(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-08
(45)【発行日】2025-05-16
(54)【発明の名称】バルク超音波(BAW)共振器
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20250509BHJP
【FI】
H03H9/17 F
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023219116
(22)【出願日】2023-12-26
(62)【分割の表示】P 2019058733の分割
【原出願日】2019-03-26
【審査請求日】2024-01-24
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517090646
【氏名又は名称】コーボ ユーエス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100162846
【氏名又は名称】大牧 綾子
(72)【発明者】
【氏名】ジョティ・スワロープ・サドゥー
(72)【発明者】
【氏名】ゲルノート・ファティンガー
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト・アイグナー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・シェーファー
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-045749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2のオーバーモードバルク超音波(BAW)共振器であって、
第1の極性を有する第1の圧電層と、
第2の極性を有する第2の圧電層であって、前記第1の極性と前記第2の極性とは圧電定数の符号が反対である、第2の圧電層と、
前記第1の圧電層と前記第2の圧電層との間にあるカプラ層と、
前記カプラ層の反対側の前記第1の圧電層上の第1の電極と、
前記カプラ層の反対側の前記第2の圧電層上の第2の電極と、
を備え、前記第2のオーバーモードBAW共振器は、前記第1の圧電層、前記カプラ層、および前記第2の圧電層を介して2次モードを励起するように構成され
、
前記カプラ層は第1の音響インピーダンスを有し、前記カプラ層は金属層であり、選択された金属に応じて、前記共振器の電気機械結合係数を増加させるよう修正された第1の厚さを有し、
前記第1の圧電層および第2の圧電層は窒化アルミニウムであり、
前記第1の電極及び前記第2の電極は第2の厚さを有し、前記第1の厚さを第2の厚さで除算して得られる値は0.1から0.4であり、
前記第1の圧電層及び前記第2の圧電層は第2の音響インピーダンスを有し、前記第1の音響インピーダンスを第2の音響インピーダンスで除算して得られる値は1.0よりも大きい、第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項2】
前記第1の音響インピーダンス
を前記第2の音響インピーダンスで除算して得られる値は1.5よりも大き
い、請求項
1に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項3】
前記第1の音響インピーダンス
を前記第2の音響インピーダンスで除算して得られる値は2.0よりも大き
い、請求項
1に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項4】
前記第1の音響インピーダンス
を前記第2の音響インピーダンスで除算して得られる値は3.0よりも大き
い、請求項
1に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項5】
前記第1の圧電層及び前記第2の圧電層は窒化アルミニウムである、請求項
1に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項6】
前記第1の電極及び前記第2の電極はタングステンである、請求項
5に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項7】
前記カプラ層は、モリブデン、タングステン、及びオスミウムのうちの1つである、請求項
1に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項8】
前記第1の圧電層及び前記第2の圧電層は窒化アルミニウムである、請求項
7に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項9】
前記第1の電極及び前記第2の電極はタングステンである、請求項
8に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項10】
前記第1の圧電層及び前記第2の圧電層の厚さは、350nm~1050nmであり、
前記カプラ層の厚さは、30nm~120nmである、
請求項
1に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項11】
前記第1の圧電層及び前記第2の圧電層の厚さは、350nm~1050nmであり、
前記カプラ層の第1の厚さは、30nm~
90nmであり、
前記第1の電極及び前記第2の電極の第2の厚さは、100nm~300nmである、
請求項
1に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項12】
前記カプラ層は、モリブデン、タングステン、及びオスミウムのうちの1つであり、
前記第1の電極及び前記第2の電極はタングステンである、
請求項1
1に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項13】
前記第1の厚さ
を前記第2の厚さで除算して得られる値は、0.2~0.3である、請求項
1に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項14】
前記第1の圧電層及び前記第2の圧電層の厚さは、350nm~1050nmであり、
前記カプラ層の第1の厚さは、30nm~120nmであり、
前記第1の電極及び前記第2の電極の第2の厚さは、100nm~300nmである、請求項1
3に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項15】
前記第1の圧電層及び前記第2の圧電層は窒化アルミニウムであり、
前記カプラ層は、モリブデン、タングステン、及びオスミウムのうちの1つであり、
前記第1の電極及び前記第2の電極はタングステンである、
請求項1
4に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【請求項16】
前記カプラ層は
、前記第1の圧電層と前記第2の圧電層との間に音響インピーダンスを提供する、請求項1に記載の第2のオーバーモードBAW共振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その開示がその全体が本明細書に参照により援用される、2018年3月28日に出願された仮特許出願第62/649,343号の利益を主張する。
【0002】
本開示は、向上した圧電カップリングを伴う高次モードで動作することが可能であるバルク超音波(BAW)共振器に関する。
【背景技術】
【0003】
図1は基本モードバルク超音波(BAW)共振器10を示す。基本モードBAW共振器10は、第1の電極14と第2の電極16との間に圧電層12を含む。圧電層12、第1の電極14、及び第2の電極16の厚さは、基本モードBAW共振器10の厚さの中心からの距離に関して示され、dは圧電層12の半分の厚さであり、tは第1の電極14及び第2の電極16の両方の厚さである。
【0004】
図2は、基本モードBAW共振器10の応力プロファイル(実線18)及び変位プロファイル(破線20)を示す。示されるように、基本モードBAW共振器10は、正弦曲線の波長の半分と一致する応力プロファイルが圧電層12の厚さの範囲内で適合する基本モードで動作する。基本モードBAW共振器10の効果的な電気機械結合(k
2
eff)は、圧電層12の厚さにわたって応力プロファイルの全体に依存する。概して、より高い電気機械結合係数が望ましい。示されないが、当業者は、応力プロファイルが圧電層12と、第1の電極14と、第2の電極16との間の接触界面で急勾配になり得ることを認識するであろう。
【0005】
BAW共振器の高次モードを励起する可能性として、従来の基本モードBAW共振器が妥当な品質係数、サイズ、及び電極厚さを維持しながら使用される場合、より高い周波数で動作することが可能であるフィルタを期待する。高次モードでは、基本モードの周波数の整数の倍数と一致する応力プロファイルは、圧電層内で励起される。例えば、2次モードでは、また、本明細書では、第2のオーバーモードと称され、正弦曲線の全波長(基本モードの周波数の2倍)は、圧電層の厚さの範囲内で適合される。
【0006】
高次モードで動作することが可能であるBAW共振器は高周波数における性能の改善の望みがあるが、係るデバイスを作成する試みは、上記に説明された基本モードBAW共振器10等の基本モードデバイスと比較して、かなり不十分な電気機械結合を提供している。したがって、改善された電気機械結合を伴う、2次モード等の高次モードで動作することが可能であるBAW共振器の必要性がある。
【発明の概要】
【0007】
一実施形態では、音響共振器は、第1の圧電層、第2の圧電層、カプラ層、第1の電極、及び第2の電極を含む。第1の圧電層は第1の極性を有する。第2の圧電層は第1の極性の反対側に第2の極性を有する。カプラ層は第1の圧電層と第2の圧電層との間にある。第1の電極はカプラ層の反対側の第1の圧電層上にある。第2の電極はカプラ層の反対側の第2の圧電層上にある。第1の圧電層と第2の圧電層との間にカプラ層を提供することは、音響共振器の電気機械結合係数を増加させ、それによって、その性能を改善する。
【0008】
当業者は、添付の図面に関連する好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読んだ後に、本開示の範囲を認識し、その付加態様を理解するであろう。
【0009】
本明細書の一部に組み込まれ及びそれを形成する添付の図面は、本開示のいくつかの態様を示し、その説明と一緒に、本開示の原理を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】基本モードバルク超音波(BAW)共振器を示す。
【
図2】基本モードBAW共振器の応力応答及び変位プロファイルを示す。
【
図3】本開示の一実施形態による、第2のオーバーモードBAW共振器を示す。
【
図4】本開示の一実施形態による、第2のオーバーモードBAW共振器の応力プロファイル及び変位プロファイルを示す。
【
図5】本開示の一実施形態による、第2のオーバーモードBAW共振器を示す。
【
図6】本開示の様々な実施形態による、2つの第2のオーバーモードBAW共振器の応力プロファイルを示す。
【
図7】本開示の様々な実施形態による、いくつかの第2のオーバーモードBAW共振器の性能特徴を示すグラフである。
【
図8】本開示の一実施形態による、第2のオーバーモードBAW共振器を示す。
【
図9】本開示の一実施形態による、第2のオーバーモードBAW共振器を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
下記に説明される実施形態は、当業者が本実施形態を実践することと、本実施形態を実践する最良の形態を示すこととが可能になるような必要情報を表す。添付の図面に照らして以下の説明を読むと、当業者は、本開示の概念を理解し、特に、本明細書で扱われないこれらの概念の適用を認識するであろう。これらの概念及び適用が本開示の範囲内に及び添付の特許請求の範囲内にあることを理解されたい。
【0012】
第1の、第2の等の用語が様々な要素を説明するために本明細書に使用され得るが、これらの要素は、これらの用語によって限定するべきではないことが理解されるであろう。これらの用語は、1つの要素を別の要素と区別するためだけに使用される。例えば、本開示の範囲から逸脱することなく、第1の要素は第2の要素と名付けられ得、同様に、第2の要素は第1の要素と名付けられ得る。本明細書に使用されるような用語「及び/または」は、1つ以上の関連する列挙された事項の任意及び全ての組み合わせを含む。
【0013】
層、領域、または基板等の要素が別の要素の「上(on)」にある、またはその「上(onto)」に延在するといわれるとき、それは、他の要素の上に直接あり、もしくはその上に直接延在する可能性がある、または介在要素がまた存在し得ることが理解されるであろう。対照的に、ある要素が、別の要素「上に直接(directly on)」ある、またはその「上に直接(directly onto)」に延在するといわれるとき、介在要素は存在しない。同様に、層、領域、または基板等の要素が別の要素の「上にわたって」存在する、またはその「上にわたって」延在するといわれるとき、それは、直接他の要素の上にわたってあり、もしくは直接その上にわたって延在する可能性がある、または介在要素がまた存在し得ることが理解されるであろう。対照的に、ある要素が、別の要素の「直接上にわたって」存在する、またはその「直接上にわたって」延在するといわれるとき、介在要素は存在しない。また、要素が別の要素に「接続」または「結合」されるとき、それは、他の要素に直接接続される、もしくはそれに直接結合される可能性がある、または介在要素が存在し得ることが理解されるであろう。対照的に、ある要素が、別の要素に「直接接続される」またはそれに「直接結合される」といわれるとき、介在要素は存在しない。
【0014】
「下方に」もしくは「上方に」、または「上側に」もしくは「下側に」、または「水平に」もしくは「垂直に」等の相対語は、図に示されるような別の要素、層、または領域に
対する1つの要素、層、または領域の関係を説明するために本明細書に使用され得る。これらの用語及び上記で説明されたものが、図に描かれた配向に加えて、デバイスの異なる配向を包含することが意図されることが理解されるであろう。
【0015】
本明細書に使用される専門用語は、特定の実施形態のみを説明する目的のためのものであり、本開示を限定することを意図していない。本明細書に使用されるような単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈で他に明確に示さない限り、同様に、複数形を含むことが意図される。さらに、用語「備える(comprises)」、「備えている(comprising)」、「含む(includes)」、及び/または「含んでいる(including)」は、本明細書に使用されるとき、述べられた特徴、整数、ステップ、動作、要素、及び/または構成要素の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、及び/またはそれらの群の存在または追加を除外するわけではないことが理解されるであろう。
【0016】
別様に定義されない限り、本明細書に使用される全ての用語(技術用語及び特定用語を含む)は、本開示が属する当業者によって共通して理解されるように同じ意味を有する。さらに、本明細書に使用される用語は、本明細書及び従来技術に関連する意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、したがって、本明細書に明示的に定義されない限り、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されないであろうことを理解されるであろう。
【0017】
図3は、本開示の一実施形態による、第2のオーバーモードバルク超音波(BAW)共振器22を示す。第2のオーバーモードBAW共振器22は、第1の圧電層24、第1の圧電層24上の第2の圧電層26、第2の圧電層26の反対側の第1の圧電層24上の第1の電極28、及び第1の圧電層24の反対側の第2の圧電層26上の第2の電極30を含む。第1の圧電層24、第2の圧電層26、第1の電極28、及び第2の電極30の厚さは、BAW共振器10の厚さの中心からの距離に関して示され、d’は第1の圧電層24及び第2の圧電層26の厚さであり、tは第1の電極28及び第2の電極30の両方の厚さである。
【0018】
特に、第1の圧電層24は第1の極性を有する一方、第2の圧電層26は第1の極性の反対側に第2の極性を有する。これは、下記で説明されるように、第2のオーバーモードBAW共振器22が2次モードを励起することを可能にする。一実施形態では、第1の圧電層24及び第2の圧電層26は、異極性を有する窒化アルミニウム(AIN)層である。例えば、第1の圧電層24は窒化アルミニウム(c-AlN)の窒素極層であり得る一方、第2の圧電層26は窒化アルミニウム(f-AlN)のアルミニウム極層であり得る。当該窒化アルミニウムは、スカンジウム(Sc)、エルビウム(Er)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)等の1つ以上で、非ドープまたはでドープされ得る。第1の電極28及び第2の電極30は金属層であり得る。例えば、第1の電極28及び第2の電極30は、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等であり得る。第1の圧電層24及び第2の圧電層26の厚さ(d’)と、第1の電極28及び第2の電極30の厚さ(t)は、第2のオーバーモードBAW共振器22の1つ以上の動作パラメータを変更するために、特有の電気特性及び/または音響特性を提供するために選ばれ得る。
【0019】
図4は、第2のオーバーモードBAW共振器22の応力プロファイル(実線32)及び変位プロファイル(破線34)を示す。示されるように、BAW共振器は、2次モード(また、本明細書では、第2のオーバーモードと称される)で動作し、正弦曲線の全波長と一致する応力プロファイルが第1の圧電層24及び第2の圧電層26の組み合わせの厚さの範囲内で適合する。示されないが、当業者は、応力プロファイルが、第1の圧電層24
及び第1の電極28の接触界面と、第2の圧電層26及び第2の電極30の接触界面とで急勾配になり得ることを認識するであろう。
【0020】
上記で説明されたように、高次モードを励起することを試みる際のBAW共振器に直面する1つの問題は、そのBAW共振器が、概して、その基本モードの一部のものよりも小さい電気機械結合係数(k
2
eff)を有することである。これは、上記の「背景技術」で説明された基本モードBAW共振器10と第2のオーバーモードBAW共振器22との比較によって示される。基本モードBAW共振器10及び第2のオーバーモードBAW共振器22の両方の電極がその中の圧電層(複数可)と同じ材料特性を有すると仮定すると、デバイスの変位プロファイルu(z)は、方程式(1)によって表されることができる。
【数1】
式中、aはモード振幅であり、波長ベクトルk
pは、応力がない境界条件T(±d+t)=0を使用することによって取得され、そのとき、基本モードBAW共振器10に関してk
p=n/2(d+t)、第2のオーバーモードBAW共振器22に関してk
p=n/(d´+t)である。これらの構造の効率的な電気機械結合を計算するプリミティブ方法は、電気ドメイン及び機械的ドメインで記憶されるエネルギーを比較するBelincourt公式から生じる。より精緻な方法は、k
2
effを計算するために利用可能である一方、下記に示される処理は、本明細書で説明される原理の直観的理解をもたらす。
Belincourtの関係式を使用して、電気機械結合係数k
2
effは、方程式(2)によって表される。
【数2】
式中、U
mは、電気ドメインと機械ドメインとの間の交換によって圧電層内に記憶されるエネルギーであり、方程式(3)によって表される。
【数3】
U
eは、圧電層で記憶される機械エネルギーであり、方程式(4)によって表される。
【数4】
式中、U
dは、誘電体の内部で記憶される電気エネルギーであり、方程式(5)によって表される。
【数5】
式中、e(z)は圧電定数であり、Eは電場であり、c
p及びεは、圧電層の電気定数及
び誘電率である。窒化アルミニウムのような圧電フィルムに関して、e(z)はc軸に沿った圧電定数であるe
33である。u(z)に関する方程式を方程式(1)から方程式(2)に置換すると、基本モードBAW共振器10の電気機械結合係数は、方程式(6)によって表されることができる。
【数6】
第2のオーバーモードBAW共振器10の電気機械結合係数は、方程式(7)によって表されることができる。
【数7】
基本モードBAW共振器10の電気機械結合係数と、第2のオーバーモードBAW共振器22の電気機械結合係数との間の関係は、方程式(8)によって表されることができる。
【数8】
方程式(8)は、第2のオーバーモードBAW共振器22が常に基本モードBAW共振器10よりも小さい電気機械結合係数を有することを示す。ほとんどの適用に関して、mに関する標準値は0.2~0.3であり、その場合、第2のオーバーモードBAW共振器の電気機械結合係数は、基本モードBAW共振器10の電気機械結合係数の80~90%のものだけが該当する。
【0021】
第2のオーバーモードBAW共振器22の電気機械結合係数を改善するために、カプラ層36は、
図5に示されるように、第1の圧電層24と第2の圧電層26との間に追加される。カプラ層は厚さ2lを有する。下記に説明されるように、カプラ層36は、第2のオーバーモードBAW共振器22の応力プロファイルの全体を増加させるために、第1の圧電層24と第2の圧電層26との間に所望の音響インピーダンスを提供し、それによって、その電気機械結合係数を改善する。代替実施形態では、カプラ層は、2つの目的(i)その音響インピーダンスによって効果的な電気機械結合を改善すること、(ii)その上部に堆積される第2の圧電層に関する極性の反転を生じさせる層としての役割を果たすことの役割を果たし得る。
【0022】
方程式(1)は、方程式(9)によって表されるように、カプラ層36を含む第2のオーバーモードBAW共振器22の変位プロファイルu(z)を表すために書き直されることができる。
【数9】
式中、k
pは第1の圧電層24及び第2の圧電層26の波数ベクトルであり、k
cはカプラ層36内の波数ベクトルである。z=±lにおける変位及び応力連続境界条件を使用して、方程式(10)を得る。
【数10】
式中、Z
pは第1の圧電層24及び第2の圧電層26の音響インピーダンスであり、Z
cはカプラ層36の音響インピーダンスである。カプラ層36がない第2のオーバーモードBAW共振器22の電気機械エネルギーU
mは、方程式(11)によって表される。
【数11】
カプラ層36がある第2のオーバーモードBAW共振器22の電気機械エネルギーU
mは、方程式(12)によって表される。
【数12】
弾性エネルギーU
eに対する閉形式解は、k
cとk
pとの間の複雑な関係のために難しい一方、数値的方法は、モード形u(z)及び応力プロファイルσ(z)を取得するために、方程式(12)によって方程式(9)の系を解くために使用されることができる。u(z)を使用して、方程式(5)によって方程式(2)を使用して電気機械結合係数を計算し、カプラ層36が第2のオーバーモードBAW共振器22の電気機械結合係数を増加させることを示す。
【0023】
図6は、カプラ層36を含む第2のオーバーモードBAW共振器22の応力プロファイル(実線38)と、カプラ層36がない第2のオーバーモードBAW共振器22の変位プロファイル(破線40)とを示す。示されるように、カプラ層36は、さらなる音響エネルギーを第1の圧電層24及び第2の圧電層26に押し込み、応力プロファイルの全体、ひいては、電気機械結合係数を増加させる。示されないが、当業者は、応力プロファイルが、第1の圧電層24及び第1の電極28の接触界面と、第2の圧電層26及び第2の電極30の接触界面とで急勾配になり得ることを認識するであろう。
【0024】
カプラ層36の音響インピーダンス(Z
c)と、第1の圧電層24及び第2の圧電層26の音響インピーダンス(Z
p)との間の関係は、第2のオーバーモードBAW共振器22の電気機械結合係数を変更し得る。カプラ層36の音響インピーダンスが第1の圧電層24及び第2の圧電層26の音響インピーダンスで除算される値(Z
c/Z
p)が、様々な実施形態では、1.0よりも大きい、1.5よりも大きい、2.0よりも大きい、及び3.0よりも大きいとき、望ましい電気機械結合係数に達し得る。カプラ層36の音響インピーダンスが第1の圧電層24及び第2の圧電層26の音響インピーダンスで除算される値(Z
c/Z
p)は、様々な実施形態では、カプラ層36の物質に利用可能な音響インピーダンスによって制約され得、ひいては、10.0未満、8.0未満、6.0未満であり得る。カプラ層36の厚さ(2l)と、第1の電極28及び第2の電極30の厚さ(t)との間の関係は、また、電気機械結合係数を変更し得る。カプラ層36の厚さが第1の電極28及び第2の電極30の厚さで除算される値(2l/t)が、0.1~0.4、より具体的には、0.1~0.2、0.1~0.3、0.2~0.3、0.2~0.4、及び0.3~0.4であるとき、望ましい電気機械結合係数に達し得る。
図7は、これらの関係を示すグラフである。具体的には、
図7は、x軸(第1の電極28及び第2の電極30の厚さで除算されるカプラ層36の厚さ(2l/t))と、y軸(カプラ層36がない
ものに対するカプラ層36がある第2のオーバーモードBAW共振器22に関する電気機械結合係数の改善された比率(すなわち、カプラ層36がある第2のオーバーモードBAW共振器22の電気機械結合係数(k
2
eff,c)が、カプラ層36がない第2のオーバーモードBAW共振器22の電気機械結合係数(k
2
eff,nc)で除算される値))とを示すグラフである。グラフの各線は、カプラ層36の音響インピーダンスと、第1の圧電層24及び第2の圧電層26の音響インピーダンスとの間の特定の関係(Z
c/Z
p)を示す。
【0025】
一実施形態では、カプラ層36は金属層である。カプラ層36は、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、またはオスミウム(Os)であり得る。カプラ層36のために選ばれた物質に応じて、カプラ層36の厚さは、第2のオーバーモードBAW共振器22の電気機械結合係数を増加させるために、所望の音響応答を提供するために修正され得る。60nmの厚さがあるカプラ層36と、700nmの厚さがある窒化アルミニウム(AlN)の第1の圧電層24及び第2の圧電層26とに関して、カプラ層36の音響インピーダンスが、第1の圧電層24及び第2の圧電層26の音響インピーダンスで除算される値(Zc/Zp)は、アルミニウム(Al)のカプラ層36に対して0.50であり、モリブデン(Mo)のカプラ層36に対して1.90であり、タングステン(W)のカプラ層36に対して2.75であり、オスミウム(Os)のカプラ層36に対して3.25である。種々の実施形態では、第1の圧電層24及び第2の圧電層26の厚さは350nm~1050nmであり得、第1の電極28及び第2の電極30の厚さは100nm~300nmであり得、カプラ層36の厚さは30nm~90nmであり得る。カプラ層36の厚さは、この範囲内に任意の部分的範囲を含み得、そのとき、カプラ層36の厚さは、様々な実施形態では、30nm~40nm、30nm~50nm、30nm~60nm、30nm~70nm、30nm~80nm、40nm~50nm、40nm~60nm、40nm~70nm、40nm~80nm、40nm~90nm、50nm~60nm、50nm~70nm、50nm~80nm、50nm~90nm、60nm~70nm、60nm~80nm、60nm~90nm、70nm~80nm、70nm~90nm、及び80nm~90nmであり得る。第2のオーバーモードBAW共振器22の2次モードの励起に起因して、デバイスは、約3.0GHzよりも大きい共振周波数を提供し得る。したがって、第2のオーバーモードBAW共振器22は、高周波数適用において非常に有用であり得る。
【0026】
第2のオーバーモードBAW共振器22は、
図8に示されるように、堅固に搭載される共振器(SMR)であり得る。係る実施形態では、第2のオーバーモードBAW共振器22は、いくつかの介在層44が第2のオーバーモードBAW共振器22と基板42との間に位置するように提供される、基板42上に提供される。介在層44は、高い及び低い音響インピーダンス物質のいくつかの交代層を含み得る。基板42及び介在層44の詳細は、当業者によって容易に認識するであろう、したがって、本明細書では詳細に議論されない。
【0027】
第2のオーバーモードBAW共振器22は、また、
図9に示されるように、薄膜バルク超音波共振器(FBAR)であり得る。係る実施形態では、第2のオーバーモードBAW共振器22は、支持層46上に提供され、基板50によって空気腔48にわたって浮かぶようになる。支持層46、空気腔48、及び基板50の詳細は、当業者によって容易に認識するであろう、したがって、本明細書では詳細に議論されない。
【0028】
示されないが、第2のオーバーモードBAW共振器22は、任意の数の異なる回路トポロジを作成するために、任意の数の異なる支持構造で使用され得る。種々の実施形態では、第2のオーバーモードBAW共振器22は、デュープレクサ、マルチプレクサ等のフィルタリング回路を形成する1つ以上の他の共振器または構成要素と、電気的にまたは音響
的にのいずれかで結合され得る。これらの構造の詳細は、当業者によって容易に認識するであろう、したがって、本明細書では詳細に議論されない。
【0029】
当業者は、本開示の好ましい実施形態に対する改善及び修正を認識するであろう。全ての係る改善及び修正は、本明細書に開示される概念及び以下に続く特許請求の範囲の範囲内にあるものと見なされる。