(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-30
(45)【発行日】2025-05-12
(54)【発明の名称】改善された付加製造部品のための被覆フィラメント
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20250501BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20250501BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20250501BHJP
B33Y 40/10 20200101ALI20250501BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20250501BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20250501BHJP
B29C 64/264 20170101ALI20250501BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20250501BHJP
【FI】
B29C64/118
B29C64/314
B33Y10/00
B33Y40/10
B33Y40/20
B33Y70/00
B29C64/264
B33Y30/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021000540
(22)【出願日】2021-01-05
【審査請求日】2023-11-17
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【氏名又は名称】齊藤 智和
(74)【代理人】
【識別番号】100217467
【氏名又は名称】鶴崎 一磨
(72)【発明者】
【氏名】ニシャント シンハ
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-502862(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0325491(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108407283(CN,A)
【文献】特開2019-084769(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0141274(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B29C 67/00-67/08
B29C 67/24-69/02
B29C 73/00-73/34
B29D 1/00-29/10
B29D 33/00
B29D 99/00
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造プロセスに用いるための被覆フィラメントであって、
第1のtanδ値で表される第1誘電損率を有するベースポリマー材料によって形成されたベースポリマー層と、
前記ベースポリマー層を覆うとともに
、第2のtanδ値で表される第2誘電損率を有する被覆ポリマー材料によって形成された被覆ポリマー層と、を含み、前記被覆ポリマー材料の前記第2誘電損率は、前記ベースポリマー材料の前記第1誘電損率より大き
く、
前記第2のtanδ値は前記第1のtanδ値の少なくとも50倍である、被覆フィラメント。
【請求項2】
前記ベースポリマー材料は、第1融点を有し、前記被覆ポリマー材料は、第2融点を有し、前記第1融点は、前記第2融点との差が摂
氏20度以内である、請求項1に記載の被覆フィラメント。
【請求項3】
前記ベースポリマー材料は、第1溶解度パラメータを有し、前記被覆ポリマー材料は、第2溶解度パラメータを有し、前記第2溶解度パラメータは、前記第1溶解度パラメータとの差
が10J/cc
0.5以内である、請求項1又は2に記載の被覆フィラメント。
【請求項4】
付加製造プロセスに用いるための被覆フィラメントであって、
第1誘電損率を有するベースポリマー材料によって形成されたベースポリマー層と、
前記ベースポリマー層を覆うとともに第2誘電損率を有する被覆ポリマー材料によって形成された被覆ポリマー層と、を含み、前記被覆ポリマー材料の前記第2誘電損率は、前記ベースポリマー材料の前記第1誘電損率より大きく、
前記ベースポリマー材料は、ポリエーテルイミドを含み、前記被覆ポリマー材料は、ポリビニルアルコールを含む
、被覆フィラメント。
【請求項5】
前記ベースポリマー層は
、0.1~5ミリメートルの厚みを有し、前記被覆ポリマー層は
、1~1,000ミクロンの厚みを有する、請求項1~4のいずれかに記載の被覆フィラメント。
【請求項6】
付加製造プロセスに用いるための被覆フィラメントの製造方法であって、
経路に沿ってポリマーフィラメントを前進させ、前記ポリマーフィラメントは、ベースポリマー材料によって形成されており、
前記経路上の一箇所において前記ポリマーフィラメントの外面に液体塗料を塗布し、前記液体塗料は、被覆ポリマー材料によって形成されており、
前記ポリマーフィラメント上の前記液体塗料を乾燥させて前記被覆フィラメントを形成し、前記被覆フィラメントは、前記ポリマーフィラメントによって形成されたベースポリマー層と、乾燥後の前記液体塗料によって形成された被覆ポリマー層とを含
み、
前記ベースポリマー材料は、第1のtanδ値で表される第1誘電損率を有し、
前記被覆ポリマー材料は、第2のtanδ値で表される第2誘電損率を有し、前記第2のtanδ値は前記第1のtanδ値の少なくとも50倍である、方法。
【請求項7】
前記経路に沿って前記ポリマーフィラメントを前進させるに際して、前記ポリマーフィラメントを第1スプールと第2スプールとの間に支持し、前記第1及び前記第2スプールを回転させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーフィラメントの外面に前記液体塗料を塗布するに際して、前記液体塗料を保持する貯留槽を通過させて前記ポリマーフィラメントを前進させる、請求項6又は7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
付加製造プロセスに用いるための被覆フィラメントの製造方法であって、
経路に沿ってポリマーフィラメントを前進させ、前記ポリマーフィラメントは、ベースポリマー材料によって形成されており、
前記経路上の一箇所において前記ポリマーフィラメントの外面に液体塗料を塗布し、前記液体塗料は、被覆ポリマー材料によって形成されており、
前記ポリマーフィラメント上の前記液体塗料を乾燥させて前記被覆フィラメントを形成し、前記被覆フィラメントは、前記ポリマーフィラメントによって形成されたベースポリマー層と、乾燥後の前記液体塗料によって形成された被覆ポリマー層とを含み、
前記ベースポリマー材料は、ポリエーテルイミドを含み、前記被覆ポリマー材料は、ポリビニルアルコールを含む
、方法。
【請求項10】
溶融フィラメント製造によって物品を製造する方法であって、
被覆フィラメントを形成し、その際に、
経路に沿ってポリマーフィラメントを前進させ、前記ポリマーフィラメントは、ベースポリマー材料によって形成されており、
前記経路上の一箇所において前記ポリマーフィラメントの外面に液体塗料を塗布し、前記液体塗料は、被覆ポリマー材料によって形成されており、
前記ポリマーフィラメント上の前記液体塗料を乾燥させることにより、前記被覆フィラメントを形成し、前記被覆フィラメントは、前記ポリマーフィラメントによって形成されたベースポリマー層と、乾燥後の前記液体塗料によって形成された被覆ポリマー層とを含み、前記方法ではさらに、
前記被覆フィラメントの隣接する第1及び第2ビードを基板の上に堆積させ、
前記第1ビード及び前記第2ビードの各々における少なくとも前記被覆ポリマー層を、電磁放射線を用いて誘電加熱し、これにより、前記被覆フィラメントの前記第1ビードと第2ビードを界面領域で融着さ
せ、
前記ベースポリマー材料は、ポリエーテルイミドを含み、前記被覆ポリマー材料は、ポリビニルアルコールを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、付加製造のための装置及び方法に関し、より具体的には、付加材料としてフィラメントを用いる付加製造技術に関する。本明細書に開示の付加製造プロセスは、部品を製造する際に有用であり、部品の例としては、環境制御ダクト、ドアパネル、工具、治具、固定具などがある。また本開示の実施例は、さらに多岐にわたる用途に使用できる可能性があり、特に、航空宇宙、船舶、自動車などの輸送産業や、例えば補助動力装置(APU)に用いるケーシングに使用できる可能性がある。
【背景技術】
【0002】
部品やその他の物品は、その部品の性能要件や製造機器の入手しやすさに応じて、様々な製造技術を用いて製造される。物体の造形に用いることができる付加製造方法として、溶融フィラメント製造(FFF:fused filament fabrication)がある。この方法では、フィラメントを加熱してビードとし、これを連続する造形層状に基板の上に堆積させることによって、物品を形成する。このフィラメントは、通常、熱可塑性材料、ポリカーボネート、又は他の類似の構成の材料によって形成される。FFFのようなフィラメントベースの付加製造では、隣接するビード間に空隙ができることによって層間強度が低下し、結果として物品の構造強度が低くなるおそれがある。
【発明の概要】
【0003】
本開示の一側面によれば、付加製造プロセスに用いるための被覆フィラメントが提供される。前記被覆フィラメントは、第1誘電損率を有するベースポリマー材料によって形成されたベースポリマー層と、前記ベースポリマー層を覆うとともに第2誘電損率を有する被覆ポリマー材料によって形成された被覆ポリマー層と、を含み、前記被覆ポリマー材料の前記第2誘電損率は、前記ベースポリマー材料の前記第1誘電損率より大きい。
【0004】
本開示の別の側面によれば、付加製造プロセスに用いるための被覆フィラメントの製造方法が提供され、当該方法では、経路に沿ってポリマーフィラメントを前進させ、前記ポリマーフィラメントは、ベースポリマー材料によって形成されており、前記経路上の一箇所において前記ポリマーフィラメントの外面に液体塗料を塗布し、前記液体塗料は、被覆ポリマー材料によって形成されている。当該方法では、さらに、前記ポリマーフィラメント上の前記液体塗料を乾燥させて前記被覆フィラメントを形成し、前記被覆フィラメントは、前記ポリマーフィラメントによって形成されたベースポリマー層と、乾燥後の前記液体塗料によって形成された被覆ポリマー層とを含む。
【0005】
本開示のさらなる側面によれば、溶融フィラメント製造によって物品を製造する方法が提供され、当該方法では、被覆フィラメントを形成し、その際に、経路に沿ってポリマーフィラメントを前進させ、前記ポリマーフィラメントは、ベースポリマー材料によって形成されており、前記経路上の一箇所において前記ポリマーフィラメントの外面に液体塗料を塗布し、前記液体塗料は、被覆ポリマー材料によって形成されており、前記ポリマーフィラメント上の前記液体塗料を乾燥させることにより、前記被覆フィラメントを形成し、前記被覆フィラメントは、前記ポリマーフィラメントによって形成されたベースポリマー層と、乾燥後の前記液体塗料によって形成された被覆ポリマー層とを含む。前記方法ではさらに、前記被覆フィラメントの隣接する第1及び第2ビードを基板の上に堆積させ、前記第1ビード及び前記第2ビードの各々における少なくとも前記被覆ポリマー層を、電磁放射線を用いて誘電加熱し、これにより、前記被覆フィラメントの前記第1ビードと第2ビードを界面領域で融着させる。
【0006】
記載の特徴、機能、及び、利点は、様々な実施例において個別に実現可能であるが、他の実施例において互いに組み合わせてもよく、そのさらなる詳細については、以下の記載及び図面を参照することによって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
例示的な実施例に特有のものと考えられる新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に記載されている。しかしながら、例示的な実施形態、ならびに、好ましい使用形態、更にその目的及び利点は、本開示の例示的な実施例の以下の詳細な説明を添付の図面と併せて参照することによって最もよく理解されるであろう。
【0008】
【
図1】ポリマーコーティングによるポリマーフィラメントの被覆を示す図である。
【
図2】従来のFFF技術によって製造された物品を示す図である。
【
図3】被覆フィラメントの製造方法によって形成された被覆フィラメントを示す図である。
【
図5】本開示による溶融フィラメント製造によって物品を製造するための例示的なシステムの概略図である。
【
図6】
図5のシステムによって堆積された被覆フィラメントの2つの堆積ビードを示す図である。
【
図7】界面領域が電磁放射線に暴露された後の
図6に示した被覆フィラメントの2つの堆積ビードを示す図である。
【
図8】複数層の堆積ビードによって形成された物品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の詳細な説明は、電磁気感応性ポリマーコーティングを強化に使用する溶融フィラメント製造技術に関する。いくつかの実施態様において、例えば、物品の様々な部分が、電磁放射線を用いて強化される。いくつかの実施例において、物品のうち高強度にする必要がある部分を特定し、電磁放射線を所与の量又は期間、照射する。
【0010】
本明細書の一部を構成する添付図面を参照するが、これらの添付図面では、特定の実施例又は実施形態を例示として示している。いくつかの図面において、同様の数字は、同様の要素を示す。
〈定義〉
【0011】
「溶融フィラメント製造」(FFF)とは、連続する材料層を積み重ねて、例えば三次元製品、試作品、またはモデルなどの製品を形成するために用いられる付加製造技術である。このプロセスは、溶融材料の層を次々と積み重ねてモデルや製品などを迅速に作製するための高速の試作品作製及び製造プロセスである。
【0012】
本明細書において、「フィラメント」とは、付加製造プロセスで用いられる細い糸のような形状を有する供給材料のことをいう。
〈実施形態の説明〉
【0013】
次に図を参照すると、
図1は、ポリマーフィラメント2を被覆フィラメント10にするプロセスを示しており、当該被覆フィラメントは、より高い構造的完全性を有する物品を造形するための付加製造プロセスに用いることができるものである。具体的には、ポリマーフィラメント2は、第1スプール4から繰り出され、引っ張られながら、液体塗料7を保持する貯留槽6を通過する。従って、貯留槽6を出る際には、ポリマーフィラメント2は液体塗料7で被覆されている。その後、液体塗料7が乾燥すると、被覆フィラメント10は、(ポリマーフィラメント2によって形成されている)ベースポリマー層8と、ベースポリマー層8を覆う被覆ポリマー層9とを含む状態となる。被覆フィラメント10は、その後回収され、付加製造プロセスに用いるべく第2スプール12に巻き付けられる。この例では、ポリマーフィラメント2が第1スプール4から繰り出される速度が、被覆フィラメント10が第2スプール12に巻き付けられる速度と実質的に同じになるように、第1スプール4及び第2スプール12の回転が制御される。
【0014】
被覆フィラメント10におけるベースポリマー層8及び被覆ポリマー層9の形成に用いる材料は、フィラメントベースの付加製造プロセスの際に選択的に加熱できるものであり、これによって、フィラメント間の鎖の拡散及び結合が促進され、構造的完全性が向上した造形物品が得られる。以下に詳述するように、ベースポリマー層8及び被覆ポリマー層9に用いる材料は、誘電加熱に対する相対的な反応性、ならびに、融点の近さ及び溶解度パラメータに基づいて選択することができる。
【0015】
誘電加熱に対する反応性に関しては、例えば、被覆ポリマー層9の方がベースポリマー層8よりも電磁放射線に反応して加熱されやすいように、被覆フィラメント10に用いる材料が選択される。照射された電磁エネルギーを熱の形で消散させる材料の能力は、誘電損率として知られる特性(損失係数としても知られ、記号tanδで表される特性)で定量化される。誘電損率がより高い材料は、誘電損率がより低い材料よりも、印加された電磁場に反応して、より温度上昇する。被覆フィラメント10の外面に加熱を集中させるため、ベースポリマー層8に用いられるベースポリマー材料よりも誘電損率の高い被覆ポリマー材料で、被覆ポリマー層9を形成する。いくつかの例において、被覆ポリマー材料は、ベースポリマー材料のtanδ値の少なくとも約50倍のtanδ値を有する。これに加えて又は代えて、ベースポリマー材料は、0.05未満のtanδ値を有し、被覆ポリマー材料は、0.05より大きいtanδ値を有していてもよい。
【0016】
また、被覆フィラメント10は、融点が近い材料をベースポリマー層8及び被覆ポリマー層9に使用してもよく、これによって、付加製造プロセスの際に堆積される被覆フィラメント層で形成される造形物品の強度を向上させることができる。上述したように、被覆ポリマー材料は、より高い誘電損率を有しており、従って、電磁エネルギーの照射に直接的に反応して熱を発生させる。ベースポリマー材料として、融点が被覆ポリマー材料の融点に近いものを選択してもよく、これによれば、電磁エネルギーによって被覆ポリマー層9を加熱することで、ベースポリマー層8の少なくとも外側部分も加熱することができる。このようにベースポリマー層8を間接的に加熱することによって、より長時間ベースポリマー層8を軟化及び/又は溶融状態に維持することができ、これによって、基板に堆積された後の被覆フィラメント10の隣接ビード間の拡散及び結合を、さらに促進することができる。ベースポリマー材料と被覆ポリマー材料の各々の融点により、固液形態(solid and liquid morphology)の形成が可能になる。いくつかの例において、ベースポリマー材料は第1融点を有し、被覆ポリマー材料は第2融点を有し、ベースポリマー材料の第1融点は、被覆ポリマー材料の第2融点との差が摂氏20度以内である。このように融点の差が摂氏約20度、又は約18度、又は約15度以内の材料であれば、十分な熱を生成してベースポリマー層8の溶融状態を長引かせて、付加製造中に堆積及び加熱される被覆フィラメント10の隣接ビード間の拡散及び結合を促進できることがわかっている。
【0017】
また、ベースポリマー層8及び被覆ポリマー層8に選択される材料を、適合性のある溶解度パラメータを有するものとしてもよく、これによれば、付加製造プロセスに用いた際に、被覆フィラメント10の隣接するビード間及び造形層間の接合を、さらに促進することができる。例えば、被覆ポリマー材料を、ベースポリマー材料と混和しないものにすることにより、付加製造の際に、相分離を防止するとともに、堆積された被覆フィラメント10における隣接するビード間のベースポリマー層の融着を促進することができる。いくつかの例において、ベースポリマー材料は、第1溶解度パラメータを有し、被覆ポリマー材料は、第2溶解度パラメータを有し、第2溶解度パラメータは、第1溶解度パラメータとの差が約10J/cc0.5以内である。溶解度パラメータの差が約10J/cc0.5、又は約8J/cc0.5、又は約5J/cc0.5以内の材料は、付加製造プロセス中に加熱された際に混合を促進するのに有利であることがわかっている。
【0018】
上記の事項を考慮すると、好適なベースポリマー材料には、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、又はこれらの何らかの混合物が含まれる。
【0019】
好適な被覆ポリマー材料には、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、アクリル、セルロースエステル、又はこれらの混合物が含まれる。好適な被覆ポリマー材料の他の例としては、-OH、-NH、C=O、-N=O官能基を含む誘電損率の高い材料及び溶剤がある。好適な被覆ポリマー材料のさらなる例としては、ポリアクリロニトリル(60Hzにおいてtanδ=0.1)、ポリエチレングリコール、又はその混合物がある。いくつかの例において、被覆ポリマー材料は、ギガヘルツ領域のマイクロ波エネルギーなどの特定の周波数範囲の電磁エネルギーに対して、特に反応する。
【0020】
表1は、被覆ポリマー材料がポリビニルアルコールであり、ベースポリマー材料がUltem(登録商標)1010(ポリエーテルイミド)である例について、誘電損率、融点、及び溶解度パラメータを比較したものである。
【表1】
【0021】
この例において、ベースポリマー材料としてUltem(登録商標)1010(ポリエーテルイミド)を用いるとともに被覆ポリマー材料としてポリビニルアルコールを用いることは、有利であり、その理由は、ポリビニルアルコールが、Ultem(登録商標)1010(MHz~GHzの周波数範囲においてtanδ=0.001)と比べて高い誘電損率(MHz~GHzの周波数範囲においてtanδ=0.185)を有しており、これらの2つの材料の融点の差が摂氏14度であり、溶解度パラメータが互いに近い、すなわち適合性があるからである。
【0022】
ベースポリマー層8と被覆ポリマー層9とは、化学的特性に加えて、融着、接合、及び混合を促進するのに好適な物理的特性をさらに有していてもよい。例えば、ベースポリマー層8は、約0.1~約5ミリメートル、又は、約0.5~約4ミリメートル、又は、約1~約3ミリメートルの範囲の厚みを有していてもよい。被覆ポリマー層9は、約1ミクロン~約1,000ミクロン、又は、約50ミクロン~約750ミクロン、又は、約100ミクロン~約300ミクロンの範囲の厚みを有していてもよい。さらに、液体塗料7は、約0.1~約10パスカル秒(Pa・s)、又は、約0.5~約8Pa・s、又は、約1~約5Pa・sの粘度を有することを特徴としたものであってもよい。
【0023】
図2は、従来のFFF法によって形成された物品を示している。FFFの一実施形態は、スプール上のフィラメントがエクストルーダ(extruder)内に送給される付加製造技術(FFF法及び物体20の製造に用いられる下記のコンポーネントは図示せず)である。エクストルーダは、トルク及びピンチシステムを利用して、フィラメントをヒータブロックに対して正確な分量ずつ送給及び引き戻しする。ヒータブロックは、フィラメントを溶かして溶融状態にし、加熱されたフィラメントは、径が縮小されてノズルから押し出され、基板又は作業プレートの上に堆積される。通常のFFFプロセスでは、複数の造形層が積み重なって堆積されて、三次元物品を形成する。
【0024】
具体的には、
図2を参照すると、物品20は、未被覆のフィラメント22の隣接するビードを、物品20が完成するまで連続して堆積させることによって製造される。例えば、
図2の物品20は、3つの造形層によって形成されており、各造形層は、未被覆フィラメント22の4つのビードを含んでいる。この例において基板54に堆積される未被覆フィラメント22のビードでは、隣接するビードの間に継ぎ目ができる。従来の未被覆ポリマーフィラメントの性質により、最初のビードが堆積されると、そのビードは冷えて、次の未被覆フィラメントの隣接ビードが堆積される時には、十分な溶融状態ではなくなっている。先に堆積されたビードが少なくとも部分的に固化しているため、所与の造形層内における未被覆フィラメント22の隣接するビードの間、及び、隣接する造形層の間に空隙24が形成され、これによって物品20が弱くなる。
【0025】
図3及び
図4によく表れているように、本開示による被覆フィラメント10は、ベースポリマー層8と被覆ポリマー層9との両方を含んでいる。上述のように、ベースポリマー層8及び被覆ポリマー層9の各々の材料は、隣接するビード間及び造形層間において拡散及び結合が促進され、これにより空隙24が解消されるように選択される。一例において、被覆フィラメント10は、
図1において概略を説明したプロセスを用いて製造される。ただし、本開示の要旨は、いかなる特定の製造方法にも限定されない。いくつかの例において、被覆フィラメント10は、例えばFFF法や他の一般に用いられている付加製造技術を用いるマシンなどの付加製造マシンで用いられるフィラメントである。
【0026】
図5は、FFFによって被覆フィラメント10を用いるとともに以下に述べるように電磁放射線を照射することによって物品を製造するシステム100の一例を示している。ベースポリマー層8及び被覆ポリマー層9を有する被覆フィラメント10が、ノズル52に送給される。ノズル52は、被覆フィラメント10を加熱して溶融状態にした後に、これをノズル52から押し出して第1ビード56として基板54の上に堆積させる。基板54は、非限定的な一例において、作業台である。基板54を加熱することにより、フィラメントが固化して基板54に付着するのを防止してもよい。
【0027】
ノズル52は、摂氏約100~約500度、又は摂氏約200~約350度、又は摂氏約230~約285度の温度で被覆フィラメント10を加熱して溶融状態にする。被覆フィラメント10は、次に、約20~約200mm/秒、又は約35~約150mm/秒、又は約50~約100mm/秒の速度で、基板54の上に堆積される。
【0028】
第1ビード56が堆積された後は、
図6によく表れているように、後続のビードが基板54の上に形成される。造形層あたりのビードの数及び造形層の数は、製造する個々の物品及び選択された付加製造技術に依存する。いかなる技術を採用した場合でも、被覆フィラメント10を用いることによって、隣接するビード間及び造形層間の接合を強化することができる。例えば、
図6は、隣接する堆積ビード60の正面断面図を示しており、堆積ビードは、被覆フィラメント10の第1ビード56及び第2ビード57を含んでいる。この堆積ビード対60における各ビードは、ノズル52から押し出されて基板54の上に堆積された被覆フィラメント10によって形成されており、ベースポリマー層8及び被覆ポリマー層9を含む。第1ビード56と第2ビード57との接合を強化するために、これらのビード56、57の間の界面領域62に電磁放射線64を照射する。非限定的な一例では、界面領域62は、第1ビード56と第2ビード57との間に位置する領域であるが、他の例では、界面領域62は、2つの造形層の間の領域である。さらなる非限定的な実施態様において、電磁放射線64は、隣接するビードの間の領域だけでなく、(
図8に示した物品80のような)物品の全体に照射される。この場合、ベースポリマー材料は、被覆ポリマー材料よりも誘電損率が低いため、電磁放射線によって各ビードの被覆ポリマー層9だけが加熱され、ベースポリマー層8は加熱されない。
【0029】
非限定な一例において、電磁放射線64は、加熱源65から照射される。この例において、加熱源65は、物品の局所領域又は物品全体を強化するために、物品の界面領域62又は物品全体に電磁放射線を指向するとともに、電磁放射線64が照射される期間を制御する。例えば、電磁放射線64を界面領域62に照射することにより、さらに、隣接するビードのベースポリマー層8を加熱及び溶融することができる。一例において、電磁放射線64は、300MHzと300GHzの間の範囲の周波数を有するマイクロ波とすることができる。この場合、被覆ポリマー材料は、高い誘電損率を有し、マイクロ波放射すなわち誘電加熱の影響を受けやすい。さらなる非限定的な一例では、被覆フィラメント10を堆積させつつ電磁放射線64を連続的に照射する。別の例では、隣接する堆積ビードの間に電磁放射線64を選択的に照射する。
【0030】
被覆ポリマー材料は、より高い誘電損率を有しており、ベースポリマー材料は、より低い誘電損率を有しているため、電磁放射線に反応して被覆ポリマー層9のみが直接的に溶融されるように、電磁放射線の周波数を選択することができる。また、ベースポリマー材料が、被覆ポリマー材料の融点に近い融点を有していてもよく、この場合、被覆ポリマー層9の加熱に反応してベースポリマー層8が少なくとも部分的に溶融する。従って、電磁放射線64に反応して、被覆ポリマー層9は直接的に溶融し、ベースポリマー層8は間接的に溶融することになる。他の例において、電磁放射線64によって、被覆ポリマー層9とベースポリマー層8の両方を直接的に加熱してもよい。いずれの場合も、隣接するビードのベースポリマー層8の溶融部分が互いに融着し、これにより、隣接するビード間に空隙が形成されるのが防止されるとともに、造形物品の構造的完全性が向上する。
【0031】
被覆ポリマー材料とベースポリマー材料とが互いに適合性のある溶解度パラメータを有する場合(表1の非限定的な一例を参照)、被覆ポリマー層9とベースポリマー層8との両方を溶融することにより、均質な混合物が形成され、従って、溶融層がその後に冷めて固化した際に相分離が起こらない。
【0032】
図7は、被覆フィラメント10の第1ビード56及び第2ビード57が、電磁放射線64による溶融後に互いに融着して溶融ビード対70を形成した状態を示している。この図では、電磁放射線64は、第1ビード56及び第2ビード57の被覆ポリマー層9を加熱しており、これがひいてはベースポリマー層8の少なくとも一部を溶融させている。
【0033】
図8は、付加製造技術において被覆フィラメント10を用いて形成された物品80を示している。この例において、物品80は、被覆フィラメント10のビード72を基板54の上に配置することによって製造されている。具体的には、
図8は、3つの造形層74を示しており、各造形層74が4個のビード72を含んでいる。また、この例では、被覆フィラメント10の隣接するビードにおけるベースポリマー層8及び被覆ポリマー層9を融着するように、電磁放射線64が照射されている。このようにして得られた物品80では、ビード72どうしの間又は造形層74どうしの間に空隙が無い。
〈付記〉
【0034】
また、本開示は、以下の付記による実施形態又は実施例を含む。
【0035】
付記1. 付加製造プロセスに用いるための被覆フィラメント(10)であって、
第1誘電損率を有するベースポリマー材料によって形成されたベースポリマー層(8)と、
前記ベースポリマー層(8)を覆うとともに第2誘電損率を有する被覆ポリマー材料によって形成された被覆ポリマー層(9)と、を含み、前記被覆ポリマー材料の前記第2誘電損率は、前記ベースポリマー材料の前記第1誘電損率より大きい、被覆フィラメント(10)。
【0036】
付記2. 前記ベースポリマー材料は、第1融点を有し、前記被覆ポリマー材料は、第2融点を有し、前記第1融点は、前記第2融点との差が摂氏約20度以内である、付記1に記載の被覆フィラメント(10)。
【0037】
付記3. 前記ベースポリマー材料は、第1溶解度パラメータを有し、前記被覆ポリマー材料は、第2溶解度パラメータを有し、前記第2溶解度パラメータは、前記第1溶解度パラメータとの差が約10J/cc0.5以内である、付記2に記載の被覆フィラメント(10)。
【0038】
付記4. 前記ベースポリマー材料は、第1溶解度パラメータを有し、前記被覆ポリマー材料は、第2溶解度パラメータを有し、前記第2溶解度パラメータは、前記第1溶解度パラメータとの差が約10J/cc0.5以内である、付記1~3のいずれかに記載の被覆フィラメント(10)。
【0039】
付記5. 前記ベースポリマー材料は、ポリエーテルイミドを含み、前記被覆ポリマー材料は、ポリビニルアルコールを含む、付記1~4のいずれかに記載の被覆フィラメント(10)。
【0040】
付記6. 前記ベースポリマー層(8)は、約0.1~約5ミリメートルの厚みを有し、前記被覆ポリマー層(9)は、約1~約1,000ミクロンの厚みを有する、付記1~5のいずれかに記載の被覆フィラメント(10)。
【0041】
付記7. 付加製造プロセスに用いるための被覆フィラメント(10)の製造方法であって、
経路に沿ってポリマーフィラメント(2)を前進させ、前記ポリマーフィラメント(2)は、ベースポリマー材料によって形成されており、
前記経路上の一箇所において前記ポリマーフィラメント(2)の外面に液体塗料(7)を塗布し、前記液体塗料(7)は、被覆ポリマー材料によって形成されており、
前記ポリマーフィラメント(2)上の前記液体塗料(7)を乾燥させて前記被覆フィラメント(10)を形成し、前記被覆フィラメント(10)は、前記ポリマーフィラメント(2)によって形成されたベースポリマー層(8)と、乾燥後の前記液体塗料(7)によって形成された被覆ポリマー層(9)とを含む、方法。
【0042】
付記8. 前記ベースポリマー材料は、第1誘電損率を有し、
前記被覆ポリマー材料は、第2誘電損率を有し、
前記被覆ポリマー材料の前記第2誘電損率は、前記ベースポリマー材料の前記第1誘電損率より大きい、付記7に記載の方法。
【0043】
付記9. 前記ベースポリマー材料は、第1融点を有し、
前記被覆ポリマー材料は、第2融点を有し、
前記第1融点は、前記第2融点との差が摂氏約20度以内である、付記7又は8に記載の方法。
【0044】
付記10. 前記ベースポリマー材料は、第1溶解度パラメータを有し、
前記被覆ポリマー材料は、第2溶解度パラメータを有し、
前記第2溶解度パラメータは、前記第1溶解度パラメータとの差が約10J/cc0.5以内である、付記7~9のいずれかに記載の方法。
【0045】
付記11. 前記経路に沿って前記ポリマーフィラメント(2)を前進させるに際して、前記ポリマーフィラメント(2)を第1スプール(4)と第2スプール(12)との間に支持し、前記第1及び前記第2スプール(4、12)を回転させる、付記7~10のいずれかに記載の方法。
【0046】
付記12. 前記ポリマーフィラメント(2)の外面に前記液体塗料(7)を塗布するに際して、前記液体塗料(7)を保持する貯留槽(6)を通過させて前記ポリマーフィラメント(2)を前進させる、付記7~11のいずれかに記載の方法。
【0047】
付記13. 前記ベースポリマー材料は、ポリエーテルイミドを含み、前記被覆ポリマー材料は、ポリビニルアルコールを含む、付記7~12のいずれかに記載の方法。
【0048】
付記14. 前記ベースポリマー層(8)は、約0.1~約5ミリメートルの厚みを有し、前記被覆ポリマー層(9)は、約1~約1,000ミクロンの厚みを有する、付記7~13のいずれかに記載の方法。
【0049】
付記15. 溶融フィラメント製造によって物品を製造する方法であって、
被覆フィラメント(10)を形成し、その際に、
経路に沿ってポリマーフィラメント(2)を前進させ、前記ポリマーフィラメント(2)は、ベースポリマー材料によって形成されており、
前記経路上の一箇所において前記ポリマーフィラメント(2)の外面に液体塗料(7)を塗布し、前記液体塗料(7)は、被覆ポリマー材料によって形成されており、
前記ポリマーフィラメント(2)上の前記液体塗料(7)を乾燥させることにより、前記被覆フィラメント(10)を形成し、前記被覆フィラメント(10)は、前記ポリマーフィラメント(2)によって形成されたベースポリマー層(8)と、乾燥後の前記液体塗料(7)によって形成された被覆ポリマー層(9)とを含み、前記方法ではさらに、
前記被覆フィラメント(10)の隣接する第1及び第2ビード(56、57)を基板(54)の上に堆積させ、
前記第1ビード(56)及び前記第2ビード(57)の各々における少なくとも前記被覆ポリマー層を、電磁放射線(64)を用いて誘電加熱し、これにより、前記被覆フィラメント(10)の前記第1ビードと第2ビード(56、57)を界面領域(62)で融着させる、方法。
【0050】
付記16. さらに、前記第1及び第2ビード(56、57)の各々の前記ベースポリマー層の少なくとも外側部分を溶融する、付記15に記載の方法。
【0051】
付記17. 前記ベースポリマー材料は、第1誘電損率を有し、
前記被覆ポリマー材料は、第2誘電損率を有し、
前記被覆ポリマー材料の前記第2誘電損率は、前記ベースポリマー材料の前記第1誘電損率より大きい、付記15又は16に記載の方法。
【0052】
付記18. 前記ベースポリマー材料は、第1融点を有し、
前記被覆ポリマー材料は、第2融点を有し、
前記第1融点は、前記第2融点との差が摂氏20度以内である、付記15~17のいずれかに記載の方法。
【0053】
付記19. 前記ベースポリマー材料は、第1溶解度パラメータを有し、
前記被覆ポリマー材料は、第2溶解度パラメータを有し、
前記第2溶解度パラメータは、前記第1溶解度パラメータとの差が約10J/cc0.5以内である、付記15~18のいずれかに記載の方法。
【0054】
付記20. 前記ベースポリマー材料は、ポリエーテルイミドを含み、前記被覆ポリマー材料は、ポリビニルアルコールを含む、付記15~19のいずれかに記載の方法。
【0055】
なお、図面は、必ずしも正確な縮尺率で描かれているものではなく、また、本開示の例は、概略的に示されている場合もある。また、詳細な説明は、単に例示的な性質のものであり、本開示やその適用例又は用途を限定することを意図するものではない。従って、説明の便宜上、本開示をいくつかの例示的な実施例として図示及び説明しているが、本開示は、他の様々な種類の実施例及び他の様々なシステム及び環境において実施することができる。