(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-28
(45)【発行日】2025-05-09
(54)【発明の名称】接合構造体の製造方法、積層体の製造方法及び接合方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20250430BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20250430BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20250430BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20250430BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20250430BHJP
H05K 3/32 20060101ALI20250430BHJP
H05K 1/14 20060101ALI20250430BHJP
H05K 3/36 20060101ALI20250430BHJP
【FI】
H01L21/52 D
B22F1/00 L
B22F7/08 C
B22F1/107
B22F3/10 B
H05K3/32 A
H05K1/14 J
H05K3/36 A
(21)【出願番号】P 2024552700
(86)(22)【出願日】2024-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2024020076
【審査請求日】2024-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2023091515
(32)【優先日】2023-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白川 祐基
(72)【発明者】
【氏名】服部 隆志
(72)【発明者】
【氏名】山内 真一
(72)【発明者】
【氏名】穴井 圭
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-098875(JP,A)
【文献】特開2014-110282(JP,A)
【文献】特開2019-216183(JP,A)
【文献】特開2021-002557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00-12/90
C22C1/04-1/05
C22C33/02
H01L21/52
H01L21/58
H01L23/12-23/15
H05K1/14
H05K3/32-3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合層を介して第1被接合体と
半導体素子からなる第2被接合体とが接合されてなる接合構造体の製造方法であって、
扁平状銅粒子又は球状銅粒子を含む銅粒子
を60質量%以上95質量%以下及び
沸点が170℃以上280℃以下である有機溶媒を
5質量%以上30質量%以下含むペーストを前記第1被接合体に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に含まれる前記有機溶媒の一部を除去する乾燥工程と、
前記第2被接合体の一部が前記塗膜中に埋没するように、前記第2被接合体を
0.05MPa以上4MPa以下の圧力で前記塗膜中に押し込むことで、前記第1被接合体、前記塗膜及び前記第2被接合体を順に備えた積層体を得る工程と、
前記積層体を加熱する工程と、を備え、
前記乾燥工程後であって、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込む前の状態における前記塗膜の平均厚みをX(μm)とし、
前記積層体を得た状態における、前記第1被接合体の上面から前記第2被接合体の下面までの平均距離をY(μm)としたとき、
100-(Y/X×100)で定義される押し込み率Pが1.0以上50以下である、接合構造体の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程後の前記塗膜の平均厚みXが15μm以上である、請求項1に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項3】
前記ペーストが前記有機溶媒を3.0質量%以上30.0質量%以下含み、
前記乾燥工程において、前記塗膜の質量が3.0質量%以上30.0質量%以下減少するように前記塗膜を乾燥させる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒の沸点Mが150℃以上300℃以下であり、
前記乾燥工程における加熱温度が20℃以上M℃以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
第1被接合体と
半導体素子からなる第2被接合体とを接合するための積層体の製造方法であって、
扁平状銅粒子又は球状銅粒子を含む銅粒子
を60質量%以上95質量%以下及び
沸点が170℃以上280℃以下である有機溶媒を
5質量%以上30質量%以下含むペーストを前記第1被接合体に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に含まれる前記有機溶媒の一部を除去する乾燥工程と、
前記第2被接合体の一部が前記塗膜中に埋没するように、前記第2被接合体を
0.05MPa以上4MPa以下の圧力で前記塗膜中に押し込むことで、前記第1被接合体、前記塗膜及び前記第2被接合体を順に備えた積層体を得る工程と、を備え、
前記乾燥工程後であって、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込む前の状態における前記塗膜の平均厚みをX(μm)とし、
前記積層体を得た状態における、前記第1被接合体の上面から前記第2被接合体の下面までの平均距離をY(μm)としたとき、
100-(Y/X×100)で定義される押し込み率Pが1.0以上50以下である、積層体の製造方法。
【請求項6】
第1被接合体と
半導体素子からなる第2被接合体との接合方法であって、
扁平状銅粒子又は球状銅粒子を含む銅粒子
を60質量%以上95質量%以下及び
沸点が170℃以上280℃以下である有機溶媒を
5質量%以上30質量%以下含むペーストを前記第1被接合体に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に含まれる前記有機溶媒の一部を除去する乾燥工程と、
前記第2被接合体の一部が前記塗膜中に埋没するように、前記第2被接合体を
0.05MPa以上4MPa以下の圧力で前記塗膜中に押し込むことで、前記第1被接合体、前記塗膜及び前記第2被接合体を順に備えた積層体を得る工程と、
前記積層体を加熱する工程と、を備え、
前記乾燥工程後であって、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込む前の状態における前記塗膜の平均厚みをX(μm)とし、
前記積層体を得た状態における、前記第1被接合体の上面から前記第2被接合体の下面までの平均距離をY(μm)としたとき、
100-(Y/X×100)で定義される押し込み率Pが1.0以上50以下である、接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの被接合体を接合してなる接合構造体の製造方法に関する。また本発明は、接合構造体を得るための積層体の製造方法及び二つの被接合体の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インバータなど電力変換・制御装置としてパワーデバイスと呼ばれる半導体素子が盛んに用いられるようになってきている。パワーデバイスは、メモリやマイクロプロセッサといった集積回路と異なり、高電流を制御するためのものなので、動作時の発熱量が非常に大きくなる。したがって、パワーデバイスの実装に用いられるはんだには耐熱性が要求される。しかし、現在主として使用されている鉛フリーはんだは、通常の鉛含有はんだに比べて耐熱性が低いという欠点を有する。
【0003】
そこで、はんだを用いることに代えて、有害な化学物質の使用を制限した金属微粒子を含むペーストを用い、これを各種の塗工手段によって対象物に塗布し、焼成する技術が種々提案されている。例えば特許文献1には、電極パターン上に金属微粒子を含む導電性ペーストを塗布し、その上に半導体素子を配置し、半導体素子を押し下げることで導電性ペーストを加圧しながら加熱して、金属微粒子の焼結層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、導電性ペーストの塗布層上に半導体素子を配置し、その状態で搬送したり、あるいは外部から振動を受けたりした場合、半導体素子が適正な接合位置からずれて、半導体素子と電極パターンとの接合に不具合が生じるおそれがある。したがって本発明の課題は、被接合体に位置ずれや脱落を生じさせることなく、被接合体どうしを首尾よく接合し得る接合構造体の製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明は、接合層を介して第1被接合体と第2被接合体とが接合されてなる接合構造体の製造方法であって、
銅粒子及び有機溶媒を含むペーストを前記第1被接合体に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に含まれる前記有機溶媒の一部を除去する乾燥工程と、
前記第2被接合体の一部が前記塗膜中に埋没するように、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込むことで、前記第1被接合体、前記塗膜及び前記第2被接合体を順に備えた積層体を得る工程と、
前記積層体を加熱する工程と、を備え、
前記乾燥工程後であって、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込む前の状態における前記塗膜の平均厚みをX(μm)とし、
前記積層体を得た状態における、前記第1被接合体の上面から前記第2被接合体の下面までの平均距離をY(μm)としたとき、
100-(Y/X×100)で定義される押し込み率Pが1.0以上50以下である、接合構造体の製造方法を提供するものである。
【0007】
また本発明は、第1被接合体と第2被接合体とを接合するための積層体の製造方法であって、
銅粒子及び有機溶媒を含むペーストを前記第1被接合体に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に含まれる前記有機溶媒の一部を除去する乾燥工程と、
前記第2被接合体の一部が前記塗膜中に埋没するように、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込むことで、前記第1被接合体、前記塗膜及び前記第2被接合体を順に備えた積層体を得る工程と、を備え、
前記乾燥工程後であって、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込む前の状態における前記塗膜の平均厚みをX(μm)とし、
前記積層体を得た状態における、前記第1被接合体の上面から前記第2被接合体の下面までの平均距離をY(μm)としたとき、
100-(Y/X×100)で定義される押し込み率Pが1.0以上50以下である、積層体の製造方法を提供するものである。
【0008】
更に本発明は、第1被接合体と第2被接合体との接合方法であって、
銅粒子及び有機溶媒を含むペーストを前記第1被接合体に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に含まれる前記有機溶媒の一部を除去する乾燥工程と、
前記第2被接合体の一部が前記塗膜中に埋没するように、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込むことで、前記第1被接合体、前記塗膜及び前記第2被接合体を順に備えた積層体を得る工程と、
前記積層体を加熱する工程と、を備え、
前記乾燥工程後であって、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込む前の状態における前記塗膜の平均厚みをX(μm)とし、
前記積層体を得た状態における、前記第1被接合体の上面から前記第2被接合体の下面までの平均距離をY(μm)としたとき、
100-(Y/X×100)で定義される押し込み率Pが1.0以上50以下である、接合方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の接合構造体の製造方法の一実施形態を示す工程図(積層体が製造されるまでの工程図)である。
【
図2】
図2は、乾燥塗膜中に第2被接合体が押し込まれた積層体の要部を拡大して示す模式図である。
【
図3】
図3(a)ないし
図3(c)は、100-(Y/X×100)で定義される押し込み率Pの値を算出するためにX及びYの値を測定する方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、二つの被接合体、すなわち第1被接合体と第2被接合体とが、接合層を介して接合されてなる接合構造体の製造方法に係るものである。本製造方法は、以下の工程に大別される。
(1)銅粒子及び有機溶媒を含むペーストを第1被接合体に塗布して塗膜を形成する工程。
(2)塗膜に含まれる有機溶媒の一部を除去する乾燥工程。
(3)第2被接合体の一部が塗膜中に埋没するように第2被接合体を塗膜中に押し込むことで、第1被接合体、塗膜及び第2被接合体を備えた積層体を得る工程。
(4)積層体を加熱する工程。
以下、それぞれの工程について、
図1を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、本発明の接合構造体の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
まず
図1(a)に示すとおり、第1被接合体11を準備し、この第1被接合体11の一面上にペーストを塗布して湿潤塗膜13aを形成する。ペーストは、銅粒子及び有機溶媒を含んでいる。
ペーストの塗布方法は特に限定されない。例えば、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ディスペンス印刷法、リバースコート法及びドクターブレード法などによって湿潤塗膜13aを形成することができる。
【0012】
湿潤塗膜13aの平均厚さは、十分な接合強度を確保できるようにする観点から、18μm以上であることが好ましく、20μm以上であることが更に好ましく、25μm以上であることが一層好ましい。
また湿潤塗膜13aの平均厚さは、塗膜を平滑にさせやすくし、且つ、乾燥後の塗膜の割れを防止する観点から、1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることが更に好ましく、500μm以下であることが一層好ましい。
【0013】
湿潤塗膜13aの平均厚さは例えば白色干渉を利用した非接触式表面プロファイラーを用いて算出することができる。非接触式表面プロファイラーとしては例えばAMETEK社製 ZeGage Proを用いることができる。この場合のソフトウェアはZYGO Mx バージョン:8.0.0、ズームレンズは1.0倍、対物レンズは1.4倍を用いる。ソフトウェアのMEASUREMENTタブ内の基本設定―オプションタブ内のスキャン長をExtendedに選択し、測定対象の湿潤塗膜13aの厚みよりも100μm以上大きな値を入力し、スキャン開始位置はBottomを選択する。測定視野は、測定対象となる湿潤塗膜13aの画像認識時に、厚みの基準面となる第1被接合体11が一部含まれるように設定する。具体的には、測定視野が湿潤塗膜13aの周囲から1mm以上延出するように設定する。基準面となる第1被接合体11が一部含まれるように測定視野を設定することで、後述する四角形Rを適切な範囲で配置できる。
設定後に測定を実施し、その終了後、ソフトウェアのANALYSISタブ内のInvestigation Toolsに存在するLevel/Stepの項目を開き、Add Shapes(One Reference and One test Default rectangles)を選択すると、基準面を選択する四角形Rと、基準面からの高さを測定するための四角形Tが表示される。
前記四角形Rを、第1被接合体11が存在する位置で、且つ、湿潤塗膜13aが含まれないように、各辺が500μm×500μm以上のサイズとなるよう配置する。四角形R内に第1被接合体11以外の部分が含まれると基準が正しく定められない。四角形Rは測定対象の厚みを算出するための基準であるから、第1被接合体11以外の部分を含んではならない。また、前記四角形Rを500μm×500μm以上のサイズとなるよう配置することで、第1被接合体11の表面粗さ等が考慮された平均値が基準として用いられるので、より正確に湿潤塗膜13aの厚みが算出できる。
次に四角形Tを、測定対象の湿潤塗膜13aの縦辺及び横辺からそれぞれ内側へ500μmの位置に、該四角形Tの縦辺及び横辺がそれぞれ位置するように配置する。その後、Level/Stepと記載の項目のApplyをクリックすると、四角形Tの内部に数値が記載される。この数値を湿潤塗膜13aの平均厚みとする。
【0014】
ペーストは、第1被接合体11の一面の周縁よりも内方の位置にのみ塗布することができる。
図1(a)には、第1被接合体11の一面の周縁11aよりも内方の位置にペーストが塗布されて一つの塗膜(湿潤塗膜13a)が形成されている状態が示されている。
ペーストの塗布面積は、塗布によって形成された湿潤塗膜13aが、後述する第2被接合体12の周縁から延出するような面積であることが、第1被接合体11と第2被接合体12との確実な接合の観点から好ましい。
【0015】
次に、
図1(b)に示すとおり、湿潤塗膜13aを乾燥させて、該湿潤塗膜13aに含まれる有機溶媒の一部を除去し乾燥塗膜13bを得る。湿潤塗膜13aから有機溶媒の一部を除去することで乾燥塗膜13bの保形性が高まる。この観点から、
図1(b)に示す乾燥工程においては、湿潤塗膜13aの質量が、3.0質量%以上、更には3.2質量%以上、特に5.0質量%以上、とりわけ7.0質量%以上減少するように該湿潤塗膜13aを乾燥させることが好ましい。
一方、湿潤塗膜13aからの有機溶媒の除去を過度に行うと、乾燥塗膜13bが硬くなり、後述する第2被接合体の乾燥塗膜13bへの押し込みを首尾よく行えない場合がある。この観点から、乾燥工程においては、湿潤塗膜13aの質量が、30.0質量%以下、特に28.0質量%以下減少するように該湿潤塗膜13aを乾燥させることが好ましい。
湿潤塗膜13aの質量減少の割合を測定する方法は、後述する実施例において説明する。
【0016】
図1(b)に示す乾燥工程では、後述する第2被接合体12の乾燥塗膜13bへの押し込みを首尾よく行う観点から、乾燥塗膜13bの平均厚みXが15μm以上となるように有機溶媒の除去を行うことが好ましく、更に好ましい厚みは18μm以上であり、一層好ましくは20μm以上である。
一方、平滑な塗膜を得やすくし、乾燥後の塗膜の割れを防止する観点から、乾燥工程においては、乾燥塗膜13bの平均厚みXが800μm以下となるように有機溶媒の除去を行うことが好ましく、更に好ましい平均厚みは500μm以下であり、一層好ましくは400μm以下である。
乾燥塗膜13bの平均厚みXの測定方法は後述する。
【0017】
図1(b)に示す乾燥工程では、湿潤塗膜13aに含まれる有機溶媒の揮発量を調整して、乾燥塗膜13bの硬さを適切なものとする観点から、湿潤塗膜13aの加熱温度を適切な範囲に設定することが好ましい。この観点から、大気圧下で乾燥工程を行う場合には、湿潤塗膜13aの加熱温度は、湿潤塗膜13aに含まれる有機溶媒の沸点をM(℃)としたとき、20℃以上M℃以下に設定することが好ましく、25℃以上〔M-10〕℃以下に設定することが更に好ましく、30℃以上〔M-20〕℃以下に設定することが一層好ましい。湿潤塗膜13a中に二種類以上の有機溶媒が含まれている場合には、最も沸点の高い有機溶媒の当該沸点を、前記のMと定義する。
【0018】
前記加熱温度に関連して、湿潤塗膜13aの加熱時間は、後述する第2被接合体12の乾燥塗膜13bへの押し込みを首尾よく行い得るような硬さの乾燥塗膜13bが得られるような条件に設定すればよい。大気圧下で乾燥工程を行う場合には、1分以上120分以下程度で加熱を行うことが好ましい。
【0019】
また、湿潤塗膜13aの加熱による乾燥塗膜13bの形成は、不活性ガス雰囲気や大気下で行うことができる。あるいは減圧下で行ってもよい。加熱手段に特に制限はない。例えば熱風の吹き付け、赤外線の照射、加熱炉内での加熱などの加熱手段を採用することができる。
【0020】
乾燥塗膜13bが形成されたら、次に
図1(c)に示すとおり、乾燥塗膜13b上に第2被接合体12を載置する。第2被接合体12は、該第2被接合体12の周縁から乾燥塗膜13bが延出するように、乾燥塗膜13b上に載置されることが好ましい。
【0021】
本実施形態においては、乾燥塗膜13b上に第2被接合体12を配置するのに先立ち、乾燥塗膜13bと第2被接合体12との間に固定剤を施さなくても良い。後述するとおり、本実施形態においては、第2被接合体12の一部が乾燥塗膜13b中に埋没するように第2被接合体12を乾燥塗膜13b中に押し込むので、固定剤によって乾燥塗膜13bと第2被接合体12とを固定する必要がない。このように、本実施形態の製造方法によれば、固定剤を施す工程を省くことが可能であり、それによって製造工程の簡略化及び製造時間の短縮化を図ることができる。なお、本発明においては上述の固定剤を用いなくて良いが、固定剤を用いることは妨げられない。固定剤としては、例えばモノアルコール、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、エステル類、複素環化合物、アミド類、アミン類、飽和炭化水素、環式テルペンアルコール類及びその誘導体、ケトン類、カルボン酸類などを挙げることができる。
【0022】
上述のとおり乾燥塗膜13bには溶媒の一部が残存しているので、保形性とともに変形性を有している。したがって、乾燥塗膜13b上に載置した第2被接合体12に圧力を加えることで、乾燥塗膜13bが変形して、第2被接合体12の一部が乾燥塗膜13b中に埋没するように、第2被接合体12が乾燥塗膜13b中に押し込まれる。これにより、第1被接合体11、乾燥塗膜13b及び第2被接合体12から順に構成される積層体14が形成される。なお、第2被接合体12の押し込みには、例えば
図1(d)に示すとおり板状の押込治具15を用いても良い。あるいは、第2被接合体12の載置の際に用いる治具(図示せず)によって、第2被接合体12を乾燥塗膜13b中に直接押し込んでも良い。あるいは、第2被接合体12の載置の際に用いる治具で適切な錘を摘まみ、前記錘を第2被接合体12に接触させて乾燥塗膜13b中に押し込んでも良い。
【0023】
図2には、第2被接合体12が乾燥塗膜13b中に押し込まれた状態を示す要部拡大図が示されている。同図に示すとおり、第2被接合体12が乾燥塗膜13b中に押し込まれると、第2被接合体12における厚み方向Zの下部域が乾燥塗膜13b中に埋没し、該下部域の側面12aが乾燥塗膜13bによって包囲される。その結果、第2被接合体12は乾燥塗膜13bによって固定される。乾燥塗膜13bによる第2被接合体12の固定は、乾燥塗膜13bと、第2被接合体12における下部域の側面12aとの間の嵌合によって達成される。また、乾燥塗膜13bが有する粘性によっても達成される。
【0024】
乾燥塗膜13bによる第2被接合体12の固定、及びその後の第1被接合体11と第2被接合体12との接合を確実に行うためには、第2被接合体12を押し込むときの条件として、以下に示す所定の関係を満たすことが必要であることを本発明者は知見した。詳細には、以下の式(1)で定義される押し込み率Pの値が1.0以上であり、好ましくは1.5以上であり、更に好ましくは2.0以上であり、更に一層好ましくは2.5以上となるように、第2被接合体12の押し込みを行うことが有利である。
一方、積層体14の焼結によって得られる接合構造体において、第1被接合体11と第2被接合体12との接合強度を十分に高める観点からは、積層体14において、第1被接合体11と第2被接合体12との間に位置する乾燥塗膜13bの厚みが必要以上に薄くならないことが望ましい。この観点から、押し込み率Pの値は50以下、好ましくは30以下、一層好ましくは25以下である。
P=100-(Y/X×100) (1)
【0025】
式(1)におけるX(μm)は、湿潤塗膜13aの乾燥工程後であって、第2被接合体12を乾燥塗膜13b中に押し込む前の状態における乾燥塗膜13bの平均厚みである。
Y(μm)は、積層体14を得た状態における、第1被接合体11の上面11bから第2被接合体の下面12bまでの平均距離(
図2参照)である。
【0026】
X及びYは以下に述べる方法で測定される。
湿潤塗膜13aの乾燥工程後に、
図3(a)に示すとおり第2被接合体12を乾燥塗膜13bの中心にチップマウンタを用いて0.004MPaの低圧力で搭載する。第2被接合体12が乾燥塗膜13bに接触してから圧力が0.004MPaに達するまでの時間は例えば1秒以内とし、0.004MPaに達してからの圧力の保持時間は0.4秒に設定する。湿潤塗膜13aと同様の方法を用いて第1被接合体11の上面11bから乾燥塗膜13bと第2被接合体12を合わせた平均厚みAを算出する。そして、平均厚みAから第2被接合体12のみの平均厚みB(
図2参照)を差し引いたものを乾燥塗膜13bの平均厚みX(μm)とする。第2被接合体12の平均厚みBは予め測定しておく。
第2被接合体12の平均厚みBは例えば、第2被接合体12よりも面積が200%以上大きく、且つ、表面が平滑な(JIS B 0601:1994に基づく表面粗さが0.03μm以下)SiC基板を基準面とした基準面に第2被接合体12を載置した後、非接触式表面プロファイラーを用い、湿潤塗膜13aと同様の方法で算出することができる。
引き続き、
図3(b)に示すとおり、第2被接合体12の上に、第2被接合体12よりも面積の小さな板状の錘20を、チップマウンタを用いて0.8MPaの圧力を加えて搭載する。錘20が第2被接合体12に接触してから加わる圧力が0.8MPaに達するまでの時間は、接触時から5秒以内とし、0.8MPaに達してからの時間は2秒に設定する。
次いで、
図3(c)に示すとおり、搭載した錘20のみを吸着ピンセットを用いて取り外して積層体14を得る。そして、積層体14における第1被接合体11の上面11bから第2被接合体12の上面12cまでの平均距離D(
図2参照)を測定する。なお、平均距離Dは、上述した湿潤塗膜13aの平均厚みの算出方法と同様の手法を利用して算出することができる。具体的には、第2被接合体12が存在する位置で、且つ、測定対象の第2被接合体12の縦辺及び横辺からそれぞれ内側へ500μmの位置に、四角形Tの縦辺及び横辺がそれぞれ位置するように該四角形Tを配置する以外は、湿潤塗膜13aの平均厚みの算出方法と同様にして算出することで、第2被接合体12の上面12cから第1被接合体11の上面11bまでの平均距離D(
図2参照)が算出される。
平均距離Dから第2被接合体12のみの平均厚みBを差し引いたものを、第1被接合体11の上面11bから第2被接合体の下面12bまでの平均距離Yとする。
【0027】
押し込み率Pの値は上述のとおりであることが必要であるところ、押し込み率Pの定義式である式(1)における平均距離Yの値そのものは、乾燥塗膜13bによる第2被接合体12の固定を確実に行う観点、及び第1被接合体11と第2被接合体12との接合強度を十分に高める観点から、5μm以上500μm以下であることが好ましく、10μm以上300μm以下であることが更に好ましい。
【0028】
第2被接合体12を乾燥塗膜13b中に押し込むときの圧力は、乾燥塗膜13bによる第2被接合体12の固定を適切に行う観点、及び第1被接合体11と第2被接合体12との接合強度を十分に高める観点から、0.004MPa以上5MPa以下とすることが好ましく、0.01MPa以上4.5MPa以下とすることが更に好ましく、0.05MPa以上4MPa以下とすることが一層好ましい。
【0029】
第2被接合体12の目標圧力に達してからの維持時間は、乾燥塗膜13bによる第2被接合体12の固定を適切に行う観点、及び次工程となる加熱工程において第1被接合体11と第2被接合体12との接合強度を十分に高める観点から0.01秒以上とすることが好ましく、0.05秒以上とすることが一層好ましい。
また、第2被接合体12の目標圧力に達してからの維持時間は、生産性を著しく低下させる時間でなければ特に限定されるものではなく、例えば7秒以下とすることができる。
【0030】
図2に示すように第2被接合体12の固定が行われると、積層体14に外力が加わっても第1被接合体11に対する第2被接合体12の位置がずれにくくなる。したがって積層体14を次工程、例えば以下に述べる加熱工程のために焼成炉に搬送するときに、第1被接合体11と第2被接合体12との位置関係を安定的に保つことが可能になる。
【0031】
第2被接合体12が乾燥塗膜13bによって固定されてなる積層体14は次に加熱工程に付される。加熱工程は、上述の積層体を得る工程とは異なる場所で行われることから、当該積層体14を加熱する装置へと移動させる。移動中に積層体14に振動等の外力が加わることがあるが、上述した積層体を得る工程によって第2被接合体12が乾燥塗膜13bに適切に固定されているので、第2被接合体12の位置ずれが抑制される。なお、上述の加熱する装置が第2被接合体12を載置する装置を兼ねており、積層体14を移動させずにその場で加熱するようにしても良い。
【0032】
加熱工程においては、積層体14を加圧した後、又は積層体14を加圧した状態、若しくは無加圧の状態で、該積層体14に熱が付与される。加熱温度は、乾燥塗膜13b中の銅粒子の焼結を確実に行い、第1被接合体11と第2被接合体12との間の接合強度を確実に高める観点から、好ましくは180℃以上350℃以下、更に好ましくは200℃以上300℃以下とする。
【0033】
積層体14の加熱を加圧後に行う場合、又は加圧下で行う場合には、乾燥塗膜13bによる第2被接合体12の固定を適切に行う観点から、圧力を0.1MPa以上35MPa以下とすることが好ましく、1MPa以上30MPa以下とすることが更に好ましく、2MPa以上28MPa以下とすることが一層好ましい。
加熱工程での雰囲気は、例えば大気雰囲気、不活性ガス雰囲気又は還元性雰囲気などを採用することができる。
【0034】
このような固定方法を採用することで、目的とする接合構造体(図示せず)が得られる。この接合構造体においては、第1被接合体と第2被接合体とが、銅粒子の焼結体からなる接合層を介して接合された状態になっている。
【0035】
次に、上述した固定による接合方法に用いられるペースト並びに第1被接合体及び第2被接合体について説明する。
【0036】
本発明で用いるペーストは、銅粒子及び有機溶媒を含んで構成される。ペーストは更に各種の調整剤を含んでいてもよい。
【0037】
ペーストに含まれる銅粒子は、その形状に特に制限はなく、球状及び非球状のいずれのものも用いられる。
銅粒子が球状であるとは、円形度係数が0.85以上であることをいう。円形度係数は、銅粒子の走査型電子顕微鏡像を撮影し、一次粒子の二次元投影像の面積をSとし、周囲長をLとしたときに、4πS/L2の式から算出する。
銅粒子が非球状であるとは、上述の円形度係数が0.85未満であることをいう。
【0038】
非球状の具体例としては、扁平状、六面体や八面体等の多面体状、紡錘状、異形状等の形状が挙げられる。扁平状とは、粒子の主面を形成している一対の板面と、これらの板面に直交する側面とを有する形状のことである。板面及び側面はそれぞれ独立して、平面、曲面又は凹凸面であり得る。
【0039】
銅粒子は、異なる二種類以上の形状を有していてもよい。特に銅粒子は、扁平状銅粒子及び球状銅粒子を含むことが、接合強度の高い接合構造体を得る観点から好ましい。また、形状は同様であるが粒径の異なる銅粒子や、形状及び粒径の異なる銅粒子を複数有していても良い。
【0040】
銅粒子が球状である場合の粒径は以下の方法により定めるものとする。すなわち、10,000倍以上150,000倍以下の範囲で走査型電子顕微鏡による観察像を用いて輪郭のはっきりした一次粒子の銅粒子を50個以上選んだ各粒子のヘイウッド径を測定する。次いで、得られたヘイウッド径から、粒子が真球であると仮定したときの体積を算出し、該体積の累積体積50容量%における体積累積粒径を銅粒子の粒径とする。
【0041】
銅粒子の粒径は0.1μmを超えることが好ましく、0.11μm以上であることが更に好ましく、0.12μm以上であることが一層好ましい。一方、銅粒子の粒径は0.55μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることが更に好ましい。銅粒子の粒径が0.1μm超であることによって、乾燥塗膜13bを焼成して焼結体(接合層)としたときに収縮割れが生じにくくなる。一方、銅粒子の粒径を0.55μm以下に設定することによって、乾燥塗膜13b中に存在する銅粒子の焼結を十分なものとすることができる。
【0042】
銅粒子が扁平状である場合の粒径は以下の方法により定めるものとする。すなわち、500倍以上50,000倍以下の範囲で走査型電子顕微鏡による観察像を用いて輪郭のはっきりした銅粒子の撮影像を取得し、該撮影像を画像解析する。具体的には、扁平状銅粒子の板面に水平な方向において360度回転させながら、各二次元投影像における仮想的な外接長方形を考えたときに、その中で外接長方形の一辺が最大となるものについて、その長辺を長軸とする。当該粒子を無作為に50個以上選んで長軸をそれぞれ測定し、これらの算術平均値を求め、これを粒径とする。画像解析には、例えば画像解析式粒度分布ソフトウェアのマウンテック社製Mac-viewを用いる。
【0043】
銅粒子が扁平状である場合の粒径は0.3μm以上50μm以下であることが好ましく、0.5μm以上40μm以下であることがより好ましく、1μm以上20μm以下であることが更に好ましい。粒径がかかる範囲にあることによって、球状の銅粒子と組み合わせた際に、乾燥塗膜13bの過度な体積収縮に伴う焼結体の割れを防止しつつ、乾燥塗膜13bの焼結性に優れたものとなる。
【0044】
ペーストに占める銅粒子の含有量は、銅粒子の充填性を高めて十分な接合強度を発現させる観点から、50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、60質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
銅粒子は、その表面に表面処理剤が付着していてもよい。銅粒子の表面に表面処理剤を付着させておくことで、銅粒子どうしの過度の凝集を抑制することができる。
【0046】
ペーストに含まれる有機溶媒としては、沸点Mが150℃以上300℃以下、特に160℃以上290℃以下、とりわけ170℃以上280以下であるものが好ましい。具体的には、モノアルコール、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、エステル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、飽和炭化水素などが挙げられる。これらの有機溶媒は、一種を単独で又は二種類以上を組み合わせて用いることができる。前記温度範囲の沸点を有する有機溶媒をペーストに含有させることで、湿潤塗膜13aに含まれる有機溶媒の揮発量の調整が容易になり、乾燥塗膜13bの硬さを適切なものとしやすくなる。
ペーストに含まれる有機溶媒の種類が複数の場合には、少なくとも一種類の有機溶媒が前記温度範囲の沸点を有することが好ましく、すべての有機溶媒が前記範囲の沸点を有することが特に好ましい。
【0047】
湿潤塗膜13aに含まれる有機溶媒の揮発量を調整して、乾燥塗膜13bの硬さを適切なものとする観点から、ペースト中の有機溶媒の含有量は、3.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上29.0質量%以下であることが更に好ましく、7.0質量%以上28.0質量%以下であることが一層好ましい。
【0048】
ペーストには、各種特性を調整するための調整剤を適宜含有させてもよい。調整剤としては、例えば還元剤、粘度調整剤、表面張力調整剤が挙げられる。
還元剤としては、銅粒子の焼結を促進させるものがよく、例えばモノアルコール、多価アルコール、アミノアルコール、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、アスコルビン酸、アルデヒド、ヒドラジン及びその誘導体、ヒドロキシルアミン及びその誘導体、ジチオスレイトール、ホスファイト、ヒドロホスファイト、亜リン酸及びその誘導体等が挙げられる。
粘度調整剤としては、ペーストの粘度の高低を調整して、好ましくは前記粘度範囲内に設定できるものがよく、例えばケトン類、エステル類、アルコール類、グリコール類、炭化水素、ポリマーなどが挙げられる。
表面張力調整剤としては、湿潤塗膜13aの表面張力を調整できるものがよく、例えばアクリル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アルキルポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸グリセロールエステルなどのポリマーやアルコール系、炭化水素系、エステル系、グリコール等のモノマーが挙げられる。
【0049】
ペーストの塗布性又は印刷性を高める観点から、ペーストはその粘度が、せん断速度10s-1において、10Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましく、15Pa・s以上200Pa・s以下であることがより好ましい。
ペーストの粘度はThermo Scientific社製のレオメーターMARS IIIを用いて測定することができる。ペーストの粘度の測定条件は以下のとおりである。
測定モード : せん断速度依存性測定
センサー : パラレル型(Φ20mm)
測定温度 : 25℃
ギャップ : 0.300mm
せん断速度 : 0.05~120.01s-1
測定時間 : 2分
【0050】
第1被接合体11及び第2被接合体12はその種類に特に制限はない。一般的には、第1被接合体11及び第2被接合体12はいずれも、それらの接合対象面に金属を含むことが好ましい。例えば第1被接合体11及び第2被接合体12の少なくとも一方として、金属からなる面を有する部材を用いることができる。「金属」とは、他の元素と化合物を形成していない金属そのもの、又は2種類以上の金属の合金のことである。このような金属としては、例えば銅、銀、金、アルミニウム、パラジウム若しくはニッケル又はそれらの2種以上の組み合わせからなる合金が挙げられる。
【0051】
第1被接合体11及び第2被接合体12のうちの少なくとも一方が、金属からなる面を有する部材である場合、該金属からなる面は一般には平面であることが好ましいが、場合によっては曲面であってもよい。
【0052】
第1被接合体11及び第2被接合体12の具体例としては、それぞれ独立して、例えば上述の金属からなるスペーサーや放熱板、半導体素子、並びに上述した金属の少なくとも一種を表面に有する基板等が挙げられる。
基板としては、例えば、セラミックス又は窒化アルミニウム板の表面に銅等の金属層を有する絶縁基板等を用いることができる。
第1被接合体11及び/又は第2被接合体12として半導体素子を用いる場合、半導体素子は、Si、Ga、Ge、C、N、As等の元素のうち一種以上を含む。
【0053】
第1被接合体11は、好ましくは基板である。第2被接合体12は、スペーサー、放熱板、又は半導体素子のいずれかであることが好ましい。
【0054】
第1被接合体11及び第2被接合体12の少なくとも一方として、金属微粒子及び有機溶媒を含むペーストの乾燥体を用いることもできる。具体的には、第1被接合体11として、金属からなる面を有する部材を用い、第2被接合体12として、金属微粒子及び有機溶媒を含むペーストの乾燥体を用いることができる。なお、ペーストの乾燥体を用いる場合には、銅等の金属からなる支持基材にペーストを塗工し乾燥することで乾燥体とすることが好ましい。
【0055】
本製造方法によって得られた接合構造体は、大電流を扱うデバイス、例えば車載用電子回路やパワーデバイスが実装された電子回路などに好適に用いられる。
【0056】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の接合構造体の製造方法、積層体の製造方法及び接合方法を開示する。
〔1〕
接合層を介して第1被接合体と第2被接合体とが接合されてなる接合構造体の製造方法であって、
銅粒子及び有機溶媒を含むペーストを前記第1被接合体に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に含まれる前記有機溶媒の一部を除去する乾燥工程と、
前記第2被接合体の一部が前記塗膜中に埋没するように、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込むことで、前記第1被接合体、前記塗膜及び前記第2被接合体を順に備えた積層体を得る工程と、
前記積層体を加熱する工程と、を備え、
前記乾燥工程後であって、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込む前の状態における前記塗膜の平均厚みをX(μm)とし、
前記積層体を得た状態における、前記第1被接合体の上面から前記第2被接合体の下面までの平均距離をY(μm)としたとき、
100-(Y/X×100)で定義される押し込み率Pが1.0以上50以下である、接合構造体の製造方法。
【0057】
〔2〕
前記乾燥工程後の前記塗膜の平均厚みXが15μm以上である、〔1〕に記載の接合構造体の製造方法。
〔3〕
前記ペーストが前記有機溶媒を3.0質量%以上30.0質量%以下含み、
前記乾燥工程において、前記塗膜の質量が3.0質量%以上30.0質量%以下減少するように前記塗膜を乾燥させる、〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕
前記有機溶媒の沸点Mが150℃以上300℃以下であり、
前記乾燥工程における加熱温度が20℃以上M℃以下である、〔1〕ないし〔3〕のいずれか一に記載の製造方法。
〔5〕
前記積層体を得る工程において、第2被接合体に0.004MPa以上5MPa以下の圧力を加えて、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込む、〔1〕ないし〔4〕のいずれか一に記載の製造方法。
【0058】
〔6〕
第1被接合体と第2被接合体とを接合するための積層体の製造方法であって、
銅粒子及び有機溶媒を含むペーストを前記第1被接合体に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に含まれる前記有機溶媒の一部を除去する乾燥工程と、
前記第2被接合体の一部が前記塗膜中に埋没するように,前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込むことで、前記第1被接合体、前記塗膜及び前記第2被接合体を順に備えた積層体を得る工程と、を備え、
前記乾燥工程後であって、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込む前の状態における前記塗膜の平均厚みをX(μm)とし、
前記積層体を得た状態における、前記第1被接合体の上面から前記第2被接合体の下面までの平均距離をY(μm)としたとき、
100-(Y/X×100)で定義される押し込み率Pが1.0以上50以下である、積層体の製造方法。
【0059】
〔7〕
第1被接合体と第2被接合体との接合方法であって、
銅粒子及び有機溶媒を含むペーストを前記第1被接合体に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に含まれる前記有機溶媒の一部を除去する乾燥工程と、
前記第2被接合体の一部が前記塗膜中に埋没するように,前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込むことで、前記第1被接合体、前記塗膜及び前記第2被接合体を順に備えた積層体を得る工程と、
前記積層体を加熱する工程と、を備え、
前記乾燥工程後であって、前記第2被接合体を前記塗膜中に押し込む前の状態における前記塗膜の平均厚みをX(μm)とし、
前記積層体を得た状態における、前記第1被接合体の上面から前記第2被接合体の下面までの平均距離をY(μm)としたとき、
100-(Y/X×100)で定義される押し込み率Pが1.0以上50以下である、接合方法。
【実施例1】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。また、特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0061】
〔実施例1及び2並びに比較例1及び2〕
(1)ペーストの調製
ペーストの成分として以下のものを用いた。
・銅粉1:粒径0.1~0.2μmの球状銅粒子 53%
・銅粉2:粒径4.5μmの扁平状銅粒子 23%
・有機溶媒1:へキシレングリコール(沸点198℃) 18.9%
・有機溶媒2:ジエチレングリコール(沸点244.3℃) 2.4%
・有機溶媒3:ポリエチレングリコール300(沸点250℃) 0.76%
・還元剤:ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン 1.9%
【0062】
(2)ペーストの第1被接合体への塗布
銅からなる基板(20mm×20mm、厚み2mm)を第1被接合体として用いた。この基板上に、メタルマスク(6mm×6mm、厚み100μm)を用いてペーストを印刷し、矩形の湿潤塗膜を形成した。
湿潤塗膜を大気雰囲気中、40℃にて、以下の表1に示す時間乾燥させて有機溶媒を除去し、乾燥塗膜を得た。有機溶媒の除去による塗膜の質量減少割合を同表に併せて示した。乾燥塗膜の厚みも同表に示されている。
【0063】
湿潤塗膜の質量減少割合は以下の方法で測定した。
銅からなる基板の質量を電子天秤で測定した後、ペースト印刷後の湿潤塗膜を含む基板の質量を電子天秤で測定した。前記湿潤塗膜を含む基板の質量から、印刷前の基板の質量を引いた値を、印刷によって得られた湿潤塗膜の質量とした。その後、前記湿潤塗膜を含む基板を所定時間乾燥後、乾燥塗膜を含む基板の質量を電子天秤で測定した。銅からなる基板のみの質量から、乾燥塗膜を含む基板の質量を引いた値を、乾燥によって減少した湿潤塗膜の質量とした。前記乾燥によって減少した湿潤塗膜の質量を、印刷によって得られた湿潤塗膜の質量で割り、100を乗じることで、湿潤塗膜の質量減少割合(%)を算出した。
【0064】
(3)乾燥塗膜上への第2被接合体の載置
第2被接合体として半導体パワーデバイスのモデル部材を想定して、AgめっきしたSiCチップを用意した(5mm×5mm)。このSiCチップのAgめっき面を乾燥塗膜上の中央部に0.004MPaの圧力でチップマウンタを用いて載置した。第2被接合体の平均厚みBは表1に示すとおりである。
【0065】
(4)積層体の形成
SiCチップのAgめっき面とは反対面から表1に示す圧力を2秒間加えることでSiCチップを乾燥塗膜中に押し込み、積層体を形成した。このときの押し込み率Pの値を上述の方法で算出した。結果を表1に示す。
比較例1については、湿潤塗膜の質量減少割合が3.1%と小さかったことから、乾燥塗膜が変形しやすい状態であり、圧力を加えたときに乾燥塗膜の一部が第2被接合体の上部へ盛り上がってしまった。その状態での各厚みを測定し、押し込み率Pを算出した。
【0066】
(5)積層体の焼成
積層体を焼成炉に移動させ、窒素雰囲気中で積層体を9MPaに加圧した後、280℃まで加熱し、5分保持し塗膜を焼成して接合層とし、接合構造体を得た。
【0067】
〔評価1〕
実施例及び比較例において「(4)積層体の形成」で得られた積層体を1秒かけて上下反転させて、前記SiCチップの位置ずれ及び脱落の有無を目視観察した。結果を表1に示す。
【0068】
〔評価2〕
実施例及び比較例において「(5)積層体の焼成」で得られた接合構造体の接合強度を確認するため、シェア強度を以下の方法で測定した。シェア強度(MPa)は、破断圧力(N)/SiCチップの底面積(mm2)で定義される値である。結果を表1に示す。なお、比較例2についてはSiCチップの位置ずれ及び脱落の評価にてSiCチップが落下したため本評価をせず、表1では「-」と表記した。
・測定装置名:Condor Sigma(XYZTEC社製)
・ロードセル:200kgf
・シェアツール:幅6.0mm、厚み2.0mm、シャフト1/4インチ(型番:T0S663060)
・シェア速度:50μm/s
・シェア高さ:0.02mm(ゼロ点は6mm角で印刷した塗膜上部とする)
【0069】
【0070】
表1に示す結果から明らかなとおり、実施例の方法を採用すると、SiCチップの位置ずれ及び脱落が生じないことが分かる。また、十分な接合強度が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、被接合体に位置ずれや脱落を生じさせることなく、接合材料によって被接合体どうしの接合が可能な接合構造体の製造方法が提供される。
【要約】
銅粒子及び有機溶媒を含むペーストを第1被接合体11に塗布して塗膜13aを形成し;塗膜13aに含まれる有機溶媒の一部を除去し;第2被接合体12の一部が塗膜13a中に埋没するように第2被接合体12を塗膜13a中に押し込むことで、第1被接合体11、塗膜13a及び第2被接合体12を順に備えた積層体14を得て;積層体14を加熱する。乾燥工程後であって、第2被接合体12を塗膜13a中に押し込む前の状態における塗膜13aの平均厚みをXとし、積層体14を得た状態における、第1被接合体11の上面11bから第2被接合体12の下面12bまでの平均距離をYとしたとき、100-(Y/X×100)で定義される押し込み率Pが1.0以上50以下である。