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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-02
(45)【発行日】2025-05-14
(54)【発明の名称】繊維用集束剤および繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/224 20060101AFI20250507BHJP
   D06M 13/165 20060101ALI20250507BHJP
   C03C 25/323 20180101ALI20250507BHJP
【FI】
D06M13/224
D06M13/165
C03C25/323
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024000288
(22)【出願日】2024-01-04
【審査請求日】2024-01-05
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】西村 玲音
(72)【発明者】
【氏名】石間 駿一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 旬
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特許第7248852(JP,B2)
【文献】国際公開第2023/238236(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/042367(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/100901(WO,A1)
【文献】特開2023-067780(JP,A)
【文献】国際公開第2017/078142(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/092962(WO,A1)
【文献】特開2016-160549(JP,A)
【文献】特許第6083919(JP,B2)
【文献】特許第7408205(JP,B2)
【文献】特許第7248851(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/
D06M 13/
C03C 25/323
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表されるビニルエステル樹脂(A)、及び非イオン性界面活性剤(B)を含有する繊維用集束剤であって、
下記化学式(1)において、nが0であるビニルエステル樹脂(A0)、nが1であるビニルエステル樹脂(A1)、nが2であるビニルエステル樹脂(A2)、nが3であるビニルエステル樹脂(A3)、nが4であるビニルエステル樹脂(A4)、及び、nが5以上10以下であるビニルエステル樹脂(A5)を含有し、
不揮発分に占める、
前記ビニルエステル樹脂(A0)の含有割合が5質量%以上40質量%以下であり、
前記ビニルエステル樹脂(A1)の含有割合が2質量%以上23質量%以下であり、
前記ビニルエステル樹脂(A2)の含有割合が2質量%以上26質量%以下であり、
前記ビニルエステル樹脂(A3)の含有割合が1質量%以上20質量%以下であり、
前記ビニルエステル樹脂(A4)の含有割合が1質量%以上10質量%以下であり、かつ、
前記ビニルエステル樹脂(A5)の含有割合が1質量%以上8質量%以下である、
ことを特徴とする繊維用集束剤。
【化1】

:それぞれ独立に炭素数1~3のアルキレン基
,R:それぞれ独立に水素原子、または炭素数1~4のアルキル基
n:0以上20以下の整数
【請求項2】
前記ビニルエステル樹脂(A1)および前記ビニルエステル樹脂(A3)の合計質量をW1、前記ビニルエステル樹脂(A2)および前記ビニルエステル樹脂(A4)の合計質量をW2としたとき、W1/W2の値が0.15以上5以下である請求項1に記載の繊維用集束剤。
【請求項3】
前記W1/W2の値が0.3以上2未満である請求項2に記載の繊維用集束剤。
【請求項4】
前記ビニルエステル樹脂(A)および前記非イオン性界面活性剤(B)の含有割合の合計を100質量%としたとき、前記ビニルエステル樹脂(A)を10~90質量%、および前記非イオン性界面活性剤(B)を10~90質量%の割合で含有する請求項1に記載の繊維用集束剤。
【請求項5】
前記ビニルエステル樹脂(A)以外のビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、及びウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂(C)をさらに含有する請求項1に記載の繊維用集束剤。
【請求項6】
前記ビニルエステル樹脂(A)、前記非イオン性界面活性剤(B)および前記樹脂(C)の含有割合の合計を100質量%としたとき、前記ビニルエステル樹脂(A)を10~90質量%、前記非イオン性界面活性剤(B)を5~85質量%、及び前記樹脂(C)を5~85質量%の割合で含有する請求項5に記載の繊維用集束剤。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の繊維用集束剤が付着していることを特徴とする繊維。
【請求項8】
強化繊維である請求項7に記載の繊維。
【請求項9】
炭素繊維またはガラス繊維に前記繊維用集束剤が付着している請求項7に記載の繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維用集束剤および繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
集束剤は、炭素繊維などの繊維材料に塗布される薬剤であり、繊維材料の損傷を抑える、繊維材料の集束性を高める、などの目的で使用される。
【0003】
特許文献1には、下記化学式(4)で表されるビニルエステル樹脂(A)と、非イオン界面活性剤(B)と、を含有する繊維用集束剤組成物であって、
ビニルエステル樹脂(A)が、少なくとも、下記化学式(4)中のnが0または1のビニルエステル樹脂(A1)と、下記化学式(4)中のnが2以上のビニルエステル樹脂(A2)と、を含み、ビニルエステル樹脂(A)1分子あたりの下記化学式(4)中のnは20以下であり、
下記化学式(4)中のnが0または1のビニルエステル樹脂(A1)の総重量W1と、下記化学式(4)中のnが2以上のビニルエステル樹脂(A2)の総重量W2との比(W1/W2)が15/85~90/10である繊維用集束剤組成物が記載してある。
【化1】
【0004】
式中、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基または炭素原子数1~4のアルコキシ基であり、Rはそれぞれ独立にメチレン基又はイソプロピリデン基のいずれかで表される構造部位であり、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基であり、nは0以上の整数である。
【0005】
特許文献1に記載の集束剤は、集束性に優れ、かつ繊維とマトリックス樹脂との接着性に優れたものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第7248851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の集束剤は、水溶液の状態となったときに集束剤の成分の一部が結晶化することがあった。当該結晶化が集束剤の保存中に発生すれば、集束剤の使用に際して使い難くなるといった不都合が生じていた。
【0008】
従って、本発明の目的は、水溶液の状態となったときに結晶化を抑制することができ、かつ、集束性に優れた繊維用集束剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る繊維用集束剤は、下記化学式(1)で表されるビニルエステル樹脂(A)、及び非イオン性界面活性剤(B)を含有する繊維用集束剤であって、下記化学式(1)において、nが0であるビニルエステル樹脂(A0)、nが1であるビニルエステル樹脂(A1)、nが2であるビニルエステル樹脂(A2)、nが3であるビニルエステル樹脂(A3)、nが4であるビニルエステル樹脂(A4)、及び、nが5以上10以下であるビニルエステル樹脂(A5)を含有し、不揮発分に占める、前記ビニルエステル樹脂(A0)の含有割合が5質量%以上40質量%以下であり、前記ビニルエステル樹脂(A1)の含有割合が2質量%以上23質量%以下であり、前記ビニルエステル樹脂(A2)の含有割合が2質量%以上26質量%以下であり、前記ビニルエステル樹脂(A3)の含有割合が1質量%以上20質量%以下であり、前記ビニルエステル樹脂(A4)の含有割合が1質量%以上10質量%以下であり、かつ、前記ビニルエステル樹脂(A5)の含有割合が1質量%以上8質量%以下である、ことを特徴とする点にある。
【0010】
【化2】
【0011】
:それぞれ独立に炭素数1~3のアルキレン基
,R:それぞれ独立に水素原子、または炭素数1~4のアルキル基
n:0以上20以下の整数
【0012】
本構成によれば、それぞれnが0、1、2、3、4、および5以上10以下であるビニルエステル樹脂(A0)~(A5)の全てを含有することで、集束剤を水性液にした際の結晶発生を効果的に抑制でき、かつ繊維材料の集束性を高い水準で実現できる。
【0013】
本発明に係る繊維用集束剤の更なる特徴構成は、前記ビニルエステル樹脂(A1)および前記ビニルエステル樹脂(A3)の合計質量をW1、前記ビニルエステル樹脂(A2)および前記ビニルエステル樹脂(A4)の合計質量をW2としたとき、W1/W2の値が0.15以上5以下とした点にある。
【0014】
本構成によれば、集束剤を水性液にした際の結晶発生をさらに抑制することができる。
【0015】
本発明に係る繊維用集束剤の更なる特徴構成は、前記W1/W2の値を0.3以上2未満とした点にある。
【0016】
本構成によれば、集束剤を水性液にした際の結晶発生をより一層抑制することができる。
【0017】
本発明に係る繊維用集束剤の更なる特徴構成は、前記ビニルエステル樹脂(A)および前記非イオン性界面活性剤(B)の含有割合の合計を100質量%としたとき、前記ビニルエステル樹脂(A)を10~90質量%、および前記非イオン性界面活性剤(B)を10~90質量%の割合で含有する点にある。
【0018】
本構成によれば、集束剤を水性液にした際の結晶発生を効果的に抑制でき、繊維材料の集束性を高い水準で実現できるビニルエステル樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)の含有割合を規定することができる。
【0019】
本発明に係る繊維用集束剤の更なる特徴構成は、前記ビニルエステル樹脂(A)以外のビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、及びウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂(C)をさらに含有する点にある。
【0020】
本構成によれば、上記の何れかの樹脂(C)を含有することで、繊維材料に集束性を付与し易くなる。
【0021】
本発明に係る繊維用集束剤の更なる特徴構成は、前記ビニルエステル樹脂(A)、前記非イオン性界面活性剤(B)および前記樹脂(C)の含有割合の合計を100質量%としたとき、前記ビニルエステル樹脂(A)を10~90質量%、前記非イオン性界面活性剤(B)を5~85質量%、及び前記樹脂(C)を5~85質量%の割合で含有する点にある。
【0022】
本構成によれば、集束剤を水性液にした際の結晶発生を効果的に抑制でき、かつ繊維材料の集束性をより高い水準で実現できるエポキシ樹脂(A)、非イオン性界面活性剤(B)および樹脂(C)の含有割合を規定することができる。
【0023】
本発明に係る繊維用の特徴構成は、上記の何れか一項に記載の繊維用集束剤が付着していることを特徴とする点にある。
【0024】
本構成によれば、本発明を樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料の強化に適用しやすい。
【0025】
本発明に係る繊維の更なる特徴構成は、強化繊維とした点にある。
【0026】
本構成によれば、本発明を樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料の強化にさらに適用しやすい。
【0027】
本発明に係る繊維用集束剤の更なる特徴構成は、炭素繊維またはガラス繊維に前記繊維用集束剤が付着している点にある。
【0028】
本構成によれば、本発明を樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料の強化に特に適用しやすい。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の繊維用集束剤(以下、単に「集束剤」と称する)は、下記化学式(1)で表されるビニルエステル樹脂(A)、及び非イオン性界面活性剤(B)を含有する繊維用集束剤であって、下記化学式(1)において、nが1であるビニルエステル樹脂(A1)、nが2であるビニルエステル樹脂(A2)、nが3であるビニルエステル樹脂(A3)、及びnが4であるビニルエステル樹脂(A4)を含有することを特徴とする。
【化3】
【0030】
:それぞれ独立に炭素数1~3のアルキレン基
,R:それぞれ独立に水素原子、または炭素数1~4のアルキル基
n:0以上20以下の整数
【0031】
本発明では、n=1~4の何れかの整数であるビニルエステル樹脂(A)を含有する。即ち、本発明の集束剤は、nが1であるビニルエステル樹脂(A1)、nが2であるビニルエステル樹脂(A2)、nが3であるビニルエステル樹脂(A3)、及びnが4であるビニルエステル樹脂(A4)、の全てを含有している。この要件を満たせば、本発明の集束剤は他のn、特にn=0のビニルエステル樹脂(A)を含有してもよい。
【0032】
はC1~C3のアルキレン基であり、例えばメチレン基あるいはイソプロピリデン基とすることができる。
【0033】
,RにおけるC1~C4のアルキル基は、例えばメチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,ブチル基,イソブチル基,sec-ブチル基,tert-ブチル基とすることができる。
【0034】
上記の化学式(1)で表されるビニルエステル樹脂(A)は、エポキシ樹脂とメタクリル酸あるいはアクリル酸との反応物でありうる。なお、当該反応物を生成する際の反応基質の量比は、エポキシ樹脂のエポキシ価とメタクリル酸の酸価とが等しくなるようにしてもよいし、いずれかが大きくなるようにしてもよい。
【0035】
エポキシ樹脂の分離精製は例えば以下のようにして製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0036】
即ち、例えば下記の分子量が異なるエポキシ樹脂の混合物を原料として溶媒(テトラヒドロフラン)に溶解し、GPC分取装置を用いてエポキシ樹脂を分子量毎に分取する。分取液を加熱冷却装置及び撹拌装置を備えた反応容器(ガラス製四つ口フラスコ反応容器)に仕込み、例えば80~100℃で20mmHgまで徐々に減圧して溶媒(テトラヒドロフラン)を除去し、エポキシ樹脂を分離精製することができる。
【0037】
前記エポキシ樹脂の混合物は、例えば三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)シリーズ(jER(登録商標)828、jER(登録商標)834、jER(登録商標)1001、jER(登録商標)1002、jER(登録商標)1004など)、NAN YA PLASTIC CORPORATION製NPESシリーズ(NPES301、NPES302など)、および、住友化学株式会社製スミエポキシ(登録商標)シリーズ(スミエポキシ(登録商標)ELM-434、スミエポキシ(登録商標)ELM-100など)、などでありうるが、これらに限定されない。
【0038】
上記の分離精製したエポキシ樹脂およびメタクリル酸(あるいはアクリル酸)を使用し、以下のようにしてビニルエステル樹脂(A)を製造することができる。
【0039】
即ち、エポキシ樹脂およびメタクリル酸(あるいはアクリル酸)をフラスコなどの容器に加えて例えば60℃に加熱した後、ハイドロキノンおよびトリエチルアミンを添加した後に100℃に昇温して酸価が1以下になるまで反応させてビニルエステル樹脂を得ることができる。
【0040】
非イオン性界面活性剤(B)は、当技術分野において通常使用される任意の非イオン性界面活性剤でありうる。非イオン性界面活性剤(B)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0041】
非イオン性界面活性剤(B)は、例えばヒドロキシ基を有する化合物のアルキレンオキサイド付加体でありうる。ヒドロキシ基を有する化合物としては、トリスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、ビスフェノールA等の芳香族アルコールや、ドデシルアルコール、イソドデシルアルコール、テトラデシルアルコール、トリデシルアルコール、2級ドデシルアルコール、2級トリデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、オレイルアルコール、イソノニルアルコール等の脂肪族アルコールなどが例示され、芳香族アルコールであることが好ましい。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが例示されるが、これらに限定されない。したがって、非イオン性界面活性剤(B)は、好ましくは芳香族アルコールのアルキレンオキサイド付加物でありうる。
【0042】
なお、非イオン性界面活性剤(B)において、複数種類のアルキレンオキサイドが併用されてもよい。アルキレンオキサイドの付加数は、非イオン性界面活性剤(B)一モルあたり6モル以上40モル以下でありうるが、これに限定されない。
【0043】
非イオン性界面活性剤(B)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0044】
集束剤は、ビニルエステル樹脂(A0)が析出することで結晶化すると考えられる。本発明の集束剤のようにビニルエステル樹脂(A1)~(A4)の全てを含むことで、分子量分布が連続的(なだらか)となり、ビニルエステル樹脂(A0)が析出し難くなると考えられる。従って、本構成のように、nが1~4であるビニルエステル樹脂(A1)~(A4)の全てを含有することで、集束剤を水性液にした際の結晶発生を効果的に抑制でき、かつ繊維材料の集束性を高い水準で実現できる。
【0045】
本発明の集束剤は、ビニルエステル樹脂(A1)およびビニルエステル樹脂(A3)の合計質量をW1、ビニルエステル樹脂(A2)およびビニルエステル樹脂(A4)の合計質量をW2としたとき、W1/W2の値を0.15以上5以下とするのが好ましく、さらにW1/W2の値を0.3以上2未満とするのがより好ましい。
【0046】
本構成では、ビニルエステル樹脂(A1)およびビニルエステル樹脂(A3)の合計質量W1と、ビニルエステル樹脂(A2)およびビニルエステル樹脂(A4)の合計質量W2と、における質量比を規定している。
【0047】
本構成では集束剤を水性液にした際の結晶発生をさらに抑制することができる。
【0048】
本発明の集束剤は、ビニルエステル樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)の含有割合の合計を100質量%としたとき、ビニルエステル樹脂(A)を10~90質量%、および非イオン性界面活性剤(B)を10~90質量%の割合で含有するのが好ましい。
【0049】
本構成では、集束剤を水性液にした際の結晶発生を効果的に抑制でき、繊維材料の集束性を高い水準で実現できるビニルエステル樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)の含有割合を規定することができる。
【0050】
本発明の集束剤は、ビニルエステル樹脂(A)以外のビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、及びウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂(C)をさらに含有するのが好ましい。
【0051】
当該ビニルエステル樹脂は、ビニルエステル樹脂(A)以外のビニルエステル樹脂であればよく、例えば片末端型のビニルエステル樹脂などを使用することができる。
【0052】
エポキシ樹脂は、上記で例示したエポキシ樹脂の何れか使用することができる。
【0053】
ポリエステル樹脂は、ジオール単量体とジカルボン酸単量体との共重合体である。したがってポリエステル樹脂はその分子中に、ジオール単量体(ジオール化合物またはその誘導体である。)に由来する部分構造であるジオール残基と、ジカルボン酸単量体(ジカルボン酸またはその誘導体である。)に由来する部分構造であるジカルボン酸残基と、を有する。ポリエステル樹脂の組成は分子を構成する単量体の割合(モル比率)によって特定される。
【0054】
ポリエステル樹脂を構成するジオール単量体として、一種類または複数種類のジオール化合物が含まれうる。ジオール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体(三洋化成工業株式会社製ニューポール(登録商標)BPEシリーズ(ニューポール(登録商標)BPE-20、ニューポール(登録商標)BPE-40、ニューポール(登録商標)BPE-100など))、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加体(三洋化成工業株式会社製ニューポール(登録商標)BPシリーズ(ニューポール(登録商標)BP-2P、ニューポール(登録商標)BP-3P、ニューポール(登録商標)BP-5Pなど))、などが例示されるが、これらに限定されない。
【0055】
ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸単量体として、一種類または複数種類のジカルボン酸化合物が含まれうる。ジカルボン酸化合物としては、イソフタル酸、テレフタル酸、フマル酸、マレイン酸、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)などが例示されるが、これらに限定されない。
【0056】
ポリエステル樹脂の非限定的な例として、ジエチレングリコール、イソフタル酸、および5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩の共重合体、エチレングリコール、ジエチレングリコール、イソフタル酸、テレフタル酸、および5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩の共重合体、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体およびフマル酸の共重合体(換言すればビスフェノールA、エチレングリコール、およびフマル酸の共重合体である。)、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体およびマレイン酸の共重合体(換言すればビスフェノールA、エチレングリコール、およびマレイン酸の共重合体である。)、が挙げられる。なお、ポリエステル樹脂は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0057】
ウレタン樹脂は、DISPERCOLL U 54(COVESTRO社製)、スーパーフレックス500M(第一工業製薬株式会社製)、スーパーフレックス650(第一工業製薬株式会社製)、スーパーフレックス860(第一工業製薬株式会社製)、スーパーフレックスE-2000(第一工業製薬株式会社製)などでありうるが、これらに限定されない。
【0058】
上記の何れかの樹脂(C)を含有することで、繊維材料に集束性を付与し易くなる。
【0059】
本発明の集束剤は、ビニルエステル樹脂(A)、非イオン性界面活性剤(B)、および樹脂(C)の含有割合の合計を100質量%としたとき、ビニルエステル樹脂(A)を10~90質量%、非イオン性界面活性剤(B)を5~85質量%、及び樹脂(C)を5~85質量%の割合で含有するのが好ましい。
【0060】
本構成によれば、集束剤を水性液にした際の結晶発生を効果的に抑制でき、かつ繊維材料の集束性をより高い水準で実現できるビニルエステル樹脂(A)、非イオン性界面活性剤(B)および樹脂(C)の含有割合を規定することができる。
【0061】
(その他の成分)
本実施形態に係る集束剤は、ビニルエステル樹脂(A)、非イオン性界面活性剤(B)および樹脂(C)の他の成分を含有していてもよい。かかる他の成分としては、防腐剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(変性シリコーン等)、樹脂(C)以外の樹脂などが例示されるが、これらに限定されない。
【0062】
また、集束剤が繊維材料のサイジング処理に供される場合の典型的な態様として、ビニルエステル樹脂(A)等の不揮発分を希釈剤で希釈した態様(一般にサイジング液とも称される)が例示される。かかる希釈剤も、他の成分の一例である。希釈剤としては、水(水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水など)、アセトン、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンなどが例示されるが、これらに限定されない。なお、不揮発分を希釈剤で希釈した態様の集束剤における不揮発分の濃度は特に限定されないが、たとえば10質量%以上60質量%以下でありうる。集束剤の不揮発分とは、集束剤を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残った成分をいい、その濃度とは、集束剤の質量に対する当該集束剤中の不揮発分の質量の割合をいう。
【0063】
〔集束剤の製造方法〕
本実施形態に係る集束剤は、ビニルエステル樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)、ならびに任意に加えられうる成分を公知の方法で混合することによって得られうる。たとえばビニルエステル樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)、ならびに任意に加えられうる成分を20℃から90℃の間で撹拌しながら5時間かけて水を添加することで製造しうる。
【0064】
〔集束剤の使用方法〕
本実施形態に係る集束剤は、繊維材料のサイジング処理に用いられる。サイジング処理は、繊維材料に集束剤を付着させる処理であり、その方法としては、当分野において繊維材料にこの種の集束剤を付着させる際に通常用いられる方法を適用できる。すなわち、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、およびガイド給油法などが採用されうる。なお、それぞれの方法を適用するにあたり、集束剤が水等の希釈剤で適宜希釈されうる。
【0065】
繊維材料に対する集束剤の付着量は特に限定されない。たとえば、集束剤が付着した繊維材料全体に対して集束剤が0.1質量%以上3質量%以下付着していることが好ましい。
【0066】
なお、強化繊維を製造する際に本実施形態に係る集束剤を適用すると、繊維材料に当該集束剤が付着した強化繊維が得られる。この強化繊維は、本発明に係る繊維の一例である。繊維材料は無機繊維であることが好ましく、この場合の強化繊維は集束剤が付着している無機繊維である。また、無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維であると、より好ましい。
【0067】
これらの強化繊維は、樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料に使用されうる。上記の強化繊維と、熱硬化性樹脂であるマトリクス樹脂と、を含むことを特徴とする複合材料は、本発明の一実施形態である。
【0068】
〔その他の実施形態〕
本発明は、下記化学式(1)で表されるビニルエステル樹脂(A)、及び非イオン性界面活性剤(B)を含有する繊維用集束剤であって、下記化学式(1)において、nが1であるビニルエステル樹脂(A1)、nが2であるビニルエステル樹脂(A2)、nが3であるビニルエステル樹脂(A3)、及びnが4であるビニルエステル樹脂(A4)を含有することを特徴とする繊維用集束剤でありうる。化学式(1)において、Rは、それぞれ独立に炭素数1~3のアルキレン基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1~4のアルキル基であり、nは、0以上20以下の整数である。本構成によれば、nが1~4であるビニルエステル樹脂(A1)~(A4)の全てを含有することで、集束剤を水性液にした際の結晶発生を効果的に抑制でき、かつ繊維材料の集束性を高い水準で実現できる。
【化4】
【0069】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例
【0070】
〔実施例1〕
上記の化学式(1)で表されるビニルエステル樹脂(A)を以下の手法により製造した。
【0071】
まず、原料となるエポキシ樹脂を分離精製した。エポキシ樹脂としてjER(登録商標)1001(三菱ケミカル株式会社製)400gをテトラヒドロフランで固形分濃度が2%になるように溶解し、GPC分取装置(リサイクル分取HPLC:LC-9130NEXT(日本分析工業(株)製))を用いてエポキシ樹脂を分子量毎に分取した。その後、それぞれの分取液を加熱冷却装置及び撹拌装置を備えた反応容器(ガラス製四つ口フラスコ反応容器)に仕込み、90℃で20mmHgまで徐々に減圧してテトラヒドロフランを除去し、以下の化合物(a-0)~(a-5)(エポキシ樹脂)を得た。
【0072】
・化学式(2)中のpが0のビスフェノール型エポキシ樹脂(a-0)(分子量340)
・化学式(2)中のpが1のビスフェノール型エポキシ樹脂(a-1)(分子量624)
・化学式(2)中のpが2のビスフェノール型エポキシ樹脂(a-2)(分子量908)
・化学式(2)中のpが3のビスフェノール型エポキシ樹脂(a-3)(分子量1192)
・化学式(2)中のpが4のビスフェノール型エポキシ樹脂(a-4)(分子量1476)
・化学式(2)中のpが5以上10以下のビスフェノール型エポキシ樹脂(a-5)(Mn1760以上)
【0073】
【化5】
【0074】
エポキシ樹脂(a-0)~(a-5)は、それぞれ、化学式(2)中のRがイソプロピリデン基の化合物である。
【0075】
上記のように製造したエポキシ樹脂(a-0)~(a-5)の何れか、およびメタクリル酸あるいはアクリル酸を使用し、以下のようにしてビニルエステル樹脂(A)を製造した。
【0076】
ガラス製の4つ口フラスコにエポキシ樹脂(a-0)を344質量部、メタクリル酸を172質量部加えて撹拌しながら60℃に加熱した後、ハイドロキノン0.5質量部およびトリエチルアミン0.5質量部を添加した後に100℃に昇温し、酸価が1以下になるまで反応させてnが0であるビニルエステル樹脂(A0-1)を製造した。
【0077】
また、ガラス製の4つ口フラスコにエポキシ樹脂(a-0)を344質量部、アクリル酸144質量部を加えて撹拌しながら60℃に加熱後、ハイドロキノン0.5質量部およびトリエチルアミン0.5質量部を添加した後に100℃に昇温し、酸価が1以下になるまで反応させてnが0であるビニルエステル樹脂(A0-2)を製造した。
【0078】
また、ガラス製の4つ口フラスコにエポキシ樹脂(a-0)を344質量部、メタクリル酸を86質量部、アクリル酸72質量部を加えて撹拌しながら60℃に加熱後、ハイドロキノン0.5質量部およびトリエチルアミン0.5質量部を添加した後に100℃に昇温し、酸価が1以下になるまで反応させてnが0であるビニルエステル樹脂(A0-3)を製造した。
【0079】
上記の手法において、エポキシ樹脂(a-0)をエポキシ樹脂(a-1)に置き換えることでnが1であるビニルエステル樹脂(A1-1)~ビニルエステル樹脂(A1-3)を製造し、エポキシ樹脂(a-0)をエポキシ樹脂(a-2)に置き換えることでnが2であるビニルエステル樹脂(A2-1)~ビニルエステル樹脂(A2-3)を製造し、エポキシ樹脂(a-0)をエポキシ樹脂(a-3)に置き換えることでnが3であるビニルエステル樹脂(A3-1)~ビニルエステル樹脂(A3-3)を製造し、エポキシ樹脂(a-0)をエポキシ樹脂(a-4)に置き換えることでnが4であるビニルエステル樹脂(A4-1)~ビニルエステル樹脂(A4-3)を製造し、エポキシ樹脂(a-0)をエポキシ樹脂(a-5)に置き換えることでnが5以上10以下であるビニルエステル樹脂(A5-1)~ビニルエステル樹脂(A5-3)を製造した。
【0080】
製造したビニルエステル樹脂(A)の概要を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
尚、A0-3において、表1では便宜上[R:メチル基,R:水素原子]と記載しているが、A0-3は以下の官能基を有する化合物の混合物である。A1-3~A5-3についても同様である。
[R:メチル基,R:メチル基]
[R:水素原子,R:水素原子]
[R:水素原子,R:メチル基]
【0083】
〔実施例2〕
上記の集束剤の製造方法によって本発明の集束剤を製造した(本発明例1~26)。即ち、ビニルエステル樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)、ならびに任意に加えられうる成分を20℃から90℃の間で撹拌しながら5時間かけて水を添加することで製造した。
【0084】
本発明例1~6において、ビニルエステル樹脂(A)はビニルエステル樹脂(A0-1)~ビニルエステル樹脂(A5-1)を含有し、非イオン性界面活性剤(B)は以下に示す(B-1)~(B-3)の少なくとも何れかを含有し、樹脂(C)は以下に示す(EP-1),(PE-1),(PE-2),(PU-1),(VE-1),(VE-2)の少なくとも何れかを含有する。
【0085】
また、本発明例7~12において、ビニルエステル樹脂(A)はビニルエステル樹脂(A0-2)~ビニルエステル樹脂(A5-2)を含有し、非イオン性界面活性剤(B)は以下に示す(B-1)~(B-3)の少なくとも何れかを含有し、樹脂(C)は以下に示す(EP-1),(PE-1),(PE-2),(PU-1),(VE-1),(VE-2)の少なくとも何れかを含有する。
【0086】
また、本発明例13~17において、ビニルエステル樹脂(A)はビニルエステル樹脂(A0-3)~ビニルエステル樹脂(A5-3)を含有し、非イオン性界面活性剤(B)は以下に示す(B-1)~(B-3)の少なくとも何れかを含有し、樹脂(C)は以下に示す(EP-1),(PE-1),(PE-2),(PU-1),(VE-1)の少なくとも何れかを含有する。
【0087】
また、本発明例18において、ビニルエステル樹脂(A)はビニルエステル樹脂(A0-1),(A2-2),(A1-3),(A3-3),(A4-3),(A5-3)を含有し、非イオン性界面活性剤(B)は以下に示す(B-1),(B-3)を含有し、樹脂(C)は(VE-1)を含有する。
【0088】
また、本発明例19~26において、ビニルエステル樹脂(A)はビニルエステル樹脂(A0-1)~ビニルエステル樹脂(A5-1)を含有し、非イオン性界面活性剤(B)は以下に示す(B-1),(B-2)の少なくとも何れかを含有する。
【0089】
本発明例1~18におけるビニルエステル樹脂(A)、非イオン性界面活性剤(B)および樹脂(C)の質量%(合計100質量%)を表2-1,表2-2に示し、本発明例19~26におけるビニルエステル樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)の質量%(合計100質量%)を表2-2,表2-3に示した。
【0090】
【表2-1】
【0091】
【表2-2】
【0092】
【表2-3】
【0093】
(B-1):トリスチレン化フェノール1モルに対し、エチレンオキサイド30モル、プロピレンオキサイド6モルを付加させた化合物
(B-2):トリスチレン化フェノール1モルに対し、エチレンオキサイド27モルを付加させた化合物
(B-3):ビスフェノールA1モルに対し、エチレンオキサイド18モルを付加させた化合物
【0094】
(EP-1):スミエポキシ(登録商標)ELM-434(住友化学株式会社製)(エポキシ樹脂)
(PE-1):5-ナトリウムスルホイソフタル酸:イソフタル酸:ジエチレングリコールがモル比4:46:50、数平均分子量が15000であるポリエステル樹脂
(PE-2):フマル酸とニューポールBPE-20
(三洋化成工業株式会社製)をモル比3:4で反応させて生成したポリエステル樹脂
(PU-1):DISPERCOLL U 54(COVESTRO社製)の不揮発樹脂部分であるウレタン樹脂
(VE-1):以下に記載の方法で合成したVE-1(片末端ビニルエステルエポキシ樹脂)
(VE-2):以下に記載の方法で合成したVE-2(片末端ビニルエステルエポキシ樹脂)
【0095】
VE-1は以下のようにして製造した。
ガラス製の4つ口フラスコにエポキシ樹脂(a-0)を344質量部、メタクリル酸を86質量部加えて撹拌しながら60℃に加熱した後、ハイドロキノン0.5質量部およびトリエチルアミン0.5質量部を添加した後に100℃に昇温して酸価が1以下になるまで反応させて反応生成物を得た。この反応生成物400gをテトラヒドロフランで固形分濃度が2%になるように溶解し、上記のGPC分取装置を用いて反応生成物を分子量毎に分取した。その後、それぞれの分取液を加熱冷却装置及び撹拌装置を備えた上記の反応容器に仕込み、90℃で20mmHgまで徐々に減圧してテトラヒドロフランを除去し、化学式(3)中のRがイソプロピリデン基、qが0、Rがメチル基である化合物VE-1(分子量430)を得た。
【0096】
【化6】
【0097】
VE-2は以下のようにして製造した。
ガラス製の4つ口フラスコにエポキシ樹脂(a-0)を624質量部、メタクリル酸を86質量部加えて撹拌しながら60℃に加熱した後、ハイドロキノン0.8質量部およびトリエチルアミン0.8質量部を添加した後に100℃に昇温して酸価が1以下になるまで反応させて反応生成物を得た。この反応生成物400gをテトラヒドロフランで固形分濃度が2%になるように溶解し、上記のGPC分取装置を用いて反応生成物を分子量毎に分取した。その後、それぞれの分取液を加熱冷却装置及び撹拌装置を備えた上記の反応容器に仕込み、90℃で20mmHgまで徐々に減圧してテトラヒドロフランを除去し、化学式(3)中のRがイソプロピリデン基、qが1、Rがメチル基である化合物VE-2(分子量710)を得た。
【0098】
また、ビニルエステル樹脂(A1-1)およびビニルエステル樹脂(A3-1)の合計質量をW1、ビニルエステル樹脂(A2-1)およびビニルエステル樹脂(A4-1)の合計質量をW2としたときにおける、W1/W2の値を表2-1~表2-3に示す。
【0099】
上記の集束剤の製造方法によって比較例の集束剤を製造した(比較例1,2)。比較例1において、ビニルエステル樹脂(A)はビニルエステル樹脂(A0-1),(A2-1)~(A5-1)を含有し、非イオン性界面活性剤(B)は(B-1)を含有する。比較例2において、ビニルエステル樹脂(A)はビニルエステル樹脂(A0-1)~(A2-1)を含有し、非イオン性界面活性剤(B)は(B-1)を含有する。比較例1,2におけるビニルエステル樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)の質量%を表2-3に示す(合計100質量%)。
【0100】
<評価方法>
上記の本発明例1~26および比較例1,2について、集束剤の結晶抑制性および集束性について評価を行った。
【0101】
結晶抑制性は、各本発明例および各比較例における集束剤の30質量%水性液100mLを作製し、容量140mLの透明ガラス瓶に密閉して0℃で10日間静置した後、底にたまった結晶性堆積物を以下の基準で評価した。
【0102】
S:結晶性堆積物が全く見られず結晶抑制性は非常に良好であった。
A:結晶性堆積物がガラス瓶の底に析出していたが底の面積の10%未満と少なく、結晶抑制性は良好であった。
B:結晶性堆積物がガラス瓶の底に析出していたが底の面積の10%以上20%未満であり、結晶抑制性は許容レベルであった。
C:結晶性堆積物がガラス瓶の底に多く析出して底の面積の20%以上を占め、結晶抑制性は不良であった。
【0103】
集束性は、各本発明例および各比較例における集束剤を含むサイジング液(不揮発分濃度4%)をサイジング浴に満たし、当該サイジング浴に繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を通して前記集束剤の付与を行った。集束剤付与後の繊維材料のロールをクリールにセットして毎分5mの速度で解舒し、解舒直後の繊維材料のローラー通過時の様子を観察した。観察結果に応じて、各本発明例および各比較例における集束剤によってもたらされる繊維材料の集束性を以下の三段階で評価した。
【0104】
A:ローラーに巻き付いた繊維材料がほとんど見られず、かつ、通過した繊維材料の纏まりが良好であった。
B:ローラーに巻き付いた繊維材料がわずかに見られたが、通過した繊維材料の纏まりが良好であった。
C:ローラーに巻き付いた繊維材料が多く、通過した繊維材料にバラケが見られた。
【0105】
<評価結果>
各本発明例および各比較例の結晶抑制性および集束性について、評価結果を表2-1~表2-3に示す。
【0106】
結晶抑制性において、本発明例1~21についてはS評価(非常に良好)、本発明例22~24についてはA評価(良好)、本発明例25,26についてはB評価(許容レベル)がそれぞれ得られた。即ち、本発明例1~26については、効果的に結晶を抑制することができると認められた。
【0107】
このとき、W1/W2の値は、本発明例1~21(S評価)において0.333~1.875であり、本発明例22~24(A評価)において0.208~4.667であり、本発明例25,26(B評価)において0.111~5.429であった。
【0108】
一方、比較例1,2については、それぞれC評価(不良)が得られた。
【0109】
本発明の集束剤(本発明例1~26)はビニルエステル樹脂(A1-1)~(A4-1)の全てを含んでいる。これに対して、比較例1はビニルエステル樹脂(A1-1)を含んでおらず、比較例2はビニルエステル樹脂(A3-1),(A4-1)を含んでいない。集束剤は、ビニルエステル樹脂(A0-1)が析出することで結晶化すると考えられる。上記の結果より、本発明の集束剤のようにビニルエステル樹脂(A1-1)~(A4-1)の全てを含むことで、各比較例よりも分子量分布が連続的(なだらか)となり、ビニルエステル樹脂(A0-1)が析出し難くなったと考えられる。
【0110】
W1/W2の値は、比較例1,2においてそれぞれ0.125,2.000であった。
【0111】
以上より、W1/W2の下限は0.125より大きく、例えば0.15とし、好ましくは0.3とするのがよいと認められた。また、W1/W2の上限は5.429以下、例えば5.000以下とし、好ましくは2.000未満とするのがよいと認められた。
【0112】
即ち、W1/W2の値を0.15以上5以下とすれば結晶発生をさらに抑制することができるため好ましく、さらにW1/W2の値を0.3以上2未満とすれば結晶発生をより一層抑制することができるためより好ましいことが判明した。
【0113】
集束性において、本発明例1~18についてはA評価(巻き付きがほとんど見られない)、本発明例19~26についてはB評価(巻き付きがわずかに見られた)、がそれぞれ得られた。即ち、本発明例1~26については許容レベル以上であった。
【0114】
このとき、本発明例1~18においてはビニルエステル樹脂(A)、非イオン性界面活性剤(B)および樹脂(C)を含有し、本発明例19~26においてはエポキシ樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)を含有する。
【0115】
即ち、本発明例1~18(A評価)のように上記の何れかの樹脂(C)を含有することで、樹脂(C)を含有しない場合(本発明例19~26)よりも繊維材料に集束性を付与し易いと認められた。
【0116】
本発明例19~26では、ビニルエステル樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)の含有割合の合計は100質量%であった。即ち、本発明例19~26では、ビニルエステル樹脂(A)の含有割合は67~76質量%であり、非イオン性界面活性剤(B)の含有割合は24~33質量%であった。
【0117】
各構成成分の存在割合が上記の要件を満たすと、集束剤を水性液にした際の結晶発生を効果的に抑制でき、かつ繊維材料の集束性を高い水準で実現できると認められた。
【0118】
ビニルエステル樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)の含有割合の合計を100質量%としたとき(本発明例19~26)、ビニルエステル樹脂(A)を10~90質量%、および非イオン性界面活性剤(B)を10~90質量%、の割合で含有すれば、上記と同様の効果が得られると考えられる。
【0119】
本発明例1~18では、ビニルエステル樹脂(A)、非イオン性界面活性剤(B)および樹脂(C)の含有割合の合計は100質量%であった。即ち、本発明例1~18では、ビニルエステル樹脂(A)の含有割合は18~58質量%であり、非イオン性界面活性剤(B)の含有割合は15~30質量%であり、樹脂(C)の含有割合は20~52質量%であった。
【0120】
各構成成分の存在割合が上記の要件を満たすと、集束剤を水性液にした際の結晶発生を効果的に抑制でき、かつ繊維材料の集束性をより高い水準で実現できると認められた。
【0121】
エポキシ樹脂(A)、非イオン性界面活性剤(B)および樹脂(C)の含有割合の合計を100質量%としたとき、エポキシ樹脂(A)を10~90質量%、非イオン性界面活性剤(B)を5~85質量%および樹脂(C)を5~85質量%の割合で含有すれば、上記と同様の効果が得られると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、例えば繊維材料のサイジング処理に利用できる。
【要約】
【課題】水溶液の状態となったときに結晶化を抑制することができ、かつ、集束性に優れた繊維用集束剤を提供する。
【解決手段】化学式(1)で表されるビニルエステル樹脂(A)、及び非イオン性界面活性剤(B)を含有する繊維用集束剤であって、化学式(1)において、nが1であるビニルエステル樹脂(A1)、nが2であるビニルエステル樹脂(A2)、nが3であるビニルエステル樹脂(A3)、及びnが4であるビニルエステル樹脂(A4)を含有することを特徴とする繊維用集束剤。
:それぞれ独立に炭素数1~3のアルキレン基、R,R:それぞれ独立に水素原子または炭素数1~4のアルキル基、n:0以上20以下の整数
【選択図】なし