(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-01
(45)【発行日】2025-05-13
(54)【発明の名称】短繊維の製造方法、不織布の製造方法、短繊維製造装置、及び不織布製造装置
(51)【国際特許分類】
D01G 1/10 20060101AFI20250502BHJP
D01G 25/00 20060101ALI20250502BHJP
D06B 1/02 20060101ALI20250502BHJP
D06B 3/04 20060101ALI20250502BHJP
【FI】
D01G1/10
D01G25/00 E
D06B1/02
D06B3/04
(21)【出願番号】P 2023514246
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2021015436
(87)【国際公開番号】W WO2022219743
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】重松 雅人
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-167628(JP,A)
【文献】特開2015-196915(JP,A)
【文献】特表2020-509254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01G 1/00-99/00
D06B 1/00-23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた搬送方向に搬送され、捲縮されたセルロースアセテート繊維を含み且つ水分を添着されたトウバンドに対し、前記搬送方向に張力を付与することにより、前記トウバンド中の前記捲縮されたセルロースアセテート繊維の交絡を緩和する交絡緩和ステップと、
前記交絡を緩和された前記トウバンドを切断して短繊維を形成する短繊維形成ステップと、を有
し、
前記交絡緩和ステップでは、前記トウバンドを加熱することにより、前記交絡の緩和を促進する、短繊維の製造方法。
【請求項2】
前記交絡緩和ステップでは、前記短繊維形成ステップにおいて切断直前の前記トウバンドの水分量が7質量%以上80質量%以下の範囲の値となるように、水分を前記トウバンドに添着する、請求項1に記載の短繊維の製造方法。
【請求項3】
前記交絡緩和ステップでは、水分を含むミストを前記トウバンドに接触させることにより、前記トウバンドに対して水分を添着する、請求項1
又は2に記載の短繊維の製造方法。
【請求項4】
前記ミストは、水分の蒸気を含む、請求項
3に記載の短繊維の製造方法。
【請求項5】
予め定められた搬送方向に搬送され、捲縮されたセルロースアセテート繊維を含み且つ水分を添着されたトウバンドに対し、前記搬送方向に張力を付与することにより、前記トウバンド中の前記捲縮されたセルロースアセテート繊維の交絡を緩和する交絡緩和ステップと、
前記交絡を緩和された前記トウバンドを切断して短繊維を形成する短繊維形成ステップと、を有し、
前記交絡緩和ステップでは、前記短繊維形成ステップにおいて切断直前の前記トウバンドの水分量が7質量%以上15質量%以下の範囲の値となるように、
水分の蒸気を含むミストを前記トウバンドに接触させる
ことにより、前記トウバンドに対して水分を添着する、短繊維の製造方法。
【請求項6】
前記交絡緩和ステップでは、前記短繊維形成ステップにおいて切断直前の前記トウバンドの水分量が7質量%以上35質量%以下の範囲の値となるように、前記ミストを前記トウバンドに接触させる、請求項
3に記載の短繊維の製造方法。
【請求項7】
前記短繊維形成ステップ後において前記短繊維に付着した水分を乾燥する乾燥ステップを有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の短繊維の製造方法。
【請求項8】
前記短繊維形成ステップでは、周面に配置された切断刃を有し且つ軸支され、前記トウバンドが前記切断刃に接触するように回転駆動される回転型カッターにより、前記トウバンドを切断する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の短繊維の製造方法。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載された製造方法により形成された短繊維を用いて不織布を製造する、不織布の製造方法。
【請求項10】
予め定められた搬送方向に搬送され、捲縮されたセルロースアセテート繊維を含み且つ水分を添着され
て加熱されたトウバンドに対し、前記搬送方向に張力を付与することにより、前記トウバンド中の前記捲縮されたセルロースアセテート繊維の交絡を緩和する交絡緩和部と、
前記交絡を緩和された前記トウバンドを切断して短繊維を形成する短繊維形成部と、を備える、短繊維製造装置。
【請求項11】
請求項
10に記載の短繊維製造装置と、
前記短繊維形成部により形成された前記短繊維を用いて不織布を形成する不織布形成部と、を備える、不織布製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、捲縮されたセルロースアセテート繊維を用いた短繊維の製造方法、不織布の製造方法、短繊維製造装置、及び、不織布製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
捲縮されたセルロースアセテート繊維により製造された短繊維(ステープル)が知られている。この短繊維は、例えば、不織布の材料として用いられる。この短繊維を用いた不織布は、セルロースアセテート繊維の風合を生かし、ふんわりとした肌触りのよい使用感が得られる。また、捲縮されたセルロースアセテート繊維を切断した短繊維を用いることで、嵩高い不織布を製造できる。
【0003】
捲縮されたセルロースアセテート繊維により短繊維を製造する場合、例えば、当該繊維を含むトウバンドを梱包箱から繰り出した後、トウバンド中の繊維の交絡を緩和して繊維を処理し易くする。その後、トウバンドをカッターにより切断して短繊維を形成する。カッターの形式としては、例えば、特許文献1に示されるギロチン型や、特許文献2に示される回転型等が知られている。不織布を製造する場合には、形成された複数本の短繊維が予めカード処理される。これにより、複数本の短繊維がシート状に広げられると共に繊維の流れ方向が整えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特願2000-141290号公報
【文献】特開平1-148818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
捲縮されたセルロースアセテート繊維は、比較的嵩高く、弾性に富んでおり、絡み合いが大きい。このため、捲縮されたセルロースアセテート繊維からなる短繊維は、短繊維製造装置において引っ掛かったり、搬送路に詰まることがある。また、捲縮されたセルロースアセテート繊維からなる短繊維は、カッターに対する姿勢がばらつくことで、長さ寸法が安定しない。これにより、短繊維の製造効率が低下する。
【0006】
そこで本開示は、捲縮されたセルロースアセテート繊維を用いて短繊維を製造する場合において、均一な長さ寸法の短繊維を効率よく製造可能にすることを目的とする。
【0007】
本願発明者らが検討したところ、捲縮されたセルロースアセテート繊維を含むトウバンドは、水分を添着することにより延伸し、繊維の交絡を緩和できることが確認された。本開示は、このような知見に基づくものである。
【0008】
即ち、本開示の一態様に係る短繊維の製造方法は、予め定められた搬送方向に搬送され、捲縮されたセルロースアセテート繊維を含み且つ水分を添着されたトウバンドに対し、前記搬送方向に張力を付与することにより、前記トウバンド中の前記捲縮されたセルロースアセテート繊維の交絡を緩和する交絡緩和ステップと、前記交絡を緩和された前記トウバンドを切断して短繊維を形成する短繊維形成ステップと、を有する。
【0009】
上記方法によれば、交絡緩和ステップにおいて、捲縮され且つ水分を添着された複数本のセルロースアセテート繊維の交絡が緩和されると共に、トウバンドの切断時におけるセルロースアセテート繊維の弾性が低減される。このため、形成された短繊維が、例えば、短繊維製造装置に引っ掛かったり、搬送路に詰まるのが防止される。また、短繊維形成ステップにおいてトウバンドを切断する際、カッターに対する繊維の姿勢がばらつくのを抑制できる。その結果、均一な長さ寸法の短繊維を形成できる。これにより、比較的簡素な方法で、安定した品質の短繊維を効率よく製造できる。
【0010】
前記交絡緩和ステップでは、前記短繊維形成ステップにおいて切断直前の前記トウバンドの水分量が7質量%以上80質量%以下の範囲の値となるように、水分を前記トウバンドに添着してもよい。これにより、トウバンドを延伸して繊維の交絡を緩和することにより均一な長さ寸法の短繊維を形成するために必要な水分を、適量でトウバンドに添着し易くできる。よって、短繊維の乾燥時に短繊維に与える負荷を低減できる。また、製造設備を水に濡れにくくできる。よって、設備管理の負担を軽減できる。
【0011】
前記交絡緩和ステップでは、前記トウバンドを加熱することにより、前記交絡の緩和を促進してもよい。このようにトウバンドを加熱することで、切断時のトウバンド中のセルロースアセテート繊維を一定範囲で可塑化し、セルロースアセテート繊維の弾性を低減できる。よって、トウバンド中のセルロースアセテート繊維の交絡を更に緩和できる。
【0012】
前記交絡緩和ステップでは、水分を含むミストを前記トウバンドに接触させることにより、前記トウバンドに対して水分を添着してもよい。これにより、トウバンドが過度に濡れるのを防止できる。よって、トウバンドの繊維の交絡を緩和するための水の使用量を低減できる。また、交絡緩和ステップ後にトウバンドを乾燥させるための手間やエネルギー消費の負荷を低減できる。また、水分が添着されたトウバンドにより、短繊維製造装置が過度に濡れるのを低減できる。
【0013】
前記ミストは、水分の蒸気を含んでいてもよい。これにより、トウバンドが水分により過度に濡れるのを一層良好に防止できる。またこの場合、前記交絡緩和ステップでは、前記短繊維形成ステップにおいて切断直前の前記トウバンドの水分量が7質量%以上15質量%以下の範囲の値となるように、前記ミストを前記トウバンドに接触させてもよい。これにより、トウバンドの繊維の交絡を緩和するために適量の水分量が得られると共に、トウバンドが水分により過度に濡れるのを一層良好に防止できる。
【0014】
前記交絡緩和ステップでは、前記短繊維形成ステップにおいて切断直前の前記トウバンドの水分量が7質量%以上35質量%以下の範囲の値となるように、前記ミストを前記トウバンドに接触させてもよい。また、前記短繊維形成ステップ後において前記短繊維に付着した水分を乾燥する乾燥ステップを有していてもよい。
【0015】
前記短繊維形成ステップでは、周面に配置された切断刃を有し且つ軸支され、前記トウバンドが前記切断刃に接触するように回転駆動される回転型カッターにより、前記トウバンドを切断してもよい。このような構成の回転型カッターを用いることで、搬送されるトウバンドを連続的に切断し、短繊維を一層効率よく形成できる。
【0016】
また、本開示の一態様に係る不織布の製造方法は、上記したいずれかに記載の短繊維の製造方法により形成された短繊維を用いて不織布を製造する。
【0017】
また、本開示の一態様に係る短繊維製造装置は、予め定められた搬送方向に搬送され、捲縮されたセルロースアセテート繊維を含み且つ水分を添着されたトウバンドに対し、前記搬送方向に張力を付与することにより、前記トウバンド中の前記捲縮されたセルロースアセテート繊維の交絡を緩和する交絡緩和部と、前記交絡を緩和された前記トウバンドを切断して短繊維を形成する短繊維形成部と、を備える。
【0018】
また、本開示の一態様に係る不織布製造装置は、前記短繊維製造装置と、前記短繊維形成部により形成された前記短繊維を用いて不織布を形成する不織布形成部と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本開示の各態様によれば、捲縮されたセルロースアセテート繊維を用いて短繊維を製造する場合において、均一な長さ寸法の短繊維を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態に係る不織布製造装置の概要図である。
【
図2】
図1の短繊維形成部が有する切断機構の内部構造を示す模式図である。
【
図3】第3実施形態に係る不織布製造装置の概要図である。
【
図4】実施例1の交絡緩和直後のトウバンドを撮影した写真である。
【
図5】実施例2の交絡緩和直後のトウバンドを撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示の各実施形態について、各図を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る不織布製造装置1の概要図である。
図2は、
図1の短繊維形成部3が有する切断機構30の内部構造を示す模式図である。
図1に示される不織布製造装置1は、梱包箱Bに折り畳まれて梱包されたベール状のトウバンド60を繰り出し、このトウバンド60を用いて短繊維62を形成する。即ち、本実施形態の不織布製造装置1は、短繊維製造装置を兼ねている。短繊維62は、不織布63の材料として用いられる。本明細書で言う不織布は、JIS L 0222:2001に準拠する不織布を指す。
【0022】
トウバンド60は、捲縮されたセルロースアセテート繊維61(以下、CA繊維61とも称する。)を含む。これによりトウバンド60は、伸縮性を有する。またトウバンド60は、複数本のCA繊維61同士が交絡された状態となっている。梱包箱Bから繰り出されるトウバンド60中のCA繊維61は、長繊維である。CA繊維61は、最小の捲縮単位である一次捲縮にて捲縮されると共に、一次捲縮よりも大きな捲縮単位である二次捲縮にて捲縮されている。CA繊維61は、更に二次捲縮よりも大きな捲縮単位である高次捲縮にて捲縮されていてもよい。
【0023】
トウバンド60のTD(トータルデニール)及びFD(フィラメントデニール)の各々は、適宜設定可能である。一例として、トウバンド60のTDは、数百万単位、数十万単位、数万単位、又は数千単位の値である。別の例では、トウバンド60のTDは、300万以上500万以下の範囲の値であり、100万以上200万以下の範囲の値がより好ましい。別の例では、トウバンド60のTDは、10万以上70万以下の範囲の値であり、10万以上30万以下の範囲の値がより好ましい。また別の例では、トウバンド60のTDは、5000以上10万以下の範囲の値であり、10000以上50000以下の範囲の値がより好ましい。
【0024】
またトウバンド60のFDは、一例として、10以下の範囲の値である。別の例では、トウバンド60のFDは、1以上8以下の範囲の値である。本実施形態のトウバンド60は、搬送方向Pに1デニール当たり2mgf以上50mgf以下の範囲の値の比較的弱い張力(荷重)を付与されながら、不織布製造装置1内に設けられた所定の搬送路50を搬送される。
【0025】
図1及び2に示すように、不織布製造装置1は、梱包箱Bから繰り出したトウバンド60を案内するガイド部材7と、予め定められた搬送方向Pに離隔して配置されてトウバンド60を案内する複数のガイドロールR1~R4とを備える。また不織布製造装置1は、トウバンド60の搬送路50の途中に配置されてトウバンド60中のCA繊維61の交絡を緩和する交絡緩和部2と、CA繊維61の交絡を緩和されたトウバンド60を切断して短繊維62を形成する短繊維形成部3とを備える。また不織布製造装置1は、短繊維形成部3から排出される短繊維62を乾燥する乾燥部4と、乾燥部4を通過した短繊維62を交絡させて不織布63を形成する不織布形成部5とを備える。
【0026】
交絡緩和部2は、搬送方向Pに搬送されて捲縮されたCA繊維61を含むトウバンド60に対し、搬送方向Pに張力を付与しながら水分を添着する。交絡緩和部2は、一例として、後述する回転ロール21の回転速度を変化させることにより、トウバンド60に付与される前記張力を調整する。この前記張力は、交絡緩和部2に導入される直前から、短繊維形成部3の切断機構30により切断される直前までのトウバンド60に対して付与される。これにより交絡緩和部2は、CA繊維61を延伸し、トウバンド60中のCA繊維61の交絡を緩和する。本実施形態の交絡緩和部2は、ミストMをトウバンド60に接触させることにより、トウバンド60に対して水分を添着する。本明細書で言うミストMは、気体中に分散されて水分を含む液体の微粒子である。ミストMには、蒸気及び微小液滴の少なくともいずれかが含まれる。
【0027】
なお、トウバンド60に付与される前記張力は、例えば、回転ロール21からトウバンド60に及ぶ荷重を変化させることでも調整できる。例えばこの場合、トウバンド60に対する回転ロール21の相対位置を下方にずらすと、トウバンド60に付与される前記張力が増大する。また例えば、トウバンド60に対する回転ロール21の相対位置を上方にずらすと、トウバンド60に付与される前記張力が減少する。また、トウバンド60に付与される前記張力は、回転ロール21の材質を変更したり、トウバンド60に対する回転ロール21の相対位置を所定位置に固定することによっても調整できる。
【0028】
本実施形態のミストMは、一例として蒸気を含む。また本実施形態では、この蒸気は加熱された蒸気である。加熱された蒸気の温度は、適宜設定可能であるが、一例として室温(25℃)よりも高温である。また別の例では、この蒸気は、沸点(100℃)以上に過熱した過熱蒸気である。蒸気の粒径は、一例として0.3nm以上40nm以下の範囲の値である。交絡緩和部2は、加熱された蒸気をトウバンド60に接触させることにより、トウバンド60を加熱しながらトウバンド60に水分を添着する。
【0029】
交絡緩和部2は、ミストMが充満されるハウジング20と、ハウジング20の内部に軸支されて周面にトウバンド60が巻回される少なくとも1つの回転ロール21と、ハウジング20の内部においてトウバンド60にミストMを噴霧する少なくとも1つのノズル22とを有する。ノズル22の後端には、交絡緩和部2の外部より水分をノズル22に供給する供給管23が接続される。例えば、回転ロール21の回転速度を増速すると、トウバンド60に付与される前記張力が増大する。また回転ロール21の回転速度を減速すると、トウバンド60に付与される前記張力が減少する。
【0030】
交絡緩和部2がトウバンド60に対して水分を添着することで、短繊維形成部3において切断直前のトウバンド60の水分量は、交絡緩和部2により水分を添着する前のトウバンド60の水分量(JIS L 1013:2010に準拠する平衡水分率)よりも多くなる。一例として、本実施形態の交絡緩和部2は、短繊維形成部3において切断直前のトウバンド60の水分量が7質量%以上80質量%以下の範囲の値となるようにミストMの噴霧量を調整する。ミストMの噴霧量は、例えばノズル22への単位時間当たりの水分の供給量、及び、トウバンド60の搬送速度の少なくともいずれかにより調整される。上記範囲の値にミストMの噴霧量を調整することで、後述するように、トウバンド60中のCA繊維61を可塑化に必要な水分量を確保し、且つ、水分量が過剰とならないように調整し易くできる。本実施形態の交絡緩和部2は、更に、短繊維形成部3において切断直前のトウバンド60の水分量が7質量%以上15質量%以下の範囲の値となるように、ミストMをトウバンド60に接触させる。
【0031】
ミストMには、油剤、柔軟剤、及び帯電防止剤等のうちの少なくとも1つの添加剤が含まれていてもよい。CA繊維61に添加剤を添着することで、不織布63の特性を添加剤により変化させることができる。また、ミストMの噴霧量及びノズル22からのミストMの噴霧方向の少なくともいずれかを調節することで、トウバンド60中のCA繊維61に対して局所的に添加剤を添着できる。これらの添加剤の添着量をトウバンド60に添着する水分量とは個別に調整する目的で、ミストMとは別に添加剤をトウバンド60に添着してもよい。
【0032】
短繊維形成部3は、長繊維束切断部である。短繊維形成部3は、CA繊維61を所定の長さ寸法に切断して短繊維62を形成する切断機構30と、形成された複数本の短繊維62をカード処理するカード機31とを有する。切断機構30は、周面にトウバンド60を接触させてトウバンド60を案内するように回転自在に軸支される案内ロール(押しロール)32と、案内ロール32により案内されたトウバンド60を切断する回転型カッター33とを有する。回転型カッター33は、周面に配置された切断刃34を有し且つ回転自在に軸支される。案内ロール32と回転型カッター33とは、案内ロール32の周面に搬送されるトウバンド60に回転型カッター33の切断刃34が接触するように回転駆動される。なお、案内ロール32と回転型カッター33とを組み合わせた構造は、ECカッターとも称される。
【0033】
本実施形態では、切断刃34の刃先と案内ロール32の周面との距離は、案内ロール32の周面に巻回されたトウバンド60の最外周のCA繊維61が、切断刃34と接触して切断される距離に設定されている。短繊維形成部3により形成される短繊維62の長さ寸法は、適宜設定可能である。本実施形態の短繊維62の長さ寸法は、一例として、1mm以上80mm以下の範囲の値である。また別の例では、1mm以上9mm以下の範囲の値である。また別の例では、30mm以上80mm以下の範囲の値である。短繊維62の長さ寸法は、これに限定されない。
【0034】
乾燥部4は、短繊維形成部3から排出される短繊維62を搬送する搬送機構40と、搬送機構40により搬送される短繊維62を加熱して乾燥する加熱部41とを有する。不織布形成部5は、乾燥後の短繊維62同士を交絡させることで、不織布63を形成する。また不織布形成部5は、乾燥後の短繊維62同士の交絡を調整することで、不織布63の厚み寸法や触感、又は繊維間隙の大きさ等を調整する。なお、短繊維製造装置のみが構成される場合、例えば、カード機31と不織布形成部5とは省略される。
【0035】
図1及び2に示すように、不織布製造装置1の駆動時には、ベール状のトウバンド60が梱包箱Bから繰り出される。トウバンド60は、ガイド部材7とガイドロールR1~R4とにより案内されながら、搬送方向Pに搬送される。搬送されるトウバンド60は、交絡緩和部2において、ミストMが充満するハウジング20の内部に導入される。トウバンド60は、回転ロール21の周面に巻回されながらハウジング20の内部を搬送される。
【0036】
このときトウバンド60は、搬送方向Pに1デニール当たり2mgf以上50mgf以下の範囲の値の比較的弱い張力(荷重)を付与されながら、少なくとも1つのノズル22によりミストMを添着される。一例として、ノズル22は、トウバンド60の表面に垂直な方向を含む複数の方向から、トウバンド60に対してミストMを噴霧する。ミストMは、トウバンド60の表面に接触した後、トウバンド60の内部に浸透する。またトウバンド60は、豊富な繊維間隙を有する。このため、ミストMは繊維間隙を通じてトウバンド60の内外の複数本のCA繊維61に直接接触する。これにより、トウバンド60に含まれる複数本のCA繊維61に水分が添着される。各CA繊維61は、水分が添着されて可塑化されることで、少なくとも二次捲縮以上の高次捲縮が緩慢となる。
【0037】
ここで本実施形態のノズル22は、トウバンド60に対して加熱された蒸気を噴霧する。トウバンド60中のCA繊維61は、加熱された蒸気が添着されることで、水分と加熱との両方により可塑化される。これにより複数本のCA繊維61は、弾性が低減されて交絡の緩和が促進される。本実施形態では、トウバンド60に対して水分を添着すると共にトウバンド60を加熱することで、CA繊維61を可塑化し易くできる。よって、CA繊維61の交絡を緩和するための水分の使用量を低減できる。
【0038】
交絡緩和部2を通過したトウバンド60は、前記張力が付与された状態で、短繊維形成部3へ向けて搬送方向Pに搬送される。本実施形態では、交絡緩和部2においてトウバンド60に蒸気として噴霧される水分は、比較的少量である。このため、交絡緩和部2と短繊維形成部3との間において、トウバンド60の過剰な水分を除去する工程は不要である。よって、不織布製造装置1の簡素化を図れる。
【0039】
搬送されるトウバンド60は、短繊維形成部3において、切断機構30に導入される。
図2に示すように、このときトウバンド60は、前記張力が付与された状態で、回転駆動される案内ロール32の周面に案内されながら搬送され、回転駆動される回転型カッター33の切断刃34と接触する。これにより、トウバンド60中のCA繊維61が所定の長さ寸法に切断されて複数本の短繊維62が形成される。
【0040】
ここで本実施形態では、切断機構30に導入されるトウバンド60の水分量が比較的少ない。このため例えば、過度に水分を含んだトウバンド60が案内ロール32と回転型カッター33との間に詰まったり、切断前後のトウバンド60中のCA繊維61が、水分により、案内ロール32又は回転型カッター33に張り付いて排出しにくくなるのが防止される。また本実施形態では、トウバンド60の複数本のCA繊維61は、交絡が緩和されて前記張力が付与された状態で、切断刃34により切断される。このため、切断刃34に対するCA繊維61の姿勢が安定する。その結果、トウバンド60は、回転型カッター33により均一な長さ寸法で切断される。これにより形成された短繊維62は、短繊維形成部3から連続的に排出される。本実施形態では、回転型カッター33の採用により、トウバンド60を搬送しながら短繊維62が形成される。このため、短繊維62が効率よく形成される。
【0041】
形成された複数本の短繊維62は、次にカード機31によりカード処理される。これにより短繊維62は、厚み寸法と短繊維62の流れ方向とが調整される。本実施形態では、カード機31に導入される短繊維62は、水分の添着により可塑化されている。このため複数本の短繊維62は、カード機31に絡まったり、カード機31の針に引っ掛かってカード機31を通過できなくなるのを防止されながら良好にカード処理される。
【0042】
図1に示すように、カード処理された複数本の短繊維62は、搬送方向Pに搬送されて乾燥部4に導入される。短繊維62は、搬送機構40により搬送されながら、加熱部41により乾燥される。これにより短繊維62は、所定の水分量となるように乾燥される。乾燥部4に導入される短繊維62は、水分量がそれほど多くない。このため乾燥部4では、短繊維62は、比較的軽度に乾燥され、加熱によって受ける負荷が低減される。乾燥部4を通過した複数本の短繊維62は、不織布形成部5に導入される。不織布形成部5において、複数本の短繊維62は、一例としてニードルパンチ法に基づいて交絡される。これにより、不織布63が形成される。
【0043】
交絡緩和部2において、トウバンド60に水分が添着されてトウバンド60が延伸することにより、短繊維形成部3において、トウバンド60の切断時におけるCA繊維61の弾性が低減され、且つ、CA繊維61の捲縮が緩慢となる。その後、短繊維62の水分が乾燥により低減されることで、不織布形成部5では、CA繊維61の風合を生かし、ふんわりとした肌触りの良い不織布63が得られる。
【0044】
なお、不織布形成部5が不織布63を形成する方法としては、ニードルパンチ法の他、乾式法、湿式法、ケミカルボンド法、水流交絡法等、いずれかの公知の方法を例示できる。不織布形成部5から排出される不織布63は、必要に応じて所定の長さ寸法に切断される。また、不織布形成部5に導入される際の複数本の短繊維62の水分量が適切である場合、乾燥部4は省略されてもよい。
【0045】
このように、本実施形態の短繊維62の製造方法は、予め定められた搬送方向Pに搬送され、捲縮されたCA繊維61を含み且つ水分を添着されたトウバンド60に対し、搬送方向Pに張力を付与することにより、トウバンド60中のCA繊維61の交絡を緩和する交絡緩和ステップと、CA繊維61の交絡を緩和されたトウバンド60を切断して短繊維62を形成する短繊維形成ステップとを有する。本実施形態の短繊維形成ステップでは、CA繊維61の交絡を緩和されたトウバンド60を前記張力を付与した状態で切断して短繊維62を形成する。
【0046】
また本実施形態の短繊維62の製造方法は、一例として、交絡緩和ステップ前において、交絡緩和ステップ中でトウバンド60に水分を添着するための準備(一例として、本実施形態では交絡緩和部2の設定等)を行う準備ステップを有する。また本実施形態の短繊維62の製造方法は、一例として、短繊維形成ステップ後において、短繊維62に付着した水分を乾燥する乾燥ステップを有する。また本実施形態の不織布63の製造方法は、製造された短繊維62を用いて不織布63を製造する。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の不織布63の製造方法は、交絡緩和ステップと短繊維形成ステップとを有する。この製造方法によれば、交絡緩和ステップにおいて、捲縮され且つ水分を添着された複数本のCA繊維61の交絡が緩和されると共に、トウバンド60の切断時におけるCA繊維61の弾性が低減される。このため不織布製造装置1において、形成された短繊維62が、例えば、不織布製造装置1に引っ掛かったり、搬送路50に詰まるのが防止される。また短繊維形成ステップにおいてトウバンド60を切断する際、カッター33に対するCA繊維61の姿勢がばらつくのを抑制できる。その結果、均一な長さ寸法の短繊維62を効率よく形成できる。これにより、比較的簡素な方法で、安定した品質の短繊維62を効率よく製造できる。
【0048】
また上記製造方法によれば、トウバンド60に対し、水分を添着して搬送方向Pに張力を付与することで、CA繊維61を延伸し、複数本のCA繊維61の交絡を緩和できる。従って、例えば、トウバンド60を機械的に開繊する開繊ロールや、トウバンド60を気体により開繊する気体開繊装置が不要である。よって、不織布製造装置1の簡素化を図れる。また本実施形態によれば、捲縮されたCA繊維61により嵩高く構成されたトウバンド60を用いても、均一な長さ寸法の短繊維62を効率よく形成できる。
【0049】
また上記製造方法によれば、水分を用いた交絡緩和ステップを行うことで、均一な長さ寸法の短繊維62を効率よく形成できる。従って、例えば短繊維62を形成する前に、トウバンド60を薬剤で変質させて捲縮数を低減する工程等が不要である。また交絡緩和ステップでは、水分を用いるため、比較的安全な方法で短繊維62を効率よく形成できる。また上記方法によれば、交絡緩和ステップを行っても短繊維62の捲縮をある程度維持できる。よって、捲縮された短繊維62により、嵩高い不織布63を製造できる。
【0050】
また、本実施形態の短繊維形成ステップでは、CA繊維61の交絡を緩和されたトウバンド60を、前記張力を付与した状態で切断して短繊維62を形成する。これにより、トウバンド60を切断する際のCA繊維61の姿勢を一層安定化できる。よって、均一な長さ寸法の短繊維62をより形成し易くできる。
【0051】
また、本実施形態の交絡緩和ステップでは、短繊維形成ステップにおいて切断直前のトウバンド60の水分量が7質量%以上80質量%以下の範囲の値となるように、水分をトウバンド60に添着する。これにより、トウバンド60を延伸してCA繊維61の交絡を緩和することにより均一な長さ寸法の短繊維62を形成するために必要な水分を、適量でトウバンド60に添着し易くできる。よって、短繊維62の乾燥時に短繊維62に与える負荷を低減できる。また、製造設備を水に濡れにくくできる。よって、設備管理の負担を軽減できる。
【0052】
また、本実施形態の交絡緩和ステップでは、トウバンド60を加熱することにより、CA繊維61の交絡の緩和を促進する。このようにトウバンド60を加熱することで、切断時のトウバンド60中のCA繊維61を一定範囲で可塑化し、短繊維62の弾性を低減できる。よって、トウバンド60中のCA繊維61の交絡を更に緩和できる。
【0053】
また交絡緩和ステップでは、水分を含むミストMをトウバンド60に接触させることにより、トウバンド60に対して水分を添着する。これにより、例えば、トウバンド60が過度に濡れるのを防止できる。よって、CA繊維61の交絡を緩和するための水の使用量を低減できる。また、交絡緩和ステップ後にトウバンド60を乾燥させるための手間やエネルギー消費の負荷を低減できる。また、水分を添着されたトウバンド60により、不織布製造装置1が過度に濡れるのを低減できる。
【0054】
またミストMは、水分の蒸気を含む。これにより、トウバンド60が水分により過度に濡れるのを一層良好に防止できる。また交絡緩和ステップでは、短繊維形成ステップにおいて切断直前のトウバンド60の水分量が7質量%以上15質量%以下の範囲の値となるように、ミストMをトウバンド60に接触させる。これにより、トウバンド60中のCA繊維61の交絡を緩和するために適量の水分量が得られると共に、トウバンド60が水分により過度に濡れるのを一層良好に防止できる。
【0055】
また一例として、本実施形態の不織布63の製造方法は、短繊維形成ステップ後において短繊維62に付着した水分を乾燥する乾燥ステップを有する。これにより、水を含んだ短繊維62が不織布製造装置1に付着するのを防止できる。また、形成される不織布63に不要な水分が含まれるのを防止できる。
【0056】
また一例として、短繊維形成ステップでは、周面に配置された切断刃34を有し且つ軸支され、トウバンド60が切断刃34に接触するように回転駆動される回転型カッター33により、トウバンド60を切断する。このような構成の回転型カッター33を用いることで、搬送されるトウバンド60を連続的に切断し、短繊維62を一層効率よく形成できる。
【0057】
なお切断機構30は、回転型カッター33を有さず、例えば特許文献1に開示されるようなギロチン型カッターと、ギロチン型カッターに対してトウバンド60を供給するフィーダーとを有していてもよい。このギロチン型カッターは、トウバンド60を切断するための一対の刃(例えば下刃及び上刃)のうちの少なくともいずれかを有していてもよい。ギロチン型カッターを用いる場合、トウバンド60に付与される前記張力は、例えばフィーダーの供給速度により調整される。一例として、フィーダーの供給速度を増速すると、前記張力が増大する。また、フィーダーの供給速度を減速すると、前記張力が低減する。しかしながら、切断機構30が回転型カッター33を有する場合、短繊維62は比較的高速で形成される。このため、例えば回転型カッター33を用いた方が、不織布63の製造効率は向上する。また、交絡緩和ステップにおいてトウバンド60を加熱する場合、トウバンド60に水分を添着する工程と、トウバンド60を加熱する工程とを個別に行ってもよい。この場合、例えば、トウバンド60に水分を添着した後、トウバンド60を加熱することで、トウバンド60の温度が水分添着により低下するのを防止できる。
【0058】
また交絡緩和部2と短繊維形成部3とには、1つのトウバンド60、又は、複数のトウバンド60を含むトウバンド60の束のいずれが導入されてもよい。本実施形態では、上記したように不織布63が効率よく製造される。このため、トウバンド60の束を用いて不織布63を製造する場合でも、不織布63を良好に製造できる。以下、その他の実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0059】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る不織布製造装置1の交絡緩和部2は、第1実施形態と同様に、ノズル22によりミストMをトウバンド60に噴霧する。ミストMは、水分の微小液滴を含む。この微小液滴の粒径は、蒸気の粒径よりも大きい。一例として、微小液滴の粒径は、0.1μm以上100μm以下の範囲の値である。
【0060】
また第1実施形態と同様に、本実施形態の不織布63の製造方法も、一例として、交絡緩和ステップ前において、交絡緩和ステップ中でトウバンド60に水分を添着するための準備を行う準備ステップを有する。また一例として、短繊維形成ステップ後において、短繊維62に付着した水分を乾燥する乾燥ステップを有する。
【0061】
交絡緩和ステップでは、トウバンド60は、搬送方向Pに1デニール当たり2mgf以上50mgf以下の範囲の値の比較的弱い張力(荷重)を付与されながら、微小液滴状の水分が噴霧される。トウバンド60中のCA繊維61は、微小液滴状の水分により可塑化されて弾性が低減される。これにより、CA繊維61同士の交絡が緩和される。また本実施形態も、第1実施形態と同様に、交絡緩和ステップでは、短繊維形成ステップにおいて切断直前のトウバンド60の水分量が7質量%以上80質量%以下の範囲の値となるようにトウバンド60に水分を添着する。一例として交絡緩和ステップでは、短繊維形成ステップにおいて切断直前のトウバンド60の水分量が7質量%以上35質量%以下の範囲の値(別の例では、15質量%以上35質量%以下の範囲の値)となるように、ミストMをトウバンド60に接触させる。第1実施形態と同様に、ミストMには添加剤が含まれていてもよい。本実施形態によれば、微小液滴状の水分を用いることで、第1実施形態に比べて豊富な量の添加剤をCA繊維61に添着できる。
【0062】
本実施形態においても、例えば既存の噴霧装置等を用いて、水分を含むミストMをトウバンド60に効率よく添着できる。このため、比較的低コストで、トウバンド60に対して水分を添着できる。また、捲縮されたCA繊維61(トウバンド60)を用いて不織布63を製造する場合において、均一な長さ寸法の短繊維62を効率よく形成できる。また本実施形態においても、交絡緩和部2においてトウバンド60に添着される水分は比較的少量である。このため、交絡緩和部2と短繊維形成部3との間において、トウバンド60に含まれる過剰な水分を除去する工程を省略できる。
【0063】
また本実施形態の交絡緩和ステップでは、短繊維形成ステップにおいて切断直前のトウバンド60の水分量が7質量%以上35質量%以下の範囲の値となるように、ミストMをトウバンド60に接触させる。これにより、トウバンド60に添着される水分量を適切な量に設定できる。なお本実施形態では、交絡緩和ステップにおいて、トウバンド60に対し、加熱された微小液滴を含むミストMを噴霧してもよい。この場合、第1実施形態と同様に、トウバンド60中のCA繊維61は、水分と加熱との両方により可塑化される。
【0064】
(第3実施形態)
図3は、第3実施形態に係る不織布製造装置11の概要図である。
図3に示す不織布製造装置11が備える交絡緩和部12は、搬送されるトウバンド60を張力を付与した状態で水に浸漬することにより、トウバンド60に水分を添着し、トウバンド60中のCA繊維61の交絡を緩和する。交絡緩和部12は、水を貯留する貯留部25と、貯留部25の内部に軸支されて周面にトウバンド60が巻回される少なくとも1つの回転ロール26とを有する。トウバンド60は、回転ロール26の周面に巻回され、搬送方向Pに張力を付与されながら貯留部25内の水に浸漬されて水分を添着される。貯留部25内の水は、室温(25℃)よりも高温であってもよい。即ち、本実施形態においても、交絡緩和ステップでトウバンド60を加熱することにより、CA繊維61の交絡の緩和を促進してもよい。
【0065】
本実施形態の不織布63の製造方法も、一例として、交絡緩和ステップ前において、交絡緩和ステップ中でトウバンド60に水分を添着する準備(一例として、本実施形態では交絡緩和部12の設定等)を行う準備ステップを有する。また一例として、本実施形態の不織布63の製造方法も、短繊維形成ステップ後において、短繊維62に付着した水分を乾燥する乾燥ステップを有する。
【0066】
また本実施形態の交絡緩和ステップでは、一例として、短繊維形成ステップにおいて切断直前のトウバンド60の水分量が7質量%以上80質量%以下の範囲の値となるようにトウバンド60に水分を添着する。また、更に一例として、交絡緩和ステップでは、短繊維形成ステップにおいて切断直前のトウバンド60の水分量が60質量%以上80質量%以下の範囲の値となるようにトウバンド60に水分を添着する。
【0067】
短繊維形成ステップにおいて切断直前のトウバンド60の水分量は、例えば、水に浸漬されたトウバンド60が自然状態で液だれしない程度(100質量%未満の範囲の値、好ましくは80質量%以下の範囲の値)が好適である。また、トウバンド60を水に浸漬するための水量(貯留部25内の水量)は、短繊維62の乾燥時に短繊維62に与える負荷が過剰とならない程度に設定される。これにより、トウバンド60に対して添着される水量が適量に調整される。本実施形態においても、トウバンド60に水を添着することでCA繊維61を可塑化できる。また、トウバンド60に加熱された水分を添着することで、CA繊維61を水分と加熱との両方により可塑化できる。よって、均一な長さ寸法の短繊維62を形成することにより、不織布63を効率よく製造できる。
【0068】
(確認試験)
次に、確認試験について説明するが、本開示は、以下に示す実施例に限定されない。以下の手順で、実施例1~3及び比較例1、2に係る短繊維を作製した。
[実施例1の作製]
TDが30000、FDが3、1インチ長当たりの捲縮数(一次捲縮数)が346にそれぞれ設定されたトウバンド60を用いた。トウバンド60の捲縮数は、以下の方法でカウントした。サンプリングしたトウバンド60をテーブルに載置し、トウバンド60の捲縮が伸びる方向の一端をテーブル側に固定し、他端をテーブルの端から下方に垂らした。トウバンド60の前記他端に対して錘により一定荷重を掛けることで、トウバンド60に対して捲縮が伸びる方向に一定の張力を付与した。この状態で、トウバンド60の表面に存在する凹凸を照明により浮かび上がらせた。そして、トウバンド60の表面をCCDカメラ等の光学センサにより撮影した。
【0069】
撮影画像を次の方法により二値化処理した。コンピュータに、撮影画像中の各画素の画素値(一例として輝度)を、所定の閾値以上であれば「1」に変換させ、閾値未満であれば「0」に変換させた。続いてコンピュータに、変換した画像中にトウバンド60に捲縮を伸ばす方向に画素値「1」の画素が所定の態様で連続する画素グループがあると判定した場合には、その画素グループを山部であると判定させた。またコンピュータに、変換した画像中に前記方向に画素値「0」が所定の態様で連続する画素グループがあると判定した場合には、その画素グループを谷部であると判定させた。またコンピュータに、谷部及び山部の合計数を2で割った値を捲縮数としてカウントさせた。これにより、前記方向における1インチ長当たりのトウバンド60の捲縮数(一次捲縮数)をカウントした。
【0070】
またトウバンド60を不織布製造装置1に導入し、第1実施形態に開示した方法で交絡緩和ステップと短繊維形成ステップとを行った。交絡緩和ステップでは、トウバンド60の搬送方向Pに付与する張力を、トウバンド60全体で0.3kgf(1デニール当たり10mgf)となるように設定した。またトウバンド60に対して、加熱された蒸気(100℃以上)をノズル22から噴霧することにより、トウバンド60に水分を添着した。交絡緩和ステップでは、短繊維形成ステップにおいて切断直前のトウバンド60の水分量が10.8質量%となるようにトウバンド60の水分量を調整した。また短繊維形成ステップでは、ギロチン型カッターを有する切断機構30により、トウバンド60を目標寸法51mmで切断した。
【0071】
[実施例2の作製]
実施例1と同様のトウバンド60を不織布製造装置11に導入し、第2実施形態に開示した方法で交絡緩和ステップと短繊維形成ステップとを行った。交絡緩和ステップでは、トウバンド60の搬送方向Pに付与する張力を、トウバンド60全体で0.3kgf(1デニール当たり10mgf)となるように設定した。また交絡緩和ステップでは、トウバンド60に対してノズル22から水分の液滴(25℃)を噴霧することにより、トウバンド60に水分を添着した。また交絡緩和ステップでは、短繊維形成ステップにおいて切断直前のトウバンド60の水分量が28質量%となるようにトウバンド60の水分量を調整した。また短繊維形成ステップでは、ギロチン型カッターを有する切断機構30により、トウバンド60を目標寸法51mmで切断した。
【0072】
[実施例3の作製]
実施例1と同様のトウバンド60を不織布製造装置11に導入し、第3実施形態に開示した方法で、交絡緩和ステップと短繊維形成ステップとを行った。交絡緩和ステップでは、トウバンド60の搬送方向Pに付与する張力を、トウバンド60全体で0.3kgf(1デニール当たり10mgf)となるように設定した。交絡緩和ステップでは、短繊維形成ステップにおいて切断直前のトウバンド60の水分量が68.4質量%となるようにトウバンド60の水分量を調整した。短繊維形成ステップでは、ギロチン型カッターを有する切断機構30により、トウバンド60を目標寸法51mmで切断した。
【0073】
[比較例1及び2の作製]
交絡緩和ステップを行わず、予め定められた搬送方向に搬送されるトウバンドに対し、搬送方向に離隔して配置した複数の開繊ロールにより搬送方向と幅方向とに張力を与えてトウバンドを開繊する開繊ステップを行った以外は、実施例1と同様の方法により、比較例1及び2の短繊維を形成した。比較例1では、上記開繊前の1インチ長当たりの捲縮数(一次捲縮数)が340のトウバンドを用いた。比較例2では、上記開繊前の1インチ長当たりの捲縮数(一次捲縮数)が310のトウバンドを用いた。
【0074】
上記のように作製した実施例1~3、及び、比較例1~2の各短繊維について、カード処理を行った際の状況、短繊維製造装置内の搬送路への短繊維の詰まりの有無、短繊維の長さ寸法の均一性、及び、短繊維の触感を評価した。各評価結果及び試験結果を表1及び表2に示す。
図4は、実施例1の交絡緩和直後のトウバンド60を撮影した写真である。
図5は、実施例2の交絡緩和直後のトウバンド60を撮影した写真である。
【0075】
【0076】
【0077】
表2に示すように、比較例1及び2では、カード処理時に短繊維がカード機に引っ掛かる(絡まる)トラブルが生じた。また比較例1のトウバンドは、嵩高く弾性に富んでいた。また比較例2のトウバンドも、比較例1と同様の嵩高さと弾性とを有していた。このため比較例1及び2では、短繊維形成部3にトウバンドを導入するのが困難であった。また比較例1及び2は、実施例1~3に比べ、切断機構30によりトウバンドを切断する際のカッターに対するCA繊維の姿勢が安定しなかった。このため比較例1及び2では、短繊維の長さ寸法が比較的大きいばらつきを生じた。
【0078】
表1、
図4、及び
図5に示すように、これに対して実施例1~3のトウバンド60は、水分添着後のトウバンド60の捲縮数が、水分添着前のトウバンド60の捲縮数に比べてわずかに低くなるものの、トウバンド60の捲縮数が実質的に問題のない範囲で維持されることが確認された。また実施例1~3では、トウバンド60に水分を添着することで、トウバンド60中のCA繊維61の交絡が良好に緩和されることが確認された。また実施例1では、加熱された蒸気により、トウバンド60中のCA繊維61が可塑化され、トウバンド60中のCA繊維61の交絡の緩和が促進されることが確認された。また実施例1~3では、複数本の短繊維62に対してカード処理を良好に行うことができると共に、短繊維62が搬送路50に詰まる等のトラブルも生じないことが確認された。また実施例1~3は、比較例1及び2に比べて、短繊維62の長さ寸法が安定化することが確認された。
【0079】
また、実施例1の切断直前のトウバンド60は、水分量が10.8質量%であり、実施例2の切断直前のトウバンド60は、水分量が28質量%であった。実施例1及び2の短繊維62は、べたついた触感や外観は確認されなかった。また実施例1及び2では、交絡緩和部2、8を通過して短繊維形成部3に通過させるトウバンド60を乾燥させる手間が不要であった。また実施例1及び2では、トウバンド60に水分を添着したことに起因する目立ったトラブルも確認されなかった。実施例3は、切断前のトウバンド60に対する水分添着量が、ある程度まで低減されている。このため実施例3の短繊維62は、離水するほどのべたつきは確認されなかった。これにより、実施例1~3の比較例1及び2に対する優位性が確認された。
【0080】
各実施形態における各構成と各方法、及び、それらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0081】
上記実施形態では、短繊維62を用いて不織布63を製造する例を示したが、短繊維62の用途は、不織布の製造以外の用途でもよい。また不織布製造装置1、11では、交絡緩和部2、12は必須ではない。即ち不織布製造装置1、11では、例えば交絡緩和部2、12が省略され、捲縮されたCA繊維61を含み且つ水分を添着されたトウバンド60が、外部から搬入されて短繊維形成部3に導入されてもよい。
【0082】
また第1及び第2実施形態では、交絡緩和ステップにおいて、ノズル22からトウバンド60に向けてミストMを噴霧することにより、トウバンド60に水分を添着した。しかしながら、トウバンド60に水分を添着する方法は、これに限定されない。例えば交絡緩和ステップにおいて、ハウジング20内にミストMを充満させ、このハウジング20の内部にトウバンド60を通過させることにより、トウバンド60に水分を添着してもよい。
【0083】
また乾燥ステップでは、加熱以外の方法でトウバンド60を乾燥してもよい。このトウバンド60の乾燥方法としては、例えば、トウバンド60に気体を吹き付けて水分を飛ばす方法、トウバンド60を振動させて水分を脱落させる方法、トウバンド60の水分を遠心分離する方法、軸支された一対の絞りロール(圧縮ロール)対の間にトウバンド60を通過させてトウバンド60の水分を絞る方法、又は、搬送方向Pに張力を付与したトウバンド60を回転ロール等の当接部材に当接させてトウバンド60を扱く方法等、いずれの方法を採用してもよい。
【0084】
また第2及び第3実施形態では、例えば、交絡緩和ステップにおいて水分を添着したトウバンド60を短繊維形成ステップ前において脱水し、切断直前のトウバンド60の水分量をある程度まで低減してもよい。このトウバンド60の水分を低減させる方法として、上記乾燥ステップで挙げたいずれかのトウバンド60の乾燥方法を採用してもよい。これにより、例えば回転型カッター33を用いる場合、切断直前のトウバンド60の水分量を例えば7質量%以上10質量%以下の範囲の値とすることで、トウバンド60の過度の水分による切断機構30の不具合やメンテナンス作業の発生を抑制できる。よって、より一層高い製造効率で短繊維62を形成できる。
【符号の説明】
【0085】
M ミスト
P 搬送方向
1、11 不織布製造装置(短繊維製造装置)
2、12 交絡緩和部
3 短繊維形成部
5 不織布形成部
33 回転型カッター
60 トウバンド(トウ)
61 セルロースアセテート繊維
62 短繊維
63 不織布