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特許7674308エレベーターシステム及びエレベーター制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】エレベーターシステム及びエレベーター制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20250430BHJP
【FI】
B66B5/02 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022126894
(22)【出願日】2022-08-09
(65)【公開番号】P2024024223
(43)【公開日】2024-02-22
【審査請求日】2024-06-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 卓馬
(72)【発明者】
【氏名】番場 隆行
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-101448(JP,A)
【文献】特開2019-108203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリを搭載した車両が接続されて、前記車両から供給される電力でエレベーターを駆動可能なエレベーターシステムであり、
前記車両からの電力が供給され、供給される電力でエレベーターを駆動する電源入力部と、
前記電源入力部に供給される電力が予め定められた閾値以下であることを示す電力低下信号又は前記車両の切り離し予告信号を受付ける送受信部と、
前記送受信部が前記電力低下信号又は前記切り離し予告信号を受付けたとき、エレベーターのかごが階床間を移動中か否かを判定する判定部と、
前記判定部が移動中であると判定したとき、かごを最寄階で停止し、戸開後にエレベーターの運転を中止するエレベーター制御部と、を備え、
前記電源入力部には、前記車両に搭載されたバッテリに対応する充放電装置を介して電源が供給され、
前記判定部の判定後に、前記エレベーター制御部が、かごを最寄階で停止し戸開したとき、前記送受信部が前記充放電装置に対して、エレベーター着床及びドア開信号を送信し、エレベーター着床及びドア開信号を受信した前記充放電装置が、前記車両からの電力供給の停止又は前記車両の切り離しを許可する
エレベーターシステム。
【請求項2】
前記充放電装置は、表示機能を有したユーザ操作部を備え、
前記ユーザ操作部で前記車両の切り離しの操作が行われた際に、前記充放電装置が前記切り離し予告信号を送信し、その後の切り離しを許可する信号を前記充放電装置が受信したとき、前記ユーザ操作部が、切り離し可能になったことを表示する
請求項に記載のエレベーターシステム。
【請求項3】
前記充放電装置は、前記車両とコネクタを介して接続され、
前記コネクタは、前記充放電装置が、電力供給の停止又は車両の切り離しを許可する信号を受信したとき、ロック機構を解除して、前記車両から切り離せるようにした
請求項に記載のエレベーターシステム。
【請求項4】
前記充放電装置は、接続された前記車両のバッテリ残量検出部を備え、
前記バッテリ残量検出部が検出したバッテリ残量が予め定められた閾値以下である場合に、前記電力低下信号を前記送受信部に送信する
請求項に記載のエレベーターシステム。
【請求項5】
バッテリを搭載した車両が接続されて、前記車両から供給される電力で駆動可能なエレベーターの運転を制御するエレベーター制御方法であって、
電力供給機能を備えた車両からの電力が供給され、供給される電力でエレベーターを駆動する電源入力処理と、
前記電源入力処理により供給される電力が予め定められた閾値以下であることを示す電力低下信号又は前記車両の切り離し予告信号を受付ける送受信処理と、
前記送受信処理により前記電力低下信号又は前記切り離し予告信号を受付けたとき、エレベーターのかごが階床間を移動中か否かを判定する判定処理と、
前記判定処理が移動中であると判定したとき、かごを最寄階で停止し、戸開後にエレベーターの運転を中止するエレベーター制御処理と、を含み、
前記電源入力処理では、前記車両に搭載されたバッテリに対応する充放電装置を介して電源が供給され、
前記判定処理による判定後に、前記エレベーター制御処理で、かごを最寄階で停止し戸開したとき、前記送受信処理により前記充放電装置に対して、エレベーター着床及びドア開信号を送信し、エレベーター着床及びドア開信号を受信した前記充放電装置が、前記車両からの電力供給の停止又は前記車両の切り離しを許可する
エレベーター制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターシステム及びエレベーター制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バッテリを動力源とした電気自動車が普及拡大されており、ショッピングセンター等の大型施設やマンション、オフィスビルに、電気自動車用の充電設備の備え付けが併せて普及拡大している。
この充電設備は、通常、電気自動車への充電を行うが、建物の停電時に充電から放電へ切り替えて、電気自動車のバッテリを利用して建物内の設備への電力供給を行うこともできるハイブリッド型電気自動車充電設備という製品も開発されている。
【0003】
一方で、上述した建物の多くには、昇降設備としてエレベーターが備わっており、停電時にはエレベーターに備え付けられたバッテリにより最寄階まで走行することで、乗客が閉じ込められないようにした設備が備え付けられていることが多い。
しかし、エレベーターに備え付けられたバッテリは、基本的には閉じ込め発生防止目的のためのものであって容量が少ないため、最寄階への走行後には、エレベーターは停電復旧まで停止となる。
【0004】
特許文献1には、ハイブリッド型電気自動車充電設備を用いて、電気自動車からエレベーターへ電力供給することで停電時においてもエレベーターを走行させる連動制御技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-51844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、ハイブリッド型電気自動車充電設備を用いて、電気自動車からエレベーターへの電力供給を行うことで、停電時のエレベーター走行を可能にすることは可能である。また、特許文献1に記載される技術では、電気自動車内のバッテリの残容量が低下した場合には、エレベーターの走行速度を低下させるかエレベーターを停止するかを選択する制御が行われている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、バッテリ残量が低下した際には、エレベーターの走行速度を減速させたり停止させたりする処理を行うものの、バッテリ枯渇時のエレベーター制御は考慮されていない。
【0008】
すなわち、電気自動車からの電力供給が絶たれている状態のときに、人が乗っている状態でエレベーターが停止すると閉じ込め状態となるが、このときエレベーターに備え付けのバッテリを用いた最寄階運転により長時間の閉じ込めは防止することができる。
このように、エレベーターは、停電発生時に少なくとも一度(断続停電の場合は複数回)備え付けのバッテリにより最寄階への運転を行っていることが想定される。この場合には、エレベーター備え付けのバッテリ容量が低下している状態にあり、電気自動車からの電力供給と、エレベーター側のバッテリによる電力供給のいずれもできない状況になると、エレベーターの最寄階運転が完了せずに、閉じ込めが発生するリスクが起こり得る。
【0009】
また、設置年月が古いエレベーターにおいては、エレベーターに非常用バッテリが備わっておらず、この場合は、電気自動車からの電力の供給停止が閉じ込め状態に繋がる。
【0010】
本発明の目的は、電気自動車などの車両からの供給電力が低下した場合でも、エレベーター閉じ込めを発生させないエレベーターシステム及びエレベーター制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、バッテリを搭載した車両が接続されて、車両から供給される電力でエレベーターを駆動可能なエレベーターシステムであり、車両からの電力が供給され、供給される電力でエレベーターを駆動する電源入力部と、電源入力部に供給される電力が予め定められた閾値以下であることを示す電力低下信号又は車両の切り離し予告信号を受付ける送受信部と、送受信部が電力低下信号又は切り離し予告信号を受付けたとき、エレベーターのかごが階床間を移動中か否かを判定する判定部と、判定部が移動中であると判定したとき、かごを最寄階で停止し、戸開後にエレベーターの運転を中止するエレベーター制御部と、を備える。
ここで、電源入力部には、車両に搭載されたバッテリに対応する充放電装置を介して電源が供給され、判定部の判定後に、エレベーター制御部が、かごを最寄階で停止し戸開したとき、送受信部が充放電装置に対して、エレベーター着床及びドア開信号を送信し、エレベーター着床及びドア開信号を受信した充放電装置が、車両からの電力供給の停止又は車両の切り離しを許可するようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エレベーター走行中の突然の電気自動車などからの電力供給停止による閉じ込め発生を防ぐことが可能になる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態例によるエレベーターシステムと充放電装置の構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施の形態例によるエレベーターシステムの制御装置のハードウェア構成の例を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施の形態例による電気自動車充放電設備とエレベーター側送受信部との間で送受信される信号を示す図である。
図4】本発明の一実施の形態例によるバッテリ電力供給開始から供給停止までの処理の例を示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施の形態例による電気自動車充放電設備の表示パネルの表示例を示す図である。
図6】本発明の他の実施の形態例によるエレベーターシステムの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」と称する)によるエレベーターシステム及びそのシステムを利用して行われるエレベーター制御方法を、添付図面を参照して説明する。
【0015】
[エレベーターシステムと充放電装置の構成]
まず、図1を参照して、本例のエレベーターシステム3と、そのエレベーターシステムに接続される充放電装置2の構成を説明する。
図1に示すように、本例のエレベーターシステム3は、充放電装置2を経由して商用電源が供給される構成になっており、通常時には、商用電源が入力電源として作動するように構成されている。
また、充放電装置2には電気自動車1が接続されており、商用電源の停電時には、電気自動車1に搭載されたバッテリからの電源が充放電装置2からエレベーターシステム3に供給されて、エレベーターシステム3が作動する構成になっている。
【0016】
まず、充放電装置2の構成について説明すると、充放電装置2は、本例のエレベーターシステム3が設置された建物に、予備電源として接続されるハイブリッド型電気自動車充電設備である。
充放電装置2は、AC/DC変換部201、充電部202、充放電切替部203、放電部204、充放電制御部205、バッテリ残量検出部206、送受信部207、電力切替部208、充放電用コネクタ210、及びユーザ操作部220を備える。
【0017】
充放電装置2は、商用電源が供給される通常時においては、AC/DC変換部201が商用電源(200Vなどの交流電源)をDC電源(直流電源)に変換し、変換したDC電源を充電部202に供給する。充電部202は、得られるDC電源を、充放電切替部203を介してコネクタ210で接続された電気自動車1に供給して、電気自動車1に搭載されたバッテリに充電する。
【0018】
ここで、バッテリ残量検出部206は、電気自動車1との通信、あるいは電気自動車1への充電電流や充電電圧を監視することで、バッテリ残量を検出し、検出したバッテリ残量を充放電制御部205に供給する。
通常、電気自動車1のバッテリの残量や充放電は、電気自動車1に搭載されたバッテリ制御部(不図示)により管理されるのであるが、充放電装置2のバッテリ残量検出部206は、電気自動車1に搭載されたバッテリ制御部と通信を行って、電気自動車1のバッテリへの充電や放電の管理を行っている。但し、充放電装置2のバッテリ残量検出部206が単独で、電気自動車1への充電電流や充電電圧からバッテリ残量を検出(推定)するようにしてもよい。
【0019】
また、充放電制御部205は、充放電切替部203における充電と放電の切替、並びに充電の開始・終了と放電の開始・終了を制御する。充放電制御部205による充電の開始と終了の制御は、バッテリ残量検出部206が検出したバッテリ残量と、ユーザ操作部220による充電の開始操作及び停止操作に基づいて行われる。
ユーザ操作部220は、例えば表示機能付きのタッチパネルで構成され、ユーザ操作部220には、コネクタ210の電気自動車1からの切り離しの可否なども表示される。なお、コネクタ210には、電気自動車1への接続状態を維持するロック機構211が取り付けられており、充電中や放電中には、充放電制御部205は、このロック機構211によりコネクタ210を電気自動車1から外せない構成としている。
【0020】
また、充放電装置2の電力切替部208は、充放電制御部205からの指令で、エレベーターシステム3に供給する電力の切替処理を行っている。すなわち、電力切替部208は、商用電源が得られる通常時には、エレベーターシステム3の電源入力部301に商用電源を供給する。また、商用電源が停電時には、電力切替部208は、充放電制御部205からの指令で、電気自動車1から供給される電源をエレベーターシステム3の電源入力部301に供給する。
【0021】
この電気自動車1からの電源供給時には、充放電制御部205は、充放電切替部203を放電に切替え、充放電切替部203で得た電気自動車1からの電源を、放電部204を介してAC/DC変換部201に供給する。AC/DC変換部201は、電気自動車1からのDC電源をAC電源に変換し、電力切替部208を介してエレベーターシステム3の電源入力部301に供給する。
【0022】
なお、この電気自動車1からの電源供給時には、充放電制御部205は、充放電装置2の送受信部207とエレベーターシステム3の送受信部302を介して、エレベーター制御部303とデータの送受信を行い、電気自動車1からの電源供給は、それが可能な場合にのみ適正に行われる。この充放電制御部205とエレベーター制御部303とのデータの送受信により行われる電源供給の処理の詳細は後述する。
【0023】
次に、エレベーターシステム3の構成について説明する。
エレベーターシステム3は、電源入力部301、送受信部302、エレベーター制御部303、乗りかご304、巻上機305、及び非常用バッテリ306を備える。また、エレベーター制御部303は、乗りかご304の状態を判定する判定部307を有する。
【0024】
電源入力部301には、充放電装置2の電力切替部208から、商用電源又は電気自動車1からの電源が供給される。すなわち、電源入力部301は、電源入力処理を行って、電力切替部208から供給された電源により、エレベーターシステム3全体を作動させる。
送受信部302は、充放電装置2側の送受信部207との間で送受信処理を行う。
エレベーター制御部303は、電源入力部301に供給される電源で作動し、巻上機305による乗りかご304の走行・停止や、乗りかご304のドア開閉などのエレベーターの運行を制御する。
【0025】
また、エレベーター制御部303は、エレベーターシステム3側の送受信部302と充放電装置2側の送受信部207との通信により、充放電装置2と随時、データの送受信を行う。なお、エレベーター制御部303がデータの送受信を行う詳細については後述する。
エレベーター制御部303内の判定部307は、エレベーターシステム3の乗りかご304の運転状況の判定処理を行う。
【0026】
なお、図示は省略するが、乗りかご304には、エレベーター利用者に対し、案内誘導や状態表示を行うための誘導灯、液晶インジケータ、自動アナウンス機能が備え付けてある。
非常用バッテリ306は、停電によりエレベーターシステム3への電力供給が絶たれた場合に、乗りかご304を最寄階に走行し、ドア開閉後停止させる。但し、非常用バッテリ306の容量は、少なくとも1回、乗りかご304を最寄階に走行しドア開閉後停止させることが可能な程度の容量でしかない。
したがって、非常用バッテリ306の充電残量がなくなった場合には、非常用バッテリ306の充電完了までには、商用電源が復旧してからある程度の時間が必要になる。
なお、エレベーターシステム3の構成によっては、この非常用バッテリ306が用意されていない場合もある。
【0027】
[エレベーター制御部のハードウェア構成例]
図2は、エレベーター制御部303のハードウェア構成例を示す。
エレベーター制御部303は、例えば情報処理装置であるコンピュータにより構成することができる。
図2は、エレベーター制御部303をコンピュータで構成した場合の例を示す。
エレベーター制御部303としてのコンピュータは、プロセッサであるCPU(中央処理ユニット:Central Processing Unit)303a、ROM(Read Only Memory)303b、RAM(Random Access Memory)303c、及び不揮発性ストレージ303dを備える。
不揮発性ストレージ303dとしては、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、あるいは半導体メモリなどが使用される。
また、コンピュータは、他の機器とデータの送受信を行うためのネットワークインターフェース303eを備える。
【0028】
CPU303aは、ROM303bまたは不揮発性ストレージ303dが記憶したプログラムをRAM303cで実行させることで、図1に示す判定部307などの各処理部が構成される。
不揮発性ストレージ303dは、エレベーター制御部303としての処理を行うプログラムを記憶すると共に、エレベーターを制御する上で必要な情報などを記憶する。
【0029】
ネットワークインターフェース303eは、送受信部302としての通信機能を有する。また、エレベーターシステム3内の各部との送受信も、ネットワークインターフェース303eあるいは不図示のインターフェースを経由して行われる。
【0030】
なお、図示は省略するが、充放電装置2の充放電制御部205も、同様のコンピュータで構成される。但し、充放電装置2の充放電制御部205の場合には、ユーザ操作部220に相当する入力部や表示部がCPUに接続される点が、エレベーター制御部303とは相違する。
【0031】
[エレベーターシステムと充放電装置との間の信号送受信関係]
図3は、本例のエレベーターシステム3の送受信部302と、充放電装置2の送受信部207との間で送受信される信号の例を示す。この図3に示す信号は、商用電源が停電して、電気自動車1のバッテリから電源をエレベーターシステム3に供給する場合の例である。エレベーターシステム3の送受信部302での送受信は、エレベーター制御部303による制御で行われ、充放電装置2の送受信部207での送受信は、充放電制御部205による制御で行われる。
【0032】
まず、充放電装置2からエレベーターシステム3への、電気自動車1からの電力供給が開始される際には、充放電制御部205からの指示で、送受信部207が自立電源確立信号401を送信する。
ここでは自立電源確立信号401は、充放電装置2から充放電制御部205の指示で送信される信号であるとしているが、充放電装置2の電力切替部208が受け付けた信号でもよいし、ユーザ操作部220のユーザ操作により受け付けた信号である場合も考えられる。
【0033】
電気自動車1からの電力供給の成立後は、充放電装置2の送受信部207は、エレベーターシステム3に対し、自立運転指令信号402を送信する。この自立運転指令信号402は、エレベーターシステム3に対して電気自動車1からの電力供給で動作することを示す信号である。自立運転指令信号402を受信したエレベーターシステム3のエレベーター制御部303は、通常定常速度より速度を低下させた定速運転を行うようにする。これにより、エレベーターシステム3が通常定常速度で運行した場合に発生する負荷電流による、電気自動車1のバッテリの大電流放電での劣化を軽減することができる。
【0034】
なお、自立運転指令信号402は、負荷電流の軽減を目的にしているものであるから、電気自動車1のバッテリの大電流放電の劣化を考慮する必要がない場合には、使用しなくてもよい。
あるいは、エレベーターシステム3のエレベーター制御部303は、自立電源確立信号401の受信だけで、自律運転指令信号402なしで、自動的に通常定常速度より速度を低下させた定速運転を行うようにしてもよい。
【0035】
電気自動車1のバッテリが一定容量まで低下し、エレベーターシステム3への残り一定時間後には電力供給が維持できなくなる場合や、ユーザが電気自動車1を充放電装置2から切り離すべくユーザ操作部220で操作をした場合には、バッテリ切り離し予告信号403がエレベーターシステム3へ送信される。ここでのユーザとは、電気自動車の所有者や、建物管理者である。バッテリが一定容量まで低下したことは、バッテリ残量検出部206における検出値から、充放電制御部205の判断で検知される。
【0036】
バッテリ切り離し予告信号403を受信したエレベーターシステム3のエレベーター制御部303は、エレベーター走行を停止するように制御する。
具体的には、エレベーター制御部303は、乗りかご304が走行中は最寄階まで運行させ、乗りかご304のドアを開いてアナウンスや表示などで乗客を乗りかご304の外へ誘導した後に、乗りかご304のドアを閉めて停止状態とする。なお、エレベーター制御部303は、乗り場のドアも、乗りかご304のドアの開閉に連動して開閉する。
【0037】
なお、エレベーター制御部303は、乗りかご304内で押下された行先階登録ボタンに従い、行先階登録された階床まで走行させて、乗りかご304のドアを開いて乗客を乗りかご304の外へ誘導した後に、ドアを閉めて停止し、休止状態としてもよい。また、乗りかご304が利用されず待機している状態ならば、エレベーター制御部303は、そのまま休止状態としてもよい。
【0038】
ここで、乗客を適切に誘導、或いは新たにエレベーター利用を行わせないために、エレベーター制御部303は、エレベーターの乗りかご304や乗り場に備え付けの誘導灯、液晶インジケータ、或いは自動アナウンスによる乗客への状態開示を併せて実施することで、より安全にエレベーターを停止させることもできる。
エレベーターシステム3がドア開閉を行い停止後は、エレベーターシステム3側の送受信部302は、充放電装置2の送受信部207へ、エレベーター着床及びドア開閉信号404を送信する。
【0039】
充放電装置2の充放電制御部205は、このエレベーター着床及びドア開閉信号404を受信することを条件に、電気自動車1のバッテリ切り離しの制御、或いは利用者への電気自動車1切り離し可の状態表示を行う。例えば、充放電制御部205は、エレベーター着床及びドア開閉信号404を受信するまでは、コネクタ210のロック機構211をロック状態とし、エレベーター着床及びドア開閉信号404を受信した後に、ロック機構211をロック解除にする。あるいは、充放電制御部205は、ユーザ操作部220に、コネクタ210の電気自動車1からの取り外し可を表示させる。
【0040】
[車両からの供給時の処理の流れ]
図4は、本例のエレベーターシステム3と充放電装置2とにより、停電時に電気自動車1から電源の供給を受けてエレベーターを運転する際の処理の例を示すフローチャートである。図4のフローチャートにおいて、左半分の処理(ステップS11,S12,S15-S19の処理)は、エレベーターシステム3で行われる処理であり、右半分の処理(ステップS13,S14,S20-S26の処理)は、充放電装置2で行われる処理である。
【0041】
まず、停電により建屋の電源遮断が発生すると(ステップS11)、まずエレベーター制御部303は、非常用バッテリ306による非常用運転に切り替え、乗りかご304を最寄階へ走行させ、ドア開閉にて乗客をエレベーター外へ誘導してから停止状態にする(ステップS12)。
次に、充放電装置2の充放電制御部205は、電気自動車1から電力供給されているか否かを判断する(ステップS13)。ステップS13で、電力供給がされていない場合(ステップS13のNO)、充放電制御部205はそのまま待機しステップS13の判断を繰り返す。
【0042】
ステップS13で、電気自動車1からの電力供給がされている場合(ステップS13のYES)、充放電制御部205は、電気自動車1からの電力供給を開始し、エレベーターシステム3に電力を供給する(ステップS14)。なお、ここでの電力供給は、建物管理者や電気自動車の所有者等の利用者が、電気自動車1を充放電装置2に接続し、ユーザ操作部220の操作で電気自動車1から電力供給可に設定することで行われる。
これにより、充放電装置2からエレベーターシステム3へ自立電源確立信号401と自立運転指令信号402が送信され、エレベーターシステム3のエレベーター制御部303は、電気自動車1からの電力供給に合わせた運転制御を行う(ステップS15)。
【0043】
電気自動車1のバッテリは、長時間の電力供給で消耗し容量低下が発生するので、充放電制御部205は、バッテリ残量検出部206で予め設定した閾値まで容量低下が検出されるか否かを判断する(ステップS20)。また、ステップS20で、閾値までの容量低下を検出しない場合(ステップS20のNO)、さらに充放電制御部205は、ユーザ操作部220での操作の受付などから、電気自動車1の切り離し操作の信号を受信したか否かを判断する(ステップS21)。ステップS21で電気自動車1の切り離し操作の信号を受信していない場合(ステップS21のNO)、充放電制御部205はステップS20の判断に戻る。
【0044】
ステップS20で、閾値まで容量低下を検出した場合(ステップS20のYES)、充放電制御部205は、ユーザ操作部220にてバッテリ容量低下を通知する(ステップS22)。このバッテリ容量低下を通知した後、あるいはステップS21で電気自動車1の切り離し操作の信号を受信した場合(ステップS21のYES)、充放電制御部205は、エレベーターシステム3に対しバッテリの切り離し予告信号403を送信する(ステップS23)。
【0045】
そして、ユーザ操作部220は、電力供給切り離し中である旨の状態を表示し(ステップS24)、充放電制御部205は、エレベーター着床及びドア開閉信号404を受信するか否かの判断を行う(ステップS25)。ステップS25で、エレベーター着床及びドア開閉信号404を受信しない場合(ステップS25のNO)、充放電制御部205は、そのまま電気自動車1からの電力供給を行っている状態で待機する。
【0046】
一方、エレベーターシステム3側では、ステップS15で電気自動車1からの電力供給による運転を開始した後に、エレベーター制御部303は、バッテリ切り離し予告信号403を受信するか否かを判断する(ステップS16)。ステップS16でバッテリ切り離し予告信号403を受信しない場合(ステップS16のNO)、エレベーター制御部303は、そのまま電気自動車1からの電力供給による運転を継続し、ステップS16の判断を繰り返す。
【0047】
ステップS16でバッテリ切り離し予告信号403を受信した場合(ステップS16のYES)、エレベーター制御部303は、現在の運転状況として、乗りかご304が乗り場にドア閉で停止中であり、乗りかご304内でボタン操作がされず待機状態であるか否かを判断する(ステップS17)。
ステップS17で、乗りかご304が走行中である場合(ステップS17のNO)、エレベーター制御部303は、乗りかご304を最寄階まで走行後、ドア開とし、さらに乗客降車後ドア閉として、運転を停止させる(ステップS18)。運転を停止した後、エレベーター制御部303は、ステップS17の判断に戻る。
【0048】
ステップS17で、乗りかご304が走行中でない場合(ステップS17のYES)、エレベーター制御部303は、このままエレベーターの停止状態を維持し、エレベーター着床及びドア開閉信号404を充放電装置2に送信する(ステップS19)。
【0049】
ここまでの処理が行われると、充放電制御部205は、ステップS25でエレベーター着床及びドア開閉信号404を受信したと判断し(ステップS25のYES)、ユーザ操作部220で利用者に対し切り離し可能状態を通知する(ステップS26)。また、充放電制御部205は、コネクタ210のロック機構211をロック解除とし、コネクタ210を電気自動車1から外せるようにする。
なお、ここでのエレベーター着床及びドア開閉信号404の受信の判断と同時に、充放電制御部205は、エレベーターシステム3への電源供給を停止してもよい。
【0050】
[ユーザ操作部の表示例]
図5は、ユーザ操作部220の表示パネル221の表示例を示す。
図5Aは、電気自動車1からエレベーターへの電源供給が行われている状態の例を示す。このときには、表示パネル221は、ビルが停電中である旨の表示、すなわちエレベーターへの電力供給中の表示222を行う。また、表示パネル221は、ロック機構211がロック中を表示してもよい。
そして、表示パネル221は、電気自動車1の切り離しボタン223を表示する。電気自動車1の切り離しボタン223がユーザによりタッチ操作されたとき、図4のフローチャートのステップS21で電気自動車1の切り離し操作の信号を受信した場合の処理が行われる。
【0051】
図5Bは、エレベーターシステム3からエレベーター着床及びドア開閉信号404を受信したときの例を示す。このときには、表示パネル221は、エレベーターへの電力供給が停止し、切り離しが可能であることの表示224を行う。また、ロック機構211がロック解除されたことを表示してもよい。
【0052】
[本実施の形態例による効果]
以上説明した処理が行われることで、本例のエレベーターシステム3では、電気自動車1からの電力供給が絶たれる前に、エレベーター閉じ込めを防止した運転制御を行うことが可能となる。ここでの電気自動車1からの電力供給が絶たれる状態とは、電気自動車1のバッテリ容量低下の他、建物管理者や電気自動車所有者等の利用者の都合により、電気自動車1を切り離したい場合も含まれる。しかし、いずれの場合でも適切にエレベーター閉じ込めを防止した運転制御を行うことが可能となる。
この場合、エレベーターシステム3の送受信部302が充放電装置2に対して、エレベーター着床及びドア開信号を送信し、エレベーター着床及びドア開信号を受信した充放電装置2が、電気自動車1からの電力供給の停止又は車両の切り離しを許可するようにしたことで、充放電装置2での電気自動車1の切り離しが、エレベーター停止前に行われることを確実に阻止でき、エレベーター閉じ込めを確実に防止できるようになる。
【0053】
また、充放電装置2のユーザ操作部220では、電気自動車1の切り離しが可能な状態か等が表示されるため、電気自動車1の利用者は、表示による通知にしたがって、適切に切り離し操作を行うことができる。なお、この通知は表示の他に、音声メッセージの出力による通知でもよい。
さらに、電気自動車1に接続するコネクタ210にロック機構211を設けて、エレベーター停止後にロック機構211を解除するようにしたことで、エレベーター停止前の切り離しが確実に阻止でき、エレベーター閉じ込めをより確実に防止できるようになる。
さらにまた、充放電装置2は、バッテリ残量検出部206を備えて、そのバッテリ残量検出部206が検出したバッテリ残量が予め定められた閾値以下である場合に、電力低下信号に相当するバッテリ切り離し予告信号403を、エレベーターシステム3の送受信部302に送信することで、エレベーターの運転中止の判断が適切に行えるようになる。
【0054】
[変形例]
なお、ここまで説明した実施の形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0055】
例えば、上述した実施の形態例では、充放電装置2が、エレベーターシステム3への電力切替えを行う電力切替部208を内蔵する構成としたが、エレベーターシステム3への電力切替えを行う電力切替部208は、充放電装置2の外部に設けてもよい。
すなわち、図6に示すように、充放電装置2′とは別に電力切替部208′を設け、充放電装置2′の充放電制御部205からの指示で、その電力切替部208′が、商用電源のエレベーターシステム3の供給と、電気自動車1からの電源の供給とを切り替えるようにしてもよい。
【0056】
また、図6に示すように、ユーザ操作部220′を、充放電装置2′とは別体のものとしてもよい。この場合のユーザ操作部220′としては、例えばユーザが所持したスマートフォンなどの端末でもよい。
充放電装置2′は、電力切替部208とユーザ操作部220を備えない構成になっており、それ以外の構成は、図1に示す充放電装置2と同じである。また、電力切替部208′やユーザ操作部220′が行う処理も、図1に示す電力切替部208とユーザ操作部220が行う処理と同じである。
【0057】
また、図1に示す構成では、コネクタ210はロック機構211を設けるようにしたが、ロック機構211を省略して、ユーザ操作部220′による表示のみで、利用者に切り離しの可否を通知してもよい。
さらに、図1図6の構成では、エレベーターシステム3が非常用バッテリ306を備えるようにしたが、非常用バッテリ306を備えないエレベーターシステムに適用してもよい。
また、上述した実施の形態例では、電気自動車からの電力供給停止時の処理として、最寄階への停止と、ドアの開と乗客降車後のドア閉を行うようにしたが、少なくとも最寄階への停止とドアの開のみを行って、ドア閉は省略してもよい。
【0058】
また、上述した実施の形態例では、充放電装置2に接続される車両は電気自動車としたが、エンジンと発電機を備えたハイブリッド型の自動車や、水素燃料で発電を行う水素自動車など、その他の給電機能を備えた車両を充放電装置2に接続して、同様の給電処理を行うようにしてもよい。この場合、車両のバッテリ残量から給電停止を判断する代わりに、車両の電力供給残量(燃料残量など)から給電停止を判断することになる。
【0059】
また、図1に示す構成や図4に示すフローチャートでは、エレベーターシステム3が備えるエレベーター制御部303が、停電時の処理を行うようにしたが、既存のエレベーターシステムの制御部に実装されたプログラムを修正して、同様の処理を行うようにしてもよい。
この場合のプログラムについては、図2に示したエレベーター制御部303を構成するコンピュータ内の不揮発性ストレージやメモリに用意する他に、外部のメモリ、ICカード、SDカード、光ディスク等の記録媒体に置いて、転送してもよい。
さらに、エレベーター制御部303が行う機能の一部又は全部を、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用のハードウェアによって実現してもよい。
【0060】
また、図1図6に示す構成図では、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものだけを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。また、図4に示すフローチャートについても、処理結果が同じであれば、処理順序を変更したり、複数の処理を同時に実行してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…電気自動車、2,2′…充放電装置、3…エレベーターシステム、201…AC/DC変換部、202…充電部、203…充放電切替部、204…放電部、205…充放電制御部、206…バッテリ残量検出部、207…送受信部、208,208′…電力切替部、210…充放電用コネクタ、211…ロック機構、220,220′…ユーザ操作部、221…表示パネル、223…電気自動車切り離しボタン、301…電源入力部、302…送受信部、303…エレベーター制御部、303a…CPU、303b…ROM、303c…RAM、303d…不揮発性ストレージ、303e…ネットワークインターフェース、305…巻上機、306…非常用バッテリ、307…判定部、401…自立電源確立信号、402…自立運転指令信号、403…バッテリ切り離し予告信号、404…エレベーター着床及びドア開閉信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6