(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-30
(45)【発行日】2025-05-12
(54)【発明の名称】引き抜き工具
(51)【国際特許分類】
B25B 27/14 20060101AFI20250501BHJP
【FI】
B25B27/14 Z
(21)【出願番号】P 2021078497
(22)【出願日】2021-05-06
【審査請求日】2024-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000141521
【氏名又は名称】株式会社技研製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】成岡 蓮生
(72)【発明者】
【氏名】小野川 佑晟
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03867753(US,A)
【文献】実開昭52-087982(JP,U)
【文献】米国特許第03696492(US,A)
【文献】実公昭28-010300(JP,Y1)
【文献】米国特許第01064400(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 27/00 - 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材
の孔部に嵌合
し、内部と外部とを連通させる一対の挿通孔を相対する位置に有する円筒状の第2部材を、所定の引抜方向に引き抜いて当該第1部材から分離させる引き抜き工具であって、
第2部材に係止される係止爪を含む係止爪支持体と、
前記第1部材に係止される前記引抜方向と逆方向の端面を有し、前記係止爪支持体を前記引抜方向及び前記引抜方向と逆方向に沿って案内するガイドと、を備え、
前記係止爪支持体は、フック部と、爪移動ガイド軸部材と、可動フレームとを有し、
前記爪移動ガイド軸部材は、両端で前記可動フレームに支持され、
前記フック部は、互いに逆方向の外向きに張り出す前記係止爪を有する2本が設けられ、それぞれの前記フック部は、一端部に前記係止爪を有し、他端部にスライドガイド孔を有し、
前記爪移動ガイド軸部材は、前記引抜方向に対して垂直に配置され、前記スライドガイド孔に挿入されて前記フック部を摺動可能に保持し、
前記2本のフック部は、共に1本の前記爪移動ガイド軸部材に保持され、前記爪移動ガイド軸部材に沿って近づき互いに当接するまで移動可能に保持されており、
前記可動フレームと前記ガイドは、いずれも、前記引抜方向に延在する一対の脚部を両端に有する門型構造であって、
前記ガイドの一対の脚部の内側面と、前記可動フレームの一対の脚部の外側面とが対向するように、前記ガイドの門型構造の中に前記可動フレームが収容されるように配置され、前記可動フレームの前記爪移動ガイド軸部材に沿った方向の動きが抑制される引き抜き工具。
【請求項2】
握られることにより、前記ガイドに対し前記係止爪支持体を前記引抜方向に移動させて前記
第2部材を引き抜く引き抜き力を加えることが可能な握り手が、前記係止爪支持体と前記ガイドとに構成されており、
前記係止爪支持体の一部であり前記握り手を構成する握り手構成部と、前記ガイドの一部であり前記握り手を構成する握り手構成部との間の隙間を保持する挟み込み防止用の規制部材を有し、
前記ガイドに対し前記係止爪支持体を前記引抜方向及び前記引抜方向と逆方向に沿って摺動可能に案内する引抜方向ガイド軸部材が、2本設けられ、前記握り手の両端にそれぞれ配置されており、
前記引抜方向ガイド軸部材は、前記係止爪支持体からの延出長さが調節可能である請求項1に記載の引き抜き工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き抜き工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1-3には、互いに嵌合する2つの部材(第1部材と第2部材とする。)を分離させる引き抜き工具が記載されている。特許文献1-3には、第1部材に嵌合する第2部材を、所定の引抜方向に引き抜いて当該第1部材から分離させる引き抜き工具が記載されている。これらの文献では、第1部材は穴等の円筒内周面を有した部材であり、第2部材は円筒部材である。そして、第1部材の内側に嵌合した第2部材を引き抜く。そのために特許文献1-3に記載の引き抜き工具は、第2部材に係止される係止爪を含む構成部を、第1部材に係止される引抜方向と逆方向の端面を有した構成部に対してねじ機構により移動させて引き抜き工程を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭53-88000号公報
【文献】実開昭61-143717号公報
【文献】特開2015-208792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、以上の従来のねじ機構により引き抜き工程を行う引き抜き工具にあっては、引き抜き作業に労力と時間を要する。
【0005】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、引き抜き工具による引き抜き作業の作業性を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための本発明の一つの形態は、第1部材の孔部に嵌合し、内部と外部とを連通させる一対の挿通孔を相対する位置に有する円筒状の第2部材を、所定の引抜方向に引き抜いて当該第1部材から分離させる引き抜き工具であって、
第2部材に係止される係止爪を含む係止爪支持体と、
前記第1部材に係止される前記引抜方向と逆方向の端面を有し、前記係止爪支持体を前記引抜方向及び前記引抜方向と逆方向に沿って案内するガイドと、を備え、
前記係止爪支持体は、フック部と、爪移動ガイド軸部材と、可動フレームとを有し、
前記爪移動ガイド軸部材は、両端で前記可動フレームに支持され、
前記フック部は、互いに逆方向の外向きに張り出す前記係止爪を有する2本が設けられ、それぞれの前記フック部は、一端部に前記係止爪を有し、他端部にスライドガイド孔を有し、
前記爪移動ガイド軸部材は、前記引抜方向に対して垂直に配置され、前記スライドガイド孔に挿入されて前記フック部を摺動可能に保持し、
前記2本のフック部は、共に1本の前記爪移動ガイド軸部材に保持され、前記爪移動ガイド軸部材に沿って近づき互いに当接するまで移動可能に保持されており、
前記可動フレームと前記ガイドは、いずれも、前記引抜方向に延在する一対の脚部を両端に有する門型構造であって、
前記ガイドの一対の脚部の内側面と、前記可動フレームの一対の脚部の外側面とが対向するように、前記ガイドの門型構造の中に前記可動フレームが収容されるように配置され、前記可動フレームの前記爪移動ガイド軸部材に沿った方向の動きが抑制される引き抜き工具である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、引き抜き工具による引き抜き作業の作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る引き抜き工具の斜視図である。
【
図2】
図1の引き抜き工具を用いた引き抜き工程の一場面を示す引き抜き工具の正面図及び引抜対象部材の断面図である。
【
図3】
図1の引き抜き工具を用いた引き抜き工程の一場面を示す引き抜き工具の正面図及び引抜対象部材の断面図であり、
図2に続く場面を示す。
【
図4】
図1の引き抜き工具を用いた引き抜き工程の一場面を示す引き抜き工具の正面図及び引抜対象部材の断面図であり、
図3に続く場面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0010】
図1に引き抜き工具1の斜視図を、
図2-
図4に引き抜き工具1を用いた引き抜き工程図を示す。引抜方向をZとし、引抜方向Zに対して垂直で互いに垂直に交わる2軸をXYとする。
本実施形態の引き抜き工具1は、係止爪支持体10と、ガイド 20とを備える。係止爪支持体10は、2本のフック部11,11と、爪移動ガイド軸部材12と、可動フレーム13と、2本のボルト14,14と、引抜方向ガイド軸部材としての2本のボルト15,15と、ナット16,16とを有する。
【0011】
引き抜き工具1は、第1部材80に嵌合する第2部材90を、所定の引抜方向Zに引き抜いて当該第1部材80から分離させる引き抜き工具である。
図示例では第1部材80はマニホールドブロックであり、第2部材90はバルブカートリッジである。第1部材80に設けられた孔部81に、円筒状の第2部材90が嵌合する。すなわち、第2部材90は、第1部材80の内側に嵌合するものである。
円筒状の第2部材90の側壁には、円筒構造の内部と外部を連通させる連通孔91,91を180°の相対する位置に有する。連通孔91,91を、フックを掛ける対象部位として、引き抜き工具1を適用する。
【0012】
各フック部11は、第2部材90に係止される鉤状の係止爪11aを含む。各フック部11は、一端部に係止爪11aを有し、他端部11cにスライドガイド孔11bを有する。爪移動ガイド軸部材12は、引抜方向Zに対して垂直(X方向)に配置され、スライドガイド孔11bに挿入されてフック部11をX方向に摺動可能に保持する。これにより、フック部11をX方向に移動し位置調整しても、フック部11の引抜方向Zに対する角度が変わることがなく、引き抜き作業時に係止爪11aの係止が解かれる可能性を抑えることができる。
【0013】
2本のフック部11,11は、互いに逆方向の外向き(X方向で互いに逆方向)に張り出す係止爪11a,11aを有する。
2本のフック部11,11は、共に1本の爪移動ガイド軸部材12に保持され、爪移動ガイド軸部材12に沿って近づき互いに当接するまで移動可能に保持されている。したがって、係止爪11a,11a間の距離を小さくでき、第2部材90の内側に挿入しやすい。1対のフック部11,11の挿入可能幅を小さくすることができ、より小さな部品の引抜も可能である。
【0014】
フック部11は、係止爪11aと他端部11cとの間を繋ぎ引抜方向Zに延在するアーム部11dを有する。
スライドガイド孔11b(他端部11c)が係止爪11aと同方向に張り出し、スライドガイド孔11bの孔長Lが、アーム部11dの幅Wより長い。
スライドガイド孔11bの孔長Lが長いことにより、フック部11が爪移動ガイド軸部材12に精度よく保持され、ガタツキが抑えられる。
また、スライドガイド孔11b(他端部11c)が係止爪11aと同方向に張り出していることによって他端部11cにおける支点と係止爪11aとのX方向のずれが小さく抑えられ、引き抜き作業時にフック部11へのモーメント荷重を小さく抑えられる。
したがって、爪移動ガイド軸部材12とアーム部11dの略90°の角度、及び爪移動ガイド軸部材12と係止爪11aの張り出し方向の平行度が精度よく保持される。これにより、引き抜き作業時に係止爪11aが第2部材90の連通孔91から外れてしまうことが抑制され、強い引き抜き力を加えることができる。
【0015】
爪移動ガイド軸部材12は、X方向を軸方向とした棒状で、両端部にボルト14,14を挿通するための孔12a,12aを有する。
可動フレーム13は、門型構造を成し、中央のX方向に延在する梁部分が握り手構成部G1に相当する。両端の脚部13a,13aは、Z方向に延在する。脚部13a,13aには、Z方向に螺子孔13b,13bが穿設されている。螺子孔13b,13bには雌螺子が設けられている。
ボルト14,14が孔12a,12aに挿通され、螺子孔13b,13bに螺合締結されることで、爪移動ガイド軸部材12の両端部が可動フレーム13の脚部13a,13aの下端に固定される。すなわち、爪移動ガイド軸部材12は、両端で可動フレーム13に支持される。爪移動ガイド軸部材12は両端で支持されるので、上述したように2本のフック部11,11を当接させることが可能である。また、爪移動ガイド軸部材12は両端で支持されるので、2本のフック部11,11を支持する支持力が高い。
【0016】
ガイド 20もまた門型構造を成す。中央のX方向に延在する梁部分が握り手構成部G2に相当する。握り手構成部G1と握り手構成部G2とで握り手Gが構成される。両端の脚部20a,20aは、Z方向に延在する。ガイド 20の脚部20a,20aの内側面と、可動フレーム13の脚部13a,13aの外側面とが対向するようにして、ガイド 20の門型構造の中に可動フレーム13が収容されるように配置されている。ガイド 20の脚部20a,20aの内側面と、可動フレーム13の脚部13a,13aの外側面とは、擦れる程度とするか、又は隙間を空けてもよい。このような構成にすることで、もし引抜の際、可動フレーム13の脚部13a,13aに荷重がかかるなどして横方向に動こうとしても、ガイド 20の脚部20a,20aの内側面によりその動きが抑制される。
このような配置において、螺子孔13b,13bと同軸線上となるように、引抜方向ガイド孔20b,20bがガイド 20に形成されている。引抜方向ガイド孔20b,20bの内周面と、引抜方向ガイド軸部材としてのボルト15,15の螺子無し部分の外周面とは、摺動する寸法に構成されている。
ボルト15,15が引抜方向ガイド孔20b,20bに、門型構造の外側から挿通され、ボルト15,15の先端部の雄螺子部がナット16,16、続いて螺子孔13b,13bに螺合している。
可動フレーム13の握り手構成部G1からのボルト15,15の延出長さが適度に調整されて、ナット16,16により締結固定されている。
【0017】
引抜方向ガイド軸部材としてのボルト15,15は、ガイド 20に対し係止爪支持体10を引抜方向及び引抜方向と逆方向(Z軸の双方向)に沿って案内する。
この引抜方向ガイド軸部材が2本設けられ、握り手Gの両端にそれぞれ配置されている。これにより、握り手Gのスペースがとりやすくなっているとともに、握り手Gからフック部11,11に引き抜き力を効率よく伝達しやすい。
【0018】
ナット16,16は、挟み込み防止用の規制部材としても機能する。
すなわち、ナット16,16は、係止爪支持体10の一部であり握り手Gを構成する握り手構成部G1と、ガイド 20の一部であり握り手Gを構成する握り手構成部G2との間の隙間Cを保持する挟み込み防止用の規制部材として機能する。握り手Gが握られても、ナット16,16の高さ分だけ、隙間Cは保持される(
図4参照)。これにより、手を挟みにくく、使用者に損傷や痛みを与えることが防止される。
【0019】
ガイド 20の脚部20a,20aの下端面20c,20cは、第1部材80に係止される引抜方向と逆方向(Z軸の負の方向)の端面に相当する。
以上に説明した引抜方向ガイド軸部材としての2本のボルト15,15が引抜方向ガイド孔20b,20bに摺動することで、ガイド 20は、係止爪支持体10を引抜方向Z及び引抜方向Zと逆方向に沿って案内する。
【0020】
さて、引き抜き工具1を用いた引き抜き作業の手順につき説明する。
まず、
図2に示すように2本のフック部11,11を略中央で近づけ、必要により互いに当接させて、第2部材90に挿入可能な近さにし、第2部材90の円筒構造の内部に挿入する。
次に、
図3に示すようにフック部11,11を互いに引き離していくことで、連通孔91,91に係止爪11a,11aを侵入させる。
次に、
図4に示すように手Hで握り手Gを握り、第2部材90を第1部材80の孔部81から引き抜く。この時、手Hの握力により引き抜き力F1が発生し引き抜き工具1に加えられる。引き抜き力F1は第2部材90に加えられ、その反力F2が下端面20c,20cから第1部材80の上面に加えられることで、ガイド 20は第1部材80に対して動かず、フック部11,11が含まれる係止爪支持体10が第1部材80に対してZ方向に移動し、第2部材90を第1部材80から引き抜くことができる。
以上のように 手早く引き抜き作業を行うことができ、作業性が良好である。
本実施形態の引き抜き工具1は、握られることにより、ガイド 20に対し係止爪支持体10を引抜方向Zに移動させて第1部材80を引き抜く引き抜き力を加えることが可能な握り手Gが、係止爪支持体10とガイド 20とに構成されている。そのため、上記の引き抜き作業が可能である。
【0021】
以上のように本実施形態の引き抜き工具1によれば、互いに嵌合する2つの部材を分離させるための引き抜き作業を手早く行うことができ、作業性が良好である。
さらに、次の引き抜き作業がある場合には、ガイド 20に対して係止爪支持体10を摺動して下げる(移動させる)ことで、次の引き抜き作業に迅速に移行し、またその引き抜き作業も迅速に終えることができる。短時間のうちに繰り返し引き抜き作業を行うことも可能である。
したがって、本実施形態の引き抜き工具1によれば、引き抜き工具による引き抜き作業の作業性を向上することができる。
【0022】
以上の実施形態の引き抜き工具1は、第1部材の内側に嵌る第2部材を引き抜くために構成されている。これに拘わらず、本発明を第1部材の外側に嵌る第2部材を引き抜く用途のために構成して実施してもよい。例えば、軸に嵌るベアリングである。その場合、係止爪を内向きにし、ガイドの下端部には第1部材に係止(当接)できるように構造を追加すればよい。
また、係止爪の形状は、第2部材の係合させる部分の形状に合わせて適宜に設計すればよい。
【符号の説明】
【0023】
1 引き抜き工具
10 係止爪支持体
11 フック部
11a 係止爪
11b スライドガイド孔
11d アーム部
12 爪移動ガイド軸部材
13 可動フレーム
13a,13a脚部
13b,13b螺子孔
14 ボルト
15 ボルト(引抜方向ガイド軸部材)
16 ナット
20 ガイド
20a 脚部
20b 引抜方向ガイド孔
20c 下端面
80 第1部材
81 孔部
90 第2部材
91 連通孔
G 握り手
G1 握り手構成部
G2 握り手構成部
Z 引抜方向