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特許7675300コロナ放電区域内で成分どうしをオゾンなしで分離するための方法及び装置
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  • 特許-コロナ放電区域内で成分どうしをオゾンなしで分離するための方法及び装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-01
(45)【発行日】2025-05-13
(54)【発明の名称】コロナ放電区域内で成分どうしをオゾンなしで分離するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/015 20060101AFI20250502BHJP
   A61L 9/22 20060101ALI20250502BHJP
   H01T 23/00 20060101ALI20250502BHJP
   A61L 2/20 20060101ALI20250502BHJP
【FI】
A61L9/015
A61L9/22
H01T23/00
A61L2/20 106
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022513540
(86)(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 IL2020050608
(87)【国際公開番号】W WO2021038551
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】269021
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(73)【特許権者】
【識別番号】525071299
【氏名又は名称】オキシプロ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】イエヒム リスキン
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特表昭63-503180(JP,A)
【文献】特開2010-153342(JP,A)
【文献】特表2012-524976(JP,A)
【文献】特開2002-305096(JP,A)
【文献】特開2004-164900(JP,A)
【文献】特開平11-300151(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0081273(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00 - 9/22
H01T 23/00
A61L 2/00 - 2/28
B03C 3/00 - 3/88
B01J 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1個のイオン化作用のある電極(17)と、少なくとも1個のイオン化作用のない電極(12)との間に、水分子を含有する空気を通すことと;
(b)前記少なくとも1個のイオン化作用のある電極(17)及び前記少なくとも1個のイオン化作用のない電極(12)に高電圧を印加して、オゾンが形成されるプラズマイオン化領域(23)と、主に過酸化水素が形成される暗部領域(24)とからなるコロナ放電領域を作り出すことと;
(c)前記コロナ放電領域に進入した前記空気の流れを、独立した2つの空気の流れに分割することであって、第1の空気の流れが前記プラズマイオン化領域(23)を通過し、第2の空気の流れが前記暗部領域(24)を通過することと;
(d)前記オゾンを除去するように前記プラズマイオン化領域(23)のみに負圧勾配を施用することにより、前記第1の空気の流れにおける前記オゾンが封入雰囲気中に漏出することを防止することと
を含む、コロナ放電領域内に単極イオンを効率的に生成するための方法であって、
(e)前記イオン化作用のない電極(12)として機能する内壁面を有するチャンバ(11)の上端において前記イオン化作用のある電極(17)を支持し、前記イオン化作用のある電極(17)のイオン化作用のない部分(18)を、前記プラズマイオン化領域(23)の全域を包含する寸法の中空空気流路(25)に軸アライメントすることにより、前記イオン化作用のある電極(17)の先端が、前記中空空気流路(25)の開いた下端から前記チャンバ(11)中まで突出するようにし
(f)前記イオン化作用のある電極(17)と、前記イオン化作用のない電極(12)との間にユニポーラ型負極性又は正極性コロナ放電を施用する、
方法。
【請求項2】
前記コロナ放電領域の前記プラズマイオン化領域(23)の中を通って流れる空気の速度が、あらかじめ設定されたコロナ放電電流のイオン風速度より高い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プラズマイオン化領域(23)の中を通る前記空気の流れが、前記イオン化作用のある電極(17)の軸に対して概ね平行であり、前記イオン化作用のある電極(17)前記先端から、前記イオン化作用のある電極(17)の前記イオン化作用のない部分(18)の方に向かうように存在する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の空気の流れの方向と、前記第2の空気の流れの方向とが一致している、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記チャンバ(11)が、円筒形であり、前記第1の空気が、前記チャンバ(11)の幾何形状軸と同軸である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
記第1の空気の流れにおける前記オゾンが封入雰囲気中に漏出することを防止すること、前記オゾンをろ過することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
記第1の空気の流れにおける前記オゾンが封入雰囲気中に漏出することを防止すること、前記封入雰囲気から前記オゾンを抜き出すことを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記中空空気流路(25)を介して、前記コロナ放電領域の前記暗部領域(24)内に形成された過酸化水素を前記封入雰囲気中に放出することによって、前記封入雰囲気中の空気を消毒することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記中空空気流路(25)を介して、前記コロナ放電領域の前記暗部領域(24)内に形成されたイオンを前記封入雰囲気中に放出することによって、前記封入雰囲気中の空気を浄化することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第1の端部(13)及び前記第1の端部(13)の反対側にある第2の端部(14)を有するチャンバ(11)と、
第1の出口(16)及び第2の出口(25)と、
前記第2の出口(25)の内部に支持されており、先端を有する、少なくとも1個のイオン化作用のある電極(17)と、
前記チャンバ(11)の内部にある少なくとも1個のイオン化作用のない電極(12)と、
前記少なくとも1個のイオン化作用のある電極(17)及び前記少なくとも1個のイオン化作用のない電極(12)に連結された高電圧発生装置(20)であって、これらの電極の間に、オゾンが形成されるプラズマイオン化領域(23)と、主に過酸化水素形成される暗部領域(24)とを有するコロナ放電領域を発生させる高電圧発生装置(20)と、
前記コロナ放電領域を経て空気の流れを移送するために前記チャンバ(11)の前記第1の端部(13)に形成された空気入口(15)と、
前記プラズマイオン化領域(23)に負圧勾配を発生させるために前記第2の出口(25)に連結された吸引装置(26)と
を備える、装置(10)であって、
前記第1の出口(16)は、流体が流れるように前記暗部領域(24)に連結され、
前記吸引装置(26)は出口(28)を有し、前記出口(28)を介してオゾンが排出されて、前記オゾンが封入雰囲気中に漏出することを防止し、
前記第1の出口(16)及び前記第2の出口(25)、前記チャンバ(11)の前記第2の端部(14)において形成され、
前記第2の出口(25)、前記チャンバ(11)と所定の空間的関係を有するように取り付けられた中空空気流路(25)であって、前記プラズマイオン化領域(23)の全域を包含する寸であり、
前記イオン化作用のある電極(17)は、前記中空空気流路(25)軸アライメントされた前記チャンバ(11)の上端にあるイオン化作用のない部分(18)によって支持され、前記イオン化作用のある電極(17)の前記先端が前記中空空気流路(25)の開いた下端から前記チャンバ(11)の中まで突出するようにし、
前記チャンバ(11)の内壁が、前記イオン化作用のない電極(12)として機能して、前記コロナ放電領域が、前記イオン化作用のある電極(17)の前記先端から前記チャンバ(11)の前記内壁まで延在し、
前記高電圧発生装置(20)が、前記イオン化作用のある電極(17)と、前記イオン化作用のない電極(12)との間にユニポーラ型負極性又は正極性コロナ放電を施用するように構成される、
装置(10)。
【請求項11】
前記コロナ放電領域の中を通る前記空気の流れが、前記イオン化作用のある電極(17)の軸に対して概ね平行であり、前記イオン化作用のある電極(17)の前記先端から、前記イオン化作用のある電極(17)イオン化作用のない部分(18)の方に向かうように存在する、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記第1の出口(16)が、前記コロナ放電領域の外側において、前記イオン化作用のある電極(17)に近接している、請求項10又は11に記載の装置。
【請求項13】
前記第1の出口(16)及び前記第2の出(25)が、前記空気入口(15)の反対側に配置された、請求項10から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記チャンバ(11)が、円筒形であり、前記イオン化作用のない電極(12)が、前記チャンバ(11)の内壁(12)であり、前記イオン化作用のある電極(17)が、前記チャンバ(11)の軸と同軸であるように、前記チャンバ(11)の内部に取り付けられている、請求項10から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
請求項10から14のいずれか一項に記載の装置を備える、消毒装置。
【請求項16】
請求項10から14のいずれか一項に記載の装置を備える、ユニポーラ型イオン発生装置。
【請求項17】
請求項10から14のいずれか一項に記載の装置を備える、静電フィルター。
【請求項18】
前記吸引装置(26)の前記出口(28)、前記オゾンが封入雰囲気に漏出することを防止するために、流体が流れるようにフィルター(29)に連結された、請求項10から17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記吸引装置(26)の前記出口(28)前記オゾンを前記封入雰囲気の外部に排出するために、流体が流れるように出口チューブ又は出口に連結された、請求項10から17のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナ放電を用いて動作する、空気処理装置に関する。一用途は、消毒剤として過酸化水素を使用する空気消毒のための方法と、有人施設の消毒用として指定される消毒装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
バイポーラ型イオン発生装置は、有人施設の空気消毒に使用される最も典型的なものになっている。米国特許第9,071,040号明細書、米国特許第10,020,180号明細書、米国特許第10,128,075号明細書及び、米国特許第9,843,169号明細書には、典型例が開示されている。
【0003】
上述のようなバイポーラ型イオン発生装置の動作原理は、反対の極性を有するイオン化作用のある電極間に、水分子(水分)を含有する空気の流れの全体又は一部を通して、コロナ放電領域を発生させることに基づく。公知の装置においては、空気の流れは、イオン化作用のある電極の軸に対して平行であり、電極にあるイオン化作用のない部分から、電極にあるイオン化作用のある先端まで存在し(例えば、米国特許第9,843,169号明細書を参照されたい。)、又は、電極の軸に対して垂直である(米国特許第10,020,180号明細書を参照されたい。)。
【0004】
コロナ放電領域においては、2個の酸素原子O+Oへの酸素分子Oの分解による2種のプロセス、すなわち、過酸化水素Hへの水分子HOの変換及びオゾンO生成、すなわち、
O+O=H (1)
+O=O (2)
が同時に起きる。
【0005】
したがって、バイポーラ型イオン発生装置の出口の空気の流れは、コロナ放電領域から出た空気の流れによって捕捉された過酸化水素、オゾン並びに陽イオン及び陰イオンを同時に含む。液体消毒剤として使用されたHの分子は、気体状オゾンとの比較で、細菌及びウイルス並びに芽胞との接触時間を長くする。
【0006】
バイポーラ型イオン化装置の顕著な欠点は、100ppbに等しい有人施設内における最大許容オゾン濃度によって限定された、消毒効率の低さである。
【0007】
上記のように、H及びOは、コロナ放電中に同時に起きる2種のプロセスの結果として生成される。
生成のプロセスは、H生成のプロセスよりはるかに効率的である。実際、現在の技術水準のコロナ放電法を用いた場合、1kgのオゾンを生成するのに必要な電気エネルギーは、7~10kW/hであるが、これに対して、1kgのHを生成するのには、250kW/hの電気エネルギーが必要となる。しかしながら、有人施設内における最大許容オゾン濃度は、わずか100ppbであり、これが、最大許容放電電流を確定させる。しかしながら、有人施設内における最大許容オゾン濃度は、わずか100ppbであり、これが、最大許容放電電流を確定させる。実際には、このことは、コロナ放電によってH及びOを生成する各化学反応(1)及び(2)を考慮に入れると、100ppbのオゾン濃度をもたらすエネルギー消費では、Hの濃度が約7ppbであるが、有人施設内におけるHの最大許容濃度が1000ppm又は1ppmであることを意味する。
【0008】
米国特許第6,373,680号明細書は、イオン化プロセスと同時に生成したオゾンの放出を低減する、イオン化装置を開示している。このイオン化装置は、活性炭フィルターによって隔てられており、前側開口部及び後側開口部を画定する、前側区画及び後側区画を有する分割型ハウジングを備える。イオン化作用のある電極は、前側区域内に配置されており、その先端は、イオン化作用のない環状電極によって取り囲まれた前側開口部に向かって、軸方向前方の方に向いている。2個の電極間に高電圧DCを印加すると、イオン化作用のある電極の先端と、イオン化作用のない電極との間にコロナ放電が発生し、この結果、イオンとオゾンとが一緒になった流れが発生する。後側区域内に配置された換気扇は、ハウジングの内部に負圧を施用し、これにより、オゾンが後側開口部の方に吸引されるが、ここでは、イオンが前側開口部のみを通って退出することを可能にしながら、活性炭フィルターによってオゾンを中和する。
【0009】
米国特許第6,373,680号明細書に開示の装置は、イオンのみが放出されるようにイオン流からオゾンの流れを分離し、オゾンを中和するが、この装置は、オゾンから過酸化水素を分離しない。したがって、コロナ放電区域内で生成されたあらゆる過酸化水素も同様に、換気扇によって後側開口部の方に引き寄せられ、活性炭フィルターによって中和されることになり、後側開口部を通って大気に出ることはない。さらに、コロナ放電区域内で生成されたイオンの大部分も同様に、換気扇の影響により、後側開口部の方に引き寄せられるが、この換気扇の影響による引っ張りは、イオン風の力より強いため、前側開口部を介してイオンが漏出するように誘導する。しかしながら、いかなる場合においても、コロナ放電領域から前側開口部に向かって抜け出たあらゆるイオンは、コロナ放電の電場の内部にのみ存在するものである二次放出が存在しないため、H分子を形成しない。したがって、イオン化作用のある電極の下流側では過酸化水素が生成されず、生成された唯一の過酸化水素は、換気扇によって上流側に移送され、中和される。
【0010】
この結果、非常に少数のイオンのみが大気中に放出されるため、装置は、イオン発生装置としては非効率的なものであり、消毒装置としては全く使用することができない。
【0011】
国際公開第2010/123579号パンフレットは、汚染物質である副生成物が、コロナによって生成されたイオンから分離される、コロナガスイオン化装置を開示している。前述の装置は、イオン放出装置と、次の異なる2種の中間領域を有する、イオン化作用のない参照電極とを備える:(a) コロナ放電が形成されるプラズマ領域;及び、b) グローを伴うプラズマ領域と、イオン化作用のない参照電極との間にあるイオンドリフト領域である、暗部。イオン化作用のある電極のところのプラズマ領域の圧力をより低くした状態を維持しながら、ある圧力を有して下流側方向に流れている少なくとも1つのイオン化されていないガス流を供給することによって、イオンと汚染物質粒子とが分離される。空気出口は、イオン流れに対して反対の方向に清浄な空気を移送する。
【0012】
欧州特許出願公開第2192662号明細書は、静電気除去装置が、放電部分と、放電部分の前にイオンを放出するための放電部分が配置された、ケーシングとを備えることを開示している。ケーシングは、イオン放出用開口部及びオゾン吸引用開口部を備える。放電部分内で生成されたオゾンは、吸引用開口部を通るように吸引され、この結果、イオン放出用開口部から出た空気は、イオン放出用開口部を通したイオン放出の方向に対して反対の方向に吸引される。
【0013】
米国特許6,508,982号明細書は、コロナ放電によって生成されたイオン及びオゾンを含有する空気の流れによって、空気を清浄化するものである、空気清浄化装置及び空気清浄化方法を開示している。前述の装置は、空気が当該風洞の遠位端部から空気を吸い込み、反対側の端部から排出する、風洞を有する。針電極は、風洞の前で、風洞の軸の付近に配置されており、コロナ放電は、針と、風洞を取り囲む環状の電極との間に高電圧を印加し、イオン及びオゾンを含有する空気の流れを発生させ、これにより、空気を清浄化することによって、誘起される。風洞は、空気の流れを増進し、これにより、清浄化効果を向上させるように機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第9,071,040号明細書
【文献】米国特許第10,020,180号明細書
【文献】米国特許第10,128,075号明細書
【文献】米国特許第9,843,169号明細書
【文献】米国特許第6,373,680号明細書
【文献】国際公開第2010/123579号パンフレット
【文献】欧州特許出願公開第2192662号明細書
【文献】米国特許6,508,982号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の主要な目的は、コロナ放電電流を大幅に増大させ、イオン発生装置、H発生装置及び静電フィルターを使用して消毒効率を10倍超向上させるために、封入雰囲気(enclosed atmosphere)中へのオゾンの放出を防止するように、コロナ放電区域内で発生したオゾンを除去することである。
【0016】
本発明は、「先端-平板(tip plane)」方式のコロナ放電を用いて、上記目的を達成するが、公知のコロナ放電理論によれば、コロナ放電領域は、イオン化作用のある電極の先端の付近にある光を発する空間である、プラズマイオン化領域、及び、イオン化作用のある電極、すなわち、「先端」と、イオン化作用のない電極、すなわち、「平板」との間にあり、コロナ放電の電場内で二次イオン放出が起きる場所である、暗部領域からなる。前述の原理は、コロナ放電及びワイヤー-平板方式のシステムにも当てはまることを理解されたい。
【0017】
水分子は、プラズマイオン化プロセス中と、二次放出プロセス中との両方でH分子に変換され、すなわち、プラズマイオン化領域と、暗部領域との両方によって構成されるコロナ放電領域全体においてH分子に変換されるが、実際には、オゾンの全量が、オゾン放電領域全体との比較で非常に小さな体積(2~3mm)を占有するプラズマイオン化領域内に形成される。
【0018】
しかしながら、コロナ放電の電場内のイオンの速度が高いため、プラズマイオン化領域内で生成された中性オゾン分子は、電場の力線に沿ったイオンの規則的な移動によって引き寄せられ、コロナ放電の暗部領域に到達する。この現象は、イオン風と呼ばれるものであり、イオン風の速度は、コロナ放電電流の速度に応じて1~5m/sであり、コロナ放電電流の速度自体は、コロナ放電電流の大きさの関数である。本発明の本質は、コロナ放電中にO分子からH分子を分離した後、オゾンを除去又は破壊することに基づく。
【0019】
上記本発明の目的は、各独立請求項の特徴を有する方法及び装置によって達成される。
【0020】
本発明の原理は、コロナ放電領域に進入した空気の流れを、2つの流れに分割することにあり、第1の流れは、コロナ放電のプラズマ領域及びオゾンフィルターに通され、第2の流れは、コロナ放電の暗部領域に通される。
【0021】
分子とO分子とを効率的に分離するためには、イオン風の影響を中和すべきであり、したがって、コロナ放電のプラズマ領域を通過した空気の流れの速度がイオン風速度より高いことが、本方法の実施に関する要件の1つとなる。
【0022】
本発明の一実施形態において、上記要件は、イオン化作用のある電極を、空気の流れ全体の内部にある特定の場所に取り付けることによって満たされる。
【0023】
本発明によれば、コロナ放電領域を通過する空気の流れは、イオン化作用のある電極の軸に対して平行であるが、イオン化作用のある電極の先端から、電極にあるイオン化作用のない部分まで誘導される。これにより、イオン風のベクトルの方向と、空気の流れのベクトルの方向とが反対になるため、イオン風速度が低下し、この結果、空気の流れを分離するのに必要な負圧勾配の必要値が低下する。実際には、このことは、低出力の吸引装置の使用が可能になることを意味する。
【0024】
イオン風速度は、コロナ放電電流の大きさに正比例し、コロナ放電領域の体積に反比例するため、HとOとを効率的に分離するための第2の要件は、コロナ放電領域の体積を増大させることである。
【0025】
上記要件を満たすためには、イオン化作用のない電極は、空気の流れ用の入口開口部及び出口開口部を内部に有する中空のシリンダーとして形成されており、この中空のシリンダーの内部には、イオン化作用のある電極の軸がシリンダーの幾何形状軸(geometrical axis)と同軸であるようにして、イオン化作用のある電極が取り付けられている。
【0026】
上記ソリューションは、コロナ放電領域の最大可能体積をもたらし、この結果としての最小可能イオン風速度をもたらす。
【0027】
上記方法は、単一のイオン化作用のある電極を使用したユニポーラ型負極性又は正極性コロナ放電の発生と、反対の極性を有する2個のイオン化作用のある電極を使用したバイポーラ型コロナ放電の発生との両方に適用することができる。後者の場合、コロナ放電には、2つのプラズマコロナ放電領域があり、これらの領域からオゾンが除去されることになる。
【0028】
本発明による消毒装置は、提案した方法が次の要素を含むことに基づく:空気の流れ用の入口開口部及び出口開口部を有するイオン化作用のない円筒形電極と、イオン化作用のない電極の幾何形状軸と同軸の軸を有するイオン化作用のある電極と、電極間にコロナ放電領域を発生させるように構成された高電圧発生装置と、コロナ放電のプラズマ領域及びオゾンの漏出を防止するためのオゾンフィルターを通過する空気の流れを形成するという目的で、負圧勾配領域を生成するための、入口空気流路及び出口空気流路を有する吸引装置。
【0029】
吸引装置の入口空気流路の入口開口部は、イオン化作用のある電極にあるイオン化作用のある先端の付近に位置決めされており、吸引装置の出口空気流路は、オゾンフィルターの入口に接続されている。
【0030】
同時に、高電圧発生装置の高電圧出力は、イオン化作用のある電極に接続されており、高電圧発生装置の低電圧出力は、イオン化作用のない電極に接続されている。
【0031】
次に、本発明を理解するため、及びどのようにすれば本発明を実際に実施できるかを把握するために、添付の図面を参照しながら、非限定的な例にすぎないものとして、実施形態を記述する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明による装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、導電性の内壁12を有する概ね中空の円筒形チャンバ11を備える、消毒装置10を概略的に示している。シリンダー11は、シリンダー11の下端13にある少なくとも1個の空気用の入口開口部15と、シリンダー11の上端14にある空気用の出口開口部16とを画定する。イオン化作用のある電極17は、電極17の先端がチャンバの内部に突出するように、チャンバの上端14にあるイオン化作用のない部分18によって支持されている。
【0034】
高電圧発生装置20は、主電源等の電圧源への接続を可能にする電源端子21を有し、それぞれイオン化作用のある電極17と、イオン化作用のない電極として機能するチャンバ11の内壁12とに接続された高電圧出力端子22、22’を有する。これらの2個の電極間に高電圧を印加することにより、電極間には、プラズマコロナ放電領域23と、コロナ暗放電領域24とからなるコロナ放電領域が形成される。中空の空気流路25は、チャンバ11と、イオン化作用のある電極17との軸アライメントがなされるような空間的関係で取り付けられており、プラズマコロナ放電領域23の全域を包含するように寸法を合わせられている。図面は概略的なものであり、本発明の原理を明示するように意図されていることは、理解されたい。空気流路25は、チャンバの外縁に取り付けられているが、中空の空気流路25を通過する空気以外の空気の自由流れを可能にするように穴を開けられている、チャンバのフタ(図示なし)の中に支持されていてもよい。代替的には、チャンバ11と中空の空気流路25は両方とも、適切な空間的アライメントになるように、外側構造(図示なし)の内部で支持されていてもよい。さらに、装置は、図1においては、中空のチャンバ11がチャンバ11の長手方向軸と同軸である状態の対称形をしたものとして図示されているが、このことは要件ではない。唯一の要件は、イオン化作用のある電極が、中空の空気流路25と同軸であることである。同様に、チャンバ11は、円筒形のものであると記述しているが、チャンバ11の断面は、他の任意の多角形形状であり得る。
【0035】
電源入力端子27を有する吸引装置26は、吸引装置26と流体連通した空気流路25の上に取り付けられているが、流路28を介して、典型的には活性炭(AC)フィルターであるフィルター29にも同様に連結されている。吸引装置26は、負圧勾配を作り出すことにより、プラズマコロナ放電領域23内の空気が、空気流路25の中を通ってフィルター29に引き込まれるようにする、遠心ファン又は圧縮機であってもよい。オゾンを除去するのに必要な負圧勾配の大きさは、コロナ放電電流が最大であり、分割されていない空気の流れの速度が最小であるときに、オゾンの最大可能濃度を測定することによって、実験的に決定することができる。望ましい最大のコロナ放電電流は、装置の使途に応じて選択され、すなわち、装置の主要な使途が過酸化水素を放出することであるかどうか、そうであれば、どの程度の望ましい濃度で放出するかに応じて選択され;又は、装置が静電フィルターであるか、イオン化装置であるかに応じて選択される。望ましい最大のコロナ放電電流が確定されたら、空気の流れを増大させ、オゾン濃度を測定する。次いで、空気の流れをわずかに増大させ、オゾン濃度を再度測定する。これは、オゾン濃度が上昇しなくなるまで繰り返される。この値を超えて空気の流れを増大させてもさらなる利益はないが、所定のコロナ放電電流にとって最適な空気の流れが確立され、この場合、コロナ放電のプラズマ領域の中を通って流れる空気の速度が、あらかじめ設定されたコロナ放電電流のイオン風速度より高い。
【0036】
消毒装置10の動作は、以下のとおりである。
【0037】
高電圧源20の端子21に印加されると、イオン化作用のある電極17と、チャンバ11の内壁12によって構成されたイオン化作用のない電極との間にコロナ放電領域が生成される。プラズマコロナ放電23は、イオン化作用のある電極17の先端の付近に生成され、コロナ放電の残りの体積は、コロナ暗放電領域24を形作る。同時に、吸引装置26の電源端子27に電力を供給することにより、空気流路25内に負圧勾配を発生させ、これにより、プラズマコロナ放電領域24内に形成されたオゾンを、流路28を介してフィルター29に引き込むと、フィルター29でオゾンが中和される。次に、オゾン不含の空気がオゾンフィルターから退出し、消毒すべき空気に到達する。空気がコロナ放電24の暗部領域の中を通って流れると、水分子の一部は、コロナ放電電場内のイオンとの相互作用により、過酸化水素分子に変換され、やはり、矢印Aによって示されているように空気がフタ14の出口開口部16を通って流れる環境を実現する。この結果、オゾンは、過酸化水素の大部分から分離されるが、少量の過酸化水素は、空気流路25及び28も通過し、フィルター29によって中和される。しかしながら、過酸化水素の大部分は、出口開口部16を通過して大気中に入り、したがって、大気が消毒され、一方、オゾン不含の空気は、フィルター出口から大気中に入る。フィルターによって、オゾンが封入雰囲気中に抜け出ないようにされているため、コロナ放電電流は、本発明によって製造及び試験された消毒装置の技術的仕様を示している以下の表1によって立証されているような、はるかに多量の過酸化水素を生成するレベルに達するまで安全に増大させることができる。
【0038】
実際には、フィルター29が、装置が配備された封入雰囲気中に放出されるオゾンの濃度を許容上限より低くするという目的で、オゾンを中和する。しかしながら、同じ目的は、フィルターなしでも、単に流路28の延長部分であると想定することもできる出口チューブ又は出口管を介して、封入雰囲気からオゾンを抜き取ることによって達成することもできる。
【表1】
【0039】
次の装置を使用して、H濃度及びO濃度を測定した。
a) H濃度: 携帯用ガス検出器OC-905
分解能 - 0.01ppm、精度±3%
濃度:
オゾン分析装置Dasibi Model 1008。
分解能 - 1ppb、精度±2%。
【0040】
特に消毒装置及び消毒方法について言及しながら本発明を記述してきたが、本発明の原理は、オゾンの最大許容濃度が効率に限界を課すコロナ放電に基づいた他の装置にも全く同じように適用され得ることは、理解されよう。したがって、同じ原理は、静電フィルター及びイオン化装置にも適用することができる。したがって、同じ原理は、静電フィルター及びイオン化装置にも適用することができる。
【0041】
活性炭フィルターとの関連についてオゾンフィルターを記述してきたが、「フィルター」という用語は、空気からオゾンを分離し、オゾンが大気中に抜け出ないようにする、装置として、最も広い意味で解釈すべきであることにも留意されたい。一旦大気中へのオゾンの通り抜けが防止されたら、コロナ放電電流を安全に増大させることができるため、オゾンが単に捕集されるのか、破壊されることになるのかは、本発明にとって重要なことではない。オゾンが大気中に抜け出ないようにするための他の手法には、オゾンをチタン製反応チャンバに通す化学的酸化が挙げられる。塩素ガス、臭素ガス、窒素ガス、水素ガス及び酸素ガス又は銅と二酸化マンガンとの混合物等の破壊触媒との反応を伴う、触媒プロセスを用いることも公知である。
図1