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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-30
(45)【発行日】2025-05-12
(54)【発明の名称】継手装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 21/10 20060101AFI20250501BHJP
   A61F 2/62 20060101ALI20250501BHJP
   F16D 43/202 20060101ALI20250501BHJP
   F16F 15/10 20060101ALI20250501BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20250501BHJP
   F16H 35/00 20060101ALI20250501BHJP
   F16H 37/12 20060101ALI20250501BHJP
【FI】
F16H21/10 Z
A61F2/62
F16D43/202
F16F15/10 A
F16H25/20 Z
F16H35/00 B
F16H37/12 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021032998
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133998
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】島田 圭
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/087997(WO,A1)
【文献】特表2007-512053(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203762(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 21/10
A61F 2/62
F16H 25/20
F16H 35/00
F16H 37/12
F16D 43/202
F16F 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、
第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との成す角を変更可能に連接する連接部と、
伸縮することにより前記第1部材と前記第2部材との前記成す角を変更可能な伸縮装置と、を備える継手装置であって、
前記伸縮装置は、
動力源と、
前記動力源の動力を伝達する動力伝達路を有する動力伝達部と、
前記動力伝達路と並列となる位置に記動力伝達路と接続されるよう設けられるとともに、前記動力伝達部における前記動力源と反対の側である反動力源側から前記動力伝達部における前記動力源の側である動力源側へ入力される外力に対して、反対方向の反力を発生する反力源と、
を備える、継手装置。
【請求項2】
請求項1に記載の継手装置であって、
前記伸縮装置は、前記動力伝達路における動力の遮断及び接続を切り替える断続機構をさらに備え、
前記継手装置は、前記断続機構を制御する制御部をさらに備え、
前記制御部は、
前記動力伝達路における動力の接続を行う接続状態と、前記動力伝達路における動力の遮断を行う遮断状態と、を切り替えるよう前記断続機構を制御する、継手装置。
【請求項3】
請求項2に記載の継手装置であって、
前記継手装置は、外部からの加重を受ける加重状態と、加重を受けない非加重状態と、を遷移するように設けられ、
前記制御部は、
前記非加重状態のときに前記断続機構を前記遮断状態に制御する、継手装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の継手装置であって、
前記反力源は、互いに噛み合う第1ギヤ及び第2ギヤを介して前記動力伝達路に接続されることによって、前記動力伝達路と並列となる位置に配置される、
継手装置。
【請求項5】
請求項4に記載の継手装置であって、
前記第2ギヤを前記第1ギヤよりも前記反力源の側に配置されたギヤとしたとき、
前記第1ギヤの回転数に対する前記第2ギヤの回転数の比率が、1より大きい、
継手装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の継手装置であって、
前記動力伝達部は、前記動力伝達路上に配置される変速機を有し、
前記動力伝達路において前記動力源側を上流側としたとき、
前記変速機は、
(a)前記反力源が、該変速機よりも下流側に接続される場合、増速機構として設けられ、
又は、
(b)前記反力源が、該変速機よりも上流側に接続される場合、減速機構として設けられる、
継手装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の継手装置であって、
前記反力源は、
前記外力に対し反対方向の前記反力となる減衰が生じるように設けられるとともに、ダンパ本体とロータリー軸とを有し、前記ダンパ本体と前記ロータリー軸との相対回転に所定の回転抵抗を与えるよう設けられるロータリーダンパである、
継手装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の継手装置であって、
前記動力源は、回転電機であって、
前記反力源は、
前記外力に対し反対方向の前記反力を発生するように、入力される回転を弱める方向に力行駆動するよう、又は、回生駆動するよう設けられる他の回転電機である、
継手装置。
【請求項9】
第1部材と、
第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との成す角を変更可能に連接する連接部と、
伸縮することにより前記第1部材と前記第2部材との前記成す角を変更可能な伸縮装置と、を備える継手装置であって、
前記伸縮装置は、
動力源と、
前記動力源の動力を伝達する動力伝達部と、
前記動力伝達部における前記動力源と反対の側である反動力源側から前記動力伝達部における前記動力源の側である動力源側へ入力される外力に対して、反対方向の反力を発生する反力源と、をえ、
前記動力源は、回転電機であって、
前記反力源は、
前記外力に対し反対方向の前記反力を発生するように、入力される回転を弱める方向に力行駆動するよう、又は、回生駆動するよう設けられる前記回転電機である、
継手装置。
【請求項10】
請求項9に記載の継手装置であって、
前記動力源としての前記回転電機が力行駆動をしていない状態で、前記外力が入力されたときに、
前記反力源としての前記回転電機を回生駆動するよう設けられる、
継手装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継手装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの部材を連接する連接部に用いられる継手装置として、2つの部材の成す角を変更可能な伸縮装置を備えるものが知られている。このような継手装置として、例えば、膝関節に用いられる義足がある。特許文献1には、切断脚の断端部に装着される義足の大腿ソケット内に切断脚の断端部の筋肉の収縮運動を検知するセンサーを設け、膝継手部の屈曲及び伸展の抵抗を調整する液圧シリンダーの可変バルブの絞り具合を、センサーからの検知情報により制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-19105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の義足では、屈曲又は伸展の抵抗を発生させることはできても、膝継手部を屈曲又は伸展させることはできなかった。
【0005】
本発明は、連接部を屈曲又は伸展させることができるとともに、連接部が伸展又は屈曲する際に反力を発生させることが可能な継手装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
第1部材と、
第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との成す角を変更可能に連接する連接部と、
伸縮することにより前記第1部材と前記第2部材との前記成す角を変更可能な伸縮装置と、を備える継手装置であって、
前記伸縮装置は、
動力源と、
前記動力源の動力を伝達する動力伝達路を有する動力伝達部と、
前記動力伝達路と並列となる位置に記動力伝達路と接続されるよう設けられるとともに、前記動力伝達部における前記動力源と反対の側である反動力源側から前記動力伝達部における前記動力源の側である動力源側へ入力される外力に対して、反対方向の反力を発生する反力源と、
を備える。
【0007】
また、本発明は、
第1部材と、
第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との成す角を変更可能に連接する連接部と、
伸縮することにより前記第1部材と前記第2部材との前記成す角を変更可能な伸縮装置と、を備える継手装置であって、
前記伸縮装置は、
動力源と、
前記動力源の動力を伝達する動力伝達部と、
前記動力伝達部における前記動力源と反対の側である反動力源側から前記動力伝達部における前記動力源の側である動力源側へ入力される外力に対して、反対方向の反力を発生する反力源と、を備え
前記動力源は、回転電機であって、
前記反力源は、
前記外力に対し反対方向の前記反力を発生するように、入力される回転を弱める方向に力行駆動するよう、又は、回生駆動するよう設けられる前記回転電機である
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、動力源により連接部を屈曲又は伸展させることができるとともに、減衰部により連接部が伸展又は屈曲する際に反力を発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態の電動義足1を斜め前方から見た斜視図である。
図2図1の電動義足1を斜め後方から見た斜視図である。
図3図1の電動義足1の内部構造を示す図である。
図4図1の電動義足1の動力伝達部の拡大図である。
図5A図4の動力伝達部が第1変速状態にあるときの動力伝達部の動力伝達を示す図である。
図5B図4の動力伝達部が第2変速状態にあるときの動力伝達部の動力伝達を示す図である。
図5C図4の動力伝達部がフリー状態にあるときの動力伝達部の動力伝達を示す図である。
図6】階段を昇る際に、膝関節機構30を屈曲した状態から伸展する動力を説明する図である。
図7】階段を昇る際に、膝関節機構30を伸展した状態から屈曲する動力を説明する図である。
図8】本発明の第2実施形態の電動義足1の動力伝達部の斜視図である。
図9図8の動力伝達部の断面図である。
図10】本発明の各実施形態の電動義足1に共通する減衰部100及び減衰作動部200の分解斜視図である。
図11】(A)~(E)は電動義足1を用いた平地歩行時の動きを示す図である。
図12図11の(A)の状態における電動義足1の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の継手装置の一例としての電動義足の各実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、電動義足の使用者を基準に前後方向、左右方向、上下方向を定義する。図面には、電動義足の前方をFr、後方をRr、左側をL、右側をR、上方をU、下方をDとして示す。
【0011】
<第1実施形態>
[電動義足]
本実施形態の電動義足1は、図1図3に示すように、ひざのない人のための義足であり、ひざの下側に位置する膝下側部材10と、ひざの上側に位置する膝上側部材20と、膝下側部材10と膝上側部材20との成す角を変更可能に連接する膝関節機構30と、伸縮することにより膝下側部材10と膝上側部材20との成す角を変更可能な伸縮装置40と、を備える。
【0012】
膝上側部材20は、不図示のソケットに連結されるアダプター21が設けられた上壁部22と、上壁部22の左右両端から下方に延びる一対の上側側壁部23と、を備え、前後方向から見て下方が開口する略U字形状を有する。
【0013】
膝下側部材10は、脚部11が設けられた下壁部12と、下壁部12の左右両端から上方に延びる一対の下側側壁部13と、を備え、前後方向から見て上方が開口する略U字形状を有する。
【0014】
膝上側部材20の一対の上側側壁部23間には、膝下側部材10の一対の下側側壁部13が回動部35を中心に回転可能に連結される。この機構により、膝下側部材10と膝上側部材20との成す角が変更可能に連接され、膝関節機構30が構成される。
【0015】
膝上側部材20と膝下側部材10との間に形成された空間には、膝下側部材10と膝上側部材20との成す角を変更可能な伸縮装置40が設けられる。
【0016】
伸縮装置40は、図4も参照して、回転動力を出力するモータMと、モータMの動力を伝達する動力伝達部と、を備える。動力伝達部は、変速機Tと、変速機Tに動力伝達可能に接続され、変速機Tから出力される回転動力を並進運動に変換する第1スピンドルユニットSP1と、モータMと後述する変速機Tの第1変速機構T1及び第2変速機構T2との間に介装される断続機構50と、モータMから出力される回転動力を、断続機構50の作動子55の並進運動に変換する第2スピンドルユニットSP2と、を備える。なお、モータMから見て第1スピンドルユニットSP1の下流側にギア等の動力伝達部材が設けられる場合、動力伝達部にはこれら動力伝達部材も含まれ、全ての動力伝達部材が動力伝達路を構成する。
【0017】
変速機Tは、天板部61と、底板部62と、これら天板部61及び底板部62の左右両端を連結する一対の側板部63と、を備え、前後方向から見て矩形形状を有する変速機ケース60を備える。変速機ケース60は、底板部62から下方に延びる一対の回動翼64が膝下側部材10の下壁部12から上方に延びる回動支持壁14に下揺動部70を中心に揺動可能且つ移動不能に支持される。
【0018】
モータMは、出力軸71が天板部61を貫通して変速機ケース60の内部に突出するように変速機ケース60の天板部61の前方且つ上方に配置される。第1スピンドルユニットSP1は、前後方向において断続機構50を挟んでモータMとは反対側に配置される。言い換えると、モータMは、断続機構50よりも前後方向において前方に配置され、第1スピンドルユニットSP1は、断続機構50よりも前後方向において後方に配置されている。これにより、電動義足1にモータMを搭載しても、前後方向のバランスを保持しながら、電動義足1が幅方向に大きくなるのを抑制できる。
【0019】
モータMから出力される回転動力を、断続機構50の作動子55の並進運動に変換する第2スピンドルユニットSP2は、前後方向においてモータMと第1スピンドルユニットSP1との間に配置される。モータMの出力軸71、第1スピンドルユニットSP1の第1スピンドル73、第2スピンドルユニットSP2の第2スピンドル75は、互いに平行に配置され、膝関節機構30が完全に伸展した状態において、上下方向を向くように配置されている。
【0020】
第1スピンドルユニットSP1は、雄ねじ73aが形成された第1スピンドル73と、雌ねじ74aが形成されたスリーブ74と、を有し、第1スピンドル73の回転によりスリーブ74が第1スピンドル73の軸心に沿って並進運動する。本実施形態では、第1スピンドル73は、変速機Tによって伝達されたモータMの回転動力を受けて回転運動を行う。一方、スリーブ74は、膝上側部材20の上壁部22から下方に延びる一対の内側側壁部24に上揺動部25を中心に揺動可能且つ移動不能に取り付けられる。したがって、変速機Tによって伝達されたモータMの回転動力を受けて第1スピンドル73が一方側(図5Aの矢印D1方向)に回転すると、スリーブ74が変速機Tから離れるように並進移動し、第1スピンドル73が他方側(図5Bの矢印D2方向)に回転すると、スリーブ74が変速機Tに近づくように並進移動する。
【0021】
即ち、第1スピンドル73の回転方向に応じてスリーブ74と変速機Tとの距離が伸縮する。スリーブ74は、前述したように膝上側部材20に移動不能に取り付けられているため、第1スピンドル73の回転方向に応じてスリーブ74と変速機Tとの距離が伸縮することで、変速機Tが取り付けられた膝下側部材10とスリーブ74が取り付けられた膝上側部材20とが、回動部35を中心に回転する。これにより、膝上側部材20と膝下側部材10との成す角が変わる。
【0022】
変速機Tは、図4に示すように、モータMの出力軸71に設けられる出力ギヤ72と、第2スピンドルユニットSP2の第2スピンドル75の略中央部に設けられ、出力ギヤ72と噛み合う入力ギヤ77と、第1変速機構T1と、第2変速機構T2と、を備える。
【0023】
第1変速機構T1は、第2スピンドルユニットSP2の第2スピンドル75の上側に移動不能に設けられた第1駆動ギヤ78と、第1スピンドルユニットSP1の第1スピンドル73に第1スピンドル73と一体回転するように設けられ、第1駆動ギヤ78と噛み合う第1従動ギヤ79とから構成される。
【0024】
第2変速機構T2は、第2スピンドルユニットSP2の第2スピンドル75の下側に移動不能に設けられた第2駆動ギヤ80と、第1スピンドルユニットSP1の第1スピンドル73に第1スピンドル73と一体回転するように設けられ、第2駆動ギヤ80と噛み合う第2従動ギヤ81とから構成される。
【0025】
第1変速機構T1は、モータMの動力を第1変速比で伝達する。第2変速機構T2は、モータMの動力を第1変速比とは異なる第2変速比で伝達する。変速比の異なる2つの動力伝達路を備えることで、膝関節機構30における伸展と屈曲の動作スピード及び発生動力を切り替えることができる。第1変速比及び第2変速比は異なっていればよく、第1変速機構T1と第2変速機構T2とは、いずれか一方が減速機構で他方が増速機構であってもよく、いずれか一方が等速機構で他方が減速機構又は増速機構であってもよく、両方が減速機構であってもよく、両方が増速機構であってもよい。
【0026】
第1変速比を、第1変速機構T1におけるモータM側の回転数である変速前回転数に対する、第1変速機構T1における反モータM側(第1スピンドルユニットSP1側)の回転数である変速後回転数の比率とし、第2変速比を、第2変速機構T2におけるモータM側の回転数である変速前回転数に対する、第2変速機構T2における反モータM側(第1スピンドルユニットSP1側)の回転数である変速後回転数の比率としたとき、第1変速比は、第2変速比よりも小さくなるよう構成されることが好ましい。
【0027】
例えば、第1変速機構T1の第1変速比が1より小さい場合、反モータM側(第1スピンドルユニットSP1側)の回転数はモータM側の回転数よりも減少し、トルクが増加する。第2変速機構T2の第2変速比が1より大きい場合、反モータM側(第1スピンドルユニットSP1側)の回転数はモータM側の回転数よりも増加し、トルクが減少する。この場合、第1駆動ギヤ78は、第2駆動ギヤ80よりも小径となり、第1駆動ギヤ78とモータMとを近接配置することができる。本実施形態では、第1変速機構T1が第2変速機構T2よりもモータMの近くに配置されている。より具体的には、モータMが、第1駆動ギヤ78の前方に第1駆動ギヤ78と上下方向でオーバーラップするように配置されている。
【0028】
第1変速機構T1と第2変速機構T2とは、断続機構50により切り替えられる。断続機構50は、モータMと第1変速機構T1との間に介装される上側クラッチ50Uと、モータMと第2変速機構T2との間に介装される下側クラッチ50Dと、入力ギヤ77と一体に回転する作動子55と、を備える。
【0029】
上側クラッチ50Uは、モータM側の係合子である第1係合子51と、第1変速機構T1側の係合子である第2係合子52と、を備える噛み合いクラッチである。より詳しく説明すると、第1係合子51は、入力ギヤ77と一体に回転するように作動子55及び入力ギヤ77の上方に設けられる。第2係合子52は、第1係合子51と係合可能に第1駆動ギヤ78の下方に第1駆動ギヤ78と一体に回転するように設けられる。第2係合子52及び第1駆動ギヤ78は、第2スピンドルユニットSP2の第2スピンドル75の上方に、第2スピンドル75に対し相対回転自在に且つ移動不能に取り付けられている。
【0030】
下側クラッチ50Dは、モータM側の係合子である第3係合子53と、第2変速機構T2側の係合子である第4係合子54と、を備える噛み合いクラッチである。より詳しく説明すると、第3係合子53は、入力ギヤ77と一体に回転するように作動子55及び入力ギヤ77の下方に設けられる。第4係合子54は、第3係合子53と係合可能に第2駆動ギヤ80の上方に第2駆動ギヤ80と一体に回転するように設けられる。第4係合子54及び第2駆動ギヤ80は、第2スピンドルユニットSP2の第2スピンドル75の下方に、第2スピンドル75に対し相対回転自在に且つ移動不能に取り付けられている。
【0031】
作動子55は、上記したように入力ギヤ77と一体回転するように入力ギヤ77に取り付けられるとともに、その上部と下部に第1係合子51及び第3係合子53が一体回転するように取り付けられている。作動子55は、第2スピンドル75の略中央、即ち、上下方向で第1駆動ギヤ78と第2駆動ギヤ80との間に介装されている。ここで、作動子55は、第2スピンドルユニットSP2のスクリューナット76である。第2スピンドルユニットSP2は、雄ねじが形成された第2スピンドル75と、雌ねじが形成されたスクリューナット76(作動子55)と、を有し、入力ギヤ77の回転に伴って、スクリューナット76(作動子55)が第2スピンドル75の軸心に沿って回転しながら並進運動する。
【0032】
スクリューナット76(作動子55)は、モータMが第1方向(図5Aの矢印D1方向)に回転するときに、並進運動の移動方向である上下方向において上方に移動し、モータMが第1方向とは反対側の第2方向(図5Bの矢印D2方向)に回転するときに、上下方向において下方に移動する。このように、モータMの回転方向を変えることで、作動子55の移動方向を変えることができる。
【0033】
断続機構50は、作動子55が第2スピンドル75の軸心に沿って並進運動することで第1変速状態、第2変速状態、フリー状態の3つの状態を取りうる。
【0034】
第1変速状態では、図5Aに示すように、モータMが第1方向(図5Aの矢印D1方向)に回転し、スクリューナット76(作動子55)が上方に移動することで、第1係合子51と第2係合子52とが接続状態となり且つ第3係合子53と第4係合子54とが遮断状態となる。言い換えると、上側クラッチ50Uが締結され、下側クラッチ50Dが解放される。第1変速状態では、モータMの動力が、出力ギヤ72、入力ギヤ77、作動子55、第1係合子51、第2係合子52、第1駆動ギヤ78、第1従動ギヤ79、第1スピンドルユニットSP1へと伝達される。
【0035】
第2変速状態では、図5Bに示すように、モータMが第2方向(図5Bの矢印D2方向)に回転し、スクリューナット76(作動子55)が下方に移動することで、第1係合子51と第2係合子52とが遮断状態となり且つ第3係合子53と第4係合子54とが接続状態となる。言い換えると、上側クラッチ50Uが解放され、下側クラッチ50Dが締結される。第2変速状態では、モータMの動力が、出力ギヤ72、入力ギヤ77、作動子55、第3係合子53、第4係合子54、第2駆動ギヤ80、第2従動ギヤ81、第1スピンドルユニットSP1へと伝達される。
【0036】
フリー状態では、図5Cに示すように、第1係合子51と第2係合子52とが遮断状態となり且つ第3係合子53と第4係合子54とが遮断状態となる。言い換えると、上側クラッチ50Uが解放され、下側クラッチ50Dが解放される。フリー状態では、モータMが停止し、第1スピンドルユニットSP1の回転によって第1従動ギヤ79及び第2従動ギヤ81が回転するが、第1スピンドルユニットSP1の回転が、第1従動ギヤ79、第1駆動ギヤ78、第2係合子52に伝達されるものの第1係合子51へは伝達されない。同様に、第1スピンドルユニットSP1の回転が、第2従動ギヤ81、第2駆動ギヤ80、第4係合子54に伝達されるものの第3係合子53へは伝達されない。
【0037】
なお、図4図5C中、符号Dは、ロータリーダンパであり、モータMの回転時に、スクリューナット76(作動子55)が確実に並進移動できるように第2スピンドルユニットSP2の第2スピンドル75に適度な抵抗を与える。ロータリーダンパDは、ロータリーダンパDの回転軸に設けられる第1ダンパーギヤ86と、第2スピンドルユニットSP2の第2スピンドル75に第2スピンドル75と一体回転するように設けられ、第1ダンパーギヤ86と噛み合う第2ダンパーギヤ87とから構成される。ロータリーダンパDは、変速機ケース60の底板部62の前方且つ上方であって、モータMの下方に配置されている。
【0038】
このように構成された電動義足1では、これまでの受動ダンパーを備える受動義足では、非義足側の足で一段ずつ上がらざるをえなかった階段の昇段動作をスムーズに行うことが可能となる。
【0039】
具体的に説明すると、図6に示すように、電動義足1を前に出して階段を昇る際に電動義足1に荷重がかかった状態で、膝関節機構30を屈曲した状態から伸展するとき大きな動力が必要となる。
【0040】
このとき、図5Aに示すように、モータMを第1方向(図5Aの矢印D1方向)に回転させることで、モータMの動力が出力ギヤ72から入力ギヤ77に伝達される。入力ギヤ77が第2方向(図5Aの矢印D2方向)に回転することで、作動子55は第2スピンドルユニットSP2の第2スピンドル75周りを回転しつつ第2スピンドル75に案内されて上方に移動する。そして、作動子55及び入力ギヤ77の上方に設けられた第1係合子51が第1駆動ギヤ78の下方に設けられた第2係合子52と係合し、断続機構50が第1変速状態となる。
【0041】
断続機構50が第1変速状態のとき、モータMの動力が、出力ギヤ72、入力ギヤ77、作動子55、第1係合子51、第2係合子52、第1駆動ギヤ78、第1従動ギヤ79、第1スピンドルユニットSP1へと伝達される。第1駆動ギヤ78が入力ギヤ77とともに第2方向(図5Aの矢印D2方向)に回転することで、第1従動ギヤ79が第1方向(図5Aの矢印D1方向)に回転し、第1従動ギヤ79が第1方向(図5Aの矢印D1方向)に回転することで、第1スピンドルユニットSP1の第1スピンドル73が第1方向(図5Aの矢印D1方向)に回転する。これにより、スリーブ74が変速機Tから離れるように並進移動し、変速機Tが取り付けられた膝下側部材10に対し、スリーブ74が取り付けられた膝上側部材20が回動部35を中心に回転して、膝関節機構30が伸展する。
【0042】
一方、階段の昇段動作をスムーズに行うためには、図7に示すように、健常足に荷重がかかった状態で、膝関節機構30が伸展した状態から屈曲させる(持ち上げる)必要がある。膝関節機構30が伸展した状態から屈曲させる際には、大きな動力は必要ないが素早い動作が必要となる。
【0043】
このとき、図5Bに示すように、モータMを第2方向(図5Bの矢印D2方向)に回転させることで、モータMの動力が出力ギヤ72から入力ギヤ77に伝達される。入力ギヤ77が第1方向(図5Bの矢印D1方向)に回転することで、作動子55は第2スピンドルユニットSP2の第2スピンドル75周りを回転しつつ第2スピンドル75に案内されて下方に移動する。そして、作動子55及び入力ギヤ77の下方に設けられた第3係合子53が第2駆動ギヤ80の上方に設けられた第4係合子54と係合し、断続機構50が第2変速状態となる。
【0044】
断続機構50が第2変速状態のとき、モータMの動力が、出力ギヤ72、入力ギヤ77、作動子55、第3係合子53、第4係合子54、第2駆動ギヤ80、第2従動ギヤ81、第1スピンドルユニットSP1へと伝達される。第2駆動ギヤ80が入力ギヤ77とともに第1方向(図5Bの矢印D1方向)に回転することで、第2従動ギヤ81が第2方向(図5Bの矢印D2方向)に回転し、第2従動ギヤ81が第2方向(図5Bの矢印D2方向)に回転することで、第1スピンドルユニットSP1の第1スピンドル73が第2方向(図5Bの矢印D2方向)に回転する。これにより、スリーブ74が変速機Tに近づくように並進移動し、スリーブ74が取り付けられた膝上側部材20に対し、変速機Tが取り付けられた膝下側部材10が回動部35を中心に回転して、膝関節機構30が屈曲する。
【0045】
階段を降りる際及び平地を歩行する際には、モータMの動力は必要ないのでモータMが停止される。
【0046】
しかし、モータMが停止した状態で電動義足1に外部から加重されると、進展した状態の膝関節機構30が加重に耐えかねて屈曲してしまう、いわゆる膝折れが発生する虞がある。そこで、電動義足1には、階段の降段時及び平地歩行時などに膝折れを防止するため、動力伝達部へ入力される外力に対し反対方向の反力を発生する反力源が設けられている。反力源の詳細は後述する。
【0047】
このように構成された電動義足1では、モータMの動力を伝達する変速機Tを介して膝関節機構30を伸展及び屈曲させることができる。モータMの制御は、不図示のモータ制御部によって行われる。本実施形態では、断続機構50の制御もモータ制御部によって行われ、言い換えると、モータ制御部が断続機構制御部を兼ねている。膝関節機構30の回動範囲は180°以下に制限されており、膝関節機構30が伸展した状態では膝下側部材10と膝上側部材20との成す角は約180°であり、膝関節機構30が屈曲した状態ではこの成す角が180°未満となる。
【0048】
変速機Tは、変速比の異なる2つの動力伝達路を備えるので、膝関節機構30における伸展と屈曲の動作スピード及び発生動力を切り替えることができる。特に、階段の昇る際に膝関節機構30の屈曲時と伸展時とでは求められる動作スピード及び発生動力が異なるところ、膝関節機構30の屈曲時と伸展時とで動力伝達路を変えることができる。
【0049】
また、モータMと変速機Tとの間に介装される断続機構50が、モータMと第1変速機構T1との間に介装される上側クラッチ50Uと、モータMと第2変速機構T2との間に介装される下側クラッチ50Dと、を有するので、2つの動力伝達路を適切に切り替えることができる。
【0050】
特に、伸縮装置40は、モータMから出力される回転動力を、作動子55の並進運動に変換する第2スピンドルユニットSP2を備えるので、1つのモータMで作動子55の制御と膝関節機構30における伸展と屈曲の制御とを実現できる。さらに、1つの作動子55によって、変速機Tを第1変速状態と、第2変速状態と、フリー状態とに切り替え可能に構成されるので、2つの動力伝達路が同時に接続されることを回避できる。
【0051】
また、膝関節機構30が伸展した状態において、膝関節機構30の回動部35の回動軸に沿って電動義足1を見たとき、膝下側部材10と膝上側部材20との成す角が180°未満である領域(図3の回動部35と下揺動部70とを結んだ線よりも後方(脹脛)側の領域)を挟角領域と呼び、成す角が180°以上である領域(図3の回動部35と下揺動部70とを結んだ線よりも前方(脛)側の領域)を広角領域と呼ぶと、第1スピンドルユニットSP1は挟角領域に配置される。一方、モータMは広角領域に配置される。このように第1スピンドルユニットSP1を挟角領域に配置し、モータMを広角領域に配置することで、膝関節機構30の回動部35を挟んで第1スピンドルユニットSP1とモータMとをバランスよく配置することができる。さらに、変速機T及び断続機構50は、モータMと第1スピンドルユニットSP1との間に配置される。したがって、これらモータM、変速機T、断続機構50及び第1スピンドルユニットSP1を集約して配置することができる。
【0052】
<第2実施形態>
第2実施形態の電動義足1は、伸縮装置40の構成が第1実施形態の電動義足1と異なるものである。より具体的に説明すると、第1実施形態の伸縮装置40では、作動子55の並進運動は、モータMから出力される回転動力が第2スピンドルユニットSP2によって変換されることで実現された。これに対し、第2実施形態の伸縮装置40では、作動子55の並進運動は、モータMとは異なる駆動源であるクラッチアクチュエータACTと、クラッチアクチュエータACTの動力を作動子55に伝達するクラッチフォーク90と、により実現される。以下の説明では、第2実施形態の電動義足1の伸縮装置40について図8及び図9を参照しながら説明するが、第1実施形態の電動義足1の伸縮装置40と同一又は同等の構成について図中に同一の符号を付して説明を省略し、相違点についてのみ説明する。
【0053】
第2実施形態の伸縮装置40は、図8及び図9に示すように、回転動力を出力するモータMと、モータMの動力を伝達する変速機Tと、変速機Tに動力伝達可能に接続され、変速機Tから出力される回転動力を並進運動に変換する第1スピンドルユニットSP1と、モータMと変速機Tの第1変速機構T1及び第2変速機構T2との間に介装される断続機構50と、モータMの出力軸71及び第1スピンドルユニットSP1の第1スピンドル73と平行に配置され断続機構50を支持するサポートシャフト95と、並進運動を行うクラッチアクチュエータACTと、クラッチアクチュエータACTの動力を断続機構50の作動子55に伝達するクラッチフォーク90と、を備える。
【0054】
クラッチアクチュエータACTは、モータMとは異なる動力源であり、図8中の矢印Y1で示すように、サポートシャフト95の軸心方向(上下方向)に沿って並進運動を行う。クラッチアクチュエータACTの制御は、不図示のアクチュエータ制御部によって行われる。即ち、本実施形態では、モータMを制御するモータ制御部とは異なるアクチュエータ制御部が断続機構制御部として機能する。
【0055】
クラッチフォーク90は、クラッチフォーク90の一端部がクラッチアクチュエータACTに連結され、且つ中間部が揺動軸65に支持されることで、図8中の矢印Y2で示すように、揺動軸65を中心に揺動自在に構成される。クラッチフォーク90の他端部には、揺動軸65に対しクラッチアクチュエータACTとは反対側に位置する分岐部91から二又に分岐し、円弧状に互いに反対方向に延びるアーム92が設けられる。各アーム92の先端部には、後述するスライドクラッチ56に嵌合する連結ピン93が設けられる。従って、クラッチアクチュエータACTが並進運動を行うことで、クラッチフォーク90は揺動軸65を中心に揺動し、クラッチフォーク90の連結ピン93が上下に揺動する。
【0056】
変速機Tは、モータMの出力軸71に設けられる出力ギヤ72と、サポートシャフト95の略中央部に設けられ、出力ギヤ72と噛み合う第1入力ギヤ77A及び第2入力ギヤ77Bと、第1変速機構T1と、第2変速機構T2と、を備える。第1入力ギヤ77A及び第2入力ギヤ77Bは、入力ギヤ77を構成する。
【0057】
第1変速機構T1は、サポートシャフト95の上側に移動不能に設けられた第1駆動ギヤ78と、第1スピンドルユニットSP1の第1スピンドル73に第1スピンドル73と一体回転するように設けられ、第1駆動ギヤ78と噛み合う第1従動ギヤ79とから構成される。
【0058】
第2変速機構T2は、サポートシャフト95の下側に移動不能に設けられた第2駆動ギヤ80と、第1スピンドルユニットSP1の第1スピンドル73に第1スピンドル73と一体回転するように設けられ、第2駆動ギヤ80と噛み合う第2従動ギヤ81とから構成される。
【0059】
なお、第1変速機構T1及び第2変速機構T2の変速比については第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。第1変速機構T1と第2変速機構T2とは、断続機構50により切り替えられる。断続機構50は、モータMと第1変速機構T1との間に介装される上側クラッチ50Uと、モータMと第2変速機構T2との間に介装される下側クラッチ50Dと、作動子55と、を備える。
【0060】
上側クラッチ50Uは、モータM側の係合子である第1係合子51と、第1変速機構T1側の係合子である第2係合子52と、を備える噛み合いクラッチである。より詳しく説明すると、第1係合子51は、第1入力ギヤ77Aと一体に回転するように第1入力ギヤ77Aの上方に設けられる。第2係合子52は、第1係合子51と係合可能に第1駆動ギヤ78の下方に第1駆動ギヤ78と一体に回転するように設けられる。第2係合子52及び第1駆動ギヤ78は、サポートシャフト95の上方に、サポートシャフト95に対し相対回転自在に且つ移動不能に取り付けられている。
【0061】
下側クラッチ50Dは、モータM側の係合子である第3係合子53と、第2変速機構T2側の係合子である第4係合子54と、を備える噛み合いクラッチである。より詳しく説明すると、第3係合子53は、第2入力ギヤ77Bと一体に回転するように第2入力ギヤ77Bの下方に設けられる。第4係合子54は、第3係合子53と係合可能に第2駆動ギヤ80の上方に第2駆動ギヤ80と一体に回転するように設けられる。第4係合子54及び第2駆動ギヤ80は、サポートシャフト95の下方に、サポートシャフト95に対し相対回転自在に且つ移動不能に取り付けられている。
【0062】
作動子55は、クラッチフォーク90の連結ピン93と常時係合する円環状のスライドクラッチ56と、スライドクラッチ56とともに並進運動を行う軸受57と、を備え、上下方向において第1入力ギヤ77Aと第2入力ギヤ77Bとの間に配置されている。
【0063】
スライドクラッチ56には、クラッチフォーク90の連結ピン93が係合する連結孔が設けられ、連結孔は、クラッチフォーク90の揺動を吸収しスライドクラッチ56の上下方向の並進運動に変換する。
【0064】
軸受57は、スライドクラッチ56に回転不能に支持された外輪57aと、第1係合子51が設けられた第1入力ギヤ77Aと第3係合子53が設けられた第2入力ギヤ77Bと一体回転するように構成された内輪57bと、外輪57aと内輪57bとの間に配置され、外輪57aと内輪57bとの相対回転を許容する転動体57cと、を備える。
【0065】
内輪57bは、第1入力ギヤ77A及び第2入力ギヤ77Bとともにサポートシャフト95にキー連結されたサポートフランジ96の外周部に上下方向に並進移動可能に支持されている。
【0066】
スライドクラッチ56及び軸受57(作動子55)は、クラッチアクチュエータACTによってクラッチフォーク90の一端部が下方に移動するときに、サポートシャフト95に沿って上方に移動し、クラッチアクチュエータACTによってクラッチフォーク90の一端部が上方に移動するときに、サポートシャフト95に沿って下方に移動する。なお、スライドクラッチ56及び外輪57aと、第1入力ギヤ77Aとの間には上下方向に所定の隙間が設けられ、非回転部材であるスライドクラッチ56及び外輪57aに対し、第1入力ギヤ77Aが干渉しないように構成される。同様に、スライドクラッチ56及び外輪57aと、第2入力ギヤ77Bとの間には上下方向に所定の隙間が設けられ、非回転部材であるスライドクラッチ56及び外輪57aに対し、第2入力ギヤ77Bが干渉しないように構成される。
【0067】
断続機構50は、スライドクラッチ56及び軸受57(作動子55)がサポートシャフト95の軸心に沿って上下方向に並進運動することで第1変速状態、第2変速状態、フリー状態の3つの状態を取りうる。
【0068】
第1変速状態では、スライドクラッチ56及び軸受57(作動子55)が上方に移動することで、図5Aと同様に、第1係合子51と第2係合子52とが接続状態となり且つ第3係合子53と第4係合子54とが遮断状態となる。言い換えると、上側クラッチ50Uが締結され、下側クラッチ50Dが解放される。第1変速状態では、モータMの動力が、出力ギヤ72、第1入力ギヤ77A(内輪57b及び第2入力ギヤ77B)、第1係合子51、第2係合子52、第1駆動ギヤ78、第1従動ギヤ79、第1スピンドルユニットSP1へと伝達される。
【0069】
第2変速状態では、スライドクラッチ56及び軸受57(作動子55)が下方に移動することで、図5Bと同様に、第1係合子51と第2係合子52とが遮断状態となり且つ第3係合子53と第4係合子54とが接続状態となる。言い換えると、上側クラッチ50Uが解放され、下側クラッチ50Dが締結される。第2変速状態では、モータMの動力が、出力ギヤ72、第2入力ギヤ77B(内輪57b及び第1入力ギヤ77A)、第3係合子53、第4係合子54、第2駆動ギヤ80、第2従動ギヤ81、第1スピンドルユニットSP1へと伝達される。
【0070】
フリー状態では、図5Cと同様に、第1係合子51と第2係合子52とが遮断状態となり且つ第3係合子53と第4係合子54とが遮断状態となる。言い換えると、上側クラッチ50Uが解放され、下側クラッチ50Dが解放される。フリー状態では、モータMが停止し、第1スピンドルユニットSP1の回転によって第1従動ギヤ79及び第2従動ギヤ81が回転するが、第1スピンドルユニットSP1の回転が、第1従動ギヤ79、第1駆動ギヤ78、第2係合子52に伝達されるものの第1係合子51へは伝達されない。同様に、第1スピンドルユニットSP1の回転が、第2従動ギヤ81、第2駆動ギヤ80、第4係合子54に伝達されるものの第3係合子53へは伝達されない。
【0071】
このように構成された電動義足1では、第1実施形態と同様に、モータMの動力を伝達する変速機Tを介して膝関節機構30を伸展及び屈曲させることができるとともに、第1実施形態の電動義足1で説明した作用効果が得られる。また、第2実施形態の電動義足1では、膝関節機構30を伸展及び屈曲させるためのモータMとは異なる動力源であるクラッチアクチュエータACTを利用して作動子55を切り替えるので、より安定的に作動子55を切り替えることができる。
【0072】
[反力源]
つぎに、各実施形態の電動義足1に設けられる反力源について説明する。
上述したように、モータMが停止した状態で電動義足1に外部から加重されると、進展した状態の膝関節機構30が加重に耐えかねて屈曲してしまう、いわゆる膝折れが発生する虞がある。そこで、電動義足1には、膝折れを防止するため、動力伝達部へ入力される外力に対し反対方向の反力を発生する反力源が設けられている。
【0073】
反力源としては、動力伝達部へ入力される外力に対し反対方向の反力を発生することができる限りその構成は限定されず、入力される外力を機械的に減衰させる減衰部であってもよく、回生駆動により入力される外力に対し反対方向の回生トルクを発生させることが可能な回転電機であってもよく、力行駆動により入力される外力に対し反対方向の力行トルクを発生させることが可能な回転電機であってもよい。以下、反力源の一例としての減衰部について詳細に説明し、反力源の一例としての回転電機については簡単に説明する。
【0074】
[減衰部]
以下、反力源として減衰部100について、図1図4、及び図10図12を参照して説明する。
【0075】
図3及び図4に示すように、電動義足1には、モータMの動力を伝達する動力伝達路に接続されるように設けられ、動力伝達路の運動を減衰可能な減衰部100と、減衰部100を所定のタイミングで作動させる減衰作動部200と、を備える。
【0076】
図3図4及び図10に示すように、減衰部100は、変速機Tの天板部61にベアリング101を介して回転可能に支持され、第1スピンドル73と平行に配置される回転軸102と、回転軸102の外周部に一体回転可能に設けられ、第1スピンドル73と一体回転する第1ギヤ103と噛み合う第2ギヤ104と、回転軸102の上端部に一体回転可能に設けられるダンパホルダ105と、ダンパホルダ105に一体的に保持されるダンパ本体106a、及びダンパ本体106aから上方に突出するロータリー軸106bを備えるロータリーダンパ106と、回転軸102、第1ギヤ103、第2ギヤ104、ダンパホルダ105及びロータリーダンパ106を収容し、天板部61に固定される減衰部ケース120(図4にのみ記載)と、減衰部ケース120の上面部に配置され、ロータリー軸106bと一体回転可能に連結される第1クラッチ部材107と、第1クラッチ部材107の上方に対向して設けられる第2クラッチ部材108と、減衰部ケース120から上方に突設し、第2クラッチ部材108のフランジ部108aを貫通することで、第2クラッチ部材108を上下動可能、且つ回転不能に支持する複数のガイドピン109と、各ガイドピン109の上端部に螺着され、第2クラッチ部材108を抜け止めする複数のナット110と、各ガイドピン109の外周部に配置され、第2クラッチ部材108を第1クラッチ部材107から離間する方向に付勢する複数のバネ111と、を備える。
【0077】
ロータリーダンパ106は、ダンパ本体106aとロータリー軸106bとの間の相対回転に所定の回転抵抗を与える。ロータリーダンパ106のダンパ本体106aは、ダンパホルダ105、回転軸102、第2ギヤ104及び第1ギヤ103を介して、第1スピンドル73に接続され、ロータリーダンパ106のロータリー軸106bは、第1クラッチ部材107及び第2クラッチ部材108からなるクラッチ機構を介して、固定部である減衰部ケース120に接続されている。
【0078】
第1クラッチ部材107と第2クラッチ部材108とが離間したクラッチ遮断状態では、第1クラッチ部材107が空回りするため、ロータリーダンパ106は作動せず、第1スピンドル73の運動は減衰されない。一方、第2クラッチ部材108を下方に押圧し、第1クラッチ部材107と第2クラッチ部材108とが噛み合ったクラッチ接続状態では、第1クラッチ部材107の回転が規制されるため、ダンパ本体106aとロータリー軸106bとの間に発生する回転抵抗が、ダンパホルダ105、回転軸102、第2ギヤ104及び第1ギヤ103を介して、第1スピンドル73に伝達され、第1スピンドル73の運動が減衰される。
【0079】
このような減衰部100によれば、膝関節機構30が伸展又は屈曲する際に機械的に反力を発生させることができる。また、減衰部100は、モータMの動力を伝達する動力伝達路と接続されるように設けられるので、膝関節機構30に設けられるよりも減衰機能を高めることができる。即ち、ロータリーダンパ106の減衰機能は、速度に比例するため、膝関節機構30の回転数に比べて高い回転数で回転する動力伝達路にロータリーダンパ106を接続することで、ロータリーダンパ106の減衰機能を有効に活用することができる。
【0080】
また、ロータリーダンパ106の減衰機能をさらに有効に活用するためには、第1ギヤ103の回転数に対する第2ギヤ104の回転数の比率が、1より大きいことが好ましい。これにより、第1スピンドル73と一体回転する第1ギヤ103に比べて高い回転数で回転する第2ギヤ104にロータリーダンパ106を接続することができる。
【0081】
また、本実施形態のように、モータMを上流側として、ロータリーダンパ106が変速機Tよりも下流側に接続されるよう設けられる場合、変速機Tは増速機構であることが好ましい。逆に、モータMを上流側として、ロータリーダンパ106が変速機Tよりも上流側(モータM側)に接続されるよう設けられる場合、変速機Tは減速機構であることが好ましい。
【0082】
本実施形態の減衰部100は、モータMと第1スピンドルユニットSP1との間に配置されている。これにより、減衰部100が外部に張り出すことを防止できる。
【0083】
減衰作動部200は、図12に示すように、歩行時に踵Hが着地した際に発生するモーメントNを利用して減衰部100を機械的に作動させる。具体的に説明すると、膝下側部材10の一対の下側側壁部13は、図1図2及び図12に示すように、下壁部12の左右両端から上方に延びる一対の下側側壁部本体13aと、下側側壁部本体13aの上部且つ前部に、左右方向に沿うように設けられた揺動軸13bを介して前後揺動可能に連結され、且つ回動部35を介して膝上側部材20に連結される一対の揺動側壁部13cと、を備える。一対の揺動側壁部13cは、連結壁部13dを介して一体的に連結されるとともに、減衰部100の第2クラッチ部材108の上方に位置する作動レバー13e(図3参照)を一体的に備える。
【0084】
図11に示すように、電動義足1を装着して平地歩行を行う際、電動義足1には、図11の(A)に示す着地開始時から、図11の(D)に示す着地終了時までの間、外部からの加重として地面から反力(圧縮荷重)を受ける。特に、図11の(A)に示す着地開始時は、地面から受ける反力が急激に増加するため、膝関節機構30が意図せずに屈曲してしまう、いわゆる膝折れが発生する虞がある。本実施形態の電動義足1では、着地開始時に踵Hから着地することに着目し、図12に示すように、踵Hと膝関節機構30の回動部35とを結ぶ仮想直線L1に対し、前方に離間する位置に揺動軸13bを配置している。
【0085】
このようにすると、歩行時に踵Hが着地した際に揺動軸13b回りのモーメントNが発生し、揺動側壁部13cが下側側壁部本体13aに対して相対的に揺動するので、作動レバー13eが減衰部100の第2クラッチ部材108を押下し、減衰部100を機械的に作動させることが可能になる。これにより、膝関節機構30の運動を減衰して着地時の意図しない屈曲を抑制できる。また、仮想直線L1上に位置する回動部35にはモーメントが発生しにくくなるので、着地時の意図しない屈曲をより確実に抑制できる。
【0086】
また、揺動軸13bは、図12に示すように、つま先Tが着地した際につま先Tと回動部35とを結ぶ仮想直線L2上又は仮想直線L2の近傍に位置する。このようにすると、つま先Tが着地した際にはモーメントNが発生せず又は小さなモーメントNしか発生せず減衰部100が機能しないので、図11の(D)の状態から(E)の状態への移行するため電動義足1を振り上げる際に膝関節機構30の屈曲動作をスムーズに行うことができる。
【0087】
[回転電機]
反力源として回転電機を利用する場合、前述した減衰部100を回転電機に置き換えてもよい。この場合、回転電機を回生駆動したり、入力される回転を弱める方向に力行駆動することで、外力に対し反対方向の反力を発生させることができる。回転電機を回生駆動することで不図示のバッテリを充電することができる。また、回転電機を用いることで反力を精度よく制御することができる。
【0088】
また、回転電機は、必ずしもモータMから見て第1スピンドルユニットSP1の下流側に接続する必要はなく、変速機Tに接続してもよい。
【0089】
また、反力源として回転電機は、モータM自体であってもよい。即ち、モータMが膝関節機構30を屈曲させるための回転動力も伸展させるための力行駆動をしていない状態で、電動義足1に外部から加重されると、断続機構50が第1変速状態のとき、外力が、第1スピンドルユニットSP1、第1従動ギヤ79、第1駆動ギヤ78、第2係合子52、第1係合子51、作動子55、入力ギヤ77、出力ギヤ72へと伝達される。同様に、断続機構50が第2変速状態のとき、外力が、第1スピンドルユニットSP1、第2従動ギヤ81、第2駆動ギヤ80、第4係合子54、第3係合子53、作動子55、入力ギヤ77、出力ギヤ72、へと伝達される。このとき、モータMを回生駆動することで、外力に対し反対方向の反力を発生させることができる。モータMを回生駆動することで不図示のバッテリを充電してもよい。このように反力源としてモータMを回生駆動することで、バッテリを充電することができる。
【0090】
また、モータMを回生駆動する代わりに、入力される回転を低下させる方向にモータMを力行駆動してもよい。いわゆる膝折れを防止するためには、膝関節機構30を伸展方向に力行駆動することで、外力に対し反対方向の反力を発生させることができる。
【0091】
また、モータMを停止した状態で、断続機構50を第1変速状態又は第2変速状態とし、変速機TのフリクションとモータMの慣性力を利用して反力を発生させてもよい。
【0092】
モータMを反力源として利用する場合、及び他の回転電機を変速機Tに接続する場合、上記した減衰部100とともに減衰作動部200も不要であり、下側側壁部13は、下側側壁部本体13a及び揺動側壁部13cが一体に揺動不能に形成される。
【0093】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0094】
例えば、上記実施形態では、本発明の継手装置の一実施形態としての電動義足を例示したが、これに限らず、上肢(腕関節)に適用してもよく、人間以外の他の動物に適用してもよく、ロボットに適用してもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、1つのモータMの動力が断続機構50を介して第1変速機構T1及び第2変速機構T2に伝達されるように構成されたが、これに限らず、2つの動力源と第1変速機構T1及び第2変速機構T2との間にそれぞれ断続機構を設けてもよい。
【0096】
また、断続機構50は、噛み合いクラッチに限らず、摩擦クラッチ、遠心クラッチ等の他のクラッチ機構でもよく、連続変速比切替機構等のクラッチレス機構でもよい。
【0097】
また、本明細書には少なくとも以下の事項が記載されている。なお、括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素等を示しているが、これに限定されるものではない。
【0098】
(1) 第1部材(膝下側部材10)と、
第2部材(膝上側部材20)と、
前記第1部材と前記第2部材との成す角を変更可能に連接する連接部(膝関節機構30)と、
伸縮することにより前記第1部材と前記第2部材との前記成す角を変更可能な伸縮装置(伸縮装置40)と、を備える継手装置(電動義足1)であって、
前記伸縮装置は、
動力源(モータM)と、
前記動力源の動力を伝達する動力伝達部と、
前記動力を伝達する動力伝達路と接続されるよう設けられ、前記動力伝達部の反動力源側から動力源側へ入力される外力に対し反対方向の反力を発生する反力源(減衰部100、モータM)と、を備える、継手装置。
【0099】
(1)によれば、動力源の動力を伝達する動力伝達路を介して連接部を伸展及び屈曲させることができる。一方、反力源が動力伝達部の反動力源側から動力源側へ入力される外力に対し反対方向の反力を発生することで、外力に対する抵抗を付与することができる。
【0100】
(2) (1)に記載の継手装置であって、
前記伸縮装置は、前記動力伝達路における動力の遮断及び接続を切り替える断続機構(断続機構50)をさらに備え、
前記継手装置は、前記断続機構を制御する制御部(モータ制御部、アクチュエータ制御部)をさらに備え、
前記制御部は、
前記動力伝達路における動力の接続を行う接続状態と、前記動力伝達路における動力の遮断を行う遮断状態と、を切り替えるよう前記断続機構を制御する、継手装置。
【0101】
(2)によれば、断続機構の接続状態と遮断状態とを切り替えることで、外力に対する抵抗が必要なときにのみ反力を発生させることができる。
【0102】
(3) (2)に記載の継手装置であって、
前記継手装置は、外部からの加重を受ける加重状態(立脚)と、加重を受けない非加重状態(遊脚)と、を遷移するように設けられ、
前記制御部は、
前記非加重状態のときに前記断続機構を前記遮断状態に制御する、継手装置。
【0103】
(3)によれば、外部からの加重を受けない非加重状態のとき断続機構を遮断状態とすることで、非加重状態のときの伸展又は屈曲をスムーズに行うことができる。
【0104】
(4) (1)~(3)のいずれかに記載の継手装置であって、
前記動力源は、電気機械であって、
前記反力源の前記反力は、前記電気機械の回生駆動による反力、又は、力行駆動による反力である、継手装置。
【0105】
(4)によれば、駆動源に反力源としても機能を持たせることで、部品点数を削減でき、継手装置を小型化又は軽量化できる。
【0106】
(5) 第1部材(膝下側部材10)と、
第2部材(膝上側部材20)と、
前記第1部材と前記第2部材との成す角を変更可能に連接する連接部(膝関節機構30)と、
伸縮することにより前記第1部材と前記第2部材との前記成す角を変更可能な伸縮装置(伸縮装置40)と、を備える継手装置(電動義足1)であって、
前記伸縮装置は、
動力源(モータM)と、
前記動力源の動力を伝達する動力伝達部と、
前記動力伝達部へ入力される外力に対し反対方向の反力を発生する反力源(減衰部100、モータM)と、を備える、継手装置。
【0107】
(5)によれば、動力源の動力を伝達する動力伝達路を介して連接部を伸展及び屈曲させることができる。一方、反力源が動力伝達部へ入力される外力に対し反対方向の反力を発生することで、外力に対する抵抗を付与することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 電動義足
10 膝下側部材(第1部材)
20 膝上側部材(第2部材)
30 膝関節機構(連接部)
40 伸縮装置
100 減衰部(反力源)
M モータ(動力源、反力源)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12