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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-30
(45)【発行日】2025-05-12
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250501BHJP
【FI】
H01L21/304 651Z
H01L21/304 648G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021048371
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147216
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】墨 周武
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-174071(JP,A)
【文献】特開2001-176837(JP,A)
【文献】特開2018-152479(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0148624(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内で超臨界状態の処理流体により基板を処理する基板処理方法において、
前記基板を収容した前記チャンバの内部空間に前記処理流体を導入し、前記内部空間の圧力を前記処理流体の臨界圧力より高圧かつ前記内部空間の温度を前記処理流体の臨界温度よりも高温に保持して前記基板を処理する超臨界処理工程と、
前記処理流体を前記チャンバから排出して、前記内部空間の温度を前記処理流体の臨界温度以上に保持しつつ、前記内部空間を前記臨界圧力より低く大気圧より高い圧力まで減圧する第1の減圧工程と、
前記第1の減圧工程よりも高い排出速度で前記処理流体を排出し前記内部空間を減圧する第2の減圧工程と
を備え、
前記第2の減圧工程では、前記内部空間内の前記処理流体を断熱膨張させて前記内部空間の温度を低下させ、前記内部空間の圧力が大気圧まで低下する時の前記内部空間の温度が所定の目標温度となるように前記排出速度が制御される、基板処理方法。
【請求項2】
前記目標温度は前記臨界温度以上である、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記第1の減圧工程において、前記内部空間の圧力が前記臨界圧力より低い規定値まで低下すると、前記第2の減圧工程を開始する、請求項1または2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記第2の減圧工程において前記内部空間の温度が前記目標温度まで低下した後に、前記排出速度を低下させる、請求項1ないしのいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記第2の減圧工程において前記内部空間の温度が前記目標温度まで低下した後に、前記内部空間を大気開放する、請求項1ないしのいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記内部空間が大気開放された後に、前記基板を搬出し、未処理基板を前記チャンバ内に搬入して前記超臨界処理工程を実行することで、複数の前記基板を順番に処理する、請求項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
超臨界状態の処理流体により基板を処理する基板処理装置において、
前記基板を内部空間に収容するチャンバと、
前記チャンバの内部空間に前記処理流体を供給する流体供給部と、
前記内部空間から前記処理流体を排出する流体排出部と、
前記流体供給部および前記流体排出部を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記流体供給部に前記処理流体を前記内部空間に供給させて、前記内部空間の圧力を前記処理流体の臨界圧力より高圧かつ前記内部空間の温度を前記処理流体の臨界温度よりも高温に保持した後、
前記流体排出部に前記処理流体を前記チャンバから排出させて、前記内部空間の温度を前記処理流体の臨界温度以上に保持しつつ、前記内部空間を前記臨界圧力より低く大気圧より高い圧力まで減圧し、さらに、
前記流体排出部による前記処理流体の排出速度を増大させて、前記内部空間内の前記処理流体を断熱膨張させて前記内部空間の温度を低下させるとともに前記内部空間を大気圧まで減圧し、
前記排出速度を、前記内部空間の圧力が大気圧まで低下する時の前記内部空間の温度が所定の目標温度となるように制御する、
基板処理装置。
【請求項8】
前記内部空間の圧力および温度を検出する検出部を備え、
前記制御部は、前記検出部の検出結果に基づき前記流体供給部および前記流体排出部を制御する、請求項に記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記チャンバの側面に、前記内部空間と連通する開口が設けられ、
前記基板を水平姿勢で支持して、前記開口を介し前記内部空間に進入可能な支持トレイと、
前記支持トレイが前記内部空間に収容された状態で前記開口を閉塞する蓋部と
を備える、請求項またはに記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チャンバ内で超臨界状態の処理流体により基板を処理する技術に関するものであり、特に処理流体をチャンバから排出するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、表示装置用ガラス基板等の各種基板の処理工程には、基板の表面を各種の処理流体によって処理するものが含まれる。処理流体として薬液やリンス液などの液体を用いる処理は従来から広く行われているが、近年では超臨界流体を用いた処理も実用化されている。特に、表面に微細パターンが形成された基板の処理においては、液体に比べて表面張力が低い超臨界流体はパターンの隙間の奥まで入り込むため効率よく処理を行うことが可能であり、また乾燥時において表面張力に起因するパターン倒壊の発生リスクを低減することができる。
【0003】
例えば特許文献1には、基板に付着した液体を超臨界流体によって置換し、基板の乾燥処理を行う基板処理装置が記載されている。より具体的には、特許文献1には、超臨界処理流体として二酸化炭素を、これにより置換される置換対象液としてIPA(Isopropyl alcohol;イソプロピルアルコール)を用いた場合の乾燥処理の流れが詳しく記載されている。すなわち、基板を収容したチャンバ内が処理流体で満たされ、チャンバ内が当該処理流体の臨界圧力および臨界温度を共に上回る状態を一定期間維持した後、チャンバ内が減圧されて一連の処理が終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-081966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では主として昇圧と降圧とを繰り返す圧力制御により超臨界状態の維持が図られているが、処理中の超臨界流体の温度および圧力については一定に維持されることがより好ましい。というのは、超臨界流体では、特に温度変化に伴う密度変化が非常に大きく、例えば液体の置換を目的とする処理においては処理流体の密度によって処理効率が大きく変化するからである。より詳しくは、超臨界処理流体は高濃度であるほど他の液体を多く取り込むことができるため液体の置換効率は高くなり、そして超臨界処理流体は温度が低いほど高濃度である。そのため、処理流体は、超臨界状態を維持することができる範囲においてできるだけ低温かつ一定であることが好ましい。
【0006】
処理流体の温度はチャンバに導入される際のチャンバ内温度によっても影響を受けるから、導入時のチャンバ内の温度についても一定かつ適正に保たれていることが求められる。しかしながら、上記従来技術ではこの点については考慮されておらず、処理中以外のタイミング、特に減圧プロセスにおいてチャンバ内温度は管理されていない。このため、特に複数の基板を順番に処理する場合においては、先の基板への処理によって高温となったチャンバ内に次の基板および処理流体が導入されることで、処理効率が低下したり、処理結果のばらつきが生じたりするおそれがある。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、チャンバ内で超臨界状態の処理流体により基板を処理する技術において、処理後のチャンバ内の温度を適切に管理して、特に複数の基板を順番に処理する場合にも安定した処理効率を得ることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一の態様は、チャンバ内で超臨界状態の処理流体により基板を処理する基板処理方法であって、上記目的を達成するため、前記基板を収容した前記チャンバの内部空間に前記処理流体を導入し、前記内部空間の圧力を前記処理流体の臨界圧力より高圧かつ前記内部空間の温度を前記処理流体の臨界温度よりも高温に保持して前記基板を処理する超臨界処理工程と、前記処理流体を前記チャンバから排出して、前記内部空間の温度を前記処理流体の臨界温度以上に保持しつつ、前記内部空間を前記臨界圧力より低く大気圧より高い圧力まで減圧する第1の減圧工程と、前記第1の減圧工程よりも高い排出速度で前記処理流体を排出し前記内部空間を減圧する第2の減圧工程とを備えている。ここで、前記第2の減圧工程では、前記内部空間内の前記処理流体を断熱膨張させて前記内部空間の温度を低下させ、前記内部空間の圧力が大気圧まで低下する時の前記内部空間の温度が所定の目標温度となるように前記排出速度が制御される。
【0009】
また、この発明の他の一の態様は、超臨界状態の処理流体により基板を処理する基板処理装置であって、上記目的を達成するため、前記基板を内部空間に収容するチャンバと、前記チャンバの内部空間に前記処理流体を供給する流体供給部と、前記内部空間から前記処理流体を排出する流体排出部と、前記流体供給部および前記流体排出部を制御する制御部とを備えている。そして、前記制御部は、前記流体供給部に前記処理流体を前記内部空間に供給させて、前記内部空間の圧力を前記処理流体の臨界圧力より高圧かつ前記内部空間の温度を前記処理流体の臨界温度よりも高温に保持した後、前記流体排出部に前記処理流体を前記チャンバから排出させて、前記内部空間の温度を前記処理流体の臨界温度以上に保持しつつ、前記内部空間を前記臨界圧力より低く大気圧より高い圧力まで減圧し、さらに、前記流体排出部による前記処理流体の排出速度を増大させて、前記内部空間内の前記処理流体を断熱膨張させて前記内部空間の温度を低下させるとともに前記内部空間を大気圧まで減圧し、前記排出速度を、前記内部空間の圧力が大気圧まで低下する時の前記内部空間の温度が所定の目標温度となるように制御する。
【0010】
ここでいう「排出速度」とは、チャンバから排出される処理流体の単位時間当たりの質量を表すものとする。
【0011】
このように構成された発明では、圧力および温度がいずれも臨界点を超え超臨界状態の処理流体による基板の処理の後、処理流体をチャンバ外へ排出するためのプロセスが2段階に分けられている。すなわち、第1段階では、チャンバ内が臨界温度以上に保たれつつ、臨界圧力よりも低い圧力まで減圧される。これにより、処理流体は超臨界状態から液相を経ることなく気相に遷移する。このため、仮に微細パターンが形成された基板であっても、液相から気相への相変化に起因するパターン倒壊の問題は回避される。
【0012】
チャンバ内が臨界圧力以下かつ気相の処理流体で充満した状態からの減圧の態様については、液相への相転移が生じない限りにおいて比較的自由度が高いと言える。例えば、チャンバ内に残留する処理流体を直ちに排出しチャンバ内を大気圧まで減圧してもよい。こうすることで、処理後の基板をチャンバから取り出すまでの時間を短縮することが可能である。
【0013】
これに対し、本発明の減圧プロセスの第2段階では、処理流体を排出する際にチャンバ内で生じる断熱膨張を利用して、処理流量時のチャンバ内の温度管理を行っている。具体的には、上記した第1段階の減圧時よりも高い排出速度で処理流体を排出することで、チャンバ内の処理流体を短時間で膨張させ、断熱膨張を生じさせることにより、チャンバ内部空間の温度を低下させる。ここで、「内部空間の温度」とは、望ましくは内部空間に面する部材の表面、例えばチャンバ壁面の温度を指す概念であるが、より簡易的にはチャンバ内の流体の温度により表すことが可能である。
【0014】
第2段階における減圧では、内部空間が大気圧まで減圧された時に内部温度が所定の目標温度となっているように、排出速度が制御される。したがって、チャンバ内が大気圧まで減圧された時点でのチャンバ内の温度は目標温度となっている。このように、チャンバの内部空間の温度を指標として減圧を管理することで、減圧終了時のチャンバ内を適正な温度に保っておくことができる。これにより、複数の基板への処理が連続的に実行される場合でも、各基板への処理が開始される時のチャンバ内の温度を一定に保ち、導入される処理流体の温度ばらつきを抑制して、処理結果を安定させることができる。
【発明の効果】
【0015】
上記のように、本発明では、チャンバ内の処理流体が超臨界状態から気相へ遷移した後の減圧については、チャンバ内の温度を指標として進行が管理される。このため、1つの基板への処理が終了した後のチャンバ内の温度を適切に管理することができ、特に複数の基板を順番に処理する場合にも、処理ごとの超臨界処理流体の温度ばらつきを抑制して、安定した処理効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る基板処理装置の一実施形態の概略構成を示す図である。
図2】この基板処理装置により実行される処理の概要を示すフローチャートである。
図3】超臨界処理におけるチャンバ内の温度変化を模式的に示す図である。
図4】本実施形態の超臨界処理における相変化を示す相図である。
図5】超臨界処理における各部の状態変化を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明に係る基板処理装置の一実施形態の概略構成を示す図である。この基板処理装置1は、例えば半導体基板のような各種基板の表面を、超臨界流体を用いて処理するための装置であり、本発明に係る基板処理方法を実行するのに好適な装置構成を有するものである。以下の説明において方向を統一的に示すために、図1に示すようにXYZ直交座標系を設定する。ここで、XY平面は水平面であり、Z方向は鉛直方向を表す。より具体的には、(-Z)方向が鉛直下向きを表す。
【0018】
本実施形態における「基板」としては、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板を適用可能である。以下では主として円盤状の半導体ウエハの処理に用いられる基板処理装置を例に採って図面を参照して説明する。しかしながら、上に例示した各種の基板の処理にも同様に適用可能である。また基板の形状についても各種のものを適用可能である。
【0019】
基板処理装置1は、処理ユニット10、移載ユニット30、供給ユニット50および制御ユニット90を備えている。処理ユニット10は、超臨界乾燥処理の実行主体となるものである。移載ユニット30は、図示しない外部の搬送装置により搬送されてくる未処理基板Sを受け取って処理ユニット10に搬入し、また処理後の基板Sを処理ユニット10から外部の搬送装置に受け渡す。供給ユニット50は、処理に必要な化学物質、動力およびエネルギー等を、処理ユニット10および移載ユニット30に供給する。
【0020】
制御ユニット90は、これら装置の各部を制御して所定の処理を実現する。この目的のために、制御ユニット90は、CPU91、メモリ92、ストレージ93、およびインターフェース94などを備えている。CPU91は、各種の制御プログラムを実行する。メモリ92は、処理データを一時的に記憶する。ストレージ93は、CPU91が実行する制御プログラムを記憶する。インターフェース94は、ユーザや外部装置と情報交換を行う。後述する装置の動作は、CPU91が予めストレージ93に書き込まれた制御プログラムを実行し、装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。
【0021】
処理ユニット10は、台座11の上に処理チャンバ12が取り付けられた構造を有している。処理チャンバ12は、いくつかの金属ブロックの組み合わせにより構成され、その内部が空洞となって処理空間SPを構成している。処理対象の基板Sは処理空間SP内に搬入されて処理を受ける。処理チャンバ12の(-Y)側側面には、X方向に細長く延びるスリット状の開口121が形成されている。開口121を介して、処理空間SPと外部空間とが連通している。処理空間SPの断面形状は、開口121の開口形状と概ね同じである。すなわち、処理空間SPはX方向に長くZ方向に短い断面形状を有し、Y方向に延びる空洞である。
【0022】
処理チャンバ12の(-Y)側側面には、開口121を閉塞するように蓋部材13が設けられている。蓋部材13が処理チャンバ12の開口121を閉塞することにより、気密性の処理容器が構成される。これにより、内部の処理空間SPで基板Sに対する高圧下での処理が可能となる。蓋部材13の(+Y)側側面には平板状の支持トレイ15が水平姿勢で取り付けられている。支持トレイ15の上面151は、基板Sを載置可能な支持面となっている。蓋部材13は図示を省略する支持機構により、Y方向に水平移動自在に支持されている。
【0023】
蓋部材13は、供給ユニット50に設けられた進退機構53により、処理チャンバ12に対して進退移動可能となっている。具体的には、進退機構53は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有している。このような直動機構が蓋部材13をY方向に移動させる。進退機構53は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
【0024】
蓋部材13が(-Y)方向に移動することにより処理チャンバ12から離間し、点線で示すように支持トレイ15が処理空間SPから開口121を介して外部へ引き出されると、支持トレイ15へのアクセスが可能となる。すなわち、支持トレイ15への基板Sの載置、および支持トレイ15に載置されている基板Sの取り出しが可能となる。一方、蓋部材13が(+Y)方向に移動することにより、支持トレイ15は処理空間SP内へ収容される。支持トレイ15に基板Sが載置されている場合、基板Sは支持トレイ15とともに処理空間SPに搬入される。
【0025】
蓋部材13が(+Y)方向に移動し開口121を塞ぐことにより、処理空間SPが密閉される。蓋部材13の(+Y)側側面と処理チャンバ12の(-Y)側側面との間にはシール部材122が設けられ、処理空間SPの気密状態が保持される。シール部材122は例えばゴム製である。また、図示しないロック機構により、蓋部材13は処理チャンバ12に対して固定される。このように、この実施形態では、蓋部材13は、開口121を閉塞して処理空間SPを密閉する閉塞状態(実線)と、開口121から大きく離間して基板Sの出し入れが可能となる離間状態(点線)との間で切り替えられる。
【0026】
処理空間SPの気密状態が確保された状態で、処理空間SP内で基板Sに対する処理が実行される。この実施形態では、供給ユニット50に設けられた流体供給部57から、処理流体として、超臨界処理に利用可能な物質の処理流体、例えば二酸化炭素が送出される。処理流体は、気体、液体または超臨界の状態で処理ユニット10に供給される。二酸化炭素は、比較的低温、低圧で超臨界状態となり、また基板処理に多用される有機溶剤をよく溶かす性質を有するという点で、超臨界乾燥処理に好適な化学物質である。二酸化炭素が超臨界状態となる臨界点は、気圧(臨界圧力)が7.38MPa、温度(臨界温度)が31.1℃である。
【0027】
処理流体は処理空間SPに充填され、処理空間SP内が適当な温度および圧力に到達すると、処理空間SPは超臨界状態の処理流体で満たされる。こうして基板Sが処理チャンバ12内で超臨界流体により処理される。供給ユニット50には流体回収部55が設けられており、処理後の流体は流体回収部55により回収される。流体供給部57および流体回収部55は、制御ユニット90により制御されている。
【0028】
処理空間SPは、支持トレイ15およびこれに支持される基板Sを受け入れ可能な形状および容積を有している。すなわち、処理空間SPは、水平方向には支持トレイ15の幅よりも広く、鉛直方向には支持トレイ15と基板Sとを合わせた高さよりも大きい概略矩形の断面形状と、支持トレイ15を受け入れ可能な奥行きとを有している。このように処理空間SPは支持トレイ15および基板Sを受け入れるだけの形状および容積を有している。ただし、支持トレイ15および基板Sと、処理空間SPの内壁面との間の隙間は僅かである。したがって、処理空間SPを充填するために必要な処理流体の量は比較的少なくて済む。
【0029】
支持トレイ15が処理空間SPに収容された状態では、処理空間SPは支持トレイ15の上方の空間と下方の空間とに大きく二分される。支持トレイ15に基板Sが載置されている場合には、処理空間SPは、基板Sの上面よりも上方の空間と、支持トレイ15の下面よりも下方の空間とに区分されることになる。
【0030】
流体供給部57は、基板Sの(+Y)側端部よりもさらに(+Y)側で、処理空間SPのうち基板Sよりも上方の空間と、支持トレイ15よりも下方の空間とのそれぞれに対して処理流体を供給する。一方、流体回収部55は、基板Sの(-Y)側端部よりもさらに(-Y)側で、処理空間SPのうち基板Sよりも上方の空間と、支持トレイ15よりも下方の空間とからそれぞれ処理流体を排出する。これにより、処理空間SP内では、基板Sの上方と支持トレイ15の下方とのそれぞれに、(+Y)側から(-Y)側に向かう処理流体の層流が形成されることになる。
【0031】
処理空間SPから流体回収部55に至る処理流体の排出経路となる配管には、処理空間SPから排出される処理流体の圧力および温度を検出する検出部173,174が設けられている。具体的には、処理空間SPのうち支持トレイ15よりも上方の空間に連通し、該空間から処理流体を排出する配管に第1の検出部173が、支持トレイ15よりも下方の空間に連通し、該空間から処理流体を排出する配管に第2の検出部174が、それぞれ設けられている。
【0032】
検出部173,174は処理空間SPの圧力および温度を検出するものであり、この意味においては処理空間SPの内部に設けられることが望ましい。特に温度については、処理空間SPに面するチャンバ内壁面の温度が検出できれば理想的である。しかしながら、処理流体のスムーズな流れを阻害したり、処理流体に対する汚染源となったりすることは避けなければならない。このため、簡易的な代替方法として、処理流体の流通方向において基板Sよりも下流側で処理空間SPに連通する処理流体の流路に、検出部173,174が設けられる。すなわち、この流路を流れる処理流体の圧力および温度の検出結果を、処理空間SPの圧力および温度と見なすこととする。
【0033】
この目的からは、処理空間SPから検出部173,174に至る処理流体の流路を構成する配管については圧力損失の小さいものであることが望ましい。また、処理流体の流れに影響を与えない限り、処理空間SPに直接臨むように検出部が配置されてももちろん構わない。
【0034】
制御ユニット90は、検出部173,174の出力に基づいて処理空間SP内の圧力および温度を特定し、その結果に基づき流体供給部57および流体回収部55を制御する。これにより、処理空間SPへの処理流体の供給および処理空間SPからの処理流体の排出が適切に管理され、処理空間SP内の圧力および温度が予め定められた処理レシピに応じて調整される。
【0035】
移載ユニット30は、外部の搬送装置と支持トレイ15との間における基板Sの受け渡しを担う。この目的のために、移載ユニット30は、本体31と、昇降部材33と、ベース部材35と、複数のリフトピン37とを備えている。昇降部材33はZ方向に延びる柱状の部材であり、図示しない支持機構により、本体31に対してZ方向に移動自在に支持されている。昇降部材33の上部には、略水平の上面を有するベース部材35が取り付けられている。ベース部材35の上面から上向きに、複数のリフトピン37が立設されている。リフトピン37の各々は、その上端部が基板Sの下面に当接することで基板Sを下方から水平姿勢に支持する。基板Sを水平姿勢で安定的に支持するために、上端部の高さが互いに等しい3以上のリフトピン37が設けられることが望ましい。
【0036】
昇降部材33は、供給ユニット50に設けられた昇降機構51により昇降移動可能となっている。具体的には、昇降機構51は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有しており、このような直動機構が昇降部材33をZ方向に移動させる。昇降機構51は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
【0037】
昇降部材33の昇降によりベース部材35が上下動し、これと一体的に複数のリフトピン37が上下動する。これにより、移載ユニット30と支持トレイ15との間での基板Sの受け渡しが実現される。より具体的には、図1に点線で示すように、支持トレイ15がチャンバ外へ引き出された状態で基板Sが受け渡される。この目的のために、支持トレイ15にはリフトピン37を挿通させるための貫通孔152が設けられている。ベース部材35が上昇すると、リフトピン37の上端は貫通孔152を通して支持トレイ15の支持面151よりも上方に到達する。この状態で、外部の搬送装置により搬送されてくる基板Sが、リフトピン37に受け渡される。リフトピン37が下降することにより、基板Sはリフトピン37から支持トレイ15へ受け渡される。基板Sの搬出は、上記と逆の手順により行うことができる。
【0038】
図2はこの基板処理装置により実行される処理の概要を示すフローチャートである。この基板処理装置1は、超臨界乾燥処理、すなわち前工程において洗浄液により洗浄された基板Sを乾燥させる処理を実行する。具体的には以下の通りである。処理対象の基板Sは、基板処理システムを構成する他の基板処理装置で実行される前工程において、洗浄液により洗浄される。その後、例えばイソプロピルアルコール(IPA)などの有機溶剤による液膜が表面に形成された状態で、基板Sは基板処理装置1に搬送される。
【0039】
例えば基板Sの表面に微細パターンが形成されている場合、基板Sに残留付着している液体の表面張力によってパターンの倒壊が生じるおそれがある。また、不完全な乾燥によって基板Sの表面にウォーターマークが残留する場合がある。また、基板S表面が外気に触れることで酸化等の変質を生じる場合がある。このような問題を未然に回避するために、基板Sの表面(パターン形成面)を、液体または固体の表面層で覆った状態で搬送することがある。
【0040】
例えば洗浄液が水を主成分とするものである場合には、これより表面張力が低く、かつ基板に対する腐食性が低い液体、例えばIPAやアセトン等の有機溶剤により液膜を形成した状態で、搬送が実行される。すなわち、基板Sは、水平状態に支持され、かつその上面に液膜が形成された状態で、基板処理装置1に搬送されてくる。
【0041】
図示しない搬送装置により搬送されてきた基板Sは処理チャンバ12に収容される(ステップS101)。具体的には、基板Sは、パターン形成面を上面にして、しかも該上面が薄い液膜に覆われた状態で搬送されてくる。図1に点線で示すように、蓋部材13が(-Y)側へ移動し支持トレイ15が引き出された状態で、リフトピン37が上昇する。搬送装置は基板Sをリフトピン37へ受け渡す。リフトピン37が下降することで、基板Sは支持トレイ15に載置される。支持トレイ15および蓋部材13が一体的に(+Y)方向に移動すると、基板Sを支持する支持トレイ15が処理チャンバ12内の処理空間SPに収容されるとともに、開口121が蓋部材13により閉塞される。
【0042】
この状態で、処理流体としての二酸化炭素が、気相の状態で処理空間SPに導入される(ステップS102)。基板Sの搬入時に処理空間SPには外気が侵入するが、気相の処理流体を導入することで、これを置換することができる。さらに気相の処理流体を注入することで、処理チャンバ12内の圧力が上昇する。
【0043】
なお、処理流体の導入過程において、処理空間SPからの処理流体の排出は継続的に行われる。すなわち、流体供給部57により処理流体が導入されている間にも、流体回収部55による処理空間SPからの処理流体の排出が実行されている。これにより、処理に供された処理流体が処理空間SPに対流することなく排出され、処理流体中に取り込まれた残留液体などの不純物が基板Sに再付着することが防止される。
【0044】
処理流体の供給量が排出量よりも多ければ、処理空間SPにおける処理流体の密度が上昇しチャンバ内圧が上昇する。逆に、処理流体の供給量が排出量よりも少なければ、処理空間SPにおける処理流体の密度は低下しチャンバ内は減圧される。このような処理流体の処理チャンバ12への供給および処理チャンバ12からの排出については、予め作成された給排レシピに基づいて行われる。すなわち、制御ユニット90が給排レシピに基づき流体供給部57および流体回収部55を制御することによって、処理流体の供給・排出タイミングやその流量等が調整される。
【0045】
処理空間SP内で処理流体の圧力が上昇し臨界圧力を超過すると、処理流体はチャンバ内で超臨界状態となる。すなわち、処理空間SP内での相変化により、処理流体が気相から超臨界状態に遷移する。なお、超臨界状態の処理流体は外部から供給されてもよい。処理空間SPに超臨界流体が導入されることで、基板Sを覆うIPAなどの有機溶剤が超臨界流体により置換される。基板Sの表面から遊離した有機溶剤は処理流体に溶け込んだ状態で処理流体と共に処理チャンバ12から排出され、基板Sから除去される。すなわち、超臨界状態の処理流体は、基板Sに付着する有機溶剤を置換対象液としてこれを置換し、処理チャンバ12外へ排出する機能を有する。処理空間SPが超臨界状態の処理流体で満たされた状態を所定時間継続することで(ステップS103)、基板Sに付着していた置換対象液を完全に置換しチャンバ外へ排出することができる。
【0046】
処理チャンバ12内での超臨界流体による置換対象液の置換が終了すると(ステップS104)、処理空間SP内の処理流体を排出して基板Sを乾燥させる。具体的には、処理空間SPからの流体の排出量を増大させることで、超臨界状態の処理流体で満たされた処理チャンバ12内を減圧する(ステップS105、S106)。この実施形態では、2段階の減圧プロセス、すなわち第1の減圧工程(ステップS105)および第2の減圧工程(ステップS106)を実行することで、処理空間SPが最終的に大気圧まで減圧される。これら2つの減圧工程の差異については後に詳しく説明する。
【0047】
減圧プロセスにおいて、処理流体の供給は停止されてもよく、また少量の処理流体が継続して供給される態様でもよい。処理空間SPが超臨界流体で満たされた状態から減圧されることで、処理流体は超臨界状態から相変化して気相となる。気化した処理流体を外部へ排出することで、基板Sは乾燥状態となる。このとき、急激な温度低下により固相および液相を生じることがないように、減圧速度が調整される。これにより、処理空間SP内の処理流体は、超臨界状態から直接気化して外部へ排出される。したがって、乾燥後の表面が露出した基板Sに気液界面が形成されることは回避される。
【0048】
このように、この実施形態の超臨界乾燥処理では、処理空間SPを超臨界状態の処理流体で満たした後、気相に相変化させて排出することにより、基板Sに付着する液体を効率よく置換し、基板Sへの残留を防止することができる。しかも、不純物の付着による基板の汚染やパターン倒壊等、気液界面の形成に起因して生じる問題を回避しつつ基板を乾燥させることができる。
【0049】
処理後の基板Sは後工程へ払い出される(ステップS107)。すなわち、蓋部材13が(-Y)方向へ移動することで支持トレイ15が処理チャンバ12から外部へ引き出され、移載ユニット30を介して外部の搬送装置へ基板Sが受け渡される。このとき、基板Sは乾燥した状態となっている。後工程の内容は任意である。次に処理すべき基板がなければ(ステップS108においてNO)、処理は終了する。他に処理対象基板がある場合には(ステップS108においてYES)、ステップS101に戻って新たな基板Sが受け入れられ、上記処理が繰り返される。
【0050】
1枚の基板Sに対する処理の終了後、引き続き次の基板Sの処理が行われる場合には、以下のようにすることでタクトタイムを短縮することができる。すなわち、支持トレイ15が引き出されて処理済みの基板Sが搬出された後、新たに未処理基板Sが載置されてから支持トレイ15を処理チャンバ12内に収容する。また、こうして蓋部材13の開閉回数を低減させることにより、外気の進入に起因する処理チャンバ12内の温度変化を抑制する効果も得られる。
【0051】
次に、この実施形態において減圧工程が2段階で実施される理由について説明する。超臨界処理を行った後の減圧工程については、超臨界状態の処理流体が液相を経ることなく気相に相転移しチャンバ外へ排出されれば足りる。このため、1枚の基板に対する処理だけを考えれば、処理終了時のチャンバ内温度については特に管理する必要はないと言える。しかしながら、次に説明するように、複数の基板を連続的に処理する場合には、1枚の基板に対する処理の終了時のチャンバ内温度は、次に処理される基板の処理結果に影響を及ぼす。
【0052】
図3は超臨界処理におけるチャンバ内の温度変化を模式的に示す図である。処理チャンバ12の処理空間SPに基板Sが収容された直後の初期温度Tiから、処理空間SPに処理流体が導入されてチャンバ内が昇圧され、チャンバ内の温度は次第に上昇する。そして、チャンバ内温度が処理流体の臨界温度を超える温度Tmに維持された状態が一定期間継続されることで、基板Sが超臨界処理される。超臨界処理流体の密度は温度により大きく変動し、密度変化は置換効率の変動につながる。このため、1枚の基板Sに対する処理中の温度は一定であることが望ましい。また、複数の基板に対する処理品質を安定させるためには、各基板に対する処理中の温度が同じであることが望ましい。
【0053】
超臨界処理流体による処理の後、処理空間SPが減圧されて最終的には大気圧まで降圧する過程で、チャンバ内温度も低下する。このとき、図に実線で示すように、減圧終了時点の温度が初期温度Tiと同じであれば、引き続き実施される他の基板に対する処理における温度変化もほぼ同じになると考えられる。一方、減圧時のチャンバ内温度が適切に管理されていなければ、例えば点線で示すように初期温度Taよりも高い温度で処理が終了したり、破線で示すように初期温度Taよりも低い温度で処理が終了したりすることがあり得る。
【0054】
そうすると、次の基板に対する処理における初期温度が先の基板に対する処理とは異なることとなり、その後の処理における温度も異なった変化を示すことになる。その結果、基板ごとに処理品質が異なるという事態が生じ得る。特に、初期温度よりも高温で処理が終了した場合、次の基板に対する処理において超臨界処理流体の温度が高くなりすぎ、処理流体の密度が低くなって置換効率が低下する、すなわち処理品質が劣化するという問題を生じる。また、処理を繰り返すごとに処理チャンバ12に熱エネルギーが蓄積され、処理空間SPの温度が次第に上昇してゆく。
【0055】
この問題を解消するため、本実施形態では、減圧終了時、具体的にはチャンバ内の圧力が大気圧まで低下する時のチャンバ内の温度が適正な値となるように、減圧の進行が制御される。以下、本実施形態の減圧工程の具体的態様についてより詳しく説明する。
【0056】
図4は本実施形態の超臨界処理における相変化を示す相図である。超臨界処理を行うべくチャンバ内を超臨界流体で満たすのに際しては、予め超臨界状態とした処理流体を処理チャンバに導入してもよい。ただし、前述のように超臨界流体は温度や圧力の変化による密度変化が大きいから、より取り扱いの容易な液相、気相での導入が現実的である。すなわち、気相または液相で処理流体を導入し、チャンバ内で超臨界状態に相転移させる。この場合、図3に矢印a~cで示すように、処理流体の圧力および温度変化の態様としては種々のものが考えられる。
【0057】
図において白丸印は本実施形態の処理流体である二酸化炭素の臨界点を表している。符号Pc、Tcはそれぞれ臨界圧力および臨界温度を表す。また、点P1は超臨界処理において目標とする圧力および温度を示す点である。処理効率の観点からは、点P1は臨界点(白丸印)に近いことが好ましい。
【0058】
矢印aは液相の処理流体を導入するケースに対応する。より具体的には、矢印aは、臨界圧力Pcよりも低圧で臨界温度Tcよりも低温の液状の処理流体をチャンバ内で加圧・加熱することで超臨界状態に転移させるケースを示す。このとき気相への相転移が生じないように、処理流体の圧力および温度が制御される。なお、導入される液状の処理流体の圧力は、臨界圧力Pcよりも高圧であってもよい。
【0059】
また、矢印b、cは気相の処理流体を導入するケースに対応する。より具体的には、矢印b、cは、臨界圧力Pcよりも低圧で臨界温度Tcよりも低温の気体状の処理流体をチャンバ内で加圧および加熱することで超臨界状態に転移させるケースを示す。このうち矢印bは気相から液相を介して超臨界転移させるケースを、また矢印cは、気相から液相を介することなく超臨界状態に転移させるケースを示す。
【0060】
このように、導入された処理流体を臨界圧力Pcよりも高圧かつ臨界温度Tcよりも高温の超臨界状態(点P1)に至らせる方法としては種々のものがあり得る。一方、超臨界処理の終了後の減圧工程は、次の3点を考慮した内容とするのが望ましい。
(1)処理流体が超臨界状態から液相を介することなく気相に相転移すること、
(2)減圧終了時のチャンバ内温度が適正値となること、
(3)上記(1)、(2)を満足する限りにおいてできるだけ短時間で大気圧まで減圧すること。
【0061】
上記(1)は、微細パターンが形成された基板においてもパターン倒壊を生じさせないという目的からの要請であり、(2)は複数枚の基板に対する処理品質を安定化するという目的からの要請である。また、(3)は処理のスループット向上という目的からの要請である。
【0062】
そこで、この実施形態では、減圧工程を上記(1)、(2)の目的にそれぞれ対応した2段階に区分し、それぞれを個別に最適化することで、上記(3)の目的達成が図られている。すなわち、減圧工程の第1段階(図2のステップS105に示す、第1の減圧工程)では、上記(1)の目的を達成するため、チャンバ内温度が臨界温度Tcを下回らないことを目標として減圧の進行が制御される。具体的には、図4に破線矢印dで示すように、処理流体の状態が、「圧力、温度とも臨界点を超える(すなわち処理流体が超臨界状態である)」点P1から「温度が臨界温度Tcよりも高く圧力が臨界圧力Pcよりも低い」点P2へ遷移するように、減圧が制御される。これにより、処理流体は液相を介することなく超臨界状態から気相へ相転移する。
【0063】
一方、減圧工程の第2段階(図2のステップS106に示す、第2の減圧工程)では、上記(2)の目的を達成するため、減圧終了時のチャンバ内温度を指標として減圧が制御される。すなわち、図4に破線矢印eで示す点P2から点P3への状態遷移は、点P3における温度が予め設定された目標温度Ttとなるように、減圧の進行が調整される。この時点ではチャンバ内圧力は臨界圧力Pcを下回っているため、よほど極端な温度低下を生じさせるような操作を行わない限り、処理流体が液相に転移することへの配慮は不要である。
【0064】
図4の例では目標温度Ttは臨界温度Tcよりも高いが、これより低くてもよい。昇圧過程において処理流体を短時間で超臨界状態に至らせるという観点からは、目標温度Ttは臨界温度Tcより高いことが望ましい。一方で、昇圧過程で必然的に温度上昇が生じ、また置換効率の点では超臨界処理中の処理流体の温度は低い方が好ましいから、処理開始時点でのチャンバ内温度は臨界温度Tcより低くてもよい。
【0065】
さらに、処理空間SPに導入された処理流体が急激な温度変化を受けて相転移することがないようにする、という観点からは、導入される処理流体の温度とチャンバ内温度との差が小さいことが好ましい。この観点から目標温度Ttおよび処理流体の温度が定められてもよい。このように、目標温度Ttの設定に関しては種々の考え方が成立し得る。そうして設定された目標温度Ttを指標として減圧制御を行うことが、本実施形態の主眼である。
【0066】
なお複数の基板に対し安定的に処理を行うためには、処理開始時の初期温度Tiと処理終了時の目標温度Ttとが同じであることが好ましい。こうすることで、複数回の処理における温度変化を揃えることができ、処理品質を安定したものとすることができる。また、先の基板への処理が終了した時点で、チャンバ内が次の基板を受け入れるのに適した温度となっているため、直ちに次の基板への処理を開始することが可能である。これによりスループットの向上を図ることができる。
【0067】
超臨界処理によって高温となったチャンバ内の温度を下げるために、処理流体の断熱膨張による温度低下を利用することができる。すなわち、高圧の気体として処理空間SPに充満している処理流体を比較的高い排出速度で排出することで処理流体を急速に膨張させて、処理流体の温度を低下させる。これにより、処理空間SPに面するチャンバ内壁面を冷却することができる。排出速度を適切に設定することで、このときの温度低下の速度を制御し、最終的にチャンバ内を目標温度Ttまで低下させることが可能となる。
【0068】
超臨界状態から液相を経ることなく気相に転移させることに着目した減圧処理では、温度低下による液相への転移を防止するため、処理流体の排出速度は比較的緩やかなものとすることが必要である。したがって、このときの排出速度を維持したまま減圧を継続すると、大気圧までの減圧には長い時間を要することになる。
【0069】
一方、気相に転移した後の処理流体については、より高い排出速度で排出することが可能であり、これにより減圧の所要時間を短縮することができる。そして、このときの処理流体の断熱膨張による温度低下を積極的に利用して、減圧終了時のチャンバ内温度の適正化を図ることも可能となる。これを可能とするために、本実施形態では上記のような2段階の減圧を実行する。
【0070】
図5は超臨界処理における各部の状態変化を示すタイミングチャートである。より具体的には、図5は、予め定められた給排レシピに基づく処理流体の供給および排出のタイミングと、これに伴う処理チャンバ12内の状態変化との関係を示す図である。まず、処理流体の供給および排出のタイミングおよびその量を規定した給排レシピについて、図5(a)を参照して説明する。
【0071】
初期状態では、処理チャンバ12に基板Sを収容するために蓋部材13が開かれ、処理空間SPは大気開放されている。すなわちチャンバ内圧力はほぼ大気圧Paであり、臨界圧力Pcより十分に小さい。一方、処理流体としての二酸化炭素の臨界温度Tcが室温に近いことから、チャンバ内の初期温度Tiは臨界温度Tcに近い温度となっている。図では初期温度Tiが臨界温度Tcよりも少し高いが、臨界温度Tcより低いケースもあり得る。
【0072】
基板Sの収容後、時刻T1において気相の処理流体が所定の流量で処理空間SPに導入開始される。このとき、一定量での排出も行われる。排出流量に対して供給流量を大きくすることで、チャンバ内圧力が次第に上昇する。チャンバ内圧力が臨界圧力Pcに達する時刻T2において、チャンバ内温度が臨界温度Tcを上回っていれば処理流体は超臨界状態に相転移する。
【0073】
時刻T3において、処理流体の供給量がチャンバ内圧力を略一定に維持する量に調整される。これにより、超臨界状態の処理流体が充満するチャンバ内の圧力および温度が概ね一定に維持される。そして、時刻T4において減圧が開始される。すなわち、処理流体の供給量が大きく減らされる一方で排出量が増やされることで排出過多となり、チャンバ内圧力が低下する。処理流体の膨張に伴ってチャンバ内温度も低下するが、臨界温度Tcを下回らないように、比較的緩やかな減圧速度で減圧が実行される。チャンバ内の圧力変化に応じて処理流体の排出速度を制御することで、減圧速度を調整することが可能である。このときの減圧処理が「第1の減圧工程」であり、図5では「減圧(1)」と記される。
【0074】
チャンバ内圧力が臨界圧力Pc以下に低下する時刻T5において、処理流体は気相に相転移する。その後、時刻T6において処理流体の排出速度が増大され、これにより減圧処理は「第2の減圧工程」に移行する。図5では段2の減圧工程が「減圧(2)」と記される。例えば、チャンバ内圧力の検出値が臨界圧力Pcより低い規定値になったときに処理流体の排出速度を増大させる制御を行うことにより、第1の減圧工程から第2の減圧工程への移行を実現することができる。また、チャンバ内圧力の検出値が臨界圧力Pcより低く、かつチャンバ内温度の検出値が臨界温度Tcより高い規定値まで低下したときに処理流体の排出速度を増大させる制御であってもよい。
【0075】
チャンバ内圧力がほぼ大気圧Paまで低下する時刻T7以降、処理空間SPを大気開放して基板Sを搬出することができる。急速な減圧によってチャンバ内の温度は低下し、時刻T7においてチャンバ内温度が目標温度Ttとなるように、減圧速度(処理流体の排出速度)が調整される。
【0076】
この例では目標温度Ttと初期温度Tiとが等しくなる設定であり、したがって減圧処理の終了時点でチャンバ内温度は初期温度Tiに戻っている。このため、処理済みの基板の搬出後、直ちに新たな未処理基板を受け入れて処理を行う場合でも、それぞれの処理における温度条件は同じであり、同等の処理結果を経ることができる。すなわち、この実施形態では、複数の基板を安定した処理品質で処理することが可能である。
【0077】
なお、図5(a)の例では、第2の減圧工程においては減圧の進行に伴いチャンバ内温度が漸減し、圧力が大気圧まで低下する時刻T7において、チャンバ内温度も目標温度Ttまで下がる態様となっている。しかしながら、必要なのは、処理空間SPの大気開放が可能な、つまり処理済みの基板Sを処理チャンバ12から取り出し可能なタイミングにおいてチャンバ内の温度が目標温度Ttとなっていることである。この意味において、チャンバ内圧力が大気圧まで低下する時刻とチャンバ内温度が目標温度Ttに到達する時刻とが同じである必要はない。
【0078】
例えば図5(b)に示す変形例のように、チャンバ内圧力が大気圧まで低下する時刻T7よりも前に、チャンバ内温度が目標温度Ttまで低下する態様であってもよい。この場合、チャンバ内温度が目標温度Ttに到達する時刻T8よりも後については、処理流体の断熱膨張によるさらなる温度低下を抑制するため、処理流体の排出速度を小さくすることが好ましい。
【0079】
また例えば図5(c)に示す変形例のように、チャンバ内温度が目標温度Ttに到達する時刻T8においてチャンバ内圧力が大気圧より高い場合でも、その差がさほど大きくなければ、一気に大気圧まで減圧することができる。例えば蓋部材13を開くことで処理空間SPを大気開放してもよく、これによりチャンバ内圧力は大気圧となる。このように、チャンバ内圧力が予め大気圧に近い圧力まで十分に低下していれば、その後の大気開放等による圧力変化によっても大きな温度変化は生じないと考えられる。したがって、チャンバ内温度が目標温度Ttに到達した時点でチャンバ内圧力が十分に低下していれば、大気圧まで低下するのを待つことなく処理空間SPを大気開放することも可能である。
【0080】
このときの制御は、チャンバ内の圧力および温度を監視しておき、チャンバ内温度が目標温度Ttに到達した時刻T8においてチャンバ内圧力が規定値を下回っていれば、管理下での減圧を停止して直ちに処理空間SPを大気開放する、というものになる。時刻T8においてチャンバ内圧力が規定値よりも高ければ、規定値まで低下した時点で減圧を停止することができる。
【0081】
以上のように、この実施形態では、超臨界処理の実行後の減圧工程を、超臨界状態の処理流体を液相を介することなく気相に転移させることを主目的とする第1の減圧工程と、気相に転移した後の処理流体の断熱膨張による冷却効果を利用して処理後のチャンバ内温度を適正に保ちつつチャンバ内を大気圧まで減圧する第2の減圧工程との2段階に分けて実行している。これら2段階の処理の間では、減圧制御のために着目される制御因子(圧力、温度)と処理流体の排出速度とが互いに異なっている。
【0082】
このようにすることで、超臨界処理流体を直接気相に転移させて排出することで処理結果を良好なものとすることができ、また処理後のチャンバ内温度を適正に保つことで複数の基板に対する処理結果を安定したものとすることができる。そのため、この実施形態では、複数の基板を良好かつ安定した処理品質で処理することが可能である。
【0083】
以上説明したように、上記実施形態の基板処理装置1においては、処理チャンバ12が本発明の「チャンバ」として機能しており、開口121が本発明の「開口」に相当している。また処理空間SPが本発明の「内部空間」に相当している。また、支持トレイ15および蓋部材13が、本発明の「支持トレイ」および「蓋部」としてそれぞれ機能している。また、流体供給部57、流体回収部55および制御ユニット90が、それぞれ本発明の「流体供給部」、「流体排出部」および「制御部」として機能している。また検出部173,174が本発明の「検出部」として機能している。
【0084】
また、上記実施形態の基板処理方法(図2)においては、ステップS101~S104が本発明の「超臨界処理工程」に相当しており、ステップS105、S106がそれぞれ本発明の「第1の減圧工程」、「第2の減圧工程」に相当している。
【0085】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、第1および第2の減圧工程における減圧制御については、上記したように検出部173,174の検出結果に基づき処理流体の排出速度を調整する態様に限定されず、より簡易的には次のようにすることもできる。
【0086】
上記実施形態の超臨界処理においては、処理後のチャンバ内温度が管理されているため、複数枚の基板に対し順次処理を行う場合の温度変化プロファイルをほぼ同じとすることができる。言い換えれば、処理流体の導入から排出までの間におけるチャンバ内の温度変化には再現性がある。このことから、予備実験によってチャンバ内の圧力および温度変化を予め測定しておけば、その結果から、第1および第2の減圧工程それぞれにおける処理流体の排出速度およびその持続時間を実験的に決定することが可能である。この結果を用いて排出制御を行うようにすれば、処理中に圧力および温度の検出結果を用いなくても、上記実施形態と同様の減圧制御を実現することが可能である。
【0087】
また、上記実施形態の説明では、複数の基板を順に処理する場合に最初の基板を処理する時の初期温度の制御については言及していない。しかしながら、処理の安定性を考えたとき、このときの初期温度も適正温度に維持されていることが望ましい。この目的のために、また外乱に起因する温度変化を抑制するために、基板処理装置1に温度安定化のための構成がさらに設けられてもよい。例えば処理チャンバ12の表面または内部にヒーターが設けられてもよい。また支持トレイ15がヒーターを内蔵するものであってもよい。
【0088】
また、上記実施形態の処理で使用される各種の化学物質は一部の例を示したものであり、上記した本発明の技術思想に合致するものであれば、これに代えて種々のものを使用することが可能である。
【0089】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る基板処理方法において、第2の減圧工程では、内部空間内の処理流体を断熱膨張させて内部空間の温度を低下させることができる。断熱膨張による温度低下は減圧工程において必然的に生じる現象であるが、これを加味した減圧制御を行うことにより、チャンバ内の温度を目標温度にして減圧を終了させることができる。
【0090】
また例えば、目標温度は臨界温度以上であってもよい。1枚の基板に対する処理が終了した後に次の基板に対する処理を実行する場合、チャンバ内の温度が臨界温度以上に維持されていれば、導入される処理流体を短時間で超臨界状態に至らせることが可能であり、効率よく処理を行うことができる。
【0091】
また例えば、第1の減圧工程においては、内部空間の圧力が臨界圧力より低い規定値まで低下したときに第2の減圧工程を開始することができる。第1の減圧工程ではチャンバ内温度が臨界温度を下回らないようにして減圧が実行される。したがって、内部空間が臨界圧力よりも低圧になれば、チャンバ内の処理流体は超臨界状態から液相を経ることなく気相に転移していると言える。このタイミングをもって第2の減圧工程を実行すれば、液相への転移を回避しつつ、処理流体の圧力および温度をさらに低下させることができる。
【0092】
また例えば、第2の減圧工程においては、内部空間の温度が目標温度まで低下した後に、排出速度を低下させてもよい。この状態でさらに急速な排出を継続すると、チャンバ内温度がさらに低下してしまうことになる。排出速度を低下させることで、さらなる温度低下を抑止しつつ内部空間の圧力を低下させることができる。
【0093】
一方、例えば第2の減圧工程においては、内部空間の温度が目標温度まで低下した後に、内部空間を大気開放するようにしてもよい。この時点で内部空間が大気圧まで減圧されていなかったとしても、大気圧との差異が小さければ、大気開放によるさらなる温度低下は軽微である。そこで、内部空間の温度が目標温度まで低下した時点で大気開放を行うことで、処理時間の短縮を図ることが可能となる。
【0094】
また、この基板処理方法は、内部空間が大気開放された後に、基板を搬出し、未処理基板をチャンバ内に搬入して超臨界処理工程を実行することで、複数の基板を順番に処理するように構成されてもよい。本発明では1枚の基板に対する処理が終了する時点でのチャンバ内温度が管理されているため、次の基板を処理する際の初期温度を適正値にしておくことができる。このため、このように複数の基板を順番に処理する場合に、それらの処理結果を安定したものとすることが可能である。
【0095】
また、本発明に係る基板処理装置は、例えば、内部空間の圧力および温度を検出する検出部を備え、制御部は、検出部の検出結果に基づき流体供給部および流体排出部を制御することができる。このような構成によれば、内部空間の圧力および温度の検出結果の少なくとも一方を用いて減圧の進行を制御することで、基板に対する処理を良好に行うことができ、しかも、処理終了時のチャンバ内温度を適正に管理して複数基板への処理を安定的に行うことが可能となる。
【0096】
また例えば、チャンバの側面に、内部空間と連通する開口が設けられ、基板を水平姿勢で支持して、開口を介し内部空間に進入可能な支持トレイと、支持トレイが内部空間に収容された状態で開口を閉塞する蓋部とが設けられてもよい。このような構成によれば、内部空間に対し支持トレイを出し入れすることで、基板の搬入および搬出を行うことができる。また、蓋部が開口を閉塞することで内部空間を気密状態として高圧処理を実行することが可能となる。さらに、蓋部が開口から離間することで、内部空間の大気開放を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
この発明は、チャンバ内に導入した処理流体を用いて基板を処理する処理全般に適用することができる。例えば、半導体基板等の基板を超臨界流体によって1枚ずつ順番に処理する、枚葉式の基板処理に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 基板処理装置
12 処理チャンバ(チャンバ)
13 蓋部材(蓋部)
15 支持トレイ
55 流体回収部(流体排出部)
57 流体供給部
90 制御ユニット(制御部)
121 開口
173,174 検出部
S 基板
S102~S104 超臨界処理工程
S105 第1の減圧工程
S106 第2の減圧工程
SP 処理空間(内部空間)
図1
図2
図3
図4
図5