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特許7676803電池電極用バインダー組成物及びその製造方法、電池電極作製用組成物及びその製造方法、電極、並びに電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】電池電極用バインダー組成物及びその製造方法、電池電極作製用組成物及びその製造方法、電極、並びに電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20250508BHJP
   C08B 15/02 20060101ALI20250508BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20250508BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250508BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08B15/02
H01M4/13
H01M4/139
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021024563
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126467
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】日笠山 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 直彦
(72)【発明者】
【氏名】松木 詩路士
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-086285(JP,A)
【文献】特許第6769550(JP,B2)
【文献】MATSUKI Shiroshi et al.,Nanocellulose Production via One-Pot Formation of C2 and C3 Carboxylate Groups Using Highly Concentrated NaClO Aqueous Solution,ACS Sustainable Chemistry & Engineering,米国,2020年11月19日,8,17800-17806
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/13
C08B 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロースを含む、電池電極用バインダー組成物であって、
前記ナノセルロースが、グルコピラノース環の第2位及び第3位の水酸基が酸化されてカルボキシ基が導入され、且つ、第6位に水酸基が存在する構造を有する
電池電極用バインダー組成物。
【請求項2】
前記ナノセルロースのカルボキシ基の含有量が、0.2mmol/g以上2.0mmol/g以下である、
請求項1に記載の電池電極用バインダー組成物。
【請求項3】
前記ナノセルロースの平均繊維長が、50nm以上700nm以下である、
請求項1又は2に記載の電池電極用バインダー組成物。
【請求項4】
粒子状重合体及び/又はカルボキシ基を有する重合体若しくはその塩を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電池電極用バインダー組成物。
【請求項5】
前記カルボキシ基を有する重合体が、架橋性単量体に由来する構造単位を含み、
前記架橋性単量体に由来する構造単位の含有量が、前記カルボキシ基を有する重合体を構成する単量体単位総量100質量部に対して、0.1質量部以上2.0質量部以下である、
請求項4に記載の電池電極用バインダー組成物。
【請求項6】
前記カルボキシ基を有する重合体を中和度80~100モル%に中和した後、水媒体中で測定した粒子径が、体積基準メジアン径として0.1μm以上5.0μm以下である、
請求項4又は5に記載の電池電極用バインダー組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の電池電極用バインダー組成物を含む、電池電極作製用組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の電池電極作製用組成物を用いて作製された、電極。
【請求項9】
請求項8に記載の電極を備える電池。
【請求項10】
ナノセルロースを含む電池電極用バインダー組成物の製造方法であって、
酸化セルロースと、前記電池電極用バインダー組成物のナノセルロース以外の材料とを含む混合物を撹拌することにより、前記電池電極用バインダー組成物を得る工程を含み、
前記酸化セルロースが、グルコピラノース環の第2位及び第3位の水酸基が酸化されてカルボキシ基が導入され、且つ、第6位に水酸基が存在する構造を有する、製造方法。
【請求項11】
ナノセルロースを含む電池電極用バインダー組成物の製造方法であって、
酸化セルロースを撹拌し、連続して前記電池電極用バインダー組成物のナノセルロース以外の材料を添加することにより、前記電池電極用バインダー組成物を得る工程を含み、
前記酸化セルロースが、グルコピラノース環の第2位及び第3位の水酸基が酸化されてカルボキシ基が導入され、且つ、第6位に水酸基が存在する構造を有する、製造方法。
【請求項12】
ナノセルロースを含む電池電極作製用組成物の製造方法であって、
酸化セルロースと、前記電池電極作製用組成物のナノセルロース以外の材料とを含む混合物を撹拌することにより、前記電池電極作製用組成物を得る工程を含み、
前記酸化セルロースが、グルコピラノース環の第2位及び第3位の水酸基が酸化されてカルボキシ基が導入され、且つ、第6位に水酸基が存在する構造を有する、製造方法。
【請求項13】
ナノセルロースを含む電池電極作製用組成物の製造方法であって、
酸化セルロースを撹拌し、連続して前記電池電極作製用組成物のナノセルロース以外の材料を添加することにより、前記電池電極作製用組成物を得る工程を含み、
前記酸化セルロースが、グルコピラノース環の第2位及び第3位の水酸基が酸化されてカルボキシ基が導入され、且つ、第6位に水酸基が存在する構造を有する、製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池電極用バインダー組成物及びその製造方法、電池電極作製用組成物及びその製造方法、電極、並びに電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池として、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等の様々な蓄電デバイスが実用化されている。これらの電池に使用される電極は、活物質及びバインダー等を含む組成物を集電体上に塗布及び乾燥等することにより作製されることがある。例えば、リチウムイオン二次電池では、負極を層状に形成する組成物に用いられるバインダーとして、スチレンブタジエンゴム(SBR)ラテックス及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む水系のバインダーが使用されている。
【0003】
各種二次電池には、エネルギー密度、信頼性、及び耐久性向上への要求が高まっている。例えば、リチウムイオン二次電池の負極用活物質として一般に黒鉛が使用されるが、繰り返し使用するにつれて電極における層の剥離又は脱落等が生じ、その結果、電池の容量が低下し、サイクル特性(耐久性)が悪化するという電池性能低下の問題がある。このような電池性能の低下を抑制するために、バインダーによって活物質間を強固に結着させること(結着性)や活物質のサイズを小さくして膨潤収縮に伴う応力を緩和すること、電解液の添加剤を工夫することで電池性能を改善する検討が行われている。
また、二次電池電極は、活物質及びバインダーを含む電池電極形成用組成物(以下、「電極スラリー」ともいう。)を電極集電体表面に塗布乾燥することにより得ることがある。この際、電極スラリーの乾燥効率を高め、電極の生産性を向上する観点から、電極スラリー中の活物質濃度を高くすることが有利である。しかしながら、通常、活物質濃度を高くするにつれて電極スラリーの固形分濃度も高くなるため、良好な塗工性を確保することが難しくなる。従来、水系スラリーでは、活物質を分散安定化し、良好な塗工性を付与するバインダーとして、カルボキシメチルセルロースが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、セルロース繊維を電極作製の材料として使用することが知られている。
例えば、特許文献2には、短幅の方の数平均幅が2~1000nmであるセルロースを含有する蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤が開示されている。当該増粘・安定剤は、電極活物質の分散安定性に優れ、かつ、分散工程中に攪拌せん断力による粘度低下を起こさず、かつ結着性及び耐電解液性に優れるとされている。
特許文献3には、セルロース繊維とSBR等の粒子状重合体を含む二次電池電極用バインダー組成物が開示されている。当該組成物は、粒子状重合体の移動(マイグレーション)が抑制され、得られる電極合材層中における粒子状重合体の分布が均一になり、電極活物質層と集電体との密着強度が優れるとされている。
特許文献4には、活物質と、カルボキシ基を有する繊維状多糖類と、分散媒とを含むことを特徴とする電池電極用組成物が開示されている。当該電池電極用組成物は、電池用電極の組成設計の自由度が向上し、生産性に優れ、良好なサイクル特性に加え、出力特性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-192610号公報
【文献】特開2015-125920号公報
【文献】国際公開第2015/107896号パンフレット
【文献】特開2014-86285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のスラリーはカルボキシメチルセルロースを含み、カルボキシメチルセルロースが活物質を分散安定化し良好な塗工性を付与できるが、当該スラリーから得られる電池の性能のさらなる向上、特に結着性を高めることは課題となっている。
【0007】
特許文献2の蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤においては、短幅の方の数平均幅が2~1000nmであるセルロースとして、パルプを機械解繊したセルロース繊維(以下、機械解繊セルロース繊維ともいう)か、N-オキシル化合物であるTEMPOを用いて酸化して得られる酸化セルロースを解繊処理したセルロース繊維(以下、TEMPO酸化セルロース繊維ともいう)が用いられる。特許文献2の蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤は、結着性を付与し得るものとされているが、上記セルロース繊維は、水中で大きく拡がった構造をとると考えられ、少量の添加でも粘度が大きく上昇し、電極製造時に電極塗工液の塗工が困難となる。
特許文献3の二次電池電極用バインダー組成物においては、セルロース繊維としてBinFi-s(登録商標)、セリッシュ(登録商標)といった機械解繊セルロース繊維が用いられる。特許文献4の電池電極用組成物においては、カルボキシ基を有する繊維状多糖類として、TEMPO酸化セルロース繊維が用いられる。このようなセルロース繊維は、上述したとおり、少量の添加でも粘度が大きく上昇し、塗工性に課題がある。
【0008】
以上のとおり、カルボキシメチルセルロース、機械解繊セルロース繊維、あるいはTEMPO酸化セルロース繊維を電極用バインダーとして用いた場合、塗工性と結着性とを両立することが困難である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、良好な塗工性を有する電池電極作製用組成物を提供でき、且つ、結着性に優れる電極用バインダー組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、次亜塩素酸又はその塩によって原料セルロースを酸化することで得られる酸化物に由来するナノセルロースは、優れた塗工性を有する電池電極作製用組成物を提供し、且つ、結着性に優れることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明によれば、以下の手段が提供される。
[1]
ナノセルロースを含む、電池電極用バインダー組成物であって、
前記ナノセルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、
電池電極用バインダー組成物。
[2]
前記ナノセルロースのカルボキシ基の含有量が、0.2mmol/g以上2.0mmol/g以下である、
[1]に記載の電池電極用バインダー組成物。
[3]
前記ナノセルロースの平均繊維長が、50nm以上700nm以下である、
[1]又は[2]に記載の電池電極用バインダー組成物。
[4]
粒子状重合体及び/又はカルボキシ基を有する重合体若しくはその塩を含む、
[1]~[3]のいずれかに記載の電池電極用バインダー組成物。
[5]
前記カルボキシ基を有する重合体が、架橋性単量体に由来する構造単位を含み、
前記架橋性単量体に由来する構造単位の含有量が、前記カルボキシ基を有する重合体を構成する単量体単位総量100質量部に対して、0.1質量部以上2.0質量部以下である、
[4]に記載の電池電極用バインダー組成物。
[6]
前記カルボキシ基を有する重合体を中和度80~100モル%に中和した後、水媒体中で測定した粒子径が、体積基準メジアン径として0.1μm以上5.0μm以下である、
[4]又は[5]に記載の電池電極用バインダー組成物。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載の電池電極用バインダー組成物を含む、電池電極作製用組成物。
[8]
[7]に記載の電池電極作製用組成物を用いて作製された、電極。
[9]
[8]に記載の電極を備える電池。
[10]
ナノセルロースを含む電池電極用バインダー組成物の製造方法であって、
酸化セルロースと、前記電池電極用バインダー組成物のナノセルロース以外の材料とを含む混合物を撹拌することにより、前記電池電極用バインダー組成物を得る工程を含み、
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、製造方法。
[11]
ナノセルロースを含む電池電極用バインダー組成物の製造方法であって、
酸化セルロースを撹拌し、連続して前記電池電極用バインダー組成物のナノセルロース以外の材料を添加することにより、前記電池電極用バインダー組成物を得る工程を含み、
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、製造方法。
[12]
ナノセルロースを含む電池電極作製用組成物の製造方法であって、
酸化セルロースと、前記電池電極作製用組成物のナノセルロース以外の材料とを含む混合物を撹拌することにより、前記電池電極作製用組成物を得る工程を含み、
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、製造方法。
[13]
ナノセルロースを含む電池電極作製用組成物の製造方法であって、
酸化セルロースを撹拌し、連続して前記電池電極作製用組成物のナノセルロース以外の材料を添加することにより、前記電池電極作製用組成物を得る工程を含み、
前記酸化セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電池電極用バインダー組成物は、塗工性に優れる電池電極作製用組成物を提供する。また、本発明の電池電極用バインダー組成物は、結着性に優れる電極層を提供することができる。また、本発明の電池電極用バインダー組成物によれば、電極及び電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[電池電極用バインダー組成物]
本発明の電池電極用バインダー組成物(以下、単にバインダー組成物ともいう)は、ナノセルロースを含む。本発明のバインダー組成物に含まれるナノセルロースは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、ナノセルロースである。
【0014】
本開示のナノセルロースをバインダーとして用いることにより、塗工性に優れる電池電極作製用組成物が得られ、且つ、結着性に優れる理由は定かではないが、概ね以下のことが考えられる。
ナノセルロースは解繊を経て得られるが、解繊はセルロースミクロフィブリル同士の水素結合が切断されることにより進行する。次亜塩素酸又はその塩を用いた酸化処理では、酸化の進行に伴いミクロフィブリルの重合度の低下(すなわち、セルロース分子鎖の短鎖化)が起こる。この重合度の低下は、機械解繊によってのみでは起こりにくい。また、この重合度の低下は、次亜塩素酸又はその塩で酸化した場合には、例えばTEMPO酸化法による場合に比べて、酸化度の増大に伴い重合度の低下が進行しやすい。このため、酸化処理によりミクロフィブリル1本1本において解繊によって切断すべき水素結合数が少なく、さらには酸化の進行に伴いカルボキシ基量が増加することにより、ミクロフィブリル同士の反発力が強まり、得られるナノセルロースの分散安定性が向上すると考えられる。分散安定性によって、粘度上昇を抑制できることから、塗工性が向上すると考えられる。
また、本発明におけるナノセルロースに含まれるカルボキシ基は、グルコピラノース単位でみたときに、後述するように、グルコピラノース環の水酸基のうち少なくとも2個が酸化された構造を有し、また、C6位の第一級水酸基は、酸化されることなく、そのまま水酸基として存在すると考えられる。一方、TEMPO酸化法によって得られるナノセルロースは、グルコピラノース環のC6位の第一級水酸基が酸化される。以上のとおり、本発明において使用されるナノセルロースは、C6位のヒドロキシメチル基構造を維持することができ、第一級水酸基量を多くできると考えられる。上記ヒドロキシメチル基は、相互作用を形成しやすく、結着性が高められると考えられる。
通常、結着性を高めようとすると、例えば、塗工液等の組成物中の成分の流動性が低下して粘度も上昇しやすいが、本発明におけるナノセルロースは、結着性は維持しながら粘度安定性に優れ、塗工性を電池電極作製用組成物に付与できると考えれる。
【0015】
本発明における電池電極用バインダー組成物とは、電池電極においてバインダーとして用いられるものを指す。ここでバインダーとは、電池電極の構成成分、例えば、活物質等の電極を構成する成分同士、あるいは、活物質等の成分を含む電極層を電極の集電体と結着させる作用を有する成分を指す。本発明のバインダー組成物の性状は、特に制限されず、液状であっても、固形状であってもよい。本発明のバインダー組成物は、ナノセルロースを含む水分散液の態様であってもよい。
【0016】
<ナノセルロース>
本発明におけるナノセルロースは、次亜塩素酸又はその塩によってセルロース系原料を酸化して得られる酸化セルロースのナノ化したものである。ここで、上記酸化セルロースは、セルロース系原料の酸化物ともいうことができる。本発明におけるナノセルロースは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含む。
なお、植物の主成分はセルロースであり、セルロース分子が束になったものがセルロースミクロフィブリルと称される。セルロース系原料中のセルロースもまた、セルロースミクロフィブリルの形態で含まれている。本発明におけるナノセルロースは、セルロースをナノ化したものの総称を表し、微細セルロース繊維やセルロースナノクリスタル等を含む。微細セルロース繊維は、セルロースナノファイバー(CNFとも記載する)ともいう。
本発明のナノセルロースは、カルボキシ基を含むが、当該カルボキシ基はH型(-COOH)であってもよく、塩型であってもよい。塩の種類は、特に制限されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム塩及びバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;マグネシウム塩、アルミニウム塩等のその他の金属塩;アンモニウム塩及び有機アミン塩等が挙げられる。中でも、アルカリ金属塩が好ましく、抵抗の低い電池が得られる観点から、リチウム塩が好ましい。
【0017】
本発明におけるナノセルロースは、セルロース系原料を次亜塩素酸又はその塩で酸化によって得られ、この酸化においてTEMPO等のN-オキシル化合物を用いない。このため、本発明におけるナノセルロースは、N-オキシル化合物を実質的に含まない。したがって、ナノセルロースは、N-オキシル化合物による環境や人体への影響が十分に低減されており安全性が高い。ここで、本明細書において、ナノセルロースが「N-オキシル化合物を実質的に含んでいない」とは、酸化セルロースを製造する際にN-オキシル化合物を用いていない、又は、酸化セルロース中におけるN-オキシル化合物に由来する窒素の含有量が、原料パルプ等のセルロース系原料からの増加分として2.0ppm以下であることを意味する。酸化セルロース中のN-オキシル化合物の量は、原料パルプ等のセルロース系原料からの増加分として好ましくは1.0ppm以下である。N-オキシル化合物の含有量は、公知の手段で測定することができる。公知の手段としては、微量全窒素分析装置を用いる方法が挙げられる。具体的には、酸化セルロース中のN-オキシル化合物由来の窒素成分は、微量全窒素分析装置(例えば、三菱ケミカルアナリテック社製、装置名:TN-2100H等)を用いて窒素量として測定することができる。
【0018】
(カルボキシ基量)
本発明におけるナノセルロース及び酸化セルロースのカルボキシ基量は、0.20mmol/g以上2.0mmol/g未満であることが好ましい。当該カルボキシ基量が0.20mmol/g以上であると、酸化セルロースに十分な易解繊性を付与することができる。これにより、温和な条件によって解繊処理を行った場合にも、分散安定化させた電池電極作製用組成物を得ることができ、塗工性が一層向上できると考えられる。一方、カルボキシ基量が2.0mmol/g未満であると、解繊処理時にセルロースが過度に分解することを抑制でき、粒子状のセルロースの比率が少なく品質が均一なナノセルロースを得ることができる。これによって、ナノセルロースの分散性が向上し、結着性を一層高めることができると考えられる。こうした観点から、本発明におけるナノセルロース及び酸化セルロースのカルボキシ基量は、より好ましくは0.5mmol/g以上であり、更に好ましくは0.6mmol/g以上であり、より更に好ましくは0.65mmol/g以上である。カルボキシ基量の上限については、より好ましくは1mmol/g以下であり、更に好ましくは0.9mmol/gであり、より更に好ましくは0.8mmol/g以下である。
【0019】
なお、カルボキシ基量(mmol/g)は、酸化セルロースを水と混合した水溶液に0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11.0になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から下記式を用いて算出した値である。詳細は、後述する実施例に記載の方法にしたがう。カルボキシ基量は、酸化反応の反応時間、反応温度、反応液のpH等を変更することにより調整することができる。
カルボキシ基量=a(ml)×0.05/酸化セルロース質量(g)
【0020】
上記酸化セルロースは、例えば、反応系内における次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度を比較的高濃度(例えば、14質量%~43質量%)とした条件でセルロース系原料を酸化すること等により得ることができる。また、上記酸化セルロースは、有効塩素濃度、反応の際のpH、反応温度等の反応条件を適宜制御することによっても製造することができる。こうして得られた酸化セルロースは、好適には、セルロースを構成するグルコピラノース環の水酸基のうち少なくとも2個が酸化された構造を有し、より具体的には、グルコピラノース環の第2位及び第3位の水酸基が酸化されてカルボキシ基が導入された構造を有することが好ましい。なお、酸化セルロースが有するグルコピラノース環におけるカルボキシ基の位置は、固体13C-NMRスペクトルにより解析することができる。
【0021】
本発明におけるナノセルロースは、1本単位の繊維の集合体である。本発明におけるナノセルロースがカルボキシル化CNFを含む場合、少なくとも1本のカルボキシル化されたCNFを含んでいればよく、カルボキシル化されたCNFが主成分であることが好ましい。ここでカルボキシル化CNFが主成分であるとは、CNF全量に占めるカルボキシル化CNFの割合が50質量%超過であること、好ましくは70質量%超過であること、より好ましくは80質量%超過であることを指す。上記割合の上限は100質量%であるが、98質量%であってもよく、95質量%であってもよい。
【0022】
本発明におけるナノセルロースの平均繊維長は、50nm以上700nm以下であることが好ましい。平均繊維長が700nmを超える場合、ナノセルロースを含むスラリーが増粘する傾向にある。また、平均繊維長が50nmより小さいとCNFの特長である粘性が発現し難くなると共に活物質同士をセルロースが結着できなくなり結着性が低下する。また、平均繊維長が50nm以上700nm以下であることにより、バインダー組成物あるいは電池電極作製用組成物の粘度の上昇を抑え、分散安定化させた電池電極作製用組成物を得ることができ、塗工性が一層向上できると共に良好な結着性を付与することができると考えられる。
本発明におけるナノセルロースの平均繊維幅は、特に制限されないが、2.0nm以上5.0nm以下であることが好ましい。平均繊維幅が2.0nm以上5.0nm以下であることにより、バインダー組成物あるいは電池電極作製用組成物の粘度の上昇を抑え、分散安定化させた電池電極作製用組成物を得ることができ、塗工性が一層向上できると考えられる。
【0023】
塗工性をさらに向上させる観点から、平均繊維長は、50nm以上550nm以下の範囲がより好ましく、50nm以上500nm以下の範囲がさらに好ましく、50nm以上400nm以下の範囲がよりさらに好ましい。
塗工性をさらに向上させる観点から、平均繊維幅は2.0nm以上4.5nm以下の範囲がより好ましく、2.5nm以上4.0nm以下の範囲がより好ましい。
【0024】
本発明におけるナノセルロースにおいて、平均繊維幅と平均繊維長との比で表されるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)は、20以上200以下であることが好ましい。
アスペクト比が200以下であることにより、ナノセルロースの分散性が向上し、結着性を一層高めることができると考えられる。こうした観点から、アスペクト比は、より好ましくは190以下であり、さらに好ましくは180以下である。
その一方で、アスペクト比が低すぎる、すなわち、ナノセルロースの形状が細長い繊維状というよりも太い棒状である場合、偏在により凝集が起こり、分散性が低下する傾向にある。そのため、アスペクト比は、好ましくは20以上であり、より好ましくは30以上であり、さらに好ましくは40以上である。
【0025】
なお、平均繊維幅及び平均繊維長は、ナノセルロースの濃度が概ね1~10ppmとなるようにナノセルロースと水とを混合し、十分に希釈したセルロース水分散体をマイカ基材上で自然乾燥させ、走査型プローブ顕微鏡を用いてナノセルロースの形状観察を行い、得られた像より任意の本数の繊維を無作為に選択し、形状像の断面高さ=繊維幅とし、周囲長÷2=繊維長とすることにより算出した値である。このような平均繊維幅及び平均繊維長の算出には、画像処理のソフトウェアを用いることができる。このとき画像処理の条件は任意であるが、条件によって同一画像であっても算出される値に差が生じる場合がある。条件による値の差の範囲は、平均繊維長については±100nmの範囲内であることが好ましい。条件による値の差の範囲は、平均繊維幅については±10nmの範囲内であることが好ましい。より詳細な測定方法は、後述の実施例に記載の方法にしたがう。
【0026】
(ナノセルロースの製造方法)
本発明におけるナノセルロースは、市販品を用いてもよく、自ら調製したものを使用してもよい。
本発明のナノセルロースの製造方法について説明する。本発明におけるナノセルロースは、例えば、セルロース系原料を次亜塩素酸又はその塩で酸化して酸化セルロースを得る工程Aと、必要に応じて、酸化セルロースを解繊する工程Bとを含む方法により製造することができる。
【0027】
(工程A:酸化セルロースの製造)
セルロース系原料は、セルロースを主体とする材料であれば特に限定されず、例えば、パルプ、天然セルロース、再生セルロース、及びセルロースを機械的処理することにより解重合した微細セルロース等が挙げられる。セルロース系原料としては、パルプを原料とする結晶セルロース等の市販品をそのまま使用することができる。その他、おからや大豆皮等、セルロース成分を多量に含む未利用バイオマスを原料としてもよい。また、使用する酸化剤を原料パルプの中に浸透しやすくする目的で、予めセルロース系原料を適度な濃度のアルカリで処理してもよい。
【0028】
セルロース系原料の酸化に使用される次亜塩素酸又はその塩としては、次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、及び次亜塩素酸アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いやすさの点から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0029】
セルロース系原料の酸化により酸化セルロースを製造する方法としては、セルロース系原料と、次亜塩素酸又はその塩を含む反応液とを混合する方法が挙げられる。反応液に含まれる溶媒は、取り扱いやすい点や副反応が生じにくい点で、水が好ましい。反応液における次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度は、好ましくは7~43質量%、より好ましくは14~43質量%であることが好ましい。反応液の有効塩素濃度が上記範囲であると、酸化セルロース中のカルボキシ基量を十分に多くでき、酸化セルロースの解繊を容易に行うことができる。
【0030】
酸化セルロースのカルボキシ基量を十分に多くする観点から、反応液の有効塩素濃度は、より好ましくは15質量%以上であり、さらに好ましくは18質量%以上であり、よりさらに好ましくは20質量%以上である。また、解繊時にセルロースが過度に分解することを抑制する観点から、反応液の有効塩素濃度は、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは38質量%以下である。反応液の有効塩素濃度の範囲は、既述の下限及び上限を適宜組み合わせることができる。当該有効塩素濃度の範囲は、より好ましくは16~43質量%であり、さらに好ましくは18~40質量%である。
【0031】
なお、次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度は、以下のように定義される。次亜塩素酸は水溶液として存在する弱酸であり、次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸の水素が他の陽イオンに置換された化合物である。例えば、次亜塩素酸塩である次亜塩素酸ナトリウムは溶媒中(好ましくは水溶液中)に存在するため、次亜塩素酸ナトリウムの濃度ではなく、溶液中の有効塩素量として濃度が測定される。ここで、次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素について、次亜塩素酸ナトリウムの分解により生成する2価の酸素原子の酸化力が1価の塩素の2原子当量に相当するため、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の結合塩素原子は、非結合塩素(Cl2)の2原子と同じ酸化力を持ち、有効塩素=2×(NaClO中の塩素)となる。測定の具体的な手順としては、まず試料を精秤し、水、ヨウ化カリウム及び酢酸を加えて放置し、遊離したヨウ素についてデンプン水溶液を指示薬としてチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し有効塩素濃度を測定する。
【0032】
次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化反応は、pHを5.0~14.0の範囲に調整しながら行うとよい。この範囲であると、セルロース系原料の酸化反応を十分に進行させることができ、酸化セルロース中のカルボキシ基量を十分に多くすることができる。これにより、酸化セルロースの解繊を容易に行うことができる。反応系のpHは、より好ましくは7.0以上であり、さらに好ましくは8.0以上である。反応系のpHの上限については、より好ましくは13.5以下であり、さらに好ましくは13.0以下である。また、反応系のpHの範囲は、より好ましくは7.0~14.0であり、さらに好ましくは8.0~13.5である。
【0033】
以下、次亜塩素酸又はその塩として次亜塩素酸ナトリウムを用いる場合を例にして、酸化セルロースを製造する方法についてさらに説明する。
【0034】
次亜塩素酸ナトリウムを用いてセルロース系原料の酸化を行う場合、反応液は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液であることが好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度を目的とする濃度(例えば、目的濃度:7質量%~43質量%)に調整する方法としては、目的濃度よりも有効塩素濃度の低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を濃縮する方法、目標濃度よりも有効塩素濃度の高い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈する方法、及び次亜塩素酸ナトリウムの結晶(例えば、次亜塩素酸ナトリウム5水和物)を溶媒に溶解する方法等が挙げられる。これらの中でも、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈する方法、又は次亜塩素酸ナトリウムの結晶を溶媒に溶解する方法により酸化剤としての有効塩素濃度に調整することが、自己分解が少なく(すなわち、有効塩素濃度の低下が少なく)、有効塩素濃度の調整が簡便であるため好ましい。
【0035】
セルロース系原料の酸化反応を効率良く進行させるために、酸化反応中は、セルロース系原料と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との混合液を撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌の方法としては、例えば、マグネチックスターラー、撹拌棒、撹拌翼付き撹拌機(スリーワンモータ)、ホモミキサー、ディスパー型ミキサー、ホモジナイザー、外部循環撹拌等が挙げられる。これらのうち、セルロース系原料の酸化反応が円滑に進行しやすい点で、ホモミキサー及びホモジナイザー等のせん断式撹拌機、撹拌翼付き撹拌機、並びにディスパー型ミキサーのうち1種又は2種以上を用いる方法が好ましく、攪拌翼付き撹拌機を用いる方法が特に好ましい。撹拌翼付き撹拌機を用いる場合、撹拌機としては、プロペラ翼、パドル翼、タービン翼等の公知の撹拌翼を備える装置を使用することができる。また、撹拌翼付き撹拌機を用いる場合、回転速度50~300rpmにて撹拌を行うことが好ましい。
【0036】
酸化反応における反応温度は、15℃~100℃であることが好ましく、20℃~90℃であることがさらに好ましい。反応中は、酸化反応によりセルロース系原料にカルボキシ基が生成することに伴い反応系のpHが低下する。このため、酸化反応を効率良く進行させる観点から、アルカリ剤(例えば、水酸化ナトリウム等)又は酸(例えば、塩酸等)を反応系中に添加し、反応系のpHを上記好ましい範囲に調整することが好ましい。酸化反応の反応時間は、酸化の進行の程度に従って設定することができるが、15分~50時間程度とすることが好ましい。反応系のpHを10以上とする場合には、反応温度を30℃以上及び/又は反応時間を30分以上に設定することが好ましい。
【0037】
上記反応により得られた酸化セルロースを含む溶液を用いて、ろ過等の公知の単離処理を行い、さらに必要に応じて精製することにより、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物として酸化セルロースを得ることができる。なお、上記反応により得られた酸化セルロースを含む溶液をそのまま解繊処理に供してもよい。
【0038】
(工程B:解繊処理)
本発明におけるナノセルロースは、上記で得られた酸化セルロースを解繊してナノ化することにより得ることができる。酸化セルロースを解繊する方法としては、マグネチックスターラー等を用いた弱い撹拌による方法、機械的解繊による方法等が挙げられる。酸化セルロースの解繊を十分に行うことができ、また解繊時間の短縮を図ることができる点で、酸化セルロースの解繊は機械的解繊によることが好ましい。
【0039】
機械的解繊の方法としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、二重円筒型ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、水流対抗衝突型分散機、ビーター、ディスク型リファイナー、コニカル型リファイナー、ダブルディスク型リファイナー、グラインダー、一軸又は多軸混錬機、自転公転撹拌機、振動型撹拌機等の各種混合・撹拌装置による方法が挙げられる。これらの装置を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用し、好ましくは分散媒中で酸化セルロースを処理することにより、酸化セルロースをナノ化してナノセルロースを製造することができる。
【0040】
酸化セルロースの解繊は、解繊がより進んだナノセルロースを製造できる点で、超高圧ホモジナイザーによる方法を好ましく用いることができる。超高圧ホモジナイザーによる解繊処理を適用する場合、解繊処理時の圧力は、好ましくは100MPa以上であり、より好ましくは120MPa以上であり、さらに好ましくは150MPa以上である。解繊処理回数は特に限定されないが、解繊を十分に進行させる観点から、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上である。また、上記酸化セルロースは、自転公転撹拌機及び振動型撹拌機等による温和な撹拌によっても十分に解繊できる。振動型撹拌機としては、例えば、ボルテックスミキサー(タッチミキサー)が挙げられる。すなわち、上記酸化セルロースによれば、温和な解繊条件により解繊処理を行った場合にも、均一化されたナノセルロースを得ることができる。
【0041】
解繊処理は、好ましくは上記酸化セルロースを分散媒と混合した状態で行われる。当該分散媒としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。分散媒の具体例としては、水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキサイド等が挙げられる。溶媒としては、これらのうちの1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0042】
上記分散媒のうち、アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、メチルセロソルブ、エチレングリコール及びグリセリン等が挙げられる。エーテル類としては、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン及びテトラヒドロフラン等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン及びメチルエチルケトン等が挙げられる。
解繊処理の際に分散媒として有機溶剤を使用することにより、酸化セルロース及びこれを解繊して得られるナノセルロースの単離が容易となる。
【0043】
本発明におけるナノセルロースは、以下のゼータ電位及び光透過率を満たすことが好ましい。
【0044】
(ゼータ電位)
本発明におけるナノセルロースは、好ましくはゼータ電位が-30mV以下である。ゼータ電位が-30mV以下(すなわち、絶対値が30mV以上)であると、ミクロフィブリル同士の反発が十分に得られ、機械的解繊時に表面電荷密度が高いナノセルロースが生じやすくなる。これにより、ナノセルロースの分散性が向上し、スラリーとしたときの粘度安定性に優れる傾向にある。その結果、本発明のナノセルロースを含む電池電極作製用組成物を得た際に、塗工性と結着性とをより両立できる傾向にある。
ゼータ電位が-100mV以上(すなわち、絶対値が100mV以下)の場合には、酸化の進行に伴う繊維方向の酸化切断が抑制される傾向にあるため、均一なサイズのナノセルロースを得ることができ、バインダー組成物あるいは電池電極作製用組成物にはナノセルロースが均一に分散し、結着性がより高まる傾向にある。
【0045】
本発明におけるナノセルロースのゼータ電位は、-35mV以下が好ましく、-40mV以下がより好ましく、-50mV以下がさらに好ましい。また、ゼータ電位の下限については、-70mV以上が好ましく、-65mV以上がより好ましく、-60mV以上がさらに好ましい。ゼータ電位の範囲は、既述の下限及び上限を適宜組み合わせることができる。
なお、本明細書においてゼータ電位は、ナノセルロースと水とを混合してナノセルロースの濃度を0.1質量%としたセルロース水分散体につき、pH8.0、20℃の条件で測定した値である。
具体的には、以下の方法に従い測定することができる。
ナノセルロースの水分散体に純水を加えて、ナノセルロースの濃度が0.1%になるように希釈する。希釈後のナノセルロースの水分散体に、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.0に調整して、大塚電子社製ゼータ電位計(ELSZ-1000)等のゼータ電位測定装置によりゼータ電位を20℃で測定する。
【0046】
(光透過率)
本発明におけるナノセルロースは、凝集物が少なく、分散媒中に分散させたナノセルロース分散体は、微細セルロース繊維の光散乱等が少なく、高い光透過率を示す傾向にある。具体的には、本発明におけるナノセルロースは、水と混合して固形分濃度0.1質量%とした混合液における光透過率が95%以上であることが好ましい。当該光透過率は、より好ましくは96%以上であり、さらに好ましくは97%以上である。なお、光透過率は、分光光度計により測定した波長660nmでの値である。また、光透過率は、ナノセルロースを含む水分散体を用いて測定することができる。
具体的には、以下の方法に従い測定することができる。
ナノセルロースの水分散体を10mm厚の石英セルに入れて、JASCO V-550等の分光光度計により波長660nmの光透過率を測定する。
【0047】
ナノセルロースのゼータ電位及び光透過率は、酸化反応の反応時間、反応温度、撹拌条件等を調整することにより調整することができる。具体的には、反応時間を長くする、及び/又は反応温度を高くするに従って、セルロース系原料中のセルロースミクロフィブリル表面への酸化が進行し、静電的反発や浸透圧によりフィブリル間の反発が強まることにより平均繊維幅がより小さくなる傾向がある。また、酸化をより進行させる側(すなわち、酸化度合いを高くする側)に酸化の反応時間、反応温度及び撹拌条件の1つ以上を設定する(例えば、反応時間を長くする)ことによってゼータ電位を高くできる傾向がある。
【0048】
本発明におけるナノセルロースは、上述のとおり、酸化セルロースを経由して得られる。ここで、本発明に用いられる酸化セルロースの重合度は600以下であることが好ましい。酸化セルロースの重合度が600を超えると、解繊に大きなエネルギーを要する傾向にあり、十分な易解繊性を発現することができず、ナノセルロースの粘度安定性及び分散性の低下、ひいては塗工性及び結着性の低下を招来する傾向にある。また、酸化セルロースの重合度が600を超えると、解繊が不十分な酸化セルロースが多くなるため、これを微細化したナノセルロースを分散媒中に分散させた場合に光散乱等が多くなり、透明度が低下することがある。易解繊性の観点からは、酸化セルロースの重合度の下限は特に設定されない。ただし、酸化セルロースの重合度が50未満であると、繊維状というより粒子状のセルロースの割合が多くなり、ナノセルロースとしての効果が低下する恐れがある。上記の観点から、酸化セルロースの重合度は、50以上600以下の範囲であることが好ましい。
【0049】
酸化セルロースの重合度は、より好ましくは580以下であり、さらに好ましくは560以下であり、よりさらに好ましくは550以下であり、一層好ましくは500以下であり、より一層好ましくは450以下である。重合度の下限については、スラリーの粘度安定性及び塗工性を良好にする観点から、より好ましくは80以上であり、さらに好ましくは90以上であり、よりさらに好ましくは100以上であり、一層好ましくは110以上であり、より一層好ましくは120以上である。重合度の好ましい範囲は、既述の上限及び下限を適宜組み合わせることにより定めることができる。
酸化セルロースの重合度は、粘度法により測定された平均重合度(粘度平均重合度)である。詳細は、以下の記載の方法に従う。
pH10に調整した水素化ホウ素ナトリウム水溶液に酸化セルロースを加え、25℃で5時間、還元処理を行った。水素化ホウ素ナトリウム量は、酸化セルロース1gに対して0.1gとした。還元処理後、吸引ろ過にて固液分離、水洗を行い、得られた酸化セルロース繊維を凍結乾燥させた。純水10mlに乾燥させた酸化セルロース繊維0.04gを加えて2分間撹拌した後、1M銅エチレンジアミン溶液10mlを加えて溶解させた。その後、キャピラリー型粘度計にて25℃でブランク溶液の流下時間とセルロース溶液の流下時間測定した。ブランク溶液の流下時間(t0)とセルロース溶液の流下時間(t)、酸化セルロース繊維の濃度(c[g/ml])から次式のように相対粘度(ηr)、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を順次求め、粘度測の式から酸化セルロースの重合度(DP)を計算した。
ηr=η/η0=t/t0
ηsp=ηr-1
[η]=ηsp/(100×c(1+0.28ηsp))
DP=175×[η]
【0050】
なお、酸化セルロースの重合度は、酸化反応の際の反応時間、反応温度、pH、及び次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度等を変更することにより調整することができる。具体的には、酸化度を高めると重合度が低下する傾向があることから、重合度を小さくするには、例えば酸化の反応時間及び/又は反応温度を大きくする方法が挙げられる。他の方法として、酸化セルロースの重合度は、酸化反応時の反応系の攪拌条件によって調整することができる。例えば、攪拌翼等を用いて反応系を十分に均一化した条件下であれば、酸化反応が円滑に進行し、重合度が低下する傾向がある。一方、スターラーによる攪拌等のように反応系の攪拌が不十分となりやすい条件下では、反応が不均一になりやすく、酸化セルロースの重合度を十分に低減することが難しい。また、酸化セルロースの重合度は、原料セルロースの選択によっても変動する傾向がある。このため、セルロース系原料の選択によって酸化セルロースの重合度を調整することもできる。
【0051】
<その他のバインダー成分>
本発明のバインダー組成物には、上記ナノセルロース以外のその他のバインダー成分を含んでいてもよい。その他のバインダー成分としては、電池電極の活物質等の材料を集電体に結着させる際に一般に使用されるものであれば特に制限されない。また、その他のバインダー成分は、活物質、集電体等の種類等に応じて適宜選択すればよい。その他のバインダー成分としては、例えば、粒子状重合体、及び、カルボキシ基を有する重合体又はその塩等を好適に挙げることができる。これらのバインダー成分は一種単独で含んでいてもよく、二種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0052】
(粒子状重合体)
粒子状重合体としては、例えば、芳香族ビニル単量体/脂肪族共役ジエン系単量体のラテックス、アクリル系ラテックス、及びポリフッ化ビニリデン系ラテックス等のラテックスを挙げることができる。これらの粒子状重合体は、市販品を用いてもよく、これらのラテックスを構成するモノマーより公知の方法により重合し製造して用いてもよい。これらのラテックスは一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
芳香族ビニル単量体/脂肪族共役ジエン系単量体のラテックスにおける芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。上記脂肪族共役ジエン系単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン等のブタジエン系化合物が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
芳香族ビニル単量体/脂肪族共役ジエン系単量体のラテックスとしては、スチレン/ブタジエン系ラテックス(以下、SBRとも記載する)が好ましい。上記スチレン/ブタジエン系ラテックスとは、スチレン等の芳香族ビニル単量体に由来する構造単位及び上記ブタジエン系化合物に由来する構造単位を有する共重合体の水系分散体を示す。
上記共重合体中における上記芳香族ビニル単量体に由来する構造単位は、結着性の観点から、例えば、20~60質量%の範囲としてよく、30~50質量%の範囲としてもよい。
上記共重合体中における上記脂肪族共役ジエン系単量体に由来する構造単位は、バインダーの結着性及び得られる電極の柔軟性が良好なものとなる観点から、例えば、30~70質量%の範囲としてよく、40~60質量%の範囲としてもよい。
【0055】
スチレン/ブタジエン系ラテックスは、上記の単量体以外にも、結着性等の性能をさらに向上させるために、その他の単量体として(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有単量体、(メタ)アクリル酸、イタンコン酸、マレイン酸等のカルボキシ基含有単量体を共重合単量体として含んでいてもよい。
上記共重合体中における上記その他の単量体に由来する構造単位は、例えば、0~30質量%の範囲としてよく、0~20質量%の範囲としてもよい。
【0056】
(カルボキシ基を有する重合体又はその塩)
カルボキシ基を有する重合体又はその塩(以下、単に重合体ともいう)は、カルボキシ基を有する単量体に由来する構造単位を含む。カルボキシ基を有する単量体としては、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を挙げることができる。上記カルボキシ基を有する重合体又はその塩は、市販品を用いてもよく、この重合体を構成するモノマー、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体より公知の方法により重合し製造して用いてもよい。
カルボキシ基を有する単量体に由来する構造単位は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体を重合することにより重合体に導入することができる。その他にも、(メタ)アクリル酸エステル単量体を(共)重合した後、加水分解することによっても得られる。また、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリロニトリル等を重合した後、強アルカリで処理してもよいし、水酸基を有する重合体に酸無水物を反応させる方法であってもよい。
【0057】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸;(メタ)アクリルアミドヘキサン酸及び(メタ)アクリルアミドドデカン酸等の(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸;コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体またはそれらの(部分)アルカリ中和物が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記の中でも、重合速度が大きいために一次鎖長の長い重合体が得られ、バインダーの結着力をより高める観点から、好ましくは重合性官能基としてアクリロイル基を有する化合物、より好ましくはアクリル酸である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてアクリル酸を用いた場合、カルボキシ基含有量の高い重合体を得ることができる。
【0058】
カルボキシ基を有する単量体に由来する構造単位の含有量は、特に限定するものではなく、カルボキシ基を有する重合体の全構造単位に対して0質量%超過100質量%以下の範囲であればよく、10質量%以上100質量%以下の範囲であってもよい。かかる範囲でカルボキシ基を有する単量体に由来する構造単位を含有することで、集電体に対する優れた接着性を容易に確保することができる。上記含有量の下限は、20質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよい。上記含有量の上限は、99質量%以下であってもよく、95質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0059】
カルボキシ基を有する重合体は、カルボキシ基を有する単量体に由来する構造単位以外に、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(以下、その他の構造単位ともいう。)を含むことができる。その他の構造単位としては、例えば、スルホン酸基及びリン酸基等のカルボキシ基以外のアニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体化合物、及び非イオン性のエチレン性不飽和単量体等に由来する構造単位等が挙げられる。
これらの構造単位は、スルホン酸基及びリン酸基等のカルボキシ基以外のアニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体化合物、又は非イオン性のエチレン性不飽和単量体を含む単量体を共重合することにより導入することができる。
その他の構造単位の割合は、カルボキシ基を有する重合体の全構造単位に対して、0質量%以上100質量%未満の範囲とすることができる。その他の構造単位の割合は、1質量%以上60質量%以下であってもよい。
【0060】
カルボキシ基を有する重合体は、当該重合体中に含まれるカルボキシ基の一部又は全部が中和された塩の形態であってもよい。塩の種類としては特に限定しないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム塩及びバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;マグネシウム塩、アルミニウム塩等のその他の金属塩;アンモニウム塩及び有機アミン塩等が挙げられる。これらの中でも電池特性への悪影響が生じにくい点からアルカリ金属塩及びマグネシウム塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましい。中でも、抵抗の低い電池が得られる観点から、リチウム塩が特に好ましい。
【0061】
カルボキシ基を有する重合体は、架橋性単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。カルボキシ基を有する重合体が架橋構造を有することにより、当該架橋重合体又はその塩を含むバインダー組成物は、結着力をより高められる傾向にある。
上記架橋性単量体に由来する構造単位の含有量は、カルボキシ基を有する重合体を構成する単量体単位総量100質量部に対して、0.1質量部以上2.0質量部以下であることが好ましい。
【0062】
架橋性単量体としては、例えば、2個以上の重合性不飽和基を有する多官能重合性単量体、及び加水分解性シリル基等の自己架橋可能な架橋性官能基を有する単量体等が挙げられる。
【0063】
上記多官能重合性単量体とは、(メタ)アクリロイル基、アルケニル基等の重合性官能基を分子内に2つ以上有する化合物を指し、例えば、多官能(メタ)アクリレート化合物、多官能アルケニル化合物、(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの内でも、均一な架橋構造を容易に得れる観点から、多官能アルケニル化合物が好ましく、分子内に複数のアリルエーテル基を有する多官能アリルエーテル化合物がより好ましい。
【0064】
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性体のトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート;メチレンビスアクリルアミド、ヒドロキシエチレンビスアクリルアミド等のビスアミド類等を挙げることができる。
【0065】
多官能アルケニル化合物としては、例えば、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、ポリアリルサッカロース等の多官能アリルエーテル化合物;ジアリルフタレート等の多官能アリル化合物;ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物等を挙げることができる。
【0066】
(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸イソプロペニル、(メタ)アクリル酸ブテニル、(メタ)アクリル酸ペンテニル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等を挙げることができる。
【0067】
上記自己架橋可能な架橋性官能基を有する単量体としては、例えば、加水分解性シリル基含有ビニル単量体、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
本発明のバインダー組成物あるいは電池電極作製用組成物において、カルボキシ基を有する重合体は、粒子として存在することが好ましい。カルボキシ基を有する重合体は粒子としてバインダー組成物あるいは電池電極作製用組成物中に分散していることが好ましい。
カルボキシ基を有する重合体は、中和度を80~100モル%に中和した後、水中に分散させた際の粒子径(水膨潤粒子径ともいう)が、体積基準メジアン径で0.1μm以上5.0μm以下の範囲にあることが好ましい。上記中和度は、上記重合体が有するカルボキシ基に基づくものであることが好ましい。上記粒子径のより好ましい範囲は、0.1μm以上5.0μm以下であり、さらに好ましい範囲は0.5μm以上3.0μm以下である。粒子径が0.1μm以上5.0μm以下の範囲であれば、本発明の組成物中において好適な大きさで均一に存在するため、本発明の組成物の安定性が高く、より優れた結着性を発揮することができる傾向にある。
また、カルボキシ基を有する重合体の乾燥時における粒子径(乾燥粒子径)は、体積基準メジアン径で0.03μm以上3μm以下の範囲にあることが好ましい。
【0069】
カルボキシ基を有する重合体は、本発明のバインダー組成物あるいは電池電極作製用組成物中において、中和度が20モル%以上となるように、エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来のカルボキシ基等の酸基が中和され、塩の態様として用いることが好ましい。上記中和度は、より好ましくは50モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上であり、よりさらに好ましくは75モル%以上であり、さらにより好ましくは80モル%以上であり、一層好ましくは85モル%以上である。中和度の上限値は100モル%であり、98モル%であってもよく95モル%であってもよい。中和度の範囲は、上記下限値及び上限値を適宜組合せることができる。中和度が20モル%以上の場合、水膨潤性が良好となり分散安定化効果が得やすい傾向にある。
本明細書では、上記中和度は、カルボキシ基等の酸基を有する単量体及び中和に用いる中和剤の仕込み値から計算により算出することができる。なお、中和度は架橋重合体又はその塩を、減圧条件下、80℃で3時間乾燥処理後の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸塩のC=O基由来のピークの強度比より確認することができる。中和度は、より詳細には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0070】
(カルボキシ基を有する重合体の製造方法)
カルボキシ基を有する重合体は、溶液重合、沈殿重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法を使用することが可能であり、生産性の観点から沈殿重合及び懸濁重合(逆相懸濁重合)が好ましい。結着性等に関してより良好な性能を得る観点から、沈殿重合、懸濁重合、乳化重合等の不均一系の重合法が好ましく、中でも沈殿重合法がより好ましい。
沈殿重合は、原料である不飽和単量体を溶解するが、生成する重合体を実質溶解しない溶媒中で重合反応を行うことにより重合体を製造する方法である。重合の進行とともにポリマー粒子は凝集及び成長により大きくなり、数十nm~数百nmの一次粒子が数μm~数十μmに二次凝集したポリマー粒子の分散液が得られる。ポリマーの粒子サイズを制御するために分散安定剤を使用してもよい。
【0071】
沈殿重合の場合、重合溶媒は、使用する単量体の種類等を考慮して水及び各種有機溶剤等から選択される溶媒を使用することができる。より一次鎖長の長い重合体を得るためには、連鎖移動定数の小さい溶媒を使用することが好ましい。具体的な重合溶媒としては、メタノール、t-ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル及びテトラヒドロフラン等の水溶性溶剤の他、ベンゼン、酢酸エチル、ジクロロエタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン及びn-ヘプタン等が挙げられ、これらの1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。又は、これらと水との混合溶媒として用いてもよい。本発明において水溶性溶剤とは、20℃における水への溶解度が10g/100mlより大きいものを指す。
上記の内、析出した重合体微粒子が二次凝集しにくい(若しくは二次凝集が生じても水媒体中で解れやすい)こと、連鎖移動定数が小さく重合度(一次鎖長)の大きい重合体が得られること、及び中和の際に操作が容易であること等の点で、メチルエチルケトン及びアセトニトリルが好ましい。
また、アクリル酸等の親水性の高いエチレン性不飽和カルボン酸単量体の重合では、高極性溶媒を加えた場合には重合速度が向上し、一次鎖長の長い重合体を得やすくなる。係る高極性溶媒としては、好ましくは水及びメタノールが挙げられ、中でも水は上記重合速度を向上させる効果が大きく好ましい。
【0072】
重合開始剤は、アゾ系化合物、有機過酸化物、無機過酸化物等の公知の重合開始剤を用いることができるが、特に限定されるものではない。
重合開始剤の好ましい使用量は、用いる単量体成分の総量を100質量部としたときに、通常0.001~2質量部であればよく、0.005~1質量部であってもよく、0.01~0.1質量部であってもよい。
【0073】
重合温度は、使用する単量体の種類及び濃度等の条件にもよるが、0~100℃が好ましく、20~80℃がより好ましい。重合温度は一定であってもよいし、重合反応の期間において変化するものであってもよい。また、重合時間は1分間~20時間が好ましく、1時間~10時間がより好ましい。
重合後に、適宜塩基を加えて中和してもよい。
【0074】
本発明のバインダー組成物は、上述したナノセルロースあるいは酸化セルロースに、必要に応じて、粒子状重合体や、カルボキシ基を有する重合体又はその塩等のその他のバインダー成分を配合して、製造することができる。本発明のバインダー組成物は、水を含むことが好ましい。
上記のとおり、バインダー組成物の製造の際酸化セルロースを使用できる。上記酸化セルロースは、製造の際に、分散させる操作や混錬する操作によって、組成物中で解繊されてナノセルロースとなる。具体的には、上記酸化セルロースとバインダー組成物の酸化セルロース以外の材料とを配合して、分散あるいは混錬操作等の撹拌を行い混合物中で解繊させたり、酸化セルロースの使用者が自ら解繊してナノ化させたりすることによって、ナノセルロースとすることができる。上記撹拌としては、上述した(工程B:解繊処理)によって行うことができる。
本発明の一つは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない酸化セルロースを材料として用いるバインダー組成物の製造方法であり、具体的には、ナノセルロースを含む電池電極用バインダー組成物の製造方法であって、酸化セルロースと、上記電池電極用バインダー組成物のナノセルロース以外の材料とを含む混合物を撹拌することにより、上記電池電極用バインダー組成物を得る工程を含む、製造方法である。また、本発明の一つは、ナノセルロースを含む電池電極用バインダー組成物の製造方法であって、酸化セルロースを撹拌し、連続して上記電池電極用バインダー組成物のナノセルロース以外の材料を添加することにより、上記電池電極用バインダー組成物を得る工程を含む、製造方法である。
ここで、ナノセルロース、酸化セルロース、及び電池電極用バインダー組成物の態様は、上記にて説明したとおりである。電池電極用バインダー組成物のナノセルロース以外の材料とは、電池電極用バインダー組成物に含まれうる、ナノセルロース以外の任意の材料であり、例えば、上述したその他のバインダー成分や分散媒を挙げることができるが、これらに限定されない。
また、本明細書において「連続して材料を添加する」とは、撹拌による酸化セルロースの微細化と材料の添加とを一連で行うことを意味する。撹拌と添加を一連で行う具体的な態様としては、例えば、酸化セルロースを撹拌して微細化することと上記材料を添加することをワンポットで操作する態様;酸化セルロースの撹拌を行いながら、同時に上記材料を添加する態様;等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
<電池電極作製用組成物>
本発明の電池電極作製用組成物は、本発明のバインダー組成物を含む。本発明の電池電極作製用組成物とは、電池電極を得るための材料組成物であり、電池電極の合剤層を作製することに好適に用いられる。合剤層の作製に用いられるとき、本発明の電池電極作製用組成物を電池電極合剤層用組成物ともいう。
本発明の電池電極作製用組成物は、本発明のバインダー組成物に加えて、電池電極を構成する成分や電極を形成するための成分といった電極材料を含むことが好ましい。また、上記電池電極合剤層用組成物は、合剤層を構成する成分や合剤層を形成するための成分を含み、バインダー組成物の他、活物質及び水を含むことが好ましい。
【0076】
本発明の電池電極作製用組成物における本発明のバインダー組成物の使用量は、活物質の全量に対して、通常0.1質量%以上20質量%以下であればよく、0.2質量%以上10質量%以下であってもよく、0.3質量%以上8質量%以下であってもよい。バインダーの使用量が0.1質量%以上であれば、十分な結着性を得ることができる。また、活物質等の分散安定性を確保することができ、均一な合剤層を形成することができる傾向にある。バインダーの使用量が20質量%以下であれば、電極合剤層組成物が高粘度となることはなく、集電体への塗工性を確保することができる。その結果、均一で平滑な表面を有する合剤層を形成することができる。
【0077】
本発明において用いられる活物質は、正極活物質であってもよく、負極活物質であってもよい。
正極活物質としては、遷移金属酸化物のリチウム塩を用いることができ、例えば、層状岩塩型及びスピネル型のリチウム含有金属酸化物を使用することができる。層状岩塩型の正極活物質の具体的な化合物としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、並びに、三元系と呼ばれるNCM{Li(Nix,Coy,Mnz)、x+y+z=1}及びNCA{Li(Ni1-a-bCoaAlb)}等が挙げられる。また、スピネル型の正極活物質としてはマンガン酸リチウム等が挙げられる。酸化物以外にもリン酸塩、ケイ酸塩及び硫黄等が使用され、リン酸塩としては、オリビン型のリン酸鉄リチウム等が挙げられる。正極活物質としては、上記のうちの1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて混合物又は複合物として使用してもよい。正極活物質には、導電助剤を添加して使用されてもよい。導電助剤としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、黒鉛微粉、炭素繊維等の炭素系材料が挙げられる。導電助剤は、上記の1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0078】
負極活物質としては、例えば、炭素系材料、リチウム金属、リチウム合金及び金属酸化物等が挙げられる。これらの内の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの内でも、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン及びソフトカーボン等の炭素系材料からなる活物質(以下、「炭素系活物質」ともいう)が好ましく、天然黒鉛及び人造黒鉛等の黒鉛、並びにハードカーボンがより好ましい。また、黒鉛の場合、電池性能の面から球形化黒鉛が好適に用いられ、その粒子サイズの好ましい範囲は、例えば、1~20μmであり、また例えば、5~15μmである。また、エネルギー密度を高くするために、ケイ素やスズ等のリチウムを吸蔵できる金属又は金属酸化物等を負極活物質として使用することもできる。
【0079】
本発明の電池電極作製用組成物はスラリー状であることができる。本発明の電池電極作製用組成物がスラリー状の場合、活物質の使用量は、組成物全量に対して、通常10~75質量%の範囲であればよく、30~65質量%の範囲であってもよい。
【0080】
電池電極作製用組成物は、媒体として水を含むことが好ましい。また、組成物の性状及び乾燥性等を調整する目的で、メタノール及びエタノール等の低級アルコール類、エチレンカーボネート等のカーボネート類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン等の水溶性有機溶剤との混合溶媒としてもよい。混合媒体中の水の割合は、通常50質量%以上であればよく、70質量%以上であってもよい。
【0081】
電池電極作製用組成物を塗工可能なスラリー状態とする場合、組成物全体に占める水を含む媒体の含有量は、スラリーの塗工性、及び乾燥に必要なエネルギーコスト、生産性の観点から、通常25~90質量%の範囲とすればよく、35~70質量%としてもよい。
【0082】
本発明の電池電極作製用組成物は、当該組成物の構成成分を混合することにより得られる。各成分の混合方法は特段制限されるものではなく、公知の方法を採用することができるが、バインダー組成物、活物質、導電助剤等の各成分を、水等の分散媒と混合し、分散混練する方法が好ましい。電池電極作製用組成物をスラリー状態で得る場合、分散不良や凝集のないスラリーに仕上げることが好ましい。
混合手段としては、プラネタリーミキサー、薄膜旋回式ミキサー及び自公転式ミキサー等の公知のミキサーを使用することができるが、短時間で良好な分散状態が得られる点で薄膜旋回式ミキサーを使用して行うことが好ましい。また、薄膜旋回式ミキサーを用いる場合は、予めディスパー等の攪拌機で予備分散を行うことが好ましい。
また、上記スラリーの粘度は、60rpmにおけるB型粘度として、塗工性の観点から、500~10,000mPa・sの範囲とすればよい。
電池電極作製用組成物を湿粉状態で得る場合、バインダー組成物、活物質、導電助剤等の各成分を、ヘンシェルミキサー、ブレンダー、プラネタリーミキサー及び2軸混練機等を用いて、濃度ムラのない均一な状態まで混練することが好ましい。
【0083】
本発明の電池電極作製用組成物を製造する際、本発明のナノセルロースにする前(すなわち、ナノ化する前)の酸化セルロースを材料として用いることができる。上記酸化セルロースは、製造の際に、分散させる操作や混錬する操作によって、組成物中で解繊されてナノセルロースとなる。具体的には、上記酸化セルロースと電池電極作製用組成物のその他の材料とを配合して、分散あるいは混錬操作を行い混合物中で解繊させたり、酸化セルロースの使用者が自ら解繊してナノ化させたりすることによって、ナノセルロースとすることができる。分散させる操作や混錬する操作としては、上述した(工程B:解繊処理)によって行うことができる。
本発明の一つは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物を含み、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない酸化セルロースを材料として用いる電池電極作製用組成物の製造方法であり、具体的には、ナノセルロースを含む電池電極作製用組成物の製造方法であって、酸化セルロースと、上記電池電極作製用組成物のナノセルロース以外の材料とを含む混合物を撹拌することにより、上記電池電極作製用組成物を得る工程を含む、製造方法である。また、本発明の一つは、ナノセルロースを含む電池電極作製用組成物の製造方法であって、酸化セルロースを撹拌し、連続して上記電池電極作製用組成物のナノセルロース以外の材料を添加することにより、上記電池電極作製用組成物を得る工程を含む、製造方法である。
ここで、ナノセルロース、酸化セルロース、及び電池電極作製用組成物の態様は、上記にて説明したとおりである。電池電極作製用組成物のナノセルロース以外の材料とは、電池電極作製用組成物に含まれうる、ナノセルロース以外の任意の材料であり、例えば、上述したその他のバインダー成分、分散媒、電池電極を構成する成分(具体的には活物質等)や、電極を形成するための成分(具体的には水等)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0084】
本発明の電池電極作製用組成物は、本発明のバインダー組成物を含むが、バインダー組成物が2種以上のバインダー成分を含むとき、各々のバインダー成分を電池電極作製用組成物の製造時に配合してもよく、あらかじめ各々のバインダー成分の混合物を配合してもよい。
【0085】
<電極、電池>
本発明の電池電極は、本発明の電池電極作製用組成物を用いて作製されるものであれば特に制限されないが、銅又はアルミニウム等の集電体表面に本発明の電池電極作製用組成物から形成される合剤層を備えるものであることが好ましい。合剤層は、集電体の表面に本発明の電池電極作製用組成物を塗工した後、水等の媒体を乾燥除去することにより形成することができる。上記組成物を塗工する方法は特に限定されず、ドクターブレード法、ディップ法、ロールコート法、コンマコート法、カーテンコート法、グラビアコート法及びエクストルージョン法等の公知の方法を採用することができる。また、上記乾燥は、温風吹付け、減圧、(遠)赤外線、マイクロ波照射等の公知の方法により行うことができる。
通常、乾燥後に得られた合剤層には、金型プレス及びロールプレス等による圧縮処理が施される。圧縮することにより活物質及びバインダーを密着させ、合剤層の強度及び集電体への密着性を向上させることができる。圧縮により合剤層の厚みを、例えば、圧縮前の30~80%程度に調整することができ、圧縮後の合剤層の厚みは4~200μm程度が一般的である。
【0086】
本発明の電池電極にセパレータ及び電解液を備えることにより、電池を作製することができる。本発明における電池は二次電池であることが好ましい。電解液は液状であってもよく、ゲル状であってもよい。
セパレータは電池の正極及び負極間に配され、両極の接触による短絡の防止や電解液を保持してイオン導電性を確保する役割を担う。セパレータにはフィルム状の絶縁性微多孔膜であって、良好なイオン透過性及び機械的強度を有するものが好ましい。具体的な素材としては、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン等を使用することができる。
【0087】
電解液は、活物質の種類に応じて一般的に使用される公知のものを用いることができる。リチウムイオン二次電池では、具体的な溶媒として、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネート等の高誘電率で電解質の溶解能力の高い環状カーボネート、並びに、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等の粘性の低い鎖状カーボネート等が挙げられ、これらを単独で又は混合溶媒として使用することができる。電解液は、これらの溶媒にLiPF6、LiSbF6、LiBF4、LiClO4、LiAlO4等のリチウム塩を溶解して使用される。ニッケル水素二次電池では、電解液として水酸化カリウム水溶液を使用することができる。二次電池は、セパレータで仕切られた正極板及び負極板を渦巻き状又は積層構造にしてケース等に収納することにより得られる。
【実施例
【0088】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。尚、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り質量部及び質量%を意味する。
ナノセルロース及び酸化セルロースの物性の測定方法は以下のとおりとした。
【0089】
<繊維長と繊維幅の測定方法>
上記で得られた微細セルロース繊維の水分散体に純水を加え、CNF水分散体中の微細セルロース繊維の濃度が5ppmになるように調整した。濃度調整後のCNF水分散体をマイカ基材上で自然乾燥させ、オックスフォード・アサイラム社製 走査型プローブ顕微鏡「MFP-3D infinity」を用いて、ACモードで微細セルロース繊維の形状観察を行った。
繊維長については、得られた画像を画像処理ソフトウェア「ImageJ」を用いて二値化し解析を行った。繊維100本以上について、繊維長=「周囲長」÷2として数平均繊維長を求めた。
平均繊維幅については、「MFP-3D infinity」に付属されているソフトウェアを用いて、繊維50本以上について、形状像の断面高さ=繊維幅として数平均繊維幅[nm]を求めた。
【0090】
<カルボキシ基量の測定>
酸化セルロースの濃度を0.5質量%に調整した酸化セルロース水分散体60mlに、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11.0になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記式を用いてカルボキシ基量(mmol/g)を算出した。
カルボキシ基量=a(ml)×0.05/酸化セルロース繊維の質量(g)
【0091】
<カルボキシ基含有重合体塩の製造>
重合には、攪拌翼、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応器を用いた。
反応器内にアセトニトリル567部、アクリル酸(以下、「AA」という。)100.0部、トリメチロールプロパンジアリルエーテル(ダイソー社製、商品名「ネオアリルT-20」)0.9部及び上記AAに対して1.0モル%に相当するトリエチルアミンを仕込んだ。反応器内を十分に窒素置換した後、加温して内温を55℃まで昇温した。内温が55℃で安定したことを確認した後、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、商品名「V-65」)0.040部を添加したところ、反応液に白濁が認められたため、この点を重合開始点とした。なお、単量体濃度は15.0%と算出された。重合開始点から12時間経過した時点で反応液の冷却を開始し、内温が25℃まで低下した後、水酸化リチウム・一水和物(以下、「LiOH・H2O」という)の粉末52.4部を添加した。添加後室温下12時間撹拌を継続して、PAA架橋重合体塩(Li塩、中和度90モル%)の粒子が媒体に分散したスラリー状の重合反応液を得た。重合開始から12時間経過した時点のAAの反応率はそれぞれ97.3%と算出された。
【0092】
得られた重合反応液を遠心分離して重合体粒子を沈降させた後、上澄みを除去した。その後、重合反応液と同重量のアセトニトリルに沈降物を再分散させた後、遠心分離により重合体粒子を沈降させて上澄みを除去する洗浄操作を2回繰り返した。沈降物を回収し、減圧条件下、80℃で3時間乾燥処理を行い、揮発分を除去することにより、PAA架橋重合体塩の粉末を得た。PAA架橋重合体塩は吸湿性を有するため、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。なお、PAA架橋重合体塩の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸LiのC=O由来のピークの強度比より中和度を求めたところ、仕込みからの計算値に等しく90モル%であった。
【0093】
<水媒体中での粒子径(水膨潤粒子径)の測定>
PAA架橋重合体塩の粉末0.25g、及びイオン交換水49.75gを100ccの容器に量りとり、自転/公転式攪拌機(シンキー社製、あわとり練太郎AR-250)にセットした。次いで、撹拌(自転速度2000rpm/公転速度800rpm、7分)、さらに脱泡(自転速度2200rpm/公転速度60rpm、1分)処理を行い架橋重合体塩が水に膨潤した状態のハイドロゲルを作製した。
次に、イオン交換水を分散媒とするレーザー回折/散乱式粒度分布計(マイクロトラックベル社製、マイクロトラックMT-3300EXII)にて上記ハイドロゲルの粒度分布測定を行った。ハイドロゲルに対し、過剰量の分散媒を循環しているところに、適切な散乱光強度が得られる量のハイドロゲルを投入したところ、数分後に、測定される粒度分布形状が安定した。安定を確認次第、粒度分布測定を行い、粒子径の代表値としての体積基準メジアン径(D50)を測定したところ水媒体中での粒子径は1.7μmであった。
【0094】
〔実施例1〕
<ナノセルロースの製造>
セルロース系原料として、針葉樹パルプ(SIGMA-ALDRICH社 NIST RM 8495, bleached kraft pulp)を5mm角にハサミで切断し、大阪ケミカル社製「ワンダーブレンダーWB-1」にて、25,000rpmで1分間処理して、綿状に機械解繊した。
ビーカーに、有効塩素濃度が42質量%である次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶を350g入れ、純水を加えて撹拌し、有効塩素濃度を21質量%とした。そこへ、35質量%塩酸を加えて撹拌し、pH11の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た。
前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液を新東科学社製の撹拌機(スリーワンモータ、BL600)にてプロペラ型撹拌羽根を使用して200rpmで撹拌しながら恒温水浴にて30℃に加温した後、上記セルロース系原料50gを加えた。
セルロース系原料を供給後、同じ恒温水槽で30℃に保温しながら、48質量%水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを11に調整して、30分間、撹拌機にて同条件で撹拌を行った。
反応終了後、目開き134μmのPTFE製メッシュフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られた酸化セルロースを純水で洗浄した。
酸化セルロースに純水を加え、5%分散液を作製し、スギノマシン社製の超高圧ホモジナイザー「スターバースト ラボ」にて200MPaで、5パスで処理し、ナノセルロースを水分散体として得た。このナノセルロースをナノセルロースAとする。
なお、超高圧ホモジナイザーでは、内蔵された超高圧解繊部に酸化セルロース水分散液を循環通液させて解繊を進めた。その解繊部への通液1回分を1パスとする。
【0095】
なお、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度は以下の方法により測定した。
(次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度の測定)
次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶を純水に加えた水溶液0.582gを精密に量り、純水50mLを加え、ヨウ化カリウム2g及び酢酸10mLを加え、直ちに密栓して暗所に15分間放置した。15分間の放置後、遊離したヨウ素を0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液(溶液ファクター1.000)で滴定した結果(指示薬 デンプン試液)、滴定量は34.55mLであった。別に空試験を行い補正し、0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液1mLが3.545mgClに相当するので、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度は21質量%であった。
【0096】
<電極作製用組成物の作製>
バインダーとして、ナノセルロースA、PAA架橋重合体塩、及びスチレンブタジエンゴム(SBR)系ラテックスの混合物を用いた。
活物質として天然黒鉛(日本黒鉛社製、商品名「CGB-10」)を用いた。
電極作製用組成物の固形分濃度が43質量%となるように、水を希釈溶媒として、天然黒鉛:PAA架橋重合体塩:SBR:ナノセルロースA=100:1.5:1.5:1.5(固形分)の質量比となるよう、予めよく混合した後、薄膜旋回式ミキサー(プライミクス社製、FM-56-30)を用いて周速度20m/秒の条件で本分散を15秒間行うことにより、スラリー状の電極作製用組成物(以下、「電極用スラリー」ともいう。)を得た。
得られた電極用スラリーを用いて電極を作製し、その評価を行った。具体的な手順及び評価方法等について以下に示す。
【0097】
〔実施例2〕
実施例1の<ナノセルロースの製造>において10パス処理したこと以外は、実施例1と同じ条件とし、ナノセルロースBを作製した。その後、実施例1の<電極作製用組成物の作製>と同様にして電極用スラリーを得た。
【0098】
〔実施例3〕
実施例1の<ナノセルロースの製造>において15パス処理したこと以外は、実施例1と同じ条件とし、ナノセルロースCを作製した。その後、実施例1の<電極作製用組成物の作製>と同様にして電極用スラリーを得た。
【0099】
〔実施例4〕
実施例1の<ナノセルロースの製造>において20パス処理したこと以外は、実施例1と同じ条件とし、ナノセルロースDを作製した。その後、実施例1の<電極作製用組成物の作製>と同様にして電極用スラリーを得た。
【0100】
〔実施例5〕
実施例1の<ナノセルロースの製造>において反応時間を120分間としたこと以外は、実施例1と同じ条件で酸化反応を行った。
反応終了後、余剰の次亜塩素酸ナトリウム分に対して亜硫酸ナトリウム水溶液を加え反応を停止し、続いて塩酸を加えてpHを2.5としカルボキシ基を-COOH型(H型)とした。得られた酸化セルロース水分散体について、固液分離及び洗浄を行った。具体的には、遠心分離(1000G、10分間)、デカンテーションにより上澄み除去、除去分相当量の純水を加えて匙で充分に撹拌して均一にした後、再び遠心分離、という工程を合計6回繰り返して精製酸化セルロースを回収した。その後、導入されたカルボキシ基のほぼ当量分の水酸化ナトリウムを添加し、カルボキシ基を-COONa型(Na型)に戻した。その酸化セルロース水分散体について純水を加えて1質量%に調整した後、ホモミキサーで解繊(10,000rpm、10分間)し、ナノセルロースを水分散体として得た。このナノセルロースをナノセルロースEとする。
その後、実施例1の<電極作製用組成物の作製>と同様にして電極用スラリーを得た。
【0101】
〔実施例6〕
実施例5にて得られた、Na型に戻した精製酸化セルロースを用いた。すなわち、実施例1の<電極作製用組成物の作製>におけるナノセルロースAに替えて上記酸化セルロースを用いたこと以外は同様にして電極用スラリーを得た。
【0102】
〔実施例7〕
水酸化ナトリウムに替えて水酸化カリウムを使用してカルボキシ基を-COOK型(K型)とした以外は、実施例5と同じ条件でナノセルロースGを作製した。
その後、実施例1の<電極作製用組成物の作製>と同様にして電極用スラリーを得た。
【0103】
〔実施例8〕
水酸化ナトリウムに替えて水酸化リチウムを使用してカルボキシ基を-COOLi型(Li型)とした以外は、実施例5と同じ条件でナノセルロースHを作製した。
その後、実施例1の<電極作製用組成物の作製>と同様にして電極用スラリーを得た。
【0104】
〔比較例1〕
<ナノセルロースの製造>
セルロース系原料として、実施例1と同じ原料、機械処理条件にて得た綿状の針葉樹パルプ針葉樹パルプを準備した。
TEMPOを0.16g及び臭化ナトリウムを1.0gビーカーに入れ、純水を加えて撹拌して水溶液とし、上記機械解繊した針葉樹クラフトパルプを10.0g加えた。
上記水溶液をスターラーで撹拌しながら恒温水浴にて25℃に加温した後、0.1M水酸化ナトリウムを加えて撹拌し、pH10.0の水溶液とした。そこへ、有効塩素濃度13.2質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液25.8gを加え、同じ恒温水槽で25℃に保温した状態で、0.1M水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを10.0に調整して、120分間スターラーで撹拌を行った。
反応終了後、目開き134μmのPTFE製メッシュフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られた酸化セルロースを純水で洗浄した。
酸化セルロースに純水を加え、0.5%分散液を作製し、スギノマシン社製の超高圧ホモジナイザー「スターバースト ラボ」にて200MPaで、30パスで処理し、ナノセルロースの水分散体を得た。これを必要に応じてエバポレーターにて加温濃縮して使用した。このナノセルロースをナノセルロースIとする。
<電極作製用組成物の作製>
その後、実施例1の<電極作製用組成物の作製>と同様にして電極用スラリーを得た。
【0105】
〔比較例2〕
セルロース系原料として、実施例1と同じ原料、機械処理条件にて得た綿状の針葉樹パルプ針葉樹パルプを水に加えて0.5%水分散液とし、増幸産業製の微粒摩砕機(スーパーマスコロイダー)にて1500rpmで10パス予備解繊した。その後、スギノマシン社製の超高圧ホモジナイザー「スターバースト ラボ」にて200MPaで40パス処理し、CNF水分散体を得た。これを必要に応じてエバポレーターにて加温濃縮して使用した。このナノセルロースをナノセルロースJとする。
その後、実施例1の<電極作製用組成物の作製>と同様にして電極用スラリーを得た。
【0106】
〔比較例3〕
「スターバースト ラボ」にて200MPaで、3パスで処理したこと以外は、製造実施例9と同じ条件で作製した。
その後、実施例1の<電極作製用組成物の作製>と同様にして電極用スラリーを得た。
【0107】
実施例1~8及び比較例1~3の電極用スラリーの評価を行った。また、実施例1~8及び比較例1~3の電極用スラリーを用いて電極を作製し、その評価を行った。具体的な手順及び評価方法等について以下に示す。
【0108】
<電極スラリーの粘度測定>
得られた電極スラリーについて、アントンパール社製レオメーター(Physica MCR301)を用い、CP25-5のコーンプレート(直径25mm、コーン角度5°)にて、せん断速度60s-1のスラリー粘度を測定した。
【0109】
<電極スラリーの塗工性評価>
得られた電極スラリーについて可変式アプリケーターを用いて、銅箔(厚み:20μm、古河電気工業株式会社製)に塗布し、60℃×2分乾燥させた後、さらに150℃×5分乾燥することにより合剤層を形成した。乾燥後、合剤層の膜厚を、ミツトヨ株式会社製のデジマチックインジケーターID-H0560を用いて測定することにより、塗工性を評価した。評価基準は以下のとおりとした。
◎:塗膜200cm2のうち、膜厚のばらつきが0μm以上4μm以下であった。
〇:塗膜200cm2のうち、膜厚のばらつきが4μm超過9μm以下であった。
×:塗膜200cm2のうち、膜厚のばらつきが9μm超過
【0110】
<90°剥離強度(結着性)>
上記で得られた合剤層について、合剤層の厚みが80μm、充填密度が1.6g/cm3になるよう圧延し、負極極板を得た。負極極板を25mm幅の短冊状に裁断した後、水平面に固定された両面テープに上記試料の合剤層面を貼付け、剥離試験用試料を作製した。試験用試料を60℃、1晩減圧条件下で乾燥させた後、引張試験機(ORIENTEC社製テンシロン万能試験材料機RTE-1210)を用いて、測定温度25℃、引張速度50mm/分における90°剥離を行い、合剤層と銅箔間の剥離強度を測定した。
【0111】
実施例1~8及び比較例1~3の電極スラリー及び合剤層の評価結果を表1に示した。
【0112】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の電池電極用バインダー組成物は、電池電極及び電池の分野、特に二次電池の電極及び電池の分野において、産業上の利用可能性を有する。