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特許7674011不織布用繊維処理剤、不織布用繊維処理剤の水性液、及び繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】不織布用繊維処理剤、不織布用繊維処理剤の水性液、及び繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/292 20060101AFI20250430BHJP
   D04H 1/4291 20120101ALI20250430BHJP
   D06M 13/144 20060101ALI20250430BHJP
   D06M 13/188 20060101ALI20250430BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20250430BHJP
   D06M 101/20 20060101ALN20250430BHJP
【FI】
D06M13/292
D04H1/4291
D06M13/144
D06M13/188
D06M15/53
D06M101:20
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024099709
(22)【出願日】2024-06-20
【審査請求日】2024-06-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-159713(JP,A)
【文献】特開2016-223035(JP,A)
【文献】国際公開第2022/050410(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/149326(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/292
D04H 1/4291
D06M 13/144
D06M 13/188
D06M 15/53
D06M 101/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のリン酸化合物(A)、及び下記のアルコール(B)を含有する不織布用繊維処理剤であって、
前記不織布用繊維処理剤をアルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、リン酸エステルP4、リン酸エステルP5、オルトリン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上65%以下、前記リン酸エステルP5に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上45%以下、下記の数式(1)により求められる値が8以下であり、
前記不織布用繊維処理剤の1質量%水希釈液の25℃におけるpHが、5.0以上8.0以下であり、
且つ、前記不織布用繊維処理剤の不揮発分あたりの酸価が5KOH-mg/g以上、60KOH-mg/g未満であることを特徴とする不織布用繊維処理剤。
リン酸化合物(A):下記の式(3)に示されるリン酸エステルP3、下記の式(4)に示されるリン酸エステルP4、下記の式(5)に示されるリン酸エステルP5、及びオルトリン酸を含有し、更に、任意選択で下記の式(1)に示されるリン酸エステルP1、及び下記の式(2)に示されるリン酸エステルP2から選ばれる少なくとも1つを含有するもの。
【化1】
(化1において、
,M,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【化2】
(化2において、
:炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基。
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【化3】
(化3において、
,R:炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【化4】
(化4において、
:炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基。
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【化5】
(化5において、
,R:炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【数1】
アルコール(B):炭素数8以上18以下の脂肪族アルコール。
【請求項2】
前記数式(1)により求められる値が3.5以下である請求項1に記載の不織布用繊維処理剤。
【請求項3】
前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率が6.5%以上40%以下である請求項1に記載の不織布用繊維処理剤。
【請求項4】
前記リン酸エステルP2及び前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計が0%超20%未満である請求項1に記載の不織布用繊維処理剤。
【請求項5】
前記リン酸化合物(A)、及び前記アルコール(B)の含有割合を100質量%とすると、前記リン酸化合物(A)を85質量%以上99.9質量%以下、及び前記アルコール(B)を0.1質量%以上15質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の不織布用繊維処理剤。
【請求項6】
下記2条件のうち、少なくとも1つを満たす請求項1に記載の不織布用繊維処理剤。
条件1:炭素数の異なる2種以上の前記アルコール(B)を含有する。
条件2:炭素数12以上20以下の脂肪酸(C)を含有する。
【請求項7】
更に、下記のノニオン界面活性剤(D)を含有する請求項1に記載の不織布用繊維処理剤。
ノニオン界面活性剤(D):炭素数22以上50以下の1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを合計で5モル以上100モル以下付加させた化合物、及び縮合度3以上12以下のポリグリセリンと炭素数12以上18以下の飽和脂肪酸とのエステル化合物から選ばれる少なくとも1つ。
【請求項8】
前記リン酸化合物(A)、前記アルコール(B)、及びノニオン界面活性剤(D)の含有割合を100質量%とすると、前記リン酸化合物(A)を20質量%以上80質量%以下、前記アルコール(B)を0.1質量%以上10質量%以下、及びノニオン界面活性剤(D)を10%質量以上75質量%以下の割合で含有する請求項7に記載の不織布用繊維処理剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の不織布用繊維処理剤の不揮発分濃度が、0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする不織布用繊維処理剤の水性液。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の不織布用繊維処理剤が付着していることを特徴とする繊維。
【請求項11】
前記繊維がポリオレフィン系合成繊維である請求項10に記載の繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布用繊維処理剤、不織布用繊維処理剤の水性液、及び繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、不織布の製造工程において、合成繊維の紡糸延伸工程や、仕上げ工程等を行うことが知られている。また、紡糸延伸工程、仕上げ工程等において、合成繊維の摩擦等を低減し、制電性等を向上させる観点から、合成繊維の表面に合成繊維用処理剤を付着させる処理が行われることがある。
【0003】
従来、特許文献1~3等に開示される合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1には、不織布製造用繊維処理剤について、特定のアルキルリン酸エステルを含み、処理剤の不揮発分の酸価(KOHmg/g)が100未満であることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ポリオレフィン系合成繊維用処理剤について、特定の有機酸、アルキルリン酸エステル塩、及びポリオキシアルキレン誘導体を含有することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、短繊維用繊維処理剤について、特定のアルキルリン酸エステルを含有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2023/149326号
【文献】特開2017-210693号公報
【文献】特開2020-73741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、不織布に用いられる合成繊維用処理剤、すなわち不織布用繊維処理剤には、処理剤を付着させた合成繊維を長期間保管した後においても、合成繊維の摩擦の変化率が小さいことが求められている。また、不織布用繊維処理剤を付着させた合成繊維の湿潤時摩擦特性、不織布用繊維処理剤の乳化安定性、及び抑泡性においても、さらなる性能向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定のリン酸化合物とアルコールを含む不織布用繊維処理剤がまさしく好適であることを見出した。
上記課題を解決する各態様を記載する。
【0009】
態様1の不織布用繊維処理剤は、下記のリン酸化合物(A)、及び下記のアルコール(B)を含有する不織布用繊維処理剤であって、
前記不織布用繊維処理剤をアルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、リン酸エステルP4、リン酸エステルP5、オルトリン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上65%以下、前記リン酸エステルP5に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上45%以下、下記の数式(1)により求められる値が8以下であり、
前記不織布用繊維処理剤の1質量%水希釈液の25℃におけるpHが、5.0以上8.0以下であり、
且つ、前記不織布用繊維処理剤の不揮発分あたりの酸価が5KOH-mg/g以上、60KOH-mg/g未満であることを特徴とする不織布用繊維処理剤。
【0010】
リン酸化合物(A):下記の式(3)に示されるリン酸エステルP3、下記の式(4)に示されるリン酸エステルP4、下記の式(5)に示されるリン酸エステルP5、及びオルトリン酸を含有し、更に、任意選択で下記の式(1)に示されるリン酸エステルP1、及び下記の式(2)に示されるリン酸エステルP2から選ばれる少なくとも1つを含有するもの。
【0011】
【化1】
【0012】
(化1において、
,M,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【0013】
【化2】
【0014】
(化2において、
:炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基。
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【0015】
【化3】
【0016】
(化3において、
,R:炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【0017】
【化4】
【0018】
(化4において、
:炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基。
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【0019】
【化5】
【0020】
(化5において、
,R:炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【0021】
【数1】
【0022】
アルコール(B):炭素数8以上18以下の脂肪族アルコール。
態様2は、態様1に不織布用繊維処理剤において、前記数式(1)により求められる値が3.5以下である。
【0023】
態様3は、態様1又は2に記載の不織布用繊維処理剤において、前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率が6.5%以上40%以下である。
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の不織布用繊維処理剤において、前記リン酸エステルP2及び前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計が0%超20%未満である。
【0024】
態様5は、態様1~4のいずれか一態様に記載の不織布用繊維処理剤において、前記リン酸化合物(A)、及び前記アルコール(B)の含有割合を100質量%とすると、前記リン酸化合物(A)を85質量%以上99.9質量%以下、及び前記アルコール(B)を0.1質量%以上15質量%以下の割合で含有する。
【0025】
態様6は、態様1~5のいずれか一態様に記載の不織布用繊維処理剤において、下記2条件のうち、少なくとも1つを満たす。
条件1:炭素数の異なる2種以上の前記アルコール(B)を含有する。
【0026】
条件2:炭素数12以上20以下の脂肪酸(C)を含有する。
態様7は、態様1~6のいずれか一態様に記載の不織布用繊維処理剤において、更に、下記のノニオン界面活性剤(D)を含有する。
【0027】
ノニオン界面活性剤(D):炭素数22以上50以下の1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを合計で5モル以上100モル以下付加させた化合物、及び縮合度3以上12以下のポリグリセリンと炭素数12以上18以下の飽和脂肪酸とのエステル化合物から選ばれる少なくとも1つ。
【0028】
態様8は、態様7に記載の不織布用繊維処理剤において、前記リン酸化合物(A)、前記アルコール(B)、及びノニオン界面活性剤(D)の含有割合を100質量%とすると、前記リン酸化合物(A)を20質量%以上80質量%以下、前記アルコール(B)を0.1質量%以上10質量%以下、及びノニオン界面活性剤(D)を10%質量以上75質量%以下の割合で含有する。
【0029】
態様9の不織布用繊維処理剤の水性液は、態様1~8のいずれか一態様に記載の不織布用繊維処理剤の不揮発分濃度が、0.1質量%以上10質量%以下であることを要旨とする。
【0030】
態様10の繊維は、態様1~8のいずれか一態様に記載の不織布用繊維処理剤が付着していることを要旨とする。
態様11の繊維は、態様10に記載の繊維がポリオレフィン系合成繊維であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、不織布用繊維処理剤を付着させた合成繊維を長期間保管した後においても、合成繊維の摩擦の変化率を小さくすることができる。また、不織布用繊維処理剤を付着させた合成繊維の湿潤時摩擦特性、不織布用繊維処理剤の乳化安定性、及び抑泡性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<第1実施形態>
以下、本発明の不織布用繊維処理剤(以下、単に処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。本実施形態の処理剤は、下記のリン酸化合物(A)、及び下記のアルコール(B)を含有する。
【0033】
(リン酸化合物(A))
リン酸化合物(A)は、下記の式(3)に示されるリン酸エステルP3、下記の式(4)に示されるリン酸エステルP4、下記の式(5)に示されるリン酸エステルP5、及びオルトリン酸を含有し、更に、任意選択で下記の式(1)に示されるリン酸エステルP1、及び下記の式(2)に示されるリン酸エステルP2から選ばれる少なくとも1つを含有する。
【0034】
【化6】
【0035】
(化1において、
,M,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【0036】
【化7】
【0037】
(化2において、
:炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基。
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【0038】
【化8】
【0039】
(化3において、
,R:炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【0040】
【化9】
【0041】
(化4において、
:炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基。
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【0042】
【化10】
【0043】
(化5において、
,R:炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン、アンモニウム、又はホスホニウム。)
(アルカリ金属)
リン酸化合物(A)において、M~Mを構成するアルカリ金属は、特に制限されず、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。
【0044】
(アルカリ土類金属)
~Mを構成するアルカリ土類金属は、特に制限されず、例えばカルシウム、マグネシウム、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0045】
なお、上記「アルカリ土類金属(1/2)」は、アルカリ土類金属が2価であるため、M~Mにおいて、1/2モル付加されることを意味する。
(有機アミン)
~Mを構成する有機アミンは、特に制限されず、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン(ステアリルアミンともいう。)、オクタデセニルアミン、ヤシアミン等の一級アミンが挙げられる。
【0046】
(ホスホニウム)
~Mを構成するホスホニウムは、特に制限されず、例えばテトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、ジブチルジヘキシルホスホニウム、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム、トリエチルオクチルホスホニウム、トリオクチルメチルホスホニウム、トリフェニルメチルホスホニウム等の四級ホスホニウムが挙げられる。
【0047】
上記M~Mを構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属、有機アミン、アンモニウム、及びホスホニウムは、それぞれ、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0048】
(炭素数8以上12以下のアルキル基)
~Rを構成する炭素数8以上12以下のアルキル基は、特に制限されず、直鎖のアルキル基であってもよいし、分岐鎖を有するアルキル基であってもよい。
【0049】
直鎖のアルキル基の具体例としては、例えばオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。
分岐鎖を有するアルキル基の具体例としては、例えばイソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基等が挙げられる。
【0050】
(炭素数8以上12以下のアルケニル基)
~Rを構成する炭素数8以上12以下のアルケニル基は、特に制限されず、直鎖のアルケニル基であってもよいし、分岐鎖を有するアルケニル基であってもよい。
【0051】
直鎖のアルケニル基の具体例としては、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等が挙げられる。
分岐鎖を有するアルケニル基の具体例としては、例えばイソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基、イソウンデセニル基、イソドデセニル基等が挙げられる。
【0052】
上記R~Rを構成する炭素数8以上12以下のアルキル基、及びアルケニル基は、それぞれ、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0053】
リン酸化合物(A)が含有するオルトリン酸は、塩を形成していてもよい。オルトリン酸の塩としては、例えば上記アルカリ金属や、アルカリ土類金属との塩を挙げることができる。
【0054】
(リン酸化合物(A)の製造方法)
リン酸化合物(A)の製造方法は特に制限されず、公知の製造方法を採用することができる。リン酸化合物(A)の製造方法は、例えば原料としての脂肪族アルコールと、五酸化二燐等の無水リン酸を反応させてリン酸化物を得た後(以下、リン酸化反応ともいう。)、得られたリン酸化物を中和することによって製造することができる。
【0055】
脂肪族アルコールは、上記R~Rを構成する炭素数8以上12以下のアルキル基又はアルケニル基を有するアルコールを採用することができる。
脂肪族アルコールは、予め脱水処理を行っていることが好ましい。予め脱水処理を行っていると、原料中の水分による無水リン酸の分解を抑制しやすくなる。
【0056】
脂肪族アルコールと無水リン酸の反応雰囲気は、特に制限されず、窒素雰囲気、大気雰囲気等を採用することができるが、窒素雰囲気であると、反応雰囲気中の水分による無水リン酸の分解を抑制しやすくなるため好ましい。
【0057】
上記リン酸化反応の条件は、特に制限されないが、例えば65℃以上85℃以下の温度条件で、1時間以上6時間以下で反応を行うことが好ましい。
また、合成されたリン酸化物は、水分と接触しないようにすることが好ましい。リン酸化物が水分と接触すると、リン酸エステルP2やリン酸エステルP3が分解されやすくなる。
【0058】
上記中和の条件は、特に制限されないが、例えば85℃以上95℃以下の温度で、3時間以上9時間以下で中和を行うことが好ましい。中和の温度が85℃未満であると、リン酸エステルP2の含有量が多くなりやすい。
【0059】
(アルコール(B))
アルコール(B)は、炭素数8以上18以下の脂肪族アルコールである。
アルコール(B)の具体例としては、例えばオクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール(ラウリルアルコール)、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール(セチルアルコール)、ヘプタデカノール、オクタデカノール(ステアリルアルコール)等が挙げられる。
【0060】
アルコール(B)は、直鎖の脂肪族アルコールであってもよいし、分岐鎖を有する脂肪族アルコールであってもよい。
上記アルコール(B)は、1種類のアルコール(B)を単独で使用してもよいし、2種類以上のアルコール(B)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0061】
アルコール(B)は、炭素数の異なる2種類以上のアルコール(B)を含有することが好ましい。炭素数の異なる2種類以上のアルコール(B)を含有すると、処理剤の抑泡性をより向上させることができる。
【0062】
(リン酸化合物(A)とアルコール(B)の含有割合)
処理剤におけるリン酸化合物(A)、及びアルコール(B)の含有割合は、特に制限されない。リン酸化合物(A)、及びアルコール(B)の含有割合を100質量%とすると、リン酸化合物(A)を85質量%以上99.9質量%以下、及びアルコール(B)を0.1%質量以上15質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0063】
処理剤におけるリン酸化合物(A)、及びアルコール(B)の含有割合が上記数値範囲であると、上記処理剤を付着させた合成繊維の初期親水性をより向上させることができる。
【0064】
(P核NMR積分比率)
処理剤をアルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、リン酸エステルP4、リン酸エステルP5、オルトリン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上65%以下、リン酸エステルP5に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上45%以下である。
【0065】
また、下記の数式(1)により求められる値が8以下である。下記数式(1)より求められる値は、3.5以下であることが好ましい。
【0066】
【数2】
【0067】
数式(1)より求められる値が8以下であると、処理剤を付着させた合成繊維を長期間保管した後においても、合成繊維の摩擦の変化率を小さくすることができる。また、数式(1)より求められる値が3.5以下であると、上記摩擦の変化率をより小さくすることができる。
【0068】
処理剤を付着させた合成繊維の摩擦特性は、リン酸エステルP1、及びリン酸エステルP2の経時分解によるオルトリン酸の増加による影響が大きいと考えられる。1モルのリン酸エステルP1から2モルのオルトリン酸が分解によって生成する。また、1モルのリン酸エステルP2から1モルのオルトリン酸が分解によって生成する。そのため、上記の数式(1)によって、オルトリン酸の生成による影響を考慮して、合成繊維の摩擦の変化率を評価することができる。
【0069】
ここで、上記「アルカリ過中和前処理」とは、リン酸化合物(A)が含有するリン酸エステルやオルトリン酸に対して、過剰量のアルカリを添加する前処理を意味する。なお、アルカリの具体例としては、アルカリ金属の水酸化物等が挙げられる。また、リン酸エステルの塩を合成する場合に使用したアルカリと同じであってもよく、異なっていてもよい。アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。P核NMR測定において、アルカリ過中和前処理を行うことで、リン酸エステルP1~P5、オルトリン酸及びその塩に帰属されるピークを明瞭に分けることができる。P核NMR積分比率の測定方法については後述する。
【0070】
リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率は6.5%以上40%以下であることが好ましい。
また、リン酸エステルP2及びリン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計が0%超20%未満であることが好ましい。
【0071】
リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率が6.5%以上40%以下であると、乳化安定性をより向上させることができる。
また、リン酸エステルP2及びリン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率の合計が0%超20%未満であると、処理剤を付着させた合成繊維と湿潤時の金属の摩擦をより低減することができる。言い換えれば、湿潤時摩擦特性をより向上させることができる。
【0072】
(処理剤のpH)
処理剤の1質量%水希釈液の25℃におけるpHは、5.0以上8.0以下である。
pH5.0以上8.0以下は、弱酸性から中性程度であるため、処理剤が付着した繊維を含む不織布を肌に触れる衛生材料等に用いた際に、肌への刺激性をより少なくすることができる。
【0073】
処理剤のpHの調整方法は特に制限されない。例えば処理剤の酸価を調整することによってpHを調整することができる。また、後述するその他成分(E)としてpH調整剤を用いることによっても、処理剤のpHを調整することができる。
【0074】
pHの測定方法は特に制限されず、例えば公知のpH測定器(株式会社堀場製作所社製 卓上型pHメータF-72)等を用いて測定することができる。
(処理剤の酸価)
処理剤の不揮発分あたりの酸価は、5KOH-mg/g以上、60KOH-mg/g未満である。処理剤の不揮発分あたりの酸価が上記数値範囲であると、処理剤の乳化安定性を向上させることができる。
【0075】
処理剤の不揮発分あたりの酸価は、処理剤の不揮発分をエタノール/キシレン=1/2(容量比)の混合溶媒に溶解し、電位差滴定装置にセットして、0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液で滴定し、下記の数式から算出される値である。
【0076】
酸価(KOH-mg/g)=(R×f×56.11×0.1)/S
数式において、
f:0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液のファクター
S:試料採取量(g、固形分換算量)
R:変曲点までの0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液の使用量(mL)
なお、処理剤の不揮発分とは、処理剤を105℃で恒量になるまで熱処理し、揮発性物質を十分に除去した絶乾物の質量から求められるものを意味する。
【0077】
(炭素数12以上20以下の脂肪酸(C))
処理剤は、炭素数12以上20以下の脂肪酸(C)を含有してもよい。
脂肪酸(C)の具体例としては、例えばドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ノナデカン酸、イコサン酸等が挙げられる。
【0078】
上記脂肪酸(C)は、1種類の脂肪酸(C)を単独で使用してもよいし、2種類以上の脂肪酸(C)を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤が炭素数12以上20以下の脂肪酸(C)を含有すると、処理剤の抑泡性をより向上させることができる。
【0079】
上記脂肪酸(C)の含有割合は、特に制限されないが、処理剤の不揮発分中に0質量%以上2質量%以下の割合で含有することが好ましい。
処理剤は、下記2条件のうち、少なくとも1つを満たすことが好ましい。
【0080】
条件1:炭素数の異なる2種以上のアルコール(B)を含有する。
条件2:炭素数12以上20以下の脂肪酸(C)を含有する。
処理剤が、上記条件1,2の少なくとも1つを満たすと、処理剤の抑泡性をより向上させることができる。
【0081】
(ノニオン界面活性剤(D))
処理剤は、更に、下記のノニオン界面活性剤(D)から選ばれる少なくとも1つを含有することが好ましい。
【0082】
ノニオン界面活性剤(D)の具体例としては、例えば炭素数22以上50以下の1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを合計で5モル以上100モル以下付加させた化合物、縮合度3以上12以下のポリグリセリンと炭素数12以上18以下の飽和脂肪酸とのエステル化合物等が挙げられる。
【0083】
処理剤が上記のノニオン界面活性剤(D)を含有すると、処理剤を付着させた合成繊維の耐久親水性をより向上させることができる。
(リン酸化合物(A)、アルコール(B)、及びノニオン界面活性剤(D)の含有割合)
処理剤におけるリン酸化合物(A)、アルコール(B)、及びノニオン界面活性剤(D)の含有割合は、特に制限されない。リン酸化合物(A)、アルコール(B)、及びノニオン界面活性剤(D)の含有割合を100質量%とすると、リン酸化合物(A)を20質量%以上80質量%以下、アルコール(B)を0.1質量%以上10質量%以下、及びノニオン界面活性剤(D)を10質量%以上75質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0084】
処理剤におけるリン酸化合物(A)、アルコール(B)、及びノニオン界面活性剤(D)の含有割合が上記数値範囲であると、上記処理剤の酸価や数式(1)により求められる値を上記数値範囲とすることが容易になる。
【0085】
(その他成分(E))
処理剤は、その他成分(E)を含有してもよい。その他成分(E)としては、例えば、安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、上記ノニオン界面活性剤(D)以外の界面活性剤、pH調整剤、上記アルコール(B)以外のアルコール等の通常処理剤に用いられる成分が挙げられる。
【0086】
その他成分(E)の具体例としては、例えば乳酸、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、ドデシルスルホン酸ナトリウム塩、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。
【0087】
処理剤の不揮発分において、その他成分(E)の含有量は、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。その他成分(E)は0質量%であってもよい。
【0088】
(保存形態)
処理剤は、上述した成分(A)~(E)を含む1剤型として構成されてもよいし、製剤安定性を向上させる観点から、2剤型の処理剤又は3剤型の処理剤として構成されてもよい。
【0089】
(溶媒)
本実施形態の処理剤は、必要により溶媒と混合することにより不織布用繊維処理剤含有組成物(以下、「処理剤含有組成物」ともいう。)が調製され、処理剤含有組成物の形態で、保存又は流通させてもよい。
【0090】
溶媒は、1気圧における沸点が105℃以下である溶媒である。溶媒としては、水、有機溶媒が挙げられる。
水の具体例としては、例えばイオン交換水、蒸留水、硬水、軟水等が挙げられる。これらの中でもイオン交換水や、蒸留水を用いることが好ましい。
【0091】
有機溶媒の具体例としては、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等、ヘキサン等の低極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種類を単独で使用してもよいし、又は2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの中で、各成分の分散性又は溶解性に優れる観点から水、低級アルコール等の極性溶媒が好ましく、ハンドリング性に優れる観点から水がより好ましい。
【0092】
<第1実施形態の作用及び効果>
(1-1)第1実施形態の処理剤は、上述したリン酸化合物(A)、及びアルコール(B)を含有する。また、リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上65%以下、リン酸エステルP5に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上45%以下、数式(1)により求められる値が8以下であり、且つ、処理剤の不揮発分あたりの酸価が5KOH-mg/g以上、60KOH-mg/g未満である。したがって、処理剤を付着させた合成繊維を長期間保管した後においても、合成繊維の摩擦の変化率を小さくすることができる。また、処理剤を付着させた合成繊維の湿潤時摩擦特性、初期親水性、耐久親水性、処理剤の乳化安定性、及び抑泡性を向上させることができる。
【0093】
(1-2)更に、上述したノニオン界面活性剤(D)を含有することによって、処理剤を付着させた合成繊維の耐久親水性をより向上させることができる。
(1-3)第1実施形態の処理剤を用いることによって、衛生用品としてのおむつやウェットティッシュ等の最終製品に好適に用いることを可能にした不織布を製造することができる。
【0094】
<第2実施形態>
次に、本発明の不織布用繊維処理剤の水性液(以下、単に水性液ともいう。)を具体化した第2実施形態について説明する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0095】
本実施形態の水性液は、上記処理剤と、水を含有する。水性液は、処理剤と水を混合することによって、乳化物として使用する。水の具体例としては、上記溶媒としての水と同様のものを使用することができる。
【0096】
水性液の調製方法は特に制限されず、例えば、予め計量した水に対して、所定量の処理剤を添加する方法が挙げられる。さらに、公知のホモミキサーやホモジナイザー等を用いた公知の機械的乳化方法によって調製することができる。
【0097】
水性液における処理剤の濃度は、特に制限されない。処理剤の濃度は、例えば、処理剤の不揮発分濃度が、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
水性液における処理剤の濃度が上記数値範囲であると、乳化安定性を向上させやすくなる。
【0098】
<第2実施形態の作用及び効果>
第2実施形態では、第1実施形態の作用及び効果に加えて、以下の作用及び効果を有する。
【0099】
(2-1)上記第2実施形態の水性液は、上述した処理剤と、水を含有する。したがって、処理剤を乳化物の形態で不織布用の合成繊維に付与することができる。また、溶媒として水を含有することによって、水性液のハンドリング性が良好になる。
【0100】
<第3実施形態>
次に、本発明の繊維を具体化した第3実施形態について説明する。
本実施形態の繊維は、第1実施形態の処理剤が表面に付着している処理済み繊維である。処理剤が繊維の表面に付着することにより本発明の効果が発現した繊維が得られる。
【0101】
繊維の種類としては、特に制限されないが、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリエチレンテレフタラート・イソフタラート、ポリエーテルポリエステル、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中でも、ポリオレフィン系繊維(以下、ポリオレフィン系合成繊維ともいう。)であることが好ましい。
【0102】
ポリオレフィン系合成繊維は、芯鞘構造の複合繊維であってもよい。すなわち、芯部と鞘部のいずれか又は両方がポリオレフィン系繊維である複合繊維であってもよい。具体的には、鞘部がポリエチレンであり、芯部がポリプロピレンであるポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維、鞘部がポリエチレンであり、芯部がポリエステルであるポリエチレン/ポリエステル複合繊維であってもよい。
【0103】
本実施形態の処理剤は、不織布の用途に適用される。本実施形態の処理剤が表面に付着している処理済み不織布を得ることができれば、不織布製造前の繊維表面に処理剤を付着させてもよく、不織布製造後の繊維表面に処理剤を付着させてもよい。
【0104】
また、繊維の長さは、特に制限されず、短繊維及び長繊維のいずれにも適用できるが、短繊維に適用されることが好ましい。すなわち、本実施形態のポリオレフィン系合成繊維は、ポリオレフィン系短繊維であることが好ましい。
【0105】
短繊維は、一般にステープルと呼ばれるものが該当し、一般にフィラメントと呼ばれる長繊維を含まないものとする。また、短繊維の長さは、本技術分野において短繊維に該当するものであれば特に限定されないが、例えば100mm以下、好ましくは30mm以上70mm以下である。
【0106】
(処理剤の付着処理)
第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる割合に特に制限はない。処理剤は、処理剤の不揮発分が繊維に対して好ましくは0.01質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上3質量%以下となるように付着させる。かかる構成により、各成分による効能を有効に発揮できる。また、水性液を付着させる方法は、特に制限はなく、繊維の種類、形態、用途等により公知の方法、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等を採用できる。浸漬給油法が用いられる場合、浸漬時間は好ましくは1分以上5分以下である。
【0107】
水性液が付与された繊維は、公知の方法を用いて乾燥又は加熱処理してもよい。乾燥又は加熱処理により水等の溶媒が揮発され、処理剤中に含有される成分が付着している繊維が得られる。処理剤中の成分が付着した繊維は、不織布用としての効能を有効に発揮することができる。
【0108】
(不織布の製造方法)
不織布の種類としては、特に限定されないが、例えばスパンボンド法で作製したスパンボンド不織布等が挙げられる。また、スパンボンド法以外のウェブ形成方式としては、例えば、原料繊維が短繊維の場合において、カード方式やエアレイド方式等の乾式法や、抄紙方式等の湿式法が挙げられる。また、原料繊維が長繊維の場合において、メルトブローン法やフラッシュ紡糸法が挙げられる。また、繊維間結合方式としては、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、スティッチボンド法等が挙げられる。
【0109】
本実施形態のポリオレフィン系合成繊維を用いて、更に以下の方法によって不織布が製造されてもよい。具体的には、以下の工程を経ることにより得られる。
工程1:第1実施形態の処理剤を、ポリオレフィン系合成繊維に対し付着させる工程。
【0110】
工程2:前記工程1で処理剤を付着させたポリオレフィン系合成繊維を、ローラーカード機に通過させてローラーカードウェブを得る工程。工程2は、カード工程ともいう。
工程3:前記工程2で得られたローラーカードウェブに対して、熱風処理を行い、繊維同士を融着させて不織布を製造する工程。工程3は、エアスルー工程ともいう。
【0111】
以上の工程を経ることにより、不織布を製造できる。エアスルー工程を経て得られた不織布は、サーマルボンド不織布ともいう。
<第3実施形態の作用及び効果>
(3-1)ポリオレフィン系合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している。したがって、長期間保管した後においても、摩擦の変化率が小さくなる。また、ポリオレフィン系合成繊維の湿潤時摩擦特性が向上する。
【実施例
【0112】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を意味する。
【0113】
試験区分1(不織布用繊維処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示されるように、リン酸化合物(A)として表2に示されるリン酸化合物(A-1)23.2部(質量%)及び(A-2)16部(質量%)、アルコール(B)としてラウリルアルコール(B-1)0.28部(質量%)、及びオクチルアルコール(B-2)0.28部(質量%)、脂肪酸(C)としてステアリン酸(C-2)0.24部(質量%)、ノニオン界面活性剤(D)としてポリオキシエチレン(40モル)トリアコンチルエーテル(D-1)30部(質量%)及びポリオキシエチレン(50モル)テトラコンチルエーテル(D-2)30部(質量%)の合計100部(質量%)を、ビーカーにて70℃の温水900部で希釈した。均一になるまで撹拌して、実施例1の不織布用繊維処理剤の10質量%水性液を調製した。
【0114】
(実施例2~25、比較例1~12)
実施例2~実施例25、比較例1~12の処理剤は、実施例1の処理剤と同様にしてリン酸化合物(A)、アルコール(B)、脂肪酸(C)、ノニオン界面活性剤(D)、及びその他成分(E)を表1に示した割合で含むように調製した。
【0115】
リン酸化合物(A)の種類と含有量、アルコール(B)の種類と含有量、脂肪酸(C)の種類と含有量、ノニオン界面活性剤(D)の種類と含有量、及びその他成分(E)の種類と含有量を表1の「リン酸化合物(A)」欄、「アルコール(B)」欄、「脂肪酸(C)」欄、「ノニオン界面活性剤(D)」欄、及び「その他(E)」欄にそれぞれ示す。また、数式(1)により求められる値、処理剤の不揮発分あたりの酸価、及び処理剤の1質量%水希釈液の25℃におけるpHを、表1の「数式1の値」欄、「処理剤の酸価」欄、及び「pH」欄に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
表1に示すリン酸化合物(A)の詳細は以下のとおりである。
<リン酸化合物(A)>
リン酸化合物(A)は、表2に記載されるA-1~A-16を使用した。リン酸化合物(A)の種類を表2の「リン酸化合物(A)の種類」欄に示す。また、リン酸化合物(A)の製造条件、酸価、P核NMR積分比率を、表2の「製造条件(A/B/C/D)」欄、「リン酸化合物(A)の酸価」欄、「P核NMR積分比率(%)」欄にそれぞれ示す。
【0118】
【表2】
【0119】
表2に示すリン酸化合物(A)の製造条件A~Dの詳細を表3に示す。表3において、「アルコール脱水」欄に、原料アルコールの脱水の有無を示す。「合成環境」欄に、リン酸化反応の雰囲気を示す。「リン酸化条件」欄に、リン酸化反応の温度と時間を示す。「リン酸化後水添加」欄に、リン酸化反応後の水の添加の有無を示す。「中和条件」欄に、リン酸化物の中和の温度と時間を示す。
【0120】
【表3】
【0121】
リン酸化合物(A)の製造条件A~Dについて、さらに詳細を以下に示す。
(製造条件A)
製造条件Aでは、原料アルコールは105℃で減圧脱水を行ったものを使用した。4つ口フラスコに原料アルコールを仕込み、これに窒素雰囲気下で五酸化二燐を徐々に投入し、70±3℃で3時間撹拌してリン酸化反応を行った。水酸化カリウム水溶液に、リン酸化反応で得られたリン酸化物を徐々に仕込み、90±3℃で6時間撹拌してリン酸化物を中和し、リン酸エステル化合物を合成した。
【0122】
(製造条件B)
製造条件Bでは、原料アルコールは試薬瓶開封後そのまま使用した。リン酸化反応は大気下で行った。五酸化二燐は、試薬瓶開封後、全量投入するまで大気下(室温:約27℃、相対湿度:約80%)に置いた。五酸化二燐の投入開始から投入終了まで約30分間を要した。その他は、製造条件Aと同様の条件で、リン酸エステル化合物を合成した。
【0123】
(製造条件C)
製造条件Cでは、原料アルコールは試薬瓶開封後そのまま使用した。リン酸化反応は大気下で行った。五酸化二燐は、試薬瓶開封後、全量投入するまで大気下(室温:約27℃、相対湿度:約80%)に置いた。五酸化二燐の投入開始から投入終了まで約30分間を要した。70±3℃で3時間撹拌してリン酸化反応を行った。水酸化カリウム水溶液に、リン酸化反応で得られたリン酸化物を徐々に仕込み、70±3℃で3時間撹拌してリン酸化物を中和した。その他は、製造条件Aと同様の条件で、リン酸エステル化合物を合成した。
【0124】
(製造条件D)
製造条件Dでは、原料アルコールは試薬瓶開封後そのまま使用した。リン酸化反応は大気下で行った。五酸化二燐は、試薬瓶開封後、全量投入するまで大気下(室温:約27℃、相対湿度:約80%)に置いた。五酸化二燐の投入開始から投入終了まで約30分間を要した。70±3℃で3時間撹拌してリン酸化反応を行った。リン酸化反応完了後、原料アルコールと五酸化二燐の合計量の1.8質量%の水を投入し、70℃±3℃で1時間撹拌を行い、リン酸化物を得た。水酸化カリウム水溶液に、得られたリン酸化物を徐々に仕込み、70±3℃で3時間撹拌してリン酸化物を中和した。その他は、製造条件Aと同様の条件で、リン酸エステル化合物を合成した。
【0125】
なお、製造条件A~Dでは、それぞれの条件において、さらに原料アルコールと五酸化二燐の配合比や、リン酸化物の中和の条件等を技術常識の範囲内で適宜調整してもよい。これらの条件を調整することによって、同じ製造条件であっても、合成されるリン酸エステル化合物の組成を調整することができる。すなわち、リン酸化合物(A)が含有するリン酸エステルP1~P5、オルトリン酸の比率を調整することができる。
【0126】
表2に示すリン酸化合物(A)のP核NMR積分比率は、以下の方法により測定した。
(P核NMR積分比率の測定方法)
リン酸化合物(A)のP核NMR積分比率は、まずリン酸化合物(A)に過剰のKOHを加えてpHを12以上とすることにより前処理した。この前処理により31P-NMRの測定において、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、リン酸エステルP4、リン酸エステルP5、オルトリン酸及びその塩に帰属されるピークを明瞭に分けることができる。
【0127】
P核NMR積分比率は、31P-NMR(VALIAN社製の商品名MERCURY plus NMR Spectrometor System、300MHz、以下同じ)を用いた。
【0128】
溶媒は、重水/テトラヒドロフラン=8/2(体積比)の混合溶媒を用いた。
得られたシグナルのうち、-3ppm~-7ppmに現れるシングルのシグナルの積分値がP1中のP原子に対応する。
【0129】
-3ppm~-7ppmに現れるダブレットのシグナルの積分値と-7ppm~-11ppmに現れるダブレットのシグナルの積分値の合計がP2中のP原子に対応する。
-7ppm~-14ppmに現れるシングルのシグナルの積分値がP3中のP原子に対応する。
【0130】
3ppm~7ppmに現れるシングルのシグナルの積分値がP4中のP原子に対応する。
-1ppm~4ppmに現れるシングルのシグナルの積分値がP5中のP原子に対応する。
【0131】
4ppm~10ppmに現れるシグナルの積分値がオルトリン酸及びその塩中のP原子に対応する。
ただし、上記の値で範囲が重複してシグナルが検出されている場合、低磁場側から順に、オルトリン酸及びその塩、リン酸エステルP4、P5、P2(-3ppm~-7ppm)、P1、P2(-7ppm~-11ppm)、P3に対応するP原子由来のシグナルが検出される。
【0132】
リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、リン酸エステルP4、リン酸エステルP5、オルトリン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%とし、上述の数式(1)により値を求めることができる。
【0133】
表2に示すリン酸化合物(A)の酸価は、以下の方法により測定した。
(酸価の測定方法)
リン酸化合物(A)をエタノール/キシレン=1/2(容量比)の混合溶媒に溶解し、電位差滴定装置にセットして、0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液で滴定し、上記処理剤の酸価の測定と同じ数式から算出した。
【0134】
(pHの測定方法)
各例の処理剤を水で希釈し、1質量%水性液を調製した。調製した1質量%水性液の25℃でのpHを公知のpH測定器(株式会社堀場製作所社製 卓上型pHメータF-72)を用いて常法に従い測定した。
【0135】
表1に示すアルコール(B)の詳細は以下のとおりである。
<アルコール(B)>
B-1:ラウリルアルコール
B-2:オクチルアルコール
B-3:ステアリルアルコール
表1に示す脂肪酸(C)の詳細は以下のとおりである。
【0136】
<脂肪酸(C)>
C-1:ラウリン酸
C-2:ステアリン酸
表1に示すノニオン界面活性剤(D)の詳細は以下のとおりである。
【0137】
<ノニオン界面活性剤(D)>
D-1:ポリオキシエチレン(40モル)トリアコンチルエーテル
D-2:ポリオキシエチレン(50モル)テトラコンチルエーテル
D-3:ペンタグリセリンモノオクタデカノアート
D-4:テトラグリセリンモノオクタデカノアート
D-5:ポリオキシエチレン(10モル)オクタコシルエーテル
D-6:ポリオキシエチレン(20モル)オレイルエーテル
D-7:ポリオキシエチレン(10モル)硬化ヒマシ油エーテル
D-8:ポリオキシエチレン(15モル)ソルビタンモノラウラート
D-9:ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンステアラート
D-10:ポリオキシエチレン(10モル)ヤシ脂肪酸エステル
D-11:ポリオキシエチレン(15モル)パーム脂肪酸エステル
表1に示すその他成分(E)の詳細は以下のとおりである。
【0138】
<その他成分(E)>
E-1:乳酸
E-2:ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩
E-3:ドデシルスルホン酸ナトリウム塩
その他成分(E)として、表4に示すE-4~E-6も使用した。
【0139】
【表4】
【0140】
なお、表4において、「Me基」、「n-Bu基」はそれぞれ、メチル基、ノーマルブチル基を意味する。「Si%」は、ポリエーテル変性シリコーンの質量平均分子量からアルキレンオキサイドを除いた部分の質量比率を意味する。「EO%(モル比)」は、アルキレンオキサイドに占めるエチレンオキサイドのモル比率を意味する。例えば、アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイド(以下、EOともいう。)とプロピレンオキサイド(以下、POともいう。)を含む場合、下記の式により、EO%(モル比)を求めることができる。
【0141】
EO%(モル比)=(EOモル数/(EOモル数+POモル数))×100
試験区分2(ポリオレフィン系合成繊維への不織布用繊維処理剤の付着)
鞘部がポリエチレンであり、芯部がポリエステルであるポリオレフィン系複合繊維(繊度2.2dtex、繊維長51mm)を用意した。この繊維100gに対して、試験区分1で調製した各処理剤の10質量%水性液を更に水希釈して0.4質量%水性液としたものを、不揮発分としてその付着量が0.40%となるようにスプレー法で付着させた。80℃の熱風乾燥機で2時間乾燥した後、20℃で65%RHの雰囲気下に一夜調湿して、処理剤付着ポリオレフィン系複合繊維を得た。
【0142】
試験区分3(サーマルボンド不織布の作製)
処理剤付着ポリオレフィン系複合繊維100gを、20℃で65%RHの恒温室内にて24時間調湿した。調湿後の処理剤付着ポリオレフィン系複合繊維を、ローラーカード機を通過させて目付け20g/mのカードウェブを作製した。得られたカードウェブを140℃で10秒間の熱風処理を行い、サーマルボンド不織布を得た。
【0143】
試験区分4(初期親水性)
試験区分3で得たサーマルボンド不織布を、20℃で65%RHの恒温室内にて24時間調湿した後、水平板上に置き、ビューレットを用いて10mmの高さから0.4mLの水滴を滴下させた。その水滴が完全に吸収されるまでに要する時間を測定し、下記の評価基準で評価した。
【0144】
・初期親水性の評価基準
3(良好):透水までに要する時間が3秒未満の場合
2(可):透水までに要する時間が3秒以上、6秒未満の場合
1(不可):透水までに要する時間が6秒以上の場合
試験区分5(耐久親水性)
試験区分3で得たサーマルボンド不織布を、10cm×10cmの小片に裁断し、20℃で65%RHの恒温室内にて24時間調湿した。重ねた5枚の濾紙の上に調湿されたサーマルボンド不織布を置き、さらにその上の中央に両端が開放された内径1cmの円筒を垂直に立て、この円筒に0.9%生理食塩水5mLを注入した。サーマルボンド不織布に食塩水が完全に吸収されるまでの時間を測定した。その後、サーマルボンド不織布を取り出し、40℃で90分間送風乾燥した。同様の操作を合計2回繰り返し、2回目の時間から下記の評価基準で評価した。
【0145】
・耐久親水性の評価基準
3(良好):生理食塩水が吸収されるまでに要する時間が5秒未満の場合
2(可):生理食塩水が吸収されるまでに要する時間が5秒以上10秒未満の場合
1(不可):生理食塩水が吸収されるまでに要する時間が10秒以上の場合
試験区分6(高温高湿処理)
処理剤付着ポリオレフィン系複合繊維を70℃×90%RHの恒温室内で48時間エージングし、長期間保管後を想定した高温高湿処理済処理剤付着ポリオレフィン系複合繊維(以下、高温高湿処理済み繊維ともいう。)を得た。なお、本発明において、長期間の保管とは、48時間以上の保管を意味するものとする。
【0146】
試験区分7(長期間保管後の摩擦変化率)
高温高湿処理済み繊維20gと、高温高湿処理をしていない処理剤付着ポリオレフィン系複合繊維20gをそれぞれ20℃×65%RHの恒温室内で24時間調湿した後、ミニチュアカード機に供してカードウェブを作製した。作製したカードウェブをミニチュア練条機に供してゲレン3g/mのスライバーを得た。上記2条件のスライバーにて、スライバー速度1m/min、ドラフト比率1.5倍でスライバーをドラフトした際のドラフト力を測定し、下記の数式により高温高湿処理実施有無での摩擦変化率を算出し、下記の評価基準で評価した。結果を表1の「摩擦変化率」欄に示す。
【0147】
[摩擦変化率]=[高温高湿処理をしていない処理剤付着ポリオレフィン系複合繊維のドラフト力]/[高温高湿処理済み繊維のドラフト力]×100
・摩擦変化率の評価基準
3(良好):摩擦変化率が5%未満の場合
2(可):摩擦変化率が5%以上、10%未満の場合
1(不可):摩擦変化率が10%以上の場合
試験区分8(乳化安定性)
蒸留水1Lに対し、炭酸カルシウム300mgを溶解させ、硬度300の硬水を調製した。硬度300の硬水を使用して、各例の処理剤の濃度が10質量%である硬水の水性液を調製した。かかる水性液をさらに硬水を用いて希釈し、不揮発分の濃度0.3質量%の水性液を調製した。20℃の恒温室内にて上記水性液を24時間温調した後、水性液の状態を目視で確認し、下記の評価基準で評価した。結果を表1の「乳化安定性」欄に示す。
【0148】
・乳化安定性の評価基準
3(良好):沈殿も粒子もない場合
2(可):沈殿はないが粒子がある場合
1(不可):沈殿がある場合
試験区分9(湿潤時摩擦特性)
試験区分1で調製した処理剤の10質量%水性液を、イオン交換水で希釈し、0.35質量%水性液を調製した。調製した0.35質量%水性液80mLを、縦60mm×横230mm×高さ20mmの金属製のバッドに入れた。
【0149】
縦30mm×横90mm×高さ45mmで、重さ1kgの矩形板状の重りを用意した。この重りの底面に、両面テープを用いて、底面と同じサイズのポリエステルスパンボンド不織布を貼り付けた。上記の0.35質量%水性液が入ったバッドに、ポリエステルスパンボンド不織布を貼り付けた底面側が下側となるように重りを置いた。
【0150】
最大荷重容量が50Nであるロードセルを備えた引張試験機(島津製作所(株)製、オートグラフ型式AGS-X)を用いて、20℃×60%RHの雰囲気下、水平速度100mm/minの条件で重りを引っ張る引張試験を行った。
【0151】
なお、上記の方法によって、湿潤時の繊維と金属との摩擦特性を評価した。具体的には、上記の方法によって、紡糸工程や延伸工程における、繊維と金属製ローラーとの摩擦特性を評価した。上記摩擦特性の評価は、0.35質量%水性液を調製してから12時間以内に行った。比較例1の処理剤を用いると、湿潤時の繊維と金属の摩擦が相対的に大きくなるため、比較例1を基準にして、下記の評価基準で評価した。結果を表1の「湿潤時摩擦」欄に示す。
【0152】
・湿潤時摩擦特性の評価基準
3(良好):比較例1の0.35質量%水性液を用いて測定した摩擦Nと、各例の0.35質量%水性液を用いて測定した摩擦Mとの比であるM/N比が、0.98以下である場合
2(可):上記M/N比が、0.98より大きく、0.99以下である場合
1(不可):上記M/N比が、0.99より大きい場合
試験区分10(抑泡性)
試験区分1で調製した処理剤の10質量%水性液を、イオン交換水で希釈し、0.25質量%水性液を調製した。調製した水性液25gを100mL共栓付きメスシリンダーにいれて30秒間で30回強振し、30秒間静置した後、再度30秒間で30回強振した。5分間静置したのち、水面から泡の上面までの高さH1を測定した。下記の評価基準で評価した。結果を表1の「抑泡性」欄に示す。
【0153】
・抑泡性の評価基準
3(良好):H1≦10.0cm
2(可):10.0cm<H1≦18.0cm
1(不可):18.0cm<H1
試験区分11(処理剤の酸価)
処理剤の酸価を、JIS K 0070-1992「3.2電位差滴定法」により測定した。なお、溶媒はエタノール/キシレンの混合溶媒を使用した。結果を表1の「処理剤の酸価」欄に示す。
【0154】
試験区分12(処理剤のpH)
各例の処理剤を希釈し、処理剤として1質量%水性液を調製した。調製した1質量%水性液の25℃でのpHを公知のpH測定器(株式会社堀場製作所社製 卓上型pHメータF-72)を用いて測定した。
【0155】
表1に示すように、比較例1の処理剤は、アルコール(B)を含有していないとともに、酸価の値が本発明の数値範囲から外れており、抑泡性に劣ることが確認された。
比較例2,3の処理剤は、アルコール(B)を含有していないとともに、リン酸化合物(A)がリン酸エステルP3を含有していない。また、リン酸エステルP4の積分比率が、本発明の数値範囲から外れていた。さらに、酸価の値が本発明の数値範囲から外れており、乳化安定性、湿潤時摩擦特性、抑泡性に劣ることが確認された。
【0156】
比較例4の処理剤は、数式(1)により求められる値が本発明の数値範囲から外れており、摩擦変化率に劣ることが確認された。
比較例5の処理剤は、アルコール(B)を含有してなく、抑泡性に劣ることが確認された。
【0157】
比較例6,7の処理剤は、アルコール(B)を含有していないとともに、リン酸化合物(A)がリン酸エステルP3を含有していない。また、リン酸エステルP4の積分比率が、本発明の数値範囲から外れており、乳化安定性、及び抑泡性に劣ることが確認された。
【0158】
比較例8の処理剤は、酸価の値が本発明の数値範囲から外れており、湿潤時摩擦特性に劣ることが確認された。
比較例9の処理剤は、リン酸化合物(A)が含有するリン酸エステルP3~P5において、アルキル基の炭素数が本発明の数値範囲から外れており、乳化安定性、初期親水性、及び耐久親水性に劣ることが確認された。
【0159】
比較例10の処理剤は、アルコール(B)を含有していないとともに、リン酸化合物(A)が含有するリン酸エステルP5の積分比率が本発明の数値範囲から外れていた。さらに、酸価の値が本発明の数値範囲から外れており、湿潤時摩擦特性、抑泡性、及び耐久親水性に劣ることが確認された。
【0160】
比較例11の処理剤は、リン酸化合物(A)がリン酸エステルP3を含有していなかった。また、リン酸エステルP4の積分比率が本発明の数値範囲から外れていた。さらに、酸価の値が本発明の数値範囲から外れており、乳化安定性、湿潤時摩擦特性、及び抑泡性に劣ることが確認された。
【0161】
比較例12の処理剤は、酸価の値が本発明の数値範囲から外れており、乳化安定性に劣ることが確認された。
一方、本発明の処理剤によれば、長期間保管後の摩擦変化率、乳化安定性、湿潤時摩擦特性、及び抑泡性を向上させることができる。また、初期親水性と耐久親水性も向上させることができる。さらに、処理剤が付着した繊維を含む不織布を、衛生材料等に好適に用いることができる。
【要約】
【課題】不織布用繊維処理剤を付着させた合成繊維を長期間保管した後においても、合成繊維の摩擦の変化率を小さくするとともに、不織布用繊維処理剤を付着させた合成繊維の湿潤時摩擦特性、不織布用繊維処理剤の乳化安定性、及び抑泡性を向上させる。
【解決手段】不織布用繊維処理剤は、リン酸化合物(A)、及びアルコール(B)を含有する。アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、リン酸エステルP4、リン酸エステルP5、オルトリン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、P4,P5に帰属されるP核NMR積分比率が20%以上65%以下、20%以上45%以下、数式(1)により求められる値が8以下であり、1質量%水希釈液の25℃におけるpHが、5.0以上8.0以下であり、且つ、不揮発分あたりの酸価が5以上60未満である。
【選択図】なし