誘電体材料(BMAB/DIO)の代わりに誘電体材料(BDMAB/DIO)について、周波数(1MHz~1Hz、交流電圧0.1V)による比誘電率を測定した以外は、実施例4と同様に測定した。結果を図31に示す。
【0129】
図31は、初期(紫外線未照射で可視光線照射後)、紫外線照射後、および可視光線照射後の誘電体材料(BDMAB/DIO)の、周波数と比誘電率の関係を示すグラフである。図31によれば、誘電体材料(BDMAB/DIO)の初期(紫外線未照射で可視光線5分照射後)と紫外線5分照射後とを1000Hz付近で比較すると、比誘電率に10000以上の差が生じていることが確認された。
【0130】
また、誘電体材料(BDMAB/DIO)の紫外線5分照射後と初期(紫外線未照射で可視光線5分照射後)と可視光線5分照射後とを1000Hz付近で比較すると、比誘電率に10000以上の差が生じていることが確認された。なお、この比誘電率の差(変化量)は、静電容量に換算すると7nFから0.34μFの変化量に相当する。
【0131】
このことから、誘電体材料(BDMAB/DIO)は、紫外線と可視光線を交互に照射することにより、比誘電率(静電容量)の大幅な増減を行うことができ、光変調による比誘電率(静電容量)の制御が可能になると考えられる。
【0132】
[実施例14]
誘電体材料(BMAB/DIO)の代わりに誘電体材料(BDMAB/DIO)について、紫外線(波長365nm)の各照射強度IUVにおける比誘電率を測定した以外は、実施例8と同様に測定した。結果を図32に示す。
【0133】
図32は、誘電体材料(BDMAB/DIO)における紫外線の照射強度と比誘電率の関係を示すグラフである。
【0134】
図32によれば、紫外線(波長365nm)の照射強度IUVが2.3、1.0の場合は、紫外線の照射時間が約0.2分以内で比誘電率が急激に減少し、照射強度IUVが0.36の場合は、紫外線の照射時間が約1分以内にし、照射強度IUVが0.15の場合は、紫外線の照射時間が約2分以内に緩やかに減少することが確認された。
【0135】
このことから、誘電体材料(BDMAB/DIO)は、紫外線の照射強度を変化させることにより、比誘電率が減少する速度を制御できる可能性が見出された。
【0136】
[実施例15]
誘電体材料(BMAB/DIO)の代わりに誘電体材料(BDMAB/DIO)について、可視光線(波長450nm)の各照射強度IVISにおける比誘電率を測定した以外は、実施例9と同様に測定した。結果を図33に示す。
【0137】
図33は、誘電体材料(BDMAB/DIO)における可視光線の照射強度と比誘電率の関係を示すグラフである。
【0138】
図33によれば、可視光線(波長450nm)の照射強度IVISが3.0、1.7の場合は、可視光線の照射時間が約0.4分以内で比誘電率が急激に増加し、照射強度IVISが0.6の場合は、可視光線の照射時間が約1.4分以内に急激に増加し、照射強度IVISが0.2の場合は、可視光線の照射時間が約3分以内に緩やかに増加することが確認された。
【0139】
このことから、誘電体材料(BDMAB/DIO)は、可視光線の照射強度を変化させることにより、比誘電率を増加させる速度を制御できる可能性が見出された。
【0140】
本実施形態の誘電体材料は、波長の異なる2種類の光を交互に吸収することにより、誘電率の大幅な増減を繰り返すことができることが判った。そのため、本実施形態の誘電体材料は、異なる波長の光照射による誘電率の制御が可能となり、誘電率の変化量を大きくすることができる。
【0141】
本実施形態の誘電体材料は、光照射により誘電率の変化量を大きく制御することができるため、キャパシタの電極間に配置される誘電体に適用することができる。
【0142】
また、本実施形態の誘電体材料は、可撓性を有する有機化合物(ネマチック液晶化合物およびアゾ化合物)が含有されているため、フレキシブルな誘電体材料を構成することができ、ウェアラブルデバイス等の柔軟性が要求されるデバイスに利用することができる。
【0143】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0144】
本出願は、2020年8月14日に出願された日本国特許出願2020-137063号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容をここに援用する。
【符号の説明】
【0145】
10 評価セル
11 セル
12 電極
13、14 集電体
15、16 配線
17、18 リード線
20 試料
30 紫外可視LED光源
31 紫外光源
32 可視光源
40 偏光顕微鏡
41 ステージ
42 鏡筒
43 対物レンズ
44 接眼レンズ
50 温度制御装置
60 インピーダンスアナラザ
61 インターフェース
62 本体
70 可聴周波増幅器
71 本体
72 直流安定化電源
73 オシロスコープ
80 コンピュータ
81 中央処理載置(CPU)
82 ディスプレイ
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