(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】スパンボンド不織布
(51)【国際特許分類】
D04H 3/16 20060101AFI20250508BHJP
D04H 3/007 20120101ALI20250508BHJP
【FI】
D04H3/16
D04H3/007
(21)【出願番号】P 2021033253
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020062550
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 格
(72)【発明者】
【氏名】山中 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】羽根 亮一
(72)【発明者】
【氏名】小出 現
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/167851(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/139523(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/088135(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料粒子を0.05~5.00質量%含有し、メルトフローレートが155~500g/10分のポリオレフィン系樹脂を用い、
紡糸口金から吐出した後、冷却固化し、
エジェクターにて紡糸速度3500m/分以上6500m/分以下、かつ、
前記紡糸速度に、紡糸速度の平均値に対し1.5~3%の変動を与えて牽引、延伸して長繊維を得、移動するネット上で長繊維を捕集して不織ウェブ化し
た後、
接着面積率5%以上30%以下、熱エンボスロールの線圧50N/cm以上500N/cm以下で熱接着する、
繊維の平均単繊維径が6.5μm以上14.5μm以下であり、
スパンボンド不織布の目付が8g/m
2
以上30g/m
2
以下である、
スパンボンド不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパンボンド不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料用の不織布には、風合い、肌触り、柔軟性および高い生産性が求められている。さらに、近年では、紙おむつや生理用ナプキンの製造工程で多用される超音波接着での加工安定性のため、均一性の高い不織布が求められている。また、近年、不織布のテカリ感や透け感を防止するため、高い白色度を有する不織布が求められるようになってきた。また、使い捨ての使用が主である衛生材料用不織布においては、環境への配慮の要望も強く、ゼロエミッション化の観点からは、材料使用量を減らす目的として低目付品への要望が高まっている。また、プール用紙おむつや医療用ガウン、化学防護服など濡れた状態での使用が想定される用途、さらにはマスク等の洗濯時においては、摩擦によって繊維の一部が脱落し、排水を通じて河川や湖沼、海洋に流入する可能性があり、自然環境下において繊維の分解が進みにくく、いわゆるマイクロプラスチック問題として、水生生物へ多大な影響を及ぼす恐れがあることから、繊維脱落の少ない不織布への要望が高まっている。
【0003】
均一性の高い不織布として、例えば特許文献1や特許文献2には、比較的高いメルトフローレート(以下、MFRと略することがある。)を有する樹脂を用い、不織布を構成する繊維の繊維径を細くした不織布が提案されている。
【0004】
一方、高い白色度を有する不織布として、例えば特許文献3のように、酸化チタン粒子を添加させた不織布が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/091444号
【文献】特開2011-099196号公報
【文献】国際公開第97/049853号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、孔径と繊維径とから算出されるドラフト比を1500以上とすることにより、単繊維繊度を1.5デニール以下とする技術である。この技術においては、MFRの大きい、すなわち低粘度の原料を大きい孔径の口金で紡糸する。そのため、口金圧が掛かりにくく、均一な紡出ができずに糸切れや繊維径ムラを発生させやすいことから、安定して均一な不織布を得がたいという課題があり、さらに環境配慮に関する記載はない。
【0007】
また、特許文献2には、MFRが100~2000g/10分のポリプロピレンを含む樹脂を用いる技術が記載されているが、実施例で示される繊維径は19μm以上と非常に大きく、また、均一な不織布を得ることは出来ていない。また、環境配慮に関する記載はない。
【0008】
そこで、本発明者らがさらに検討を重ねた結果、単位広さ当たりの繊維本数を増やし繊維表面積を増やす方法や、特許文献3に開示されているような酸化チタンなどの顔料粒子を、特許文献1や2に記載された比較的高いメルトフローレートの原料に添加する方法により、非常に高い白色度を有する不織布が得られることが分かった。
【0009】
しかし、不織布を低目付化していくにつれ、不織布のうち繊維が密に存在する箇所と疎に存在する箇所との間での白色度のムラが顕在化してくることが分かった。そのような不織布は、白色度は高いものの、白色度の高さゆえ外観ムラが目立ち、十分な高級感を有する不織布を得がたいという問題が生じるという知見を得た。また、繊維の疎密があり、均一性が低い不織布では、湿潤時の摩耗による減量が多く、湿潤環境下で多量の繊維脱落が生じるという課題があった。
【0010】
そこで本発明の目的は、上記の課題に鑑み、低目付で白色度が高くても、白色度の均一性に優れ、さらに湿潤時の繊維脱落の少ない環境配慮もされたスパンボンド不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、スパンボンド不織布を構成する繊維の平均繊維径を小さくし、さらにはスパンボンド紡糸牽引部において牽引糸の通過する位置を分散させることで、糸道に偏りが生じないようにすることにより、不織布の均一性が向上し、白色度の高い不織布を低目付化しても優れた均一性、すなわち、白色度ムラが小さく、その結果、良好な外観を維持できるという知見を得た。
【0012】
本発明は、かかる知見に基づいて完成に至ったものであり、以下の構成を有する。すなわち、本発明のスパンボンド不織布は、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維からなるスパンボンド不織布であって、前記繊維の平均単繊維径が6.5μm以上14.5μm以下であり、前記スパンボンド不織布の目付が8g/m2以上30g/m2以下であり、前記スパンボンド不織布の白色度が40%以上95%以下であり、かつ白色度ムラが2%以上6%以下である。
【0013】
本発明のスパンボンド不織布の好ましい態様によれば、前記ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレートが、155g/10分以上500g/10分以下である。
【0014】
本発明のスパンボンド不織布の好ましい態様によれば、湿摩擦による減量が1mg以上30mg以下である。
【0015】
本発明のスパンボンド不織布の製造方法は、メルトフローレートが155~500g/10分のポリオレフィン系樹脂を用い、紡糸口金から吐出した後、冷却固化し、エジェクターにて紡糸速度3500m/分以上6500m/分以下、かつ、前記紡糸速度に、紡糸速度の平均値に対し1.5~3%の変動を与えて牽引、延伸して長繊維を得、移動するネット上で長繊維を捕集して不織ウェブ化し、熱接着する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低目付で白色度が高くても、白色度の均一性に優れ、さらに湿潤時の繊維脱落の少ない環境配慮もされたスパンボンド不織布が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のスパンボンド不織布は、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維からなるスパンボンド不織布であって、前記繊維の平均単繊維径が6.5μm以上14.5μm以下であり、前記スパンボンド不織布の目付が8g/m2以上30g/m2以下であり、前記スパンボンド不織布の白色度が40%以上95%以下であり、かつ白色度ムラが2%以上6%以下である。
【0018】
以下に、この詳細について説明する。
【0019】
[ポリオレフィン系樹脂]
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂については、例えば、ポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂等が挙げられる。
【0020】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、もしくは、プロピレンと各種α-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。また、ポリエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体、もしくは、エチレンと各種α-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。この中でも、紡糸性や強度の特性から、ポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0021】
また、本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂は、2種以上のポリオレフィン系樹脂の混合物であってもよく、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマー等を含有する樹脂組成物を混合させた樹脂をポリオレフィン系樹脂として用いることもできる。
【0022】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂の融点は、80℃以上200℃以下であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂の融点を80℃以上、より好ましくは100℃以上とすることにより、スパンボンド不織布の耐熱性を向上させることができ、より実用に適した耐熱性とすることができる。一方、ポリオレフィン系樹脂の融点を200℃以下、より好ましくは180℃以下とすることにより、口金から吐出される糸条を冷却しやすくすることができ、繊維同士の融着を抑制して安定した紡糸を行いやすくすることができる。
【0023】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂のMFRが、155g/10分以上500g/10分以下であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂のMFRを155g/10分以上とすることで、生産性を高くするために高い紡糸速度で延伸したとしても、粘度が低いため、繊維が変形に対し容易に追従することができることから安定した紡糸を可能とすることができる。さらに、高い紡糸速度で延伸することが可能となるため、不織布を構成する繊維の結晶配向を整えることができ、高い機械強度を有する繊維、そしてスパンボンド不織布とすることができる。一方、ポリオレフィン系樹脂のMFRを500g/10分以下、より好ましくは400g/10分以下、さらに好ましくは300g/10分以下とすることで、低粘度による強度の低下を抑制することができる。
【0024】
本発明でいうMFRは、ASTM D1238に従って、押し出し式プラストメーターにより、荷重が2.16kg、測定温度が230℃の条件で測定される値を指すものとする。
【0025】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料粒子等の添加物、他の重合体を必要に応じて含有することができる。
【0026】
本発明のスパンボンド不織布は、前記のポリオレフィン系樹脂の全てまたは一部に酸化チタンの粒子等の顔料を含むことも可能であり、より好ましくは芯成分にのみ含むものである。ただし、本発明における顔料粒子の「粒子」とは、特段の記載がない限り、数平均粒子径が0.04μm以上のものを指すものとする。
【0027】
ここで、顔料として使用する粒子としては特に限定されるものではないが、たとえば、無機粒子や有機粒子が挙げられる。無機粒子としては、湿式および乾式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸アルミ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化アルミ、酸化チタン、硫酸バリウム、亜鉛華、硫酸亜鉛などが挙げられる。また、有機粒子としては、スチレン、シリコーン、アクリル酸類、メタクリル酸類、ポリエステル類などを構成成分とする粒子などが挙げられる。なかでも、外観、経済性の観点から酸化チタンの粒子を使用することが好ましい。なお、これらの粒子は二種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂には、スパンボンド不織布の柔軟性を向上させるため、ポリオレフィン系樹脂に炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物が含有されていることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂に混合される脂肪酸アミド化合物の炭素数により、脂肪酸アミド化合物の繊維表面への移動速度が変わることが知られている。脂肪酸アミド化合物の炭素数を好ましくは23以上、より好ましくは30以上とすることにより、脂肪酸アミド化合物が過度に繊維表面に出ることを抑制し、紡糸性と加工安定性に優れ、高い生産性を保持することができる。また、脂肪酸アミド化合物の炭素数を好ましくは50以下、より好ましくは42以下とすることにより、脂肪酸アミド化合物が繊維表面に出やすくなり、スパンボンド不織布の高速生産に適した滑り性と柔軟性を付与することができる。
【0029】
炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物としては、飽和脂肪酸モノアミド化合物、飽和脂肪酸ジアミド化合物、不飽和脂肪酸モノアミド化合物、および不飽和脂肪酸ジアミド化合物などが挙げられる。具体的には、炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物として、テトラドコサン酸アミド、ヘキサドコサン酸アミド、オクタドコサン酸アミド、ネルボン酸アミド、テトラコサエンタペン酸アミド、ニシン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、ジステアリルセバシン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、およびヘキサメチレンビスオレイン酸アミドなどが挙げられ、これらは複数組み合わせて用いることもできる。
【0030】
本発明では、これらの脂肪酸アミド化合物の中でも、特に、飽和脂肪酸ジアミド化合物であるエチレンビスステアリン酸アミドが好ましく用いられる。エチレンビスステアリン酸アミドは、熱安定性に優れているため溶融紡糸を行っても分解しにくい。そのため、このエチレンビスステアリン酸アミドを含有するポリオレフィン系樹脂からなる繊維を用いることにより、高い生産性を保持しながら、柔軟性に優れたスパンボンド不織布が得られやすくなる。
【0031】
本発明では、ポリオレフィン系樹脂中の脂肪酸アミド化合物の含有量は、0.01質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい態様である。脂肪酸アミド化合物の含有量を0.01質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上とすることにより、滑剤効果が発現し、滑らかなタッチ、柔軟性を付与しやすくすることができる。一方、5.00質量%以下、より好ましくは3.00質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下とすることにより、噴射時の繊維の吹き流れによる均一性悪化が抑制されやすくなる。
【0032】
ここでいう脂肪酸アミド化合物の含有量とは、ポリオレフィン系樹脂中に含有する脂肪酸アミド化合物の質量パーセントをいう。例えば、芯鞘型複合繊維を構成する鞘成分のみに脂肪酸アミド化合物を含有する場合でも、芯鞘成分全体量に対する含有割合を算出している。
【0033】
[繊維]
本発明のスパンボンド不織布は、前記のポリオレフィン系樹脂からなる繊維から構成されてなる。
【0034】
この繊維の平均単繊維径は、6.5μm以上14.5μm以下であることが重要である。ポリオレフィン繊維の平均単繊維径を6.5μm以上、好ましくは7.5μm以上、より好ましくは8.4μm以上とすることにより、安定して製造可能な均一性の高い不織布を得ることができる。一方、ポリオレフィン繊維の平均単繊維径を14.5μm以下、好ましくは13.5μm以下、より好ましくは11.8μm以下とすることにより、均一性を高いレベルで発現することができる。
【0035】
本発明における平均単繊維径の測定方法は、後述の通りである。
【0036】
また、前記の繊維は、繊維表面の顔料粒子の露出数が0(個/100本)以上10(個/100本)以下であるとより好ましい。繊維表面の顔料粒子の露出数を0(個/100本)以上10(個/100本)以下とすること熱接着性が良好で強度に優れ、かつ繊維表面が滑らかなタッチに優れた風合いの不織布を得ることができる。さらに、繊維表面の顔料粒子の露出数を10(個/100本)以下、好ましく5(個/100本)以下、より好ましくは3(個/100本)以下とすることにより、繊維表面の顔料粒子の露出により製造工程に使用される金属ロールなどに傷を付けることを防止でき、また、熱接着性を阻害せずに強度に優れた不織布を得ることができる。
【0037】
繊維表面の顔料粒子の露出数は不織布からランダムに小片サンプル10個以上を採取し、走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」)を用いて2000倍で表面写真を撮影し、各サンプルから繊維長が50μm以上である繊維表面画像を計100本になるまで観察し、それぞれの繊維表面に露出している粒子径0.1μm以上の顔料粒子の数をカウントして、その合計値を指すものとする。
【0038】
[スパンボンド不織布]
本発明のスパンボンド不織布は、前記の繊維からなる。
【0039】
本発明のスパンボンド不織布の目付は、8g/m2以上30g/m2以下である。目付を10g/m2以上、より好ましくは15g/m2以上とすることにより、高い機械的強度を有するスパンボンド不織布を得ることができる。一方、不織布を衛生材料用途で使用する場合には、目付を25g/m2以下、より好ましくは20g/m2以下、さらに好ましくは15g/m2以下とすることにより、衛生材料に適した適度な柔軟性を有するスパンボンド不織布が得られる。
【0040】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の目付とは、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量」に基づき、20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その算術平均値を1m2当たりの質量(g/m2)で表した値のことを指すものとする。
【0041】
本発明のスパンボンド不織布の白色度は40%以上95%以下であることが重要である。白色度を40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上とすることにより、スパンボンド不織布のテカリ感や透け感を無くすことができ、特に、衛生材料に好適に用いることができる。一方、白色度を95%以下とすることにより、繊維表面の顔料粒子の露出を抑制することができる。
【0042】
白色度を上記範囲とする手段としては、例えば、スパンボンド不織布層を構成する繊維の平均繊維径を小さくすることで、スパンボンド不織布の表面積が増加し、反射光量の増加により白色度を高めることができる。また、顔料粒子のポリオレフィン樹脂への含有量を増やす方法でも白色度を高めることができる。更に、熱圧着条件として圧着率を下げる方法、熱圧着温度を下げる方法、および熱圧着時の線圧を下げる方法などにより白色度を高めることができる。
【0043】
本発明のスパンボンド不織布は衛生材料に好適に用いるために低目付である。そのため、白色度ムラは2%以上6%以下であることが重要である。白色度ムラは6%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。白色度ムラを上記範囲とすることにより、低目付であるにも関わらず外観に優れた高級感のあるスパンボンド不織布が得られる。白色度ムラは2%以上であると不織布加工時のロール上でのスリップを抑制でき好ましい。
【0044】
白色度ムラを上記範囲とする手段としては、例えば、スパンボンド不織布層を構成する繊維の平均繊維径を小さくすることで、白色度ムラを小さくできる。また、顔料粒子をポリオレフィン樹脂へ過剰に含有しすぎないことでも白色度ムラを小さくできる。さらに、熱圧着条件として圧着率を下げる方法、ならびに熱圧着温度を下げる方法、および熱圧着時の線圧を下げる方法により白色度ムラを小さくできる。また、後述する紡糸速度に適当な変動を与える手法などによっても白色度ムラを小さくすることができる。
【0045】
白色度および白色度ムラの測定方法は、後述のとおりである。
【0046】
本発明のスパンボンド不織布のMFRは、155g/10分以上500g/10分以下の範囲であることが好ましい。スパンボンド不織布のMFRを155g/10分以上とすることで、生産性を高くするために構成する繊維を形成する際に高い紡糸速度で延伸したとしても、粘度が低いため、繊維が変形に対し容易に追従することができることから安定した紡糸を可能とすることができる。さらに、高い紡糸速度で延伸することが可能となるため、不織布を構成する繊維の結晶配向を整えることができ、高い機械強度を有する繊維、そしてスパンボンド不織布とすることができる。一方、ポリオレフィン系樹脂のMFRを500g/10分以下、より好ましくは400g/10分以下、さらに好ましくは300g/10分以下とすることで、低粘度による強度の低下を抑制することができる。なお、スパンボンド不織布のMFRの測定方法も、前記のポリオレフィン系樹脂のMFRの測定方法と同様に測定されるものとする。
【0047】
本発明のスパンボンド不織布の単位目付当たりのMD方向の引張強度は、1.0(N/2.5cm)/(g/m2)以上であることが好ましい。単位目付当たりのMD方向の引張強度を1.0(N/2.5cm)/(g/m2)以上、好ましくは1.1(N/2.5cm)/(g/m2)以上、さらに好ましくは1.2(N/2.5cm)/(g/m2)以上とすることにより、紙おむつ等を製造する際の工程通過性や製品としての使用に耐え得るものとなる。また、上限値については、あまりに高い場合は、柔軟性を損なう恐れがあるため、2.0(N/2.5cm)/(g/m2)以下であることが好ましい。MD方向の引張強度は、主には繊維の紡糸速度、エンボスロール圧着率、温度および線圧等により、調整される。なお、本発明でいうMD方向とは不織布を製造する際の機械進行の方向を指すものとする。
【0048】
ここで、スパンボンド不織布の単位目付当たりのMD方向の引張強度は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3 引張強さ及び伸び率(ISO法)」の「6.3.1 標準時」に準じ、サンプルサイズ幅2.5cm×30cm、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/分の条件でMD方向の各3点の引張試験を行い、サンプルが破断した時の強度を引張強度(N/2.5cm)とし、平均値について小数点以下第二位を四捨五入して算出する。続いて、算出した引張強度(N/2.5cm)を、上記で求めた目付(g/m2)から、次の式より小数点以下第二位を四捨五入して単位目付当たりの引張強度を算出する。
・単位目付当たりのMD方向の引張強度=MD方向の引張強度(N/2.5cm)/目付(g/m2)。
【0049】
本発明のスパンボンド不織布は、湿摩擦による減量が1mg以上30mg以下であることが好ましい。湿摩擦による減量を30mg以下、より好ましくは15mg以下、さらに好ましくは5mg以下とすることで、河川に流入する脱落繊維をより少なくすることができる。一方、湿摩擦による減量が1mgを下回る場合は不織布表面が硬くなり、使用者の肌に対し、ソフトな触感となりにくい。
【0050】
湿摩擦による減量を上記範囲とする手段としては、例えば、後述のとおり、シートの均一性を高めることにより、湿摩擦による減量を低減する方法が挙げられる。シートの均一性を高める手段としては、例えば、後述のとおり、スパンボンド不織布を製造する際に、紡糸速度に、紡糸速度の平均値に対して特定の範囲の変動を与える方法が挙げられる。
【0051】
[スパンボンド不織布の製造方法]
次に本発明のスパンボンド不織布の製造方法について述べる。
【0052】
本発明のスパンボンド不織布の製造方法は、メルトフローレートが155~500g/10分のポリオレフィン系樹脂を用い、紡糸口金から吐出した後、冷却固化し、エジェクターにて紡糸速度3,500m/分以上6,500m/分以下、かつ、前記紡糸速度に、紡糸速度の平均値に対し1.5~3%の変動を与えて牽引、延伸して長繊維を得、移動するネット上で長繊維を捕集して不織ウェブ化し、熱接着する。すなわち、本発明のスパンボンド不織布の製造方法は、以下の工程(A)~(D)を含む。以下、各工程について説明する。
【0053】
(工程(A))
本発明のスパンボンド不織布の製造方法においては、MFRが155g/10分以上500g/10分以下のポリオレフィン系樹脂(P1)を用いる。
【0054】
本発明のスパンボンド不織布の製造方法において、ポリオレフィン系樹脂(P1)は顔料粒子を含むことが好ましい。中でも、顔料粒子が酸化チタンであることがより好ましい。顔料の具体例や好適な理由等は上述のとおりである。
【0055】
本発明のスパンボンド不織布の製造方法において、前記顔料粒子の含有量が、ポリオレフィン系樹脂(P1)100質量%中に0.05~5.00質量%であることが好ましい。顔料粒子の含有量は、目的とする白色度に応じて適宜調製されうるが、顔料粒子の含有量を0.05質量%以上、より好ましくは0.30質量%以上、さらに好ましくは0.50質量%以上とすることで白色度を高い値とすることができる。一方、顔料粒子の含有量を5.00質量%以下、より好ましくは3.00質量%以下、さらに好ましくは2.00質量%以下とすることで紡糸性、白色度、強度を高いレベルで達成することができる。
【0056】
顔料粒子を含有したポリオレフィン系樹脂は、後述のように芯鞘複合繊維に用いる場合、芯成分に用いることが好ましい。
【0057】
(工程(B))
本発明のスパンボンド不織布の製造方法において、繊維は、押出機にて、溶融、計量し、紡糸口金へと供給し、糸条を紡出することによって形成される。なお、本発明では複合紡糸口金を用い、芯成分を前記ポリオレフィン系樹脂(P1)とし、更に鞘成分としてP1とは異なる成分構成となるポリオレフィン系樹脂(P2)を用いて異なる成分構成からなる芯鞘複合繊維としても良い。芯鞘複合繊維を得るには、前記の芯成分および鞘成分をそれぞれ別の押出機にて、溶融、計量し、複合紡糸口金へと供給し、芯鞘複合繊維として紡出することによって形成される。
【0058】
本工程では、前記工程(A)によるポリオレフィン系樹脂を用い、紡糸口金から吐出した後、冷却固化し、エジェクターにて紡糸速度3500m/分以上6500m/分以下で牽引、延伸して長繊維を得る。
【0059】
紡糸口金やエジェクターの形状としては、丸形や矩形等種々のものを採用することができる。なかでも、圧縮エアの使用量が比較的少なく、糸条同士の融着や擦過が起こりにくい点から矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせが好ましい。
【0060】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂を溶融し紡糸する際の紡糸温度は、200℃以上270℃以下であることが好ましい。紡糸温度を200℃以上、より好ましくは210℃以上、さらに好ましくは220℃以上とすることにより、安定した溶融状態とし、優れた紡糸安定性を得ることができる。一方、紡糸温度を270℃以下、より好ましくは260℃以下、さらに好ましくは250℃以下とすることにより、口金から吐出される糸条を冷却しやすくすることができ、繊維同士の融着を抑制して安定した紡糸を行いやすくすることができる。
【0061】
紡糸口金の孔径については、特に規定するものではないが、本発明で使用されるポリオレフィン系樹脂は比較的高いMFRを有することから、孔径0.5mm以下が好ましく、より好ましくは孔径0.4mm以下、さらに好ましくは孔径0.3mm以下である。孔径の大きい口金で細い繊維を紡糸すると、口金背圧が掛かりづらく、吐出不良による繊維ムラ、地合の不均一性(厚みムラ)、さらには糸切れを引き起こすため好ましくない。次のノズル径と平均単繊維径の関係式で1500未満が好ましい態様である。
・(ノズル径(mm2))/(平均単繊維径(mm2))<1500
続いて、紡出された長繊維の糸条を冷却する。紡出された糸条を冷却する方法としては、例えば、冷風を強制的に糸条に吹き付ける方法、糸条周りの雰囲気温度で自然冷却する方法、および紡糸口金とエジェクター間の距離を調整する方法等が挙げられ、またはこれらの方法を組み合わせる方法を採用することができる。また、冷却条件は、紡糸口金の単孔あたりの吐出量、紡糸する温度および雰囲気温度等を考慮して適宜調整して採用することができる。
【0062】
次に、冷却して固化された糸条は、エジェクターから噴射される圧縮エアによって牽引され、延伸される。
【0063】
紡糸速度は、3500m/分以上6500m/分以下であることが好ましい。紡糸速度を3500以上、より好ましくは4000m/分以上とすることにより高い生産性を有することになり、また繊維の配向結晶化が進み高い強度の長繊維を得ることができる。このため高い強度の繊維で構成される不織布も強力に優れたものとなる。一方、紡糸速度を6500m/分以下とすることにより、紡糸を安定して行うことができる。
【0064】
エジェクターによる糸条の牽引を強くし紡糸速度を上げていくことで、繊度が細く強度の高い繊維を得ることができる。一方、糸条に対するエジェクターによる牽引力が強いことでエジェクター内の糸条が通過する位置が偏在しやすくなることで、得られるシートの均一性が十分でないことがある。
【0065】
本発明のスパンボンド不織布の製造方法においては、紡糸速度に、紡糸速度の平均値に対し1.5~3%の変動を与える。なお、ここでの変動は、紡糸速度の1分間内の変動を表す。紡糸速度の変動を1.5%以上とすることでエジェクター内の糸条が通過する位置を適度に分散させることにより、シートの均一性をより高めることができ、白色度ムラがより小さくなり、外観や欠点視認性に優れたシートが得られやすくなる。さらにシートの均一性が高いことで、表面の凹凸が少なくなり湿摩擦時の繊維脱落を抑制することができる。紡糸速度の変動は、より好ましくは2.0%以上、更に好ましくは2.5%以上である。また、紡糸速度の変動を3%以下とすることで紡糸速度の変動による紡糸性の悪化伴い発生する糸切れを防ぐことができる。紡糸速度に上記範囲の変動を与えるための手段としては、例えば、牽引のためのエジェクター圧を周期的に変動させることが挙げられる。
【0066】
ここで、紡糸速度は、平均単繊維径と使用する樹脂の固形密度から長さ10000m当たりの質量を単繊維繊度として、小数点以下第二位を四捨五入して算出した単繊維繊度(dtex)と、各条件で設定した紡糸口金単孔から吐出される樹脂の吐出量(以下、単孔吐出量と略記する。単位はg/分)から、次の式に基づき、紡糸速度を算出して求められる。
・紡糸速度(m/分)=(10000×単孔吐出量(g/分))/単繊維繊度(dtex)
また、前述したとおり、通常では紡糸速度を上げていくと、紡糸性は悪化して糸条を安定して生産することができないが、本発明では、特定の範囲のMFRを有するポリオレフィン系樹脂を用いることにより、意図する糸を安定して紡糸することができる。
【0067】
(工程(C))
本工程においては、移動するネット上で長繊維を捕集して不織ウェブ化する。
【0068】
本発明においては、高い紡糸速度で延伸するため、エジェクターから出た長繊維は、高速の気流で制御された状態でネットに捕集されることとなり、繊維の絡みが少なく均一性の高い不織布を得ることができる。
【0069】
(工程(D))
本工程においては、前記不織ウェブを熱接着する。熱接着を行うことにより、スパンボンド不織布を得ることができる。
【0070】
不織ウェブを熱接着により一体化する方法としては、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻(凹凸部)が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロール、および上下一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールなど各種ロールにより、熱接着する方法が挙げられる。
【0071】
熱接着時の接着面積率は、5%以上30%以下であることが好ましい。接着面積率を好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上とすることにより、より高い強度を有するスパンボンド不織布を得ることができる。一方、接着面積率を好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下とすることにより、特に衛生材料用のスパンボンド不織布として用いる場合に、十分な柔軟性を得ることができる。
【0072】
ここでいう接着面積率とは、一対の凹凸を有するロールにより熱接着する場合は、上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とが重なって不織ウェブに当接する部分の不織布全体に占める割合のことをいう。また、凹凸を有するロールとフラットロールにより熱接着する場合は、凹凸を有するロールの凸部が不織ウェブに当接する部分の不織布全体に占める割合のことをいう。
【0073】
熱エンボスロールに施される彫刻の形状としては、円形、楕円形、正方形、長方形、平行四辺形、ひし形、正六角形および正八角形などを用いることができる。
【0074】
熱ロールの表面温度は、使用しているポリオレフィン系樹脂の融点に対し-50℃以上融点以下とすることが好ましい態様である。熱ロールの表面温度を好ましくは(融点-50℃以上)、より好ましくは(融点-45℃以上)とすることにより、適度に熱接着させ不織布形態を保持することができる。また、熱ロールの表面温度をポリオレフィン系樹脂の融点以下とすることにより、過度な熱接着を抑制し、特に衛生材料用のスパンボンド不織布として用いる場合に、十分な柔軟性を得ることができる。
【0075】
熱接着時の熱エンボスロールの線圧は、50N/cm以上500N/cm以下であることが好ましい。ロールの線圧を好ましくは50N/cm以上、より好ましくは100N/cm以上、さらに好ましくは150N/cm以上とすることにより、十分に熱接着させ、高い強度を有するスパンボンド不織布を得ることができる。一方、ロールの線圧を好ましくは500N/cm以下、より好ましくは450N/cm以下、さらに好ましくは400N/cm以下とすることにより、特に衛生材料用の不織布として用いる場合に、十分な柔軟性を得ることができる。
【0076】
本発明のスパンボンド不織布は、製造時の検反工程における検査速度、すなわち、検反速度を向上させることができる。本発明者の検討によると、スパンボンド不織布の製造時に白色度のムラが大きいと、糸切れなどの欠点部の外観コントラストが低下し、ラインセンサーによるインライン欠点検査や検反工程における目視検査で欠点が視認しづらくなり、生産性が低下するという問題が生じる。それに対して、本発明のスパンボンド不織布は、高い白色度を有し、かつ低目付であるにも関わらず白色度のムラを小さくすることができているため、従来のスパンボンド不織布に比べて糸切れなどの欠点部の視認性が向上しており、製造時の検反工程における検査速度を上げることができる。それにより、スパンボンド不織布の生産性が向上することが期待できる。
【0077】
本発明のスパンボンド不織布は、低目付でかつ高い白色度を有するにもかかわらず、均一性及び外観に優れることから、使い捨て紙おむつやナプキンなどの衛生材料用途に好適に利用することができる。さらに、湿摩擦耐性が高いため湿潤環境下での使用が想定される医療用ガウンや化学防護服用途、洗濯される可能性があるマスク用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0078】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0079】
(測定方法)
(1)平均単繊維径(μm):
走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス製「VHX-D500」を用いた。
【0080】
なお、本発明においては、前記のスパンボンド不織布層を構成する繊維の平均単繊維直径(μm)は、以下の手順によって算出される値を採用した。不織布からランダムに幅100mm×100mmに10枚切り出し、走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」)で500~3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の単繊維の幅を測定し、その測定した100本の値の算術平均値(μm)を小数点以下第二位で四捨五入して得られる値(μm)を平均単繊維径とした。
【0081】
(2)白色度、均一性(白色度ムラ):
白色度の測定方法としては、不織布を幅50mm×50mmに4枚切り出し、色彩計(コニカミノルタ株式会社製「CR-20」)を用いて、黒色台紙上に不織布を4枚重ねて置き、ASTM E313-73に準拠して計測し求めた。
【0082】
また、白色度ムラの測定方法としては、不織布を幅50mm×50mmランダムに16枚切り出し4枚ごとに1セットとし、計4セットを採取した(シート状不織布から採取する場合は、シート幅方向等間隔に4枚採取し、1セット、計4セットを採取した)。黒色台紙上に1セット分4枚ごとに重ねておき、切り出した不織布の四隅4点と中央1点の計5点について上述の白色度測定方法で測定し、4セット分合計20点分の測定値における白色度の最大値と最小値の差を白色度ムラとした。
【0083】
(3)検反速度:
巻き返し装置を用いたスパンボンド不織布の目視検査において、予め不織布シートに1mm×1mm幅の擬似欠点を10点マーキングしたシートについて、シートから50cm離れた位置の照度が200ルクスとなるよう蛍光灯を用いた反射光による検査を行い、搬送速度を1m/分刻みで上げていき、擬似欠点10点を見逃し無く全て目視検出可能であった最大巻き出し搬送速度を測定し、モニター5名分の平均検反速度を算出し検反速度とした。照度測定は、照度計として株式会社マザーツール製「Lux-Meter LM-102」を用いて測定した。
【0084】
(4)湿摩擦による減量評価:
湿摩擦による減量評価にはJIS L0849(2013年)に規定される学振型摩擦試験機を使用した。まず、不織布から幅5cm×長さ20cmの試験片5枚を切り出し、80℃に設定した乾燥機中で24時間乾燥させ、各試験片の初期重量:m0を測定した。学振型摩擦試験機の摩擦子に、1分間純水中に浸漬した理研コランダム株式会社製 耐水研磨紙C34P(粒度P800)を貼付け、無荷重で試験片上を10往復摩擦させた。摩擦後の試験片を再び80℃に設定した乾燥機中で24時間乾燥させ、各試験片の摩擦後の重量:mfを測定した。各試験片のm0からmfを減じ、その平均値を湿摩擦による減量(mg)として求めた。
【0085】
(実施例1)
酸化チタン粒子を0.90質量%添加した、MFRが240g/10分であるポリプロピレン樹脂を押出機で溶融し、紡糸温度が235℃で、孔径φが0.30mmの矩形芯鞘口金から、単孔吐出量が0.36g/分で紡出した糸条を、冷却固化した後、矩形エジェクターでエジェクターの圧力を0.55MPaとした圧縮エアによって、牽引し延伸した。続いて、これを移動するネット上に捕集してポリプロピレン長繊維からなる不織ウェブを得た。得られたポリプロピレン長繊維の特性は、平均単繊維径は10.4μmであり、これから換算した紡糸速度は4675m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れが0回と良好であった。
【0086】
引き続き、得られた不織ウェブを、上ロールに金属製で水玉柄の彫刻がなされた接着面積率11%のエンボスロールを用い、下ロールに金属製フラットロールで構成される上下一対の熱エンボスロールを用いて、線圧が300N/cmで、熱接着温度が145℃の温度で熱接着し、目付が12g/m2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布について、評価した。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例2)
酸化チタン粒子の添加量を0.30質量%とし、MFRが232g/10分のポリプロピレン樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたポリプロピレン長繊維の特性は、平均単繊維径は10.6μmであり、これから換算した紡糸速度は4489m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れが0回と良好であった。得られたスパンボンド不織布について、評価した。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例3)
酸化チタン粒子を添加せず、MFRが226g/10分のポリプロピレン樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたポリプロピレン長繊維の特性は、平均単繊維径は10.3μmであり、これから換算した紡糸速度は4725m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れが0回と良好であった。得られたスパンボンド不織布について、評価した。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例4)
酸化チタン粒子の添加量を1.50質量%とし、MFRが245g/10分のポリプロピレン樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたポリプロピレン長繊維の特性は、平均単繊維径は10.2μmであり、これから換算した紡糸速度は4844m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れが0回と良好であった。得られたスパンボンド不織布について、評価した。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例5)
脂肪酸アミド化合物として、エチレンビスステアリン酸アミドを1.0質量%添加し、MFRが249g/10分のポリプロピレン樹脂を用いたこと以外は、実施例4と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたポリプロピレン長繊維の特性は、平均単繊維径は10.3μmであり、これから換算した紡糸速度は4796m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れが0回と良好であった。得られたスパンボンド不織布について、評価した。結果を表1に示す。なお、表1中、EBAはエチレンビスステアリン酸アミドを表す。
【0091】
(実施例6)
矩形エジェクターでエジェクターの圧力を0.54~0.56MPaの範囲で変動させながら牽引し延伸した以外は実施例5と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたポリプロピレン長繊維の特性は、平均単繊維径は10.3~10.7μmであり、これから換算した紡糸速度は4377~4710m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れが0回と良好であった。得られたスパンボンド不織布について、評価した。結果を表1に示す。
【0092】
(比較例1)
矩形エジェクターでエジェクターの圧力を0.28MPaとした以外は、実施例4と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。
得られたポリプロピレン長繊維の特性は、平均単繊維径は16.2μmであり、これから換算した紡糸速度は1917m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れが0回と良好であった。得られたスパンボンド不織布について、評価した。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例2)
矩形エジェクターでエジェクターの圧力を0.52~0.58MPaの範囲で変動させながら牽引し延伸した以外は、実施例5と同じ方法により紡糸を実施した。しかしながら、糸切れが多発し、シート化することができなかった。
【0094】
(比較例3)
MFRが35g/10分のポリプロピレン樹脂を用いたこと以外は、実施例3と同じ方法により紡糸を実施した。しかしながら、糸切れが多発し、シート化することができなかった。
【0095】
(比較例4)
矩形エジェクターでエジェクターの圧力を0.30MPaとした以外は、比較例3と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたポリプロピレン長繊維の特性は、平均単繊維径は15.7μmであり、これから換算した紡糸速度は2061m/分であった。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れが0回と良好であった。得られたスパンボンド不織布について、評価した。結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
実施例1~6は、高い紡糸速度でも紡糸性が良好であり、高い生産性と安定性を有する結果であった。また、実施例1~5は高い紡糸速度で紡糸した結果、細繊度化による均一化により白色度が高く、低目付にも関わらず地合ムラが小さく白色度ムラが小さいことから外観に優れ、欠点も視認しやすいものであった。一方、酸化チタン添加量を増量するにつれ、白色度ムラは増加する傾向であった。実施例6はエジェクターによる糸条の牽引を適度に変動させ、糸道の通過位置を分散させることで高い白色度であるにも関わらず更に白色度ムラが小さいものとなった。また、実施例1~6は湿摩擦による減量が少ないものであった。
【0098】
一方、比較例1で示すように、エジェクターの牽引が弱く低い紡糸速度で紡糸すると繊度が太いため、白色度が低く、地合ムラが大きいことから白色度ムラも目立つものであり、外観も悪く欠点も視認しにくいものであった。また、比較例2で示すようにエジェクターによる牽引速度の変動が大きすぎると糸切れが発生し、安定して生産できないという問題が発生した。比較例3に示すように比較的MFRの小さいプロピレン樹脂を用いた場合は、高い紡糸速度では糸切れが発生し、安定して生産できないという問題が発生した。更に、比較例4に示すように比較的MFRの小さいプロピレン樹脂を用い安定して紡糸可能なエジェクター圧で牽引したものでは比較例1と同様、白色度が低く、白色度ムラも大きなものとなった。また、比較例1、4は湿摩擦による減量が多いものであった。