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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-01
(45)【発行日】2025-05-13
(54)【発明の名称】版印刷用水性インキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/037 20140101AFI20250502BHJP
   B41M 1/30 20060101ALI20250502BHJP
【FI】
C09D11/037
B41M1/30 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021214783
(22)【出願日】2021-12-28
(65)【公開番号】P2023098182
(43)【公開日】2023-07-10
【審査請求日】2024-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】水島 龍馬
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-210433(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035787(WO,A1)
【文献】特開2009-013345(JP,A)
【文献】特開2010-126562(JP,A)
【文献】特開2010-211854(JP,A)
【文献】特開2008-246737(JP,A)
【文献】特開2001-040266(JP,A)
【文献】特開2011-046874(JP,A)
【文献】特開平07-173424(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104774491(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/037
B41M 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、定着樹脂、ヒュームドシリカ、水溶性有機溶媒、及び水を含有する版印刷用水性インキであって、
該ヒュームドシリカの平均二次粒子径が5μm以上100μm以下であり、
該インキ中の該ヒュームドシリカの含有量が0.005質量%以上0.4質量%以下である、版印刷用水性インキ。
【請求項2】
顔料に対するヒュームドシリカの質量比(ヒュームドシリカ/顔料)が、0.0001以上0.05以下である、請求項1に記載の版印刷用水性インキ。
【請求項3】
顔料が、顔料を含有するポリマー粒子の形態である、請求項1又は2に記載の版印刷用水性インキ。
【請求項4】
水溶性有機溶媒の沸点が、100℃以上260℃以下である、請求項1~3のいずれかに記載の版印刷用水性インキ。
【請求項5】
インキ中の水溶性有機溶媒の含有量が12質量%以下である、請求項1~4のいずれかに記載の版印刷用水性インキ。
【請求項6】
インキ中の水の含有量が50質量%以上である、請求項1~5のいずれかに記載の版印刷用水性インキ。
【請求項7】
シリコーン系界面活性剤を更に含有する、請求項1~6のいずれかに記載の版印刷用水性インキ。
【請求項8】
グラビア印刷用である、請求項1~7のいずれかに記載の版印刷用水性インキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、版印刷用水性インキに関する。
【背景技術】
【0002】
凹版、平版、凸版等の印刷版を用いるグラビア印刷、フレキソ印刷、活版印刷等は、版の態様を変えることによって印刷の品質をコントロールすることができ、高精細な印刷ができることから広く行われている。
従来、グラビア印刷等の版印刷には油性インキが多用されているが、労働環境上、地球環境上、防災上の問題がある。そこで、水性インキを用いる版印刷が注目されている。
【0003】
しかし、顔料を含む水性インキにおいては、時間の経過に伴って顔料が沈降し、顔料粒子同士が凝集して、再分散が困難になるという問題がある。それを改善すべく、種々の試みがなされているが、十分な結果に結びついていないのが実情である。
また、近年、印刷基材として樹脂フィルムが多用されているが、水性インキは、樹脂フィルムのような親油性の高い印刷基材との親和性が低いため、画像濃度が劣るという問題がある。
【0004】
特許文献1には、レベリング性、トラッピング性等の印刷適性が良好となるグラビア印刷用水性印刷インキ組成物として、溶剤、ポリウレタン系樹脂およびアセチレングリコール系化合物を含有し、溶剤が、水とプロピレングリコールエーテルとを含有し、インキ組成物全量中、プロピレングリコールエーテルが10重量%以下である印刷インキ組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-44282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の水性インキは、顔料が沈降又は凝集するとインキの再分散性が不十分であり、特に樹脂フィルム等の低吸水性印刷基材に版印刷する際の画像濃度についても満足できるものではなかった。
本発明は、再分散性に優れ、画像濃度に優れる印刷物を得ることができる版印刷用水性インキを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、顔料、定着樹脂、ヒュームドシリカ、水溶性有機溶媒、及び水を含有する版印刷用水性インキにおいて、平均二次粒子径の比較的大きいヒュームドシリカを微量含有させることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、顔料、定着樹脂、ヒュームドシリカ、水溶性有機溶媒、及び水を含有する版印刷用水性インキであって、
該ヒュームドシリカの平均二次粒子径が5μm以上100μm以下であり、
該インキ中の該ヒュームドシリカの含有量が0.005質量%以上0.4質量%以下である、版印刷用水性インキを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、再分散性に優れ、画像濃度に優れる印刷物を得ることができる版印刷用水性インキを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[版印刷用水性インキ]
本発明の版印刷用水性インキは、顔料、定着樹脂、ヒュームドシリカ、水溶性有機溶媒、及び水を含有する版印刷用水性インキ(以下、「本発明インキ」ともいう)であって、該ヒュームドシリカの平均二次粒子径が5μm以上100μm以下であり、該インキ中の該ヒュームドシリカの含有量が0.005質量%以上0.4質量%以下である。
なお、「水性」とは、媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味する。
本発明インキは、印刷版を用いるグラビア印刷、フレキソ印刷、活版印刷等に好適に使用できるが、グラビア印刷用として使用することがより好ましい。
【0010】
本発明インキは再分散性に優れ、画像濃度に優れる印刷物を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
水性インキ中に含まれる顔料粒子は経時で沈降する。有機溶剤系インキの場合、沈降した顔料粒子間を十分濡らすことができるため、短時間の攪拌で再分散させることができる。しかしながら、水性インキの場合、一度顔料粒子が沈降すると顔料粒子間を濡らすことができず再分散するのに長時間の攪拌が必要である。
ここで、本発明は水性インキ中に平均二次粒子径が5μm以上100μm以下のヒュームドシリカを特定量含有することによって、水性インキ中の顔料粒子が経時で沈降する際にヒュームドシリカも同時に沈降していく。このヒュームドシリカは三次元の数珠状のネットワーク構造を有する凝集二次粒子を形成していることから沈降した顔料粒子の間隙に効率よく入り込みながら積層すると考えられる。この結果、少量のヒュームドシリカで高い沈降再分散性を発現することができると考えられる。
また、乾燥後のインキ塗膜は立体的な構造になり、見かけ上の顔料の表面積が大きくなり、光の反射が増え、また同時に、表面平滑性が著しく損なわれることもないため、画像濃度が向上すると考えられる。
【0011】
<顔料>
本発明インキに用いられる顔料は、水性インキ中で250nm以下の粒子径で分散状態を保つことができるものが好ましい。この顔料の好適な形態としては、(i)分散剤なしで分散状態を保つことができる顔料、すなわち自己分散型顔料の形態、(ii)顔料を低分子又は高分子の界面活性剤で分散させた顔料粒子の形態、(iii)顔料を含有するポリマー粒子の形態が挙げられる。これらの中では、インキの再分散性を向上し、得られる印刷物の画像濃度を向上させる観点から、顔料を含有するポリマー粒子の形態が好ましく、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の形態がより好ましい。
本明細書において、顔料を含有するポリマー粒子とは、ポリマーが顔料を包含した形態の粒子、ポリマーと顔料からなる粒子の表面に顔料の一部が露出している形態の粒子、ポリマーが顔料の一部に吸着している形態の粒子を意味し、これらの混合物であってもよい。これらの中では、ポリマーが顔料を包含した形態の粒子がより好ましい。
【0012】
(顔料)
本発明で用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、黒色インキにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。白色インキにおいては、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物等が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、有彩色インキにおいては、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、ブルー、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
前記顔料は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
(顔料を含有するポリマー粒子)
顔料を含有するポリマー粒子を構成するポリマー(以下、「ポリマーa」ともいう)は、少なくとも顔料分散能を有するものであれば特に制限はない。
顔料を含有するポリマー粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)は、顔料を含有するポリマー粒子を更に架橋剤で架橋してなる、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(以下、「顔料含有架橋ポリマー粒子」ともいう)であることがより好ましい。
架橋前のポリマーaは、水溶性ポリマーでも水不溶性ポリマーでもよいが、水不溶性ポリマーがより好ましい。使用するポリマーが水溶性ポリマーであっても、架橋処理すれば該ポリマーは水不溶性ポリマーとなる。
本明細書においてポリマーの「水不溶性」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることを意味し、ポリマーの前記溶解量は、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
【0014】
(ポリマーa)
ポリマーaは、水を主成分とする水系媒体に顔料を分散させる顔料分散能を有するポリマーである。ポリマーaは任意の構造をとることができるが、本発明インキの保存安定性を向上させる観点から、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物等のビニル単量体の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
ビニル系ポリマーとしては、(a-1)イオン性モノマーに由来する構成単位を含有することが好ましく、(a-1)成分と、(a-2)疎水性モノマーとを含むモノマー混合物A(以下、「モノマー混合物A」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーがより好ましい。該ビニル系ポリマーは、(a-1)成分由来の構成単位と(a-2)成分由来の構成単位を有する。
【0015】
〔(a-1)イオン性モノマー〕
(a-1)イオン性モノマーは、本発明インキ中の顔料の分散安定性を向上させる観点から、ポリマーaのモノマー成分として用いることが好ましい。(a-1)イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等が挙げられる。
これらの中でも、上記と同様の観点から、カルボン酸モノマーがより好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が更に好ましい。
【0016】
〔(a-2)疎水性モノマー〕
(a-2)疎水性モノマーは、本発明インキ中の顔料の分散安定性を向上させる観点から、(a-1)成分に加えて、さらにモノマー成分として用いることが好ましい。
(a-2)成分の具体例としては、特開2018-83938号公報の段落〔0020〕~〔0022〕に記載のものが挙げられる。これらの中では、炭素数1以上22以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。
【0017】
〔(a-3)ノニオン性モノマー〕
(a-3)ノニオン性モノマー(以下「(a-3)成分」ともいう)は、本発明インキ中の顔料の分散安定性をより向上させる観点から用いることができる。
(a-3)成分は、水や水溶性有機溶媒との親和性が高いモノマーであり、例えば水酸基やポリアルキレングリコール鎖を含むモノマーである。
(a-3)成分の具体例としては、特開2018-83938号公報の段落〔0018〕に記載のものが挙げられる。これらの中では、メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。
上記(a-1)~(a-3)成分は、それぞれ、各成分に含まれるモノマー成分を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
(モノマー混合物A中の各成分又はポリマーa中の各構成単位の含有量)
ポリマーa製造時における、(a-1)~(a-3)成分のモノマー混合物A中の含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はポリマーa中における(a-1)~(a-3)成分由来の構成単位の含有量は、顔料の分散安定性、及びインキの再分散性を向上させる観点から、次のとおりである。
(a-1)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
(a-2)成分の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
(a-3)成分を含有する場合、その含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
(a-2)成分に対する(a-1)成分の質量比[(a-1)/(a-2)]は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.25以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.8以下である。
本発明においてポリマーa中における(a-1)~(a-3)成分由来の構成単位の含有量は、測定により求めることができるし、ポリマーaの製造時における(a-1)~(a-3)成分を含む原料モノマーの仕込み比率で代用することもできる。
【0019】
(ポリマーaの製造)
ポリマーaは、モノマー混合物Aを公知の重合法により共重合させることによって製造することができる。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、水、脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性溶媒が好ましく、水、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン等がより好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩や水溶性アゾ重合開始剤等が挙げられ、重合連鎖移動剤としてはメルカプタン類等が挙げられる。
重合温度は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは80℃以下である。
重合雰囲気は、好ましくは窒素ガスや不活性ガス雰囲気である。
ポリマーaは、後述するように中和剤で中和することが好ましい。
【0020】
ポリマーaの重量平均分子量は、ポリマーで分散させた顔料のインキ中の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは1万以上、より好ましくは1.5万以上であり、そして、好ましくは20万以下、より好ましくは10万以下、更に好ましくは5万以下である。
ポリマーaの酸価は、上記と同様の観点から、好ましくは50mgKOH/g以上、より好ましくは70mgKOH/g以上、更に好ましくは80mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは300mgKOH/g以下、より好ましくは280mgKOH/g以下、更に好ましくは260mgKOH/g以下である。
重量平均分子量及び酸価の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0021】
ポリマーaは、(a-1)成分由来の構成単位と(a-2)成分由来の構成単位を有するものであれば、市販品を使用することもできる。ビニル系ポリマーの市販品例としては、BASF社製のジョンクリル67、同611、同678、同680、同690、同819等のスチレン-アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0022】
〔顔料含有ポリマー粒子の製造〕
顔料含有ポリマー粒子は、効率的に製造する観点から、下記の工程I、更に必要に応じて工程IIを有する方法により、顔料含有ポリマー粒子を水系媒体に分散させた顔料分散体Aとして、製造することが好ましい。
工程I:ポリマーaを溶媒に溶解してポリマーaの溶液を得た後、顔料、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を加えて混合し、顔料混合物からなる顔料分散体Aを得る工程
顔料を効率的にポリマー粒子に含有させるために、工程Iにおいては溶媒が有機溶剤を含むことが好ましい。溶媒が有機溶剤を含む場合は、工程Iに加えて、更に下記工程IIを有してもよい。
工程II:工程Iで得られた顔料混合物から有機溶剤を除去して、顔料分散体Aを得る工程
また、前記工程I及びIIに加えて、更に下記工程IIIを行うことが好ましい。
工程III:工程I又は工程IIで得られた顔料分散体Aと、架橋剤aとを混合し、架橋処理した顔料含有架橋ポリマー粒子を得る工程
本明細書において顔料分散体Aは、顔料含有ポリマー粒子が水系媒体に分散されているものと、顔料含有架橋ポリマー粒子が水系媒体に分散されているものの両方を意味する。
【0023】
(工程I)
工程Iにおいて、ポリマーaを溶解させる溶媒に制限はないが、顔料への濡れ性、ポリマーaの溶解性、及び顔料への吸着性の観点から、水、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等から選ばれる1種以上が好ましい。ポリマーaを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
ポリマーaがアニオン性ポリマーの場合、中和剤を用いて、pHが7以上11以下になるようにアニオン性基を中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられる。またポリマーaを予め中和しておいてもよい。
ポリマーaのアニオン性基の中和度は、本発明インキの保存安定性を向上させる観点から、ポリマーaのアニオン性基のモル当量数に対する中和剤のモル当量の比で、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上であり、そして、好ましくは300モル%以下、より好ましくは200モル%以下、更に好ましくは150モル%以下である。
【0024】
工程Iにおいて、得られた顔料混合物に機械力を付与して分散処理することが好ましい。機械力を付与する方法に特に制限はないが、例えば、特開2018-83938号公報の段落〔0032〕に記載の方法が挙げられる。機械力を付与する装置としては、顔料を効率よく小粒子径化する観点から、メディア式分散機が好ましい。
分散処理を行う場合、分散圧力等を制御することにより、顔料を所望の粒径になるように調整することができる。
【0025】
(工程II)
工程IIは、任意の工程である。得られた顔料分散体A中の有機溶剤は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残留有機溶剤が0.1質量%以下残存していてもよい。
顔料分散体A中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、保存安定性を向上させる観点、高精細な印刷を行う観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは120nm以上であり、そして、好ましくは350nm以下、より好ましくは320nm以下、更に好ましくは300nm以下である。
下記の工程IIIで、架橋処理した場合も、得られる顔料分散体A中の顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、前記顔料含有ポリマー粒子の平均粒径と同等である。
なお、前記平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0026】
(工程III)
工程IIIで、顔料含有ポリマー粒子を構成するポリマーaのカルボキシ基の一部を架橋し、顔料含有ポリマー粒子の表層部の一部又は全部に架橋構造を形成させ、顔料含有ポリマー粒子を顔料含有架橋ポリマー粒子とすることができる。この架橋処理により顔料の分散安定性に悪影響を与えるポリマーaの膨潤や収縮が抑制されて、インキの再分散性、得られる印刷物の画像濃度がより改善されると考えられる。
【0027】
架橋剤aは、ポリマーaがアニオン性基を有するアニオン性ポリマーである場合、該アニオン性基と反応しうる官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上6以下有する化合物がより好ましい。
架橋剤aの好適例としては、分子中に2以上のエポキシ基、オキサゾリン基、又はイソシアネート基を有する化合物等が挙げられる。これらの中でも、水溶率が50質量%以下、好ましくは40質量%以下の水不溶性で、分子中に2以上4以下のエポキシ基を有する化合物が好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル及びペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種以上がより好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(水溶率27質量%)が更に好ましい。ここで「水溶率」とは、25℃のイオン交換水90質量部に架橋剤10質量部を溶解したときの溶解率(質量%)をいう。
【0028】
工程IIIにおける顔料含有ポリマー粒子の架橋率は、インキの再分散性、得られる印刷物の画像濃度を向上させる観点から、ポリマーaのカルボキシ基のモル当量数に対する架橋剤の架橋性官能基のモル当量数の比で、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。
架橋処理の温度は、架橋反応の完結と経済性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは55℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは80℃以下である。
得られる顔料分散体Aの固形分濃度は、顔料分散体の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0029】
<定着樹脂>
本発明インキは、得られる印刷物の画像濃度を向上させる観点から、定着樹脂を含有する。
定着樹脂は、樹脂のみで構成されていることがより好ましい。すなわち、定着樹脂は、顔料を含有しない樹脂粒子(以下、「樹脂粒子B」ともいう)であることが好ましい。
樹脂粒子Bは、必要に応じて、架橋処理をすることもできる。
樹脂粒子Bを構成するポリマー(以下、「ポリマーb」ともいう)としては、ビニルポリマー、ウレタンポリマー、ポリエステルポリマー等が挙げられる。これらの中では、得られる印刷物の画像濃度を向上させる観点から、ビニルポリマーが好ましい。
【0030】
ポリマーbは、(b-1)イオン性モノマー、(b-2)疎水性モノマー等を含むモノマー混合物を公知の溶液重合法等により共重合させることにより製造できる。
(b-1)成分、(b-2)成分は、前記(a-1)成分、(a-2)成分と同様であり、好適例も同様である。
ポリマーbの重量平均分子量は、定着性を向上させる観点から、好ましくは5万以上、より好ましくは10万以上、更に好ましくは15万以上であり、そして、好ましくは80万以下、より好ましくは60万以下、更に好ましくは40万以下である。
ポリマーbの酸価は、定着性を向上させる観点から、好ましくは10mgKOH/g以上、より好ましくは20mgKOH/g以上、更に好ましくは30mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは80mgKOH/g以下、より好ましくは70mgKOH/g以下、更に好ましくは60mgKOH/g以下である。
ポリマーbの重量平均分子量と酸価は、実施例に記載の方法により測定される。
【0031】
樹脂粒子Bの本発明インキ中における平均粒径は、インキの再分散性、画像濃度を向上させる観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上であり、そして、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
なお、樹脂粒子Bの平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0032】
また、ポリマーaとポリマーbは、同一でも異なっていてもよい。すなわち、ポリマーa及びbは、異なる組成であってもよく、また、組成も含めて同一のポリマーであって、顔料の有無だけが異なるものであってもよい。
【0033】
商業的に入手しうる定着樹脂の分散体の市販品例としては、DSM Neo Resins社製のNeocryl A1127(アニオン性自己架橋水系アクリル系樹脂)、BASF社製のジョンクリル390等(アクリル系樹脂)、ジョンクリル7100、7600、734、780、537J、538J、PDX-7164、PDX-7775等(スチレン-アクリル系樹脂)、日本エイアンドエル株式会社製のSR-100、SR-102等(スチレン-ブタジエン樹脂)、日信化学工業株式会社製のビニブラン700、701等(塩化ビニル-アクリル系樹脂)等が挙げられる。
【0034】
<ヒュームドシリカ>
本発明において「ヒュームドシリカ」とは、火炎加水分解法によって製造される、非晶質かつ略球状で細孔の少ない一次粒子からなるシリカを意味する。ヒュームドシリカは、高度に精製した四塩化ケイ素を気化し、酸水素炎中で高温加水分解させることにより製造することができる。ヒュームドシリカは、沈殿法シリカ等の湿式法で製造されるシリカと区別するため、「乾式シリカ」、「気相法シリカ」とも呼ばれる。
しかしながら、ヒュームドシリカ以外のシリカは、ヒュームドシリカのように、インキ中において、三次元の数珠状のネットワーク構造を有する凝集二次粒子が形成され難く、これらを用いても、優れたインキの再分散性と画像濃度向上効果は得られない。
【0035】
ヒュームドシリカとしては、親水性ヒュームドシリカと疎水性ヒュームドシリカが挙げられる。
疎水性ヒュームドシリカは、ヒュームドシリカ表面の水酸基と、有機ケイ素化合物、シリコーンオイル等の官能基を有する有機化合物を反応させることで、該官能基をヒュームドシリカ粒子表面に化学的に固定化し、粒子を疎水化したものをいう。親水性ヒュームドシリカは、上記表面処理がなされていないヒュームドシリカをいう。
【0036】
ヒュームドシリカは、水性インキ中に微細に分散させて、光学濃度を維持する観点から、親水性ヒュームドシリカであることが好ましい。
ヒュームドシリカの平均一次粒子径は、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下、更に好ましくは30nm以下であり、そして、好ましくは5nm以上、より好ましくは7nm以上である。ヒュームドシリカの平均一次粒子径は商品のカタログ値を参照することができる。
ヒュームドシリカの平均二次粒子径(ヒュームドシリカの凝集粒子の平均粒子径)は、インキの再分散性を向上し、得られる印刷物の画像濃度を向上させる観点から、5μm以上であり、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上、より更に好ましくは25μm以上であり、そして、100μm以下であり、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、更に好ましくは50μm以下である。
ヒュームドシリカの平均二次粒子径は、実施例に記載の方法で測定される。
なお、ヒュームドシリカの平均二次粒子径の調整は、ヒュームドシリカを水と混合し、ディスパー等の分散機を用いて、回転数、時間を制御することにより行うことができる。例えば、ヒュームドシリカ濃度が10質量%程度の水分散体を、ディスパーを用いて、回転数2000~4000rpmで5分間~40分間程度分散処理することにより、平均二次粒子径が5μm以上100μm以下のヒュームドシリカを得ることができる。
【0037】
ヒュームドシリカのBET法比表面積は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは80m/g以上、更に好ましくは100m/g以上であり、そして、好ましくは340m/g以下、より好ましくは310m/g以下、更に好ましくは280m/g以下である。
【0038】
顔料に対するヒュームドシリカの質量比(ヒュームドシリカ/顔料)は、インキの再分散性を向上し、得られる印刷物の画像濃度を向上させる観点から、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.0005以上、更に好ましくは0.001以上であり、そして、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.04以下、更に好ましくは0.035以下である。
【0039】
親水性シリカの市販品例としては、例えば、日本アエロジル株式会社製の商品名:アエロジルW7520、アエロジル90、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジルR816、Cabot社製の商品名:CAB-O-SIL MS-5、CAB-O-SIL MS-7、株式会社トクヤマ製の商品名:レオロシールQS-102、レオロシール103、東ソー・シリカ株式会社製の商品名:Nipsil LP等が挙げられる。
【0040】
<水溶性有機溶媒>
本発明インキで用いられる水溶性有機溶媒は、25℃で液体であっても固体であってもよいが、該有機溶媒を25℃の水100mLに溶解させたときに、その溶解量は10mL以上である。
水溶性有機溶媒の沸点は、インキの濡れ拡がり性を向上させる観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは140℃以上であり、そして、好ましくは260℃以下、より好ましくは250℃以下、更に好ましく240℃以下である。
水溶性有機溶媒としては、アルキレングリコールエーテル等のグリコールエーテル、プロピレングリコール等の多価アルコール、アミド化合物等が挙げられる。これらの中では、アルキレングリコールエーテルが好ましい。
【0041】
アルキレングリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等から選ばれる1種以上が挙げられる。
これらの中では、インキの再分散性を向上し、得られる印刷物の画像濃度を向上させる観点から、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテルがより好ましい。
【0042】
<界面活性剤>
本発明インキは、印刷基材上でのインキの濡れ拡がり性を改善し、再分散性、画像濃度を向上させる観点から、界面活性剤を含有することができる。界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤が好ましい。
シリコーン系界面活性剤とは、ポリシロキサン構造を有する界面活性剤を意味し、側鎖、末端等に、親水性基、親水性ポリマー鎖等を有していてもよい。
前記シリコーン系界面活性剤は、下記一般式(1)で表されるシリコーン系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0043】
【化1】
【0044】
式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、好ましくはメチル基又はエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。
は下記式(a)で表される基を示し、Rは下記式(b)で表される基を示す。
kは1~500であり、好ましくは5~400、更に好ましくは10~300である。
mは1~500であり、好ましくは1~300、更に好ましくは2~200である。
nは0~100であり、好ましくは0~75、更に好ましくは0~50である。
【0045】
【化2】
【0046】
式(a)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、好ましくは水素原子である。
はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアシル基を示し、好ましくは水素原子である。
aは1~20であり、好ましくは1~3、より好ましくは1である。
bは0~50であり、好ましくは1~3、より好ましくは1である。
cは0~50であり、好ましくは0~3、より好ましくは0である。
【0047】
式(b)中、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、好ましくは水素原子である。
dは2~20であり、好ましくは2~16、より好ましくは2~12である。
eは1~20であり、好ましくは2~16、より好ましくは2~12である。
本発明において一般式(1)で表されるシリコーン系界面活性剤は、インキの再分散性を向上させる観点から、k:m:nの比は、好ましくは60~90:40~10:10~0、より好ましくは65~85:35~13:0~5、更に好ましくは70~85:30~15:0~2である。
前記一般式(1)で表されるシリコーン系界面活性剤は、インキの再分散性を向上させる観点から、一般式(1)におけるnが0以上であること、すなわち式(b)で表される基を有することが好ましい。
【0048】
前記一般式(1)で表されるシリコーン系界面活性剤は、市販品を使用することができる。前記市販品例としては、エボニック社製のTEGO twin 4000、TEGO twin 4100(ジェミニ型界面活性剤)等が挙げられる。
本発明インキは、必要に応じて、更に前記一般式(1)で表されるシリコーン系界面活性剤以外のポリエーテルシリコーン界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、公知のノニオン性界面活性剤等を含有することができる。
【0049】
(本発明インキ中の各成分の含有量)
本発明インキ中の顔料、定着樹脂、ヒュームドシリカ、水溶性有機溶媒、界面活性剤、及び水の含有量は、インキの再分散性を向上し、得られる印刷物の画像濃度を向上させる観点から、以下のとおりである。
なお、以下の各成分の含有量は、印刷時におけるインキ中の各成分の含有量をいう。本発明インキは、各成分を印刷時の含有量に調整してそのまま用いてもよく、予め調製したベースインキを水等で希釈し、印刷時の含有量に調整して用いてもよい。
【0050】
本発明インキ中の顔料の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは18質量%以下である。
本発明インキ中の顔料含有ポリマー粒子の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0051】
本発明インキ中の定着樹脂の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
本発明インキ中の顔料に対するポリマー(ポリマーaとポリマーbの総量)の質量比〔ポリマー/顔料〕は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1.5以下である。
【0052】
本発明インキ中のヒュームドシリカの含有量は、0.005質量%以上であり、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上であり、そして、0.4質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下、更に好ましくは0.2質量%以下である。
本発明インキ中の水溶性有機溶媒の含有量は、好ましくは12質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下であり、そして、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上である。
【0053】
本発明インキ中の界面活性剤、特にシリコーン系界面活性剤の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1%以下である。
本発明インキ中の水の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは77質量%以下である。
本発明インキは、その用途に応じて、任意成分として、pH調整剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤等の各種添加剤を含有することができる。
【0054】
本発明インキ中の20℃におけるザーンカップ粘度は、インキの再分散性を向上し、得られる印刷物の画像濃度を向上させる観点から、好ましくは10秒以上、より好ましくは12秒以上、更に好ましくは13秒以上であり、そして、好ましくは25秒以下、より好ましくは20秒以下、更に好ましくは18秒以下である。
本発明インキ中の20℃におけるpHは、分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上、更に好ましくは6.5以上であり、そして、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.5以下、更に好ましくは10.0以下である。
【0055】
[グラビア印刷]
本発明の版印刷用水性インキは、再分散性に優れ、グラビア版を用いるグラビア印刷に好適に使用することができる。本発明インキを、グラビア印刷方式により印刷基材に印刷することにより、画像濃度に優れる高精細なグラビア印刷物を得ることができる。
グラビア印刷で用いる印刷基材としては、コート紙、アート紙、合成紙、加工紙等の紙;ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ナイロンフィルム等の樹脂フィルム等が挙げられる。
樹脂フィルムの中では、印刷物を製造した後の打ち抜き加工等の後加工適性の観点から、ポリエステルフィルム及びポリプロピレンフィルムが好ましい。これらの樹脂フィルムは、二軸延伸フィルム、一軸延伸フィルム、無延伸フィルムであってもよい。
また、グラビア印刷適性を向上させる観点から、コロナ処理、プラズマ処理等の放電加工による表面処理を行った樹脂フィルムを用いてもよい。
【実施例
【0056】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、各物性等の測定方法は以下のとおりである。
【0057】
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolumn Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中に樹脂0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP、PTFE、0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0058】
(2)ポリマーの酸価の測定
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB-610)にポリマーをトルエンとアセトン(2:1)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム/エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とした。 水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から酸価を算出した。
【0059】
(3)顔料分散体の固形分濃度の測定
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件で固形分濃度を測定した。
【0060】
(4)顔料含有ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定する粒子の濃度が約5×10-3重量%になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力し、得られたキュムラント平均粒径を顔料含有ポリマー粒子、ポリマー粒子の平均粒径とした。
【0061】
(5)エポキシ化合物のエポキシ当量の測定
エポキシ化合物のエポキシ当量は、JIS K7236に従い、京都電子工業株式会社製、電位差自動滴定装置、AT-610を用いて電位差滴定法により測定した。
【0062】
(6)ヒュームドシリカの平均二次粒子径の測定
株式会社堀場製作所レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA950を用いて、ヒュームドシリカの屈折率1.46とし、屈折率1.333の水を分散媒として、循環速度5にして測定した。この時の体積中位粒子径(D50)の値を分散体の粒子の平均二次粒子径とした。
【0063】
製造例A1(顔料分散体A1の製造)
(1)2Lフラスコにイオン交換水236部を計り取り、顔料分散ポリマーとして水不溶性スチレン-アクリルポリマー(BASF社製、商品名:ジョンクリル690、重量平均分子量:16500、酸価:240mgKOH/g)を60部、5N水酸化ナトリウム溶液を36.5部(ナトリウム中和度:60モル%)投入した。アンカー翼を用いて200rpmで2時間撹拌し、スチレン-アクリルポリマー水溶液332.5部(固形分濃度:19.9%)を得た。
ディスパー翼を有する容積が2Lのベッセルに上記水溶液331.7部及びイオン交換水448.3部を投入し、0℃の水浴で冷却しながら、ディスパー(淺田鉄工株式会社製、ウルトラディスパー:商品名)を用いて1400rpmで15分間撹拌した。
(2)次いでシアン顔料(C.I.ピグメント・ブルー15:3)220部を加え、6400rpmで1時間撹拌した。得られた分散液を、ジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー社製、商品名:XTZボール、0.3mmφ)を80体積%充填した湿式分散機(株式会社広島メタル&マシナリー製、商品名:ウルトラアペックスミル UAM05)に投入し、5℃の冷却水で冷却しながら周速8m/s、流量200g/分で5パス分散後、200メッシュ金網を用いて濾過を行った。
(3)上記で得られた濾液500部(顔料110部、ポリマー33部)にデナコールEX-321L(ナガセケムテックス株式会社製、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、エポキシ当量:129)7.3部(ポリマー中のアクリル酸に含有する架橋反応点となるカルボン酸に対し40モル%相当)、プロキセルLV(S)(ロンザジャパン株式会社製、防黴剤、有効分濃度:20%)1部を添加し、更に固形分濃度が28.6%になるようにイオン交換水17.9部を添加し、70℃で3時間撹拌した後、200メッシュ金網で濾過し、顔料含有架橋ポリマー粒子の顔料分散体A1(顔料含有架橋ポリマー粒子の含有量:28.6%、平均粒径:164nm)526.2部を得た。
【0064】
製造例B1~B6、比較製造例B1(ヒュームドシリカ分散体B1~B6、ゲル状シリカ分散体B11の製造)
2Lフラスコにイオン交換水450部、表1に示すヒュームドシリカ等50部を加え、ディスパー(淺田鉄工株式会社製、ウルトラディスパー:商品名)を用いて3000rpmで表1に示す時間撹拌した。その後、100メッシュ金網で濾過し、ヒュームドシリカ分散体B1~B6及びゲル状シリカ分散体B11を得た。結果を表1に示す。
なお、用いたヒュームドシリカ等の詳細は以下のとおりである。
・アエロジル130:親水性ヒュームドシリカ、BET法比表面積:130m/g、平均一次粒子径:16nm
・アエロジル200:親水性ヒュームドシリカ、BET法比表面積:200m/g、平均一次粒子径:12nm
・アエロジル300:親水性ヒュームドシリカ、BET法比表面積:300m/g、平均一次粒子径:7nm
・アエロジル90:親水性ヒュームドシリカ、BET法比表面積:90m/g、平均一次粒子径:20nm
(アエロジルは、日本アエロジル株式会社製である。)
・サイリシア470、富士シリシア化学株式会社製、ゲル状多孔質シリカ、BET法比表面積:350m/g
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1(水性インキ1の製造)
製造容器内に調製例1で得られた顔料分散体A1の47.5部(水性インキ中の顔料含有量:10.0部、顔料分散ポリマーの含有量:3.6部)に、定着樹脂としてスチレン・アクリルポリマーエマルション(水性インキ中のポリマー含有量:10.0部、BASFジャパン株式会社製、商品名:ジョンクリルPDX-7775、重量平均分子量:20万、酸価:55mgKOH/g、固形分濃度:45%、平均粒径:80nm)22部を加え、150rpmで撹拌した。
更にジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG:日本乳化剤株式会社製、沸点230℃)5.0部、シリコーン系界面活性剤(エボニック社製、商品名:TEGO Twin 4100)0.5部、製造例1で得たヒュームドシリカ分散体B1を1部、及び配合量の合計が100部になるようにイオン交換水を加え、室温下で30分撹拌を行った後、ステンレス金網(100メッシュ)で濾過し、水性インキ1を得た。結果を表2に示す。
なお、表2中の各成分の量は有効分量である。
また、使用したシリコーン系界面活性剤、商品名:TEGO Twin 4100は、前記一般式(1)中、R=メチル基、k=1~500、m=1~500、n=1~100、k:m:n=71:27:2、式(a)中、R=水素原子、R=水素原子、a=1、b=1、c=0、式(b)中、R=水素原子、d=3、e=1~20である。
【0067】
実施例2~8、比較例1~3(水性インキ2~8、11~13の製造)
実施例1において、表2に示す配合組成とした以外は、実施例1と同様にして、水性インキ2~8、11~13を得た。結果を表2に示す。
表2中の界面活性剤の詳細は以下のとおりである。
【0068】
(1)再分散性の評価
得られたインキの当初の吸光度と再分散試験後の吸光度を下記のように測定し、下記の要領でインキの再分散性を評価した。
(i)当初の吸光度の測定
実施例、比較例で得られた水系インキ1gをイオン交換水にて2500倍に希釈し、分光光度計(株式会社日立製作所製、型番:U-3010)を用いて、吸収波長400~600nmの範囲にわたって測定した。測定範囲内での極大吸収波長の吸光度を用い、下記式にて当初の吸光度を算出した。
当初の吸光度=(極大吸収波長における吸光度×2500)
(ii)再分散試験後の吸光度の測定
実施例、比較例で得られたインキ300gを500mLの遠沈管に入れてアングルローターにセットし、高速冷却遠心機(日立工機株式会社製、商品名:himac CR22G、設定温度20℃)にて1500rpm、45分間遠心分離した。その後、遠沈管を卓上型ポットミル(アズワン株式会社製、商品名:PM-001)にのせて、200rpmにて攪拌した。
200rpmにて攪拌を開始した時を0秒とし、その後30秒経過ごとに液相を1g採取してイオン交換水にて2500倍に希釈し、分光光度計を用いて上記測定範囲内での極大吸収波長の吸光度を用い、下記式にて再分散試験後の吸光度を算出した。
再分散試験後の吸光度=(極大吸収波長における吸光度×2500)
再分散試験後の吸光度が当初の吸光度に対して98%となったサンプルの採取時間(秒)を測定し、インキの再分散性を評価した。
該時間が短い程、再分散性が良好であり、該時間が400秒未満であれば再分散性は実用上問題ない。
【0069】
(2)画像濃度の評価
実施例、比較例で得られた水性インキを用いて、OPPフィルム(フタムラ化学株式会社製、FOR-AQ#20、ラミネートグレード)のコロナ放電処理面にグラビア印刷を行った。印刷は、卓上グラビア印刷テスト機(松尾産業株式会社製、Kプリンティングプルーファー)を用いて、レーザー製版方式のグラビア250線、12μmのプレート(ナベプロセス株式会社製)でベタ印刷を行った。
ベタ印刷後、60℃に設定した乾燥機(ヤマト科学株式会社、Drying Oven DSV402)内で10分間乾燥した。
分光光度計(グレタグマクベス社製、商品名:SpectroEye)を用いて、測定モード(DIN,Abs)にて印刷部の画像濃度を測定した。結果を表2に示す。
画像濃度が1.7以上であれば実用上問題はない。
【0070】
【表2】
【0071】
表2から、実施例で得られた水性インキは、比較例で得られた水性インキに比べて、再分散性に優れ、樹脂フィルム基材に対しても版印刷物の画像濃度が優れていることが分かる。