(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】生育促進方法、及び生育促進剤
(51)【国際特許分類】
A01C 1/00 20060101AFI20250430BHJP
【FI】
A01C1/00 B
(21)【出願番号】P 2024036194
(22)【出願日】2024-03-08
【審査請求日】2024-09-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】太田 光祐
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-023125(JP,A)
【文献】特開2016-136861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 1/00-1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種子の生育を促進する生育促進方法であって、
酸化カルシウム(CaO)及びシリカ(SiO
2)を含む生育促進剤を懸濁した懸濁液中に前記種子を浸漬する浸漬工程を包
含し、
前記生育促進剤は鉄鋼スラグであり、
前記浸漬工程が、種子予措の一工程である、生育促進方法。
【請求項2】
前記生育促進剤は、さらに、酸化マグネシウム(MgO)を含む、請求項1に記載の生育促進方法。
【請求項3】
前記生育促進剤は、酸化カルシウムを30質量%以上、50質量%以下、シリカを5質量%以上、15質量%以下含有する、請求項1又は2に記載の生育促進方法。
【請求項4】
前記懸濁液は、前記鉄鋼スラグが2mg/mL以上の濃度で懸濁している、
請求項1に記載の生育促進方法。
【請求項5】
前記鉄鋼スラグは、粒子径200μm以下の鉄鋼スラグ粉末である、
請求項1に記載の生育促進方法。
【請求項6】
前記懸濁液は、pH10以上、pH12以下のアルカリ性である、請求項1又は2に記載の生育促進方法。
【請求項7】
前記種子は、発芽前のイネの種子である、請求項1又は2に記載の生育促進方法。
【請求項8】
前記浸漬工程において、15℃以上、35℃以下の環境下で、20時間以上、100時間以下、前記懸濁液中に前記種子を浸漬する、請求項1又は2に記載の生育促進方法。
【請求項9】
鉄鋼スラグ
を水に懸濁した水懸濁液を含
み、
ハト胸の状態のイネ種子調製用、子葉鞘の伸長が促進した状態のイネ種子調製用、又は、根系の発達が促進した状態のイネ種子調製用である、
イネ種子の生育促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子の生育促進方法、及び生育促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水稲栽培では種子を播種するまでに、発芽およびその後の生育を良好にするため、予め一連の予備作業を行う(種子予措)。具体的には、選種、消毒、浸種、催芽の工程を経て、ハト胸と呼ばれる僅かに発芽した状態の種子を調製する必要がある。また、種子を直播する方法は、土壌表面に播種する表面播種と、土中に播種する土中播種とに大別され、表面播種は活着不良による倒伏及び浮稲の問題があり、土中播種は酸欠による苗立ち低下の問題があることが知られている。
【0003】
このような種子を直播する場合に生じ得る問題を解決するために、特許文献1~3の技術には、鉄やカルシウム等により種子の表面をコーティングする方法が記載されている。特許文献1及び2には、スラグや焼却灰を含む材料により種子表面をコーティングする技術が記載されている。特許文献3には、種子に鉄粉を含む被覆資材により被覆した種子を直播することが記載されている。また、土中播種による酸欠の問題を解決するため、種子に過酸化カルシウム剤コーティングを施す技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-136861号公報
【文献】特開2017-046674号公報
【文献】特開2023-110185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
種子予措のうち、種子を温度管理した水に浸し十分に吸水させる浸種工程は1週間程度を要し、作業期間の大半を占める。浸種工程の間、種子の酸欠や腐敗を防ぐため、数日おきに水を交換する換水を行う必要があり、農業従事者の拘束時間に反映され負担になっている。
【0006】
また、特許文献1~3の技術や過酸化カルシウム剤コーティングの技術は、種子の表面を適切にコーティングするために熟練した技術が求められる。さらに、種子を発根させ、土中浅層に播種することで活着不良と酸欠を防止する方法もあるが、発根させる工程は2日間程度かかり、浸種工程よりも農業従事者の拘束時間が増加する。
【0007】
本発明の一態様は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、種子の生育を促進する技術を実現し、例えば種子予措作業を省力化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、例えば、以下のような態様を含む。
(1)種子の生育を促進する生育促進方法であって、酸化カルシウム(CaO)及びシリカ(SiO2)を含む生育促進剤を懸濁した懸濁液中に前記種子を浸漬する浸漬工程を包含する、生育促進方法。
(2)鉄鋼スラグを含む、イネ種子の生育促進剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、種子の生育を促進する技術を実現し、例えば種子予措作業を省力化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例において、スラグ懸濁液中に浸漬した種子の発芽を比較した図である。
【
図2】実施例において、スラグ懸濁液中に浸漬した種子の催芽を比較した図である。
【
図3】実施例において、スラグ懸濁液中に浸漬した種子の根出しを比較した図である。
【
図4】実施例において、スラグ懸濁液中に浸漬した種子の出芽本数を播種方法別に比較したグラフを示す図である。
【
図5】実施例において、スラグ懸濁液中に浸漬した種子の出芽本数を播種方法別に比較したグラフである。
【
図6】実施例において用いたスラグの粒径を示す図である。
【
図7】実施例において、スラグの粒径と発芽種子数及び平均子葉鞘長との関係を調べた結果を示すグラフである。
【
図8】実施例において用いたスラグ懸濁液を濃度毎に示す図である。
【
図9】実施例において、スラグ懸濁液濃度と発芽種子数及び平均子葉鞘長との関係を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
本発明の一実施形態に係る、種子の生育を促進する生育促進方法は、酸化カルシウム(CaO)及びシリカ(SiO2)を含む生育促進剤を懸濁した懸濁液中に種子を浸漬する浸漬工程を含む、方法である。
【0012】
(生育促進剤)
種子の生育促進剤としては、酸化カルシウム(CaO)及びシリカ(SiO2)を含むものであれば特に限定されないが、さらに、マグネシウム、リン、鉄、マンガン、及びホウ素からなる群より選択される、少なくとも1種の元素を含むものであることが好ましい場合があり、少なくとも2種、3種、4種、又は5種(全て)の元素を含むものであることがより好ましい場合がある。マグネシウム、リン、鉄、マンガン、及びホウ素は、単体として含まれていてもよく、塩や酸化物等の化合物の形態で含まれていてもよい。例えば、酸化マグネシウム(MgO)、五酸化二リン(P2O5)、酸化鉄(FeO)、酸化鉄(III)(Fe2O3)、酸化マンガン(MnO)、及び酸化ホウ素等の化合物の形態が挙げられる。
【0013】
生育促進剤に含まれる各成分の割合は特に限定されないが、酸化カルシウムは例えば30質量%以上で50質量%以下の範囲内であり、40質量%以上で50質量%以下の範囲内であり、42質量%以上で50質量%以下の範囲内である。シリカは例えば5質量%以上で15質量%以下の範囲内であり、5質量%以上で13質量%以下の範囲内であり、5質量%以上で12質量%以下の範囲内である。酸化マグネシウム(MgO)が含まれる場合は、例えば1質量%以上で10質量%以下の範囲内であり、1質量%以上で5質量%以下の範囲内であり、2質量%以上で5質量%以下の範囲内である。五酸化二リン(P2O5)が含まれる場合は、例えば1質量%以上で10質量%以下の範囲内であり、1質量%以上で5質量%以下の範囲内であり、2質量%以上で4質量%以下の範囲内である。酸化鉄(III)(Fe2O3)が含まれる場合は、例えば5質量%以上で20質量%以下の範囲内であり、5質量%以上で15質量%以下の範囲内であり、7質量%以上で15質量%以下の範囲内である。なお、MgO、P2O5、Fe2O3以外の態様でマグネシウム元素、リン元素、鉄元素が含まれる場合、これら元素の含有量は、上記具体的に例示した化合物の含有量から換算した値とすることができる。例えば、マグネシウム元素の含有量は、酸化マグネシウム(MgO)の含有量(質量%)に約0.6をかけた値とすることが出来る。マンガン元素が含まれる場合は、例えば1質量%以上で10質量%以下の範囲内であり、1質量%以上で5質量%以下の範囲内であり、2質量%以上で4質量%以下の範囲内である。ホウ素元素が含まれる場合は、例えば1g/kg以下であり、50mg/kg以上で1g/kg以下の範囲内であり、100mg/kg以上で600mg/kg以下の範囲内である。
【0014】
生育促進剤の形態は特に限定されないが、例えば固形物であり、特に粒状や粉末状の固形物であり、後述するように水に懸濁した懸濁液の状態で使用される。生育促進剤の一例は、高炉スラグや製鋼スラグ等の鉄鋼スラグである。鉄鋼スラグは、例えば、そのまま用いてもよく、篩などによって所定の範囲内の粒子径のものを選別して用いてもよく、又は、粉砕などによってより小粒子径の粉末として用いてもよく、これらを混合して用いてもよい。粉砕などによってより小粒子径の粉末とした場合は、水への懸濁が容易となることや、生育促進剤としての効果が発揮され易くなる場合がある。鉄鋼スラグの粉末は、例えば、粒子径200μm以下の粉末であることが好ましい場合があり、粒子径100μm以下の粉末であることが好ましい場合があり、粒子径90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、又は50μm以下の粉末であることが好ましい場合がある。鉄鋼スラグの粉末の粒子径の下限は特に限定されず、求める取扱い性等に応じて適宜決定され、例えば、1μm以上、5μm以上、10μm以上、20μm以上、30μm以上、又は40μm以上等である。鉄鋼スラグの粉末は、平均粒子径の観点では、例えば、20μm以上で200μm以下の範囲内が好ましい場合があり、30μm以上で100μm以下の範囲内が好ましい場合があり、30μm以上で70μm以下の範囲内、40μm以上で60μm以下の範囲内、又は40μm以上で55μm以下の範囲内であることが好ましい場合がある。
【0015】
(生育促進剤の懸濁液)
本発明の一実施形態において、上記の成育促進剤は、水に懸濁した水懸濁液として用いられる。この水懸濁液は、懸濁した成分が一部溶解することによって、例えば、アルカリ性を呈し、より具体的な一例では、pH9以上、pH9.5以上、又はpH10以上であり、かつ、pH12.5以下、又はpH12以下の範囲内のアルカリ性を呈する場合がある。すなわち、この水懸濁液は、例えば、弱アルカリ性から強アルカリ性(pH11以上)を呈する。
【0016】
また、成育促進剤が鉄鋼スラグである場合、種子の発芽促進の観点では、懸濁液には、鉄鋼スラグが1mg/mL以上の濃度で、又は、2mg/mL以上の濃度で懸濁していることが好ましい。より好ましくは、鉄鋼スラグが5mg/mL以上の濃度で、又は、10mg/mL以上の濃度で懸濁している。鉄鋼スラグの濃度の上限は特に限定されないが、例えば、500mg/mL以下であり、250mg/mL以下であり、200mg/mL以下であり、又は150mg/mL以下である。
【0017】
成育促進剤が鉄鋼スラグである場合、子葉の成長促進の観点では、懸濁液には、鉄鋼スラグが2mg/mL以上の濃度で、5mg/mL以上の濃度で、又は、10mg/mL以上の濃度で懸濁していることが好ましい場合がある。鉄鋼スラグの濃度の上限は特に限定されないが、例えば、500mg/mL以下であり、250mg/mL以下であり、200mg/mL以下であり、又は150mg/mL以下である。
【0018】
(種子と、種子に対する処理と、処理後の種子)
本発明の一実施形態に関して種子の種類は特に限定されず、例えば、農園芸を含む産業用途に用いられる種子が挙げられる。典型的な一例では発芽前のイネ(特に水稲)の種子、コムギ、トウモロコシ、ダイズ等の豆類、その他の蔬菜類の種子等や、硬実種子等が挙げられ、典型的な他の例では育苗用に播種する前の種子(植物の種類はイネ等に限定されない)が挙げられる。
【0019】
上記の懸濁液を用いた種子の処理方法の好ましい一例では、上記の懸濁液中に種子を浸漬する浸漬工程を含む。浸漬工程を実行する温度条件は特に限定されず、種子の種類等に応じて適宜設定すればよい。温度条件は、外気温と同じであってもよいし、施設内等で温度コントロールされていてもよい。浸漬工程を実行する温度条件の一例は、5℃以上で35℃以下の範囲内が挙げられ、10℃以上で35℃以下の範囲内が挙げられ、15℃以上で35℃以下の範囲内が挙げられ、15℃以上で25℃以下の範囲内や25℃以上で35℃以下の範囲内が挙げられる。懸濁液中に種子を浸漬する浸漬工程を実行する期間も特に限定されないが、一例では、5時間以上で100時間以下の範囲内、10時間以上で100時間以下の範囲内、15時間以上で100時間以下の範囲内、20時間以上で100時間以下の範囲内が挙げられる。
【0020】
この浸漬工程は、例えば、種子予措の作業の一工程として実施することもできる。種子予措は、特にイネ(水稲)種子において、選種、消毒、浸種、催芽の工程を経て、ハト胸と呼ばれる僅かに発芽した状態の種子を調製する作業である。本発明の一実施形態における浸漬工程は、種子予措における浸種の工程として実施ができ、例えば、浸種期間の短縮、及び/又は、催芽工程の省略をもたらす。また、浸種期間が短縮されることによって、浸種期間中の換水を省略することもできる。本発明の一実施形態における浸漬工程は、種子予措における催芽の工程として実施ができ、例えば、子葉鞘の伸長を促進する、根系の発達(例えば、根の伸長、冠根の発達、根毛の発達等)を促進する、等の生育促進作用がもたらされる。種子予措における浸種の工程と催芽の工程との両方を、この浸漬工程として実施することも出来る。
【0021】
上記の懸濁液を用いた処理後の種子は、例えば、育苗用の種子や直播用の種子等として利用可能である。処理後の種子は、未処理の場合と比較して、何れの用途に用いる場合でも出芽率の顕著な向上が見られる。また、後述する実施例で示すように、処理の条件を適宜変更することによって、例えば、ハト胸の状態、子葉鞘の伸長が所望する程度に促進した状態、根系の発達が所望する程度に促進した状態等といった、用途に応じた所望する状態の種子を調製可能となる。
【0022】
(浸漬工程以外の工程)
本発明の一実施形態において、処理後の種子を、育苗用に播種する工程や、土壌(水稲の場合は水田)に直播する工程をさらに含んでいてもよい。直播の方式は特に限定されず、例えば、表面播種であってもよく、土中播種であってもよい。
【0023】
(イネ種子の生育促進剤)
上記の生育促進剤の一例は、鉄鋼スラグを含む、イネ(特に水稲)種子の生育促進剤である。この生育促進剤は、次に示すような、イネ種子の生育促進用の組成物の調製に用いられる。1)鉄鋼スラグを水に懸濁した水懸濁液、2)鉄鋼スラグの水懸濁液の上澄み、又は、3)鉄鋼スラグの水懸濁液の上澄みと沈殿物(鉄鋼スラグ)。ここで水懸濁液の一例では、PVA(ポリビニルアルコール)等のバインダを含んでいない。水懸濁液の他の例では、実質的に水と鉄鋼スラグとのみを含んでいる。このイネ種子の生育促進剤は、例えば、ハト胸の状態のイネ種子調製用であり、子葉鞘の伸長が促進した状態のイネ種子調製用であり、根系の発達が促進した状態のイネ種子調製用である。
【0024】
(まとめ)
例えば、以下のような発明も、本発明の範囲に含まれる。
(1)種子の生育を促進する生育促進方法であって、酸化カルシウム(CaO)及びシリカ(SiO2)を含む生育促進剤を懸濁した懸濁液中に前記種子を浸漬する浸漬工程を包含する、生育促進方法。
(2)前記生育促進剤は、さらに、酸化マグネシウム(MgO)を含む、(1)に記載の生育促進方法。
(3)前記生育促進剤は、酸化カルシウムを30質量%以上、50質量%以下、シリカを5質量%以上、15質量%以下含有する、(1)又は(2)に記載の生育促進方法。
(4)前記生育促進剤は鉄鋼スラグである、(1)~(3)の何れかに記載の生育促進方法。
(5)前記懸濁液は、前記鉄鋼スラグが2mg/mL以上の濃度で懸濁している、(4)に記載の生育促進方法。
(6)前記鉄鋼スラグは、粒子径200μm以下の鉄鋼スラグ粉末である、(4)又は(5)に記載の生育促進方法。
(7)前記懸濁液は、pH10以上、pH12以下のアルカリ性である、(1)から(6)の何れかに記載の生育促進方法。
(8)前記種子は、発芽前のイネの種子である、(1)から(7)の何れかに記載の生育促進方法。
(9)前記浸漬工程において、15℃以上、35℃以下の環境下で、20時間以上、100時間以下、前記懸濁液中に前記種子を浸漬する、(1)から(8)の何れかに記載の生育促進方法。
(10)鉄鋼スラグを含む、イネ種子の生育促進剤。鉄鋼スラグの懸濁液を含む、イネ種子の生育促進剤。鉄鋼スラグの懸濁液は、例えば、上記(1)から(7)の何れかに記載のものである。
【0025】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0026】
(実施例1:スラグ懸濁液中に浸漬した種子の発芽)
蒸留水40mLあたりに、予め微粉調製したスラグA又はスラグBを1g添加して、スラグA懸濁液(25mg/mL)及びスラグB懸濁液(25mg/mL)を作製した(25mg/mL)。スラグAは、転炉スラグ(産業振興株式会社製:S-ミネカル(製品名))であり、スラグBは、予備処理スラグ(産業振興株式会社製:農力アップ(製品名))である。スラグA及びスラグBの鉄鋼スラグの組成分析結果を表1に示す。
【表1】
【0027】
表1中に示す各成分の意味は、次の通りである。T-CaO(全石灰)、CaO(交換性石灰)、T-MgO(全苦土)、MgO(交換性苦土)、T-P2O5(全リン酸)、P2O5(可給態リン酸)、T-Fe2O3(全酸化鉄)、Fe2O3(有利酸化鉄)、T-SiO2(全ケイ酸)、SiO2(有効態ケイ酸)、T-Mn(全マンガン)、Mn(交換性マンガン)、T-B(全ホウ素)、B(熱水可溶性ホウ素)。
【0028】
上記の表1に記載した成分のうち、スラグA懸濁液中のカルシウム量は、159~212mg/L、イオン状シリカ量は3~4mg/L、溶解性マンガン量は0.1mg/L~0.2mg/L、ホウ素はホウ酸イオン換算で0.5mg/L、りん酸イオン1.0mg/L未満(検出限界以下)、Fe(II)イオン及びFe(III)イオンは0.1mg/L未満(検出限界以下)、マグネシウム量は0.1mg/L未満(検出限界未満)であった。スラグB懸濁液中のカルシウム量は、305~333mg/L、イオン状シリカ量は7mg/L、溶解性マンガン量は0.5mg/L~0.6mg/L、ホウ素はホウ酸イオン換算で0.6mg/L、Fe(II)イオン量は1mg/L~1.2mg/L、マグネシウム量は0.1mg/L、りん酸イオン1.0mg/L未満(検出限界以下)、Fe(III)イオンは1mg/L未満(検出限界以下)であった。スラグA懸濁液、及びスラグB懸濁液ともにアルカリ性を呈し、そのpHは概ね10から12の範囲内であった。また、スラグA懸濁液、及びスラグB懸濁液ともに酸素の発生は確認されなかった。
【0029】
各スラグ懸濁液、又は、コントロールとして用いた蒸留水をチューブ内に注ぎ、それぞれにキヌヒカリ種子を投入して、20℃で4日間浸種した。浸種後のスラグA懸濁液中のカルシウム量は、71.4~85.8mg/L、イオン状シリカ量は10~13mg/L、溶解性マンガン量は0.2mg/L~0.3mg/L、ホウ素はホウ酸イオン換算で0.9mg/L~1.0mg/L、Fe(II)イオン0.1mg/L~0.2mg/L、マグネシウム量は2.7mg/L、りん酸イオン1.0mg/L未満(検出限界以下)、Fe(III)イオンは0.1mg/L未満(検出限界以下)であった。浸種後のスラグB懸濁液中のカルシウム量は、206~225mg/L、イオン状シリカ量は85~97mg/L、溶解性マンガン量は0.8mg/L~1.1mg/L、ホウ素はホウ酸イオン換算で1.0mg/L~1.1mg/L、Fe(II)イオン量は1.1mg/L~1.3mg/L、マグネシウム量は2.2~3.9mg/L、りん酸イオン1.0mg/L未満(検出限界以下)、Fe(III)イオンは1mg/L未満(検出限界以下)であった。
【0030】
浸種後の種子を撮影した画像を
図1に示す。
図1は、スラグ懸濁液中に浸漬した種子の発芽を比較した図である。
図1に示すように、蒸留水に浸種した種子は発芽しなかったが、スラグA懸濁液に浸種した種子及びスラグB懸濁液に浸種した種子はいずれもハト胸程度まで発芽した。
【0031】
(実施例2:スラグ懸濁液中に浸漬した種子の催芽)
実施例1において浸種を行った種子を、懸濁液中でさらに30℃において1日間載置し、催芽処理を行った。結果を
図2に示す。
図2は、スラグ懸濁液中に浸漬した種子の催芽を比較した図である。
【0032】
図2の上から3行目までの画像に示すように、蒸留水で催芽した種子はいち部が僅かに発芽したのみであったが、スラグA懸濁液で催芽した種子及びスラグB懸濁液で催芽した種子は、いずれも、蒸留水で催芽した種子よりも子葉鞘の伸長が促進された。
【0033】
なお、実際の浸種及び催芽処理では行われない浅水条件(シャーレ内で浸種及び催芽)において、同様に試験した結果、
図2の一番下の行の画像に示すように、蒸留水でも子葉鞘の伸長が確認された。この結果から、浅水条件よりも溶存酸素濃度が低い場合であっても、スラグ懸濁液を用いることで生育保障することができると言える。
【0034】
(実施例3:スラグ懸濁液中に浸漬した種子の根出し)
実施例1において得られたハト胸種子を懸濁液から引き上げ、30℃に加温した恒温恒湿器内にて、篩の上に並べて2日間管理することによって、根出し処理を行った。結果を
図3に示す。
図3は、スラグ懸濁液中に浸漬した種子の根出しを比較した図である。
【0035】
図3の画像A~Fに示すように、スラグA懸濁液で根出しした種子及びスラグB懸濁液で根出しした種子は、蒸留水で根出し処理まで行った種子と比較して、子葉鞘及び種子根の伸長が促進された。また、スラグA懸濁液で根出しした種子及びスラグB懸濁液で根出しした種子は、蒸留水で根出し処理まで行った種子では見られなかった冠根及び側根の発達も促進された。
【0036】
(実施例4:スラグ懸濁液中に浸漬した種子の播種方法別の出芽)
実施例1において得られたハト胸種子を、以下に示す方法によりポットに播種し、出芽本数を計数した。方法Aである育苗として、培土に播種後に覆土し、30℃で2日間の条件において蒸気式出芽処理し、その後25℃で管理した。方法Bである表面播種として、代掻き水田土壌表面に播種し、覆土せずに25℃で管理した。方法Cである浅層土中播種として、代掻き水田土壌表面に播種し、2mm覆土して25℃で管理した。方法Dである土中播種として、代掻き水田土壌表面に播種し、10mm覆土して25℃で管理した。方法Eであるイタリア式直播として、湛水した水田土壌表面に播種し、覆土せず、播種後2日間は水深4cmで維持した後、25℃で管理した。
【0037】
それぞれの方法で播種したポット内の種子の出芽本数を、播種後5日、10日、15日においてそれぞれ計数し、100粒中の割合を算出した。結果を
図4及び5に示す。
図4及び5は、スラグ懸濁液中に浸漬した種子の出芽本数を播種方法別に比較したグラフを示す図である。
【0038】
図4及び5に示すように、全ての播種方法において、蒸留水中で浸種した種子と比較して、スラグ懸濁液中で浸種した種子の出芽率が向上した。
【0039】
(実施例5:スラグの粒径と発芽種子数との関係)
蒸留水40mLあたりに、スラグAを1g添加して、スラグ懸濁液(25mg/mL)を作製した。スラグAとして、通常流通している粒形のスラグ(産業振興株式会社製:S-ミネカル(製品名)/以下、「粗細混合スラグ」とも称する。)、粗細混合スラグを篩でふるって篩い分けした粗粒スラグ及び細粒スラグ、粗細混合スラグを粉砕した微粉スラグの、スラグ粒形の異なる4種類を準備し、それぞれの懸濁液を作製した。各スラグを撮影した画像と、それらの平均粒子径とを
図6に示す。
図6は、実施例において用いたスラグの粒径を示す図である。
【0040】
粗細混合スラグ、粗粒スラグ、及び細粒スラグの平均粒子径は、ふるい法により測定した。測定には、ロータップ式ふるい分け装置DuraTap(Advantech製)を用いた。測定条件は、篩い分け時間を10分とし、粒径範囲を9500~53μmとした。
【0041】
微粉スラグの平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定した。測定には、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器LMS-2000e(株式会社セイシン企業製)を用いた。測定方法として、分散媒のみでブランク測定を行った後、分散槽に試料を適量投入し、超音波で試料を分散させて循環式にて粒度分布測定を行った。測定条件は、測定範囲を0.020~2000.00μmとし、使用分散媒をイオン交換水とし、超音波分散時間を1分とした。
【0042】
各スラグ懸濁液中にキヌヒカリ種子を投入して、20℃で4日間の条件で浸種した後、30℃で1日間の条件で催芽処理を行った。4種類の粒形のスラグ懸濁液のそれぞれにより催芽した種子の発芽種子数と平均子葉鞘長とを算出し、結果を
図7に示す。
図7は、スラグの粒径と発芽種子数及び平均子葉鞘長との関係を調べた結果を示すグラフである。
【0043】
図7に示すように、微粉スラグの懸濁液を用いた種子が最も発芽種子数が多く、かつ、平均子葉鞘長も長かった。この結果から、スラグは、平均粒子径201μmの細粒よりも細かい微粉に調製することで、生長促進効果が向上することが示された。
【0044】
(実施例6:スラグ懸濁液濃度と発芽種子数との関係)
蒸留水40mLに対してスラグAを添加して、スラグ懸濁液を作製した。スラグ懸濁液の濃度を、2.5mg/mL(0.1g/40mL)、12.5mg/mL(0.5g/40mL)、25mg/mL(1g/40mL)、及び125mg/mL(5g/40mL)の4種類の濃度に調製した。それぞれの濃度の懸濁液を撮影した画像を
図8に示す。
図8は、実施例において用いたスラグ懸濁液を濃度毎に示す図である。
【0045】
各スラグ懸濁液中にキヌヒカリ種子を投入して、20℃で4日間の条件で浸種した後、30℃で1日間の条件で催芽処理を行った。4種類の濃度のスラグ懸濁液のそれぞれにより催芽した種子の発芽種子数と平均子葉鞘長とを算出し、結果を
図9に示す。
図9は、スラグ懸濁液濃度と発芽種子数との関係を調べた結果を示すグラフである。
【0046】
図9に示すように、スラグ濃度依存的に発芽種子数が増加し、かつ、子葉鞘の伸長が促進された。なお、発芽種子数はスラグ濃度12.5mg/mL以上でプラトーに達した。この結果から、スラグ濃度を調整することにより、種子の生育促進効果を制御可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、農業分野、育種分野等に利用することができる。
【要約】
【課題】種子の生育を促進する技術を実現し、種子予措作業を省力化する
【解決手段】種子の生育を促進する生育促進方法は、石灰及びシリカを含む生育促進剤を懸濁した懸濁液中に前記種子を浸漬する浸漬工程を包含する。
【選択図】なし