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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-02
(45)【発行日】2025-05-14
(54)【発明の名称】アンテナ装置及び無線端末
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/24 20060101AFI20250507BHJP
   H01Q 5/371 20150101ALI20250507BHJP
   H01Q 9/28 20060101ALI20250507BHJP
【FI】
H01Q1/24 Z
H01Q5/371
H01Q9/28
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023527152
(86)(22)【出願日】2021-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2021021560
(87)【国際公開番号】W WO2022259308
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2024-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】524066085
【氏名又は名称】FCNT合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 洋平
(72)【発明者】
【氏名】吉川 学
(72)【発明者】
【氏名】殿岡 旅人
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 実
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼田 聡史
(72)【発明者】
【氏名】篠島 貴裕
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/092979(WO,A1)
【文献】特表2008-523655(JP,A)
【文献】特開2000-332530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/24
H01Q 5/371
H01Q 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数及び前記第1周波数より高い第2周波数で動作するアンテナと、
前記アンテナに給電する給電点を有し、板状に形成される第1の導体板と、
板状に形成される第2の導体板と、
前記第1の導体板と前記第2の導体板とを電気的に接続する接続部と、
前記第1の導体板と前記第2の導体板との間に設けられた回路素子と、を備え、
前記第1の導体板のうち前記アンテナに最も近い近傍箇所から前記第1の導体板のうち前記アンテナから最も離れた第1の離間箇所までの第1の距離が、前記近傍箇所から前記第2の導体板のうち前記アンテナから最も離れた第2の離間箇所までの第2の距離よりも短く設定され、
前記回路素子は、
前記第1周波数においては前記第1の導体板と前記第2の導体板とを電気的に接続し、
前記第2周波数においては、前記第1の導体板と前記第2の導体板とを電気的に切り離す、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記第1の距離は、前記第1周波数の電波の実効波長の凡そ1/2であり、
前記第2の距離は、前記第2周波数の電波の実効波長の凡そ1/2である、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記第2の導体板の面上に重畳して第3の導体板が設けられ、
前記第3の導体板の導電率は、前記第2の導体板の導電率よりも低い、
請求項1または2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1の導体板の前記アンテナ側の端部は、平面視において前記アンテナと平行な直線を形成し、
前記給電点は前記直線の端部に設けられる、
請求項1から3のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記接続部は、前記第1の導体板の縁部に設けられる、
請求項1から4のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記接続部は、前記給電点からの距離が前記第1周波数の実効波長の1/8以下の範囲内に設けられる、
請求項1から5のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記回路素子は、インダクタとコンデンサとを含むトラップ回路である、
請求項1から6のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記回路素子は、高周波スイッチである、
請求項1から6のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記アンテナは、モノポールアンテナ、逆Fアンテナ及びループアンテナのうちのいずれかである、
請求項1から8のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のアンテナ装置を備える、
無線端末。
【請求項11】
請求項3に記載のアンテナ装置を備え、
前記第3の導体板がディスプレイパネルを含む、
無線端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置及び無線端末に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンによって例示される無線端末では、端末内部に設けられた導体をアンテナのグランドとして活用されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-085540公報
【文献】特開2013-074361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スマートフォン等の無線端末では、給電点を備える基板に形成された第1のグランドと、ディスプレイ裏面に導体によって形成された第2のグランドとを電気的に接続することで、可及的に大きなグランドをアンテナに対して確保していた。このような構成を採用すると、第1のグランドと第2のグランドとに流れる電流を制御できないことから、アンテナの放射効率向上には限界があった。
【0005】
開示の技術の1つの側面は、より放射効率の高いアンテナ装置及び当該アンテナ装置を備える無線端末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術の1つの側面は、次のようなアンテナ装置によって例示される。本アンテナ装置は、第1周波数及び上記第1周波数より高い第2周波数で動作するアンテナと、上記アンテナに給電する給電点を有し、板状に形成される第1の導体板と、板状に形成される第2の導体板と、上記第1の導体板と上記第2の導体板とを電気的に接続する接続部と、上記第1の導体板と上記第2の導体板との間に設けられた回路素子と、を備える。上記第1の導体板のうち上記アンテナに最も近い近傍箇所から上記第1の導体板のうち上記アンテナから最も離れた第1の離間箇所までの第1の距離が、上記近傍箇所から上記第2の導体板のうち上記アンテナから最も離れた第2の離間箇所までの第2の距離よりも短く設定され、上記回路素子は、上記第1周波数においては上記第1の導体板と上記第2の導体板とを電気的に接続し、上記第2周波数においては、上記第1の導体板と上記第2の導体板とを電気的に切り離す。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、より放射効率の高いアンテナ装置及び当該アンテナ装置を備える無線端末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係るアンテナ装置1の一例を示す図である。
図2図2は、シミュレーションで採用した構成を例示する図である。
図3図3は、第1シミュレーションの結果を示す第1の図である。
図4図4は、第1シミュレーションの結果を示す第2の図である。
図5図5は、第1シミュレーションの結果を示す第3の図である。
図6図6は、第2シミュレーションの結果を例示する第1の図である。
図7図7は、第2シミュレーションの結果を例示する第2の図である。
図8図8は、第3シミュレーションの結果を例示する図である。
図9図9は、第4シミュレーションの結果を例示する図である。
図10図10は、接点P2として採用される回路を例示する図である。
図11図11は、第5シミュレーションの結果を例示する図である。
図12図12は、第6シミュレーションにおけるアンテナ装置の構成を説明する図である。
図13図13は、第6シミュレーションにおいて用意した比較例に係るアンテナ装置の構成を説明する図である。
図14図14は、第6シミュレーションの結果を例示する図である。
図15図15は、実装例に係るスマートフォンの外観を示す図である。
図16図16は、実装例に係るスマートフォンの内部構成の一例を示す図である。
図17図17は、第1グランド基板の形状のバリエーションを例示する第1の図である。
図18図18は、第1グランド基板の形状のバリエーションを例示する第2の図である。
図19図19は、第1グランド基板と第2グランド基板とが平面視において重畳していない構成を例示する図である。
図20図20は、アンテナの中央に給電点を接続した構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施形態>
以下に示す実施形態の構成は例示であり、開示の技術は実施形態の構成に限定されない。実施形態に係るアンテナ装置は、例えば、以下の構成を備える。本実施形態に係るアンテナ装置は、第1周波数及び上記第1周波数より高い第2周波数で動作するアンテナと、上記アンテナに給電する給電点を有し、板状に形成される第1の導体板と、板状に形成される第2の導体板と、上記第1の導体板と上記第2の導体板とを電気的に接続する接続部と、上記第1の導体板と上記第2の導体板との間に設けられた回路素子と、を備える。上記第1の導体板のうち上記アンテナに最も近い近傍箇所から上記第1の導体板のうち上記アンテナから最も離れた第1の離間箇所までの第1の距離が、上記近傍箇所から上記第2の導体板のうち上記アンテナから最も離れた第2の離間箇所までの第2の距離よりも短く設定され、上記回路素子は、上記第1周波数においては上記第1の導体板と上記第2の導体板とを電気的に接続し、上記第2周波数においては、上記第1の導体板と上記第2の導体板とを電気的に切り離す。
【0010】
上記アンテナ装置によれば、第1周波数においては上記回路素子が第1の導体板と第2の導体板とを電気的に接続することで、アンテナ、第1の導体板及び第2の導体板を放射体として動作させることができ、第1周波数におけるアンテナ装置の放射効率を高めることができる。また、第1周波数よりも高い第2周波数においては、アンテナ及び給電点によってアンテナと接続される第1の導体板に強い電流分布が生じると考えられる。そこで、第2周波数においては、上記回路素子が第1の導体板と第2の導体板とを電気的に切断することで、第1の導体板を放射体として動作させるとともに、第2の導体板による放射効率への影響を低減することができる。そのため、本アンテナ装置によれば、アンテナの放射効率をより高めることができる。
【0011】
以下、図面を参照して上記アンテナ装置についてさらに説明する。図1は、実施形態に係るアンテナ装置1の一例を示す図である。図1(A)は、アンテナ装置1を正面視した図である。図1(B)は、図1(A)の矢印の方向からアンテナ装置1を側面視した図である。アンテナ装置1は、第1グランド基板11、給電点12、第2グランド基板13、アンテナ15、接点P2、接点P3、接点P4及び接点P5を備える。図1のX方向を幅方向、Y方向を高さ方向、Z方向を厚さ方向とする。また、Z方向からの方向視を平面視とも称する。
【0012】
第1グランド基板11は、接地された基板である。第1グランド基板11は、例えば、各種電子部品を実装するプリント基板である。第1グランド基板11には、例えば、板状の導体が設けられることで、例えば、アンテナ15のグランドとして使用される。第1グランド基板11には、各種の電子部品が実装されてもよい。第1グランド基板11は、平面視において、例えば、長方形の板状に形成される。第1グランド基板11の幅方向における一方の端部には、例えば、アンテナ15に給電する給電点12が設けられる。第1グランド基板11は、「第1の導体板」の一例である。
【0013】
アンテナ15は、一端が給電点12に接続され、他端が開放端となっているモノポールアンテナである。アンテナ15は、例えば、給電点12からの給電を受けてマイクロ波帯の電波を出射する。アンテナ15は、例えば、マイクロ波帯域の2つの周波数(第1周波数fと第1周波数fよりも高い第2周波数f)で共振する。アンテナ15の長さは、四分の一波長であり、例えば、第1グランド基板11の幅と略等しい。アンテナ15は、板状に形成された第1グランド基板11の短辺側の端面111に沿って配置される。アンテナ15の長手方向は、例えば、アンテナ装置1の幅方向と一致する。換言すれば、アンテナ15は、長方形の板状に形成された第1グランド基板11の短辺側の端面111と平行である。また、端面111は、平面視においてアンテナ15と平行な直線を形成する。
【0014】
第2グランド基板13は、接地された基板である。第2グランド基板13は、例えば、板状の導体である。第2グランド基板13は、例えば、アンテナ15のグランドとして使用される。第2グランド基板13は、平面視において長方形の板状に形成される。第2グランド基板13の短辺の長さは第1グランド基板11の短辺の長さと略等しい。また、第2グランド基板13の長辺の長さは第1グランド基板11の長辺の長さよりも長い。第2グランド基板13の2つの短辺のうちの一方は、平面視において第1グランド基板11のアンテナ15側の短辺と重なっている。そのため、第2グランド基板13の2つの短辺のうちの一方は、アンテナ15と平行である。第2グランド基板13は、「第2の導体板」の一例である。
【0015】
第3グランド基板14は、接地された基板である。第3グランド基板14は、例えば、板状の導体である。第3グランド基板14の導電率は、第2グランド基板13の導電率よりも低いことが好ましい。第2グランド基板13は、平面視において長方形の板状に形成される。第3グランド基板14の短辺の長さは第1グランド基板11の短辺の長さと略等しい。また、第3グランド基板14の長辺の長さは第2グランド基板13の長辺の長さと略等しい。すなわち、第3グランド基板14の大きさは第2グランド基板13と略同じである。第3グランド基板14は、「第3の導体板」の一例である。
【0016】
第3グランド基板14は、平面視において第2グランド基板13と重畳するように全面で第2グランド基板13と接触するように配置される。そして、厚さ方向において、第3グランド基板14の上に第2グランド基板13が設けられ、第2グランド基板13の上に給電点12が設けられる。換言すれば、第2グランド基板13は、第1グランド基板11と第3グランド基板14との間に設けられる。スマートフォンによって例示される無線端末にアンテナ装置1が実装される場合、第3グランド基板14は、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイであってもよい。
【0017】
アンテナ装置1では、第1グランド基板11と第2グランド基板13とがこのように配置されることで、第1グランド基板11のうち端面111から最も遠い箇所までの長さ(図1のD1)よりも第2グランド基板13のうち端面111から最も遠い箇所までの長さ(図1のD2)の方が長くなることが理解できる。好ましくは、D1の長さがλ/2(λは、第1周波数fの電波の実効波長)であり、D2の長さがλ/2(λは、第2周波数fの電波の実効波長)である。ここで、実効波長とは周囲の誘電率によって自由空間の波長よりも短くなった波長のことである。
【0018】
第1グランド基板11と第2グランド基板13とは、厚さ方向において離れている。すなわち、第1グランド基板11と第2グランド基板13との間には、隙間が形成される。その隙間には、接点P2、接点P3、接点P4、接点P5が設けられる。接点P2、接点P3、接点P4、接点P5は、例えば、第1グランド基板11の4つの角部付近に設けられる。なお、接点P2、接点P3、接点P4、接点P5は、第1グランド基板11の4つの角部付近に設けられることに限定されず第1グランド基板11の他の場所に設けられてもよい。接点は4つに限定されず4つより多くてもよい。接点P2、接点P3、接点P4、接点P5は、第1グランド基板11の縁部(第1グランド基板11の長方形を形成する各辺の付近)に設けられてもよい。接点P2、接点P3、接点P4、接点P5のうち、接点P2が最も給電点12に近い位置に設けられる。接点P2は、給電点12からλ/8の範囲内に設けられるのが好ましい。また、接点P3、接点P4、接点P5は、給電点12からλ/8以上離れた位置に設けられることが好ましい。接点P2、P3、接点P4、接点P5は、例えば、第1グランド基板11と第2グランド基板13を電気的にバネ接点を介して接続する。
【0019】
接点P2は、第1周波数fのときに低インピーダンス、第2周波数fのときに高インピーダンスとなる接点である。すなわち、給電点12が第1周波数f1で動作するときは、接点P2が低インピーダンスとなることで、第1グランド基板11と第2グランド基板13とが接点P2によっても電気的に接続される。給電点12が第2周波数f2で動作するときは、接点P2が高インピーダンスとなることで、第1グランド基板11と第2グランド基板13との接点P2による電気的な接続が切断される。接点P2は、例えば、コンデンサとインダクタとを含む並列共振回路や、スイッチによって実現されてもよい。
【0020】
<シミュレーション>
アンテナ装置1の性能を検証するためシミュレーションを行ったので説明する。本シミュレーションでは、D1の長さを45.0mmに設定し、D2の長さを137.0mmに設定した。アンテナ15の長さ、及び、第1グランド基板11、第2グランド基板13、第3グランド基板14の幅を66.0mmに設定した。アンテナ15と第1グランド基板11の端面111との間隔を1mmに設定した。また、アンテナ15と端面111との距離を1.0mmに設定した。さらに、アンテナ15の導電率を1×10(S/m)、第1グランド基板11の導電率を1×10(S/m)、第2グランド基板13の導電率を1×10(S/m)、第3グランド基板14の導電率を5.8×10(S/m)に設定した。
【0021】
図2は、シミュレーションで採用した構成を例示する図である。本シミュレーションでは、第1グランド基板11と第2グランド基板13とが電気的に導通している導通モデル(図2(A))と、第1グランド基板11と第2グランド基板13とが電気的に非導通となっている非導通モデル(図2(B))と、について検証した。
【0022】
<第1シミュレーション>
第1シミュレーションでは、導通モデル及び非導通モデルの夫々についてアンテナ装置1の放射効率について検証した。図3から図5は、第1シミュレーションの結果を示す図である。図3は、シミュレーションによって検証したアンテナ装置1の放射効率を例示する図である。図3の縦軸は放射効率(dB)を示し、横軸は周波数(GHz)を示す。図3の点線は非導通モデルのシミュレーション結果を示し、図3の実線は導通モデルのシミュレーション結果を示す。図4は、非導通モデルのシミュレーション結果を示すスミスチャートである。図5は、導通モデルのシミュレーション結果を示すスミスチャートである。
【0023】
図3から図5を参照すると理解できるように、周波数の低い領域(例えば、周波数0.7GHz)では、導通モデルの方が放射効率が高い。また、周波数の高い領域(例えば、周波数2.6GHz以上)では、非導通モデルの方が放射効率が高い。本シミュレーションの結果により、周波数の低い領域では第1グランド基板11と第2グランド基板13とが電気的に導通している方がアンテナ装置1の放射効率が高くなり、周波数の高い領域では第1グランド基板11と第2グランド基板13とが電気的に非導通の方がアンテナ装置1の放射効率が高くなることが理解できる。
【0024】
<第2シミュレーション>
次に、導通モデルと非導通モデルの夫々について、電流分布を検証する第2シミュレーションを行った。図6及び図7は、第2シミュレーションの結果を例示する図である。図6は周波数が低い場合(周波数0.75GHzの場合)の電流分布を例示し、図7は周波数が高い場合(周波数4.0GHzの場合)の電流分布を例示する。また、図6(A)及び図7(B)は導通モデルにおける電流分布を例示し、図6(B)及び図7(B)は非導通モデルにおける電流分布を例示する。なお、図6及び図7では、色が濃い領域(点が密になっている領域)の方が、色が薄い領域(点が疎になっている領域)よりも強い電流が分布していることを例示する。
【0025】
まず、図6を参照して、周波数が低い場合について検討する。周波数が低い場合では、導通モデルの方が広い領域で強い電流分布が生じている。そして、強い電流分布は第1グランド基板11及び第2グランド基板13にも生じていることから、周波数が低い場合では第1グランド基板11及び第2グランド基板13が放射体として動作していると考えられる。そのため、周波数が低い場合では導通モデルの方がアンテナ装置1の放射効率が高くなると考えられる。
【0026】
次に、図7を参照して、周波数が高い場合について検討する。周波数が高い場合では、非導通モデルの方が広い領域で強い電流分布が生じている。そして、強い電流分布は第1グランド基板11に生じていることから、周波数が高い場合では、第1グランド基板11が放射体として動作していると考えられる。また、周波数が高い場合では、強い電流分布がアンテナ15の近傍に生じることから、第3グランド基板14による電流分布への影響を抑制した方が好ましいと考えられる。そのため、周波数が高い場合では、非導通モデルの方がアンテナ装置1の放射効率が高くなると考えられる。
【0027】
<第3シミュレーション>
つづいて、第1グランド基板11と第2グランド基板13との接続状態を接点によって切り替えた場合におけるアンテナ15の特性について検証する第3シミュレーションについて説明する。第3シミュレーションでは、図1に例示した接点P2、接点P3、接点P4、接点P5の夫々の位置において接続と切断とを切り替えてアンテナ15の放射効率をシミュレーションした。
【0028】
図8は、第3シミュレーションの結果を例示する図である。図8の縦軸は放射効率(dB)を示し、横軸は周波数(GHz)を示す。図8において、細い実線は、接点P2、接点P3、接点P4、接点P5の夫々を切断した場合の放射効率を示す(図中の凡例では、「p2O_p3O_p4O_p5O」と記載)。点線は、接点P3を接続するとともに接点P2、接点P4、接点P5の夫々を切断した場合の放射効率を示す(図中の凡例では、「p2O_p3S_p4O_p5O」と記載)。一点鎖線は接点P2を接続するとともに接点P3、接点P4、接点P5の夫々を切断した場合の放射効率を示す(図中の凡例では、「p2S_p3O_p4O_p5O」と記載)。二点鎖線は、接点P2、接点P3を接続するとともに接点P4、接点P5の夫々を切断した場合の放射効率を示す(図中の凡例では、「p2S_p3S_p4O_p5O」と記載)。太い実線は、接点P2、接点P3、接点P4、接点P5の夫々を接続した場合の放射効率を示す(図中の凡例では、「p2S_p3S_p4S_p5S」と記載)。
【0029】
図8を参照すると、細い実線によって示される放射効率は、周波数の低い領域において高くなることが理解できる。また、太い実線によって示される放射効率は、周波数の高い領域において高くなることが理解できる。二点鎖線によって示される放射効率と太い実線によって示される放射効率との間で大きな違いが無いことから、接点P4、接点P5の接続、切断による放射効率への影響は小さいことが理解できる。一方で、一点鎖線によって示される放射効率の方が二点鎖線によって示される放射効率よりも低くなっていることから、接点P3は接続した方が好ましいことが理解できる。
【0030】
点線によって示される放射効率は、周波数の低い領域では低放射効率となる一方で、周波数の高い領域では高放射効率となることが理解できる。すなわち、周波数が低い領域では接点P2を接続し、周波数が高い領域では接点P2を切断することで、アンテナ装置1の放射効率を高めることができることが理解できる。
【0031】
<第4シミュレーション>
つづいて、接点P3、接点P4、接点P5の夫々を接続した状態で、接点P2としてインダクタを設けた場合におけるアンテナ装置1の放射効率を検証する第4シミュレーションについて説明する。図9は、第4シミュレーションの結果を例示する図である。図9において、縦軸は放射効率(dB)を示し、横軸は周波数(GHz)を示す。図9において、一点鎖線は、インダクタンス1nHのインダクタを接点P2として設けた場合の放射効率を示す(図中の凡例では、「p2-1n_p3S_p4O_p5O」と記載)。点線は、インダクタンス2nHのインダクタを接点P2として設けた場合の放射効率を示す(図中の凡例では、「p2-2n_p3S_p4O_p5O」と記載)。太い実線は、インダクタンス10nHのインダクタを接点P2として設けた場合の放射効率を示す(図中の凡例では、「p2-10n_p3S_p4O_p5O」と記載)。二点鎖線は、接点P2を切断した状態の放射効率を示す(図中の凡例では、「p2O_p3S_p4O_p5O」と記載)。細い実線は、接点P2を接続した状態の放射効率を示す(図中の凡例では、「p2S_p3S_p4O_p5O」と記載)。二点鎖線及び細い実線の場合は、接点P2としてインダクタを設けていない。なお、図9に例示される放射効率の夫々では、接点P3は接続され、接点P4及び接点P5は切断されている。
【0032】
図9を参照すると、一点鎖線によって示される放射効率と細い実線によって示される放射効率とは、周波数の低い領域でアンテナ装置1の放射効率が同程度に良いことが理解できる。太い実線によって示される放射効率では、周波数の低い領域におけるアンテナ装置1の放射効率が低い一方で、周波数の高い領域におけるアンテナ装置1の放射効率は高いことが理解できる。すなわち、インダクタンスが1nH以下のインダクタを接点P2として設けることで周波数の低い領域におけるアンテナ装置1の放射効率を高くすることができる。
【0033】
<第5シミュレーション>
つづいて、接点P3、接点P4、接点P5の夫々を接続した状態で、接点P2としてトラップ回路やスイッチを設けた場合におけるアンテナ装置1の放射効率を検証する第5シミュレーションについて説明する。図10は、接点P2として採用される回路を例示する図である。図10(A)及び図10(B)は、アンテナ装置1を側面から(図1(A)の矢印方向から)接点P2付近を見た図となっている。図10(A)は、接点P2として採用するトラップ回路16の一例を示す図である。トラップ回路16は、インダクタ161とコンデンサ162とを並列に接続した回路であり、並列共振回路とも称される。トラップ回路16は、第1グランド基板11と第2グランド基板13とを接続するように設けられる。
【0034】
図10(B)は、接点P2として採用するスイッチ回路17の一例を示す図である。スイッチ回路17は、例えば、周波数に応じて開閉が切り替えられる高周波スイッチである。スイッチ回路17としては、例えば、ダイオードスイッチ、Field Effect Transistor(FET)スイッチあるいはMicro Electro Mechanical Systems(MEMS)スイッチを挙げることができる。スイッチ回路17は、例えば、周波数の低い領域(例えば、周波数0.7GHz)ではスイッチが閉状態(スイッチオン)となり、第1グランド基板11と第2グランド基板13とを電気的に接続する。また、スイッチ回路17は、周波数の高い領域(例えば、周波数2.6GHz以上)では開状態(スイッチがオフ)となり、第1グランド基板11と第2グランド基板13とが電気的に切断される。
【0035】
図11は、第5シミュレーションの結果を例示する図である。図11において、縦軸は放射効率(dB)を示し、横軸は周波数(GHz)を示す。図11において、太い実線は、インダクタ161のインダクタンスを1nH、コンデンサ162の静電容量を2pFとしたトラップ回路16を接点P2として設けた場合の放射効率を例示する(図中の凡例では、「p2-1n-2p_p3S_p4O_p5O」と記載)。細い実線は、接点P2を切断した状態の放射効率を示す(図中の凡例では、「p2O_p3S_p4O_p5O」と記載)。二点鎖線は、接点P2を接続した状態の放射効率を示す(図中の凡例では、「p2S_p3S_p4O_p5O」と記載)。なお、図11に例示される放射効率の夫々では、接点P3は接続され、接点P4及び接点P5は切断されている。
【0036】
図8及び図9を参照して説明した通り、周波数の低い領域では接点P2が接続され、周波数の高い領域では接点P2が切断されることで、アンテナ装置1の放射効率を高くすることができる。図11を参照すると、太い実線によって示される放射効率は、周波数の低い領域では接点P2が接続された状態(細い実線)と同様に高い放射効率を示し、周波数の高い領域では接点P2が切断された状態(二点鎖線)と同様に高い放射効率を示すことが理解できる。すなわち、接点P2の位置にトラップ回路16を設けることで、アンテナ装置1の放射効率を高めることができる。また、トラップ回路16に含まれるインダクタ161のインダクタンスを1nH、コンデンサ162の静電容量を2pFとすることが好ましい。
【0037】
<第6シミュレーション>
以上のシミュレーションにより、接点P3が接続された状態において、周波数の低い領域では接点P2を接続し、周波数の高い領域では接点P2を切断することが、アンテナ装置1の高い放射効率実現には好ましいということができる。ここでは、接点P3の位置を検討する第6シミュレーションについて説明する。
【0038】
図12は、第6シミュレーションにおけるアンテナ装置1の構成を説明する図である。第6シミュレーションでは、接点P2、接点P4、接点P5を切断した状態で、端面111から接点P3までの距離D3を変化させた場合におけるアンテナ装置1の放射効率についてシミュレーションを行った。図13は、第6シミュレーションにおいて用意した比較例に係るアンテナ装置500の構成を説明する図である。比較例に係るアンテナ装置500では、端面111から接点P2までの距離D4をλ/8、端面111から接点P3までの距離D5を3λ/8に設定した。なお、アンテナ装置500では、接点P4、接点P5は省略されている。
【0039】
図14は、第6シミュレーションの結果を例示する図である。図14において、縦軸は放射効率(dB)を示し、アンテナ15から接点P3までの距離(mm)を示す。図14において、実線がアンテナ装置1の放射効率を示し、点線がアンテナ装置500の放射効率を示す。図14を参照すると、端面111から接点P3までの距離D3が10mm以上の範囲(λ/8以上の範囲)とすることで、アンテナ装置1の放射効率をアンテナ装置500よりも高くすることができることが理解できる。
【0040】
第1から第5シミュレーションの結果により、周波数が低い領域(例えば、周波数0.7GHz付近の領域)及び高い領域(例えば、周波数2.6GHz付近の領域)のいずれにおいても、接点P3は接続した方がアンテナ装置1の放射効率は高くできることが理解できる。また、周波数が低い領域では接点P2を接続し、周波数が高い領域では接点P2を切断することで、周波数が低い領域から高い領域までにおけるアンテナ装置1の放射効率を高くすることができる。
【0041】
また、第6シミュレーションの結果により、接点P3の位置は、端面111から接点P3までの距離D3が10mm以上の範囲(λ/8以上の範囲)となるように決定することで、アンテナ装置1の放射効率を高めることができる。
【0042】
<実装例>
以上説明したアンテナ装置1をスマートフォンに実装する場合について説明する。図15は、実装例に係るスマートフォン200の外観を示す図である。スマートフォン200は、可搬型の無線端末である。スマートフォン200の筐体210の前面にはスピーカー211、マイクロフォン212及びディスプレイ213が設けられる。ディスプレイ213は、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイパネルである。ディスプレイ213は、「ディスプレイパネル」の一例である。
【0043】
図16は、実装例に係るスマートフォン200の内部構成の一例を示す図である。図16は、スマートフォン200の筐体210を外した状態を例示する。図16(A)は、筐体210を外したスマートフォン200を正面視した図である。図16(B)は、図16(A)の矢印の方向から筐体210を外したスマートフォン200を側面視した図である。スマートフォン200では、例えば、第1グランド基板11上にスマートフォン200の各種制御を実行する電子部品が実装される。また、ディスプレイ213の背面には第2グランド基板13が設けられる。すなわち、スマートフォン200の内部構成は、アンテナ装置1の第3グランド基板14をディスプレイ213に置き換えたものということができる。なお、スマートフォンのディスプレイ内部にはタッチセンサ用の電極等を含むが、ディスプレイ213の等価的な導電率は、第3グランド基板14と同程度である。
【0044】
スマートフォン200にアンテナ装置1が実装されることで、周波数の低い領域から高い領域まで高い放射効率を実現することができ、スマートフォン200の通信性能を向上させることができる。
【0045】
<変形例>
以上説明した実施形態では、第1グランド基板11は長方形に形成されたが、第1グランド基板11の形状が長方形に限定されるわけではない。図17は、第1グランド基板11の形状のバリエーションを例示する第1の図である。図17には、三角形に形成された第1グランド基板11aが例示される。第1グランド基板11aは、三角形の一辺である辺112をアンテナ15と平行にして配置される。また、図17では、参考のため、接点P2の位置の一例も例示している。そして、このような第1グランド基板11aが採用された場合においても、辺112から当該辺112に対向する頂点113までの長さD1aがλ/2であり、D2の長さがλ/2であることが、アンテナ装置1の放射効率を高める上では好ましい。
【0046】
図18は、第1グランド基板11の形状のバリエーションを例示する第2の図である。図18には、2つの長方形を組み合わせた形状に形成された第1グランド基板11bが例示される。第1グランド基板11bは、一辺である辺114をアンテナ15と平行にして配置される。また、図18では、参考のため、接点P2の位置の一例も例示している。そして、このような第1グランド基板11bが採用された場合においても、辺114から第1グランド基板11bにおいて第1グランド基板114から最も離れた箇所までの長さD1bがλ/2であり、D2の長さがλ/2であることが、アンテナ装置1の放射効率を高める上では好ましい。
【0047】
以上説明した実施形態では、第1グランド基板11と第2グランド基板13とが平面視において重畳して配置された。しかしながら、第1グランド基板11と第2グランド基板13とは平面視において重畳していなくともよい。図19は、第1グランド基板11と第2グランド基板13とが平面視において重畳していない構成を例示する図である。また、図19では、参考のため、接点P2の位置の一例も例示している。第1グランド基板11及び第2グランド基板13がこのように配置された場合においても、端面111と第1グランド基板11のうち端面111から最も離れた箇所までの長さD1がλ/2であり、端面111から第2グランド基板13のうち端面111から最も離れた箇所までの長さD2がλ/2であることが、アンテナ装置1の放射効率を高める上では好ましい。
【0048】
以上説明した実施形態では、給電点12はアンテナ15の端部に設けられたが、給電点12はアンテナ15の端部以外に設けられてもよい。図20は、アンテナ15の中央に給電点12を接続した構成を例示する図である。図20に例示するように、給電点12はアンテナ15の中央に接続されてもよい。
【0049】
以上説明した実施形態では、アンテナ装置1が備えるアンテナはモノポールアンテナであった。しかしながら、アンテナ装置1が備えるアンテナがモノポールアンテナに限定されるわけではない。アンテナ装置1が備えるアンテナは、逆Fアンテナまたはループアンテナであってもよい。
【0050】
以上で開示した実施形態や変形例は夫々組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0051】
1・・アンテナ装置
11・・第1グランド基板
11a・・第1グランド基板
11b・・第1グランド基板
12・・給電点
13・・第2グランド基板
14・・第3グランド基板
15・・アンテナ
16・・トラップ回路
161・・インダクタ
162・・コンデンサ
111・・端面
112・・辺
113・・頂点
200・・スマートフォン
210・・筐体
211・・スピーカー
212・・マイクロフォン
213・・ディスプレイ
500・・アンテナ装置
P2・・接点
P3・・接点
P4・・接点
P5・・接点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20