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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】座席及びクッションパッド
(51)【国際特許分類】
   A47C 27/15 20060101AFI20250430BHJP
   A47C 7/18 20060101ALI20250430BHJP
【FI】
A47C27/15 A
A47C7/18
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024071748
(22)【出願日】2024-04-25
【審査請求日】2024-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】522345803
【氏名又は名称】株式会社アーケム
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174023
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 怜愛
(74)【代理人】
【識別番号】100213436
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 直俊
(72)【発明者】
【氏名】篠原 寿充
(72)【発明者】
【氏名】江部 一成
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-123871(JP,A)
【文献】特表2021-517081(JP,A)
【文献】特許第6408355(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/00-7/74
A47C 27/00-27/22
B60N 2/00-99/00
B32B 27/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座する使用者を支持するクッションパッドを備え、
前記クッションパッドは、
樹脂で形成された第一シート材と、
前記第一シート材の下面側に積層されており、樹脂で形成された第二シート材と、を有し、
前記第二シート材は、
前記第一シート材よりも厚みが薄く、
前記第一シート材よりも硬度が小さく、
一辺が50mmの矩形で、厚み40mmの板材を試験片とし、その試験片の厚みを30%圧縮した状態を中心として厚み方向の上下2.5mmの振幅で、0.5Hz以上10Hz以下の周波数で振動させる動ばね試験によって求めた損失ばね定数が、0.2N/mm以上0.3N/mm以下である座席。
【請求項2】
着座する使用者を支持するクッションパッドを備え、
前記クッションパッドは、
樹脂で形成された第一シート材と、
前記第一シート材の下面側に積層されており、樹脂で形成された第二シート材と、を有し、
前記第二シート材は、
前記第一シート材よりも厚みが薄く、
前記第一シート材よりも硬度が小さく、
前記第二シート材の厚み方向における通気度は、JIS L 1096に規定される通気性試験に準拠して計測した場合に、130cm /cm /s以上144cm /cm /s以下である座席。
【請求項3】
前記第二シート材の硬度は、前記第一シート材の硬度の0.75倍以上0.98倍以下である請求項1又は2に記載の座席。
【請求項4】
前記第一シート材は、JASO B408-89法に準じて求めた硬度が170N以上240N以下であり、
前記第二シート材は、JASO B408-89法に準じて求めた硬度が150N以上230N以下である請求項に記載の座席。
【請求項5】
前記第二シート材の硬度は、前記第一シート材の硬度よりも5N以上小さい請求項に記載の座席。
【請求項6】
前記第二シート材の厚みは、前記第一シート材の厚みの0.10倍以上0.40倍以下である請求項に記載の座席。
【請求項7】
前記第一シート材の厚みは、30mm以上60mm以下であり、
前記第二シート材の厚みは、5mm以上15mm以下である請求項に記載の座席。
【請求項8】
前記第一シート材及び前記第二シート材は樹脂発泡体である、請求項に記載の座席。
【請求項9】
前記第二シート材の厚み方向における通気度は、JIS L 1096に規定される通気性試験に準拠して計測した場合に、130cm/cm/s以上144cm/cm/s以下である請求項1に記載の座席。
【請求項10】
樹脂で形成された第一シート材と、
前記第一シート材の下面側に積層されており、樹脂で形成された第二シート材と、を有し、
前記第二シート材は、
前記第一シート材よりも厚みが薄く、
前記第一シート材よりも硬度が小さく、
一辺が50mmの矩形で、厚み40mmの板材を試験片とし、その試験片の厚みを30%圧縮した状態を中心として厚み方向の上下2.5mmの振幅で、0.5Hz以上10Hz以下の周波数で振動させる動ばね試験によって求めた損失ばね定数が、0.2N/mm以上0.3N/mm以下であるクッションパッド。
【請求項11】
樹脂で形成された第一シート材と、
前記第一シート材の下面側に積層されており、樹脂で形成された第二シート材と、を有し、
前記第二シート材は、
前記第一シート材よりも厚みが薄く、
前記第一シート材よりも硬度が小さく、
前記第二シート材の厚み方向における通気度は、JIS L 1096に規定される通気性試験に準拠して計測した場合に、130cm /cm /s以上144cm /cm /s以下であるクッションパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、座席及びクッションパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動車用シートクッション用軟質ポリウレタンフォームおよびその製造方法が開示されている。この自動車用シートクッション用軟質ポリウレタンフォームは、ジフェニルメタンジイソシアネート系ポリイソシアネートとポリオール成分とを、触媒、整泡剤及び発泡剤の存在下で混合し、金型内に注入することにより成形したものである。この自動車用シートクッション用軟質ポリウレタンフォームでは、発泡体のコア密度と全密度の差が5kg/m以下である。特許文献1では、この自動車用シートクッション用軟質ポリウレタンフォームが、生産性、作業環境性に優れ、また、自動車シートクッションパッドを薄肉化した場合における底付き感を解消し、乗り心地性に優れたものであるとされている。
【0003】
特許文献2には、車両用シートの層状異硬度パッドが開示されている。この層状異硬度パッドは、上下二層の発泡体層からなり、上層がポリウレタン発泡体で形成されるとともに、下層がポリスチロール発泡体で形成されている。そして、上層と下層とが一体に接合されている。下層は、層状異硬度パッドの製品厚さの2~5割を形成していると好ましいとされている。この層状異硬度パッドは、従来品よりもクッション性能が優れているとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-280855公報
【文献】特開平09-070330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車などの車両では、使用者が搭乗する内部空間を十分確保する必要がある。また、電気自動車(EV:Electric Vehicle)やハイブリッドカー(HV:Hybrid Vehicle)のような、蓄電池を搭載した車両では、蓄電池の収容スペースを確保する必要がある。車両の座席における、クッションパッド(シートパッド)を薄肉化できれば、使用者が搭乗する内部空間を十分確保することができるようになる。また、クッションパッドを薄肉化できれば、座席下部に蓄電池の搭載スペースを確保することもできるようになる。そのため、クッションパッドのますますの薄肉化が要請される。
【0006】
しかし、クッションパッドを薄肉化すると、着座する使用者に底付き感を与えやすくなる。そのため、上記特許文献1、2で例示したような従来技術にあっては、ますますの薄肉化と底付き感の改善(底付き感を感じないようにすること)との両立が十分ではなかった。そのため、底付き感を改善しつつクッションパッドを薄肉化した座席及び底付き感を改善しつつ薄肉化したクッションパッドの提供が望まれる。
【0007】
本開示は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、底付き感を改善しつつクッションパッドを薄肉化した座席及び底付き感を改善しつつ薄肉化したクッションパッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本開示に係る座席は、
着座する使用者を支持するクッションパッドを備え、
前記クッションパッドは、
樹脂で形成された第一シート材と、
前記第一シート材の下面側に積層されており、樹脂で形成された第二シート材と、を有し、
前記第二シート材は、
前記第一シート材よりも厚みが薄く、
前記第一シート材よりも硬度が小さい。
【0009】
上記目的を達成するための本開示に係る座席は、
着座する使用者を支持するクッションパッドを備え、
前記クッションパッドは、樹脂で形成されたシート材を有し、
前記シート材は、一辺が50mmの矩形で、厚み40mmの板材を試験片とし、その試験片の厚みを30%圧縮した状態を中心として厚み方向の上下2.5mmの振幅で、0.5Hz以上10Hz以下の周波数で振動させる動ばね試験によって求めた損失ばね定数が、0.2N/mm以上0.5N/mm以下である。
【0010】
上記目的を達成するための本開示に係るクッションパッドは、
樹脂で形成された第一シート材と、
前記第一シート材の下面側に積層されており、樹脂で形成された第二シート材と、を有し、
前記第二シート材は、
前記第一シート材よりも厚みが薄く、
前記第一シート材よりも硬度が小さい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、底付き感を改善しつつクッションパッドを薄肉化した座席及び底付き感を改善しつつ薄肉化したクッションパッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る座席の斜視図である。
図2】本実施形態に係るクッションパッドの斜視図である。
図3図2に示すIII‐III矢視の断面図である。
図4】本実施形態に係る座席が搭載された車両の説明図である。
図5】実施例における試験片の説明図である。
図6】試験片によるF‐Sカーブの取得の説明図である。
図7】各実験例における試験片のF‐Sカーブである。
図8】各基材の損失ばね定数の測定結果である。
図9】各基材の落錘試験結果である。
図10】別のシートパッドの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態の説明)
図面に基づいて、本開示の実施形態に係る座席及びクッションパッドについて説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る座席200は、着座する使用者を支持するクッションパッド100を備えている。なお、図1は、座席200を斜め前からみた斜視図である。
【0015】
図1では、座席200に着座した場合の使用者から見た幅方向(左右方向)を方向Xで示しており、また、前後方向を方向Yで示しており、さらに、上下方向を方向Zで示している。なお、上下方向は、本実施形態において鉛直方向と同じである。上下方向、幅方向及び前後方向は、それぞれ直交している。以下の説明では、図1に示した方向に基づいて各部の位置関係の説明を行う。
【0016】
クッションパッド100は、図2図3に示すように、樹脂で形成された第一シート材21と、第一シート材21の下面側に積層されており樹脂で形成された第二シート材22と、を有し、第二シート材22は、第一シート材21よりも厚みが薄く、第一シート材21よりも硬度が小さい。なお、図2は、クッションパッド100を斜め前から見た斜視図である。また、図3は、図2に示すIII‐III矢視の断面図である。
【0017】
クッションパッド100は、座席200における底付き感の改善と、その薄肉化との両立を実現することができる。なお、底付き感とは、使用者が座席200(図1参照)に着座した際に、クッションパッド100が使用者の荷重を十分に支えきれなくなって、使用者が、クッションパッド100のクッション性を感じることができなくなって硬さを感じる感覚のことをいう。底付き感を感じる状態は通常、心地よいとは感じない状態である。
【0018】
以下、座席200及びクッションパッド100について詳述する。
【0019】
図1に示す座席200は、自動車などの車両の室内に設置され、使用者が着座するものである。座席200は、一例として、使用者が臀部を載せて座る座部91と、背中をもたれ掛ける背もたれ部92と、頭をもたれ掛ける頭もたせ93(ヘッドレスト)を備えてよい。なお、本実施形態では、前後方向における、背もたれ部92から見て座部91の側が前方(前、前方向)であり、座部91から見て背もたれ部92の側が後方(後ろ、後ろ方向)である。以下の説明における前後方向は、この位置関係に基づいて説明する。
【0020】
座席200は、そのカバーの内側に、座席200の形状に沿ったクッションとなる部材(シートパッド)を有してよい。本実施形態における座席200は、座部91における内部(座席200のカバーの内側)に、このシートパッドとして、クッションパッド100を備えている。クッションパッド100は、座部91に着座する使用者を支持する、座部91内のクッション部材である。
【0021】
図2図3に示すように、クッションパッド100は、第一パッド10と第二パッドとしての第二シート材22とを備えている。
【0022】
第一パッド10は、第一シート材21を有する座部パッド11と、座部パッド11の両方の側部(幅方向における両端部)に配置された側方パッド部12,12と、座部パッド11の前後方向における後ろ側の端部に配置された背中側パッド部13とを有してよい。
【0023】
座部パッド11は、座席200において、使用者の臀部が位置する部分の下方に配置される。座部パッド11は、上下方向に厚みのある板状であってよい。座部パッド11の厚みは、一例として、50mm以上120mm以下である。側方パッド部12の上面部や、背中側パッド部13の上面部は、座部パッド11の上面よりも高い位置に位置してよい。
【0024】
第一パッド10、すなわち座部パッド11、側方パッド部12,12及び背中側パッド部13は、一例として、同一の基材で一体成形されてよい。第一パッド10を形成する基材の一例は樹脂発泡体である。樹脂発泡体はポリウレタンであることが好ましいが、他の樹脂で形成されたものであってもよい。第一パッド10は、例えば射出発泡成形されてよい。
【0025】
第一シート材21は、板状の座部パッド11の中央部分の一部又は座部パッド11の全部である。第一シート材21の厚みは、一例として、30mm以上60mm以下である。
【0026】
第一シート材21の硬度は、170N以上240N以下であることが好ましい。なお、本実施形態において「硬度」とは、JASO B408-89法に準じて測定した値のことであり、サンプルの元厚みに対し、25%定圧縮して20秒後の力を求める方法のことである。第一シート材21は、厚みを50mmとした場合の硬度が170N以上240N以下であることが更に好ましい。
【0027】
第二シート材22は、クッションパッド100において、第一シート材21と積層された板状の部材である。第二シート材22を形成する基材の一例は樹脂発泡体や、ゲル状のシート材である。第二シート材22を形成する基材が樹脂発泡体である場合、樹脂発泡体はポリウレタンであることが好ましいが、他の樹脂で形成されたものであってもよい。
【0028】
第二シート材22は、第一シート材21と、上下方向において重複している。第二シート材22は、第一シート材21と、上下方向においてその板面の全てが重複していることが好ましい。第二シート材22は、第一シート材21の下方に配置する。図3などでは、第二シート材22が第一シート材21の下面に当接して配置されている場合を例示している。
【0029】
第二シート材22は、第一シート材21に接着などで固定されてもよいし、単純に重ねた状態であってもよい。また、第二シート材22は、第二シート材22を一旦板状に成形した後、これを、第一シート材21(クッションパッド100)を射出発泡成形する金型に仕込み、第一シート材21を成形しながら第一シート材21に固定してもよい(いわゆる、モールド成形)。
【0030】
第二シート材22は、第一シート材21よりも厚みが薄い。第二シート材22の厚みは、第一シート材の厚みの0.10倍以上0.40倍以下であればよく、好ましくは0.10倍以上0.35倍以下、更に好ましくは、0.15倍以上0.25倍以下である。第二シート材の厚みは、好ましくは5mm以上15mm以下である。
【0031】
第二シート材22は、第一シート材21よりも硬度が小さい。第二シート材22の硬度と第一シート材21の硬度とのバランスをこのように調整することで、座席200(図1参照)における底付き感の改善と、クッションパッド100(図2参照)、特に、座部パッド11と第二シート材22との合計の厚みの薄肉化との両立を実現することができる。第二シート材22の硬度は、一例として、150N以上230N以下である。すなわち、第二シート材22は、一辺が300mmの矩形状(正方形)で、厚さが50mmの板状に切り出したものを試験片(硬度測定用試験片)とし、直径が200mmの円形の板材を負荷子として、その試験片の厚みを25%圧縮した際の力として求めた硬度が150N以上230N以下であることが好ましい。
【0032】
以下では、座席200における底付き感の改善のことを、単に底付き感の改善と称し説明する。また、座部パッド11と第二シート材22との合計の厚みの薄肉化のことを、単に薄肉化と称し説明する。
【0033】
第二シート材22の硬度は、第一シート材21の硬度の0.75倍以上0.98倍以下であることが好ましい。第二シート材22の硬度がこのようであれば、底付き感の改善と薄肉化との両立をよりよく実現することができる。なお、第二シート材22と第一シート材21との硬度の差が大きすぎると、すなわち、第二シート材22の硬度が第一シート材21の硬度と比べて小さすぎると、使用者がクッションパッド100(座席200)に着座した際に第二シート材22がつぶれすぎて(完全に圧縮されきってしまい)逆に底付きを感じてしまう場合がある。
【0034】
第二シート材22の硬度は、第一シート材21の硬度よりも5N以上小さいことが好ましい。第二シート材22の硬度がこのようであることにより、底付き感の改善と薄肉化との両立をよりよく実現することができる。
【0035】
なお、第二シート材22の厚みと第一シート材21の厚みとの合計の厚みは、70mm以下で足りる。この合計の厚みは、60mm以下とすることが好ましい。これにより、クッションパッド100では、その底付き感の改善の効果により、クッションパッド100の厚み、すなわち、座部パッド11の厚みと第二シート材22の厚みとの合計の厚みを薄肉化しても、使用者に底付き感を感じさせないことができるのである。
【0036】
第二シート材22は、損失ばね定数が適度に小さいことが好ましい。具体的には、第二シート材22は、一辺が50mmの矩形(正方形)で、厚み40mmの板材を試験片(動ばね試験用試験片)とし、その試験片の厚みを30%圧縮(この例では、12mm圧縮)した状態を中心(振幅の中心)として試験片の厚み方向の上下2.5mmの振幅で、0.5Hz以上10Hz以下の周波数(振動数)で振動させる動ばね試験によって求めた損失ばね定数が、0.2N/mm以上0.5N/mm以下であることが好ましい。これにより、いっそう底付き感を改善できる場合がある。
【0037】
第二シート材22の厚み方向における通気度は、JIS L 1096に規定される通気性試験に準拠して計測した場合に、50cm/cm/s以上300cm/cmであればよく、好ましくは100cm/cm/s以上300cm/cm、更に好ましくは125cm/cm/s以上180cm/cm、最も好ましくは125cm/cm/s以上150cm/cm/s以下である。これにより、クッションパッド100(第二シート材22)の厚み方向における減衰性を弱めて、座り心地が良くなる場合がある。
【0038】
図4には、クッションパッド100を備えた座席200を搭載した車両Cを示している。図4では、車両Cの進行方向が、座席200を基準とした場合の前後方向における前方向である場合を例示している。車両Cでは、クッションパッド100が薄肉化されるため、座席200の上下方向の厚みを薄くすることにより、例えば車高を低くするような場合であっても室内空間Sの広さ(室内空間Sの高さ)を十分に確保することができる。また、車両Cでは、クッションパッド100が薄肉化されるため、座席200の下方に配置された、蓄電池Bを収容する収容容器Mの収容空間Sbを大きく確保することができるようになる。
【0039】
(実施例)
以下では、実施例に基づいて座席及びクッションパッドにおける底付き感の改善と薄肉。化について説明する。
【0040】
本実施例では、上記実施形態で説明した第一シート材に対応する第一板材と、第二シート材に対応する第二板材とを積層した試験片(F‐Sカーブ取得用試験片)を用い、底付き感の改善に係る評価を行った。底付き感の評価は、試験片の板面全体に荷重を加え、その荷重に対応する変形(たわみ)量を計測して取得される、荷重と変形量との関係(F‐Sカーブ)に基づいて行った。なお、F‐Sカーブは荷重を大きくしてから小さくしていく往復で取得した。
【0041】
図5図6には、試験片及びこれによるF‐Sカーブの取得の説明図を示している。試験片としての積層板材5は、第一板材であるスラブ51と第二板材であるスラブ52とを積層したものである。図5図6では形状の図示を省略しているが、積層板材5の外形状は、実形品リアクッションの形状としており、F‐Sカーブの取得の対象部分(測定対象部分)が、図5図6に示す積層状態とされている。図5では、積層板材5の厚みを板厚t、スラブ51の厚みを板厚t1、スラブ52の厚みを板厚t2として示している。
【0042】
F‐Sカーブを取得する際は、図6に示すように、積層板材5の板面全体に均等に荷重Fを加えて積層板材5を圧縮し、厚みの減少量xを取得して、これをたわみ量とした。なお、減少量xは、積層板材5に荷重Fを加えていない状態における積層板材5の厚み(板厚t)から、積層板材5に荷重Fを加えた状態における積層板材5の厚み(板厚ta)を差し引いた厚みである。
【0043】
本実施例では、第一板材と第二板材との組み合わせを後述の各実験例のごとくそれぞれ変更して試験片を製造し、これら試験片のF‐Sカーブを取得した。このF‐Sカーブの取得は、JASO B408-89法に基づいて行った。試験片は、後述のように厚みが60mmの実形品リアクッション(測定対象部分の厚みが60mmの板状)とした。測定に用いる負荷子は、JASO B 407(自動車用シートのクッション性試験方法)に定められた鉄研形の鉄研盤とした。負荷子(鉄研盤)の大きさは、300mm×250mmの矩形状である。なお、第一板材の基材で、厚みが60mmの実形品リアクッション(測定対象部分の厚みが60mmの板状)の試験片(模擬クッションパッド、落錘試験用試験片)をモールド成形し、この模擬クッションパッドを実験例1の試験片とした。さらに、この模擬クッションパッドの尻下直下の裏面側に幅方向280mm、前後方向220mm、厚さ10mmの直方体状の凹みを形成し、この凹みに合致する板厚の板状形状とした第二板材を嵌め込んで、実験例2から5の試験片とした。
【0044】
表1には、本実施例において検証した実験例(実験例1から5)における、測定対象部分の第一板材の厚み(板厚t1、単位はmm)及び第二板材の厚み(板厚t2、単位はmm)と、第二板材の基材の種類及び硬度(N)と、第二板材の通気度(単位はcm/cm/s)と、を示している。なお、表1中、第二板材の基材であるA、B、C及びDは、それぞれ、規格の異なるポリウレタン樹脂の発泡体である。それぞれの基材は、樹脂の骨格、樹脂の重合度、分子量、密度などが異なる。なお、第一シート材を形成する第一板材はポリウレタン樹脂の発泡体であり、その硬度は、板厚が60mmの場合に205Nであり、板厚が50mmの場合に224Nである。第二シート材を形成する第二板材の硬度は、一辺が300mmの矩形状で、板厚が50mmの場合の硬度である。また、図7には、これら実験例における試験片のF‐Sカーブを示している。図7では、横軸がたわみ(mm)で縦軸が荷重(N)である。
【0045】
【表1】
【0046】
図7に示すF‐Sカーブにおいて、グラフの傾きは、各実験例に係る試験片のばね定数に対応している。
【0047】
座席に着座する使用者が底付き感をより強く感じる状態とは、座席に使用者が着座した場合、すなわち、使用者の体重に対応する荷重が座席に加わった場合に、シートバッドのばね定数がより大きくなった状態(例えば、所定のばね定数よりも大きくなった状態)であると言い換えることができる。さらに言い換えると、シートバッドのばね定数がより大きくなった状態とは、使用者が体重を座席に加えていくにしたがって体(臀部など)の沈み込みが生じにくい状態である。このような状態では、使用者は、座席が硬い(クッション性に乏しい)と感じる(すなわち、底付き感を感じる)。
【0048】
さて、使用者が座席に着座した状態において、シートパッドに加わる荷重の典型定期な範囲は、400N以上600N以下である。したがって、クッションパッドに加わる荷重が400N以上600N以下の範囲においてシートバッドのばね定数が大きくなりすぎていなければ、使用者は、底付き感を感じにくくなる。また、400N以上600N以下の範囲においてばね定数の変動が小さければ、使用者が体重を座席に加えていくにしたがって、シートパッドが硬くなっていくような感覚を使用者が覚えることが無く、使用者は、さらに底付き感を感じにくくなる。したがって、以下では、400N以上600N以下の範囲においてばね定数が小さく、また、この範囲でのばね定数の変動が小さいほど、良好であると判定する。なお、F‐Sカーブにおいてクッションパッドのばね定数が大きい状態とは、カーブの傾きが大きくなっている状態と同義である。すなわち、F‐Sカーブの微分値がクッションパッドのばね定数である。
【0049】
実験例1は、クッションパッドが一層である、従来技術に対応する構成である。したがって、以下では、ばね定数の大小や、ばね定数の変動の大小は、実験例1の結果を基準に判定する。すなわち、400N以上600N以下の範囲において、実験例1の結果よりもばね定数が小さく、また、この範囲でのばね定数の変動が実験例1の結果よりも小さいほど、良好であると判定する。
【0050】
実験例1を基準に判断すると、400N以上600N以下の範囲において実験例1の結果よりもばね定数が小さく、また、この範囲でのばね定数の変動が実験例1の結果よりも小さい実験例、すなわち良好な実験例は、実験例2と実験例5である。すなわち、実験例2と実験例5では、底付き感を改善しつつ薄肉化が実現されている。
【0051】
実験例3と実験例4とは、400N以上600N以下の範囲において実験例1の結果よりもばね定数が大きく、また、この範囲でのばね定数の変動が実験例1の結果よりも大きいため、良好ではない。
【0052】
よって、表2では、実験例1、実験例3及び実験例4を、比較例1、比較例2及び比較例3と称し、実験例2及び実験例5を、実施例1及び実施例2と称している。
【0053】
実験例2及び実験例5(実施例1及び実施例2)について詳しく見ると、更に以下のことがわかる。実験例3及び実験例4(比較例2及び比較例3)のように、第二板材の硬度が第一板材の硬度よりも大きくなると、底付き感を感じてしまうと考えられる。これに対し、実験例2及び実験例5のように、第二板材の硬度が第一板材の硬度よりも適度に小さくなると、底付き感を感じにくくなると考えられる。
【0054】
実験例2及び実験例5の結果に基づくと、具体的には、第二板材の硬度は、第一板材の硬度の0.75倍以上0.98倍以下であるとよいようである。また、第二板材の硬度は、150N以上であって、第一板材の硬度よりも5N以上小さいとよいようである。
【0055】
板材が樹脂発泡体である場合、必ずしもその板材の硬度と通気度とが一定の関係性を有するわけではないが、本実施例で確認した範囲内にあっては、通気度が125cm/cm/s以上150cm/cm/s以下であるとよいようである。
【0056】
さらに、各実験例で用いた板材の基材について損失ばね定数を確認したところ、損失バネ定数が、少なくとも0.2N/mm以上0.5N/mm以下であるとよいようである。図8には、各実験例で用いた板材の、損失バネ定数の測定結果を示している。図8では、実験例2から5で用いた第二板材の基材であるAからDを、基材AからDとして示している。また、実験例1から5で用いた第一板材の基材は、REFとして示している。なお、図8に示した損失バネ定数は、各基材を一辺が50mmの矩形(正方形)で、厚み40mmの板材の試験片とし、その試験片の厚みを30%圧縮した状態を中心として試験片の厚み方向の上下2.5mmの振幅で、0.5Hz以上10Hz以下の周波数(振動数)で振動させる動ばね試験によって求めた値である。図8に示すように、実験例2及び実験例5(実施例1及び実施例2)で用いた基材A及び基材Dの損失ばね定数は、REFとした基材よりも小さく、少なくとも0.2N/mm以上0.5N/mm以下である。損失バネ定数は、0.2N/mm以上0.3N/mm以下であるとより好ましいと推定される。
【0057】
上記損失バネ定数の確認結果を参考にして、更に、以下の落錘試験を行い、各実験例で用いた板材の基材の特性を確認した。まず、第一板材の基材で、厚みが60mmの実形品リアクッション(測定対象部分の厚みが60mmの板状)の試験片(模擬クッションパッド、落錘試験用試験片)をモールド成形した。そして、この模擬クッションパッドをREFの試験片とした。さらに、このモールド成形品の尻下直下の裏面側に幅方向280mm、前後方向220mm、厚さ10mmの直方体状の凹みを形成し、この凹みに合致する板状形状に切り出した基材AからDを嵌め込んで、これら基材AからDが嵌め込まれた模擬クッションパッドをAからDの試験片とした。
【0058】
そして、これら試験片の上面(座面)から10mmの高さの位置より、50kgの錘を自由落下させて、落下中及び座面に衝突してから反発する過程における錘の加速度を計測した。なお、錘の自由落下は、使用者が座席に着座する動作の模擬である。そして、この加速度と錘の質量とに基づいて(加速度に錘の質量を掛けて)、錘の落下によって試験片に加わった、荷重(N)の経時変化を求めた。
【0059】
図9には、これら落錘試験の結果を示している。図9に示すように、実験例2及び実験例5(実施例1及び実施例2)で用いた基材A及び基材Dの試験片では、試験片に加わる荷重が400Nに到達してから600Nに至るまでに経過した時間(msec)がREFの試験片と比べて長く(つまり、グラフの傾きが緩やかであり)、このような基材を積層してシートバッドに用いた場合、そのクッションパッドは、使用者にとって底付き感を感じにくいものとなっていることがわかる。したがって、損失ばね定数が少なくとも0.2N/mm以上0.5N/mm以下の基材を積層してクッションパッドに用いることで、使用者にとって、薄肉化しつつも底付き感の感じにくいクッションパッドや座席を提供することができると考えられる。
【0060】
以上のようにして、底付き感を改善しつつクッションパッドを薄肉化した座席及び底付き感を改善しつつ薄肉化したクッションパッドを提供することができる。
【0061】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、クッションパッド100において、第二シート材22が第一シート材21の下面に当接して配置されている場合を例示して説明した(図3参照)。しかし、クッションパッド100において、第二シート材22は、第一シート材21の下面に当接して配置される場合に限られない。図10に示すように、クッションパッド100では、第一シート材21と第二シート材22との間に、金属板材(例えば鉄板)のような、クッション性を有しない別の板材4が配置されていてもよい。図10では、板材4が第一シート材21の下面に当接して配置され、さらに、第二シート材22が板材4の下面に当接して配置されている場合を例示して示している。なお、図10は、上記のように第二シート材22の配置が異なる場合の別のクッションパッド100における、図3に対応する断面を示している。
【0062】
(2)上記実施形態では、車両Cの進行方向が、座席200を基準とした場合の前後方向における前方向である場合を例示して説明した(図4参照)。しかし、車両Cの進行方向と、座席200を基準とした場合の前後方向やその向きとの関係はこれに限られない。車両Cの進行方向は、座席200を基準とした場合の前後方向における後ろ方向であってもよいし、車両Cの進行方向が、座席200を基準とした場合の幅方向に沿っていてもよい。
【0063】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能である。また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本開示の実施形態はこれに限定されず、本開示の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示は、座席及びクッションパッドに適用できる。
【符号の説明】
【0065】
10 :第一パッド
100 :クッションパッド
11 :座部パッド
12 :側方パッド部
13 :背中側パッド部
200 :座席
21 :第一シート材
22 :第二シート材
4 :板材
5 :積層板材
51 :スラブ
52 :スラブ
91 :座部
92 :背もたれ部
93 :頭もたせ
B :蓄電池
C :車両
F :荷重
M :収容容器
S :室内空間
Sb :収容空間
X :方向
Y :方向
Z :方向
t :板厚
t1 :板厚
t2 :板厚
ta :板厚
x :減少量
【要約】
【課題】底付き感を改善しつつクッションパッドを薄肉化した座席及び底付き感を改善しつつ薄肉化したクッションパッドを提供する。
【解決手段】座席は、着座する使用者を支持するクッションパッド100を備え、クッションパッド100は、樹脂で形成された第一シート材21と、第一シート材21の下面側に積層されており樹脂で形成された第二シート材22と、を有し、第二シート材22は、第一シート材21よりも厚みが薄く、第一シート材21よりも硬度が小さい。
【選択図】図3
図1
図2
図3
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図9
図10