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特許7676771成型体の製造方法、およびフィラメントワインディング装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】成型体の製造方法、およびフィラメントワインディング装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/32 20060101AFI20250508BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20250508BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20250508BHJP
【FI】
B29C70/32
B29C70/16
B29K105:08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020216351
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022101944
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河野 祥和
(72)【発明者】
【氏名】越智 隆志
(72)【発明者】
【氏名】今飯田 真道
(72)【発明者】
【氏名】西野 聡
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/040153(WO,A1)
【文献】特開平07-149920(JP,A)
【文献】特開2008-290309(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173617(WO,A1)
【文献】特開2011-245740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/32
B29C 70/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維テープに塗液付与し得られた塗液含有強化繊維テープを、続けて回転部材に巻き付けて成型体を得る、成型体の製造方法であって、
塗液付与は、強化繊維テープを塗液が貯留された塗布部の内部に通過させることで実施し、
前記塗布部は互いに連通された液溜まり部と狭窄部を備え、前記液溜り部は強化繊維テープの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜まり部よりも小さい断面積を有し、
塗布部に貯留された塗液温度T、塗布部に備えられた壁面部材表面温度T’、塗布部に塗液として供給される樹脂の温度である供給樹脂温度T”について、T-1≧T’および/またはT-1≧T”となるように制御される
成型体の製造方法。
【請求項2】
前記液溜り部における断面積が連続的に減少する部分の長さが10mm以上である、
請求項1に記載の成型体の製造方法。
【請求項3】
前記塗液付与は、強化繊維テープを実質的に鉛直方向下向きに通過させることで実施する、
請求項1または2のいずれか1項に記載の成型体の製造方法。
【請求項4】
前記強化繊維テープを塗布部内で実質的に水平方向および/または傾斜方向に通過させる、
請求項1から3のいずれか1項に記載の成型体の製造方法。
【請求項5】
前記液溜り部を形成する側板部材によって規制される強化繊維テープのテープ幅方向における液溜り部の下部の幅L(mm)と、狭窄部の直下における強化繊維テープの幅W(mm)が、L≦1.1×Wを満たす、
請求項1から4のいずれか1項に記載の成型体の製造方法。
【請求項6】
前記液溜り部内に強化繊維テープの幅を規制するための中間部から下部にかけて塗布部の内部形状に沿った板形状のブッシュである幅規制機構を備え、
前記狭窄部の直下における強化繊維テープの幅W(mm)と該幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅L2(mm)との関係が、L2≦1.1×W(mm)を満たす、
請求項1から4のいずれか1項に記載の成型体の製造方法。
【請求項7】
前記塗布部に2枚以上の強化繊維シートを通過させる、
請求項1から6のいずれか1項に記載の成型体の製造方法。
【請求項8】
塗布速度が100m/分以上である、請求項1から7のいずれか1項に記載の成型体の製造方法。
【請求項9】
前記壁面部材を、壁面表面に設置された冷却板、もしくは塗布部周囲の雰囲気温度の調整により冷却する請求項1から8のいずれか1項に記載の成型体の製造方法。
【請求項10】
強化繊維テープに塗液付与し得られた塗液含有強化繊維テープを、続けて回転部材に巻き付けて成型体を得る、
フィラメントワインディング装置であって、
塗液付与は、強化繊維テープを塗液が貯留された塗布部の内部に通過させることで実施し、
前記塗布部は互いに連通された液溜まり部と狭窄部を備え、前記液溜り部は強化繊維テープの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜まり部よりも小さい断面積を有し、
塗布部に貯留された塗液温度を冷却する機を有する
フィラメントワインディング装置。
【請求項11】
前記塗布部は壁面部材を備えるものであり、前記塗布部に貯留された塗液温度を冷却する機構が、壁面表面に設置された冷却板である、請求項10に記載のフィラメントワインディング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型体の製造方法およびフィラメントワインディング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含むマトリックス樹脂を強化繊維で補強した繊維強化複合材料(FRP)は、航空・宇宙用材料、自動車材料、産業用材料、圧力容器、建築材料、筐体、医療用途、スポーツ用途など様々な分野で用いられている。特に高い力学特性と軽量性が必要な場合には、炭素繊維強化複合材料(CFRP)が幅広く好適に用いられている。一方、力学特性や軽量性よりもコストが優先される場合にはガラス繊維強化複合材料(GFRP)が用いられる場合がある。
【0003】
FRPは強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸し中間基材を得、これを積層、成形し、さらに熱硬化樹脂を用いた場合には熱硬化させて、FRPからなる部材を製造している。前記用途では平面状物やそれを折り曲げた形態のものが多く、FRPの中間基材としても1次元のストランドやロービング状物よりも、2次元のシート状物の方が部材を作製する際の積層効率や成形性の観点から幅広く使用されている。
【0004】
自動車材料において天然ガス自動車や燃料電池自動車などに搭載する高圧タンクには、金属製もしくは樹脂製のライナーを強化繊維複合材料で補強した圧力容器が利用されている。
強化繊維で補強された圧力容器は、強化繊維束などの強化繊維テープに、主にタッチロールを用いて塗液としての熱硬化性樹脂を付着させ、回転部材としてのライナーの、外側に巻き付け成型体とした後、加熱硬化させるフィラメントワインディング法(FW法)により作製されている。
【0005】
そのとき、生産性を向上させるために強化繊維テープは、通常100m/分以上の高速で走行させるが、タッチロールによる強化繊維テープへの塗液付与は、タッチロール上の強化繊維テープのトウ幅や張力変動や、温度変化による塗液の粘度変化などにより、強化繊維テープに定量の塗液を塗布することが難しい。
【0006】
さらに、タッチロールでは塗液を強化繊維テープに完全に含浸させることが難しい。完全に含浸されてない強化繊維テープは、テープ上に厚い塗液膜が形成されている状態であり、搬送ロールで、テープ表面の塗液や、搬送ロールに付着した塗液が遠心力で飛散し、工程汚染や原料収率悪化につながる(例えば特許文献1、2)。
【0007】
この課題の解決手段として、強化繊維テープへの定量塗布と塗布部での塗液含浸について、特許文献3~5で提案されている。該解決手段では、塗布部出口部がスリット状の形状をしており、このスリットと強化繊維テープとのクリアランスの大きさが塗布量を決定するためトウ幅や張力変動に対して安定した定量塗布が可能となる。また、塗液が貯留された塗布部の断面積が、強化繊維テープ走行方向に沿って連続的に減少する部分を有する。これにより、塗布部においてテープ平面の垂線方向に圧力(液圧)が生じ、塗液の含浸が促進され、テープ上の塗液膜が薄い塗液含有強化繊維テープが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-185837号公報
【文献】特開2019-107772号公報
【文献】特許第6418356号
【文献】特許第6696630号
【文献】特許第6708311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3~5の方法は、強化繊維テープの走行速度が100m/分より小さい速度を想定しており、FW時に用いられる100m/分以上の高速連続走行は想定されていない。前述の通り、塗布部の断面積が強化繊維テープ走行方向に沿って連続的に減少し、強化繊維テープはスリット形状の細い出口を通過する。その際に大きな剪断が生じるため、100m/分以上の高速連続走行により成型体の製造を続けていると、剪断発熱により、塗液の温度が上昇し続け、粘度変化による塗布量の変動や、塗布部内の塗液の硬化が進行し、樹脂暴走の危険がある。
【0010】
本発明の課題は、塗液付与とFWによって塗液含有強化繊維テープを巻き取るまでの搬送工程において、強化繊維テープおよび搬送ロールからの塗液飛散を抑制することで、原料収率の悪化と工程汚染を抑制し、かつ、高速塗布時の塗布部に貯留された塗液温度上昇を抑制し、連続安定塗布可能な成型体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決する本発明の成型体の製造方法は、強化繊維テープに塗液付与し得られた塗液含有強化繊維テープを、続けて回転部材に巻き付けて成型体を得る、成型体の製造方法であって、
塗液付与は、強化繊維テープを塗液が貯留された塗布部の内部に通過させることで実施し、
前記塗布部は互いに連通された液溜まり部と狭窄部を備え、前記液溜り部はシート状強化繊維テープ束の走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜まり部よりも小さい断面積を有し、
塗布部に貯留された塗液温度T、壁面部材表面温度T’、供給樹脂温度T”としたときにT-1≧T’および/またはT-1≧T”となるように制御される
成型体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の成型体の製造方法によれば、塗液付与とFWによって塗液含有強化繊維テープを巻き取るまでの搬送工程において、強化繊維テープおよび搬送ロールからの樹脂飛散を大幅に抑制、防止できる。さらに、高速塗布時の塗布部に貯留された樹脂温度上昇抑制により液溜り部での樹脂硬化進行や粘度変化を抑制することで、連続安定塗布が可能となり、生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1a】本発明の一実施形態に係る成型体の製造方法およびFW装置を示す概略横断面図である。
図1b】本発明の一実施形態に係る成型体の製造方法およびFW装置を示す概略横断面図である。
図2a図1aにおける塗布部20の部分を拡大した詳細横断面図である。
図2b】本発明の別の実施形態に係る成型体の製造方法およびFW装置を示す概略横断面図である。
図2c】本発明の別の実施形態に係る成型体の製造方法およびFW装置を示す概略横断面図である。
図2d】本発明の別の実施形態に係る成型体の製造方法およびFW装置を示す概略横断面図である。
図2e】本発明の別の実施形態に係る成型体の製造方法およびFW装置を示す概略横断面図である。
図2f】本発明の別の実施形態に係る成型体の製造方法およびFW装置を示す概略横断面図である。
図2g】本発明の別の実施形態に係る成型体の製造方法およびFW装置を示す概略横断面図である。
図3図2における塗布部20を、図2のAの方向から見た下面図である。
図4a図2における塗布部20を、図2のBの方向から見た場合の塗布部内部の構造を説明する断面図である。
図4b図4aにおける隙間26での塗液2の流れを表す断面図である。
図5a】幅規制機構の設置例を示す図である。
図5b】冷却装置61を備えた本発明の一実施形態に係る成型体の製造方法およびFW装置を示す概略横断面図である。
図6図2とは別の実施形態の塗布部20bの詳細横断面図である。
図7図6とは別の実施形態の塗布部20cの詳細横断面図である。
図8図6とは別の実施形態の塗布部20dの詳細横断面図である。
図9図6とは別の実施形態の塗布部20eの詳細横断面図である。
図10】本発明とは異なる実施形態の塗布部30の詳細横断面図である。
図11】本発明の実施形態の一例である液溜まり部内にバーを具備した態様を示す図である。
図12】本発明を用いた成型体の製造工程・装置の例を示す概略図である。
図13】本発明を用いた別の成型体の製造工程・装置の例を示す概略図である。
図14】本発明の一実施形態に係る多ライン化の態様の例を示す図である。
図15】本発明の一実施形態に係る多ライン化の態様の例を示す図である。
図16】本発明の一実施形態に係る多ライン化の態様の例を示す図である。
図17】本発明の一実施形態に係る多ライン化の態様の例を示す図である。
図18】本発明を用いた別の成型体の製造工程・装置の例の概略図である。
図19】本発明とは別の成型体の製造工程・装置の例の概略図である。
図20】本発明とは別の成型体の製造工程・装置の例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の望ましい実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は発明の実施形態を例示するものであり、本発明はこれに限定して解釈されるものではなく、本発明の目的・効果を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0015】
<成型体の製造方法の概略>
まず、図1a~bにより本発明の成型体の製造方法の概略を述べる。図1aは本発明の一実施形態に係る成型体の製造方法および装置を示す概略断面図である。塗工装置100には、強化繊維テープ1aを実質的に鉛直方向下向きZに走行させる走行機構である搬送ロール13、14と、搬送ロール13、14の間に設けられ、塗液2が溜められた塗布部20が具備されている。
【0016】
また、塗工装置100の前後には、強化繊維1を巻き出すクリール11と、巻き出された強化繊維1を一方向に配列した強化繊維テープ1a(図1では紙面奥行き方向に配列)を得る配列装置12と塗液含有強化繊維テープ1bをライナー15cの外側に巻き付け成型体15bとするFW装置15aを備えることができ、また、図示していないが塗工装置100には塗液の供給装置が具備されている。さらに、必要に応じ、離型テープを供給する供給装置と離型テープを巻き取る巻取装置や、工程内の張力を制御するためにダンサロールを備えてもよい。
【0017】
なお、本発明において、塗液含有強化繊維テープとは、塗液が強化繊維テープに付与されたものを言い、塗液は表面に存在していてもよいし、塗液の一部、あるいは全部が強化繊維テープ内部に含浸されていてもよい。また図1aには塗工装置が鉛直方向に走行している機構を示しているが、後述の通り、図1bのように水平方向に走行してもよい。
【0018】
<強化繊維テープ>
ここで、強化繊維1としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、金属酸化物繊維、金属窒化物繊維、有機繊維(アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維など)などを例示することができるが、炭素繊維を用いることが、FRPの力学特性、軽量性の観点から好ましい。
【0019】
強化繊維テープとしては、複数本の強化繊維を一方向に面上で配列させた一方向材(UD基材)や、強化繊維を多軸で配列させる、またはランダム配置してテープ化した強化繊維ファブリックが挙げられる。
【0020】
UD基材を形成する方法は公知の方法を用いることができ、特に制限は無いが、単繊維をあらかじめ配列させた強化繊維束を形成し、この強化繊維束を更に配列させて強化繊維テープを形成させることが、工程効率化、配列均一化の観点から好ましい。例えば炭素繊維では、テープ状の強化繊維束である「トウ」がボビンに巻かれているが、ここから引き出されたテープ状の強化繊維束を1糸条で用いる、あるいはこれらを複数糸条配列させて強化繊維テープを得ることができる。
【0021】
また、クリールにかけられたボビンから引き出された強化繊維束を整然と並べ、強化繊維テープ中で強化繊維束の望ましくない重なりや折りたたみ、強化繊維束間の隙間を無くするための強化繊維配列機構を有することが好ましい。強化繊維配列機構としては公知のローラーやくし型配列装置などを用いることができる。
【0022】
また、予め配列した強化繊維テープを複数枚重ねることも強化繊維間の隙間を減じる観点から有用である。なお、クリールには強化繊維を引き出す際に張力制御機構が付与されていることが好ましい。張力制御機構としては、公知のものを使用可能であるが、ブレーキ機構などが挙げられる。
【0023】
また、糸道ガイドの調整などによっても張力を制御することができる。本発明では、所望の強化繊維テープの幅となるように、強化繊維束を配列させることができる。
【0024】
一方、強化繊維ファブリックの具体例としては、織物や編物などの他、強化繊維を2次元で多軸配置したものや、不織布やマット、紙など強化繊維をランダム配向させたものを挙げることができる。この場合、強化繊維はバインダー付与、交絡、溶着、融着などの方法を利用してテープ化することもできる。織物としては、平織、ツイル、サテンの基本織組織の他、ノンクリンプ織物やバイアス構造、絡み織、多軸織物、多重織物などを用いることができる。
【0025】
バイアス構造とUD基材を組み合わせた織物は、UD構造により塗布・含浸工程での引っ張りでの織物の変形を抑制するだけでなく、バイアス構造による擬似等方性も併せ持っており、好ましい形態である。また、多重織物では織物上面/下面、また織物内部の構造・特性をそれぞれ設計できる利点がある。編物では塗布・含浸工程での形状安定性を考慮すると経編が好ましいが、筒状編み物であるブレードを用いることもできる。
【0026】
強化繊維ファブリックをテープ化する場合には、最初から所望の幅となるように強化繊維ファブリックを作製してもよいし、強化繊維ファブリックを形成後、所望の幅となるようにカットすることもできる。
【0027】
これらの中で、FRPの力学特性を優先させる場合には、UD基材を用いることが好ましく、UD基材は、強化繊維を一方向にテープ状に配列させる既知の方法により作製することができる。
【0028】
<塗液含有強化繊維テープの使用方法について>
圧力容器などでは、従来からFWと呼ばれる製造方法が用いられており、この時には強化繊維束1糸条(トウ)に、樹脂槽中でマトリックス樹脂を付与し、そのまま圧力容器ライナーにこれを巻きつけている。この用途に用いる場合では、強化繊維テープ幅は1糸条のトウと同程度(通常は6~12mm程度)となるが、場合によっては拡幅処理を施すことで、1糸条であっても幅30mmまで広くすることも可能である。幅広の強化繊維テープとすると、塗液含有強化繊維テープを積層した時に、テープ間の隙間、すなわち強化繊維が無い部分が発生し難く、好ましい。
【0029】
<フィラメントワインディング(FW)装置>
本発明の成型体の製造方法およびFW装置は、強化繊維テープに塗液付与し得られた塗液含有強化繊維テープを、続けて回転部材に巻き付ける。回転部材は特に限定されないが、圧力容器向けの場合はライナーであることが好ましい。
【0030】
圧力容器向けの成型体を製造する場合を例に説明すると、長尺の塗液含有強化繊維テープ1bをライナー15cに巻き付け成型体15bとするフィラメントワインディング装置15aを備えている。FW装置15aが塗工装置100の下流側に設けられ、塗液含有強化繊維テープ1bが搬送ロール14によりFW装置15aへと導かれるようになっている。
【0031】
FW装置15aとしては、公知の装置を使用することができる。FW装置15aの具体例としては、例えば、ライナー15cを中心軸周りに回転可能に保持でき、ライナー15cを中心軸周り回転させながら、アイクチ案内部118により塗液含有強化繊維テープ1bをライナー15cの外側に巻き付けてライナーを被覆できる装置が挙げられる。
【0032】
アイクチ案内部118は、1本または複数本の塗液含有強化繊維テープ1bをライナー15cに巻き付け易いように案内する機能を有し、1本または複数本の塗液含有強化繊維テープ1bをライナー15cに向けて幅方向に並べて幅方向位置を揃える揃え口と、揃え口自体をライナー15cの外形に沿って移動させる移動機構とを有する。揃え口の移動は、ライナー15cの長手軸方向の移動と、ライナー15cの幅方向への移動と、幅方向の移動軸周りの回転とによって行われる。なお、複数本の塗液含有強化繊維テープの作製方法は後述する。
【0033】
ライナー15cは、成形製品の形状を形作る芯材となるもので、例えば高圧タンクを成形する場合は、タンクの内径に対応する筒であり、例えば高圧水素ガスなどの媒体をその内部に収容するためのものであり、水素ガス等のガスに直接接触する層である。ライナー15cの形状、サイズ、厚みは使用目的、仕様等に応じたものを任意に選択することができる。
【0034】
ライナー15cは、樹脂材料および/または金属等を含んで構成される。ライナー15cを構成する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等が挙げられる。ライナーを構成する金属としては、アルミ合金等の金属が挙げられる。ライナーの肉厚やライナーを構成する材料の種類は、ライナー15cに要求される強度、気密性、成形性等に応じて適宜選択することができる。
【0035】
樹脂材料から構成されるライナー15cは、例えば、上記樹脂の射出成形により成形される。例えば、金型にポリアミド樹脂等の樹脂を流し込んで、略半円柱体を2つ成型し、それらをレーザ等により溶着して樹脂のライナー15cが成形される。この射出成形により、厚みが略均一なライナー15cが成形される。
【0036】
ライナー15cの筒の直径は、例えば30cm程度で、その肉厚は数mm程度のもので例えば、2mm~4mmの範囲のものを用いることができる。
【0037】
ライナー15cへの塗液含有強化繊維テープ1bの巻き付け前に、例えばライナー15cの外面の少なくとも一部に樹脂フィルムが巻き付けられていてもよい。内層部の繊維層が形成された後に、ライナー15c内が加熱されることにより、予め巻き付けられた樹脂フィルムが溶融するとともに、フィラメントワインディング時の積層繊維の張力により、内層部からマトリックス樹脂および後から塗布した樹脂とともに予め巻き付けられた樹脂フィルムからの樹脂が染み出し、強化繊維間の密着性がより向上する。樹脂フィルムを構成する樹脂としては、予め塗液含有強化繊維テープ1bに含浸させていたマトリックス樹脂と同じものでも異なるものでもよいが、通常は、同じものである。樹脂フィルムの厚さは、例えば、1mm~3mmの範囲である。
【0038】
ライナー15cは、長手軸が回転可能に支持され、回転駆動機構によって長手軸周りに回転される。アイクチ案内部118によって幅方向に並べて揃えられた1本または複数本の塗液含有強化繊維テープ1bの端部がライナー15cの巻始め部に固定され、ライナー15cが回転駆動されることで、1本または複数本の塗液含有強化繊維テープ1bがライナー15cの長手軸方向に並んでその外周に巻き取られる。ライナー15cに巻き取られる量は、ライナー15cの外周上の厚さにして数mmから10数mm程度である。所定の巻き数で塗液含有強化繊維テープ1bがライナー15cに巻き付けられ成型体15bを得る。その後硬化処理が行われ、後述する塗液が硬化して、FRPが成形される。塗液含有強化繊維テープ1bのライナー15cへの巻き付け工程等において、必要に応じ、ライナー15cの内部に加圧気体を供給してもよい。
【0039】
得られた成型体は、特に高圧圧力容器用途に好適に用いることができる。その他にも、航空・宇宙用途でのフレーム・圧力容器や、自動車・列車・船舶用途での圧力容器・ドライブシャフトや、産業資材・建材用途での各種配管・パイプや、スポーツ材料用途としてのラケット・釣り竿・シャフトなど広く適用することができる。
【0040】
<強化繊維の張力制御>
本発明の製造方法においては、クリールに架けられた強化繊維を均一に引き出し、強化繊維テープ、ひいては塗液含有強化繊維テープの幅精度を向上させるために、強化繊維をクリールから引き出す時の張力を制御することが好ましい。このためには、糸条を引き揃えてニップし、駆動装置により後工程の設備と速度差を持たせて張力を制御する方法や特開2005-248360号公報記載のように方向転換ガイドロールを駆動させる方法、特開2004-162055号公報記載のようにパウダーブレーキを連結したロールを用いる方法などを挙げることができる。また、強化繊維ボビンを架けるスピンドル部分にブレーキ機構を備えているクリールを用いることもできる。
【0041】
ブレーキ機構としては、バンドブレーキや、電磁式などがある。電磁式としては永久磁石を用いてなる磁力式トルク制御設備をスピンドル軸に設ける方法などがある。電磁式ブレーキ機構としては、例えば特開2012-184076号公報などに記載されているものを例示できる。さらにダンサロールを介して張力制御を行うこともできる。これらのうち、電磁式ブレーキ機構を備えたクリールを用いることが、張力制御の精密性、製造装置のコンパクト化の観点から好ましい。
【0042】
<強化繊維テープの平滑化>
本発明においては、強化繊維テープ表面の平滑性を高くすることで、塗布部での塗布量の均一性を向上させることができる。このため、強化繊維テープを平滑化処理した後、液溜り部に導くことが好ましい。平滑化処理法は特に制限は無いが、対向ロールなどで物理的に押しつける方法や空気流を用いて強化繊維を動かす方法などを例示できる。物理的に押しつける方法は簡便かつ、強化繊維の配列を乱しにくいため好ましい。より具体的にはカレンダー加工などを用いることができる。空気流を用いる方法は擦過が起こりにくいだけでなく、強化繊維テープを拡幅する効果もあり好ましい。
【0043】
<強化繊維テープの拡幅>
また、本発明において、強化繊維テープを拡幅処理した後、塗布部に導くことも、広い塗液含有強化繊維テープを効率的に製造できる観点から好ましい。テープ幅が広いとプリプレグテープ積層時のカバー面積が大きくなり、積層時の隙間を抑制できるメリットがあると考えられる。
【0044】
拡幅処理方法は特に制限は無いが、機械的に振動を付与する方法、空気流により強化繊維束を拡げる方法などを例示できる。機械的に振動を付与する方法としては、例えば特開2015-22799号公報記載のように、振動するロールに強化繊維シートを接触させる方法がある。
【0045】
振動方向としては、強化繊維テープの進行方向をX軸とすると、Y軸方向(水平方向)、Z軸方向(垂直方向)の振動を与えることが好ましく、水平方向振動ロールと垂直方向振動ロールを組み合わせて用いることも好ましい。また振動ロール表面は複数の突起を設けておくと、ロールでの強化繊維の擦過を抑制でき、好ましい。空気流を用いる方法としては、例えば、SEN-I GAKKAISHI,vol.64,P-262-267(2008).記載の方法を用いることができる。
【0046】
<塗液>
本発明で用いる塗液は付与する目的に応じ適宜選択することができる。塗液としては、前述の通りサイジング剤や表面改質剤など集束性や機能性を付与する剤を含む液体の他、プリプレグテープとするためのマトリックス樹脂などを例示することができる。
【0047】
本発明で用いるマトリックス樹脂は、後述する各種樹脂や粒子、硬化剤、更に各種添加剤を含む、樹脂組成物として用いることができる。本発明を成型体の製造に適用する場合には、強化繊維テープに塗液であるマトリックス樹脂が含浸した状態となり、ライナー上に積層し成型体としたのちに、硬化してFRPからなる部材を得ることができる。含浸度は、塗布部の設計や、塗布以降の追含浸により制御することができる。
【0048】
マトリックス樹脂としては、用途に応じ適宜選択可能であるが、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いることが一般的である。マトリックス樹脂は、加熱し溶融させた溶融樹脂でも室温でマトリックス樹脂のものでもよい。また、溶媒を用いて溶液やワニス化したものでも良い。なお、本発明をプリプレグテープの製造に用いる場合には、塗液含有強化繊維テープをプリプレグテープと言い換える場合がある。
【0049】
マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などFRPに一般的に使用されるものを用いることができる。また、これらは室温で液体であればそのまま用いてもよいし、室温で固体や粘稠液体であれば、加温して低粘度化する、あるいは溶融し融液として用いても良いし、溶媒に溶解し溶液やワニス化して用いてもよい。
【0050】
熱可塑性樹脂としては、主鎖に、炭素・炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合、カルボニル結合から選ばれる結合を有するポリマーを用いることができる。具体的には、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリアミドイミド(PAI)などを例示できる。
【0051】
航空機用途などの耐熱性が要求される分野では、PPS、PES、PI、PEI、PSU、PEEK、PEKK、PAEKなどが好適である。一方、産業用途や自動車用途などでは、成形効率を上げるため、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィンやPA、ポリエステル、PPSなどが好適である。これらはポリマーでも良いし、低粘度、低温塗布のため、オリゴマーやモノマーを用いても良い。もちろん、これらは目的に応じ、共重合されていてもよいし、各種を混合しポリマーブレンドやポリマーアロイとして用いることもできる。
【0052】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アセチレン末端を有する樹脂、ビニル末端を有する樹脂、アリル末端を有する樹脂、ナジック酸末端を有する樹脂、シアン酸エステル末端を有する樹脂があげられる。これらは、一般に硬化剤や硬化触媒と組合せて用いることができる。また、適宜、これらの熱硬化性樹脂を混合して用いることも可能である。
【0053】
本発明に適した熱硬化性樹脂として、耐熱性、耐薬品性、力学特性に優れていることからエポキシ樹脂が好適に用いられる。特に、アミン類、フェノール類、炭素・炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましい。具体的には、アミン類を前駆体とするエポキシ樹脂として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体、フェノール類を前駆体とするエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、炭素・炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂としては脂環式エポキシ樹脂等があげられるが、これに限定されない。またこれらのエポキシ樹脂をブロモ化したブロモ化エポキシ樹脂も用いられる。
【0054】
熱硬化性樹脂は硬化剤と組合せて、好ましく用いられる。例えばエポキシ樹脂の場合には、硬化剤はエポキシ基と反応しうる活性基を有する化合物であればこれを用いることができる。好ましくは、アミノ基、酸無水物基、アジド基を有する化合物が適している。具体的には、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類が適している。
【0055】
具体的に説明すると、ジシアンジアミドはプリプレグの保存性に優れるため好んで用いられる。またジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化物を与えるため本発明には最も適している。アミノ安息香酸エステル類としては、トリメチレングリコールジ-p-アミノベンゾエートやネオペンチルグリコールジ-p-アミノベンゾエートが好んで用いられ、ジアミノジフェニルスルホンに比較して、耐熱性に劣るものの、引張強度に優れるため、用途に応じて選択して用いられる。また、もちろん必要に応じ硬化触媒を用いることも可能である。また、マトリックス樹脂のポットライフを向上させる意味から、硬化剤や硬化触媒と錯体形成可能な錯化剤を併用することも可能である。
【0056】
また本発明では、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を混合して用いることも好適である。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の混合物は、熱硬化性樹脂を単独で用いた場合より良好な結果を与える。これは、熱硬化性樹脂が、一般に脆い欠点を有しながらオートクレーブによる低圧成型が可能であるのに対して、熱可塑性樹脂が、一般に強靭である利点を有しながらオートクレーブによる低圧成型が困難であるという二律背反した特性を示すため、これらを混合して用いることで物性と成形性のバランスをとることができるためである。混合して用いる場合は、成型体を硬化させてなるFRPの力学特性の観点から熱硬化性樹脂を50質量%より多く含むことが好ましい。
【0057】
<ポリマー粒子>
また、本発明では、無機粒子や有機粒子を塗液やマトリックス樹脂に含有させることができる。無機粒子は特に制限されないが、例えば、導電性、伝熱性、チクソトロピー性などを付与するために、カーボン系粒子や窒化ホウ素粒子、二酸化チタン粒子、二酸化珪素粒子などを好適に用いることができる。有機粒子も特に制限されないが、特に、ポリマー粒子を用いると、得られるFRPの靱性や耐衝撃性、制振性などを向上させることができ、好ましい。この時、ポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)または融点(Tm)はマトリックス樹脂温度よりも20℃以上高くすると、マトリックス樹脂中でポリマー粒子の形態を保持し易く、好ましい。ポリマー粒子のTgは温度変調DSCを用い、以下の条件で測定することができる。
【0058】
温度変調DSC装置としては、TA Instrments社製 Q1000などが好適であり、窒素雰囲気下、高純度インジウムで校正して用いることができる。測定条件は、昇温速度は2℃/分、温度変調条件は周期60秒、振幅1℃とすることができる。これで得られた全熱流から可逆成分を分離し、階段状シグナルの中点の温度をTgとすることができる。
【0059】
また、Tmは通常のDSCで昇温速度10℃/分で測定し、融解に相当するピーク状シグナルのピークトップ温度をTmとすることができる。
【0060】
また、ポリマー粒子としては、マトリックス樹脂に溶けないことが好ましく、このようなポリマー粒子としては、例えば、WO2009/142231パンフレット記載などを参照し、適切なものを用いることができる。より、具体的には、ポリアミドやポリイミドを好ましく用いることができ、優れた靭性のため耐衝撃性を大きく向上できる、ポリアミドは最も好ましい。
【0061】
ポリアミドとしてはポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド6、ポリアミド66やポリアミド6/12共重合体、特開平01-104624号公報の実施例1記載のエポキシ化合物にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたポリアミド(セミIPNポリアミド)などを好適に用いることができる。この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため、本発明の製造法では特に好ましい。
【0062】
また、球状であれば応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点でも好ましい態様である。
【0063】
ポリアミド粒子の市販品としては、SP-500、SP-10、TR-1、TR-2、842P-48、842P-80(以上、東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”1002D、2001UD、2001EXD、2002D、3202D、3501D,3502D、(以上、アルケマ(株)製)、“グリルアミド(登録商標)”TR90(エムザベルケ(株)社製)、“TROGAMID(登録商標)”CX7323、CX9701、CX9704、(デグサ(株)社製)等を使用することができる。これらのポリアミド粒子は、単独で使用しても複数を併用してもよい。
【0064】
また、FRPの耐熱性への要求が厳しくない時には、塗液のレオロジー特性を調整したりFRPの靭性や制振性を向上させる目的で、ポリウレタン系やゴム系、コアシェルゴム系などの粒子を用いることも可能である。
【0065】
FRPの強化繊維層間樹脂層を高靭性化するためには、ポリマー粒子を強化繊維層間樹脂層に留めておくことが好ましい。そのため、ポリマー粒子の数平均粒径は5~50μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは7~40μmの範囲、さらに好ましくは10~30μmの範囲である。数平均粒径を5μm以上とすることで、粒子が強化繊維の束の中に侵入せず、得られる繊維強化複合材料の強化繊維層間樹脂層に留まることができる。数平均粒径を50μm以下とすることで、マトリックス樹脂層の厚みを適正化し、ひいては得られるFRPにおいて、繊維質量含有率を適正化することができる。
【0066】
<塗液の粘弾性>
本発明で用いる塗液は、工程通過性・安定性の観点から最適な粘度を選択することが好ましい。具体的には、粘度を0.01~60Pa・sの範囲とすると、狭窄部出口での液垂れを抑制するとともに強化繊維シートの高速走行性、安定走行性を向上させることができ、好ましい。塗液粘度は2Pa・s以下とすると、強化繊維テープの走行速度を100m/分以上としても安定走行が可能であり、好ましい。塗液粘度は好ましくは0.9Pa・s以下である。
【0067】
ここで、前記粘度とは、液溜り部で測定した塗液温度での塗液粘度を言うものであり、より具体的には、平行円盤型やコーン型などの粘弾性測定装置を用い、歪み速度3.14s-1で測定した、前記液溜り部で測定した塗液温度での粘度のことである。また、前記損失弾性率とは、前記した粘度測定と同様に測定することができ、液溜り部での塗液温度、歪み速度3.14s-1での損失弾性率である。
【0068】
<鉛直方向下向きに強化繊維テープを走行させての塗布工程>
UD基材を例として、図1aを参照して塗布工程を説明すると、塗工装置100における塗液2を強化繊維テープ1aに付与する方法は、クリール11から巻き出された1本または複数本の強化繊維1を、配列装置12によって一方向(紙面奥行き方向)に配列して強化繊維テープ1aを得た後、強化繊維テープ1aの両面に塗液2を付与するものである。これにより、塗液含有強化繊維テープ1bを得ることができる。
【0069】
次に図2a~図4により、強化繊維テープ1aへの塗液2の付与工程(塗液が貯留された塗布部の内部に通過させる工程)について詳述する。図2aは、図1における塗布部20を拡大した詳細横断面図である。塗布部20は、所定の隙間Dを開けて対向する壁面部材21a、21bを備え、壁面部材21a、21bの間には、鉛直方向下向きZ(すなわち強化繊維テープの走行方向)に断面積が連続的に減少する液溜り部22(図2aでは断面積が連続的に減少する部分に該当)と、液溜り部22の下方(強化繊維シート1aの搬出側)に位置し、液溜り部22の上面(強化繊維テープ1aの導入側)の断面積よりも小さい断面積を有するスリット状の断面の狭窄部23が形成されている。図2aにおいて、強化繊維テープ1aは、紙面の奥行き方向に配列されている。すなわち、強化繊維テープの幅方向が紙面の奥行き方向に一致している。
【0070】
塗布部20において、液溜り部22に導入された強化繊維テープ1aは、その周囲の塗液2を随伴しながら、鉛直方向下向きZに走行する。その際、液溜り部22の断面積は鉛直方向下向きZ(強化繊維シート1aの走行方向)に向かって減少する(図2aでは断面積が連続的に減少する部分に該当)ため、随伴する塗液2は徐々に圧縮され、液溜り部22の下部に向かうにつれて塗液2の圧力が増大する。液溜り部22の下部の圧力が高くなると、前記随伴液流がそれ以上は下部に流動し難くなり、壁面部材21a、21b方向に流れ、その後、壁面部材21a、21bに阻まれ、上方へ流れるようになる。結果、液溜り部22内では強化繊維テープ1aの平面と、壁面部材21a、21b壁面に沿った循環流Tを形成する。これにより、仮に強化繊維テープ1aが毛羽を液溜り部22に持ち込んだとしても毛羽は循環流Tに沿って運動し、液圧の大きな液溜り部22下部や狭窄部23に近づくことができない。
【0071】
さらに下で述べるとおり、気泡が毛羽に付着することにより毛羽が循環流Tから上方に移動し、液溜り部22の上部液面付近を通過する。そのため、毛羽が液溜り部22の下部および狭窄部23に詰まることが防止されるだけでなく、滞留する毛羽は液溜り部22の上部液面から容易に回収することも可能となる。さらに、強化繊維テープ1aを高速で走行させた場合、前記の液圧はさらに増大するため、毛羽の排除効果がより高くなる。その結果、強化繊維テープ1aにより高速で塗液脂2を付与することが可能となり、生産性が大きく向上する。
【0072】
また、前記の増大した液圧により、塗液2が強化繊維テープ1aの内部に含浸しやすくなる効果がある。塗液2が強化繊維テープ1a内によく含浸されると、テープ表面樹脂量の少ない塗液含有強化繊維テープ1bを得ることができ、搬送時の表面樹脂の飛散や、搬送ロールに転写した樹脂が遠心力で飛散することを防ぐことができ、工程汚染や原料収率低下を抑制することができる。液圧による樹脂含浸は、強化繊維束のような多孔質体にマトリックス樹脂が含浸される際、その含浸度がマトリックス樹脂の圧力で増大する性質(ダルシーの法則)に基づく。これについても、強化繊維テープ1aをより高速で走行させた場合、液圧がより増大することから、含浸効果をより高めることができる。
【0073】
なお、塗液2は強化繊維テープ1aの内部に残留する気泡と気/液置換で含浸されるが、気泡は前記の液圧と浮力により強化繊維テープ1aの内部の隙間を通って、繊維の配向方向(鉛直方向上向き)に排出される。このとき、気泡は含浸してくる塗液2を押しのけずに排出されるため、含浸を阻害しない効果もある。また、気泡の一部は強化繊維テープ1aの表面から面外方向(法線方向)に排出されるが、この気泡も前記の液圧と浮力により速やかに鉛直方向上向きに排除されるため、含浸効果の高い液溜り部22の下部に留まらず、効率良く気泡の排出が進む効果もある。
【0074】
これらの効果により、強化繊維テープ1aに塗液2を効率良く含浸させることが可能となり、その結果、塗液2が均一に含浸された高品質の塗液含有強化繊維テープ1bを得ることが可能となる。
【0075】
また、この液圧は速度に比例して増加する。そのため、速度が大きいほど生産性が向上すると共に高い樹脂含浸効果も期待できる。FW装置での成型体の生産性も考慮し、100m/分以上での走行が好ましく、120m/分以上の走行がさらに好ましく、200m/分以上とするのが最も好ましい。なお、速度が大きくなると、剪断力が大きくなるため、塗布部から塗液含有強化繊維テープを引き取りに大きな力が必要となるため、走行速度は大きくても600m/分以下とすることが好ましい。
【0076】
さらに、前記の増大した液圧により、強化繊維テープ1aが隙間Dの中央に自動的に調心され、強化繊維テープ1aが液溜り部22や狭窄部23の壁面に直接擦過せず、ここでの毛羽発生を抑制する効果もある。これは、外乱などにより強化繊維テープ1aが隙間Dのどちらかに接近した場合、接近した側ではより狭い隙間に塗液2が押し込まれて圧縮されるため、接近した側で液圧がより増大し、強化繊維テープ1aを隙間Dの中央に押し戻すためである。
【0077】
狭窄部23は、液溜り部22の上面よりも断面積が小さく設計される。図2aから理解されるとおり専ら強化繊維シートによる疑似平面の垂線方向の長さが小さい、すなわち部材間の間隔が狭い、ことで断面積は小さくなる。これは、前記のように狭窄部で液圧を高くすることで、含浸や自動調心効果を得るためである。また、狭窄部23の最上部の面の断面形状は、液溜り部22の最下部の面の断面形状と一致させることが、強化繊維テープ1aの走行性や塗液2の流れ制御の観点から好ましいが、必要に応じ狭窄部23の方を若干大きくしてもよい。
【0078】
ここで、図2aの塗布部20では、強化繊維テープ1aが完全に鉛直方向下向きZ(水平面から90度)に走行しているが、これに限定されず、前記の毛羽回収、気泡の排出効果が得られ、強化繊維テープ1aが安定して連続走行可能な範囲で、実質的に鉛直方向下向きに通過させればよい。
【0079】
また、強化繊維テープ1aに付与される塗液2の総量は、狭窄部23の隙間Dで制御可能であり、例えば、強化繊維テープ1aに付与する塗液2の総量を多くしたい(目付けを大きくしたい)場合は、隙間Dが広くなるよう、壁面部材21a、21bを設置すればよい。
【0080】
また、後述の通り、塗布部20では、強化繊維テープ1aが実質的に水平方向および/または傾斜方向に通過させることが可能である。強化繊維テープ1aを鉛直下向き方向か、水平方向または傾斜方向に通過させるかは、例えば装置設置のスペースや前後の工程との関係によって決定できる。
【0081】
本発明では成型体の生産性と高速による樹脂含浸促進効果から100m/分以上とすることが好ましいが、前記のように狭い液溜り部22および狭窄部23を強化繊維テープ1aを通過させるときの大きな剪断により発熱が生じる。100m/分以上で、この発熱が液溜り部への樹脂温度に与える影響が顕著となる。
【0082】
連続走行により剪断発熱が続き、塗布部に貯留された塗液の温度が上昇しつづけると、樹脂の粘度が低下し、強化繊維テープ長手方向で塗布が変動し塗布量の不均一を招いたり、塗液の硬化反応が進み、樹脂の固化による詰まりで強化繊維テープが塗布部を通過できなくなったり、固化した樹脂が強化繊維テープの配列や表面形状を乱して品位品質不良を招くことがある。
【0083】
そのため本発明の成型体の製造方法およびFW装置では、塗布部に貯留された塗液温度T、壁面部材表面温度T’、供給樹脂温度T”としたときにT-1≧T’および/またはT-1≧T”となるように制御される必要がある。そのように温度を制御することで、剪断発熱による塗液温度上昇を抑制することができ、安定した塗布が可能となる。好ましくは塗布部に貯留された塗液温度T、壁面部材表面温度T’、供給樹脂温度T”としたときにT-3≧T’および/またはT-3≧T”であり、さらに好ましくは 塗布部に貯留された塗液温度T、壁面部材表面温度T’、供給樹脂温度T”としたときにT-5≧T’および/またはT-5≧T”である。
【0084】
塗布部に貯留された塗液温度は既記の循環流Tにより液溜り部において均一になるため、塗布部に貯留された塗液温度Tの測定カ所は特に限定されない。測定方法は特に限定されないが、塗工装置の外から放射温度計で測定したり、熱電対を塗工装置内部に設置し、塗液の温度を測定する方法などがある。また壁面部材とは図2aでは壁面部材21aおよび21bのことを指し、表面温度とは塗液2が接している面と反対側の面の温度のことを指す。壁面部材表面温度の測定方法は特に限定されないが、塗工装置の外から放射温度計で測定したりする方法がある。また樹脂供給温度とは後述する樹脂供給装置内の塗液温度のことを指す。
【0085】
塗布部に貯留された塗液温度T、壁面部材表面温度T’、供給樹脂温度T”としたときにT-1≧T’および/またはT-1≧T”となるように制御する手法は特に限定されない。塗布部に貯留された塗液温度を冷却する機構としては、例えば図2fのように壁面表面に冷却板28を設置して壁面を冷却したり、図2aの塗布部20の周囲の雰囲気温度を塗布部に貯留された塗液温度よりも低くなるように調整したり、後述する樹脂供給装置内の塗液温度を塗布部に貯留された塗液温度よりも低くなるように調整し、冷却した塗液を塗工装置内部に供給する方法がある。そのときに壁面部材温度は塗布部に貯留された塗液温度に連動して調整してもよい。
【0086】
<水平方向または傾斜方向に強化繊維テープを走行させての塗布工程>
図1bを参照して強化繊維テープ1aが水平方向または傾斜方向に走行する際のマトリックス樹脂の塗布工程を説明すると、塗工装置100における塗液2を強化繊維シート1aに付与する方法は、クリール11から巻き出された複数本の強化繊維1を、配列装置12によって一方向(紙面奥行き方向)に配列して強化繊維テープ1aを得た後、塗布部20に水平方向または傾斜方向に通過させて、強化繊維シート1bの両面に塗液2を付与するものである。
【0087】
ここで、水平方向とは図1bにおけるX方向のことを言うものであり、傾斜方向とは図1bにおけるX方向とZ方向の中間の方位を言うものである。また、図1bのように塗布部20に対し、水平に強化繊維シート1aを導入すると、強化繊維シート1aの走行経路が直線化され、強化繊維シート1aの厚みに起因する強化繊維シート1aの乱れが発生し難く、好ましい。このときには強化繊維シート1aの塗布部20への導入部において塗液2が漏れ出さない様なシール機構を有していることが好ましい。
【0088】
次に図2b~2gにより、強化繊維テープ1bが水平方向または傾斜方向に走行する際の炭素繊維テープへの塗液2の付与工程について詳述する。図2bは、図1bにおける塗布部20を拡大した詳細横断面図である。塗布部20は、所定の隙間Dを開けて対向する壁面部材21aおよび21bを備え、壁面部材は強化繊維テープ1b導入側および出口側に一体となっている。上面の壁面部材21a、下面の壁面部材21bの間には、断面積が連続的に減少する液溜り部22b(断面積が連続的に減少する部分)と、液溜り部22の出口側に位置し、液溜り部22の最大部よりも小さい断面積を有するスリット状の断面の狭窄部23が形成されている。
【0089】
塗布部20において、液溜り部22に導入された強化繊維テープは、その周囲の塗液2を随伴しながら、水平方向に走行する。その際、鉛直方向下向きに強化繊維テープを走行させるときと同様に、液溜り部22のうち、強化繊維テープの走行方向に向かって断面積が連続的に減少する領域22b(断面積が連続的に減少する部分)において、随伴される塗液2は徐々に圧縮され、液溜り部22の出口に向かうにつれて塗液2の圧力が増大する。
液溜り部22の出口近傍の圧力が高くなると、前記随伴液流がそれ以上は出口方向には流動し難くなり、強化繊維テープの垂線方向に流れ、その後、壁面部材21a、壁面部材21bに阻まれ、強化繊維テープの走行方向と逆方向へ流れるようになる。結果、液溜り部22内では強化繊維テープの平面と、壁面部材21a、壁面部材21b壁面に沿った循環流Tを形成する。
【0090】
これにより、仮に強化繊維テープが毛羽を液溜り部22に持ち込んだとしても毛羽は循環流Tに沿って運動し、液圧の高い液溜り部22出口近傍や狭窄部23に近づくことができない。強化繊維テープの走行速度を大きくした場合、前記の液圧はさらに増大するため、毛羽が出口近傍や狭窄部23に近づくことができない効果がより高くなり、生産性が大きく向上する。
【0091】
また、鉛直方向下向きに強化繊維テープを走行させる時と同様に、前記の増大した液圧により、塗液2が強化繊維テープの内部に含浸しやすくなる効果がある。塗液2が強化繊維テープ1a内によく含浸されると、テープ表面樹脂量の少ない塗液含有強化繊維テープ1bを得ることができ、搬送時の表面樹脂の飛散や、搬送ロールに転写した樹脂が遠心力で飛散することを防ぐことができ、工程汚染や原料収率低下を抑制することができる。
【0092】
液圧による樹脂含浸は、炭素繊維束のような多孔質体にマトリックス樹脂が含浸される際、その含浸度がマトリックス樹脂の圧力で増大する性質(ダルシーの法則)に基づく。これについても、強化繊維テープ1bをより高速で走行させた場合、液圧がより増大することから、含浸効果をより高めることができる。
【0093】
また、この液圧は速度に比例して増加する。そのため、速度が大きいほど生産性が向上すると共に高い樹脂含浸効果も期待できる。FW装置での成型体の生産性も考慮し、100m/分以上での走行が好ましく、120m/分以上の走行がさらに好ましく、200m/分以上とするのが最も好ましい。なお、速度が大きくなると、剪断力が大きくなるため、塗布部から塗液含有強化繊維テープを引き取りに大きな力が必要となるため、走行速度は大きくても600m/分以下とすることが好ましい。
【0094】
なお、塗液2は強化繊維テープの内部に残留する気泡と気/液置換で含浸されるが、気泡は前記循環流Tと浮力により、断面積が減少しない領域22aと断面積が連続的に減少する領域22bの境界近傍に多く集まるようになる。このため、この近傍に、塗液2から気泡を脱気するための脱気機構56を設置することが好ましい。
【0095】
さらに、鉛直方向下向きに強化繊維テープを走行させる時と同様に、前記の増大した液圧により、強化繊維テープが隙間Dの中央に自動的に調心され、強化繊維テープが液溜り部22や狭窄部23の壁面に直接擦過せず、ここでの毛羽発生を抑制する効果もある。これは、外乱などにより強化繊維テープが隙間Dのどちらかに接近した場合、接近した側ではより狭い隙間に塗液2が押し込まれて圧縮されるため、接近した側で液圧がより増大し、強化繊維テープを隙間Dの中央に押し戻すためである。
【0096】
狭窄部23は、液溜り部22の最大部よりも断面積が小さく設計される。図2bから理解されるとおり専ら強化繊維テープによる疑似平面の垂線方向の長さが小さい、すなわち部材間の間隔が狭い、ことで断面積は小さくなる。これは、前記のように狭窄部23で液圧を高くすることで、含浸や自動調心効果を得るためである。また、狭窄部23の入口部の断面形状は、これと接する液溜り部22の面の断面形状と一致させることが、強化繊維テープ1bの走行性や塗液2の流れ制御の観点から好ましいが、必要に応じ狭窄部23の方を若干大きくしてもよい。
【0097】
ここで、図2bの塗布部20内では、強化繊維テープが完全に水平方向に走行しているが、これに限定されず、前記の毛羽回収、気泡の排出効果が得られ、炭素繊維シート1aが安定して連続走行可能な範囲で、塗布部20内で傾斜方向に走行してもよい。また、塗布部20を傾斜させることも可能である。
【0098】
また、強化繊維テープに付与される塗液2の総量は、鉛直方向下向きに強化繊維テープを走行させる時と同様に、狭窄部23の隙間Dで制御可能であり、例えば、炭素繊維シート1aに付与する塗液2の総量を多くしたい(目付けを大きくしたい)場合は、隙間Dが広くなるよう調整すればよい。
【0099】
本発明では成型体の生産性と高速による樹脂含浸促進効果から100m/分以上とすることが好ましいが、前記のように狭い液溜り部22bおよび狭窄部23を強化繊維テープ1aを通過させるときの大きな剪断により発熱が生じる。100m/分以上で影響が生じ、120m/分以上でこの発熱が塗布部の塗液温度に与える影響が顕著となる。
【0100】
連続走行により剪断発熱が続き、塗布部に貯留された塗液温度が上昇しつづけると、樹脂の粘度が低下し、強化繊維テープ長手方向で塗布が変動し塗布量の不均一を招いたり、塗液の硬化反応が進み、樹脂の固化による詰まりで強化繊維テープが塗布部を通過できなくなったり、固化した樹脂が強化繊維テープの配列や表面形状を乱して品位品質不良を招くことがある。
【0101】
そのため本発明の成型体の製造方法およびFW装置では、塗布部に貯留された塗液温度T、壁面部材表面温度T’、供給樹脂温度T”としたときにT-1≧T’および/またはT-1≧T”となるように制御される必要がある。そのように温度を制御することで、剪断発熱による塗液温度上昇を抑制することができ、安定した塗布が可能となる。好ましくは 塗布部に貯留された塗液温度T、壁面部材表面温度T’、供給樹脂温度T”としたときにT-3≧T’および/またはT-3≧T”であり、さらに好ましくは塗布部に貯留された塗液温度T、壁面部材表面温度T’、供給樹脂温度T”としたときにT-5≧T’および/またはT-5≧T”である。
【0102】
塗布部に貯留された塗液温度は既記の循環流Tにより液溜り部において均一になるため、液溜り部内樹脂温度Tの測定カ所は特に限定されない。測定方法は特に限定されないが、塗工装置の外から放射温度計で測定したり、熱電対を塗工装置内部に設置し、塗液温度を測定する方法などがある。また壁面部材とは図2bでは壁面部材21aおよび21bのことを指し、表面温度とは塗液2が接している面と反対側の面の温度のことを指す。壁面部材表面温度の測定方法は特に限定されないが、塗工装置の外から放射温度計で測定したりする方法がある。また樹脂供給温度とは後述する樹脂供給装置内の塗液温度のことを指す。
【0103】
塗布部に貯留された塗液温度T、壁面部材表面温度T’、供給樹脂温度T”としたときにT-1≧T’および/またはT-1≧T”となるように制御する手法は特に限定されない。塗布部に貯留された塗液温度を冷却する機構としては、例えば図2gのように壁面表面に冷却板28を設置して壁面を冷却したり、図2bの塗布部20の周囲の雰囲気温度を塗布部に貯留された塗液温度よりも低くなるように調整したり、後述する樹脂供給装置内の塗液温度を塗布部に貯留された塗液温度よりも低くなるように調整し、冷却した塗液を塗工装置内部に供給する方法がある。そのときに壁面部材温度は塗布部に貯留された塗液温度に連動して調整してもよい。
【0104】
図2bでは強化繊維テープ1枚を水平方向から塗布部に導入する場合を図示しているが、強化繊維テープの塗布部への導入はこれに限らず、必要に応じ、強化繊維テープを複数枚としてもよいし、導入方向も傾斜方向としてもよい。これを図2c~2eを用いて説明する。
【0105】
図2cには、1枚の強化繊維テープ1aが上から斜め下方向に走行し、開口部60から塗布部20に導入されている。そして、強化繊維テープ1aは方向転換部材61で走行方向を水平方向に変えられ、狭窄部23より引出されている。
【0106】
ここで、方向転換部材61は、少なくとも強化繊維テープ1aが接する面は曲面で構成されていることが好ましい。また、強化繊維テープ1aの巻き付きを防止する観点からは、方向転換部材61は固定されていることが好ましい。これらより、方向転換部61は曲面を有する固定バーであることが好ましく、その断面形状は円形、楕円形、鞍型などを例示することができる。
【0107】
また、方向転換部材61と強化繊維テープ1aが接する部分は曲面と平面が混在していてもよいが、強化繊維テープ1aの接地開始部と終了部が曲面であると、毛羽の発生を抑制でき、好ましい。さらに、特に走行速度を高速化する場合には、強化繊維テープ1aと方向転換部材61との擦過を抑制する観点からは、回転可能なローラーとすることも可能である。
【0108】
また、方向転換部材61には強化繊維テープ1aが押し付けられるため、強化繊維テープ1a内の気体と塗液2の置換により含浸が行われる場合もある。特に図2eに示すように、複数本の方向転換部材61に角度を付けて当接させることにより、より効率的に含浸を進めることができる。
【0109】
また、方向転換部材61の設置位置は、循環流Tの流れを阻害しない観点から、断面積が減少しない領域22aと断面積が連続的に減少する領域22bの境界位置から1cm以上、断面積が減少しない領域22a側とすることが好ましい。
【0110】
図2dには、2枚の強化繊維テープ1aが上から斜め下方向に走行し、開口部60から塗布部20に導入されている。そして、2枚の強化繊維テープ1aはそれぞれ方向転換部材61で走行方向を水平方向に変えられ、2枚が積層された後、狭窄部23より引出されている。この時、2枚の強化繊維テープ1aの間に塗液2を含有して積層されるため、断面積が連続的に減少する領域22bや狭窄部23において、より含浸が進み易くなり、好ましい。
【0111】
図2eには、2枚の強化繊維テープ1aが上から斜め下方向に走行し、開口部60から塗布部20に導入されている。そして、2枚の強化繊維テープ1aはそれぞれ複数の方向転換部材61を通過する間に含浸が進められ、最終的に2枚が積層された後、狭窄部23より引出されている。この時、含浸を進めるための方向転換部材61の形状や個数を目的に応じ、種々選択することが可能である。また、方向転換部材61と強化繊維テープ1aの接触長や接触部両端と方向転換部材61の中心部が成す角度(wrap angle)も目的に応じ選択することができる。
【0112】
図2d、2eには強化繊維テープ1aが2枚の例を示したが、もちろん3枚以上の任意の枚数とすることができる。
【0113】
図3は、塗布部20を、図2aのAの方向から見た下面図である。塗布部20には、強化繊維テープ1aの配列方向両端から塗液2が漏れるのを防ぐための側壁部材24a、24bが設けられており、壁面部材21a、21bと側壁部材24a、24bに囲われた空間に狭窄部23の出口25が形成されている。ここで、出口25はスリット状の断面をしており、断面アスペクト比(図3のU/D)は塗液2を付与したい強化繊維テープ1aの形状に合わせて設定すればよい。
【0114】
図4aは塗布部20を、Bの方向から見た場合の塗布部内部の構造を説明する断面図である。なお、図を見やすくするため壁面部材21bは省略してあるほか、強化繊維テープ1aは強化繊維1を、隙間を開けて配列しているように描画しているが、実際には強化繊維1を隙間無く配列することが、プリプレグテープ(塗液含有強化繊維テープの一態様)の品位、また、それを成形したFRPの力学特性の観点から好ましい。
【0115】
図4bは隙間26での塗液2の流れを示している。隙間26が大きいと塗液2には、Rの向きに渦流れが発生する。この渦流れRは、液溜り部22の下部では外側に向かう流れ(Ra)となるため、強化繊維テープを引き裂いてしまう(割れが発生する)場合や強化繊維間の間隔を拡げてしまい、そのために塗液含有強化繊維テープとしたときに強化繊維の配列ムラを発生する可能性がある。一方、液溜り部22の上部では、内側に向かう流れ(Rb)となるため、強化繊維テープ1aが幅方向に圧縮され、その端部が折れてしまう場合がある。例えば参考文献1(特許第3252278号公報)に代表されるような、一体物のシート状基材(特にフィルム)に塗液を両面塗布する装置ではこのような隙間26での渦流れが発生しても品質への影響が少ないため、注意がされていなかった。
【0116】
そこで、本発明においては、隙間26を小さくする幅規制を行い、端部での渦流れの発生を抑制することが好ましい。具体的には、液溜り部22の幅L(mm)、すなわち、側板部材24aと24bの間隔L(mm)(液溜り部を形成する側板部材によって規制される強化繊維テープのテープ幅方向における液溜り部の下部の幅)は、狭窄部23の直下で測定した強化繊維テープの幅W(mm)(狭窄部の直下における強化繊維テープ)と以下の関係を満たすよう構成することが好ましい。
L≦1.1×W。
【0117】
これにより、端部での渦流れ発生が抑制され、強化繊維テープ1aの割れや端部折れを抑制でき、塗液含有強化繊維テープ1bの全幅(W)にわたって均一に強化繊維1が配列された、高品位で安定性の高い塗液含有強化繊維テープ1bを得ることができる。さらに、この技術をプリプレグテープに適用した場合には、プリプレグテープの品位、品質を向上させるのみならず、これを用いて得られるFRPの力学特性や品質を向上させることができる。
【0118】
また、Lの下限は、0.9×W以上となるよう調整することが、好ましい。このように、側板部材24aと24bの間隔Lを制御することは、塗液含有強化繊維テープ1bの幅方向の寸法精度を向上させる観点からも好ましい。
【0119】
なお、この幅規制は、液溜り部22下部の高い液圧による渦流れR発生を抑制する観点から、少なくとも液溜り部22の下部(図4aのGの位置)で行うことが好ましい。さらに、この幅規制はより好ましくは、液溜り部22の全域で行うと、渦流れRの発生をほぼ完全に抑制することができ、その結果、強化繊維テープの割れや端部折れをほぼ完全に抑制することが可能となる。
【0120】
また、前記幅規制は、前記隙間26の渦流れ抑制の観点からは、液溜り部22だけでもよいが、狭窄部23も同様に行うと塗液含有強化繊維テープ1bの側面に過剰な塗液2が付与されることを抑制する観点から好ましい。
【0121】
<幅規制機構>
前記では幅規制を側壁部材24a、24bが担う場合を示したが、図5aに示すように、側壁部材24a、24b間に幅規制機構27a、27bを設け、かかる機構で幅規制を行うこともできる。これにより、幅規制機構によって規制される幅を自在に変更可能とすることで一つの塗布部により、種々の幅の塗液含有強化繊維テープを製造できる観点から好ましい。ここで、狭窄部の直下における強化繊維テープの幅W(mm)と該幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅L2(mm)との関係はL2≦1.1×Wとすることが好ましい。また、L2の下限は、0.9×W以上となるよう調整することができる。このように、幅規制機構により規制される幅L2を制御することは、塗液含有強化繊維テープ1bの幅方向の寸法精度を向上させる観点からも好ましい。
【0122】
幅規制機構の形状および材質に特に制限は無いが、板形状のブッシュであると簡便であり、好ましい。また、上部、すなわち液面に近い場所では壁面部材21a、21bとの間隔よりも小さい幅(図5a参照。「Z方向からみた図」中、幅規制機構の上下方向の長さを指す)を有することで、塗液の水平方向の流れを妨げないようにでき、好ましい。一方、幅規制機構の中間部から下部にかけては塗布部の内部形状に沿った形状(つまり、中間部から下部にかけて塗布部の内部形状に沿った板形状のブッシュ)とすることが液溜り部での塗液の滞留を抑制でき、塗液の劣化を抑制できることから好ましい。この意味から、幅規制機構は狭窄部23まで挿入されることが好ましい。
【0123】
図5aは、幅規制機構として板形状ブッシュの例を示しているが、ブッシュの中間より下部が液溜り部22のテーパー形状に沿い、狭窄部23まで挿入される例を示している。図5aにはL2が液面から出口まで一定の例を示しているが、幅規制機構の目的を達成する範囲で部位によって規制する幅を変更してもよい。幅規制機構は任意の方法で塗布部20に固定することができるが、板形状ブッシュの場合には、上下方向で複数の部位で固定することで、高液圧による板形状ブッシュの変形による規制幅の変動を抑制することができる。例えば、上部はステーを用い、下部は塗布部に差し込むようにすると、幅規制機構による幅の規制が容易であり、好ましい。
【0124】
<塗液含有強化繊維テープの幅精度>
前記したように、本発明では、塗布工程で種々の幅規制により強化繊維テープの走行安定性を向上可能であるが、同様にこれにより塗液含有強化繊維テープの幅精度を向上することもできる。より具体的には、塗液含有強化繊維テープ幅の変動係数(CV)は5%以下とする。
【0125】
なお、テープ幅の変動係数(CV)は以下のようにして求めることができる。まず、塗液含有強化繊維テープの幅(W)を、テープ長手方向に30点以上計測する。幅計測方法としては、得られた塗液含有強化繊維テープをオフラインでノギスなどを用いて離散的に計測しても良いし、塗布部下方でのテープ走行を動画撮影し、この中でテープ幅をノギスなどで計測することもできる。この時も離散的に計測となる。離散的に計測する場合には、測定点間距離はテープ長手方向に30cm以上離すものとする。また、光学式などの幅測定器を塗布部下方に設置し連続的に幅計測を行ってもよい。幅測定器としては、たとえばキーエンス社製LS-7030などを例示することができる。連続的に計測する場合には、テープ長手方向に10m以上計測し、30点以上のデータ(W)を取得する。そしてこれらの計測値(W)からテープ幅の平均値(W)、標準偏差(σ)を求め、(I)式より幅変動係数(CV)を求めることができる。
【0126】
CV(%)=(σ/W)×100(%)・・・(I)。
【0127】
参考文献2(特開平1-178412号公報)のようなキスロールを用いる方法では、塗液を付与するロール上で強化繊維テープに幅規制が無いため、塗液のしみ込みにより強化繊維が幅方向に移動し易く、本質的に幅が変動し易いと考えられる。実際、参考文献1ではキスロールによる樹脂塗布後に幅規制ロールを作用させており、これは塗布部であるキスロール上での幅精度が不十分であることを示していると考えられる。一方、本発明では、前記したように液溜り部の幅Lを制御したり、幅規制機構を付加することで、塗布部でテープ幅を制御できるため、このような高度なテープ幅精度が得られるのである。参考文献1のようにマトリックス樹脂付与後に幅規制を行うと、幅規制部で余分なマトリックス樹脂が付着し、工程を不安定化したり清掃周期が短くなるなどの問題が発生する可能性が予測される。これに比べ、本発明のように塗布部で幅規制を行うと、幅規制後に付与する塗液(マトリックス樹脂など)の計量が行えるため、余分な塗液が工程下流を汚す可能性が低いこともメリットである。
【0128】
<塗布直後冷却>
図5bに示すように、塗布工程に連続して冷却工程をおいて塗液含有強化繊維テープを冷却することも可能である。ここで、塗布工程と冷却工程が連続するとは、塗布工程を行う装置と冷却工程を行う装置との間に搬送ロール14などのその他の装置類を存在させないで各工程を行うことをいう。塗布直後にて塗液含有強化繊維テープを冷却することで、強化繊維テープに含浸された樹脂の粘度を大きくし、強化繊維テープ中の樹脂流動を抑制することで幅精度が良好な状態を維持することが可能である。塗布部20と冷却装置62間の距離は特に限定されないが、近いほど効果が高く、好ましくは500mm以下である。冷却装置の形態は特に限定されないが、例えば、液溜まり部の塗液よりも低い温度の空気を塗液含有強化繊維テープに当てる方法などがあげられる。
【0129】
<液溜り部の形状>
前記で詳述したように、本発明においては、液溜り部22で液溜り部は強化繊維テープの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有することで、強化繊維テープの走行方向に液圧を増大させることが重要であるが、ここで強化繊維テープの走行方向に断面積が連続的に減少するとは、走行方向に連続的に液圧を増大可能であれば、その形状には特に制限は無い。液溜り部の横断面図において、テーパー状(直線状)であったり、ラッパ状などのように曲線的な形態を示してもよい。また、断面積減少部は液溜り部全長にわたって連続してもよいし、本発明の目的、効果が得られる範囲であれば、一部に断面積が減少しない部分や逆に拡大する部分を含んでいてもよい。これらについて、以下に図6~9で例を挙げて詳述する。
【0130】
図6は、図2とは別の実施形態の塗布部20bの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21c、21dの形状が異なる以外は、図2の塗布部20と同じである。図6の塗布部20bのように、液溜り部22が、鉛直方向下向きZに断面積が連続的に減少する領域22aと、断面積が減少しない領域22bに分かれていてもよい。このとき、液溜り部における断面積が連続的に減少する部分の長さHは10mm以上であることが好ましい。さらに好ましい断面積が連続的に減少する部分の長さHは50mm以上である。
【0131】
これにより、強化繊維テープ1aによって随伴された塗液2が、液溜まり部22の断面積が連続的に減少する領域22aで圧縮される距離が確保され、液溜り部22の下部で発生する液圧を十分に増大させることができる。その結果、液圧により毛羽が狭窄部23に詰まるのを防止し、また液圧により塗液2が強化繊維テープ1aに含浸する効果を得ることができる。一方、装置が大型化することによる取扱性を考慮するとHは2000mm以下であることが好ましい。
【0132】
ここで、図2の塗布部20や図6の塗布部20bのように、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aをテーパー状とする場合、テーパーの開き角度θは小さい方が好ましく、具体的には鋭角(90°以下)にすることが好ましい。これにより、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22a(テーパー部)で塗液2の圧縮効果を高め、高い液圧を得やすくすることができる。
【0133】
図7は、図6とは別の実施形態の塗布部20cの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21e、21fの形状が2段テーパー状となっている以外は、図6の塗布部20bと同じである。このように、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aを2段以上の多段テーパー部で構成してもよい。このとき、狭窄部23に最も近いテーパー部の開き角度θを鋭角にするのが、前記の圧縮効果を高める観点から好ましい。またこの場合も、液溜り部22の断面積が連続的に減少する部分の長さ(領域22a)Hを10mm以上にすることが好ましい。さらに好ましい液溜り部における断面積が連続的に減少する部分の長さHは50mm以上である。装置が大型化することによる取扱性を考慮するとHは2000mm以下であることが好ましい。
【0134】
図7のように液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aを多段のテーパー部にすることで、液溜り部22に貯留できる塗液2の体積を維持しつつ、狭窄部23に最も近いテーパー部の角度θをより小さくすることができる。これにより液溜り部22の下部で発生する液圧がより高くなり、毛羽の排除効果や塗液2の含浸効果をさらに高めることが可能となる。
【0135】
図8は、図6とは別の実施形態の塗布部20dの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21g、21hの形状が階段状となっている以外は、図6の塗布部20bと同じである。このように、液溜り部22の最下部に断面積が連続的に減少する領域22aがあれば、本発明の目的である液圧の増大効果は得られるため、液溜り部22の他の部分に断面積が断続的に減少する領域22cを含んでいてもよい。液溜り部22を図8のような形状にすることで、断面積が連続的に減少する領域22aの形状を維持しつつ、液溜り部22の奥行きBを拡大して貯留できる塗液2の体積を大きくすることができる。その結果、塗布部20dに塗液2を連続して供給できない場合でも、長時間、強化繊維テープ1aに塗液2を付与し続けることが可能となり、塗液含有強化繊維テープ1bの生産性がより向上する。
【0136】
図9は、図6とは別の実施形態の塗布部20eの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21i、21jの形状がラッパ状(曲線状)となっている以外は、図6の塗布部20bと同じである。図6の塗布部20bでは、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aはテーパー状(直線状)だが、これに限定されず、例えば図9のようにラッパ状(曲線状)でもよい。ただし、液溜り部22の下部と、狭窄部23の上部は滑らかに接続することが好ましい。これは、液溜り部22の下部と、狭窄部23の上部の境界に段差があると、強化繊維シート1aが段差に引っ掛かり、この部分で毛羽が発生する懸念があるためである。また、このように液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域をラッパ状とする場合は、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aの最下部における仮想接線の開き角度θを鋭角にするのが好ましい。
【0137】
なお、上記は滑らかに断面積が減少する例をあげて説明したが、本発明の目的を損なわない限り、本発明において液溜まり部の断面積は必ずしも滑らかに減少しなくともよい。
【0138】
図10は本発明とは別の実施形態の塗布部30の詳細横断面図である。本発明の実施形態とは異なり、図10の液溜り部32は鉛直方向下向きZに断面積が連続的に減少する領域を含まず、狭窄部23との境界33で断面積が不連続で急激に減少する構成である。このため、強化繊維テープ1aが詰まり易い。
【0139】
また、塗布部内で強化繊維テープを複数本のバーに接触させることで含浸効果を向上させることも可能である。図11にバー(35a、35bおよび35c)を3本用いた例を示しているが、バーは本数が大きいほど、強化繊維テープとバーの接触長が長いほど、接触角が大きいほど、含浸率を向上させることができる。図11の例では含浸率を90%以上とすることが可能である。なお、係る含浸効果の向上手段は複数種を組み合わせて用いても良い。
【0140】
<走行機構>
強化繊維テープや塗液含有強化繊維テープを搬送するための走行機構としては、公知のローラー等を好適に用いることができる。本発明では強化繊維テープが鉛直下向きに搬送されるため、塗布部を挟んで上下にローラーを配置することが好ましい。
【0141】
また、本発明では、強化繊維の配列乱れや毛羽立ちを抑制するため、強化繊維テープの走行経路はなるべく直線状であることが好ましい。また、塗液含有強化繊維テープは離型テープとの積層体であるシート状一体物とすることが多いが、これの搬送工程において、屈曲部を有すると、内層と外層の周長差による皺が発生する場合が有るため、シート状一体物の走行経路もなるべく直線状であることが好ましい。この観点からは、シート状一体物の走行経路中では、ニップロールを用いる方が好ましい。
【0142】
S字ロールとニップロールのどちらを用いるかは、製造条件や製造物の特性に応じ、適宜選択することが可能である。
【0143】
<高張力引き取り装置>
本発明では、塗布部から塗液含有強化繊維テープを引き出すための高張力引き取り装置を塗布部より工程下流に配置することができる。これは、塗布部で、強化繊維テープと塗液の間で高い摩擦力、せん断応力が発生するため、それに打ち勝って塗液含有強化繊維テープを引き出すためには、工程下流で高い引き取り張力を発生させることが好ましいためである。高張力引き取り装置としては、ニップロールやS字ロールなどを用いることができるが、いずれもロールと塗液含有強化繊維テープの間の摩擦力を高めることで、スリップを防止し、安定した走行を可能とすることができる。このためには、摩擦係数の高い材料をロール表面に配したり、ニップ圧力やS字ロールへの塗液含有強化繊維テープの押し付け圧を高くすることが好ましい。スリップを防止する観点からは、S字ロールの方がロール径や接触長などで容易に摩擦力を制御でき、好ましい。
【0144】
<離型テープ供給装置>
本発明を用いての塗液含有強化繊維テープやFRPの製造においては適宜、離型テープ供給装置を用いることができ、そのようなものとしては公知のものを使用することができるが、巻き出し張力を巻き出し速度にフィードバックできる機構を備えていることが離型テープの安定走行の観点から好ましい。
【0145】
<塗液含有強化繊維テープの樹脂含浸度>
塗液含有強化繊維テープ1bがFW装置15aに巻き取られる前のマトリックス樹脂の含浸率は90%以上であることが望ましい。マトリックス樹脂の含浸の様子は、工程中より採取した塗液含有強化繊維テープ1bを裂き、内部を目視することで含浸の有無を確認することができ、より定量的には例えば剥離法で評価することが可能である。剥離法によるマトリックス樹脂の含浸率は以下のようにして測定することができる。すなわち、採取した塗液含有強化繊維テープ1bを粘着テープで挟み、これを剥離し、マトリックス樹脂が付着した強化繊維とマトリックス樹脂が付着していない強化繊維を分離する。そして、投入した強化繊維テープ全体の質量に対するマトリックス樹脂が付着した強化繊維の質量の比率を剥離法によるマトリックス樹脂の含浸率とすることができる。また、含浸度が高い塗液含有強化繊維テープ1bでは、毛細管現象による吸水率により含浸度を評価することもできる。具体的には、特表2016-510077号公報に記載の方法にならい、塗液含有強化繊維テープ1bの下端5mmを水に5分間浸漬した時の質量変化から計算することができる。
【0146】
<多ライン化>
同時に2枚以上の複数の塗液含有強化繊維テープを準備し、前述のFW装置内の1つのアイクチ案内部に誘導させ成型体を製造すると、生産性が向上し好ましい。図14には一例として、塗布部を5つ並列方向に連結した例を示している。この時、5枚の強化繊維テープ416は、それぞれ独立した5つの強化繊維予熱装置420、塗布部430を通過し、5枚の塗液含有強化繊維テープ471が得られるようにしてもよいし、強化繊維予熱装置420、塗布部430は並列方向に一体化されていてもよい。この場合には、塗布部430中で幅規制機構、塗布部出口幅を独立に5つ備えればよい。
【0147】
また、図15記載のように、広幅の塗布部の入り口を所望のテープ幅が得られるように仕切り、幅を調整した塗布部に通すこともできる。このように塗布部に2枚以上の強化繊維テープを通過させると、1つの塗布装置で複数の塗液含有強化繊維シートを準備できるため、生産性のみならず、装置をコンパクト化にでき装置の取り扱い性も向上するため好ましい。さらに、図16、17記載のように塗布部を水平方向や鉛直方向にずらして配置することも可能である。
【0148】
<塗液供給機構>
本発明において塗布部内に塗液は貯留されているが、塗工が進行するので塗液を適宜補給することが好ましい。塗液を塗布部に供給する機構には特に制限は無く、公知の装置を使用することができる。塗液は連続的に塗布部に供給することが、塗布部の上部液面を乱さず、強化繊維テープの走行を安定化でき、好ましい。例えば、塗液を貯留する槽から自重を駆動力として供給したり、ポンプなどを用いて連続的に供給することができる。ポンプとしては、ギヤポンプやチューブポンプ、圧力ポンプなど塗液脂の性質に応じ適宜使用することができる。また、塗液が室温で固体の場合には、貯留層上部にメルターを備えておくことが好ましい。また、連続押し出し機などを用いることもできる。また、塗液供給量は塗液の塗布部上部の液面がなるべく一定となるよう、塗布量に応じ連続供給できる機構を備えることが好ましい。このためには、例えば液面高さや塗布部質量などをモニタリングし、それを供給装置にフィードバックするような機構が考えられる。
【0149】
<オンラインモニタリング>
また、塗布量のモニタリングのために、塗布量をオンラインモニタリングできる機構を備えることが好ましい。オンラインモニタリング方法についても特に制限は無く、公知のものを使用可能である。例えば、厚みを計測する装置として、例えばベータ線計などを用いることができる。この場合は、強化繊維テープ厚みと塗液含有強化繊維シートの厚みを計測し、その差分を解析することで塗布量を見積もることが可能である。
【0150】
オンラインモニタリングされた塗布量は、直ぐに塗布部にフィードバックされ、塗布部の温度や狭窄部23の隙間D(図2参照)の調整に利用することができる。塗布量モニタリングは、もちろん欠点モニタリングとしても使用可能である。厚み計測位置としては、例えば図12図13で言えば、方向転換ロール419近傍で強化繊維シート416の厚みを計測し、塗布部430から方向転換ロール441の間でプリプレグの厚みを計測することができる。また、赤外線、近赤外線、カメラ(画像解析)などを用いたオンライン欠点モニタリングを行うことも好ましい。
【0151】
以下、本発明の具体例を更に詳細に説明する。
【0152】
図12は本発明を用いた成型体の製造工程・装置の例の概略図である。複数個の強化繊維ボビン412はクリール411に掛けられているが、クリールに付与されたブレーキ機構により一定張力で強化繊維束414を引き出すことができる。ここで強化繊維を一定張力で引き出すことで、強化繊維テープの幅精度を向上することができる。そして、強化繊維を引き出す際の張力制御装置としては、スピンドル部分に電磁式ブレーキ機構を備えたクリールを用いることが、幅精度向上、装置全体をコンパクト化する観点から好ましい。
【0153】
引き出された複数本の強化繊維束414は強化繊維配列装置415により整然と配列され、強化繊維テープ416が形成される。強化繊維テープとして強化繊維束1糸条を用いる場合には、強化繊維配列装置414を用いないこともできる。なお、図12では強化繊維束は3糸条しか描画されていないが、実際には、1糸条~数百糸条とすることができる。その後、拡幅装置417、平滑化装置418を経て、方向転換ロール419を経て、鉛直下向きに搬送される。図12では、強化繊維配列装置415~方向転換ロール419まで強化繊維テープ416は装置間を直線状に搬送される。
【0154】
なお、拡幅装置417、平滑化装置418は、目的に応じ、適宜スキップすることもできるし、装置を配置しないこともできる。また、強化繊維配列装置415、拡幅装置417、平滑化装置418の配列順序は目的に応じ適宜変更することもできる。
【0155】
強化繊維テープ416は方向転換ロール419から鉛直下向きに走行し、強化繊維予熱装置420、塗布部430を経て方向転換ロール441に到達する。強化繊維テープを複数同時に製造する場合には、図14に示したように強化繊維テープと塗布部を1対1対応させてもよいし、図15のように広幅の塗布部の内部を仕切り、そこに強化繊維テープをそれぞれ通してもよい。また、複数の塗布部は図14のように並列させることもできるし、図16のように千鳥配置とすることもできる。また、図17のように上下に千鳥配置させることも可能である。
【0156】
さらに、塗布部430は本発明の目的を達成する範囲で任意の塗布部形状を採用することができる。例えば、図2a、図6図9のような形状が挙げられる。また、必要に応じ図5aのようにブッシュを備えることもできる。さらに、図11のように、塗布部内にバーを備えることもできる。
【0157】
図12では、樹脂フィルム供給装置442から巻き出された樹脂フィルム443を方向転換ロール441上で塗液含有強化繊維テープ471の片面に積層し、更に引き続いて塗液含有強化繊維テープ471の別の片面に樹脂フィルムを積層することができる。ここで、樹脂フィルムは離型テープとの積層体であり、樹脂面を塗液含有強化繊維テープ表面に密着させることが好ましい。離型テープには離型紙や離型フィルムなどを用いることができる。樹脂フィルムや離型テープは必要に応じ付与すればよく、場合によっては、これらに関わる装置は省略可能である。これを高張力引取り装置444で引き取ることができる。
【0158】
また、塗布直後には図5bに示すように冷却装置を備えてもよい。図12では高張力引き取り装置444としてニップロールを描画している。なお、塗液が低粘度の場合や塗液含有強化繊維テープのライン数が少ない時には、高張力引取装置は省略可能である。その後、シート状一体物は熱板451と加熱ニップロール452を備えた追含浸装置450を経て、冷却装置461で冷却された後、引き取り装置462で引き取られ、上下側の離型テープ446を剥がした後、FW装置464でアイクチ案内部472を通りライナーに巻きつけ成型体473を得ることができる。
【0159】
追含浸も必要に応じて施せばよく、場合によっては、追含浸機や冷却装置は省略可能である。方向転換ロール441からFW装置464まで塗液含有強化繊維テープ471は基本直線状に搬送されるため、皺の発生を抑制することができる。なお、図12では、マトリックス樹脂供給装置、オンラインモニタリング装置の描画は省略してある。
【0160】
図12では鉛直方向に強化繊維テープを走行させて、塗布部430で塗布した例を示したが、図13のように塗布部430を図1b、図2b~2eの様式とすることで、図12と同様に強化繊維テープを水平方向または傾斜方向に走行し、塗布することが可能である。図18に表された態様においても同様である。
【実施例
【0161】
<FW装置>
FW装置として図18記載の構成の装置を用いた。クリールとしては電磁式のブレーキ機構を備えたものを用いた。FW装置にはφ300mm、幅300mmの高密度ポリエチレン製の容器を設置し、フープ巻きとなるように塗液含有強化繊維テープを巻き付けた。なお、図18では、塗液供給装置やオンライン計測装置、ダンサロールやアイクチ案内部の図示は省略してある。
【0162】
<塗布部>
図6の形態の次の(III)~(V)を備える塗布部20bタイプの塗布部を用いた。(III)互いに連通された液溜まり部と狭窄部を備える。(IV)前記液溜り部は強化繊維テープの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有する。(V)前記狭窄部はスリット状の断面を有し、液溜まり部よりも小さい断面積を有する。塗布部は、液溜り部および狭窄部を形成する壁面部材にはステンレス製のブロックを用い、また側板部材にはステンレス製のプレートを用いた。強化繊維シートの走行方向は鉛直方向下向き、液溜り部のテーパーは開き角度30°とした。また、幅規制機構として、図5a記載のような塗布部内部形状に合わせた板状ブッシュを備えており、さらにこの板状ブッシュの設置位置自在に変更し、L2を適宜調整できるようにした。断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは20mmである。狭窄部の隙間Dは0.2mmとした。また、狭窄部出口から塗液が漏れないように、狭窄部出口下面においてブッシュより外側は塞いで使用した。
【0163】
<強化繊維テープ>
強化繊維として、炭素繊維(東レ製、“トレカ(登録商標)”T720S(36K))1糸条を強化繊維テープとして用いた。
【0164】
<マトリックス樹脂>
エポキシ樹脂(芳香族アミン型エポキシ樹脂+ビスフェノール型エポキシ樹脂の混合物)、硬化剤、硬化助剤の混合物である。これの粘度をTA Instruments社製ARES-G2を用いて、測定周波数0.5Hz、昇温速度1.5℃/分で測定したところ、40℃で0.6Pa・s、25℃で3Pa・sであった。
【0165】
<連続走行性の評価>
所定の走行速度で30分間連続走行させ、液溜まり部直上の強化繊維テープに繊維束の割れ(縦スジ状にシート状炭素繊維束が裂けている部分)や繊維束の端部折れ(炭素繊維束が重なっている部分)がなく均一に走行している時間を測定した。テープの割れ、およびテープの端部折れがなく均一に走行している時間の割合が全走行時間の90%以上を占めるものを「Excellent」、70%以上90%未満のものを「Better」、50%以上70%未満のものを「Good」、30%以上50%未満のものを「Fair」、10%以上30%未満のものを「Bad」、10%未満のものを「Worse」とした。
【0166】
<温度上昇の確認>
走行前0分の時の塗布部に貯留された樹脂温度T0と所定の速度で30分間連続走行させた後の塗布部に貯留された樹脂温度T、供給装置内の樹脂温度測定、壁面部材表面温度をそれぞれ測定した。HORIBA製放射温度計IT-545NHを用いて、塗布部に貯留された樹脂温度、供給装置内の樹脂温度測定では放射率を0.95に、壁面部材表面温度では放射率を0.20に設定して、それぞれ10秒間測定し、その時の平均値を測定温度とした。走行後30分後と0分の塗布部に貯留された樹脂温度(T-T0)が3℃未満の場合は「Excellent」、6℃未満3℃以上の場合は「Better」、10℃未満6℃以上の場合は「Good」、10℃以上の場合は「Bad」とした。
【0167】
<樹脂の飛散確認>
塗工装置~FW装置を質量Wfの透明フィルムで覆った。走行前0分の樹脂供給層内質量をW0を測定した。所定の速度で30分間連続走行させた後の、樹脂供給層内質量をWとした。また所定の速度で30分間連続走行させた後の透明フィルムを剥がし測定した質量をWrとした。下記式(II)により樹脂ロス率Lを算出し、以下の基準にて評価した。Lが7%未満「Excellent」、7%以上15%未満「Better」、15%以上20%未満のものを「Good」、20%以上25%未満のものを「Fair」、25%以上30%未満のものを「Bad」、30%以上「Worse」とした。
【0168】
L(%)=(Wr-Wf)/(W-W0)・・・(II)。
【0169】
<生産性>
FW装置で5000m巻き上げるのにかかった時間より、下記の通り評価した。30分未満「Excellent」、30分以上45分未満「Better」、45分以上60分未満「Good」、60分以上「Fair」。
【0170】
[実施例1]
塗布部のマトリックス樹脂温度を25℃、壁面部材表面温度を24℃、供給樹脂温度を25℃に設定し、強化繊維テープの走行速度を120m/分として、L2/Wが1.1となるよう調整し、成型体の作製を行った。結果を表1に示す。なお、工程中より切り出して塗液含有強化繊維テープと強化繊維テープを採取した。塗液含有強化繊維テープの質量から強化繊維テープ質量を差し引いて求まる樹脂量Wjは、塗液含有強化繊維テープの質量Wtに対して28%(樹脂含有率、Wj/Wt)であった。また、30秒ごとに壁面部材表面温度を測定し、走行中の塗布部に貯留された樹脂温度Tと壁面部材表面温度T'の関係が常にT-1≧T’を満たすように塗布部20の雰囲気温度を調整した。結果を表1に示す。
【0171】
[比較例1、2]
径φ150mmのステンレス製ロールを用いて、図19および図20の通りロールコーター(比較例1)、およびディップコーター(比較例2)としたFW装置を用いて、樹脂含有率が実施例1となるようにロール速度を調整し、実施例1と同様に成型体を作成した。比較例1、2の塗布部は次の(III)~(V)のいずれの条件も満たしていない。(III)互いに連通された液溜まり部と狭窄部を備える。(IV)前記液溜り部は強化繊維テープの走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有する。(V)前記狭窄部はスリット状の断面を有し、液溜まり部よりも小さい断面積を有する。結果を表1に示す。
【0172】
【表1】
【0173】
[実施例2]
30秒ごとに壁面部材表面温度を測定し、走行中の塗布部に貯留された樹脂温度Tと壁面部材表面温度T'の関係が常にT-3≧T’を満たすように塗布部20の雰囲気温度を調整した以外は実施例1と同様に成型体を作成した。結果を表2に示す。
【0174】
[実施例3]
30秒ごとに壁面部材表面温度を測定し、走行中の塗布部に貯留された樹脂温度Tと壁面部材表面温度T'の関係が常にT-5≧T’を満たすように塗布部20の雰囲気温度を調整した以外は実施例1と同様に成型体を作成した。結果を表2に示す。
【0175】
[比較例3]
雰囲気温度を調整により壁面部材表面温度を調整しなかった以外は実施例1と同様に成型体を作成した。雰囲気温度を調整しなかったことにより、走行中の塗布部に貯留された樹脂温度Tと壁面部材表面温度T”は同じ温度であった(つまり T-1≧T” を満たしていない)。また、走行開始時の塗布部に貯留された樹脂温度Tと供給樹脂温度T’は同じである(つまり T-1≧T’ を満たしていない)。結果を表2に示す。
【0176】
【表2】
【0177】
[実施例4~6]
壁面部材表面温度を調整せずに、供給樹脂温度を表3の通りに設定し、その他の条件は実施例1と同様に成型体を作製した。結果を表3に示す。
【0178】
【表3】
【0179】
表1より実施例1と比較例1、2を比較すると、塗布部を本発明の形態とすることで樹脂の飛散が抑制されることが分かる。また実施例1~3を比較すると壁面部材表面温度を塗布部に貯留された樹脂温度に対して低くすることで、温度上昇が効果的に抑制できることが分かる。また実施例4~6を比較すると、液溜り部に供給する樹脂温度を調整しても、温度上昇が効果的に抑制できることが分かる。本発明の範囲外となる比較例3では温度上昇が抑制されないことから、本発明が温度上昇に効果的であることが分かる。
【0180】
[実施例7~9]
FW速度を表4の通りにした以外は実施例4と同じ条件にして成型体を作製した。結果を表4に示す。速度を上げると生産性が向上するとともに、樹脂の飛散が抑制された。樹脂飛散抑制は、前述の液圧が増大したことで樹脂含浸が向上したことに由来すると考えられる。
【0181】
【表4】
【0182】
[実施例10~11]
ブッシュの位置を調整しL2/Wを表5のとおりに変更した以外は実施例4と同じ条件にして成型体を作製した。結果を表5に示す。
【0183】
【表5】
【0184】
[実施例12~14]
表6のL/Wとなるような液溜り部および狭窄部を形成する壁面部材にはステンレス製のブロックを用い、板状ブッシュを用いなかった以外は実施例4と同じ条件にして成型体を作製した。結果を表6に示す。
【0185】
【表6】
【0186】
[実施例15~16]
断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHを表7のとおりに変更した塗工装置に変更した以外は実施例4と同じ条件にして成型体を作製した。結果を表7に示す。
【0187】
【表7】
【0188】
[実施例17]
塗布部の強化線テープ幅方向の構造を、図15の通り4糸束通過できるようにした、ものを準備した以外は、実施例4と同様に成型体を作製した。実施例4と同様の結果が得られた。なお、実施例1~3、実施例5~11、実施例15~16についても、実施例17と同様に4糸束に変更して実施したところ、実施例1~3、実施例5~11、実施例15~16と同じ結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明の製造方法で得られる成型体は、CFRPに代表されるFRPとして、航空・宇宙用途でのフレーム・圧力容器や、自動車・列車・船舶用途での圧力容器・ドライブシャフトや、産業資材・建材用途での各種配管・パイプや、スポーツ材料用途としてのラケット・釣り竿・シャフトなど広く適用することができる。特に高圧圧力容器用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0190】
1 強化繊維
1a 強化繊維テープ
1b 塗液含有強化繊維テープ
2 塗液
3 離型テープまたは樹脂フィルム
11 クリール
12 配列装置
13、14 搬送ロール
15a フィラメントワインディング(FW)装置
15b 成型体
15c ライナー
16、16a、16b 供給装置
20 塗布部
20b 別の実施形態の塗布部
20c 別の実施形態の塗布部
20d 別の実施形態の塗布部
20e 別の実施形態の塗布部
21a、21b 壁面部材
21c、21d 別の形状の壁面部材
21e、21f 別の形状の壁面部材
21g、21h 別の形状の壁面部材
21i、21j 別の形状の壁面部材
22 液溜り部
22a 液溜り部のうち断面積が連続的に減少する領域
22b 液溜り部のうち断面積が減少しない領域
22c 液溜り部のうち断面積が断続的に減少する領域
23 狭窄部
24a、24b 側板部材
25 出口
26 隙間
27、27a、27b 幅規制機構
28 冷却機構(冷却板)
30 比較例1の塗布部
31a、31b 比較例1の壁面部材
32 比較例1の液溜り部
33 比較例1の液溜り部のうち断面積が断続的に減少する領域
35a、35b、35c バー
56 脱気機構
60 開口部
61 方向転換部材
62 冷却装置
100 塗工装置
118 アイクチ案内部
B 液溜り部22の奥行き
C 液溜り部22の上部液面までの高さ
D 狭窄部の隙間
G 幅規制を行う位置
H 液溜り部22の断面積が連続的に減少する鉛直方向高さ
L 液溜り部22の幅
R、Ra、Rb 渦流れ
T 循環流
U 狭窄部23の幅
W 狭窄部23の直下で測定した塗液含有強化繊維テープの幅
X 水平方向
Y X、Zに直行方向
Z 強化繊維テープ1aの走行方向(鉛直方向下向き)
θ テーパー部の開き角度
411 クリール
412 強化繊維ボビン
413 方向転換ガイド
414 強化繊維束
415 強化繊維配列装置
416 強化繊維テープ
417 拡幅装置
418 平滑化装置
419 方向転換ロール
420 強化繊維予熱装置
430 塗布部
433 冷却装置
441 方向転換ロール
442 離型テープまたは樹脂フィルム供給装置
443 離型テープまたは樹脂フィルム
444 高張力引取り装置
445 方向転換ロール
446 離型テープ
447 積層ロール
448 高張力引取り装置
449 高張力引取りS字ロール
450 追含浸装置
451 熱板
452 加熱ニップロール
461 冷却装置
462 引き取り装置
463 離型テープ巻取装置
464 フィラメントワインディング(FW)装置
471 塗液含有強化繊維テープ
472 アイクチ案内部
473 成型体
480 ロールコーター
490 ディップコーター
図1a
図1b
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図2g
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20