(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】推定装置、推定システム、推定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20250508BHJP
【FI】
A61B5/11 230
(21)【出願番号】P 2023522150
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2021019305
(87)【国際公開番号】W WO2022244222
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100178216
【氏名又は名称】浜野 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】黄 晨暉
(72)【発明者】
【氏名】オウ シンイ
(72)【発明者】
【氏名】福司 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 史行
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 浩司
(72)【発明者】
【氏名】中原 謙太郎
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/202543(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/230282(WO,A1)
【文献】特開2008-161228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの足の動きに基づくセンサデータの時系列データから抽出された歩行波形から、前記ユーザの属性に応じた身体状態の特徴が表れる区間において、前記ユーザの属性に応じた特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、
前記ユーザの属性に応じて抽出された前記特徴量を用いて、前記ユーザの身体状態を推定する推測手段と、を備え
、
前記特徴量抽出手段は、
冠状面内における足の回転角に関する歩行波形から前記特徴量を抽出し、
前記推測手段は、
前記冠状面内における足の回転角に関する前記歩行波形から抽出された前記特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する推定装置。
【請求項2】
前記推測手段は、
前記属性に応じて抽出される前記特徴量の入力に応じて、前記属性に応じた身体状態に関する推定結果を出力する推測モデルに、前記ユーザの
前記冠状面内における足の回転角に関する前記歩行波形から抽出された前記特徴量を入力し、前記推測モデルから出力される前記推定結果に基づいて前記ユーザの身体状態を推定する請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記推測手段は、
複数の被験者に関して、前記属性に応じた身体状態の特徴が表れる区間において、前記冠状面内
における足の回転角に関する前記歩行波形から抽出された前記特徴量を説明変数とし、圧力センサによって計測された足圧分布から求められた足圧中心軌跡指標を目的変数とするデータセットを学習させた推測モデルに、前記ユーザの前記歩行波形から抽出された前記特徴量を入力して、前記ユーザの足の回内/回外の度合を推定する請求項
1に記載の推定装置。
【請求項4】
前記ユーザが女性の場合、
前記特徴量抽出手段は、
前記冠状面内
における足の回転角に関する前記歩行波形から、踵接地の直後の期間と片脚支持の期間を含む女性特徴量抽出期間において前記特徴量を抽出し、
前記推測手段は、
複数の女性被験者に関して前記女性特徴量抽出期間において抽出された前記特徴量を学習させた女性用推測モデルに、前記特徴量抽出手段によって抽出された前記特徴量を入力して前記ユーザの回内/回外の度合を推定し、
前記ユーザが男性の場合、
前記特徴量抽出手段は、
爪先離地の直前の期間と前記踵接地の直前の期間を含む男性特徴量抽出期間において前記特徴量を抽出し、
前記推測手段は、
複数の男性被験者に関して前記男性特徴量抽出期間から抽出された前記特徴量を学習させた男性用推測モデルに、前記特徴量抽出手段によって抽出された前記特徴量を入力して前記ユーザの回内/回外の度合を推定する請求項
3に記載の推定装置。
【請求項5】
前記ユーザが高齢者の場合、
前記特徴量抽出手段は、
前記冠状面内
における足の回転角に関する前記歩行波形から、踵接地の直後の期間と前記踵接地の直前の期間を含む高齢者特徴量抽出期間において前記特徴量を抽出し、
前記推測手段は、
複数の高齢者被験者に関して前記高齢者特徴量抽出期間において抽出された前記特徴量を学習させた高齢者用推測モデルに、前記特徴量抽出手段によって抽出された前記特徴量を入力して前記ユーザの回内/回外の度合を推定し、
前記ユーザが若年者の場合、
前記特徴量抽出手段は、
前記冠状面内
における足の回転角に関する前記歩行波形から、爪先離地の直前の期間と前記踵接地の直前の期間を含む若年者特徴量抽出期間において前記特徴量を抽出し、
前記推測手段は、
複数の若年者被験者に関して前記若年者特徴量抽出期間において抽出された前記特徴量を学習させた若年者用推測モデルに、前記特徴量抽出手段によって抽出された前記特徴量を入力して前記ユーザの回内/回外の度合を推定する請求項
3に記載の推定装置。
【請求項6】
前記推測手段は、
推定された前記足圧中心軌跡指標の値に応じて、足の回内/回外、および正常のうちいずれであるのかを示す判定結果を出力する請求項
3乃至5のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の推定装置と、
前記ユーザの足部に設置され、空間加速度および空間角速度を計測し、計測した前記空間加速度および前記空間角速度に基づくセンサデータを生成し、生成した前記センサデータを前記推定装置に送信するデータ取得装置と、を備える推定システム。
【請求項8】
コンピュータが、
ユーザの足の動きに基づくセンサデータの時系列データから抽出された歩行波形から、前記ユーザの属性に応じた身体状態の特徴が表れる区間において、前記ユーザの属性に応じた特徴量を抽出し、
前記ユーザの属性に応じて抽出された前記特徴量を用いて、前記ユーザの身体状態を推定
し、
前記抽出において、
冠状面内における足の回転角に関する歩行波形から前記特徴量を抽出し、
前記推定において、
前記冠状面内における足の回転角に関する前記歩行波形から抽出された前記特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する推定方法。
【請求項9】
コンピュータに、
ユーザの足の動きに基づくセンサデータの時系列データから抽出された歩行波形から、前記ユーザの属性に応じた身体状態の特徴が表れる区間において、前記ユーザの属性に応じた特徴量を抽出する処理と、
前記ユーザの属性に応じて抽出された前記特徴量を用いて、前記ユーザの身体状態を推定する処理と、
前記抽出する処理において、
冠状面内における足の回転角に関する歩行波形から前記特徴量を抽出する処理と、
前記推定する処理において、
前記冠状面内における足の回転角に関する前記歩行波形から抽出された前記特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する処理と、を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歩行に伴って計測されるセンサデータに基づいて身体状態を推定する推定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
体調管理を行うヘルスケアへの関心の高まりから、歩行パターンに含まれる特徴(歩容とも呼ぶ)を計測し、歩容に応じた情報をユーザに提供するサービスが注目されている。例えば、靴等の履物に荷重計測装置や慣性計測装置を実装し、ユーザの歩容を解析する装置が開発されている。歩容に関する情報に基づいて身体状態を推定できれば、歩行に表れる兆候に応じて適切な対策を行うことができる。例えば、歩容に関する情報に基づいて身体状態を推定できれば、推定された身体状態に応じた対策を行うことができる。
【0003】
特許文献1には、履物の背面に装着されたモーションセンサによって計測される計測値を用いて、ユーザの運動特性を判定するシステムが開示されている。特許文献1のシステムは、3軸方向の加速度、3軸周りの角速度や角度を用いて、回内度や回内エクスカーションなどの強度メトリックを計算する。
【0004】
特許文献2には、足底圧のデータを解析して、足に関する異常の有無を評価する方法が開示されている。特許文献2の方法においては、靴のインソールに設けられた圧力センサによって、所定時間の足底圧のデータを取得する。特許文献2の方法においては、所定時間の足底圧のデータを解析することで得られる足底圧パラメータや足圧中心パラメータ、時間パラメータなどの歩行処理後データに基づいて、回内足/回外足の評価を行う。
【0005】
特許文献3には、多方向から撮影された歩行者の画像を用いて、歩行動作を分析する歩行動作分析装置について開示されている。特許文献3の装置は、画像に映っている歩行者の位置の画素と、背景画像の歩行者に対応する位置の画素とで値の差分からシルエット画像を生成する。特許文献3の装置は、生成されたシルエット画像を用いて3次元人物モデルを構築し、各関節の角度と関節間の長さと関節の移動距離をパラメータとして取得する。特許文献3の装置は、パラメータから算出される歩行周期ごとに切り出されたパラメータ列と、事前に生成された歩行時の動作を示す辞書データとを比較して歩行状態を分析する。特許文献3には、身長や体重、年齢、性別などの人物属性ごとに、健常な人物のパラメータ列を辞書データとして保存しておくことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2016/0100801号明細書
【文献】国際公開第2018/164157号
【文献】特開2010-017447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の手法によれば、モーションセンサによって計測される計測値の時系列データの波形特徴に基づいて、回内度や回内エクスカーションなどの強度メトリックを計算できる。しかしながら、特許文献1の手法では、算出された強度メトリックに応じた判定は、専門家によってなされる必要があった。
【0008】
特許文献2の手法によれば、圧力センサによって計測された足底圧のデータに基づいて、回内足/回外足の異常がないか判定できる。通常、回内足/回外足における異常の有無に関しては、性別や年齢などの属性に応じて判定されないと、正確な判定結果を得ることができない。特許文献2の手法では、性別や年齢などの属性に応じて判定できないため、正確な判定結果を得ることができないことがあった。また、特許文献2の手法では、圧力センサによって計測される足底圧のデータに基づいて判定するため、遊脚相の期間における現れる特徴を抽出できなかった。
【0009】
特許文献3の手法によれば、分析の基準となる辞書データが人物属性ごとに分類されているため、人物属性により近い辞書データとパラメータ列を比較することで、歩行者の属性に応じて歩行状態を分析することができる。しかしながら、特許文献3の手法では、歩行状態を分析するために、多方向から撮影された画像を用いる必要があった。また、特許文献3の手法では、健常な人物の属性を基準として分析するため、怪我や疾患による異常の度合を検証することができなかった。
【0010】
本開示の目的は、歩行に伴って計測されるセンサデータに基づいて、属性に応じて身体状態を推定できる推定装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様の推定装置は、ユーザの足の動きに基づくセンサデータの時系列データから抽出された歩行波形から、属性に応じた身体状態の特徴が表れる区間において、ユーザの属性に応じた特徴量を抽出する特徴量抽出部と、ユーザの属性に応じて抽出された特徴量を用いて、ユーザの身体状態を推定する推測部と、を備える。
【0012】
本開示の一態様の推定方法においては、コンピュータが、ユーザの足の動きに基づくセンサデータの時系列データから抽出された歩行波形から、属性に応じた身体状態の特徴が表れる区間において、ユーザの属性に応じた特徴量を抽出し、ユーザの属性に応じて抽出された特徴量を用いて、ユーザの身体状態を推定する。
【0013】
本開示の一態様のプログラムは、ユーザの足の動きに基づくセンサデータの時系列データから抽出された歩行波形から、属性に応じた身体状態の特徴が表れる区間において、ユーザの属性に応じた特徴量を抽出する処理と、ユーザの属性に応じて抽出された特徴量を用いて、ユーザの身体状態を推定する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、歩行に伴って計測されるセンサデータに基づいて、属性に応じて身体状態を推定できる推定装置等を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係る推定システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る推定システムのデータ取得装置を履物の中に配置する一例を示す概念図である。
【
図3】第1の実施形態に係る推定システムのデータ取得装置に設定されるローカル座標系と世界座標系の関係について説明するための概念図である。
【
図4】人体面について説明するための概念図である。
【
図5】歩行イベントについて説明するための概念図である。
【
図6】足の回内/回外について説明するための概念図である。
【
図7】足圧分布から導出される足圧中心軌跡指標(CPEI:Center of Pressure Excursion Index)について説明するための概念図である。
【
図8】足の回内/回外の度合に応じたCPEIの違いについて説明するための概念図である。
【
図9】足圧中心軌跡と歩行周期の対応関係の一例について説明するための概念図である。
【
図10】第1の実施形態に係る推定システムのデータ取得装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図11】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図12】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置が用いる、属性ごとの推測モデルの一例について説明するための概念図である。
【
図13】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置によって用いられる推測モデルの学習の一例を示す概念図である。
【
図14】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置による足の回内/回外の度合の推定の一例を示す概念図である。
【
図15】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図16】第1の実施形態に係る推定システムのデータ取得装置と感圧センサを履物の中に配置する一例を示す概念図である。
【
図17】第1の実施形態に係る推定システムのデータ取得装置によって計測されたセンサデータに基づいて推測されたCPEI(推測値)と、感圧センサによって計測されたCPEI(真値)との相関係数を示すグラフである。
【
図18】第1の実施形態の推定システムの推定装置によって推定されたCPEI(推定値)と、感圧センサの計測結果に基づくCPEI(真値)との相関関係を示すグラフである。
【
図19】第1の実施形態の推定システムの推定装置によって推定されたCPEI(推定値)と、感圧センサ110の計測結果に基づくCPEI(真値)との相関関係をZスコアで検証した結果を示すグラフである。
【
図20】第1の実施形態に係る推定システムのデータ取得装置によって計測されたセンサデータに基づいて推測されたCPEI(推測値)と、感圧センサによって計測されたCPEI(真値)との相関係数を示すグラフである。
【
図21】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置によって推測された足の回内/回外の度合に関する推定結果に基づく情報を携帯端末の表示部に表示させる一例を示す概念図である。
【
図22】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置によって推測された足の回内/回外の度合に関する推定結果に基づく情報を携帯端末の表示部に表示させる別の一例を示す概念図である。
【
図23】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置によって推測された足の回内/回外の度合に関する推定結果に基づくデータをデータセンターに送信する一例を示す概念図である。
【
図24】第2の実施形態に係る推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図25】各実施形態に係る推定装置を実現するハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0017】
(第1の実施形態)
本開示に係る第1の実施形態の推定システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の推定システムは、ユーザの歩行パターンに含まれる特徴(歩容とも呼ぶ)を計測し、計測された歩容を解析することによって、ユーザの身体状態を推定する。本実施形態では、足の動きに関するセンサデータに基づいて、ユーザの性別や年齢などの属性に応じて、足の回内/回外の度合を推定する例について説明する。本実施形態の手法によって推定される身体状態は、足の回内/回外の度合に限定されず、外反母趾や、O脚/X脚、肥満度などのように、性別や年齢などの属性の違いの影響が反映される身体状態の推定にも用いることができる。本実施形態においては、右足を基準の足とし、左足を反対足とする系について説明する。本実施形態の手法は、左足を基準の足とし、右足を反対足とする系についても適用できる。
【0018】
(構成)
図1は、本実施形態の推定システム1の構成を示すブロック図である。推定システム1は、データ取得装置11および推定装置12を備える。データ取得装置11と推定装置12は、有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。また、データ取得装置11と推定装置12は、単一の装置で構成されてもよい。また、推定システム1の構成からデータ取得装置11を除き、推定装置12だけで推定システム1が構成されてもよい。
【0019】
データ取得装置11は、足部に設置される。例えば、データ取得装置11は、靴等の履物に設置される。本実施形態では、足弓の裏側の位置にデータ取得装置11を配置する例について説明する。データ取得装置11は、加速度センサおよび角速度センサを含む。データ取得装置11は、履物を履くユーザの足の動きに関する物理量として、加速度センサによって計測される加速度(空間加速度とも呼ぶ)や、角速度センサによって計測される角速度(空間角速度とも呼ぶ)などの物理量を計測する。データ取得装置11が計測する足の動きに関する物理量には、加速度や角速度を積分することによって計算される速度や角度、位置(軌跡)も含まれる。データ取得装置11は、計測された物理量をデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)に変換する。データ取得装置11は、変換後のセンサデータを推定装置12に送信する。例えば、データ取得装置11は、ユーザが携帯する携帯端末(図示しない)を介して、推定装置12に接続される。
【0020】
携帯端末(図示しない)は、ユーザによって携帯可能な通信機器である。例えば、携帯端末は、スマートフォンやスマートウォッチ、携帯電話等の通信機能を有する携帯型の通信機器である。携帯端末は、ユーザの足の動きに関するセンサデータをデータ取得装置11から受信する。携帯端末は、受信されたセンサデータを、推定装置12が実装されたサーバ等に送信する。なお、推定装置12の機能は、携帯端末にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によって実現されていてもよい。その場合、携帯端末は、受信されたセンサデータを、自身にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によって処理する。
【0021】
データ取得装置11は、例えば、加速度センサと角速度センサを含む慣性計測装置によって実現される。慣性計測装置の一例として、IMU(Inertial Measurement Unit)があげられる。IMUは、3軸方向の加速度を計測する加速度センサと、3軸周りの角速度を計測する角速度センサを含む。また、データ取得装置11は、VG(Vertical Gyro)やAHRS(Attitude Heading)などの慣性計測装置によって実現されてもよい。データ取得装置11は、GPS/INS(Global Positioning System/Inertial Navigation System)によって実現されてもよい。
【0022】
図2は、データ取得装置11を靴100の中に配置する一例を示す概念図である。
図2の例では、データ取得装置11は、足弓の裏側に当たる配置に設置される。例えば、データ取得装置11は、靴100の中に挿入されるインソールに配置される。例えば、データ取得装置11は、靴100の底面に配置される。例えば、データ取得装置11は、靴100の本体に埋設される。データ取得装置11は、靴100から着脱できてもよいし、靴100から着脱できなくてもよい。なお、データ取得装置11は、足の動きに関するセンサデータを取得できさえすれば、足弓の裏側ではない位置に設置されてもよい。また、データ取得装置11は、ユーザが履いている靴下や、ユーザが装着しているアンクレット等の装飾品に設置されてもよい。また、データ取得装置11は、足に直に貼り付けられたり、足に埋め込まれたりしてもよい。
図2においては、右足側の靴100にデータ取得装置11を設置する例を示すが、両足分の靴100にデータ取得装置11を設置してもよい。両足分の靴100にデータ取得装置11を設置すれば、両足分の足の動きに基づいて身体状態を推定できる。
【0023】
図3は、データ取得装置11を足弓の裏側に設置する場合に、データ取得装置11に設定されるローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と、地面に対して設定される世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)について説明するための概念図である。世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)では、ユーザが直立した状態で、ユーザの横方向がX軸方向(右向きが正)、ユーザの正面の方向(進行方向)がY軸方向(前向きが正)、重力方向がZ軸方向(鉛直上向きが正)に設定される。本実施形態においては、データ取得装置11を基準とするx方向、y方向、およびz方向からなるローカル座標系を設定する。
【0024】
図4は、人体に対して設定される面(人体面とも呼ぶ)について説明するための概念図である。本実施形態では、身体を左右に分ける矢状面、身体を前後に分ける冠状面、身体を水平に分ける水平面が定義される。なお、
図4のような直立した状態では、世界座標系とローカル座標系が一致する。本実施形態においては、x軸を回転軸とする矢状面内の回転をロール、y軸を回転軸とする冠状面内の回転をピッチ、z軸を回転軸とする水平面内の回転をヨーと定義する。また、x軸を回転軸とする矢状面内の回転角をロール角、y軸を回転軸とする冠状面内の回転角をピッチ角、z軸を回転軸とする水平面内の回転角をヨー角と定義する。本実施形態においては、ピッチ角に基づいて、足の回内/回外の度合を判定する例をあげる。本実施形態において、ピッチ角は、外転方向の回転(y軸を中心とする反時計回りの回転)をプラスとし、内転方向の回転(y軸を中心とする時計回りの回転)をマイナスとする。
【0025】
図5は、右足を基準とする一歩行周期について説明するための概念図である。
図5の横軸は、右足の踵が地面に着地した時点を起点とし、次に右足の踵が地面に着地した時点を終点とする右足の一歩行周期を100%として正規化された歩行周期である。片足の一歩行周期は、足の裏側の少なくとも一部が地面に接している立脚相と、足の裏側が地面から離れている遊脚相とに大別される。本実施形態においては、立脚相が60%を占め、遊脚相が40%を占めるように正規化する。立脚相は、さらに、立脚初期T1、立脚中期T2、立脚終期T3、遊脚前期T4に細分される。遊脚相は、さらに、遊脚初期T5、遊脚中期T6、遊脚終期T7に細分される。なお、一歩行周期分の歩行波形は、踵が地面に着地した時点を起点としなくてもよい。
【0026】
図5(a)は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。
図5(b)は、右足の足裏の接地面が接地した状態で、左足の爪先が地面から離れる事象(反対足爪先離地)を表す(OTO:Opposite Toe Off)。
図5(c)は、右足の足裏の接地面が接地した状態で、右足の踵が持ち上がる事象(踵持ち上がり)を表す(HR:Heel Rise)。
図5(d)は、左足の踵が接地した事象(反対足踵接地)である(OHS:Opposite Heel Strike)。
図5(e)は、左足の足裏の接地面が接地した状態で、右足の爪先が地面から離れる事象(爪先離地)を表す(TO:Toe Off)。
図5(f)は、左足の足裏の接地面が接地した状態で、左足と右足が交差する事象(足交差)を表す(FA:Foot Adjacent)。
図5(g)は、左足の足裏が接地した状態で、右足の脛骨が地面に対してほぼ垂直になる事象(脛骨垂直)を表す(TV:Tibia Vertical)。
図5(h)は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。
図5(h)は、
図5(a)から始まる歩行周期の終点に相当するとともに、次の歩行周期の起点に相当する。
【0027】
次に、足の回内/回外について図面を参照しながら説明する。
図6は、足の回内/回外について説明するための概念図である。足の回内/回外は、冠状面、矢状面、水平面での運動を同時に含む三平面運動である。本実施形態では、足の回内/回外は、距骨下関節の冠状面運動として捉える。本実施形態では、人が直立しているときの冠状面内の角度を用いるため、ピッチ角を計算する際には、ローカル座標系のセンサデータを世界座標系に変換する。回外は、足部が内転・底屈・内反で構成される動きである。回内は、外転・背屈・外反で構成される動きである。例えば、回内の度合が大きく、その状態で固定されている足を回内足と呼ぶ。同様に、回外の度合が大きく、その状態で固定されている足を回外足と呼ぶ。
【0028】
足の回内/回外の度合は、足圧中心軌跡指標(CPEI:Center of Pressure Excursion Index)によって評価できる。
図7は、CPEIについて説明するための概念図である。
図7には、足圧中心(CoP:Center of Pressure)軌跡を足圧分布に重ねて図示する。足圧中心軌跡は、床面内(XY面内)における足圧分布を冠状面(ZX面)で切断した線上における足圧の最大点(最大荷重中心)を、Y軸方向に沿って踵接地点(始点)から爪先離地点(終点)まで結んだ軌跡である。始点と終点を結ぶ直線を中心軸(Construction Lineとも呼ぶ)と呼ぶ。中心軸に対して底辺が垂直な台形で足の輪郭を囲み、足の前方向の三分の一の部分を台形の底辺に平行な切断線で切断する。台形と切断線の交点のうち、足の内側の点をA、足の外側の点をDとする。中心軸と切断線の交点をBとし、足圧中心軌跡と切断線の交点をCとする。線分BCは、CPE(Center of Pressure Excursion)と呼ばれる。線分ADは、足幅に相当する。以下の式1のように、CPE(線分BCの長さ)と足幅(線分ADの長さ)の比が、足圧中心軌跡指標CPEIに相当する(式1)。
CPEI=CPE/足幅×100・・・(1)
ただし、CPEIを導出するために用いられる上記の始点や終点、台形の囲み方、台形の切断の仕方等は、一例であって、上記の定義に限定されない。
【0029】
図8は、回外、正常、および回内の傾向がある足に関するCPEIを比較するための概念図である。回外の場合、正常な状態と比べると、CPE(線分BCの長さ)が長く、足幅(線分ADの長さ)が小さい傾向がみられる。一方、回内の場合、正常な状態と比べると、CPE(線分BCの長さ)が短く、足幅(線分ADの長さ)が大きい傾向がみられる。すなわち、CPEIが過大の状態が回外であり、CPEIが過小の状態が回内であると判定できる。本実施形態では、CPEIが20以上ならば回外に分類され、CPEIが9~20ならば正常に分類され、CPEIが9以下ならば回内に分類される。なお、上記のCPEIの値に基づく判定基準は、足の回内/回外の度合の一例であって、足の回内/回外の度合の判定基準を上記の通りに限定するものではない。
【0030】
推定装置12は、ユーザの足の動きに関するセンサデータを取得する。足の回内/回外の度合は、内転角度/外転角度に相関がある。推定装置12は、性別や年齢などの属性に応じた基準に基づいて、推定装置12は、取得されたセンサデータの時系列データに基づく波形(歩行波形とも呼ぶ)を用いて、足の回内/回外の度合を推定する。本実施形態において、推定装置12は、冠状面内(zx面内)における足の回転角(ピッチ角とも呼ぶ)の歩行波形を用いて、足の回内/回外の度合を推定する。言い換えると、推定装置12は、Y軸周りの足の回転角であるピッチ角の時系列データを用いて、足の回内/回外の度合を推定する。具体的には、推定装置12は、属性に応じた基準に基づいて、ピッチ角の時系列データから抽出される特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する。足の回内/回外の度合とは異なる身体状態を推定する際には、その身体状態の特徴が表れる歩行波形を用いればよい。例えば、推定装置12は、属性ごとに生成された推測モデルを用いて、足の回内/回外の度合を推定する。属性ごとの推測モデルについては、後述する。
【0031】
図9は、足圧中心軌跡と歩行周期の対応関係について説明するための概念図である。
図9には、ある被験者について計測された足圧分布と、その足圧分布における中心軸および足圧中心軌跡を示す。足圧分布の左側には、足圧中心軌跡に対応する歩行周期を示す。歩行周期の15~25%は、右足の足裏全面接地の状態(Foot flat)である。足裏全面接地とは、足裏の接地面の全面が接地することを意味する。足裏全面接地の状態(Foot flat)では、ピッチ角は0度である。歩行周期の30%は、踵持ち上がりのタイミングに相当する。歩行周期の30~50%にかけて、右足の踵側から爪先側に向かう体重移動に伴って、足裏の地面に接地する面積が次第に小さくなっていく。歩行周期の60%は、右足の爪先が地面から離れる爪先離地のタイミングである。
【0032】
足に回外の傾向がある場合、足裏と地面の接触部分は足の外側に偏るため、CPEIのカーブが急になる。この場合、内転の傾向がみられ、歩行周期の30~50%の立脚終期において、ピッチ角が小さくなる。回外の度合が過大の場合は、ピッチ角が負になることもある。一方、回内の傾向がある場合、足裏と地面の接触部分は足の内側に偏るため、CPEIのカーブが緩くなる。この場合、外転の傾向がみられ、歩行周期の30~50%の立脚終期において、ピッチ角が大きくなる。
【0033】
また、本開示の発明者によって、足の回内/回外の度合の推定に用いることができる特徴量は、性別や年齢などの属性に応じて、異なる歩行周期(歩行フェーズとも呼ぶ)に表れることが明らかになった。
【0034】
例えば、男性の場合、立脚相の後半(爪先離地の直前)と遊脚相の後半(踵接地の直前)に、足の回内/回外の度合の推定に適用可能な特徴量が表れる。例えば、女性の場合、立脚相の前半(踵接地の直後と片脚支持の期間)に、足の回内/回外の度合の推定に適用可能な特徴量が表れる。そのため、属性として性別を用いる場合、立脚相の後半と遊脚相の後半の期間(男性)と、立脚相の前半の期間(女性)から抽出された特徴を用いればよい。
【0035】
例えば、20~39歳程度の若年者であれば、立脚相の後半(爪先離地の直前)と遊脚相の後半(踵接地の直前)に、足の回内/回外の度合の推定に適用可能な特徴量が表れる。例えば、60歳以上の高齢者であれば、立脚相の前半(踵接地の直後)と遊脚相の後半(踵接地の直前)に、足の回内/回外の度合の推定に適用可能な特徴量が表れる。属性として年齢を用いる場合、遊脚相の後半(踵接地の直前)については、若年者と高齢者で特徴が表れる歩行フェーズが近い。そのため、属性として年齢を用いる場合、若年者と高齢者で特徴が表れる歩行フェーズが異なる立脚相の後半(若年者)と立脚相の前半(高齢者)から抽出された特徴を用いればよい。
【0036】
例えば、推定装置12は、図示しないサーバ等に実装される。例えば、推定装置12は、アプリケーションサーバによって実現されてもよい。例えば、推定装置12は、携帯端末(図示しない)にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によって実現されてもよい。
【0037】
〔データ取得装置〕
次に、データ取得装置11の詳細構成について図面を参照しながら説明する。
図10は、データ取得装置11の詳細構成の一例を示すブロック図である。データ取得装置11は、加速度センサ111、角速度センサ112、制御部113、およびデータ送信部115を有する。なお、データ取得装置11は、図示しない電源を含む。
【0038】
加速度センサ111は、3軸方向の加速度(空間加速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。加速度センサ111は、計測した加速度を制御部113に出力する。例えば、加速度センサ111には、圧電型や、ピエゾ抵抗型、静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。なお、加速度センサ111に用いられるセンサは、加速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0039】
角速度センサ112は、3軸方向の角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。角速度センサ112は、計測した角速度を制御部113に出力する。例えば、角速度センサ112には、振動型や静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。なお、角速度センサ112に用いられるセンサは、角速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0040】
制御部113は、加速度センサ111および角速度センサ112の各々から、3軸方向の加速度と3軸周りの角速度を取得する。制御部113は、取得した加速度および角速度をデジタルデータに変換し、変換後のデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)をデータ送信部115に出力する。センサデータには、デジタルデータに変換された加速度データと、デジタルデータに変換された角速度データとが少なくとも含まれる。加速度データは、3軸方向の加速度ベクトルを含む。角速度データは、3軸周りの角速度ベクトルを含む。なお、加速度データおよび角速度データには、それらのデータの取得時間が紐付けられる。また、制御部113は、取得した加速度データおよび角速度データに対して、実装誤差や温度補正、直線性補正などの補正を加えたセンサデータを出力するように構成してもよい。また、制御部113は、取得した加速度データおよび角速度データを用いて、3軸周りの角度データを生成してもよい。
【0041】
例えば、制御部113は、データ取得装置11の全体制御やデータ処理を行うマイクロコンピュータまたはマイクロコントローラである。例えば、制御部113は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を有する。制御部113は、加速度センサ111および角速度センサ112を制御して角速度や加速度を計測する。例えば、制御部113は、計測された角速度および加速度等の物理量(アナログデータ)をAD変換(Analog-to-Digital Conversion)し、変換後のデジタルデータをフラッシュメモリに記憶させる。なお、加速度センサ111および角速度センサ112によって計測された物理量(アナログデータ)は、加速度センサ111および角速度センサ112の各々においてデジタルデータに変換されてもよい。フラッシュメモリに記憶されたデジタルデータは、所定のタイミングでデータ送信部115に出力される。
【0042】
データ送信部115は、制御部113からセンサデータを取得する。データ送信部115は、取得したセンサデータを推定装置12に送信する。データ送信部115は、ケーブルなどの有線を介してセンサデータを推定装置12に送信してもよいし、無線通信を介してセンサデータを推定装置12に送信してもよい。例えば、データ送信部115は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)などの規格に則した無線通信機能(図示しない)を介して、センサデータを推定装置12に送信するように構成される。なお、データ送信部115の通信機能は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)以外の規格に則していてもよい。
【0043】
〔推定装置〕
次に、推定システム1が備える推定装置12の詳細構成について図面を参照しながら説明する。
図11は、推定装置12の構成の一例を示すブロック図である。推定装置12は、検出部121、特徴量抽出部125、記憶部123、および推測部127を有する。実際には、データ取得装置11からセンサデータを受信する受信部や、推測部127による推測結果を出力する出力部などの通信インターフェースが設けられる。本実施形態においては、通信インターフェースについては省略する。
【0044】
検出部121は、データ取得装置11からセンサデータを取得する。例えば、検出部121は、取得されたセンサデータの座標系を、ローカル座標系から世界座標系に変換する。ユーザが直立した状態では、ローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)は一致する。ユーザが歩行している間、データ取得装置11の空間的な姿勢が変化するため、ローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)は一致しない。そのため、検出部121は、データ取得装置11によって取得されたセンサデータを、データ取得装置11のローカル座標系(x軸、y軸、z軸)から世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)に変換する。
【0045】
検出部121は、センサデータを用いて、データ取得装置11が設置された履物を履いた歩行者の歩行に伴って計測される、足の動きに関する物理量の時系列データを生成する。例えば、検出部121は、空間加速度や空間角速度などの時系列データを生成する。また、検出部121は、空間加速度や空間角速度を積分し、空間速度や空間角度(足底角)、空間軌跡などの時系列データを生成する。これらの時系列データが歩行波形に相当する。検出部121は、一般的な歩行周期や、ユーザに固有の歩行周期に合わせて設定された所定のタイミングや時間間隔で時系列データを生成する。検出部121が時系列データを生成するタイミングは、任意に設定できる。例えば、検出部121は、ユーザの歩行が継続されている期間、時系列データを生成し続けるように構成される。また、検出部121は、特定のタイミングにおいて、時系列データを生成するように構成されてもよい。
【0046】
検出部121は、生成された時系列データから、一歩行周期分の時系列データ(歩行波形とも呼ぶ)を抽出する。以下の説明においては、一歩行周期の歩行波形が、踵接地のタイミングを起点とし、次の踵接地のタイミングを終点とする例について説明する。例えば、検出部121は、進行方向(Y方向)の加速度の時系列データから、一歩行周期分の進行方向加速度の歩行波形を抽出する。例えば、検出部121は、一歩行周期分の進行方向加速度の歩行波形において、爪先離地のタイミングを検出する。例えば、爪先離地のタイミングは、一歩行周期分の進行方向加速度の歩行波形において、最大ピークに含まれる二つの山の間に谷が検出されるタイミングである。例えば、検出部121は、一歩行周期分の進行方向加速度歩行波形において、踵接地のタイミングを検出する。例えば、踵接地のタイミングは、一歩行周期分の進行方向加速度歩行波形において、最小ピークが検出されるタイミングと、最小ピークの次に現れる極大ピークが検出されるタイミングとの中点のタイミングである。
【0047】
記憶部123には、予め生成された属性ごとの推測モデルが記憶される。記憶部123には、性別や年齢などの属性ごとに身体状態を推測するための推測モデルが記憶される。
【0048】
図12は、記憶部123に記憶される推測モデル130の一例を示す概念図である。記憶部123は、性別や年齢などの属性による相違が表れる歩行フェーズから抽出された特徴量の入力に応じて、身体状態を推定する属性ごとの推測モデル130を記憶する。男性用モデル130M(男性用推測モデルとも呼ぶ)は、男性の身体状態を推定するためのモデルである。女性用モデル130F(女性用推測モデルとも呼ぶ)は、女性の身体状態を推定するためのモデルである。若年者用モデル130Y(若年者用推測モデルとも呼ぶ)は、20~39歳程度の若年者の身体状態を推定するためのモデルである。高齢者用モデル130S(高齢者用推測モデルとも呼ぶ)は、60歳以上の高齢者の身体状態を推定するためのモデルである。なお、ユーザの属性が予めわかっている場合は、ユーザの属性に応じた推測モデル130を記憶部123に記憶させておけばよい。
【0049】
ここで、推定対象の身体状態が回内/回外の度合の場合において、属性ごとの推測モデル130の各々に入力される特徴量が抽出される歩行周期(歩行フェーズ)について一例をあげる。例えば、男性に特有の特徴量は、ピッチ角の歩行波形(冠状面内の角度波形とも呼ぶ)において、立脚相の後半(爪先離地の直前)と遊脚相の後半(踵接地の直前)を含む期間(男性特徴量抽出期間とも呼ぶ)から抽出される。例えば、女性に特有の特徴量は、立脚相の前半(踵接地の直後と片脚支持の期間)を含む期間(女性特徴量抽出期間とも呼ぶ)から抽出される。例えば、20~39歳程度の若年者に特有の特徴量は、立脚相の後半(爪先離地の直前)と遊脚相の後半(踵接地の直前)を含む期間(若年者特徴量抽出期間とも呼ぶ)から抽出される。例えば、60歳以上の高齢者に特有の特徴量は、立脚相の前半(踵接地の直後)と遊脚相の後半(踵接地の直前)を含む期間(高齢者特徴量抽出期間とも呼ぶ)から抽出される。属性として年齢を用いる場合、遊脚相の後半(踵接地の直前)については、若年者と高齢者で特徴が表れる歩行フェーズが重なる傾向がみられる。そのため、属性として年齢を用いる場合、若年者と高齢者で特徴が表れる歩行フェーズが異なる立脚相の後半(若年者)と立脚相の前半(高齢者)から抽出された特徴を用いればよい。
【0050】
属性ごとの推測モデル130は、属性に応じた歩行周期(歩行フェーズ)におけるピッチ角の特徴量の入力に応じて、身体状態に関する推定結果を出力する。例えば、属性ごとの推測モデル130は、属性に応じた歩行周期(歩行フェーズ)におけるピッチ角の特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する。例えば、推測モデル130は、属性に応じた歩行周期(歩行フェーズ)におけるピッチ角の特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果として、足の回内/回外/正常の判定結果を出力する。
【0051】
例えば、男性用モデル130Mは、ピッチ角の歩行波形において、立脚相の後半と遊脚相の後半から抽出される特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する。言い換えると、男性用モデル130Mは、爪先離地の直前と踵接地の直前を含む男性特徴量抽出期間においてピッチ角の歩行波形から抽出される特徴量の入力に応じて、推定結果を出力する。例えば、女性用モデル130Fは、ピッチ角の歩行波形において、立脚相の前半から抽出される特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する。言い換えると、女性用モデル130Fは、踵接地の直後と片脚支持の期間を含む女性特徴量抽出期間においてピッチ角の歩行波形から抽出される特徴量の入力に応じて、推定結果を出力する。
【0052】
例えば、若年者用モデル130Yは、ピッチ角の歩行波形において、立脚相の後半と遊脚相の後半から抽出される特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する。言い換えると、若年者用モデル130Yは、爪先離地の直前と踵接地の直前を含む若年特徴量抽出期間においてピッチ角の歩行波形から抽出される特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する。例えば、高齢者用モデル130Sは、ピッチ角の歩行波形において、立脚相の前半と遊脚相の後半から抽出される特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する。言い換えると、高齢者用モデル130Sは、踵接地の直後と踵接地の直前を含む高齢者特徴量抽出期間においてピッチ角の歩行波形から抽出される特徴量の入力に応じて、推定結果を出力する。属性として年齢を用いる場合、遊脚相の後半(踵接地の直前)については、若年者と高齢者で特徴が表れる歩行フェーズが重なる傾向がみられる。そのため、属性として年齢を用いる場合、若年者と高齢者で特徴が表れる歩行フェーズが異なる立脚相の後半(若年者)と立脚相の前半(高齢者)から抽出された特徴を用いてもよい。
【0053】
本実施形態においては、データ取得装置11によって計測されたピッチ角の時系列データから抽出される特徴量と、圧力センサによって計測された足圧分布から求められるCPEIとのデータセットを学習させた推測モデルを予め生成しておく。例えば、属性ごとに特有な特徴が表れる歩行周期(歩行フェーズ)において、ピッチ角の時系列データから抽出される特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合を出力する推測モデルを予め生成しておく。例えば、属性ごとに特有な特徴が表れる歩行周期(歩行フェーズ)において、ピッチ角の時系列データから抽出されるピッチ角の算術平均や加重平均等の平均値、積分値等を特徴量として用いる。例えば、複数の被験者に関して、ピッチ角を説明変数とし、CPEIを目的変数とするデータを大量に計測しておき、それらのデータを教師データとして学習させた推測モデルを生成しておく。例えば、CPEIの推定値に応じて、足の状態を回内、回外、および正常のいずれかに分類し、足の回内/回外の度合として出力する推測モデルを生成しておいてもよい。
【0054】
図13は、ピッチ角の特徴量(説明変数)とCPEI(目的変数)のデータセットを教師データとして、学習装置13に学習させる一例を示す概念図である。本実施形態においては、複数の被験者に関する教師データを学習装置13に学習させ、ピッチ角の特徴量の入力に応じて足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する推測モデル130を予め生成しておく。
【0055】
予め生成された推測モデル130は、記憶部123に記憶させておく。例えば、推測モデル130は、製品の工場出荷時や、ユーザが推定装置12を使用する前のキャリブレーション時等のタイミングにおいて、推定装置12に記憶させておけばよい。推定装置12は、データ取得装置11によって計測されたセンサデータを用いて生成されたピッチ角の時系列データから抽出される特徴量を、推測モデル130に入力することによって、足の回内/回外の度合を推定する。例えば、推定装置12は、足の回内/回外の度合として、回外、正常、回内の3分類のいずれかに分類した推定結果を出力する。例えば、推定装置12は、足の回内/回外の度合として、CPEIの推定値や、ピッチ角の特徴量を出力してもよい。
【0056】
特徴量抽出部125は、一歩行周期分の歩行波形から、ユーザの属性に応じて、身体状態の推定に用いられる特徴量を抽出する。具体的には、特徴量抽出部125は、記憶部123に記憶された属性ごとの推測モデルを用いて、一歩行周期分の歩行波形から身体状態の推定に用いられる特徴量を抽出する。例えば、特徴量抽出部125は、ユーザの属性に応じた推測モデルを用いて、ピッチ角の歩行波形(冠状面内の角度波形)から、回内/回外の度合の推定に用いられる特徴量を抽出する。例えば、特徴量抽出部125は、ユーザの属性に応じた推測モデルを用いて、ピッチ角の歩行波形(冠状面内の角度波形)から、ピッチ角の積分値や平均値等を、回内/回外の度合の推定に用いられる特徴量として抽出する。
【0057】
推測部127は、特徴量抽出部125によって抽出されるピッチ角の歩行波形(冠状面内の角度波形)の特徴量を、属性ごとの推測モデル130に入力し、身体状態に関する推定結果を推定する。例えば、推測部127は、特徴量抽出部125によって抽出されるピッチ角の歩行波形(冠状面内の角度波形)の特徴量を、属性ごとの推測モデル130に入力し、足の回内/回外の度合に関する推定結果を推定する。推測部127は、推定結果を出力する。推測部127による推定結果は、上位システムやデータベースが構築されたサーバ、歩行波形の取得元のユーザの携帯端末等に出力される。推測部127による推定結果の出力先には、特に限定を加えない。
【0058】
図14は、予め生成された推測モデル130に、属性ごとのピッチ角の特徴量を入力することで、足の回内/回外の度合に関する推定結果が出力される一例を示す概念図である。例えば、足の回内/回外の度合に関する推定結果は、足の回内/回外/正常の判定結果を含む。例えば、足の回内/回外の度合に関する推定結果は、足の回内/回外/正常の判定結果に応じて、診察に適した病院を進める推薦情報を含む。例えば、足の回内/回外の度合に関する推定結果は、ピッチ角の値や、CPEIであってもよい。なお、上記の推定結果は、一例であって、属性ごとのピッチ角の特徴量を入力することで推測モデル130から出力される推定結果を限定するものではない。
【0059】
例えば、推測モデル130は、属性ごとのピッチ角の特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果として、足の回内/回外/正常の判定結果に応じた適切な病院を進める推薦情報を出力する。例えば、推測モデル130は、属性ごとのピッチ角の特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果として、ピッチ角の値やCPEIを出力する。なお、上記の推測モデル130の推定結果は、一例であって、属性ごとのピッチ角の特徴量を入力することで、推測モデル130から出力される推定結果を限定するものではない。
【0060】
(動作)
次に、本実施形態の推定システム1の推定装置12の動作について図面を参照しながら説明する。
図15は、推定装置12の動作の概略について説明するためのフローチャートである。推定装置12の動作の詳細は、上述の構成に関する説明の通りである。
【0061】
図15において、まず、推定装置12は、足の動きに関する物理量に関するセンサデータをデータ取得装置11から取得する(ステップS11)。
【0062】
次に、推定装置12は、取得したセンサデータの座標系を、データ取得装置11に設定されたローカル座標系から世界座標系に変換する(ステップS12)。
【0063】
次に、推定装置12は、世界座標系に変換後のセンサデータの時系列データを用いて歩行波形を生成する(ステップS13)。
【0064】
次に、推定装置12は、ユーザの属性に応じた特徴が表れる期間(歩行フェーズ)において、冠状面の角度波形(ピッチ角の歩行波形)から特徴量を抽出する(ステップS14)。
【0065】
次に、推定装置12は、ユーザの属性に応じた推測モデル130に、抽出された特徴量を入力し、ユーザの身体状態を推定する(ステップS15)。例えば、推定装置12は、ユーザの属性に応じた推測モデル130に特徴量を入力し、ユーザの足の回内/回外の度合を推定する。
【0066】
次に、推定装置12は、ユーザの身体状態に関する推定結果を出力する(ステップS16)。例えば、推定装置12は、足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する(ステップS16)。
【0067】
〔検証例〕
次に、データ取得装置11によって計測されたセンサデータに基づいて抽出された特徴量に基づいて推測されたCPEI(推測値)と、感圧センサによって計測されたCPEI(真値)との関係の検証例について説明する。
【0068】
図16は、本検証例で用いた感圧センサ110とデータ取得装置11の配置例を示す概念図である。本検証例においては、足圧分布を計測できる感圧センサ110が靴100の中敷きとして挿入され、足弓の裏側の位置にデータ取得装置11が搭載された。
【0069】
本検証例においては、男女各36名(合計72名)の被験者に対して、ピッチ角の時系列データから抽出された特徴量に基づいて推測されたCPEI(推測値)と、CPEIの実測値(真値)との関係について検証された。本検証例では、男女それぞれ20~30代(若年者)、40~50代(中年者)、60~70代前半(高齢者)の年代で、それぞれ12名ずつの被験者(合計72名)に対して検証された。
【0070】
本検証例における被験者の年齢は、平均が44.3歳、最年少が20歳、最年長が71歳であった。本検証例における被験者の体重は、平均が62.9kg(キログラム)、最大が115kg、最小が40kgであった。本検証例における被験者の身長は、平均が165.0cm(センチメートル)、最大が192cm、最小が143cmであった。本検証例における被験者の足のサイズは、平均が25.3cm、最小が22.5cm、最大が29.0cmであった。本検証例における被験者のBMI(Body Mass Index)は、平均が22.9、最大が36.3、最小が17.3であった。
【0071】
本検証例では、開始地点から15m(メートル)先の折り返し地点まで直線的に歩行し、折り返し地点で折り返して開始地点まで直線的に歩行する試行を、各被験者に3回行わせた。各被験者には、3回の試行において歩行速度を変えて歩行させた。3回の試行における歩行速度は、通常歩行、低速歩行、および早歩きの3パターンを含む。体力的なバイアスや心理的なバイアスを排除するために、被験者ごとに歩行速度の順番を変えた。一歩分の計測値が丸ごと抜ける可能性に備え、1回の試行における全ての歩数の平均値が算出された。1回の試行からは、1点のデータ(平均的な波形の1セット)が抽出された。
【0072】
推定装置12は、3軸方向の加速度、3軸周りの角速度、および3軸周りの角度(足底角)の9種類の歩行波形を生成する。本検証例では、9種類の歩行波形から、1歩行周期(歩行フェーズ)ごとにCPEIとの相関性が評価された。相関性を評価する際には、データの分布によるバイアスを排除するために、Leave-one-subject-outの手法を用いて、最終的には相関係数の平均値が算出された。相関係数には予め閾値が設定され、相関係数が閾値を超えて相関がありうる歩行フェーズが選出された。複数の歩行フェーズに亘って連続的に閾値を超える区間(歩行フェーズクラスターとも呼ぶ)については、歩行フェーズクラスターごとの特徴量が算出された。歩行フェーズクラスターに関しては、歩行フェーズクラスターを構成する複数の歩行フェーズにおける計測値の積分平均値を特徴量とした。
【0073】
図17は、ピッチ角の時系列データから抽出された特徴量に基づいて推測されたCPEI(推測値)と、感圧センサ110によって計測されたCPEI(真値)との性別ごとの相関係数を示すグラフである。
図17においては、CPEI(推測値)とCPEI(真値)の相関係数が、女性(実線)と男性(点線)で別々にプロットされる。
図17において、ハッチングが施された範囲の上限/下限の境界線が閾値に相当する。ハッチングが施された範囲の外にはみ出た区間(相関係数が閾値を超えた歩行フェーズの区間)においては、CPEI(推測値)とCPEI(真値)の相関が高い。すなわち、相関係数が閾値を超えた歩行フェーズの区間から、属性(性別)ごとのCPEIの特徴量を抽出できる。
【0074】
女性(実線)に関しては、立脚相の前半(踵接地の直後の期間F1と片脚支持の期間F2)において、相関係数が閾値を超える。一方、男性(点線)に関しては、立脚相の後半(爪先離地の直前の期間M1)と遊脚相の後半(踵接地の直前の期間M2)において、相関係数が閾値を超える。このように、女性(実線)と男性(点線)に関しては、CPEIと相関する歩行フェーズの区間が異なる。本検証例では、女性(実線)に関しては、立脚相の前半(踵接地の直後の期間F1と片脚支持の期間F2)から抽出される特徴量を用いて、推測モデルを生成した。一方、男性(点線)に関しては、立脚相の後半(爪先離地の直前の期間M1)と遊脚相の後半(踵接地の直前の期間M2)から抽出される特徴量を用いて、推測モデルを生成した。
【0075】
図18は、性別ごとの特徴が表れる歩行フェーズの区間から抽出された特徴量を性別ごとの推測モデルに入力することで推定されたCPEI(推定値)と、感圧センサ110の計測結果に基づくCPEI(真値)との相関関係を示すグラフである。
図18は、CPEI(推定値)とCPEI(真値)の相関関係を、Leave one subject out交差検証を用いて検証した結果である。男性に関しては、級内相関係数(ICC:Intraclass Correlation Coefficient)が0.560であった。女性に関しては、ICCが0.553であった。
図19は、CPEI(推定値)とCPEI(真値)の相関関係をZスコアで検証した結果を示すグラフである。男性に関しては、ICCが0.627であった。一方、女性に関しては、ICCが0.628であった。
図18と
図19の結果は、性別ごとの特徴が表れる歩行フェーズの区間から抽出された特徴量を用いて推定されたCPEI(推定値)と、感圧センサ110を用いて計測されたCPEI(真値)との間には、中程度の一致があることを示す。すなわち、回内/回外の度合(CPEI)に関しては、性別ごとの特徴が表れる歩行フェーズの区間から抽出された特徴量を用いて推定できる。
【0076】
図20は、ピッチ角の時系列データから抽出された特徴量に基づいて推測されたCPEI(推測値)と、感圧センサ110によって計測されたCPEI(真値)との年齢ごとの相関係数を示すグラフである。
図20においては、CPEI(推測値)とCPEI(真値)の相関係数が、高齢者(実線)と若年者(点線)で別々にプロットされる。
図20において、ハッチングが施された範囲の上限/下限の境界線が閾値に設定される。ハッチングが施された範囲の外にはみ出た区間(相関係数が閾値を超えた歩行フェーズの区間)においては、CPEI(推測値)とCPEI(真値)の相関が高い。すなわち、相関係数が閾値を超えた歩行フェーズの区間から、CPEIの特徴量を抽出できる。
【0077】
高齢者(実線)に関しては、立脚相の前半(踵接地の直後の期間S1)と遊脚相の後半(踵接地の直前の期間S2)において、相関係数が閾値を超える。一方、若年者(点線)に関しては、立脚相の後半(爪先離地の直前の期間Y1)と遊脚相の後半(踵接地の直前の期間Y2)において、相関係数が閾値を超える。このように、高齢者(実線)と若年者(点線)に関しては、CPEIと相関する歩行フェーズの区間が異なる。すなわち、高齢者(実線)に関しては、立脚相の前半(踵接地の直後の期間S1)と遊脚相の後半(踵接地の直前の期間S2)から抽出される特徴量を用いて推測モデルを生成しておけばよい。一方、若年者(点線)に関しては、立脚相の後半(爪先離地の直前の期間Y1)と遊脚相の後半(踵接地の直前の期間Y2)から抽出される特徴量を用いて推測モデルを生成しておけばよい。属性として年齢を用いる場合、遊脚相の後半(踵接地の直前の期間Y2と期間S2)については、若年者と高齢者で特徴が表れる歩行フェーズが重なる傾向がみられる。そのため、属性として年齢を用いる場合、高齢者に関しては立脚相の後半(爪先離地の直前の期間Y1)から、若年者に関しては立脚相の後半(爪先離地の直前の期間Y1)から抽出される特徴量を用いて推測モデルを生成しておけばよい。Leave one subject out交差検証の結果は省略するが、回内/回外の度合に関しても、年齢ごとの特徴が表れる歩行フェーズの区間から抽出された特徴量を用いて推定できる。
【0078】
〔適用例〕
次に、本実施形態の推定システム1の適用例について図面を参照しながら説明する。本適用例では、推定装置12によって出力された足の回内/回外の度合に関する推定結果を、表示装置に表示したり、ビックデータとして活用したりする例である。以下の例においては、歩行者の靴の中にデータ取得装置11が設置され、そのデータ取得装置11によって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータが、歩行者の所持する携帯端末に送信されるものとする。携帯端末に送信されたセンサデータは、携帯端末にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によってデータ処理されるものとする。
【0079】
図21は、データ取得装置(図示しない)が設置された靴100を履いた歩行者の携帯端末160の画面に、その歩行者の足の回内/回外の度合に関する推定結果を表示させる例である。
図21の例では、携帯端末160の画面に、「CPEI=+8.5」という数値と、「回内の傾向があります」という通知を、足の回内/回外の度合に関する推定結果として表示させる。携帯端末160の画面に表示された足の回内/回外の度合に関する推定結果を閲覧した歩行者は、その推定結果に応じた行動をとることができる。例えば、携帯端末160の画面に表示された足の回内/回外の度合に関する推定結果を閲覧した歩行者は、その推定結果に応じて、医療機関等に自身の状況について連絡できる。例えば、携帯端末160の画面に表示された足の回内/回外の度合に関する推定結果を閲覧した歩行者は、その推定結果に応じて、自身に適した運動や歩き方を実践できる。
【0080】
図22は、データ取得装置(図示しない)が設置された靴100を履いた歩行者の携帯端末160の画面に、その歩行者の足の回内/回外の度合に関する推定結果に応じた情報を表示させる例である。例えば、足の回内/回外の進行状況に応じて、歩行者が病院で診察を受けることを薦める情報を携帯端末160の画面に表示させる。例えば、足の回内/回外の進行状況に応じて、受診可能な病院のサイトへのリンク先や電話番号を携帯端末160の画面に表示させてもよい。例えば、携帯端末160の画面に表示された足の回内/回外の度合に関する推定結果に応じた情報を閲覧した歩行者は、その情報に応じて行動できる。
【0081】
図23は、データ取得装置(図示しない)が設置された靴100を履いた複数の歩行者の携帯端末160から、データ取得装置によって計測されたセンサデータに基づく情報をデータセンター170に送信する例である。例えば、携帯端末160は、データ取得装置によって計測されたセンサデータや、CPEIの推定値、それらの歩行者の足の回内/回外の度合に関する推定結果を、データセンター170に送信する。例えば、データセンター170に送信されたデータは、データベースに蓄積される。例えば、データベースに蓄積されたデータは、ビックデータとして活用される。
【0082】
本実施形態においては、身体状態として、回内/回外の度合を推定する例について説明した。本実施形態の手法は、回内/回外の度合以外の身体状態の推定にも適用できる。例えば、外反母趾の度合は、女性では履物の影響が主要因となり、男性では怪我の影響が主要因となる傾向がある。そのため、外反母趾の度合は、性別によって、特徴が表れる区間が異なるものと推定される。例えば、立ち仕事が主の場合と、座り仕事が主の場合とで、O脚やX脚になる傾向が異なる。そのように仮定した場合、O脚やX脚の度合は、職種などの社会的な属性によって、特徴が表れる区間が異なるものと推定される。
【0083】
以上のように、本実施形態の推定システムは、データ取得装置と推測装置を備える。データ取得装置は、ユーザの足部に設置され、空間加速度および空間角速度を計測する。データ取得装置は、計測した空間加速度および空間角速度に基づくセンサデータを生成し、生成したセンサデータを推定装置に送信する。推定装置は、検出部、特徴量抽出部、記憶部、および推測部を備える。検出部は、ユーザの足の動きに基づくセンサデータの時系列データから歩行イベントを検出する。検出部は、検出された歩行イベントに基づいて、一歩行波形分の歩行波形を抽出する。特徴量抽出部は、検出部によって抽出された歩行波形から、ユーザの属性に応じた身体状態の特徴が表れる区間において、ユーザの属性に応じた特徴量を抽出する。記憶部は、ユーザの属性に応じて抽出された特徴量の入力に応じてユーザの身体状態を出力する推測モデルを記憶する。推測部は、ユーザの属性に応じて抽出された特徴量を、記憶部に記憶された推測モデルに入力して、ユーザの身体状態を推測する。
【0084】
本実施形態の推定システムは、ユーザの足部に設置されたデータ取得装置によって計測された足の動きに基づくセンサデータを用いて、ユーザの身体状態を属性に応じて推定する。すなわち、本実施形態の推定システムは、歩行に伴って計測されるセンサデータに基づいて、属性に応じて身体状態を推定できる。
【0085】
本実施形態の一態様において、推測部は、属性に応じて抽出される特徴量の入力に応じて、属性に応じた身体状態に関する推定結果を出力する推測モデルに、ユーザの歩行波形から抽出された特徴量を入力する。推定部は、推測モデルから出力される推定結果に基づいて、ユーザの身体状態を推定する。本態様によれば、ユーザの属性に応じて歩行波形から抽出された特徴量を、属性ごとに生成された推測モデルに入力することによって、ユーザの属性が反映された身体状態を推定できる。
【0086】
本実施形態の一態様において、特徴量抽出部は、冠状面内の角度に関する歩行波形から特徴量を抽出する。推測部は、冠状面内の角度に関する歩行波形から抽出された特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する。本態様によれば、身体状態として、ユーザの属性が反映された足の回内/回外の度合を推定できる。
【0087】
本実施形態の一態様において、推測部は、複数の被験者に関するデータセットを学習させた推測モデルに、ユーザの歩行波形から抽出された特徴量を入力して、ユーザの足の回内/回外の度合を推定する。データセットは、属性に応じた身体状態の特徴が表れる区間において、冠状面内の角度に関する歩行波形から抽出された特徴量を説明変数とし、圧力センサによって計測された足圧分布から求められた足圧中心軌跡指標を目的変数とする。本態様によれば、複数の被験者に関するデータセットを学習させた推測モデルを用いて、ユーザの属性が反映された足の回内/回外の度合を推定できる。
【0088】
本実施形態の一態様において、推定部は、性別ごとの推測モデルを用いて、ユーザの回内/回外の度合を推定する。ユーザが女性の場合、特徴量抽出部は、冠状面内の角度に関する歩行波形から、踵接地の直後の期間と片脚支持の期間を含む女性特徴量抽出期間における特徴量を抽出する。そして、推測部は、複数の女性被験者に関して女性特徴量抽出期間において抽出された特徴量を学習させた女性用推測モデルに、特徴量抽出部によって抽出された特徴量を入力してユーザの回内/回外の度合を推定する。ユーザが男性の場合、特徴量抽出部は、爪先離地の直前の期間と踵接地の直前の期間を含む男性特徴量抽出期間における特徴量を抽出する。そして、推測部は、複数の男性被験者に関して男性特徴量抽出期間から抽出された特徴量を学習させた男性用推測モデルに、特徴量抽出部によって抽出された特徴量を入力してユーザの回内/回外の度合を推定する。
【0089】
本態様では、性別に応じて特有の特徴が表れる期間において、冠状面内の角度に関する歩行波形から特徴を抽出する。そして、本態様では、性別ごとの推測モデルを用いて、ユーザの身体状態を推定する。そのため、本態様によれば、ユーザの属性(性別)がより反映された足の回内/回外の度合を推定できる。
【0090】
本実施形態の一態様において、推定部は、年齢ごとの推測モデルを用いて、ユーザの回内/回外の度合を推定する。ユーザが高齢者の場合、特徴量抽出部は、冠状面内の角度に関する歩行波形から、踵接地の直後の期間と踵接地の直前の期間を含む高齢者特徴量抽出期間における特徴量を抽出する。そして、推測部は、複数の高齢者被験者に関して高齢者特徴量抽出期間において抽出された特徴量を学習させた高齢者用推測モデルに、特徴量抽出部によって抽出された特徴量を入力してユーザの回内/回外の度合を推定する。ユーザが若年者の場合、特徴量抽出部は、冠状面内の角度に関する歩行波形から、爪先離地の直前の期間と踵接地の直前の期間を含む若年者特徴量抽出期間における特徴量を抽出する。そして、推測部は、複数の若年者被験者に関して若年者特徴量抽出期間において抽出された特徴量を学習させた若年者用推測モデルに、特徴量抽出部によって抽出された特徴量を入力してユーザの回内/回外の度合を推定する。
【0091】
本態様では、年齢に応じて特有の特徴が表れる期間において、冠状面内の角度に関する歩行波形から特徴を抽出する。そして、本態様では、年齢ごとの推測モデルを用いて、ユーザの身体状態を推定する。そのため、本態様によれば、ユーザの属性(年齢)がより反映された足の回内/回外の度合を推定できる。
【0092】
本実施形態の一態様において、推測部は、推定された足圧中心軌跡指標の値に応じて、足の回内/回外、および正常のうちいずれであるのかを示す判定結果を出力する。本態様によれば、足圧中心軌跡指標の推定値に応じて、足の回内/回外、および正常のうちいずれであるのかを判定できる。
【0093】
例えば、本実施形態の検出システムは、靴のオーダーメードに適用できる。例えば、本実施形態の検出システムは、データ取得装置が設置されたゲストシューズをユーザに履かせて歩行させ、そのユーザの足の回内/回外の度合を検証する用途に適用できる。ユーザの足の回内/回外の度合の検証結果に関するデータを、靴を設計するメーカに提供すれば、ユーザの足の回内/回外の度合に応じた靴の設計が可能になる。
【0094】
例えば、本実施形態の検出システムは、ユーザの日常生活をモニターする用途にも適用できる。例えば、ユーザの歩行における足の回内/回外の進行状況に応じて、歩行の癖を抽出したり、靴を変えることを薦めたりできれば、そのユーザの足の回内/回外の進行を抑えることができる可能性がある。例えば、足の回内/回外の矯正器具をユーザが用いている場合、足の回内/回外の度合に応じた情報をそのユーザに提供することによって、症状の進行の軽減や、怪我の防止につながる可能性がある。
【0095】
例えば、本実施形態の検出システムによれば、多数のユーザの推定結果を収集し、足の回内/回外の度合に関する推定結果をデータベース化することで、足の回内/回外の度合に関する情報をビックデータとして活用できる可能性がある。例えば、多数のユーザの足の回内/回外の度合やCPEIを靴に対応付けてデータベース化すれば、靴の設計やメンテナンス等に活用できるデータを蓄積できる。
【0096】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る推定装置について図面を参照しながら説明する。本実施形態の推定装置は、第1の実施形態の推定装置を簡略化した構成である。
図25は、本実施形態の推定装置22の構成の一例を示すブロック図である。推定装置22は、特徴量抽出部225および推測部227を備える。
【0097】
特徴量抽出部225は、ユーザの足の動きに基づくセンサデータの時系列データから抽出された歩行波形から、ユーザの属性に応じた身体状態の特徴が表れる区間において、ユーザの属性に応じた特徴量を抽出する。推測部227は、ユーザの属性に応じて抽出された特徴量を用いて、ユーザの身体状態を推定する。
【0098】
本実施形態の推定装置は、本実施形態の推定システムは、ユーザの足部に設置されたデータ取得装置によって計測された足の動きに基づくセンサデータを用いて、ユーザの身体状態を属性に応じて推定する。すなわち、本実施形態の推定装置は、歩行に伴って計測されるセンサデータに基づいて、属性に応じて身体状態を推定できる。
【0099】
(ハードウェア)
ここで、本発明の各実施形態に係る推定装置の処理を実行するハードウェア構成について、
図25の情報処理装置90を一例として挙げて説明する。なお、
図25の情報処理装置90は、各実施形態の推定装置の処理を実行するための構成例であって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0100】
図25のように、情報処理装置90は、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96を備える。
図25においては、インターフェースをI/F(Interface)と略して表記する。プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96は、バス98を介して互いにデータ通信可能に接続される。また、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93および入出力インターフェース95は、通信インターフェース96を介して、インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続される。
【0101】
プロセッサ91は、補助記憶装置93等に格納されたプログラムを主記憶装置92に展開し、展開されたプログラムを実行する。本実施形態においては、情報処理装置90にインストールされたソフトウェアプログラムを用いる構成とすればよい。プロセッサ91は、本実施形態に係る推定装置による処理を実行する。
【0102】
主記憶装置92は、プログラムが展開される領域を有する。主記憶装置92は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリとすればよい。また、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)などの不揮発性メモリを主記憶装置92として構成・追加してもよい。
【0103】
補助記憶装置93は、種々のデータを記憶する。補助記憶装置93は、ハードディスクやフラッシュメモリなどのローカルディスクによって構成される。なお、種々のデータを主記憶装置92に記憶させる構成とし、補助記憶装置93を省略することも可能である。
【0104】
入出力インターフェース95は、情報処理装置90と周辺機器とを接続するためのインターフェースである。通信インターフェース96は、規格や仕様に基づいて、インターネットやイントラネットなどのネットワークを通じて、外部のシステムや装置に接続するためのインターフェースである。入出力インターフェース95および通信インターフェース96は、外部機器と接続するインターフェースとして共通化してもよい。
【0105】
情報処理装置90には、必要に応じて、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力機器を接続するように構成してもよい。それらの入力機器は、情報や設定の入力に使用される。なお、タッチパネルを入力機器として用いる場合は、表示機器の表示画面が入力機器のインターフェースを兼ねる構成とすればよい。プロセッサ91と入力機器との間のデータ通信は、入出力インターフェース95に仲介させればよい。
【0106】
また、情報処理装置90には、情報を表示するための表示機器を備え付けてもよい。表示機器を備え付ける場合、情報処理装置90には、表示機器の表示を制御するための表示制御装置(図示しない)が備えられていることが好ましい。表示機器は、入出力インターフェース95を介して情報処理装置90に接続すればよい。
【0107】
以上が、本発明の各実施形態に係る推定装置を可能とするためのハードウェア構成の一例である。なお、
図25のハードウェア構成は、各実施形態に係る推定装置の演算処理を実行するためのハードウェア構成の一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。また、各実施形態に係る推定装置に関する処理をコンピュータに実行させるプログラムも本発明の範囲に含まれる。さらに、各実施形態に係るプログラムを記録した記録媒体も本発明の範囲に含まれる。記録媒体は、例えば、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体で実現できる。また、記録媒体は、USB(Universal Serial Bus)メモリやSD(Secure Digital)カードなどの半導体記録媒体や、フレキシブルディスクなどの磁気記録媒体、その他の記録媒体によって実現してもよい。プロセッサが実行するプログラムが記録媒体に記録されている場合、その記録媒体はプログラム記録媒体に相当する。
【0108】
各実施形態の推定装置の構成要素は、任意に組み合わせることができる。また、各実施形態の推定装置の構成要素は、ソフトウェアによって実現してもよいし、回路によって実現してもよい。
【0109】
以上、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0110】
1 推定システム
11 データ取得装置
12、22 推定装置
111 加速度センサ
112 角速度センサ
113 制御部
115 データ送信部
121 検出部
123 記憶部
125、225 特徴量抽出部
127、227 推測部