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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-08
(45)【発行日】2025-05-16
(54)【発明の名称】文を評価する方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 40/253 20200101AFI20250509BHJP
【FI】
G06F40/253
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024551798
(86)(22)【出願日】2023-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2023037438
(87)【国際公開番号】W WO2024085119
(87)【国際公開日】2024-04-25
【審査請求日】2024-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2022169511
(32)【優先日】2022-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511113970
【氏名又は名称】株式会社インタラクティブソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(74)【代理人】
【識別番号】100219933
【弁理士】
【氏名又は名称】元川 信輔
(72)【発明者】
【氏名】関根 潔
【審査官】長 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-129830(JP,A)
【文献】特開2022-140337(JP,A)
【文献】特開2021-64190(JP,A)
【文献】特開2013-61748(JP,A)
【文献】特開平11-259480(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111007(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 40/00-58
G06F 16/00-958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムを記憶したコンピュータが読み取ることができる非一時的情報記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,コンピュータによる文を評価する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許7049010号公報には,プレゼンテーション評価システムが記載されている。
【0003】
この評価システムは,キーワードの数,関連語の数,キーワードの組み合わせ又は関連語の組み合わせに基づいて,会話の内容又は会話を行った者を評価する。この場合,文脈からして会話が誤っていても,会話にキーワードなどが含まれる場合,正しいと評価してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許7049010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は,文脈も評価できるコンピュータによる文を評価する方法を提供することを目的とする。
【0006】
この発明は,上記の評価方法を用いた学習支援方法を提供することを目的とする。
【0007】
この発明は,文脈を評価したうえで,ロールプレイを行うことができるように,ある文の後続文を得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この方法は,基本的には,助詞を含むキーセンテンスを用いて文を評価することで,文脈を正しく把握できる文を評価する方法に関する。
この方法は,コンピュータが,キーセンテンスに基づくか,キーセンテンスに基づいて,文を評価する方法である。
【0009】
この方法の例は,文入力工程(S101)と,文中単語抽出工程(S102)と,キーセンテンス抽出工程(S103)と,文評価工程(S104)とを含む。
文入力工程(S101)は,コンピュータに,評価対象である文が入力される工程である。
文中単語抽出工程(S102)は,コンピュータが,評価対象である文に含まれる単語である文中単語を抽出する工程である。
キーセンテンス抽出工程(S103)は,コンピュータが,評価対象である文に含まれるキーセンテンスを抽出する工程である。キーセンテンスは,文中単語を1つ又は2つ以上含むとともに1又は2つ以上の助詞を含む。
文評価工程(S104)は,コンピュータが,キーセンテンスに基づくか,キーセンテンスに基づいて,文を評価する工程である。
【0010】
文入力工程(S101)の例は,コンピュータに音声が入力される工程と,コンピュータが,コンピュータに入力された音声を解析して,評価対象である文を得る工程を含む。
【0011】
評価対象である文の例は,説明文又は解答文である。
【0012】
文中単語の例は,評価対象である文と関連した文中単語を記憶する文中単語記憶部に記憶された単語である。
【0013】
キーセンテンスの例は,評価対象である文と関連したキーセンテンスを記憶するキーセンテンス記憶部に記憶されたものである。
【0014】
キーセンテンスの例は,評価対象である文において,連続した位置に存在する単語群であってもよいし,離れた位置に存在する単語群であってもよい。
【0015】
上記の方法の利用例は,コンピュータによる学習支援方法である。
【0016】
上記の方法の別の利用例は,コンピュータによる後続文を作成する方法に関する。
この方法は,さらに,後続文作成工程(S105)を含む。後続文作成工程(S105)は,評価に基づいて,評価対象である文に続く文である後続文を得る工程である。コンピュータは,評価に対応した後続文を記憶する後続文記憶部を有する。そして,後続文作成工程(S105)は,コンピュータが,評価対象である文の評価を用いて,評価に対応した後続文を読み出す。
【0017】
この明細書は,コンピュータによる文を評価するシステムも開示する。
このシステム1は,コンピュータが文を評価するシステムである。このシステム1は,文入力部3と,文中単語抽出部5と,キーセンテンス抽出部7と,文評価部9とを含む。
文入力部3は,評価対象である文を入力するための要素である。
文中単語抽出部5は,評価対象である文に含まれる単語である文中単語を抽出するための要素である。
キーセンテンス抽出部7は,評価対象である文に含まれるキーセンテンスを抽出するための要素である。キーセンテンスは,文中単語を1つ又は2つ以上含むとともに1又は2つ以上の助詞を含む。
文評価部9は,キーセンテンスに基づいて,文を評価するための要素である。
【0018】
この明細書は,上記したシステムを利用した学習支援システムをも開示する。
【0019】
この明細書は,上記したシステムを利用した後続文を作成するシステムをも開示する。後続文を作成するシステムは,後続文作成部を有する。
【0020】
この明細書は,コンピュータに上記した方法を実行させるか,コンピュータが上記したシステムとして機能させるためのプログラムや,そのようなプログラムを記録したコンピュータが読み取ることができる非一時的情報記録媒体をも開示する。
【発明の効果】
【0021】
この発明は,文脈も評価できるコンピュータによる文を評価する方法を提供できる。
【0022】
この発明は,上記の評価方法を用いた学習支援方法を提供できる。
【0023】
この発明は,文脈を評価したうえで,ロールプレイを行うことができるように,ある文の後続文を得ることができる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は,コンピュータを用いた文の評価方法を説明するためのフローチャートである。
図2図2は,コンピュータによる文を評価するシステムの構成例を示すブロック図である。
図3図3は,実施例1における実験の概要を示す図である。
図4図4は,iRolePlay(登録商標)の実装例を示す図である。
図5図5は,単語暗記学習の記憶定着度の検証を示す図面に代わるグラフである。
図6図6は,発話学習を用いた単語説明文の定着率を示す図面に代わるグラフである。
図7図7は,ロールプレイのコンセプトを説明した概念図である。
図8図8は,MRの解答によって,AIドクターの対応が分岐するロールプレイの例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0026】
この方法は,基本的には,助詞を含むキーセンテンスを用いて文を評価することで,文脈を正しく把握できる文を評価する方法に関する。この方法は,コンピュータが,キーセンテンスに基づくか,キーセンテンスに基づいて,文を評価する。
【0027】
「文を評価する」とは,文が正しい解答であるか解釈するものや,文がいずれのカテゴリーに属するか解釈するもの,文の出来の良さの程度を求めるもののいずれであってもよい。
【0028】
図1は,コンピュータを用いた文の評価方法を説明するためのフローチャートである。図1に示されるように,この方法の例は,文入力工程(S101)と,文中単語抽出工程(S102)と,キーセンテンス抽出工程(S103)と,文評価工程(S104)とを含む。この方法は,後続文作成工程(S105)をさらに含んでもよい。Sはステップ(工程)を意味する。
【0029】
図2は,コンピュータによる文を評価するシステムの構成例を示すブロック図である。図2に示されるように,このシステム1は,文入力部3と,文中単語抽出部5と,キーセンテンス抽出部7と,文評価部9とを含む。このシステムは,文中単語記憶部6,キーセンテンス記憶部8及び,文評価情報記憶部10のいずれか又は2つ以上をさらに有してもよい。このシステム1は,後続文作成部11をさらに有してもよい。このシステム1が後続文作成部11を有する場合,このシステム1は,後続文記憶部13をさらに有してもよい。文入力部3は,評価対象である文を入力するための要素である。文中単語抽出部5は,評価対象である文に含まれる単語である文中単語を抽出するための要素である。キーセンテンス抽出部7は,評価対象である文に含まれるキーセンテンスを抽出するための要素である。文評価部9は,キーセンテンスに基づくか,キーセンテンスに基づいて,文を評価するための要素である。後続文作成部11は,評価対象である文に続く文である後続文を得るための要素である。このシステム1は,上記した方法を実行するためのコンピュータによるシステムである。
【0030】
コンピュータは,入力部,出力部,制御部,演算部及び記憶部を有しており,各要素は,バスなどによって接続され,情報の授受を行うことができるようにされている。例えば,記憶部には,制御プログラムが記憶されていてもよいし,各種情報が記憶されていてもよい。入力部から所定の情報が入力された場合,制御部は,記憶部に記憶される制御プログラムを読み出す。そして,制御部は,適宜記憶部に記憶された情報を読み出し,演算部へ伝える。また,制御部は,適宜入力された情報を演算部へ伝える。演算部は,受け取った各種情報を用いて演算処理を行い,記憶部に記憶する。制御部は,記憶部に記憶された演算結果を読み出して,出力部から出力する。このようにして,各種処理や各工程が実行される。この各種処理を実行するものが,各部や各手段である。コンピュータは,プロセッサを有し,プロセッサが各種機能や各種工程を実現するものであってもよい。コンピュータは,スタンドアロンであってもよい。コンピュータは,機能の一部がサーバと端末に分散されていてもよい。その場合サーバと端末とは,インターネットやイントラネットなどのネットワークにより,情報の授受を行うことができるようにされていることが好ましい。
【0031】
コンピュータは、各種外部装置から無線にて送信された情報や、光信号として出力された情報を受け取り、電気信号に変換して、利用してもよい。光信号や電気信号は、オンオフキーイングの他、各種変調信号が含まれてもよい。また、記憶部は、例えば、電荷の有無に基づいて、各種入力情報を記憶してもよいし、量子状態など複数の物理的状態に基づいて、各種入力情報を記憶してもよい。
コンピュータが、単語やキーセンテンスを抽出する際に、記憶部に記憶された単語やキーセンテンスと、入力文とを照合し、入力文に含まれる単語やセンテンスが、記憶部に記憶された単語やキーセンテンスと一致する場合に、一致した単語やキーセンテンスを抽出してもよい。また、機械学習を行って学習モデルを構築しておき、入力文と、記憶部に記憶された単語やキーセンテンスとを学習モデルに入力することで、特定の単語やキーセンテンスを出力してもよい。
【0032】
コンピュータは、例えば、機械学習用エンジンを搭載しており、機械学習により、教師データを用いて、学習済みモデルを構築し、各種情報を学習済みモデルに入力することで、各種情報を得てもよい。求めた各種情報は、記憶部に記憶されてもよい。学習済みモデルは、得られた各種情報をフィードバックすることにより精度を向上させることができる。また、教師データや正解データ、教師データや不正解データの入力を繰り返すことで、学習済みモデルの精度を向上させることができる。例えば、この発明では、様々な文と、評価値を教師データとして、機械学習を行って学習モデルを構築し、文の評価を得るようにしてもよい。また、1又は複数のキーセンテンスと評価値(文がどの程度優れているかについての評価値)を教師データとして機械学習を行って学習モデルを構築し、文の評価を得るようにしてもよい。また、すでに評価値が得られている文について、1又は複数のキーセンテンスを得て、1又は複数のキーセンテンスを学習済みモデルに入力して、評価値を得てもよい。そして、そのようにして得られた評価値と、文自体の評価値とを比較し、その比較結果を、教師データとしてフィードバックし、学習モデルの精度を向上させてもよい。
【0033】
文入力工程(S101)は,コンピュータに,評価対象である文が入力される工程である。システム1における文入力部3が,評価対象である文をシステムに入力すればよい。例えば,入力装置(例えば,キーボードやマウス)を用いて,文がコンピュータに入力されてもよい。また,マイクなどの音声入力装置を用いて,文のもととなる音声がコンピュータに入力されてもよい。コンピュータに入力された音声は,公知の方法により音声認識がなされ,評価対象である文が得られてもよい。この場合,コンピュータは,音声をデジタル化する演算処理を行うとともに,デジタル化された音声を適宜記憶部に記憶する。そして,コンピュータは,音声に含まれる単語や用語を解析する音声解析部を有してもよい。音声解析部は,記憶部から音声解析用プログラムと,デジタル化された音声を読み出して,音声を解析し,評価対象である文を得ることができる。得られた評価対象である文は,適宜記憶部に記憶されてもよい。
【0034】
コンピュータに評価対象である文が入力される際に,文が何かと関連するものである場合,文が関連するものに関する情報もコンピュータに入力されてもよい。すると,このシステムは,その文が関連するものに関する各種情報を用いて,各種演算処理を行うことができることとなる。演算処理の例は,音声解析,単語抽出,センテンス抽出,及び後続文解析における各種演算である。文が関連するもの例は,プレゼンテーション資料,プレゼンテーション資料のページ,報告書,会議資料,医薬,設問,問題,アンケート,質疑応答集,電話応対記録及びチャットボットマニュアルである。例えば,ある端末においてプレゼンテーション資料が起動されると,そのプレゼンテーション資料に関連した情報が,システムに入力されてもよい。この場合,後述するように,そのプレゼンテーション資料に関連した辞書や記憶部を利用できることとなる。評価対象である文はあらゆる文であってもよい。評価対象である文の例は,説明文又は解答文である。つまり,このシステムは,ある者が他の者に説明する際の文を評価したり,ある設問に関する解答文を自動的に評価することに用いることができる。また,このシステムは,入力された質問を自動的に解釈して,その解答を効果的に作成できる。
【0035】
例えば,あるMR(Medical Representative/医薬情報担当者)が,ある医薬Aに関する情報をシステムに入力するか,ある医薬Aに関する説明資料を起動して,表示部にその説明資料を表示する。すると,システムは,それ以降の発話や会話が,医薬Aに関するものであることに関する情報を記憶部に記憶する。
そして,マイクにあるMRの「にんしんまたはにんしんしているかのうせいのあるじょせいにはちりょうじょうのゆうえきせいがきけんせいをうわまわるとはんだんしたばあいにとうよしてください」との音声が入力される。
【0036】
システムは,医薬Aに関する用語変換辞書(医薬Aに関する変換用用語記憶部)を参酌して,上記の音声を用語解析する。医薬Aに関する用語変換辞書には,「妊婦」「妊娠している」「可能性のある」「女性」「治療」「治療上」「有益性」「危険性」「上回る」「判断」「場合」「投与」を含む単語が優先順位の高い単語として記憶されている。例えば,この辞書には,「女性」の方が「助成」より優先順位の高い単語として記憶されているので,上記の入力音声のうち「じょせい」については,「女性」が優先して読み出される。
【0037】
このようにして,システムには,医薬Aに関して,「妊婦または妊娠している可能性のある女性には治療上の有益性が危険性を上回ると判断した場合に投与してください」という文が入力される。
【0038】
文中単語抽出工程(S102)は,コンピュータが,評価対象である文に含まれる単語である文中単語を抽出する工程である。文中単語抽出部5が,評価対象である文に含まれる単語である文中単語を抽出する。システムは,文中単語に関する辞書を有しており,記憶部から評価対象である文を読み出して,辞書中の単語と比較することで,評価対象である文から,文中単語を抽出してもよい。また,文が関連するものに関する情報がコンピュータに入力された場合,文が関連するものに関する辞書であって,文中単語を抽出するための辞書(文中単語記憶部6)を用いることで,文中単語を容易に抽出できることとなる。この場合,文中単語の例は,評価対象である文と関連した文中単語を記憶する文中単語記憶部に記憶された単語である。システム(文中単語抽出部5)は,文中単語記憶部6に記憶された文中単語を読み出して,評価対象である文と比較することにより,評価対象である文に含まれる文中単語を抽出することができる。システムが抽出した文中単語は,システムが適宜記憶部に記憶してもよい。システムは,このようにして文中単語を得ることができる。
【0039】
システムは,医薬Aに関する文中単語記憶部6を有している。医薬Aに関する文中単語記憶部6には,「妊婦」「妊娠」「女性」「有益性」「危険性」「上回る」「投与」を含む単語が優先順位の高い文中単語として記憶されている。
【0040】
このためシステムに入力された,医薬Aに関する,「妊婦または妊娠している可能性のある女性には治療上の有益性が危険性を上回ると判断した場合に投与してください」という文から「妊婦」「妊娠」「女性」「有益性」「危険性」「上回る」「投与」という文中単語が抽出される。なお,システムに音声が入力される場合,用語変換辞書と文中単語記憶部6とは同一であってもよいが,異なるものであることが好ましい。つまり,用語変換に用いられる用語と,文中単語として抽出される単語とは同一であってもよいものの,目的が異なるため異なるものであってもよい。
【0041】
キーセンテンス抽出工程(S103)は,コンピュータが,評価対象である文に含まれるキーセンテンスを抽出する工程である。例えば,キーセンテンス抽出部7が,評価対象である文に含まれるキーセンテンスを抽出する。キーセンテンスは,文中単語を1つ又は2つ以上含むとともに1又は2つ以上の助詞を含む。キーセンテンスには,文中単語が1又は2つ以上含まれてもよい。そして,1つのキーセンテンスに含まれる文中単語が2つ以上の場合,それらの文中単語は,評価対象である文に連続して存在する文中単語であってもよいし,それらの文中単語が登場する前に,1又は2以上の他の文中単語や名詞が存在してもよい。
【0042】
上記の文中単語抽出工程(S102)では,評価対象である文に含まれる単語が抽出された。しかし,単語のみを用いても,正しい文(説明文や解答文)であるか判断できないことがある。このため,このシステム1は,キーセンテンス抽出工程(S103)によりキーセンテンスを抽出する。キーセンテンスは,文が正しい説明文や正しい解答文であるか評価するために用いられる文節を意味する。キーセンテンスは通常2つ以上の単語を含む。キーセンテンスは,評価対象である文と関連したキーセンテンスを記憶するキーセンテンス記憶部8に記憶されたものであってもよいし,ある文中単語Aと,評価対象である文に含まれる文中単語Aと関連した助詞とを含むものとして評価対象である文から抽出されたものであってもよい。なお,文中単語抽出工程(S102)とキーセンテンス抽出工程(S103)とは便宜的なものであり,これらが同時に行われてもよい。この場合,キーセンテンス抽出工程(S103)を行う際に文中単語も抽出される。
【0043】
前者の場合,システム(キーセンテンス抽出部7)は,キーセンテンス記憶部8に評価対象である文と関連して記憶されるキーセンテンスを1又は複数読み出して,評価対象である文と比較する演算を行い,評価対象である文に含まれるキーセンテンスを抽出すればよい。システムは,抽出した評価対象である文に含まれるキーセンテンスを,適宜記憶部に記憶してもよい。
【0044】
後者の場合,システム(キーセンテンス抽出部7)は,例えば,キーセンテンス記憶部8に評価対象である文と関連して記憶されるキーセンテンス用の文中単語を記憶する。そして,システムは,キーセンテンス記憶部8からキーセンテンス用の文中単語を読み出すとともに,評価対象である文からキーセンテンス用の文中単語とそれに続く助詞を読み出して,評価対象である文からキーセンテンスを抽出してもよい。システムは,抽出した評価対象である文に含まれるキーセンテンスを,適宜記憶部に記憶してもよい。
【0045】
例えば,医薬Aは,妊婦または妊娠している可能性のある女性に対して,有益性が危険性を上回る場合に投与される。しかし,文中単語を抽出しただけでは,評価対象である文が,危険性が有益性を上回る旨の文である可能性もある。このような文は,医薬Aに関する説明文として正しくない。そこで,キーセンテンス記憶部8は,(「治療上の有益性が」・・・「危険性を上回る」)というキーセンテンスを記憶する。また,キーセンテンス記憶部8は,(「有益性が上回る」),(「危険性が下回る」),(「危険性が低い」)というキーセンテンスを記憶してもよい。キーセンテンス記憶部8は,投与対象について「妊婦」,「妊娠」という文中単語,薬効に対して,上記のいずれかを含むキーセンテンスを記憶してもよい。
【0046】
このため,「妊婦または妊娠している可能性のある女性には治療上の有益性が危険性を上回ると判断した場合に投与してください」という文から,例えば,主体として,(「妊婦」及び「妊娠」のいずれか又は両方)と,薬効に関して(「治療上の有益性が」),(「危険性を上回る」)というキーセンテンスが抽出される。
【0047】
文評価工程(S104)は,コンピュータが,キーセンテンスに基づいて,文を評価する工程である。例えば文評価部9が,キーセンテンスに基づいて,評価対象である文を評価する。システム1は,文評価情報記憶部10をさらに有してもよい。文評価情報記憶部10は,例えば,キーセンテンスと,キーセンテンスに関する評価情報を記憶する。評価情報の例は,そのキーセンテンスが評価対象である文として正しいか否かに関する情報,そのキーセンテンスがいずれのカテゴリーに属するかに関する情報,及びキーセンテンスと関連された評価値である。システム(文評価部9)は,キーセンテンス抽出工程(S103)で抽出したキーセンテンスを用いて,文評価情報記憶部10から抽出したキーセンテンスに関する評価を読み出す。このようにして,システム1は,評価対象である文を評価できる。
【0048】
キーセンテンスと関連された評価値は、各キーセンテンスと関連して記憶部に記憶された評価値(点数)であってもよい。例えば、評価値が高いほど、適切なキーセンテンスが用いられたことがわかるようにしてもよい。その結果、適切なキーセンテンスが用いられた文は、評価値が高くなり、高い評価が得られるようにしてもよい。複数の評価値が得られた場合は、それらの評価値を合算して、文の評価値(どの程度優れているかの指標)を得てもよい。
【0049】
例えば,文評価情報記憶部10は,医薬Aと関連して,(「妊婦」及び「妊娠」のいずれか又は両方)と,(「治療上の有益性が」)及び(「危険性を上回る」)を含むキーセンテンスと関連し,評価として「正しい」を記憶する。すると,文評価部9は,上記のキーセンテンスを用いて,文評価情報記憶部10から「正しい」という評価を読み出す。文評価部9は,読み出した「正しい」という評価を,評価対象である文の評価として記憶部に記憶してもよい。そのうえで,システム1は,「正しい」という評価を出力してもよい。また,文評価情報記憶部10に,(「妊婦」及び「妊娠」のいずれか又は両方)と,(「治療上の有益性が」)及び(「危険性を上回る」)を含むキーセンテンスと関連し,「投与処方」というカテゴリーが記憶されていたとする。すると,システム1は,抽出したキーセンテンスを用いて,医薬Aと関連して,「投与処方」というカテゴリーを評価のひとつとして読み出す。この場合,システム1は,医薬Aと関連して,「投与処方」というカテゴリーについて,「正しい」という評価を得てもよい。
【0050】
文中単語記憶部6は,文中単語と関連して,単語の分類を記憶してもよい。分類の例は,肯定,否定及び曖昧である。表1は,分類と,各分類に関する文中単語の例を示す。また,キーセンテンスに,文中単語が含まれる場合,キーセンテンス記憶部8には,その文中単語に関する分類が記憶されていてもよい。文評価情報記憶部10には,キーセンテンスに含まれる文中単語の分類が記憶されていてもよい。システム(文評価部9)は,キーセンテンス抽出工程(S103)で抽出したキーセンテンスを用いて,文評価情報記憶部10から抽出したキーセンテンスに関する評価を読み出す。例えば,システム1は,抽出されたキーセンテンスを用いて,文評価情報記憶部10(キーセンテンス記憶部8,又は文中単語記憶部6)から,そのキーセンテンスに含まれる文中単語の分類に関する情報(例えば,肯定,否定及び曖昧)を読み出す。そして,読み出したキーセンテンスに含まれる文中単語の分類が否定である場合(又は曖昧である場合)は,その評価対象文の評価を誤り(不適切)のように評価してもよい。このようにすれば,曖昧な文表現を行う事態を防止し,回答能力を向上させることができる。
【0051】
なお,キーセンテンスではなく,評価対象となる文から文中単語を抽出し,抽出した文中単語の分類に基づいて,評価対象となる文を評価する発明もこの明細書に記載された発明である。この発明では,キーセンテンス抽出工程(S103)やキーセンテンス抽出部7は不要となる。
【0052】
【表1】
【0053】
後続文作成工程(S105)は,評価に基づいて,評価対象である文に続く文である後続文を得る工程である。後続文作成部11が,評価対象である文に続く文である後続文を得てもよい。コンピュータは,例えば,評価に対応した後続文を記憶する後続文記憶部13を有する。そして,後続文作成工程(S105)は,コンピュータが,評価対象である文の評価を用いて,評価に対応した後続文を読み出す。コンピュータには,文が関連するものに関する情報が入力されており,文が関連するものに関する情報に対応した後続文記憶部13から適切な後続文を読み出してもよい。例えば,文が関連するものに関する情報が「ある設問」であり,評価が「正しい」(正答)である場合,後続文記憶部13には,「よくできました。」という評価と,その設問に関する解説が記憶される。システム(後続文作成部11)は,記憶部から評価を読み出して,後続文記憶部13から,その評価に対応した後続文である「よくできました。」という評価と,その設問に関する解説を読み出し,適宜記憶部に記憶する。読み出された後続文は,適宜出力されてもよい。文が関連するものに関する情報がある商品に関するチャットボットであり,評価が「課題特定」(カテゴリー)である場合,その評価に基づいて,評価対象である文に対する回答を後続文記憶部13から読み出して,適切な回答を得ればよい。このようにして,システムは,後続文を得ることができる。例えば,文の評価が「疑問文」や「質問」である場合は,文に対する回答が得られることとなる。
【0054】
システム1に医薬Aに関して,「妊婦または妊娠している可能性のある女性には治療上の有益性が危険性を上回ると判断した場合に投与してください」という入力がなされ,システム1は,この文から,文中単語やキーセンテンスを抽出し,医薬Aと関連して,「投与処方」というカテゴリーについて,「正しい」という評価を得たとする。例えば,後続文記憶部13には,上記の,医薬Aと関連して,「投与処方」というカテゴリーについて,「正しい」という評価と関連して,「医薬Aの投与頻度は1日1錠です。」という後続文が記憶されている。システム(後続文作成部11)は,上記の評価を記憶部から読み出し,後続文記憶部13から上記の後続文を読み出し,記憶部に記憶してもよい。また,システムは,上記の後続文を出力してもよい。すると,文の後続文として,「医薬Aの投与頻度は1日1錠です。」が出力されることとなる。
【0055】
コンピュータによる学習支援
上記の方法及びシステムの利用例は,コンピュータによる学習支援方法である。この明細書は,上記したシステムを利用した学習支援システムをも開示する。この態様の発明は,学習支援用アプリケーションとしてダウンロード可能な形式で提供されてもよい。この場合,各設問に関する各種辞書が,サーバに記憶されるか,又は携帯端末にインストールされる。このシステムは,例えば,ある設問Aが記憶部から記憶され,端末の表示部に表示される。ユーザが,その設問に音声にて回答する。ユーザの音声は,端末の入力部を介して,端末に入力される。入力された音声(ユーザの解答)は,評価対象の文として,端末に記憶される。端末及びサーバの何れか又は両方を含むシステムは,その設問Aに関する用語変換辞書,文中単語記憶部6,キーセンテンス記憶部8,文評価情報記憶部10及び後続文記憶部13の何れかまたは2つ以上を有する。このためシステムは,ユーザの解答を評価できる。また,システムは,ユーザの解答に対応した後続文を読み出して,端末の表示部に表示できる。後述するように,単語を単に記憶させるよりも,文を用いて記憶させた方が,記憶が定着するほか,コミュニケーション能力を向上させることができる。このため,この発明を用いた学習支援システムや学習支援方法は,ユーザに高い学習効果を与えることができる。
【0056】
チャットボットやロールプレイ用システム
上記のシステムの利用例は,チャットボットやロールプレイ用システムである。
チャットボットやロールプレイ用システムは,ある商品やサービスなどに関する用語変換辞書,文中単語記憶部6,キーセンテンス記憶部8,文評価情報記憶部10及び後続文記憶部13の何れかまたは2つ以上を有する。すると,電話による音声入力や,インターネットにより自動的に入力された質問等についてのシステムへの入力があった際に,システムは,キーセンテンスを求めて,その商品やサービスなどに関する評価を得て,適宜後続文を得ることができる。すると,質問について,適切な回答を自動的に出力することができることとなる。この場合,例えば,「商品AAの車輪が動かなくなりました。」という入力に対して,システムは,商品AAに関する記憶部を用いて,「電源は入っていますか?」という後続文を得て,質問者へ出力してもよい。また,この回答に,ユーザが,「はい」と入力した場合,システムは,「車輪のまわりをブラシで掃除してみてください。それでも車輪が動かない場合は,サービスセンターにお伝えいただければ,回収に参ります。」といった後続文を得て,質問者へ出力してもよい。
【0057】
会話又はプレゼンテーション支援システム
上記のシステムの利用例は,会話又はプレゼンテーション支援システムである。このっステムは,例えば,説明資料や,プレゼンテーション資料,プレゼンテーション資料の各ページに関する用語変換辞書,文中単語記憶部6,キーセンテンス記憶部8,文評価情報記憶部10及び後続文記憶部13の何れかまたは2つ以上を有する。すると,資料やプレゼンテーション資料に基いて,会話又はプレゼンテーションが行われた場合,キーセンテンスを得ることができ,そのキーセンテンスを用いて,文評価情報記憶部10から適切な評価を得ることができるとともに,後続文記憶部13から適切な後続文を得ることができる。その場合,評価は,「大変良い」や,「優れている」,「いいね」といったものであってもよい。後続文の例は,「AAAではなく,BBBを用いて説明した方がより高い評価が得られます。」といった,会話やプレゼンテーションの向上につながる説明であってもよい。
【0058】
この明細書は,コンピュータに上記した方法を実行させる指示を有し,コンピュータを上記したシステムとして機能させるためのプログラムや,そのようなプログラムを記録したコンピュータが読み取ることができる非一時的情報記録媒体(例えばCD-ROM,DVD,SDカード及びUSBメモリ)をも開示する。
【実施例1】
【0059】
発話学習を用いた学習モデルの考察
「単語・説明文が記憶に定着する」,「定着した記憶が自分の言葉に置き換わる」及び「わかりやすい説明ができる」という3つのステップを経て,わかりやすい説明をすることができるようになると考えられる。この実施例では,「単語・説明文が記憶に定着する」と「定着した記憶が自分の言葉に置き換わる」についての検証結果を考察する。本研究では以下3つの検証事項を検証した.以下の実験では,この明細書におけるコンピュータによる学習支援システムを実装したアプリケーションをロールプレイアプリとして用いた.概要を図3に示す.
【0060】
(i)単語暗記学習の記憶定着度の検証
(ii)発話学習を用いた単語説明文の定着率の測定
(製薬関連の問題を出題し,被験者は20代から50代の男女10名を選出.2つのグループに分け,同様の内容を実施した.)
(iii)iPad(登録商標)ロールプレイアプリでの定着率と学習時間の計測
(ネットワーク関連の問題を出題し,被験者は30代から50代の男女6名を選出し実施した.)
【0061】
単語暗記学習の記憶定着度の検証
まず初めに,黙読によって単語の暗記がどれだけ可能か検証するために,日ごろ使わない単語である製薬業界に関連する21の専門用語をピックアップし,問題を作成した.該当の単語及び説明文の概要を表2に示す.
【0062】
【表2】
【0063】
実証実験初日は,被験者に単語と説明文を記したA4用紙を渡し,その場で10分間,声に出して覚える以外の方法(例えば目視,紙に書く等の方法)で単語を記憶してもらった.10分後に口頭で単語についての説明文を疑問文にして,読み上げる方式にて被験者へ問題を出題した.誤答の場合は正答を口頭でその場で被験者へフィードバックを行った.2日目,3日目はテストのみ実施し,記憶の定着がどのように変化していくのかを観察し,被験者の正答数を集計した.
【0064】
発話学習を用いた単語説明文の定着率の測定
3日間の単語テストが終了後,被験者には単語について説明文を想起することがどれほど出来るか計測するため,単語説明文を話せるかテストを実施した.テストの内容としては,被験者に対して21問の単語を「○○について説明してください」と口頭で質問を投げかけ,被験者の解答を記録した(作業効率化のためiPad(登録商標)音声認識機能を利用して記録).その後,表3に示した通り,全19日間の日程で(業務の都合上により,均等な実施日程ではないことはご了承いただきたい)定期的に同様のテストを繰り返し実施し,結果を記録することで単語説明文の記憶定着率を測定した.
【0065】
【表3】
【0066】
また,発話学習による記憶の定着効果を図る為,測定初日から凡そ3~4日の間隔をあけて,被験者には3回の発話学習を行った.発話学習の内容は,上記の検証と同様に表1で示した単語と説明文を記したA4用紙を渡し,その場で10分間,単語説明文を声に出して記憶してもらった.表2の「記憶テスト」とは,単語説明文をどれだけ話せるかのテストを意味し,「確認テスト」は発話学習直後に単語説明文をどれだけ話せるかの確認するためのテストを指す.
【0067】
iPad(登録商標)ロールプレイアプリでの定着率と学習時間の計測
インタラクティブソリューションズ(登録商標)社が開発したiPhone(登録商標)・iPad(登録商標)アプリ「iRolePlay(登録商標)」を利用して,単語及び説明文の記憶率,学習時間について計測を行った.
「iRolePlay(登録商標)」とは,ユーザの発話内容を音声認識とiPhone(登録商標)・iPad(登録商標)に搭載されたNeural Engineを活用したAIによる客観的な分析評価&アドバイス機能によって「説明力と提案力を習得できる」新時代のリスキリングツールである.2種類のモード(学習モード/チャレンジモード)から構成され,前者は音声で読み上げられた問題に対する解答が表示され発話練習ができる(図4).後者は音声で読み上げられた問題に対する発話による解答練習により実践的な説明力を習得できる.
【0068】
対象の問題は普段馴染みのないネットワークに関する単語21問として,単語学習用と単語説明文学習用2つのコースを用意し,被験者にiPad(登録商標)を配布.3日間,業務の合間の隙間時間での自主学習を促した.図4に示した通り,被験者は学習モード,即ちiPad(登録商標)に問題文と解答が表示されるコースで発話するロールプレイ形式で学習を行った.本アプリでは正解の単語,もしくは説明文を正しく発話することで次の設問に進むことができる仕組みである.テストの方式は,単語を問うもしくは単語説明文を疑問形にした問題が音声で出題されるチャレンジモードを利用し,問題に対して正しく回答できているかを音声認識により判定した.
【0069】
実験結果と考察
単語暗記学習の記憶定着度の検証
単語の暗記学習は声に出すことが有効と前述したが,10分間の記憶で目視,紙に書く等の方法でも78.6%の正答率だった.また,暗記の時間を設けていない2日目の正答率は81.9%,3日目の正答率は87.6%と上昇傾向にあった(図5).
【0070】
考察
”エビングハウスの忘却曲線”で知られるように一般的に記憶は時間経過と共に忘れられていくと言われている.しかし,今回の検証では,誤答への解答を被験者にその場で教えたことも,記憶として残りやすくなり,結果的にテスト点数が上昇した要因と考えられる.実際に被験者へのヒアリングでは,前回テストの際に間違えた問題に対して伝えられた正解が記憶に残っていたとの感想が3人から得られた.単語記憶においては,不正解に対して正解がすぐにフィードバックされることが記憶定着に有効であると示された.
【0071】
発話学習を用いた単語説明文の定着率の測定
単語テスト正答率は87.6%だったが,対して単語説明テストの正答率は43.3%という結果で,半分にも満たなかった.この結果から一問一答形式での単語の解答ができても,その単語について説明ができるわけではないことが証明された.
【0072】
それでは,単語説明文の記憶についての結果を供覧する.単語説明テストにおいて,目視学習と発話学習の結果を比較すると後者の方が前者よりも64%正答率が上昇する結果となった.また,単語説明テストの正答率の推移,即ち記憶の定着率の推移は図6で示した通りである.発話学習を定期的に行うことで全日程を通しての正答率は上昇する経過を辿っている.最初の説明テストから19日が経過した後も回答率は70%を超えている.
【0073】
考察
被験者は発話学習を繰り返すことで,回答例に近い回答(図3で示した説明例)を発話することができるようになった.被験者の音声認識で記録した解答文を分析したところ,発話学習を繰り返すことで解答文中の専門用語の割合が増加している.被験者へのヒアリングでは,普段は使用しない専門用語であっても発話することや耳から音声を取り入れることが,声に出して解答する際に優位に働いたとの声があった.テストの回数を重ねていくにつれて,専門用語を交えながら回答がスラスラと話せるようになっていき,また同時に正答率も緩やかに上昇していった.説明力養成のためには,適切な表現,時には専門用語を交えて相手に話すことが必要である.その点で,今回の検証は発話することによって専門用語が記憶に定着し,単語を話すことに慣れたため,自分の言葉としてスムーズに説明ができるようになったと考えられる.
また,一度覚えた説明文は長期記憶になりやすいことも本検証で明らかになった.各21問の解答結果を見ると一度解答できた問題は日数が経過しても正答率が下がらない.被験者へのヒアリングでは,説明文中のキーワードとなる単語を記憶しておくことで,単語説明テストの際に正しく説明が発話できたとの感想が2人から得ることができた.
【0074】
iPad(登録商標)ロールプレイアプリでの定着率と学習時間の計測
iPad(登録商標)ロールプレイアプリによる検証はいまだ途中ではあるが,単語説明文の正答率の推移は同様の傾向にある.最も大きな利点となったのは,教育者として計測にかかった時間がアプリの配布のみであることだ.上記の検証ではテスト問題出題,誤答に対して正答のフィードバック,テスト結果の採点の全てを踏まえると10人分の成績を上げるまで2480分要している.
また,被検者は隙間時間でいつでも学習することができることがメリットである.アプリのログ取得が可能なため,正確な学習時間計測が可能となり,教育者としては優位な学習指導に繋がると推測される.被験者が単語説明文の正答率をあげるのにどれほど隙間時間を有効に活用し,期間を短縮できるかはこれから検証していく課題である.
【0075】
本研究では,説明力を”適切な表現を用いて相手に説明する力”と定義し,説明力を定着させる3つのステップがあると考えた.単語暗記学習の記憶定着度の検証においては,不正解に対して正解がすぐにフィードバックされることが記憶定着に有効であると示された.一方で,一問一答形式での単語の解答ができても,その単語について説明ができるわけではないことが証明された.
発話学習を用いた単語説明文の定着率の測定においては,発話学習を繰り返すことで単語説明文の定着率を向上させることが明らかになった.また,被検者の単語説明テスト内容から,3つのステップを辿り正答率が上昇していくことが示された.
【実施例2】
【0076】
ロールプレイ
図7は,ロールプレイのコンセプトを説明した概念図である。そのうち「括弧」は,評価であるカテゴリーである。
【0077】
図8は,MRの解答によって,AIドクターの対応が分岐するロールプレイの例を示す概念図である。
【0078】
実際に開発したアプリケーションをコンピュータにインストールし,アプリケーションに基づく指令をコンピュータに実行させた。以下のQは入力された評価対象の文であり,Aはそれに対する後続文である。
Q患者さんの既往歴はいかがですか?
A心筋梗塞を3年前に
Q他に症状はいかがですか?
A頭痛やめまいがあるようですね
Q投与前の所見は?
Aストレス性とおもわれたんだけど
Q現在の対処法は?
A食事療法と降圧剤を飲んでもらっています
Qアイプロ錠との関連は?
Aアイプロ錠は呼吸器系の副作用が少ないから処方しやすいんだよね
【0079】
この例では,医者が質問を入力すると,まず,医療現場や対象患者に関する用語変換辞書,文中単語記憶部6,キーセンテンス記憶部8,文評価情報記憶部10及び後続文記憶部13が参照され,適切な後続文が,表示部に表示される。途中,文中単語として「アイプロ錠」が登場した。このため,このシステムは,アイプロ錠に関するキーセンテンス記憶部8,文評価情報記憶部10及び後続文記憶部13が参照され,適切な後続文が得られた。このシステムは,キーセンテンス分析を行うため,チャットボットやロールプレイが対話風となり,コンピュータを用いても自然な会話を行うことができることとなる。また,これまでのディープラーニングを使った会話システムとは異なり,絞られた領域の会話を非常に簡便に,時間をかけることなく,システムを構築できることとなる。このシステムを用いたロールプレイは,発展的な会話能力を育成するために効果的であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
この発明は,情報産業や教育産業などにおいて利用されうる。
【符号の説明】
【0081】
1 システム
3 文入力部
5 文中単語抽出部
6 文中単語記憶部
7 キーセンテンス抽出部
8 キーセンテンス記憶部
9 文評価部
10 文評価情報記憶部
11 後続文作成部
13 後続文記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8