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特許7678928ジルコニア仮焼体の製造方法およびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-08
(45)【発行日】2025-05-16
(54)【発明の名称】ジルコニア仮焼体の製造方法およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20250509BHJP
   A61K 6/818 20200101ALI20250509BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20250509BHJP
【FI】
C04B35/486
A61K6/818
A61C13/083
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024228087
(22)【出願日】2024-12-25
【審査請求日】2025-01-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162205
【氏名又は名称】共立マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】川合 瑛
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/196650(WO,A1)
【文献】特開2024-007519(JP,A)
【文献】国際公開第2020/179877(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/120674(WO,A1)
【文献】国際公開第2024/096102(WO,A1)
【文献】特開2020-033338(JP,A)
【文献】特許第4518844(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48 - 35/488
C04B 35/64
A61K 6/818
A61C 13/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア粉体を含むジルコニアゾルスラリーを生成する生成工程と、
前記ジルコニアゾルスラリーに、平均粒子径が300nm以下の希土類粒子を分散させる希土類分散工程と、
前記ジルコニアゾルスラリーから、ジルコニア粒子と希土類粒子とを含む混合粒子を回収する回収工程と、
前記混合粒子を加熱することによって部分安定化ジルコニア粉末を作製する加熱工程と、
前記部分安定化ジルコニア粉末を所望の形状に成形した後に加熱する成形加熱工程と
を含む、ジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項2】
前記希土類分散工程は、
pHが4以下の前記ジルコニアゾルスラリーに希土類原料を溶解させる希土類添加工程と、
前記ジルコニアゾルスラリーのpHを6~9に上昇させることによって希土類化合物を析出させる析出工程と
を含む、請求項1に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項3】
前記析出工程において、前記ジルコニアゾルスラリーにアンモニアを添加することによって、当該スラリーのpHを上昇させる、請求項2に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項4】
前記希土類分散工程は、
前記ジルコニアゾルスラリーに、平均粒子径が300nm以下の希土類粒子を添加する添加工程と、
前記ジルコニアゾルスラリーを撹拌して前記希土類粒子を分散させる撹拌工程と
を含む、請求項1に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程と前記成形加熱工程の間で、前記部分安定化ジルコニア粉末の粒度を調整する粒度調整工程を実施する、請求項1に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項6】
前記希土類粒子は、イットリアである、請求項1~5のいずれか一項に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項7】
ジルコニアと希土類酸化物とを含むジルコニア仮焼体であって、
c/a軸長比が1.008以上の正方晶を母相として有しており、
XRF分析に基づいた前記ジルコニア仮焼体における前記希土類酸化物の含有量X(mol%)と、XRD分析に基づいた前記母相における前記希土類酸化物の固溶量Y(mol%)との差分(X-Y)が1mol%以下であることを特徴とする、ジルコニア仮焼体。
【請求項8】
前記希土類酸化物は、イットリアである、請求項7に記載のジルコニア仮焼体。
【請求項9】
前記希土類酸化物の含有量Xが3mol%以上6mol%以下である、請求項7に記載のジルコニア仮焼体。
【請求項10】
前記母相における前記希土類元素の固溶量Yが3.2mol%以上5mol%以下である、請求項7に記載のジルコニア仮焼体。
【請求項11】
前記ジルコニア仮焼体の全体に対する前記母相の存在比率が75%以上100%以下である、請求項7に記載のジルコニア仮焼体。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか一項に記載のジルコニア仮焼体を焼成炉の内部に収容する仮焼体準備工程と、
前記焼成炉の内部を、予め定めた焼成温度まで昇温する昇温工程と、
前記焼成温度を維持した状態で、予め定めた保持時間を保持する保持工程と、
前記焼成炉の内部を、予め定めた冷却温度まで冷却する冷却工程と
を備えており、
前記保持時間が30分以下である、ジルコニア焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、ジルコニア仮焼体の製造方法、ジルコニア仮焼体及びジルコニア焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア焼結体は、歯科材料(例えば、義歯、歯科補綴物、義歯ミルブランク、歯科矯正ブラケット)等の生体材料として広く用いられている。このジルコニア焼結体(以下、単に「焼結体」ともいう。)に、少量の希土類酸化物(イットリア(Y)、イッテルビア(Yb)等)を安定化成分として固溶させると、強度、靭性、審美性等が大きく向上することが知られている。このジルコニア焼結体は、ジルコニアと希土類酸化物とを含むジルコニア仮焼体(以下、単に「仮焼体」ともいう。)を焼成することで製造される。このジルコニア仮焼体の製造手順の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1に記載の製造方法は、例えば、ジルコニアゾルと希土類酸化物とを混合する混合工程と、ジルコニアゾルを乾燥させる乾燥工程と、焼結温度未満の低温でジルコニアと希土類酸化物とを加熱する加熱工程とを備えている。
【0003】
ところで、近年では、ジルコニア焼結体の製造において仮焼体を高速で焼成することが検討されている。具体的には、従来のジルコニア焼結体の製造では、所定の焼成温度を数時間(1時間~4時間程度)保持するという長時間の焼成処理(低速焼成)が行われていた。これに対して、保持時間を30分以下に短縮した高速焼成を実現できれば、ジルコニア焼結体の生産効率を大幅に向上できる。この高速焼成の一例が特許文献2に開示されている。特許文献2に記載の製造方法では、焼成処理の保持時間が20分未満に設定されている。この特許文献2によると、歯科補綴材として要求される透光性を有するジルコニア焼結体を短時間で製造できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2023-171832号公報
【文献】特開2024-7519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ジルコニア焼結体の製造における焼成処理を低速焼成から高速焼成に変更すると、製造後の焼結体の透光性が低下することが知られている。この焼成時間と透光性とのトレードオフは、未だ打破されておらず、改善が求められている問題である。例えば、特許文献2の実施例では、複数種類のジルコニア仮焼体に対して、様々な焼成パターンの高速焼成が行われている。しかしながら、特許文献2の実施例は、高速焼成で製造された焼結体の中で優れた透光性を示すものであり、低速焼成で製造された焼結体(特許文献2中の参考例)を大きく超える透光性を実現するものではなかった。
【0006】
ここに開示される技術は、上記のトレードオフを打破するためになされたものであり、低速焼成時よりも高速焼成時の方が優れた透光性を呈する高速焼成用ジルコニア仮焼体に関連する技術を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決する高速焼成用のジルコニア仮焼体を実現するために検討を行った結果、以下の知見に思い至った。まず、低速焼成を実施すると、長時間の加熱によって焼結体内の気泡が除去されるため透光性が向上することが従来から知られている。しかしながら、高速焼成は、加熱時間が短いため、焼結体内の気泡を充分に除去することが難しい。そこで、本発明者は、高速焼成において透光性を向上させるには、希土類酸化物の偏析に伴う屈折率の制御を行う必要があると考えた。具体的には、焼成後のジルコニア焼結体の内部には、希土類酸化物の固溶状態の濃淡が生じている。そして、希土類酸化物の固溶状態が局所的に異なる領域では透過光の屈折率が変化する。すなわち、固溶状態が局所的に異なる領域が多く存在すると、焼結体の透光性を低下させる光の散乱因子となる。本発明者は、かかる知見に基づいて、気泡の除去が困難な高速焼成では、焼結体の全体に希土類酸化物を均一に分散させることによって透光性を向上させた方がよいとの結論に至った。
【0008】
ここで、保持時間が短い高速焼成は、仮焼体を短時間で焼結させるため、焼成前後で結晶構造が変わりにくいという特徴を有している。本発明者は、かかる点に注目し、微小な希土類酸化物が分散したジルコニア仮焼体を原料として使用すれば、製造後のジルコニア焼結体の透光性を向上させることができると考えた。そして、種々の実験を行った結果、ジルコニア仮焼体の全体における希土類酸化物の分散度合いが所定の値を超えると、低速焼成時よりも高速焼成時の方が優れた透光性を呈するという従来にない効果を発揮することを発見した。ここに開示される技術は、この高速焼成用のジルコニア仮焼体に関するものである。
【0009】
まず、ここに開示されるジルコニア仮焼体の製造方法は、ジルコニア粉体を含むジルコニアゾルスラリーを生成する生成工程と、ジルコニアゾルスラリーに、平均粒子径が300nm以下の希土類粒子を分散させる希土類分散工程と、ジルコニアゾルスラリーから、ジルコニアと希土類化合物とを含む混合粒子を回収する回収工程と、混合粒子を加熱することによって部分安定化ジルコニア粉末を作製する加熱工程と、部分安定化ジルコニア粉末を所望の形状に成形した後に加熱する成形加熱工程とを含む。
【0010】
ここに開示される製造方法の希土類分散工程では、ジルコニアゾルスラリーに、平均粒子径が300nm以下の希土類粒子を分散させる。この微小な希土類粒子を含む混合粒子を加熱すると、ジルコニアと希土類酸化物とが好適に相互拡散した部分安定化ジルコニア粉末を得ることができる。この部分安定化ジルコニア粉末を所望の形状に成形した後に加熱することによって、高速焼成用のジルコニア仮焼体を製造することができる。
【0011】
また、ここに開示される技術の他の側面としてジルコニア仮焼体が提供される。ここに開示されるジルコニア仮焼体は、ジルコニアと希土類酸化物とを含むジルコニア仮焼体である。この仮焼体は、c/a軸長比が1.008以上の正方晶を母相として有している。そして、ここに開示される仮焼体は、XRF分析に基づいたジルコニア仮焼体における希土類酸化物の含有量X(mol%)と、XRD分析に基づいた母相における希土類酸化物の固溶量Y(mol%)との差分(X-Y)が1mol%以下であることを特徴とする。
【0012】
上記構成のジルコニア仮焼体は、希土類酸化物が均一に分散しており、粗大な希土類酸化物が偏在した第二相が少ないことを特徴とする。具体的には、上記構成における「XRF分析に基づいたジルコニア仮焼体における希土類酸化物の含有量X」とは、ジルコニア仮焼体の全体に存在する希土類酸化物の総量を示している。一方、「XRD分析に基づいた母相における希土類酸化物の固溶量Y」とは、母相側に分散した希土類酸化物の量を表している。すなわち、これらの数値の差分X-Yが小さくなると、希土類酸化物が偏在した第二相が少なくなり、仮焼体全体における希土類酸化物の分散性が向上しているといえる。ここで、上記構成のジルコニア仮焼体は、上記差分X-Yが1mol%以下であることを特徴とする。このジルコニア仮焼体は、ジルコニアと希土類酸化物とが予め均一に分散されているため、低速焼成時よりも高速焼成時の方が優れた透光性を呈する高速焼成用のジルコニア仮焼体として使用できる。
【0013】
また、ここに開示される技術の他の側面としてジルコニア焼結体の製造方法が提供される。ここに開示されるジルコニア焼結体の製造方法は、上記構成のジルコニア仮焼体を焼成炉の内部に収容する仮焼体準備工程と、焼成炉の内部を、予め定めた焼成温度まで昇温する昇温工程と、焼成温度を維持した状態で、予め定めた保持時間を保持する保持工程と、焼成炉の内部を、予め定めた冷却温度まで冷却する冷却工程とを備えている。そして、このジルコニア焼結体の製造方法では、保持時間が30分以下である。
【0014】
上記構成のジルコニア焼結体の製造方法では、差分X-Yが1mol%以下であるジルコニア仮焼体に対して、保持時間が30分以下の高速焼成を実施する。これによって、ジルコニアと希土類酸化物とが均一に分散された状態を維持したままでジルコニア焼結体を製造できる。この結果、優れた透光性を呈するジルコニア焼結体を短時間で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係るジルコニア仮焼体の製造方法の概要を示すフローチャートである。
図2】第1の実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法の概要を示すフローチャートである。
図3】第2の実施形態に係るジルコニア仮焼体の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、ここで開示される技術のいくつかの実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本技術の実施に必要な事柄は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において、数値範囲を「A~B(ここでA、Bは任意の数値)」と記載している場合は、「A以上B以下」を意味すると共に、「Aを超えてB未満」、「Aを超えてB以下」、および「A以上B未満」の意味を包含する。
【0017】
<第1の実施形態>
1.ジルコニア仮焼体の製造方法
まず、ここに開示されるジルコニア仮焼体の製造方法の第1の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態に係るジルコニア仮焼体の製造方法の概要を示すフローチャートである。図1に示すように、ここに開示されるジルコニア仮焼体の製造方法は、生成工程S10と、希土類分散工程S20と、回収工程S30と、加熱工程S40と、成形加熱工程S60とを備えている。そして、第1の実施形態では、希土類分散工程S20において、希土類添加工程S22と、析出工程S24とを実施する。また、本実施形態に係る製造方法は、加熱工程S40と成形加熱工程S60との間で、粒度調整工程S50を実施する。以下、各々の工程について説明する。
【0018】
(1)生成工程S10
生成工程S10では、ジルコニア粉体を含むジルコニアゾルスラリーを生成する。ここでの「ジルコニア粉体」とは、ジルコニア(ZrO)を主成分として含む粉体材料のことをいう。なお、「ジルコニアを主成分として含む」とは、ジルコニア以外の成分が意図的に含まれていないことを意味する。したがって、原料や製造工程等に由来する不可避的不純物が含まれている粉体材料は、ここに開示される技術におけるジルコニア粉体に包含される。なお、ジルコニア粉体の不純物としては、ハフニウム、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、チタン等の金属材料や、これらの金属の化合物(典型的には酸化物)などが挙げられる。また、不純物の他の例として、金属ジルコニウムが挙げられる。なお、ジルコニア粉体の構成成分の総物質量を100mol%としたとき、ジルコニアの物質量は、95mol%以上(特に好適には98mol%以上)が好適である。このような不純物の少ないジルコニア粉体は、本実施形態に係る製造方法に特に好適に使用できる。
【0019】
また、ジルコニア粉体の平均粒子径は、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましく、40nm以上が特に好ましい。ジルコニア粒子の粒界は、焼成後のジルコニア焼結体の結晶界面になり得る。このため、ジルコニア粉体の平均粒子径が大きくなるにつれて、焼成後のジルコニア焼結体における母相と第二相との界面を少なくなるため透光性が向上しやすくなる。一方、ジルコニア粉体の平均粒子径の上限は、150nm以下が好ましく、125nm以下がより好ましく、100nm以下が特に好ましい。ジルコニア粉体の平均粒子径を小さくすると、高速焼成でも焼結しやすいジルコニア仮焼体を製造できる。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、粒子径分布解析装置(堀場製作所社製、型式:LA-960)により測定された体積基準の粒度分布において、微粒子側から累積50%に相当する粒径(D50)のことをいう。
【0020】
また、ジルコニアゾルスラリー中のジルコニア粉体の含有量は、特に限定されず、1wt%以上でもよく、3wt%以上でもよく、5wt%以上でもよい。一方、ジルコニア粉体の含有量の上限値は、40wt%以下が好ましく、30wt%以下がより好ましく、20wt%以下が特に好ましい。ジルコニア粉体の含有量が少なくなるにつれて、スラリー内での分散性が向上しやすくなる。なお、ここでの「ジルコニア粉体の含有量」は、ジルコニアゾルスラリーの総質量を100wt%としたときの質量比である。
【0021】
なお、ジルコニアゾルスラリーを生成する方法は、特に限定されず、従来公知の生成方法を適宜採用できる。この生成方法の一例として、水熱合成法、加水分解法などが挙げられる。水熱合成法では、ジルコニウム塩とアルカリ等とを混合して得られる共沈物を液状媒体の存在下で100~200℃(特に好適には120℃程度)で加熱する。このような温度で加水分解反応を行うことによって、均質な核形成が促進されるため、ゾル径分布がシャープになるというメリットがある。また、加水分解法では、液状媒体の存在下でジルコニウム塩を加熱することによってジルコニウム塩を加水分解する。これらの方法によると、液状媒体にジルコニア粉末が好適に分散したジルコニアゾルスラリーを容易に生成できる。なお、ジルコニアゾルスラリーの液状媒体には、ジルコニアを溶解せず、かつ、後述の希土類原料を溶解できる液体が使用される。かかる液状媒体としては、水などが挙げられる。
【0022】
(2)希土類分散工程S20
希土類分散工程S20では、ジルコニアゾルスラリーに、平均粒子径が300nm以下の希土類粒子を分散させる。このような微小な希土類粒子をスラリー中に分散させることによって、ジルコニアと希土類酸化物とが好適に相互拡散した部分安定化ジルコニア粉末を得ることができる。なお、希土類粒子の平均粒子径は、250nm以下が好ましく、225nm以下がより好ましく、200nm以下が特に好ましい。希土類粒子の平均粒子径が小さくなるにつれて、部分安定化ジルコニア粉末における希土類酸化物の分布をさらに均一化できる。一方、希土類粒子が小さくなりすぎると、スラリー中で希土類粒子が凝集するおそれがある。かかる観点から、希土類粒子の平均粒子径は、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上が特に好ましい。
【0023】
なお、ジルコニアゾルスラリーに希土類粒子を分散させる手段は、特に限定されず、必要に応じて種々の手段を選択することができる。例えば、第1の実施形態における希土類分散工程S20は、希土類添加工程S22と、析出工程S24とを実施する。これらの工程を経ることによって、300nm以下の希土類粒子が分散されたスラリーを容易に得ることができる。以下、具体的に説明する。
【0024】
(2-a)希土類添加工程S22
希土類添加工程S22では、ジルコニアゾルスラリーに希土類原料を溶解させる。これによって、ジルコニアゾルスラリー内に希土類元素を均一に存在させることができる。なお、本明細書における「希土類原料」とは、希土類元素を含む化合物である。なお、焼成後のジルコニア焼結体の性能(強度、靭性、審美性等)を考慮すると、希土類元素としては、イットリウム(Y)とイッテルビウム(Yb)が好適であり、イットリウムが特に好適である。また、希土類原料は、ジルコニアゾルスラリーに可溶な材料であることが要求される。このため、希土類原料は、上記の希土類元素の塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物、水酸化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩などが好ましい。そして、焼成後の性能やスラリーへの溶解性などを総合的に考慮すると、希土類原料は、塩化イットリウムが特に好ましい。
【0025】
また、希土類添加工程S22では、Zr元素に対する希土類元素の存在比率が所定の範囲を満たすように希土類原料の溶解量を調節することが好ましい。例えば、スラリー内のZr元素と希土類元素との合計物質量を100mol%とした場合、希土類元素の物質量は、3mol%以上が好ましく、3.2mol%以上がより好ましく、3.4mol%以上がさらに好ましく、3.5mol%以上が特に好ましい。これによって、充分な希土類酸化物を含む部分安定化ジルコニア粉末を得ることができる。一方、希土類元素の物質量の上限は、6mol%以下が好ましく、5.8mol%以下がより好ましく、5.6mol%以下が特に好ましい。これによって、ジルコニアへ導入されなかった希土類酸化物が不純物として部分安定化ジルコニア粉末に混入することを防止できる。
【0026】
また、第1の実施形態では、希土類原料を添加する前のジルコニアゾルスラリーのpHを4以下に調節する。これによって、スラリー内のジルコニア粒子の凝集を抑制することができる。また、ジルコニアゾルスラリーを酸性にすることによって、希土類原料を適切に溶解できる。なお、希土類原料の添加前のスラリーのpHは、2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0.7以下がさらに好ましく、0.5以下が特に好ましい。スラリーのpHが低くなるにつれて、ジルコニア粒子の分散性がさらに向上する傾向がある。また、スラリーのpHの下限値は、特に限定されず、0.1以上でもよく、0.2以上でもよく、0.3以上でもよい。なお、スラリーのpHを調整する手段は、特に限定されない。例えば、塩酸などのpH調整剤を添加してスラリーのpHを低下させてもよい。また、水熱合成や加水分解で生成した際にスラリーのpHが4以下であった場合には、pHの調整を行わなくてもよい。
【0027】
(2-b)析出工程S24
析出工程S24では、ジルコニアゾルスラリーのpHを6~9に上昇させる。これによって、スラリー内に希土類化合物を析出させることができる。具体的には、析出工程S24に供給されるジルコニアゾルスラリーには、希土類元素が溶解している。このスラリーから希土類化合物を析出させると、300nm以下という微小な希土類粒子をスラリー内に均質に存在させることができる。なお、ここに開示される技術を限定するものではないが、本工程において析出する希土類粒子は、希土類元素の酸化物、水酸化物などである。そして、析出後の希土類粒子は、スラリー内のジルコニア粒子の間隙において均一に分散する。
【0028】
なお、本工程では、ジルコニアゾルスラリーにアルカリを添加するとよい。これによって、スラリーのpHを容易に上昇させることができる。このアルカリとしては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを使用できる。これらのなかでも、アンモニアは、製造後の部分安定化ジルコニア粉末に不純物となる金属元素(Naなど)が混入することを防止できるため特に好ましい。
【0029】
また、本工程では、ジルコニアゾルスラリーを撹拌しながらアルカリを添加することが好ましい。これによって、スラリー内にジルコニア粒子が均一に分散した状態で希土類化合物が析出するため、ジルコニアと希土類化合物との分散度合いをさらに向上できる。なお、具体的な撹拌手段は、特に限定されず、従来公知の撹拌装置を特に制限なく使用できる。この撹拌手段の一例として、ボールミル、ミキサー、ディスパー、ニーダなどが挙げられる。
【0030】
(3)回収工程S30
回収工程S30では、ジルコニアゾルスラリーから、ジルコニアと希土類化合物とを含む混合粒子を回収する。上述の通り、本実施形態に係る製造方法では、回収前のスラリー内に微小な希土類化合物を均一に分散させている。これによって、ジルコニアと希土類化合物とが均一に分散した混合粒子を回収できる。なお、混合粒子を回収する具体的な方法は、特に限定されず、液体から粉体材料を分離する従来公知の方法を特に制限なく採用できる。例えば、混合粒子は、ろ過、遠心分離、乾燥などの手段を適宜組み合わせることによって回収できる。
【0031】
(4)加熱工程S40
加熱工程S40では、回収工程S30で得た混合粒子を加熱することによって部分安定化ジルコニア粉末を作製する。具体的には、混合粒子内の希土類化合物が酸化物以外の化合物である場合、当該希土類化合物は、加熱工程S40の初期に酸化されて希土類酸化物となる。そして、加熱工程S40では、ジルコニアと希土類酸化物とが均一に分散した混合粒子を加熱する。この混合粒子では、ジルコニアと希土類酸化物との距離が近いため、ジルコニアと希土類酸化物とが好適に相互拡散する。これによって、ジルコニアと希土類酸化物とが均一に分散した部分安定化ジルコニア粉末を得ることができる。この部分安定化ジルコニア粉末を使用することによって、希土類酸化物が均一に分散したジルコニア仮焼体を得ることができる。
【0032】
なお、本工程における加熱条件は、特に限定されず、ジルコニア仮焼体の製造にて採用される従来公知の加熱条件を特に制限なく採用できる。例えば、加熱工程S40における加熱温度は、ジルコニアと希土類酸化物との相互拡散が生じ、かつ、ジルコニアが焼結しない温度(例えば、900℃~1200℃)に設定される。これによって、部分安定化ジルコニア粉末を適切に製造することができる。また、加熱工程S50の加熱雰囲気は、特に限定されず、大気雰囲気、酸化雰囲気、還元雰囲気などにすることができる。また、加熱工程S40の時間は、例えば、1.5時間~5時間でもよく、2時間~4時間でもよい。また、加熱工程S40では、従来公知の加熱炉(例えば、マッフル炉、電気炉、マイクロ波焼成炉等)を特に制限なく使用できる。
【0033】
(5)粒度調整工程S50
また、本実施形態に係る仮焼体の製造方法は、加熱工程S40と成形加熱工程S60との間で、部分安定化ジルコニア粉末の粒度を調整する粒度調整工程S50を実施する。なお、粒度調整工程S50は、従来公知の粒度調整技術を特に制限なく採用できる。例えば、加熱後の部分安定化ジルコニア粉末を粉砕した後に、メッシュ等で篩にかけるとよい。これによって、所望の粒度の部分安定化ジルコニア粉末を得ることができる。
【0034】
本工程において、部分安定化ジルコニア粉末の平均粒子径を特定の範囲に制御することによって、より高品質のジルコニア仮焼体を得ることができる。具体的には、粒度調整後の部分安定化ジルコニア粉末の平均粒子径は、300nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、200nm以下が特に好ましい。本工程において部分安定化ジルコニア粉末を微細化することによって、成形加熱工程S60において緻密なジルコニア仮焼体を作製することが容易になる。一方で、部分安定化ジルコニア粉末の平均粒子径を小さくしすぎると、成形加熱工程S60後(仮焼後)のジルコニア仮焼体の結晶性が悪化してc/a軸長比が低下するおそれがある。かかる観点から、粒度調整後の部分安定化ジルコニア粉末の平均粒子径は、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、150nm以上が特に好ましい。
【0035】
(6)成形加熱工程S60
次に、成形加熱工程S60では、部分安定化ジルコニア粉末を所望の形状に成形した後に加熱(仮焼)することによってジルコニア仮焼体を作製する。具体的には、成形加熱工程S60では、まず、粒度調整工程S50後の部分安定化ジルコニア粉末とバインダとを混合する。そして、この混合物を所望の形状に成形する。この成形体を加熱(仮焼)することよって、バインダが焼失すると共に、部分安定化ジルコニア粉末の一部が溶融・固着する。これによって、ジルコニア仮焼体を製造できる。なお、成形加熱工程S60は、従来公知のジルコニア焼結体の成形方法を特に制限なく採用できる。このため、本明細書では、詳細な条件(バインダの種類、バインダの添加量、成形手段、加熱条件等)の説明を省略する。また、本工程で作製する成形体の形状は、特に限定されず、例えば、板状、円盤状、直方体状、立方体状、柱状等が挙げられる。
【0036】
また、後述する焼成後のジルコニア焼結体には、アルミナが含まれることがある。これによって、焼成中の粒成長を抑制できるため、焼成後の焼結体の強度を向上できる。このアルミナの原料は、成形加熱工程S60において、バインダと共に添加することが好ましい。なお、アルミナ源としては、アルミナ粉末、アルミナゾル、水和アルミナ、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等が挙げられる。これらのアルミナ源は、後述の焼成処理においてアルミナとなって焼結体内に分散される。なお、アルミナ源の添加量は、仮焼体の構成成分の総物質量(100mol%)に対してAl元素が0.01mol%以上(好適には0.02mol%以上、特に好適には0.04mol%以上)となるように調節するとよい。これによって、焼結体の強度を好適に向上できる。一方で、アルミナは、光散乱因子であるため、焼結体の透光性を低下させるおそれがある。このため、アルミナ源の添加量は、仮焼体の構成成分の総物質量(100mol%)に対してAl元素が0.2mol%以下(好適には0.15mol%以下、特に好適には0.1mol%以下)となるように調節するとよい。また、焼成後のジルコニア焼結体には、着色などの目的で、微量の(例えば0.1mol%以下の)添加成分が含まれることもある。この微量添加成分としては、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、ニオブ、プラセオジム、ネオジム、ユーロピウム、エルビウムなどが挙げられる。これらの微量添加成分も、成形加熱工程S60において、バインダと共に添加することが好ましい。
【0037】
2.ジルコニア仮焼体
以上、第1の実施形態に係るジルコニア仮焼体の製造方法を説明した。かかる製造方法によると、ジルコニアと希土類酸化物とが均一に分散したジルコニア仮焼体を製造することができる。このジルコニア仮焼体は、低速焼成時よりも高速焼成時の方が優れた透光性を呈するという従来にない効果を発揮する。以下、製造後の仮焼体について説明する。
【0038】
本実施形態に係るジルコニア仮焼体は、ジルコニアと希土類酸化物とを含む成形体である。ジルコニアや希土類酸化物については、既に説明したため、重複する説明を省略する。なお、本明細書における「ジルコニア仮焼体」は、ジルコニアと希土類酸化物が主成分となる仮焼体である。ここでの「ジルコニアと希土類酸化物が主成分となる」とは、仮焼体の構成成分の総物質量(100mol%)に対して、ジルコニアと希土類酸化物の合成物質量が90mol%以上(より好適には91mol%以上、さらに好適には92mol%以上、特に好適には93mol%以上)となることをいう。なお、この仮焼体の構成成分の物質量は、後述するXRF分析によって測定される。
【0039】
また、仮焼体の構成成分の総物質量(100mol%)に対するジルコニアの物質量は、85mol%以上が好ましく、86mol%以上がより好ましく、87mol%以上がさらに好ましく、88mol%以上が特に好ましい。仮焼体中のジルコニアの含有割合が高くなるにつれて、焼成後のジルコニア焼結体の強度、靭性、耐水熱劣化性等が向上する傾向がある。一方、他の添加剤(希土類酸化物等)の添加量を確保するという観点から、ジルコニアの物質量は、96mol%以下が好ましく、95mol%以下がより好ましく、94mol%以下がさらに好ましく、93mol%以下が特に好ましい。
【0040】
ここで、このジルコニア仮焼体は、c/a軸長比が1.008以上の正方晶を母相として有している。このc/a軸長比は、ジルコニア仮焼体の表面を対象としたX線回折測定(XRD:X-ray diffraction)によって測定できる。具体的には、9μmのダイヤモンド砥石を用いてジルコニア仮焼体の表面を粗研磨した後、1μmの砥粒を用いて鏡面研磨することによって測定断面を露出させる。次に、市販のX線回折分析装置(Malvern PaNalytical製、型式:X’Pert Pro Alpha-1)を用いて、測定断面におけるX線回折パターンを取得する。そして、結晶解析ソフトウェア(RIETAN-FP)を用いて、X線回折パターンをリートベルト解析する。これによって、ジルコニア仮焼体のc/a軸長比が導出される。このc/a軸長比が1.008以上の正方晶は、安定化ジルコニア(典型的にはイットリア安定化ジルコニア)の母相となる。
【0041】
なお、X線回折パターンを取得する際の条件は以下の通りである。
X線源 :CuKαI線
管電圧 :45kV
管電流 :40mA
測定範囲 :10°≦2θ≦90°
スキャン速度:1.5°/min
ステップ幅 :0.0131°
【0042】
なお、本明細書における「母相」とは、ジルコニア仮焼体を構成する結晶相のうち、50%を超える結晶相のことをいう。換言すると、本実施形態に係るジルコニア仮焼体は、c/a軸長比が1.008以上の正方晶の存在比率が50%を超える。また、本明細書では、母相以外の結晶相(すなわち、合計存在比率が50%未満の結晶相)のことを「第二相」という。なお、第二相となる結晶相は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。すなわち、本実施形態に係るジルコニア仮焼体は、3相以上の結晶相を有する仮焼体を包含する。なお、本実施形態に係るジルコニア仮焼体における母相の存在比率は、72%以上が好ましく、74%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、76%以上が特に好ましい。母相の存在比率が増加するにつれて、母相と第二相との境界の数が少なくなるため、焼成後のジルコニア焼結体の透過性が向上する傾向がある。また、母相の存在比率の上限は、特に限定されず、100%でもよい。すなわち、本実施形態に係るジルコニア仮焼体は、c/a軸長比が1.008以上の正方晶のみからなる単相の仮焼体も包含する。なお、結晶相の構成比率は、上述したX線回折パターンの解析によって測定できる。
【0043】
ここで、本実施形態に係るジルコニア仮焼体は、XRF分析に基づいたジルコニア仮焼体における希土類酸化物の含有量X(mol%)と、XRD分析に基づいた母相における希土類酸化物の固溶量Y(mol%)との差分(X-Y)が1mol%以下であることを特徴とする。上述した通り、「XRF分析に基づいたジルコニア仮焼体における希土類酸化物の含有量X」とは、ジルコニア仮焼体の全体に存在する希土類酸化物の総量を示している。一方、「XRD分析に基づいた母相における希土類酸化物の固溶量Y」とは、母相側に分散した希土類酸化物の量を表している。すなわち、これらの数値の差分X-Yが小さくなると、希土類酸化物が偏在した第二相が少なくなり、仮焼体全体における希土類酸化物の分散性が向上しているといえる。そして、本実施形態に係るジルコニア仮焼体は、上記差分X-Yが1mol%以下であることを特徴とする。このジルコニア仮焼体は、ジルコニアと希土類酸化物とが予め均一に分散されているため、低速焼成時よりも高速焼成時の方が優れた透光性を呈する高速焼成用のジルコニア仮焼体として使用できる。
【0044】
なお、上記差分X-Yは、1mol%以下が好ましく、0.9mol%以下がより好ましく、0.8mol%以下がさらに好ましく、0.7mol%以下が特に好ましい。これによって、より高速焼成に適したジルコニア仮焼体を得ることができる。一方、上記差分X-Yの下限値は、特に限定されず、0.1mol%以上でもよい。
【0045】
なお、ジルコニア仮焼体における希土類酸化物の含有量Xは、3mol%以上が好ましく、3.2mol%以上がより好ましく、3.4mol%以上がさらに好ましく、3.5mol%以上が特に好ましい。仮焼体全体における希土類酸化物の含有量Xが増加するにつれて、焼成後のジルコニア焼結体の透光性が向上する傾向がある。一方、希土類酸化物の含有量Xが少ない仮焼体は、機械的特性(強度、靭性等)が向上する。かかる観点から、希土類酸化物の含有量Xは、6mol%以下が好ましく、5.5mol%以下がさらに好ましく、5mol%以下が特に好ましい。なお、本明細書における「希土類酸化物の含有量X」は、蛍光X線分析装置(XRF:X-ray Fluorescence)を用いて希土類元素の含有量を測定し、当該希土類元素の含有量を酸化物量に換算したものである。
【0046】
一方、母相における希土類酸化物の固溶量Yは、3.2mol%以上が好ましく、3.3mol%以上がより好ましく、3.4mol%以上がさらに好ましく、3.5mol%以上が特に好ましい。母相における希土類酸化物の固溶量Yが増加するにつれて、希土類酸化物が偏在した第二相の発生を抑制できる。また、母相における希土類酸化物の固溶量Yの上限値は、特に限定されず、仮焼体全体における希土類酸化物の含有量Xと略同一(X=Y)であってもよい。なお、母相における希土類酸化物の固溶量Yの上限値の具体的な値は、5mol%以下(典型的には4.9mol%以下、例えば4.8mol%以下)になり得る。なお、本明細書における「XRD分析に基づいた母相における希土類酸化物の固溶量Y」は、以下の手順に従って測定できる。まず、上述した通り、X線回折パターンを解析することによって母相のc/a軸長比を測定できる。この母相のc/a軸長比を、所定の計算式に代入すれば、「母相における希土類酸化物の固溶量Y」を算出できる。なお、この計算式は、希土類酸化物の種類に応じて、従来公知の公式から選択されるものである。例えば、希土類酸化物がイットリア(Y)である場合には、以下の式(1)を用いることによって、母相における希土類酸化物(イットリア)の固溶量Yを算出できる。なお、本明細書における「母相における希土類酸化物の固溶量Y」は、下記の式(1)に基づいて計算されたものに限定されない。例えば、希土類酸化物がイッテルビア(Yb)の場合には、従来公知の他の計算式に基づいて「母相における希土類酸化物の固溶量Y」を算出できる。
【数1】
【0047】
また、本実施形態に係るジルコニア仮焼体は、当該ジルコニア仮焼体の表面の50%以上(好適には75%以上)において上記差分X-Yが1mol%以下を満たしていることが好ましい。例えば、直径2cmの円板状のジルコニア仮焼体(表面積:約3cm)を測定対象とした場合には、任意の測定場所(直径:1cm、面積:約0.75cm)を走査して測定を行った。そして、測定場所を変更して2~3箇所の測定を実施し、各々の測定位置における差分X-Yが1mol%以下を満たしているとよい。本実施形態に係るジルコニア仮焼体は、微小な希土類化合物が均質に分散した混合粒子を仮焼することによって製造されたものである。このため、このジルコニア仮焼体は、複数の測定箇所の何れにおいても、希土類元素の偏在が抑制されていることが確認されやすい。すなわち、ここに開示される技術によると、ジルコニア仮焼体の大部分において、上記差分X-Yが1mol%以下を満たすような結晶構造を確認できる。このジルコニア仮焼体を高速焼成すると、全体として優れた透光性を呈するジルコニア焼結体を得ることができる。
【0048】
3.ジルコニア焼結体の製造方法
以上、本実施形態に係るジルコニア仮焼体について説明した。次に、このジルコニア仮焼体を用いてジルコニア焼結体を製造する方法について説明する。図2は、本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法を説明するフローチャートである。図2に示すように、このジルコニア焼結体の製造方法は、仮焼体準備工程S110と、昇温工程S120と、保持工程S130と、冷却工程S140とを備えている。以下、各工程について説明する。
【0049】
(1)仮焼体準備工程S110
本工程では、ジルコニア仮焼体を焼成炉の内部に収容する。なお、本実施形態では、上述した通り、希土類酸化物が均一に分散した(換言すると、上記X-Yが1mol%以下の)ジルコニア仮焼体を使用する。なお、ジルコニア仮焼体を準備する手段は、特に限定されない。例えば、上記「1.ジルコニア仮焼体の製造方法」に記載の製造方法を実施してもよいし、製造済のジルコニア仮焼体を購入等してもよい。そして、本工程では、準備したジルコニア仮焼体を加熱炉内に収容する。なお、ここでの加熱炉としては、従来公知の加熱炉(例えば、マッフル炉、電気炉、マイクロ波焼成炉等)を特に制限なく使用できる。
【0050】
(2)昇温工程S120
本工程では、焼成炉の内部を、予め定めた焼成温度まで昇温する。ここでの焼成温度は、例えば、1400℃~1700℃(好適には1550℃~1650℃)の範囲内に設定される。これによって、ジルコニアと希土類酸化物を含む仮焼体を十分に焼結させることができる。なお、昇温工程S120は、複数の段階に分割されていてもよい。例えば、本実施形態における昇温工程S120は、図2に示すように、第1昇温工程S122と、第2昇温工程S124とを備えている。
【0051】
(2-a)第1昇温工程S122
第1昇温工程S122では、150℃/分以上の昇温速度で1000℃~1100℃という第1温度まで昇温する。この第1温度は、ジルコニアの緻密化が生じる温度よりも低い温度に設定する。そして、第1昇温工程S122では、後述する第2昇温工程S124と比べて速い昇温速度で第1温度まで昇温する。この緻密化温度以下の低温領域を高速で昇温しても、ジルコニアの焼結(緻密化)への悪影響が少ない。これによって、製造後のジルコニア焼結体の密度を十分に確保した上で、焼成時間をさらに短縮できる。なお、第1昇温工程S122における昇温速度は、160℃/分以上が好ましく、170℃/分以上がより好ましく、180℃/分以上がさらに好ましく、190℃/分以上が特に好ましい。これによって、第1昇温工程S122の時間を短縮できるため、生産効率の向上に貢献できる。加えて、本実施形態に係る仮焼体を使用した場合、昇温速度を向上させて第1昇温工程S122を短縮した方が焼成後の焼結体の透光性が向上する傾向がある。一方、第1昇温工程S122における昇温速度の上限値は、250℃/分以下が好ましく、240℃/分以下がより好ましく、230℃/分以下がさらに好ましく、220℃/分以下が特に好ましい。第1昇温工程S122における昇温速度を遅くすると、仮焼体の内部と表面との間の温度ムラが小さくなるため、組成の均質化による強度の向上が生じやすい。
【0052】
(2-b)第2昇温工程S124
次に、第2昇温工程S124では、30℃/分~150℃/分未満の昇温速度で1500℃~1700℃という第2温度まで昇温する。この第2温度は、ジルコニアの緻密化よりも高い温度である。すなわち、第2昇温工程S124では、相対的に遅い昇温速度で第2温度まで昇温させる。これによって、製造後のジルコニア焼結体の密度を十分に確保できる。なお、第2昇温工程S124における昇温速度は、35℃/分以上が好ましく、40℃/分以上がより好ましく、45℃/分以上がさらに好ましく、50℃/分以上が特に好ましい。上記第1昇温工程S122と同様に、本実施形態においては、昇温速度を向上させて焼成時間を短縮した方が焼成後の焼結体の透光性が向上する傾向がある。一方、第2昇温工程S124における昇温速度の上限値は、130℃/分以下が好ましく、120℃/分以下がより好ましく、110℃/分以下がさらに好ましく、100℃/分以下が特に好ましい。これによって、ジルコニアをより好適に緻密化できる。
【0053】
(3)保持工程S130
保持工程S130では、焼成温度を維持した状態で、予め定めた保持時間を保持する。これによって、仮焼体内の安定化ジルコニアが焼結し、ジルコニア焼結体が製造される。上記の通り、本実施形態に係るジルコニア仮焼体を使用すると、本工程における保持時間を30分以下に短縮しても、透光性に優れたジルコニア焼結体を製造できる。なお、保持工程S130における保持時間は、20分以下でもよく、15分以下でもよく、10分以下でもよい。また、より好適な保持時間としては、7.5分以下が好ましく、5分以下がより好ましく、2.5分以下がさらに好ましく、1分以下が特に好ましい。これによって、焼結体の製造時間をさらに短縮できる。なお、保持時間の下限値は、特に限定されず、0.5分以上でもよい。また、保持時間は、0分にしてもよい。具体的には、ここに開示されるジルコニア焼結体の製造方法は、第2昇温工程S126が完了した後に、保持工程S130を実施せずに冷却工程S140を開始する態様も包含する。かかる態様を採用した場合でも、希土類酸化物が均一に分散しており、優れた透光性を呈するジルコニア焼結体を製造することができる。
【0054】
(5)冷却工程S140
冷却工程S140では、焼成炉の内部を、予め定めた冷却温度まで冷却する。これによって、焼成後のジルコニア焼結体を回収できる。なお、冷却工程S140における冷却速度は、50℃/分以上が好ましく、75℃/分以上がより好ましく、100℃/分以上が特に好ましい。上記第1昇温工程S122及び第2昇温工程S124と同様に、冷却速度を向上させて、合計の焼成時間を短縮した方が焼成後の焼結体の透光性が向上する傾向がある。また、冷却速度の向上は、生産効率の向上にも貢献できる。一方、冷却工程S140における冷却速度の上限値は、450℃/分以下が好ましく、425℃/分以下がより好ましく、400℃/分以下が特に好ましい。これによって、急激な冷却によるクラックの発声を抑制できる。
【0055】
そして、製造後のジルコニア焼結体は、高速焼成を実施したにもかかわらず、全光線透過率が44.5%以上(好適には45%以上、より好適には45.5以上、特に好適には46%以上)という非常に優れた透光性を発揮する。このため、本実施形態に係るジルコニア仮焼体によると、優れた透光性を有する焼結体を高い生産効率で製造することができる。
【0056】
また、上記の通り、本実施形態では、ジルコニアと希土類酸化物とが予め均一にされた原料(ジルコニア仮焼体)を使用している。このため、焼成処理中に結晶構造が大きく変化しないように、合計焼成時間(第1昇温工程S120~保持工程S140の合計時間)を短縮することが好ましい。これによって、より透光性に優れたジルコニア焼結体を製造することができる。具体的には、本実施形態における合計焼成時間は、120分以下が好ましく、60分以下がより好ましく、30分以下が特に好ましい。一方、仮焼体を十分に焼結させることができれば、合計焼成時間の下限値は特に限定されない。例えば、合計焼成時間は、10分以上でもよく、12分以上でもよく、14分以上でもよい。
【0057】
<他の実施形態>
以上、ここに開示される技術の第1の実施形態について説明した。なお、上述の実施形態は、ここに開示される技術が適用される一態様を示したものであり、ここに開示される技術を限定するものではない。すなわち、ここに開示される技術では、低速焼成時よりも高速焼成時の方が優れた透光性を呈する高速焼成用のジルコニア仮焼体を実現するという課題を達成することができれば、上述した第1の実施形態から種々の構成を適宜改変することができる。
【0058】
1.第2の実施形態
第1の実施形態では、希土類分散工程S20において、希土類添加工程S22と析出工程S24を実施している。換言すると、第1の実施形態では、スラリー内に溶解した希土類元素を析出させることによって、平均粒子径が300nm以下の希土類粒子が分散したスラリーを実現している。しかし、希土類分散工程S20は、微小な希土類粒子をスラリーに分散させることができればよく、第1の実施形態に記載の手順に限定されない。例えば、図3は、第2の実施形態に係るジルコニア仮焼体の製造方法の概要を示すフローチャートである。図3に示すように、第2の実施形態における希土類分散工程S20は、添加工程S26と、撹拌工程S28とを備えている。以下、各工程について説明する。なお、希土類分散工程S20以外の工程は、第1の実施形態と同じであるため、重複した説明を省略する。
【0059】
(1)添加工程S26
添加工程S26では、ジルコニアゾルスラリーに、平均粒子径が300nm以下の希土類粒子を添加する。具体的には、第1の実施形態では、希土類粒子を析出させることによって、ジルコニアゾルスラリー内に微小な希土類粒子を生じさせていた。これに対して、第2の実施形態の添加工程S26は、300nm以下という平均粒子径に制御された希土類粒子をジルコニアゾルスラリー内に直接添加する。かかる構成を採用した場合でも、高速焼成用のジルコニア仮焼体を製造できることが実験で確認されている。なお、ここでの希土類粒子としては、希土類元素の酸化物、水酸化物などを使用できる。これらの中でも、希土類元素の酸化物は、安定した製造が可能になるため好適である。
【0060】
(2)撹拌工程S28
撹拌工程S28では、ジルコニアゾルスラリーを撹拌して希土類粒子を分散させる。これによって、ジルコニアゾルスラリー内に微小な希土類粒子を均一に存在させることができるため、高速焼成用のジルコニア仮焼体を確実に製造することができる。そして、この撹拌工程S28の後に、上述の回収工程S30と加熱工程S40を実施することによって、ジルコニアと希土類酸化物とが均一に分散したジルコニア仮焼体を製造できる。
【0061】
また、本実施形態に係る製造方法では、ジルコニアゾルスラリーのpHを酸性にした状態で希土類粒子の分散を実施することが好ましい。これによって、スラリー内の各粒子(ジルコニア粒子、希土類粒子)の凝集を抑制できるため、製造後のジルコニア仮焼体におけるジルコニアと希土類酸化物の分散性をさらに向上できる。なお、本工程におけるスラリーのpHは、4以下が好ましく、2以下がより好ましく、1以下がさらに好ましく、0.5以下が特に好ましい。スラリーのpHが低くなるにつれて、各粒子の分散性が向上する傾向がある。また、スラリーのpHの下限値は、特に限定されず、0.1以上でもよく、0.2以上でもよく、0.3以上でもよい。なお、スラリーのpHを調整する手段は、特に限定されない。例えば、塩酸などのpH調整剤を添加してスラリーのpHを低下させてもよい。また、水熱合成や加水分解で生成した際にスラリーのpHが4以下であった場合には、pHの調整を行わなくてもよい。
【0062】
なお、撹拌工程S28における他の撹拌条件は、ジルコニアゾルスラリーの粘度、希土類粒子の添加量、平均粒子径などの種々の条件に応じて適宜変化するため、ここに開示される技術を限定するものではない。但し、撹拌手段の一例として、ボールミル、ミキサー、ディスパー、ニーダなどが挙げられる。そして、撹拌における回転速度は、100rpm以上が好ましく、200rpm以上がより好ましく、300rpm以上がさらに好ましく、400rpm以上が特に好ましい。なお、回転速度の上限値は、特に限定されず、1000rpm以下でもよい。また、撹拌時間は、10分以上が好ましく、20分以上がより好ましく、30分以上がさらに好ましく、40分以上が特に好ましい。なお、撹拌時間の上限値も、特に限定されず、180分以下でもよい。これらの条件を考慮することによって、ジルコニアゾルスラリー内に微小な希土類粒子をより均一に分散させることができる。
【0063】
[試験例]
以下、ここで開示される技術に関する試験例を説明する。但し、以下の試験例は、ここで開示される技術を、以下で説明した内容に限定することを意図したものではない。
【0064】
<第1の試験>
本試験では、製造条件の異なる13種類のジルコニア仮焼体を準備した(サンプル1~13)。そして、各サンプルに対してXRF分析とXRD分析を実施し、ジルコニア仮焼体における希土類酸化物の含有量Xと、母相における希土類酸化物の固溶量Yとの差分(X-Y)を測定した。
【0065】
1.サンプルの準備
(サンプル1)
サンプル1では、希土類原料の溶解と析出という手順を経てジルコニア仮焼体を作製した。具体的には、まず、オキシ塩化ジルコニウム溶液に対して水熱合成を実施してジルコニアゾルスラリーを得た。合成後のスラリーのpHを測定したところ、pH=1.5であったため、本サンプルではpHを調整せずに希土類原料を溶解させた。なお、本サンプルでは、希土類原料として塩化イットリウムを使用した。また、塩化イットリウムの添加量は、ジルコニアとイットリアとの合計物質量(100mol%)に対してイットリアが4.27mol%となるように設定した。次に、ジルコニアゾルスラリーにアンモニアを添加し、スラリーのpHを7に上昇させた。これによって、スラリーからイットリウム化合物(イットリアなど)が析出した。この析出後のイットリウム化合物の平均粒子径をTEM観察で測定した結果、70nmであった。次に、スラリーに対して180℃、5時間の乾燥処理を実施することによって、ジルコニアとイットリアを含む混合粒子を回収した。そして、この混合粒子を1120℃、4時間で加熱することによって、部分安定化ジルコニア粉末を得た。かかるジルコニア粉末を、ジルコニアボール(直径:1mm)を用いたボールミルで粉砕した。次に、粉砕後の粉末をメッシュ篩で選別することによって、平均粒径150nm~200nmのジルコニア粉末を得た。このジルコニア粉末を直径2cmの円板状に成形した後に、1100℃、2時間で加熱(仮焼)することによってジルコニア仮焼体を得た。
【0066】
(サンプル2~3)
サンプル2~3では、イットリア添加量を異ならせた点を除いて、サンプル1と同じ手順でジルコニア仮焼体を作製した。なお、各サンプルにおけるイットリア添加量と平均粒子径を表1に示す。
【0067】
(サンプル4~12)
サンプル4~12では、希土類原料の溶解と析出という手順を経ず、所定の平均粒子径に調節された希土類粒子をスラリーに添加した。具体的には、サンプル4~12では、サンプル1と同じ手順で生成したスラリーのpHを2に調節した後に、粉体の希土類原料(酸化イットリウム粒子)を添加した。なお、サンプル4~12では、イットリア添加量と平均粒子径をそれぞれ異ならせた。各サンプルにおけるイットリア添加量と平均粒子径を表1に示す。そして、サンプル1と同様の回収処理と仮焼処理を経てジルコニア仮焼体を得た。
【0068】
2.評価試験
本試験では、上述した測定手順に沿って、ジルコニア仮焼体における希土類酸化物の含有量Xと、母相における希土類酸化物の固溶量Yとを測定した。そして、測定結果に基づいて、ジルコニア仮焼体における希土類酸化物の含有量Xと母相における希土類酸化物の固溶量Yとの差分X-Yを測定した。結果を表1に示す。
【0069】
また、本試験では、1つのサンプル(仮焼体)に対して、測定箇所が異なるXRD分析を3箇所行った。そして、リートベルト解析に基づいて各々の測定箇所におけるc/a軸長比を測定し、結晶割合が最も多い領域を母相とした。この算出結果も表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、サンプル1~4、6~9、11では、ジルコニア仮焼体における希土類酸化物の含有量Xと、母相における希土類酸化物の固溶量Yとの差分(X-Y)が1mol%以下となった。上述した通り、このような仮焼体は、イットリアが均一に分散していると解される。すなわち、平均粒子径300nm以下のイットリア粒子をスラリー内に分散させることによって、イットリアの偏析が好適に抑制されたジルコニア仮焼体が得られることが分かった。
【0072】
<第2の試験>
次に、第2試験では、第1の試験で得た仮焼体を用いてジルコニア焼結体を製造した。なお、本試験では、9種類の仮焼体(サンプル1~5、8~10、12)と、条件の異なる7種類の焼成処理(焼成パターン1~6)とを組み合わせて、22種類のジルコニア焼結体(試験例1~22)を作製した。そして、作成後の焼結体の全光線透過率を測定して透光性を評価した。
【0073】
1.焼成条件
上記の通り、本試験では、6種類の焼成パターンを設定した。各々の焼成パターンにおける詳細な温度プロファイルを表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
2.サンプルの選択
上記の通り、本試験では、9種類の仮焼体(サンプル1~5、8~10、12)と、7種類の焼成処理(焼成パターン1~6)とを組み合わせて、22種類の試験例を実施した。具体的な仮焼体と焼成処理の組み合わせを表3に示す。
【0076】
3.評価試験
(1)焼成時間
試験例1~22の各々に対して、焼成開始から冷却完了までに要した合計時間を算出した。算出結果を表3に示す。
【0077】
(2)全光線透過率の測定
本試験では、全光線透過率を測定して、焼成後のジルコニア焼結体の透光性を評価した。この全光線透過率の測定では、まず、焼成後のジルコニア焼結体(試験例1~22)を厚さ1mmの円盤状の試験片となるように加工した。次に、ダイヤモンドスラリー(平均粒径0.5μm)を研磨剤として用いて、上記試験片の両面を鏡面研磨した。そして、厚み方向におけるD65光源の全光線透過率を測定した。なお、測定には、日本電色工業製のヘーズメーターNDH4000を用いた。結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
まず、試験例13、14に示すように、X-Yが1mol%を超えるサンプル5では、高速焼成(パターン1)を実施した試験例14よりも、低速焼成(パターン3)を実施した試験例13の方が焼成後の透光性が向上していた。これは、従来の知見の通りであり、長時間の低速焼成によって、焼結体内の気泡が除去されたためと考えられる。一方、他のサンプルでは、低速焼成時よりも高速焼成時の方が優れた透光性を発揮していた(試験例1~12、15~18参照)。このことから、X-Yが1mol%を超えるサンプルでは、気泡の除去とは異なるメカニズムによって透光性が向上していると推測される。そして、これらのサンプルでは、仮焼体全体において希土類酸化物が均一に分布している。このことから、X-Yが1mol%を超えるサンプルでは、焼成後の焼結体の結晶構造が均質であるため、透光性が向上していると推測される。
【0080】
以上、ここに開示される技術を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。すなわち、ここに開示される技術は、以下の項目1~項目9に記載の形態を包含する。
【0081】
<項目1>
ジルコニア粉体を含むジルコニアゾルスラリーを生成する生成工程と、
前記ジルコニアゾルスラリーに、平均粒子径が300nm以下の希土類粒子を分散させる希土類分散工程と、
前記ジルコニアゾルスラリーから、ジルコニア粒子と希土類粒子とを含む混合粒子を回収する回収工程と、
前記混合粒子を加熱することによって部分安定化ジルコニア粉末を作製する加熱工程と、
前記部分安定化ジルコニア粉末を所望の形状に成形した後に加熱する成形加熱工程と
を含む、ジルコニア仮焼体の製造方法。
【0082】
<項目2>
前記希土類分散工程は、
pHが4以下の前記ジルコニアゾルスラリーに希土類原料を溶解させる希土類添加工程と、
前記ジルコニアゾルスラリーのpHを6~9に上昇させることによって希土類化合物を析出させる析出工程と
を含む、項目1に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【0083】
<項目3>
前記析出工程において、前記ジルコニアゾルスラリーにアンモニアを添加することによって、当該スラリーのpHを上昇させる、項目2に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【0084】
<項目4>
前記希土類分散工程は、
前記ジルコニアゾルスラリーに、平均粒子径が300nm以下の希土類粒子を添加する添加工程と、
前記ジルコニアゾルスラリーを撹拌して前記希土類粒子を分散させる撹拌工程と
を含む、項目1に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【0085】
<項目5>
前記加熱工程と前記成形加熱工程の間で、前記部分安定化ジルコニア粉末の粒度を調整する粒度調整工程を実施する、項目1~4のいずれか一項に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【0086】
<項目6>
前記希土類粒子は、イットリアである、項目1~5のいずれか一項に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【0087】
<項目7>
ジルコニアと希土類酸化物とを含むジルコニア仮焼体であって、
c/a軸長比が1.008以上の正方晶を母相として有しており、
XRF分析に基づいた前記ジルコニア仮焼体における前記希土類酸化物の含有量X(mol%)と、XRD分析に基づいた前記母相における前記希土類酸化物の固溶量Y(mol%)との差分(X-Y)が1mol%以下であることを特徴とする、ジルコニア仮焼体。
【0088】
<項目8>
前記希土類酸化物は、イットリアである、項目7に記載のジルコニア仮焼体。
【0089】
<項目9>
前記希土類酸化物の含有量Xが3mol%以上6mol%以下である、項目7または8に記載のジルコニア仮焼体。
【0090】
<項目10>
前記母相における前記希土類元素の固溶量Yが3.2mol%以上5mol%以下である、項目7~9のいずれか一項に記載のジルコニア仮焼体。
【0091】
<項目11>
前記ジルコニア仮焼体の全体に対する前記母相の存在比率が75%以上100%以下である、項目7~10のいずれか一項に記載のジルコニア仮焼体。
【0092】
<項目12>
項目7~11のいずれか一項に記載のジルコニア仮焼体を焼成炉の内部に収容する仮焼体準備工程と、
前記焼成炉の内部を、予め定めた焼成温度まで昇温する昇温工程と、
前記焼成温度を維持した状態で、予め定めた保持時間を保持する保持工程と、
前記焼成炉の内部を、予め定めた冷却温度まで冷却する冷却工程と
を備えており、
前記保持時間が30分以下である、ジルコニア焼結体の製造方法。

【要約】
【課題】低速焼成時よりも高速焼成時の方が優れた透光性を呈する高速焼成用のジルコニア仮焼体を実現する。
【解決手段】ここで開示されるジルコニア仮焼体の製造方法は、ジルコニア粉体を含むジルコニアゾルスラリーを生成する生成工程と、ジルコニアゾルスラリーに、平均粒子径が300nm以下の希土類粒子を分散させる希土類分散工程と、ジルコニアゾルスラリーから、ジルコニア粒子と希土類粒子とを含む混合粒子を回収する回収工程と、混合粒子を加熱することによって部分安定化ジルコニア粉末を作製する加熱工程とを含む。かかる構成の製造方法によると、ジルコニアと希土類酸化物とが均一に分散したジルコニア仮焼体を製造できる。このジルコニア仮焼体は、低速焼成時よりも高速焼成時の方が優れた透光性を呈するという従来にない効果を発揮する。
【選択図】図1
図1
図2
図3