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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】差動信号伝送用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20250508BHJP
   H01B 11/18 20060101ALI20250508BHJP
   H01B 7/08 20060101ALI20250508BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20250508BHJP
【FI】
H01B11/00 J
H01B11/00 G
H01B11/18 Z
H01B7/08
H01B7/18 D
【請求項の数】 38
(21)【出願番号】P 2023500235
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006167
(87)【国際公開番号】W WO2022176121
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健吾
(72)【発明者】
【氏名】細江 晃久
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
(72)【発明者】
【氏名】越智 祐司
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-130350(JP,A)
【文献】特開2019-125563(JP,A)
【文献】特開2019-110022(JP,A)
【文献】国際公開第2010/023972(WO,A1)
【文献】特開2001-076545(JP,A)
【文献】特開昭54-111839(JP,A)
【文献】国際公開第2019/150542(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 11/18
H01B 7/08
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動信号伝送用ケーブルであって、
前記差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、
前記長手方向に沿って延在しており、前記絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、
前記絶縁層の外周面の周囲にあるシールドと、
前記シールドと前記絶縁層との間にある金属酸化物層とを備え
前記シールドは、めっき層を有し、
前記めっき層は、金属酸化物層に接触しており、
前記金属酸化物層は、直接的又は間接的に、前記絶縁層の外周面に化学的に結合している、差動信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記絶縁層の外周面を被覆している中間層をさらに備え、
前記金属酸化物層は、前記中間層の外周面を被覆している、請求項1に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記金属酸化物層は、酸化銅の層である、請求項2に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
前記金属酸化物層中にある第1触媒粒子をさらに備える、請求項2又は請求項3に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項5】
前記第1触媒粒子は、パラジウムを含む粒子である、請求項4に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項6】
前記長手方向に直交する断面において、前記金属酸化物層の厚さは前記中間層の厚さよりも小さい、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項7】
前記長手方向に直交する断面において、前記金属酸化物層の厚さは前記中間層の厚さの0.001倍以上0.9倍以下である、請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項8】
前記長手方向に直交する断面において、前記金属酸化物層の厚さは1.5nm以上223nm以下である、請求項2から請求項7のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項9】
前記長手方向に直交する断面において、前記金属酸化物層は、前記中間層側を向いている第1面と、前記シールド側を向いている第2面とを有し、
前記長手方向に直交する断面において、前記第1面は、前記第2面側に窪んでいる第1凹部と、前記第2面とは反対側に突出している第1凸部とを含む、請求項2から請求項8のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項10】
前記長手方向に直交する断面において、前記第2面は、前記第1面側に窪んでいる第2凹部と、前記第1面とは反対側に突出している第2凸部とを含む、請求項9に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項11】
前記長手方向に直交する断面において、前記金属酸化物層の厚さは前記中間層の外周面に沿って変動している、請求項2から請求項8のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項12】
前記長手方向に直交する断面において、前記金属酸化物層は、全周にわたって前記中間層の外周面を被覆している、請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項13】
前記長手方向に直交する断面において、前記中間層と前記シールドとは、部分的に接触している、請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項14】
前記中間層は、ポリオレフィンを含有している、請求項2から請求項13のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項15】
前記中間層は、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂を含有している、請求項2から請求項13のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項16】
前記中間層上にある第2触媒粒子をさらに備える、請求項2から請求項15のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項17】
前記第2触媒粒子は、パラジウムを含む粒子である、請求項16に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項18】
前記めっき層は、無電解めっき層を含む、請求項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項19】
前記無電解めっき層は、前記金属酸化物層に接触している、請求項18に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項20】
前記無電解めっき層と前記金属酸化物層との間における接着強度は、0.1N/cm以上20N/cm以下である、請求項19に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項21】
前記めっき層は、電解めっき層を含む、請求項18から請求項20のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項22】
前記電解めっき層は、前記無電解めっき層上に形成されている、請求項21に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項23】
前記一対の信号線の各々の前記絶縁層からの引き抜き強度は、0.8N以上82.5N以下である、請求項1から請求項22のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項24】
前記一対の信号線の各々の外周面における算術平均粗さは0.009μm以上0.54μm以下である、請求項1から請求項23のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項25】
前記長手方向に直交する断面において、前記絶縁層は、前記一対の信号線の各々の外周面からの距離が50μmまでの部分である第1部分と、前記絶縁層の外周面からの距離が50μmまでの部分である第2部分とを有し、
前記第2部分における硬さは、前記第1部分における硬さよりも小さい、請求項1から請求項24のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項26】
前記第1部分の硬さは、0.02GPa以上0.11GPa以下である、請求項25に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項27】
前記第2部分の硬さは、0.01GPa以上0.10GPa以下である、請求項25又は請求項26に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項28】
前記絶縁層は、ポリエチレン、環状オレフィンポリマー、ポリメチルペンテン及びポリプロピレンの少なくとも1つを含有している、請求項1から請求項27のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項29】
前記絶縁層は、融点が120℃以上のポリオレフィンを含有している、請求項1から請求項27のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項30】
前記絶縁層は、発泡樹脂の層である、請求項1から請求項27のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項31】
前記一対の信号線は、第1信号線と、第2信号線であり、
前記長手方向に直交する断面において、前記絶縁層は、前記第1信号線が埋設されている第3部分と、前記第2信号線が埋設されている第4部分とを有する、請求項1から請求項30のいずれか1項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項32】
前記長手方向に直交する断面において、前記絶縁層の第1方向における幅は、前記絶縁層の前記第1方向に直交する第2方向における幅よりも大きい、請求項31に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項33】
前記第3部分及び前記第4部分は、前記第1方向に沿って並んでいる、請求項32に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項34】
前記絶縁層は、前記第1方向において前記第3部分と前記第4部分との間にあり、かつ前記第3部分及び前記第4部分と一体形成されている第5部分をさらに有する、請求項33に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項35】
前記第5部分の前記第2方向における幅は、前記第3部分の前記第2方向における幅及び前記第4部分の前記第2方向における幅よりも小さい、請求項34に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項36】
前記金属酸化物層中にある第1触媒粒子と、
前記中間層上にある第2触媒粒子とをさらに備え、
前記差動信号伝送用ケーブルに含まれている前記第1触媒粒子及び前記第2触媒粒子の合計含有量は、前記長手方向に沿った1cmあたり0.1μg以上10μg以下である、請求項に記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項37】
差動信号伝送用ケーブルであって、
前記差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、
前記長手方向に沿って延在しており、前記絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、
前記絶縁層の外周面の周囲にあるシールドとを備え、
前記一対の信号線の各々の前記絶縁層からの引き抜き強度は、0.8N以上82.5N以下であり
前記シールドは、めっき層を有し、
前記めっき層は、金属酸化物層に接触しており、
前記金属酸化物層は、直接的又は間接的に、前記絶縁層の外周面に化学的に結合している、差動信号伝送用ケーブル。
【請求項38】
差動信号伝送用ケーブルであって、
前記差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、
前記長手方向に沿って延在しており、前記絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、
前記絶縁層の外周面の周囲にあるシールドとを備え、
前記長手方向に直交する断面において、前記絶縁層は、前記一対の信号線の各々の外周面からの距離が50μmまでの部分である第1部分と、前記絶縁層の外周面からの距離が50μmまでの部分である第2部分とを有し、
前記第2部分における硬さは、前記第1部分における硬さよりも小さい、
前記シールドは、めっき層を有し、
前記めっき層は、金属酸化物層に接触しており、
前記金属酸化物層は、直接的又は間接的に、前記絶縁層の外周面に化学的に結合している、差動信号伝送用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、差動信号伝送用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2019-16451号公報)には、差動信号伝送用ケーブルが記載されている。特許文献1に記載されている差動信号伝送用ケーブルは、絶縁層と、一対の信号線と、無電解めっき層とを有している。一対の信号線は、絶縁層の内部に埋設されている。無電解めっき層は、絶縁層の外周面に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-16451号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の差動信号伝送用ケーブルは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在しており、絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、絶縁層の外周面の周囲にあるシールドとを含む。本開示の差動信号伝送用ケーブルは、さらに、改良を含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、ケーブル100の斜視図である。
図2図2は、ケーブル100の断面図である。
図3図3は、外周面30aの近傍におけるケーブル100の拡大断面図である。
図4図4は、信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度の測定方法を説明する第1模式図である。
図5図5は、信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度の測定方法を説明する第2模式図である。
図6図6は、信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度の測定方法を説明する第3模式図である。
図7図7は、信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度の測定方法を説明する第4模式図である。
図8図8は、ケーブル100の製造方法を示す工程図である。
図9図9は、準備工程S1において準備される処理対象部材100Aの断面図である。
図10図10は、中間層形成工程S2が行われた後の処理対象部材100Aの断面図である。
図11図11は、触媒粒子配置工程S4が行われた後の処理対象部材100Aの断面図である。
図12図12は、酸化物層形成工程S5及び無電解めっき工程S6が行われた後の処理対象部材100Aの断面図である。
図13図13は、変形例1に係るケーブル100の断面図である。
図14図14は、ケーブル100に対する曲げ加工を説明するための第1模式図である。
図15図15は、ケーブル100に対する曲げ加工を説明するための第2模式図である。
図16図16は、ケーブル100に対するテープピール試験を説明するための模式図である。
図17図17は、ケーブル100の挿入損失を評価するために準備されるサンプルの模式図である。
図18図18は、ケーブル100の挿入喪失の評価に際してケーブル100に加えられるねじれを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1に記載されている差動信号伝送用ケーブルにおいては、絶縁層の外周面がエッチングにより粗面化されている。これにより、絶縁層と無電解めっき層との間のアンカー効果が得られるため、絶縁層と無電解めっき層との間の密着性が確保されている。
【0007】
しかしながら、エッチング後の絶縁層の外周面には、凹凸が存在することになる。この凹凸は、30GHz以上の高周波領域において、伝送特性を悪化させる原因となる。
【0008】
本開示は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本開示は、高周波領域において良好な伝送特性を有する差動信号伝送用ケーブルを提供するものである。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の差動信号伝送用ケーブルによると、高周波領域において良好な伝送特性を得ることができる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
まず、本開示の実施形態を列記して説明する。
【0011】
(1)本開示の第1態様に係る差動信号伝送用ケーブルは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在しており、絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、絶縁層の外周面の周囲にあるシールドと、シールドと絶縁層との間にある金属酸化物層とを備えている。
【0012】
上記(1)の差動信号伝送用ケーブルによると、シールドと絶縁層との密着性及び高周波領域における良好な伝送特性を得ることができる。
【0013】
(2)上記(1)の差動信号伝送用ケーブルは、絶縁層の外周面を被覆している中間層をさらに備えていてもよい。金属酸化物層は、中間層の外周面を被覆していてもよい。
【0014】
(3)上記(2)の差動信号伝送用ケーブルでは、金属酸化物層が、酸化銅の層であってもよい。
【0015】
(4)上記(2)又は(3)の差動信号伝送用ケーブルは、金属酸化物層中にある第1触媒粒子をさらに備えていてもよい。
【0016】
(5)上記(4)の差動信号伝送用ケーブルでは、第1触媒粒子が、パラジウムを含む粒子であってもよい。
【0017】
(6)上記(2)から(5)の差動信号伝送用ケーブルでは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、金属酸化物層の厚さが、中間層の厚さよりも小さくてもよい。
【0018】
(7)上記(2)から(6)の差動信号伝送用ケーブルでは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、金属酸化物層の厚さが、中間層の厚さの0.001倍以上0.9倍以下であってもよい。
【0019】
(8)上記(2)から(7)の差動信号伝送用ケーブルでは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、金属酸化物層の厚さが、1.5nm以上223nm以下であってもよい。
【0020】
(9)上記(2)から(8)の差動信号伝送用ケーブルでは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、金属酸化物層が、中間層側を向いている第1面と、シールド側を向いている第2面とを有していてもよい。差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、第1面は、第2面側に窪んでいる第1凹部と、第2面とは反対側に突出している第1凸部とを含んでいてもよい。
【0021】
(10)上記(9)の差動信号伝送用ケーブルでは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、第2面は、第1面側に窪んでいる第2凹部と、第1面とは反対側に突出している第2凸部とを含んでいてもよい。
【0022】
(11)上記(2)から(8)の差動信号伝送用ケーブルでは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、金属酸化物層の厚さが、中間層の外周面に沿って変動していてもよい。
【0023】
(12)上記(2)から(11)の差動信号伝送用ケーブルでは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、金属酸化物層が、全周にわたって中間層の外周面を被覆していてもよい。
【0024】
(13)上記(2)から(11)の差動信号伝送用ケーブルでは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、中間層とシールドとは、部分的に接触していてもよい。
【0025】
(14)上記(2)から(13)の差動信号伝送用ケーブルでは、中間層が、ポリオレフィンを含有していてもよい。
【0026】
(15)上記(2)から(13)の差動信号伝送用ケーブルでは、中間層が、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂を含有していてもよい。
【0027】
(16)上記(2)から(15)の差動信号伝送用ケーブルは、中間層上にある第2触媒粒子をさらに備えていてもよい。
【0028】
(17)上記(16)の差動信号伝送用ケーブルでは、第2触媒粒子が、パラジウムを含む粒子であってもよい。
【0029】
(18)上記(1)から(17)の差動信号伝送用ケーブルでは、シールドが、めっき層を有していてもよい。
【0030】
(19)上記(18)の差動信号伝送用ケーブルでは、めっき層が、金属酸化物層に接触していてもよい。
【0031】
(20)上記(18)又は(19)の差動信号伝送用ケーブルでは、めっき層が、無電解めっき層を含んでいてもよい。
【0032】
(21)上記(20)の差動信号伝送用ケーブルでは、無電解めっき層が、金属酸化物層に接触していてもよい。
【0033】
(22)上記(21)の差動信号伝送用ケーブルでは、無電解めっき層と金属酸化物層との間における接着強度が、0.1N/cm以上20N/cm以下であってもよい。
【0034】
(23)上記(20)から(22)の差動信号伝送用ケーブルでは、めっき層が、電解めっき層を含んでいてもよい。
【0035】
(24)上記(23)の差動信号伝送用ケーブルでは、電解めっき層は、無電解めっき層上に形成されていてもよい。
【0036】
(25)上記(1)から(24)の差動信号伝送用ケーブルでは、一対の信号線の各々の絶縁層からの引き抜き強度が、0.8N以上82.5N以下であってもよい。
【0037】
(26)上記(1)から(25)の差動信号伝送用ケーブルでは、一対の信号線の各々の外周面における算術平均粗さは0.009μm以上0.54μm以下であってもよい。
【0038】
(27)上記(1)から(26)の差動信号伝送用ケーブルでは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、絶縁層は、一対の信号線の各々の外周面からの距離が50μmまでの部分である第1部分と、絶縁層の外周面からの距離が50μmまでの部分である第2部分とを有していてもよい。第2部分における硬さは、第1部分における硬さよりも小さくてもよい。
【0039】
(28)上記(27)の差動信号伝送用ケーブルでは、第1部分の硬さが0.02GPa以上0.11GPa以下であってもよい。
【0040】
(29)上記(27)又は(28)の差動信号伝送用ケーブルでは、第2部分の硬さが0.01GPa以上0.10GPa以下であってもよい。
【0041】
(30)上記(1)から(29)の差動信号伝送用ケーブルでは、絶縁層が、ポリエチレン、環状オレフィンポリマー、ポリメチルペンテン及びポリプロピレンの少なくとも1つを含有していてもよい。
【0042】
(31)上記(1)から(29)の差動信号伝送用ケーブルでは、絶縁層が、融点が120℃以上のポリオレフィンを含有していてもよい。
【0043】
(32)上記(1)から(29)の差動信号伝送用ケーブルでは、絶縁層が、発泡樹脂の層であってもよい。
【0044】
(33)上記(1)から(32)の差動信号伝送用ケーブルでは、一対の信号線が、第1信号線と、第2信号線であってもよい。差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、絶縁層は、第1信号線が埋設されている第3部分と、第2信号線が埋設されている第4部分とを有していてもよい。
【0045】
(34)上記(33)の差動信号伝送用ケーブルでは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、絶縁層の第1方向における幅は、絶縁層の第1方向に直交する第2方向における幅よりも大きくてもよい。
【0046】
(35)上記(34)の差動信号伝送用ケーブルでは、第3部分及び第4部分が、第1方向に沿って並んでいてもよい。
【0047】
(36)上記(35)の差動信号伝送用ケーブルでは、絶縁層が、第1方向において第3部分と第4部分との間にあり、かつ第3部分及び第4部分と一体形成されている第5部分をさらに有していてもよい。
【0048】
(37)上記(36)の差動信号伝送用ケーブルでは、第5部分の第2方向における幅が、第3部分の第2方向における幅及び第4部分の第2方向における幅よりも小さくてもよい。
【0049】
(38)上記(1)から(3)の差動信号伝送ケーブルは、金属酸化物層中にある第1触媒粒子と、中間層上にある第2触媒粒子とをさらに備えていてもよい。差動信号伝送用ケーブルに含まれている第1触媒粒子及び第2触媒粒子の合計含有量は、長手方向に沿った1cmあたり0.1μg以上10μg以下であってもよい。
【0050】
(39)本開示の第2態様に係る差動信号伝送用ケーブルは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在しており、絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、絶縁層の外周面の周囲にあるシールドとを備えている。一対の信号線の各々の絶縁層からの引き抜き強度は、0.8N以上82.5N以下である。
【0051】
上記(39)の差動信号伝送用ケーブルによると、シールドと絶縁層との密着性及び高周波領域における良好な伝送特性を得ることができる。
【0052】
(40)本開示の第2態様に係る差動信号伝送用ケーブルは、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在している絶縁層と、差動信号伝送用ケーブルの長手方向に沿って延在しており、絶縁層の内部に埋設されている一対の信号線と、絶縁層の外周面の周囲にあるシールドとを備えている。差動信号伝送用ケーブルの長手方向に直交する断面において、絶縁層は、一対の信号線の各々の外周面からの距離が50μmまでの部分である第1部分と絶縁層の外周面からの距離が50μmまでの部分である第2部分とを有している。第2部分における硬さは、第1部分における硬さよりも小さい。
【0053】
上記(40)の差動信号伝送用ケーブルによると、差動信号伝送用ケーブルを曲げた際に信号線から絶縁層が剥離することを抑制できる。
【0054】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面では、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付して説明は省略する。
【0055】
以下に、実施形態に係る差動信号伝送用ケーブル(「ケーブル100」とする)を説明する。
【0056】
<ケーブル100の構成>
図1は、ケーブル100の斜視図である。図2は、ケーブル100の断面図である。図2には、ケーブル100の長手方向に直交する断面が示されている。図3は、外周面30aの近傍におけるケーブル100の拡大断面図である。図1図3に示されるように、ケーブル100は、絶縁層10と、信号線20aと、信号線20bと、中間層30と、金属酸化物層40と、シールド50と、触媒粒子60aと、触媒粒子60bとを有している。
【0057】
絶縁層10は、ケーブル100の長手方向に沿って延在している。絶縁層10は、電気絶縁性の材料により形成されている。絶縁層10は、発泡樹脂により形成されていてもよい。すなわち、絶縁層10は、発泡樹脂の層であってもよい。絶縁層10の厚さ(後述する外周面10aと信号線20a又は信号線20bの外周面との間の距離)は、例えば110μm以上560μm以下である。但し、絶縁層10の厚さは、これに限定されるものではない。
【0058】
絶縁層10は、例えば、ポリエチレン、環状オレフィンポリマー、ポリメチルペンテン又はポリプロピレンにより形成されている。絶縁層10は、これらの材料のうちの1又は複数を含有している層であってもよい。絶縁層10にポリオレフィンが用いられる場合、当該ポリオレフィンの融点は、耐熱性の観点から、120℃以上であることが好ましい。
【0059】
絶縁層10は、外周面10aを有している。絶縁層10は、第1部分11と、第2部分12とを有している。第1部分11は、信号線20a(信号線20b)の外周面からの距離が50μmまでの部分である。第2部分12は、外周面10aからの距離が50μmまでの部分である。第2部分12における硬さは、第1部分11における硬さよりも小さいことが好ましい。第1部分11における硬さは、例えば、0.02GPa以上0.11GPa以下である。第2部分12における硬さは、0.01GPa以上0.10GPa以下である。
【0060】
第1部分11における硬さは、第2部分12における硬さの1.03倍以上であってもよい。第1部分11における硬さは、第2部分12における硬さの1.10倍以上であってもよい。第1部分11における硬さは、第2部分12における硬さの1.50倍以下であってもよい。第1部分11における硬さは、第2部分12における硬さの2.00倍以下であってもよい。
【0061】
第1部分11における硬さは、第2部分12における硬さの1.03倍以上1.50倍以下であってもよい。第1部分11における硬さは、第2部分12における硬さの1.03倍以上2.00倍以下であってもよい。第1部分11における硬さは、第2部分12における硬さの1.10倍以上1.50倍以下であってもよい。
【0062】
絶縁層10がポリエチレンにより形成されている場合には、第1部分11における硬さが、例えば、0.024GPa以上である。この場合、第1部分11におけるか硬さは、0.024GPa以上0.030GPa以下であってもよい。
【0063】
絶縁層10がポリエチレンにより形成されている場合には、第2部分12における硬さが、例えば、0.024GPa以下である。この場合、第2部分12におけるか硬さは、0.021GPa以上0.024GPa以下であってもよい。
【0064】
絶縁層10がポリプロピレンにより形成されている場合には、第1部分11における硬さは、例えば0.060GPa以上である。この場合、第1部分11におけるか硬さは、0.060GPa以上0.090GPa以下であってもよい。
【0065】
絶縁層10がポリプロピレンにより形成されている場合には、第2部分12における硬さは、例えば0.060GPa以下である。この場合、第2部分12におけるか硬さは、0.045GPa以上0.060GPa以下であってもよい。
【0066】
ケーブル100は、第1方向DR1と、第2方向DR2とを有している。第1方向DR1は、ケーブル100の長手方向に直交している。第2方向DR2は、ケーブル100の長手方向に直交しており、かつ第1方向DR1に直交している。絶縁層10は、第1方向DR1に沿った幅W1と、第2方向DR2に沿った幅W2とを有している。幅W1は、例えば、幅W2よりも大きい。
【0067】
第1部分11及び第2部分12における硬さは、Bruker製トライポインデンタHysitron TI980を用いて測定される。この測定では、圧子(インデンタ)としてBerkovich圧子が用いられる。最大荷重は、8mNである。負荷時間は、5秒である。最大荷重保持時間は、0秒である。この測定は、大気中において25℃で行われる。
【0068】
信号線20a及び信号線20bは、一対になっている。信号線20bには、信号線20aに印加される信号とは反対位相の信号が印加される。これにより、ケーブル100は、差動信号が伝送する。
【0069】
信号線20a及び信号線20bは、絶縁層10の内部に埋設されている。信号線20a及び信号線20bは、ケーブル100の長手方向に沿って延在している。信号線20a及び信号線20bは、導電性の材料により形成されている。信号線20a及び信号線20bは、例えば銅(Cu)により形成されている。但し、信号線20a及び信号線20bを構成している材料は、銅に限定されない。信号線20a及び信号線20bは、例えば、第1方向DR1に沿って並んでいる。
【0070】
信号線20a及び信号線20bの外周面における算術平均粗さは、好ましくは、0.009μm以上0.54μm以下である。信号線20a及び信号線20bの外周面における算術平均粗さは、信号線20a及び信号線20bを伸線する際に使用される金型の内周面における算術平均粗さによって制御される。信号線20a(信号線20b)の外周面における算術平均粗さは、レーザ顕微鏡VM-X150(株式会社キーエンス製)により測定される。より具体的には、信号線20a(信号線20b)の外周面を50倍の対物レンズを用いて観察し、その観察結果に対して解析ソフトウェアVK-H1XMを適用することにより、信号線20a(信号線20b)の外周面における算術平均粗さが算出される。
【0071】
信号線20a(信号線20b)を絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度は、0.8N以上82.5N以下であるが好ましい。信号線20a(信号線20b)を絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度は、以下の方法により測定される。
【0072】
第1に、試験片300が準備される。図4は、信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度の測定方法を説明する第1模式図である。図4に示されるように、50mmの長さを有しているケーブル100が、試験片300として準備される。
【0073】
第2に、試験片300の端部にある絶縁層10が除去される。図5は、信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度の測定方法を説明する第2模式図である。図5に示されるように、除去される絶縁層10の幅は10mmである。これにより、試験片300の端部から、長さが10mmの信号線20a及び信号線20bが露出される。なお、試験片300の端部にある絶縁層10の除去に伴い、試験片300の端部にある絶縁層10上の中間層30、金属酸化物層40及びシールド50も除去される。
【0074】
第3に、信号線20aの引き出しが行われる。図6は、信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度の測定方法を説明する第3模式図である。図6に示されるように、信号線20aは、絶縁層10から露出している長さが30mmとなるように引き出される。その結果、試験片300は、絶縁層10の内部に信号線20aが存在する第1領域301と、絶縁層10の内部に信号線20aが存在しない第2領域302とを有するようになる。
【0075】
第4に、信号線20aが絶縁層10から引き抜かれる。図7は、信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度の測定方法を説明する第4模式図である。図7に示されるように、信号線20aの絶縁層10からの引き抜きには、引張試験機が用いられる。引張試験機は、例えば、島津製作所製EZ-LXである。引張試験機は、第1チャック401と、第2チャック402とを有している。第1チャック401は、第2領域302をチャッキングする。第2チャック402は、絶縁層10から露出している信号線20aをチャッキングする。引張試験機は、第1チャック401及び第2チャック402を互いに離れるように移動させることにより、信号線20aを絶縁層10から引き抜く。この際に引張試験機が検知する力の最大値が、信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度となる。
【0076】
中間層30は、外周面10aを被覆している。中間層30は、外周面30aを有している。中間層30は、電気絶縁性の材料により形成されている。中間層30は、例えば、ポリオレフィンにより形成されている。中間層30は、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)により形成されていてもよい。中間層30の厚さは、絶縁層10上に塗布される中間層30を構成している電気絶縁性の材料の量に依存する。
【0077】
金属酸化物層40は、金属酸化物の層である。この金属酸化物は、例えば、酸化銅(CuO)である。但し、この金属酸化物は、酸化銅に限られない。金属酸化物層40は、外周面30aを被覆している。金属酸化物層40は、全周にわたって外周面30aを被覆していることが好ましい。但し、金属酸化物層40は、外周面30aの一部を被覆していなくてもよい。この場合、外周面30aの当該一部は、シールド50と接触している。
【0078】
金属酸化物層40は、第1面40aと、第1面40aの反対面である第2面40bとを有している。第1面40aは、中間層30側を向いている面である。第2面40bは、シールド50側を向いている面である。金属酸化物層40は、第1面40aにおいて中間層30に接触しており、第2面40bにおいてシールド50に接触している。
【0079】
ケーブル100の長手方向に直交する断面において、第1面40aは、不規則な形状を有していてもよい。すなわち、第1面40aは、複数の凹部40aaと、複数の凸部40abとを含んでいる。第1面40aは、凹部40aaにおいて第2面40b側に窪んでおり、凸部40abにおいて第2面40bとは反対側に突出している。
【0080】
ケーブル100の長手方向に直交する断面において、第2面40bは、不規則な形状を有していてもよい。すなわち、第2面40bは、複数の凹部40baと、複数の凸部40bbとを含んでいる。第2面40bは、凹部40baにおいて第1面40a側に窪んでおり、凸部40bbにおいて第1面40aとは反対側に突出している。
【0081】
ケーブル100の長手方向に直交する断面において、金属酸化物層40の厚さT2は、中間層30の厚さT1よりも小さいことが好ましい。厚さT2は、厚さT1の0.001倍以上0.9倍以下であることが好ましい。厚さT1は、例えば、200nm以上1000nm以下である。但し、厚さT1は、これに限られない。厚さT2は、例えば、1.5nm以上223nm以上である。厚さT2は、2.9nm以上130nm以下であることが好ましい。但し、厚さT2はこれに限られない。
【0082】
シールド50は、第2面40bを被覆している。すなわち、シールド50は中間層30及び金属酸化物層40を介在させて外周面10aの周囲にある。金属酸化物層40は、絶縁層10とシールド50との間にある。金属酸化物層40は、中間層30とシールド50との間にある。シールド50は、導電性を有している。
【0083】
シールド50は、例えば、銅層51である。銅層51は、めっきにより形成された層である。銅層51は、例えば、無電解めっきで形成された第1銅層52を有している。銅層51は、電解めっきで形成された第2銅層53をさらに有していてもよい。
【0084】
第1銅層52は、例えば、無電解銅めっき層である。第1銅層52は、金属酸化物層40に接触している。第2銅層53は、例えば、電解銅めっき層である。第2銅層53は、第1銅層52上に形成されている。
【0085】
触媒粒子60aは、金属酸化物層40中にある。触媒粒子60aの表面は、金属酸化物層40に覆われている。触媒粒子60bは、外周面30a上にある。触媒粒子60bの表面は、部分的に外周面30aに接触しており、部分的に第1面40aに接触している。
【0086】
触媒粒子60a及び触媒粒子60bは、例えば、パラジウム(Pd)を含有する粒子である。但し、触媒粒子60a及び触媒粒子60bは、パラジウムを含有する粒子に限定されない。触媒粒子60a及び触媒粒子60bは、例えば、銅、銀(Ag)、金(Au)等を含有する粒子であってもよい。触媒粒子60a及び触媒粒子60bは、互いに異なる材料を含有していてもよく、同一の材料を含有していてもよい。
【0087】
ケーブル100に含まれている触媒粒子60a及び触媒粒子60bの合計含有量は、ケーブル100の長手方向に沿った1cmあたり0.1μg以上10μg以下であることが好ましい。ケーブル100の長手方向に沿った1cmあたりの触媒粒子60a及び触媒粒子60bの合計含有量は、誘導結合プラズマ質量分析計を用いて測定される。
【0088】
<ケーブル100の製造方法>
図8は、ケーブル100の製造方法を示す工程図である。図8に示されるように、ケーブル100の製造方法は、準備工程S1と、中間層形成工程S2と、熱処理工程S3と、触媒粒子配置工程S4と、酸化物層形成工程S5と、無電解めっき工程S6と、電解めっき工程S7とを有している。
【0089】
準備工程S1の後に、中間層形成工程S2が行われる。中間層形成工程S2の後に、熱処理工程S3が行われる。熱処理工程S3の後に、触媒粒子配置工程S4が行われる。触媒粒子配置工程S4の後に、酸化物層形成工程S5が行われる。酸化物層形成工程S5の後に、無電解めっき工程S6が行われる。無電解めっき工程S6の後に、電解めっき工程S7が行われる。
【0090】
準備工程S1においては、処理対象部材100Aが準備される。図9は、準備工程S1において準備される処理対象部材100Aの断面図である。図9に示されるように、処理対象部材100Aは、絶縁層10と、信号線20aと、信号線20bとを有している。
【0091】
図10は、中間層形成工程S2が行われた後の処理対象部材100Aの断面図である。図10に示されるように、中間層形成工程S2においては、外周面10aを覆うように中間層30が形成される。中間層形成工程S2においては、外周面10aに中間層30を構成する材料が塗布され、塗布された当該材料を硬化させることにより、外周面10aを覆うように中間層30が形成される。
【0092】
熱処理工程S3においては、中間層30が形成された処理対象部材100Aが、所定の温度で所定の時間、熱処理される。所定の温度は、例えば、80℃以上120℃以下である。所定の時間は、例えば、1分以上30分以下である。熱処理工程S3が行われた後の処理対象部材100Aでは、第2部分12における硬さが第1部分11における硬さよりも小さい。図11は、触媒粒子配置工程S4が行われた後の処理対象部材100Aの断面図である。図11に示されるように、触媒粒子配置工程S4においては、外周面30a上に、触媒粒子60が分散配置される。触媒粒子配置工程S4においては、触媒粒子60を含む溶液が外周面30aに塗布され、当該溶液を揮発させることにより、外周面30a上に触媒粒子60が分散配置される。
【0093】
図12は、酸化物層形成工程S5及び無電解めっき工程S6が行われた後の処理対象部材100Aの断面図である。図12に示されるように、酸化物層形成工程S5において金属酸化物層40が形成され、無電解めっき工程S6において金属酸化物層40上に第1銅層52が形成される。
【0094】
酸化物層形成工程S5においては、第1に、第1銅層52に含まれる材料が溶解しており、かつ酸素を含むガス(例えば、空気)がバブリングされているめっき液中に、処理対象部材100Aが浸漬される。これにより、触媒粒子60を核として、外周面30aを被覆するように金属酸化物層40が形成される。なお、触媒粒子60のうち、金属酸化物層40の成長の核となったものが触媒粒子60aであり、それ以外のものが触媒粒子60bである。
【0095】
無電解めっき工程S6においては、上記のバブリングが停止される。その結果、金属酸化物層40上に第1銅層52がめっきされる。
【0096】
電解めっき工程S7においては、第1銅層52を覆うように、第2銅層53が形成される。電解めっき工程S7においては、第2銅層53に含まれる材料が溶解しているめっき液中に処理対象部材100Aが浸漬されるとともに、第1銅層52に通電がなされる。これにより、第1銅層52上に第2銅層53がめっきされ、図1図3に示される構造のケーブル100が製造される。
【0097】
<ケーブル100の効果>
ケーブル100においては、金属酸化物層40とシールド50(より具体的には、第1銅層52)との間に水素結合が生じる。この水素結合により金属酸化物層40とシールド50との密着性が確保される結果、絶縁層10とシールド50との密着性が確保される。
【0098】
上記のとおり、シールド50は絶縁層10に対して金属酸化物層40を介して密着しているため、ケーブル100においては、外周面10aを粗面化することに伴う高周波領域での挿入損失の悪化が生じがたい。したがって、ケーブル100は、高周波領域において良好な伝送特性を有する。
【0099】
ケーブル100においては、第2部分12の硬さが第1部分11の硬さよりも小さい。これにより、絶縁層10の断面二次モーメントが小さくなり、ケーブル100の変形に絶縁層10の変形に追随しやすくなる。そのため、この場合には、ケーブル100が曲げられた際に絶縁層10が信号線20a(信号線20b)から剥離しにくくなる。
【0100】
信号線20a(信号線20b)の外周面における算術平均粗さが大きくなるほど、信号線20a(信号線20b)と絶縁層10との間の密着性が向上する。しかしながら、この高い密着性は、ケーブル100の高周波領域における減衰特性の悪化をもたらす。信号線20a(信号線20b)の外周面における算術平均粗さを0.01μm以上0.25μm以下とすることにより、信号線20a(信号線20b)を絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度を確保しつつ(より具体的には、0.8N以上82.5N以下)、ケーブル100の高周波領域における減衰特性を維持することができる。
【0101】
ケーブル100の長手方向に直交する断面において、第2面40bが不規則な形状を有している(つまり、第2面40bが凹部40ba及び凸部40bbを有している)場合には、金属酸化物層40とシールド50との接触面積が大きくなる。そのため、この場合には、上記の水素結合がより強く作用し、シールド50の密着性をさらに確保することができる。
【0102】
<変形例1>
図2に示されるように、絶縁層10は、ケーブル100の長手方向に直交している断面において、長円形状(2つの半円を直線で接続した形状)を有している。しかしながら、ケーブル100の断面形状は、これに限られない。図13は、変形例1に係るケーブル100の断面図である。図13には、変形例1に係るケーブル100の長手方向に直交する断面が示されている。図13に示されるように、ケーブル100は、ケーブル100の長手方向に直交する断面において、絶縁層10が第3部分13と、第4部分14と、第5部分15とを有していてもよい。
【0103】
第3部分13及び第4部分14には、それぞれ、信号線20a及び信号線20bが埋設されている。第3部分13、第4部分14及び第5部分15は、第1方向DR1に沿って並んでいる。第5部分15は、第1方向DR1において、第3部分13と第4部分14との間に配置されている。第5部分15は、第3部分13及び第4部分14と一体に形成されている。
【0104】
第2方向DR2における第3部分13の幅W3及び第2方向DR2における第4部分14の幅W4は、第2方向DR2における第5部分15の幅W5よりも大きい。このことを別の観点から言えば、外周面10aは、第3部分13と第4部分14との間において、第2方向DR2において互いに対向している一対の切り欠きを有している。
【0105】
<変形例2>
ケーブル100は、中間層30を有していなくてもよい。ケーブル100が中間層30を有していない場合、中間層形成工程S2が省略される。この場合、金属酸化物層40が外周面10aを直接被覆する。
【0106】
<変形例3>
図4に示されるケーブル100の製造方法の例では、中間層形成工程S2の後に熱処理工程S3が行われている。しかしながら、熱処理工程S3は、準備工程S1の後に行われてもよい。また、熱処理工程S3は、触媒粒子配置工程S4の後に行われてもよい。
【0107】
[シールド50と絶縁層10との密着性の評価]
シールド50と絶縁層10との密着性を評価するため、ケーブル100のサンプル1-1~サンプル1-10が準備された。表1に示されるように、サンプル1-1~サンプル1-10では、絶縁層10を構成している材料、中間層30の有無、酸化物層形成工程S5の処理時間、酸化物層形成工程S5のバブリングに用いられるガスの種類及び金属酸化物層40の厚さを変化させた。
【0108】
【表1】
【0109】
シールド50と絶縁層10との密着性は、ケーブル100に対して曲げ加工を行った後にテープピール試験を行うことにより評価した。図14は、ケーブル100に対する曲げ加工を説明するための第1模式図である。図14に示されるように、曲げ加工では、円柱部材500の回りに、ケーブル100が巻き付けられる。曲げ加工において円柱部材500の回りに巻き付けられたケーブル100の部分を、屈曲部110とする。
【0110】
図15は、ケーブル100に対する曲げ加工を説明するための第2模式図である。図15に示されるように、上記の巻き付けが行われた後に、ケーブル100は、円柱部材500から取り外され、直線状に戻る。
【0111】
図16は、ケーブル100に対するテープピール試験を説明するための模式図である。テープピール試験では、第1に、テープ510が曲げ加工が行われた後のケーブル100の屈曲部110に張り付けられる。テープ510は、JIS規格(JIS5400)に準拠している粘着力が10±1N/25mmのテープである。第2に、テープ510が、屈曲部110に張り付けられてから5分以内に、屈曲部110から引き剥がされる。テープ510の引き剥がしによりシールド50の剥がれが生じているか否かにより、シールド50と絶縁層10との密着性を評価した。
【0112】
表1中の「シールド50と絶縁層10との密着性」の欄における「A」は、直径が100mmの円柱部材500を用いた曲げ加工の後のテープピール試験でシールド50に剥がれが生じていなかったことを示している。表1中の「シールド50と絶縁層10との密着性」の欄における「B」は、直径が200mmの円柱部材500を用いた曲げ加工の後のテープピール試験ではシールド50に剥がれが生じていなかったが、直径が100mmの円柱部材500を用いた曲げ加工の後のテープピール試験ではシールド50に剥がれが生じていたことを示している。
【0113】
表1中の「シールド50と絶縁層10との密着性」の欄における「C」は、直径が300mmの円柱部材500を用いた曲げ加工の後のテープピール試験ではシールド50に剥がれが生じていなかったが、直径が200mmの円柱部材500を用いた曲げ加工の後のテープピール試験ではシールド50に剥がれが生じていたことを示している。これらのことから、表1中の「シールド50と絶縁層10との密着性」の欄が「C」である場合にシールド50と絶縁層10との密着性が最も低く、表1中の「シールド50と絶縁層10との密着性」の欄が「A」である場合にシールド50と絶縁層10との密着性が最も高いことになる。
【0114】
表1に示されるように、サンプル1-1及びサンプル1-8では、シールド50と絶縁層10との密着性の評価がCであった。他方で、サンプル1-2~サンプル1-7、サンプル1-9及びサンプル1-10では、シールド50と絶縁層10との密着性の評価がB以上であった。
【0115】
サンプル1-1及びサンプル1-8では、金属酸化物層40が形成されていなかった。他方で、サンプル1-2~サンプル1-7、サンプル1-9及びサンプル1-10では、金属酸化物層40が形成されていた。この比較から、ケーブル100が金属酸化物層40を有していることにより、シールド50と絶縁層10との密着性が高められることが明らかにされた。
【0116】
サンプル1-2及びサンプル1-7では、金属酸化物層40の厚さが2.9nm以上130nm以下の範囲内になかった。他方で、サンプル1-3~サンプル1-6、サンプル1-9及びサンプル1-10では、金属酸化物層40の厚さが2.9nm以上130nm以下の範囲内にあった。この比較から、金属酸化物層40の厚さを2.9nm以上130nm以下とすることにより、シールド50と絶縁層10との密着性がさらに高められることが明らかにされた。
【0117】
[絶縁層10の屈曲性の評価]
絶縁層10の屈曲性を評価するために、ケーブル100のサンプル2-1~サンプル2-9が準備された。表2に示されるように、サンプル2-1~サンプル2-9では、絶縁層10を構成している材料、中間層30の有無、熱処理工程S3を行う時間、熱処理工程S3を行う温度を変化させた。これにより、サンプル2-1~サンプル2-9では、第1部分11における硬さ及び第2部分における硬さが変化した。
【0118】
【表2】
【0119】
絶縁層10の屈曲性は、ケーブル100に対するケーブル屈曲試験を行うことにより評価した。ケーブル屈曲試験では、第1に、ケーブル100に対して曲げ加工が行われる。曲げ加工は、図14及び図15に示される方法により行われる。曲げ加工に用いられる円柱部材500の直径は、10mmとされた。第2に、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて屈曲部110の断面観察を行うことにより、絶縁層10と信号線20a(信号線20b)との間に空隙が存在しているかを観察した。
【0120】
表2中の「ケーブル屈曲試験結果」の欄における「A」は、曲げ加工後に屈曲部110において絶縁層10と信号線20a(信号線20b)との間に空隙が存在していなかったことを示している。表2中の「ケーブル屈曲試験結果」の欄における「B」は、曲げ加工後に屈曲部110において絶縁層10と信号線20a(信号線20b)との間に空隙が存在していたことを示している。
【0121】
表2中の「ケーブル屈曲試験結果」の欄における「C」は、曲げ加工前から絶縁層10が変形していたことを示している。そのため、表2中の「ケーブル屈曲試験結果」の欄が「C」となっているサンプル2-8に対しては、ケーブル屈曲試験が行われていない。
【0122】
表2に示されるように、サンプル2-1では、ケーブル屈曲試験の結果がBであった。他方で、サンプル2-2~サンプル2-7及びサンプル2-9では、ケーブル屈曲試験の結果がAであった。
【0123】
サンプル2-1では、第2部分12における硬さが第1部分11における硬さよりも小さくなっていなかった。他方で、サンプル2-2~サンプル2-7及びサンプル2-9では、第2部分12における硬さが第1部分11における硬さよりも小さくなっていた。この比較から、第2部分12における硬さが第1部分11における硬さよりも小さくなっていることにより、絶縁層10の屈曲性が高まり、絶縁層10と信号線20a(信号線20b)との間に剥離が生じにくくなることが明らかにされた。
【0124】
[ケーブル100における信号線20aの引き抜き強度と挿入損失との関係の評価]
ケーブル100における信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度と挿入損失との関係を評価するため、ケーブル100のサンプル3-1~サンプル3-8が準備された。表3に示されるように、サンプル3-1~サンプル3-8では、信号線20aの算術平均粗さ、絶縁層10を構成している材料及び信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度を変化させた。
【0125】
【表3】
【0126】
図17は、ケーブル100の挿入損失を評価するために準備されるサンプルの模式図である。図17に示されるように、ケーブル100の挿入損失の評価では、サンプル3-1~サンプル3-8として、長さが1mのケーブル100が準備された。
【0127】
図18は、ケーブル100の挿入喪失の評価に際してケーブル100に加えられるねじれを示す模式図である。図18に示されるように、サンプル3-1~サンプル3-8に対しては、ねじれが加えられる。サンプル3-1~サンプル3-8に対しては、200mmごとに180°のねじれが加えられる。上記のとおり、サンプル3-1~サンプル3-8の長さは1mであるため、サンプル3-1~サンプル3-8は、2.5周分のねじれが加えられている。サンプル3-1~サンプル3-8の挿入損失は、上記のねじれが加えられた状態でサンプル3-1~サンプル3-8に対して差動モードの信号を入力することにより測定された。
【0128】
表3中の「評価」の欄における「A」は、挿入損失が-25dB/m以下であり、加えられたねじれにより挿入損失の劣化が生じていなかったことを示している。表3中の「評価」の欄における「B」は、挿入損失が-25dB/mよりも大きく、加えられたねじれにより挿入損失の劣化が生じていたことを示している。
【0129】
表3に示されるように、サンプル3-1及びサンプル3-7に対する挿入損失の評価はBであった。他方で、サンプル3-2~サンプル3-6及びサンプル3-8に対する挿入損失の評価はAであった。
【0130】
サンプル3-1及びサンプル3-7では、信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度が、0.8N以上82.5N以下の範囲内になかった。他方で、サンプル3-2~サンプル3-6及びサンプル3-8では、信号線20aを絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度が、0.8N以上82.5N以下の範囲内にあった。この比較から、信号線20a(信号線20b)を絶縁層10から引き抜く際の引き抜き強度を0.8N以上82.5N以下とすることによりケーブル100の挿入損失の劣化を抑制できることが、明らかにされた。
【0131】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0132】
10 絶縁層、10a 外周面、11 第1部分、12 第2部分、13 第3部分、14 第4部分、15 第5部分、20a,20b 信号線、30 中間層、30a 外周面、40 金属酸化物層、40a 第1面、40aa 凹部、40ab 凸部、40b 第2面、40ba 凹部、40bb 凸部、50 シールド、51 銅層、52 第1銅層、53 第2銅層、60 触媒粒子、60a 触媒粒子、60b 触媒粒子、100 ケーブル、100A 処理対象部材、110 屈曲部、300 試験片、301 第1領域、302 第2領域、401 第1チャック、402 第2チャック、500 円柱部材、510 テープ、DR1 第1方向、DR2 第2方向、L 距離、S1 準備工程、S2 中間層形成工程、S3 熱処理工程、S4 触媒粒子配置工程、S5 金属酸化物層形成工程、S6 無電解めっき工程、S7 電解めっき工程、T1,T2 厚さ、W1,W2,W3,W4,W5 幅。
図1
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