(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-01
(45)【発行日】2025-05-13
(54)【発明の名称】メンブレン式散気装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/20 20230101AFI20250502BHJP
B01F 23/231 20220101ALI20250502BHJP
B01F 21/00 20220101ALI20250502BHJP
【FI】
C02F3/20 D
B01F23/231
B01F21/00
(21)【出願番号】P 2021206568
(22)【出願日】2021-12-21
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安堂 豪
(72)【発明者】
【氏名】上木 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】積 兼司
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-240798(JP,A)
【文献】特開2011-125782(JP,A)
【文献】特開2011-036792(JP,A)
【文献】特開2000-185245(JP,A)
【文献】国際公開第2012/108008(WO,A1)
【文献】米国特許第5858283(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F3/14-3/26
B01F21/00-25/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を外部へ放出する複数のスリットが形成された膨縮自在なメンブレンを有するメンブレン式散気装置であって、
複数のスリットを第1方向に沿って1列に並べたスリット列がメンブレンに複数列設けられ、
各スリット列には、第1方向に長い第1スリットと、第1方向に対して傾斜する第2方向に長い第2スリットとが交互に形成され、
第1方向に直交する第3方向において隣り合う一方のスリット列の第1および第2スリットと他方のスリット列の第1および第2スリットとが千鳥状に交互に配置されており、
第3方向において隣り合う一方のスリット列の第2スリットの長手方向における中心部と、上記一方のスリット列の第2スリットに最も近い他方のスリット列の第2スリットの長手方向における中心部とを通る仮想の直線が第2方向とは反対方向に傾斜し、
散気時にメンブレンが膨張した際、第3方向の引張力が第1および第2スリットに作用することを特徴とするメンブレン式散気装置。
【請求項2】
第2スリットは第1スリットに対して25°以下の傾斜角度で傾斜していることを特徴とする請求項1記載のメンブレン式散気装置。
【請求項3】
第1および第2スリットの長さをスリット長さとし、
第1方向における第1スリットと第2スリットとのピッチをスリットピッチとし、
第3方向において隣り合う一方のスリット列と他方のスリット列とのピッチを列ピッチとすると、
スリット長さ<列ピッチ≦スリットピッチ
の関係が保たれていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のメンブレン式散気装置。
【請求項4】
第1および第2スリットの長さをスリット長さとし、
第1方向における第1スリットと第2スリットとの間隔をスリット間隔とすると、
スリット長さ<スリット間隔
の関係が保たれていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のメンブレン式散気装置。
【請求項5】
メンブレンは中空状の挿入部を有するチューブ状に形成されており、
メンブレンの挿入部に支持体が挿入され、
メンブレンに気体供給部が設けられ、
メンブレンは表裏2枚のシート部材で袋状に構成された袋状部を有し、
気体供給部は外部からメンブレンの袋状部内に連通する通気流路を有し、
第1および第2スリットはメンブレンの袋状部の外周面を構成するシート部材に形成され、
第1方向はメンブレンの長手方向であり、
第3方向はメンブレンの周方向であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のメンブレン式散気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液面下に設置されて液体中に気泡を放出するメンブレン式散気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のメンブレン式散気装置としては、例えば
図24に示すように、槽200内の被処理水201中に多数の気泡202を放出させるものがある。このメンブレン式散気装置203は、チューブ状に形成されたメンブレン204と、メンブレン204に挿入された支持管205と、空気供給部206とを有するものがある。
【0003】
メンブレン204の端部はリング状のバンド等の固定具207で支持管205に水密に固定されている。支持管205は給気管208に接続されている。空気供給部206は、支持管205の長手方向Aにおける中央部に設けられており、給気管208からメンブレン204の内周と支持管205の外周との間に連通する通気流路209を有している。
【0004】
給気管208から空気供給部206の通気流路209を通ってメンブレン204の内周と支持管205の外周との間に供給された空気210を外部へ放出するための複数のスリット211が、メンブレン204に形成されている。スリット211はメンブレン204の長手方向Aに細長い切れ込みである。
【0005】
これによると、空気210が給気管208から空気供給部206の通気流路209を通ってメンブレン204の内周と支持管205の外周との間に供給されることにより、メンブレン204が膨張してスリット211が開き、空気210がスリット211から気泡202として被処理水201中に放出される。
【0006】
尚、上記のようなメンブレン式散気装置203は例えば下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記の従来形式では、
図25に示すように、散気時にメンブレン204が膨張した際、メンブレン204の周方向Bの引張力Fがスリット211に作用して、スリット211が周方向Bに開くのであるが、この引張力Fによってスリット211の端部に亀裂212が発生することがある。
【0009】
この場合、
図26に示すように、長手方向Aにおいて隣り合った一方のスリット211の端部に発生した亀裂212と他方のスリット211の端部に発生した亀裂212とが伝播して繋がることがあり、隣同士のスリット211が亀裂212を介して連通してしまうといった問題がある。
【0010】
本発明は、隣同士のスリットが亀裂を介して連通する不具合の発生率を低減することが可能なメンブレン式散気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本第1発明は、気体を外部へ放出する複数のスリットが形成された膨縮自在なメンブレンを有するメンブレン式散気装置であって、
複数のスリットを第1方向に沿って1列に並べたスリット列がメンブレンに複数列設けられ、
各スリット列には、第1方向に長い第1スリットと、第1方向に対して傾斜する第2方向に長い第2スリットとが交互に形成され、
第1方向に直交する第3方向において隣り合う一方のスリット列の第1および第2スリットと他方のスリット列の第1および第2スリットとが千鳥状に交互に配置されており、
第3方向において隣り合う一方のスリット列の第2スリットの長手方向における中心部と、上記一方のスリット列の第2スリットに最も近い他方のスリット列の第2スリットの長手方向における中心部とを通る仮想の直線が第2方向とは反対方向に傾斜し、
散気時にメンブレンが膨張した際、第3方向の引張力が第1および第2スリットに作用するものである。
【0012】
これによると、散気時にメンブレンが膨張した際、第3方向の引張力が第1および第2スリットに作用して、第1および第2スリットが開くのであるが、この引張力によって第1および第2スリットの端部に亀裂が発生することがある。
【0013】
この場合、第2スリットが第1スリットに対して傾斜しているため、第1方向において隣り合った第1スリットの端部に発生した亀裂が伝播するときの方向と第2スリットの端部に発生した亀裂が伝播するときの方向とは異なる。このため、第1スリットの端部に発生した亀裂と第2スリットの端部に発生した亀裂とが繋がる可能性は低くなり、隣同士の第1および第2スリットが亀裂を介して連通する不具合の発生率を低減することができる。
【0014】
また、第3方向において隣り合う一方のスリット列の第2スリットの端部に発生した亀裂と他方のスリット列の第2スリットの端部に発生した亀裂とが伝播しても、仮想の直線が第2方向とは反対方向に傾斜しているため、上記一方のスリット列の第2スリットの端部に発生した亀裂と他方のスリット列の第2スリットの端部に発生した亀裂とが繋がる可能性は低くなり、隣同士の第2スリットが亀裂を介して連通する不具合の発生率を低減することができる。
【0015】
また、第2スリットは、第1スリットに対して傾斜しているため、第1スリットに比べて開き難い。これにより、メンブレン式散気装置への給気量が少ない小風量で散気を行っている場合、供給された気体の大部分は、開かれた第1スリットから気泡となって外部へ放出されるのに対し、開き難い第2スリットから外部へ放出される気泡は少ない。
【0016】
また、メンブレン式散気装置への給気量が多い大風量で散気を行っている場合、第2スリットが開き、給気量の増加に伴って開いた第2スリットの個数が増加し、供給された気体は開かれた第1および第2スリットから気泡となって外部へ放出される。
【0017】
これにより、給気量が増減した場合、これに伴って開く第2スリットの個数が増減するため、給気量が増減しても、放出される気泡の大きさのばらつきを少なくすることができ、ほぼ均一な大きさの気泡が、メンブレンのスリットが形成された領域全体から均等に放出される。
【0018】
本第2発明におけるメンブレン式散気装置は、第2スリットは第1スリットに対して25°以下の傾斜角度で傾斜しているものである。
【0019】
これによると、第2スリットの第1スリットに対する傾斜角度が大きくなるほど、同じ給気圧に対して第2スリットが開き難くなるが、傾斜角度が25°以下であると、給気量の通常の変動範囲において第2スリットからの気泡の放出が調整可能となる。
【0020】
本第3発明におけるメンブレン式散気装置は、第1および第2スリットの長さをスリット長さとし、
第1方向における第1スリットと第2スリットとのピッチをスリットピッチとし、
第3方向において隣り合う一方のスリット列と他方のスリット列とのピッチを列ピッチとすると、
スリット長さ<列ピッチ≦スリットピッチ
の関係が保たれているものである。
【0021】
これによると、スリットの配列全体において隣接するスリット同士が適切な間隔を確保して配列されることとなり、隣同士の第1および第2スリットが亀裂を介して連通する不具合の発生率をさらに低減することができる。
【0022】
本第4発明におけるメンブレン式散気装置は、第1および第2スリットの長さをスリット長さとし、
第1方向における第1スリットと第2スリットとの間隔をスリット間隔とすると、
スリット長さ<スリット間隔
の関係が保たれているものである。
【0023】
これによると、スリット列において隣同士の第1および第2スリットが適切な間隔を確保して配列されることとなり、隣同士の第1および第2スリットが亀裂を介して連通する不具合の発生率をさらに低減することができる。
【0024】
本第5発明におけるメンブレン式散気装置は、メンブレンは中空状の挿入部を有するチューブ状に形成されており、
メンブレンの挿入部に支持体が挿入され、
メンブレンに気体供給部が設けられ、
メンブレンは表裏2枚のシート部材で袋状に構成された袋状部を有し、
気体供給部は外部からメンブレンの袋状部内に連通する通気流路を有し、
第1および第2スリットはメンブレンの袋状部の外周面を構成するシート部材に形成され、
第1方向はメンブレンの長手方向であり、
第3方向はメンブレンの周方向であるものである。
【0025】
これによると、気体が気体供給部の通気流路を通ってメンブレンの袋状部内に供給されることにより、袋状部が膨張し、メンブレンの周方向の引張力が第1および第2スリットに作用して、第1および第2スリットが開き、袋状部内の気体が第1および第2スリットから外部へ放出される。
【発明の効果】
【0026】
以上のように本発明によると、第2スリットが第1スリットに対して傾斜しているため、第1方向において隣り合った第1スリットの端部に発生した亀裂が伝播するときの方向と第2スリットの端部に発生した亀裂が伝播するときの方向とは異なる。これにより、第1スリットの端部に発生した亀裂と第2スリットの端部に発生した亀裂とが繋がる可能性は低くなり、隣同士のスリットが亀裂を介して連通する不具合の発生率を低減することができる。
【0027】
また、第3方向において隣り合う一方のスリット列の第2スリットの端部に発生した亀裂と他方のスリット列の第2スリットの端部に発生した亀裂とが伝播しても、仮想の直線が第2方向とは反対方向に傾斜しているため、上記一方のスリット列の第2スリットの端部に発生した亀裂と他方のスリット列の第2スリットの端部に発生した亀裂とが繋がる可能性は低くなり、隣同士の第2スリットが亀裂を介して連通する不具合の発生率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1の実施の形態における散気設備の斜視図である。
【
図2】同、散気設備に備えられるメンブレン式散気装置の側面図である。
【
図3】同、メンブレン式散気装置の端部の断面図である。
【
図4】同、メンブレン式散気装置のメンブレンと支持管との斜視図である。
【
図5】同、メンブレン式散気装置のメンブレンの一部切欠き平面図である。
【
図6】同、メンブレン式散気装置のメンブレンの一部切欠き底面図である。
【
図7】同、メンブレン式散気装置の支持管の断面図である。
【
図8】同、散気設備のメンブレン式散気装置と給気管との連結部分の断面図である。
【
図10】同、メンブレン式散気装置の気体供給ノズルの斜視図である。
【
図14】同、散気設備のアダプタと給気管と気体供給ノズルとを分解したときの図である。
【
図15】同、メンブレン式散気装置のメンブレンに形成されたスリットの配列パターンを示す拡大図であり、スリットが閉じた状態を示す。
【
図16】
図15に示したスリットの配列パターンをさらに拡大して表示した図である。
【
図17】同、メンブレン式散気装置のメンブレンに形成されたスリットの配列パターンを示す拡大図であり、スリットが開いた状態を示す。
【
図18】本発明の第1の実施の形態に対する参考例であって、第1の実施の形態とは異なる千鳥状に配列されたスリットの配列パターンの拡大図であり、スリットが閉じた状態を示す。
【
図19】本発明の第1の実施の形態に対する参考例であって、第1の実施の形態とは異なる千鳥状に配列されたスリットの配列パターンの拡大図であり、スリットが開いた状態を示す。
【
図20】本発明の第1の実施の形態におけるメンブレン式散気装置のメンブレンの製造方法の手順を示す図である。
【
図21】同、メンブレン式散気装置のメンブレンの製造方法の手順を示す図である。
【
図22】本発明の第2の実施の形態におけるメンブレン式散気装置の斜視図である。
【
図23】同、メンブレン式散気装置を長手方向から見たときの一部切欠き図であり、散気時の状態を示す。
【
図25】同、メンブレン式散気装置のメンブレンに形成されたスリットの配列パターンを示す拡大図であり、スリットが開いて亀裂が発生した様子を示す。
【
図26】同、メンブレン式散気装置のメンブレンの隣同士のスリットが亀裂を介して連通した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明における実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0030】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態では、
図1に示すように、1は、例えば下水処理場等に設置された好気槽(図示省略)内に設けられた散気設備である。散気設備1は、槽内の活性汚泥からなる被処理水3(液体の一例)の水面下に浸漬されており、被処理水3中に気泡4を放出する複数のメンブレン式散気装置10と、各メンブレン式散気装置10に空気11(散気用の気体の一例)を供給する給気管12と、メンブレン式散気装置10を給気管12に固定するアダプタ14(
図8参照)と、槽外から給気管12に空気11を供給するブロワ15とを有している。
【0031】
図2~
図6に示すように、メンブレン式散気装置10は、中心に中空状の挿入部16を有するチューブ状(円筒状)に形成されたメンブレン17と、メンブレン17の挿入部16に水平に挿入された支持管18(支持体の一例)と、メンブレン17の長手方向Aにおける中央部に設けられた気体供給ノズル19(気体供給部の一例)とを有している。
【0032】
メンブレン17は、表裏2枚のシート部材21,22を溶着して袋状に構成された袋状部23を有している。表側のシート部材21と裏側のシート部材22とは軟質弾性材の合成樹脂からなり、表側のシート部材21は袋状部23の外周面を構成し、裏側のシート部材22は袋状部23の内周面を構成している。
【0033】
メンブレン17の長手方向Aにおける中央部で且つ上部には、円形の第1開口部24が形成されている。挿入部16はメンブレン17の両端部に貫通しており、挿入部16とメンブレン17の上方とは第1開口部24を介して連通している。
【0034】
また、
図8,
図9,
図20に示すように、メンブレン17の長手方向Aにおける中央部で且つ下部には、円形の第1貫通孔26および第2貫通孔27が形成されている。このうち第1貫通孔26は表側のシート部材21に形成されている。また、第2貫通孔27は、第1貫通孔26よりも小径であり、裏側のシート部材22に形成されている。第1貫通孔26の中心と第2貫通孔27の中心とは同軸上にある。
【0035】
図4~
図6に示すように、両シート部材21,22は溶着部分29において溶着されている。この溶着部分29は、メンブレン17の両端部に全周にわたり形成された端部溶着部分29aと、第1開口部24の周囲に形成された中央溶着部分29bと、端部溶着部分29aと中央溶着部分29bとの間に形成された長手方向溶着部分29cを有している。
【0036】
表側のシート部材21には、気体供給ノズル19から袋状部23内に供給された空気11を外部へ放出するための多数の第1および第2スリット71,72が形成されている。
図6の仮想線で示すように、表側のシート部材21の下部には、第1および第2スリット71,72を形成していない不形成領域31が設けられており、不形成領域31と溶着部分29以外の領域に第1および第2スリット71,72が形成されている。
【0037】
図4,
図7に示すように、支持管18は両端が開放された樹脂製の円形の直管であり、支持管18の長手方向Aにおける中央部で且つ上部には、円形の第2開口部33が形成されている。
図8,
図9に示すように、支持管18をメンブレン17の挿入部16に挿入した状態で、メンブレン17の第1開口部24の位置と支持管18の第2開口部33の位置とが一致する。
【0038】
また、
図7に示すように、支持管18の長手方向Aにおける中央部で且つ下部には、ボルト挿通孔34が形成されている。
図8,
図9に示すように、支持管18のボルト挿通孔34の位置とメンブレン17の裏側のシート部材22の第2貫通孔27の中心位置とが一致する。
【0039】
図2,
図6,
図8,
図9,
図10~
図12に示すように、気体供給ノズル19は、円形の筒部37と鍔部38と天板部39とを有している。筒部37は、メンブレン17の表側のシート部材21の第1貫通孔26(
図14,
図20参照)に挿入され、メンブレン17の下方に突出している。筒部37の下端部には、一対の切欠部41と、給気管12内に開口する流入口42とが形成されている。
【0040】
鍔部38は、筒部37の上端部に形成されて筒部37の径方向における外側へ張り出しており、
図8,
図9に示すように、メンブレン17の袋状部23内に入り込んでいる。鍔部38の外周面には、袋状部23内に開口する複数の流出口43が形成されている。尚、表側のシート部材21の第1貫通孔26(
図14参照)の周辺部分は全周にわたり鍔部38の下面に溶着されており、これにより、気体供給ノズル19がメンブレン17に取り付けられている。
【0041】
天板部39は筒部37の上端部に形成されており、天板部39には上下方向に貫通するボルト挿入孔45が形成されている。
【0042】
気体供給ノズル19内には、流入口42と流出口43とに連通する通気流路46が形成されている。これにより、給気管12内とメンブレン17の袋状部23内とは気体供給ノズル19の通気流路46を介して連通する。また、気体供給ノズル19の上面には、支持管18の外周面に沿って円弧状に湾曲した凹部47が形成されている。
【0043】
図8,
図9に示すように、メンブレン式散気装置10はアダプタ14を介して給気管12に固定されている。
図13,
図14に示すように、アダプタ14は、メンブレン式散気装置10と給気管12との間に挟まれた直方体状のアダプタ本体50と、メンブレン17を介してメンブレン式散気装置10の支持管18を下方から支持する一対の支持部55とを有している。支持部55は、メンブレン式散気装置10の長手方向Aにおけるアダプタ本体50の両端部に設けられている。
【0044】
アダプタ本体50の下面には、給気管12の外周面に沿って円弧状に湾曲した凹部52と、Oリング嵌込部56とが形成されている。また、アダプタ本体50には、上下方向に貫通する円形の第1嵌込孔53が形成されている。Oリング嵌込部56は第1嵌込孔53の周囲を取り囲むように形成されている。
【0045】
図1に示すように、給気管12は、メンブレン式散気装置10の下方に配置されており、メンブレン式散気装置10の長手方向Aにおける中央部でメンブレン式散気装置10と直交している。
図14に示すように、給気管12の上端部には、給気管12の内外に貫通する複数の円形の第2嵌込孔54が形成されている。
【0046】
アダプタ14の第1嵌込孔53の位置と給気管12の第2嵌込孔54の位置とは一致している。
図8,
図9,
図14に示すように、気体供給ノズル19の筒部37は、上方から、アダプタ14の第1嵌込孔53と、給気管12の第2嵌込孔54とに嵌め込まれており、下端部が第2嵌込孔54から給気管12内に突入している。
【0047】
また、アダプタ14の下面と給気管12の外周面との間およびアダプタ14の第1嵌込孔53の内周面と気体供給ノズル19の筒部37の外周面との間を同時にシールするOリング62(シール部材の一例)がOリング嵌込部56に嵌め込まれてアダプタ14に保持されている。
【0048】
給気管12とアダプタ14とメンブレン17と支持管18と気体供給ノズル19とは連結部材51によって連結されている。連結部材51はT頭ボルト57とナット58とを有している。
【0049】
T頭ボルト57は、下方から、給気管12の第2嵌込孔54と気体供給ノズル19のボルト挿入孔45とメンブレン17の裏側のシート部材22の第2貫通孔27と支持管18のボルト挿通孔34とに挿通され、支持管18内に突入している。
【0050】
また、T頭ボルト57の頭部57aは、下方から、気体供給ノズル19の筒部37の両切欠部41に嵌め込まれて、給気管12の上端部の内周面に係合している。
【0051】
また、ナット58は、支持管18内でT頭ボルト57に螺合され、支持管18の内周面に係合する。
【0052】
尚、裏側のシート部材22の第2貫通孔27の周辺部分は全周にわたり支持管18の外周面と気体供給ノズル19の天板部39との間に挟まれている。また、支持管18のボルト挿通孔34には、ゴム等の弾性体からなる円筒状のガスケット60が嵌め込まれている。これにより、給気管12内から気体供給ノズル19の通気流路46を通ってメンブレン17の袋状部23内に供給される空気11の一部がボルト挿通孔34とT頭ボルト57との間から支持管18内に漏出するのを防止している。
【0053】
以下に、メンブレン17の表側のシート部材21に形成されている第1および第2スリット71,72の配列パターンについて説明する。
【0054】
図15,
図16に示すように、複数の第1および第2スリット71,72をメンブレン17の長手方向A(第1方向の一例)に沿って1列に交互に並べたスリット列73がメンブレン17の表側のシート部材21に複数列設けられている。
【0055】
第1および第2スリット71,72は、散気を行っていない時は閉じており、散気を行っている時は、開口する切れ込みである。
【0056】
第1スリット71はメンブレン17の長手方向Aに長く形成され、第2スリット72は長手方向Aに対して傾斜する第2方向75に長く形成されている。尚、第2スリット72は第1スリット71に対して25°以下の傾斜角度αで傾斜している。
【0057】
また、メンブレン17の周方向B(第1方向に直交する第3方向の一例)において隣り合う一方C1のスリット列73の第1および第2スリット71,72と他方C2のスリット列73の第1および第2スリット71,72とが千鳥状に交互に配置されている。すなわち、長手方向Aにおける第1スリット71と第2スリット72とのピッチをスリットピッチP1とすると、他方C2のスリット列73の第1および第2スリット71,72は、隣の一方C1のスリット列73の第1および第2スリット71,72に対して、スリットピッチP1の半分(すなわちP1/2)だけメンブレン17の長手方向Aへずれて配列されている。
【0058】
また、メンブレン17の周方向Bにおいて隣り合う一方C1のスリット列73の第2スリット72の長手方向における中心部D1と、上記一方C1のスリット列73の第2スリット72に最も近い他方C2のスリット列73の第2スリット72の長手方向における中心部D2とを通る仮想の直線76が第2方向75とは反対方向77に傾斜している。
【0059】
第1および第2スリット71,72の長さをスリット長さLとし、メンブレン17の周方向Bにおいて隣り合う一方C1のスリット列73と他方C2のスリット列73とのピッチを列ピッチP2とすると、以下のような大小関係に保たれている。
スリット長さL<列ピッチP2≦スリットピッチP1
また、メンブレン17の長手方向Aにおける第1スリット71と第2スリット72との間隔をスリット間隔Eとすると、以下のような大小関係に保たれている。
【0060】
スリット長さL<スリット間隔E
尚、散気時において、空気11が給気管12内から気体供給ノズル19の通気流路46を通ってメンブレン17の袋状部23内に供給され、袋状部23が膨張した際、メンブレン17の周方向Bの引張力F(
図17参照)が第1および第2スリット71,72に作用する。
【0061】
上記構成における作用を以下に説明する。
【0062】
図1,
図8,
図9に示すように、ブロワ15を駆動することにより、空気11がブロワ15から給気管12内に供給され、給気管12内の空気11が、気体供給ノズル19の流入口42から通気流路46を通り、流出口43からメンブレン17の袋状部23内に流入する。これにより、袋状部23が膨張し、
図17に示すように、メンブレン17の周方向Bの引張力Fが第1および第2スリット71,72に作用して、第1および第2スリット71,72が開き、袋状部23内の空気11が表側のシート部材21の第1および第2スリット71,72から外部へ放出されるため、多数の気泡4がメンブレン式散気装置10から被処理水3中に放出される。
【0063】
この際、上記引張力Fによって第1および第2スリット71,72の端部に亀裂79,80が発生することがある。
【0064】
この場合、第2スリット72が第1スリット71に対して傾斜しているため、メンブレン17の長手方向Aにおいて隣り合った第1スリット71の端部に発生した亀裂79が伝播するときの方向と第2スリット72の端部に発生した亀裂80が伝播するときの方向とは異なる。このため、第1スリット71の端部に発生した亀裂79と第2スリット72の端部に発生した亀裂80とが繋がる可能性は低くなり、隣同士の第1および第2スリット71,72が亀裂79,80を介して連通する不具合の発生率を低減することができる。
【0065】
また、メンブレン17の周方向Bにおいて隣り合う一方C1のスリット列73の第2スリット72の端部に発生した亀裂80と他方C2のスリット列73の第2スリット72の端部に発生した亀裂80とが伝播しても、上記仮想の直線76が第2方向75とは反対方向77に傾斜しているため(
図16参照)、上記一方C1のスリット列73の第2スリット72の端部に発生した亀裂80と他方C2のスリット列73の第2スリット72の端部に発生した亀裂80とが繋がる可能性は低くなり、隣同士の第2スリット72が亀裂80を介して連通する不具合の発生率を低減することができる。
【0066】
尚、本発明では、
図16に示すように、上記仮想の直線76が第2方向75とは反対方向77に傾斜するように第1および第2スリット71,72を千鳥状に配列しているが、参考例として、
図18に示すように、一方C1のスリット列73の第2スリット72の中心部D1と、上記一方C1のスリット列73の第2スリット72に最も近い他方C2のスリット列73の第2スリット72の中心部D2とを通る仮想の直線76が第2方向75と同じ方向に傾斜する(
図18では傾斜角度は若干異なるが傾斜の方向は同じ)ように第1および第2スリット71,72を千鳥状に配列した場合、
図19に示すように、一方C1のスリット列73の第2スリット72の端部に発生した亀裂80と他方C2のスリット列73の第2スリット72の端部に発生した亀裂80とが繋がる可能性が増し、隣同士の第2スリット72が亀裂80を介して連通する不具合の発生率が高まる虞がある。
【0067】
また、
図17に示すように、上記のような散気時において、膨張したメンブレン17の袋状部23に発生する周方向Bの引張力Fは第1および第2スリット71,72を開くための力となるのであるが、この際、第1スリット71が開く方向と引張力Fの方向とは一致するが、第2スリット72は角度α(
図16参照)で傾斜しているため、第2スリット72が開く方向と引張力Fの方向とは一致しない。すなわち、第1スリット71は引張力Fで開かれるのに対して、第2スリット72は、引張力Fよりも小さな、Fcosαの力F´で開かれる。このため、角度αが増大するほど、第2スリット72は第1スリット71に比べて開き難くなる。
【0068】
これにより、給気管12からメンブレン式散気装置10への給気量が少ない小風量で散気を行っている場合、供給された空気11の大部分は、開かれた第1スリット71から気泡4となって外部へ放出されるのに対し、開き難い第2スリット72から外部へ放出される気泡4の量は少ない。
【0069】
また、給気管12からメンブレン式散気装置10への給気量が多い大風量で散気を行っている場合、第2スリット72が開き、給気量の増加に伴って開いた第2スリット72の個数が増加し、供給された空気11は開かれた第1および第2スリット71,72から気泡4となって外部へ放出される。
【0070】
これにより、給気管12からメンブレン式散気装置10への給気量が増減した場合、これに伴って開く第2スリット72の個数が増減するため、給気量が増減しても、放出される気泡4の大きさのばらつきを少なくすることができ、ほぼ均一な大きさの気泡4が放出される。
【0071】
また、ブロワ15を停止し、メンブレン17の袋状部23内の空気11が第1および第2スリット71,72から外部へ放出されてしまうと、袋状部23が縮小し、第1および第2スリット71,72に引張力Fが作用しなくなるため、
図15,
図16に示すように第1および第2スリット71,72が閉じる。
【0072】
以下に、上記メンブレン式散気装置10のメンブレン17の製造方法について説明する。
【0073】
先ず、
図20に示すように、多数のスリット71,72を形成した表側のシート部材21の第1貫通孔26に気体供給ノズル19の筒部37を挿入し、第1貫通孔26の周辺部分に気体供給ノズル19を取り付けておく。
【0074】
その後、
図21に示すように、表側のシート部材21の外周縁65(
図20参照)と裏側のシート部材22の外周縁66(
図20参照)とを溶着して、袋状部23を有する長方形のメンブレンシート67を形成する。尚、
図21中の点描部分が表側のシート部材21と裏側のシート部材22との溶着部分29である。
【0075】
その後、メンブレンシート67の対向する長辺68同士を接合してチューブ状に形成することにより、
図4に示すように、内部に袋状部23を有するとともに中央部に挿入部16を有し、上部に第1開口部24を有するとともに、下部に気体供給ノズル19を備えたメンブレン17が形成される。
(第2の実施の形態)
先述した第1の実施の形態では、
図4に示すように、チューブ状(円筒状)のメンブレン17を有するメンブレン式散気装置10を挙げたが、メンブレン式散気装置はこのような形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明する第2の実施の形態では、
図22,
図23に示すように、平膜状のメンブレン101を有するメンブレン式散気装置102であってもよい。
【0076】
メンブレン101は、長方形状に形成されており、プラスチックや金属等で製作された長方形状のベースプレート103の上面に装着されている。メンブレン101の周囲は固定部104(例えばカシメ部材等)によってベースプレート103に固定されている。メンブレン101とベースプレート103との間には通気部105が形成されている。また、メンブレン101の長手方向Aにおける一端部には、短筒状の給気ノズル106が設けられている。給気ノズル106は、通気部105に連通するとともに、空気供給源に接続されている。
【0077】
メンブレン101には、多数の第1および第2スリット71,72が上記第1の実施の形態と同様な配列パターンで形成されている。すなわち、複数の第1および第2スリット71,72をメンブレン101の長手方向A(第1方向の一例)に沿って1列に交互に並べたスリット列73がメンブレン101に複数列設けられている。
【0078】
第1スリット71はメンブレン101の長手方向Aに長く形成され、第2スリット72は長手方向Aに対して傾斜する第2方向75に長く形成されている。
【0079】
また、メンブレン101の短手方向G(第1方向に直交する第3方向の一例)において隣り合う一方C1のスリット列73の第1および第2スリット71,72と他方C2のスリット列73の第1および第2スリット71,72とが千鳥状に交互に配置されている。
【0080】
以下、上記構成における作用を説明する。
【0081】
散気時、空気11を給気ノズル106から通気部105に供給することにより、
図23に示すように、メンブレン101が長手方向Aから見て山形状に膨張し、メンブレン101に短手方向Gの引張力Fが発生する。この引張力Fが第1および第2スリット71,72に作用して、第1および第2スリット71,72が開き、通気部105内の空気11が第1および第2スリット71,72から外部へ放出されるため、多数の気泡4がメンブレン式散気装置102から被処理水3中に放出される。
【0082】
この際、上記引張力Fによって第1および第2スリット71,72の端部に亀裂79,80が発生することがある。
【0083】
この場合、第2スリット72が第1スリット71に対して傾斜しているため、メンブレン101の長手方向Aにおいて隣り合った第1スリット71の端部に発生した亀裂79が伝播するときの方向と第2スリット72の端部に発生した亀裂80が伝播するときの方向とは異なる。このため、第1スリット71の端部に発生した亀裂79と第2スリット72の端部に発生した亀裂80とが繋がる可能性は低くなり、隣同士のスリット71,72が亀裂79,80を介して連通する不具合の発生率を低減することができる。
【0084】
また、メンブレン101の短手方向Gにおいて隣り合う一方C1のスリット列73の第2スリット72の端部に発生した亀裂80と他方C2のスリット列73の第2スリット72の端部に発生した亀裂80とが伝播しても、上記仮想の直線76が第2方向75とは反対方向77に傾斜しているため(
図16参照)、上記一方C1のスリット列73の第2スリット72の端部に発生した亀裂80と他方C2のスリット列73の第2スリット72の端部に発生した亀裂80とが繋がる可能性は低くなり、隣同士の第2スリット72が亀裂80を介して連通する不具合の発生率を低減することができる。
【0085】
上記第2の実施の形態では、平膜状のメンブレン101をベースプレート103に装着したタイプのメンブレン式散気装置102を示したが、背景技術として示したように、チューブ状に形成されたメンブレンに支持管を挿入し、メンブレンの両端部をバンド等の固定具で支持管に水密に固定したタイプのメンブレン式散気装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0086】
10 メンブレン式散気装置
11 空気(気体)
16 挿入部
17 メンブレン
18 支持管(支持体)
19 気体供給ノズル(気体供給部)
21 表側のシート部材
22 裏側のシート部材
23 袋状部
46 通気流路
71 第1スリット
72 第2スリット
73 スリット列
75 第2方向
76 仮想の直線
77 反対方向
101 メンブレン
102 メンブレン式散気装置
A メンブレンの長手方向(第1方向)
B メンブレンの周方向(第3方向)
D1,D2 第2スリットの長手方向における中心部
E スリット間隔
F 引張力
G メンブレンの短手方向(第3方向)
L スリット長さ
P1 スリットピッチ
P2 列ピッチ
α 角度