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  • 特許-正浸透膜及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-30
(45)【発行日】2025-05-12
(54)【発明の名称】正浸透膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/00 20060101AFI20250501BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20250501BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20250501BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20250501BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20250501BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20250501BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20250501BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20250501BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20250501BHJP
【FI】
B01D61/00 500
B01D63/02
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/08
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/56
B01D71/68
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2023531992
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2022025813
(87)【国際公開番号】W WO2023277033
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2021106811
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100227352
【弁理士】
【氏名又は名称】白倉 加苗
(72)【発明者】
【氏名】堀田 大輔
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/241860(WO,A1)
【文献】特開2018-012072(JP,A)
【文献】特開2019-115897(JP,A)
【文献】特開2010-012455(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003943(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸支持膜である、多孔質支持膜と、前記多孔質支持膜上に配置された分離機能層とを有する中空糸状正浸透膜であって、
前記多孔質支持膜が、前記分離機能層のみと接しており、
前記分離機能層が、ポリアミド層であり、
前記分離機能層の表面をX線光電子分光法により測定したときのN1sスペクトルから得られる相対元素濃度に対する、O1sスペクトルにおける533eVを中心としてカーブフィットさせた相対元素濃度の比(O533eV/N比)が0.35~0.53であり、
前記分離機能層表面のIR測定において1650cm-1のピークトップの強度に対する1720cm-1のピークトップの強度比(IR1720/IR1650)が0.2以下である、正浸透膜。
【請求項2】
前記比(O533eV/N比)が0.35~0.51である、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項3】
前記分離機能層の表面をX線光電子分光法により測定したときの窒素原子の原子数に対する酸素原子の原子数の比(O/N比)が、1.30~1.70である、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項4】
前記分離機能層の表面をX線光電子分光法により測定したときの窒素原子の原子数に対する酸素原子の原子数の比(O/N比)が、1.40~1.65である、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項5】
前記分離機能層が、前記中空糸膜の内表面に配置されている、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項6】
前記多孔質支持膜が、ポリスルホン又はポリエーテルスルホンを主成分として含む、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項7】
前記多孔質支持膜のエタノール膨潤率が、1%~5%である、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項8】
前記多孔質支持膜の前記分離機能層と接している面の表面孔径が、1nm~15nmである、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項9】
前記多孔質支持膜の前記分離機能層と接している面の表面孔径が、2.5nm以上である、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項10】
前記多孔質支持膜の前記分離機能層と接している面の表面孔径が、11nm以下である、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項11】
前記多孔質支持膜の膜厚が、50μm~400μmである、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項12】
前記分離機能層が、凹凸構造を有する、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項13】
前記分離機能層が、算術平均高さ60nm以上を有する、請求項1に記載の正浸透膜。
【請求項14】
多孔質支持膜と、前記多孔質支持膜上に配置された分離機能層とを有する正浸透膜の製造方法であって、
多孔質支持膜上に、分離機能層を構成する高分子重合体を形成して複合膜を得る工程と、
前記複合膜に加熱加圧湿潤気体雰囲気下で行う湿熱処理を施して湿熱処理膜を得る工程と、
前記湿熱処理膜に親水性有機化合物を接触させる工程と、
を含み、
前記多孔質支持膜は、中空糸支持膜であり、かつ、前記多孔質支持膜の表面孔径は、15nm以下であり、
前記正浸透膜は、中空糸状正浸透膜であり、
前記正浸透膜を介し、前記分離機能層側に原料液として精製水を、前記多孔質支持膜側に誘導溶液として3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液を配置し、前記誘導溶液側を正とし40kPaに加圧しながら正浸透評価を行ったときに、
前記誘導溶液中への透水量Fが5.0kg/(m2×hr)以上であり、且つ
前記透水量F(kg/(m2×hr))と、前記原料液への塩逆拡散量R(g/(m2×hr))とが、下記式:
R≦0.05×e0.225×F
で表される関係を満たす、方法。
【請求項15】
前記多孔質支持膜が、前記分離機能層のみと接している、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記分離機能層が、前記中空糸膜の内表面に配置されている、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記多孔質支持膜が、ポリスルホン又はポリエーテルスルホンを主成分として含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記分離機能層が、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを反応させて得られる架橋ポリアミドの層である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記湿熱処理を、前記複合膜に100℃以上の水蒸気を接触させることにより行う、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記親水性有機化合物が、炭素数1~4のアルコールである、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記親水性有機化合物を濃度40質量%以上で含む水溶液を前記湿熱処理膜に接触させることによって、前記接触を行う、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記接触を5分以上行う、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
浸漬、通液及びろ過から成る群から選択される1つ以上によって、前記接触を行う、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記多孔質支持膜のエタノール膨潤率が、1%~5%である、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記多孔質支持膜の表面孔径が、3nm~10nmである、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
前記多孔質支持膜の膜厚が、50μm~400μmである、請求項14に記載の方法。
【請求項27】
前記透水量Fに対する前記塩逆拡散量Rの比である塩透過選択性R/Fが、0.10g/kg以下である、請求項14に記載の方法。
【請求項28】
前記透水量Fに対する前記塩逆拡散量Rの比である塩透過選択性R/Fが、0.07g/kg以下である、請求項14に記載の方法。
【請求項29】
前記透水量Fに対する前記塩逆拡散量Rの比である塩透過選択性R/Fが、0.035g/kg以下である、請求項14に記載の方法。
【請求項30】
前記透水量Fが、8.0kg/(m2×hr)以上である、請求項14に記載の方法。
【請求項31】
前記透水量Fが、10.0kg/(m2×hr)以上である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正浸透膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、混合物から所望の物質を選択的に分離するための膜分離方法として、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、正浸透膜、逆浸透膜等を用いる方法が知られている。正浸透膜及び逆浸透膜は、溶媒等の低分子量物質の分離に有用であり、通常、多孔質支持体と、その表面に積層された分離機能層とを有する。正浸透法では、原料液、及び、浸透圧上昇作用を有する誘導物質を含むことによって原料液よりも高い浸透圧を有する誘導溶液を、正浸透膜を介して接触させたときに、分離機能層の両面に生じる浸透圧差を駆動力として、原料液(希薄溶液)から誘導溶液(濃厚溶液)へ、溶媒(例えば水)が移動する。すなわち、正浸透処理は、浸透圧差を利用して、希薄溶液側から濃厚溶液側に溶媒を移動させている。一方、逆浸透処理では、濃厚溶液側を加圧することにより、浸透圧差に逆らって、濃厚溶液側から希薄溶液側に溶媒を移動させる。
【0003】
正浸透膜又は逆浸透膜を用いて水系被処理液を処理する際には、膜の連続使用によって透水性が経時的に低下する場合があることから、このような透水性低下を低減するための方法が種々提案されている。
【0004】
特許文献1は、微細孔性支持膜の表面に高分子重合体の分離活性層を設けた正浸透膜であって、正浸透膜を介し、分離活性層側に原料液として精製水を、微細孔性支持膜側に特定の誘導溶液を配置した場合に、原料液への塩逆拡散量が特定値以下であり且つ誘導溶液中への透水量が特定値以上である正浸透膜を記載する。
【0005】
特許文献2は、(a)微細多孔性支持体と、(b)前記微細多孔性支持体上のポリアミド層と、(c)前記ポリアミド層上に施される親水性コーティングとからなり、前記親水性コーティングは前記ポリアミド層に親水性化合物が共有結合されて形成され、前記親水性化合物は(i)前記ポリアミド層に直接に共有結合される少なくとも1つの反応性基を含み、前記少なくとも1つの反応性基は少なくとも1つの1次アミンと2次アミンであり、(ii)少なくとも1つの非末端ヒドロキシ基からなり、前記親水性コーティングはX線光電子分光法(XPS)により測定された窒素に対する酸素の割合(O/N)が1.6以上であり、ゴニオメータで測定された水接触角が40°以下の膜表面を提供することを特徴とするポリアミド逆浸透複合膜を記載する。
【0006】
特許文献3は、基材及び多孔性支持層を含む支持膜と、前記多孔性支持層上に設けられた分離機能層からなる複合半透膜であって、前記分離機能層が、架橋ポリアミドと、エチレン性不飽和基を有するモノマーの重合体である親水性高分子とを含み、前記分離機能層表面の、X線光電子分光法により測定された窒素原子の原子数に対する酸素原子の原子数の比(O/N比)が1.5以上10以下かつ、前記比の標準偏差が0.15以上である、複合半透膜を記載する。
【0007】
非特許文献1は、フッ化水素酸及びフルオロケイ酸による表面処理によりフラックスを向上させた逆浸透膜を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2020/241860号
【文献】特開2010-012455号公報
【文献】国際公開第2018/003943号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Mukherjee et al.,Flux enhancement of reverse osmosis membranes by chemical surface modification,Journal of Membrance Sience,97(1994)231-249
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
正浸透法と逆浸透法とは、半透膜を用いる点で共通するが動作原理は全く異なることから、これら方法の一方に有用である半透膜が他方にも有用であるとは限らない。正浸透法は、逆浸透法と比べて膜分離システムの構成を単純にできる利点を有するが、本発明者らの検討によれば、逆浸透膜を正浸透膜に転用すると、以下のような不都合が生じる場合がある。すなわち、逆浸透膜では、通常、当該逆浸透膜への加圧(より具体的には液体による加圧)が想定されるのは膜の一方側のみであることから、処理速度向上のためには透水性向上を考慮すれば足りるが、正浸透膜においては、膜の両側に液体を存在させるという動作原理上、逆浸透膜において有効な透水性向上手法(例えば親水化処理と、その後の加圧運転)が正浸透膜では必ずしも透水性の十分な向上をもたらさない。
また、高圧負荷に耐える構造であることが多い逆浸透膜を正浸透膜に転用する場合、正浸透法の誘導溶液の拡散性を妨げ、結果として低い透水性と高い塩逆拡散量となり、正浸透膜として不都合を生じる。
【0011】
また、正浸透膜においては、膜の両側に液体を存在させるという動作原理上、透水性と同時に、阻止性(すなわち、誘導溶液中の誘導物質の原料液側への流出を阻止する性能)も確保する必要がある。
【0012】
更に、正浸透膜では、膜の両側に液体を存在させるという動作原理に起因して、通常運転時の原料液側から誘導溶液側への加圧のみでなく、運転条件の設定不良等により、膜に対して上記と逆方向の加圧(逆圧)が生じる場合があるため、逆圧に対する耐性も求められる。
【0013】
しかし、特許文献1に記載される技術では、透水性、阻止性、及び逆圧への耐性の両立において改善の余地がある。また、特許文献2及び3に記載される逆浸透膜では、親水性コーティングによって逆浸透膜としての透水性が向上され得るが、この膜を仮に正浸透膜として用いた場合、当該親水性コーティングによって誘導溶液の拡散性低下、したがって透水性の低下が生じる。また親水化コーティングは、膜からのコーティング由来物の溶出という懸念もある。更に、非特許文献1に記載される技術は、基材と多孔質支持膜とで構成される膜を高濃度の親水性溶媒で表面処理することによって、フラックスが向上した逆浸透膜を得るものであるが、このような膜では、基材と多孔質支持膜との界面が剥離し易いため、当該膜を正浸透膜に転用すると逆圧への耐性が問題となる。また非特許文献1に記載される逆浸透膜を正浸透膜に転用した場合、フラックスを向上させようとすると、基材の存在によって誘導溶液の拡散が妨げられて十分な透水性が得られないという問題もある。
【0014】
本発明は、上記の課題を解決し、良好な透水性、良好な阻止性、及び逆圧に対する良好な耐性が同時に達成された正浸透膜、及びそのような正浸透膜を簡便に製造可能な正浸透膜の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示は、以下の項目を包含する。
[1] 多孔質支持膜と、前記多孔質支持膜上に配置された分離機能層とを有する正浸透膜であって、
前記多孔質支持膜が、前記分離機能層のみと接しており、
前記分離機能層が、ポリアミド層であり、
前記分離機能層の表面をX線光電子分光法により測定したときのN1sスペクトルから得られる相対元素濃度に対する、O1sスペクトルにおける533eVを中心としてカーブフィットさせた相対元素濃度の比(O533eV/N比)が0.29~0.53であり、
前記分離機能層表面のIR測定において1650cm-1のピークトップの強度に対する1720cm-1のピークトップの強度比(IR1720/IR1650)が0.25以下である、正浸透膜。
[2] 前記比(O533eV/N比)が0.30~0.53である、上記項目1に記載の正浸透膜。
[3] 前記比(O533eV/N比)が0.35~0.51である、上記項目1又は2に記載の正浸透膜。
[4] 前記分離機能層の表面をX線光電子分光法により測定したときの窒素原子の原子数に対する酸素原子の原子数の比(O/N比)が、1.30~1.70である、上記項目1~3のいずれかに記載の正浸透膜。
[5] 前記分離機能層の表面をX線光電子分光法により測定したときの窒素原子の原子数に対する酸素原子の原子数の比(O/N比)が、1.40~1.65である、上記項目1~4のいずれかに記載の正浸透膜。
[6] 前記多孔質支持膜が、中空糸膜である、上記項目1~5のいずれかに記載の正浸透膜。
[7] 前記分離機能層が、前記中空糸膜の内表面に配置されている、上記項目6に記載の正浸透膜。
[8] 前記多孔質支持膜が、ポリスルホン又はポリエーテルスルホンを主成分として含む、上記項目1~7のいずれかに記載の正浸透膜。
[9] 前記多孔質支持膜のエタノール膨潤率が、1%~5%である、上記項目1~8のいずれかに記載の正浸透膜。
[10] 前記多孔質支持膜の前記分離機能層と接している面の表面孔径が、1nm~15nmである、上記項目1~9のいずれかに記載の正浸透膜。
[11] 前記多孔質支持膜の前記分離機能層と接している面の表面孔径が、2.5nm以上である、上記項目1~10のいずれかに記載の正浸透膜。
[12] 前記多孔質支持膜の前記分離機能層と接している面の表面孔径が、11nm以下である、上記項目1~11のいずれかに記載の正浸透膜。
[13] 前記多孔質支持膜の膜厚が、50μm~400μmである、上記項目1~12のいずれかに記載の正浸透膜。
[14] 前記分離機能層が、凹凸構造を有する、上記項目1~13のいずれかに記載の正浸透膜。
[15] 前記分離機能層が、算術平均高さ60nm以上を有する、上記項目1~14のいずれかに記載の正浸透膜。
[16] 多孔質支持膜と、前記多孔質支持膜上に配置された分離機能層とを有する正浸透膜の製造方法であって、
多孔質支持膜上に、分離機能層を構成する高分子重合体を形成して複合膜を得る工程と、
前記複合膜に湿熱処理を施して湿熱処理膜を得る工程と、
前記湿熱処理膜に親水性有機化合物を接触させる工程と、
を含み、
前記正浸透膜を介し、前記分離機能層側に原料液として精製水を、前記多孔質支持膜側に誘導溶液として3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液を配置し、前記誘導溶液側を正とし40kPaに加圧しながら正浸透評価を行ったときに、
前記誘導溶液中への透水量Fが5.0kg/(m2×hr)以上であり、且つ
前記透水量F(kg/(m2×hr))と、前記原料液への塩逆拡散量R(g/(m2×hr))とが、下記式:
R≦0.05×e0.225×F
で表される関係を満たす、方法。
[17] 前記多孔質支持膜が、前記分離機能層のみと接している、上記項目16に記載の方法。
[18] 前記多孔質支持膜が、中空糸膜である、上記項目16又は17に記載の方法。
[19] 前記分離機能層が、前記中空糸膜の内表面に配置されている、上記項目18に記載の方法。
[20] 前記多孔質支持膜が、ポリスルホン又はポリエーテルスルホンを主成分として含む、上記項目16~19のいずれかに記載の方法。
[21] 前記分離機能層が、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを反応させて得られる架橋ポリアミドの層である、上記項目16~20のいずれかに記載の方法。
[22] 前記湿熱処理を、加熱加圧湿潤気体雰囲気下で行う、上記項目16~21のいずれかに記載の方法。
[23] 前記湿熱処理を、前記複合膜に100℃以上の水蒸気を接触させることにより行う、上記項目16~22のいずれかに記載の方法。
[24] 前記親水性有機化合物が、炭素数1~4のアルコールである、上記項目16~23のいずれかに記載の方法。
[25] 前記親水性有機化合物を濃度40質量%以上で含む水溶液を前記湿熱処理膜に接触させることによって、前記接触を行う、上記項目16~24のいずれかに記載の方法。
[26] 前記接触を5分以上行う、上記項目16~25のいずれかに記載の方法。
[27] 浸漬、通液及びろ過から成る群から選択される1つ以上によって、前記接触を行う、上記項目16~26のいずれかに記載の方法。
[28] 前記多孔質支持膜のエタノール膨潤率が、1%~5%である、上記項目16~27のいずれかに記載の方法。
[29] 前記多孔質支持膜の表面孔径が、15nm以下である、上記項目16~28のいずれかに記載の方法。
[30] 前記多孔質支持膜の表面孔径が、3nm~10nmである、上記項目16~29のいずれかに記載の方法。
[31] 前記多孔質支持膜の膜厚が、50μm~400μmである、上記項目16~30のいずれかに記載の方法。
[32] 前記透水量Fに対する前記塩逆拡散量Rの比である塩透過選択性R/Fが、0.10g/kg以下である、上記項目16~31のいずれかに記載の方法。
[33] 前記透水量Fに対する前記塩逆拡散量Rの比である塩透過選択性R/Fが、0.07g/kg以下である、上記項目16~32のいずれかに記載の方法。
[34] 前記透水量Fに対する前記塩逆拡散量Rの比である塩透過選択性R/Fが、0.035g/kg以下である、上記項目16~33のいずれかに記載の方法。
[35] 前記透水量Fが、8.0kg/(m2×hr)以上である、上記項目16~34のいずれかに記載の方法。
[36] 前記透水量Fが、10.0kg/(m2×hr)以上である、上記項目16~35のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、良好な透水性、良好な阻止性、及び逆圧に対する良好な耐性が同時に達成された正浸透膜、及びそのような正浸透膜を簡便に製造可能な正浸透膜の製造方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】正浸透膜モジュールの一例としての中空糸膜モジュールの構造を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の例示の実施形態(以下、本実施形態ともいう。)について説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0019】
≪正浸透膜≫
本発明の一態様は、多孔質支持膜と、当該多孔質支持膜上に配置された分離機能層とを有する正浸透膜を提供する。一態様においては、多孔質支持膜が、分離機能層のみと接している。一態様においては、分離機能層の表面をX線光電子分光法により測定したときのN1sスペクトルから得られる相対元素濃度に対する、O1sスペクトルにおける533eVを中心としてカーブフィットさせた相対元素濃度の比(O533eV/N比)が0.29~0.53である。一様態においては、分離機能層表面のIR測定において1650cm-1のピークトップの強度に対する1720cm-1のピークトップの強度比(IR1720/IR1650)が0.25以下である。
【0020】
一態様においては、多孔質支持膜の分離機能層と接している面の表面孔径が、1nm~15nmである。一態様においては、多孔質支持膜の膜厚が、50μm~400μmである。一態様においては、分離機能層が、凹凸構造を有している。一態様においては、分離機能層の表面をX線光電子分光法により測定したときの窒素原子の原子数に対する酸素原子の原子数の比(O/N比)が、1.30~1.70である。
【0021】
[多孔質支持膜]
多孔質支持膜は、分離機能層に強度を与える役割を担う。多孔質支持膜は、溶媒不溶の粒子等の分離性能を有していてもよいが、溶媒中に溶解しているイオン等の分離性能を、実質的に有さないことが好ましい。多孔質支持膜の組成は特に限定されないが、樹脂によって形成されていることが好ましく、特に熱可塑性樹脂によって形成されていることがより好ましい。ここで、熱可塑性樹脂とは、加熱すると外力によって変形又は流動する性質が表れる材料を意味し、一態様において鎖状高分子である。
【0022】
熱可塑性樹脂の例として、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシド等が挙げられ、これらのホモポリマー又はコポリマーを、1種単独で、又は2種以上をブレンドして使用することができる。これらのポリマーは、主鎖、側鎖、又は末端に任意の官能基を有するもの(すなわち誘導体)も包含する。
【0023】
熱可塑性樹脂の具体例としては、以下の樹脂が例示される。
セルロース系ポリマーとして、例えば、酢酸セルロース、硝酸セルロース等を;
ビニルポリマーとして、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル等を;
それぞれ挙げることができる。
【0024】
上記に例示したものの中でも、特に、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、及び塩素化ポリ塩化ビニルから選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。より好ましくは、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、又はポリアクリロニトリルが挙げられる。化学的、機械的、及び熱的に安定性が高く、広く普及しており入手し易く、成型が容易であることから、更に好ましくは、ポリスルホン又はポリエーテルスルホン、特にポリスルホンである。
【0025】
多孔質支持膜は、上記から選択される熱可塑性樹脂を主成分として含む材料から構成されていてよい。「主成分として含む」とは、特定の1種又は2種以上の熱可塑性樹脂を、多孔質支持膜の全質量に対して、50質量%超、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上含むことをいう。多孔質支持膜は、上記から選択される熱可塑性樹脂のみから成っていてもよい。
【0026】
多孔質支持膜の形状は、フィルム状(平膜状)、中空糸状等の形態、又はこれらを化学的又は物理的に変形させた形態であることが好ましい。モジュール化の際に、より小さな空間により大きな膜面積の正浸透膜を格納可能な点から、多孔質支持膜は、より好ましくは中空糸膜である。
【0027】
なお、本開示で、膜面積とは、正浸透膜が原料液と接触し、分離機能を発現できる領域の広さ、すなわち、正浸透膜のうち、原料液が接することになる部分の面積を表す。より具体的には、例えば、原料液を内側に供給する中空糸膜状の正浸透膜モジュールの場合、モジュール内の接着剤固定部を除く中空糸膜状正浸透膜の長さ(有効長ともいう)、内径、及び本数から、膜面積(中空糸膜状正浸透膜の内表面積)は、以下の数式によって定義される。
a=c×π×b×n
ここで、aは中空糸膜状正浸透膜の内表面積(m2)、bは接着剤固定部を除いた中空糸膜状正浸透膜の長さ(m)、cは中空糸膜状正浸透膜の内径(m)、nは中空糸膜状正浸透膜の本数である。
【0028】
(表面孔径)
本実施形態の正浸透膜においては、多孔質支持膜の分離機能層と接している面における表面孔径が特定範囲に制御されていることが好ましい。これにより、分離機能層が多孔質支持膜の細孔に一部入り込むことで当該分離機能層がアンカー効果によって当該多孔質支持膜上に強固に保持され、逆圧印加時にも多孔質支持膜から分離機能層が剥離し難いという利点が得られる。また、表面孔径が小さすぎる場合、多孔質支持膜上で分離機能層の材料モノマーを重合させて分離機能層を形成する際に材料モノマーの供給バランスが崩れる場合がある。このような供給バランスの崩れは、低架橋度で多孔質支持膜から剥離し易い分離機能層の生成を招来する。さらに、表面孔径が所定以上である場合、多孔質支持膜中を通って多孔質支持膜と分離機能層の界面まで各溶液が拡散しやすく、分離機能層の両面で浸透圧を確保しやすくなるため、正浸透膜としての透水性を高められる。したがって、表面孔径は所定以上であることが好ましい。一方、多孔質支持膜の分離機能層と接する面の構造が緻密である(すなわち表面孔径が小さい)場合、モノマー供給が適度に遅いことや、反応後も多孔質支持膜に残ったモノマーが温度上昇や時間経過によって更に反応できることから、多孔質支持膜との界面で形成される分離機能層が薄く、かつ緻密に形成されるため、分離機能層の製造時の後述の親水化処理が容易である。すなわち、分離機能層の製造時に、本開示の湿熱処理、更に親水性有機化合物による処理を行う際、表面孔径が小さい多孔質支持膜上に形成された分離機能層は、上記構造の寄与によって、親水化処理により与えられる水酸基をより多く保持できる(一態様においては、O/N比、及びО533eV/N比が向上する)。このような分離機能層を有する正浸透膜は、高い阻止性と高い逆圧耐性を有しながら、高い透水性を有することができる。
【0029】
上記表面孔径は、アンカー効果を良好に得る観点、及び機械強度が良好で且つ多孔質支持膜から剥離し難い分離機能層を形成する観点から、好ましくは、1nm以上、又は1.5nm以上、又は2nm以上、又は2.5nm以上、又は3nm以上、又は4nm以上、又は5nm以上であり、アンカー効果を良好に得る観点、及び分離機能層の親水化による効果を良好に得る観点から、好ましくは、15nm以下、又は13nm以下、又は12nm以下、又は11nm以下、又は10nm以下、又は9nm以下、又は8nm以下である。上記表面孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた多孔質支持膜の表面観察画像において、倍率50,000倍において、任意に選択した1.0μm×1.0μmの視野に含まれる孔の円換算径(円換算直径)を数平均して得られる値である。多孔質支持膜全体にわたって均一な表面孔径が得られていることが好ましいため、多孔質支持膜の異なる部位からサンプリングした試料の表面観察画像から算出された平均値として評価することが好適である。なお、ある多孔質支持膜の表面孔径は、当該多孔質支持膜上に分離機能層が形成された際の当該分離機能層が面している多孔質支持膜の表面孔径、及び、当該正浸透膜から分離機能層を除去して露出させた多孔質支持膜の表面孔径のそれぞれとほぼ同一である。したがって、例えば、正浸透膜から分離機能層を除去して露出させた多孔質支持膜の表面孔径を、正浸透膜の製造に用いた多孔質支持膜の表面孔径と見做すことができる。分離機能層の除去法としては、分離機能層の化学構造に応じて、公知の方法を用いることができる。一例として、分離機能層が架橋ポリアミドからなる場合、2.0質量%の次亜塩素酸ナトリウムと2.0質量%の水酸化ナトリウムと0.15質量%の塩化カルシウムからなる水溶液に、60℃以上で200時間以上浸漬させて分離機能層を分解除去することが可能である。なお、分解が不十分である場合、2つ以上の公知の手法を組み合わせて分離機能層を分解除去することができる。上記分解除去において、分離機能層が分解され、多孔質支持膜、及び/又は多孔質支持膜の表面孔径に影響を与えない手法を採用する。多孔質支持膜の表面孔径に影響を与えるか否かは、多孔質支持膜のみに対し上記と同様の手法での処理を行った際の処理前後の表面孔径の観察によって判断することができる。分離機能層の分解除去法によって多孔質支持膜の表面孔径が変化する場合は、その変化を考慮して分離機能層が面している多孔質支持膜の表面孔径を見積もることができる。
【0030】
表面孔径は、多孔質支持膜を形成するために用いる材料ポリマー組成物の組成を制御すること、多孔質支持膜を相分離により形成する場合の各溶液の温度、製膜環境(例えば温湿度、製膜時間等)等により制御できる。例えば、材料ポリマー組成物の材料ポリマー濃度を高くすることで表面孔径を小さくし、又は材料ポリマー濃度を低くすることで表面孔径を大きくすることができる。
【0031】
(膜厚)
多孔質支持膜の膜厚は、好ましくは、50μm~400μmである。基材を有さない正浸透膜においては、分離機能層に対する十分な補強効果を多孔質支持膜が担うことが望まれる。膜厚は、溶媒により膨潤したときの変形度が大きくなり過ぎないようにして、繰り返し使用時にも分離機能層の損傷による塩逆拡散を低く抑える観点から、好ましくは、50μm以上、又は80μm以上、又は100μm以上であり、透水性の観点から、好ましくは、400μm以下、又は350μm以下、又は300μm以下、又は250μm以下である。
【0032】
(中空糸膜の外径及び内径)
一態様において、多孔質支持膜が中空糸膜である場合の外径及び内径は、限定されないが、製膜安定性、ハンドリングのし易さ、モジュールにおける膜面積などを考慮すると、外径が100μm~3,000μmであって内径が30μm~2,500μmのものが好ましく、外径が200μm~1,500μmであって内径が50μm~1,000μmのものがより好ましい。更に中空部に難溶物質を含む原料液を支障なく通液可能にする点と強度との両立も考慮すると、好ましくは、外径が500μm~1,300μmであって内径が200μm~1,000μmである。中空糸膜の膜厚は、中空糸膜を膜面方向(長手方向)に垂直な面で切断して得られる断面の、外直径と内直径の差を2で除した数値を指す。内径、外径、及び膜厚は、それぞれ、上記の中空糸膜の断面を、光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡を用いて観察することにより測定できる。正浸透膜から分離機能層を除去して得られた多孔質支持膜を観察してもよい。
【0033】
一態様に係る正浸透膜において、多孔質支持膜は、分離機能層のみと接している。なおこの場合、正浸透膜が他の部材と組合されてモジュール化される際に多孔質支持膜が当該正浸透膜以外の部材と接することは妨げない。多孔質支持膜は、分離機能層を補強する作用を有するところ、従来の正浸透膜や逆浸透膜では、多孔質支持膜と基材とを組合せることで良好な補強効果を得ている。しかし、正浸透膜が基材を有する場合、有機溶媒に対する膨潤度が基材と多孔質支持膜とで大きく異なることによって正浸透膜の損傷が招来される場合がある。例えば、正浸透膜を有機溶媒に接触させた際に、基材と比べて多孔質支持膜が大きく膨潤すると、多孔質支持膜に掛かる応力を解放するために正浸透膜全体が変形し、これにより分離機能層に欠陥が生じる場合がある。また、基材と多孔質支持膜との界面にも、両者の膨潤度の違いによって剥離又は亀裂が発生する場合がある。したがって、一態様において、正浸透膜は基材を有さない。
【0034】
正浸透膜は、一態様において多孔質支持膜及び分離機能層からなる。但し、「多孔質支持膜及び分離機能層からなる」とは、正浸透膜の構成要素が、厳密に多孔質支持膜及び分離機能層のみである場合に限られず、これら以外に、分散剤、コーティング剤、保湿剤、保存液等の任意成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよいことを意味する。これらの任意成分は、無機化合物であっても、有機化合物であってもよい。
【0035】
基材は、一般的には多孔質であり、具体的には、織布、不織布、メッシュ状ネット、発泡焼結シート等が挙げられる。基材の材質としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、並びにこれらの混合物及び共重合体を例示できる。基材は、一般に、多孔質支持膜及び分離機能層よりも孔径が大きい多孔質体であることが多い。基材は、マクロナノポロメーター(PIM社製)などの一般的なポロメーターを用いて測定される平均孔径が0.1μm~100μmであってよく、及び/又は目付が20g/m2~150g/m2であってよく、及び/又はフラジール法で測定される通気量が0.5cc/(cm2×sec)~30cc/(cm2×sec)であってよい。基材は、一般的にはイオンなどの溶質の分離機能を有さないが、粒子等の固形物に対する分離機能を有する場合がある。
【0036】
(エタノール膨潤率)
一態様において、多孔質支持膜は、特定範囲のエタノール膨潤率を有する。分離機能層は、多孔質支持膜の細孔に一部入り込むことでアンカー効果によって多孔質支持膜上に保持されていると考えられるところ、有機溶媒存在下で正浸透処理を行うと、多孔質支持膜及び分離機能層が当該有機溶媒によって膨潤する。このような膨潤は、多孔質支持膜の細孔サイズを増大させることで、アンカー効果を低下させ、分離機能層の多孔質支持膜からの剥離を招来する。したがって、多孔質支持膜は有機溶媒に対して膨潤し難いことが望ましい。一方、多孔質支持膜は、正浸透膜に接する誘導溶液の拡散性向上の観点、及び、良好な透水性を得るための膜の親水性の観点から、所定以上のエタノール膨潤率を有することが好ましい。すなわち、親水性有機溶媒であるエタノールに対する膨潤率は、多孔質支持膜の親水性と有機溶媒に対する膨潤性との両者の指標となる。一態様において、多孔質支持膜のエタノール膨潤率は、誘導溶液の良好な拡散性、及び良好な透水性を得る観点から、好ましくは、1%以上、又は1.2%以上、又は1.5%以上、又は1.7%以上、又は2%以上であり、良好な阻止性及び逆圧耐性を得る観点から、好ましくは、5%以下、又は4.5%以下、又は4%以下、又は3.5%以下、又は3%以下である。エタノール膨潤率は、本開示の[実施例]の記載に準拠して測定される値である。
【0037】
[分離機能層]
分離機能層は、正浸透膜において、実質的に溶質の分離機能を担う。より具体的には、液状混合物中の溶媒と、この溶媒に溶解しているイオン等の溶質とを分離する機能を担う。分離機能層の組成、厚み等は、正浸透膜の使用目的に合わせて設定される。分離機能層は、多孔質支持膜の片面又は両面に存在してよい。分離機能層が多孔質支持膜の両面に存在している場合、これらの面の分離機能層の厚み、分離性能、塩の阻止性能等は、互いに同じであっても相違していてもよい。また、多孔質支持膜の両面の分離機能層は、多孔質支持膜を介して連続又は不連続であってよい。
【0038】
多孔質支持膜の両面に分離機能層が配置される場合、本開示における「分離機能層側」とは、正浸透膜全体の中で、溶質をより高い阻止率で阻止する層の側を意味する。溶質をより高い阻止率で阻止する側を知る方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。
【0039】
正浸透膜を介して、片側に原料液として精製水を、もう一方側に誘導溶液を配置した場合と、これらの溶液の配置を逆にした場合とで、原料液への塩逆拡散量を評価する。これら2つの評価結果を比較したときに、塩逆拡散量がより小さくなった配置の原料液側を、誘導溶液の溶質をより高い効率で阻止する側、すなわち分離機能層側とし、その反対側を支持膜側とすることができる。誘導溶液としては、一態様において、3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液又は50質量%のイソプロパノール水溶液、特に3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液を使用する。
【0040】
分離機能層の素材としては、例えば、高分子重合体、無機物質、有機-無機ハイブリット化合物等、及びこれらに所定の無機化合物又は有機化合物を分散又は相溶させた組成物から選択される、1種又は2種以上の材料が挙げられる。一態様において、分離機能層は含窒素材料を含む。一態様において、分離機能層の表面は親水化されていてよい。親水化処理は、例えば、高分子重合体を後述の親水性有機化合物に接触させること等によって実施できる。
【0041】
一態様において、分離機能層は高分子重合体で構成される。高分子重合体で構成される分離機能層は、優先的に溶媒を透過させ、溶質を阻止し、実質的な分離性能を有する。上記高分子重合体としては、例えば、ポリアミド、ポリビニルアルコール/ポリピペラジンアミド、ポリピペラジンアミド、ポリイミド、スルホン化ポリエーテルスルホン等、及びこれらの2種以上から構成される複合材料等が挙げられ、好適には、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリピペラジンアミド、及びポリイミドからなる群から選択される1種又は2種以上である。多孔質支持膜上に、欠陥のない薄膜を容易に形成する観点から、分離機能層は、一態様においてポリアミド層である。
【0042】
ポリアミド層は、ポリアミドを主成分として含む層である。本開示で、「ポリアミドを主成分とする」とは、分離機能層の全質量に対するポリアミドの質量割合が、50質量%以上、又は75質量%以上、又は95質量%以上、又は100質量%である分離機能層を意味する。ポリアミド層は、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合生成物で形成されていることが好ましい。より好ましくは、2官能アミンと3官能酸ハロゲン化物で形成されるポリアミドを主成分としたポリアミド層である。ポリアミド層の形成は、多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液とを用い、多孔質支持膜の表面で界面重縮合を行うことにより、ポリアミド骨格を形成することを含む。多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液中の有機溶媒は、水と非混和性の有機溶媒であることが好ましい。
ポリアミド層の形成方法について、詳しくは後述する。
【0043】
(分離機能層の平均厚み)
分離機能層の平均厚みは、ピンホールがなければ薄いほど好ましい。しかし、機械的強度及び耐薬品性を維持するためには、適当な厚みを有することが望ましい。製膜安定性、水の透過抵抗等をも考慮すると、分離機能層の平均厚み、例えば、高分子重合体からなる分離機能層(高分子重合体薄膜)の平均厚みは、0.01μm~3μmが好ましく、より好ましくは0.1μm~1μmであり、更に好ましくは0.1μm~0.8μmである。
【0044】
分離機能層の平均厚みは、顕微鏡観察によって測定される。具体的には、例えば、分離機能層を、樹脂により包埋した後、切断して、超薄切片を作製する。得られた切片に、染色等の処理を行ったうえ、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。好ましい膜厚測定法として、走査型電子顕微鏡によって、分離機能層の厚み方向の断面を撮影した画像を、適当な画像処理ソフトに取り込んで、画像処理する方法が挙げられる。画像処理ソフトとしては、例えば、ImageJ(開発元:アメリカ国立衛生研究所)が挙げられる。ImageJに取り込んだSEM画像から、分離機能層の輪郭を抽出し、その内部を塗りつぶして、分離機能層の面積を算出し、事前に作成しておいた検量線を用いて、1画像における分離機能層の平均厚みに換算することができる。
【0045】
分離機能層の輪郭の抽出は、より具体的には、例えば、ImageJに取り込んだSEM画像を、得られた画像に基づいて適宜に選択される公知の二値化法、好ましくは大津法によって二値化することで行う。正浸透膜の多孔質支持膜と分離機能層との接触界面における輪郭は、得られた二値化画像全体において膜表面と水平方向の平均輝度を算出し、分離機能層の表面から多孔質支持膜側に向かって平均輝度を比較し、平均輝度が最も高くなる部分の水平方向を、正浸透膜の多孔質支持膜と分離機能層との接触界面とし、その直線部分を輪郭とすることができる。また、分離機能層の表面における輪郭は、得られた二値化画像において背景とコントラスト差がつく部分を連続した線でつないだ曲線を輪郭とすることができる。厚み方向の輪郭は取得した画像の両端部分であってよい。これらの線をつなぐことで、分離機能層の輪郭を抽出することができる。
【0046】
断面画像の観察倍率としては、例えば、5,000~30,000倍が好ましく、より好ましくは10,000倍である。断面の幅(多孔質支持膜と分離機能層との界面の方向に平行な方向の長さ)としては5~100μm程度とすることが好ましく、より好ましくは5~50μmであり、更に好ましくは5~20μmであり、最も好ましくは13μmである。
【0047】
なお、正浸透膜の多孔質支持膜と分離機能層との接触界面が波打ち直線で表現できない場合が考えられるが、故意に膜を曲げて測定していない限り、同様の方法で一義的に正浸透膜の多孔質支持膜と分離機能層との接触界面を判別することができる。
【0048】
(凹凸構造)
一態様において、分離機能層は、表面(より具体的には、露出面である最表面)に凹凸構造を有する。これにより、多孔質支持膜が有機溶媒との接触によって膨潤した場合にも、分離機能層が多孔質支持膜の形状変化に良好に追従するため、分離機能層の損傷による正浸透膜の性能低下を回避できる。本開示で、凹凸構造とは、分離機能層の最表面(すなわち多孔質支持膜に接していない面)が、複数の凸部及び凹部を有し、これらが繰り返されて存在していることをいう。凹凸構造は、一態様において、算術平均高さ(Sa)である凹凸高さ40nm以上を有する構造である。算術平均高さ(Sa)とは、分離機能層の最表面の表面粗さを測定したときに、ISO 25178で定義される算術平均高さ(Sa)を意味する。
【0049】
分離機能層の凹凸構造の算術平均高さ(Sa)は、多孔質支持膜が変形した際に分離機能層がその変形に追従し易いとの観点から、好ましくは60nm以上であり、より好ましくは100nm以上である。また、実使用において、正浸透膜を透過させる液体の性質によっては、分離機能層の凹凸構造にひっかかり、膜表面に付着し易い物質が混在する可能性もある。そのような場合に、付着物を低減する観点から、分離機能層の算術平均高さ(Sa)は、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下であり、さらに好ましくは150nm以下である。
【0050】
一態様において、凹凸構造は、凸部がストライプ状に延びていることによって、第1の方向に凹凸繰り返し形状を有するとともに当該第1の方向と異なる(一態様においては第1の方向と略垂直の)方向に凸部が長尺を有してよい(すなわち、ひだ構造を有してよい)。
【0051】
分離機能層の凹凸構造の算術平均高さ(Sa)は、原子間力顕微鏡(AFM)によって分析することができる。
具体的には、正浸透膜が乾かない条件下で、分離機能層表面を露出させたものを観察試料として、AFM観察を行う。測定条件は、例えば、以下の条件が例示される。
測定モード:QNM in fluid(純水中測定)
視野サイズ:3μm四方
使用プローブ:OLTESPA
例えば、上述の条件下において、分離機能層の最表面を走査して、算術平均高さ(Sa)を測定し、9試料の平均値として評価することが好適である。
【0052】
一態様において、分離機能層の凹凸構造の測定法は、以下のとおりである。
膜が乾かない条件下で、中空糸膜を長手方向に3等分し、3個のサンプルを得る。これら3個のサンプルの任意の場所、好ましくは各サンプルの長手方向に2等分した部分において、斜めに切り開いて分離機能層表面を露出させ、原子間力顕微鏡観察を行って、当該1試料における分離機能層の算術平均高さを測定する。
【0053】
この操作を、3本の正浸透膜、又は1つの正浸透膜モジュールから切り出した3本の正浸透膜について行い、合計9試料における分離機能層の算術平均高さの平均値を正浸透膜の算術平均高さとすることができる。
【0054】
1つの正浸透膜モジュールから3本の正浸透膜を切り出す際、正浸透膜モジュールの半径方向の外周部、中間部、及び中心部の3箇所から切り出すことが好ましい。このような切り出し方法により、モジュール全体のばらつきを評価することができる。
【0055】
平膜状の正浸透膜の場合は、膜が乾かない条件下で、膜を9分割して9サンプルを取得し、それぞれのサンプルの中心部において、原子間力顕微鏡観察を行う方法を採用できる。
【0056】
凹凸構造は、例えば、分離機能層を形成するために用いる材料モノマー組成物の組成の制御、多孔質支持膜の表面孔径の大小によるモノマー供給速度差等によって形成できる。例えば、多孔質支持膜上に材料モノマー組成物を適用して界面重合により分離機能層を形成する態様において、材料モノマー組成物中に界面活性剤を含有させると、初期に分離機能層が生じた後もモノマーが反応界面に継続的に供給されやすくなることによって、凹凸構造が形成される。また、多孔質支持膜の表面孔径が所定の範囲内であると、初期に生じる分離機能層の欠陥を抑制しつつ、分離機能層の膜厚が適度に薄くなりながらも経時的にモノマーを供給させやすくなるために、凹凸構造が形成されやすい。
【0057】
(O/N比)
分離機能層の表面(より具体的には露出面)をX線光電子分光法により測定したときの窒素原子の原子数に対する酸素原子の原子数の比(O/N比)は、分離機能層の表面における親水性構造の割合の指標である。窒素原子は、一態様において、分離機能層の構成材料、特に高分子重合体に由来する。すなわち一態様において、分離機能層は含窒素材料を含む。分離機能層表面の親水性構造の存在は透水性向上に寄与するが、過度の親水性は正浸透法において誘導溶液の逆拡散をも高め、分離機能層を介した浸透圧差が低下することで透水性をかえって低下させることから、O/N比は、適度な範囲内に制御されることが好ましい。O/N比は、一態様において、1.30以上、又は1.35以上、又は1.40以上、又は1.45以上、又は1.50以上であり、一態様において、1.70以下、又は1.65以下、又は1.60以下である。上記範囲のO/N比は、1分子中に2個以上のアミノ基を有する2官能アミンと、1分子中に3個以上のカルボン酸ハライド基を有する3官能カルボン酸ハライドから成るポリアミドから構成される分離機能層において特に有利である。O/N比は、分離機能層の構成材料の調整よって制御可能である。例えば、分離機能層を構成する高分子重合体の組成、当該高分子重合体の親水化に用いる親水性有機化合物の組成等を調整してよい。O/N比は後述する実施例に記載の方法に基づき、評価することができる。
【0058】
(O533eV/N比)
分離機能層の表面(より具体的には露出面)をX線光電子分光法により測定したときのN1sスペクトルから得られる窒素の相対元素濃度に対する、O1sスペクトルにおける533eVを中心としてカーブフィットさせた酸素の相対元素濃度の比(O533eV/N比)は、分離機能層の表面における親水性構造の割合の指標であり、特に分離機能層に強固に吸着する水分子又は親水性化合物の割合の指標である。O/N比、又はO533eV/N比が大きい場合、分離機能層の表面又は内部に存在する空間(分離機能層を構成する成分の自由体積空間等)の親水性が大きくなり、結果として溶媒(特に水)が高選択的に透過できる空間が増加することから、正浸透膜の透水性(透過溶媒性)が向上する。一方で、例えばポリアミドで構成される分離機能層において、架橋度が低い場合、結果として未架橋の末端官能基が増えることによっても酸素原子の相対元素比が大きくなることがある。この場合、後述するIR測定などを併用して用いることによって、分離機能層の未架橋の末端官能基がO/N比又はO533eV/N比に与える影響を考慮して、分離機能層に強固に吸着する水分子、又は後述する親水化処理によって吸着させた親水性化合物の割合をより正確に見積もることができる。分離機能層の架橋度が小さい場合、正浸透膜の透水性の向上によるメリットよりも、塩逆拡散量が著しく大きくなることによるデメリットが強く発現しやすく、結果として正浸透膜の性能が低くなることが多い。これは、例えば未架橋の低分子オリゴマーが分離機能層内に存在し、それが脱離することで分離機能層内に大穴が形成され、この大穴が誘導溶質も逆拡散しやすい空間(分離機能層の欠陥)となるためと考えられる。
【0059】
本実施形態においては、分離機能層が高い架橋度を有しながらも、親水性物質を強固に吸着及び担持できていることから、溶媒が高選択的に透過できる空間を増加させながらも、誘導溶質は逆拡散しにくい空間を形成できる。したがって、本実施形態によれば、透水性(透溶媒性)高くかつ塩逆拡散量が低い高性能の正浸透膜が提供される。
【0060】
窒素原子は、一態様において、分離機能層の構成材料、特に高分子重合体に由来する。すなわち一態様において、分離機能層は含窒素材料を含む。分離機能層表面の親水性構造の存在は透水性向上に寄与するが、過度の親水性物質の吸着は正浸透法において誘導溶液の逆拡散をも高め、分離機能層を介した浸透圧差が低下することで透水性をかえって低下させることから、O533eV/N比は、適度な範囲内に制御されることが好ましい。O533eV/N比は、一態様において、0.29以上、又は0.30以上、又は0.35以上、又は0.40以上、又は0.43以上、又は0.45以上であり、一態様において、0.53以下、又は0.51以下、又は0.48以下である。上記範囲は、1分子中に2個以上のアミノ基を有する2官能アミンと、1分子中に3個以上のカルボン酸ハライド基を有する3官能カルボン酸ハライドから成るポリアミドから構成される分離機能層である場合に特に有利である。O533eV/N比は、分離機能層の構成材料の調整よって制御可能である。例えば、分離機能層を構成する高分子重合体の組成、当該高分子重合体の親水化に用いる親水性有機化合物の組成等を調整してよい。O533eV/N比は後述する実施例に記載の方法に基づき、評価することができる。
【0061】
(IR1720/IR1650
一態様においては、分離機能層表面のIR測定において1650cm-1のピークトップの強度に対する1720cm-1のピークトップの強度比IR1720/IR1650が、0.25以下、又は0.20以下である。O/N比、及びO533eV/N比において、分離機能層に強固に吸着する水分子、又は親水化処理によって吸着させた親水性化合物の割合をより正確に見積もるために、一例としてIR測定を用いることができる。一態様として、ポリアミドから構成される分離機能層において、未架橋の官能基末端の1つはカルボン酸(COOH)となる。この場合、酸素元素の相対元素濃度比には未架橋末端の影響が加わることとなる。この影響が大きい場合、O/N比、及びO533eV/N比は大きくなると予想される。加えて、未架橋末端が多い分離機能層においては、架橋度が低いため、阻止性が低く、結果として正浸透膜としての性能が低い場合がある。一般にIRスペクトルにおいて、カルボン酸のC=O伸縮振動は1720cm-1付近に観測され、アミド結合のC=O伸縮振動を含むアミドIバンドは1650cm-1付近に観測されるため、カルボン酸に対するアミドの強度比(IR1720/IR1650)は、ポリアミドにおいて架橋度の目安となる。カルボン酸のスペクトルがアミドのスペクトルの裾野にかかることを考慮すれば、IR1720/IR1650が0.25以下、又は0.20以下であることが有利である。これらの範囲であれば、O/N比又はO533eV/N比におけるカルボン酸の影響は小さく、O/N比又はO533eV/N比は、分離機能層に強固に吸着する水分子、又は親水化処理によって吸着させた親水性化合物の割合をより正確に表していると考えられる。すなわち、分離機能層が、ポリアミド層であり、そして、上記範囲のIR1720/IR1650とともに、前述の範囲のO/N比及び/又はO533eV/N比を有することは、当該分離機能層が、高い架橋度を有し且つ親水性物質を強固に吸着及び担持できていることを示す。IR1720/IR1650は、後述する実施例に記載の方法に基づき評価することができる。IR測定によるピーク強度比算出時のベースラインは以下のように設定する。すなわち、1800cm-1の吸光度が低く且つ安定している場合には、当該1800cm-1の吸光度を用いる。一方、1800cm-1の吸光度が高く又は不安定である場合には、1800~2500cm-1の範囲において吸光度が低く且つ安定している場所をベースラインとして適用する。なお、ポリアミド層以外の分離機能層を用いる場合、任意の公知の手法により、架橋された官能基と未架橋の官能基とを比較することで、分離機能層に強固に吸着する水分子又は親水化処理によって吸着させた親水性化合物の割合を同様にして見積もることができる。
【0062】
[正浸透膜の特性]
(形状)
本実施形態の正浸透膜は、中空糸膜、平膜等であり得るが、好ましくは中空糸膜である。中空糸膜は、モジュール化の際に、より小さな空間により大きな膜面積を格納可能である点、及び、分離機能層を欠陥なく形成することが容易である点で有利である。分離機能層の物理的な損傷を防ぐ観点から、中空糸膜の内表面上に分離機能層を配置することがより好ましい。
【0063】
(透水量及び塩逆拡散量)
本実施形態の正浸透膜は、高い透水性(すなわち高い透水量F)と、高い阻止性(すなわち低い塩逆拡散量R)とを併せ持つ。透水量Fと塩逆拡散量Rとは、原料液として精製水を用い、誘導溶液として3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液を用い、各溶液が25℃の条件下で、正浸透処理を行うことで評価される。
【0064】
ここで、原料液及び誘導溶液を、それぞれ、本開示の分離機能層側及び支持膜側のどちらに配置するかによって、透水量Fが著しく異なる場合がある。
本実施形態においては、正浸透膜を実使用に供する際に、膜の汚染リスクをより少なくするため、分離機能層側に原料液を、支持膜側に誘導溶液を、それぞれ配置して使用することが望まれる。正浸透膜の透水量及び塩逆拡散量を評価する際にも、実使用における性能を反映するように、分離機能層側に原料液を、支持膜側に誘導溶液を、それぞれ配置して評価することが望まれる。
【0065】
正浸透膜の塩逆拡散量R(RSF)とは、正浸透膜を挟んで、分離機能層側に原料液を配置し、支持膜側にこれより高浸透圧を有する誘導溶液を配置したときに、誘導溶液から原料液に移動する溶質の量を意味している。塩逆拡散量Rは、以下の数式(1)により定義される。
R = G/(M×H) (1)
ここで、Gは移動した溶質の量(g)であり、Mは正浸透膜の有効表面積(m2)であり、Hは時間(hr)である。
【0066】
本実施形態の正浸透膜の塩逆拡散量Rは、低いほど好ましい。塩逆拡散量が大きいほど、原料液への誘導溶液中の溶質の混入量が増大すること;誘導溶液への原料液中の溶質の混入量が増大すること;原料液濃縮物の純度が下がり、その成分バランスが崩れること;誘導溶液が汚染されること;誘導溶液中の成分が経時的に少なくなること;等の問題が生じ得る。本実施形態の正浸透膜の塩逆拡散量Rは、一態様において、2.0g/(m2×hr)以下であり、好ましくは1.2g/(m2×hr)以下であり、より好ましくは0.80g/(m2×hr)以下であり、さらに好ましくは0.40g/(m2×hr)以下であり、特に好ましくは0.30g/(m2×hr)以下である。本実施形態の正浸透膜の塩逆拡散量Rは、0.001g/(m2×hr)以上であっても、本発明が所期する有利な効果が発現する。
【0067】
正浸透膜の透水量F(Flux)とは、正浸透膜を挟んで、分離機能層側に原料液を配置し、支持膜側にこれより高浸透圧を有する誘導溶液を配置したときに、原料液から誘導溶液に移動する水の量を意味している。正浸透膜の透水量Fは、以下の数式(2)により定義される。
F=L/(M×H) (2)
ここで、Lは透過した水の量(kg)であり、Mは正浸透膜の有効表面積(m2)であり、Hは時間(hr)である。
【0068】
本実施形態の正浸透膜の透水量Fは高いほど好ましい。高効率な溶媒の移動を達成する点から、正浸透膜の透水量Fは、好ましくは、3.0kg/(m2×hr)以上、又は5.0kg/(m2×hr)以上、又は7.0kg/(m2×hr)以上、又は8.0kg/(m2×hr)以上、又は9.0kg/(m2×hr)以上、又は10.0kg/(m2×hr)以上である。一方、透水量が過度に大きい場合は、塩逆拡散量が大きくなる場合があるため、正浸透膜の透水量Fは、50kg/(m2×hr)以下であることが好ましい。
【0069】
本実施形態において、塩逆拡散量Rを透水量Fで除した値として定義される、塩透過選択性R/F(RSF/Flux:単位g/kg)は、溶媒の透過と塩の透過との選択性、すなわち正浸透膜の総合性能を表す指標である。この値が低いほど、塩を透過し難く、溶媒を透過させ易いことを表す。そのため、この値は低いほど好ましい。従来の一般的な正浸透膜では、塩逆拡散量が低くなると、透水量が著しく低くなる場合が多く、結果としてR/Fの値は大きくなることが多かった。原料液の濃縮の実用性、及び高効率な溶媒の移動の観点から、本実施形態の正浸透膜のR/Fの値は、初期状態(基準)において、好ましくは、0.20g/kg以下、又は0.15g/kg以下、又は0.10g/kg以下、又は0.08g/kg以下、又は0.07g/kg以下、又は0.06g/kg以下、又は0.05g/kg以下、又は0.04g/kg以下、又は0.035g/kg以下である。R/Fの値は、理想的には0g/kgであるが、正浸透膜の製造容易性の点から、例えば、0.0001g/kg以上であってよい。
【0070】
≪正浸透膜の製造方法≫
本発明の一態様は、正浸透膜の製造方法を提供する。一態様において、当該正浸透膜は、前述した本実施形態の正浸透膜であってよい。一態様において、当該方法は、
多孔質支持膜上に、分離機能層を構成する高分子重合体を形成して複合膜を得る工程と、
当該複合膜に湿熱処理を施して湿熱処理膜を得る工程と、
当該湿熱処理膜に親水性有機化合物を接触させる工程と、を含む。
【0071】
本実施形態の方法で得られる正浸透膜は、一態様において、逆圧下で低い塩透過選択性と高い透水量とを両立するという特異な特徴を有する。一態様においては、正浸透膜を介し、分離機能層側に原料液として精製水を、多孔質支持膜側に誘導溶液として3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液を配置し、誘導溶液側を正とし40kPaに加圧しながら(すなわち逆圧を印加しながら)25℃で正浸透評価を行ったときに、誘導溶液中への透水量Fが5.0kg/(m2×hr)以上であり、且つ、誘導溶液中への透水量F(kg/(m2×hr)単位での値)と、原料液への塩逆拡散量R(g/(m2×hr)単位での値)とが、下記式:R≦0.05×e0.225×Fで表される関係を満たす。一態様においては、上記正浸透評価において、誘導溶液中への透水量F(kg/(m2×hr))に対する原料液への塩逆拡散量R(g/(m2×hr))の比である原料液への塩透過選択性R/Fが0.10g/kg以下であり、かつ、誘導溶液中への透水量Fが5.0kg/(m2×hr)以上である。
【0072】
正浸透膜が上記式:R≦0.05×e0.225×Fで表される関係を満たすことは、当該正浸透膜が優れた塩透過選択性と逆圧への耐性とを有していることの指標である。上記式における0.05×e0.225×Fの値からRの値を差し引いてg/(m2×hr)単位で表したときの値は、正浸透膜の逆圧下での良好な総合性能の観点から、一態様において、0g/(m2×hr)以上、又は0.01g/(m2×hr)以上、又は0.05g/(m2×hr)、又は0.1g/(m2×hr)以上、又は0.2g/(m2×hr)以上であり、正浸透膜の製造容易性の観点から、一態様において、50.0g/(m2×hr)以下、又は10.0g/(m2×hr)以下、又は5.0g/(m2×hr)以下、又は1.0g/(m2×hr)以下である。
【0073】
上記R/F比は、正浸透膜の逆圧下での良好な総合性能の観点から、一態様において、0.10g/kg以下、又は0.09g/kg以下、又は0.08g/kg以下、又は0.07g/kg以下、又は0.06g/kg以下、又は0.05g/kg以下、又は0.04g/kg以下、又は0.035g/kg以下、又は0.03g/kg以下である。上記R/F比は小さい程好ましいが、正浸透膜の製造容易性の観点から、一態様において、0.0001g/kg以上、又は0.0002g/kg以上、又は0.0005g/kg以上であってよい。
【0074】
上記透水量Fは、正浸透膜の逆圧下での良好な透水性の観点から、一態様において、5.0kg/(m2×hr)以上、又は6.0kg/(m2×hr)以上、又は7.0kg/(m2×hr)以上、又は8.0kg/(m2×hr)以上、又は9.0kg/(m2×hr)以上、又は10.0kg/(m2×hr)以上である。透水量は高い程好ましいが、阻止性及び逆圧耐性を良好に維持する観点から、一態様において、50.0kg/(m2×hr)以下、又は25.0kg/(m2×hr)以下、又は20.0kg/(m2×hr)以下であってよい。
【0075】
以下、本実施形態の方法の各工程について説明する。
【0076】
<多孔質支持膜上に分離機能層を形成して複合膜を得る工程>
本工程では、多孔質支持膜上に、分離機能層を構成する高分子重合体を形成して複合膜を得る。多孔質支持膜の例である中空糸膜及び平膜は、それぞれ例えば以下の手順で製造できる。
【0077】
[中空糸膜の製造]
多孔質支持膜が中空糸膜である場合、前述の熱可塑性樹脂から選択される材料を用いて、公知の乾湿式製膜法、溶融製膜法、湿式製膜法等により中空糸膜を製造できる。この中でも、樹脂(ポリマー)を溶媒に溶解した紡糸原液と内部凝固液とを、二重管状ノズル(紡口)から吐出し、空中を走行させた後、外部凝固液を収容した凝固浴で凝固させて中空糸膜を形成する乾湿式紡糸法が好ましく用いられる。得られた中空糸は巻き取り機に巻き取り、所定の長さに切断してもよい。
【0078】
(紡糸原液)
この方法における紡糸原液の溶媒(良溶媒)としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性有機溶媒が好ましく用いられる。また、紡糸原液には、樹脂の非溶媒を含有させてもよい。紡糸原液中の非溶媒としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類の他、電解質、ポリビニルピロリドン等を用いることができる。これらのうち、グリコール類が、紡糸性、及び得られる膜が良質であることから、好ましい。
【0079】
溶媒/非溶媒の比は、非溶媒/(溶媒+非溶媒)の質量比が、相溶限界における質量比の50~90%の範囲内の値になるように設定されることが好ましい。相溶限界とは、ポリマー溶液が均一な溶液となり得ず、相分離する点のことをいう。相溶限界は、一般に温度の関数でもあるので、非溶媒の含有割合は、紡糸温度における相溶限界に基づいて設定される必要がある。
【0080】
非溶媒/(溶媒+非溶媒)の質量比が、相溶限界における質量比の50%未満の場合には、紡糸原液粘度が低すぎて紡糸性が悪化する場合がある。一方、この値が、90%を超えると、中空糸支持膜の断面形状の制御性が悪化する場合がある。
同様の理由から、中空糸状の多孔質支持膜成膜時の紡糸原液の温度は、30~80℃が好ましく、より好ましくは35~60℃である。
【0081】
紡糸原液中のポリマー濃度は、好ましくは10~30質量%、より好ましくは15~25質量%である。紡糸原液中のポリマー濃度は、特に、得られる中空糸支持膜の強度と関係がある。紡糸原液中のポリマー濃度が上記の範囲であると、膜強度に優れた中空糸支持膜が得られる。
紡糸原液の調製時、紡糸原液を所定の温度で24時間以上撹拌した後、減圧脱泡をしてもよい。
【0082】
(内部凝固液)
中空糸状の多孔質支持膜の成膜時には、例えば上記のとおり、二重紡口を用い、その外側の円環状口から紡糸原液を吐出させ、内側口から内部凝固液を吐出させる。
内部凝固液としては、例えば、水を主成分とし、アルコール(モノアルコール、グリコール、及びグリセリン)、並びにアミド系溶媒から選択される1種又は2種以上の添加剤を含む、水溶液を用いることができる。
【0083】
モノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールを挙げることができる。グリコールとしては、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエチレングリコール類を挙げることができる。アミド系溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
【0084】
内部凝固液がこのような添加剤を含むことで、凝固の速度を制御することができ、所望の構造の多孔質支持膜を容易に得ることができる。例えば、内部凝固液が添加剤を含むと、凝固が遅くなり、表面の孔径を疎にすることができる。一方、内部凝固液中の添加剤の量が多すぎると、紡糸安定性が悪くなり、或いは表面孔径が粗大化して、分離機能層の形成が困難になる場合がある。
【0085】
内部凝固液としては、水、又は水と少量の添加剤との混合液を用いることが、紡糸安定性、膜の性能の可変性から好ましい。内部凝固液が添加剤としてグリコール類を含む場合、その含有量は、60質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましく、特に好ましくは10質量%以下であり、最も好ましくは5質量%以下である。この値が60質量%を超えると、得られる中空糸膜の内外表面の孔の大きさのバランスを保つことが困難となり、特に内表面の孔が粗大になり易い傾向がある。
【0086】
内部凝固液としては、水を用いることが好ましい。なお、内部凝固液は、適切な温度に調節されたうえで、紡糸に供されることが好ましい。内部凝固液の温度は、中空糸膜の内表面付近の構造を均一にする観点から、高過ぎないことが好ましく、中空糸膜の内表面側の構造が緻密になり過ぎないようにして、分離機能層形成時のモノマー供給を良好に進行させるとともに正浸透膜の良好な透水性を得る観点から、低過ぎないことが好ましい。上記観点から、内部凝固液の温度は、好ましくは、5~55℃、又は10~40℃、又は15~35℃である。
【0087】
(外部凝固液)
凝固浴として用いられる外部凝固液は、水、内部凝固液の添加剤として例示した非溶媒、及び、有機溶媒等から選択される1種又は2種以上の追加成分、を含み得る。外部凝固液は、内部凝固液と同じ組成の液体であっても、異なる組成の液体であってもよい。
【0088】
外部凝固液としては、水、又は水と内部凝固液の添加剤として上記に例示した非溶媒との混合物を用いることが好ましい。外部凝固液として、水と、アルコール(モノアルコール、及び、エチレングリコール等のグリコール)並びにアミド系溶媒から選ばれる添加剤との混合物を用いる場合、添加剤の添加量は、外部凝固液の全質量に対して、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましく、特に好ましくは5質量%以下である。外部凝固液は、最も好ましくは水である。外部凝固液中の添加剤量が過剰である場合、中空糸支持膜外表面側の凝固が遅れ、膜形状が不均一となることがある。
【0089】
凝固浴の温度は、好ましくは10~60℃、より好ましくは20~50℃、更に好ましくは25~40℃である。凝固浴の温度が高い場合、得られる中空糸支持膜の構造が疎になり易く、中空糸支持膜の透水性が高くなる傾向があり、それに伴い正浸透膜としたときの透水性も高くなる傾向がある。凝固浴の温度が高すぎる場合は、表面の孔径が大きくなり易く、後の分離機能層の形成における薬液通液時に不備が生じ、得られる正浸透膜の塩逆拡散量が大きくなる場合がある。一方、凝固浴の温度が低い場合、支持膜の構造は密になり易く、中空糸支持膜及び正浸透膜としての透水性が低くなる場合がある。凝固浴の温度は低い方が、紡糸安定性は増し、得られる中空糸膜の構造がより均一になり易い。
【0090】
[平膜の製造]
平膜状の多孔質支持膜は、例えば、上記中空糸支持膜の製造で用いられるものとして例示した樹脂溶液を用いて、以下の方法によって製造することができる。例えば、ガラス基板上に樹脂溶液を塗工し、上記の外部凝固液と同様の組成の凝固液中に浸漬して凝固させた後、凝固した支持膜をガラス基板から剥離することや、基材となる不織布の上に樹脂溶液をキャストし、凝固液中に浸漬して凝固させることによって、得ることができる。樹脂溶液の組成、凝固液の組成等の成膜条件は、公知技術、前述の中空糸支持膜の製造方法等を参考にして、当業者が適宜に設定することができる。
【0091】
[高分子重合体の形成]
以上のようにして得られた多孔質支持膜上に、分離機能層を構成する高分子重合体を形成することにより、複合膜を得ることができる。一態様において、分離機能層は、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物(例えば多官能酸クロリド)とを反応させて得られる架橋ポリアミドの層である。架橋ポリアミドは、多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液とを用い、多孔質支持膜の表面で界面重縮合を行うことにより、形成することができる。本実施形態における、好ましい高分子重合体の形成方法としては、例えば、支持膜上に、多官能アミン及び多官能酸ハロゲン化物のうちの一方を含有する第1溶液と、他方を含有する第2溶液とを、順次に通液させる方法が挙げられる。多官能アミン及び多官能酸ハロゲン化物の双方が、1つの溶液に含有されている態様は好ましくない。本実施態様では、例えば、第1溶液に多官能アミンが含まれていてよく、第2溶液には多官能酸ハロゲン化物が含まれていてよい。
【0092】
(多官能アミン)
多官能アミンは、一態様において、一分子中に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のうち少なくとも一方を2個以上有し、そのアミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基であるアミンである。例えば、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、3-アミノベンジルアミン、4-アミノベンジルアミン等の芳香族多官能アミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン等の脂肪族アミン;1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4-アミノピペリジン、4-アミノエチルピペラジン等の脂環式多官能アミン等を挙げることができる。中でも、分離性能、水の透過抵抗、及び耐熱性を考慮すると、一分子中に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のうち少なくとも一方を2~4個有する芳香族多官能アミンであることが好ましい。このような多官能芳香族アミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、又は1,3,5-トリアミノベンゼンが好適に用いられる。特に、入手の容易性及び取り扱いのし易さから、m-フェニレンジアミンを用いることがより好ましい。これらの多官能アミンは、単独で、又は2種類以上の混合物として、用いることができる。2種以上の多官能アミンを混合する場合、上記アミン同士を組み合わせてもよく、上記アミンと一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンを組み合わせてもよい。一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンとして、例えば、ピペラジン、1,3-ビスピペリジルプロパン等を挙げることができる。
【0093】
(多官能酸ハロゲン化物)
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物である。例えば、
3官能酸ハロゲン化物として、トリメシン酸クロリド、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4-シクロブタントリカルボン酸トリクロリド等を挙げることができ、
2官能酸ハロゲン化物として、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリド等の芳香族2官能酸ハロゲン化物;アジポイルクロリド、セバコイルクロリド等の脂肪族2官能酸ハロゲン化物;シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリド等の脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。
【0094】
多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸クロリドであることが好ましい。また、得られる正浸透膜の分離性能及び耐熱性を考慮すると、多官能酸クロリドは一分子中に2~4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸クロリドであることがより好ましい。特に、入手の容易性及び取り扱いのし易さの観点から、トリメシン酸クロリドを用いると好ましい。
これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0095】
(溶媒及びモノマー溶液濃度)
多官能アミン及び多官能酸ハロゲン化物は、それぞれ、適当な溶媒中に溶解されて、第1溶液又は第2溶液として、界面重縮合に供される。第1溶液及び第2溶液の溶媒としては、それぞれが含有するモノマーを溶解し、両溶液が接した場合に、相溶せずに液-液界面を形成し、支持膜を破壊しないものが好ましい。また、多官能アミン化合物及び多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものが更に好ましい。このような溶媒として例えば、以下の溶媒が挙げられる。
【0096】
多官能アミンの溶媒としては、水、アルコール等から選択される1種又は2種以上が、挙げられる。多官能酸ハロゲン化物の溶媒としては、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン等の炭化水素系溶剤から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0097】
多官能アミン及び多官能酸ハロゲン化物それぞれの溶媒として、上記のような溶媒を選択することにより、多官能アミン溶液と多官能酸ハロゲン化物溶液とが非混和となり、界面重縮合反応が進行し、高分子重合体(ポリアミド)の薄膜が得られる。各溶液の組成及び濃度は、モノマーの種類、溶媒に対する分配係数等に応じて設定されるべきであり、特に限定されるものではなく、所望の分離機能に応じて適宜に設定することができる。
【0098】
例えば、多官能アミン溶液としてm-フェニレンジアミン水溶液を、多官能酸ハロゲン化物溶液としてトリメシン酸クロリドのn-ヘキサン溶液を、それぞれ用いた場合の、界面重縮合を例に示すと、適切なモノマー濃度は、以下のとおりである:
m-フェニレンジアミンの濃度は0.1~10質量%が好ましく、0.5~5.0質量%がより好ましく、1.0~3.0質量%が特に好ましい。トリメシン酸クロリドの濃度は、0.01~10質量%が好ましく、0.04~2.0質量%がより好ましい。これらの溶液の濃度が低すぎると、界面重縮合による分離機能層の形成が不完全で欠点が生じ易くなり、正浸透膜としたときの分離性能の低下を招く。逆に、これらの溶液の濃度が高すぎると、形成されるポリアミド分離機能層が厚くなりすぎて、透水量の低下を来たすことの他、分離機能層中の残留未反応物量が増加して、正浸透膜としての性能へ悪影響を及ぼす可能性がある。
【0099】
(重合用添加剤)
多官能アミン溶液又は多官能酸ハロゲン化物溶液は、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を著しく妨害しないものであれば、界面活性剤、有機溶媒(ただし、多官能酸ハロゲン化物溶液中の有機溶媒を除く)、有機酸塩類、塩基性化合物、酸化防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0100】
界面活性剤には、多孔質支持膜表面の濡れ性を向上させ、アミン溶液と非極性溶媒との間の界面張力を減少させる効果がある。有機溶媒は、界面重縮合反応の触媒として働くことがあるので、有機溶媒の添加により界面重縮合反応をより効率よく行える場合がある。有機酸塩類は、多孔質支持膜表面の濡れ性を変化させることができ、そのため、製膜性の向上、正浸透膜としたときの分離性能の向上が得られる場合がある。塩基性化合物は、重合により生成するハロゲン化水素を除去することができ、そのため重合を促進させる場合がある。
【0101】
重合用添加剤の例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、及びラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤;エタノール、イソプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ε-カプロラクタム等の有機溶媒;トリエチルアミンのようなアミン類とカンファースルホン酸のような有機酸類との混合物からなる有機酸塩類;水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、トリエチルアミン等の塩基性化合物;フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アシル化触媒等が挙げられる。
【0102】
<複合膜に湿熱処理を施して湿熱処理膜を得る工程>
本工程では、上記工程で得た複合膜に湿熱処理を施すことで、分離機能層を構成する高分子重合体を架橋させることができる。本開示で、湿熱処理とは、複合膜を、温度50℃以上の水含有媒体に接触させる処理を意味する。湿熱処理は、分離機能層の高次構造を整え、及び/又は架橋密度を向上させるという作用を有し、したがって、分離機能層の物理的強度及び耐溶剤性を向上させる。分離機能層の物理的強度及び/又は耐溶剤性の向上は、逆圧印加時の多孔質支持膜からの分離機能層の剥離防止にも寄与する。この効果をより顕著に受けるために、水含有媒体の温度は、より好ましくは70℃以上であり、さらに好ましくは85℃以上である。
【0103】
なお、乾燥状態で加熱処理を行うと、複合膜が過度に乾燥し、特に多孔質支持膜の細孔の収縮によって、多孔質支持膜の変形等が起こる場合がある。多孔質支持膜の細孔が収縮すると、得られる正浸透膜の透水性が低下することがある。また、多孔質支持膜が変形すると、分離機能層の変形が誘発され、分離機能層による塩の阻止性能が低下する場合がある。乾燥状態での加熱処理は、正浸透膜の加熱が不均一又は不十分であるという問題、及び、不十分な湿潤状態がもたらす分離機能層の運動性低下、したがって架橋度の不十分な上昇、という問題を招来する場合がある。上記観点から、乾燥状態での加熱処理は、短時間(例えば15分間以内)とされることが好ましく、実施されないことがより好ましい。
【0104】
湿熱処理の方法としては、熱源を通して昇温させた湿潤気体(例えば、水蒸気、水分を含む窒素又は空気等)の透過、湿潤気体への曝露、加熱された水含有媒体(例えば熱水)の透過等が挙げられる。1種類の加熱処理のみを行ってもよいし、2種類以上の加熱処理を組み合わせて行ってもよいし、同じ処理を複数回繰り返して行ってもよい。ここで、「透過」とは、複合膜に流体を供給して、分離機能層及び多孔質支持膜を流体と接触させる処理を意味する。好ましい透過の手法としては、複合膜の片面又は両面から液体を供給して、複合膜の両表面及び内部(多孔質支持膜の細孔内も含む)に流体を流通させる手法が挙げられる。
【0105】
例えば、熱水を供給する方法では、複合膜の少なくとも分離機能層側に対して、例えば、50℃~100℃、好ましくは70℃~95℃の熱水を流通させる方法が、熱の伝達効率の観点から好ましい。この方法によれば、分離機能層に均一に熱が伝達され、また、多孔質支持膜内の残留モノマー等が洗い流されることで、意図しない反応が起り難くなる。熱水の流通時間は、架橋反応等が好適に進行する点で、好ましくは5分間以上である。一方、流通時間が2時間を超えると、熱水の供給による効果の供給時間に応じた向上の程度が小さいことから、流通時間は、好ましくは2時間以下である。
【0106】
一態様においては、湿熱処理を、加熱加圧湿潤気体雰囲気下で行う。加熱加圧湿潤気体の温度は、例えば、100℃超160℃以下、又は100℃超140℃以下であってよい。加熱加圧湿潤気体の圧力は、例えば、絶対圧で102kPaA~620kPaA、又は140kPaA~360kPaA、又は190kPaA~320kPaAであってよい。複合膜を加熱加圧湿潤気体に接触させることで、多孔質支持膜へのダメージを抑えつつ、高分子重合体を効率よく架橋させることができる。
【0107】
一態様においては、湿熱処理を、複合膜に100℃以上の水蒸気を接触させることにより行う。水蒸気の温度は、例えば、100℃以上160℃以下、又は100℃以上140℃以下であってよい。
【0108】
上記の加熱加圧湿潤気体又は水蒸気の複合膜との接触時間は、架橋反応が好適に進行する点で、好ましくは1分間以上である。一方、接触時間が4時間を超えると、接触時間を長くしても効果の向上程度が小さいことから、接触時間は、好ましくは4時間以下である。
【0109】
以上例示したような湿熱処理によって、湿熱処理膜を得ることができる。
【0110】
[湿熱処理膜に親水性有機化合物を接触させる工程]
本工程では、上記湿熱処理膜に親水性有機化合物を接触させる。これにより、表面及び内部が親水化された分離機能層が形成される。このような分離機能層は、正浸透膜の透水性向上に有利である。
【0111】
親水性有機化合物としては、アルコール、カルボン酸、エステル、ケトン、ニトリル、エーテル、アミド等を例示できる。アルコールは、グリコール及び/又はグリセリンを含んでもよく、親水化効果が良好であるとともに多孔質支持膜及び分離機能層にダメージを与え難い点で、好ましくは炭素数1~4のアルコールであり、より好ましくはメタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、及びtert-ブタノールからなる群から選択される1種以上である。カルボン酸としては酢酸及びシュウ酸を;エステルとしては酢酸メチル及び酢酸エチルを;ケトンとしてはアセトンを;ニトリルとしてはアセトニトリルを;エーテルとしてはテトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンを;アミドとしてはジメチルホルムアミド及びN-メチルピロリドンを;それぞれ例示できる。これらの親水性有機化合物は正浸透膜を著しく損傷しない範囲の組成で用いることが好ましい。
【0112】
湿熱処理膜に親水性有機化合物を接触させる方法としては、親水性有機化合物を、例えば5質量%以上、又は10質量%以上、又は20質量%以上、又は30質量%以上、又は40質量%以上、又は50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上で含む水溶液を湿熱処理膜に接触させる方法を例示できる。接触方法としては、上記水溶液中に湿熱処理膜を浸漬する方法、上記水溶液を湿熱処理膜に通液する方法、及び上記水溶液を湿熱処理膜でろ過する方法のうち1つ又は2つ以上の組合せを例示できる。接触時間は、親水化効果を良好に得る観点から、好ましくは5分間以上であり、プロセス効率の観点から、好ましくは、300分間以下である。
【0113】
一態様では、湿熱処理により分離機能層の架橋度が更に高まっている状態の複合膜に対し、上記親水化を行うことが好ましい。この場合、親水化処理による分離機能層からのオリゴマー脱離又は分離機能層の過度な膨潤による欠陥(すなわち塩逆拡散を増大させるような欠陥)を生じにくく、一方で透水性向上の効果を高められるため、高い透水性と低い塩逆拡散量とを有する正浸透膜を作製することができる。
【0114】
≪正浸透膜モジュール≫
本実施形態における正浸透膜は、ハウジング内に複数収納して、正浸透膜モジュールを構成してもよい。正浸透膜モジュールの形状は特に制限されないが、典型的には、膜の一方の表面側(例えば、中空糸膜の内表面側)とだけ液が接する区画と、膜のもう一方の表面側(例えば、中空糸膜の外表面側)とだけ液が接する区画とは隔離されている。例えば、モジュールハウジングに膜を接着樹脂で固定することで上記隔離がされてよい。接着樹脂としては、例えば、ウレタン系、エポキシ系等の接着剤を用いることができる。ハウジングの大きさは特に限定されないが、例えば、直径10~500mmで、長さが20~10,000mmの円筒状ハウジング等であってよい。
【0115】
図1に、正浸透膜モジュールの一例としての中空糸膜モジュールの構造を示す模式断面図を示す。図1に示す中空糸膜モジュール(1)は、筒状のハウジングに複数の中空糸膜(4)から成る糸束を充填し、その中空糸束の両端を、接着剤固定部(5,6)で筒に固定した構造を有している。ハウジングは、その側面に外側導管(2,3)を有し、ヘッダー(7,8)により、密閉されている。ここで、接着剤固定部(5,6)は、それぞれ、中空糸膜(4)の中空部を閉塞しないように固化されている。ヘッダー(7,8)は、それぞれ、中空糸膜(4)の内側(中空部)に連通し、かつ、外側には連通しない、内側導管(9,10)を有する。これらの内側導管(9,10)により、中空糸膜(4)の内側に、液を導入し、又は液を取り出すことができる。外側導管(2,3)は、それぞれ、中空糸膜(4)の外側に連通し、かつ、内側には連通していない。
この中空糸膜モジュール(1)は、内側を流れる液体と外側を流れる液体とが、中空糸膜(4)を介してのみ、接する構造になっている。
【0116】
≪正浸透膜が接触する物質≫
[有機溶媒及び有機化合物]
本実施形態において正浸透膜がその使用時に接触する有機溶媒(すなわち原料液又は誘導溶液が含み得る有機溶媒)としては、正浸透膜を瞬時に溶解しない物質であれば、どのようなものでもよい。正浸透膜が瞬時に溶解するとは、正浸透膜を有機溶媒に接触させた場合に、1時間以内に原型を留めなくなることを指す。
有機溶媒としては、産業用及び試験研究用に使用される一般的な有機溶媒であってよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の低級アルコール;アセトニトリル等のニトリル;炭素数6以上の高級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;ペンタン、ヘキサン、デカン、ウンデカン、シクロオクタン等の炭化水素;並びにこれらの2種以上から成る混合物;並びにこれらと水との混合物等が挙げられる。
食品及び医薬品に多く含有されており、正浸透膜が耐久性を有することが好ましい有機溶媒として、例えばアルコール(モノアルコール、グリコール等)、ニトリル等が挙げられる。
【0117】
有機化合物としては、例えば、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸等のカルボン酸;スルホン酸、スルフィン酸、ハビツル酸、尿酸、フェノール、エノール、ジケトン型化合物、チオフェノール、イミド、オキシム、芳香族スルフォンアミド、第1級ニトロ化合物、第2級ニトロ化合物等の有機酸;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;鉱物油;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;アセトアルデヒド等のアルデヒド;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド;ピリジン等の含窒素有機化合物;酢酸エステル、アクリル酸エステル等のエステル等の他;ジメチルスルホキシド等の産業用及び試験研究用の有機化合物、糖類、肥料、酵素等が挙げられる。
これらの有機化合物は、正浸透膜を瞬時に溶解しない範囲で、上記の有機溶媒等に含有された状態で、本実施形態の正浸透膜と接触するときに、正浸透膜の耐久性が問題となり得る。
【0118】
[誘導溶液]
誘導溶液は、原料液と比較して、高い浸透圧を示し、正浸透膜を介して原料液から溶媒を移動させる機能を有する溶液である。
この誘導溶液は、誘導溶質を高濃度に含有することで、高い浸透圧を発現する。
誘導溶質としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、糖、モノアルコール、グリコール、水溶性重合体等が挙げられる。これらの具体例としては、
アルカリ金属塩として、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等を;
アルカリ土類金属塩として、例えば、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等を;
アンモニウム塩として、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等を;
糖として、例えば、ショ糖、果糖、ブドウ糖等の一般的な糖類の他、オリゴ糖、希少糖等の特殊な糖類等を;
モノアルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等を;
グリコールとして、例えば、エチレングルコール、プロピレングリコール等を;
水溶性重合体として、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等、及びエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体等を;
それぞれ挙げることができる。
【実施例
【0119】
以下、実施例を挙げて本発明の例示の態様を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0120】
≪評価方法≫
[表面孔径]
中空糸状正浸透膜については、正浸透膜モジュールの半径方向の外周部、中間部、及び中心部の3箇所から、正浸透膜を1本ずつ(計3本)取り出し、それぞれを、長手方向に3等分し、9箇所のサンプルを得た。
平膜状正浸透膜については、正浸透膜の各辺を3等分するように9分割し、9箇所のサンプルを得た。
中空糸状正浸透膜及び平膜状正浸透膜いずれの場合も、測定値は、9サンプルにおける平均値として算出した。
【0121】
各サンプルの表面画像は、以下のように取得した。
各サンプルを、2.0質量%の次亜塩素酸ナトリウム、2.0質量%水酸化ナトリウム、0.15質量%塩化カルシウムからなる水溶液に、60℃で200時間浸漬した。その後、糸を純水で十分に洗浄することで、分離機能層が除去された支持膜サンプルを得た。内表面に分離機能層を有していた中空糸サンプルの場合は、各サンプルの中央部で斜めに切り開き、多孔質支持膜表面を露出させた。得られたサンプルにおいて分離機能層が接していた表面を走査型電子顕微鏡で観察した。専用のガラス容器内でサンプルを純水に浸漬し、液体窒素で凍結させた後、凍結乾燥法によって乾燥させた。さらに、オスミウムを薄くコーティングして、観察試料とした。走査型電子顕微鏡(S-4800、株式会社日立ハイテク製)を用いて、以下の条件で観察試料の撮影を行った。
加速電圧:1.0kV
エミッション電流:10μA
プローブ電流:Normal
検出器:Upper
倍率:50,000倍
ピクセル数:1280×960
ワーキングディスタンス:5.0mm
表面画像上、任意に選択した1.0μm×1.0μmの視野に含まれる孔の円換算径の数平均値を、表面孔径の値とした。具体的には、画像処理ソフト(ImageJ;開発元:アメリカ国立衛生研究所)によって行った。表面像を画像処理ソフトに取り込み、大津法により二値化処理後を行い、表面空孔部の面積を算出した。得られた面積値を、事前に作成しておいた検量線を用いて1画像における全空孔面積に換算した。さらに、空孔部の数をカウントし、前記全空孔面積を空孔部の総数で除することによって、1空孔部あたりの面積を算出し、その等価円を求め、その直径を算出することによって1空孔部当たりの孔径とし、これを1画像における平均表面孔径とした。
【0122】
[支持膜の寸法]
支持膜の寸法として、中空糸支持膜については、内径、外径、及び膜厚を、平膜状支持膜については、膜厚を、それぞれ測定した。
中空糸支持膜の場合、膜面方向(長手方向)に垂直な面で切断して得られる断面の光学顕微鏡写真(断面像)を用いて測定した。この断面像の外径及び内径を、スケールにより測定した。また、外径と内径との差を2で除することにより、膜厚を算出した。ここでいう外径及び内径は、それぞれ、中空糸の外直径及び内直径である。
平膜状支持膜の場合、膜面方向に垂直な面で切断して得られる断面の光学顕微鏡写真(断面像)を用いて測定した。この断面像の膜厚を、スケールにより測定した。
本実施例において、支持膜の内径、外径、及び膜厚は、正浸透膜とした後の状態で測定した。なお、支持膜のみの状態で測定しても、誤差範囲内で同一であることが確認されている。
【0123】
[凹凸構造の有無]
凹凸構造の有無は、正浸透膜から得られた9試料について、原子間力顕微鏡(AFM)分析を行い、ISO 25178で定義される算術平均高さ(Sa)を算出することによって評価した。
【0124】
中空糸状正浸透膜については、正浸透膜が乾かない条件下で、正浸透膜モジュールの半径方向の外周部、中間部、及び中心部の3箇所から、正浸透膜を1本ずつ(計3本)取り出し、それぞれを、長手方向に3等分し、9箇所のサンプルを得た。さらに、分離機能層表面を露出させ、以下の条件下で分離機能層の最表面を走査し、算術平均高さ(Sa)を求めた。
【0125】
平膜状正浸透膜については、正浸透膜を乾かさず、正浸透膜の各辺を3等分するように9分割し、9箇所のサンプルを得た。さらに、以下の条件下で分離機能層の最表面を走査し、算術平均高さ(Sa)を求めた。
【0126】
中空糸状正浸透膜及び平膜状正浸透膜いずれの場合も、測定値は、9サンプルにおける平均値として算出した。
測定モード:QNM in fluid(純水中測定)
視野サイズ:3μm四方
使用プローブ:OLTESPA
【0127】
9個の試料の平均値として算出された算術平均高さ(Sa)が40nm以上であったとき、分離機能層が凹凸構造を有するとし、この算術平均高さ(Sa)が40nm未満であったとき、分離機能層が凹凸構造を有さないとした。
【0128】
[O/N比]
X線光電子分光分析装置を用いて正浸透膜の分離機能層表面を測定した。
中空糸正浸透膜の場合は、正浸透膜モジュールの半径方向の中心部付近から、正浸透膜を5本取り出し、さらに長さ方向に5等分することで合計25サンプルを得た。そして、各サンプルの長さ方向の中心付近から長さ3mmになるように切り出し、XPS測定試料とした。各サンプルを純水に浸漬して液体窒素によって凍結させた後、凍結乾燥法によって乾燥させた。さらに、中空糸を長さ方向に沿って切り開くことで分離機能層を露出させて、その一片をXPS測定試料とした。
平膜状の正浸透膜の場合は、平膜を純水に浸漬して液体窒素によって凍結させた後、凍結乾燥法によって乾燥させ、正浸透膜の各辺を5等分するように25分割し、25箇所のサンプルを得た。そして、各サンプルの中心部を3mm角に切り出し、XPS測定試料とした。
中空糸正浸透膜及び平膜状の正浸透膜いずれの場合も、測定値は、25サンプルにおける平均値として算出した。測定は、後述するXPS測定法により行い、25点の分離機能層表面の元素組成比を測定し、O/N比の平均値を算出した。
【0129】
[O533eV/N比]
X線光電子分光分析装置を用いて正浸透膜の分離機能層表面を測定した。上記のXPS測定試料と同様の手順で作製した測定試料を用いた。中空糸正浸透膜及び平膜状の正浸透膜いずれの場合も、測定値は、25サンプルにおける平均値として算出した。光電子の検出角度45度で任意の25点の分離機能層表面の元素組成比を測定し、O/N比の平均値を算出した。上記のXPS測定試料を両面テープで試料ホルダーに保持し、分離機能層側を測定した。また、測定箇所の特定は、装置付属のSXI(Scanning X-ray Image)機能を用いて行った。
【0130】
[XPS測定条件]
使用機器:アルバックファイ Versa probeII
励起源:mono.AIKα 20kV×5mA 100W
分析サイズ:100μmφ×1.4mm
データ取り込み時、約100μmφのX線ビームを1.4mm幅で繊維軸に対して平行に振動させた。
光電子取出角:45°
取込領域
Survey scan:0~1,100eV
Narrow scan :C1s、O1s、N1s、S2p、Si2p
Pass Energy
Survey scan:117.4eV
Narrow scan: 46.95eV
Energy step
Survey scan: 1eV
Narrow scan: 0.1eV
帯電中和 :電子銃、Ar+イオン銃とも規程の通常条件
【0131】
[データ処理]
装置付属ソフトウェア(MultiPak 9.6.0.15)のデータ処理機能を用いて定量分析、O1sスペクトルのカーブフィットを行った。
【0132】
[定量分析]
得られたC1s、O1s、N1s、S2p、Si2pの面積強度から、以下の式を用いて各元素の相対元素濃度を求めた。
j(%) = 100×(Ij/RSFj)/Σ(Ij/RSFj)
ここで、各パラメーターは以下の通りである。
j:相対元素濃度(atomic%)
j:C1s、O1s、N1s、S2p、Si2pスペクトルの面積強度(単位はcps・eV)
RSFj:C1s、O1s、N1s、S2p、Si2pの各補正相対感度係数(下記の値)
C1s:14.496
O1s:34.046
N1s:23.107
S2p:74.406
Si2p:39.979
【0133】
[O1sスペクトルのカーブフィット]
以下の手順及び制約で行い、上記定量分析で求めたO濃度を531eV成分(O=C二重結合)と、533eV成分(吸着水及びヒドロキシ基由来)とに分別した。
(1)C1sスペクトルのベンゼン環成分(284.6eV)を基準にしたエネルギー値の帯電補正を行った。
(2)O1sスペクトルのカーブフィットは、以下の制約下で行った。
・バックグラウンドは、528eV付近から538eV付近までの直線とする。
・成分数は、531eV成分、533eV成分の2成分とする。
・531eV成分のピーク位置は、531.2eVに固定する。
・531eV成分と533eV成分の半値幅(FWHM)は等しいとする。
【0134】
[IR1720/IR1650
FT-IR装置を用いて正浸透膜の分離機能層表面を測定した。
中空糸正浸透膜の場合は、正浸透膜モジュールの半径方向の中心部付近から、正浸透膜を5本取り出し、さらに長さ方向に5等分することで合計25サンプルを得た。そして、各サンプルの長さ方向の中心付近から長さ10mmになるように切り出した。これらを純水に浸漬して液体窒素によって凍結させた後、凍結乾燥法によって乾燥させ、ガラス板上に各サンプルの両端を両面テープで固定し、中空糸の長さ方向に沿って切り開くことで分離機能層を露出させた。さらに、各サンプルの長さ方向における中心付近から長さ5mmで切り出し、IR測定試料とした。
平膜状の正浸透膜の場合は、平膜を純水に浸漬して液体窒素によって凍結させた後、凍結乾燥法によって乾燥させ、正浸透膜の各辺を5等分するように25分割し、25箇所のサンプルを得た。そして、各サンプルの中心部を5mm角に切り出し、IR測定試料とした。各IR測定試料を両面テープでスライドグラス上に保持し、分離機能層表面を測定した。
【0135】
《IR測定条件》
使用機器:FT-IR装置 BRUKER社 LUMOS
測定法:全反射吸収法 (ATR法:attenuated total reflection)
ATR結晶:ゲルマニウム
波数分解能:4cm-1
積算回数:64回
検出器:MCT検出器
アパーチャーサイズ:124μm×124μm
結晶押し付け圧:低若しくは中
測定波数範囲:450~4000cm-1
【0136】
《ピーク強度比算出》
アミド結合のC=O伸縮振動(アミドI)に由来する1650cm-1ピーク吸光度Abs(h1650)、カルボン酸のC=O伸縮振動由来の1720cm-1ピーク吸光度Abs(h1720)を求めた。吸光度が低く安定している1800cm-1の吸光度(ベースライン)をAbs(h1800)として、下記の式に代入しIRピーク強度比を算出した。
【0137】
【数1】
【0138】
[エタノール膨潤率]
正浸透膜のエタノール膨潤率を測定した。中空糸膜については、長手方向が約100mmになるように切り出し、その長さを測定した。また、平膜については、長手方向が約100mm、横方向が10mmとなるように切り出し、その長手方向長さを測定した。これらの正浸透膜を、純度99.5%のエタノール(富士フィルム和光純薬(株)製)に25℃で48時間浸漬した。エタノール浸漬後の膜の長さを測定し、下記数式によって膨潤度を算出した:
エタノール膨潤度(%)={(浸漬後の膜の長さ/浸漬前の膜の長さ)-1}×100
エタノール浸漬後に正浸透膜が波打つ等の変形が起こった場合には、膜が過剰に変形しない範囲において、手で抑えて長さの測定を行った。
なお、以下の実施例及び比較例の正浸透膜は、いずれも、25℃にてエタノールに48時間浸漬した後、正浸透膜は完全には溶解しなかった。
【0139】
[逆圧下での透水量F及び塩逆拡散量R]
正浸透膜の透水量F及び塩逆拡散量Rは、原料液として精製水を用い、誘導溶液として3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液を用い、正浸透膜の分離機能層側に原料液を、多孔質支持膜側に誘導溶液を、それぞれ配置し、誘導溶液側を正として40kPaに加圧しながら60分間の正浸透評価を行った。中空糸状正浸透膜の評価条件は、以下のとおりとした。平膜状正浸透膜においては同温度条件下、膜表面線速が同じになるように設定して評価した。また、評価中の誘導溶液濃度は、飽和の塩化ナトリウム水溶液を滴下することによって一定に維持して行った。
原料液温度:25℃
誘導溶液温度:25℃
原料液の膜表面線速:3.0cm/sec
誘導溶液の膜表面線速:3.0cm/sec
【0140】
[実施例1]
(中空糸状の多孔質支持膜の作製)
紡糸原液として、ポリスルホン(Solvay Specialty polymers製、Udel-P3500)19質量%、N-メチル-2-ピロリドン(富士フィルム和光純薬(株)製)61質量%、及びテトラエチレングリコール(東京化成(株)製)20質量%から成る均一なポリマー溶液を調製した。二重紡口を装備した湿式中空糸紡糸機に上記原液を充填した。二重紡口から、40℃の原液及び25℃の内部凝固液(水)を吐出させ、25℃に温調した相対湿度98%の空気中を250mm走行させた後、30℃の水を満たした凝固浴(外部凝固液)にて凝固させ、ターンロールとしてフリーロールを用いて張力25gにて巻き取って、中空糸支持膜を得た。
得られた中空糸支持膜の外径は1.02mm、内径は0.62mm、膜厚は0.20mmであった。
【0141】
(支持膜モジュールの作製)
長さ120mmに切断した上記中空糸支持膜130本を、20mm径、80mm長の円筒型プラスチックハウジングに充填し、両端部を接着剤で固定することにより、図1に示した構造を有する、有効膜内表面積0.02m2の支持膜モジュールを作製した。
【0142】
(分離機能層の形成)
上記支持膜モジュール中の中空糸支持膜内側に、m-フェニレンジアミン(MPD)2.1質量%及びラウリル硫酸ナトリウム(SDS)0.15質量%を含む水溶液(第1溶液)を20分間通液した。通液完了後、第1溶液をモジュール下部の配管から自然落下で抜いた後、中空糸の内側が第1溶液で濡れている状態で、支持膜モジュールの外側部を10kPaAに減圧し、この減圧状態を1分間保持した。その後、中空糸の内側に、210cm/secの線速でエアーを1分間流して、余剰の第1溶液を除去した。続いて、トリメシン酸クロリド(TMC)0.18質量%を含有するn-ヘキサン溶液(第2溶液)を、中空糸の内側に2分間通液して、界面重合を行わせ、中空糸の内表面上に高分子重合体を形成させて複合膜を得た。その後、窒素ガスを210cm/secの線速で1分間流すことで余剰の第2溶液を除去し、その後、中空糸の内側に5cm/secの線速で25℃の水を5分間流して表面の洗浄を行った。その後、モジュールを、オートクレーブ(AC;(株)トミー精工製、SX-500)中に、中空糸膜の両端を開放した状態で入れ、オートクレーブの庫内に121℃の高温水蒸気を20分間流通させてキュアリングを行い(湿熱処理)、湿熱処理膜を得た。更に、湿熱処理膜の中空糸支持膜の内表面を、20℃の水で30分水洗した。
以上の手順により、正浸透膜モジュールを得た。なお、実施例1で得られた正浸透膜では、分離機能層の算術平均高さ(Sa)は121nmであり、IR1720/IR1650の値は0.11であった。
【0143】
[実施例2~8、10~12]
湿熱処理の後、水洗の前に、表1に示す種類及び濃度の親水性有機化合物の水溶液に湿熱処理膜を浸漬して親水化処理を行い、その後1時間以上水洗した他は実施例1と同様の手順で、正浸透膜モジュールを得た。親水化処理時間は表1に示すとおりである。
【0144】
[実施例9]
ポリスルホンに代えてポリエーテルスルホン(BASF製、Ultrason E2020P)を用いた他は実施例8と同様の手順で、正浸透膜モジュールを得た。
【0145】
[実施例13、14]
湿熱処理として、オートクレーブ処理の代わりに、中空糸の内側に85℃の熱水を20分透過させた他は実施例1(実施例13について)又は実施例5(実施例14について)と同様の手順で、正浸透膜モジュールを得た。
【0146】
[実施例15]
中空糸支持膜の製膜条件を表1及び2に示すとおりとし、膜面積を合わせた他は実施例5と同様の手順で、正浸透膜モジュールを得た。
【0147】
[実施例16]
中空糸支持膜の製膜条件及び分離機能層の形成条件を表1~3に示すとおりとし、膜面積を合わせた他は実施例8と同様の手順で、正浸透膜モジュールを得た。
【0148】
[比較例1、2]
湿熱処理に代えて、乾熱処理として、モジュールを乾燥機に入れて50℃での乾燥を行った他は実施例1(比較例1について)又は実施例8(比較例2について)と同様の手順で、正浸透膜モジュールを得た。
【0149】
[比較例3]
分離機能層の形成において、重合用添加剤であるラウリル硫酸ナトリウムを用いず、さらにモノマー濃度を表3に示すとおりにすることによって分離機能層に凹凸構造を設けなかった他は実施例8と同様の手順で、正浸透膜モジュールを得た。なお、比較例3で得られた正浸透膜では、分離機能層の算術平均高さ(Sa)は24nmであった。
【0150】
[比較例4]
(平膜状の多孔質支持膜の作製)
ポリエステル不織布(通気量:2cc/(cm2×sec))上にポリスルホンの20重量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を25℃で190μmの厚みでキャストし、25℃の凝固液中に浸漬して20分間放置することによって、ポリエステル不織布基材及びポリスルホン多孔質支持体の積層体からなる、厚み200μmの平膜状の支持膜を作製した。この支持膜の、ポリスルホン多孔質支持体側の面を、m-フェニレンジアミン2.1質量%及びラウリル硫酸ナトリウム0.15質量%を含む水溶液(第1溶液)に20分間接触させた。その後、第1溶液塗布面の表面にエアーを流して、余分な溶液を除去した。続いて、トリメシン酸クロリド0.18質量%を含有するn-ヘキサン溶液(第2溶液)を、第1溶液塗布面に2分間接触させて、界面重合を行って、多孔質支持体上に分離機能層を形成させた。
その後、分離機能層形成面に、窒素ガスを流して、余剰の第2溶液を除去した後、分離機能層が形成された支持膜の表面に、25℃の水を5分間通液させた。次いで、分離機能層が形成された支持膜をオートクレーブ中に入れ、121℃の高温水蒸気を20分間流通させた後、表1に示す種類及び濃度の親水性有機化合物の水溶液に湿熱処理膜を浸漬して親水化処理を行い、さらに20℃の水で60分水洗することにより、平膜状正浸透膜を得た。
【0151】
得られた正浸透膜を所定の大きさにカットしてハウジング内に収容して、膜面積が0.02m2の平膜セルを作製した。
平膜では中空糸と異なり、分離機能層の位置は表裏で表す。ここでいう裏とは支持膜作製時に不織布に接触していた面であり、表とは凝固液とより多く接していた面である。
【0152】
[実施例17]
中空糸支持膜の製膜条件を表1及び2に示すとおりとし、膜面積を合わせた他は実施例8と同様の手順で、正浸透膜モジュールを得た。
【0153】
[比較例5、6]
ポリスルホンに代えて、ポリエーテルスルホン(BASF製、Ultrason E2020P):水酸基変性ポリエーテルスルホン(BASF社製、商品名Ultrason E2020PSR)=50:50(モル比)の混合物を用い、中空糸支持膜の製膜条件を表1及び2に示すとおりとした他は実施例1(比較例6について)又は実施例8(比較例7について)と同様の手順で、正浸透膜モジュールを得た。
【0154】
[実施例18]
中空糸支持膜の製膜条件を表1及び2に示すとおりとし、膜面積を合わせた他は実施例16と同様の手順で、正浸透膜モジュールを得た。
【0155】
[比較例7、8]
中空糸支持膜の製膜条件を表1及び2に示すとおりとした他は実施例1(比較例7について)又は実施例8(比較例8について)と同様の手順で、正浸透膜モジュールを得た。
【0156】
[比較例9]
中空糸支持膜の製膜条件を表1及び2に示すとおりとした他は実施例1と同様の手順で、正浸透膜モジュールを得た。比較例9においてはトリメシン酸クロリド(TMC)の使用前に、35℃に加温して液状となったTMCに対し50mLの精製水を加えて2時間撹拌することで官能基を一部失活させてから、n-ヘキサンに溶解して第2溶液を調整して使用した。
【0157】
結果を表1~3に示す。
【0158】
【表1】
【0159】
【表2】
【0160】
【表3】
表中の略称は、それぞれ、以下を表す。
PSf:ポリスルホン
PES:ポリエーテルスルホン
PES-OH:末端ヒドロキシ化ポリエーテルスルホン
EtOH:エタノール
MeOH:メタノール
IPA:イソプロパノール(2-プロパノール)
tBuOH:tert-ブチルアルコール
AC:オートクレーブ
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
TEG:テトラエチレングリコール
MPD:m-フェニレンジアミン
SDS:ラウリル硫酸ナトリウム
TMC:1,3,5-トリメシン酸クロリド
【符号の説明】
【0161】
1 中空糸膜モジュール
2、3 外側導管
4 中空糸膜
5、6 接着剤固定部
7、8 ヘッダー
9、10 内側導管
図1