(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-08
(45)【発行日】2025-05-16
(54)【発明の名称】電磁干渉抑制材料
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20250509BHJP
C01B 32/184 20170101ALI20250509BHJP
C08K 7/24 20060101ALI20250509BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20250509BHJP
【FI】
H05K9/00 M
C01B32/184
C08K7/24
C08L63/00 C
(21)【出願番号】P 2023565045
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2022044122
(87)【国際公開番号】W WO2023100923
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2024-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2021195681
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西原 洋知
(72)【発明者】
【氏名】吉田 栄吉
(72)【発明者】
【氏名】内田 健
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-084819(JP,A)
【文献】特開2004-043705(JP,A)
【文献】国際公開第2021/166343(WO,A1)
【文献】特開平02-028399(JP,A)
【文献】特開2000-294978(JP,A)
【文献】特開2008-001757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
C01B 32/184
C08K 7/24
C08L 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物及び無機物を含む母材と、粉末炭素材料とを含む電磁干渉抑制材料であって、
前記有機物は、熱硬化性樹脂であり、
前記無機物は、シリカ及びアルミナから選ばれる少なくとも1種であり、
前記粉末炭素材料は、1個の孔を有する中空粒子である第1の殻状体、及び中空粒子が連結した形状であって複数の孔を有する第2の殻状体から選ばれる少なくとも1種であり、
前記第1の殻状体及び前記第2の殻状体の殻部は、平均層数が4以下のグラフェンからなる、電磁干渉抑制材料。
【請求項2】
前記粉末炭素材料の比表面積が1300m
2/g以上である、請求項1に記載の電磁干渉抑制材料。
【請求項3】
前記第1の殻状体が有する孔及び前記第2の殻状体が有する孔の容積が、1.3cc/g以上である、請求項1又は2に記載の電磁干渉抑制材料。
【請求項4】
体積抵抗が10
3Ω・cm以上である、請求項1又は2に記載の電磁干渉抑制材料。
【請求項5】
前記粉末炭素材料の平均粒径が200μm以下である、請求項1又は2に記載の電磁干渉抑制材料。
【請求項6】
前記有機物がエポキシ樹脂である、請求項1又は2に記載の電磁干渉抑制材料。
【請求項7】
前記有機物又は前記無機物が発泡体である、請求項1又は2に記載の電磁干渉抑制材料。
【請求項8】
前記粉末炭素材料の含有量が0.01~95質量%である、請求項1又は2に記載の電磁干渉抑制材料。
【請求項9】
前記母材の表面に前記粉末炭素材料が存在する、請求項1又は2に記載の電磁干渉抑制材料。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の電磁干渉抑制材料を含む、半導体素子封止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁干渉抑制材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁ノイズによる機器の誤作動、情報漏洩、干渉による情報通信速度の低下等の電磁障害を低減することを目的として、様々な対策が行われている。電磁障害を低減する手段としては、電磁波を反射により遮る方法又は、電磁波を吸収する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Fe,Ni,Co及びVから選んだ金属またはこれら金属の2種以上からなる合金の粉末等の軟磁性金属粉末をゴムまたはプラスチックのマトリクス中に分散させたものをシート状に成形してなる電磁波シールド材、特許文献2には、炭化ケイ素粉末をマトリクス樹脂中に分散させてなる電波吸収材料によって形成された電波吸収層を金属体の表面に積層したシート状の電波吸収体、特許文献3には、カーボン材料を含むマトリックスからなる誘電体層と、前記誘電体層の一方の面に積層された分割導電膜層と、前記誘電体層の他方の面に積層された電磁波反射層と、を有する、5~7GHzの周波数帯域における電磁波吸収シート等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-68889号公報
【文献】特開2005-57093号公報
【文献】特開2012-209515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、上記特許文献1~3に記載の電磁波シールド材、電波吸収体、及び電磁波吸収シート等のように、多くの電磁障害低減を目的とした提案がされている。しかし、近年の通信機器の高性能化、多様化に伴い、電磁障害の低減が十分ではない場合があり、さらなる改善が求められていた。
また、金属等により電磁波を反射により遮る方法は、自家中毒が避けられないという課題もあった。
【0006】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能がよく、より電磁障害の低減性能がよい電磁干渉抑制材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、有機物及び無機物から選ばれる少なくとも1種を含む母材と、所定の粉末炭素材料とを含む電磁干渉抑制材料が、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能がよく、より電磁障害の低減性能がよいことを見出した。
本開示は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本開示は、以下に関する。
[1]有機物及び無機物から選ばれる少なくとも1種を含む母材と、粉末炭素材料とを含む電磁干渉抑制材料であって、
前記粉末炭素材料は、1個の孔を有する中空粒子である第1の殻状体、及び中空粒子が連結した形状であって複数の孔を有する第2の殻状体から選ばれる少なくとも1種であり、
前記第1の殻状体及び前記第2の殻状体の殻部は、平均層数が4以下のグラフェンからなる、電磁干渉抑制材料。
[2]前記粉末炭素材料の比表面積が1300m2/g以上である、上記[1]に記載の電磁干渉抑制材料。
[3]前記第1の殻状体が有する孔及び前記第2の殻状体が有する孔の容積が、1.3cc/g以上である、上記[1]又は[2]に記載の電磁干渉抑制材料。
[4]体積抵抗が103Ω・cm以上である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の電磁干渉抑制材料。
[5]前記粉末炭素材料の平均粒径が200μm以下である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の電磁干渉抑制材料。
[6]前記有機物がエポキシ樹脂である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の電磁干渉抑制材料。
[7]前記無機物が、セラミックスである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の電磁干渉抑制材料。
[8]前記有機物又は前記無機物が発泡体である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の電磁干渉抑制材料。
[9]前記粉末炭素材料の含有量が0.01~95質量%である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の電磁干渉抑制材料。
[10]前記有機物又は無機物から選ばれる少なくとも1種を含む母材の表面に前記粉末炭素材料が存在する、上記[1]~[9]のいずれかに記載の電磁干渉抑制材料。
[11]上記[1]~[7]のいずれかに記載の電磁干渉抑制材料を含む、半導体素子封止材。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能がよく、より電磁障害の低減性能がよい電磁干渉抑制材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示について、一実施形態を参照しながら詳細に説明する。
本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。また、本明細書において、数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせ得る。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値または下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、「電磁干渉抑制材料」とは、損失特性(磁気損失、誘電損失、電気抵抗等)を利用し、近傍電磁界および電磁波を減衰させうる材料を指す。
本明細書において、「グラフェン」とは、「10層以下のsp2結合炭素原子のシート状物質」を意味する。
本明細書において、グラフェンの「平均層数」とは、下記式により求められる値である。具体的には、後述する実施例に記載の方法により求められる。
グラフェンの平均層数=2627(m2/g)/比表面積(m2/g)
前記比表面積とは、BET比表面積を指し、窒素吸着によるBET多点法により測定して得られる値である。
本明細書において、中空粒子とは、殻部を有し、当該殻部に囲まれた粒子内部が空洞である粒子をいう。
【0011】
[電磁干渉抑制材料]
本開示の電磁干渉抑制材料は、有機物及び無機物から選ばれる少なくとも1種を含む母材と、粉末炭素材料とを含む。そして、前記粉末炭素材料は、1個の孔を有する中空粒子である第1の殻状体、及び中空粒子が連結した形状であって複数の孔を有する第2の殻状体から選ばれる少なくとも1種であり、前記第1の殻状体及び前記第2の殻状体の殻部は、平均層数が4以下のグラフェンからなる。
前記粉末炭素材料が、前記第1の殻状体、及び前記第2の殻状体から選ばれる少なくとも1種であり、前記第1の殻状体及び前記第2の殻状体の殻部は、平均層数が4以下のグラフェンからなるものであることで、得られる電磁干渉抑制材料は、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能がよく、より電磁障害の低減性能がよいものとなる。得られるその理由は定かではないが、次のように考えられる。
【0012】
本開示の粉末炭素材料は、中空粒子であり、中空粒子の殻部は平均層数が4以下のグラフェンからなる。言い換えると、本開示の粉末炭素材料は、3次元的に連続した平均層数が4以下のグラフェンシートから構成される、シェル状グラフェン積層体である。そのため、前記粉末炭素材料は、炭素材料としては比表面積が大きく、単位体積当たりの電波吸収性能が高い。さらに、前記粉末炭素材料は、他の炭素材料を同一量含有した場合に比べ、体積抵抗を向上させることができる。このように比表面積が大きく、また体積抵抗向上効果を有することで、本開示の粉末炭素材料を含有することで、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能が向上すると考えられる。
【0013】
前記第1の殻状体及び前記第2の殻状体の殻部は、前記粉末炭素材料の比表面積を大きくし、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、平均層数が4未満のグラフェンからなるものであってもよく、3以下のグラフェンからなるものであってもよく、2.5以下であってもよく、2.0以下であってもよく、1.9以下であってもよい。
【0014】
本開示の一態様において、電磁干渉抑制材料は、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、体積抵抗が103Ω・cm以上であってもよく、106Ω・cm以上であってもよく、107Ω・cm以上であってもよい。上限は特に定めないが、1016Ω・cm以下であってもよい。
【0015】
本開示の粉末炭素材料は、電磁干渉抑制材料中に存在していてもよく、前記有機物又は無機物から選ばれる少なくとも1種を含む母材の表面に存在していてもよい。
【0016】
<粉末炭素材料>
本開示の粉末炭素材料は、1個の孔を有する中空粒子である第1の殻状体、及び中空粒子が連結した形状であって複数の孔を有する第2の殻状体から選ばれる少なくとも1種である。そして、前記第1の殻状体及び前記第2の殻状体の殻部は、平均層数が4以下のグラフェンからなる。
【0017】
本開示の第1の殻状体は、1個の孔を有する中空粒子である。
前記第1の殻状体が有する孔の平均孔径は、0.5~100nmであってもよく、0.7~50nmであってもよく、1.0~20nmであってもよい。
なお、前記第1の殻状体及び前記第2の殻状体が有する孔の平均孔径は、シリンダー状細孔を仮定し、下記式より求められる値である。
孔の平均孔径=4×孔の容積/比表面積(m2/g)
また、孔の容積とは、窒素吸着等温線測定を行い、相対圧力(P/P0)が0.96の吸着量から求められる材料質量あたりの値であり、比表面積とは、BET比表面積を指し、窒素吸着によるBET 多点法により測定して得られる値である。
【0018】
本開示の第2の殻状体は、中空粒子が連結した形状であって複数の孔を有する。
前記第2の殻状体が有する孔は、複数あればよく、特に制限はない。
前記第2の殻状体が有する1個の孔の平均孔径は、0.5~100nmであってもよく、0.7~50nmであってもよく、1.0~20nmであってもよい。
【0019】
前記第1の殻状体の平均粒径は、殻厚が非常に薄い点より、前述の第1の殻状体の孔の平均孔径と同一であるとみなしてよい。
【0020】
前記第2の殻状体の平均粒径は、製造容易性の観点から、1.0nm以上であってもよく、2.0nm以上であってもよく、5.0nm以上であってもよく、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、1000nm以下であってもよく、500nm以下であってもよく、200nm以下であってもよい。
なお、前記第2の殻状体の平均粒径は、レーザー回折式の粒度分布計を使うことで見積もることができる。
【0021】
前記粉末炭素材料の平均粒径は、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、200μm以下であってもよい。なお、本明細書において、「粉末炭素材料の平均粒径」とは、粉末炭素材料が凝集しておらず1次粒子である場合は1次粒子の平均粒径を指し、粉末炭素材料が凝集し2次粒子を形成している場合は2次粒子の平均粒径を指す。
なお、前記粉末炭素材料の平均粒径の測定方法は、孔の容積と比表面積からの算出、レーザー回折式の粒度分布計により見積る、もしくは走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)の観察手段を用い、20~100視野中に観察される粒子の粒径の平均値として算出される値である。また、「粒径」とは、粒子の中心を通りかつ粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
【0022】
前記粉末炭素材料が凝集しておらず1次粒子である場合、前記粉末炭素材料の平均粒径(1次粒子)は、製造容易性の観点から、1nm以上であってもよく、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよく、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、1000nm以下であってもよく、500nm以下であってもよく、100nm以下であってもよい。
【0023】
前記粉末炭素材料が凝集して2次粒子を形成している場合、前記粉末炭素材料の平均粒径(2次粒子)は、製造容易性の観点から、0.1μm以上であってもよく、1.0μm以上であってもよく、5.0μm以上であってもよく、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、200μm以下であってもよく、100μm以下であってもよく、50μm以下であってもよく、20μm以下であってもよい。
【0024】
前記粉末炭素材料の比表面積は、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、657m2/g以上であってもよく、1000m2/g以上であってもよく、1300m2/g以上であってもよく、1500m2/g以上であってもよく、1700m2/g以上でであってもよい。そして、製造容易性の観点から、2627m2/g以下であってもよく、2500m2/g以下であってもよく、2400m2/g以下であってもよく、2300m2/g以下であってもよい。
なお、前記比表面積は、BET比表面積を指し、窒素吸着によるBET 多点法により測定した値である。
【0025】
前記第1の殻状体が有する孔及び前記第2の殻状体が有する孔の容積は、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、1.0cc/g以上であってもよく、1.3cc/g以上であってもよく、1.6cc/g以上であってもよく、10.0cc/g以下であってもよく、9.0cc/g以下であってもよく、8.0cc/g以下であってもよい。孔の容積が1.0cc/g以上であれば、より高い比表面積が得られうる。
なお、前記孔の容積は、窒素吸着等温線測定を行い、相対圧力(P/P0)が0.96の吸着量から求めた値である。
【0026】
本開示の粉末炭素材料は、炭素を主成分とする。ここで、「炭素を主成分とする」とは、粉末炭素材料中、炭素の含有量が50質量%以上であることを意味する。粉末炭素材料中の炭素の含有量は、80質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、98質量%以上であってもよい。
【0027】
本開示において、電磁干渉抑制材料中の前記粉末炭素材料の含有量(質量%)は、用途及び母材により大きく異なるため、特に限定されない。電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、電磁干渉抑制材料全量に対し、0.01~95質量%であってもよい。
【0028】
本開示の電磁干渉抑制材料が成形体である場合、電磁干渉抑制材料中の前記粉末炭素材料の含有量(質量%)は、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、電磁干渉抑制材料全量に対し、0.01~95質量%であってもよく、0.01~20質量%であってもよく、0.05~10質量%であってもよい。成形体とは、鋳型や金型等の型に入れて製造するモールド体を指す。
【0029】
本開示の電磁干渉抑制材料が発泡体である場合、電磁干渉抑制材料中の前記粉末炭素材料の含有量(質量%)は、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、電磁干渉抑制材料全量に対し、0.05~20質量%であってもよく、0.1~10質量%であってもよく、0.2~5質量%であってもよい。
【0030】
〔グラフェン〕
本開示のグラフェンは、炭素原子が結合した六角形格子構造を有するシート状物質である。グラフェンは、炭素原子1個分の層厚みを有する単層の状態であってもよく、2層以上の多層の状態であってもよい。グラフェンは、炭素原子の他に、酸素原子、水素原子、窒素原子、ホウ素原子等を含んでいてもよい。
【0031】
前記第1の殻状体中及び前記第2の殻状体中のグラフェンの含有量は、特に制限されるものではないが、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、90%質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、98質量%以上であってもよい。
【0032】
<母材>
本開示の母材は、有機物及び無機物から選ばれる少なくとも1種を含む。母材は、有機物のみを含んでもよく、無機物のみを含んでもよく、有機物と無機物とを含んでもよい。
【0033】
〔有機物〕
母材に含まれる有機物は、特に制限されないが、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。
有機物は、本開示の一態様として、透湿性を低減する観点から成形体であってもよく、他の様態として、表面積増加による電磁吸収能向上及び軽量化の観点から、発泡体であってもよい。発泡体として、発泡ポリウレタン、発泡ポリスチレン、発泡ポリ塩化ビニル、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。表面積増加による電磁吸収能向上及び軽量化の観点から、発泡ポリウレタンであってもよい。
【0034】
前記有機物は、電磁干渉抑制材料を用いた成形体の信頼性の観点から、熱硬化性樹脂であってもよく、電磁干渉抑制材料を用いた成形体の電気絶縁性、及び耐熱性の観点から、エポキシ樹脂であってもよく、イミド樹脂であってもよい。製造の容易さ又は耐久性、耐候性等の観点からポリウレタンでもよく、屋外で利用する場合には、耐加水分解性のよいポリカーボネート系ポリウレタンであってもよい。
前記有機物は、1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本開示において、有機物として用いられるエポキシ樹脂は、一分子中に2個以上のエポキシ基を有し、電子部品で一般に用いられているものであれば、分子構造、分子量等は特に制限されない。
前記エポキシ樹脂は、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン誘導体等の脂肪族系エポキシ樹脂、ビフェニル型、ビフェニルアラルキル型、ナフチル型及びビスフェノール型等の芳香族系エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は1種のみで用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。性状も特に制限はなく常温(25℃)で液状、固形のいずれであっても構わない。例えば、前記エポキシ樹脂は、固形クレゾールノボラック型エポキシ樹脂であってもよい。前記固形クレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、市販品として入手することができ、例えば、N670(DIC(株)製)等が挙げられる。また、例えば、前記エポキシ樹脂は、液状エポキシ樹脂であってもよく、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、市販品として入手することができ、例えば、エポミック(登録商標)R140(三井化学(株)製)等が挙げられる。
なお、本開示において、液状エポキシ樹脂とは、25℃において液状を呈するエポキシ樹脂を指す。
【0036】
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、電磁干渉抑制材料を用いた成形体の熱機械的性質の観点から、140以上であってもよい。また電磁波吸収性能の観点からは200以上であってもよい。前記エポキシ当量の上限値としては、熱機械的性質の観点から、400以下であってもよく、380以下であってもよい。
【0037】
前記エポキシ樹脂は、(R1O)mで表されるポリオキシアルキレン構造及び(R2O)nで表されるポリオキシアルキレン構造を有するエポキシ樹脂であってもよい。
ここで、R1及びR2はそれぞれ独立に、炭素数1以上のアルキレン基を示す。m+nは、1以上50以下であってもよく、1以上20以下であってもよい。また、mは0以上49以下であってもよく、0以上19以下であってもよい。nは1以上50以下であってもよく、1以上20以下であってもよい。
【0038】
R1及びR2で示されるアルキレン基としては、例えば、炭素数1以上6以下のアルキレン基が挙げられ、具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。前記アルキレン基は、電磁波吸収性能の観点から、メチレン基であってもよく、エチレン基であってもよい。
m個のR1O基において、複数のR1は互いに同一のアルキレン基でもよく、炭素数の異なるアルキレン基であってもよい。また、n個のR2O基において、複数のR2は互いに同一のアルキレン基でもよく、炭素数の異なるアルキレン基であってもよい。
【0039】
前記ポリオキシアルキレン構造を有するエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA骨格を有する液状エポキシ樹脂、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。ビスフェノールA骨格を有する液状エポキシ樹脂の市販品としては、下記一般式(1)で表されるリカレジン BEO-60E(新日本理化(株)製)等が挙げられ、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの市販品としては、下記一般式(2)で表される化合物を主成分とするエポライト400E(共栄社化学(株)製)等が挙げられる。
【0040】
【0041】
【0042】
本開示において、有機物として用いられるイミド樹脂としては、例えば、ビスアリルナジイミド等が挙げられる。ビスアリルナジイミドは市販品として入手することができ、例えば、BANI-M(丸善石油化学(株)製)、BANI-X(丸善石油化学(株)製)等が挙げられる。
【0043】
本開示において、有機物として用いられるポリウレタンは、電子部品で一般に用いられているものであれば、分子構造等は特に制限されない。なお、発泡ポリウレタンは、一般的に、ポリオール類、ポリイソシアネート類、及び発泡剤を必須の成分とし、これらに触媒、発泡助剤等を加えて、反応及び発泡させることによって得られる。
【0044】
ポリオール成分としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリマーポリオール等が挙げられる。これらのポリオールは1種を単独で、または2種以上を併用してもよい。
前記ポリエステルポリオールとしては、例えばアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ブラシル酸等の炭素数4~20の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等を酸成分とし、エチレングリコール等の炭素数1~6の脂肪族ジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のエーテルグリコール等をポリオール成分(アルコール成分)とするポリエステルポリオールを挙げることができる。
【0045】
前記イソシアネート成分としては、公知の各種多官能性の脂肪族、脂環族及び芳香族のイソシアネートを用いることができる。例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリフェニルジイソシアネート、キシレンジイソシアネート(XDI)、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、オルトトルイジンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等を挙げることができ、これらは1種を単独で、又は2種以上を併用しても良い。
発泡剤としては、水、フロン、ペンタン等が挙げられる。
【0046】
本開示の一態様において、有機物が成形体である場合、電磁干渉抑制材料中の前記有機物の含有量(質量%)は、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、電磁干渉抑制材料全量に対し、1~40質量%であってもよく、3~30質量%であってもよく、4~25質量%であってもよく、5~20質量%であってもよい。
【0047】
本開示の他の態様において、有機物が発泡体である場合、電磁干渉抑制材料中の前記有機物の含有量(質量%)は、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、電磁干渉抑制材料全量に対し、80~99.95質量%であってもよく、90~99.9質量%であってもよく、95~99.8質量%であってもよい。
【0048】
前記有機物として熱硬化性樹脂を含む場合、本開示の電磁干渉抑制材料は、さらに硬化剤及び硬化促進剤等を含有してもよい。
前記硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、ジシアンジアミド、ジヒドラジド化合物、酸無水物、フェノール樹脂等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記硬化促進剤としては、ジクミルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機リン系化合物;1,8‐ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン‐7(DBU)、1,5‐ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン‐5等のジアザビシクロアルケン化合物;2‐エチル‐4‐メチルイミダゾールテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン系化合物等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本開示の一態様において、本開示の電磁干渉抑制材料が硬化剤を含有する場合、その含有量は熱硬化性樹脂100質量%に対して0質量%以上150.0質量%以下であってもよく、0質量%以上120質量%以下であってもよく、0質量%以上100質量%以下であってもよい。
本開示の他の態様において、本開示の電磁干渉抑制材料が硬化剤を含有する場合、その含有量は該電磁干渉抑制材料全量に対し、1.0質量%以上20.0質量%以下であってもよく、2.0質量%以上18.0質量%以下であってもよく、3.0質量%以上15.0質量%以下であってもよい。
また、本開示の電磁干渉抑制材料が硬化促進剤を含有する場合、その含有量は該電磁干渉抑制材料全量に対し、0.01質量%以上10.0質量%以下であってもよく、0.05質量%以上5.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以上3.0質量%以下であってもよい。
【0049】
本開示の電磁干渉抑制材料は、さらに分散助剤を含んでもよい。分散助剤は、マトリクス樹脂に微粒子を安定的に高分散させるための材料であればいかなるものであってもよく、一般には一分子中に異なる反応性の官能基を併せ持つ界面活性剤、及びカップリング剤が用いられる。前記分散助剤としては、カルボン酸塩等のアニオン系界面活性剤、4級アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤等の界面活性剤;アミン系官能基とスルフィド系官能基を持つカップリング剤、セルロースナノファイバー等が挙げられる。
【0050】
前記セルロースナノファイバーは、両極性の極微小固体で界面活性的な作用でフィラーの分散性を向上させる。セルロースナノファイバーは、水又は熱硬化性樹脂オリゴマー等の液体中にすでに高分散されたものであってもよい。
前記セルロースナノファイバーの平均繊維長さは、作業性及び流動性の観点から、1μm以上100μm以下であってもよく、5μm以上50μm以下であってもよい。
前記セルロースナノファイバーの平均繊維径は、凝集体も含め、1nm以上1000nm以下であってもよく、4nm以上500nm以下であってもよい。前記平均繊維径が上記範囲にあることで、前記粉末炭素材料の分散性を上げ、電磁干渉抑制性能をより向上させることができる。
なお、セルロースナノファイバーの平均繊維長さ及び平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、前述のカーボンナノチューブの平均繊維長さ及び平均繊維径と同一の操作により測定することができる。
【0051】
前記アミン系官能基とスルフィド系官能基を持つカップリング剤の市販品としては、SUMILINK(登録商標)100(住友化学(株)製)等が挙げられる。前記セルロースナノファイバーの市販品としては、ELLEX-S(大王製紙(株)製)等が挙げられる。
【0052】
本開示の電磁干渉抑制材料に前記分散助剤が含まれる場合、その含有量は、分散性及び熱機械的特性保持の観点から、該電磁干渉抑制材料全量に対し、0.1~30質量%であってもよく、0.2~10質量%であってもよく、0.3~5質量%であってもよい。
【0053】
本開示の電磁干渉抑制材料には、以上の各成分の他、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、この種の電磁干渉抑制材料に一般に配合される、合成ワックス、天然ワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸のエステル等の離型剤;コバルトブルー等の着色剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム等の改質剤;ハイドロタルサイト類;イオン捕捉剤;帯電制御剤;フォスファゼン等の難燃剤等の添加剤を必要に応じて配合することができる。これらの各添加剤はいずれも1種を用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0054】
本開示の電磁干渉抑制材料における、これらの各添加剤の含有量は、該電磁干渉抑制材料の全量に対して、各添加剤の合計量として、0.05~30.0質量%であってもよく、0.2~20.0質量%であってもよい。
【0055】
〔無機物〕
母材に含まれる無機物は、電子部品で使用される無機物であれば特に制限されないが、後述の無機物(A)、及び無機物(B)が挙げられる。
これらは1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
(無機物(A))
無機物(A)は、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素及び炭化タングステン等の無機充填材、アモルファス磁性金属合金類、Ni-Fe系合金類、純鉄、軟鋼、ケイ素鋼(Fe-Si合金類)、Fe-Al合金類、Fe-Si-Al合金類、Co-Fe系合金類、カーボニル鉄等の軟磁性材、マグネタイト及びフェライト等の磁性体から選ばれる少なくとも1種であり、後述の無機物(B)以外の無機物である。
前記無機物(A)は、有機物と一緒に用いてもよい。電磁干渉抑制材料の膨張係数の低減又は熱伝導率を上げる観点から、シリカ、アルミナから選ばれる少なくとも1種であってもよく、シリカであってもよい。また、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、フェライト、アモルファス磁性金属合金類から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0057】
前記無機物(A)の形状は特に制限されないが、例えば、粉状、球状、フレーク状、繊維状等が挙げられる。前記無機物の形状は粉状であってもよく、球状であってもよい。
【0058】
前記無機物(A)の平均粒径としては、特に制限されないが、0.1μm以上100μm以下であってもよく、0.2μm以上75μm以下であってもよく、0.2μm以上50μm以下であってもよい。
なお、本明細書において、平均粒径とは、体積平均粒子径のことであり、無機物(A)の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した、粒子の長径の平均値として算出することができる。
【0059】
本開示の電磁干渉抑制材料に前記無機物(A)が含まれる場合、電磁波吸収性能及び電磁干渉抑制性能をより向上させる観点から、その含有量は電磁干渉抑制材料の全量に対し、30~92質量%であってもよく、40~90質量%であってもよく、50~88質量%であってもよい。
【0060】
本開示の電磁干渉抑制材料が半導体用封止材として用いられる場合、半導体用封止材を製造する過程で、金属異物除去が行われる。金属異物除去が磁石を用いて行われる場合、磁性体は異物とみなされ、除去され歩留まりが悪くなる。このような観点から、本開示の電磁干渉抑制材料に前記磁性体が含まれる場合、その含有量は、該電磁干渉抑制材料の全量に対し、1質量%以下であってもよく、0.5質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。また、前記磁性体は比重が大きいため、得られる成形体の軽量化の観点からも前記磁性体の含有量は前記値以下であってもよい。
【0061】
(無機物(B))
無機物(B)は、セラミックスである。
前記セラミックスとしては、特に限定されないが、具体的には、金属の酸化物、窒化物、炭化物等を主成分とする焼結体が挙げられる。
前記金属の酸化物として、具体的には、アルミナ、ジルコニア、酸化マグネシウム等が挙げられる。
前記金属の窒化物として、具体的には、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素等が挙げられる。
前記金属の炭化物として、具体的には、炭化ケイ素、炭化ホウ素等が挙げられる。
前記セラミックスは、アルミナ、窒化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種の焼結体であってもよい。前記セラミックスは、成形体であってもよく、発泡体である多孔質アルミナ等であってもよい。
【0062】
[粉末炭素材料の製造方法]
以下、本開示の粉末炭素材料の製造方法の一実施形態を説明するが、本開示は下記形態に限定されない。
【0063】
本開示による粉末炭素材料は、例えば、アルミナ、酸化マグネシウム等の粒子を鋳型とし、前記鋳型上に炭素層を被覆して、炭素被覆した粒子を調製する第1工程と、前記鋳型を溶解除去する第2工程と、熱処理する第3工程とを有する方法によって製造することができる。このような方法を用いることで、グラフェンが4以下の平均層数で構成される、高比表面積の粉末炭素材料を容易に得ることができる。
【0064】
<第1工程>
(鋳型)
本実施形態の粉末炭素材料を合成する際の鋳型としては、表面及び空孔内部に有機物が導入できること、CVD処理の際に元の構造を安定に保つこと、生成した粉末炭素材料と容易に分離できることが必要である。このため、耐熱性がよく、酸又はアルカリを用いて除去できるものであってもよい。
得られる粉末炭素系材料は、鋳型自身の形状を反映した空孔を有する。言い換えれば、鋳型の形態を転写した状態で炭素材料が合成される。このため、鋳型としては、粒子サイズのそろった構造及び組成が均一な材料であってもよく、このような材料を用いることで制御された大きさの孔を有する粉末炭素材料を調製することができる。また、高比表面積とするために、得られるグラフェンの平均層数を4以下に制御しうる材料であってもよい。
【0065】
このような鋳型としては、例えば、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、炭化タングステン、窒化アルミニウム、酸化セリウム、酸化チタン、炭酸カルシウム等の粒子が挙げられる。これらの粒子は、ナノ粒子であってもよい。鋳型の備えるべき材料物性と、得られる粉末炭素材料の物性の観点から、アルミナ及び酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1種の粒子であってもよく、アルミナ粒子であってもよく、アルミナナノ粒子であってもよい。
アルミナの種類は特に限定されないが、θ-アルミナ、及びγ-アルミナであってもよい。
【0066】
鋳型に用いられる粒子の平均粒径は特に限定されないが、平均粒径が4~100nmであってもよく、5~20nmであってもよい。平均粒径が4nm以上であれば、取扱いが容易で、炭素被覆性が良好である。また、炭素源を被覆する際の炭素源のガス透過性が良好になるため、均一な炭素被覆が容易になる。一方、平均粒径が100nm以下であれば、比表面積(BET比表面積)の高い粉末炭素材料が得られうる。また、後の工程で溶解される鋳型の量が相対的に増えることによる粉末炭素材料の収率の低下を低減できる。
【0067】
前記粒子は、粒状のスペーサーと混合して用いてもよい。スペーサーを用いることで、粒子同士の間に適度に空隙を確保することができ、粒子が密に詰まり過ぎて圧損することを低減できる。スペーサーとしては、平均粒径が、例えば、100~5000μmの粒子であってもよい。スペーサーの材質としては、炭素被覆後に篩分けできるものであれば特に制限されず、900~1000℃で分解しないものであってもよい。または、鋳型と同時に溶解除去できるものであってもよい。例えば、石英砂、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、チタニア等が挙げられる。例えば、石英砂を用いる場合、あらかじめ酸で洗浄し、600~1000℃で1~5時間焼成し、上記の粒径に制御したものを用いてもよい。
【0068】
前記粒子とスペーサーとの配合比は特に制限されないが、例えば、(粒子:スペーサー)が、質量比で、0.1:10~10:10であってもよく、1:10~10:10であってもよい。上記範囲であれば、前記粉末炭素材料が高い収率で得られうる。
【0069】
(炭素層の被覆)
鋳型である粒子表面に炭素層を被覆する方法は特に制限されず、湿式法、乾式法のいずれも適用できるが、グラフェンの平均層数を4以下とする観点から、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)を用いてもよい。
【0070】
有機化合物を導入し、鋳型上に炭素層を堆積させるために用いるCVD法は、鋳型等の基板上に特定の元素または元素組成からなる薄膜(例えば炭素からなる薄膜)を作る工業的手法である。通常、原料物質を含むガスに熱又は光によってエネルギーを与たり、高周波でプラズマ化することにより、化学反応又は熱分解によって原料物質がラジカル化して反応性に富むようになり、基板上に原料物質が吸着して堆積することを利用する技術である。
【0071】
CVD法で用いる有機化合物は、常温で気体であってもよく、または気化できるものであってもよい。気化の方法は、沸点以上に熱する方法又は雰囲気を減圧にする方法等がある。用いる有機化合物は、炭素源物質の中から適宜選択して使用できる。特に、加熱により熱分解する化合物であってもよく、鋳型として用いる粒子の表面に炭素層を堆積することができる化合物であってもよい。
【0072】
また、用いる有機化合物は、水素を含む有機化合物であってもよい。この有機化合物は、不飽和または飽和の炭化水素を含む有機化合物であってもよく、これらの混合物であってもよい。
用いる有機化合物としては、二重結合及び/または三重結合を有する不飽和直鎖または分枝鎖の炭化水素、飽和直鎖または分枝鎖の炭化水素等であってもよく、飽和環式炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等であってもよい。有機化合物として、メタノール、エタノール等のアルコール類またはアセトニトリル、アクリロニトリル等の窒素を含む化合物を用いてもよい。有機化合物は、例えば、アセチレン、メチルアセチレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、シクロプロパン、メタン、エタン、プロパン、ベンゼン、トルエン、ビニル化合物、エチレンオキサイド、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アクリロニトリル等が挙げられる。有機化合物は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、用いる有機化合物は、粒子間の空隙に入り込むことが可能なもの、例えばアセチレン、エチレン、プロピレン、メタン、エタン等を用いてもよい。結晶性の高い炭素を析出させる観点から、メタン、プロピレン、及びベンゼンを用いてもよい。また、熱分解温度が高く高結晶性の炭素が得られる観点から、メタンを用いてもよい。
有機化合物は、より高温でのCVDに用いるものと、より低温でCVDに用いるものとでは互いに同一のものであっても異なっていてもよい。例えば、低温でのCVDではアセチレン、エチレン等を用い、高温でのCVDにはプロピレン、イソプレン、ベンゼン等を用いてもよい。
【0073】
前記粒子上に有機化合物を導入する際は、粒子を予め減圧にしてもよく、系自体を減圧下にしてもよい。CVDにより炭素が堆積する方法であれば如何なる方法を用いてもよい。例えば、アルミナ粒子上に有機化合物の化学反応または熱分解で生成した炭素を堆積(または吸着)させ、アルミナ粒子上に炭素層を被覆してもよい。
【0074】
CVD処理を行う際の圧力は特に制限されず、例えば、1kPa~200kPaであってもよく、50~150kPaであってもよい。CVD処理を行う際の加熱温度は、粒子上に数層以下の炭素層を形成することができる条件であればよく、使用する有機化合物によって適宜適切な温度を選択できる。加熱温度は、400~1500℃であってもよく、450~1100℃であってもよく、550~950℃であってもよい。例えば、有機化合物としてプロピレンを用いる場合は、700~900℃であってもよく、メタンを用いる場合は、900~1100℃であってもよい。ただし、有機化合物の分解温度よりも50~200℃程度低い温度であってもよい。有機化合物の分解温度以上に加熱すると気相炭素析出が顕著になるが、上記のようにすることで、例えば前記粒子表面と内部とで炭素堆積量のむらを低減でき、均一に堆積させることができる。
また、加熱温度はCVD処理時間及び/または反応系内の圧力に応じて適宜適切な温度を選択することができる。また、生成物を分析し、その結果に基づいて所望の積層数とするために要求される温度を設定してもよい。
【0075】
CVD処理を行う際の昇温速度も特に制限されないが、1~50℃/分であってもよく、5~20℃/分であってもよい。CVD処理における処理時間(所定
の加熱温度でのCVD処理時間)は、平均層数が4以下のグラフェンが得られる時間であればよく、使用する有機化合物又は温度によって適宜適切な時間を選択できる。例えば、CVD処理における処理時間は、5分~8時間であってもよく、0.5~6時間であってもよく、1~5時間であってもよい。また、生成物を分析し、その結果に基づいて十分な炭素堆積に要求される時間を設定してもよい。
【0076】
CVD処理は、減圧下で行ってもよく、真空下で行ってもよく、加圧下で行ってもよく、また、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガス雰囲気下で行う場合、不活性ガスとしては、例えば窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられ、窒素を用いてもよい。
CVD法では、通常、気体状の有機化合物をキャリアガスと共に粒子に接触させるように流通させながら加熱することで、容易に気相中で粒子上に炭素を堆積ないし吸着させることができる。キャリアガスの種類、流速、流量および加熱温度は使用する有機化合物の種類によって適宜調節する。キャリアガスは、例えば上記の不活性ガス等が挙げられ、窒素であってもよく、また、酸素ガスまたは水素ガスとの混合物であってもよい。
【0077】
グラフェンの平均層数を4以下とする観点から、キャリアガスの流速は、例えば、0.05~1.0m/分であってもよく、0.32~0.64m/分であってもよい。また、有機化合物の導入量を、キャリアガスと有機化合物との合計量に対して、1~30体積%であってもよく、5~20体積%であってもよい。
【0078】
前記粒子上に炭素層を被覆する方法として、有機化合物を含浸法などの湿式法で導入して炭化してもよい。また、有機化合物を導入してCVDを行う前に、有機化合物を含浸して炭化してもよい。含浸する有機化合物としては、例えば、炭化歩留まりの高いフルフリルアルコール等の熱重合性モノマーが用いられうる。有機化合物の含浸方法は、有機化合物が液体であればそのまま、または溶媒と混合して、固体であれば溶媒に溶解して粒子と接触させる等、公知の手段を採用することができる。
【0079】
第1工程の後、炭素被覆した粒子を熱処理して、炭素層を炭化させ、粒子の表面に高結晶性の炭素を析出させてもよい。このようにすることで、得られる粉末炭素材料は、より高結晶性かつ高比表面積となる。
【0080】
炭素層の炭化は、CVD処理によっても進行しうるため、前記熱処理は、CVD処理時に行ってもよく、他の方法で行ってもよい。
【0081】
熱処理する方法は、特に制限されず、高周波誘導加熱炉等を用いて熱処理を行ってもよい。
【0082】
<第2工程>
本実施形態の第2工程である鋳型を溶解除去する工程は、炭素被覆した粒子から、鋳型を溶解除去し、殻状体を得る工程である。
鋳型の溶解除去としては、例えば、NaOH、KOH、LiOH、RbOH、CsOH等のアルカリ溶液が用いてもよい。上記アルカリ溶液は、例えば、1~5Mの濃度のものを用いてもよい。前記アルカリ溶液は、粒子に対して、量論比の30倍以上であってもよく、50倍以上であってもよい。量論比の30倍以上であれば、鋳型である粒子の残存を抑制することができる。溶解除去する際には、例えば、前記アルカリ溶液中に炭素被覆した粒子を入れ、200~300℃の熱処理温度で熱処理してもよい。この際、試料にアルカリ溶液を均一に接触させるため、炭素被覆した粒子の試料はあらかじめ粉砕しておいてもよい。熱処理の際の昇温速度は特に制限されず、例えば、200~300℃/時間である。熱処理時間(所定の熱処理温度での保持時間)は特に限定されず、例えば1~5時間である。この溶解除去の工程は、複数回行ってもよい。なお、生成物を分析し、その結果に基づいて十分な鋳型除去に要求される条件を設定することができる。
【0083】
鋳型を溶解除去した後、例えば、殻状体を濾過によって回収してもよく、真空加熱乾燥によって乾燥させてもよい。真空加熱乾燥の条件は特に制限されず、例えば、真空加熱乾燥温度を100~200℃とすることができる。また、真空加熱乾燥時間を、例えば、1~10時間とすることができる。
【0084】
<第3工程>
第3工程は、熱処理する工程である。第2工程の後、第3工程を経ることにより、被覆した炭素の結晶性が高められ、安定化される。そのため、粉末炭素材料は、導電性、耐腐食性、及び高比表面積をより高い水準で備えるものとなる。
熱処理温度は、特に制限はないが、1100~1850℃であってもよく、1550~1830℃であってもよい。熱処理温度が1550℃以上であれば、本発明の効果がより顕著に得られうる。また、1850℃以下であれば、残存した鋳型と炭素とが反応することを防ぐことができる。
熱処理時間(所定の熱処理温度での保持時間)は、0.1~10時間であってもよく、0.2~5時間であってもよく、0.5~2時間であってもよい。なお、熱処理工程は、減圧下で行ってもよい。
上記第1工程~第3工程を有する方法により、平均層数が4以下のグラフェンを得ることができる。
【0085】
[電磁干渉抑制材料の製造方法]
本開示の一態様において、有機物として成形体(発泡体ではない)を用いる場合、電磁干渉抑制材料は、少なくとも1種の有機物を含む母材と、粉末炭素材料と、必要に応じて配合されるその他の成分を、ミキサー等によって十分均一に混合した後、ディスパース、ニーダー、3本ロールミル、二軸加熱ロール、二軸加熱押出し混練装置等により混練処理を行うことで得てもよい。混練処理は加熱して行ってもよい。その際の温度は、70℃以上150℃以下であってもよく、75℃以上120℃以下であってもよい。
【0086】
本開示の電磁干渉抑制材料は、例えば、前記混練処理後、冷却固化させ、カッティングミル、ボールミル、サイクロンミル、ハンマーミル、振動ミル、カッターミル、グラインダーミル、スピードミル等により適当な大きさに粉砕して用いてもよい。
【0087】
また、前記混練処理後に得られる混合物を、成形機にて50℃以上100℃以下の温度、圧力0.5MPa以上1.5MPa以下の条件でプレスしてシート状に成形してもよい。
【0088】
本開示の電磁干渉抑制材料は、電波吸収材、ノイズ抑制シート、半導体封止材、封止シート、電線の被覆材等として用いることができる。
本開示の一実施形態として、例えば、基板上に固定された半導体素子を、本開示の電磁干渉抑制材料を含む半導体素子封止材で封止することにより、樹脂封止型の電子部品を得ることができる。
なお、電子部品を得るには、公知の成形方法が特に限定されずに用いられる。最も一般的な成形方法としては低圧トランスファー成形が挙げられるが、射出成形、注型成形、圧縮成形等による成形も可能である。
【0089】
例えば、トランスファー成形法の場合、トランスファー成形機により成形金型内で温度150℃以上200℃以下、時間20秒以上200秒以下で加熱処理を行い、成形金型から成型品を取り出し、硬化を完了させるための加熱処理を、温度150℃以上200℃以下、2時間以上12時間以下で行ってもよい。
【0090】
また、圧縮成形法の場合、まず、成形型の上型に半導体素子を実装した基板を供給するとともに、下型のキャビティ内に本開示の電磁干渉抑制材料を供給する。次いで、上下両型を所要の型締圧力にて型締めすることにより、下型キャビティ内で加熱溶融された電磁干渉抑制材料に半導体素子を実装した基板を浸漬する。その後、下型キャビティ内の加熱溶融された電磁干渉抑制材料をキャビティ底面部材で押圧し、減圧下、所要の圧力を加え、圧縮成形する。成形条件は、温度120℃以上200℃以下、圧力2MPa以上20MPa以下であってもよい。
【0091】
本開示の他の態様において、母材として無機物(B)を用いる場合、電磁干渉用材料は、次のような方法で得られる。セラミックスの原料粉末に適当な有機バインダー及び溶剤等を添加混合して、泥漿物を生成する。この泥漿物を、従来周知のドクターブレード法等を採用してシート状に成形することによってセラミックグリーンシートを作製する。このセラミックグリーンシートを焼成することによって得られる。粉末炭素材料を溶媒に分散し、必要に応じてその他成分を含む混合分散液に、得られたセラミックスを浸漬させることにより得てもよい。また、セラミックグリーンシートとなり得る成分と、粉末炭素材料とを、焼成することにより得てもよい。
セラミックスとなり得る成分と、粉末炭素材料を、焼成させる際の条件は、特に限定されず、セラミックスとなり得る成分に応じて、適宜調節してもよい。不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。焼成温度は600℃~1800℃であってもよく、1000℃~1600℃であってもよい。
【0092】
本開示のさらに他の態様において、有機物又は無機物として発泡体を含む電磁干渉抑制材料は、粉末炭素材料を溶媒に分散し、必要に応じてその他成分を含む混合分散液に、発泡体を浸漬させることにより得てもよい。また、発泡体となり得る成分と、粉末炭素材料と、必要に応じて配合されるその他の成分を、発泡機により発泡する方法又は、加圧プレスで成形後、大気中で焼成することにより発泡する方法等、これらの方法で得てもよい。
これらを発泡させる際の条件は、特に限定されず、発泡体となり得る成分に応じて、適宜調節してもよい。
【実施例】
【0093】
次に実施例により、本開示を具体的に説明するが、本開示は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0094】
[粉末炭素材料の製造]
<製造例1>
(炭素被覆したアルミナナノ粒子の製造)
アルミナナノ粒子(大明化学工業社製TM300、結晶相:γ-アルミナ、平均粒径:7nm、比表面積:220m2/g)と、スペーサーとしての石英砂(仙台和光純薬株式会社製)とを、質量比3:20(アルミナナノ粒子:石英砂)で混合した。この際、石英砂は、1M塩酸に12時間浸け、マッフル炉で、空気中にて800℃で2時間加熱し、180μm間隔のふるいにかけたものを使用した。上記で調製したアルミナナノ粒子と石英砂との混合物を反応管(内径37mm)に入れ、メタンを炭素源とするCVD(メタンCVD)を行った。
【0095】
メタンCVDは、N2ガスの流量を224ml/分に調節した条件下で、アルミナナノ粒子を10℃/分の昇温速度で室温から900℃まで加熱し、900℃で30分間保持した。その後、キャリアガスとしてN2ガスを使用し、キャリアガスとメタンとの合計量に対して20体積%のメタンを反応管に導入し、900℃で2時間、化学気相成長(CVD)処理を行った。この際、メタンガスの流量を45ml/分、N2ガスの流量を179ml/分に調節した。その後、メタンガスの導入を停止し、N2ガスの流量を224ml/分に調節した条件下で、900℃で30分間保持した後、冷却して、炭素被覆したアルミナナノ粒子を得た。
【0096】
(鋳型の溶解除去)
テフロン(登録商標)製のオートクレーブ容器に、炭素被覆したアルミナナノ粒子と、5MのNaOH(量論比の50倍以上)を入れ、マッフル炉を用いて昇温速度250℃/時間で加熱し、250℃で2時間保持した。その後、自然冷却した後、濾過によって回収し、150℃、6時間の真空加熱乾燥で乾燥させ、殻状体を得た。
【0097】
(熱処理)
上記(鋳型の溶解除去)で得られた殻状体を砕き、破片を数個集めて黒鉛製のるつぼに入れ、誘導加熱炉にセットした。反応管内の空気を除去するためにオイルポンプで真空引きし、30分間放置した。その後、反応管の水冷ジャケットに水を流し、誘導加熱で系内を加熱し、熱処理を行って、粉末炭素材料を得た。なお、前記熱処理は真空下で行った。また、熱処理条件としては、はじめに室温から16.7℃/分で1000℃まで60分間かけて昇温し、次いで5℃/分で1800℃まで160分間かけて昇温した後、1800℃で60分間加熱し、その後、室温まで自然冷却し、粉末炭素材料1(第2の殻状体)を得た。
【0098】
<製造例2>
(炭素被覆したアルミナナノ粒子の製造)
アルミナナノ粒子(大明化学工業社製TM300、結晶相:γ-アルミナ、平均粒径:7nm、比表面積:220m2/g)と、スペーサーとしての石英砂(仙台和光純薬株式会社製)とを、質量比3:20(アルミナナノ粒子:石英砂)で混合した。この際、石英砂は、1M塩酸に12時間浸け、マッフル炉で、空気中にて800℃で2時間加熱し、180μm間隔のふるいにかけたものを使用した。上記で調製したアルミナナノ粒子と石英砂との混合物を反応管(内径37mm)に入れ、メタンを炭素源とするCVD(メタンCVD)を行った。
【0099】
メタンCVDは、N2ガスの流量を224ml/分に調節した条件下で、アルミナナノ粒子を10℃/分の昇温速度で室温から900℃まで加熱し、900℃で30分間保持した。その後、キャリアガスとしてN2ガスを使用し、キャリアガスとメタンとの合計量に対して20体積%のメタンを反応管に導入し、900℃で6時間、化学気相成長(CVD)処理を行った。この際、メタンガスの流量を45ml/分、N2ガスの流量を179ml/分に調節した。その後、メタンガスの導入を停止し、N2ガスの流量を224ml/分に調節した条件下で、900℃で30分間保持した後、冷却して、炭素被覆したアルミナナノ粒子を得た。
【0100】
(鋳型の溶解除去)
製造例1と同一の操作を行った。
【0101】
(熱処理)
製造方法1と同一の操作により、粉末炭素材料2(第2の殻状体)を得た。
【0102】
<比較製造例1>
(炭素被覆したアルミナナノ粒子の製造)
アルミナナノ粒子(大明化学工業社製TM300、結晶相:γ-アルミナ、平均粒径:7nm、比表面積:220m2/g)と、スペーサーとしての石英砂(仙台和光純薬株式会社製)とを、質量比3:20(アルミナナノ粒子:石英砂)で混合した。この際、石英砂は、1M塩酸に12時間浸け、マッフル炉で、空気中にて800℃で2時間加熱し、180μm間隔のふるいにかけたものを使用した。上記で調製したアルミナナノ粒子と石英砂との混合物を反応管(内径37mm)に入れ、メタンを炭素源とするCVD(メタンCVD)を行った。
【0103】
メタンCVDは、N2ガスの流量を224ml/分に調節した条件下で、アルミナナノ粒子を10℃/分の昇温速度で室温から950℃まで加熱し、950℃で30分間保持した。その後、キャリアガスとしてN2ガスを使用し、キャリアガスとメタンとの合計量に対して20体積%のメタンを反応管に導入し、950℃で20時間、化学気相成長(CVD)処理を行った。この際、メタンガスの流量を45ml/分、N2ガスの流量を179ml/分に調節した。その後、メタンガスの導入を停止し、N2ガスの流量を224ml/分に調節した条件下で、950℃で30分間保持した後、冷却して、炭素被覆したアルミナナノ粒子を得た。
【0104】
(鋳型の溶解除去)
製造例1と同一の操作を行った。
【0105】
(熱処理)
製造方法1と同一の操作を行い、粉末炭素材料3(第2の殻状体)を得た。
【0106】
[粉末炭素材料の測定評価]
得られた粉末炭素材料について、以下の項目の測定評価を行った。これらの測定評価結果を、表1にまとめて示す。
【0107】
<比表面積(BET比表面積)>
得られた粉末炭素材料を、150℃で6時間真空加熱乾燥した後、高精度自動ガス/蒸気吸着量測定装置「BEL SORP MAX」(日本ベル株式会社製)を用いて測定した窒素吸着等温線より、多点法で比表面積を求めた。
【0108】
<グラフェンの平均層数>
前述の方法により求めた比表面積から、下記式によりグラフェンの平均層数を求めた。
グラフェンの平均層数=2627(m2/g)/比表面積(m2/g)
【0109】
<孔の容積>
得られた粉末炭素材料を、150℃で6時間真空加熱乾燥した後、高精度自動ガス/蒸気吸着量測定装置「BEL SORP MAX」(日本ベル株式会社製)を用いて窒素吸着等温線測定を行い、相対圧力(P/P0)が0.96の吸着量から、材料質量あたりの孔の容積を求めた。
【0110】
【0111】
[電磁干渉抑制材料の製造]
電磁干渉抑制材料の製造に用いた表2及び3に記載の各成分の詳細は以下のとおりである。
〔有機物〕
・エポキシ樹脂:EPICLON N670;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂;DIC(株)製、エポキシ当量:210
〔無機物〕
・シリカ:FB105;デンカ(株)製、平均粒径:12μm
〔炭素材料〕
・カーボンブラック(CB):TPK1227R;キャボット社製、平均粒径:0.1μm
・カーボンナノチューブ(CNT):LUCAN;LG社製:平均繊維長さ:30μm、平均繊維径:0.02μm
〔添加剤〕
・硬化剤:BRG-557;フェノールノボラック樹脂;アイカ工業(株)製
・硬化促進剤:キュアゾールC11Z;イミダゾール化合物;四国化成(株)製
・難燃剤:ラビトル(フォスファゼン系難燃剤)FP100;三井化学ファイン(株)製
なお、電磁干渉抑制材料の製造に用いた表2及び3に記載の粉末炭素材料1~3は、それぞれ製造例1及び2、並びに比較製造例1で得られた粉末炭素材料1~3の粉砕品であり、いずれも粉末炭素材料1~3をそれぞれ粉砕分級し、平均粒径10μmに調製したものを用いた。
【0112】
<実施例1~3及び比較例1~5>
表2に記載の種類及び配合量の各成分をヘンシェルミキサーに投入し、混合した後、110℃に加熱された二軸ロール混練装置に投入し、均一になるまで加熱混練作業を行った。次に、得られた加熱混練物を冷間ロールに投入し、シート状に引き伸ばした後に粉砕して、電磁干渉抑制材料組成物を得た。得られた電磁干渉抑制材料組成物を厚さ0.5mm、1.0mm又は25mmの成形体に圧縮成形し(温度;175℃、圧力;10MPa)、電磁干渉抑制材料を得た。
【0113】
<実施例4>
フラスコにアジピン酸、ジエチレングリコール、及びトリメチロールプロパンを入れ、120℃で加熱して混合後、トリイソプロピルチタネートを添加し、240℃で減圧脱水して、アジピン酸系ポリエステルポリオールを調製した。
上記アジピン酸系ポリエステルポリオール10質量部、テレフタル酸系ポリエステルポリオール「テロール250」(オキシド(OXID)社製)70質量部、エチレンジアミン系ポリエーテルポリオール「AE-300」(三井化学ポリウレタン(株)製)20質量部、難燃剤「TMCPP」(大八化学工業(株)製)15質量部、整泡剤「L-5340」(日本ユニカー(株)製)1質量部、触媒「KL-31」(花王(株)製)2.5質量部、発泡剤「HFC-245fa」35質量部、水1.5部を混合し、ポリオール混合物を得た。
得られたポリオール混合物と、イソシアネート「スミジュール44V20」(住化バイエルウレタン(株)製)のウレタンインデックスが105となるよう調製混合攪拌し、得られた混合物を金型に入れ440mm×440mm×25mmのサイズに成形し硬質ポリウレタンフォーム(発泡ポリウレタン)を得た。また、別途、同一の操作により440mm×440mm×25mmのサイズに成形した硬質ポリウレタンフォームを得、それを440mm×440mm×0.5mm、又は440mm×440mm×1.0mmに切り出した。
次に、ウレタン系エマルジョン「スーパーフレックス」(第一工業製薬(株)製)10000mLに製造例1で得られた粉末炭素材料1を1質量部混合した混合分散液1を作製し、その混合分散液1に得られた発泡ポリウレタンを室温で30分浸漬後、120℃で120分加熱、乾燥させて、発泡ポリウレタンの表面に粉末炭素材料が局在する電磁干渉抑制材料を得た。
【0114】
<実施例5及び比較例6~8>
実施例4において、粉末炭素材料1を用いた代わりに、実施例5においては
粉末炭素材料2を用い、比較例6においては粉末炭素材料3を用い、比較例7においては、カーボンブラック(CB)を用い、比較例8においてはカーボンナノチューブ(CNT)を用いたこと以外は同一の操作にて、発泡ポリウレタンの表面に炭素材料が局在する電磁干渉抑制材料を得た。
【0115】
<実施例6>
実施例4で製造したポリオール混合物50質量部と、イソシアネート「スミジュール44V20」(住化バイエルウレタン(株)製)50質量部と、製造例1で得られた粉末炭素材料1を1質量部とを、自動混合型射出発泡機(形式:MU-203S、型番:6-018、ポリウレタンエンジニアリング社製)に仕込み、実施例4と同一の成形条件で発泡させ、440mm×440mm×0.5mm、440mm×440mm×1.0mm、又は440mm×440mm×25mmの粉末炭素材料を含む発泡ポリウレタンである、電磁干渉抑制材料を得た。
【0116】
<比較例9~11>
実施例6において、粉末炭素材料1を用いた代わりに、比較例9においては、粉末炭素材料3を用い、比較例10においては、カーボンブラック(CB)を用い、比較例11においては、カーボンナノチューブ(CNT)を用いたこと以外は同一の操作にて、電磁干渉抑制材料を得た。
【0117】
<実施例7>
実施例4において、発泡ポリウレタンを用いた代わりに、セラミックス焼結多孔質体「FA120」(富士ケミカル(株)製、アルミナ質、平均気孔径100μm、平均気孔率45-50%)を用いたこと以外は同一の操作にて、セラミックス焼結多孔質体(発泡体)の表面に粉末炭素材料が局在する電磁干渉抑制材料を得た。
【0118】
<比較例12>
実施例7において、粉末炭素材料1を用いた代わりに、カーボンナノチューブ(CNT)を用いたこと以外は同一の操作にて、セラミックス焼結多孔質体の表面に炭素材料が局在する電磁干渉抑制材料を得た。
【0119】
[電磁干渉抑制材料の測定評価]
得られた電磁干渉抑制材料について、以下の項目の測定評価を行った。これらの測定評価結果を、表2及び3にまとめて示す。
なお、表3の「炭素材料の存在領域」において、「表面」は、電磁干渉抑制材料の表面に炭素材料が局在する場合を表し、「全体」は、電磁干渉抑制材料の内部及び表面(電磁干渉抑制材料全体)に炭素材料が存在することを表す。
【0120】
<粉末炭素材料の含有量(質量%)>
粉末炭素材料の含有量は、「炭素材料の存在領域」が「全体」の場合(実施例1~3、実施例6、比較例1~5、比較例9~11)はその配合割合から、「表面」の場合(実施例4、実施例5、実施例7、比較例6~8、比較例12)は表面への炭素材料導入前後の質量増加分から求めた。
【0121】
<体積抵抗>
厚さ1.0mmに成形した電磁干渉抑制材料を用いて、JIS K-6911:2006に準じて、150℃における体積抵抗を測定した。
【0122】
<電磁波吸収性能(周波数10GHz、近傍界測定系)>
厚さ0.5mmに成形した電磁干渉抑制材料を高周波発振デバイスと受信用アンテナの間に設置し、周波数10GHzの電磁波を発生させたときの電磁波強度を前記成形体がある場合とない場合とで測定し、その比(電磁干渉抑制材料で電磁波吸収した時の電磁波強度/電磁干渉抑制材料が無い時の電磁波強度)をdB単位で電磁波吸収性能とした。
なお、電磁波強度は「電子情報通信学会論文誌 B Vol.J97-B No.3 pp.279-285」に準じて測定した。
【0123】
<電磁波吸収性能(周波数5GHz、遠方界測定系)>
反射防止用電波吸収体の上に、厚さ1mmの銅板(600mm×600mm)を設置し、金属板上に、厚さ25mmに成形した電磁干渉抑制材料(440mm×440mm)を設置した。次いで、ネットワークアナライザにケーブルを介してアンテナを取り付け、一方のアンテナから周波数5GHzの電磁波を送信し、前記電磁干渉抑制材料とその下に置かれた金属板で反射させ、もう一方のアンテナで受信することで電磁波強度を測定した。また、金属板上に前記前記電磁干渉抑制材料を設置せず、上記と同一の操作にて電磁波を輻射し電磁波強度を測定した。これらの比(電磁干渉抑制材料で電磁波吸収した時の電磁波強度/電磁干渉抑制材料が無い時の電磁波強度)をdB単位で電磁波吸収性能とした。
なお、電磁波強度は「鹿児島県工業技術センター研究報告 No.15(2001),pp53-61」に準じて測定した。
【0124】
【0125】
【0126】
表2に示したように、実施例1~3の電磁干渉抑制材料は、電波吸収性能がよい。また、高い体積抵抗を有することから、近傍界での電磁干渉抑制性能もよいと言える。
また、表3に示したように、実施例4~7の電磁干渉抑制材料は、電波吸収性能がよい。