(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】画像解析装置および画像解析方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/90 20060101AFI20250508BHJP
【FI】
G01S13/90 191
(21)【出願番号】P 2021165979
(22)【出願日】2021-10-08
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(74)【代理人】
【識別番号】100116643
【氏名又は名称】伊達 研郎
(74)【代理人】
【識別番号】100184022
【氏名又は名称】前田 美保
(72)【発明者】
【氏名】栗原 康平
(72)【発明者】
【氏名】豊田 善隆
(72)【発明者】
【氏名】三五 大輔
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-032828(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202259(WO,A1)
【文献】特開2018-205146(JP,A)
【文献】特許第6246440(JP,B1)
【文献】特許第6246441(JP,B1)
【文献】特開2017-220058(JP,A)
【文献】特開2017-207365(JP,A)
【文献】特開2010-175330(JP,A)
【文献】特開2010-117327(JP,A)
【文献】特開2000-322556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-17/95
G06T 1/00
G06T 7/00- 7/90
G06V10/00-20/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リモートセンシングデータである入力画像データを読み込むデータ読込部と、
前記データ読込部に読み込まれた前記入力画像データに対する変位解析結果
および変位解析結果を得た際の設定パラメータを含む解析履歴に関するデータを保存する解析結果保存部と、
前記データ読込部に読み込まれた前記入力画像データに対応する過去の変位解析結果が、前記解析結果保存部に存在する場合は、前
記解析履歴に関するデータと前記データ読込部に読み込まれた前記入力画像データとを用いたインクリメント変位解析を行って前記入力画像データに対応する変位解析結果を生成し、前記過去の変位解析結果が前記解析結果保存部に存在しない場合は、前記データ読込部に読み込まれた複数の前記入力画像データを用いた入力画像変位解析を行って前記入力画像データに対応する変位解析結果を生成する変位解析部と
を備え
、
前記インクリメント変位解析は、PSInSARまたはSBASによる差分干渉解析である、
画像解析装置。
【請求項2】
前記変位解析部は、前記解析結果保存部に、前記入力画像データに対応する
前記過去の変位解析結果が存在する場合は前記インクリメント変位解析を選択し、前記入力画像データに対応する前記過去の変位解析結果が存在しない場合は前記入力画像変位解析を選択する処理方法選択部と、
前記処理方法選択部で前記インクリメント変位解析が選択された場合、前
記インクリメント変位解析を行って前記入力画像データに対応する変位解析結果を生成し、前記処理方法選択部で前記入力画像変位解析が選択された場合、前
記入力画像変位解析を行って前記入力画像データに対応する変位解析結果を生成する解析実行部と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の画像解析装置。
【請求項3】
前記処理方法選択部は、
前記解析履歴に関するデータを読み込む解析履歴読込部と、
前記解析履歴読込部で読み込んだ前記解析履歴
に関するデータに前記入力画像データに対応する
前記過去の変位解析結果が存在する場合に、前記解析履歴に関するデータに含まれる
設定パラメータである既存設定パラメータに入力された設定パラメータが含まれているか否かを照合するパラメータ照合部と、
前記パラメータ照合部で照合した結果、前記入力された設定パラメータが前記既存
設定パラメータに含まれている場合には前記インクリメント変位解析を実行することを決定し、前記入力
された設定パラメータが前記既存
設定パラメータに含まれていない場合には前記入力画像変位解析を実行することを決定する処理方法決定部と
を備えることを特徴とする請求項2に記載の画像解析装置。
【請求項4】
前記変位解析部は
、変位解析結果を生成するために用いる前記入力画像データの観測時期を選択する処理範囲選択部
を備えることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の画像解析装置。
【請求項5】
リモートセンシングデータである入力画像データを読み込むデータ読込ステップと、
前記データ読込ステップで読み込まれた前記入力画像データに対応する過去の変位解析結果が、
前記入力画像データに対する変位解析結果および変位解析結果を得た際の設定パラメータを含む解析履歴に関するデータを保存する解析結果保存部に存在する場合は、前
記解析履歴に関するデータと前記データ読込部に読み込まれた前記入力画像データとを用いたインクリメント変位解析を行って前記入力画像データに対応する変位解析結果を生成し、前記過去の変位解析結果が解析結果保存部に存在しない場合は、前記データ読込部に読み込まれた複数の前記入力画像データを用いた入力画像変位解析を行って前記入力画像データに対応する変位解析結果を生成する変位解析ステップと、
前記変位解析ステップで生成された変位解析結果
および変位解析結果を得た際の設定パラメータを含む解析履歴に関するデータを解析結果保存部に保存する解析結果保存ステップと
を備え、
前記インクリメント変位解析は、PSInSARまたはSBASによる差分干渉解析である、画像解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像解析装置および画像解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
洪水、大雨、地震などの災害発生時に、地上に設置された各種センサーで検知した検知結果に基づいて被害状況を把握することが行われている。地上センサーを用いて被害状況を把握する方法は、地上センサーが設けられた場所に近い位置の家屋や発電所などの被害状況を把握することに利用できるが、広域に被害が発生する災害において、地域全体の被害状況を面状に把握することができない。
広域の災害における被害状況を把握する手法としては、リモートセンシングデータを活用した解析手法がある。このような解析手法に用いるリモートセンシングデータの例としては、航空機、ドローン、人工衛星等に搭載された、光学素子や合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar、以下、SARと称する)で検知するデータが挙げられる。
【0003】
例えばSARが検知する画像を用いた解析手法では、異なる位置から観測した2枚のSAR画像を干渉させて地表の標高情報を抽出したり、同じ地表位置における観測時期が異なる2つのSAR画像の差をとることにより地表の変位を測定する干渉処理の技術が用いられている。
SAR画像の干渉処理を用いた解析手法では、複数枚のSAR画像を用いることにより、高い信号雑音比(signal-noise ratio、以下、SN比と称す)の解析結果が得られ、SAR画像を干渉処理した干渉画像は、微小な地表の変位を捉えることができることから、地表の変位を伴う災害監視、港湾監視、火山監視などに利用することができる。
【0004】
例えば、特許文献1では、PS点(Persistent Scatterer)とよばれるコヒーレンスなどが高い画素のみを抽出することでノイズ成分を抑制し、計測の精度を向上させており、加えて、多数のSAR画像を干渉させることで位相成分の時系列的な変化を解析し、所定期間での変位の傾向である変位速度を高い精度で計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来の解析手法では、SAR画像のようなリモートセンシングデータを用いるが、リモートセンシングデータは写真等で用いられるフォーマットの画像データに比べ、データサイズが非常に大きく、画像解析に多大な時間を要するという課題があった。
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであり、画像解析に要する時間を抑えることができる画像解析装置および画像解析方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る画像解析装置は、リモートセンシングデータである入力画像データを読み込むデータ読込部と、データ読込部に読み込まれた入力画像データに対する変位解析結果および変位解析結果を得た際の設定パラメータを含む解析履歴に関するデータを保存する解析結果保存部と、データ読込部に読み込まれた入力画像データに対応する過去の変位解析結果が、解析結果保存部に存在する場合は、解析履歴に関するデータとデータ読込部に読み込まれた入力画像データとを用いたインクリメント変位解析を行って入力画像データに対応する変位解析結果を生成し、過去の変位解析結果が解析結果保存部に存在しない場合は、データ読込部に読み込まれた複数の入力画像データを用いた入力画像変位解析を行って入力画像データに対応する変位解析結果を生成する変位解析部とを備えたものである。また、本開示に係る画像解析装置が実行するインクリメント変位解析は、PSInSARまたはSBASによる差分干渉解析である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の画像解析装置は、入力画像データを読み込むデータ読込部と、入力画像データに対する変位解析結果を保存する解析結果保存部と、入力画像データに対応する過去の変位解析結果が、解析結果保存部に存在する場合は、過去の変位解析結果を得た際の解析履歴に関するデータとデータ読込部に読み込まれた入力画像データとを用いたインクリメント変位解析を行い、過去の変位解析結果が解析結果保存部に存在しない場合は、データ読込部に読み込まれた複数の入力画像データを用いた入力画像変位解析を行い、入力画像データに対応する変位解析結果を生成する変位解析部とを備えたので、解析結果保存部に過去の変位解析結果が存在する場合には、過去の変位解析結果を得た際の解析履歴に関するデータを利用してインクリメント変位解析処理が行われるため、複数の入力画像データを用いた入力画像変位解析処理より変位解析に要する時間を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施の形態1における画像解析装置の動作を示すフローチャート
【
図3】PSInSARを用いた変位解析における入力画像データと変位解析結果との関係を示す模式図
【
図4】SBASを用いた変位解析における入力画像データと変位解析結果との関係を示す模式図
【
図5】実施の形態1において変位解析を実行する際に用いるデータを模式的に示すタイムチャート
【
図7】実施の形態2における処理方法選択動作を示すフローチャート
【
図9】実施の形態3における画像解析装置の動作を示すフローチャート
【
図10】実施の形態3において変位解析を実行する際に用いるデータを模式的に示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における画像解析装置1と、画像解析装置1と接続された入力データ保存部2と、測量データ保存部3とで構成された画像解析システム4の構成図である。この画像解析システム4は、光学素子やSAR等の検知装置で検知され入力データ保存部2に保存された入力画像データと測量データ保存部3に保存された地表の標高情報等の測量データを画像解析装置1で読み込み、画像解析を行うシステムである。
入力データ保存部2には入力画像データが保存され、測量データ保存部3には標高情報などの測量データを保存されている。測量データは測位衛星や航空レーザを用いて取得したDEM(Digital Elevation Model)などの地形データの他、写真測量など地上で取得された地形データが挙げられ、入力画像データの歪みを補正する目的で用いられる。
【0011】
画像解析装置1は、入力データ保存部2に保存されたリモートセンシングデータである入力画像データ、および測量データ保存部3に保存された測量データを読み込むデータ読込部11と、データ読込部11に読み込まれた入力画像データに対する変位解析結果および変位解析結果を得た際の設定パラメータ等を含む解析履歴に関するデータを保存する解析結果保存部12と、データ読込部11に読み込まれた入力画像データに対応する過去の変位解析結果が解析結果保存部12に存在する場合は、過去の変位解析結果および変位解析結果を得た際の設定パラメータを含む解析履歴に関するデータと、データ読込部11に読み込まれた入力画像データとを用いたインクリメント変位解析を行って入力画像データに対応する変位解析結果を生成し、過去の変位解析結果が解析結果保存部12に存在しない場合は、データ読込部11に読み込まれた複数の入力画像データを用いた入力画像変位解析を行って入力画像データに対応する変位解析結果を生成する変位解析部13とを備える。
【0012】
変位解析部13は、解析結果保存部12に、入力画像データに対応する過去の変位解析結果が存在する場合はインクリメント変位解析を選択し、入力画像データに対応する過去の変位解析結果が存在しない場合は入力画像変位解析を選択する処理方法選択部131と、処理方法選択部131でインクリメント変位解析が選択された場合、解析結果保存部12から読み出した過去の変位解析結果および変位解析結果を得た際の設定パラメータ等を含む解析履歴に関するデータと、データ読込部11に読み込まれた入力画像データとを用いたインクリメント変位解析を行って入力画像データに対応する変位解析結果を生成し、処理方法選択部131で入力画像変位解析が選択された場合、データ読込部11に読み込まれた複数の入力画像データを用いた入力画像変位解析を行って入力画像データに対応する変位解析結果を生成する解析実行部132とを備える。
【0013】
次に、このように構成された画像解析装置1の動作について説明する。
図2は実施の形態1における画像解析装置1の動作を示すフローチャートである。
まず、ステップS1において、データ読込部11は、入力データ保存部2に保存された入力画像データ、および測量データ保存部3に保存された測量データを読み込み、処理方法選択部131に送る(データ読込ステップ)。ここで、入力データ保存部2に保存された入力画像データは、例えば、SARにより観測した観測データであり、同じ観測対象領域を複数の観測時期において観測した画像を示すデータである。複数の観測時期で観測した場合、それぞれの画像は、撮像機器が相対的に異なる位置で観測した画像となる。
【0014】
次に、ステップS2において、処理方法選択部131は、解析結果保存部12を参照し、データ読込部11が読み込んだ入力画像データに対応する領域の処理履歴情報から過去の変位解析結果が存在するかを判定し、過去の変位解析結果が存在する場合はインクリメント変位解析を、過去の変位解析結果が存在しない場合は入力画像変位解析を選択する。
【0015】
さらに、解析実行部132は、入力画像データと過去の複数時期の入力画像データとが、撮像時のセンサー方向の違いや撮像面までの距離の違いなど撮像由来の不整合が存在する場合、測量データ保存部3に保存された測量データを用いて画像間の歪みを補正し、変位解析を実行する。
【0016】
そして、ステップS3において、解析実行部132は、ステップS2で処理方法選択部131が選択した処理方法に基づき、インクリメント変位解析または入力画像変位解析を行う(変位解析ステップ)。
ステップS2で入力画像変位解析を行う選択がなされた場合、解析実行部132は、データ読込部11が読み込んだ複数の入力画像データを用いて入力画像変位解析を実行し、入力画像データに対応する変位解析結果および変位解析結果を得た際の設定パラメータを含む解析履歴に関するデータを生成する。
【0017】
一方、ステップS2でインクリメント変位解析を行う選択がなされた場合、解析実行部132は、入力画像データの領域に対応する過去の変位解析結果および変位解析結果を得た際の設定パラメータを含む解析履歴に関するデータを解析結果保存部12から取り出し、この解析履歴に関するデータとデータ読込部11で読み込んだ入力画像データとを用いてインクリメント変位解析を実行して入力画像データに対応する変位解析結果を生成する。
このインクリメント変位解析は、解析結果保存部12に過去の解析結果が存在する場合には、過去の変位解析結果および変位解析結果を得た際の設定パラメータを含む解析履歴に関するデータと入力画像データを利用して行うので、一度変位解析した入力画像データの組み合わせについての演算と設定パラメータの設定を省略できるため、複数の入力画像データを用いた入力画像変位解析処理より変位解析に要する時間を抑えることができる。以下に解析実行部132が実行するインクリメント変位解析の詳細について説明する。
【0018】
まず、変位解析の手法として、PSInSARによる差分干渉解析を実施する場合を説明する。
図3は、PSInSARを用いた変位解析における入力画像データと変位解析結果との関係を示す模式図であり、横軸を観測時期、縦軸を観測を行った撮像機器の相対的な位置とし、各入力画像データの観測時期と位置をプロットしたものである。
【0019】
図3(a)は、各入力画像データを表しており、撮像時期の古い順からD1、D2、D3、D4、D5の5データがプロットされている。
【0020】
入力画像データの領域に対応する過去の変位解析結果がなく、入力画像変位解析が選択された場合は、
図3(a)に示す複数のデータを用いて、4通りの入力画像データの組み合わせで入力画像変位解析が実行される。例えば、基礎情報であるマスターデータをD3とすると、D3と他の4つのデータとの4通りの組み合わせで入力画像変位解析を実行する。D3と他の4つのデータとを繋いだ実線は、繋いだ2つのデータを対象としてパラメータを用いたPSInSARによる入力画像変位解析を実行することを表している。
【0021】
一方、新たな入力画像データであるD6が読み込まれた際、同じ対象領域に対応する過去の変位解析結果があり、インクリメント変位解析が選択された場合は、
図3(b)に示すように、この新たな入力画像データであるD6と、過去の変位解析結果であるI13、I23、I43、I53とを用いたインクリメント変位解析が実行される。
ここで、D3と他の4つのデータとを繋いだ点線は、繋いだ2つのデータを対象としてパラメータを用いたPSInSARによる入力画像変位解析が過去に実行されたことを表している。I13、I23、I43、I53は、同じ対象領域に対する複数の入力画像データを用いて入力画像変位解析を行った変位解析結果であり、各変位解析結果I13、I23、I43、I53の添え字は、入力画像変位解析に用いた2つの入力画像データの添え字を組み合わせたものである。例えば、変位解析結果I13は入力画像データD1と入力画像データD3とを用いて入力画像変位解析を行った結果である。
【0022】
同じ領域に対する新たな入力画像データであるD6と、過去の変位解析結果I13、I23、I43、I53とを用いたインクリメント変位解析では、まず、入力画像データD6とマスターデータD3の変位解析を実行して変位解析結果I36(図示せず)を生成する。そして、I13、I23、I43、I53、I36から変位量の近似式を算出する。ここで、PSInSARの特徴として「対象の変位の時間変化は線形」という仮定を鑑み、算出した近似式から乖離が大きい変位解析結果は変位量位相が安定していない点として変位解析結果の集合から取り除き、残った変位解析結果に基づきより高精度の変位量を算出することで、入力画像データに対応する変位解析結果として生成する。
【0023】
このインクリメント変位解析では、過去の変位解析結果I13、I23、I43、I53、および、これらを得た際、すなわちD3とD1、D2、D4、D5の4つの入力画像データとの組み合わせによる入力画像変位解析の際に使用した設定パラメータを含む解析履歴に関するデータを解析結果保存部12から取り出し、再度使用することができるので、単に複数の入力画像データを用いて行う入力画像変位解析処理より変位解析に要する時間を抑えることができる。
【0024】
次に、PSInSARとは別の変位解析の手法として、観測時点全ての組み合わせで干渉処理を行う、SBASによる差分干渉解析を実施する場合を説明する。
図4は、SBASを用いた変位解析における入力画像データと変位解析結果との関係を模式的に示す模式図であり、横軸を観測時期、縦軸を観測を行った撮像機器の相対的な位置とし、各入力画像データの観測時期と位置をプロットしたものである。
【0025】
図4(a)にある観測データである入力画像データは、撮像時期の古い順からD1、D2、D3、D4、D5の5データがプロットされている。
【0026】
入力画像データの領域に対応する過去の変位解析結果がなく、入力画像変位解析が選択された場合は、
図4(a)に示す複数のデータを用いて、4通りの入力画像データの組み合わせで入力画像変位解析が実行される。例えば、基礎情報であるマスターデータをD3とすると、入力画像データのペア全てを用いて入力画像変位解析を実施する。
図4(a)において、各データを繋いだ実線は、繋いだ2つのデータを対象としてパラメータを用いたSBASによる入力画像変位解析を表している。なお、入力画像データの撮像位置が一定距離以上離れたデータペア、つまりベースラインが長いデータペアは、高さ方向で感度が良くなり、使用する参照DEMの影響を受けやすくなるため差分干渉解析に向かないので、差分干渉解析を実施しない。したがって、
図4(a)の例では、ベースラインが長い、D1とD5のペアと、D2とD4のペアでは差分干渉解析を実施していない。
【0027】
一方、新たな入力画像データであるD6が読み込まれた際、同じ対象領域に対応する過去の変位解析結果があり、インクリメント変位解析が選択された場合は、
図4(b)に示すように、この新たな入力画像データであるD6と、過去の変位解析結果であるI12、I13、I14、I23、I25、I43、I45、I53とを用いたインクリメント変位解析が実行される。
ここで、D3と他の4つのデータとを繋いだ点線は、繋いだ2つのデータを対象としてパラメータを用いたSBASによる入力画像変位解析が過去に行われたことを表している。I12、I13、I14、I23、I25、I43、I45、I53は、同じ対象領域に対する複数の入力画像データを用いて入力画像変位解析を行った変位解析結果であり、各変位解析結果I12、I13、I14、I23、I25、I43、I45、I53の添え字は、入力画像変位解析に用いた2つの入力画像データの添え字を組み合わせたものである。例えば、変位解析結果I13は入力画像データD1と入力画像データD3とを用いて入力画像変位解析を行った結果である。
【0028】
同じ領域に対する新たな入力画像データであるD6と、過去の変位解析結果I12、I13、I14、I23、I25、I43、I45、I53とを用いたインクリメント変位解析では、まず、入力画像データD6とマスターデータD3の変位解析を実行して変位解析結果I16、I26、I46、I56、I63(いずれも図示せず)を生成する。そして、これらI16、I26、I46、I56、I63とに基づき変位量を算出することで、入力画像データに対応する変位解析結果として生成する。
【0029】
このインクリメント変位解析では、過去の変位解析結果I12、I13、I14、I23、I25、I43、I45、I53、およびこれらを得た際、すなわち、
図4(a)に実線で示した入力画像変位解析の際に使用した設定パラメータを含む解析履歴に関するデータを解析結果保存部12から取り出し、再度使用することができるので、複数の入力画像データの組み合わせを用いた入力画像変位解析処理を設定パラメータの設定から行う場合より、変位解析に要する時間を抑えることができる。
【0030】
変位解析部13は、以上のようにして生成した変位解析結果を解析結果保存部12に保存する(解析結果保存ステップ)。
【0031】
図5は、実施の形態1におけるステップS3において選択された処理方法に基づいて変位解析を実行する際に用いるデータを示すタイムチャートである。
【0032】
まず、時期T4において、新規に変位解析を実施する場合のように最初の変位解析を実施する場合、過去の変位解析結果が存在しないので、時期T1からT4までの入力画像データを用いて入力画像変位解析が実行される。
次に、新たな入力画像データとして時期T5における入力画像データをデータ読込部11で読み込んだ場合、過去の変位解析結果があるので処理方法選択部131によりインクリメント変位解析が選択される。この場合、時期T2から時期T4までの入力画像データを用いて生成した変位解析結果と、新たな時期T5における画像入力データとを用いて、インクリメント変位解析が実行される。なお、どの程度の範囲の過去の変位解析結果を利用するかは、状況によって決めればよく、例えば、設定した期間より過去のデータは入力データから外し、変位解析を行わないようにしてもよい。
図5では、過去3つ前まで過去の変位解析結果を利用する例を示している。
【0033】
新たな入力画像データとして時期T6における入力画像データを読み込んだ場合も同様にインクリメント変位解析が実行される。
【0034】
また、過去の変位解析結果がある場合でも、他の条件、あるいはユーザの指示により、新規な変位解析を行うことが適切な場合は、解析実行部132にインクリメント変位解析ではなく入力画像変位解析を実行させるようにしてもよい。
図5には、新たな入力画像データとして時期T7における入力画像データを読み込んだ場合、時期T4から時期T7における入力画像データを用いて入力画像変位解析が実行される様子を示している。
【0035】
以上のように、実施の形態1における画像解析装置1によれば、解析結果保存部12に過去の変位解析結果が存在する場合には、過去の変位解析結果および過去の変位解析結果を得た際の設定パラメータ等を含む解析履歴に関するデータと入力画像データを利用してインクリメント変位解析処理が行われるため、過去の変位解析を実行する際に用いた設定パラメータを再度使用することにより、複数の入力画像データの組み合わせを用いた入力画像変位解析処理を設定パラメータの設定から行う場合より、変位解析に要する時間を抑えることができる。
【0036】
実施の形態2.
図6は、実施の形態2における画像解析装置1を用いた画像解析システム4の構成図である。この実施の形態2においては、変位解析において用いられる設定パラメータをユーザが入力するパラメータ入力部14が設けられ、また画像解析装置1の処理方法選択部131に、解析履歴読込部1311と、パラメータ照合部1312と、処理方法決定部1313とが設けられており、その他は、実施の形態1で示した画像解析システム4と同様の構成である。
【0037】
解析履歴読込部1311は、データ読込部11に読み込まれた入力画像データに対応する領域の過去の解析結果が解析結果保存部12に存在する場合、入力画像データに対応する解析履歴に関するデータを読み込むものである。この解析履歴に関するデータには、入力画像データに対応する過去の変位解析結果、および変位解析結果を得た際の設定パラメータが含まれている。
【0038】
パラメータ照合部1312は、解析履歴読込部1311に読み込まれた解析履歴に関するデータに含まれる設定パラメータ、すなわち既存設定パラメータと、パラメータ入力部14に入力された設定パラメータとを照合するものであり、パラメータ入力部14に入力された設定パラメータが既存設定パラメータに含まれているか否かを示す存否情報を出力する。なお、設定パラメータとしては、例えば、入力する測量データの種別、ノイズフィルタ種別、ノイズフィルタのウインドウサイズ、などが挙げられる。
【0039】
処理方法決定部1313は、パラメータ照合部1312から出力された存否情報が、パラメータ入力部14に入力された設定パラメータが既存設定パラメータに含まれていることを示す場合にはインクリメント変位解析を実行することを決定し、パラメータ入力部14に入力された設定パラメータ設定パラメータが既存設定パラメータに含まれていないことを示す場合には入力画像変位解析を実行することを決定するものである。
【0040】
次に、このように構成された画像解析装置1の動作について説明する。
図7は、実施の形態2の画像解析装置1の動作を示すフローチャートである。
【0041】
まず、ステップS11では、実施の形態1におけるステップS1と同様に、データ読込部11が、入力データ保存部2に保存された入力画像データ、および測量データ保存部3に保存された測量データを読み込み、処理方法選択部131に送る。
次に、ステップS21において、解析履歴読込部1311は、入力画像データに対応する領域の過去の変位解析結果を得る際の解析履歴に関するデータを読み込む。
【0042】
そして、ステップS22において、パラメータ照合部1312は、データ読込部11が読み込んだ入力画像データに対応する変位解析結果が、解析履歴読込部1311が読み込んだ解析履歴に関するデータに含まれるか否か判断し、変位解析結果が含まれている場合は、その変位解析結果を得た際の既存設定パラメータと、パラメータ入力部14に入力された設定パラメータとを照合し、パラメータ入力部14に入力された設定パラメータが既存設定パラメータに含まれているか否かを示す存否情報を出力する。
【0043】
ステップS23において、処理方法決定部1313は、パラメータ照合部1312から出力された存否情報が、パラメータ入力部14に入力された設定パラメータが既存設定パラメータに含まれていることを示す場合にはインクリメント変位解析を実行することを決定し、パラメータ入力部14に入力された設定パラメータが既存設定パラメータに含まれていないことを示す場合には入力画像変位解析を実行することを決定する。
【0044】
次に、ステップS31において、解析実行部132は、ステップS23で決定された変位解析を、実施の形態1で説明したステップS3を同様にして実行する。
【0045】
以上のように、実施の形態2の画像解析装置1によれば、解析履歴読込部1311で読み込んだ解析履歴に入力画像データに対応する過去の変位解析結果が存在する場合に、入力された設定パラメータが既存設定パラメータに含まれているか否かを照合するパラメータ照合部と、パラメータ照合部による照合の結果、入力された設定パラメータが既存パラメータに含まれている場合にはインクリメント変位解析を実行することを決定し、入力設定パラメータが既存パラメータに含まれていない場合には入力画像変位解析を実行することを決定する処理方法決定部とを備えたので、一度変位解析した入力画像データの組み合わせについての演算とパラメータの設定を省略できるため、複数の入力画像データを用いた入力画像変位解析処理より変位解析に要する時間を抑えることができる。
【0046】
実施の形態3.
図8は、実施の形態3における画像解析装置1を用いた画像解析システム4の構成図であり、地形変化に関する情報である外部変化情報を保存する外部変化情報保存部15が設けられ、また画像解析装置1の変位解析部13に、外部変化情報保存部15から読み出した外部変化情報を用いて、変位解析に用いる入力画像データの観測時期を選択する処理範囲選択部133を備えたほかは、実施の形態1と同様の構成である。
なお、外部変化情報保存部15に保存される外部変化情報とは、地形や周辺エリアになんらかの変化を与える外部要因の発生状況を示す情報であり、例えば、河川傾斜面への造営などを行う公共工事の実施状況を示す情報、あるいは、過去の災害発生状況を示す情報である。
このような外部変化の前後では地形、周辺環境等が大きく変化している可能性がある。地形等が大きく変化する前の変位解析結果は、地形等が変化した後の対象エリアに対する変位解析を行う際に流用する過去の変位解析結果としては適切でない。このため、実施の形態3の画像解析装置1では外部変化情報を用いて、変位解析に用いる入力画像データの観測時期を適切に選択するようにしている。
【0047】
次に、このように構成された画像解析装置1の動作について説明する。
図9は実施の形態3における画像解析装置1の動作を示すフローチャートである。
【0048】
まず、ステップS41、ステップS42では、実施の形態1におけるステップS1、ステップS2と同様に、処理方法選択部131が、入力画像データに対応する領域の処理履歴情報から過去の変位解析結果が存在するかを判定し、過去の変位解析結果が存在する場合はインクリメント変位解析を、過去の変位解析結果が存在しない場合は入力画像変位解析を選択する。
【0049】
次に、ステップS43において、処理範囲選択部133は、外部変化情報保存部15から読み出した外部変化情報を用いて、変位解析に用いる入力画像データの観測時期を選択する。
【0050】
図10は、実施の形態3において変位解析を実行する際に用いるデータを模式的に示すタイムチャートである。この
図10に示した例は、時期T2と時期T3との間において、観測領域内で工事が発生している場合である。
まず、時期T4において、新規に変位解析を実施する場合のように最初の変位解析を実施する場合、過去の変位解析結果が存在しないので、時期T1からT4までの入力画像データを用いて入力画像変位解析が実行される。
【0051】
次に、時期T5における入力画像データが追加された場合、ステップS42の処理方法選択部131が処理方法を選択する動作により、インクリメント変位解析が選択される。
続いてステップS43において処理範囲選択部133による入力画像データの観測時期を選択する選択動作が行われる。
【0052】
このとき、処理範囲選択部133は外部変化情報保存部15から読み込んだ外部変化情報により、時期T2と時期T3との間において、観測領域内で工事が発生していることが示さており、時期T2以前に観測された入力画像データを用いた変位解析結果をインクリメント変位解析に用いることは適切でない。
このため、インクリメント変位解析に用いる変位解析結果としては、時期T3以降に観測された入力画像データを用いた変位解析結果が適切であり、処理範囲選択部133は、インクリメント変位解析に用いる入力画像データの観測時期として、時期T3以降の時期を選択する。そして、この選択された時期の入力画像データによる変位解析結果を用いて解析実行部132によりインクリメント変位解析が実行される。
【0053】
同様にして、時期T6の画像データが追加された場合は、時期T3から時期T5の入力画像データによる変位解析結果と時期T6の入力画像データとを用いてインクリメント変位解析が実行される。
【0054】
以上のように、実施の形態3の画像解析装置1によれば、外部変化情報を用いて変位解析に用いる入力画像データの観測時期を選択する処理範囲選択部133を設けた構成により、工事等により地形、環境等が大きく変化した可能性がある場合には、変化があった時期以降の時期の入力画像データを用いて変位解析を実行するので、変位解析に用いる入力画像データが適切に選択され、精度よい変位解析を実行することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 画像解析装置、 2入力データ保存部、 3測量データ保存部、 4画像解析システム、 11 データ読込部、 12解析結果保存部、 13 変位解析部、 14パラメータ入力部、 15 外部変化情報保存部、 131 処理方法選択部、 132 解析実行部、 1311 解析履歴読込部、 1312 パラメータ照合部、 1313 処理方法決定部