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特許7676027擁壁固定用金具ならびにそれを用いたコンクリート躯体へのブラケット足場の固定方法およびコンクリート躯体への表示物の固定方法
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  • 特許-擁壁固定用金具ならびにそれを用いたコンクリート躯体へのブラケット足場の固定方法およびコンクリート躯体への表示物の固定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-02
(45)【発行日】2025-05-14
(54)【発明の名称】擁壁固定用金具ならびにそれを用いたコンクリート躯体へのブラケット足場の固定方法およびコンクリート躯体への表示物の固定方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20250507BHJP
【FI】
E02D29/02 302
E02D29/02 304
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022033953
(22)【出願日】2022-03-04
(65)【公開番号】P2023129143
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2024-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】521541804
【氏名又は名称】株式会社三共シーゼル
(74)【代理人】
【識別番号】100117477
【弁理士】
【氏名又は名称】國弘 安俊
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健
(72)【発明者】
【氏名】柴田 篤志
(72)【発明者】
【氏名】米谷 孝計
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/020409(WO,A1)
【文献】実開昭50-023130(JP,U)
【文献】実開昭55-051937(JP,U)
【文献】実開昭60-063632(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2004/0211153(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E04G 3/20
E04G 5/04- 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
擁壁形成のために配置された複数のコンクリート躯体の間隙に挿入される擁壁固定用金具であって
水平方向に沿って、力点部分、支点部分および作用点部分をこの順に備える金具本体、ならびに
該金具本体の該力点部分を有する端部に、支持部材を固定するための細長く延びるボルト穴を備え、
該金具本体における該力点部分が、該水平方向に対して下方に配置された該コンクリート躯体と係合可能であり、かつ該水平方向に対して該支点部分と略同じ高さの位置またはそれより高い位置に設けられており、
該金具本体における該作用点部分が、該水平方向に対して上方に配置された該コンクリート躯体と係合可能であり、かつ該水平方向において該支点部分よりも高い位置に設けられており、そして
該細長く延びるボルト穴が、該力点部分の上方から該支点部分の方向に向かって下降するように該金具本体に配置されている、擁壁固定用金具。
【請求項2】
擁壁形成のために配置された複数のコンクリート躯体の間隙に挿入して使用される、請求項1に記載の擁壁固定用金具。
【請求項3】
前記支持部材と前期金具本体とを貫通して固定するボルトを備え、該ボルトが前記細長く延びるボルト穴内をスライド可能である、請求項1または2に記載の擁壁固定用金具。
【請求項4】
前記細長く延びるボルト穴が、前記力点部分の上方から前記支点部分の方向に向かって略直線状に下降するように該金具本体に配置されている、請求項1から3のいずれかに記載の擁壁固定用金具。
【請求項5】
前記細長く延びるボルト穴が、前記力点部分の上方から前記支点部分の方向に向かって階段状に下降するように該金具本体に配置されている、請求項1から3のいずれかに記載の擁壁固定用金具。
【請求項6】
前記細長く延びるボルト穴が、前記力点部分の上方から前記支点部分の方向に向かって曲線状に下降するように該金具本体に配置されている、請求項1から3のいずれかに記載の擁壁固定用金具。
【請求項7】
前記金具本体における前記作用点部分が、前記上方に配置されたコンクリート躯体と前記水平方向に係合する係合部を備える、請求項1から6のいずれかに記載の擁壁固定用金具。
【請求項8】
前記金具本体における前記力点部分が、前記水平方向に対して前記支点部分より高い位置に設けられている、請求項1から7のいずれかに記載の擁壁固定用金具。
【請求項9】
擁壁形成のために配置された複数のコンクリート躯体の間隙にブラケット足場を固定するための方法であって、
該コンクリート躯体の間隙に、請求項1から8のいずれかに記載の擁壁固定用金具を、該金具本体における該支点部分が下方に位置するように、該金具本体の該作用点部分の端部から挿入する工程、
該擁壁固定用金具を、該支点部分を中心として回転することにより、該力点部分を、該水平方向に対して下方に配置された該コンクリート躯体と係合させ、かつ該作用点部分を該水平方向に対して上方に配置された該コンクリート躯体と係合させる工程、
該擁壁固定用金具の該細長く延びるボルト穴および支持部材にボルトを通す工程、
該支持部材が該コンクリート躯体に接するまで該ボルトを該細長く延びるボルト穴内をスライドさせて、該支持部材を該金具本体に固定する工程、および
該支持部材にブラケット足場を固定する工程、
を包含する、方法。
【請求項10】
擁壁形成のために配置された複数のコンクリート躯体の間隙に表示物を固定するための方法であって、
該コンクリート躯体の間隙に、請求項1から8のいずれかに記載の擁壁固定用金具を、該金具本体における該支点部分が下方に位置するように、該金具本体の該作用点部分の端部から挿入する工程、
該擁壁固定用金具を、該支点部分を中心として回転することにより、該力点部分を、該水平方向に対して下方に配置された該コンクリート躯体と係合させ、かつ該作用点部分を該水平方向に対して上方に配置された該コンクリート躯体と係合させる工程、
該擁壁固定用金具の該細長く延びるボルト穴および該表示物にボルトを通す工程、および
該表示物が該コンクリート躯体に接するまで該ボルトを該細長く延びるボルト穴内をスライドさせて、該表示物を該金具本体に固定する工程、
を包含する、方法。
【請求項11】
前記表示物が看板または横断幕である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擁壁固定用金具ならびにそれを用いたコンクリート躯体へのブラケット足場の固定方法およびコンクリート躯体への表示物の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤面に対して、例えば鉛直方向に盛土を造成する際、土留をする擁壁の1つとして補強土壁工法が知られている。補強土壁工法は例えば図12に示すような工法である。
【0003】
まず、図12の(a)に示すように、基礎となる整地面902に対して、複数のコンクリート躯体912が例えば鉛直方向に指向して配置される。コンクリート躯体912の背面側には、盛土材(土砂)の撒き出し、転圧および締固めと、水平方向に延びる帯鋼および面状のジオテキスタイル等の補強材914の配置とが交互に繰り返される。次いで、コンクリート躯体912の高さにまで盛土材の撒き出し、転圧および締固めが行われると、コンクリート躯体912の上に、さらに別のコンクリート躯体918が配置され、上記と同様にしてコンクリート躯体918の背面側には、盛土材の撒き出し、転圧および締固めと、補強材914の配置とが交互に繰り返される。その後、コンクリート躯体918の最上段(天端部)の施工において、作業者の安全性と作業性とを確保するためのブラケット足場916が取り付けられる(図12の(b))。最終的に、斜面904の全体に盛土材が配置されコンクリート躯体が略鉛直方向に配置された擁壁920が形成され、上方は例えば笠コンクリート922が配置される(図12の(c))。なお、この笠コンクリート922の施工には、外側に型枠を設置し、現場打ちの生コンクリートを打設、養生し、脱型等の作業が行われる。次いで、施工された笠コンクリート922の高さにまで土砂(盛土材)の撒き出し、転圧および締固めが行われ、上載盛土等、その他の構造物がなければ盛土作業は完成となる。
【0004】
このブラケット足場のコンクリート躯体への固定は、例えば予め設置された寸切ボルト、アイボルトなどのねじ込み金具を通じて行われていた。ここで、ブラケット足場の移動および撤去が行われた後は、当該ねじ込み金具はコンクリート躯体の外側面に突出したままであり、擁壁の外観を低下させるだけでなく、腐蝕による錆水などで擁壁面を汚染することがある。このため、作業者は、擁壁の外観を保持するために、ねじ込み金具の取り外しを、足場を取り除いた状態で行うことが求められていた。
【0005】
しかし、その取り外し作業は足場がない状態で行われるため、作業者にとって危険を伴うものである。まして、取り外しのために別途ブラケット足場を組むことも現実的ではない。例えば、高所作業車等の特殊車両を用いて撤去することが考えられるが、傾斜地での造成や、盛土の上載構造物の状況によっては、高所作業車等が近接することができないことが多い。さらに、こうした撤去には多額の費用が発生する。そのため、実際には作業者による不適切な危険作業により撤去が行なわれることも否めない。
【0006】
一方、高速道路や山間部の道路では、行き先案内板や道路標識、広告看板などの表示物が上記のような擁壁を構成するコンクリート躯体に取り付けられることがある。
【0007】
しかし、こうした表示物は容易に取り付け可能であるとともに、風雨に耐え得るように十分に固定されなければならない。加えて、近年では撤去が容易であり、かつ撤去にあたり擁壁が破損する等の不利益を回避して、擁壁を可能な限り清浄に保持することが所望されている。
【0008】
これに対し、特許文献1は、擁壁を構成する隣り合うコンクリート躯体の間に挿入かつ固定されブラケット足場や表示物を簡便に固定できる擁壁固定用金具を開示している。しかし、このような擁壁固定用金具は、コンクリート躯体のサイズにばらつきがあると、固定されるブラケット足場と擁壁またはコンクリート躯体との間に無用な隙間が形成される場合がある。こうした隙間はブラケット足場のぐらつき、作業者を無用に危険に晒すおそれがある。このため、当該隙間にはストッパまたはスペーサと呼ばれる板状体が差し込まれ、ブラケット足場のぐらつきを防止することが行われている。
【0009】
しかし、様々な隙間を埋めるためには、上記擁壁固定用金具とともに様々な厚み、大きさのストッパが必要であり、これらの準備が作業者にとって負担にもなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2021/020409号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的とするところは、ストッパまたはスペーサのような付属部品を必要とすることなく、擁壁形成の際に様々なコンクリート躯体に対してブラケット足場や表示物を簡便に固定することができるとともに、当該足場や表示物の移動または除去後に、作業者を危険に晒すことなくコンクリート躯体から容易に取り外すことができる、擁壁固定用金具ならびにそれを用いたコンクリート躯体へのブラケット足場の固定方法およびコンクリート躯体への表示物の固定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、擁壁固定用金具であって
水平方向に沿って、力点部分、支点部分および作用点部分をこの順に備える金具本体、ならびに
該金具本体の該力点部分を有する端部に、支持部材を固定するための細長く延びるボルト穴を備え、
該金具本体における該力点部分が、該水平方向に対して下方に配置された該コンクリート躯体と係合可能であり、かつ該水平方向に対して該支点部分と略同じ高さの位置またはそれより高い位置に設けられており、
該金具本体における該作用点部分が、該水平方向に対して上方に配置された該コンクリート躯体と係合可能であり、かつ該水平方向において該支点部分よりも高い位置に設けられており、そして
該細長く延びるボルト穴が、該力点部分の上方から該支点部分の方向に向かって下降するように該金具本体に配置されている、擁壁固定用金具である。
【0013】
1つの実施形態では、本発明の擁壁固定用金具は、擁壁形成のために配置された複数のコンクリート躯体の間隙に挿入して使用される。
【0014】
1つの実施形態では、上記支持部材と上記金具本体とを貫通して固定するボルトを備え、該ボルトは上記細長く延びるボルト穴内をスライド可能である。
【0015】
1つの実施形態では、上記細長く延びるボルト穴は、上記力点部分の上方から上記支点部分の方向に向かって略直線状に下降するように該金具本体に配置されている。
【0016】
1つの実施形態では、上記細長く延びるボルト穴は、上記力点部分の上方から上記支点部分の方向に向かって階段状に下降するように該金具本体に配置されている。
【0017】
1つの実施形態では、上記細長く延びるボルト穴は、上記力点部分の上方から上記支点部分の方向に向かって曲線状に下降するように該金具本体に配置されている。
【0018】
1つの実施形態では、上記金具本体における上記作用点部分は、上記上方に配置されたコンクリート躯体と上記水平方向に係合する係合部を備える。
【0019】
1つの実施形態では、上記金具本体における上記力点部分は、上記水平方向に対して上記支点部分より高い位置に設けられている。
【0020】
本発明はまた、擁壁形成のために配置された複数のコンクリート躯体の間隙にブラケット足場を固定するための方法であって、
該コンクリート躯体の間隙に、上記擁壁固定用金具を、該金具本体における該支点部分が下方に位置するように、該金具本体の該作用点部分の端部から挿入する工程、
該擁壁固定用金具を、該支点部分を中心として回転することにより、該力点部分を、該水平方向に対して下方に配置された該コンクリート躯体と係合させ、かつ該作用点部分を該水平方向に対して上方に配置された該コンクリート躯体と係合させる工程、
該擁壁固定用金具の該細長く延びるボルト穴および支持部材にボルトを通す工程、
該支持部材が該コンクリート躯体に接するまで該ボルトを該細長く延びるボルト穴内をスライドさせて、該支持部材を該金具本体に固定する工程、および
該支持部材にブラケット足場を固定する工程、
を包含する、方法である。
【0021】
本発明はまた、擁壁形成のために配置された複数のコンクリート躯体の間隙に表示物を固定するための方法であって、
該コンクリート躯体の間隙に、上記擁壁固定用金具を、該金具本体における該支点部分が下方に位置するように、該金具本体の該作用点部分の端部から挿入する工程、
該擁壁固定用金具を、該支点部分を中心として回転することにより、該力点部分を、該水平方向に対して下方に配置された該コンクリート躯体と係合させ、かつ該作用点部分を該水平方向に対して上方に配置された該コンクリート躯体と係合させる工程、
該擁壁固定用金具の該細長く延びるボルト穴および該表示物にボルトを通す工程、および
該表示物が該コンクリート躯体に接するまで該ボルトを該細長く延びるボルト穴内をスライドさせて、該表示物を該金具本体に固定する工程、
を包含する、方法である。
【0022】
1つの実施形態では、上記表示物は看板または横断幕である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、コンクリート躯体に対して、ブラケット足場や表示物の取り付けるための支持部材を隙間なく簡便に固定できる。さらに、この支持部材に対して、ブラケット足場や表示物の取り付けおよび取り外しを簡便に行うことができる。また、本発明の金具自体もコンクリート躯体から容易に脱着可能である。これにより、コンクリート躯体と支持部材との間にストッパやスペーサのような付属部品の配置が不要となり、外観が良好な擁壁を形成されるとともに、擁壁の形成にあたり作業者を危険に晒す可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の擁壁固定用金具の一例を示す当該金具の斜視図である。
図2図1に示す擁壁固定用金具に支持部材を固定する様式の一例を説明するための模式図である。
図3図1に示す擁壁固定用金具をコンクリート躯体に固定する様式の一例を説明するための模式図である。
図4図1に示す擁壁固定用金具をコンクリート躯体内に配置した状態を説明するための一部切欠断面図である。
図5図1に示す擁壁固定用金具をコンクリート躯体内に配置し、かつ細長く延びるボルト穴の最上部に支持部材を六角ボルトで仮固定した状態を説明するための一部切欠断面図である。
図6図1に示す擁壁固定用金具をコンクリート躯体内に配置し、かつ細長く延びるボルト穴で六角ボルトをスライドさせて支持部材がコンクリート躯体の接した状態で固定した状態を説明するための一部切欠断面図である。
図7図1に示す擁壁固定用金具をコンクリート躯体内に配置し、かつ当該金具に支持部材を固定した状態を説明するための模式図である。
図8図1に示す擁壁固定用金具をコンクリート躯体内に配置し、かつ当該金具に支持部材およびブラケット足場を固定した状態を説明するための模式図である。
図9】本発明の擁壁固定用金具に設けられる細長く延びるボルト穴の形状の例を説明するための図であって、(a)はボルト穴が略直線状に下降するように金具本体に配置されている状態を示す図であり、(b)はボルト穴が階段状に下降するように金具本体に配置されている状態を示す図であり、そして(c)はボルト穴が曲線状に下降するように金具本体に配置されている状態を示す図である。
図10】本発明の擁壁固定用金具の他の例を示す当該金具の側面図である。
図11図1に示す擁壁固定用金具に表示物を取り付ける手順の一例を説明するための図であって、(a)は擁壁を構成するコンクリート躯体の間に本発明の擁壁固定用金具を配置した状態を説明する模式図であり、そして(b)は当該(a)で配置した擁壁固定用金具に交通看板を取り付けた状態を説明する模式図である。
図12】従来の補強土壁工法により擁壁を形成するための手順を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を、添付の図面を参照して説明する。なお、以下のすべての図面に共通して同様の参照番号を付した構成は、他の図面に示したものと同様である。
【0026】
(擁壁固定用金具)
図1は、本発明の擁壁固定用金具100の斜視図である。
【0027】
本発明の擁壁固定用金具100は、例えば、1枚の金具本体110で構成されている。金具本体110は、好ましくは硬質の材料(例えば、鋼板、ステンレススチール、アルミニウム、その他軽量合金)でなる。後述のように支持部材の固定を通じてブラケット足場や表示物(例えば、交通標識、看板、横断幕)(以下、これらをまとめて「支持対象物」ということがある)が固定され、複数の作業者が作業する際の重量に対して十分耐え得る強度を有するために、例えば中板または厚板の鋼板(好ましくは3mm以上、より好ましくは6mm以上、さらに好ましくは9mm以上の厚みを有する鋼板)が使用されてもよい。
【0028】
金具本体110は、水平方向に沿って、力点部分112、支点部分114および作用点部分116をこの順に備える。
【0029】
金具本体110における力点部分112は、後述する支持部材160に取り付けられた支持対象物からの荷重が下方に配置されたコンクリート躯体に対して直接かかる部分である。ここで、図1に示す擁壁固定用金具100では、金具本体110における力点部分112は、水平方向に対して支点部分114より高い位置に設けられているが、本発明はこのような構成に限定されない。例えば、金具本体において力点部分が支点部分と略同じ高さの位置に設けられていてもよい。力点部分112は、水平方向に対して下方に配置されたコンクリート躯体と係合可能である。具体的には、図1において、金具本体110の下方のうち、支点部分114から力点部分112にかけて一部に略平坦な底面118が形成されている。この底面118の全部または一部が下方に配置されたコンクリート躯体の上面と接触して係合することにより、支持部材160に取り付けられた支持対象物をコンクリート躯体の所定の位置に保持し得る。
【0030】
金具本体110の支点部分114は、当該支点部分114を中心にして金具本体110(または擁壁固定用金具100)を回転させることにより、コンクリート躯体の間隙に対して擁壁固定用金具100の着脱を行うことができる。図1では支点部分114は鈍角を有するように記載されているが、本発明において支点部分114はこの形状に必ずしも限定されない。例えば、この鈍角を構成する角に代えて面取り(例えばC面加工やR面加工)が行われていてもよい。
【0031】
図1において、金具本体110の作用点部分116は、水平方向において支点部分114よりも高い位置に設けられている。作用点部分116がこのような位置に設けられていることにより、作用点部分116は、コンクリート躯体の間隙内に挿入されて支持部材160(すなわち、力点部分112側)に支持対象物が固定された際に、水平方向に対して上方に配置されたコンクリート躯体と水平方向に係合することができる。
【0032】
図1において、金具本体110は、支点部分114を中心にして図の左側(すなわち力点部分112から支点部分114にかけて)では、金具本体110に十分な剛性を提供するために、例えば高さ方向に幾分幅広の形状を有し、かつ支点部分114を中心にして図の右側(すなわち支点部分114から作用点部分116にかけての側)では、コンクリート躯体から取り外すにあたり、支点部分114を中心にして擁壁固定用金具100の力点部分112側を上方に持ち上げた際に支点部分114から作用点部分116にかけての側が下方に配置されたコンクリート躯体と接触して、擁壁固定用金具100の取り外しを妨害することのないようにするために幾分幅が狭められた形状(特に下方が丸みを帯びた形状)を有している。これらの幅は、固定されるコンクリート躯体自体の形状や金具本体110の強度等を考慮して当業者にて任意の形状が選択され得る。
【0033】
図2は、図1に示す擁壁固定用金具に支持部材を固定する様式の一例を説明するための模式図である。
【0034】
図2に示すように、擁壁固定用金具100の金具本体110の力点部分112を有する端部には、細長く延びるボルト穴128が設けられている。このボルト穴128には、力点部分112の上方から支点部分114の方向に向かって下降するように金具本体110に配置されており、例えば六角ボルト124およびナット126によって支持部材160が固定される。
【0035】
支持部材160は、好ましくは硬質の材料(例えば、鋼板、ステンレススチール、アルミニウム、その他軽量合金)でなる1本の角材、角パイプ、C型材、またはL型アングルで構成されている。支持部材160は、その上端および下端が上記金具本体110の高さ方向の幅を超える長さのものであってもよく、下端は例えば略鉛直方向を指向する。支持部材160はまた、支持対象物を取り付けるための別のネジ穴129が設けられていてもよい。あるいは、支持対象物を取り付けるネジ穴は、上記の代わりにあるいは上記に加えて金具本体110の力点部分112の付近(例えば細長く延びるボルト穴128の周囲)に設けられていてもよい(図示せず)。
【0036】
図3は、図1に示す擁壁固定用金具をコンクリート躯体に固定する様式の一例を説明するための模式図である。
【0037】
本発明の擁壁固定用金具100は、擁壁を作製するために積み上げられたコンクリート躯体804,806の間隙890に、作用点部分116から挿入される。なお、この段階では、積み上げられたコンクリート躯体804,806の裏面には、盛土材(土砂)の撒き出しは行われていない。
【0038】
図4は、図1に示す擁壁固定用金具をコンクリート躯体内に配置した状態を説明するための一部切欠断面図である。
【0039】
図4において、本発明の擁壁固定用金具100は、金具本体110の下方のうち、力点部分112において略水平方向に延びる底面118の全部または一部がコンクリート躯体804の上面と接触して係合されている。金具本体110の作用点部分116は、当該作用点部分116において水平方向に延びる係合面122の全部または一部が、コンクリート躯体806の側方突出部の底面812と接触して係合されている。なお、図4において、金具本体110の下方とコンクリート躯体804の上面との間には所定の隙間119が設けられている。
【0040】
このような状態において、本発明の擁壁固定用金具100は、図4の鉛直方向(特に下方(白矢印135)には動かすことができず、コンクリート躯体804,806の間隙に強固に固定される。
【0041】
図4に示す状態から本発明の擁壁固定用金具100を取り外す際は、まず固定されたブラケット足場などの支持対象物を擁壁固定用金具100から取り外し、その後、例えば金具本体110の細長く延びるボルト穴128に上方からフック(図示せず)を引っ掛け、これを上方に引き上げることにより、隙間119を利用して支点部分114を僅かに下方に移動させ、支点部分114を中心にして力点部分112側を上方に回転させることにより、作用点部分116の係合(すなわち、係合面122とコンクリート躯体806の側方突出部の底面812との係合)が解除される。その状態で擁壁固定用金具100は、コンクリート躯体の間隙からそのまま引き出すことができる。
【0042】
支持部材160は、例えば図5に示すように、金具本体110の細長く延びるボルト穴128の最上部に六角ボルト124およびナット126を用いて完全に締め付けることなく、脱落しない程度に軽く固定(仮固定)される。図5に示す状態では、支持部材160とコンクリート躯体804,806との間には、所定の間隙tが形成されている。この状態で、六角ボルト124およびナット126を固く締め付けると支持部材160はコンクリート躯体804,806から間隙t1に相当する長さ分が離れた状態で擁壁固定用金具100に固定されるため、仮に支持部材160にブラケット足場を取り付けると不安定となり、作業者を危険に晒すおそれがある。
【0043】
そのため、支持部材160は、上記仮固定の状態で、コンクリート躯体804,806と略または確実に接するまで、六角ボルト124およびナット126が細長く延びるボルト穴128内をスライドされる(図6)。これにより、支持部材160とコンクリート躯体804,806との間の間隙tは完全にあるいは略失われ、支持部材160はコンクリート躯体804,806に支えられた状態で配置される。その後、六角ボルト124およびナット126を固く締め付けることにより、支持部材160は擁壁固定用金具100およびコンクリート躯体804,806によって強固に固定される(図7)。この状態で図8に示すように、支持部材160にブラケット足場170を取り付けた場合、支持部材160のガタつきが抑えられ、ブラケット足場に乗った作業者はより安全な状態で擁壁工事に携わることができる。
【0044】
なお、再び図6を参照すると、支持部材160の取り外しは、六角ボルト124およびナット126を緩めることによって簡単に取り外しでき、上記のように擁壁固定用金具100自体もコンクリート躯体804,806から容易に取り外すことができる。
【0045】
図9は、本発明の擁壁固定用金具に設けられる細長く延びるボルト穴の形状の例を説明するための図である。
【0046】
図9の(a)に示すように、擁壁固定用金具100に設けられ得る細長く延びるボルト穴128は、例えば、力点部分112の上方から支点部分114の方向に向かって略直線状に下降するように金具本体110に配置されていてもよい。図9の(a)中、ボルト穴128が設けられ得る角θは、必ずしも限定されないが、水平方向を基準にして好ましくは0°~80°、より好ましくは40°~50°である。角θが30°を下回ると、ボルト穴128に上記支持部材を仮固定した後、コンクリート躯体に接する際に支持部材の自重でボルト穴128内を貫通する六角ボルトが円滑にスライドしにくくなることがある。角θが60°を上回ると、上記支持部材をボルト穴128に仮固定する際に、当該支持部材の自重によりボルト穴128の上端に留まることなく自然にスライドし、支持部材でコンクリート躯体を不用意に損傷することがある。
【0047】
さらに図9の(a)に示す擁壁固定用金具100において、ボルト穴128の長さLは、必ずしも限定されないが、例えば、使用するボルト穴径より大きくかつ500mm以下の範囲内、10mm~150mmの範囲内などに設定することが挙げられる。
【0048】
あるいは、本発明の擁壁固定用金具100は、図9の(b)に示すように、細長く延びるボルト穴128’が力点部分112の上方から支点部分114の方向に向かって階段状に(すなわち、複数の段差を組み合わせて)下降するように金具本体110に配置されていてもよい。図9の(b)に示す実施形態では、ボルト穴128’を通るボルト(図示せず)に水平方向の応力が働いたとしても、当該ボルトは一定距離については水平方向の移動のみとなり、その間、鉛直方向の移動が抑制される点で有用である。
【0049】
あるいは、本発明の擁壁固定用金具100は、図9の(c)に示すように、細長く延びるボルト穴128”が力点部分112の上方から支点部分114の方向に向かって曲線状に下降するように金具本体110に配置されていてもよい。図9の(c)に示す実施形態では、上記図9の(a)および(b)の両方の長所を取り入れた効力を期待できる点で有用である。なお、図9の(c)では、ボルト穴128”が、力点部分112の上方から作支点部分114の方向に向かって凹型の放物線に類似した曲線状に下降する例について記載したが、当該曲線は必ずしもこの形態に限定されない。金具本体110に設けられるボルト穴は、例えば凸型の放物線に類似した曲線状に下降する形態を有していてもよい。
【0050】
さらに、図9の(a)~(c)では、1つの金具本体110において1つの細長く延びるボルト穴128,128’,128”が設けられる例について説明したが、本発明はこの形態に限定されない。例えば、1つの金具本体に対して、図9の(a)~(c)に例示されるような細長く延びるボルト穴の複数個が当該金具本体の鉛直方向におよび/または水平方向に並んで配置されていてもよい。
【0051】
補強土壁工法に使用されるコンクリート躯体は、すべてが統一された形態を有しているものではなく、様々な形態のものが存在する。また、個々のコンクリート躯体においても接合部分の寸法精度が完全には制御されておらず、コンクリート躯体間でバラツキを有することがある。
【0052】
このため、本発明の擁壁固定用金具は、例えば図1に示す形態を有するものだけでなく、様々な形態のコンクリート躯体に対応できるよう、図1に示すものとは異なる形態を有していてもよい。
【0053】
図10は、本発明の擁壁固定用金具の他の例を示す当該金具の側面図である。
【0054】
図10に示す擁壁固定用金具200では、金具本体210の作用点部分116近傍における突出部の幅Wが、図1に示すものと比較して幾分小さくなるように設計されている。図10に示す擁壁固定用金具200は、例えば、コンクリート躯体の間の間隙が狭く、擁壁固定用金具の突出部分を当該間隙に挿入できる空間が限られている場合に有用である。
【0055】
また、金具本体210のボルト穴128の側方(当該金具本体210の端部側)には、フック穴229が設けられている。フック穴229は垂直方向に延びる細長い穴で構成されている。フック穴229は、コンクリート躯体に取り付けた擁壁用金具200を取り外す際、上方から降ろしたフックをこれに引っ掛けることにより、当該コンクリート躯体から擁壁固定用金具200の取り外しを一層容易にすることができる。
【0056】
(複数のコンクリート躯体の間隙への支持対象物の固定方法)
本発明の擁壁固定用金具を用いて、支持対象物は、例えば以下のようにして複数のコンクリート躯体の間隙に固定される。
【0057】
まず、コンクリート躯体の間隙に、上記擁壁固定用金具が、当該金具本体の支点部分が下方に位置するように、金具本体の該作用点部分の端部から挿入される。次いで、擁壁固定用金具を、支点部分を中心として、例えば下方に回転することにより、力点部分を、水平方向に対して下方に配置された該コンクリート躯体と係合させ、かつ作用点部分を水平方向に対して上方に配置された該コンクリート躯体と係合させられる。
【0058】
次いで、擁壁固定用金具の細長く延びるボルト穴および支持対象物にボルトが通される。その後、支持対象物がコンクリート躯体に接するまで当該ボルトを細長く延びるボルト穴内をスライド(すなわち、スライドによる下降)させて、支持対象物が金具本体に固定される。
【0059】
具体的には、例えば支持対象物として交通看板のような表示物を固定する場合について説明すると、図11の(a)に示すように、擁壁934を構成する複数コンクリート躯体936の間隙に複数の擁壁固定用金具100が取り付けられる。その後、取り付けられた擁壁固定用金具100のそれぞれに、交通看板900などの支持対象物を、例えばボルト、紐、ロープ、結束バンド等を用いて固定される(図11の(b))。本発明において固定され得る支持対象物の例としては、ブラケット足場を固定するための支持部材;交通標識、交通看板、交通横断幕、広告看板、広告横断幕などの表示物;などが挙げられる。
【0060】
なお、ブラケット足場を固定する場合は、上記のようにして支持部材が固定された後、当該支持部材にブラケット足場が当業者に公知の手法で固定される。
【0061】
このように、本発明の擁壁固定用金具は、補強土壁工法を用いて擁壁を形成する作業現場において有用である。また、擁壁形成後では、当該擁壁が有する広大な面積を利用して様々な情報を記載した表示物を例えば暫定的または長期的に表示し得る点においても有用である。
【0062】
さらに、本発明によれば擁壁からの金具の撤去にあたり高所作業車等の特殊重機の使用から解放される。これにより、撤去のための特殊車両および作業資格者の配置や当該配置に要する費用が不要となり、現行の撤去方法に比して簡便かつ安全であり、経済的負担も低減させることができる。
【符号の説明】
【0063】
100,200 擁壁固定用金具
110,210 金具本体
112 力点部分
114 支点部分
116 作用点部分
118 底面
122 係合面
124 六角ボルト
126 ナット
128,128’,128” ボルト穴
129 ネジ穴
160 支持部材
170 ブラケット足場
229 フック穴
804,806,936 コンクリート躯体
934 擁壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12