(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-30
(45)【発行日】2025-05-12
(54)【発明の名称】シフトロック装置
(51)【国際特許分類】
B60K 20/02 20060101AFI20250501BHJP
F16H 61/18 20060101ALI20250501BHJP
F16H 61/28 20060101ALI20250501BHJP
【FI】
B60K20/02 E
F16H61/18
F16H61/28
(21)【出願番号】P 2020047288
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-02-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 晃一郎
(72)【発明者】
【氏名】辻 太一
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-114169(JP,A)
【文献】特開2004-74941(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0312882(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 20/02
F16H 61/18
F16H 61/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザによるレンジ選択操作が入力されるレンジ選択操作部と、
前記レンジ選択操作部の状態に応じて、変速機のレンジを切り替えるレンジ切替機構を駆動するアクチュエータを制御するレンジ切替制御部と
を備えるシフトバイワイヤ装置に設けられるシフトロック装置であって、
前記レンジ選択操作部を操作可能とするアンロック状態と、前記レンジ選択操作部を操作不可能な状態とするロック状態とを切り替えるロック機構と、
前記レンジ選択操作部において、前記ロック機構をアンロック状態とする第1のレンジから、前記ロック機構をロック状態とする第2のレンジへの切替操作がなされたことに応じて、前記ロック機構を前記アンロック状態から前記ロック状態へ推移させるロック機構制御部とを備え、
前記レンジ切替制御部は、前記レンジ選択操作部において前記第2のレンジへの切替操作がなされた後に、前記アクチュエータにより駆動される前記レンジ切替機構による前記変速機のレンジの目標となる目標駆動終了位置を判定し、その後前記アクチュエータの駆動により前記レンジ切替機構の前記変速機のレンジを前記目標駆動終了位置へ切り替える作動を開始し、
前記ロック機構制御部は、前記レンジ切替制御部による前記目標駆動終了位置の判定後、前記目標駆動終了位置の判定に応じて前記ロック機構の前記アンロック状態から前記ロック状態への推移を開始させ、前記ロック機構の前記推移の完了を、前記アクチュエータの作動開始前に行わせること
を特徴とす
るシフトロック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフトバイワイヤ式の変速機においてレンジ選択操作部をロックするシフトロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される自動変速機は、パーキングレンジ、リバース(後進)レンジ、ニュートラルレンジ、ドライブ(前進)レンジを、ドライバによるレンジ選択操作に応じて切り替えている。
従来、シフトレバー(セレクトレバー)等のレンジ選択操作部と、変速機本体に設けられたマニュアルバルブ(スプールバルブ)とを、例えばボーデンワイヤ等の機械的手段によって連結し、連動させるものが一般的であったが、近年、レンジ選択操作部と変速機本体とを機械的に連結せず、電気的な信号等によってレンジ選択を行うシフトバイワイヤ化が普及しつつある。
【0003】
このようなシフトバイワイヤ式の変速機に関する従来技術として、例えば特許文献1には、シフトバイワイヤのレンジ切換制御装置において、Nレンジ位置を通過するレンジ位置の切換えを行う際に、Nレンジ位置の検出があった段階で、Nレンジ位置への切換えを開始する先行制御を行うことが記載されている。
特許文献2には、現在のシフトポジションを基準として設定された駆動方向に位置する次のシフトポジションを目標シフトポジションとして設定し、現在のシフトポジションから設定された目標シフトポジションに応じたシフトアクチュエータ駆動信号を出力することが記載されている。
特許文献3には、シフトバイワイヤ操作式の自動変速機において、セレクトレバーをパーキングロック位置で係止するためのロックレバーを、変速機アクチュエータと操作ケーブルと旋回レバーとを介して連結したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008- 2561号公報
【文献】特開2002-349703号公報
【文献】特表2010-520423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シフトバイワイヤ式の変速機において、レンジ選択操作部を機械的にロックして、レンジ選択操作(シフト操作)を禁止するシフトロック機構が設けられる。
例えば、レンジ選択操作部がパーキングレンジを選択した状態となっている場合には、意図しない走行レンジへのシフトによる車両の誤発進を防止するため、ブレーキ操作が行われた場合にのみロック状態からアンロック状態へ推移するよう構成される。
しかし、シフトバイワイヤ式の変速機において、他のレンジからパーキングレンジへのシフト操作が行われ、アクチュエータによって変速機のレンジ切替動作が行われてからシフトロック機構を作動させた場合、例えばパーキングレンジへのシフト操作の直後に他のレンジへのシフト操作が行われた場合、パーキングレンジでロックがかからず、本来禁止されるべき他のレンジへのシフト操作が行われてしまうことが懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、適切なタイミングでロック状態への推移を行うシフトロック装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、ユーザによるレンジ選択操作が入力されるレンジ選択操作部と、前記レンジ選択操作部の状態に応じて、変速機のレンジを切り替えるレンジ切替機構を駆動するアクチュエータを制御するレンジ切替制御部とを備えるシフトバイワイヤ装置に設けられるシフトロック装置であって、前記レンジ選択操作部を操作可能とするアンロック状態と、前記レンジ選択操作部を操作不可能な状態とするロック状態とを切り替えるロック機構と、前記レンジ選択操作部において、前記ロック機構をアンロック状態とする第1のレンジから、前記ロック機構をロック状態とする第2のレンジへの切替操作がなされたことに応じて、前記ロック機構を前記アンロック状態から前記ロック状態へ推移させるロック機構制御部とを備え、前記レンジ切替制御部は、前記レンジ選択操作部において前記第2のレンジへの切替操作がなされた後に、前記アクチュエータにより駆動される前記レンジ切替機構による前記変速機のレンジの目標となる目標駆動終了位置を判定し、その後前記アクチュエータの駆動により前記レンジ切替機構の前記変速機のレンジを前記目標駆動終了位置へ切り替える作動を開始し、前記ロック機構制御部は、前記レンジ切替制御部による前記目標駆動終了位置の判定後、前記目標駆動終了位置の判定に応じて前記ロック機構の前記アンロック状態から前記ロック状態への推移を開始させ、前記ロック機構の前記推移の完了を、前記アクチュエータの作動開始前に行わせることを特徴とするシフトロック装置である。
これによれば、アンロック状態である第1のレンジからロック状態とすべき第2のレンジへの切替操作がなされたことに応じて、ロック機構をロック状態へ推移させることにより、レンジ切替機構の動作を待つことなく直ちにレンジ選択操作部をロックさせることができ、第2のレンジの切替操作がなされた直後に誤って他のレンジへの切替操作が行われることを防止して安全性を向上することができる。アクチュエータによる変速機構部のレンジ切替の終了を待つことなくロック機構をアンロック状態からロック状態へ推移させることにより、上述した効果を確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、適切なタイミングでロック状態への推移を行うシフトロック装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明を適用したシフトロック装置の第1実施形態を有する変速機の制御システムの構成を模式的に示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態のシフトロック装置におけるロック機構の構成を示す模式図である。
【
図3】第1実施形態のシフトロック装置を有する変速機におけるレンジ切替時の制御を模式的に示すフローチャートである。
【
図4】本発明の比較例であるシフトロック装置を有する変速機におけるレンジ切替時の制御を模式的に示すフローチャートである。
【
図5】第1実施形態及び比較例のシフトロック装置におけるレンジ切替時の動作を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用したシフトロック装置の第1実施形態について説明する。
第1実施形態のシフトロック装置は、例えば乗用車等の自動車に搭載される自動変速機の走行レンジを切り替えるシフトバイワイヤ装置に設けられるものである。
図1は、第1実施形態のシフトロック装置を有する変速機の制御システムの構成を模式的に示すブロック図である。
【0011】
第1実施形態において、変速機を含むトランスミッション1は、例えばチェーン式CVTであって、前後輪に駆動力を伝達するAWDトランスファを有するものである。
トランスミッション1は、変速機構部10、ロックアップクラッチ20、トランスファクラッチ30、フォワードクラッチ40、リバースブレーキ50、コントロールバルブ60、スプールバルブ70、パーキングロック機構80等を有する。
【0012】
変速機構部10は、図示しないエンジンからの入力回転を、減速又は増速するものである。
変速機構部10として、例えば、平行軸回りに回転するプライマリプーリ、セカンダリプーリ、及び、これらに掛け渡されたチェーンを有するチェーン式無段変速機(CVT)のバリエータを用いることができる。
各プーリはチェーンを挟持する固定シーブ、可動シーブを有し、可動シーブの背面側に設けられたチャンバの油圧バランスを変化させることにより、シーブ間隔を変化させ、チェーンの巻き掛け径を制御して変速を行う。
【0013】
ロックアップクラッチ20は、エンジンと変速機構部10との間に設けられたトルクコンバータの入力部(インペラ)と出力部(タービン)との相対回転(トルコンスリップ)を拘束する摩擦係合要素である。
【0014】
トランスファクラッチ30は、例えば、前輪側の駆動系が変速機構部10と直結されたAWD(全輪駆動)システムの場合に、変速機構部10の出力側と後輪駆動系との間に設けられ、伝達トルクを変化させる摩擦係合要素である。
トランスファクラッチ30は、AWDシステムにおける前後輪の駆動力配分を車両状態に応じて制御するために用いられる。
【0015】
フォワードクラッチ40、リバースブレーキ50は、車両の前進状態(ドライブレンジに相当)、後進状態(リバースレンジに相当)を切り替える前後進切替機構に設けられる摩擦係合要素である。
前後進切替機構は、例えば、プラネタリギヤセットを有して構成され、変速機構部10の出力側又は入力側に配置される。
フォワードクラッチ40は、車両の前進時(ドライブレンジ時)に締結され、駆動力を伝達する。このとき、リバースブレーキ50は解放されている。
リバースブレーキ50は、車両の後進時(リバースレンジ時)に締結され、駆動力を伝達する。このとき、フォワードクラッチ40は解放されている。
また、前後進切替機構は、フォワードクラッチ40及びリバースブレーキ50をともに解放状態とすることにより、動力伝達を行わない状態(パーキングレンジ時、ニュートラルレンジ時)とすることが可能である。
【0016】
コントロールバルブ60は、トランスミッション制御ユニット(TCU)100からの指令に応じて、上述した各部への供給油圧を制御する調圧弁である。
コントロールバルブ60は、図示しないオイルポンプから加圧され圧送されるオイルを、所定の圧力まで調圧して各部へ供給する機能を有する。
【0017】
スプールバルブ70は、コントロールバルブ60からフォワードクラッチ40、リバースブレーキ50に油圧を供給する油路を切り替え、フォワードクラッチ40が締結される前進状態(ドライブレンジ)、リバースブレーキ50が締結される後進状態(リバースレンジ)、フォワードクラッチ40、リバースブレーキ50がともに解放される中立状態(ニュートラルレンジ又はパーキングレンジ)を切り替えるレンジ切替機構である。
【0018】
スプールバルブ70は、モータ71を有する。
モータ71は、TCU100からの指令に応じて、スプールバルブ70の状態を切り替え、上述した前進状態、後進状態、中立状態を切り替える電動アクチュエータである。
【0019】
パーキングロック機構80は、TCU100からの指令に応じて、パーキングレンジの選択時に、トランスミッション1の出力軸の回転を機械的に拘束(ロック)して車両の動き出しを防止するものである。
【0020】
トランスミッション1は、TCU100を有する。
TCU100は、車両の運転状態等に基づいて、トランスミッション1及びその補機類を統括的に制御する制御装置である。
TCU100は、例えば、CPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有して構成されている。
【0021】
TCU100は、シフトバイワイヤ制御部101、シフタ制御部102を有する。
シフトバイワイヤ制御部101は、コントロールバルブ60、スプールバルブ70のモータ71、パーキングロック機構80に指令を与え、変速機構部10における変速比や、各摩擦係合要素の締結力、モータ71の出力軸角度位置、パーキングロック機構80の係合又は解除などを制御する。
シフトバイワイヤ制御部101は、本発明のレンジ切替制御部として機能する。
シフタ制御部102は、後述するレンジシフタ110と接続され、レンジシフタ110の状態を判別し、判別結果をシフトバイワイヤ制御部101へ伝達するとともに、後述するロック機構113を制御する。
【0022】
TCU100には、ブレーキスイッチ103、車速センサ104が直接に、又は、他のユニット等を介して間接的に接続されている。
ブレーキスイッチ103は、ドライバがブレーキ操作を行う図示しないブレーキペダルの踏込状態を検出するスイッチである。
車速センサ104は、車輪が取り付けられるハブの回転速度に応じた周波数の信号を発生するものである。車速センサ104の出力に基づいて、車両の走行速度(車速)を演算することが可能である。
【0023】
TCU100には、レンジシフタ110が接続されている。
レンジシフタ110は、例えば車両のキャビン(車室)内に設けられ、ドライバ等のユーザがトランスミッション1のレンジ選択操作を入力するレンジ選択操作部である。
【0024】
レンジシフタ110は、ダイアル111、シフタポジションセンサ112等を有する。
ダイアル111は、ユーザがレンジ選択操作を行う操作部材である。
ダイアル111は、例えば円盤状に形成されるとともに、その中心軸回りに回動可能となっている。
ダイアル111は、その中心軸回りにおける角度位置に応じて、例えば反時計回りに回動させた際に、パーキングレンジP、リバースレンジR、ニュートラルレンジN、ドライブレンジDが順次選択されるようになっている。
【0025】
パーキングレンジPは、車両の駐車時に選択されるレンジである。
パーキングレンジPにおいては、スプールバルブ70において、コントロールバルブ60からフォワードクラッチ40、リバースブレーキ50への油路がともに閉塞されるとともに、パーキングロック機構80がロック状態とされる。
【0026】
リバースレンジRは、車両の後進時に選択されるレンジである。
リバースレンジRにおいては、スプールバルブ70において、リバースブレーキ50への油路が開かれかつフォワードクラッチ40への油路が閉塞され、パーキングロック機構80がアンロック状態(解除状態)とされる。
【0027】
ニュートラルレンジNは、車両の一時的な停車時に選択されるレンジである。
パーキングレンジPにおいては、スプールバルブ70において、コントロールバルブ60からフォワードクラッチ40、リバースブレーキ50への油路がともに閉塞されるとともに、パーキングロック機構80がアンロック状態とされる。
【0028】
ドライブレンジDは、車両の前進時に選択されるレンジである。
ドライブレンジDにおいては、スプールバルブ70において、フォワードクラッチ40への油路が開かれかつリバースブレーキ50への油路が閉塞され、パーキングロック機構80がアンロック状態(解除状態)とされる。
【0029】
シフタポジションセンサ112は、ダイアル111の角度位置を検出するエンコーダを有する。
シフタポジションセンサ112の出力は、TCU100に伝達される。
【0030】
レンジシフタ110は、ダイアル111を所定の角度位置でロックするロック機構113を備えている。
図2は、第1実施形態のシフトロック装置におけるロック機構の構成を示す模式図である。
ロック機構113は、ロックピン113a、ソレノイド113bを有する。
ロックピン113aは、ダイアル111の一方側(ユーザ側とは反対側の面、
図2においては下面)に形成された係合穴114,115に挿入されることにより、ダイアル111の回動をロックする円柱状の部材である。
ソレノイド113bは、ロックピン113aがダイアル111側へ繰り出され、係合穴114,115に挿入されるロック状態と、ロックピン113aが引き込まれ、係合穴114,115から離間する(抜かれる)アンロック状態とを推移させる電動アクチュエータである。
ソレノイド113bは、TCU100のシフタ制御部102により動作を制御されている。
シフタ制御部102は、本発明にいうロック機構制御部として機能する。
【0031】
ダイアル111には、上述した係合穴として、係合穴114、115が形成されている。
係合穴114は、ダイアル111においてパーキングレンジPが選択された場合に、ロックピン113aが挿入可能な位置関係となるよう配置されている。
例えば、パーキングレンジPが選択されている場合には、係合穴114にロックピン113aが挿入され、ダイアル111がロックされることにより、誤操作による他のレンジの選択操作が禁止される。
ロックピン113aは、例えばブレーキスイッチ103によりドライバによるブレーキ操作が検出された場合に係合穴114から抜かれ、ロック機構113はロック状態からアンロック状態へ推移する。
これにより、ドライバは他のレンジの選択操作が可能となる。
【0032】
係合穴115は、ダイアル111においてニュートラルレンジNが選択された場合に、ロックピン113aが挿入可能な位置関係となるよう配置されている。
例えば、車両がドライブレンジDで前進走行中(車速センサ104が車速を検出)である場合に、誤ってリバースレンジRの方向へダイアル111が回動した場合に、ダイアル111がニュートラルレンジNに対応する位置へ達した際にロックピン113aが係合穴115に挿入され、ダイアル111がロックされ、リバースレンジRが選択されることを防止する。
また、車両がリバースレンジRで後進走行中(車速センサ104が車速を検出)である場合に、誤ってドライブレンジDの方向へダイアル111が回動した場合に、ダイアル111がニュートラルレンジNに対応する位置へ達した際にロックピン113aが係合穴115に挿入され、ダイアル111がロックされ、ドライブレンジDが選択されることを防止する。
【0033】
図3は、第1実施形態のシフトロック装置を有する変速機におけるレンジ切替時の制御を模式的に示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:目標レンジ位置判定>
TCU100のシフトバイワイヤ制御部101は、レンジシフタ110からシフタ制御部102を介して取得したダイアル111の状態(位置)に基づいて、レンジ選択操作がありかつ切替を行う場合の目標となる目標レンジ位置を判定する。
その後、ステップS02に進み、かつ、並行してステップS04に進む。
【0034】
<ステップS02:モータ駆動>
シフトバイワイヤ制御部101は、ステップS01において判定した目標レンジへの切替を行うために必要なモータ71の駆動量を算出し、この算出結果に基づいてモータ71を駆動させる。
これにより、スプールバルブ70の状態の切替が開始される。
その後、ステップS03に進む。
【0035】
<ステップS03:実レンジ切替>
モータ71がステップS02において設定された駆動量だけ動作すると、スプールバルブ70の状態が切り替わり、トランスミッション1において実際に(機械的に)選択されているレンジがステップS01において判定した目標レンジと一致する。
その後、一連の処理を終了する。
【0036】
<ステップS04:シフトロック/アンロック判定>
TCU100のシフタ制御部102は、ステップS01において判定された目標レンジにおいて、ロック機構113をロック状態とすべきか、アンロック状態とすべきかを判別する。
例えば、目標レンジがパーキングレンジPである場合は、ブレーキ操作が行われている場合を除き、ロック状態にすべきと判定される。
また、ドライブレンジDにおいて前進走行中又はリバースレンジRにおいて後進走行中に目標レンジがニュートラルレンジNとなった場合は、ロック状態にすべきと判定される。
その後、ステップS05に進む。
【0037】
<ステップS05:シフトロック機構ソレノイド駆動>
TCU100のシフタ制御部102は、ステップS04における判定結果に応じて、ロック機構113のソレノイド113bを駆動させる。
例えば、ロック状態とすべき場合には、ソレノイド113bによりロックピン113aを繰り出し方向へ駆動する。
これにより、ロックピン113aは、係合穴114,115のいずれかと正対する状態となったときにこれに挿入され、ロック機構113はロック状態へ推移する。
その後、一連の処理を終了する。
【0038】
第1実施形態の効果を、以下説明する本発明の比較例のシフトロック装置と対比して説明する。
比較例及び後述する第2実施形態において、上述した第1実施形態と共通する箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図4は、本発明の比較例であるシフトロック装置を有する変速機におけるレンジ切替時の制御を模式的に示すフローチャートである。
図中、ステップS11乃至S15においては、第1実施形態のステップS01乃至S05と同様の処理を行うが、比較例においては、ステップS13において実レンジの切替(スプールバルブ70の状態推移)が完了した後、ステップS14におけるシフトロック/アンロック判定、及び、ステップS15におけるソレノイドの駆動を行っている。
【0039】
図5は、第1実施形態及び比較例のシフトロック装置におけるレンジ切替時の動作を示すシーケンス図である。
比較例においては、トランスミッション1内部のスプールバルブ70の切替完了後にロック機構113のロック要否の判定、及び、ソレノイド113bの駆動を行うため、ロック機構113のロックが完了されるタイミングが第1実施形態に対して遅延する。
このため、例えばドライバがリバースレンジRからパーキングレンジPに切り替え、その直後にパーキングレンジPからリバースレンジRに戻そうとした場合に、本来であればパーキングレンジPでロックがなされ、リバースレンジRの選択操作が禁止されるべきであるが、ロック動作が遅延することにより、リバースレンジRへの切替操作が行われてしまう。
【0040】
これに対し、第1実施形態によれば、ロック機構113がアンロック状態であるリバースレンジRから、ロック状態とすべきパーキングレンジPへの切替操作がなされたことに応じて、トランスミッション1内部のモータ71の駆動と並行してソレノイド113bを駆動し、ロック機構113をロック状態へ推移させることにより、スプールバルブ70におけるレンジの切り替え完了を待つことなく直ちにレンジシフタ110のダイアル111をロックさせることができ、リバースレンジRへの切替操作がなされた直後に誤って他のレンジへの切替操作が行われることを防止して安全性を向上することができる。
【0041】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用したシフトロック装置の第2実施形態について説明する。
第1実施形態においては、モータ71によるスプールバルブ70の駆動と、シフトロック/アンロック判定及びソレノイド113bの駆動とを並行して同時期に行っているが、第2実施形態においては、目標レンジ位置の判定後、先ずシフトロック/アンロック判定及びソレノイド113bの駆動を行い、その後モータ71の駆動を開始する。
以上説明した第2実施形態においても、上述した第1実施形態の効果と同様の効果を得ることができる。
【0042】
(変形例)
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)車両、変速機、シフトバイワイヤ装置の構成は、上述した各実施形態に限定されることなく、適宜変更することができる。
(2)各実施形態においては、レンジ選択操作部は、一例としてダイアル状の操作部を有するものであったが、レンジ選択操作部の構成は適宜変更することができる。例えば、操作部はレバー状のものや、それ以外の構成を有するものであってもよい。
(3)各実施形態においては、単一のロックピン及びソレノイドを複数の係合穴に挿入することにより、複数の位置でレンジ選択操作部をロック可能な構成としているが、ロック状態とすべき複数の位置に応じてそれぞれ独立した複数のロック機構を設けてもよい。また、ロック機構の構成も実施形態の構成に限定されず、例えば爪状の係止部材や、その他の手段によってレンジ選択操作部をロックする構成とすることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 トランスミッション 10 変速機構部
20 ロックアップクラッチ 30 トランスファクラッチ
40 フォワードクラッチ 50 リバースブレーキ
60 コントロールバルブ 70 スプールバルブ
71 モータ 80 パーキングロック機構
100 トランスミッション制御ユニット(TCU)
101 シフトバイワイヤ制御部 102 シフタ制御部
103 ブレーキスイッチ 104 車速センサ
110 レンジシフタ 111 ダイアル
112 シフタポジションセンサ 113 ロック機構
113a ロックピン 113b ソレノイド
114,115 係合穴