(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/036 20060101AFI20250508BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20250508BHJP
【FI】
G02B6/036 501
G02B6/02 376A
(21)【出願番号】P 2021553455
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2020039370
(87)【国際公開番号】W WO2021085236
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2019198768
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100190470
【氏名又は名称】谷澤 恵美
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 洋宇
(72)【発明者】
【氏名】田村 欣章
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄揮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅人
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-518312(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172197(WO,A1)
【文献】特表2018-516386(JP,A)
【文献】特開2017-076053(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0274428(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02- 6/036
G02B 6/44
C03B 37/00-37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ系ガラスからなる光ファイバであって、
中心軸を含むコアと、
前記コアを取り囲むクラッドと、を備え、
前記コアの屈折率は、前記クラッドの屈折率よりも大きく、
前記コアは、塩素を含むと共に、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの1種類以上の元素を含み、
純シリカの屈折率を基準とした前記コアの比屈折率差は、0.00%以上0.15%以下であり、
前記クラッドにおけるフッ素の平均濃度は、質量分率で0.6%以上1.2%以下であり、
前記クラッドの外径は、124μm以上126μm以下であり、
前記光ファイバにおいて、前記中心軸からの距離が50μm以上62.5μm以下の領域における残留応力の最小値は、10MPa以下であ
り、
前記領域における残留応力は、前記領域の全体にわたって引張応力である、
前記光ファイバの残留応力の最大値と最小値との差は、10MPa以上である、光ファイバ。
【請求項2】
前記クラッドにおけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.1%以下である、請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記クラッドのうち、前記中心軸からの距離が前記コアの半径の1倍以上2倍以下である領域におけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.2%以下である、請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記クラッドのうち、前記中心軸からの距離が前記コアの半径の1倍以上2倍以下である領域におけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.1%以下である、請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項5】
シリカ系ガラスからなる光ファイバであって、
中心軸を含むコアと、
前記コアを取り囲むクラッドと、を備え、
前記コアの屈折率は、前記クラッドの屈折率よりも大きく、
前記コアは、塩素を含むと共に、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの1種類以上の元素を含み、
純シリカの屈折率を基準とした前記コアの比屈折率差は、-0.15%以上0.05%以下であり、
前記クラッドにおけるフッ素の平均濃度は、質量分率で
1.1%以上1.4%以下であり、
前記クラッドの外径は、124μm以上126μm以下であり、
前記光ファイバにおいて、前記中心軸からの距離が50μm以上62.5μm以下の領域における残留応力の最小値は、10MPa以下であ
り、
前記領域における残留応力は、前記領域の全体にわたって引張応力であり、
前記光ファイバの残留応力の最大値と最小値との差は、10MPa以上である、光ファイバ。
【請求項6】
前記クラッドにおけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.3%以下である、請求項5に記載の光ファイバ。
【請求項7】
前記クラッドのうち、前記中心軸からの距離が前記コアの半径の1倍以上2倍以下である領域におけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.4%以下である、請求項5に記載の光ファイバ。
【請求項8】
前記クラッドのうち、前記中心軸からの距離が前記コアの半径の1倍以上2倍以下である領域におけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.3%以下である、請求項5に記載の光ファイバ。
【請求項9】
前記光ファイバの実効断面積は、70μm
2以上90μm
2以下である、請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項10】
前記クラッドの外径は、124μm以上126μm以下であり、
前記光ファイバの残留応力は、前記中心軸からの距離が20μm以上55μm以下の領域において最大値となっている、請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項11】
前記コアにおける前記元素の平均濃度は、質量分率で0.2ppm以上200ppm以下である、請求項1から請求項
10のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項12】
前記元素群は、ナトリウム、カリウム、セシウム、及びカルシウムからなる、請求項1から請求項
11のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバに関する。本出願は、2019年10月31日出願の日本出願第2019-198768号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリカ系ガラスのコアがアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含んでいると、光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する際にコア部の粘性が低減されると共にガラスの再配列が促進される。よって、光ファイバのレイリ散乱起因の伝送損失が低減される。以下では、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の双方を「アルカリ金属元素群」という。
【0003】
特許文献1には、コアにアルカリ金属元素が添加された光ファイバが開示されている。この光ファイバでは、コアのアルカリ金属元素濃度、及びクラッドのフッ素濃度を最適化することで、伝送損失の低減が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の一実施形態に係る光ファイバは、シリカ系ガラスからなる。光ファイバは、中心軸を含むコアと、コアを取り囲むクラッドと、を備える。コアの屈折率は、クラッドの屈折率よりも大きい。コアは、塩素を含むと共に、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの1種類以上の元素を含む。純シリカの屈折率を基準としたコアの比屈折率差は、0.00%以上0.15%以下である。クラッドにおけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.2%以下である。
【0006】
本開示の他の実施形態に係る光ファイバは、シリカ系ガラスからなる。光ファイバは、中心軸を含むコアと、コアを取り囲むクラッドと、を備える。コアの屈折率は、クラッドの屈折率よりも大きい。コアは、塩素を含むと共に、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの1種類以上の元素を含む。純シリカの屈折率を基準としたコアの比屈折率差は、-0.15%以上0.05%以下である。クラッドにおけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.4%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係る光ファイバの断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の光ファイバの製造方法を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、光ファイバ1から9について、クラッドの平均フッ素濃度と波長1550nmにおける伝送損失との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、光ファイバ10から18について、クラッドの平均フッ素濃度と波長1550nmにおける伝送損失との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
【0009】
光ファイバ母材の状態ではコア部の中心部に添加されていたアルカリ金属元素群は、線引時に拡散する。これにより、アルカリ金属元素群を含むコアにおいて塩素が含有されていない場合(または、塩素含有量が少ない場合)、ガラス分子構造の結合が切断されてガラス欠陥が発生する。よって、得られた光ファイバでは、ガラス欠陥に由来して伝送損失が増加する。コア部が十分な量の塩素を含んでいる場合、その塩素がガラス欠陥に結合することで、ガラス欠陥の発生が抑制される。その結果、ガラス欠陥に由来する伝送損失の増加が抑制される。
【0010】
特許文献1では、コアのアルカリ金属元素濃度、及びクラッドのフッ素濃度が伝送損失に影響するとされている。このことから分かるように、クラッドのフッ素濃度の揺らぎも伝送損失に影響する。つまり、クラッドのフッ素濃度を最適化することで伝送損失の低減を図ることができる。しかし、コアの屈折率が決定されると、カットオフなどの光学特性を一定の範囲に収めるために、クラッドの屈折率を決まった屈折率にせざるを得ない。よって、クラッドのフッ素濃度の設計には、実質的な自由度がないと考えられていた。このような考えの下では、クラッドのフッ素濃度を最適化し、伝送損失の更なる低減を図ることは困難である。
【0011】
そこで、伝送損失の更なる低減を図ることができる光ファイバを提供することを目的とする。
【0012】
[本開示の効果]
本開示によれば、伝送損失の更なる低減を図ることができる光ファイバを提供することができる。
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。一実施形態に係る光ファイバは、シリカ系ガラスからなる。光ファイバは、中心軸を含むコアと、コアを取り囲むクラッドと、を備える。コアの屈折率は、クラッドの屈折率よりも大きい。コアは、塩素を含むと共に、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの1種類以上の元素を含む。純シリカの屈折率を基準としたコアの比屈折率差は、0.00%以上0.15%以下である。クラッドにおけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.2%以下である。
【0014】
上記実施態様に係る光ファイバでは、クラッドにおけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.2%以下であるから、伝送損失の更なる低減を図ることができる。
【0015】
クラッドにおけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.1%以下であってもよい。この場合、伝送損失の更なる低減をより確実に図ることができる。
【0016】
クラッドのうち、中心軸からの距離がコアの半径の1倍以上2倍以下である領域におけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.2%以下であってもよい。この場合、伝送損失の更なる低減を図ることができる。
【0017】
クラッドのうち、中心軸からの距離がコアの半径の1倍以上2倍以下である領域におけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.1%以下であってもよい。この場合、伝送損失の更なる低減をより確実に図ることができる。
【0018】
他の実施形態に係る光ファイバは、シリカ系ガラスからなる。光ファイバは、中心軸を含むコアと、コアを取り囲むクラッドと、を備える。コアの屈折率は、クラッドの屈折率よりも大きい。コアは、塩素を含むと共に、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの1種類以上の元素を含む。純シリカの屈折率を基準としたコアの比屈折率差は、-0.15%以上0.05%以下である。クラッドにおけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.4%以下である。
【0019】
上記他の実施態様に係る光ファイバでは、クラッドにおけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.4%以下であるから、伝送損失の更なる低減を図ることができる。
【0020】
クラッドにおけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.3%以下であってもよい。この場合、伝送損失の更なる低減をより確実に図ることができる。
【0021】
クラッドのうち、中心軸からの距離がコアの半径の1倍以上2倍以下である領域におけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.4%以下であってもよい。この場合、伝送損失の更なる低減を図ることができる。
【0022】
クラッドのうち、中心軸からの距離がコアの半径の1倍以上2倍以下である領域におけるフッ素の平均濃度は、質量分率で1.3%以下であってもよい。この場合、伝送損失の更なる低減をより確実に図ることができる。
【0023】
光ファイバの残留応力の最大値と最小値との差は、10MPa以上であってもよい。この場合、光ファイバのカットオフ波長を長くすることなどの特性の調整ができる。
【0024】
光ファイバの実効断面積は、70μm2以上90μm2以下であってもよい。この場合、通信容量を確保することができる。
【0025】
クラッドの外径は、124μm以上126μm以下であり、光ファイバの残留応力は、中心軸からの距離が20μm以上55μm以下の領域において最大値となっていてもよい。この場合、この領域において残留応力を引張応力とし、これにより、光ファイバのカットオフ波長を長くすることができる。なお、本開示では、残留応力が引張応力である場合は、残留応力を「正値」で示し、残留応力が圧縮応力である場合は、残留応力を「負値」で示す。「残留応力の大小」は、この定義を踏まえたものとする。
【0026】
クラッドの外径は、124μm以上126μm以下であり、光ファイバにおいて、中心軸からの距離が50μm以上62.5μm以下の領域における残留応力の最小値は、10MPa以下であってもよい。この場合、この領域より内側において残留応力を引張応力とし、これにより、光ファイバのカットオフ波長を長くすることができる。
【0027】
コアにおけるアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの1種類以上の元素の平均濃度は、質量分率で0.2ppm以上200ppm以下であってもよい。この場合、0.2ppm以上であるため、レイリ散乱損失を十分に下げることができる。200ppm以下であるため、カリウム濃度揺らぎ由来のロス増を抑制することができる。
【0028】
元素群は、ナトリウム、カリウム、セシウム、及びカルシウムからなってもよい。この場合、いずれの元素であっても、コアの粘性を低減させ、レイリ散乱損失を下げることができる。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の光ファイバの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0030】
図1は、実施形態に係る光ファイバの断面図を示す図である。
図1に示されるように、本実施形態の光ファイバ1は、中心軸Cを含むコア10と、コア10を取り囲むクラッド20と、クラッド20を取り囲む不図示の樹脂被覆と、を備える。クラッド20は、コア10を取り囲む第1クラッド21と、第1クラッド21を取り囲む第2クラッド22と、を含んでいる。
図1の断面図は、中心軸Cに対して垂直な断面を表している。光ファイバ1は、シリカ系ガラスからなる。コア10の屈折率は、クラッド20の屈折率よりも大きい。光ファイバ1の実効断面積は、例えば、70μm
2以上90μm
2以下である。光ファイバ1の残留応力の最大値と最小値との差は、例えば、10MPa以上である。
【0031】
コア径(コア10の直径)は、例えば、8μm以上15μm以下である。第1クラッド径(第1クラッド21の外径)は、例えば、20μm以上60μm以下である。第2クラッド径(第2クラッド22の外径)は、例えば、124μm以上126μm以下である。本実施形態では、第2クラッド径は、クラッド径(クラッド20の外径)でもある。本実施形態では、コア径は、9μm以上10μm以下であり、クラッド径は、125μmである。
【0032】
コア10は、塩素(Cl)及びフッ素(F)を含んでいる。コア10は、更に、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる元素群(以下、「アルカリ金属元素群」という)のうちの1種類以上の元素を含んでいる。アルカリ金属元素群は、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)、及びカルシウム(Ca)からなっていてもよい。この場合、アルカリ金属元素群は、アルカリ金属元素として、ナトリウム、カリウム及びセシウムを含んでいると共に、アルカリ土類金属元素として、カルシウムを含んでいる。
【0033】
純シリカの屈折率を基準としたコア10の比屈折率差は、例えば、0.00%以上0.15%以下であってもよく、0.05%以上0.07%以下であってもよい。この場合、クラッド20の平均フッ素濃度(Fave)は、例えば、質量分率で0.55%以上1.2%以下である。これにより、伝送損失の更なる低減を図ることができる。クラッド20の平均フッ素濃度(Fave)は、例えば、質量分率で0.60%以上1.1%以下であってもよい。これにより、伝送損失の更なる低減をより確実に図ることができる。
【0034】
純シリカの屈折率を基準としたコア10の比屈折率差は、例えば、-0.15%以上0.05%以下であってもよく、-0.08%以上-0.05%以下であってもよい。この場合、クラッド20の平均フッ素濃度(Fave)は、例えば、質量分率で1.0%以上1.4%以下である。これにより、伝送損失の更なる低減を図ることができる。クラッド20の平均フッ素濃度(Fave)は、例えば、質量分率で1.1%以上1.3%以下であってもよい。これにより、伝送損失の更なる低減をより確実に図ることができる。
【0035】
ここで、クラッド20の平均フッ素濃度(Fave)は、クラッド全領域におけるフッ素の平均濃度で定義されてもよいし、クラッド20のうち、中心軸からの距離がコア10の半径の1倍以上2倍以下である領域におけるフッ素の平均濃度で定義されてもよい。後者の場合、クラッド20の平均フッ素濃度は、クラッド20のコア径からコア径の2倍までの比較的コア近傍の範囲でのフッ素濃度の平均値を指し、以下の式(1)のように計算できる。F(r)は局所的なフッ素濃度、aはコア10の半径を指す。
【0036】
【0037】
コア10におけるアルカリ金属元素群の元素の平均濃度は、質量分率で0.2ppm以上200ppm以下である。例えば、コア10がカリウムを含んでいる場合、コア10の平均K濃度は、以下の式(2)のように計算できる。K(r)は局所的なK濃度、aはコア10の半径を指す。
【0038】
【0039】
図2は、
図1の光ファイバの製造方法を説明するフローチャートである。以下の説明では、具体的な条件の一例についても記載している。光ファイバは、準備工程(ステップS1)、添加工程(ステップS2)、縮径工程(ステップS3)、エッチング工程(ステップS4)、中実化工程(ステップS5)、延伸研削工程(ステップS6)、ロッドインコラプス工程(ステップS7)、OVD工程(ステップS8)及び線引工程(ステップS9)を順に経て製造される。
【0040】
準備工程(ステップS1)では、アルカリ金属元素群(ドーパント)を拡散させるべきシリカ系ガラスのガラスパイプを準備する。このガラスパイプの元になるシリカ系ガラス円柱体は、一定濃度の塩素及び一定濃度のフッ素を含み、その他のドーパント及び不純物の濃度が質量分率で10ppm以下である。このシリカ系ガラスのガラスパイプの外径は30mm以上40mm以下であり、内径は15mm以上25mm以下である。
【0041】
添加工程(ステップS2)では、アルカリ土類金属群のドーパントとしてカリウム(K)元素をシリカ系ガラスのガラスパイプの内表面に添加する。原料として臭化カリウム(KBr)6g以上10g以下を用いる。この原料を外部熱源で温度750℃以上850℃以下に加熱して、原料蒸気を発生させる。1SLM(0℃、1013hPaでの体積に換算して1リットル/min)の流量の酸素からなるキャリアガスと共に原料蒸気をシリカ系ガラスのガラスパイプの内部に導入しながら、外部から酸水素バーナによってシリカ系ガラスのガラスパイプの外表面が温度1600℃以上1800℃以下となるようにシリカ系ガラスのガラスパイプを加熱する。このとき、30mm/min以上60mm/min以下の速さでバーナをトラバースさせて合計10ターン以上15ターン以下で加熱し、K元素をシリカ系ガラスのガラスパイプの内表面に拡散添加させる。
【0042】
縮径工程(ステップS3)では、Kが添加されたシリカ系ガラスのガラスパイプを縮径する。このとき、シリカ系ガラスのガラスパイプの内部に酸素を0.5SLM以上1.0SLM以下で流しながら、外部熱源によってシリカ系ガラスのガラスパイプの外表面が2000℃以上2300℃以下となるようにシリカ系ガラスのガラスパイプを加熱する。外部熱源をトラバースさせて合計6ターン以上10ターン以下で加熱し、シリカガラスパイプを内径が3mm以上6mm以下になるまで縮径する。
【0043】
エッチング工程(ステップS4)では、シリカ系ガラスのガラスパイプの内面をエッチングする。このとき、SF6(0.2SLM以上0.4SLM以下)及び塩素(0.5SLM以上1.0SLM以下)の混合ガスをシリカガラスパイプの内部に導入しながら、外部熱源でシリカガラスパイプを加熱して気相エッチングを行う。このようにすることで、目的のドーパントと共に添加された不純物を高濃度に含むパイプ内面を削ることができ、この不純物を除去することができる。
【0044】
中実化工程(ステップS5)では、シリカ系ガラスのガラスパイプを中実化する。中実化工程では、酸素(0.1SLM以上0.5SLM以下)及びHe(0.5SLM以上1.0SLM以下)の混合ガスをシリカガラスパイプ30の内部に導入し、シリカガラスパイプ内の絶対圧を97kPa以下に減圧しながら、表面温度を2000℃以上2300℃以下として、シリカガラスパイプ中実化する。この中実化により、コア部(外径20mm以上30mm以下)を得る。このロッドの外側にOVD(Outside vapor deposition)法またはコラプス法といった公知の方法でアルカリ金属元素群を含まないコア層を付与しても良い。
【0045】
延伸研削工程(ステップS6)では、コア部を延伸して直径20mm以上25mm以下とし、更にコア部の外周部を研削して直径15mm以上20mm以下とする。この部分が光ファイバのコアとなる。
【0046】
ロッドインコラプス工程(ステップS7)では、コア部の外側に第1クラッド部を設ける。このとき、フッ素が添加されたシリカ系ガラスのガラスパイプの内部にコア部を挿入して、外部熱源によって両者を加熱し一体化するロッドインコラプス法を用いる。このロッドインコラプス法による合成の結果、コア部及びその近傍の第1クラッド部の水分量は十分に低く抑制することが可能である。
【0047】
OVD工程(ステップS8)では、コア部及び第1クラッド部が一体化されてなるロッドを延伸して所定径とした後、そのロッドの外側にフッ素を含む第2クラッド部をOVD法により合成して、光ファイバ母材を製造する。
【0048】
線引工程(ステップS9)では、以上の光ファイバ母材製造方法により製造された光ファイバ母材を線引することで光ファイバを得ることができる。この工程では、線引炉で光ファイバ母材を加熱して光ファイバを線引きし、次いで、線引路の下流に設置された徐冷炉で光ファイバを徐冷する。線引張力及び徐冷炉の温度は、各光ファイバ母材について、カットオフ波長が1530nm未満という条件を満たしつつ、伝送損失が最低となるよう調整される。
【0049】
光ファイバ1では、カットオフ波長が1530nm未満である。この条件を満足させるために、以下の方法1または方法2により、光ファイバ1の屈折率を光ファイバ母材の屈折率から変化させている。方法1は、線引工程において、線引張力を変化させることにより、光ファイバ1の内部の残留応力を変化させ、それに応じて光ファイバ1の屈折率を変化させる方法である。方法2は、線引工程において、徐冷によりガラスの最外周部を加熱することで、光ファイバ1の内部の残留応力を変化させ、それに応じて光ファイバ1の屈折率を変化させる方法である。特に、方法2は、線引時に徐冷しなかった光ファイバと比較して最外周部に残留する応力を小さくすることにより、相対的に引張応力であった部分の引張応力を更に大きくすることができるので、結果としてカットオフ波長を調整(長く)できる。このように線引工程において、屈折率を変化させて光学設計の調整を行うことで、光ファイバ母材のクラッド部に元々含まれるフッ素濃度を下げることができる。よって、クラッド20のフッ素濃度の揺らぎに起因する伝送損失の低減と、所望の光学特性とを両立できる。
【0050】
上記方法1により、光ファイバ1の残留応力は、例えば、中心軸Cからの距離が20μm以上55μm以下の領域において最大値となっている。その最大値は、例えば5MPa以上50MPa以下の範囲である。光ファイバ1では、中心軸Cからの距離が20μm以上55μm以下の領域において残留応力が引張応力である部分を設けることで、カットオフ波長を長くすることができる。上記方法2により、中心軸Cからの距離が50μm以上62.5μm以下の領域における残留応力の最小値は、例えば、10MPa以下であるが、0Mpa以下であってもよい。すなわち残留応力は圧縮応力であってもよい。なお、クラッド20の外周面の中心軸Cからの距離は、例えば、62.5μmであるが、50μm以上75μm以下であれば同等の考え方で設計の調整が可能である。光ファイバ1では、中心軸Cからの距離が50μm以上62.5μm以下の領域よりも中心軸C側において残留応力を引張応力とし、これにより、カットオフ波長を長くすることができる。
【0051】
表1は、製造し評価した9種の光ファイバ1から9のそれぞれの諸元を纏めた表である。この表には、光ファイバ1から9のそれぞれについて、コアの平均K濃度(Kave)、波長1550nmにおける伝送損失(α1.55)、コア径、カットオフ波長、実効断面積(Aeff)、及びクラッドの平均フッ素濃度(Fave)が示されている。光ファイバ1から9では、クラッドの屈折率を基準としたコアの比屈折率差は0.25%から0.45%の間で変更されている。光ファイバ1から9の製造では、上述のように、線引張力及び徐冷炉の温度は、各光ファイバ母材について、カットオフ波長が1530nm未満という条件を満たしつつ、伝送損失が最低となるよう調整された。純シリカの屈折率を基準としたコアの比屈折率差は0.05%以上0.07%以下であった。濃度の測定は、例えばサンプル表面を研磨し、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて行った。このとき、加速電圧を20kV、プローブビーム径を1μm以下、測定間隔を100nm以下とした。
【0052】
【0053】
図3は、光ファイバ1から9について、クラッドの平均フッ素濃度と波長1550nmにおける伝送損失との関係を示すグラフである。
図3に示されるように、クラッドの平均フッ素濃度が質量分率で0.8%近傍において伝送損失が最低となる傾向が確認された。
【0054】
表2は、製造し評価した9種の光ファイバ10から18のそれぞれの諸元を纏めた表である。この表には、光ファイバ10から18のそれぞれについて、コアの平均K濃度、波長1550nmにおける伝送損失、コア径、カットオフ波長、実効断面積、及びクラッドの平均フッ素濃度が示されている。光ファイバ10から18では、クラッドの屈折率を基準としたコアの比屈折率差は0.25%から0.45%の間で変更されている。光ファイバ10から18の製造においても、上述のように、線引張力及び徐冷炉の温度は、各光ファイバ母材について、カットオフ波長が1530nm未満という条件を満たしつつ、伝送損失が最低となるよう調整された。純シリカの屈折率を基準としたコアの比屈折率差は-0.08%以上-0.05%以下であった。濃度の測定は、例えばサンプル表面を研磨し、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて行った。このとき、加速電圧を20kV、プローブビーム径を1μm以下、測定間隔を100nm以下とした。
【0055】
【0056】
図4は、光ファイバ10から18について、クラッドの平均フッ素濃度と波長1550nmにおける伝送損失との関係を示すグラフである。
図4に示されるように、クラッドの平均フッ素濃度が質量分率で1.2%近傍において伝送損失が最低となる傾向が確認された。
【0057】
表3は、製造し評価した5種の光ファイバ19から23のそれぞれの諸元を纏めた表である。この表には、光ファイバ19から23のそれぞれについて、コアの平均K濃度(Kave)、波長1550nmにおける伝送損失(α1.55)、コア径、カットオフ波長、実効断面積(Aeff)、クラッドの平均フッ素濃度(Fave)、及びマイクロベンドロス(μベンドロス)が示されている。マイクロベンドロスは、IEC TR62221に規定されるメッシュボビン試験により測定された。光ファイバ19から23では、実効断面積を80μm
2から124μm
2まで変化させた。クラッドの屈折率を基準としたコアの比屈折率差は0.25%から0.45%の間で変更されている。実効断面積が90μm
2を超えると、マイクロベンドロスが0.4dB/km以上に増大する傾向が確認された。
【表3】
【0058】
伝送損失は、コアに含まれるアルカリ金属元素群の濃度にも依存する。しかしながら、光ファイバ1から23では、アルカリ金属元素群の濃度を質量分率で40ppmに統一しているため、その影響は小さいと考えられる。
【符号の説明】
【0059】
1…光ファイバ
10…コア
20…クラッド
21…第1クラッド
22…第2クラッド
C…中心軸