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  • -抗IgE抗体誘導用ワクチン組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-08
(45)【発行日】2025-05-16
(54)【発明の名称】抗IgE抗体誘導用ワクチン組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20250509BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20250509BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20250509BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20250509BHJP
   A61P 27/14 20060101ALI20250509BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20250509BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20250509BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20250509BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20250509BHJP
【FI】
A61K39/00 H ZNA
A61P11/02
A61P11/06
A61P17/04
A61P27/14
A61P37/04
A61P37/08
C07K19/00
C07K14/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024575628
(86)(22)【出願日】2024-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2024039742
【審査請求日】2024-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2023191836
(32)【優先日】2023-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514055277
【氏名又は名称】株式会社ファンペップ
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】川畑 壮大朗
(72)【発明者】
【氏名】坂口 誠
(72)【発明者】
【氏名】中神 啓徳
(72)【発明者】
【氏名】林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】森下 竜一
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/164409(WO,A1)
【文献】特表2002-537403(JP,A)
【文献】特表2004-514655(JP,A)
【文献】国際公開第00/074716(WO,A2)
【文献】国際公開第2001/045745(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C07
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとの複合体を含む、IgEに対する抗体の産生を誘導し得るワクチン組成物であって、該B細胞受容体抗原ペプチドが、配列番号20~22のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる、ワクチン組成物であって、ここで、T細胞受容体抗原ペプチドが配列番号1で表されるアミノ酸配列である、ワクチン組成物
【請求項2】
複合体が、T細胞受容体抗原ペプチドのC末端とB細胞受容体抗原ペプチドのN末端との間で結合している、請求項1記載のワクチン組成物。
【請求項3】
T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとがリンカーを介して結合されている、請求項1または2記載のワクチン組成物。
【請求項4】
IgEの過剰分泌を伴う疾患の治療または予防のための、請求項1または2記載のワクチン組成物。
【請求項5】
IgEの過剰分泌を伴う疾患が、喘息、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、およびアナフィラキシー性過敏症、からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項記載のワクチン組成物。
【請求項6】
以下のアミノ酸配列を有するペプチド:
Ac-ELKLIFLHRLKRLRKRLKRK-Ahx-GKPVNHSTRKEEKQRNGT-NH
(式中、Acは、N末端のアミノ酸残基のアミノ基がアセチル化されていることを示し、Ahxは、ε-アミノカプロン酸を示し、NHは、C末端のアミノ酸残基のカルボキシル基がアミド化されていることを示す。)
【請求項7】
以下のアミノ酸配列を有するペプチド:
Ac-ELKLIFLHRLKRLRKRLKRK-Ahx-SGKPVNHSTRKEEKQRNGT-NH
(式中、Acは、N末端のアミノ酸残基のアミノ基がアセチル化されていることを示し、Ahxは、ε-アミノカプロン酸を示し、NHは、C末端のアミノ酸残基のカルボキシル基がアミド化されていることを示す。)
【請求項8】
以下のアミノ酸配列を有するペプチド:
Ac-ELKLIFLHRLKRLRKRLKRK-Ahx-ASGKPVNHSTRKEEKQRNGT-NH
(式中、Acは、N末端のアミノ酸残基のアミノ基がアセチル化されていることを示し、Ahxは、ε-アミノカプロン酸を示し、NHは、C末端のアミノ酸残基のカルボキシル基がアミド化されていることを示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチン組成物に関し、詳細には、生体内においてIgEに対する抗体を誘導することができるワクチン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
IgEは、I型アレルギー疾患(例えば、喘息、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹等)におけるアレルギー応答を媒介する免疫グロブリンファミリーの一種である。IgEがI型アレルギー疾患を引き起こすメカニズムは簡潔には次の通りである:IgEがマスト細胞や好塩基球の細胞表面上に存在する高親和性IgE受容体(FcεR1)に結合し、さらに、アレルゲンが当該IgEに結合して架橋を形成すると、マスト細胞や好塩基球がヒスタミンを始めとする化学伝達物質を放出する。放出された化学伝達物質によって、血管の拡張や血管の透過性が亢進する。その結果として種々のアレルギー症状が生じる。
【0003】
I型アレルギー疾患の治療薬の一つとして、抗IgEモノクローナル抗体であるオマリズマブ(商品名Xolair(登録商標))が市販されている。オマリズマブは、血中のフリーのIgEに特異的に結合し、これを除去することによってマスト細胞の表面にあるFcεR1とIgEとの結合頻度を低減させることにより、マスト細胞の活性化を抑制する。
【0004】
オマリズマブは重度の喘息に対して一定の効果を有し、アレルギー疾患に対しての有効な治療薬の一つであるが、依然としていくつかの改善点を有している。例えば、オマリズマブはヒト化マウスモノクローナル抗体であり、ヒト患者において使用する際の免疫学的反応を完全には回避することができない。また、抗体医薬は高価であり、オマリズマブを用いた治療に伴う費用は患者一人当たり年間15,000~44,000米ドルであると言われている。さらに、抗体医薬は投与方法が限定されるなどのデメリットも存在する。かかる背景から、より安全で低コストであるアレルギー疾患治療方法の開発が強く求められている。
【0005】
かかるデメリットを克服するために、生体に投与することで抗IgE抗体を誘導し得る抗原ペプチドなどの代替手段の開発が鋭意進められている。例えば、特許文献1には抗IgE抗体を誘導し得るIgE免疫原構築物が開示されている。しかしながら、効率よく抗IgE抗体を誘導し得るIgE免疫原の開発は常に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2010067286
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した背景から、本発明は、極めて効率よく抗IgE抗体を誘導できる新規のIgE免疫原を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、特定のアミノ酸配列を有するT細胞受容体抗原ペプチドと、IgEのFc領域中のCε3領域における特定のアミノ酸配列を有するB細胞受容体抗原ペプチドとの複合体が、生体内において極めて効率よく抗IgE中和抗体を誘導し得ることを見出した。本発明者らの見出した複合体は、優れたIgE免疫原性を有し、IgE中和活性の高い抗体を効率よく誘導できた。
本発明者らは、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとの複合体を含む、IgEに対する抗体の産生を誘導し得るワクチン組成物であって、該B細胞受容体抗原ペプチドが、配列番号20~22のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む、ワクチン組成物。
[2]
T細胞受容体抗原ペプチドが配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む、[1]記載のワクチン組成物。
[3]
複合体が、T細胞受容体抗原ペプチドのC末端とB細胞受容体抗原ペプチドのN末端との間で結合している、[1]または[2]記載のワクチン組成物。
[4]
T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとがリンカーを介して結合されている、[1]~[3]のいずれか記載のワクチン組成物。
[5]
IgEの過剰分泌を伴う疾患の治療または予防のための、[1]~[4]のいずれか記載のワクチン組成物。
[6]
IgEの過剰分泌を伴う疾患が、喘息、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、およびアナフィラキシー性過敏症、からなる群から選択される少なくとも1つである、[5]記載のワクチン組成物。
[A-1]
T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとの複合体を含む、IgEに対する抗体の産生を誘導し得るワクチン組成物を対象に投与することを含む、対象におけるIgEの過剰分泌を伴う疾患の治療または予防のための方法であって、該B細胞受容体抗原ペプチドが、配列番号20~22のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む、方法。
[A-2]
T細胞受容体抗原ペプチドが配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む、[A-1]記載の方法。
[A-3]
複合体が、T細胞受容体抗原ペプチドのC末端とB細胞受容体抗原ペプチドのN末端との間で結合している、[A-1]または[A-2]記載の方法。
[A-4]
T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとがリンカーを介して結合されている、[A-1]~[A-3]のいずれか記載の方法。
[A-5]
IgEの過剰分泌を伴う疾患が、喘息、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、およびアナフィラキシー性過敏症、からなる群から選択される少なくとも1つである、[A-1]~[A-4]のいずれか記載の方法。
[B-1]
IgEの過剰分泌を伴う疾患の治療または予防における使用のための、T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとの複合体を含む、IgEに対する抗体の産生を誘導し得るワクチン組成物であって、該B細胞受容体抗原ペプチドが、配列番号20~22のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む、ワクチン組成物。
[B-2]
T細胞受容体抗原ペプチドが配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む、[B-1]記載の使用のためのワクチン組成物。
[B-3]
複合体が、T細胞受容体抗原ペプチドのC末端とB細胞受容体抗原ペプチドのN末端との間で結合している、[B-1]または[B-2]記載の使用のためのワクチン組成物。
[B-4]
T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとがリンカーを介して結合されている、[B-1]~[B-3]のいずれか記載の使用のためのワクチン組成物。
[B-5]
IgEの過剰分泌を伴う疾患が、喘息、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、およびアナフィラキシー性過敏症、からなる群から選択される少なくとも1つである、[B-1]~[B-4]のいずれか記載の使用のためのワクチン組成物。
[C-1]
IgEの過剰分泌を伴う疾患を治療または予防するための医薬の製造における、T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとの複合体を含む、IgEに対する抗体の産生を誘導し得るワクチン組成物の使用であって、該B細胞受容体抗原ペプチドが、配列番号20~22のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む、使用。
[C-2]
T細胞受容体抗原ペプチドが配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む、[C-1]記載の使用。
[C-3]
複合体が、T細胞受容体抗原ペプチドのC末端とB細胞受容体抗原ペプチドのN末端との間で結合している、[C-1]または[C-2]記載の使用。
[C-4]
T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとがリンカーを介して結合されている、[C-1]~[C-3]のいずれか記載の使用。
[C-5]
IgEの過剰分泌を伴う疾患が、喘息、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、およびアナフィラキシー性過敏症、からなる群から選択される少なくとも1つである、[C-1]~[C-4]のいずれか記載の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体内において非常に効率よく抗IgE抗体の産生を誘導できる。従って、I型アレルギー性疾患等のIgEの過剰分泌を伴う疾患の安価かつ安全な治療および/または予防が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、配列番号2~34のいずれかのB細胞エピトープ配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを投与したマウス由来の抗血清におけるIgE合成ペプチドに対する抗体価をELISA法で測定した結果、および、配列番号16~28のいずれかのB細胞エピトープ配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを投与したマウス由来の抗血清におけるヒトIgEに対する抗体価をELISA法で測定した結果を示す図である。(GMT±95%CI(N=4))
図2図2は、配列番号16および20~24のいずれかのB細胞エピトープ配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを投与したラット抗血清の中和活性評価(Luciferaseの発現阻害、Mean±SD(Triplicate))の結果を示す図である。
図3図3は、Humanized IgE/FcεR1 Tgマウスへ配列番号20または21のB細胞エピトープ配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを投与したときの、マウス血清の各AJP001コンジュゲートペプチドまたはヒトIgEに対する抗体価(GMT±95%CI、(N=8))を示す図である。
図4図4は、Humanized IgE/FcεR1 Tgマウスへ配列番号20または21のB細胞エピトープ配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを投与したときの、当該マウスの血清中の複合体濃度(Mean±SE(N=7or8))を示す図である。
図5図5は、Humanized IgE/FcεR1 Tgマウスへ配列番号20または21のB細胞エピトープ配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを投与したときの、当該マウスにおける鼻掻き行動回数(Mean±SE(N=8)、**: p< 0.01 vs OVA group (t test)、♯♯: p< 0.01 vs OVA+Adjuvant group (t test))、および、当該回数と複合体濃度との相関図(Spearman’s rank correlation coefficient)を示す図である。
図6図6は、Humanized IgE/FcεR1 Tgマウスへ配列番号20または21のB細胞エピトープ配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを投与したときの、当該マウスにおける血清中OVA-hIgE濃度(Min. to Max.(N=4-8))およびNALF中Eotaxin濃度(Min. to Max. (N=4-8)、*: P<0.05 v.s. OVA+Adjuvant group (t test))を示す図である。
図7図7は、Humanized IgE/FcεR1 Tgマウスへ配列番号20または21のB細胞エピトープ配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを投与したときの、当該マウスの鼻腔組織における病理組織学的検査および好酸球浸潤(Mean±SE (N=4-8)、**:P<0.01 v.s. OVA+Adjuvant group (t test))を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
1.ワクチン組成物
本発明は、T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとの複合体を含む、IgEに対する抗体の産生を誘導し得るワクチン組成物であって、該B細胞受容体抗原ペプチドが、配列番号20~22のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む、ワクチン組成物(以下、「本発明のワクチン組成物」と称することがある)を提供する。
【0014】
本明細書に記載されるペプチドは、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)である。本発明のワクチン組成物において有効成分として含まれるペプチド複合体は、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、アミド(-CONH)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。
【0015】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0016】
該ペプチド複合体がC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明におけるペプチド複合体に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0017】
さらに、該ペプチド複合体には、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、N末端のアミノ酸残基のアミノ基がアセチル化されているもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているものなども含まれる。一実施態様においては、該ペプチド複合体は、N末端のアミノ酸残基のアミノ基がアセチル化され、および/または、C末端のカルボキシル基がアミド化されている。
【0018】
本発明のワクチン組成物において有効成分として含まれるペプチド複合体は、その一部にB細胞受容体抗原ペプチドを含む。ここで、B細胞受容体とは、B細胞表面に発現する受容体である。抗原ペプチドによって刺激を受けたB細胞は増殖し、当該B細胞受容体を抗原ペプチドに対する抗体として分泌する。
【0019】
本発明のワクチン組成物におけるB細胞受容体抗原ペプチドは、配列番号20~22のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む。配列番号20~22で表されるアミノ酸配列は、具体的には、次の通りである:
【0020】
GKPVNHSTRKEEKQRNGT(配列番号20)
SGKPVNHSTRKEEKQRNGT(配列番号21)
ASGKPVNHSTRKEEKQRNGT(配列番号22)
【0021】
本発明の一態様において、B細胞受容体抗原ペプチドは、配列番号20~22のいずれかで表されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり得る。
【0022】
本発明のワクチン組成物に含まれる複合体の一部はT細胞受容体抗原ペプチドである。T細胞受容体抗原ペプチドは、MHCクラスIIと複合体を形成し、CD3/TCR複合体とCD4によって認識され、CD3陽性細胞内へシグナルを伝達する抗原ペプチドであれば特に制限されない。MHCクラスIIは、例えば、ヒトの場合HLA-DR、HLA-DQおよびHLA-DP、マウスの場合、H-2AまたはH-2Bが挙げられ、それぞれα鎖とβ鎖(例えばHLA-DRは、α鎖であるHLA-DRAとβ鎖であるHLA-DRB1)からなる二量体であり、好ましくは、HLA-DR、HLA-DQまたはHLA-DPである。
【0023】
本発明のワクチン組成物において、T細胞受容体抗原ペプチドとしては、抗原提示細胞のMHCクラスII分子上に提示されてヘルパーT細胞を活性化し得るエピトープ配列を含むものであれば特に制限はないが、例えば、本発明者らが開発したAJP001ペプチド(ELKLIFLHRLKRLRKRLKRK(配列番号1)、詳細はWO2016/047763を参照)のほか、UBIThペプチド(UBITh(登録商標)1:ISITEIKGVIVHRIETILF(配列番号35)、UBITh(登録商標)2:KKKIITITRIITIITTID(配列番号36)、UBITh(登録商標)3:ISISEIKGVIVHKIETILF(配列番号37)、ISITEIRTVIVTRIETILF(配列番号38)、詳細はUS patent no.9,102,752を参照)、Tetanous toxisoidペプチド(TTaa830-843 peptide:QYIKANSKFIGITE(配列番号39))等を使用することができる。AJP001は、NLRP3インフラマソームの活性化を介してIL-β1やIL-18の分泌を誘導し、NF-κB経路を通じてTNF-αやIL-6の産生を誘導することにより自然免疫系をも活性化することができるので、本発明におけるT細胞受容体抗原ペプチドとして特に好ましい。
【0024】
本発明のワクチン組成物において、T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとは結合して複合体を形成するが、当該結合は一方のペプチド鎖の末端と他方のペプチド鎖の末端との連結であっても、一方のペプチドのアミノ酸側鎖と他方のペプチド鎖の末端との結合や両方のアミノ酸側鎖同士の結合であってもよいが、好ましくは一方のペプチド鎖の末端と他方のペプチド鎖の末端との連結であり、より好ましくは一方のペプチド鎖のC末端と他方のペプチド鎖のN末端との連結であり、さらに好ましくはT細胞受容体抗原ペプチドのC末端とB細胞受容体抗原ペプチドのN末端との連結である。一方のペプチド鎖の末端と他方のペプチド鎖の末端とが連結される場合、両者は末端アミノ酸同士がペプチド結合により直接連結されていてもよく、あるいはリンカー(本明細書において「スペーサー」ともいう)を介して連結されていてもよい。リンカーは、T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドを連結でき、抗原提示細胞内に取り込まれてT細胞受容体抗原ペプチド中のヘルパーT細胞エピトープを遊離・MHCクラスII分子上に提示できるものであれば特に限定されない。例えば、ε-アミノカプロン酸、β-アミノアラニン、γ-アミノ酪酸、7-アミノヘプタン酸、12-アミノラウリン酸、p-アミノ安息香酸等のα-アミノ酸以外のアミノ酸を用いることができる。また、天然のタンパク質に存在するL-アミノ酸(例、グルタミン酸、システイン、リジン)やそれらのD-アミノ酸も用いることができる。好ましい一態様において、アミノ酸リンカーは、ε-アミノカプロン酸である。あるいは任意の2~15アミノ酸からなるペプチドリンカーを用いることもできる。例えば、グリシン(Gly)又はメチル化グリシン(MeG)からなるペプチドリンカーであるGリンカー、Gly又はMeGとSerからなるペプチドリンカーであるGSリンカー等を挙げることができるが、それらに限定されない。別の実施態様においては、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリエチレングリコールの誘導体を含むPEGリンカーを用いることもできる。PEGリンカーにグリシン(Gly)、セリン(Ser)、グルタミン酸(Glu)、アルギニン(Arg)及びリジン(Lys)から選ばれる1つ以上をさらに含ませたものも用いることができる。
【0025】
一態様において、B細胞受容体抗原ペプチドとT細胞受容体抗原ペプチドが連結された複合体は付加的なアミノ酸をさらに含んでいてもよい。このようなアミノ酸の付加は、本発明のワクチン組成物の所望の効果が得られる限り許容される。付加されるアミノ酸配列は、特に限定されないが、例えば複合体の検出や精製等を容易にならしめるためのタグを挙げることができる。タグとしては、Flagタグ、ヒスチジンタグ、c-Mycタグ、HAタグ、AU1タグ、GSTタグ、MBPタグ、蛍光タンパク質タグ(例えばGFP、YFP、RFP、CFP、BFP等)、イムノグロブリンFcタグ等が挙げられる。アミノ酸配列が付加される位置は、特に限定されないが、好ましくは複合体のN末端および/またはC末端である。
また、別の一態様において、本発明のワクチン組成物における複合体は、上述したタグ以外の他の機能性分子と結合されていてもよい。かかる機能性分子は、本発明のワクチン組成物が所望の効果を奏する限り、特に限定されない。かかる機能性分子としては、本発明のワクチン組成物が生体内に投与されたときに複合体の分解を抑制する機能を有する分子などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
本発明のワクチン組成物における複合体は、公知の一般的なペプチド合成のプロトコールに従って、固相合成法(Fmoc法およびBoc法)または液相合成法により製造することができる。B細胞受容体抗原ペプチドとT細胞受容体抗原ペプチドが直接またはアミノ酸もしくはペプチドリンカーを介して連結された複合体である場合は、当該複合体全体を一度に合成することができる。また、B細胞受容体抗原ペプチドとT細胞受容体抗原ペプチドを別々に合成し、その後に2つのペプチドを直接またはリンカーを介して連結させてもよい。
【0027】
一態様において、本発明のワクチン組成物におけるペプチド複合体はその免疫原性を高めるためにキャリアたんぱく質とコンジュゲートさせたものでもよい。キャリアたんぱく質は、一般には、分子量が小さいために免疫原性を有さない分子(ハプテン)に結合して免疫原性を付与する物質であり、当技術分野で公知であるものがある。キャリアたんぱく質の例としては、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、チログロブリン(TG)、ジフテリア毒素のアミノ酸の一部を置き換えて無毒化したジフテリア毒素(CRM197)、免疫グロブリン等などが挙げられる。キャリアたんぱく質は本発明のワクチン組成物における複合体のN末端またはC末端にコンジュゲートすることができる。コンジュゲートする方法としては、本発明の抗原ペプチドにシステイン残基を導入し、当該システインの側鎖であるSH基を介してキャリアたんぱく質のアミノ基と結合させることによってコンジュゲートすることができる(MBS法)。また、たんぱく質のリジン残基のεアミノ基や、αアミノ基などのアミノ基同士を結合させることによってもコンジュゲートすることができる(グルタルアルデヒド法)。
【0028】
一態様において、本発明のワクチン組成物は、製薬上許容可能で且つ活性成分と相溶性であるアジュバントをさらに含有してもよい。アジュバントは、一般には、宿主の免疫応答を非特異的に増強する物質であり、多数のアジュバントが当技術分野で公知である。本発明のワクチン組成物に使用されるアジュバントは、免疫応答を非特異的に増強することができる限り特に限定されないが、例えば、アルミニウム塩(Alum)、ミョウバン、CpGオリゴデオキシヌクレオチド、dsRNA、モンタナイド(セピック社商標名)、スクワラン、サポニン等が挙げられる。
【0029】
本発明のワクチン組成物は、T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドの複合体に加えて医薬上許容される担体を含む医薬組成物として提供され得る。
【0030】
医薬上許容される担体は、剤形によって適宜選択されてよく、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑剤、クエン酸、メントール等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸ナトリウム等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0031】
本発明のワクチン組成物は、経口または非経口的に哺乳動物に対して投与することができる。T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドの複合体は胃の中で分解され得るので非経口的に投与することが好ましい。経口投与に好適な製剤としては、液剤、カプセル剤、サシェ剤、錠剤、懸濁液剤、乳剤等を挙げることができる。非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0032】
ワクチン組成物中の有効成分(即ち、ペプチド複合体)の含有量は、通常、組成物全体の0.001~100重量%、好ましくは0.05~99重量%、さらに好ましくは0.1~90重量%程度であるが、これらに限定されない。
【0033】
本発明のワクチン組成物の投与対象は、IgEの過剰分泌に伴い病態が悪化し得る疾患(以下、「IgEの過剰分泌を伴う疾患」と称することがある)に罹患し得る哺乳動物であれば特に制限されない。かかる哺乳動物としては、例えば、マウス等のげっ歯類、イヌやネコ等のペット、ブタ、ウマ、ウシ等の家畜、ヒト、サル、オランウータン、チンパンジー等の霊長類等が挙げられ、特にヒトが好ましい。
【0034】
本発明のワクチン組成物の投与量は、投与する対象、投与方法、投与形態等によって異なるが、通常成人1人当たり、有効成分であるT細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドの複合体を、一回当たり1μg~300,000μgの範囲、好ましくは20μg~30,000μgの範囲で、通常4週間から12週間に亘って、2回から3回投与し、抗体価が低下した場合にはその都度1回追加投与することができる。
【0035】
本発明のワクチン組成物により治療または予防され得る疾患は、上述したIgEの過剰分泌を伴う疾患である。かかる疾患としては、例えば、喘息、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、湿疹、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、およびアナフィラキシー性過敏症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
一態様において、本発明のワクチン組成物は、既存のIgEの過剰分泌を伴う疾患の治療剤と併用して使用してもよい。例えば、アレルギー性疾患の治療において、疾患の活動期には即効性の高い抗体医薬(例、オマリズマブ等)で治療を開始し、寛解期に本発明のワクチン組成物の投与を開始することで、患者のQOLと治療コストの両立を図ることができる。また、本発明のワクチン組成物と既存の治療薬を同時に用いることもできる。
【0037】
なお、本明細書における疾患の「治療」には、疾患の治癒のみならず、疾患の寛解および疾患の程度の改善も含まれ得る。
【0038】
また、本明細書における疾患の「予防」には、疾患の発症を防ぐことに加えて、疾患の発症を遅らせることが含まれる。加えて、本明細書における疾患の「予防」には、治療後の該疾患の再発を防ぐこと、または治療後の該疾患の再発を遅らせることも含まれ得る。
【0039】
また、本明細書における「ワクチン組成物」との用語は、「医薬組成物」または「薬剤」とも言い換えることができる。
【0040】
2.IgEの過剰分泌を伴う疾患を治療または予防するための方法
本発明はまた、IgEの過剰分泌を伴う疾患に罹患する又は罹患する可能性のある対象に本発明のワクチン組成物を投与することを含む、IgEの過剰分泌を伴う疾患を治療または予防するための方法(以下、「本発明の方法」と称することがある)を提供する。
【0041】
本発明の方法における、治療または予防対象、本発明のワクチン組成物の投与条件等は「1.本発明のワクチン組成物」において説明したものと同様である。
【0042】
尚、一態様において、本発明は、本発明のワクチン組成物を対象に投与することを含む、該対象においてIgEに対する抗体の産生を誘導するための方法を提供する。かかる方法における、対象、本発明のワクチン組成物の投与条件等は「1.本発明のワクチン組成物」において説明したものと同様である。
【0043】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例
【0044】
ペプチドの合成(Fmoc法)
第5版実験化学講座16有機化合物の合成IV等に記載の方法に従い、全自動固相合成機を用いて、保護ペプチド樹脂をFmoc法で合成した。得られた保護ペプチド樹脂にトリフルオロ酢酸(TFA)とスカベンジャー(チオアニソール、2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、m-クレゾール、トリイソプロピルシラン、および、水等の混合物)を加えて、樹脂から切り出すとともに脱保護して、粗ペプチドを得た。この粗ペプチドを、逆相HPLCカラムを用いて、0.1%TFA-H0/CHCNの系でグラジエント溶出し、精製を行った。目的物を含む画分を集め凍結乾燥して、目的のペプチドを得た。
【0045】
ペプチドのHPLC分析方法
合成したペプチドの純度をHPLC装置により以下の分析条件で測定した。
HPLC機種:島津製作所 LCLC-20ADXR
測定波長:220 nm
流量:毎分0.31 mL
カラム:Inertsil ODS-3,2.1m×250mm,5micron
カラム温度:室温
移動相A:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液
移動相B:アセトニトリル
グラジエント条件:30分間で移動相Bの濃度を直線的勾配で5%から80%にする。(5→80% buffer B in 30min)
【0046】
ペプチドの質量分析
合成したペプチドの質量をMALDI-TOF-MSにより以下の分析条件で測定した。
MALDI-TOF-MS機種:Bruker autoflex speedマトリックス:2,5-Dihydroxybenzoic acid
溶解溶液:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液とアセトニトリルの混合溶液
【0047】
[実施例1]AJP001コンジュゲートペプチド(ヒトIgE)を用いたラット免疫原性評価試験
表2に示すヒトIgEのエピトープペプチド(配列番号2~34)をB細胞抗原として選択し、T細胞抗原AJP001(表1、配列番号1)とε-アミノカプロン酸(「Ahx」と称することがある)をスペーサーとし、コンジュゲートした複合体(AJP001コンジュゲートペプチド)を作製した(製造は株式会社東レリサーチセンターもしくは株式会社ペプチド研究所に委託した)。なお、本明細書では、B細胞エピトープが配列番号「X」で表されるアミノ酸配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを、「AJP001コンジュゲートペプチド(配列番号X)」等と称することとする。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
配列番号2~34のいずれかのB細胞エピトープ配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを生理食塩水に溶解し、2% Alhydrogel(invivogen、0.3 mg/body)およびK3 Et-Free(ジーンデザイン、0.1 mg/body)と混合し、0.5 mg/body、2週間隔で3回、JCL:Wistarラット(雌、7週齢、N=4)に皮下投与した。投与前および初回投与後6週の時点で採血し、各エピトープ配列およびヒトIgEに対する抗体価をELISA法で測定した。具体的には、炭酸バッファーで10 μg/mLに溶解したエピトープペプチドを固相化した96ウェルプレートを5%スキムミルク/PBSにてブロッキング後、5%スキムミルク/PBSを用いて段階希釈した血清を添加し、4℃で一晩静置した。PBS-Tでウェルを洗浄後、5%スキムミルク/PBSにて希釈したHRP標識抗ラットIgG抗体(BETHYL)を添加し、室温で3時間振とうした。PBS-Tでウェルを洗浄後、TMB溶液(SIGMA)を添加して遮光で30分間静置し、0.1M HSO(関東化学)を加えて反応を停止し、プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。吸光度の最大値の1/2(OD=1.75)となる血清希釈倍率を抗体価と定義し、個体値から幾何平均抗体価(Geometric mean titer:GMT)を算出した。図は幾何平均抗体価(GMT)±95%信頼区間(95%Confidence Interval、95%CI)で示す。ヒトIgEに対する抗体価は、固相化抗原としてヒトIgE full length protein(abcam)を使用し、上記と同様にELISA法で測定した。
【0051】
各AJP001コンジュゲートペプチドおよびヒトIgEに対する抗体価を図1に示した。その結果、配列番号17~27のB細胞エピトープ配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを投与したラット抗血清において、ヒトIgE抗体価の顕著な増加が確認された。
【0052】
[実施例2]AJP001コンジュゲートペプチド(ヒトIgE)のラット抗血清を用いた中和活性評価
実施例1の初回投与後6週時点の血清を用いて、AJP001コンジュゲートペプチドで産生された抗ヒトIgE抗体の中和活性を評価した。RBL-2H3にヒトFcεRIαおよびNFAT-RE-Luciferase遺伝子を導入して樹立した安定発現細胞株(RBL-2H3/FCER1A+NFAT NLuc細胞)を使用した。本細胞は、ヒトIgEを添加するとFcεRIαに結合し、次いで抗ヒトIgE抗体で刺激することによりNFATが活性化し、レポーター遺伝子(Luciferase)が発現する。ヒトIgE刺激におけるLuciferaseの発現阻害を指標に評価した。具体的には、配列番号16および20~24について、プール血清(400 μL/個体、N=4)を調製し、非働化処理(56℃、30分間反応)後、等量の硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬)を添加し、転倒混和させながら室温で30分間反応させた。その後、4℃、3000×g、20分間遠心し、沈殿物をPBSで溶解し、Protein G HP spin trap(Cytiva)、Ab buffer kit(Cytiva)、Amicon ultra-0.5 centrifugal filter devices(100K)(Millipore)で血清中IgG抗体(抗IgE抗体を含む)を精製した。次に、この精製IgG(終濃度 1.2~500 μg/mL)とヒトIgE(終濃度 0.6 μg/mL)を培養用培地(1% P/S、400 μg/mL G418、500 μg/mL ハイグロマイシンB、10% FBS含有DMEM)に添加し、37℃で2時間反応させた後、96-Well white plate(ThermoFisher)に播種した細胞(1.0 × 10^5 cells/50 μL/well)に50 μL/wellで添加し、37℃で24時間反応させた。なお、無処置のwellおよびヒトIgEのみを添加した対照wellを設定した。24時間後、維持培地で洗浄し、抗ヒトIgE抗体(終濃度 1 μg/mL、AQI)を添加し、37℃で4時間反応させた。その後、NanoGlo Luciferase Assay substrateを添加し、3分間反応させ、発光値をルミネッセンスプレートリーダーで測定した。無処置well(A)、対照well(B)および各AJP001コンジュゲートペプチドを投与したラット抗血清由来の精製IgGのwell(C)の各発光値から以下の式で対照wellに対する発光値の割合(%)を算出した。
【0053】
精製IgGの添加濃度を元に、4-parameter logistic modelにて回帰式を算出し、回帰式から50%阻害濃度(IC50)を算出した。IC50の濃度(μg/mL)から中和活性を段階的に表記した(+:10^4桁、++:10^3桁、+++:10^2桁、計算不能の場合、NCと表記)。
【0054】
対照wellに対する発光値の割合(%)=100×[(C-A)/(B-A)]
【0055】
ヒトIgEに対する中和活性を図2に示す。その結果、配列番号20、21、22のB細胞エピトープ配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを投与したラット抗血清において、中和活性(Luciferaseの発現阻害)が確認された。
【0056】
[実施例3]AJP001コンジュゲートペプチド(ヒトIgE)のHumanized IgE/FcεR1 Tgマウスを用いたOVA誘発アレルギー性鼻炎モデルに対する薬効評価試験
配列番号20もしくは21のB細胞エピトープ配列を有するAJP001コンジュゲートペプチドを生理食塩水に溶解し、2% Alhydrogel(invivogen、0.3 mg/body)およびK3 Et-Free(ジーンデザイン、0.1 mg/body)と混合し、0.5 mg/body、2週間隔3回(Day 0、14、28)でHumanized IgE/FcεR1 Tgマウス(雌、10週齢、N=8/群)に皮下投与した。陽性対照物質の抗ヒスタミン薬(ビラスチン、大鵬薬品工業)はDay56~66に50mg/kgでOVA投与の1時間前に経口投与した。また、配列番号20もしくは21投与群の対照群としてOVA+adjuvant群、ビラスチン投与群の対照群としてOVA群を設定した。病態モデルは、OVA(Alum含有)をDay35に100 μg/body(腹腔内)、Day49に50 μg/body(皮下)で投与後、Day56~66にOVA 50 μgを経鼻投与して作製した。本試験条件において、血清(Day0、14、28、35、49および67)を採取し、各AJP001コンジュゲートペプチドおよびヒトIgEに対する抗体価、血清中ヒトIgE/抗ヒトIgE抗体の複合体濃度および血清中OVA特異的ヒトIgE濃度をELISA法で測定した。また、Day55、60および66の経鼻投与後1時間にビデオ撮影を行い、鼻掻き行動回数を評価した。Day67に安楽死後、鼻腔洗浄液(NALF)を回収し、NALF中Eotaxin濃度をELISA法で測定した。更に、鼻腔組織を回収後、Luna染色標本を作製し、好酸球浸潤数を測定した。抗体価の測定は実施例1と同様の手順で実施し、血清中OVA特異的ヒトIgE濃度はHuman Ovalbumin Specific IgE ELISA Kit(Finetest)、NALF中Eotaxin濃度はMouse CCL11/Eotaxin immunoassay kit(R&D)を使用して測定した。
【0057】
各AJP001コンジュゲートペプチドおよびヒトIgEに対する抗体価を図3に、血清中複合体濃度を図4に、鼻掻き行動回数および複合体濃度との相関図を図5に、血清中OVA-hIgE濃度およびNALF中Eotaxin濃度を図6に、病理組織学的検査および好酸球浸潤の程度を図7にそれぞれ示す。
【0058】
その結果、配列番号20または21を投与した群では、抗体価が経時的に増加し、鼻掻き回数および鼻腔組織中の好酸球浸潤を有意に抑制した。また、NALF中Eotaxin濃度および血清中OVA特異的ヒトIgE濃度においても低値傾向を示した。これらの結果から、配列番号20または21を投与した群において誘導された抗体は、ヒトIgEに結合し、IgE/FcεR1結合を阻害することで鼻炎症状を抑制できることが示唆された。一方で、抗ヒスタミン薬(ビラスチン)は鼻掻き回数において配列番号20または21投与群と同等の有効性を示したが、他のパラメータは変化しなかった。このことから、本IgE抗体誘導ペプチドと抗ヒスタミン薬は異なる作用機序で鼻炎症状を抑制することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、I型アレルギー性疾患等のIgEの過剰分泌を伴う疾患の治療および/または予防のためのペプチドワクチンを低コストで製造できるため、医薬品の製造分野において極めて有用である。
【0060】
本出願は、日本で出願された特願2023-191836(出願日:2023年11月9日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【要約】
本発明は、T細胞受容体抗原ペプチドとB細胞受容体抗原ペプチドとの複合体を含む、IgEに対する抗体の産生を誘導し得るワクチン組成物であって、該B細胞受容体抗原ペプチドが、配列番号20~22のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む、ワクチン組成物を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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