(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-02
(45)【発行日】2025-05-14
(54)【発明の名称】磁気粒子イメージング装置、磁気粒子イメージング方法、及び磁気粒子イメージングプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0515 20210101AFI20250507BHJP
【FI】
A61B5/0515
(21)【出願番号】P 2023553868
(86)(22)【出願日】2021-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2021038198
(87)【国際公開番号】W WO2023062810
(87)【国際公開日】2023-04-20
【審査請求日】2023-10-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「医療分野研究成果展開事業・先端計測分析技術・機器開発プログラム PiB-PETに代わる認知症画像診断のための高感度磁気粒子イメージング装置の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116964
【氏名又は名称】山形 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100120477
【氏名又は名称】佐藤 賢改
(74)【代理人】
【識別番号】100135921
【氏名又は名称】篠原 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100203677
【氏名又は名称】山口 力
(72)【発明者】
【氏名】吉田 啓太
(72)【発明者】
【氏名】進 泰彰
(72)【発明者】
【氏名】岡田 泰行
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-096960(JP,A)
【文献】特開2010-172410(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0020407(US,A1)
【文献】特開2021-145987(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0221103(US,A1)
【文献】特表2012-510847(JP,A)
【文献】特表2021-523382(JP,A)
【文献】特表2016-530047(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0287277(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-3/398
G01R 33/00-33/64
G01N 27/00-27/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体内の磁気ナノ粒子の空間分布を示す磁気ナノ粒子画像を生成する磁気粒子イメージング装置であって、
前記被写体内に線状ゼロ磁場領域を形成し、前記線状ゼロ磁場領域を予め定められた方向に移動させる線状ゼロ磁場生成部と、
前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して交流の励起磁場を印加する励起磁場印加部と、
前記励起磁場によって発生する前記磁気ナノ粒子の磁化変化を検出する検出部と、
制御部と、
を有し、
前記制御部は、システム関数を生成するときに、
前記線状ゼロ磁場生成部に、予め定められた粒子濃度の前記磁気ナノ粒子を含み且つ予め定められた大きさを持つ前記被写体である基準の構造体内において前記線状ゼロ磁場領域を形成し、前記線状ゼロ磁場領域を走査及び回転させ、
前記励起磁場印加部に、前記構造体内の前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して前記励起磁場を印加させ、
前記検出部に、前記線状ゼロ磁場領域の前記回転の方向である回転方向の複数の角度における前記構造体内の前記磁化変化を検出させ、
前記線状ゼロ磁場領域の前記走査の方向である走査方向の複数の位置と前記線状ゼロ磁場領域の前記回転方向の前記複数の角度とに基づいて前記磁化変化の第1の投影データを生成し、
前記第1の投影データから、前記回転方向の複数の角度の磁気粒子イメージング信号を抜き出し、前記複数の角度の磁気粒子イメージング信号から直流成分を除去して第1の計測磁気粒子イメージング信号を生成し、
前記構造体から取得した前記第1の計測磁気粒子イメージング信号と前記構造体から検出された磁気信号である理想磁気粒子イメージング信号とから前記第1の計測磁気粒子イメージング信号ごとに逆畳み込み係数としての前記システム関数を計算し、
前記制御部は、前記磁気ナノ粒子画像を生成するときに、
前記線状ゼロ磁場生成部に、前記被写体である実際の撮像対象内に前記線状ゼロ磁場領域を形成し、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域を走査及び回転させ、
前記励起磁場印加部に、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して前記励起磁場を印加させ、
前記検出部に、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記回転の方向である回転方向の複数の角度における前記撮像対象内の前記磁化変化を検出させ、
前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記走査の方向である走査方向の複数の位置と前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記回転方向の前記複数の角度とに基づいて前記磁化変化の第2の投影データを生成し、
前記撮像対象内の前記第2の投影データから、前記回転方向の複数の角度の磁気粒子イメージング信号を抜き出し、前記複数の角度の前記撮像対象内の磁気粒子イメージング信号から直流成分を除去して前記撮像対象内の第2の計測磁気粒子イメージング信号を生成し、
前記撮像対象内の前記
第2の計測磁気粒子イメージング信号ごとに前記システム関数を用いて、前記撮像対象内の前記
第2の計測磁気粒子イメージング信号に対して感度補正を行うことで補正投影データを生成し、
前記補正投影データに基づいて前記磁気ナノ粒子画像を生成する
ことを特徴とする磁気粒子イメージング装置。
【請求項2】
前記線状ゼロ磁場生成部は、前記走査に際し、前記線状ゼロ磁場領域を前記走査方向に予め定められた移動距離ずつ直線移動させることを特徴とする請求項1に記載の磁気粒子イメージング装置。
【請求項3】
前記走査方向は、前記線状ゼロ磁場領域の長手方向に直交する方向であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気粒子イメージング装置。
【請求項4】
前記線状ゼロ磁場生成部は、前記回転に際し、前記線状ゼロ磁場領域を予め定められた回転角度ずつ回転させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気粒子イメージング装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記システム関数を生成するときに、前記位置及び前記角度の組み合わせの各々における検出感度を示すシステム関数を生成して、複数の前記システム関数を含むシステム関数セットを記憶装置に記憶させる
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の磁気粒子イメージング装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記磁気ナノ粒子画像を生成するときに、前記記憶装置から前記システム関数を選択して、選択された前記システム関数を用いて前記
第2の計測磁気粒子イメージング信号に対して感度補正を行い、前記補正投影データを生成する
ことを特徴とする請求項5に記載の磁気粒子イメージング装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記磁気ナノ粒子画像を生成するときに、前記記憶装置から前記システム関数を選択して、前記選択されたシステム関数を用いた補間により、前記選択されたシステム関数以外のシステム関数を推定し、選択された前記システム関数と推定された前記システム関数とを用いて前記
第2の計測磁気粒子イメージング信号に対して感度補正を行い、前記補正投影データを生成する
ことを特徴とする請求項5に記載の磁気粒子イメージング装置。
【請求項8】
前記システム関数セットを記憶する前記記憶装置をさらに有する
ことを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の磁気粒子イメージング装置。
【請求項9】
被写体内に線状ゼロ磁場領域を形成し、前記線状ゼロ磁場領域を予め定められた方向に移動させる線状ゼロ磁場生成部と、前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して交流の励起磁場を印加する励起磁場印加部と、前記励起磁場によって発生する磁気ナノ粒子の磁化変化を検出する検出部と、を有し、前記被写体である撮像対象内の前記磁気ナノ粒子の空間分布を示す磁気ナノ粒子画像を生成する磁気粒子イメージング装置によって実行される、磁気粒子イメージング方法であって、
システム関数を生成するときに、
前記線状ゼロ磁場生成部に、予め定められた粒子濃度の前記磁気ナノ粒子を含み且つ予め定められた大きさを持つ前記被写体である基準の構造体内において前記線状ゼロ磁場領域を形成し、前記線状ゼロ磁場領域を走査及び回転させるステップと、
前記励起磁場印加部に、前記構造体内の前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して前記励起磁場を印加させるステップと、
前記検出部に、前記線状ゼロ磁場領域の前記回転の方向である回転方向の複数の角度における前記構造体内の前記磁化変化を検出させるステップと、
前記線状ゼロ磁場領域の前記走査の方向である走査方向の複数の位置と前記線状ゼロ磁場領域の前記回転方向の前記複数の角度とに基づいて前記磁化変化の第1の投影データを生成するステップと、
前記第1の投影データから、前記回転方向の複数の角度の磁気粒子イメージング信号を抜き出し、前記複数の角度の磁気粒子イメージング信号から直流成分を除去して第1の計測磁気粒子イメージング信号を生成するステップと、
前記構造体から取得した前記第1の計測磁気粒子イメージング信号と前記構造体から検出された磁気信号である理想磁気粒子イメージング信号とから前記第1の計測磁気粒子イメージング信号ごとに逆畳み込み係数としての前記システム関数を計算するステップと、を有し、
前記磁気ナノ粒子画像を生成するときに、
前記線状ゼロ磁場生成部に、前記被写体である実際の撮像対象内に前記線状ゼロ磁場領域を形成し、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域を走査及び回転させるステップと、
前記励起磁場印加部に、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して前記励起磁場を印加させるステップと、
前記検出部に、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記回転の方向である回転方向の複数の角度における前記撮像対象内の前記磁化変化を検出させるステップと、
前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記走査の方向である走査方向の複数の位置と前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記回転方向の前記複数の角度とに基づいて前記磁化変化の第2の投影データを生成するステップと、
前記撮像対象内の前記第2の投影データから、前記回転方向の複数の角度の磁気粒子イメージング信号を抜き出し、前記複数の角度の前記撮像対象内の磁気粒子イメージング信号から直流成分を除去して前記撮像対象内の第2の計測磁気粒子イメージング信号を生成するステップと、
前記撮像対象内の前記
第2の計測磁気粒子イメージング信号ごとに前記システム関数を用いて、前記撮像対象内の前記
第2の計測磁気粒子イメージング信号に対して感度補正を行うことで補正投影データを生成するステップと、
前記補正投影データに基づいて前記磁気ナノ粒子画像を生成するステップと、を有する
ことを特徴とする磁気粒子イメージング方法。
【請求項10】
被写体内に線状ゼロ磁場領域を形成し、前記線状ゼロ磁場領域を予め定められた方向に移動させる線状ゼロ磁場生成部と、前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して交流の励起磁場を印加する励起磁場印加部と、前記励起磁場によって発生する磁気ナノ粒子の磁化変化を検出する検出部と、を有し、前記被写体である撮像対象内の前記磁気ナノ粒子の空間分布を示す磁気ナノ粒子画像を生成する磁気粒子イメージング装置によって実行される、磁気粒子イメージングプログラムであって、
システム関数を生成するときに、前記磁気粒子イメージング装置に、
前記線状ゼロ磁場生成部に、予め定められた粒子濃度の前記磁気ナノ粒子を含み且つ予め定められた大きさを持つ前記被写体である基準の構造体内において前記線状ゼロ磁場領域を形成し、前記線状ゼロ磁場領域を走査及び回転させるステップと、
前記励起磁場印加部に、前記構造体内の前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して前記励起磁場を印加させるステップと、
前記検出部に、前記線状ゼロ磁場領域の前記回転の方向である回転方向の複数の角度における前記構造体内の前記磁化変化を検出させるステップと、
前記線状ゼロ磁場領域の前記走査の方向である走査方向の複数の位置と前記線状ゼロ磁場領域の前記回転方向の前記複数の角度とに基づいて前記磁化変化の第1の投影データを生成するステップと、
前記第1の投影データから、前記回転方向の複数の角度の磁気粒子イメージング信号を抜き出し、前記複数の角度の磁気粒子イメージング信号から直流成分を除去して第1の計測磁気粒子イメージング信号を生成するステップと、
前記構造体から取得した前記第1の計測磁気粒子イメージング信号と前記構造体から検出された磁気信号である理想磁気粒子イメージング信号とから前記第1の計測磁気粒子イメージング信号ごとに逆畳み込み係数としての前記システム関数を計算するステップと、を実行させ、
前記磁気ナノ粒子画像を生成するときに、前記磁気粒子イメージング装置に、
前記線状ゼロ磁場生成部に、前記被写体である実際の撮像対象内に前記線状ゼロ磁場領域を形成し、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域を走査及び回転させるステップと、
前記励起磁場印加部に、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して前記励起磁場を印加させるステップと、
前記検出部に、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記回転の方向である回転方向の複数の角度における前記撮像対象内の前記磁化変化を検出させるステップと、
前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記走査の方向である走査方向の複数の位置と前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記回転方向の前記複数の角度とに基づいて前記磁化変化の第2の投影データを生成するステップと、
前記撮像対象内の前記第2の投影データから、前記回転方向の複数の角度の磁気粒子イメージング信号を抜き出し、前記複数の角度の前記撮像対象内の磁気粒子イメージング信号から直流成分を除去して前記撮像対象内の第2の計測磁気粒子イメージング信号を生成するステップと、
前記撮像対象内の前記
第2の計測磁気粒子イメージング信号ごとに前記システム関数を用いて、前記撮像対象内の前記
第2の計測磁気粒子イメージング信号に対して感度補正を行うことで補正投影データを生成するステップと、
前記補正投影データに基づいて前記磁気ナノ粒子画像を生成するステップと、を実行させる
ことを特徴とする磁気粒子イメージングプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気粒子イメージング装置、磁気粒子イメージング方法、及び磁気粒子イメージングプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
造影剤としての磁気ナノ粒子を撮像対象に注入し、磁気ナノ粒子の磁化変化から発生する高調波信号に基づいて、撮像対象内の磁気ナノ粒子の空間分布を画像化する磁気粒子イメージング(「Magnetic Particle Imaging(MPI)」ともいう。)装置の提案がある。特許文献1は、静磁場発生コイルで線状ゼロ磁場領域を形成し、この線状ゼロ磁場領域内に存在する磁気ナノ粒子に磁化変化を生じさせ、そのときに発生する高調波信号を検出する処理を、線状ゼロ磁場領域の走査方向の各位置で行うことで、磁気ナノ粒子の空間分布を画像化する磁気粒子イメージング装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記磁気粒子イメージング装置では、線状ゼロ磁場領域内に存在する磁気ナノ粒子のみで発生した磁化変化を検出することが望ましい。しかし、実際には線状ゼロ磁場領域の外側近傍(例えば、周囲)の磁気ナノ粒子で発生する局所磁場の影響を受け、線状ゼロ磁場領域の周囲の磁気ナノ粒子でも磁化変化が生じる。このため、空間分解能の低い磁気ナノ粒子画像が生成される。
【0005】
本開示は、高い空間分解能を持つ磁気ナノ粒子画像を生成することを可能にする磁気粒子イメージング装置、磁気粒子イメージング方法、及び磁気粒子イメージングプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の磁気粒子イメージング装置は、被写体内の磁気ナノ粒子の空間分布を示す磁気ナノ粒子画像を生成する装置であって、前記被写体内に線状ゼロ磁場領域を形成し、前記線状ゼロ磁場領域を予め定められた方向に移動させる線状ゼロ磁場生成部と、前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して交流の励起磁場を印加する励起磁場印加部と、前記励起磁場によって発生する前記磁気ナノ粒子の磁化変化を検出する検出部と、制御部と、を有し、
前記制御部は、システム関数を生成するときに、前記線状ゼロ磁場生成部に、予め定められた粒子濃度の前記磁気ナノ粒子を含み且つ予め定められた大きさを持つ前記被写体である基準の構造体内において前記線状ゼロ磁場領域を形成し、前記線状ゼロ磁場領域を走査及び回転させ、前記励起磁場印加部に、前記構造体内の前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して前記励起磁場を印加させ、前記検出部に、前記線状ゼロ磁場領域の前記回転の方向である回転方向の複数の角度における前記構造体内の前記磁化変化を検出させ、前記線状ゼロ磁場領域の前記走査の方向である走査方向の複数の位置と前記線状ゼロ磁場領域の前記回転方向の前記複数の角度とに基づいて前記磁化変化の第1の投影データを生成し、前記第1の投影データから、前記回転方向の複数の角度の磁気粒子イメージング信号を抜き出し、前記複数の角度の磁気粒子イメージング信号から直流成分を除去して第1の計測磁気粒子イメージング信号を生成し、前記構造体から取得した前記第1の計測磁気粒子イメージング信号と前記構造体から検出された磁気信号である理想磁気粒子イメージング信号とから前記第1の計測磁気粒子イメージング信号ごとに逆畳み込み係数としての前記システム関数を計算し、
前記制御部は、前記磁気ナノ粒子画像を生成するときに、前記線状ゼロ磁場生成部に、前記被写体である実際の撮像対象内に前記線状ゼロ磁場領域を形成し、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域を走査及び回転させ、前記励起磁場印加部に、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して前記励起磁場を印加させ、前記検出部に、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記回転の方向である回転方向の複数の角度における前記撮像対象内の前記磁化変化を検出させ、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記走査の方向である走査方向の複数の位置と前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記回転方向の前記複数の角度とに基づいて前記磁化変化の第2の投影データを生成し、前記撮像対象内の前記第2の投影データから、前記回転方向の複数の角度の磁気粒子イメージング信号を抜き出し、前記複数の角度の前記撮像対象内の磁気粒子イメージング信号から直流成分を除去して前記撮像対象内の第2の計測磁気粒子イメージング信号を生成し、前記撮像対象内の前記第2の計測磁気粒子イメージング信号ごとに前記システム関数を用いて、前記撮像対象内の前記第2の計測磁気粒子イメージング信号に対して感度補正を行うことで補正投影データを生成し、前記補正投影データに基づいて前記磁気ナノ粒子画像を生成することを特徴とする。
【0007】
本開示の磁気粒子イメージング方法は、被写体内に線状ゼロ磁場領域を形成し、前記線状ゼロ磁場領域を予め定められた方向に移動させる線状ゼロ磁場生成部と、前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して交流の励起磁場を印加する励起磁場印加部と、前記励起磁場によって発生する磁気ナノ粒子の磁化変化を検出する検出部と、を有し、前記被写体である撮像対象内の前記磁気ナノ粒子の空間分布を示す磁気ナノ粒子画像を生成する磁気粒子イメージング装置によって実行される、方法であって、
システム関数を生成するときに、
前記線状ゼロ磁場生成部に、予め定められた粒子濃度の前記磁気ナノ粒子を含み且つ予め定められた大きさを持つ前記被写体である基準の構造体内において前記線状ゼロ磁場領域を形成し、前記線状ゼロ磁場領域を走査及び回転させるステップと、前記励起磁場印加部に、前記構造体内の前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して前記励起磁場を印加させるステップと、前記検出部に、前記線状ゼロ磁場領域の前記回転の方向である回転方向の複数の角度における前記構造体内の前記磁化変化を検出させるステップと、前記線状ゼロ磁場領域の前記走査の方向である走査方向の複数の位置と前記線状ゼロ磁場領域の前記回転方向の前記複数の角度とに基づいて前記磁化変化の第1の投影データを生成するステップと、前記第1の投影データから、前記回転方向の複数の角度の磁気粒子イメージング信号を抜き出し、前記複数の角度の磁気粒子イメージング信号から直流成分を除去して第1の計測磁気粒子イメージング信号を生成するステップと、前記構造体から取得した前記第1の計測磁気粒子イメージング信号と前記構造体から検出された磁気信号である理想磁気粒子イメージング信号とから前記第1の計測磁気粒子イメージング信号ごとに逆畳み込み係数としての前記システム関数を計算するステップと、を有し、
前記磁気ナノ粒子画像を生成するときに、
前記線状ゼロ磁場生成部に、前記被写体である実際の撮像対象内に前記線状ゼロ磁場領域を形成し、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域を走査及び回転させるステップと、
前記励起磁場印加部に、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域を含む磁場領域に対して前記励起磁場を印加させるステップと、前記検出部に、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記回転の方向である回転方向の複数の角度における前記撮像対象内の前記磁化変化を検出させるステップと、前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記走査の方向である走査方向の複数の位置と前記撮像対象内の前記線状ゼロ磁場領域の前記回転方向の前記複数の角度とに基づいて前記磁化変化の第2の投影データを生成するステップと、前記撮像対象内の前記第2の投影データから、前記回転方向の複数の角度の磁気粒子イメージング信号を抜き出し、前記複数の角度の前記撮像対象内の磁気粒子イメージング信号から直流成分を除去して前記撮像対象内の第2の計測磁気粒子イメージング信号を生成するステップと、前記撮像対象内の前記第2の計測磁気粒子イメージング信号ごとに前記システム関数を用いて、前記撮像対象内の前記第2の計測磁気粒子イメージング信号に対して感度補正を行うことで補正投影データを生成するステップと、前記補正投影データに基づいて前記磁気ナノ粒子画像を生成するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示の磁気粒子イメージング装置、磁気粒子イメージング方法、及び磁気粒子イメージングプログラムを用いれば、高い空間分解能を持つ磁気ナノ粒子画像を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る磁気粒子イメージング装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係るMPI装置の要部の構造及び被写体である撮像対象としての人間を概略的に示す斜視図である。
【
図3】実施の形態に係るMPI装置の要部の構造及び構造体としての円柱体を概略的に示す斜視図である。
【
図4】既知濃度の磁気ナノ粒子、線状ゼロ磁場領域、計測された磁気信号である磁気応答信号、及び既知の磁気応答信号を示す図である。
【
図5】システム関数、磁気ナノ粒子の空間分布、及び磁気信号(計測ベクトル)の関係を示す図である。
【
図6】実施の形態に係るMPI装置のハードウェア構成の例を示す図である。
【
図7】実施の形態に係るMPI装置の磁気ナノ粒子画像の生成処理の例を示すフローチャートである。
【
図8】実施の形態に係るMPI装置のシステム関数の生成処理の例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9(A)は、走査位置・角度座標上に投影データの例を示す。
図9(B)は、ある角度における計測MPI信号の強度を示す波形と計測MPI信号を高速フーリエ変換(FFT)処理して得られた信号を示す。
【
図10】
図10(A)は、
図9(B)の信号を示す。
図10(B)は、
図10(A)の計測MPI信号からDC成分を除去した信号の強度を示す波形とDC成分が除去された計測MPI信号をFFT処理して得られた信号を示す。
【
図11】
図11(A)は、
図10(B)の信号を示す。
図11(B)は、標準撮像対象である円柱体から検出された磁気信号である計測MPI信号の波形とこの計測MPI信号をFFT処理して得られた信号を示す。
図11(C)は、
図11(A)及び(B)から算出された逆畳み込み係数とそれをFFT処理して得られた係数を示す。
【
図12】
図12(A)は、
図10(B)の信号を示す。
図12(B)は、
図11(C)の係数を示す。
図12(C)は、補正されたMPI信号であるノイズ除去MPI信号の強度を示す波形とノイズ除去MPI信号をFFT処理して得られた信号を示す。
【
図13】
図13(A)は、補正投影データを示す。
図13(B)は、補正されていない元の投影データを示す。
【
図14】
図14(A)は、補正投影データに対して画像再構成を行って作成した磁気ナノ粒子画像を示す。
図14(B)は、補正されていない元の投影データに基づく磁気ナノ粒子画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施の形態に係るMPI装置、MPI方法、及びMPIプログラムを、図面を参照しながら説明する。以下の実施の形態は、例にすぎず、実施の形態を適宜組み合わせること及び各実施の形態を適宜変更することが可能である。
【0011】
図1~4には、図相互の関係を理解しやすくするために、XYZ直交座標系の座標軸が示されている。Z軸は、線状ゼロ磁場(「Free Field Line(FFL)」ともいう。)領域の長手方向の座標軸である。Y軸は、Z軸に直交するFFL領域の走査方向(Y方向)の座標軸である。X軸は、Z軸及びY軸の両方に直交する方向の座標軸である。
図2及び
図3において、R方向は、FFL領域の回転方向を示す。
図2及び
図3では、R方向の回転の中心軸は、X方向の軸である。なお、図において、同一又は対応する構成には、同じ符号が付されている。
【0012】
《MPI装置の構成》
図1は、実施の形態に係るMPI装置1の構成を概略的に示す図である。MPI装置1は、被写体としての撮像対象50内の磁気ナノ粒子の空間分布を示す磁気ナノ粒子画像を生成(「再構成」ともいう。)する装置である。また、MPI装置1は、実施の形態に係るMPI方法を実施することができる装置である。また、MPI装置1は、実施の形態に係るMPIプログラムを実行することができる装置である。
【0013】
図2は、MPI装置1の要部の構造及び撮像対象50を概略的に示す斜視図である。撮像対象50は、例えば、磁気ナノ粒子が体内に投与された人間である。撮像対象50は、人間以外のもの(例えば、動物、植物など)であってもよい。磁気ナノ粒子は、磁性体を含むナノメートルの範囲の直径を有する磁性粒子である。磁気ナノ粒子は、例えば、人間に投与された後に患部(例えば、脳、臓器などにおける特定の細胞)に集まる性質を持つように形成されている。磁気ナノ粒子としては、例えば、カルボキシデキストランで被覆された超常磁性酸化鉄の親水性コロイド液である「リゾビスト(Resovist)(登録商標)」(一般名:Ferucarbotran)が知られている。
【0014】
図1に示されるように、MPI装置1は、FFL領域60を形成する線状ゼロ磁場生成部10と、交流の励起磁場を印加する励起磁場印加部20と、磁気ナノ粒子の磁化変化を検出(すなわち、計測)する磁化変化検出部としての検出部30と、装置全体を制御する制御部40とを有している。
【0015】
線状ゼロ磁場生成部10は、被写体内にFFL領域60を形成し、FFL領域60を予め定められた方向に移動させる。例えば、線状ゼロ磁場生成部10は、被写体内にFFL領域60を形成し、FFL領域60を予め定められた走査方向(Y方向)に走査させ、又は、FFL領域60を予め定められた回転方向(R方向)に回転させ、又はFFL領域60を予め定められた走査方向(Y方向)に走査させ及び予め定められた回転方向(R方向)に回転させる。線状ゼロ磁場生成部10は、第1の線状ゼロ磁場生成部としての線状ゼロ磁場生成コイル11と、第2の線状ゼロ磁場生成部としての線状ゼロ磁場生成コイル12とを有している。線状ゼロ磁場生成コイル11及び12は、被写体としての撮像対象50を挟んで互いに反対側に配置されている。線状ゼロ磁場生成コイル11及び12は、磁場発生用コイルであり、線状ゼロ磁場用電源13及び14によって電力が供給される。
【0016】
線状ゼロ磁場生成部10は、FFL領域60を走査方向(例えば、
図1~3におけるY方向)に予め定められた移動距離ずつ直線移動させる。例えば、線状ゼロ磁場生成部10は、FFL領域60の位置を、走査方向において予め定められた複数の位置のそれぞれに、順次移動させる。走査方向は、例えば、FFL領域60の長手方向(Z方向)に直交するY方向である。FFL領域60の移動は、例えば、線状ゼロ磁場用電源13及び14を制御することによって実行される。また、FFL領域60の移動は、撮像対象50の移動、又は線状ゼロ磁場生成部10の移動、又は撮像対象50及び線状ゼロ磁場生成部10の移動によって実行されてもよい。
【0017】
また、線状ゼロ磁場生成部10は、FFL領域60を予め定められた回転角度ずつ回転させることができる。線状ゼロ磁場生成部10は、FFL領域60を、例えば、YZ平面に平行なR方向に回転させる。FFL領域60の回転は、例えば、線状ゼロ磁場用電源13及び14を制御することによって実行される。また、FFL領域60の回転は、線状ゼロ磁場生成コイル11及び12のR方向及び-R方向の回転、又は撮像対象50のR方向及び-R方向の回転によって実行されてもよい。
【0018】
励起磁場印加部20は、FFL領域60を含む磁場領域に対して交流の励起磁場を印加する励起磁場発生用コイル21と、励起磁場発生用コイル21に電力を供給する励起磁場用電源22とを有している。
図1から
図3に示されるように、励起磁場発生用コイル21は、例えば、R方向に巻かれた環状のコイルである。
【0019】
検出部30は、FFL領域60内に含まれる磁気ナノ粒子の、励起磁場によって発生する磁化変化を検出する(より正確に言えば、磁化変化によって発生する高調波信号を磁気応答信号として検出する)。検出部30は、例えば、1つ又は複数の磁場検出器(例えば、磁場検出用コイル)を有している。検出部30から出力された検出信号は、増幅回路によって増幅されてもよい。1つ又は複数の磁場検出器は、磁場検出用の半導体素子(例えば、ホール素子など)であってもよい。
【0020】
制御部40は、MPI装置1の全体の動作を制御する。磁気ナノ粒子画像を生成するときに、制御部40は、線状ゼロ磁場生成部10に、撮像対象50内にFFL領域60を形成し、FFL領域60を走査、又は回転、又は走査及び回転させ、励起磁場印加部20に、励起磁場を印加させ、検出部30に、磁化変化を検出させる。さらに、制御部40は、FFL領域60の走査方向(Y方向)の位置とFFL領域60の回転方向Rの角度とを変化させ、FFL領域60の走査方向の位置及びFFL領域60の角度に基づいて磁化変化の投影データを生成し、投影データごとに予め取得されているシステム関数を用いて、投影データに対して感度補正を行うことで補正投影データを生成する。さらに、制御部40は、補正投影データ(例えば、後述する
図13(A))に基づいて磁気ナノ粒子画像(例えば、後述する
図14(A))を生成する。
【0021】
図3は、実施の形態に係るMPI装置1の要部の構造及び被写体としての構造体51とを概略的に示す斜視図である。構造体51は、例えば、円柱体である。ただし、構造体51は円柱体に限定されない。補正投影データの生成に用いられるシステム関数は、予め生成される。制御部40は、システム関数を生成するときに、線状ゼロ磁場生成部10に、予め定められた粒子濃度の磁気ナノ粒子を含み且つ予め定められた大きさを持つ基準の被写体である構造体51内においてFFL領域60を形成し、FFL領域60を走査、又は回転、又は走査及び回転させ、励起磁場印加部20に、構造体51内のFFL領域60を含む磁場領域に対して励起磁場を印加させ、検出部30に、構造体51内の磁化変化を検出させ、構造体51内の磁化変化に基づいて投影データごとにシステム関数を生成する。システム関数は、走査方向の各位置及び回転方向の各角度の検出感度に基づいて生成される。
【0022】
図4は、既知濃度の磁気ナノ粒子、FFL領域60、計測された磁気応答信号、及び既知の磁気応答信号を示す図である。
図4に示した8×4個の丸印は全て既知濃度の磁気ナノ粒子を示している。
図4には、FFL領域60がY方向に移動し、計測された磁気応答信号がFFL領域60及びその周囲で発生した磁気信号の総和であって三角波形に類似の波形であること、理想的な既知の磁気応答特性(FFL領域60のみで発生した磁気信号の総和)が破線で示す矩形波形であることが示されている。磁化を持った磁気ナノ粒子を励磁することで、検出部30の視野角(FOV:Field Of View)内の磁気ナノ粒子から、磁化変化に応じた磁気信号(すなわち、磁気ナノ信号の持つ磁化の変化)が検出部30によって直接検出される。
【0023】
図5は、システム関数S、FFL領域60における磁気ナノ粒子の空間分布c、及び計測された磁気応答信号u(すなわち、計測ベクトル)の関係を示す図である。
図5に示されるように、計測された磁気応答信号uは、FFL領域60における磁気ナノ粒子の空間分布cに検出感度(すなわち、磁気特性)を示すシステム関数Sを畳み込むことで得られた信号になる。
【0024】
図6は、実施の形態に係るMPI装置1のハードウェア構成の例を示す図である。
図6に示されるように、MPI装置1の制御部40は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ41と、揮発性の記憶装置であるメモリ42とを有している。制御部40は、コンピュータであってもよい。メモリ42は、RAM(Random Access Memory)などの半導体メモリである。また、MPI装置1は、ハードディスクドライブ(HDD)又はソリッドステートドライブ(SSD)などの記憶装置70を有している。記憶装置70は、MPI装置1と通信可能な外部の装置の一部であってもよい。記憶装置70は、例えば、ネットワークを介して通信可能なサーバーの記憶装置であってもよい。
【0025】
MPI装置1の各機能は、処理回路によって実現される。処理回路は、専用のハードウェアであっても、メモリ42に格納されるプログラム(例えば、実施の形態に係るMPI方法を実行させるMPIプログラム)を実行するプロセッサ41であってもよい。プロセッサ41は、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、及びDSP(Digital Signal Processor)のいずれであってもよい。
【0026】
処理回路が専用のハードウェアである場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらのうちのいずれかを組み合わせたものである。
【0027】
処理回路がプロセッサ41である場合、MPIプログラムは、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ42に格納される。プロセッサ41は、メモリ42に記憶されたMPIプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。
【0028】
なお、MPI装置1は、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェア又はファームウェアで実現するようにしてもよい。このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらのうちのいずれかの組み合わせによって、各機能を実現することができる。
【0029】
《磁気ナノ粒子画像の生成時の動作》
次に、MPI装置1による磁気ナノ粒子画像の生成時の動作を説明する。MPI装置1による磁気ナノ粒子画像の生成時の動作は、システム関数を用いて投影データの補正処理を行う点で、特許文献1に記載のものと異なる。
【0030】
図7は、MPI装置1の磁気ナノ粒子画像の生成処理の例を示すフローチャートである。
図7は、MPI装置1がFFL領域60の走査方向の位置及びFFL領域60の角度の両方を変更する例を示している。ただし、MPI装置1は、FFL領域60の走査方向の位置のみを変更してもよく、又は、FFL領域60の角度のみを変更してもよい。
【0031】
先ず、制御部40は、線状ゼロ磁場生成部10を制御して、撮像対象50(
図2に示される。)内にFFL領域60を形成し、FFL領域60の走査方向の位置を初期位置に設定する(ステップST11)。初期位置は、例えば、
図2におけるY方向の予め定められた位置である。
【0032】
次に、制御部40は、線状ゼロ磁場生成部10を制御して、FFL領域60の角度を初期角度に設定する(ステップST12)。初期角度は、例えば、
図2におけるR方向の予め定められた角度である。
【0033】
次に、制御部40は、励起磁場印加部20を制御して、FFL領域60における磁気ナノ粒子を励起させ、検出部30に磁化変化を検出させる(ステップST13)。
【0034】
次に、制御部40は、現在の走査方向の位置で、FFL領域60のR方向の予め定められた角度のすべてについて検出が終了しているか否かを判断する。制御部40は、検出未終了の角度がある場合(ステップST14においてNO)、処理をステップST12に戻し、線状ゼロ磁場生成部10を制御して、FFL領域60を一定の回転角だけ回転させて次の角度(すなわち、予め定められた角度のうちの一つ)に設定し、ステップST13の処理を経て、ステップST14の処理に戻る。制御部40は、現在の走査方向の位置で、検出未終了の角度がない場合、すなわち、すべての角度について検出が終了している場合(ステップST14においてYES)、処理をステップST15に進める。
【0035】
ステップST15において、制御部40は、FFL領域60のY方向の予め定められた複数の位置のすべてについて検出(すなわち、ステップST12~ST14の処理)が終了しているか否かを判断する。制御部40は、検出未終了の位置がある場合(ステップST15においてNO)、処理をステップST11に戻し、線状ゼロ磁場生成部10を制御して、FFL領域60を一定の距離だけY方向に移動させることで次の位置(すなわち、予め定められた複数の位置のうちの一つ)に設定し、ステップST12~ST14の処理を経て、ステップST15の処理に戻る。制御部40は、検出未終了の位置がない場合、すなわち、すべての位置について検出が終了している場合(ステップST15においてYES)、処理をステップST16に進める。
【0036】
ステップST16では、制御部40は、磁化変化の位置と角度(例えば、検出部30に対する投影データの投影位置と投影角度)とに基づいて、磁化変化の投影データを生成する。ここで、投影データは、検出部30の磁場検出器に対して、FFL領域60に沿った方向に検知データを投影処理することで得られたデータである。したがって、投影位置は、FFL領域60の走査方向の位置に対応する位置である。投影位置は、走査位置(Scan Position)とも呼ばれる。また、投影角度は、FFL領域60のR方向の回転角度に対応する角度である。
【0037】
ステップST17では、制御部40は、記憶装置70から投影位置及び投影角度ごとのシステム関数を選択して、選択されたシステム関数を用いて投影データに対して感度補正を行い、補正投影データを生成する。また、制御部40は、記憶装置70からシステム関数を選択して、選択されたシステム関数を用いた走査方向の位置もしくは線状ゼロ磁場領域の回転方向の角度、もしくは両方に対する内挿補間により、選択されたシステム関数以外のシステム関数を推定し、選択されたシステム関数と推定されたシステム関数とを用いて投影データに対して感度補正を行い、補正投影データを生成してもよい。この場合には、事前に取得しておくシステム関数を減らすことができる。
【0038】
ステップST18では、制御部40は、補正投影データに基づいて磁気ナノ粒子画像を生成する。
【0039】
《システム関数の生成時の動作》
図8は、MPI装置1のシステム関数の生成処理の例を示すフローチャートである。
図8は、MPI装置1がFFL領域60の走査方向の位置及びFFL領域60の角度の両方を変更する例を示している。ただし、MPI装置1は、FFL領域60の走査方向の位置のみを変更してもよく、又は、FFL領域60の角度のみを変更してもよい。
【0040】
システム関数の生成においては、先ず、制御部40は、線状ゼロ磁場生成部10を制御して、構造体51(
図3)内にFFL領域60を生成し、FFL領域60の走査方向の位置を初期位置に設定する(ステップST21)。初期位置は、例えば、
図3におけるY方向の予め定められた位置である。
【0041】
次に、制御部40は、線状ゼロ磁場生成部10を制御して、FFL領域60の角度を初期角度に設定する(ステップST22)。初期角度は、例えば、
図3におけるR方向の予め定められた角度である。
【0042】
次に、制御部40は、励起磁場印加部20を制御して、FFL領域60における磁気ナノ粒子を励起させ、検出部30に磁化変化を検出させる(ステップST23)。
【0043】
次に、制御部40は、現在の走査方向の位置で、FFL領域60のR方向の予め定められた複数の角度のすべてについて検出が終了しているか否かを判断する。制御部40は、現在の走査方向の位置で、検出未終了の角度がある場合(ステップST24においてNO)、処理をステップST22に戻し、線状ゼロ磁場生成部10を制御して、FFL領域60を一定の回転角だけ回転させることで次の角度(すなわち、予め定められた複数の角度のうちの一つ)に設定し、ステップST23の処理を経て、ステップST24の処理に戻る。制御部40は、現在の走査方向の位置で、検出未終了の角度がない場合、すなわち、すべての角度について検出が終了している場合(ステップST24においてYES)、処理をステップST25に進める。
【0044】
ステップST25において、制御部40は、FFL領域60のY方向の予め定められた複数の走査方向の位置のすべてについて検出(すなわち、ステップST22~ST24の処理)が終了しているか否かを判断する。制御部40は、検出未終了の走査方向の位置がある場合(ステップST25においてNO)、処理をステップST21に戻し、線状ゼロ磁場生成部10を制御して、FFL領域60を一定の距離だけY方向に移動させることで次の走査方向の位置(すなわち、予め定められた複数の走査方向の位置のうちの一つ)に設定し、ステップST22~ST24の処理を経て、ステップST25の処理に戻る。制御部40は、検出未終了の走査方向の位置がない場合、すなわち、すべての走査方向の位置について検出が終了している場合(ステップST25においてYES)、処理をステップST26に進める。
【0045】
ステップST26では、制御部40は、磁化変化の位置と角度(例えば、検出部30に対する投影データの投影位置と投影角度)とに基づいて、磁化変化の投影データを生成する。
【0046】
ステップST27では、制御部40は、走査方向の位置及び角度の組み合わせの各々における検出感度を示すシステム関数を生成して、ステップST28では、複数のシステム関数を含むシステム関数セットを記憶装置70に記憶させる。
【0047】
《投影データから画像を生成する処理》
図9(A)及び(B)から
図14(A)及び(B)までを参照しながら、投影データから再構成画像を生成する処理を説明する。
【0048】
まず、制御部40は、投影データから、複数の角度のMPI信号を抜き出す。複数の角度は、例えば、Rで示される回転方向の角度である。
図9(A)は、走査位置・角度座標上に投影した投影データの例を示す。走査位置(Scan Position)は、検出部30の複数の磁場検出器(又は検出素子)の位置に対応する。
図9(A)では、明るい部分ほど、計測された磁気応答信号である計測MPI信号の強度が強い、すなわち、振幅が大きい。
図9(B)は、
図9(A)におけるある角度の計測MPI信号の強度を示す波形(Original Signal)と計測MPI信号を高速フーリエ変換(FFT)処理して得られた信号(Original Signal FFT)を示す。
【0049】
次に、制御部40は、
図9(B)の信号からDC成分を除去する。
図10(A)は、
図9(B)の信号を示す。
図10(B)は、
図10(A)の計測MPI信号からDC成分を除去した信号の強度を示す波形(Signal without DC)とDC成分が除去された計測MPI信号をFFT処理して得られた信号(Signal without DC FFT)を示す。
【0050】
次に、制御部40は、
図10(B)の信号と理想MPI信号とからシステム関数として逆畳み込み係数S(f)を計算する。
図11(A)は、
図10(B)の信号を示す。
図11(B)は、基準の構造体51である円柱体から検出された磁気信号である理想MPI信号m(x)の波形と、この理想MPI信号をFFT処理して得られた信号M(f)を示す。
図11(C)は、
図11(A)及び(B)から算出された逆畳み込み係数s(t)とそれをFFT処理して得られた逆畳み込み係数FFTであるS(f)を示す。ここで、fは周波数、tは時刻、xは走査方向の位置(又は、磁場検出器の位置)を示す。
【0051】
次に、制御部40は、
図10(B)の信号と
図11(C)の逆畳み込み係数(すなわち、システム関数)とからノイズ除去MPI信号であるm(x)とそれをフーリエ変換した信号であるM(f)とを計算する。
図12(A)は、
図10(B)の信号を示す。
図12(B)は、
図11(C)の逆畳み込み係数を示す。
図12(C)は、補正されたMPI信号としてのノイズ除去MPI信号であるm(x)の強度を示す波形とノイズ除去MPI信号をFFT処理して得られた信号であるM(f)を示す。
【0052】
図9(A)及び(B)から
図12(A)~(C)までに示される処理によって、
図9(B)に示される元の投影データに基づく信号から、
図12(C)に示されるノイズ除去されたMPI信号を生成することができる。
【0053】
《実施の形態の効果》
図13(A)は、実施の形態に係るMPI装置1の制御部40によって生成された補正投影データを示す。
図13(B)は、補正されていない元の投影データ(比較例)を示す。
図13(A)に示されるように、実施の形態に係るMPI装置1の制御部40によって生成された補正投影データは、磁気ナノ粒子が存在する範囲(白色領域)と磁気ナノ粒子が存在しない範囲(黒色領域)の境界が明確な直線状になっている。このように、実施の形態に係るMPI装置1を用いれば、高い空間分解能を持つ磁気ナノ粒子画像を生成することが可能である。
【0054】
図14(A)は、実施の形態に係るMPI装置1の補正投影データに対して画像再構成を行って作成した磁気ナノ粒子画像を示す。
図14(B)は、補正されていない元の投影データに基づく磁気ナノ粒子画像(比較例)を示す。
図14(B)に示されるように、補正無しの投影データを用いて画像を再構成すると、磁気ナノ粒子が存在する範囲(白色領域)と磁気ナノ粒子が存在しない範囲(黒色領域)の境界が不明確になる。なお、
図14(B)において、外側の大きな円は、アーティファクトである。これに対し、
図14(A)に示されるように、実施の形態に係るMPI装置1によって生成された補正投影データは、磁気ナノ粒子が存在する範囲(白色領域)と磁気ナノ粒子が存在しない範囲(黒色領域)の境界が明確な円状になっている。このように、実施の形態に係るMPI装置1を用いれば、高い空間分解能を持つ磁気ナノ粒子画像を生成することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 MPI装置、 10 線状ゼロ磁場生成部、 11、12 線状ゼロ磁場生成コイル、 13、14 線状ゼロ磁場用電源、 20 励起磁場印加部、 21 励起磁場発生用コイル、 22 励起磁場用電源、 30 検出部、 40 制御部、 50 撮像対象(被写体)、 51 構造体(被写体)、 60 FFL領域、 70 記憶装置、 R 回転方向。