(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-01
(45)【発行日】2025-05-13
(54)【発明の名称】水産物加工場の廃水の浄化液及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20230101AFI20250502BHJP
C02F 3/28 20230101ALI20250502BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20250502BHJP
C12N 1/14 20060101ALN20250502BHJP
【FI】
C02F3/34 Z
C02F3/28 Z
C12N1/20 F
C12N1/14 Z
(21)【出願番号】P 2024159621
(22)【出願日】2024-09-13
【審査請求日】2024-10-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512215923
【氏名又は名称】木村 将人
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 将人
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-019673(JP,A)
【文献】特開2012-217410(JP,A)
【文献】特開平10-277586(JP,A)
【文献】特開平02-229589(JP,A)
【文献】特開2024-099483(JP,A)
【文献】特開平11-103663(JP,A)
【文献】特開2021-126071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28- 3/34
C12N 1/00- 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖蜜の水溶液を下記の10菌属に属する10菌種の細菌群で培養した培養液と、フルボ酸鉄と、海藻粉末との混合液であることを特徴とする水産加工場の廃水の浄化液であって、
前記10菌属が、
(1)アスペルギルス属(Aspergillus)
(2)バシラス属(Bacillus)
(3)ラクトプランティバシラス属(Luctplantibacillus)
(4)エンテロコッカス属(Enterococcus)
(5)ノカルディア属(Nocardia)
(6)シュードモナス属(Pseudomonas)
(7)ラルストニア属(Ralstonia)
(8)リゾープス属(Rhizopus)
(9)ロドコッカス属(Rhodococcus)
(10)ロドスピリルム属(Rhodospirillum)
であることを特徴とする水産物加工場の廃水の浄化液。
【請求項2】
前記培養液は、0.1質量%乃至5.0質量%濃度の糖蜜水溶液を、前記10菌属に属する10菌種の細菌群によって培養した培養液であり、
前記混合液は、
前記フルボ酸鉄0.0001質量%乃至0.01質量%と、前記海藻粉末0.1質量%乃至1.0%と、を含有する前記培養液に水を加えて100質量%としたことを特徴とする請求項1に記載の水産加工場の廃水の浄化液。
【請求項3】
水産加工場の廃水10乃至100容量
部に対し、請求項1又は請求項2に記載の浄化液を1
容量部混合して醗酵分解処理した後、排水として廃棄することを特徴とする水産加工場の廃水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水の浄化液及びその使用方法に係り、より詳しくは、水産物加工場の廃水に添加し、廃水に含まれる汚染原因物質を分解して廃水を浄化して排出し、悪臭の発生を防止し、ヘドロの発生を予防する水産物加工場の廃水の浄化液及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我国の多くの河川は汚染されて悪臭を発生し、ヘドロが蓄積されている。特に河口付近に漁港と水産物加工場とがあるような場合は、水産物加工場から排出される汚染された排水やヘドロが付近の住民の心身の健康に大きな被害を及ぼしていることが多い。このため、水産物加工場の廃水に含まれる汚染原因物質を分解してから排出することによって、悪臭の発生を防止しヘドロの堆積を予防することが求められている。
【0003】
水産物加工場から排出される廃水の浄化に関しては、特許文献1に廃水を曝気処理した処理水を海洋投棄する方法及び曝気処理で生成した泡水を脱窒素処理して活性汚泥処理した後に海洋投棄する処理方法が記載されている。しかし特許文献1に記載された方法は活性汚泥処理等を含み、工程が複雑で大量の廃水を処理することは困難であった。
【0004】
また、ヘドロの除去に関しては、例えば、特許文献2に、焼成カキ殻・珪藻土、ゼオライト、木酢液、等の一種以上の酸素発生材を含むヘドロの浄化剤が記載されている。しかし、特許文献2に記載されたヘドロの浄化剤は、十分なヘドロ浄化効果をあげることができなかった。
水産物加工場の排水の浄化に関しては、従来は対症的な対応が取られるのみであって根本的な解決法がないまま現在に至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4019277号公報
【文献】公開2012-86207号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】「嫌気性感染菌と悪臭」、調所廣之 藤居荘二郎、出口浩一、耳鼻咽喉科感染症研究会会誌 第5巻(1)115~118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水産物加工場では水産物を処理したときに発生する内臓、ヒレ、骨、殻、貝殻等の残滓は別途処理されるが、魚介類を処理する時とその後の作業において高度汚染水と大量の洗浄水とが発生する。
【0008】
水産物加工場の高度汚染水の腐敗過程を観察すると、加工処理過程直後の腐敗前においては、反応水や洗浄水などの汚染水はそれほど強い汚染や悪臭は発生しないことが多い。しかし、廃水を処理しないで排出すると、廃水が外部の細菌に汚染されて腐敗し、外部の細菌が未分解の有機成分を発酵分解し増殖して汚染と悪臭とヘドロの前駆体となる不溶物を増加させている、ことが認められた。
【0009】
本発明は、水産物加工場の廃水に添加して廃水を浄化し、排水から悪臭が発生するのを防止し、ヘドロの生成を予防する浄化液を提供することを課題とする。
【0010】
また本発明は、上記の浄化液を使用して水産物加工場の廃水を浄化し、排水から悪臭が発生するのを防止し、ヘドロの生成を予防する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の水産物加工場の廃水の処理液は、糖蜜の水溶液を下記の10菌属に属する10菌種の細菌群で培養した培養液と、フルボ酸鉄と、海藻粉末との混合液であり、前記10菌属が、(1)アスペルギルス属(Aspergillus)、バシラス属(Bacillus)、ラクトプランティバシラス属(Luctplantibacillus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ノカルディア属(Nocardia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ラルストニア属(Ralstonia)、リゾープス属(Rhizopus)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、及びロドスピリルム属(Rhodospirillum)であることを特徴とする。
【0012】
前記培養液は、0.1質量%~5.0質量%濃度の糖蜜水溶液を、10菌属に属する10菌種の細菌群によって培養した培養液である。糖蜜水溶液の濃度が0.1質量%未満では糖蜜の発酵助剤としての十分な効果が得られず、糖蜜を5.0質量%を超えて加えても発酵助剤としての効果が加えた糖蜜の量に比例しなくなるので経済的に好ましくない。
【0013】
また、前記混合液は、培養液100質量%に対して、フルボ酸鉄0.0001質量%~0.01質量%を含有している。フルボ酸鉄の質量が0.0001質量%未満では混合液は充分な悪臭の防止効果及びヘドロの生成を予防効果が得られず、フルボ酸鉄を0.01質量%を超えて加えても悪臭が発生するのを防止する効果及びヘドロの生成を予防する効果が加えたフルボ酸鉄の量に比例しなくなるので経済的に好ましくない。
【0014】
更に、前記混合液は、前記培養液100質量%に対して、海藻粉末を0.1質量%~1.0質量%含有している。添加する海藻粉末の量が0.1質量%未満では混合液は充分な悪臭の防止効果及びヘドロの生成を予防効果が得られず、海藻粉末を1.0質量%を超えて加えても、悪臭が発生するのを防止する効果及びヘドロの生成を予防する効果が加えた海藻粉末の量に比例しなくなるので経済的に好ましくない。
【0015】
本発明の浄化液の使用方法は、水産加工場の廃水10~100容量に対し、上述した浄化液を1容量混合して醗酵分解処理した後、排水として廃棄することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の廃水の浄化液に用いる10菌属に属する10菌種の細菌群は、好気性細菌又は通気性嫌気性細菌であるため、好気性醗酵を行う。嫌気性発酵は悪臭の発生を伴うのに対し(例えば、非特許文献1を参照)、好気性発酵は悪臭物質を生成することが少ないものである。
【0017】
本発明では、好気性の細菌群に対して発酵助剤である糖蜜を加えることによって、廃水中に残存する有機物を好気的な発酵経路で急速に分解して有機物を減少させると共に、糖蜜が好気的に発酵分解されるのに伴って廃水の酸素分圧が上昇し、嫌気性発酵による悪臭物質の発生が抑制されるという効果を有する。
【0018】
フルボ酸は山林から無機イオン、特に鉄イオンを海に移動させる機能成分であり、河川の流通経路を自然の流通経路に近い状態に安定化させ得る。フルボ酸鉄を加えることによって、山林と汚染された河川との関係を徐々に汚染される前の自然な関係に戻すことができるという効果を有する。
【0019】
本発明では、海藻粉末を含んでいるため、水産物加工場の近隣からの好塩菌が混入しても安定して増殖できる。海藻粉末としては例えば東南アジア産のホンダワラを乾燥した粉末である海藻ミール(商品名)、その他の海藻粉末を用いることが好ましい。
【0020】
本発明の水産物加工場の廃水に対しては、上記浄化液を混合してそのまま放流することができる。放流した排水は殺菌されていないが、10菌属の10菌種の好気性ないし通気性嫌気性の細菌及び発酵助剤を含んでいるので発酵分解することができる。さらに放流された後でも、水産物加工場以外の汚染源から廃棄された汚染物及び悪臭原因物質も好気的に発酵分解することができ、それによって汚染物やヘドロや悪臭の原因物質の生成を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の水産物加工場の廃水の浄化液は、以下の10菌属の10菌種の細菌群の培養液と、発酵助剤である糖蜜と、フルボ酸鉄と、海藻粉末と、水と、を含むことができる。ここで、10菌属が、アスペルギルス属(Aspergillus)、バシラス属(Bacillus)、ラクトプランティバシラス属(Luctplantibacillus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ノカルディア属(Nocardia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ラルストニア属(Ralstonia)、リゾープス属(Rhizopus)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、及びロドスピリルム属(Rhodospirillum)であることを特徴とする。
【0022】
浄化液を製造するのに用いる細菌群は、10属の菌属に属する10種の細菌群の全てを含んでいることが好ましい。10属の菌属に属する10菌種の全ての細菌を含むことにより、細菌相互の分解、発酵作用を増大させることができ、好気性の発酵分解によって汚染物質を分解し、嫌気性発酵による悪臭の発生を制御し、及び多種多様な汚染物を分解することができる。
【0023】
本発明は、水産物加工場の廃水に、糖蜜と10菌属の10菌種の細菌との培養液と、フルボ酸鉄と海藻粉末とを加えた浄化液を加えることによって新規な好気性発酵を開始させ、有機物を好気的に発酵分解させることによって廃水中の有機物を分解し、悪臭成分などを発生する嫌気性の発酵分解を制限して廃水を浄化して排水できる。
【0024】
糖蜜は発酵助剤として用いる。糖蜜は広義には糖分を含む液体であるが、ここではサトウキビなどの原料糖から不純物を取り除いた糖液を指すことが好ましい。糖蜜は非常に良好な発酵助剤であって、上記の10属10種の細菌によって急速かつ好気的に発酵分解されて炭酸ガスと水に分解され、それと同時にアミノ酸発酵など多くの好気性醗酵が活性化されて溶液の酸素分圧が上昇し、嫌気性発酵による悪臭物質の発生が抑制され、ヘドロの生成が予防される。
【0025】
[実施例]
(培養液)
本発明は、水産物加工場の廃水の浄化液であって、以下の10属の菌属に属する10種の細菌群を混合培養した培養液と、糖蜜と、フルボ酸鉄と、海藻粉末と、水と、を含む混合液であることができる。
【0026】
本発明の10属の菌属の10菌種の細菌として、下記の10種の細菌を用いることができる。
アスペルギルス属としては、アスペルギルス ブラジリエンシス(Aspergil
lus brasiliensis)
バシラス属としては、バシラス ズブチリス(Bacillus subtili
s)
ラクトプランティバシラス属としては、ラクトプランティバシラス プランタルム
(Lactplantibacillus plantarum)
エンテロコッカス属としては、エンテロコッカス フェカリス(Enterococ
cus faekarisu)
ノカルディア属としては、ノカルディア アステロイデス(Nocardia as
teroides)
シュードモナス属としては、シュードモナス フローレッセンス(Pseudom
onas fluorescens)
ラルストニア属としては、ラルストニア ソラナセアルム(Ralstonia s
olanacearum)
リゾープス属としては、 リゾープス オリゼー(Rhizopus oryza
e)
ロドコッカス属としては、 ロドコッカス オパクス(Rhodococcus
opacus)
ロドスプリルム属としては、 ロドスプリルム ルブルブ(Rhodospiril
lum rubrum)
【0027】
(製造例)浄化液の製造
上記10属10種の細菌それぞれを、1×106cfu/cm3の濃度で同量ずつ混合し培養して前培養液を製造した。次いで、前培養液と糖蜜10kgと水とを加えて全量を1000kgとして全菌体の合計質量が全培養液の0.1質量%になるまで培養して上記細菌群を増殖させ、更にフルボ酸鉄を1.0kgと海藻粉末5.0kgとを加え、水を加えて1000kgとして浄化液を製造した。
【0028】
[浄化液の評価]
本発明の浄化液は、水産物加工場の排水に添加して放流することができる。また、排水を更に撹拌、通気、加熱などの発酵分解処理をした後に水産物加工場の排水に添加して放流することができる。ここで、処理後の排水は、殺菌していない10菌属10菌種の細菌と発酵助剤の糖蜜とを含んでいるので、放流後も好気的な発酵分解を継続し、水産物加工場以外から発生された汚染源から混入した汚染物及び悪臭物質を発酵分解して除去することができる。
【0029】
[評価液の製造方法]
(処理廃水)
水産物加工場の廃水1.0立方メートルに、製造例に記載の浄化液200リットルを加えた。
【0030】
(廃水の処理液の評価)
上記の処理廃水と無処理廃水の各1000kgを、25℃の室内に於いて上面を開放して撹拌し、1時間後及び24時間後の状態を評価した。
評価結果を表1に示す。
【0031】
【0032】
【0033】
表1に示すように、排出直後の無処理の水産物加工場の廃水は、透過度が11cmであり臭気強度も3(楽に感知できるにおい)~4(強いにおい)を有する薄濁りの廃液であったが、無処理の水産物加工場の廃水は48時間後の透過度が4cmであり臭気強度5(強烈なにおい)であり、濁りと強い悪臭を有する廃液に変化していた。
【0034】
一方の、本発明に係る水産物加工場の廃水1.0立方メートルに、製造例に記載の浄化液200リットルを加え48時間撹拌した処理廃水は、透過度が19cmに増加し、臭気強度が1(やっと感知できる匂い)~2(何のにおいであるか認知できる弱い匂いに著しく改善された。
【要約】
【課題】 水産物加工場の廃水を浄化し、ヘドロの堆積を防止し、排水から発生する悪臭を予防する、水産物加工場の廃水の浄化液を提供することを課題とする。
【解決手段】 糖蜜の水溶液を、アスペルギルス属、バシラス属、ラクトプランティバシラス属、エンテロコッカス属、ノカルディア属、シュードモナス属、ラルストニア属、リゾープス属、ロドコッカス属、ロドスプリルム属の10種の菌種の細菌を用いて培養した培養液と、フルボ酸鉄と、糖蜜と、海藻粉末と、水と、を含む混合液である。
【選択図】 なし