(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-30
(45)【発行日】2025-05-12
(54)【発明の名称】アンドロゲン受容体アンタゴニストおよびその中間体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 405/04 20060101AFI20250501BHJP
C07D 231/12 20060101ALI20250501BHJP
C07D 231/14 20060101ALI20250501BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250501BHJP
【FI】
C07D405/04
C07D231/12 Z
C07D231/14
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022568665
(86)(22)【出願日】2021-05-10
(86)【国際出願番号】 FI2021050343
(87)【国際公開番号】W WO2021229145
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2024-04-15
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】300046083
【氏名又は名称】オリオン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グルマン、アルネ
(72)【発明者】
【氏名】カルヤライネン、オスカリ
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-511895(JP,A)
【文献】国際公開第2011/051540(WO,A1)
【文献】特表2018-516857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 405/04
C07D 231/12
C07D 231/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(Ia)または(Ib)の化合物
【化1】
(式中、R
1およびR
2は、水素、またはR
1およびR
2が一緒に直鎖または分岐鎖のC
2-6アルキル鎖または-C(O)-CH
2-N(CH
3)-CH
2-C(O)-鎖を形成する)
を、式(II)の4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル
【化2】
と、不均一系パラジウム触媒、溶媒および塩基の存在下、昇温下で反応させることを含む、式(III)の2-クロロ-4-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾル-5-イル)ベンゾニトリル
【化3】
の製造のための方法であって、前記溶媒がジメチルスルホキシド(DMSO)を含む方法。
【請求項2】
不均一系パラジウム触媒が、パラジウム炭素、硫酸バリウム担持パラジウム、金属酸化物担持パラジウム、アルミナ担持パラジウム、二酸化ケイ素担持パラジウムまたはゼオライト担持パラジウムである請求項1記載の方法。
【請求項3】
溶媒がジメチルスルホキシド(DMSO)および水の混合物を含む請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
水のDMSOに対する比は、容量で、
1:99~50:50である請求項3記載の方法。
【請求項5】
水のDMSOに対する比は、容量で、5:95~20:80である請求項4記載の方法。
【請求項6】
塩基がジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)である請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
反応が相移動触媒の存在下で実施される請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
相移動触媒が四級アンモニウム塩である請求項7記載の方法。
【請求項9】
四級アンモニウム塩が、テトラブチルアンモニウムブロミドまたはテトラブチルアンモニウムクロリドである請求項8記載の方法。
【請求項10】
反応が、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)である塩基およびテトラブチルアンモニウムブロミドまたはテトラブチルアンモニウムクロリドである相移動触媒の存在下で、DMSO-水溶媒中で行われる請求項1記載の方法。
【請求項11】
反応温度は、60℃~100℃である請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
式(II)の化合物の量に対して使用されるパラジウム触媒の量は、0.2~1モル%である請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
反応が窒素雰囲気下で実施される請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
反応時間は、1~5時間である請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
(b)反応混合物から触媒を取り除く工程;
(c)反応混合物を冷却するために水を添加する工程;および
d)式(III)の沈殿した化合物を単離する工程
をさらに含む請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
反応混合物から触媒が除去される前にエタノールを反応混合物に添加することをさらに含む請求項15記載の方法。
【請求項17】
式(III)の化合物の単離が、10~30℃で実施される請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
式(Ia)の化合物は、以下の化合物
【化4】
から選択される請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
式(Ia)の化合物が、1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1H-ピラゾール(3)である請求項18記載の方法。
【請求項20】
式(V)の2-クロロ-4-(1H-ピラゾル-3-イル)ベンゾニトリル
【化5】
の製造のための方法であって、
(a)式(III)の化合物
【化6】
を得るため、式(Ia)または(Ib)の化合物
【化7】
(R
1およびR
2は、水素、またはR
1およびR
2が一緒に直鎖または分岐鎖のC
2-6アルキル鎖または-C(O)-CH
2-N(CH
3)-CH
2-C(O)-鎖を形成する)
を、式(II)の4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル
【化8】
と、不均一系パラジウム触媒、溶媒および塩基の存在下、昇温下で反応させる工程であって、前記溶媒がジメチルスルホキシド(DMSO)を含む、工程;
(b)式(III)の化合物をHClで処理する工程;
(c)式(V)の化合物を得るために塩基を加える工程
を含む方法。
【請求項21】
式(1A)の化合物
【化9】
の製造のための方法であって、
(a)式(III)の化合物
【化10】
を得るため、式(Ia)または(Ib)の化合物
【化11】
(R
1およびR
2は、水素、またはR
1およびR
2が一緒に直鎖または分岐鎖のC
2-6アルキル鎖または-C(O)-CH
2-N(CH
3)-CH
2-C(O)-鎖を形成する)
を、式(II)の4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル
【化12】
と、不均一系パラジウム触媒、溶媒および塩基の存在下、昇温下で反応させる工程であって、前記溶媒がジメチルスルホキシド(DMSO)を含む、工程;
(b)式(III)の化合物をHClで処理する工程;
(c)式(V)の化合物
【化13】
を得るために塩基を加える工程;
(d)式(VII)の化合物
【化14】
を生成するため、式(V)の化合物を式(VI)の化合物
【化15】
と反応させる工程;
(e)式(IX)の化合物
【化16】
を生成するため、式(VII)の化合物を式(VIII)の化合物
【化17】
と反応させる工程;および
(f)式(1A)の化合物を生成するため、式(IX)の化合物を還元する工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-((S)-1-(3-(3-クロロ-4-シアノフェニル)-1H-ピラゾル-1-イル)プロパン-2-イル)-5-(1-ヒドロキシエチル)-1H-ピラゾール-3-カルボキサミド(1A)などのカルボキサミド構造アンドロゲン受容体アンタゴニストの製造における中間体として有用である2-クロロ-4-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾル-5-イル)ベンゾニトリル(III)の製造のための改良されたプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
式(1A)の化合物N-((S)-1-(3-(3-クロロ-4-シアノフェニル)-1H-ピラゾル-1-イル)プロパン-2-イル)-5-(1-ヒドロキシエチル)-1H-ピラゾール-3-カルボキサミドおよびその誘導体は、特許文献1に開示されている。式(1A)の化合物およびその誘導体は、がん、特に前立腺がん、およびARアンタゴニズムが望まれる他の疾患の治療において有用である強力なアンドロゲン受容体(AR)アンタゴニストである。
【化1】
【0003】
特許文献1は、スキーム1に示すように式(III)、(IV)および(V)の中間体を経る式(1A)の化合物の製造のためのプロセスを開示している。
【化2】
【0004】
式(III)の化合物、すなわち2-クロロ-4-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾル-5-イル)ベンゾニトリルは、1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-ボロン酸ピナコールエステル(I)を、スズキ反応において4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル(II)と反応させることにより製造された。スズキ反応は、THF-水溶媒中で均質な(可溶)ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)クロリド触媒および炭酸ナトリウム塩基の存在下で実施される。反応完了後、溶媒をほとんど乾くまで蒸発させ、水を加えて式(III)の化合物を沈殿させた。
【0005】
式(III)の化合物を製造するための同様のプロセスが特許文献2に開示されている。スズキ反応は、THF-トルエン-水溶媒中で、均質なビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)クロリド触媒、炭酸ナトリウム塩基および相移動触媒(TBAB)の存在下で実施されている。式(III)の化合物の単離は、水を添加し、そして単離した有機相を乾固近くまで蒸発し、その後エタノールを添加し、そして結晶生成物をろ過することにより行われている。
【0006】
最後に、特許文献3は、式(III)の化合物を製造するための方法が開示され、そこでは、スズキ反応は、アセトニトリル-水溶媒中で、均質なPd(OAc)2触媒、炭酸カリウム塩基およびトリフェニルホスフィンの存在下で実施されている。式(III)の化合物は、反応混合物から水相を除去し、アンモニア水(25%)を加え、そして反応混合物を冷却し、その後水を添加し、そして結晶性生成物を単離することにより単離される。
【0007】
上記のプロセスは、生産コストのかなりな部分を占める高価な可溶性パラジウム触媒が反応後に処分され、そして微量のパラジウム触媒が単離された生成物に残留するという欠点を有する。
【0008】
したがって、大規模で式(III)の化合物などのARアンタゴニスト中間体の製造に好適であるより実用的かつ経済的なプロセスが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2011/051540号
【文献】国際公開第2012/143599号
【文献】国際公開第2016/162604号
【発明の概要】
【0010】
今、式(III)の化合物が、不均一系触媒により、高い収率、最終生成物の高い純度、および短い反応時間で大規模で製造できることが見出された。不均一系触媒は、固体支持体上に固定または担持されているため、容易に回復およびリサイクルすることができ、それにより実質的にプロセスの生産コストを減少させることができる。最終生成物において見られる触媒残渣のレベルも、実質的に減少される。
【0011】
したがって、本発明は、式(Ia)または(Ib)の化合物
【化3】
(式中、R
1およびR
2は、水素、またはR
1およびR
2が一緒に直鎖または分岐鎖のC
2-6アルキル鎖または-C(O)-CH
2-N(CH
3)-CH
2-C(O)-鎖を形成する)
を、式(II)の4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル
【化4】
と、不均一系パラジウム触媒、溶媒および塩基の存在下、昇温(elevated temperature)下で反応させることを含む、式(III)の2-クロロ-4-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾル-5-イル)ベンゾニトリル
【化5】
の製造のための方法を提供する。
【0012】
別の態様において、本発明は、式(V)の2-クロロ-4-(1H-ピラゾル-3-イル)ベンゾニトリル
【化6】
の製造のための方法であって、
(a)式(III)の化合物
【化7】
を得るため、式(Ia)または(Ib)の化合物
【化8】
(R
1およびR
2は、水素、またはR
1およびR
2が一緒に直鎖または分岐鎖のC
2-6アルキル鎖または-C(O)-CH
2-N(CH
3)-CH
2-C(O)-鎖を形成する)
を、式(II)の4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル
【化9】
と、不均一系パラジウム触媒、溶媒および塩基の存在下、昇温下で反応させる工程;
(b)式(III)の化合物をHClで処理する工程;
(c)式(V)の化合物を得るために塩基を加える工程
を含む方法を提供する。
【0013】
また別の態様において、本発明は、式(1A)の化合物
【化10】
の製造のためのプロセスであって、
(a)式(III)の化合物
【化11】
を得るため、式(Ia)または(Ib)の化合物
【化12】
(R
1およびR
2は、水素、またはR
1およびR
2が一緒に直鎖または分岐鎖のC
2-6アルキル鎖または-C(O)-CH
2-N(CH
3)-CH
2-C(O)-鎖を形成する)
を、式(II)の4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル
【化13】
と、不均一系パラジウム触媒、溶媒および塩基の存在下、昇温下で反応させる工程;
(b)式(III)の化合物をHClで処理する工程;
(c)式(V)の化合物
【化14】
を得るために塩基を加える工程;
(d)式(VII)の化合物
【化15】
を生成するために、式(V)の化合物を式(VI)の化合物
【化16】
と反応させる工程;
(e)式(IX)の化合物
【化17】
を生成するために式(VII)の化合物を、式(VIII)の化合物
【化18】
と反応させる工程;および
(f)式(1A)の化合物を生成するために式(IX)の化合物を還元する工程
を含むプロセスを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において使用される場合、用語「不均一系パラジウム触媒」は、触媒を、反応の完了後、例えばろ過により、反応媒体から容易に除去することができるように、固体支持体に固定または担持されているパラジウム触媒を指す。
【0015】
本明細書において使用される場合、用語「パラジウムのモル%」は、出発化合物の量(モル)に対する、反応工程において使用されるパラジウムの量(モル)のパーセンテージを指す。例えば、反応において0.005モルのパラジウムが1モルのブロモ-2-クロロベンゾニトリルに対して使用される場合、使用されるパラジウムのモル%は(0.005/1)×100モル%=0.5モル%である。
【0016】
互変異性:ピラゾール環の水素原子が1および2位間の互変異性平衡に存在し得る場合、ピラゾール環の水素原子を含む本明細書に開示される式および化学名は、問題とする化合物の互変異性を含んでいることが当業者により認識される。例えば、「2-クロロ-4-(1H-ピラゾル-3-イル)ベンゾニトリル」という化学名および対応する式(V)は、化合物、すなわち「2-クロロ-4-(1H-ピラゾル-5-イル)ベンゾニトリル」の互変異性体を含む。
【0017】
本発明によれば、式(III)の2-クロロ-4-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾル-5-イル)ベンゾニトリル
【化19】
は、
式(Ia)または(Ib)の化合物
【化20】
(式中、R
1およびR
2は、水素、またはR
1およびR
2が一緒に直鎖または分岐鎖のC
2-6アルキル鎖または-C(O)-CH
2-N(CH
3)-CH
2-C(O)-鎖を形成する)
を、式(II)の4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル
【化21】
と、不均一系パラジウム触媒、溶媒および塩基の存在下、昇温下で反応させることにより製造される。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、式(Ia)の化合物は、以下の化合物
【化22】
から選択される。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、式(II)の4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリルは、1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1H-ピラゾール(3)である式(Ia)の化合物と反応させる。
【0020】
反応に使用される不均一系パラジウム触媒は、固体支持体に固定または担持されているパラジウム触媒である。不均一系パラジウム触媒の例は、パラジウム炭素、硫酸バリウム担持パラジウム、金属酸化物(アルミナなど)担持パラジウム、二酸化ケイ素担持パラジウムまたはゼオライト担持パラジウムを含む。不均一系パラジウム触媒は、例えば、エボニック インダストリーズ アクチェンゲゼルシャフト社から商標Noblyst(登録商標)のもと商業的に入手可能である。例は、Noblyst(登録商標)P1064(5%パラジウム活性炭)、Noblyst(登録商標)P1070(10%パラジウム活性炭)、Noblyst(登録商標)P1090(5%パラジウム活性炭)、Noblyst(登録商標)P1092(5%パラジウム活性炭)、Noblyst(登録商標)P1093(5%パラジウム活性炭)、およびNoblyst(登録商標)P1095(5%パラジウム活性炭)を含み、これらは湿った自由流動性粉末として入手可能である。本発明の方法において、式(II)の化合物の量に対して使用されるパラジウムの量は、典型的には約0.2~約1モル%、好ましくは約0.4~約0.8モル%、例えば0.5モル%である。不均一系パラジウム触媒を使用するとトリフェニルホスフィンなどのパラジウム配位子が反応を妨害するということが見出されたため、反応は、好ましくは、そのような配位子の不存在下で行われる。
【0021】
反応は、好適な溶媒中で実施される。あらゆる好適な溶媒を使用することができるが、溶媒は、好ましくは、ジメチルスルホキシド(DMSO)を単独でまたは、より好ましくは水との混合物で含む。好適には、水のDMSOに対する比は、容量で、約0:100~約50:50、好ましくは約1:99~約35:65、より好ましくは約5:95~約20:80、例えば10:90である。
【0022】
反応を行うための特に好適な塩基は、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、トリメチルアミン(TEA)またはトリブチルアミン(TBA)などのトリアルキルアミンを含む有機塩基である。トリアルキルアミンが好ましく、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)が特に、化合物(II)に対して、1~2モル当量で、例えば1.3~1.6モル当量で好適に使用される。
【0023】
反応は、好ましくは、四級アンモニウム塩などの相移動触媒の存在下で実施される。テトラブチルアンモニウムブロミドおよびテトラブチルアンモニウムクロリドが特に好ましい。
【0024】
本発明の一つの特に好ましい実施形態によれば、反応は、DMSO-水溶媒中で、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)である塩基およびテトラブチルアンモニウムブロミドまたはテトラブチルアンモニウムクロリドである相移動触媒の存在下で行われる。
【0025】
式(Ia)、(Ib)および(II)の化合物は、商業的に利用可能であるか、または本技術分野において公知の方法にしたがい製造することができる。
【0026】
スズキ反応を実施するために、4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル(II)、式(Ia)または(Ib)の化合物、例えば1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1H-ピラゾール(3)、溶媒、塩基および相移動触媒の混合物が、まず窒素雰囲気下で撹拌され得る。反応は、窒素流下で好適に実施される。触媒が加えられ、混合物が約60℃~約100℃、好ましくは約70℃~約80℃、例えば、約72℃~約78℃である温度に加熱される。反応が完了するまで、例えば約1~約5時間、典型的には約2~約4時間かき混ぜられる。その後、混合物を、好適には、約50~70℃に冷却し、不均一系パラジウム触媒が、例えば窒素圧下でろ過により除去される。パラジウム炭素などの不均一系パラジウム触媒の反応混合物からの除去を容易にするため、エタノールがろ過の前に反応混合物に添加されてもよい。パラジウム炭素の粒子が、ろ過による反応混合物から触媒粒子の完全な除去を阻む、DMSOにおける非常に細かいディスパージョンを形成し得ることを見出した。エタノールの添加は、ろ過により除去しやすくするより大きな粒子に微細な触媒粒子の凝集を生じることが見出された。ろ過する前のDMSO:エタノールの比は、約10:2~約10:10、より典型的には約10:3~約10:5、例えば約10:4が好適である。
【0027】
そして、ろ過の温度は、好適には約30~50℃に調整され、化合物(III)の沈殿は、冷却された混合物にゆっくりと水を添加することにより実施される。添加される水の量は、反応が行われる溶媒の約60~120容量%、例えば約65~80容量%が好適である。得られる懸濁液は、次いで、約15~25℃にさらに冷却され、化合物(III)の沈殿が完了するために必要とされる期間、例えば約3~12時間撹拌され得る。沈殿された生成物が、例えばろ過により単離され、水で洗浄し、例えば減圧下、約40~60℃で乾燥され得る。方法は、典型的には化合物(III)をHPLCで純度99.5%以上とし、より典型的には約99.8%とする。
【0028】
式(III)の化合物の式(V)の化合物への変換は、本技術分野において既知の方法を用いて実施することができる。例えば、メタノール中に溶解された式(III)の化合物は、好適には0~15℃などの降温下で、少量の30%HCl(水溶液)で処理することができる。混合物はこの温度でテトラヒドロピラニル環がはずれるのに必要な時間、例えば2時間撹拌される。塩基、例えばアンモニア水(25%)は、その後混合物に上記の温度で加えられる。その後、水をゆっくりと、例えば10~20℃で加え、次いで、例えば6~24時間の期間撹拌する。式(V)の化合物は、混合物を、例えば約0~5℃に冷却し、沈殿を完了するのに十分な時間、好適には例えば約3~約5時間この温度で撹拌することにより沈殿させることができる。沈殿した生成物を、例えばろ過により単離することができる。
【0029】
式(1A)の化合物は、式(V)の化合物から、例えば特許文献1および特許文献2に記載された方法を用いて製造することができる。例えば、一実施形態によれば、式(1A)の化合物の製造のためのプロセスは、
(d)式(VII)の化合物
【化23】
を生成するために、式(V)の化合物
【化24】
を、式(VI)の化合物
【化25】
と反応させる工程;
(e)式(IX)の化合物
【化26】
を生成するために、式(VII)の化合物を式(VIII)の化合物
【化27】
と反応させる工程;および
(f)式(1A)の化合物を生成するために式(IX)の化合物を還元する工程
を含む。
【0030】
工程(d)の反応は、例えば、ミツノブ反応の条件、例えば、好適な溶媒、例えばTHFまたはEtOAc中、トリフェニルホスフィンおよびDIAD(ジイソプロピルアゾジカルボキシレート)の存在下、室温を用いて実施することができ、その後、HClで、そして最終的にはNaOHなどの塩基で処理することによりBoc-脱保護をする。
【0031】
工程(e)の反応は、好適な溶媒、例えばDCM中、DIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)、EDCI(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)および無水HOBt(1-ヒドロキシ-ベンゾトリアゾール)の組み合わせなどの、好適な活性化および結合試薬系の存在下で、室温で実施することができる。HOBtへの代替として、HBTU(O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N‘,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)を使用することができる。あるいは、DIPEAおよびT3P(1-プロパンホスホン酸環状無水物)の組み合わせが活性化および結合試薬系として使用することができる。
【0032】
工程(f)の反応は、式(IX)の化合物を、好適な溶媒、例えばエタノール中で、還元試薬、例えば水素化ホウ素ナトリウムで処理し、混合物をHCl水溶液で処理することにより、室温で実施することができる。
【0033】
本発明は、以下の非限定的な実施例によりさらに説明される。
【0034】
実施例1.パラジウム炭素を用いるDMSO/水溶媒中での2-クロロ-4-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾル-5-イル)ベンゾニトリル(III)の製造
窒素下のフラスコに、4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル(II)(20g、1モル当量)、1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1H-ピラゾール(3)(28.4g、1.05モル当量)、テトラブチルアンモニウムブロミド(1.49g、0.05モル当量)、ジメチルスルホキシド(87.5mL)、水(12.5mL)およびジイソプロピルエチルアミン(24.1mL、1.5モル当量)を入れた。混合物は、バキュームを用いて真空にすることにより脱気し、活発に撹拌しながら窒素を再導入した。この手順を3回繰り返した。触媒(5%パラジウム炭素、水湿潤、1.0g乾燥重量、0.005モル当量)を加え、混合物を2時間かけて75℃まで加熱した。混合物を反応が完了するまで(2~3時間)かき混ぜ、その後、混合物を65℃に冷却した。セライト(2g)およびエタノール(40mL)を加え、混合物をさらに約1時間かき混ぜた。触媒を窒素圧下でろ過により除去し、ろ過ケーキをジメチルスルホキシド(10mL)で洗浄した。ろ液の温度を45℃に調整した。水(67mL)を、約30分かけてゆっくりと加えた。得られた懸濁液を20℃に冷却し、生成物をろ過により集めた。ケーキを水(40mL)で洗浄し、次いで冷却されたエタノール(20mL)で洗浄した。生成物を50℃で真空乾燥し、24.5g(92%)の表題の化合物(III)を99.8a-%純度で得た。
【0035】
実施例2.アルミナ担持パラジウムを用いるDMSO/水溶媒中での2-クロロ-4-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾル-5-イル)ベンゾニトリル(III)の製造
窒素下のフラスコに、4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル(II)(5g、1モル当量)、1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1H-ピラゾール(3)(7.1g、1.05モル当量)、テトラブチルアンモニウムブロミド(0.37g、0.05モル当量)、ジメチルスルホキシド(42.5mL)、水(7.5mL)およびジイソプロピルエチルアミン(6.1mL、1.5モル当量)を入れた。混合物は、バキュームを用いて真空にすることにより脱気し、活発に撹拌しながら窒素を再導入した。この手順を3回繰り返した。触媒(5%アルミナ担持パラジウム、0.37g乾燥重量、0.0075モル当量)を加え、混合物を30分かけて75℃まで加熱した。混合物を反応が完了するまで(2~3時間)かき混ぜ、その後、混合物を50℃に冷却した。触媒を窒素圧下でろ過により除去し、ろ過ケーキをジメチルスルホキシド(5mL)で洗浄した。ろ液の温度を35℃に調整した。水(40mL)を、約30分かけてゆっくりと加えた。得られた懸濁液を20℃に冷却し、生成物をろ過により集めた。ケーキを水(25mL)で洗浄した。生成物を50℃で真空乾燥し、6.4g(95%)の表題の化合物(III)を99.8a-%純度で得た。
【0036】
実施例3.パラジウム炭素を用いるDMSO/水溶媒中での2-クロロ-4-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾル-5-イル)ベンゾニトリル(III)の製造
窒素下のフラスコに、4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル(II)(5g、1モル当量)、1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1H-ピラゾール(3)(7.1g、1.05モル当量)、テトラブチルアンモニウムクロリド(0.32g、0.05モル当量)、ジメチルスルホキシド(42.5mL)、水(7.5mL)およびジイソプロピルエチルアミン(6.1mL、1.5モル当量)を入れた。混合物は、バキュームを用いて真空にすることにより脱気し、活発に撹拌しながら窒素を再導入した。この手順を3回繰り返した。触媒(5%パラジウム炭素、水湿潤、0.25g乾燥重量、0.005モル当量)を加え、混合物を30分かけて75℃まで加熱した。混合物を反応が完了するまで(2~3時間)かき混ぜ、その後、混合物を50℃に冷却した。触媒を窒素圧下でろ過により除去し、ろ過ケーキをジメチルスルホキシド(5mL)で洗浄した。ろ液の温度を35℃に調整した。水(40mL)を、約30分かけてゆっくりと加えた。得られた懸濁液を20℃に冷却し、生成物をろ過により集めた。ケーキを水(25mL)で洗浄した。生成物を50℃で真空乾燥し、6.2g(93%)の表題の化合物(III)を99.8a-%純度で得た。
【0037】
参考例4.パラジウム炭素を用いるアセトニトリル/水溶媒中での2-クロロ-4-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾル-5-イル)ベンゾニトリル(III)の製造
窒素下のフラスコに、4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリル(II)(5g、1モル当量)、1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1H-ピラゾール(3)(7.1g、1.05モル当量)、アセトニトリル(27mL)、水(18mL)および炭酸カリウム(4.5g、1.4モル当量)を入れた。混合物は、バキュームを用いて真空にすることにより脱気し、活発に撹拌しながら窒素を再導入した。この手順を3回繰り返した。触媒(パラジウム炭素、1.0g乾燥重量、0.02モル当量)をトリフェニルホスフィン(0.49g、0.08当量)と一緒に加え、混合物を還流付近、約74℃に加熱した。混合物を2時間かき混ぜた。この時点で、分析は、1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1H-ピラゾール(3)の有意な分解を示す出発化合物(3)の完全な消費と共に、4-ブロモ-2-クロロベンゾニトリルの14.4%の変換を示した。