(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】プリプレグ、積層体および一体化成形品
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20250508BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20250508BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20250508BHJP
B29K 63/00 20060101ALN20250508BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20250508BHJP
【FI】
C08J5/04 CFC
B29C70/16
C08G59/50
B29K63:00
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2020567263
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043322
(87)【国際公開番号】W WO2021117460
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019223483
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三角 潤
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
(72)【発明者】
【氏名】篠原 響子
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-269878(JP,A)
【文献】特開2014-028982(JP,A)
【文献】特開2012-193322(JP,A)
【文献】国際公開第2012/147401(WO,A1)
【文献】特開2013-209626(JP,A)
【文献】特開2016-097676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04- 5/10、 5/24
B29B 11/16、15/08-15/14
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
C08G 59/50
B29K 63/00
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の構成要素[A]、[B]及び[C]を含むプリプレグであって、
前記[B]はさらに[B’]を含み、[B]に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基のモル数に対する、[B’]に含まれる活性水素のモル数の比が
0.65以上
0.95以下であり、プリプレグの表面に[C]が存在しており、[B]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域と接する[A]が存在
し、
[B]に含まれる全てのエポキシ樹脂の平均エポキシ価が6.0meq./g以上、11.0meq./g以下であり、[B’]に含まれる全てのアミン化合物の平均アミン価が5.0meq./g以上、20.0meq./g以下である、プリプレグ。
[A]強化繊維
[B]エポキシ樹脂組成物
[B’]アミン化合物
[C]熱可塑性樹脂組成物
【請求項2】
プリプレグの平面視において、[B]および[C]の両樹脂領域と接する任意の[A]の繊維方向に対し45度異なる角度の方向から、前記[A]を含むプリプレグ平面に垂直な断面を得た場合に、前記断面における、両樹脂領域の密着する境界面が形成する断面曲線の、JIS B0601(2001)で定義される粗さ平均長さRSmが100μm以下であり、粗さ平均高さRcが3.5μm以上である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
[B]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域がそれぞれ層状をなして隣接することにより前記境界面を形成している、請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
次の構成要素[A]、[C]及び[D]を含む層が含まれる積層体であって、
[C]を含む樹脂領域と[D]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域と接する[A]の強化繊維が存在
し、[D]に含まれるエポキシ樹脂の平均エポキシ価が6.0meq./g以上、11.0meq./g以下であり、[D]に含まれるアミン化合物の平均アミン価が5.0meq./g以上、20.0meq./g以下である、積層体。
[A]強化繊維
[C]熱可塑性樹脂組成物
[D]エポキシ樹脂とアミン化合物とを含み、前記エポキシ樹脂のエポキシ基のモル数に対する、前記アミン化合物の活性水素のモル数の比が
0.65以上
0.95以下であるエポキシ樹脂組成物を硬化してなる、エポキシ樹脂硬化物
【請求項5】
積層体の平面視において、[C]および[D]の両樹脂領域と接する任意の[A]の繊維方向に対し45度異なる角度の方向から、前記[A]を含む積層体の平面に垂直な断面を得た場合に、前記断面における、両樹脂領域の密着する境界面が形成する断面曲線の、JIS B0601(2001)で定義される粗さ平均長さRSmが100μm以下であり、粗さ平均高さRcが3.5μm以上である、請求項
4に記載の積層体。
【請求項6】
[C]を含む樹脂領域と[D]を含む樹脂領域がそれぞれ層状をなして隣接することにより前記境界面を形成している、請求項
4または
5に記載の積層体。
【請求項7】
表面に[C]を含む樹脂領域が存在する、請求項
4から
6のいずれか1つに記載の積層体。
【請求項8】
[C]に含まれる熱可塑性樹脂が、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基およびイソシアネート基からなる群より選択される官能基を有する、請求項1から
3のいずれか1つに記載のプリプレグ、または、請求項
4から
7のいずれか1つに記載の積層体。
【請求項9】
[A]として、ウィルヘルミー法によって測定される表面自由エネルギーが10~50mJ/m
2である強化繊維を用いる、請求項1から
3のいずれか1つに記載のプリプレグ、または、請求項
4から
8のいずれか1つに記載の積層体。
【請求項10】
請求項1から
3のいずれか1つに記載のプリプレグの硬化物が少なくとも一部の層を構成する積層体。
【請求項11】
別の部材が、[C]を含む樹脂領域が存在する面に接合することにより、請求項
7に記載の積層体と一体化されてなる、一体化成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂と熱可塑性樹脂が強化繊維に含浸されてなるプリプレグ、およびエポキシ樹脂、熱可塑性樹脂および強化繊維を含む積層体または一体化成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂をマトリックスとして用い、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維と組み合わせた繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性、また耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。しかしながら、これらの繊維強化複合材料は、複雑な形状を有する部品や構造体を単一の成形工程で製造するには不向きであり、上記用途においては、繊維強化複合材料からなる部材を作製し、次いで、同種または異種の部材と一体化することが必要である。強化繊維と熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料と同種または異種の部材を一体化する手法として、ボルト、リベット、ビスなどの機械的接合方法や、接着剤を使用する接合方法が用いられている。機械的接合方法では、穴あけなど接合部分をあらかじめ加工する工程を必要とするため、製造工程の長時間化および製造コストの増加につながり、また、穴をあけるため、材料強度が低下するという問題があった。接着剤を使用する接合方法では、接着剤の準備や接着剤の塗布作業を含む接着工程および硬化工程を必要とするため、製造工程の長時間化につながり、接着強度においても、信頼性に十分な満足が得られないという課題があった。
熱可塑性樹脂をマトリックスに用いた繊維強化複合材料は、上記の機械的接合方法および接着剤を用いた接合に加え、溶着により部材間を接合する方法を適用することができるため、部材間の接合に要する時間を短縮できる可能性がある。一方で、航空機用構造部材のように、高温での力学特性や優れた薬品への耐性が求められる場合は、熱硬化性樹脂と強化繊維からなる繊維強化複合材料に比べて、耐熱性、耐薬品性が十分ではないという課題があった。
【0003】
ここで、特許文献1には、熱硬化性樹脂と強化繊維からなる繊維強化複合材料を、接着剤を介して接合する方法が示されている。
特許文献2には、熱可塑性樹脂で形成される部材と、熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料で形成される部材を一体化する手法が示されている。すなわち、強化繊維と熱硬化性樹脂からなるプリプレグシートの表面に熱可塑性樹脂フィルムを積層し、加熱・加圧により、繊維強化複合材料を得る。その後、得られた繊維強化複合材料を金型に入れ、熱可塑性樹脂を射出成形し、射出成形により形成された熱可塑性樹脂部材と繊維強化複合材料を接合させる。
また、特許文献3には、熱硬化性樹脂と強化繊維からなる複合材料の表面に、熱可塑性樹脂接着層を形成した積層体の製造方法が示されており、熱可塑性樹脂を介して他の部材との接着効果を示すことが述べられている。
特許文献4には、強化繊維と熱硬化性樹脂からなるプリプレグの表層に、熱可塑性樹脂からなる粒子、または繊維、またはフィルムが配置されてなるプリプレグおよびその繊維強化複合材料が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-161801号公報
【文献】特開平10-138354号公報
【文献】特許第3906319号公報
【文献】特開平8-259713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示される手法は、強化繊維と熱硬化性樹脂よりなる繊維強化複合材料を接着剤により互いに接合する方法であり、熱硬化性樹脂がマトリックス樹脂であるため、そのままでは繊維強化複合材料間の接合の方法として溶着を適用できない。接着剤の硬化に時間を要するため、接合工程に時間を要するという課題があり、さらに、発現する接合強度は十分ではなかった。
特許文献2に記載の方法では、繊維強化複合材料中の熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂フィルムとの接合部における接合強度が十分ではなかった。
特許文献3に係る繊維強化複合材料は、熱可塑性樹脂を介して溶着による一体化を行うことができ、室温では優れた接合強度を示すが、高温での接合強度は十分ではなかった。
特許文献4では、熱可塑性樹脂からなる粒子、繊維またはフィルムにより、層間破壊靭性値が向上することが示されているが、この方法では、繊維強化複合材料中の熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との境界部における接合強度が十分ではなかった。
そこで、本発明の目的は、成形した部材の寸法精度に優れ、同種または異種の部材と溶着により接合可能かつ、優れた接合強度を発現し、更に圧縮強度および層間破壊靱性値にも優れ、構造材料として好適な積層体を与えるプリプレグ、積層体および一体化成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために本発明のプリプレグは、次の構成を有する。すなわち、次の構成要素[A]、[B]及び[C]を含むプリプレグであって、前記[B]はさらに[B’]を含み、[B]に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基のモル数に対する、[B’]に含まれる活性水素のモル数の比が0.6以上1.1以下であり、プリプレグの表面に[C]が存在しており、[B]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域と接する[A]が存在するプリプレグ。
[A]強化繊維
[B]エポキシ樹脂組成物
[B’]アミン化合物
[C]熱可塑性樹脂組成物
【0007】
さらに、本発明の積層体は、次のいずれかの構成を有する。すなわち、上記のプリプレグの硬化物が少なくとも一部の層を構成する積層体、または、次の構成を有する積層体である。すなわち、次の構成要素[A]、[C]及び[D]を含む層が含まれる積層体であって、[C]を含む樹脂領域と[D]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域と接する[A]の強化繊維が存在する積層体。
[A]強化繊維
[C]熱可塑性樹脂組成物
[D]エポキシ樹脂とアミン化合物とを含み、前記エポキシ樹脂のエポキシ基のモル数に対する、前記アミン化合物の活性水素のモル数の比が0.6以上1.1以下であるエポキシ樹脂組成物を硬化してなる、エポキシ樹脂硬化物。
なお、本明細書において特に断らずに「積層体」という場合には、文脈によりこれらのいずれかの積層体を指すものとする。また、特に限定されるものではないが、本明細書から明らかなように、本発明の積層体は、典型的には本発明のプリプレグを含むプリフォームを用いることにより作製することができる繊維強化樹脂である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプリプレグおよび積層体は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を用いており、両者が強固に接合されている上、同種または異種の部材との良好な溶着が可能であるため、従来の熱硬化性樹脂と強化繊維からなる繊維強化複合材料に対し、接合工程に要する時間を短縮でき、構造部材の成形を高速化することが可能となる。さらに、用いるエポキシ樹脂、アミン化合物およびその反応性基割合の制御により、優れた圧縮強度および接合強度を発現し、得られる部材の寸法精度にも優れており、構造材料として優れた積層体が得られ、航空機構造部材、風車の羽根、自動車構造部材およびICトレイやノートパソコンの筐体などのコンピューター用途等に適用することで、構造体としての優れた性能を示す上、上記用途に係る製品の成形時間および成形コストを大きく低減させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るプリプレグまたは積層体の模式図であり、
図2に係るプリプレグ平面または積層体平面に垂直な断面を示すものである。
【
図2】本発明における、プリプレグ平面または積層体平面に垂直な断面の模式図であり、粗さ平均長さRSmおよび粗さ平均高さRcの測定方法の説明を助けるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いる構成要素[A]の強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維などがある。これらは、単独で用いてもよいし、適宜2種以上併用して用いてもよい。これらの強化繊維は、表面処理が施されているものであっても良い。表面処理としては、金属の被着処理、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、添加剤の付着処理などがある。なお、本明細書においては、強化繊維にこうした表面処理が施されている場合、表面処理後の状態のものを含めて強化繊維と呼称する。これらの強化繊維の中には、導電性を有する強化繊維も含まれている。強化繊維としては、炭素繊維が、比重が小さく、高強度、高弾性率であることから、好ましく使用される。
炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800G-24K、“トレカ(登録商標)”T800S-24K、“トレカ(登録商標)”T700G-24K、“トレカ(登録商標)”T700S-24K、“トレカ(登録商標)”T300-3K、および“トレカ(登録商標)”T1100G-24K(以上、東レ(株)製)などが挙げられる。
【0011】
強化繊維の形態や配列については、強化繊維が一方向に配列されているか、一方向に配列されたものの積層物か、または織物の形態等から適宜選択できるが、軽量で耐久性がより高い水準にある積層体を得るためには、各プリプレグにおいて、強化繊維が一方向に配列された長繊維(繊維束)または織物等連続繊維の形態であることが好ましい。
強化繊維束は、同一の形態の複数本の繊維から構成されていても、あるいは、異なる形態の複数本の繊維から構成されていても良い。一つの強化繊維束を構成する強化繊維数は、通常、300~60,000であるが、基材の製造を考慮すると、好ましくは、300~48,000であり、より好ましくは、1,000~24,000である。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。
【0012】
構成要素[A]の強化繊維について、JIS R7608(2007)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠して測定したストランド引張強度が5.5GPa以上であると、引張強度に加え、優れた接合強度を有する積層体が得られるため、好ましい。当該ストランド引張強度が5.8GPaであると、さらに好ましい。ここで言う接合強度とは、ISO4587:1995(JIS K6850(1994))に準拠して求められる、引張せん断接合強度を指す。
【0013】
また、構成要素[A]の強化繊維としては、ウィルヘルミー法によって測定される表面自由エネルギーが10~50mJ/m2であるものを用いることが好ましい。表面自由エネルギーをこの範囲に制御することで、前記強化繊維は[B]のエポキシ樹脂組成物または[D]のエポキシ樹脂硬化物及び[C]の熱可塑性樹脂と高い親和性を発現し、強化繊維がまたがって存在する[B]または[D]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域の境界面において、高い接合強度を発現する。加えて、前記強化繊維同士の凝集を抑制し、成形品中での強化繊維の分散が良好となり、接合強度のばらつき(変動係数)が小さくなる。前記強化繊維の表面自由エネルギーは、好ましくは、15~40mJ/m2、より好ましくは、18~35mJ/m2である。
【0014】
前記強化繊維の表面自由エネルギーを制御する方法としては、表面を酸化処理し、カルボキシル基や水酸基といった酸素含有官能基の量を調整して制御する方法や、単体または複数の化合物を表面に付着させて制御する方法がある。複数の化合物を表面に付着させる場合、表面自由エネルギーの高いものと低いものを混合して付着させてもよい。以下、強化繊維の表面自由エネルギーの算出方法について説明する。表面自由エネルギーは、強化繊維と3種類の溶媒(精製水、エチレングリコール、リン酸トリクレジル)に対する接触角をそれぞれ測定した後、オーエンスの近似式を用いて表面自由エネルギーを算出する手法をとって計算できる。以下に手順を示すが、測定機器や詳細な手法は必ずしも以下に限定されるものではない。
【0015】
DataPhysics社製DCAT11を用いて、まず、強化繊維束から1本の単繊維を取り出し、長さ12±2mmに8本にカットした後、専用ホルダーFH12(表面が粘着物質でコーティングされた平板)に単繊維間を2~3mmとして平行に貼り付ける。その後、単繊維の先端を切り揃えてホルダーのDCAT11にセットする。測定は、各溶媒の入ったセルを8本の単繊維の下端に0.2mm/sの速度で近づけ、単繊維の先端から5mmまで浸漬させる。その後、0.2mm/sの速度で単繊維を引き上げる。この操作を4回以上繰り返す。液中に浸漬している時の単繊維の受ける力Fを電子天秤で測定する。この値を用いて次式で接触角θを算出する。
COSθ=(8本の単繊維が受ける力F(mN))/((8(単繊維の数)×単繊維の円周(m)×溶媒の表面張力(mJ/m2))
なお、測定は、3箇所の強化繊維束の異なる場所から抜き出した単繊維について実施した。すなわち、一つの強化繊維束に対して合計24本の単繊維についての接触角の平均値を求めた。
強化繊維の表面自由エネルギーγfは、表面自由エネルギーの極性成分γp
f、及び表面自由エネルギーの非極性成分γd
fの和として算出される。
【0016】
表面自由エネルギーの極性成分γp
fは、次式で示されるオーエンスの近似式(各溶媒固有の表面張力の極性成分と非極性成分、さらに接触角θにより構成させる式)に各液体の表面張力の成分、接触角を代入しX、Yにプロットした後、最小自乗法により直線近似したときの傾きaの自乗により求められる。表面自由エネルギーの非極性成分γd
fは切片bの自乗により求められる。強化繊維の表面自由エネルギーγfは、傾きaの自乗と切片bの自乗の和である。
Y=a・X+b
X=√(溶媒の表面張力の極性成分(mJ/m2))/√(溶媒の表面張力の非極性成分(mJ/m2)
Y=(1+COSθ)・(溶媒の表面張力の極性成分(mJ/m2))/2√(溶媒の表面張力の非極性成分(mJ/m2)
強化繊維の表面自由エネルギーの極性成分γp
f=a2
強化繊維の表面自由エネルギーの非極性成分γd
f=b2
トータルの表面自由エネルギーγf=a2+b2
【0017】
各溶媒の表面張力の極性成分及び非極性成分は、次のとおりである。
・精製水
表面張力72.8mJ/m2、極性成分51.0mJ/m2、非極性成分21.8(mJ/m2)
・エチレングリコール
表面張力48.0mJ/m2、極性成分19.0mJ/m2、非極性成分29.0(mJ/m2 )
・燐酸トリクレゾール
表面張力40.9mJ/m2、極性成分1.7mJ/m2、非極性成分39.2(mJ/m2)
【0018】
本発明で用いる、構成要素[B’]のアミン化合物を含む構成要素[B](本明細書における構成要素[B]としての「エポキシ樹脂組成物」は、エポキシ樹脂を50質量%超含有し、全体として熱硬化性樹脂としての挙動を示す樹脂組成物を意味するものとする。)について、含まれる全てのエポキシ樹脂の平均エポキシ価は、例として、エポキシ樹脂1とエポキシ樹脂2の2成分を含む場合は、以下の通り計算する。
平均エポキシ価(meq./g)=(エポキシ樹脂1の質量部数/エポキシ樹脂1のエポキシ当量+エポキシ樹脂2の質量部数/エポキシ樹脂2のエポキシ当量)/(エポキシ樹脂1の質量部数+エポキシ樹脂2の質量部数)×1000
ここでエポキシ当量は、JIS K7236(2009)に記載の方法によって求めた値を指す。含まれる全てのエポキシ樹脂の平均エポキシ価が、6.0meq./g以上、11.0meq./g以下であることで、成形時の発熱量が制御され、硬化度のムラが抑制されることで、優れた平面度を示す積層体を得ることが可能となり、加えて、積層体として、優れた圧縮強度を示すため好ましい。さらに、含まれる全てのエポキシ樹脂の平均エポキシ価が、7.5meq./g以上、9.0meq./g以下であることが、より好ましい態様である。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。
【0019】
また、含まれる全てのアミン化合物の平均アミン価は、例として、アミン化合物1とアミン化合物2の2成分を含む場合は、以下の通り計算する。
平均アミン価(meq./g)=(アミン化合物1の質量部数/アミン化合物1の活性水素当量+アミン化合物2の質量部数/アミン化合物2の活性水素当量)/(アミン化合物1の質量部数+アミン化合物2の質量部数)×1000
ここで、活性水素当量は、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS法)により、化学構造およびその割合を同定して算出した活性水素当量を指す。含まれる全てのアミン化合物の平均アミン価が5.0meq./g以上、20.0meq./g以下であることで、成形時の発熱量が制御され、硬化度のムラが抑制されることで、優れた平面度を示す積層体を得ることが可能となるため、好ましい態様である。ただし、優れた平面度の積層体を得るためには、上記のエポキシ樹脂のエポキシ価や、下記の通り、[B]に含まれるエポキシ基の量に対し、[B’]に含まれる活性水素の量を一定以上としてエポキシ樹脂硬化物の硬化度のムラを抑制することも重要である。
【0020】
また、構成要素[B]に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基のモル数は以下の通り計算する。
エポキシ樹脂のエポキシ基のモル数=エポキシ樹脂の質量部数/エポキシ樹脂のエポキシ当量
構成要素[B]が2成分以上のエポキシ樹脂を含む場合は、各成分のエポキシ基のモル数の和となり、例としてエポキシ樹脂を2成分(成分1、成分2)含む場合は、以下の通り計算する。
エポキシ樹脂のエポキシ基のモル数=成分1の質量部数/成分1のエポキシ当量+成分2の質量部数/成分2のエポキシ当量
【0021】
さらに、構成要素[B’]のアミン化合物の活性水素のモル数は以下の通り計算する。
アミン化合物の活性水素のモル数=アミン化合物の質量部数/アミン化合物の活性水素当量
構成要素[B’]が2成分以上のアミン化合物を含む場合は、各成分の活性水素のモル数の和となり、エポキシ基のモル数と同様に計算する。[B]に含まれるエポキシ基のモル数に対する、[B’]に含まれる活性水素のモル数の比が0.6以上1.1以下であることで、積層体として優れた圧縮強度を示し、更に硬化時の発熱量が小さくなり、エポキシ樹脂硬化物の硬化度のムラが小さくなるため、積層体として優れた平面度を示す。加えて、残存するエポキシ基が構成要素[C]の熱可塑性樹脂と相互作用を示すため、一体化成形品としての優れた接合強度を示す。[B]に含まれるエポキシ基のモル数に対する、[B’]に含まれる活性水素のモル数の比が、0.65以上0.95以下であることがより好ましい。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。
【0022】
本発明の積層体における構成要素[D]のエポキシ樹脂硬化物は、典型的には、本発明のプリプレグにおける構成要素[B’]のアミン化合物を含む構成要素[B]のエポキシ樹脂組成物を加熱硬化したものである。かかる温度条件は、エポキシ樹脂種およびアミン化合物や促進剤の種類や量に応じて適宜設定することができ、例えば、アミン化合物としてジアミノジフェニルスルホンを用いた場合は、180℃で2時間の温度条件が好適に使用でき、アミン化合物にジシアンジアミドを用いた場合は、135℃2時間の温度条件が好適に使用できる。
【0023】
構成要素[B]に使用されるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルなどの臭素化エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、N,N,O-トリグリシジル-m-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-4-アミノ-3-メチルフェノール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、レゾルシンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0024】
本発明の構成要素[B]は、含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対しグリシジル基を3個以上含むグリシジルアミン型エポキシ樹脂を40~100質量部含むことで、耐熱性の高い硬化物が得られるため、より好ましい態様となり、80~100質量部含むことが更に好ましい。グリシジル基を3個以上含むグリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、N,N,O-トリグリシジル-m-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-4-アミノ-3-メチルフェノール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンなどを挙げることができる。
【0025】
構成要素[B’]に使用されるアミン化合物としては、例えば、ジシアンジアミド、芳香族アミン化合物、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、などが挙げられる。
なかでも、[B‘]のアミン化合物として芳香族アミン化合物を用いることにより、耐熱性の良好なエポキシ樹脂が得られる。芳香族アミン化合物としては、例えば、3,3’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジエチル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’,5,5’-テトライソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’,5,5’-テトラ-t-ブチル-4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられる。
【0026】
本発明の構成要素[B]のエポキシ樹脂組成物は、[B‘]のアミン化合物が硬化剤としての主成分であるが、その他の硬化剤または硬化促進剤を含んでいても良い。[B]のエポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤と硬化促進剤の総質量に対し、[B’]の質量が80%以上となることが好ましい。他の硬化剤としては、酸無水物、フェノールノボラック化合物等が挙げられ、硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィンやテトラアリールホスホニウムテトラアリールボレート等のリン系硬化促進剤、カチオン重合開始剤、三級アミン、イミダゾール化合物、尿素化合物などが挙げられる。
【0027】
さらに、構成要素[B]のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂成分を粘度調整剤として溶解した状態で含むことが好ましい。かかる熱可塑性樹脂成分は、構成要素[C]に含まれる熱可塑性樹脂とは異なる、別の熱可塑性樹脂成分である。ここで「エポキシ樹脂に可溶」とは、熱可塑性樹脂成分をエポキシ樹脂に混合したものを加熱、または加熱撹拌することによって、均一相をなす温度領域が存在することを指す。ここで、「均一相をなす」とは、目視で分離のない状態が得られることを指す。ここで、「溶解した状態」とは、熱可塑性樹脂成分を含むエポキシ樹脂を、ある温度領域にし、均一相をなした状態を指す。一旦ある温度領域で均一相をなせば、その温度領域以外、例えば室温で分離が起こっても構わない。
【0028】
構成要素[B]のエポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂成分としては、一般に、主鎖に炭素-炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合からなる群から選ばれる結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、この熱可塑性樹脂成分は、部分的に架橋構造を有していても差し支えなく、結晶性を有していても非晶性であってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも一つの樹脂が好適である。良好な耐熱性を得るためには、成形体として用いたときに熱変形を起こしにくいという観点から、150℃以上のガラス転移温度を有することが好ましく、より好ましくは170℃以上であり、ポリエーテルイミドやポリエーテルスルホンが好適な例として挙げられる。
【0029】
構成要素[C](本明細書における構成要素[C]としての「熱可塑性樹脂組成物」は、熱可塑性樹脂を50質量%超含有し、全体として熱可塑性樹脂としての挙動を示す樹脂組成物を意味するものとする。)を構成する熱可塑性樹脂としては特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン、ポリアミド6やポリアミド66等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、変性ポリスルホン、ポリエーテルスルホンや、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等のポリアリーレンエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂などが挙げられる。また、これら熱可塑性樹脂は、上述の樹脂の共重合体や変性体、および/または2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。これらの中でも、耐熱性の観点から、ポリアリーレンエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィドまたはポリエーテルイミドから選ばれる1種または2種以上が、構成要素[C]中に60質量%以上含まれることが好ましい。耐衝撃性向上のために、エラストマーもしくはゴム成分が添加されていても良い。さらに、用途等に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜、他の充填材や添加剤を含有しても良い。例えば、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられる。
【0030】
構成要素[C]に含まれる熱可塑性樹脂は、エポキシ基との反応性を示す官能基を末端または主骨格に有することで、残存するエポキシ基と化学反応により共有結合を形成し、一体化成形品としての優れた接合強度を示すため、好ましい態様となる。エポキシ基との反応性を示す官能基としては、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、イソシアネート基等が挙げられる。
本発明のプリプレグにおいては、[B]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域と接する[A]の強化繊維が存在する。構成要素[B]を含む樹脂領域と構成要素[C]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域と接する[A]の強化繊維が存在することで、[A]が[B]および[C]と化学的または/および物理的に結合し、[B]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域とが剥離しにくくなるため、優れた接合強度を発現する。境界面上に存在する構成要素[A]が構成要素[B]および構成要素[C]と化学的または/および物理的に結合することにより、構成要素[B]を含む樹脂領域と構成要素[C]を含む樹脂領域との密着力が向上する。
【0031】
本発明のプリプレグにおいては、[B]を含む樹脂領域と[C]を含む樹脂領域とが、それぞれ層状をなして隣接していることが好ましい。
図1は、本発明に係るプリプレグまたは積層体の模式図であり、
図2は、
図1で断面観察面5として示すプリプレグ平面または積層体平面に垂直な断面の模式図であり、粗さ平均長さRSmおよび粗さ平均高さRcの測定方法の説明を助けるものである。
本発明のプリプレグにおいて、層状をなして隣接しているとは、例えば
図2に示すように、プリプレグ平面方向に対し垂直にカットして得られる断面において、面方向に連続した[C]を含む樹脂領域7と[B]を含む樹脂領域8とが、境界面10を形成しつつ密着して存在する状態である。[C]を含む樹脂領域7が層状で連続した状態ではなく、粒子状、繊維状、不織布状等で存在している場合、表面において[B]に含まれるエポキシ樹脂が露出している面積の割合が増加し、最表面における[C]の被覆率が低下するため、溶着性が低下する傾向にある。
さらに、プリプレグを平面視したとき、かかる両樹脂領域と接する任意の[A]の繊維方向に対し、時計回りか反時計回りかを問わず45度異なる角度の方向から、上記両樹脂領域をまたいで存在する[A]の繊維が含まれるプリプレグ平面に垂直な断面、すなわち、プリプレグ平面方向に対し垂直にカットするなどして得られる断面において、両樹脂の境界面が形成する断面曲線の、JIS B0601(2001)で定義される粗さ平均長さRSmが100μm以下であり、粗さ平均高さRcが3.5μm以上であることが、接合強度向上の点で好ましい。
【0032】
粗さ平均長さRSmが100μm以下であると、化学的または/および物理的な結合力のみならず、交絡という機械的な結合力も加わり、構成要素[B]を含む樹脂領域と構成要素[C]を含む樹脂領域とが剥離しにくくなる。下限値は、特に限定されないが、応力集中による機械的な結合力の低下を忌避するという観点から、好ましくは15μm以上である。また、断面曲線の粗さ平均高さRcが3.5μm以上であることにより、交絡による機械的な結合力の発現のみならず、境界面上に存在する構成要素[A]が構成要素[B]および構成要素[C]と化学的または/および物理的に結合し、構成要素[B]を含む樹脂領域と構成要素[C]を含む樹脂領域との密着力が向上する。断面曲線の粗さ平均高さRcの好ましい範囲としては、構成要素[A]が両樹脂領域に含まれやすくなり密着力がより向上する10μm以上であり、特に好ましくは20μm以上である。上限値は、特に限定されないが、応力集中による機械的な結合力の低下を忌避するという観点から、好ましくは100μm以下である。
【0033】
ここで、断面曲線の粗さ平均高さRcおよび粗さ平均長さRSmの測定方法としては、公知の手法を用いることが出来る。例えば、構成要素[B]を硬化させた後、X線CTを用いて取得した断面画像から測定する方法、エネルギー分散型X線分光器(EDS)による元素分析マッピング画像から測定する方法、あるいは光学顕微鏡あるいは走査電子顕微鏡(SEM)あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察画像から測定する方法が挙げられる。観察において、構成要素[B]および/または構成要素[C]はコントラストを調整するために、染色されても良い。上記のいずれかの手法により得られる画像において、500μm四方の範囲において、断面曲線の粗さ平均高さRcおよび粗さ平均長さRSmを測定する。
【0034】
断面曲線の粗さ平均高さRcおよび粗さ平均長さRSmの測定方法の一例を、
図2を用いて示す。
図2に示される観察画像9において、構成要素[C]を含む樹脂領域7は構成要素[B]を含む樹脂領域8と密着しており、観察画像9において境界面10として図示されている。また、境界面10上には複数の構成要素[A]6が存在している。
断面曲線の粗さ平均高さRcおよび粗さ平均長さRSmの測定方法の一例(断面曲線要素の測定方法1)を示す。長方形型の観察画像9の構成要素[B]を含む樹脂領域8側の端部を基準線11として、構成要素[B]を含む樹脂領域8から構成要素[C]を含む樹脂領域7に向かって5μm間隔で垂基線12を描く。基準線11から描かれる垂基線12が初めて構成要素[C]と交わる点をプロットし、プロットされた点を結んだ線を断面曲線13とする。得られた断面曲線13につき、JIS B0601(2001)に基づくフィルタリング処理を行い、断面曲線13の粗さ平均高さRcおよび粗さ平均長さRSmを算出する。
【0035】
本発明のプリプレグにおける、構成要素[C]の熱可塑性樹脂の目付は、10g/m2以上であると好ましい。10g/m2以上であると、優れた接合強度を発現するための十分な厚みが得られ、好ましい。より好ましくは20g/m2である。上限値は特に限定されないが、熱可塑性樹脂の量が強化繊維対比多くなりすぎず、比強度と比弾性率に優れる積層体が得られるため、好ましくは500g/m2以下である。ここで目付とは、プリプレグ1m2あたりに含まれる構成要素[C]の質量(g)を指す。
【0036】
本発明のプリプレグは、単位面積あたりの強化繊維量が30~2,000g/m2であることが好ましい。かかる強化繊維量が30g/m2以上であると、積層体成形の際に所定の厚みを得るための積層枚数を少なくすることができ、作業が簡便となりやすい。一方で、強化繊維量が2,000g/m2以下であると、プリプレグのドレープ性が向上しやすくなる。
本発明のプリプレグの強化繊維質量含有率は、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは35~85質量%であり、更に好ましくは40~80質量%である。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。強化繊維質量含有率が30質量%以上であると、樹脂の量が繊維対比多くなりすぎず、比強度と比弾性率に優れる積層体の利点が得られやすくなり、また、積層体の成形の際、硬化時の発熱量が過度に高くなりにくい。また、強化繊維質量含有率が90質量%以下であると、樹脂の含浸不良が生じにくく、得られる積層体のボイドが少なくなりやすい。
【0037】
本発明の他の側面は、上述した本発明のプリプレグを複数枚積層することにより、または本発明のプリプレグと本発明のプリプレグ以外他のプリプレグとを共に積層することにより作製した、本発明のプリプレグが少なくとも一部の層を構成するプリフォームを、加圧・加熱して硬化させる方法により製造した積層体、すなわち前述の本発明のプリプレグの硬化物が少なくとも一部の層を構成する積層体である。ここで、熱及び圧力を付与する方法には、例えば、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が採用される。
【0038】
または、本発明のさらに別の側面は、構成要素[A]、[C]および[D]を含む層が含まれ、[C]を含む樹脂領域と[D]を含む樹脂領域との境界面をまたいで両樹脂領域と接する[A]の強化繊維が存在する積層体である。
プリプレグを平面視したとき、かかる両樹脂領域と接する任意の[A]の繊維方向に対し、時計回りか反時計回りかを問わず45度異なる角度の方向から、上記両樹脂領域をまたいで存在する[A]が含まれる積層体の平面に垂直な断面、すなわち、積層体平面方向に対し垂直にカットするなどして得られる断面において、両樹脂領域の密着する境界面が形成する断面曲線の、JIS B0601(2001)で定義される粗さ平均長さRSmが100μm以下であり、粗さ平均高さRcが3.5μm以上であることが好ましい。粗さ平均高さRcは10μm以上であることがさらに好ましい。RSmの下限値およびRcの上限値は特に限定されないが、応力集中による機械的な結合力の低下の懸念の観点から、RSmは好ましくは15μm以上であり、Rcは好ましくは100μm以下である。
断面曲線の粗さ平均高さRcおよび粗さ平均長さRSmの測定方法としては、本発明のプリプレグの測定方法と同様に、上記の手法により求めることができる。
【0039】
本発明の積層体を成形するための方法として、例えばプレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法、ハンド・レイアップ法、フィラメント・ワインディング法、プルトルージョン法、レジン・インジェクション・モールディング法、レジン・トランスファー・モールディング法などの成形法によって作製することができる。
【0040】
本発明の積層体は、表面に構成要素[C]の熱可塑性樹脂組成物が存在する、すなわち、[A]、[C]および[D]を含む層を最外層として有するとともに、[C]が表出しているものであることが好ましい。さらには、本発明の積層体は、表面および内部の両方に構成要素[C]が存在する、すなわち、[A]、[C]および[D]を含む層を内層としても有することが好ましい。積層体の表面に構成要素[C]の熱可塑性樹脂が存在することで、本発明の積層体は、構成要素[C]を介して同種または異種の部材との接合を溶着で行うことができ、一方、積層体の内部にも構成要素[C]の熱可塑性樹脂が存在すると、優れた層間破壊靱性値(GIIC)が得られる。
【0041】
本発明の積層体は、なんらかの加熱手段によって、別の部材、すなわち積層体を構成する部材と同種および/または異種の部材(被着材)を、[C]が存在する面、特に積層体の表面に存在する構成要素[C]に接合させて、構成要素[C]を介して積層体と一体化(溶着)して一体化成形品とすることができる。異種の部材(被着材)として、熱可塑性樹脂からなる部材、金属材料からなる部材が挙げられる。熱可塑性樹脂からなる部材には、強化繊維やフィラー等が含まれていても良い。一体化手法は特に制限はなく、例えば、熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着、抵抗溶着、誘導溶着、インサート射出成形、アウトサート射出成形などを挙げることができる。
【0042】
一体化成形品の接合部の強度は、ISO4587:1995(JIS K6850(1994))に基づいて評価できる。ISO4587:1995に基づき測定した引張せん断接合強度が、25MPa以上であれば好ましく、より好ましくは、28MPa以上である。一般的には、20MPa以上あれば、積層体は構造材料用の接合に用いるものとして利用でき、一般的な接着剤の試験環境温度が23℃のときの引張せん断接合強度(10MPa程度)と比べても高い強度である。引張せん断接合強度は高いほど好ましく、上限については特に限定されないが、通常の積層体の一体化成形品では、引張せん断接合強度は200MPaが上限である。
【0043】
本発明の積層体は、航空機構造部材、風車羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体などのコンピューター用途さらにはゴルフシャフトやテニスラケットなどスポーツ用途に好ましく用いられる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0045】
<実施例および比較例で用いた材料>
以下に示す構成要素[A]、[B]、[B’]及び[C]を用いた。それぞれの実施例および比較例で用いた構成要素は、表1~3に示すとおりである。
【0046】
構成要素[A]:強化繊維
以下の方法で原料となる共通の炭素繊維束を得た後、各種サイジング剤用化合物を塗布することで得た。まず、イタコン酸を共重合したアクリロニトリル共重合体を紡糸し、焼成することで、総フィラメント数24,000本、比重1.8g/cm3、ストランド引張強度4.9GPa、ストランド引張弾性率230GPaの炭素繊維束を得た。その後、各種サイジング剤用化合物をアセトンと混合し、化合物が均一に溶解した約1質量%の溶液を得た。浸漬法により各化合物を上記炭素繊維束に塗布した後、210℃で90秒間熱処理をし、各化合物の付着量が、各化合物が付着した炭素繊維100質量部に対して、0.5質量部となるように調整した。各炭素繊維に用いたサイジング剤用化合物および、サイジング剤塗布後の表面自由エネルギーは以下の通り。
・CF1:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(“デナコール”(登録商標)EX-841、ナガセケムテックス(株)社製)、表面自由エネルギー:20mJ/m2
・CF2:ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(“jER”(登録商標)828、三菱ケミカル(株)社製)、表面自由エネルギー:9mJ/m2
・CF3:ソルビトールポリグリシジルエーテル(“デナコール”(登録商標)EX-614B、ナガセケムテックス(株)社製)、表面自由エネルギー:32mJ/m2
【0047】
構成要素[C]に含まれる熱可塑性樹脂
・PA6:ポリアミド6(“アミラン”(登録商標)CM1007(東レ(株)製、融点225℃、末端官能基:アミノ基、カルボキシル基))からなる目付120g/m2のフィルム
・PPS:ポリフェニレンスルフィド(“トレリナ”(登録商標)A670T05(東レ(株)社製、融点278℃、ガラス転移温度90℃、末端官能基:カルボキシル基))からなる目付120g/m2のフィルム
・PEKK1:ポリエーテルケトンケトン(“KEPSTAN”(登録商標)6002(アルケマ社製、融点300℃、ガラス転移温度160℃、末端官能基:カルボキシル基))からなる目付120g/m2のフィルム
・PEKK2:ポリエーテルケトンケトン(“KEPSTAN”(登録商標)7002(アルケマ社製、融点331℃、ガラス転移温度162℃、末端官能基:カルボキシル基))からなる目付120g/m2のフィルム
・PEEK:ポリエーテルエーテルケトン(PEEK 450G(Victrex社製、融点343℃、ガラス転移温度143℃、末端官能基:ヒドロキシル基))からなる目付120g/m2のフィルム
・半芳香族PA:ポリアミド6T(融点320℃、ガラス転移温度125℃、末端官能基:アミノ基、カルボキシル基))からなる目付120g/m2のフィルム
・PES1:ポリエーテルスルホン(“スミカエクセル”(登録商標)5003P 住友化学(株)製、ガラス転移温度225℃、末端官能基:ヒドロキシル基)からなる目付120g/m2のフィルム
・PES2:ポリエーテルスルホン(“スミカエクセル”(登録商標)3600P 住友化学(株)製、ガラス転移温度225℃、末端官能基:クロロ基)からなる目付120g/m2のフィルム
【0048】
<熱可塑性樹脂の融点の測定方法>
熱可塑性樹脂の融点は、JIS K7121(2012)に基づいて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した。混合物などで融点が複数観測される場合は、最も高い融点をその熱可塑性樹脂の融点として採用した。
【0049】
<エポキシ樹脂組成物の作製方法および評価方法>
表1に記載の各具体例のエポキシ樹脂組成物を、以下の化合物を用いて作製した。
(1)構成要素[B]に含まれるエポキシ樹脂
・テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(“アラルダイト”(登録商標)MY721、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製、エポキシ当量:113(g/eq.)、4官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂)
・アミノフェノール型エポキシ樹脂(“アラルダイト”(登録商標)MY0500、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製、エポキシ当量:100(g/eq.)、3官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)825、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量:175(g/eq.))
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER”(登録商標)1001、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量:475(g/eq.))
【0050】
(2)構成要素[B’]:アミン化合物
・4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(セイカキュアS、和歌山精化工業(株)製、活性水素当量:62(g/eq.))
・ジエチルトルエンジアミン(“Aradur(登録商標)”5200、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製、活性水素当量:45(g/eq.))
【0051】
(3)粘度調整剤
・ポリエーテルスルホン(“スミカエクセル”(登録商標)PES5003P 住友化学(株)製)
【0052】
(4)エポキシ樹脂組成物の調製方法
混練装置中に、表1に記載のエポキシ樹脂および粘度調整剤を投入し、加熱混練を行い、粘度調整剤を溶解させた。次いで、混練を続けたまま100℃以下の温度まで降温させ、表1に記載のアミン化合物から適宜選択されたものを加えて撹拌し、B-1~B-12までのエポキシ樹脂組成物を得た。
【0053】
<エポキシ樹脂硬化物の作製方法および評価方法>
上記の方法で調製したエポキシ樹脂組成物をモールドに注入し、熱風乾燥機中で30℃から速度1.5℃/分で180℃まで昇温し、180℃で120分間加熱硬化した後、30℃まで速度2.5℃/分で降温して、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を作製した。得られたエポキシ樹脂硬化物より、以下の方法にて、表1に記載の各具体例の評価を実施した。
【0054】
<エポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度の測定方法>
上記の方法で作製した樹脂硬化物板から、幅12.7mm、長さ45mmの試験片を切り出し、試験片を60℃真空オーブン中で24時間乾燥させ、JIS K 7244-7(2007)に従い、動的粘弾性試験により貯蔵弾性率曲線を得て、かかる貯蔵弾性率曲線において、ガラス状態での接線と転移状態での接線との交点における温度の値をガラス転移温度とした。
【0055】
<エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率の測定方法>
上記の方法で作製した樹脂硬化物板から、長さ60mm、幅10mmの試験片を切り出し、試験片を60℃真空オーブン中で24時間乾燥させ、材料万能試験機(インストロン・ジャパン(株)製、“インストロン”(登録商標)5565型P8564)を用い、試験速度2.5mm/分、支点間距離32mmで3点曲げ試験を行い、JIS K7171(1994)に従い曲げ弾性率を求めた。
【0056】
<プリプレグの作製方法>
プリプレグは、以下の2種の方法により作製した。各例で使用した構成要素は表2および3に記載のそれぞれのとおりである。
[I]構成要素[A]の強化繊維(目付193g/m2)を、一方向に整列させた連続した状態の強化繊維シートを引き出し、一方向に走行させつつ、構成要素[C]からなる目付120g/m2の樹脂シートを連続強化繊維シート上に配置して、IRヒータで加熱して構成要素[C]を溶融し、連続強化繊維シート片面全面に付着させ、表面温度が構成要素[C]の融点以下に保たれたニップロールで加圧して、強化繊維シートに含浸したものを冷却させて繊維強化樹脂中間体を得た。表2および3に記載のとおり選定した構成要素[B]および[B’]に係るエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付100g/m2で離型紙上にコーティングし、エポキシ樹脂フィルムを作製した後、上記中間体における構成要素[C]を含浸させた反対の表面に上記エポキシ樹脂フィルムを重ね、ヒートロールにより加熱加圧しながらエポキシ樹脂組成物を中間体に含浸させ、プリプレグ[I]を得た。
[II]表2および3に記載のとおり選定した構成要素[B]および[B’]に係るエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付50g/m2で離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、一方向に引き揃えた構成要素[A]の強化繊維(目付193g/m2)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、加熱加圧しながらエポキシ樹脂組成物を炭素繊維に含浸させ、プリプレグ[II]を得た。
【0057】
<積層体の作製方法および力学特性評価>
(1)引張せん断接合強度の測定方法
上記で作製したプリプレグ[I]および[II]を所定の大きさにカットし、プリプレグ[I]を2枚とプリプレグ[II]を6枚得た。強化繊維の軸方向を0°とし、軸直交方向を90°と定義して、[0°/90°]2s(記号sは、鏡面対称を示す)で積層し、プリフォームを作製した。このとき両面それぞれの最外層の2枚はプリプレグ[I]となるように積層し、プリフォームの両の表層が、構成要素[C]を含む熱可塑性樹脂層となるように配置した。このプリフォームをプレス成形金型にセットし、必要に応じ、治具やスペーサーを使用して、この形状を維持させたまま、プレス機で0.6MPaの圧力をかけ、180℃で120分間加温することで、積層体を得た。
得られた積層体を、0°方向を試験片の長さ方向として、幅250mm、長さ92.5mmの形状に2枚カットし、真空オーブン中で24時間乾燥させた。その後、2枚のパネルを、0°方向を長さ方向として、幅25mm×長さ12.5mmとして重ね合わせ、用いた構成要素[C]の熱可塑性樹脂の融点よりも20℃高い温度にて、3MPaの圧力をかけて、1分間保持することで、重ね合わせた面を溶着し、一体化成形品を得た。得られた一体化成形品に、ISO4587:1995(JIS K6850(1994))に準拠してタブを接着し、幅25mmでカットすることで、目的の試験片を得た。
得られた試験片を、真空オーブン中で24時間乾燥させ、ISO4587:1995(JIS K6850(1994))に基づき、環境温度23℃における引張せん断接合強度を測定し、測定結果に基づいて以下のように評価した。結果を表に示す。
28MPa以上:A
25MPa以上28MPa未満:B
20MPa以上25MPa未満:C
20MPa未満:D(不合格)
【0058】
(2)圧縮強度の測定方法
上記で作製したプリプレグ[I]および[II]を所定の大きさにカットし、プリプレグ[I]を2枚とプリプレグ[II]を4枚得た。両面それぞれの最外層の2枚はプリプレグ[I]として、間にプリプレグ[II]を挟んで、全て同一の強化繊維方向となるよう、計6枚積層し、プリフォームを作製した。このとき、プリフォームの両の表層が構成要素[C]を含む熱可塑性樹脂層となるように配置した。このプリフォームをプレス成形金型にセットし、必要に応じ、治具やスペーサーを使用して、この形状を維持させたまま、プレス機で0.6MPaの圧力をかけ、180℃で120分間加温することで、積層体を得た。
得られた積層体に、SACMA-SRM 1R-94に準拠してタブを接着した後、強化繊維軸方向を試験片の長さ方向として、長さ80mm、幅15mmの矩形試験片を切り出した。得られた試験片を、60℃の真空オーブン中で24時間乾燥させ、SACMA-SRM 1R-94に準拠し、材料万能試験機(インストロン・ジャパン(株)製、“インストロン”(登録商標)5565型P8564)を用いて、23℃環境下において圧縮強度を測定し、測定結果に基づいて以下のように評価した。結果を表に示す。
1.6GPa以上:A
1.4GPa以上1.6GPa未満:B
1.2GPa以上1.4GPa未満:C
1.2GPa未満:D(不合格)
【0059】
(3)平面度(寸法精度)の測定方法
上記で作製したプリプレグ[I]および[II]を長さ250mm、幅125mmの大きさにカットし、プリプレグ[I]を2枚とプリプレグ[II]を6枚得た。両面それぞれの最外層の2枚はプリプレグ[I]として、間にプリプレグ[II]を挟んで、全て同一の強化繊維方向となるよう、計8枚積層し、プリフォームを作製した。このとき、プリフォームの両の表層が構成要素[C]を含む熱可塑性樹脂層となるように配置した。このプリフォームをプレス成形金型にセットし、必要に応じ、治具やスペーサーを使用して、この形状を維持させたまま、プレス機で0.6MPaの圧力をかけ、180℃で120分間加温することで、積層体を得た。
得られた積層体の平面度を、JIS B7513(1992)に準拠して評価した。得られた積層体を、長さ250mm、幅125mmの大きさにカットし、積層体の端4点の内3点を精密定盤上に接地して、残りの1点の盤面からの高さを求めた。積層体の端4点のそれぞれを、順に上記精密定盤上に接地しない1点として、上記方法にてそれぞれの盤面からの高さを求め、得られた盤面からの高さ4点のうち最も高い値を積層体の平面度とした。測定結果に基づいて以下のように評価した。結果を表に示す。
5mm未満:A
5mm以上10mm未満:B
10mm以上15mm未満:C
15mm以上:D(不合格)
【0060】
(4)層間破壊靱性値(GIIC)の測定方法
上記で作製したプリプレグ[I]を所定の大きさにカットし、同一の強化繊維方向となるよう、計20枚積層した。このとき、中央の10枚目と11枚目の間の位置に予備亀裂導入のための離型フィルムを挟み込み、プリフォームを作製した。このプリフォームをプレス成形金型にセットし、必要に応じ、治具やスペーサーを使用して、この形状を維持させたまま、プレス機で0.6MPaの圧力をかけ、180℃で120分間加温することで、積層体を得た。
得られた積層体より、強化繊維軸を試験片の長さ方向として、長さ150mm、幅20mmの矩形試験片を切り出し、60℃の真空オーブン中で24時間乾燥させた。得られた試験片を、JIS K7086(1993)に従い、23℃環境下において、層間破壊靱性値(GIIC)を評価した。
【0061】
<プリプレグおよび積層体における粗さ平均長さRSmおよび粗さ平均高さRcの測定>
上記で作製したプリプレグ[I]を用い、前記両樹脂領域と接する[A]の任意の繊維方向に対し、プリプレグの平面視における45度の角度にてプリプレグ平面方向に対し垂直にカットした断面において、光学顕微鏡を用いて、1000倍の画像を撮影した。得られた画像中の任意の500μm四方の観察範囲において、前記断面曲線要素の測定方法1により得られる断面曲線要素のJIS B0601(2001)で定義される、粗さ平均長さRSmおよび粗さ平均高さRcを測定した。積層体の場合も、(1)引張せん断接合強度の測定方法に記載の積層体を用い、平面方向に対し垂直にカットした観察断面において、光学顕微鏡を用いて1000倍の画像を撮影した後、後は上記プリプレグの場合と同様に測定した。
【0062】
<実施例1~19および比較例1,2の積層体の作製方法>
実施例1~19および比較例1,2では、(1)引張せん断接合強度の測定方法に記載の方法、(2)圧縮強度の測定方法に記載の方法、および(3)平面度の測定方法に記載の方法で積層体を作成した。
【0063】
<実施例20および比較例3~5の積層体の作製方法>
比較例3では、一方向平面状に配列させた強化繊維シートの両面に、フィルム目付50g/m2のポリアミド6(“アミラン”(登録商標)CM1007(東レ(株)製))のフィルムを貼り付け、250℃で加熱加圧して、強化炭素繊維目付193g/m2のプリプレグを得た。得られたプリプレグを、所定のサイズにカットし、それぞれ、接合強度評価用、平面度および圧縮強度評価用に、[0°/90°]2sまたは同一方向に8枚積層または同一方向に6枚積層した後、プレス機で3MPaの圧力をかけ、250℃で10分間加温することで、それぞれ積層体を得た。得られた積層体より、実施例に記載の方法で接合強度、圧縮強度および平面度を測定した。
実施例20では、上記プリプレグ[I]を所定の大きさにカットし、同一の強化繊維方向となるよう、計20枚積層し、中央の10枚目と11枚目の間の位置に予備亀裂導入のための離型フィルムを挟み込み、プリフォームを作製した。
比較例4では、プリプレグ[II](構成要素[C]非含有)を所定の大きさにカットし、実施例20と同じ方法で積層し、離型フィルムを挟み込み、プリフォームを得た。
比較例5では、所定の大きさにカットしたプリプレグ[II](構成要素[C]非含有)の片側表面に、ポリアミド粒子(SP-500、東レ(株)製)を、プリプレグ単位面積あたりの粒子量が7g/m2となるよう均一に散布したのち、実施例20と同じ方法で積層し、離型フィルムを挟み込み、プリフォームを得た。
実施例20、比較例4、5とも、得られたプリフォームを、プレス機で0.6MPaの圧力をかけ、180℃で120分間加温することで、積層体を得た後、上記実施例に記載の方法で、層間破壊靱性値(GIIC)を評価した。
【0064】
【0065】
【0066】
【符号の説明】
【0067】
1:プリプレグまたは積層体
2:構成要素[A]
3:構成要素[C]および構成要素[B]または構成要素[D]
4:任意の繊維束の軸方向
5:観察断面
6:構成要素[A]
7:構成要素[C]を含む樹脂領域
8:構成要素[B]または構成要素[D]を含む樹脂領域
9:観察画像
10:境界面
11:基準線
12:垂基線