IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-測距装置および測距方法 図1
  • 特許-測距装置および測距方法 図2
  • 特許-測距装置および測距方法 図3
  • 特許-測距装置および測距方法 図4
  • 特許-測距装置および測距方法 図5
  • 特許-測距装置および測距方法 図6
  • 特許-測距装置および測距方法 図7
  • 特許-測距装置および測距方法 図8
  • 特許-測距装置および測距方法 図9
  • 特許-測距装置および測距方法 図10
  • 特許-測距装置および測距方法 図11
  • 特許-測距装置および測距方法 図12
  • 特許-測距装置および測距方法 図13
  • 特許-測距装置および測距方法 図14
  • 特許-測距装置および測距方法 図15
  • 特許-測距装置および測距方法 図16
  • 特許-測距装置および測距方法 図17
  • 特許-測距装置および測距方法 図18
  • 特許-測距装置および測距方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】測距装置および測距方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/487 20060101AFI20250508BHJP
【FI】
G01S7/487
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021114260
(22)【出願日】2021-07-09
(65)【公開番号】P2023010254
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智成
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-197422(JP,A)
【文献】特表2020-505585(JP,A)
【文献】特開昭51-041990(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0254354(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0179585(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
17/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象領域に向けて光を照射して、前記対象領域に在る対象物体(101)までの距離を測定する測距装置(100)であって、
前記対象領域に向けて光を照射する発光部(11)を制御する発光制御部(23)と、
前記対象領域からの光を検出する受光部(12)が得た検出情報を取得する検出情報取得部(24)と、
前記検出情報を用いて前記対象物体までの距離を算出する距離算出部(26)と、
前記検出情報を用いてマルチパスの有無を判断するマルチパス判断部(27)と、を含み、
前記発光制御部は、単位測定時間当たりに、異なる発光強度および異なる発光時間であり、かつ異なる波形形状を有する2つの光パルスを前記発光部が照射するように制御し、
前記距離算出部は、複数の前記光パルスが前記対象物体で反射することで発生する少なくとも1つの応答パルスの検出タイミングを用いて距離を算出し、
前記マルチパス判断部は、複数の前記応答パルスを受光した順番と複数の前記光パルスを照射した順番とを用いて、同じ順番の前記応答パルスと前記光パルスとの波形形状についてそれぞれ比較して、マルチパスの有無を判断し、
前記検出情報は、前記応答パルスの検出時間、前記応答パルスの受光強度、および前記応答パルスの信号雑音比に基づいて前記検出情報を分類するための情報であって、少なくとも前記マルチパス判断部によって判断されたマルチパスの有無を分類するフラグ情報を含み、
前記距離算出部は、
前記検出情報に含まれる前記応答パルスの数が3個であり、前記検出情報に含まれる複数の前記応答パルスのうち、1番目に検出した前記応答パルスと2番目に検出した前記応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合と、前記設定値より大きい場合とで、異なる前記フラグ情報を出力し、
前記検出情報に含まれる前記応答パルスの数が3個であり、前記検出情報に含まれる複数の前記応答パルスのうち、1番目に検出した前記応答パルスと2番目に検出した前記応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合、前記設定値より大きい場合よりも、前記対象領域の外に在る範囲外対象物体までの距離が近いと判断する測距装置。
【請求項2】
対象領域に向けて光を照射して、前記対象領域に在る対象物体(101)までの距離を測定する測距装置(100)であって、
前記対象領域に向けて光を照射する発光部(11)を制御する発光制御部(23)と、
前記対象領域からの光を検出する受光部(12)が得た検出情報を取得する検出情報取得部(24)と、
前記検出情報を用いて前記対象物体までの距離を算出する距離算出部(26)と、
前記検出情報を用いてマルチパスの有無を判断するマルチパス判断部(27)と、を含み、
前記発光制御部は、単位測定時間当たりに、異なる発光強度および異なる発光時間であり、かつ異なる波形形状を有する2つの光パルスを前記発光部が照射するように制御し、
前記距離算出部は、複数の前記光パルスが前記対象物体で反射することで発生する少なくとも1つの応答パルスの検出タイミングを用いて距離を算出し、
前記マルチパス判断部は、複数の前記応答パルスを受光した順番と複数の前記光パルスを照射した順番とを用いて、同じ順番の前記応答パルスと前記光パルスとの波形形状についてそれぞれ比較して、マルチパスの有無を判断し、
前記検出情報は、前記応答パルスの検出時間、前記応答パルスの受光強度、および前記応答パルスの信号雑音比に基づいて前記検出情報を分類するための情報であって、少なくとも前記マルチパス判断部によって判断されたマルチパスの有無を分類するフラグ情報を含み、
前記距離算出部は、
前記検出情報に含まれる前記応答パルスの数が4個であり、前記検出情報に含まれる複数の前記応答パルスのうち、1番目に検出した前記応答パルスと2番目に検出した前記応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合と、前記設定値より大きい場合とで、異なる前記フラグ情報を出力し、
前記検出情報に含まれる前記応答パルスの数が4個であり、前記検出情報に含まれる複数の前記応答パルスのうち、1番目に検出した前記応答パルスと2番目に検出した前記応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合、前記設定値より大きい場合よりも、前記対象領域の外に在る範囲外対象物体までの距離が近いと判断する測距装置。
【請求項3】
前記マルチパス判断部は、前記発光部が前記単位測定時間当たりに照射する前記光パルスの数よりも、前記単位測定時間当たりに検出された前記検出情報に含まれる前記応答パルスの数が多い場合に、マルチパス有りと判断する請求項1または2に記載の測距装置。
【請求項4】
前記マルチパス判断部は、前記検出情報に含まれる前記応答パルスの数が2個以上であり、かつ2番目の前記光パルスの波形形状と2番目の前記応答パルスの波形形状とが異なる場合には、マルチパス有りと判断する請求項1~3のいずれか1つに記載の測距装置。
【請求項5】
前記発光制御部は、前記単位測定時間当たりに、異なる発光強度であり、かつ異なる波形形状を有する複数の前記光パルスを前記発光部が照射するように制御し、
前記マルチパス判断部は、前記検出情報に含まれる複数の前記応答パルスのうち、前記受光部の検出上限未満にピーク値を有する前記応答パルスを用いてマルチパスの有無を判断する請求項1~のいずれか1つに記載の測距装置。
【請求項6】
前記マルチパス判断部は、前記検出情報に含まれる複数の前記応答パルスのうち、信号雑音比が所定の信頼値以上の前記応答パルスのみを前記光パルスとの比較の対象とする請求項1~のいずれか1つに記載の測距装置。
【請求項7】
対象領域に在る対象物体(101)までの距離を測定するための測距方法あって、
少なくとも1つのプロセッサ(22)によって実行される処理に、
単位測定時間当たりに、異なる発光強度および異なる発光時間であり、かつ異なる波形形状を有する2つの光パルスを発光部(11)が前記対象領域に向けて照射するように制御すること、
前記対象領域からの光を検出する受光部(12)が得た検出情報を取得すること、
前記検出情報に含まれる前記光パルスが前記対象物体で反射することで発生する少なくとも1つの応答パルスの検出タイミングを用いて前記対象物体までの距離を算出すること、
複数の前記応答パルスを受光した順番と複数の前記光パルスを照射した順番とを用いて、同じ順番の前記応答パルスと前記光パルスとの波形形状についてそれぞれ比較してマルチパスの有無を判断すること、を含み、
前記検出情報は、前記応答パルスの検出時間、前記応答パルスの受光強度、および前記応答パルスの信号雑音比に基づいて前記検出情報を分類するための情報であって、少なくとも判断されたマルチパスの有無を分類するフラグ情報を含み、
少なくとも1つのプロセッサ(22)によって実行される処理に、さらに、
前記検出情報に含まれる前記応答パルスの数が3個であり、前記検出情報に含まれる複数の前記応答パルスのうち、1番目に検出した前記応答パルスと2番目に検出した前記応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合と、前記設定値より大きい場合とで、異なる前記フラグ情報を出力すること、
前記検出情報に含まれる前記応答パルスの数が3個であり、前記検出情報に含まれる複数の前記応答パルスのうち、1番目に検出した前記応答パルスと2番目に検出した前記応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合、前記設定値より大きい場合よりも、前記対象領域の外に在る範囲外対象物体までの距離が近いと判断ことを含む測距方法。
【請求項8】
対象領域に在る対象物体(101)までの距離を測定するための測距方法あって、
少なくとも1つのプロセッサ(22)によって実行される処理に、
単位測定時間当たりに、異なる発光強度および異なる発光時間であり、かつ異なる波形形状を有する2つの光パルスを発光部(11)が前記対象領域に向けて照射するように制御すること、
前記対象領域からの光を検出する受光部(12)が得た検出情報を取得すること、
前記検出情報に含まれる前記光パルスが前記対象物体で反射することで発生する少なくとも1つの応答パルスの検出タイミングを用いて前記対象物体までの距離を算出すること、
複数の前記応答パルスを受光した順番と複数の前記光パルスを照射した順番とを用いて、同じ順番の前記応答パルスと前記光パルスとの波形形状についてそれぞれ比較してマルチパスの有無を判断すること、を含み、
前記検出情報は、前記応答パルスの検出時間、前記応答パルスの受光強度、および前記応答パルスの信号雑音比に基づいて前記検出情報を分類するための情報であって、少なくとも判断されたマルチパスの有無を分類するフラグ情報を含み、
少なくとも1つのプロセッサ(22)によって実行される処理に、さらに、
前記検出情報に含まれる前記応答パルスの数が4個であり、前記検出情報に含まれる複数の前記応答パルスのうち、1番目に検出した前記応答パルスと2番目に検出した前記応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合と、前記設定値より大きい場合とで、異なる前記フラグ情報を出力すること、
前記検出情報に含まれる前記応答パルスの数が4個であり、前記検出情報に含まれる複数の前記応答パルスのうち、1番目に検出した前記応答パルスと2番目に検出した前記応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合、前記設定値より大きい場合よりも、前記対象領域の外に在る範囲外対象物体までの距離が近いと判断することを含む測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、対象物体までの距離を測定する測距装置および測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測距装置として、光パルスを使用し、光パルスの飛行時間(TOF)に基づいて対象物体までの距離を測定する技術がある。具体的には、測距装置の光源から出射された光の一部が対象物体で反射されて測距装置の検出器に戻るので、光パルスの出射から検出器が検出するまでの時間に基づいて、対象物体までの距離が推定される(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-173298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の特許文献1に記載の測距装置では、たとえば光源と対象物体との最短経路の付近に他の反射物体がある場合、光源からの光が反射物体を経由して対象物体に至る迂回経路と、光源から直接対象物体に至る最短経路との異なる経路が発生し、いわゆるマルチパスが発生する。光源から複数の同じ光パルスを出射する場合、マルチパスが無い通常の場合は、複数の応答パルスが発生する。また光源から複数の同じ光パルスを出射する場合、マルチパスがある場合は、同様に複数の応答パルスが発生する。
【0005】
このようにマルチパスの有無に関わらず応答パルスが複数発生するので、単純な応答パルスの数だけではマルチパスの有無を判断することが困難である。そしてマルチパスの有無が不明であると、検出した応答パルスが迂回経路の応答パルスである場合には、距離を誤って測定するおそれがあり、距離の測定精度が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、開示される目的は前述の問題点を鑑みてなされたものであり、マルチパスの有無を判断して、測定精度に優れる測距装置および測距方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は前述の目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0008】
ここに開示された測距装置は、対象領域に向けて光を照射して、対象領域に在る対象物体(101)までの距離を測定する測距装置(100)であって、対象領域に向けて光を照射する発光部(11)を制御する発光制御部(23)と、対象領域からの光を検出する受光部(12)が得た検出情報を取得する検出情報取得部(24)と、検出情報を用いて対象物体までの距離を算出する距離算出部(26)と、検出情報を用いてマルチパスの有無を判断するマルチパス判断部(27)と、を含み、発光制御部は、単位測定時間当たりに、異なる発光強度および異なる発光時間であり、かつ複数の異なる波形形状を有する2つの光パルスを発光部が照射するように制御し、距離算出部は、複数の光パルスが対象物体で反射することで発生する少なくとも1つの応答パルスの検出タイミングを用いて距離を算出し、マルチパス判断部は、複数の応答パルスを受光した順番と複数の光パルスを照射した順番とを用いて、同じ順番の応答パルスと光パルスとの波形形状についてそれぞれ比較して、マルチパスの有無を判断し、検出情報は、応答パルスの検出時間、応答パルスの受光強度、および応答パルスの信号雑音比に基づいて検出情報を分類するための情報であって、少なくともマルチパス判断部によって判断されたマルチパスの有無を分類するフラグ情報を含み、距離算出部は、検出情報に含まれる応答パルスの数が3個であり、検出情報に含まれる複数の応答パルスのうち、1番目に検出した応答パルスと2番目に検出した応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合と、設定値より大きい場合とで、異なるフラグ情報を出力し、検出情報に含まれる応答パルスの数が3個であり、検出情報に含まれる複数の応答パルスのうち、1番目に検出した応答パルスと2番目に検出した応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合、設定値より大きい場合よりも、対象領域の外に在る範囲外対象物体までの距離が近いと判断する測距装置である。
また、ここに開示された測距装置は、対象領域に向けて光を照射して、対象領域に在る対象物体(101)までの距離を測定する測距装置(100)であって、対象領域に向けて光を照射する発光部(11)を制御する発光制御部(23)と、対象領域からの光を検出する受光部(12)が得た検出情報を取得する検出情報取得部(24)と、検出情報を用いて対象物体までの距離を算出する距離算出部(26)と、検出情報を用いてマルチパスの有無を判断するマルチパス判断部(27)と、を含み、発光制御部は、単位測定時間当たりに、異なる発光強度および異なる発光時間であり、かつ複数の異なる波形形状を有する2つの光パルスを発光部が照射するように制御し、距離算出部は、複数の光パルスが対象物体で反射することで発生する少なくとも1つの応答パルスの検出タイミングを用いて距離を算出し、マルチパス判断部は、複数の応答パルスを受光した順番と複数の光パルスを照射した順番とを用いて、同じ順番の応答パルスと光パルスとの波形形状についてそれぞれ比較して、マルチパスの有無を判断し、検出情報は、応答パルスの検出時間、応答パルスの受光強度、および応答パルスの信号雑音比に基づいて検出情報を分類するための情報であって、少なくともマルチパス判断部によって判断されたマルチパスの有無を分類するフラグ情報を含み、距離算出部は、検出情報に含まれる応答パルスの数が4個であり、検出情報に含まれる複数の応答パルスのうち、1番目に検出した応答パルスと2番目に検出した応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合と、設定値より大きい場合とで、異なるフラグ情報を出力し、検出情報に含まれる応答パルスの数が4個であり、検出情報に含まれる複数の応答パルスのうち、1番目に検出した応答パルスと2番目に検出した応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合、設定値より大きい場合よりも、対象領域の外に在る範囲外対象物体までの距離が近いと判断する測距装置である。
【0009】
ここに開示された測距方法は、対象領域に在る対象物体(101)までの距離を測定するための測距方法あって、少なくとも1つのプロセッサ(22)によって実行される処理に、単位測定時間当たりに、異なる発光強度および異なる発光時間であり、かつ複数の異なる波形形状を有する2つの光パルスを発光部(11)が対象領域に向けて照射するように制御すること、対象領域からの光を検出する受光部(12)が得た検出情報を取得すること、検出情報に含まれる光パルスが対象物体で反射することで発生する少なくとも1つの応答パルスの検出タイミングを用いて対象物体までの距離を算出すること、複数の応答パルスを受光した順番と複数の光パルスを照射した順番とを用いて、同じ順番の応答パルスと光パルスとの波形形状についてそれぞれ比較してマルチパスの有無を判断すること、を含み、検出情報は、応答パルスの検出時間、応答パルスの受光強度、および応答パルスの信号雑音比に基づいて検出情報を分類するための情報であって、少なくとも判断されたマルチパスの有無を分類するフラグ情報を含み、少なくとも1つのプロセッサ(22)によって実行される処理に、さらに、検出情報に含まれる応答パルスの数が3個であり、検出情報に含まれる複数の応答パルスのうち、1番目に検出した応答パルスと2番目に検出した応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合と、設定値より大きい場合とで、異なるフラグ情報を出力すること、検出情報に含まれる応答パルスの数が3個であり、検出情報に含まれる複数の応答パルスのうち、1番目に検出した応答パルスと2番目に検出した応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合、設定値より大きい場合よりも、対象領域の外に在る範囲外対象物体までの距離が近いと判断ことを含む測距方法である。
さらに、ここに開示された測距方法は、対象領域に在る対象物体(101)までの距離を測定するための測距方法あって、少なくとも1つのプロセッサ(22)によって実行される処理に、単位測定時間当たりに、異なる発光強度および異なる発光時間であり、かつ複数の異なる波形形状を有する2つの光パルスを発光部(11)が対象領域に向けて照射するように制御すること、対象領域からの光を検出する受光部(12)が得た検出情報を取得すること、検出情報に含まれる光パルスが対象物体で反射することで発生する少なくとも1つの応答パルスの検出タイミングを用いて対象物体までの距離を算出すること、複数の応答パルスを受光した順番と複数の光パルスを照射した順番とを用いて、同じ順番の応答パルスと光パルスとの波形形状についてそれぞれ比較してマルチパスの有無を判断すること、を含み、検出情報は、応答パルスの検出時間、応答パルスの受光強度、および応答パルスの信号雑音比に基づいて検出情報を分類するための情報であって、少なくとも判断されたマルチパスの有無を分類するフラグ情報を含み、少なくとも1つのプロセッサ(22)によって実行される処理に、さらに、検出情報に含まれる応答パルスの数が4個であり、検出情報に含まれる複数の応答パルスのうち、1番目に検出した応答パルスと2番目に検出した応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合と、設定値より大きい場合とで、異なるフラグ情報を出力すること、検出情報に含まれる応答パルスの数が4個であり、検出情報に含まれる複数の応答パルスのうち、1番目に検出した応答パルスと2番目に検出した応答パルスとの検出時間の間隔が所定の設定値以下の場合、設定値より大きい場合よりも、対象領域の外に在る範囲外対象物体までの距離が近いと判断することを含む測距方法である。
【0010】
このような測距装置および測距方法に従えば、光パルスは単位測定時間当たりに複数の異なる波形形状および異なる発光時間を有するので、対象物体からの反射があれば、受光部によって応答パルスを得ることができる。したがって検出情報に含まれる応答パルスの検出タイミングを用いて、距離を算出することができる。またマルチパス判断部は、同じ順番の応答パルスと光パルスとの波形形状についてそれぞれ比較して、マルチパスの有無を判断する。マルチパスが無い場合には、光パルスと応答パルスとの同じ順位の波形形状は類似するので、マルチパスの有無、また迂回経路の応答パルスはどれかを判断することができる。したがって検出情報に含まれる最短経路の応答パルスによって距離を測定することができるので、測定精度に優れる測距装置および測距方法を実現することができる。
【0011】
なお、前述の各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態の測距装置100を示すブロック図
図2】信号処理装置20の機能ブロックを示す図。
図3】第1実施例の出射光を示す図。
図4】発光シーケンスを説明する図。
図5】応答パルスを示す図。
図6】飽和した応答パルスを示す図。
図7】応答パルスの他の例を示す図。
図8】信号処理装置20の処理を示すフローチャート。
図9】マルチパスの検出処理を示す図。
図10】マルチパスが発生する要因の一例を説明する図
図11】マルチパスの判断処理を示すフローチャート。
図12】有効エコー数1のときに応答波形を示す図。
図13】有効エコー数2のときの処理を示すフローチャート。
図14】有効エコー数2のときに応答波形を示す図。
図15】有効エコー数3のときの処理を示すフローチャート。
図16】有効エコー数3のときに応答波形を示す図。
図17】有効エコー数4のときの処理を示すフローチャート。
図18】有効エコー数4のときに応答波形を示す図。
図19】第2実施形態のマルチパスの判断処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態を、複数の形態を用いて説明する。各実施形態で先行する実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付すか、または先行の参照符号に一文字追加し、重複する説明を略する場合がある。また各実施形態にて構成の一部を説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している実施形態と同様とする。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0014】
(第1実施形態)
本開示の第1実施形態に関して、図1図18を用いて説明する。本実施形態の測距装置100は、対象領域に向けて光を照射して、対象領域に在る対象物体101までの距離を測定する。測距装置100は、図1に示すように、光学センサ10および信号処理装置20を含んで構成される。本実施形態の測距装置100は、車両に搭載されて、車両の周囲の対象物体101までの距離を測定する。
【0015】
測距装置100は、LiDAR(Light Detection and Ranging / Laser Imaging Detection and Ranging)装置とも呼ばれる。測距装置100は、光の照射に対する反射点からの反射光を検出することで、反射点までの距離を測定する。測距装置100は、例えば高度運転支援機能および自動運転機能の少なくとも一方を備える車両に搭載される。測距装置100は、車内LANを通じて、車載ECU30と通信可能に接続されている。車載ECU30は、測距装置100の測定結果を高度運転支援および自動運転などの処理に利用する電子制御装置である。
【0016】
光学センサ10は、光の照射および反射光の検出を行う。光学センサ10は、光源からの光の射出時刻と反射光の到来時刻との時間差を計測することで光の飛行時間(Time of Flight)を測定する。光学センサ10は、発光部11、受光部12、および制御回路13を備えている。
【0017】
発光部11は、対象領域に向けて光を照射する。発光部11は、車両の外界へ向かうレーザ光を照射する光源であり、たとえばレーザ素子によって実現される。発光部11は、制御回路13による制御に基づき、レーザ光を断続的なパルスビーム状に照射する。発光部11は、レーザ光の照射タイミングに合わせて、可動光学部材によってレーザ光を走査させる。
【0018】
受光部12は、対象領域からの光を検出する。受光部12は、車両の周辺からの光を検出する構成であり、複数の受光素子を有している。受光素子は、発光部11によるレーザ光照射に対する対象物体101からの反射光を含んだ光を検出する撮像素子である。対象物体101は、一例として、車両の周辺の地物である。なお、以下において、このレーザ光照射に対する対象物体101からの反射光を、単に「反射光」と表記する。
【0019】
受光素子は、例えば、発光部11にて照射されるレーザ光の波長付近に対する感度が高く設定されている。受光素子は、一次元方向または二次元方向にアレイ状に配列されている。受光素子の数は、画素数に対応する。受光素子には、一例として、シングルフォトンアバランシェフォトダイオード(Single Photon Avalanche Diode,以下、SPAD)が採用される。SPADは、1つ以上の光子が入射すると、アバランシェ倍増による電子倍増動作により、1つの電気パルスを生成する。SPADは、AD変換回路を介さずに、デジタル信号である電気パルスを出力できる。
【0020】
制御回路13は、レーザ光を走査する照射機能、反射光を検出する反射光検出機能を実行する。照射機能において、制御回路13は、発光部11でのレーザ光の照射および走査を制御する。反射光検出機能において、制御回路13は、受光部12の受光素子が出力した電気パルスの読み出しを行う。
【0021】
具体的には、制御回路13は、レーザ光の照射に伴って、受光素子の複数の走査ラインごとに順次露光および走査する。これにより、制御回路13は、個々の受光素子から出力された露光時間内における時刻毎の電気パルス数を検出データとして取得する。そして制御回路13は、レーザ光の照射時刻からの経過時間と、検出データが示す露光時間内における各検出信号の検出時刻とを関連付けた検出情報を生成する。制御回路13は、生成した検出情報を信号処理装置20に出力する。
【0022】
信号処理装置20は、光学センサ10からの検出情報に基づいて、対象物体101の点群画像を生成する。信号処理装置20は、制御装置であって、図1に示すように、メモリ21およびプロセッサ22を、少なくとも1つずつ含んで構成されるコンピュータである。メモリ21は、コンピュータにより読み取り可能なプログラムおよびデータを非一時的に格納又は記憶する。メモリ21は、例えば半導体メモリ、磁気媒体および光学媒体等のうち少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)によって実現される。メモリ21は、後述の測距プログラムおよび画像処理プログラム等、プロセッサ22によって実行される種々のプログラムを格納している。
【0023】
プロセッサ22は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)およびRISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU等のうち少なくとも一種類を、コアとして含む。プロセッサ22は、たとえばメモリ21に記憶された測距プログラムに含まれる複数の命令を実行する。信号処理装置20は、測距プログラムを実行することで、対象領域に在る対象物体101までの距離を測定する測距方法を実現する。また信号処理装置20は、画像処理プログラムを実行することで、光学センサ10の検出結果から対象物体101の点群画像を生成する画像処理を実行する。信号処理装置20では、複数のプログラムおよび複数の命令をプロセッサ22に実行させることで、複数の機能部が構築される。具体的に、信号処理装置20は、図2に示すように機能部として、発光制御部23、距離算出部26、検出情報取得部24、マルチパス判断部27および画像生成部25を有する。
【0024】
発光制御部23は、発光部11を制御する。発光制御部23は、光学センサ10に動作指令に与える。制御回路13は、動作指令に基づいて、発光部11を制御する。発光制御部23は、発光部11が発光する単位測定時間当たりの光パルスの数、波形形状、および発光強度を制御する。発光部11が発光する光パルスについては、後述する。
【0025】
検出情報取得部24は、受光部12が得た検出情報を取得する。検出情報取得部24は、新しく取得した検出情報について、検出された反射波の波形情報が有効か否かを判定する。例えば、検出情報取得部24は、波形のS/N比の大きさ、波形の振幅等に基づいて、波形情報が有効か否かを判断する。波形情報が有効ではないと判定した場合、検出情報取得部24は、取得した検出情報を棄却する。検出情報取得部24は、制御サイクルごとに全ての画素について、検出情報を取得する。検出情報取得部24は、取得した各検出情報を距離算出部26へと逐次提供する。
【0026】
距離算出部26は、検出情報を用いて対象物体101までの距離を算出する。距離算出部26は、光パルスが対象物体101で反射することで発生する複数の応答パルスの検出タイミングを用いて距離を算出する。距離算出部26は、具体的には、反射点までの距離を算出する。反射点は、レーザ光照射に対して対象物体101にて反射した点である。反射点は、反射光の出射点とも言える。距離算出部26は、算出した反射点までの距離値を画像生成部25に逐次提供する。
【0027】
画像生成部25は、距離算出部26が算出した反射点までの距離値を、三次元の座標情報に変換する。画像生成部25は、光学系の焦点距離、受光素子の数、および受光素子の大きさ等に基づいて、三次元座標値に距離値を変換する。三次元座標値は、測距装置100を中心とした座標系である。画像生成部25は、全ての距離値について三次元座標系に変換し、各受光素子が対応する反射点の座標情報を含む点群画像を生成する。
【0028】
次に、発光部11が出射する光パルスに関して、図3および図4を用いて説明する。図3の第1実施例にて示すように、出射光は、単位測定時間当たりに発光強度および波形形状が互いに異なり、かつ発光時間が互いに異なる、複数、本実施形態では2つの光パルスを有する点に特徴を有する。単位測定時間は、1つのヒストグラムの生成時間である。単位測定時間は、光を出射してから反射光を受光するために設定される時間である。単位測定時間は、たとえば測距上限に基づいて設定される。第1実施例では、前段の光パルスの発光強度が、後段の光パルスの発光強度をよりも大きい。また前段の光パルスと後段の光パルスとは、発光時間が重複しておらず、時間的にずれている。以下、前段の光パルスを第1出射パルス41、後段の光パルスを第2出射パルス42と言うことがある。また第1実施例では、第1出射パルス41と第2出射パルス42とは、波形形状が異なる点にも特徴を有する。第2出射パルス42は、第1出射パルス41よりも偏平な形状を有し、左右非対称である。これに対して、第1比較例では、単位測定時間当たりに1つの光パルスだけである。
【0029】
また図4に示すように、発光時間は各画素に割り当てられる。そして全画素において、同じ発光パターンとなるように発光制御される。発光パターンは、単位測定時間当たりの光パルスの数、光パルスの発光強度および光パルスの波形形状の組み合わせである。したがって、たとえばある第1画素p用の期間と、別の第2画素p+1用の期間において、それぞれ同じ発光パターンとなるように制御される。前述のように1ヒストグラムの生成時間内に2つの光パルスを有し、その発光を、複数回、たとえばN回行う。
【0030】
次に、反射光の応答パルスに関して、図5図7を用いて説明する。前述のように出射光が2つの光パルスを有するので、理想的な条件では、反射光も図5に示すように、2つの応答パルスを有する。以下、前段の応答パルスを第1応答パルス43、後段の応答パルスを第2応答パルス44と言うことがある。
【0031】
図5図7では、縦軸は応答パワーを示す。応答パワーは、光強度に対応する。本実施形態では、受光素子はSPADであるので、応答パワーは応答数に対応する。受光部12は、光の粒子である光子1個以上が画素に入射すると、あたかも雪崩のような増倍によって1個の大きな電気パルス信号を出力するSPADを画素ごとに並べた構造を有する。光子1個から多くの電子に増倍させることができるので、光子1個から検出することができ、出力した電気パルス信号の数が応答数となる。
【0032】
距離を検出する場合には、各応答パルスのピーク値の検出時刻を用いることが望ましい。出射光の各光パルスのピーク値と、各応答パルスのピーク値との時間差によって、距離を高精度に算出することができるからである。図4に示すように、サンプリングによってピーク値を求める。制御回路13は、各サンプリングにおいて、各受光素子から出力された電気パルス数をカウントする。そして制御回路13は、サンプリング毎の電気パルス数を記録したヒストグラムを生成する。ヒストグラムの各階級は、発光部11の出射時刻からサンプリング毎の経過時間である光の飛行時間(Time of Flight,TOF)を示している。したがってサンプリング周波数がTOF測定の時間分解能に相当する。
【0033】
サンプリングによってピーク値が検出できた場合は、図5に示すように、ピーク値を用いて距離を算出する。また図6に示すように、第1応答パルス43では飽和しているので、ピーク値が高精度に検出できないので、第2応答パルス44のピーク値を用いて距離を算出する。
【0034】
図6に示すような飽和は、各受光素子の受光強度に関する上限値を意味する。各受光素子がSPADである場合、各受光素子におけるSPADの応答数に応じた受光強度が取得される。仮に、飽和した第1応答パルス43で距離を算出する場合は、たとえば最大応答数のときのサンプリング時刻をピーク値とみなして、距離を算出する。
【0035】
また図7は、出射光は、1ヒストグラムの生成時間内に2つの光パルスを有し、その発光を、N=1回行った場合の応答パルスの一例である。N=1の場合、飽和する最大応答数は、図6の場合よりも小さくなる。そしてN=1の場合であっても応答パワーにはピーク値または飽和が発生するので、N=1であっても距離を算出することができる。
【0036】
次に、飽和の判定方法に関して説明する。飽和しているか否かは、サンプリング値を用いて判断することができる。たとえば(1)所定のK1個以上の最大応答数がある場合、(2)所定のK2個以上の最大応答数があり、かつ半値幅が所定のT1[ns]以上である場合、および(3)K3個以上の最大応答数があり、かつ裾幅が所定のT2[ns]以上である場合に飽和と判断する。(1)~(3)の判定条件は、個別に用いてもよく、これらを組み合わせて判断してもよい。またK1、K2およびK3の値は、それぞれ異なっていてもよく、同じであってもよい。またT1およびT2の値も、異なっていてもよく、同じであってもよい。これらの値は、たとえば事前の実験およびシミュレーションによって決定される。
【0037】
また反射光の応答パルスが、雑音が少ない適切な波形であるかどうか判断するために、距離算出部26は第1応答パルス43および第2応答パルス44の信号雑音比(S/N比)を算出する。そして算出した信号雑音比(以下、単にSNということがある)が所定の条件を満たす場合には、雑音が少ない適切な波形であるとする。SNは、大きくなるにつれて、雑音が少ないと判断することができる。SNは、次式(1)~(4)によって算出することができる。
【0038】
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
ここで図5に示すように、lmaxは、受光素子が取り得る最大値であり、lpeakは、応答パルスのピーク値であり、lambは、応答パルスの最小値である。たとえば式(1)によって算出されたSNが、適正な信頼値である所定のしきい値以上の場合には、雑音が少ない適切な応答パルスと判断する。また数式(1)~(4)のSNの算出方法は、個別に用いてもよく、これらを組み合わせて判断してもよい。
【0039】
次に、距離算出部26の具体的な処理に関して説明する。図8のフローチャートは、測距装置100が電源投入状態において、距離算出部26が短時間に繰り返し実行する測距プログラムの処理である。図8では、第1応答パルス43をエコーAと称し、第2応答パルス44をエコーBと称する。
【0040】
ステップS1では、エコーAが飽和しているか否かを判断し、飽和している場合には、ステップS2に移り、飽和していない場合には、ステップS10に移る。ステップS2では、エコーBが飽和しているか否かを判断し、飽和している場合には、ステップS3に移り、飽和していない場合には、ステップS5に移る。飽和の判定には、前述した飽和の判定方法を用いる。
【0041】
ステップS3では、エコーAおよびエコーBが共に飽和しているので、エコーAおよびエコーBを用いて距離を算出し、ステップS4に移る。両方の応答パルスが飽和しているので、各応答パルスにて距離を算出して、平均などによって距離を算出する。ステップS4では、第1フラグを付与して、本フローを終了する。フラグについては後述する。
【0042】
ステップS5では、エコーBのSNがしきい値以上であるか否かを判断し、しきい値以上である場合には、ステップS6に移り、しきい値以上でない場合には、ステップS8に移る。ステップS8では、エコーBは飽和しておらず、SNにおける信頼度も高いので、エコーBを用いて距離を算出し、ステップS7に移る。ステップS7では、第2フラグを付与して、本フローを終了する。
【0043】
ステップS8では、エコーBは飽和していないが、SNにおける信頼度が低いので、飽和したエコーAを用いて距離を算出し、ステップS9に移る。ステップS9では、第3フラグを付与して、本フローを終了する。
【0044】
ステップS10では、エコーAが飽和していないので、エコーBのSNがしきい値以上であるか否かを判断し、しきい値以上である場合には、ステップS11に移り、しきい値以上でない場合には、ステップS13に移る。ステップS11では、エコーAおよびエコーBは飽和しておらず、エコーBのSNにおける信頼度も高いので、エコーAおよびエコーBを用いて距離を算出し、ステップS12に移る。第1出射パルス41の方が、発光強度が大きいので、第1出射パルス41に基づくエコーAが飽和していない場合は、第2出射パルス42に基づくエコーBは飽和していないと推定している。ステップS12では、第4フラグを付与して、本フローを終了する。
【0045】
ステップS13では、エコーAが飽和していないが、エコーBのSNがしきい値以上でないので、エコーAのSNがしきい値以上であるか否かを判断し、しきい値以上である場合には、ステップS14に移り、しきい値以上でない場合には、ステップS16に移る。ステップS14では、エコーAおよびエコーBは飽和していないが、エコーBのSNにおける信頼度が低く、エコーAのSNにおける信頼度が高いので、エコーAだけを用いて距離を算出し、ステップS15に移る。ステップS15では、第5フラグを付与して、本フローを終了する。
【0046】
ステップS16では、エコーAおよびエコーBは飽和していないが、エコーAおよびエコーBのSNにおける信頼度が低いので、対象物体101が無いと判断し、ステップS17に移る。ステップS17では、第6フラグを付与して、本フローを終了する。
【0047】
このようにエコーAおよびエコーBの飽和の有無、エコーAおよびエコーBのSNによる信頼度の有無に応じて、6つの距離算出パターンに分けられる。またそれぞれのパターンにおいて、異なるフラグが付与される。
【0048】
第1フラグから第6フラグは、エコーAおよびエコーBに関する応答パルス情報である。応答パルス情報は、各エコーの検出タイミング、受光強度およびSNなど情報を含む。本実施形態では、応答パルス情報は、6つフラグによって示されている。第1フラグから第6フラグは、対象物体101からの反射強度の大まかなクラス分け情報として後段処理で使用するために付与される。第1フラグから第6フラグの順番で、反射強度が弱くなる。たとえば、第1フラグでは、エコーAおよびエコーBが飽和しているので、反射強度が最も強く、対象物体101が高輝度物体である可能性が高いので、飽和したエコーAおよびエコーBを用いて距離を算出している。
【0049】
図8に示すように、距離算出部26は、検出情報に含まれる複数の応答パルスのうち、受光部12の検出上限未満にピーク値を有する応答パルスの検出タイミングを用いて距離を算出する。検出上限未満にピーク値を有する応答パルスとは、飽和していない応答パルスと同義である。具体的には、図8のステップS6、ステップS11およびステップS14に示すように、エコーAおよびエコーBが飽和していない場合には、飽和していない応答パルスを用いて距離を算出する。距離の測定精度を向上するためである。
【0050】
また図8に示すように、距離算出部26は、検出情報に含まれる複数の応答パルスのうち、受光部12の検出上限未満にピーク値を有する応答パルスであり、かつ信号雑音比が所定の信頼値よりも大きい応答パルスの検出タイミングを用いて距離を算出する。具体的には、図8のステップS6、ステップS11およびステップS14に示すように、SNがしきい値以上の場合に距離を算出する。ノイズが少ない応答パルスを用いて、距離の測定精度を向上するためである。
【0051】
さらに図8に示すように、距離算出部26は、検出情報に含まれる複数の応答パルスのうち、受光部12の検出上限未満にピーク値を有する応答パルスがない場合には、検出情報に含まれる全ての応答パルスの検出タイミングを用いて距離を算出する。具体的には、図8のステップS3に示すように、エコーAおよびエコーBが飽和しているので、エコーAおよびエコーBを用いて距離を算出する。飽和しているエコーでは、検出精度は低下するが、2つのエコーを用いることで、検出精度の低下を抑制することができる。
【0052】
次に応答パルスの形状に関して説明する。図9に示すように、第1実施例の出射光は、第1出射パルス41と第2出射パルス42の形状が異なり、第2比較例の出射光は、第1出射パルス41と第2出射パルス42の形状が相似形である。換言すると、発光制御部23は、単位測定時間当たりに複数の異なる発光強度であり、かつ同じ波形形状を有する光パルスを発光部11が照射するように制御する。ここで同じ波形形状には、相似形も含む。
【0053】
第1実施例および第2比較例では、シングルパスであれば、反射光は出射光と同じ形状となる。これに対してマルチパスの場合は、図9に示すように、第1実施例では反射光と出射光が異なる。具体的には、マルチパス判断部27は、検出情報に含まれる複数の応答パルスと、発光部11が照射した複数の光パルスとを、時系列順に波形形状についてそれぞれ比較する。時系列順とは、具体的には、複数の応答パルスを受光した順番と複数の光パルスを照射した順番とを用いて、同じ順番の応答パルスと光パルスとの波形形状についてそれぞれ比較する。したがって1番目に照射した光パルスと1番目に受光した応答パルスの波形形状について比較し、2番目に照射した光パルスと2番目に受光した応答パルスの波形形状について比較する。そしてマルチパス判断部27は、マルチパスの有無を判断する。第1実施例では、マルチパスの場合、第1出射パルス41と第1応答パルス43の波形形状は同じであり、第2出射パルス42と第2応答パルス44の波形形状は異なる。第2比較例では、マルチパスの場合、第1出射パルス41と第1応答パルス43の波形形状は同じであり、さらに第2出射パルス42と第2応答パルス44の波形形状も同じである。
【0054】
したがってマルチパス判断部27は、マルチパスであるか否かを第1実施例の出射光によって判断することができる。これはマルチパスの場合、破線で示す迂回経路52の反射光では、経路長が長いので、受光部12に到達するのが遅れて、実線で示す最短経路51の第2応答パルス44よりも、破線で示す迂回経路52の第1応答パルス43aが早く到達する場合があるからである。
【0055】
次に、マルチパス判断部27の波形の類似判定に関して説明する。マルチパス判断部27は、2つのパルスの波形形状が同じであるか否かは、たとえば(1)パルスの面積(総和)の差分がある値の範囲内、(2)パルスの面積(総和)の比がある値の範囲内、(3)パルスのピーク高さの差がある値の範囲内、(4)パルス幅の差がある値の範囲内、(5)パルスの裾幅の差がある値の範囲内の場合に同じと判定する。したがって波形が同じとは、完全同一に限るものではなく、一定の類似する範囲も含む。(1)~(5)の類似判定条件は、個別に用いてもよく、これらを組み合わせて判断してもよい。
【0056】
図10は、マルチパスが発生する要因の一例を説明する図である。図10に示すように、後方の車両が測距装置100を搭載しており、前方の車両に向けて光を照射した場合、経路上に水溜まりがあるときには、水溜まりにて反射する迂回経路52が発生する。水溜まりは、対象領域の外に位置するので範囲外物体103である。このような迂回経路52に起因して、応答パルスに影響がある。図10に示すようなマルチパスが発生した場合、前述のようにマルチパスであることが判断できれば、マルチパスに関する情報と距離情報とを出力することができる。これによって他の制御装置は、マルチパスに関する情報、および前方車両までの距離情報から、濡れた路面であることを推定する推定精度を向上することができる。
【0057】
マルチパスの他に応答パルスに影響を与える他の要因として、たとえば内部反射がある。しかし、内部反射によるエコー(クラッタ)は、発生する可能性がマルチパスの発生より低いか、または内部反射によるエコーは別途除去することができる。したがってマルチパスの有無を検出する方が内部反射のエコーへの対応よりも重要である。またマルチパスとして、最短経路51と迂回経路52の2個の経路が発生することが多く、3個以上の経路が発生する可能性は低い。したがって発生するマルチパスは2個と仮定し、マルチパスの有無を判断する。
【0058】
次に、有効エコー数が1個から4個の場合に関して、それぞれ説明する。有効エコー数とは、検出情報に含まれる応答パルスの内、飽和しておらず、かつ雑音が少ない適切な波形を有する応答パルスの数である。第1実施例のように2個の光パルスを出射した場合、通常の最短経路51における応答パルスが2個となり、迂回経路52における応答パルスが2個となる場合が、応答パルスが最大に検出した場合である。したがって本実施形態では、最大の有効エコー数は4個となる。
【0059】
図11を用いて、有効エコー数に応じた処理に関して説明する。図11に示すフローチャートは、有効エコー数のカウント後、マルチパス判断部27によって実行される。ステップS21では、有効エコー数が0個であるか否かを判断し、0個の場合はステップS22に移り、0個でない場合は、ステップS24に移る。ステップS22では、有効エコー数が0個であるので、対象物体101が無しと判断し、ステップS23に移る。
【0060】
ステップS24では、有効エコー数が1個であるか否かを判断し、1個の場合はステップS25に移り、1個でない場合は、ステップS26に移る。ステップS25では、有効エコー数が1個であるので、マルチパス無しと判断し、ステップS23に移る。
【0061】
図11は有効エコー数が1個の場合の波形の一例である。図12に示すように、有効エコー数が1個の場合は、第1応答パルス43のみであり、第2応答パルス44がない場合である。この場合は、対象物体101が遠いためか、第2応答パルス44が返ってきていないので、マルチパスは無しと判断することができる。
【0062】
ステップS26では、有効エコー数が2個であるか否かを判断し、2個の場合はステップS27に移り、2個でない場合は、ステップS28に移る。ステップS27では、有効エコー数が2個であるので、後述する有効エコー数2の処理を実行し、ステップS23に移る。
【0063】
ステップS28では、有効エコー数が3個であるか否かを判断し、3個の場合はステップS29に移り、3個でない場合は、ステップS210に移る。ステップS29では、有効エコー数が3個であるので、後述する有効エコー数3の処理を実行し、ステップS23に移る。
【0064】
ステップS210では、有効エコー数が4個であるか否かを判断し、4個の場合はステップS211に移り、4個でない場合は、ステップS212に移る。ステップS211では、有効エコー数が4個であるので、後述する有効エコー数4の処理を実行し、ステップS23に移る。ステップS212では、有効エコー数が5個以上であるので、エラーと判断し、ステップS23に移る。
【0065】
ステップS23では、各フラグを付与し、本フローを終了する。各フラグとは、ステップS23に至る処理で設定されたマルチパスフラグ、または物体無し、マルチパス無しおよびエラーなどの判断結果に対応するフラグである。これによって各ケースにおいて、異なるフラグが設定される。したがってフラグを参照することで、マルチパスの判断処理における判断材料を他の装置に出力することができる。またフラグとすることで、情報量を抑制することができる。換言すると、予め各フラグに対応するフラグ情報が設定されているので、フラグを指定することで、対応付けられているフラグ情報を他の装置が参照することができる。
【0066】
次に有効エコー数に対応する処理に関して図13図18を用いて説明する。図14図16および図18では、迂回経路52の応答パルスを破線で示している。また図13図15および図17では、第1出射パルス41をテンプレA、第2出射パルス42をテンプレB、到達時間が早い応答パルスをエコーA、到達時間が遅い応答パルスをエコーBと表記している。また図13図18では、マルチパスフラグをMフラグと記載している。マルチパスフラグは、マルチパスがある場合に、マルチパスに関する情報を出力するために設定するフラグである。本実施形態では、マルチパスフラグは、予め第1マルチパスフラグから第7マルチパスフラグが設定されている。マルチパスに関する情報とは、たとえば有効エコー数、および波形の類似度、応答パルスの強度、応答パルスの到達時間である。
【0067】
まず、有効エコー数が2個の場合の処理に関して説明する。図13に示す処理は、図11のステップS27に移ると開始される。ステップS31では、複数の応答パルスと複数の出射パルスとを、時系列順に波形形状についてそれぞれ比較して、ステップS32に移る。
【0068】
ステップS32では、エコーBとテンプレBとが類似しているか否かを判断し、類似している場合は、ステップS33に移り、類似していない場合は、ステップS34に移る。類似しているか否かは、前述の波形の類似判定によって判断される。
【0069】
ステップS33では、エコーBとテンプレBとが類似しているので、マルチパス無しと判断し、本フローを終了する。図14は有効エコー数が2個の場合の波形の一例である。図12に示すように、有効エコー数が2個の場合は、マルチパスがある場合と、マルチパスがない場合とがある。マルチパスがない場合は、第2出射パルス42と第2応答パルス44との波形形状は同じである。
【0070】
ステップS34では、エコーBとテンプレAとが類似しているか否かを判断し、類似している場合は、ステップS35に移り、類似していない場合は、ステップS36に移る。ステップS33では、エコーBとテンプレAとが類似しているので、マルチパス有りと判断し、第1マルチパスフラグを設定し、本フローを終了する。ステップS36では、マルチパス有りと判断し、第2マルチパスフラグを設定し、本フローを終了する。
【0071】
図14に示すように、マルチパスがある場合は、第2出射パルス42と第2応答パルス44との波形形状とは異なる。図12の第1マルチパスフラグの場合は、第2応答パルス44が第1出射パルス41と類似形状であるので、第2応答パルス44は迂回経路52の応答パルスと判断する。図12の第2マルチパスフラグの場合は、第2応答パルス44が第1出射パルス41と非類似形状であるので、第2応答パルス44は迂回経路52の応答パルスと判断する。第1マルチパスフラグの場合は、たとえば対象物体101が低反射物体であり、マルチパスに発生に寄与する範囲外物体103も低反射物の場合である。第2マルチパスフラグの場合は、たとえば対象物体101が通常の反射物体であり、マルチパスに発生に寄与する範囲外物体103も低反射物の場合である。このような範囲外物体103の位置および反射率によって、マルチパスにおける応答パルスの検出タイミングが異なる。
【0072】
次に、有効エコー数が3個の場合の処理に関して説明する。図15に示す処理は、図11のステップS29に移ると開始される。ステップS41では、複数の応答パルスと複数の出射パルスとを、時系列順に波形形状についてそれぞれ比較して、ステップS42に移る。
【0073】
ステップS42では、エコーAとエコーBの時間間隔が所定の設定値T3以下であるか否かを判断し、設定値T3以下である場合は、ステップS43に移り、設定値T3以下でない場合は、ステップS44に移る。設定値T3は、有効エコー数が3個の場合に、範囲外物体103が近いか否かを判断するための値である。設定値T3は、事前の実験またはシミュレーションによって設定され、第1出射パルス41と第2出射パルス42との時間間隔よりも小さく設定される。ステップS43では、エコーAとエコーBとの時間間隔が設定値T3以下であるので、マルチパス有りと判断し、第3マルチパスフラグを設定し、本フローを終了する。
【0074】
ステップS44では、エコーBとテンプレBとが類似しているか否かを判断し、類似している場合は、ステップS45に移り、類似していない場合は、ステップS46に移る。ステップS43では、エコーBとテンプレBとが類似しているので、マルチパス有りと判断し、第4マルチパスフラグを設定し、本フローを終了する。ステップS46では、マルチパス有りと判断し、第5マルチパスフラグを設定し、本フローを終了する。
【0075】
図16に示すように、有効エコー数が3個の場合は、3パターンにわかれ、全てマルチパスがある場合となる。有効エコー数が3個であると、出射した光パルスの数よりも多いので、マルチパス有りと判断している。そして図16の第3マルチパスフラグの場合は、最短経路51の第1応答パルス43と第2応答パルス44が検出され、迂回経路52の第1応答パルス43aが検出された場合である。そして最短経路51の第1応答パルス43、迂回経路52の第1応答パルス43a、および最短経路51の第2応答パルス44の順に検出されている。この場合は、範囲外物体103が近いと判断する要因となる。
【0076】
また図16の第4マルチパスフラグの場合は、最短経路51の第2応答パルス44と迂回経路52の第1応答パルス43aとが重畳した場合である。そして、最短経路51の第1応答パルス43、重畳パルス、迂回経路52の第2応答パルス44aの順に検出されている。この場合は、範囲外物体103が第3マルチパスフラグの場合よりは遠いと判断する要因となる。
【0077】
さらに図16の第5マルチパスフラグの場合は、最短経路51の第1応答パルス43と第2応答パルス44が検出され、迂回経路52の第1応答パルス43aが検出された場合である。そして最短経路51の第1応答パルス43、最短経路51の第2応答パルス44、および迂回経路52の第1応答パルス43aの順に検出されている。この場合は、範囲外物体103が第4マルチパスフラグよりは遠いと判断する要因となる。
【0078】
次に、有効エコー数が4個の場合の処理に関して説明する。図17に示す処理は、図11のステップS211に移ると開始される。ステップS51では、複数の応答パルスと複数の出射パルスとを、時系列順に波形形状についてそれぞれ比較して、ステップS52に移る。
【0079】
ステップS52では、エコーAとエコーBの時間間隔が所定の設定値T4以下であるか否かを判断し、設定値T4以下である場合は、ステップS53に移り、設定値T4以下でない場合は、ステップS54に移る。設定値T3は、有効エコー数が4個の場合に、範囲外物体103が近いか否かを判断するための値である。設定値T4は、事前の実験またはシミュレーションによって設定され、第1出射パルス41と第2出射パルス42との時間間隔よりも小さく設定される。
【0080】
ステップS53では、エコーAとエコーBとの時間間隔が設定値T4以下であるので、マルチパス有りと判断し、第6マルチパスフラグを設定し、本フローを終了する。ステップS54では、エコーAとエコーBとの時間間隔が設定値T4以下でないので、マルチパス有りと判断し、第7マルチパスフラグを設定し、本フローを終了する。
【0081】
図18に示すように、有効エコー数が4個の場合は、2パターンにわかれ、全てマルチパスがある場合となる。そして図18の第6マルチパスフラグの場合は、最短経路51の第1応答パルス43と第2応答パルス44が検出され、迂回経路52の第1応答パルス43aと第2応答パルス44aが検出された場合である。そして最短経路51の第1応答パルス43、迂回経路52の第1応答パルス43a、最短経路51の第2応答パルス44、および迂回経路52の第2応答パルス44aの順に検出されている。この場合は、範囲外物体103が近いと判断する要因となる。
【0082】
また図18の第7マルチパスフラグの場合は、同様に、最短経路51の第1応答パルス43と第2応答パルス44が検出され、迂回経路52の第1応答パルス43aと第2応答パルス44aが検出された場合である。そして最短経路51の第1応答パルス43、最短経路51の第2応答パルス44、迂回経路52の第1応答パルス43a、および迂回経路52の第2応答パルス44aの順に検出されている。この場合は、範囲外物体103が第6マルチパスフラグよりは遠いと判断する要因となる。
【0083】
以上説明したように本実施形態の測距装置100および測距方法に従えば、光パルスは単位測定時間当たりに複数の異なる波形形状を有するので、対象物体101からの反射があれば、受光部12によって複数の応答パルスを得ることができる。したがって検出情報に含まれる複数の応答パルスの検出タイミングを用いて、距離を算出することができる。またマルチパス判断部27は、複数の応答パルスと複数の光パルスとを、時系列順に波形形状についてそれぞれ比較して、マルチパスの有無を判断する。マルチパスが無い場合には、光パルスと応答パルスとの時系列順の波形形状は類似するので、マルチパスの有無、また迂回経路52の応答パルスはどれかを判断することができる。したがって最短経路51の応答パルスによって距離を測定することができるので、測定精度に優れる測距装置100および測距方法を実現することができる。
【0084】
また本実施形態では、マルチパス判断部27は、発光部11が単位測定時間当たりに照射する光パルスの数よりも、検出情報に含まれる応答パルスの数が多い場合に、マルチパス有りと判断する。図11などで説明したように、たとえば出射パルスが2個の場合は、応答パルスの数が3個以上の場合は、マルチパス有りと判断する。マルチパスがない場合は、応答パルスは2個以下になるはずだからである。これによって、波形形状の類似可否とあわせて、マルチパスの有無を判断することができる。
【0085】
さらに本実施形態では、マルチパス判断部27は、応答パルスの数が2個以上であり、かつ2番目の光パルスの波形形状と2番目の応答パルスの波形形状とが異なる場合には、マルチパス有りと判断する。図9などで説明したように、第1出射パルス41と第2出射パルス42の波形形状が異なるので、2番目の応答パルスの波形形状でマルチパスの有無を判断することができる。
【0086】
また本実施形態では、マルチパス判断部27は、複数の応答パルスのうち、受光部12の検出上限未満にピーク値を有する応答パルスを用いてマルチパスの有無を判断する。ピーク値を有する応答パルスによって、波形形状を比較するので、高精度にマルチパスの有無を判断することができる。
【0087】
さらに本実施形態では、マルチパス判断部27は、複数の応答パルスのうち、信号雑音比が所定の信頼値以上の応答パルスのみを光パルスとの比較の対象とする。これによってSNが信頼値よりも高く信頼性が高い応答パルスによって、波形形状を比較するので、高精度にマルチパスの有無を判断することができる。
【0088】
また本実施形態では、測距方法は、単位測定時間当たりに複数の異なる波形形状を有する光パルスを発光部11が対象領域に向けて照射するように制御すること、対象領域からの光を検出する受光部12が得た検出情報を取得すること、検出情報に含まれる光パルスが対象物体101で反射することで発生する少なくとも1つの応答パルスの検出タイミングを用いて対象物体101までの距離を算出すること、検出情報に含まれる複数の応答パルスと、発光部11が照射した複数の波形形状とを、時系列順に波形形状についてそれぞれ比較してマルチパスの有無を判断することを含む。これによって前述のように高精度に距離を算出することができる。
【0089】
(第2実施形態)
次に、本開示の第2実施形態に関して、図19を用いて説明する。本実施形態では、マルチパスの有無を判断する処理に特徴を有する。図19を用いて、本実施形態の有効エコー数に応じた処理に関して説明する。図19に示すフローチャートは、有効エコー数のカウント後、マルチパス判断部27によって実行される。
【0090】
ステップS61では、有効エコー数が0個であるか否かを判断し、0個の場合はステップS62に移り、0個でない場合は、ステップS64に移る。ステップS62では、有効エコー数が0個であるので、対象物体101が無しと判断し、ステップS63に移る。
【0091】
ステップS64では、有効エコー数が1個であるか否かを判断し、1個の場合はステップS65に移り、1個でない場合は、ステップS66に移る。ステップS65では、有効エコー数が1個であるので、マルチパス無しと判断し、ステップS63に移る。
【0092】
ステップS66では、有効エコー数が2個であるか否かを判断し、2個の場合はステップS67に移り、2個でない場合は、ステップS610に移る。ステップS67では、エコーBとテンプレBとが類似しているか否かを判断し、類似している場合は、ステップS68に移り、類似していない場合は、ステップS69に移る。
【0093】
ステップS68では、エコーBとテンプレBとが類似しているので、マルチパス無しと判断し、ステップS63に移る。ステップS69では、エコーBとテンプレBとが類似していないので、マルチパス有りと判断し、ステップS63に移る。ステップS610では、有効エコー数が3個以上であるので、マルチパス有りと判断し、ステップS63に移る。
【0094】
ステップS63では、各フラグを付与し、本フローを終了する。本実施形態の各フラグとは、ステップS63に至る処理で設定されたフラグ、または物体無し、マルチパス無し、マルチパス有り、および有効エコー数に対応するフラグである。
【0095】
このように本実施形態では、有効エコー数と波形形状の類否判断によって、5つのケースに分類している。前述の図11に示すフローチャートでは、サブルーチンの処理も含めると11個のケースに分類しているに対して、本実施形態では5つケースに分類しているので処理を簡素化することができる。
【0096】
したがって本実施形態では、第1実施形態よりも簡素な処理で、マルチパスの有無を判断することができる。これによって処理を高速化、および処理による負担を軽減することができる。
【0097】
(その他の実施形態)
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は前述した実施形態に何ら制限されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0098】
前述の実施形態の構造は、あくまで例示であって、本開示の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本開示の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0099】
前述の第1実施形態では、出射光の光パルスは大小の2つであったが、2つに限るものではなく、3つ以上であってもよい。また出射光の光パルスの発光強度は同じであってもよい。また受光部12は、SPADを用いた構成であったが、SPADに限るものではなく、CMOSセンサなど他のイメージセンサであってもよい。
【0100】
前述の第1実施形態において、信号処理装置20によって実現されていた機能は、前述のものとは異なるハードウェアおよびソフトウェア、またはこれらの組み合わせによって実現してもよい。信号処理装置20は、たとえば他の制御装置と通信し、他の制御装置が処理の一部または全部を実行してもよい。信号処理装置20が電子回路によって実現される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、またはアナログ回路によって実現することができる。具体的には、信号処理装置20は、車両の自己位置を推定するロケータのECUであってもよい。信号処理装置20は、車両の高度運転支援または自動運転を制御するECUであってもよい。信号処理装置20は、車両と外界との間の通信を制御するECUであってもよい。
【0101】
また信号処理装置20は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、NPU(Neural network Processing Unit)及び他の専用機能を備えたIPコア等をさらに含む構成であってよい。こうした信号処理装置20は、プリント基板に個別に実装された構成であってもよく、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)及びFPGA等に実装された構成であってもよい。
【0102】
前述の第1実施形態では、測距装置100は車両で用いられているが、車両に搭載された状態に限定されるものではなく、少なくとも一部が車両に搭載されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0103】
10…光学センサ 11…発光部 12…受光部 13…制御回路 14…画素
20…信号処理装置 21…メモリ 22…プロセッサ 23…発光制御部
24…検出情報取得部 25…画像生成部 26…距離算出部
27…マルチパス判断部 30…車載ECU 41…第1出射パルス
42…第2出射パルス 43…第1応答パルス 44…第2応答パルス
51…最短経路 52…迂回経路 100…測距装置 101…対象物体
103…範囲外物体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19