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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】熱間圧延機の板厚制御装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/00 20060101AFI20250508BHJP
   B21B 1/26 20060101ALI20250508BHJP
【FI】
B21B37/00 221Z
B21B1/26 E
B21B37/00 261C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024542469
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2022031680
(87)【国際公開番号】W WO2024042601
(87)【国際公開日】2024-02-29
【審査請求日】2024-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 稔
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-42058(JP,A)
【文献】特開2016-107297(JP,A)
【文献】特開2009-6373(JP,A)
【文献】特開平11-342409(JP,A)
【文献】特開平8-215730(JP,A)
【文献】特開平8-187504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00
B21B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧延スタンドが並設され、加熱された被圧延材を前記複数の圧延スタンドで順次圧延する熱間圧延機の板厚制御装置において、
並設方向で最終の前記圧延スタンドの出側に設置され、被圧延材の板厚を計測する板厚計と、
被圧延材の製品目標板厚よりも大きく、被圧延材の先端部を安定して通板可能な通板可能板厚に対応する各圧延スタンドのロール間のギャップを計算するギャップ計算部と、
前記ギャップ計算部により計算されたギャップを各圧延スタンドに設定するギャップ設定部と、
前記板厚計の板厚計測値と前記通板可能板厚との板厚偏差を最小にする自動板厚制御を実行する自動板厚制御部と、
前記最終の圧延スタンドに被圧延材の先端部が通板された後に、前記板厚偏差に板厚バイアスを所定のランプレートで付加することで、前記通板可能板厚を前記製品目標板厚に変更する目標板厚変更部を備える熱間圧延機の板厚制御装置。
【請求項2】
前記目標板厚変更部は、前記並設方向で最初の前記圧延スタンドに被圧延材の尾端部が通板される前に、前記板厚偏差に所定のランプレートで板厚バイアスを付加することで、前記製品目標板厚を前記通板可能板厚に変更するように構成された請求項1記載の熱間圧延機の板厚制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の圧延スタンドが並設され、加熱された鋼板等の被圧延材をこれら複数の圧延スタンドで順次圧延する熱間圧延機の板厚制御装置に関し、特に、仕上圧延機出側での板厚が1.0mm以下である極薄の熱延鋼帯の製造に適したものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱延鋼帯は、被圧延材であるスラブを加熱炉にて所定温度に加熱し、加熱されたスラブを粗圧延機で約30mm程度の厚さに粗圧延して粗バーとし、得られた粗バーを、例えば七基の圧延スタンドが並設される仕上圧延機で圧延して所定厚さの熱延鋼帯とし、この熱延鋼帯を、ランアウトテーブル上において冷却した後、巻取機であるコイラーで巻取ることにより製造される。
【0003】
熱延鋼帯の先端部の仕上げ温度の低下は、熱延鋼帯の板厚が薄いほど大きくなる。このため、薄い熱延鋼帯ほど、その先端部の仕上げ温度を確保することが困難になり、更に圧延速度が高速であるため、先端部の通板が困難となる問題があった。この問題を解決するため、従来の方法では、複数の粗バーを相互に接続し、接続したものを仕上圧延機に高速で通板させ、仕上げ圧延を連続化している。しかし、この方法では、溶接装置のような接合装置を設置しなければならず、設備コストが上昇する。
【0004】
下記特許文献1に開示されている方法では、板プロフィル、板形状、板幅、板厚等の寸法精度を向上させるために、粗バーの厚さを20mm未満とし、粗圧延機と仕上圧延機との間にコイルボックスやオンライン加熱装置を設置することによって、粗バーの温度低下を補償している。しかし、特許文献1の方法は、製品寸法の高精度化を主眼とするものであり、鋼帯先端部の仕上げ温度の確保、特に、仕上圧延機入側の温度や、特にスケール性表面疵などの製品表面性状に対する対策に関しては、何ら検討がなされていない。また、粗バーの厚さを20mm未満にすると、粗圧延工程における温度低下が著しく大きくなり、この温度低下を補償するために、前述した如く極めて高出力のオンライン加熱装置を設置する必要があり、設備コストが上昇する。
【0005】
また、粗バーの厚さを厚くする方法は、製品板厚が厚い場合には、仕上げ温度を確保でき有効である一方で、製品板厚が薄い場合には、仕上圧延機の荷重や動力等の圧延スケジュールの制約から実現が困難である。
【0006】
また、下記特許文献2に開示されている方法では、粗バーの厚さを20~30mmの範囲内とし、この粗バーを仕上圧延機の入側に設けられたオンライン加熱装置で、粗バーの仕上入側温度が1000~1150℃の範囲内になるように加熱し、この温度に加熱された粗バーを仕上圧延している。しかし、特許文献2の方法でも、オンライン加熱装置を設置する必要があり、設備コストが上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本特開平2-165802号公報
【文献】日本特開平9-300004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、被圧延材の先端部の温度低下による形状悪化、且つ、被圧延材が高速で圧延されるため、先端部の上下反りや蛇行などにより、被圧延材の先端部の通板は難しい。先端部の温度低下を抑制するため、上記先行技術では粗圧延機出側の板厚を大きくする圧延スケジュール、仕上圧延機入側に被圧延材温度を下げないための加熱装置の設置等が提案されているが、設備コスト、圧延スケジュールなどの制限がある。
【0009】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、被圧延材を極薄に圧延する場合でも、設備コストを上昇させることなく、被圧延材の先端部を確実に通板させることが可能な熱間圧延機の板厚制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の観点は、複数の圧延スタンドが並設され、加熱された被圧延材を複数の圧延スタンドで順次圧延する熱間圧延機の板厚制御装置に関連する。板厚制御装置は、並設方向で最終の圧延スタンドの出側に設置され、被圧延材の板厚を計測する板厚計と、被圧延材の製品目標板厚よりも大きく、被圧延材の先端部を安定して通板可能な通板可能板厚に対応する各圧延スタンドのロール間のギャップを計算するギャップ計算部と、ギャップ計算部により計算されたギャップを各圧延スタンドに設定するギャップ設定部と、板厚計の板厚計測値と通板可能板厚との板厚偏差を最小にする自動板厚制御を実行する自動板厚制御部と、最終の圧延スタンドに被圧延材の先端部が通板された後に、板厚偏差に板厚バイアスを所定のランプレートで付加することで、通板可能板厚を製品目標板厚に変更する目標板厚変更部を備える。
【0011】
第2の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する。目標板厚変更部は、並設方向で最初の圧延スタンドに被圧延材の尾端部が通板される前に、板厚偏差に所定のランプレートで板厚バイアスを付加することで、製品目標板厚を通板可能板厚に変更するように構成される。
【発明の効果】
【0012】
第1の観点によれば、被圧延材を極薄に圧延する場合でも、通板可能板厚に対応するギャップに設定することで、熱間圧延機に被圧延材の先端部を確実に通板させることができる。このため、先行技術の如く熱間圧延機入側に加熱装置を設置する必要がなく、設備コストの上昇を防ぐことができる。さらに、最終の圧延スタンドに被圧延材の先端部が通板された後に、板厚計測値と通板可能板厚との板厚偏差に板厚バイアスを付加し、板厚バイアスが付加された板厚偏差で自動板厚制御を実行することで、被圧延材の先端部より後の部分が極薄の製品目標板厚で圧延される。しかも、板厚偏差に対して板厚バイアスが徐々に付加されるため、通板可能板厚から製品目標板厚への変更が徐々に行われる。これにより、被圧延材を安定して極薄に圧延することができる。
【0013】
第2の観点によれば、被圧延材の尾端部の圧延に先立ち、製品目標板厚から通板可能板厚に変更される。即ち、被圧延材の尾端部に対して、板厚計測値と通板可能板厚の板厚偏差で自動板厚制御が実行される。これにより、被圧延材の尾端蛇行や尾端絞りの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態による熱間圧延機の板厚制御装置を備える圧延プラントの構成を説明するための図である。
図2】板厚制御装置の要部の構成を説明するためのブロック図である。
図3】圧延プラントが備えるプロセス計算機のハードウェア構成の一例を示す図である。
図4】板厚制御装置を用いた板厚制御の流れを説明するためのタイミングチャートである。
図5】板厚制御装置を用いた板厚制御の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、実施の形態による熱間圧延機の板厚制御装置を備える圧延プラント1の構成を示す模式図である。圧延プラント1は、鉄鋼又はその他の金属材を被圧延材Mとし、被圧延材Mを熱間で板状に圧延するものである。
【0017】
圧延プラント1には、加熱炉2と、粗圧延機3と、クロップシャー4と、熱間圧延機としての仕上圧延機5と、冷却装置6と、巻取機7が設置されている。本実施の形態では、熱間圧延機としての仕上圧延機5の出側の板厚を極薄(例えば1.0mm以下)の製品目標板厚に制御する場合を例に説明する。
【0018】
加熱炉2は、被圧延材Mとしてのスラブを所定温度に加熱するように構成されている。粗圧延機3は、少なくとも一基の圧延スタンドを有し、加熱炉2で加熱された被圧延材Mを圧延するように構成されている。
【0019】
クロップシャー4は、後述する形状検出器81で測定された形状に基づいて、上下の刃により被圧延材Mの尾端部に存する形状不良部分を切断するように構成されている。
【0020】
仕上圧延機5は、被圧延材Mの搬送方向に並設される複数の圧延スタンドFi(1≦i≦N)を備えるタンデム圧延機である。本実施の形態では、七基の圧延スタンドF1~F7が並設される場合を例に説明する。各圧延スタンドF1~F7は、上下2本のワークロール51と、上下2本のバックアップロール52と、ロール回転用の電動機53を備える。バックアップロール52には圧下装置54が設けられ、圧下装置54により上下のワークロール51間のギャップを調整可能に構成されている。
【0021】
冷却装置6は、冷却バンクにより被圧延材Mに注水することで、被圧延材Mを冷却可能に構成されている。冷却された被圧延材Mは巻取機7で巻き取られる。これにより、コイル状製品が得られる。
【0022】
圧延プラント1の要所には計測器としての各種センサが設置されている。圧延プラント1の要所とは、例えば、加熱炉2の出側、粗圧延機3の出側、仕上圧延機5の出側、及び巻取機7の入側などである。各種センサは、仕上圧延機5の圧延スタンドF1~F7の間にも設けられ得る。各種センサは、粗圧延機3出側で被圧延材Mの形状を測定可能な形状検出器81と、仕上圧延機5の入側で被圧延材Mの表面温度を計測する温度計82と、仕上圧延機5の出側で被圧延材Mの表面温度を計測する温度計83と、仕上圧延機5の出側で被圧延材Mの板厚Taを計測する板厚計84と、各圧延スタンドF1~F5での圧延荷重を計測する圧延荷重センサ85とを含む。各種センサは、被圧延材Mと各機器の状態とを逐次的に計測している。
【0023】
圧延プラント1は、計算機を用いた制御システムにより運転(操業)されている。計算機は、ネットワークを介して互いに接続された上位計算機10とプロセス計算機11とを含む。プロセス計算機11には、ネットワークを介して、操作画面であるインターフェース画面12及びデータベース13が接続されている。データベース13には、過去の圧延データが逐次格納されるようになっている。過去の圧延データには、各圧延スタンドF1~F7のロー間ギャップ(以下「ギャップ」と略す場合もある。)の実績値が含まれる。ギャップの実績値は、鋼種、製品目標板厚Ttごとに区分けされる。また、データベース3には、先端部の通板トラブルを生じることなく、即ち、被圧延材Mの先端部が安定して通板されたギャップの実績値が、そのときの板厚(後述する「通板可能板厚」に相当する)に対応させて格納されている。
【0024】
本実施の形態の板厚制御装置20は、製品目標板厚Ttだけでなく、被圧延材Mの先端部を安定して通板可能な通板可能板厚Tsも用いて、被圧延材Mの板厚を制御するように構成されている。図2は、板制御装置20の要部の構成を説明するためのブロック図である。
【0025】
板厚制御装置20は、上記板厚計84と、ギャップ計算部21と、ギャップ設定部22と、板厚偏差算出部23と、自動板厚制御部24と、目標板厚変更部25を備える。
【0026】
ギャップ計算部21は、上位計算機11から製品目標板厚Ttが入力されると、製品目標板厚Ttよりも大きく、被圧延材Mの先端部を安定して通板可能な通板可能板厚Tsに対応する各圧延スタンドF1~F7のワークロール51間のギャップを計算するように構成されている。例えば、ギャップ計算部21は、データベース3に製品目標板厚Ttに対応付けて格納される通板可能板厚Tsを取得し、取得した通板可能板厚Tsを実現するための各圧延スタンドF1~F7のギャップを夫々算出するように構成されている。尚、各圧延スタンドF1~F7のギャップは、並設方向で最初の圧延スタンドF1から最終の圧延スタンドF7の順に小さくなるように算出される。
【0027】
ギャップ設定部22は、ギャップ計算部21により計算されたギャップに応じて各圧延スタンドF1~F7の圧下装置54を夫々制御することで、ギャップを各圧延スタンドF1~F7に設定するように構成されている。
【0028】
板厚偏差算出部23は、板厚計84で計測された板厚計測値(実板厚)Taから通板可能板厚Tsを減算することで、板厚偏差FBK1(=Ta-Ts)を算出する。自動板厚制御部24は、板厚偏差算出部23で算出された板厚偏差FBK1が最小になるように、または、板厚偏差FBK1に後述する板厚バイアスTbが付加(加算)された板厚偏差FBK2が最小になるように、各圧延スタンドF1~F7の圧下装置54を夫々制御するように構成される。自動板厚制御部24による制御は、AGC(Auto Gain Control)制御に相当する。また、板厚偏差FBK1,FBK2が最小になるとは、板厚偏差FBK1,FBK2が例えばゼロに収束することを意味する。
【0029】
目標板厚変更部25は、ランプ(Ramp)251と、タイマー252と、タイマー252によるトリガーによりランプ251に入力されるバイアス量253と、ランプ251に入力されるランプレート254を有する。バイアス量253、すなわち、通板可能板厚Tsと製品目標板厚Ttの差は、被圧延材Mの鋼種に応じて設定することができ、例えば、300μmとすることができる。目標板厚変更部25は、板厚偏差FBK1に付加される板厚バイアスTbを所定のランプレートで出力(変更)することができる。板厚バイアスTbを付加することで得られる板厚偏差FBK2はプラスであり、自動板厚制御部24は板厚偏差FBK2をゼロに収束させるようにAGC制御を行うため、各圧延スタンドF1~F7のギャップが締め方向に徐々に変更される。
【0030】
ここで、タイマー252は、最終の圧延スタンドF7に被圧延材Mの先端部が通板した時刻(F7_In)から所定の時間TD1が経過した後、トリガー信号をSETにする。これにより、目標板厚変更部25から出力される板厚バイアスTbが所定のランプレートで徐々に大きくなる。この板厚バイアスTbが付加される板厚偏差FBK2でAGC制御が行われることで、各圧延スタンドF1~F7のギャップが締め方向に徐々に変更される。その結果、被圧延材Mの先端部より後の板厚が、通板可能板厚Tsから製品目標板厚Ttに徐々に変更される。
【0031】
また、タイマー252は、クロップシャー4による被圧延材Mの尾端部が切断された後、トリガー信号をRESETにする。これにより、目標板厚変更部25から出力される板厚バイアスTbが所定のランプレートで徐々に小さくなる。この板厚バイアスTbが付加される板厚偏差FBK2でAGC制御が行われることで、各圧延スタンドF1~F7のギャップが緩め方向に徐々に変更される。その結果、被圧延材Mの尾端部の板厚が、製品目標板厚Ttから通板可能板厚Tsに徐々に変更される。
【0032】
制御装置20の具体的構造に限定はないが、一例として次のようなものであってもよい。図3は、板制御装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。板制御装置20の機能は、図3に示す処理回路により実現することができる。この処理回路は、専用ハードウェア20aであってもよい。この処理回路は、プロセッサ20b及びメモリ20cを備えていてもよい。この処理回路は、一部が専用ハードウェア20aとして形成され、更にプロセッサ20b及びメモリ20cを備えていてもよい。図3の例は、処理回路の一部が専用ハードウェア20aとして形成されるとともに、処理回路がプロセッサ20b及びメモリ20cをも備えている。
【0033】
処理回路の少なくとも一部が、少なくとも1つの専用ハードウェア20aであってもよい。この場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらを組み合わせたものが該当する。
【0034】
処理回路が、少なくとも1つのプロセッサ20b及び少なくとも1つのメモリ20cを備えてもよい。この場合、プロセス計算機11の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ20cに格納される。プロセッサ20bは、メモリ20cに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。
【0035】
プロセッサ20bは、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPとも呼ばれる。メモリ20cは、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリー、EPROM、EEPROM等の、不揮発性又は揮発性の半導体メモリ等が該当する。なお、メモリ20cがデータベース13を兼用するように構成することもできる。
【0036】
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって、板制御装置20の各機能を実現することができる。
【0037】
上記圧延プラント1において、被圧延材Mは、加熱炉2で昇温された後、圧延ラインのローラーテーブル(図示せず)の上に抽出される。この段階の被圧延材Mは、例えば鋼片である。被圧延材Mが粗圧延機3に到達すると、圧延方向を変えながら繰り返し圧延される。この段階の被圧延材Mは、例えば数十ミリメートル程度の厚みを持つバーである。粗圧延機3出側の形状検出器81により被圧延材Mの形状が測定され、測定結果に基づき、被圧延材Mの尾端部の形状不良部分がクロップシャー4により切断される。被圧延材Mは仕上圧延機5の圧延スタンドF1~F7に順次噛み込まれながら圧延され、所望の製品目標板厚Ttに制御される。
【0038】
次に、上記仕上圧延機5の板厚制御装置20を用いた板厚制御方法について説明する。図4は、板厚制御装置20を用いた板厚制御の流れを説明するためのタイミングチャートである。図5は、板厚制御装置20を用いた板厚制御の流れを説明するためのフローチャートである。
【0039】
図5に示すルーチンが起動される前に、上位計算機1からプロセス計算機1に製品目標板厚Ttが入力されると、ギャップ計算部21は、入力された製品目標板厚Ttよりも大きく、被圧延材Mの先端部を安定して通板可能な通板可能板厚Tsを取得する。ギャップ計算部21は、取得した通板可能板厚Tsに対応する各圧延スタンドF1~F7のギャップを計算する。ギャップ設定部22は、ギャップ計算部21で計算されたギャップに応じて各圧延スタンドF1~F7の圧下装置54を夫々制御することで、各圧延スタンドF1~F7にギャップを設定する。
【0040】
図5に示すルーチンが起動されると、F7_InがONであるか否か、即ち、最終圧延スタンドF7に被圧延材Mの先端部が通板されたか否かを判別する(ステップS1)。
【0041】
時刻t1よりも前では、F7_InがOFFであるため、目標板厚変更部25から出力される板厚バイアスTbがゼロである(つまり、板厚偏差FBK1に付加される板厚バイアスTbがゼロである)。この場合、自動板厚制御部24は、板厚偏差FBK1が最小(例えばゼロ)になるように、各圧延スタンドF1~F7の圧下装置54を夫々AGC制御する(ステップS2)。これにより、被圧延材Mの先端部を確実に通板させるために、各圧延スタンドF1~F7のギャップが大きく制御される。
【0042】
ここで、形状検出器81により被圧延材Mの先端部が検出された時刻から所定時間経過後の時刻t1において、F7_InがONになると、ステップS3に移行する。
【0043】
ステップS3では、時間TD1が経過したか否かを判別する。時間TD1は、タイムディレイに相当する。時間TD1が経過していない場合、タイマー252からのトリガー信号がOFFであるため、目標板厚変更部25から出力される板厚バイアスTbがゼロである(つまり、板厚偏差FBK1に付加される板厚バイアスTbがゼロである)。この場合も、自動板厚制御部24は、板厚偏差FBK1が最小(例えばゼロ)になるように、各圧延スタンドF1~F7の圧下装置54を夫々AGC制御する(ステップS4)。ステップS4でも、被圧延材Mの先端部を確実に通板させるために、各圧延スタンドF1~F7のギャップが大きく制御される。その後、ステップS3に戻る。
【0044】
時刻t1から時間TD1が経過した時刻t2において、タイマー252からのトリガー信号がSETになると、被圧延材Mの先端部の通板が終了したと判断され、目標板厚変更部25から板厚バイアスTbが出力される。出力された板厚バイアスTbは板厚偏差FBK1に付加され、板厚偏差FBK2となる。ここで、板厚バイアスTbのバイアス量が例えば300μmである場合、時刻t2から時刻t3までの時間、目標板厚変更部25から出力される板厚バイアスTbが所定のランプレートで大きくなる。板厚バイアスTbが300μmに達すると、FBK2=Ta-Ts+300μmとなる。自動板厚制御部24は、板厚バイアスTbが付加されたプラスの板厚偏差FBK2が最小(例えばゼロ)になるように、各圧延スタンドF1~F7の圧下装置54を夫々AGC制御する(ステップS5)。時刻t2から時刻t3までの時間、AGC制御により、各圧延スタンドF1~F7のギャップが徐々に小さく制御される(ギャップが徐々に締め方向に制御される)。これにより、被圧延材Mの先端部より後ろの部分の板厚を極薄の製品目標板厚Ttに制御することができる。
【0045】
ここで、被圧延材Mの尾端部が極薄になると、被圧延材Mの尾端蛇行や尾端絞りが発生しやすくなる。その結果として、被圧延材Mの尾端部が各圧延スタンドF1~F7のワークロール51に絡まりやすくなり、ワークロール51の交換回数が増加する虞がある。
【0046】
そこで、本実施形態では、次の制御を実行する。即ち、CS_TCutがONであるか否か、即ち、クロップシャー4により被圧延材Mの尾端部の形状不良部分が切断されたか否かを判別する(ステップS6)。CS_TCutがOFFである場合、上記ステップS5に戻る。
【0047】
時刻t4においてCS_TCutがONになると、即ち、クロップシャー4による切断が行われると、ステップS7に移行する。ステップS7では、時間TD2が経過したか否かを判別する。時間TD2は、タイムディレイに相当する。時間TD2は、クロップシャー4による切断後に被圧延材Mの尾端部が最初の圧延スタンドF1に通板されないように設定される。時間TD2は、通常、時間TD1と異なる。時間TD2が経過するまでは、上記ステップS5と同様に、Tb=300μmである製品目標板厚TtでAGC制御を引き続き実行する(ステップS8)。
【0048】
時刻t4から時間TD2が経過した時刻t5において、タイマー252からのトリガーがRESETになると、目標板厚変更部25から出力される板厚バイアスTbが所定のランプレートで300μmから0μmからに徐々に小さくなり、自動板厚制御部24は、板厚偏差FBK2が最小(例えばゼロ)になるように、各圧延スタンドF1~F7の圧下装置54を夫々AGC制御する(ステップS8)。これにより、時刻t5から時刻t6までの時間、各AGC制御により各圧延スタンドF1~F7のギャップが夫々徐々に大きく変更される。その結果、被圧延材Mの尾端部の板厚が製品目標板厚Ttが通板可能板厚Tsに徐々に変更される。そして、被圧延材Mの尾端蛇行や尾端絞りの発生を抑制することができる。これにより、被圧延材Mの尾端部が各圧延スタンドF1~F7のワークロール51に絡まり難くなり、ワークロール51の交換回数の増加を抑制することができる。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態によれば、被圧延材Mを極薄の製品目標板厚Ttに圧延する場合でも、各圧延スタンドF1~F7のギャップを通板可能板厚Tsに対応するギャップに設定することで、仕上圧延機5に被圧延材Mの先端部を確実に通板させることができる。このため、先行技術の如く仕上圧延機5の入側に加熱装置を設置する必要がなく、設備コストの上昇を防ぐことができる。しかも、被圧延材Mの先端部を確実に通板させた後、板厚偏差FBK1に板厚バイアスTbを徐々に付加した板厚偏差FBK2でAGC制御を実行することで、各圧延スタンドF1~F7のギャップが製品目標板厚Ttに対応するギャップへと徐々に変更される。これにより、各圧延スタンドF1~F7のギャップを急激に変更しないことと相俟って、被圧延材Mを安定して極薄に圧延することができる。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述した実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数にこの発明が限定されるものではない。また、上述した実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【符号の説明】
【0051】
5…仕上圧延機(熱間圧延機)、20…板厚制御装置、21…ギャップ計算部、22…ギャップ設定部、23…板厚偏差算出部、24…自動板厚制御部、25…目標板厚変更部、84…板厚計、F1~F7…圧延スタンド、F1…最初の圧延スタンド、F7…最終の圧延スタンド、FBK1,FBK2…板厚偏差、M…被圧延材、Ta…板厚計測値、Tb…板厚バイアス、Ts…通板可能板厚、Tt…製品目標板厚
図1
図2
図3
図4
図5