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特許7678059カーボネート含有オリゴマー、その調製方法及び硬化物
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  • 特許-カーボネート含有オリゴマー、その調製方法及び硬化物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】カーボネート含有オリゴマー、その調製方法及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/96 20060101AFI20250508BHJP
   C07C 68/06 20200101ALI20250508BHJP
   C08F 20/20 20060101ALI20250508BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20250508BHJP
【FI】
C07C69/96 Z CSP
C07C68/06
C08F20/20
C08F290/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023191316
(22)【出願日】2023-11-09
(65)【公開番号】P2024078420
(43)【公開日】2024-06-10
【審査請求日】2023-11-09
(31)【優先権主張番号】111145723
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】522336890
【氏名又は名称】上緯創新育成股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SWANCOR INNOVATION & INCUBATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】3F.,No.11,Gongye S.6th Rd.,Nantou City,Nantou County 540028,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100209060
【弁理士】
【氏名又は名称】冨所 剛
(72)【発明者】
【氏名】高均其
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110511350(CN,A)
【文献】特開平10-306157(JP,A)
【文献】Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry,1987年,Vol.25,pp.3049-3062
【文献】ACS Applied Polymer Materials,2021年12月13日,2022, Vol.4,pp.413-424
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)に示す構造を有するカーボネート含有オリゴマーであって、
【化1】
ただし、R、R及びXは、それぞれ独立して芳香族基であり、nは、1~5の整数であるカーボネート含有オリゴマー。
【請求項2】
式(i)に示す精製二官能性エポキシ樹脂を式(ii)に示すカーボネート含有化合物と混合し、第1温度に昇温させて溶解を加速させて、第1混合物を得る混合工程と、
【化2】
触媒を前記第1混合物に添加して前記第1温度に維持しながら反応させて、第2混合物を得る第1活性エステル交換工程と、
芳香環溶媒及び式(iii)に示すメタクリル酸活性エステルを前記第2混合物に添加して混合して、第3混合物を得る希釈混合工程と、
【化3】
前記第3混合物を第2温度に昇温させた後、前記第2温度に維持しながら反応させて、第4混合物を得る第2活性エステル交換工程と、
前記第4混合物を降温させて濾過して、式(I)に示すカーボネート含有オリゴマーを得る濾過工程と、
を備え、
【化4】
ただし、R、R及びXは、それぞれ独立して芳香族基であり、nは、1~5の整数であるカーボネート含有オリゴマーの調製方法。
【請求項3】
前記第1温度は、130℃以下である請求項2に記載のカーボネート含有オリゴマーの調製方法。
【請求項4】
前記第1温度は、80℃~120℃である請求項2に記載のカーボネート含有オリゴマーの調製方法。
【請求項5】
前記触媒は、ピリジン誘導体、イミダゾール誘導体又は第4級アルキルアンモニウム塩誘導体である請求項2に記載のカーボネート含有オリゴマーの調製方法。
【請求項6】
前記触媒の添加量は、500ppm~5000ppmである請求項2に記載のカーボネート含有オリゴマーの調製方法。
【請求項7】
前記芳香環溶媒は、ベンゼン、トルエン又はキシレンである請求項2に記載のカーボネート含有オリゴマーの調製方法。
【請求項8】
前記第2温度は、110℃~130℃である請求項2に記載のカーボネート含有オリゴマーの調製方法。
【請求項9】
請求項1に記載のカーボネート含有オリゴマーを変性ポリフェニレンエーテル樹脂と混合し、過酸化物を添加して硬化反応させることで得られる硬化物。
【請求項10】
前記カーボネート含有オリゴマーと前記変性ポリフェニレンエーテル樹脂との固形分比は、50:50~10:90である請求項9に記載の硬化物。
【請求項11】
前記変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、メタクリレート基変性ポリフェニレンエーテルである請求項9に記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴマー、その調製方法及び硬化物に関し、特に、エポキシ樹脂から誘導されたカーボネート含有オリゴマー、その調製方法及び硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電子科学技術の急速な発展により、移動通信、サーバ及びクラウドストレージ等の電子製品の情報処理は、高周波伝送の方向へ発展し、また、近年の情報通信量の急増に伴い、高周波プリント回路基板に対するニーズが益々高くなり、高周波帯域の伝送損失を減少させるために、電気的性能に優れた材料は、関連分野の研究重点となっており、且つ高温、高湿度の環境でも電子素子の正常な動作を維持するために、回路基板は、耐熱、難燃性及び低吸水性等の特性を兼ね備えなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在、回路基板の分野では、絶縁材料及び接着材料としてエポキシ樹脂をフェノール樹脂又はジシアンジアミドと併用して硬化させたものがよく用いられるが、このような材料は、良好な加工特性及び銅箔接着性を有するものの、硬化後に発生した極性官能基により、電気的性能を低下させてしまう欠点が存在し、高周波高速回路基板のニーズを満たし難い。上記欠点に対し、一部の技術は、エポキシ樹脂を活性エステル又はスチレン・無水マレイン酸共重合体(SMA)と併用することで、硬化後の高極性基の生成を克服する傾向があるが、電気的性能が向上しても、高周波低損失の分野に使用されるには、まだやや不十分である。
【0004】
これに鑑みて、高周波低損失の適用分野に導入可能な新しい形態の樹脂を如何に合成するかは、関連業者が努力する目標となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの目的は、エポキシ樹脂と活性エステルとの反応の合成概念を利用し、カーボネート基及びラジカル硬化性官能基をエポキシ樹脂に導入して変性することで、ラジカル硬化の低誘電性と、カーボネート基の金属及び繊維に対する求核挙動を同時に持たせるカーボネート含有オリゴマー及びその調製方法を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、カーボネート含有オリゴマーを変性ポリフェニレンエーテル樹脂と混合して硬化させることで、低い誘電損失及び十分な耐高温溶解性を持たせる硬化物を提供することである。
【0007】
本発明の一実施形態は、式(I)に示す構造を有するカーボネート含有オリゴマーであって、
【化1】
ただし、R、R及びXは、それぞれ独立して芳香族基であり、nは、1~5の整数であるカーボネート含有オリゴマーを提供する。
【0008】
本発明の別の実施形態は、式(i)に示す精製二官能性エポキシ樹脂を式(ii)に示すカーボネート含有化合物と混合し、第1温度に昇温させて溶解を加速させて、第1混合物を得る混合工程と、
【化2】
触媒を第1混合物に添加して第1温度に維持しながら反応させて、第2混合物を得る第1活性エステル交換工程と、芳香環溶媒及び式(iii)に示すメタクリル酸活性エステルを第2混合物に添加して混合して、第3混合物を得る希釈混合工程と、
【化3】
第3混合物を第2温度に昇温させた後、第2温度に維持しながら反応させて、第4混合物を得る第2活性エステル交換工程と、第4混合物を降温させて濾過して、式(I)に示すカーボネート含有オリゴマーを得る濾過工程と、
を備え、
【化4】
ただし、R、R及びXは、それぞれ独立して芳香族基であり、nは、1~5の整数であるカーボネート含有オリゴマーの調製方法を提供することである。
【0009】
前段落に記載のカーボネート含有オリゴマーの調製方法によれば、第1温度は、130℃以下である。また、第1温度は、80℃~120℃であってよい。
【0010】
前段落に記載のカーボネート含有オリゴマーの調製方法によれば、触媒は、ピリジン誘導体、イミダゾール誘導体又は第4級アルキルアンモニウム塩誘導体であってよい。
【0011】
前段落に記載のカーボネート含有オリゴマーの調製方法によれば、触媒の添加量は、500ppm~5000ppmであってよい。
【0012】
前段落に記載のカーボネート含有オリゴマーの調製方法によれば、芳香環溶媒は、ベンゼン、トルエン又はキシレンであってよい。
【0013】
前段落に記載のカーボネート含有オリゴマーの調製方法によれば、第2温度は、110℃~130℃であってよい。
【0014】
本発明の更に別の実施形態は、前述したカーボネート含有オリゴマーを変性ポリフェニレンエーテル樹脂と混合し、過酸化物を添加して硬化反応させることで得られる硬化物を提供する。
【0015】
前段落に記載の硬化物によれば、カーボネート含有オリゴマーと変性ポリフェニレンエーテル樹脂との固形分比は、50:50~10:90であってよい。
【0016】
前段落に記載の硬化物によれば、変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、メタクリレート基変性ポリフェニレンエーテルであってよい。
【発明の効果】
【0017】
それにより、本発明のカーボネート含有オリゴマーは、エポキシ樹脂と活性エステルとの反応メカニズムを概念とし、カーボネート基及びラジカル硬化性官能基をエポキシ樹脂に導入して変性することで、ラジカル硬化時に極性官能基を生成しないという電気的性能の利点と、カーボネートの金属及び繊維に対する良好な求核特性を同時に保持することができ、調製された硬化物に低誘電損失及び耐高温溶解性を持たせ、ガラス繊維プリプレグ及び高周波低損失基板等の関連分野への適用に適する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の上記と他の目的、特徴、利点と実施例をより明らかで分かりやすくするために、添付される図面について、以下のように説明する。
図1】本発明の一実施形態によるカーボネート含有オリゴマーの調製方法の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の各実施形態をより詳しく検討する。しかしながら、この実施形態は、様々な発明概念の適用であってよく、様々な異なる特定の範囲内で具体的に実行可能である。特定の実施形態は、説明のみを目的とし、開示された範囲によって限定されない。
【0020】
本発明において、骨格式(skeleton formula)で化合物の構造を表す場合があり、このような表現法では、炭素原子、水素原子及び炭素水素結合を省略してよい。構造式に官能基が明確に示されている場合、示されているものを基準とする。
【0021】
本発明において、「カーボネート含有オリゴマーは、式(I)に示す構造を有する」について、簡潔且つスムーズにするために、式(I)に示すカーボネート含有オリゴマー又はカーボネート含有オリゴマー(I)と表現される場合があり、他の化合物又は基の表現方法は、このように類推される。
【0022】
本発明において、ある基が置換されているか否かを特に明記しなければ、この基は、置換又は非置換の基を表すことができる。例えば、「アルキル基」は、置換又は非置換のアルキル基を表すことができる。
【0023】
<カーボネート含有オリゴマー>
【0024】
本発明は、式(I)に示す構造を有するカーボネート含有オリゴマーであって、
【化5】
ただし、R、R及びXは、それぞれ独立して芳香族基であり、nは、1~5の整数であるカーボネート含有オリゴマーを提供する。
【0025】
詳しくは、本発明は、エポキシ樹脂とビスアリールカーボネートのエステル交換反応により、カーボネート基及びラジカル硬化性官能基をエポキシ樹脂に導入して変性し、ラジカル硬化時に極性官能基を生成しないという電気的性能の利点を保持しながら、カーボネート構造の金属及び繊維に対する良好な求核特性を満たすことができるため、ガラス繊維プリプレグ及び高周波低損失基板の分野に適用する可能性が非常に高い。
【0026】
<カーボネート含有オリゴマーの調製方法>
【0027】
図1を参照し、図1は、本発明の一実施形態によるカーボネート含有オリゴマーの調製方法100の工程を示すフローチャートである。図1において、カーボネート含有オリゴマーの調製方法100は、工程110、工程120、工程130、工程140及び工程150を含む。
【0028】
工程110は、式(i)に示す精製二官能性エポキシ樹脂を式(ii)に示すカーボネート含有化合物と混合し、第1温度に昇温させて溶解を加速させて、第1混合物を得る混合工程であり、
【化6】
ただし、X及びRは、芳香族基である。本発明の第1温度は、前記二官能性エポキシ樹脂と前記カーボネート含有化合物が完全に溶解するまで加速するためのものであり、第1温度は、二官能性エポキシ樹脂の自己重合による粘度の上昇を回避するために130℃以下とされ、第1温度が低過ぎると、反応速度が低く反応時間が長くなるため、本発明において、第1温度は、好ましくは80℃~120℃であってよいが、これに限定されない。
【0029】
詳しくは、本発明に記載の精製二官能性エポキシ樹脂における「精製」は、二官能性エポキシ樹脂がOH官能基を含まないことを表し、且つ当分野で公知の各種のエポキシ樹脂であってよく、一般的に汎用される二官能性エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂又はナフトール型エポキシ樹脂等の市販のエポキシ樹脂製品であってよいが、これらに限定されない。好ましくは、本発明の精製二官能性エポキシ樹脂は、式(i-1)に示す構造を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂であってよく、
【化7】
また、Rは、フェニル基、モノフルオロフェニル基、パーフルオロフェニル基又は4-tert-ブチルフェニル基であってよいが、これらに限定されず、好ましくは、本発明のRは、式(ii-1)に示す構造を有するフェニル基である。
【化8】
【0030】
工程120は、触媒を第1混合物に添加して第1温度に維持しながら反応させて、第2混合物を得る第1活性エステル交換工程である。詳しくは、触媒は、ピリジン誘導体、イミダゾール誘導体又は第4級アルキルアンモニウム塩誘導体であることが好ましく、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、1-アルキルイミダゾール、1-アセチルイミダゾール、1-ベンジルイミダゾール、2-アルキルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール及び臭化n-テトラブチルアンモニウム又はその誘導体等であってよいが、これらに限定されず、触媒の添加量は、500ppm~5000ppmであってよい。
【0031】
工程130は、芳香環溶媒及び式(iii)に示すメタクリル酸活性エステルを第2混合物に添加して混合して、第3混合物を得る希釈混合工程であり、
【化9】
ただし、R芳香族基であり、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基又はパーフルオロフェニル基であってよいが、これらに限定されず、好ましくは、本発明のRは、式(iii-1)に示す構造を有するフェニル基であり、
【化10】
また、芳香環溶媒は、ベンゼン、トルエン又はキシレンであってよいが、これらに限定されない。
【0032】
工程140は、第3混合物を第2温度に昇温させた後、第2温度に維持しながら反応させて、第4混合物を得る第2活性エステル交換工程である。詳しくは、第2温度は、二官能性エポキシ樹脂の自己重合を回避するために130℃以下とされ、第2温度が低過ぎると、反応速度が低く反応時間が長くなるため、本発明において、第2温度は、好ましくは110℃~130℃であってよく、且つ第2温度で2時間~6時間維持され、その過程で、エポキシ基が完全に消失するまで、即ち反応が完了するまで、フーリエ変換赤外分光光度計(Fourier Transform infrared spectrometer;FTIR)によりエポキシ基を監視してよい。
【0033】
工程150は、第4混合物を降温させて濾過して、式(I)に示すカーボネート含有オリゴマーを得る濾過工程であり、
【化11】
ただし、R、R及びXは、それぞれ独立して芳香族基であり、nは、1~5の整数である。具体的には、工程150で生成された式(I)の生成物のn値は正規分布であるため、nは、0、1、2、3、4又は5の整数であってよいが、nが0である場合のみに得られたオリゴマーは、カーボネート構造を欠くため、本発明のnは、1~5の整数に限定される。
【0034】
それにより、本発明のカーボネート含有オリゴマーの調製方法は、第1段階のビスアリールカーボネートとエポキシ樹脂の活性エステル反応メカニズムにより、エポキシ樹脂に対してエステル交換・鎖延長を行い、分子構造及び繊維の含浸ニーズに応じて分子量を調整することができる。更に、第2段階の活性エステル反応メカニズムによりラジカル硬化性官能基で主構造を修飾し、特別な精製工程を必要とせずに導入して使用できることを実現し、商業的量産の実現可能性を提供する。
【0035】
<硬化物>
【0036】
本発明は、前記した(I)に示すカーボネート含有オリゴマーを変性ポリフェニレンエーテル樹脂と混合し、過酸化物を添加して硬化反応させることで得られる硬化物を更に提供する。具体的には、式(I)に示すカーボネート含有オリゴマーと変性ポリフェニレンエーテル樹脂との固形分比は、50:50~10:90であってよく、硬化反応は、段階的に昇温する加熱方法を採用して行ってよいが、この加熱方法に限定されない。前記変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、メタクリレート基変性ポリフェニレンエーテル又はビニルベンジル基変性ポリフェニレンエーテルであってよいが、これらに限定されない。
【0037】
当業者が過度に解釈することなく本発明を完全に利用して実践することができるように、以下の具体的な実施例によって本発明を更に例示的に説明し、これらの実施例は、本発明の材料及び方法を如何に実施するかを説明するためのものであり、本発明の範囲に対する制限と見なされるべきではない。
【0038】
<合成例/合成比較例>
【0039】
本発明のカーボネート含有オリゴマーの具体的な調製方法は、下記合成例1及び合成例2の通りである。合成例1では、136重量部の精製ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量は170g/eq~172g/eq)及び43重量部の炭酸ジフェニルを、撹拌機、温度計及び導気管を有する反応釜に入れ、乾燥空気を導入し、90℃に加熱して1時間維持した。その後、1.25重量部の4-ジメチルアミノピリジンを触媒として添加して90℃に2時間維持し、その過程において赤外分光光度計で監視した。続いて、166重量部のトルエン及び68重量部のメタクリル酸フェニルを加え、110℃に昇温させて6時間維持して反応させ、その過程において赤外分光光度計で監視し、波数が915cm-1の信号が完全に消失した後に反応が完了したことを示し、降温させて濾過して合成例1のカーボネート含有オリゴマーが得られた。具体的には、合成例1のFTIRスペクトルのデータは、1741cm-1(C=O)、1720cm-1(C=O)、1637cm-1(C=C)であり、且つゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で計測した後、その数平均分子量(Mn)は1511であり、重量平均分子量(Mw)は2549であった。合成例1に関する反応方程式は、下記表1に示す。
【表1】
【0040】
合成例2では、136重量部の精製ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量は170g/eq~172g/eq)及び57重量部の炭酸ジフェニルを、撹拌機、温度計及び導気管を有する反応釜に入れ、乾燥空気を導入し、110℃に加熱して1時間維持した。その後、1.16重量部の1-メチルイミダゾールを触媒として添加して110℃に2時間維持し、その過程において赤外分光光度計で監視した。続いて、196重量部のキシレン及び45重量部のメタクリル酸フェニルを加え、130℃に昇温させて6時間維持して反応させ、その過程において赤外分光光度計で監視し、波数が915cm-1の信号が完全に消失した後に反応が完了したことを示し、降温させて濾過して合成例2のカーボネート含有オリゴマーが得られた。具体的には、合成例2のFTIRスペクトルのデータは、1748cm-1(C=O)、1721cm-1(C=O)、1637cm-1(C=C)であり、且つゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で計測した後、その数平均分子量(Mn)は2089であり、重量平均分子量(Mw)は3802であった。合成例2に関する反応方程式は、下記表2に示す。
【表2】
【0041】
本発明のカーボネート含有オリゴマーの調製方法は、エポキシ構造を有するエステル類に適用され、例えば、メタクリル酸グリシジル(Glycidyl methacrylate;GMA)は、エポキシ官能基及びメタクリル酸官能基を同時に有する構造であり、上記合成方法によって変性されることによっても、合成比較例1のように構造的にカーボネート官能基及びメタクリル酸官能基を同時に有することを実現することができる。
【0042】
合成比較例1では、142重量部のメタクリル酸グリシジル及び107重量部の炭酸ジフェニルを、撹拌機、温度計及び導気管を有する反応釜に入れ、乾燥空気を導入し、120℃に加熱し、0.5重量部の臭化n-テトラブチルアンモニウムを触媒として添加して温度を6時間維持し、その過程において赤外分光光度計で監視し、波数が915cm-1の信号が完全に消失した後に反応が完了したことを示し、降温させて濾過して合成比較例1のカーボネート含有化合物が得られた。具体的には、合成比較例1のFTIRスペクトルのデータは、1756cm-1(C=O)、1719cm-1(C=O)、1637cm-1(C=C)であった。合成比較例1に関する反応方程式は、下記表3に示す。
【表3】
【0043】
<実施例/比較例>
【0044】
実施例1では、8重量部のメタクリレート基変性ポリフェニレンエーテル樹脂(型番SA9000、Sabicから購入)と3.3重量部の合成例1(固形分は60%)を混合し、0.2重量部の過酸化ジクミルを添加した。その後、適量のブタノンを添加して適切な粘度に調節し、離型処理を施したアルミニウムトレイに適量投入し、窒素オーブンで硬化させて製膜し、硬化温度を段階的に昇温させ、実施例1のシート状硬化物が得られた。
【0045】
実施例2では、5重量部のメタクリレート基変性ポリフェニレンエーテル樹脂と8.3重量部の合成例1(固形分は60%)を混合し、0.2重量部の過酸化ジクミルを添加した。その後、適量のブタノンを添加して適切な粘度に調節し、離型処理を施したアルミニウムトレイに適量投入し、窒素オーブンで硬化させて製膜し、硬化温度を段階的に昇温させ、実施例2のシート状硬化物が得られた。
【0046】
実施例3では、8重量部のメタクリレート基変性ポリフェニレンエーテル樹脂と3.6重量部の合成例2(固形分は55%)を混合し、0.2重量部の過酸化ジクミルを添加した。その後、適量のブタノンを添加して適切な粘度に調節し、離型処理を施したアルミニウムトレイに適量投入し、窒素オーブンで硬化させて製膜し、硬化温度を段階的に昇温させ、実施例3のシート状硬化物が得られた。
【0047】
実施例4では、5重量部のメタクリレート基変性ポリフェニレンエーテル樹脂と9.1重量部の合成例2(固形分は55%)を混合し、0.2重量部の過酸化ジクミルを添加した。その後、適量のブタノンを添加して適切な粘度に調節し、離型処理を施したアルミニウムトレイに適量投入し、窒素オーブンで硬化させて製膜し、硬化温度を段階的に昇温させ、実施例4のシート状硬化物が得られ、合成例2の添加割合が上がるにつれて、その硬化物の表面は、僅かな相分離を示した。
【0048】
実施例5では、60重量部のメタクリレート基変性ポリフェニレンエーテル樹脂、16.7重量部の合成例1(固形分は60%)、10重量部のブタジエン・スチレン共重合体(型番Ricon 100、Total Cray Valleyから購入)と20重量部のトリアリルイソシアヌレート(TAIC)を混合し、2重量部の過酸化ジクミルを添加した。その後、適量のブタノンを添加して適切な粘度に調節し、離型処理を施したアルミニウムトレイに適量投入し、窒素オーブンで硬化させて製膜し、硬化温度を段階的に昇温させ、実施例5のシート状硬化物が得られた。
【0049】
比較例1では、8重量部のメタクリレート基変性ポリフェニレンエーテル樹脂と2重量部の合成比較例1を混合し、0.2重量部の過酸化ジクミルを添加した。その後、適量のブタノンを添加して適切な粘度に調節し、離型処理を施したアルミニウムトレイに適量投入し、窒素オーブンで硬化させて製膜し、硬化温度を段階的に昇温させ、比較例1のシート状硬化物が得られた。
【0050】
比較例2では、5重量部のメタクリレート基変性ポリフェニレンエーテル樹脂と5重量部の合成比較例1を混合し、0.2重量部の過酸化ジクミルを添加した。その後、適量のブタノンを添加して適切な粘度に調節し、離型処理を施したアルミニウムトレイに適量投入し、窒素オーブンで硬化させて製膜し、硬化温度を段階的に昇温させ、最終的に硬化収縮が激し過ぎるため、完全な硬化フィルムを製造することができなかった。
【0051】
比較例3では、10重量部のメタクリレート基変性ポリフェニレンエーテル樹脂をトルエンに溶解し、0.2重量部の過酸化ジクミルを添加した。その後、適量のブタノンを添加して適切な粘度に調節し、アルミニウムトレイに適量投入し、窒素オーブンで硬化させて製膜し、硬化温度を段階的に昇温させ、比較例3のシート状硬化物が得られた。
【0052】
高速回路において、信号の伝播遅延は、誘電率(Dielectric Constant;D)に依存し、低誘電率材料の基板は、信号の伝播遅延を軽減することができ、信号伝送品質に影響を与える別の要因は、誘電損失(Dissipation Factor;D)であり、誘電損失が小さいほど、信号損失が小さくなるため、高周波低損失の基板材料は、一般的に低誘電率及び低誘電損失の電気的性能を有する。更に、本発明のカーボネート含有オリゴマーの電気的性能を把握するために、以下、実施例1~実施例5及び比較例1~比較例3の硬化物に対して、ガラス転移温度(T)、5%熱重量損失温度(Td5)、800℃のチャー収率(Char yield)、誘電率(D)及び誘電損失(D)を計測した。
【0053】
<評価試験方法>
【0054】
誘電分析方法では、10GHzで硬化物の誘電率(D)及び誘電損失(D)を測定した。
【0055】
ガラス転移温度(T):示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry;DSC)によって硬化物のガラス転移温度を計測し、その条件は、10℃/minの昇温速度で検出することである。
【0056】
5%熱重量損失温度(Td5)及びチャー収率:熱重量分析法(Thermo-Gravimetric Analysis;TGA)によって硬化物の5%熱重量損失温度及び800℃のチャー収率(Char yield)を計測し、その条件は、窒素雰囲気で、10℃/minの昇温速度で検出することである。
【0057】
実施例1~実施例5及び比較例1~比較例3に対して上記評価試験方法を行い、結果を表4に記録した。
【表4】
【0058】
上記表4の結果から分かるように、比較例3と比べ、実施例1~実施例4において本発明のカーボネート含有オリゴマーを添加した後、ガラス転移温度(T)、5%熱重量損失温度(Td5)及びチャー収率は、いずれも低下する傾向を示し、且つ実施例1及び実施例3は、電気的性能のパフォーマンスが依然として一定のレベルを維持し、実施例4の硬化物の表面は、僅かな相分離状態を示し、本発明のカーボネート含有オリゴマーの分子量を制御する必要があり、且つ大き過ぎてはいけないことが説明された。また、実施例5の接着剤は硬化前に均一であり、本発明の合成例1と業界で汎用される成分SA9000とRicon 100とTAICの間の相溶性が高く、且つ硬化後にも相分離現象がないことを示した。更に、比較例1は、合成比較例1を用いて硬化させ、合成比較例1の構造分子量が小さく、硬化後のガラス転移温度の低下幅が小さいが、それ自体が芳香環等の剛性構造を欠いているため、5%熱重量損失温度が顕著に低下し、且つ電気的性能も顕著に低下し、比較例2では、合成比較例1の添加割合が上がり、ひいては硬化収縮を引き起こして成膜できなくなるため、本発明のカーボネート含有オリゴマーは、高周波低損失基板の製造の面で非常に高い発展潜在力があることが証明された。
【0059】
以上を纏めると、従来技術に比べて、本発明のカーボネート含有オリゴマーは、エポキシ樹脂と活性エステルとの反応メカニズムにより、特別な精製を必要とせずに使用可能な製造プロセスを実現し、また、市販の変性ポリフェニレンエーテル樹脂と併用することで、よりバランスの取れた配合の適用価値を生み出すことができる。
【0060】
本発明は実施形態により前述の通りに開示されたが、これらに限定されず、当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、多様な変更や修飾を加えることができる。従って、本発明の保護範囲は、下記特許請求の範囲で指定した内容を基準とするものである。
【符号の説明】
【0061】
100 カーボネート含有オリゴマーの調製方法
110、120、130、140、150 工程
図1