(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法および半導体装置
(51)【国際特許分類】
H10D 30/01 20250101AFI20250508BHJP
H10D 84/80 20250101ALI20250508BHJP
H10D 30/66 20250101ALI20250508BHJP
H10D 12/00 20250101ALI20250508BHJP
H10D 8/50 20250101ALI20250508BHJP
H10D 64/60 20250101ALI20250508BHJP
H10D 64/23 20250101ALI20250508BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20250508BHJP
【FI】
H10D30/01 301F
H10D84/80 203D
H10D30/66 103Q
H10D12/00 103S
H10D30/66 101T
H10D8/50 F
H10D8/50 C
H10D8/50 J
H10D30/66 201A
H10D30/01 301H
H10D30/66 102S
H10D64/60
H10D64/23 M
H01L21/322 L
(21)【出願番号】P 2023559465
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2022036682
(87)【国際公開番号】W WO2023084939
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2021183645
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 尚
(72)【発明者】
【氏名】下沢 慎
(72)【発明者】
【氏名】窪内 源宜
(72)【発明者】
【氏名】内田 美佐稀
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-144232(JP,A)
【文献】特開2013-105760(JP,A)
【文献】特開2020-035692(JP,A)
【文献】特開2017-079239(JP,A)
【文献】中村浩樹、伏見公久,TiN0.4合金ターゲットにより形成したスパッタTiN膜の評価とそのコンタクトへの適用,電子情報通信学会論文誌,日本,電子情報通信学会,1995年05月25日,J78-C-II, No.5,Page.251-258
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10D 30/01
H10D 84/80
H10D 30/66
H10D 12/00
H10D 8/50
H10D 64/60
H10D 64/23
H01L 21/322
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板のおもて面側からライフタイム制御領域を形成する段階と、
前記半導体基板のおもて面上に配置された層間絶縁膜を貫通して設けられたコンタクトホールの底面にTiをイオン注入する段階と、
アニールで前記コンタクトホールの底面にTiシリサイド層を形成する段階と
を備え
、
前記コンタクトホールの側壁に、イオン注入されたTiが窒化した第1TiN層が形成され、
前記第1TiN層の厚みは、前記Tiシリサイド層の厚みの1/2未満である
半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記イオン注入する段階において、Tiのドーズ量は1E15/cm
2以上、5E17/cm
2以下である
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記イオン注入する段階において、Tiのドーズ量は1E17/cm
2以下である
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記イオン注入する段階において、Tiの注入加速電圧は1keV以上、100keV以下である
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記イオン注入する段階において、Tiの注入加速電圧は15keV以上、30keV以下である
請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1TiN層の厚みは、前記Tiシリサイド層の厚みの1/5未満である
請求項
1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記Tiシリサイド層を形成する段階の後に、前記コンタクトホールにTiNをスパッタリングし、アニールで前記第1TiN層および前記Tiシリサイド層上に第2TiN層を形成する段階をさらに備える
請求項
6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第2TiN層を形成する段階の後に、前記コンタクトホールに導電性材料を埋め込む段階をさらに備える
請求項
7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
レジストマスクを形成する段階と、
前記レジストマスクを介して、前記コンタクトホールの底面にTiをイオン注入する段階と、
前記レジストマスクを除去することで、残存するTiを除去する段階と
を備える
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記半導体装置は、トランジスタ部およびダイオード部が前記半導体基板に設けられたRC-IGBTである
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
トランジスタ部およびダイオード部を有する半導体基板と、
前記半導体基板のおもて面上に配置され、コンタクトホールが貫通して設けられた層間絶縁膜と
を備え、
前記半導体基板は、前記ダイオード部から前記トランジスタ部の少なくとも一部にわたって、前記半導体基板のおもて面から形成されたライフタイム制御領域を有し、
前記コンタクトホールの底面にTiシリサイド層が設けられ、
前記コンタクトホールの側壁には、TiN層が前記層間絶縁膜と接して設けられ
、
前記TiN層は、前記コンタクトホールの側壁に接して設けられた第1TiN層と、前記コンタクトホールの側壁において前記第1TiN層を覆って設けられた、前記第1TiN層と異なる第2TiN層とを有する
半導体装置。
【請求項12】
前記第1TiN層は、Tiイオンが窒化したTiNの層であり、前記第2TiN層は、スパッタリングされたTiNの層である
請求項11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記第2TiN層は、前記Tiシリサイド層の上面に設けられている
請求項
11に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記TiN層は、前記コンタクトホールの側壁全面を覆う
請求項
11に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記TiN層は、前記Tiシリサイド層の上面にさらに設けられている
請求項
11または
14に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記Tiシリサイド層の厚みは10nm以上、100nm以下である
請求項
11に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記Tiシリサイド層の厚みは20nm以上、30nm以下である
請求項
16に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記コンタクトホールのテーパ角は80度以上、90度未満である
請求項
11に記載の半導体装置。
【請求項19】
前記コンタクトホールは、前記半導体基板のおもて面側の第1部分と、前記第1部分上に位置し、前記第1部分とテーパ角が異なる第2部分とを有する
請求項
11に記載の半導体装置。
【請求項20】
前記層間絶縁膜は、前記第1部分に対応する第1層上に、前記第2部分に対応し、前記第1層と異なる材料の第2層が積層された積層構造である
請求項
19に記載の半導体装置。
【請求項21】
前記第1層は、HTO膜である
請求項
20に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)等のトランジスタ部と、ダイオード部とを同一基板に形成した半導体装置において、ヘリウムイオン等の粒子線を半導体基板の所定深さ位置に照射し、ライフタイムキラーを含むライフタイム制御領域を設ける技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2017-135339号公報
【解決しようとする課題】
【0003】
このような半導体装置では、トランジスタ部のダイオード部と隣接する境界部において、閾値電圧が低下するという問題がある。
【一般的開示】
【0004】
本発明の第1の態様においては、半導体装置の製造方法を提供する。半導体装置の製造方法は、半導体基板のおもて面側からライフタイム制御領域を形成する段階と、半導体基板のおもて面上に配置された層間絶縁膜を貫通して設けられたコンタクトホールの底面にTiをイオン注入する段階と、アニールでコンタクトホールの底面にTiシリサイド層を形成する段階とを備える。
【0005】
イオン注入する段階において、Tiのドーズ量は1E15/cm2以上、5E17/cm2以下であってよい。
【0006】
イオン注入する段階において、Tiのドーズ量は1E17/cm2以下であってよい。
【0007】
イオン注入する段階において、Tiの注入加速電圧は1keV以上、100keV以下であってよい。
【0008】
イオン注入する段階において、Tiの注入加速電圧は15keV以上、30keV以下であってよい。
【0009】
コンタクトホールの側壁に、イオン注入されたTiが窒化した第1TiN層が形成され、第1TiN層の厚みは、Tiシリサイド層の厚みの1/2未満であってよい。
【0010】
第1TiN層の厚みは、Tiシリサイド層の厚みの1/5未満であってよい。
【0011】
半導体装置の製造方法は、Tiシリサイド層を形成する段階の後に、コンタクトホールにTiNをスパッタリングし、アニールで第1TiN層およびTiシリサイド層上に第2TiN層を形成する段階をさらに備えてよい。
【0012】
半導体装置の製造方法は、第2TiN層を形成する段階の後に、コンタクトホールに導電性材料を埋め込む段階をさらに備えてよい。
【0013】
半導体装置の製造方法は、レジストマスクを形成する段階と、レジストマスクを介して、コンタクトホールの底面にTiをイオン注入する段階と、レジストマスクを除去することで、残存するTiを除去する段階とを備えてよい。
【0014】
半導体装置は、トランジスタ部およびダイオード部が半導体基板に設けられたRC-IGBTであってよい。
【0015】
本発明の第2の態様においては、半導体装置を提供する。半導体装置は、トランジスタ部およびダイオード部を有する半導体基板と、半導体基板のおもて面上に配置され、コンタクトホールが貫通して設けられた層間絶縁膜とを備え、半導体基板は、ダイオード部からトランジスタ部の少なくとも一部にわたって、半導体基板のおもて面から形成されたライフタイム制御領域を有し、コンタクトホールの底面にTiシリサイド層が設けられ、コンタクトホールの側壁には、TiN層が層間絶縁膜と接して設けられている。
【0016】
TiN層は、コンタクトホールの側壁全面を覆っていてよい。
【0017】
TiN層は、Tiシリサイド層の上面にさらに設けられていてよい。
【0018】
Tiシリサイド層の厚みは10nm以上、100nm以下であってよい。
【0019】
Tiシリサイド層の厚みは20nm以上、30nm以下であってよい。
【0020】
コンタクトホールのテーパ角は80度以上、90度未満であってよい。
【0021】
コンタクトホールは、半導体基板のおもて面側の第1部分と、第1部分上に位置し、第1部分とテーパ角が異なる第2部分とを有してよい。
【0022】
層間絶縁膜は、第1部分に対応する第1層上に、第2部分に対応し、第1層と異なる材料の第2層が積層された積層構造であってよい。
【0023】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例に係る半導体装置100の上面図の一例を示す。
【
図3】
図2におけるa-a'断面の一例を示す図である。
【
図4A】比較例に係る半導体装置200の拡大断面図を示す。
【
図4B】実施例に係る半導体装置100の拡大断面図の一例を示す。
【
図5A】実施例に係る半導体装置100の製造方法の一例を示す図である。
【
図5B】実施例に係る半導体装置100の製造方法の一例を示す図である。
【
図5C】実施例に係る半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。
【
図6】Tiイオンの注入加速電圧と注入深さとの関係を示す図である。
【
図7】実施例に係る半導体装置100の拡大断面図の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0026】
本明細書においては、半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」、「おもて」、「裏」の方向は重力方向、または、半導体装置の実装時における基板等への取り付け方向に限定されない。
【0027】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。本明細書では、半導体基板のおもて面と平行な面をXY面とし、半導体基板の深さ方向をZ軸とする。なお、本明細書において、Z軸方向に半導体基板を視た場合について平面視と称する。
【0028】
各実施例においては、第1導電型をN型、第2導電型をP型とした例を示しているが、第1導電型をP型、第2導電型をN型としてもよい。この場合、各実施例における基板、層、領域等の導電型は、それぞれ逆の極性となる。
【0029】
本明細書では、NまたはPを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、NやPに付す+および-は、それぞれ、それが付されていない層や領域よりも高ドーピング濃度および低ドーピング濃度であることを意味し、++は+よりも高ドーピング濃度、--は-よりも低ドーピング濃度であることを意味する。
【0030】
本明細書においてドーピング濃度とは、ドナーまたはアクセプタ化したドーパントの濃度を指す。したがって、その単位は、/cm3である。本明細書において、ドナーおよびアクセプタの濃度差(すなわちネットドーピング濃度)をドーピング濃度とする場合がある。この場合、ドーピング濃度はSR法で測定できる。また、ドナーおよびアクセプタの化学濃度をドーピング濃度としてもよい。この場合、ドーピング濃度はSIMS法で測定できる。特に限定していなければ、ドーピング濃度として、上記のいずれを用いてもよい。特に限定していなければ、ドーピング領域におけるドーピング濃度分布のピーク値を、当該ドーピング領域におけるドーピング濃度としてよい。
【0031】
また、本明細書においてドーズ量とは、イオン注入を行う際に、ウェーハに注入される単位面積あたりのイオンの個数をいう。したがって、その単位は、/cm2である。なお、半導体領域のドーズ量は、その半導体領域の深さ方向にわたってドーピング濃度を積分した積分濃度とすることができる。その積分濃度の単位は、/cm2である。したがって、ドーズ量と積分濃度とを同じものとして扱ってよい。積分濃度は、半値幅までの積分値としてもよく、他の半導体領域のスペクトルと重なる場合には、他の半導体領域の影響を除いて導出してよい。
【0032】
よって、本明細書では、ドーピング濃度の高低をドーズ量の高低として読み替えることができる。即ち、一の領域のドーピング濃度が他の領域のドーピング濃度よりも高い場合、当該一の領域のドーズ量が他の領域のドーズ量よりも高いものと理解することができる。
【0033】
図1は、実施例に係る半導体装置100の上面図の一例を示す。
図1においては、各部材を半導体基板10のおもて面に投影した位置を示している。
図1においては、半導体装置100の一部の部材だけを示しており、一部の部材は省略している。
【0034】
半導体装置100は、半導体基板10を備えている。半導体基板10は、上面視において端辺102を有する。本明細書で単に上面視と称した場合、半導体基板10のおもて面側から見ることを意味している。本例の半導体基板10は、上面視において互いに向かい合う2組の端辺102を有する。
図1においては、X軸およびY軸は、何れかの端辺102と平行である。またZ軸は、半導体基板10のおもて面と垂直である。
【0035】
半導体基板10には活性領域160が設けられている。活性領域160は、半導体装置100が動作した場合に半導体基板10のおもて面と裏面との間で、深さ方向に主電流が流れる領域である。活性領域160の上方にはエミッタ電極が設けられているが、
図1では省略している。
【0036】
活性領域160には、IGBT等のトランジスタ素子を含むトランジスタ部70と、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子を含むダイオード部80とが設けられている。例えば、半導体装置100は、逆導通IGBT(RC-IGBT:Reverse Conducting IGBT)である。なお、半導体装置100は、IGBTであっても、MOSトランジスタであってもよい。
【0037】
図1の例では、トランジスタ部70およびダイオード部80は、半導体基板10のおもて面における所定の配列方向(本例ではX軸方向)に沿って、交互に配置されている。他の例では、活性領域160には、トランジスタ部70だけが設けられていてもよい。
【0038】
図1においては、トランジスタ部70が配置される領域には記号「I」を付し、ダイオード部80が配置される領域には記号「F」を付している。本明細書では、上面視において配列方向と垂直な方向を延伸方向(
図1ではY軸方向)と称する場合がある。トランジスタ部70およびダイオード部80は、それぞれ延伸方向に長手を有してよい。つまり、トランジスタ部70のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。同様に、ダイオード部80のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。トランジスタ部70およびダイオード部80の延伸方向と、後述する各トレンチ部の長手方向とは同一であってよい。
【0039】
図1では、トランジスタ部70のY軸方向の端部は、ダイオード部80のY軸方向の端部よりも端辺102側に位置している。また、トランジスタ部70のX軸方向の幅は、ダイオード部80のX軸方向の幅よりも広くなっている。
【0040】
ダイオード部80は、半導体基板10の裏面と接する領域に、N+型のカソード領域を有する。本明細書では、カソード領域が設けられた領域を、ダイオード部80と称する。つまりダイオード部80は、上面視においてカソード領域と重なる領域である。半導体基板10の裏面には、カソード領域以外の領域には、P+型のコレクタ領域が設けられてよい。
【0041】
トランジスタ部70は、半導体基板10の裏面と接する領域に、P+型のコレクタ領域を有する。また、トランジスタ部70は、半導体基板10のおもて面側に、N型のエミッタ領域、P型のベース領域、ゲート導電部およびゲート絶縁膜を有するゲートトレンチ部が周期的に配置されている。
【0042】
半導体装置100は、半導体基板10の上方に1つ以上のパッドを有してよい。一例として、半導体装置100は、ゲートパッド、アノードパッド、カソードパッドおよび電流検出パッド等のパッドを有してもよい。各パッドは、端辺102の近傍に配置されている。端辺102の近傍とは、上面視における端辺102と、エミッタ電極との間の領域を指す。半導体装置100の実装時において、各パッドは、ワイヤ等の配線を介して外部の回路に接続されてよい。
【0043】
ゲート金属層50は、上面視において活性領域160と半導体基板10の端辺102との間に配置されている。ゲート金属層50は、ゲートトレンチ部とゲートパッドとを接続する。本例のゲート金属層50は、上面視において活性領域160を囲んでいる。上面視においてゲート金属層50に囲まれた領域を活性領域160としてもよい。
【0044】
本例の半導体装置100は、活性領域160と端辺102との間に、エッジ終端構造部162を備える。本例のエッジ終端構造部162は、ゲート金属層50と端辺102との間に配置されている。エッジ終端構造部162は、半導体基板10のおもて面側の電界集中を緩和する。エッジ終端構造部162は、複数のガードリングを有してよい。ガードリングは、半導体基板10のおもて面と接するP型の領域である。複数のガードリングを設けることで、活性領域160の上面側における空乏層を外側に伸ばすことができ、半導体装置100の耐圧を向上できる。エッジ終端構造部162は、活性領域160を囲んで環状に設けられたフィールドプレートおよびリサーフのうちの少なくとも一つをさらに備えていてもよい。
【0045】
図2は、
図1における領域Aの一例を示す拡大図である。領域Aは、上面視において、半導体装置100のY軸方向負側のエッジ側における、トランジスタ部70およびダイオード部80の境界周辺である。
【0046】
トランジスタ部70は、半導体基板10の裏面側に設けられたコレクタ領域22を半導体基板10のおもて面に投影した領域である。本例のコレクタ領域22は、一例としてP+型である。トランジスタ部70は、IGBT等のトランジスタを含む。トランジスタ部70は、トランジスタ部70とダイオード部80の境界に位置する境界部90を含む。境界部90は、トランジスタ部70内のダイオード部80と隣接するメサ部に設けられた、トランジスタとして動作しない領域である。
【0047】
ダイオード部80は、半導体基板10の裏面側に設けられたカソード領域82を半導体基板10のおもて面に投影した領域である。本例のカソード領域82は、一例としてN+型である。ダイオード部80は、半導体基板10のおもて面においてトランジスタ部70と隣接して設けられた還流ダイオード(FWD:Free Wheel Diode)等のダイオードを含む。
【0048】
半導体基板10は、シリコン基板であってよく、炭化シリコン基板であってよく、窒化ガリウム等の窒化物半導体基板等であってもよい。本例の半導体基板10は、シリコン基板である。
【0049】
本例の半導体装置100は、半導体基板10のおもて面において、ゲートトレンチ部40と、ダミートレンチ部30と、エミッタ領域12と、ベース領域14と、コンタクト領域15と、ウェル領域17とを備える。また、本例の半導体装置100は、半導体基板10のおもて面の上方に設けられたエミッタ電極52およびゲート金属層50を備える。
【0050】
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、エミッタ領域12、ベース領域14、コンタクト領域15およびウェル領域17の上方に設けられている。また、ゲート金属層50は、ゲートトレンチ部40およびウェル領域17の上方に設けられている。
【0051】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、金属を含む材料で形成される。エミッタ電極52の少なくとも一部の領域は、アルミニウム、アルミニウム-シリコン合金、またはアルミニウム-シリコン-銅合金で形成されてよい。ゲート金属層50の少なくとも一部の領域は、アルミニウム、アルミニウム‐シリコン合金、またはアルミニウム‐シリコン-銅合金で形成されてよい。エミッタ電極52およびゲート金属層50は、アルミニウム等で形成された領域の下層にチタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。エミッタ電極52およびゲート金属層50は、互いに分離して設けられる。
【0052】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、層間絶縁膜38を挟んで、半導体基板10の上方に設けられる。層間絶縁膜38は、
図2では省略されている。層間絶縁膜38には、コンタクトホール54、コンタクトホール55およびコンタクトホール56が貫通して設けられている。
【0053】
コンタクトホール55は、トランジスタ部70のゲートトレンチ部40内のゲート導電部とゲート金属層50とを接続する。コンタクトホール55の内部には、タングステン等で形成されたプラグが設けられていてもよい。
【0054】
コンタクトホール56は、トランジスタ部70およびダイオード部80に設けられるダミートレンチ部30内のダミー導電部とエミッタ電極52とを接続する。コンタクトホール56の内部には、タングステン等で形成されたプラグが設けられていてもよい。
【0055】
接続部25は、エミッタ電極52またはゲート金属層50等のおもて面側電極と、半導体基板10とを電気的に接続する。一例において、接続部25は、ゲート金属層50とゲート導電部との間の、コンタクトホール55内を含む領域に設けられる。接続部25は、エミッタ電極52とダミー導電部との間の、コンタクトホール56内を含む領域にも設けられている。接続部25は、タングステンなどの金属や不純物がドープされたポリシリコン等の、導電性を有する材料である。また接続部25は、窒化チタンなどのバリアメタルを有していてもよい。ここでは、接続部25は、N型の不純物がドープされたポリシリコン(N+)である。接続部25は、酸化膜等の絶縁膜等を介して、半導体基板10のおもて面の上方に設けられる。
【0056】
ゲートトレンチ部40は、予め定められた配列方向(本例ではX軸方向)に沿って予め定められた間隔で配列される。本例のゲートトレンチ部40は、半導体基板10のおもて面に平行であって配列方向と垂直な延伸方向(本例ではY軸方向)に沿って延伸する2つの延伸部分41と、2つの延伸部分41を接続する接続部分43を有してよい。
【0057】
接続部分43は、少なくとも一部が曲線状に形成されることが好ましい。ゲートトレンチ部40の2つの延伸部分41の端部を接続することで、延伸部分41の端部における電界集中を緩和できる。ゲートトレンチ部40の接続部分43において、ゲート金属層50がゲート導電部と接続されてよい。
【0058】
ダミートレンチ部30は、その内部に設けられるダミー導電部がエミッタ電極52と電気的に接続されたトレンチ部である。ダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同様に、予め定められた配列方向(本例ではX軸方向)に沿って予め定められた間隔で配列される。本例のダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同様に、半導体基板10のおもて面においてU字形状を有してよい。即ち、ダミートレンチ部30は、延伸方向に沿って延伸する2つの延伸部分31と、2つの延伸部分31を接続する接続部分33を有してよい。
【0059】
本例のトランジスタ部70は、1つのゲートトレンチ部40と1つのダミートレンチ部30とを繰り返し配列させた構造を有する。即ち、本例のトランジスタ部70は、1:1の比率でゲートトレンチ部40とダミートレンチ部30を有している。例えば、トランジスタ部70は、2本の延伸部分41の間に1本の延伸部分31を有する。また、トランジスタ部70は、ゲートトレンチ部40と隣接して、2本の延伸部分31を有している。
【0060】
但し、ゲートトレンチ部40とダミートレンチ部30の比率は本例に限定されない。ゲートトレンチ部40とダミートレンチ部30の比率は、2:3であってもよく、2:4であってもよい。また、トランジスタ部70においてダミートレンチ部30を設けず、全てゲートトレンチ部40としたいわゆるフルゲート構造としてもよい。
【0061】
ウェル領域17は、後述するドリフト領域18よりも半導体基板10のおもて面側に設けられる。ウェル領域17は、半導体装置100のエッジ側に設けられるウェル領域の一例である。ウェル領域17は、一例としてP+型である。ウェル領域17は、ゲート金属層50が設けられる側の活性領域の端部から、予め定められた範囲で形成される。ウェル領域17の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の、ゲート金属層50側の一部の領域は、ウェル領域17に形成される。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の延伸方向の端の底は、ウェル領域17に覆われてよい。
【0062】
コンタクトホール54は、トランジスタ部70において、エミッタ領域12およびコンタクト領域15の各領域の上方に形成される。コンタクトホール54は、ダイオード部80において、ベース領域14の上方に設けられる。いずれのコンタクトホール54も、Y軸方向両端に設けられたウェル領域17の上方には設けられていない。このように、層間絶縁膜には、1または複数のコンタクトホール54が形成されている。1または複数のコンタクトホール54は、延伸方向に延伸して設けられてよい。コンタクトホール54の内部には、後述するプラグ60が設けられている。
【0063】
境界部90は、トランジスタ部70において、ダイオード部80と隣接する領域である。つまり、境界部90は、トランジスタ部70の一部であり、トランジスタ部70の他の領域と同様の素子構造を有する。境界部90は、後述するように、半導体基板10のおもて面側からの粒子線照射により形成されたライフタイム制御領域85が設けられた領域である。
【0064】
メサ部71およびメサ部81およびメサ部91は、半導体基板10のおもて面と平行な面内において、トレンチ部に隣接して設けられたメサ部である。メサ部とは、隣り合う2つのトレンチ部に挟まれた半導体基板10の部分であって、半導体基板10のおもて面から、各トレンチ部の最も深い底部の深さまでの部分であってよい。各トレンチ部の延伸部分を1つのトレンチ部としてよい。即ち、2つの延伸部分に挟まれる領域をメサ部としてよい。
【0065】
メサ部71は、トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30またはゲートトレンチ部40の少なくとも1つに隣接して設けられる。メサ部71は、半導体基板10のおもて面において、ウェル領域17と、エミッタ領域12と、ベース領域14と、コンタクト領域15とを有する。メサ部71では、エミッタ領域12およびコンタクト領域15が延伸方向において交互に設けられている。
【0066】
メサ部81は、ダイオード部80において、隣り合うダミートレンチ部30に挟まれた領域に設けられる。本例のメサ部81は、半導体基板10のおもて面において、ベース領域14を有し、Y軸方向の負側においてウェル領域17を有する。メサ部81には、ベース領域14のおもて面にコンタクト領域15が設けられていてもよい。
【0067】
ベース領域14は、トランジスタ部70およびダイオード部80において、半導体基板10のおもて面側に設けられた領域である。ベース領域14は、一例としてP-型である。ベース領域14は、半導体基板10のおもて面において、メサ部71のY軸方向における両端部に設けられてよい。なお、
図2は、当該ベース領域14のY軸方向の負側の端部のみを示している。
【0068】
エミッタ領域12は、ドリフト領域18と同じ導電型で、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高い領域である。本例のエミッタ領域12は、一例としてN+型である。エミッタ領域12のドーパントの一例はヒ素(As)である。エミッタ領域12は、メサ部71のおもて面において、ゲートトレンチ部40と接して設けられる。エミッタ領域12は、メサ部71を挟んだ2本のトレンチ部の一方から他方まで、X軸方向に延伸して設けられてよい。エミッタ領域12は、コンタクトホール54の下方にも設けられている。
【0069】
また、エミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接してもよいし、接しなくてもよい。本例のエミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接している。エミッタ領域12は、メサ部81には設けられなくてよい。
【0070】
コンタクト領域15は、ベース領域14と同じ導電型で、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い領域である。本例のコンタクト領域15は、一例としてP+型である。本例のコンタクト領域15は、メサ部71のおもて面に設けられている。コンタクト領域15は、メサ部71を挟んだ2本のトレンチ部の一方から他方まで、X軸方向に延伸して設けられてよい。
【0071】
コンタクト領域15は、ゲートトレンチ部40と接してもよいし、接しなくてもよい。また、コンタクト領域15は、ダミートレンチ部30と接してもよいし、接しなくてもよい。本例においては、コンタクト領域15が、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40と接する。コンタクト領域15は、コンタクトホール54の下方にも設けられている。
【0072】
図3は、
図2におけるa-a'断面の一例を示す図である。a-a'断面は、トランジスタ部70において、コンタクト領域15を通過するXZ面である。本例の半導体装置100は、a-a'断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38
、コンタクト領域15およびコレクタ電極24を有する。エミッタ電極52は、半導体基板10および層間絶縁膜38の上方に形成される。
【0073】
ドリフト領域18は、半導体基板10に設けられた領域である。本例のドリフト領域18は、一例としてN-型である。ドリフト領域18は、半導体基板10において他のドーピング領域が形成されずに残存した領域であってよい。即ち、ドリフト領域18のドーピング濃度は半導体基板10のドーピング濃度であってよい。
【0074】
バッファ領域20は、ドリフト領域18の下方に設けられた領域である。本例のバッファ領域20は、ドリフト領域18と同じ導電型であり、一例としてN型である。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ベース領域14の下面側から広がる空乏層がコレクタ領域22およびカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0075】
コレクタ領域22は、トランジスタ部70においてバッファ領域20の下方に設けられる、ドリフト領域18と異なる導電型の領域である。カソード領域82は、ダイオード部80においてバッファ領域20の下方に設けられる、ドリフト領域18と同じ導電型の領域である。コレクタ領域22とカソード領域82との境界は、トランジスタ部70とダイオード部80との境界である。
【0076】
コレクタ電極24は、半導体基板10の裏面23に形成される。コレクタ電極24は、金属等の導電材料で形成される。
【0077】
ベース領域14は、メサ部71およびメサ部81においてドリフト領域18の上方に設けられる、ドリフト領域18と異なる導電型の領域である。本例のベース領域14は、一例としてP-型である。ベース領域14は、ゲートトレンチ部40に接して設けられる。ベース領域14は、ダミートレンチ部30に接して設けられてよい。
【0078】
コンタクト領域15は、ベース領域14とおもて面21との間に設けられる。他の断面において、コンタクト領域15は、メサ部71のおもて面21に設けられてよい。本例のコンタクト領域15は、メサ部81には設けられていない。コンタクト領域15は、ゲートトレンチ部40と接して設けられる。コンタクト領域15は、ダミートレンチ部30と接してもよいし、接しなくてもよい。
【0079】
蓄積領域16は、ドリフト領域18よりも半導体基板10のおもて面21側に設けられる領域である。本例の蓄積領域16はドリフト領域18と同じ導電型であり、一例としてN+型である。蓄積領域16は、トランジスタ部70およびダイオード部80に設けられる。但し、蓄積領域16が設けられなくてもよい。
【0080】
また、蓄積領域16は、ゲートトレンチ部40に接して設けられる。蓄積領域16は、ダミートレンチ部30に接してもよいし、接しなくてもよい。蓄積領域16のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。蓄積領域16のイオン注入のドーズ量は、1E12cm-2以上、1E13cm-2以下であってよい。また、蓄積領域16のイオン注入ドーズ量は、3E12cm-2以上、6E12cm-2以下であってもよい。蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、トランジスタ部70のオン電圧を低減できる。なお、Eは10のべき乗を意味し、例えば1E12cm-2は1×1012cm-2を意味する。
【0081】
1つ以上のゲートトレンチ部40および1つ以上のダミートレンチ部30は、おもて面21に設けられる。各トレンチ部は、おもて面21からドリフト領域18まで設けられる。エミッタ領域12、ベース領域14、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられる領域においては、各トレンチ部はこれらの領域も貫通して、ドリフト領域18に到達する。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0082】
ゲートトレンチ部40は、おもて面21に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられる。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に設けられる。ゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ゲートトレンチ部40は、おもて面21において層間絶縁膜38により覆われる。
【0083】
ゲート導電部44は、半導体基板10の深さ方向において、ゲート絶縁膜42を挟んでメサ部71側で隣接するベース領域14と対向する領域を含む。ゲート導電部44に所定の電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチに接する界面の表層に、電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0084】
ダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、おもて面21側に形成されたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられる。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に設けられ、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に設けられる。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミートレンチ部30は、おもて面21において層間絶縁膜38により覆われる。
【0085】
層間絶縁膜38は、おもて面21に設けられている。層間絶縁膜38の上方には、エミッタ電極52が設けられている。層間絶縁膜38には、エミッタ電極52と半導体基板10とを電気的に接続するための1または複数のコンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール55およびコンタクトホール56も同様に、層間絶縁膜38を貫通して設けられてよい。
【0086】
ドリフト領域18において、ライフタイムキラーを含むライフタイム制御領域85が局所的に設けられている。ライフタイムキラーは、例えば、ヘリウムイオン、水素イオン(プロトン)、重水素イオン等を注入することで、半導体基板10の所定の深さ位置に形成される結晶欠陥である。ライフタイム制御領域85は、ダイオード部80のターンオフ時にベース領域14で発生する正孔とカソード領域82から注入される電子との再結合を促進し、逆回復時のピーク電流を抑制する。
【0087】
本例のライフタイム制御領域85は、マスクを用いて、半導体基板10のおもて面21からプロトン又はヘリウムを照射することにより形成される。一例として、プロトン又はヘリウムは、ライフタイム制御領域85を形成しない領域をマスクで遮蔽した状態で、マスクの開口部を通して照射される。プロトン又はヘリウムは、マスクで遮蔽された領域には照射されない。あるいは、ライフタイム制御領域85は、マスクを用いずに、半導体基板10のおもて面21からプロトン又はヘリウムを全面に照射することにより形成されてもよい。
【0088】
図3において、ライフタイムキラーの濃度分布のZ軸方向におけるピーク位置が「×」の記号で示される。ライフタイム制御領域85は、Z軸方向にライフタイムキラーの濃度分布のピークを複数持つように設けられていてもよい。
【0089】
本例のライフタイム制御領域85は、ダイオード部80からトランジスタ部70の少なくとも一部にわたって連続的に設けられている。トランジスタ部70において、ライフタイム制御領域85が設けられた領域が境界部90に相当する。ダイオード部の導通時には、ダイオード部80のベース領域14のみならず、トランジスタ部70のベース領域14からカソード領域82に向かう正孔電流が発生する。トランジスタ部70において、ライフタイム制御領域85が境界部90に設けられていることにより、キャリア消滅を促進し、ターンオフ時の逆回復損失を低減する。
【0090】
ただし、境界部90のゲートトレンチ部40では、ヘリウム又はプロトンが半導体基板10のおもて面21から照射された際にゲート絶縁膜42にダメージが入り、界面準位が変化する。照射されたゲート絶縁膜42にゲート電圧が印加されると、照射されていないゲート絶縁膜42よりも、隣接するベース領域14に反転層が形成されやすい。そのため、境界部90では、トランジスタ部70の境界部90以外の領域と比べて閾値電圧が低下する。
【0091】
図4Aは、比較例に係る半導体装置200の拡大断面図を示す。ここでは主に、メサ部の上方に設けられたコンタクトホールについて説明する。ここで説明するコンタクトホール254は
図2~
図3で説明した半導体装置100のコンタクトホール54に対応しており、半導体装置200は、コンタクトホール254の構造を除いて半導体装置100と同様の構造を有する。そのため
図4Aでは、半導体装置100と共通する要素には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0092】
なお、
図4Aは、一例として、ゲートトレンチ部40とダミートレンチ部30との間のメサ部71の上方に設けられたコンタクトホール254を示しているが、他のコンタクトホール254も同様の構造を有する。また、
図4Aは、コンタクト領域15を通るXZ断面におけるコンタクトホール254の構造を示しているが、エミッタ領域12等を通るXZ断面においても同様の構造であってよい。
【0093】
コンタクトホール254は、底面57および側壁58を有する。コンタクトホール254は、側壁58が傾斜したテーパ形状を有する。但し、コンタクトホール254の側壁58は、半導体基板10のおもて面21に対して、略垂直に設けられていてもよい。底面57は、
図4Aに示すように半導体基板10のおもて面21上の平坦な面であってもよく、中心に向かって凹状に窪んでいてもよい。
【0094】
コンタクトホール254の底面57および側壁58はTi層68で覆われ、Ti層68上には積層されたTiN層62が設けられている。Ti層68およびTiN層62は、バリアメタルとして機能する。Ti層68およびTiN層62は、コンタクトホール254の内部にスパッタリングされたTi/TiNから形成される。
【0095】
コンタクトホール254の内部には、Ti層68およびTiN層62を介して、導電性材料のプラグ60が設けられている。一例として、プラグ60は、WF6ガス等を用いたCVD法で形成されるタングステン膜である。
【0096】
半導体基板10は、コンタクトホール254の底面57に接するTiシリサイド層65を有する。つまり、Ti層68は、側壁58において層間絶縁膜38と接し、底面57においてTiシリサイド層65と接する。Tiシリサイド層65は、コンタクトホール254の内部にスパッタリングされたTiが半導体基板10のシリコンと結合して形成される。Tiシリサイド層65は、バリアメタルと半導体基板10とのオーミックコンタクトを形成する。
【0097】
上述したように、半導体装置200は、ライフタイム制御領域85を有する。ライフタイム制御領域85は半導体基板10のおもて面21側からの粒子線照射により形成されるので、境界部90では、ゲート絶縁膜42がダメージを受けることにより閾値電圧が低下する。
【0098】
このようなゲート絶縁膜42のダメージは、水素アニールによりダングリングボンドを終端し回復することができる。しかしながら、Tiの水素吸蔵能力により、層間絶縁膜38を通る水素の多くはTi層68に吸蔵される。その結果、ゲート絶縁膜42のダメージ回復が阻害されてしまう。
【0099】
図4Bは、実施例に係る半導体装置100の拡大断面図の一例を示す。ここでは、
図4Aと同様に、メサ部71の上方に設けられたコンタクトホール54について説明するので、
図4Aと共通する要素には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0100】
本例のコンタクトホール54は、側壁58が傾斜したテーパ形状を有する。コンタクトホール54のテーパ角αは、80度以上、90度未満である。ここで、テーパ角αは、側壁58と半導体基板10のおもて面21とがなす角をいう。テーパ角αをこのような範囲にすることにより、側壁58におけるTi層の形成を抑制する。
【0101】
コンタクトホール54の側壁58は第1TiN層64で覆われ、第1TiN層64上
には第2TiN層66が
積層されている。第1TiN層64および第2TiN層66は、単独でまたは集合的に、
図4Aに示すようなTiN層62を構成し、バリアメタルとして機能する。
【0102】
第1TiN層64は、コンタクトホール54の側壁58の全面を覆い、側壁58において層間絶縁膜38と接する。一方で、第1TiN層64は、コンタクトホール54の底面57には設けられていない。コンタクトホール54の底面57には、第2TiN層66が設けられている。つまり、第2TiN層66は、コンタクトホール54の側壁58において第1TiN層64を覆い、コンタクトホール54の底面57において、半導体基板10のTiシリサイド層65の上面に設けられる。
【0103】
第1TiN層64は、コンタクトホール54の底面57に注入されたTiイオンのうち、側壁58に堆積したTiイオンが窒化して形成される。一方で、コンタクトホール54の底面57に堆積したTiイオンは、半導体基板10のシリコンと結合してTiシリサイド層65を形成する。第2TiN層66は、第1TiN層64およびTiシリサイド層65が形成された後、コンタクトホール54の内部にスパッタリングされたTiNから形成される。
【0104】
Tiシリサイド層65の厚みは10nm以上、100nm以下であってよく、20nm以上、30nm以下であってよい。このような範囲でTiシリサイド層65を設けることにより、コンタクトを形成しつつ、生産効率を維持することができる。第1TiN層64の厚みは、Tiシリサイド層65の厚みの1/2未満であってよく、1/5未満であってよい。
【0105】
図5A~
図5Bは、実施例に係る半導体装置100の製造方法の一例を示す図である。ここでは、おもて面21に素子構造が形成され、層間絶縁膜38が設けられた半導体基板10に、コンタクトホール54、第1TiN層64、Tiシリサイド層65、第2TiN層66およびプラグ60を順に形成するプロセスを説明する。
【0106】
ステップS102において、層間絶縁膜38上にレジストマスク95を形成する。次に、ステップS104において、レジストマスク95を介して、層間絶縁膜38を上面から半導体基板10のおもて面21までエッチングすることにより、コンタクトホール54を形成する。ここで、コンタクトホール54のテーパ角αが80度以上、90度未満となるようにエッチングされる。このような範囲のテーパ角αでコンタクトホール54を形成することにより、後続のイオン注入プロセスにおいて、Tiイオンが側壁58に堆積することを抑制する。コンタクトホール54の形成後、コンタクトホール54の底面57および側壁58は、表面に形成された自然酸化膜を除去するために、BHF水溶液でウェットエッチングされてよい。
【0107】
ステップS106において、レジストマスク95を介して、コンタクトホール54の底面にTiをイオン注入する。ここで、Tiイオンのドーズ量は1E15/cm2以上、5E17/cm2以下であってよく、1E17/cm2以下であってよい。Tiイオンのドーズ量は、Tiシリサイド層65の厚みを決定するパラメータの一つである。このようなドーズ量でTiイオンを注入することにより、後続のプロセスにおいて、コンタクトを形成するために十分な厚みを有するTiシリサイド層65を形成しつつ、シリサイド化されない余剰のTiがコンタクトホール54の底面57または側壁58に残存することを防止する。
【0108】
Tiイオンの注入加速電圧は1keV以上、100keV以下であってよく、15keV以上、30keV以下であってよい。Tiイオンの注入加速電圧も、Tiシリサイド層65の厚みを決定するパラメータの一つである。このような注入加速電圧でTiイオンを注入することにより、十分な厚みを有するTiシリサイド層65を形成しつつ、Tiシリサイド層65が半導体基板10のおもて面21よりも深い位置に形成され、半導体基板10のシリコンがコンタクトホール54の底面57に接することを防止する。
【0109】
また、イオン注入はスパッタリングと比較して指向性を保ちやすいので、Tiをコンタクトホール54の底面57に選択的に堆積させ、側壁58への堆積を抑制することができる。さらに、スパッタリングはレジストの耐熱温度より高温での処理のためレジストマスクを使用することができないが、イオン注入ではレジストマスクを使用することができる。
【0110】
Tiのイオン注入後、レジストマスク95を除去する。このとき、レジストマスク95上に残存する不要なTiおよびその化合物等を、レジストマスク95と一緒に除去することができる。
【0111】
ステップS108において、アニールでコンタクトホール54の底面57にTiシリサイド層65を形成する。アニールは、RTA(Rapid Thermal Anneal)であってよい。Tiシリサイド層65の厚みは10nm以上、100nm以下であってよく、20nm以上、30nm以下であってよい。このような範囲でTiシリサイド層65を設けることにより、コンタクトを形成しつつ、生産効率を維持することができる。
【0112】
また、前のステップS106でイオン注入されたTiは、僅かにコンタクトホール54の側壁58にも堆積する。ステップS108において、コンタクトホール54の側壁58に堆積したTiイオンがアニールにより窒化し、第1TiN層64が形成される。つまり、コンタクトホール54の底面57に堆積したTiイオンはシリコンと結合してTiシリサイド層65を形成し、側壁58に堆積したTiイオンは窒素と結合して第1TiN層64を形成するので、Ti層が形成されない。第1TiN層64の厚みは、Tiシリサイド層65の厚みの1/2未満であってよく、1/5未満であってよい。
【0113】
ステップS110において、コンタクトホール54にTiNをスパッタリングする。次に、ステップS112において、アニールで第1TiN層64およびTiシリサイド層65上に第2TiN層66を形成する。この後、ステップS114において、コンタクトホール54に導電性材料を埋め込み、プラグ60を形成する。一例として、第2TiN層66上にタングステンをCVD成長させることによって、プラグ60が形成される。この後、層間絶縁膜38上にエミッタ電極52が形成される。
【0114】
この後、ステップS116において、半導体基板10のおもて面21側からライフタイム制御領域85を形成する。ここで、プロトンまたはヘリウムがエミッタ電極52の上方から照射される。プロトンまたはヘリウムは、ライフタイム制御領域85を形成しない領域(トランジスタ部70の境界部90以外の領域)をマスクで遮蔽した状態で、マスクの開口部を通して照射されてよい。あるいは、マスクを用いずに、半導体基板10の全面にプロトンまたはヘリウムを照射してライフタイム制御領域85を形成してもよい。
【0115】
図5Cは、実施例に係る半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。ここでは、
図5Aに示す製造方法との相違点を中心に説明する。本例では、ステップS104においてコンタクトホール54を形成した後、レジストマスク95が除去される。次に、ステップS107において、半導体基板10のおもて面21側から全面にTiがイオン注入される。
【0116】
つまり、本例では、レジストマスク95を介さずにTiがイオン注入されるので、コンタクトホール54の底面57および側壁58だけでなく、層間絶縁膜38上にもTiが堆積する。層間絶縁膜38上に堆積したTiは、エッチングにより除去されてよい。
【0117】
Tiイオンのドーズ量は、
図5AのステップS106に関して説明したとおりであってよい。次に、ステップS108が行われるが、これ以降の工程は
図5A~
図5Bと共通するので、説明を省略する。
【0118】
図6は、Tiイオンの注入加速電圧と注入深さとの関係を示す図である。
図6は、Tiイオンの注入加速電圧(keV)を横軸、注入深さ(nm)を縦軸とするグラフを示す。ここで、Tiイオンの注入深さは、注入されたTiイオンのピーク深さをいう。
【0119】
一例として、Tiイオンの注入加速電圧を15keV~30keVにすれば、注入深さが20nm~30nmとなり、厚み20nm~30nmのTiシリサイド層65が得られる。また、Tiイオンの注入加速電圧を1keV~50keVにすれば、注入深さが10nm~50nmとなり、厚み10nm~50nmのTiシリサイド層65が得られる。
【0120】
図7は、実施例に係る半導体装置100の拡大断面図の一例を示す。
図7に示すように、コンタクトホール54は、半導体基板10のおもて面21側の第1部分54-1と、第1部分54-1上に位置し、第1部分54-1とテーパ角が異なる第2部分54-2とを有してよい。層間絶縁膜38は、第1部分54-1に対応する第1層38-1上に、第2部分54-2に対応し、第1層38-1と異なる材料の第2層38-2が積層された積層構造であってよい。本例では、第1層38-1はHTO膜であり、第2層38-2はBPSG膜である。
【0121】
本例では、第1部分54-1のテーパ角α1は第2部分54-2のテーパ角α2より大きい。コンタクトホール54の底面57および側壁58は、バリアメタル形成プロセスの前にBHF水溶液でウェットエッチングされるが、第2層38-2のBHF水溶液に対するエッチングレートは第1層38-1より大きい。そこで本例のコンタクトホール54は、層間絶縁膜38の第1層38-1および第2層38-2に対応して、第2部分54-2の深さ方向断面が第1部分54-1の深さ方向断面よりも大きい階段状の構造を有する。
【0122】
このように、本例によれば、Tiがコンタクトホール54の底面57にイオン注入される。イオン注入はスパッタリングと比較して指向性を保ちやすいので、コンタクトホール54の底面57にTiを選択的に堆積させることができ、側壁58にTiが堆積することを抑制することができる。そのため、水素がコンタクトホール54のTi層で吸蔵されることなく、境界部90のゲート絶縁膜42のダメージを回復し、閾値電圧の低下を防止することができる。
【0123】
また、このように閾値電圧の低下が防止されるので、プロトンまたはヘリウムを半導体基板10のおもて面21から照射することによりライフタイム制御領域85を形成することができる。そのため、プロトンまたはヘリウムを半導体基板10の裏面23から照射する場合と比較して注入深さが小さくてよいので、ライフタイムキラーの製造装置を小型化することができる。
【0124】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0125】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0126】
10・・・半導体基板、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクト領域、16・・・蓄積領域、17・・・ウェル領域、18・・・ドリフト領域、21・・・おもて面、22・・・コレクタ領域、23・・・裏面、24・・・コレクタ電極、25・・・接続部、30・・・ダミートレンチ部、31・・・延伸部分、32・・・ダミー絶縁膜、33・・・接続部分、34・・・ダミー導電部、38・・・層間絶縁膜、40・・・ゲートトレンチ部、41・・・延伸部分、42・・・ゲート絶縁膜、43・・・接続部分、44・・・ゲート導電部、50・・・ゲート金属層、52・・・エミッタ電極、54・・・コンタクトホール、55・・・コンタクトホール、56・・・コンタクトホール、57・・・底面、58・・・側壁、60・・・プラグ、62・・・TiN層、64・・・第1TiN層、65・・・Tiシリサイド層、66・・・第2TiN層、68・・・Ti層、70・・・トランジスタ部、71・・・メサ部、80・・・ダイオード部、81・・・メサ部、82・・・カソード領域、85・・・ライフタイム制御領域、90・・・境界部、91・・・メサ部、95・・・レジストマスク、100・・・半導体装置、102・・・端辺、160・・・活性領域、162・・・エッジ終端構造部、200・・・半導体装置、254・・・コンタクトホール