(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-08
(45)【発行日】2025-05-16
(54)【発明の名称】脂肪組織再生基材
(51)【国際特許分類】
A61L 27/18 20060101AFI20250509BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20250509BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20250509BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20250509BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20250509BHJP
A61F 2/12 20060101ALN20250509BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/24
A61L27/22
A61L27/56
A61L27/58
A61F2/12
(21)【出願番号】P 2022527522
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007314
(87)【国際公開番号】W WO2021240928
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2020094690
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年2月20日にウェブサイト(https://www.micenavi.jp/jsrm2020/)において公開された第19回日本再生医療学会総会予稿集に掲載
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】松原 早紀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優季
(72)【発明者】
【氏名】森本 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】荻野 秀一
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-140494(JP,A)
【文献】国際公開第03/028782(WO,A1)
【文献】特開2006-116212(JP,A)
【文献】特開2004-130118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有し表面に前記内部空間へ通じる開口部を複数有する生体吸収性材料からなる粒状体と、
複数の開口部を有し複数の前記粒状体を包む生体吸収性材料からなる袋状体と
、から構成され
、
前記粒状体は全体として閉じた形状のメッシュの内部に生体吸収性材料からなるスポンジ様多孔質体を有し、
前記袋状体は、袋状の網であり、
前記メッシュは、ポリ乳酸又は乳酸と他の生体吸収性材料との共重合体を含み、
前記スポンジ様多孔質体は、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン及びフィブリンからなる群より選択される少なくとも1種の天然高分子を含む、
脂肪組織再生基材。
【請求項2】
前記粒状体が、
楕円球状体である
請求項1記載の脂肪組織再生基材。
【請求項3】
前記袋状体を構成する生体吸収性材料がポリグリコリド、ポリグリコリドと他の生体吸収性材料との共重合体又は乳酸と他の生体吸収性材料との共重合体である
請求項1
又は
2記載の脂肪組織再生基材。
【請求項4】
乳房の部分的切除によって生じた欠損部に埋植して用いられる、請求項1、2
又は
3記載の脂肪組織再生基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取り扱い性が高く、大体積の脂肪組織を正常な形状で再生することができる脂肪組織再生基材に関する。
【背景技術】
【0002】
乳がんの治療方法は、乳房にできたがんを放射線や化学療法のみでは治癒が困難な場合、手術により切除する方法(外科療法)が行われる。従来は病巣組織ごと乳房を全て切除する全摘術が多かったが、近年、検査技術の向上による早期発見にて病巣が小さいため組織部分のみを切除する乳房温存術が可能となってきている。しかしながら、乳房温存術であっても切除した部分は陥没が生じてしまうため、患者に精神的な負担を強いることに変わりはない。そのため、QOLの向上のためにも外科療法の後に乳房再建術を受ける患者が増加している。
【0003】
乳房再建術としては、シリコン製のインプラントが主に用いられているが、生体非吸収性であるため永遠に体内に異物として残存することから異物反応等による術後漏出や感染を起こす可能性があり、また、接触によるアレルギー、発がん等の悪影響も懸念されている。
【0004】
他の方法として、他部位から脂肪組織を採取し、それを陥没のある患部に移植する方法もあるが、移植後速やかに吸収されてしまい再度陥没することがある。また、組織を採取することで新たな創傷が生じQOLの観点から必ずしも好ましくない。
【0005】
これら従来の乳房再建術が有する問題を解決するために、本発明者らはポリ乳酸からなる中空の粒状体の内部にコラーゲンを含むスポンジが内包された乳房再建用部材を開示している(特許文献1)。特許文献1の乳房再建用部材は、乳房の部分切除で生じた空間に詰めることで、周囲の細胞が乳房再建用部材内へ侵入し、乳房再建用部材を足場として増殖することで、他部位から脂肪組織を移植することなく乳房を再建することができる。また、特許文献1の乳房再建用部材は生体吸収性材料からなるため、乳房の再生が進むにつれて徐々に体内へ吸収されていき最終的には消滅することから安全性も高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の乳房再建用部材は、安全に生きた自らの細胞からなる乳房を再生できるため乳房の再建術として非常に有効なものである。しかしながら、特許文献1の乳房再建用部材は、切除範囲が大きくなると大量の乳房再建用部材を詰めなくてはならないため、埋植の容易性に劣るという問題があった。特に乳がん治療のステップとしては、がん切除後にがん細胞を完全に死滅させるために放射線治療を併用する。その影響で皮膚が硬化するためティッシュエキスパンダー等で皮膚を徐々に大きくした上で、切開し、ティッシュエキスパンダーを取出しインプラントを挿入する。実際に特許文献1の小さく多量のインプラントを埋植するには、整容良く埋植するために大きく切開する必要があり、患者への負担が増加する。
【0008】
この問題を解決するために、乳房再建用部材のサイズを大きくすることも考えられたが、乳房再建用部材のサイズを大きくし過ぎると成形性が低下する上に、中心部まで脂肪組織再生が困難となり組織の再生性能が低下してしまうこともあった。また、大量・多数の乳房再建用部材を詰められたとしても、個々の乳房再建用部材が姿勢の変更や外部からの力によって移動し、埋植部分の形状が崩れやすいことから、きれいな形状の乳房を再生することが難しいという問題もあった。
【0009】
本発明は、取り扱い性が高く、大体積の脂肪組織を正常な形状で再生することができる脂肪組織再生基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、内部空間を有し表面に前記内部空間へ通じる開口部を複数有する生体吸収性材料からなる粒状体と、開口部を有し複数の前記粒状体を包む生体吸収性材料からなる袋状体とから構成される脂肪組織再生基材である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、開口部を有する生体吸収性材料からなる袋状体の中に複数の生体吸収性材料からなる粒状体を詰めることによって、切除部位が大きい場合であっても埋植しやすく、また、外部から力がかかった場合であっても形状が崩れにくくなり正常な形状の組織を再生できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の脂肪組織再生基材は、内部空間を有し表面に前記内部空間へ通じる開口部を複数有する生体吸収性材料からなる粒状体と、開口部を有し複数の上記粒状体を包む生体吸収性材料からなる袋状体とから構成される。
ここで、本発明の脂肪組織再生基材及び上記粒状体の模式図を
図1、2に示す。
図1に示すように、本発明の脂肪組織再生基材は複数の粒状体1が袋状体3の内部に封入された構造となっている。上記粒状体1は、内部空間を有し、表面に上記内部空間へ通じる開口部を複数有しており、全体として閉じた形状となっている。袋状体3は、多数の開口部と内部空間を有し、内部に封入したものが外部へ移動しないような閉じた形状となっている。上記袋状体3と粒状体1の開口部を通過した細胞が粒状体内部の壁面を足場として増殖することで脂肪組織が再生される。また、粒状体1及び袋状体3は、生体吸収性材料からなるため、脂肪組織が再生するまでの間は、再生すべき脂肪組織の空間を維持し、脂肪組織の再生後は体内へ吸収され最終的には消滅する。本発明の脂肪組織再生基材は、複数の粒状体を袋状体でまとめているため、大きな空間への埋植が容易であり、取り扱い性が高い。また、複数の粒状体1が袋状体3に包まれることで、粒状体1が広範囲に散らばらないことから、再生後の形状に近い形で埋植が可能となる。また、埋植後に外部から力がかかった場合であっても、粒状体1が袋状体3より外側へは移動しないため、埋植時の形状が崩れ難く、正常な形状の脂肪組織を再生することができる。更に、本発明の脂肪組織再生基材は、粒状体1の内部に生体吸収性材料からなるスポンジ様多孔質体2を設けていてもよい。粒状体1の内部に生体吸収性材料からなるスポンジ様多孔質体2を設けると、細胞の足場が増加することから脂肪組織の再生をより促進することができるとともに強度も高めることができる。
なお、上記スポンジ様多孔質体は海綿状だけでなく、不織布や綿等の多数の空隙を有する形状も含まれる。
【0013】
上記粒状体を構成する生体吸収性材料は、インプラントとして安全性が確認されていれば特に限定されないが、脂肪組織の再生には半年から1年程かかるため、その期間脂肪組織再生基材が埋植された空間を維持できる強度と分解速度を有した材料であることが好ましい。このような生体吸収性材料としては、天然高分子であればコラーゲン、ゼラチン、キチン、キトサンなどがあげられ、合成高分子であれば乳酸、グリコール酸、ε-カプロラクトン、ジオキサノン、トリメチレンカーボネートのホモポリマー、あるいはこれらの中から選ばれる少なくとも2種以上の素材からなる共重合体などがあげられる。なかでも、強度と生体内での分解速度が脂肪組織再生基材に適していることから、ポリ乳酸又は乳酸と他の生体吸収性材料との共重合体が好ましい。上記ポリ乳酸又は乳酸と他の生体吸収性材料との共重合体としては、特許文献1に記載されたポリラクチド、ラクチドとグリコール酸の共重合体、ラクチドとε-カプロラクトンの共重合体等が挙げられる。
【0014】
上記粒状体の生体吸収性材料がポリラクチド、ラクチドとグリコール酸の共重合体又はラクチドとε-カプロラクトンの共重合体である場合、重量平均分子量は4000以上300000以下であることが好ましい。重量平均分子量を上記範囲とすることで、分解速度をより脂肪組織の再生に適したものとすることができる。重量平均分子量は100000以上であることがより好ましく、200000以下であることがより好ましい。
【0015】
上記粒状体の形状は、細胞増殖のための足場を提供し、再生すべき脂肪組織の空間を維持することができれば特に限定されず、球状、柱状、不定形状等が挙げられる。なかでも、埋植後に外部からの力によって形状が崩れにくく、粒状体間に適度な空隙が生じて脂肪組織の再生をより促進できることから、球状であることが好ましく、楕円球状体であることがより好ましい。
【0016】
上記内部空間の大きさは特に限定されないが、10mm3以上100000mm3以下であることが好ましい。内部空間の大きさが上記範囲であることで、脂肪組織を再生するための空間を確保しつつより確実に粒状体の中心部まで脂肪組織を再生することができる。上記内部空間の大きさは25mm3以上であることがより好ましく、50mm3以上であることが更に好ましく、50000mm3以下であることがより好ましく、25000mm3以下であることが更に好ましい。
【0017】
上記粒状体の開口部の形状は、特に限定されず、円形、格子状、多角形、不定形等であってもよい。
また、上記粒状体の開口部の数も2箇所以上であれば特に限定されない。上記粒状体の開口部の大きさ及び占有率は特に限定されず、細胞をスムーズに粒状体の内部へ通過させることができれば特に限定されないが、最大長さが0.1mm以上20mm以下の開口部が粒状体の表面積の50%以上99%以下の占有率で分布していることが好ましい。上記範囲の開口部のサイズおよび占有率であると、粒状体の強度と細胞の侵入性のバランスをより高めることができる。上記開口部の最大長さは脂肪組織が侵入でき、脂肪以外の既に組織として存在している周辺組織が侵入しないサイズであれば良く、15mm以下であることがより好ましく、10mm以下であることが更に好ましい。上記開口部の占有率は、組織侵入を容易にするために粒状体の表面積の60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましく、粒状体の形状確保の観点より95%以下であることがより好ましく、90%以下であることが更に好ましい。なお、本明細書中において最大長さとは開口部の2点間の距離を測定した際に最大となる長さのことを指す。
【0018】
上記粒状体のより具体的な態様としては、メッシュの粒状体、多孔性カプセル等が挙げられる。上記粒状体がメッシュの粒状体である場合、上記粒状体を構成するメッシュとしては、モノフィラメント又はマルチフィラメントから形成される網目状物(ネット)、織物、編物等が挙げられる。なかでも、弾性、保形性、脂肪組織の進入性等の観点から、メッシュの楕円球状体がより好ましい。
【0019】
上記粒状体がメッシュからなる場合、上記粒状体を構成するメッシュの1つ1つの太さは特に限定されないが、メッシュの弾性、保形性、細胞の進入性等の観点から、0.05mm以上1mm以下であることが好ましく、0.1mm以上0.4mm以下であることがより好ましい。上記粒状体を構成するメッシュの網目のサイズは、縦、横それぞれ0.01mm以上6mm以下の範囲であることが好ましく、0.02mm以上5mm以下の範囲であることがより好ましい。
【0020】
上記粒状体の大きさは特に限定されないが、上記粒状体が楕円球状である場合、長径が8mm以上150mm以下、短径が5mm以上100mm以下であることが好ましい。粒状体の大きさが上記範囲であることで、大体積の脂肪組織を再生する際に形状を調節しやすくできるとともに、より確実に中心部まで脂肪組織を再生することができる。上記粒状体の長径は10mm以上30mm以下であることがより好ましく、15mm以上20mm以下であることが更に好ましい。上記粒状体の短径は5mm以上20mm以下であることがより好ましく、7mm以上15mm以下であることが更に好ましい。
【0021】
本発明の脂肪組織再生基材中における上記粒状体の数は2個以上であれば特に限定されず、粒状体の大きさと埋植先の空間の大きさに応じて適宜調節することができるが、取り扱い性と大体積の脂肪組織の再生をより促進する観点から5個以上であることが好ましく、10個以上であることがより好ましく、100個以下であることが好ましく、50個以下であることがより好ましい。
【0022】
上記スポンジ様多孔質体を構成する生体吸収性材料は特に限定されず、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-ε-カプロラクトン、ラクチド-グリコール酸共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリ-β-ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタメート、ポリ-γ-メチル-L-グルタメート、ポリ-L-アラニン、ポリグリコールセバスチン酸等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。なかでも、生体との親和性が高いことから、コラーゲンを含有することが好ましい。
【0023】
上記スポンジ様多孔質体がコラーゲンを含有する場合、コラーゲンを50重量%以上含有することが好ましい。上記スポンジ様多孔質体中のコラーゲンの含有量は60重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることが更に好ましく、80重量%以上であることがより更に好ましく、90重量%以上であることが特に好ましく、95重量%以上であることが非常に好ましく、100重量%であることが最も好ましい。
【0024】
上記コラーゲンは、牛、豚等の皮膚や腱等に由来するものを特に限定なく用いることができる。なかでも抗原性を排除してより安全性を高める観点から、コラーゲンをプロテアーゼやペプシン等の酵素で処理して、テロペプチドをできる限り除去したアテロコラーゲンが好ましい。
【0025】
コラーゲンを含有する上記スポンジ様多孔質体の市販品としては、例えば、ペルナック(スミス・アンド・ネフューウンドマネジメント社製)、テルダーミス(テルモ社製)等が挙げられる。
【0026】
上述したような本発明の脂肪組織再生基材に用いられる粒状体であって、内部空間を有し表面に前記内部空間へ通じる開口部を複数有する生体吸収性材料からなる粒状体もまた、本発明の1つである。
【0027】
上記袋状体の形状は特に限定されず、長方形の袋状、円形の袋状等、埋植部位での成形のしやすさに応じていかなる形状も用いることができる。また、具体的な態様としてはフィラメントを編んで袋状にした網や、多孔質の袋状体等が挙げられる。
【0028】
上記袋状体を構成する生体吸収性材料は特に限定されず、粒状体と比べて長期間の強度維持を要しないことから上記スポンジ様多孔質体を構成する生体吸収性材料と同様のものを用いることができる。ただし、複数の粒状体を保持、全体形状を維持するための強力は必要であり、インプラントとして生体内に埋植することから、炎症反応又は異物反応が極力少ないものが好ましい。このような生体吸収性材料としては、縫合糸として用いることのできる素材が挙げられ、ポリグリコリド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン、トリメチレンカーボネート又はこれらの共重合体を用いることが好ましく、ポリグリコリド、ポリグリコリドと他の生体吸収性材料との共重合体又は乳酸と他の生体吸収性材料との共重合体を用いることがより好ましい。
【0029】
上記袋状体が網である場合、上記袋状体を構成するフィラメントの太さは特に限定されないが、柔軟性と強度のバランスの観点から0.01mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましく、2mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
【0030】
上記袋状体の開口部の占有率は特に限定されず、細胞をスムーズに粒状体へ通過させることができれば特に限定されないが、袋状体の表面積の50%以上99%以下の占有率であることが好ましい。上記範囲の開口部の占有率であると、袋状体の強度と細胞の侵入性のバランスをより高めることができる。上記袋状体の開口部の占有率は、袋状体の表面積の60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましく、95%以下であることがより好ましく、90%以下であることが更に好ましい。
【0031】
上記袋状体の開口部のサイズは、粒状体への細胞の侵入を阻害せず、上記粒状体が袋状体の外へ飛び出さなければ特に限定されないが、袋状体の開口部の最大長さが上記粒状体の短径の1/50倍以上であることが好ましく、1/20倍以上であることがより好ましく、1/3倍以下であることが好ましく、1/10倍以下であることがより好ましい。袋状体の開口部のサイズを上記範囲とすることで得られる脂肪組織再生基材全体の形状付与性と操作性をより高めることができる。
【0032】
上記袋状体が網である場合、上記袋状体の網目のサイズの具体的な数値としては、例えば、縦、横共に0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましく、0.05mm以上0.1mm以下であることがより好ましい。
【0033】
上記袋状体のサイズは、埋植部位の体積及び上記粒状体の数に応じて適宜調節することができるが、脂肪組織再生基材の成形性を高めつつ埋植後の上記粒状体の崩れを抑える観点から、上記袋状体の内部空間は、上記粒状体の総体積の1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、3倍以下であることが好ましく、2倍以下であることがより好ましい。なお、上記粒状体の総体積は、粒状体の内部空間の体積も含む。
【0034】
本発明の脂肪組織再生基材の製造方法は特に限定されず、例えば、上記スポンジ様多孔質体を生体吸収性材料からなるメッシュで包んで端部を閉じることで粒状体を複数製造し、得られた粒状体を生体吸収性材料からなる袋状体で包んで端部を閉じることで製造することができる。また、粒状体を製造した後にスポンジ様多孔質体材料を開口部より挿入することも可能である。メッシュまたは袋状体の端部を閉じる方法は特に限定されず、例えば、フィラメント同士を結ぶ方法や熱圧着等が挙げられる。
【0035】
本発明の脂肪組織再生基材は、脂肪組織に埋植して脂肪組織を再生する用途に用いられる。本発明を用いれば、自己の細胞からなる生きた脂肪組織を他の部位から組織を埋植することなく再生することができる。本発明を用いることができる脂肪組織としては、例えば、乳房、臀部、腹部等が挙げられる。なかでも、本発明は、大体積の脂肪組織を正常な形状で再生できることから、乳房の部分的切除によって生じた欠損部に埋植して乳房を再生する用途に大きな効果を発揮する。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、取り扱い性が高く、大体積の脂肪組織を正常な形状で再生することができる脂肪組織再生基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図3】孔状欠損に対する成形性の測定結果を表すグラフである。
【
図4】水平状欠損に対する成形性の測定結果を表すグラフである。
【
図5】実施例1で得られた脂肪組織再生基材をブタの筋膜上欠損部に移植後0(移植直後)、1、3、6、9か月後の核磁気共鳴画像(MRI)である。
【
図6】実施例1で得られた脂肪組織再生基材をブタの筋膜上欠損部に移植後6か月後における移植部のヘマトキシリンエオジン(HE)染色像である。
【
図7】実施例1で得られた脂肪組織再生基材をブタの筋膜上欠損部に移植後6か月後における移植部のオイルレッドO染色像である。
【
図8】実施例1で得られた脂肪組織再生基材をブタの筋膜上欠損部に移植後6か月後における移植部のアザン染色像である。
【
図9】実施例1で得られた脂肪組織再生基材をブタの筋膜上欠損部に移植後6か月後における移植部の抗CD31抗体免疫染色像である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
コラーゲンスポンジ(ペルナック、スミス・アンド・ネフューウンドマネジメント社製)をポリ乳酸(重量平均分子量:220,000)からなるメッシュ(フィラメントの太さ:0.2mm~0.25mm、メッシュ開口部:1×1mm~2×2mm)で包み、端部を熱圧着によって閉じることで、コラーゲンスポンジを内部に有する、長径18mm、短径7.5mmの楕円球状の粒状体を得た。次いで、同様の方法で粒状体を30個作製し、得られた粒状体を110mm×35mmのポリグリコリドマルチフィラメントからなる封筒形状の袋状体(フィラメントの構成:0.015mm×12、網目サイズ:0.05mm×0.05mm)で包み、端部を熱溶着して閉じることで、脂肪組織再生基材を得た。
【0040】
(実施例2)
コラーゲンスポンジを用いなかった以外は実施例1と同様にして脂肪組織再生基材を得た。
【0041】
(比較例1)
実施例1の粒状体30個をそのまま脂肪組織再生基材として用いた。
【0042】
<評価>
実施例及び比較例で得られた脂肪組織再生基材について以下の評価を行った。
【0043】
(組織再生性の評価1)
ミニブタ(約20kg)の背部皮下を切開し、正中線の左側に実施例1、2で得られた脂肪組織再生基材を埋植した。4ヶ月後、脂肪組織再生基材を埋植した部分を取り出し、組織の再生の有無を確認したところ、約4cmの組織が再生された。
【0044】
(組織再生性の評価2)
実験動物として大型動物であるミニブタ(約25kg)を用意し、腹部の皮膚を正中切開した。次いで、腹部左右の脂肪・乳腺組織を剥離し、乳腺下、筋膜上に欠損部を作製した。筋膜上欠損部に、実施例1で得られた脂肪組織再生基材を移植し、皮膚を縫合した。
術後、0(移植直後)、1、3、6、9か月後に腹部の核磁気共鳴画像(MRI)を撮影した。撮影した核磁気共鳴画像(MRI)を
図5に示した。
また、術後6か月後に腹部右の筋層上脂肪組織を取り出し、移植部分を摘出した。得られた検体を切片標本にし、ヘマトキシリンエオジン(HE)染色、オイルレッドO染色、アザン染色および抗CD31抗体免疫染色を行った。各染色を行った顕微鏡写真像をそれぞれ
図6、
図7、
図8および
図9に示した。
図5より、術後6か月後には、脂肪組織再生基材を移植した部分において、脂肪組織や乳腺組織と接している周辺部からの脂肪組織の再生(
図5のMRI像(T1強調像)において白く呈色された部分)が認められた。また、術後9か月後には、より大きな範囲に脂肪組織再生基材の周辺部から脂肪組織の再生が認められた。
加えて、
図6、
図7及び
図8より、術後6か月後には、脂肪組織再生基材の内部に脂肪組織やコラーゲン組織の形成が認められた。また、
図9より、この脂肪組織やコラーゲン組織に血管の形成が認められた。
【0045】
(成形性の評価)
(1)孔状欠損に対する成形性
皮膚と脂肪組織の代用として皮付きの鶏胸肉358gを用意し、皮を部分的に剥がして肉の部分を露出させた。次いで、露出させた肉に十字切り込みを入れ、更に中央部をくりぬいて孔状欠損部を作った。皮を元の位置に戻したうえで切り込みの長さ(縦、横)及び欠損部の高さを測定した。その後、欠損部に実施例1で得られた脂肪組織再生基材を埋植し、皮を元の位置に戻したうえで切り込みの長さ(縦、横)及び欠損部の高さを測定した。
次いで、比較例1の脂肪組織再生基材30個を用いて同様の方法で切り込みの長さ(縦、横)及び欠損部の高さを測定した。測定結果を
図3に示した。測定結果より、比較例1は脂肪組織再生基材が切り込み部位へ入り込んで高さ方向へ成形しづらい一方、実施例1は脂肪組織再生基材が縦横の方向へあまり広がらず、高さ方向へ山を作るように密集していることから、高さのある形状を成形しやすく、乳房や臀部等の脂肪組織の成形性に優れることが分かる。
【0046】
(2)水平状欠損に対する成形性
皮膚と脂肪組織の代用として皮付きの鶏胸肉379gを用意し、皮を部分的に剥がして肉の部分を露出させた。次いで、露出させた肉の筋繊維方向に一本の切り込みを入れ、切り込みの長さ(横)、切り込みを開いたときの長さ(縦)及び切り込みの高さを測定した。その後、切り込み部に実施例1で得られた脂肪組織再生基材を埋植し、切り込みの長さ(縦、横)及び高さを測定した。次いで、比較例1の脂肪組織再生基材30個を用いて同様の方法で切り込みの長さ(縦、横)及び高さを測定した。
この際、実施例1及び比較例1の脂肪組織再生基材を埋植した状態を観察したところ、実施例1では切り込みから脂肪組織再生基材がはみ出ることはなかったが、比較例1では複数個の脂肪組織再生基材が切り込みから突出、脱落していた。なお、比較例1の測定は、突出、脱落した脂肪組織再生基材を切り込み内へ押し込んだ後に行った。
測定結果を
図4に示した。測定結果より、比較例1は脂肪組織再生基材が切り込みの縦方向に広がって高さ方向へ成形しづらい一方、実施例1は縦、横方向へ広がりにくく、高さ方向へ山を作るように密集していることから、高さのある形状を成形しやすく、乳房や臀部等の脂肪組織の成形性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、取り扱い性が高く、大体積の脂肪組織を正常な形状で再生することができる脂肪組織再生基材を提供することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 粒状体
2 スポンジ様多孔質体
3 袋状体