(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-09
(45)【発行日】2025-05-19
(54)【発明の名称】プレス絞り加工方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20250512BHJP
【FI】
B21D22/26 C
(21)【出願番号】P 2021002414
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 義樹
(72)【発明者】
【氏名】久野 昌之
【審査官】煤孫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-239327(JP,A)
【文献】実開昭62-165022(JP,U)
【文献】特開2009-061466(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0067757(US,A1)
【文献】特開2014-108429(JP,A)
【文献】特公昭46-035138(JP,B1)
【文献】国際公開第2016/075937(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00-26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨出形状を有する部分である膨出部を含む成形体を作製するプレス絞り加工方法であって、
板状の基材である板材を第1金型によって第1方向に押圧することにより、膨出形状を有する部分である膨出部を含む成形体である第1成形体を作製する工程である第1工程、及び
前記第1成形体の前記膨出部の中央部の形状を拘束しつつ前記膨出部の頂面と側面との境界位置から前記側面に亘る部分である肩曲面部の少なくとも一部を第2金型によって前記第1方向に対して傾斜した方向であって前記肩曲面部の目標形状
を構成する面のうち1つの面の法線方向において前記膨出部の内部に向かう方向である第2方向に押圧することにより、前記第1成形体の前記肩曲面部の形状よりも目標とする形状に近い前記肩曲面部を有する成形体である第2成形体を作製する工程である第2工程、
を含むことを特徴とする、プレス絞り加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたプレス絞り加工方法であって、
前記第2成形体の少なくとも一部を第3金型によって押圧することにより、目標とする形状を有する成形体である第3成形体を作製する工程である第3工程、
を更に含むことを特徴とする、プレス絞り加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレス絞り加工方法に関する。具体的には、本発明は、膨出形状を有する部分である膨出部を含む成形体の肩曲面部における減肉を効果的に低減することができるプレス絞り加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野においては、稜線部を有し且つ絞り高さの大きい膨出形状(例えば、山状及びハット状等の形状)を有する部分である膨出部を含む成形体が様々な用途に用いられている。このような成形体は、板状の部材から一回のプレス絞り加工によって作製することが困難である場合があるため、複数回のプレス絞り加工によって作製することが知られている。例えば
図5の(a)に示すような目標とする形状よりも若干大きく膨出した膨出部を有する予備成形体1を予め作製しておく。このような予備成形体1は、例えば、目標とする形状よりも若干大きく膨出した形状に対応する内部空間を有する金型(オーバードロー型)(図示せず)を使用するプレス絞り加工によって作製することができる。
【0003】
次に、黒塗りの矢印によって示すように目標とする形状に対応する内部空間を有する金型2を使用して予備成形体1をプレス絞り加工することにより、
図5の(b)に示すような目標とする形状を有する目標成形体3を作製する。尚、
図5の(a)は、予備成形体1の形状を判り易く示すことを目的として、金型2の内部空間を画定する壁面(成型面)によって金型2を表すと共に、予備成形体1の金型2の内部に位置する部分が見えるように成型面の一部が省略されている。
【0004】
図6は、
図5に例示した従来技術に係るプレス絞り加工工程(従来方法)における金型の位置及びワーク(被成形体)の形状の変化を例示する模式図である。
図6において黒塗りの矢印によって示すように、一般的なプレス機械を使用するプレス絞り加工工程においては、金型2(上型)が鉛直方向における下向きに予備成形体1を押圧することにより、目標とする形状を有する目標成形体3が成形される。この際、予備成形体1の目標とする形状よりも若干大きく膨出した膨出部R1が金型2によって押圧されて目標とする形状(例えば、座面等)へと成形される。
【0005】
しかしながら、上記のような従来技術に係るプレス絞り加工方法(以降、「従来方法」と称呼される場合がある。)においては、膨出部R1の端部に位置する肩曲面部(稜線の近傍から側面に亘る部分)R2において、他の部位に比べて板厚が減少したり割れが生じたりする問題が生ずる虞がある。このような問題が生ずるのは、予備成形体1の成形時に既に板厚が減少(減肉)している肩曲面部R2が、
図7において矢印によって示すように、上方から降りてくる金型2(上型)によって下方へ向かって擦られる(削ぎ落される)状態となり、肩曲面部R2において更に板厚が減少する(減肉する)ためであると考えられる。
【0006】
そこで、当該技術分野においては、膨出形状を有する成形体のプレス絞り加工方法において肩曲面部における減肉を効果的に低減するための様々な技術が提案されている。
【0007】
例えば、平板部と当該平板部から膨出し且つ円形の頂部を有する円筒絞り部とを備えた円筒絞り成形体を絞り成形により得る工程において、円筒絞り部の頂面に凸凹を形成しておき、次の絞り加工においてワーク(被成形体)の周長よりも短い周長を有する型により当該部分を増肉させる工法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。これによれば、減肉部における材料流出を最小限に抑えると共に増肉部では25%以上増肉した円筒絞り成形体を成形することができるとされている。
【0008】
しかしながら、上記工法においては、円筒絞り部の頂面に凸凹を形成するための特別な型が必要となるので、適用可能な成形体の形状が限定されると共に、製造コストの増大を招く。また、肩曲面部のみの減肉を低減する工法ではないため、上述したような肩曲面部の減肉を上記工法によって低減することには無理及び/又は無駄がある。
【0009】
また、クランプパンチとクランプダイ及び増肉ダイとによってワーク全体をクランプした状態において増肉パンチによりワークの円筒部に軸方向の圧縮荷重を加えてワークの屈曲部を増肉し且つ増肉に応じて増肉案内ダイをクランプダイに対して後退させて屈曲部の増肉の流れを増肉案内ダイの内周面に案内する工法も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。これによれば、皺の発生を防ぎつつ肩曲面部を増肉させることができるとされている。
【0010】
しかしながら、上記工法においては、円筒絞り部の下端部を型内へ押し込むために内側及び外側の全体型が必要となり、この場合も複雑な形状を有する型が必要となるため製造コストの増大を招く。また、肩曲面部のみの減肉を低減する工法ではないため、上述したような肩曲面部の減肉を上記工法によって低減することには無理及び/又は無駄がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2015/147297号
【文献】特許第5237179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述したように、当該技術分野においては、膨出形状を有する部分である膨出部を含む成形体を作製するプレス絞り加工方法において肩曲面部における減肉を効果的に低減することができる技術に対する継続的な要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題に鑑み、本発明者は、鋭意研究の結果、上述したような予備成形体から目標成形体を作製する工程において、予備成形体の肩曲面部を、予備成形体の成形時と同じ方向に押圧するのではなく、膨出部の内部に向かう方向に押圧することにより、肩曲面部における更なる減肉を低減することができることを見出した。
【0014】
具体的には、本発明に係るプレス絞り加工方法(以降、「本発明方法」と称呼される場合がある。)は、膨出形状を有する部分である膨出部を含む成形体を作製するプレス絞り加工方法であって、以下に列挙する第1工程及び第2工程を含むことを特徴とするプレス絞り加工方法である。
【0015】
第1工程:板状の基材である板材を第1金型によって第1方向に押圧することにより、膨出形状を有する部分である膨出部を含む成形体である第1成形体を作製する工程。
第2工程:第1成形体の膨出部の中央部の形状を拘束しつつ肩曲面部の少なくとも一部を第2金型によって第2方向に押圧することにより、第2成形体を作製する工程。
尚、肩曲面部は膨出部の稜線から側面に亘る部分であり、第2方向は第1方向よりも膨出部の内部に向かう方向であり、第2成形体は第1成形体の肩曲面部の形状よりも目標とする形状に近い肩曲面部を有する成形体である。
【0016】
本発明方法は、以下の第3工程を更に含むことができる。
第3工程:第2成形体の少なくとも一部を第3金型によって押圧することにより、目標とする形状を有する成形体である第3成形体を作製する工程。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、本発明方法においては、第1工程において成形された第1成形体(上述した予備成形体に対応)が含む膨出部の肩曲面部が第2工程において第1工程における押圧方向(第1方向)よりも膨出部の内部に向かう方向(第2方向)に押圧される。従って、前述した従来方法において起こるような肩曲面部における更なる減肉が効果的に低減される。即ち、本発明方法によれば、膨出形状を有する部分である膨出部を含む成形体を作製するプレス絞り加工方法において、肩曲面部における減肉を効果的に低減することができる。
【0018】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施態様に係るプレス絞り加工方法(第1方法)に含まれる各工程の流れを例示するフローチャートである。
【
図2】第1方法に含まれる第2工程を実行するプレス機械の構成、第2工程の進行に伴う第2金型の位置及びワーク(被成形体)の形状の変化を例示する模式図である。
【
図3】第1方法に含まれる第2工程における第2金型の位置及びワーク(被成形体)の形状の変化をより詳細に例示する模式図である。
【
図4】本発明の第2実施態様に係るプレス絞り加工方法(第2方法)に含まれる各工程の流れを例示するフローチャートである。
【
図5】目標とする形状よりも若干大きく膨出した膨出部を有する予備成形体から目標とする形状を有する目標成形体を作製する従来技術に係るプレス絞り加工方法(従来方法)を例示する模式図である。
【
図6】
図5に例示した従来技術に係るプレス絞り加工工程(従来方法)における金型の位置及びワーク(被成形体)の形状の変化を例示する模式図である。
【
図7】
図6に示した領域R2の模式的な拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《第1実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第1実施形態に係るプレス絞り加工方法(以降、「第1方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0021】
〈構成〉
図1は、第1方法に含まれる各工程の流れを例示するフローチャートである。第1方法は、以下に列挙する第1工程(ステップS10)及び第2工程(ステップS20)を含むことを特徴とするプレス絞り加工方法である。
【0022】
第1工程(ステップS10):板状の基材である板材を第1金型によって第1方向に押圧することにより、膨出形状を有する部分である膨出部を含む成形体である第1成形体を作製する工程。
第2工程(ステップS20):第1成形体の膨出部の中央部の形状を拘束しつつ肩曲面部の少なくとも一部を第2金型によって第2方向に押圧することにより、第2成形体を作製する工程。
尚、肩曲面部は膨出部の稜線から側面に亘る部分であり、第2方向は第1方向よりも膨出部の内部に向かう方向であり、第2成形体は第1成形体の肩曲面部の形状よりも目標とする形状に近い肩曲面部を有する成形体である。
【0023】
第1工程は(ステップS10)、例えば油圧式プレス機械又は機械式プレス機械等のプレス機械を使用して実行することができる。このようなプレス機械の構成及び作動については当業者に周知であるので、ここでの説明は省略する。
【0024】
上記「板材」は、プレス絞り加工によって塑性変形させることが可能な材料によって構成され且つ板状の形状を有する部材である。このような材料の具体例としては、例えば、鉄、銅及びアルミニウム等の金属材料並びにこれらの金属の何れかを含む合金材料等を挙げることができる。上記板材の典型例としては、例えばステンレス鋼板等を挙げることができる。或いは、板材は、プレス絞り加工によって塑性変形させることが可能である限りにおいて、非金属材料であってもよい。
【0025】
「第1金型」は、第1方法によって作製しようとする最終的な成形体(前述した「目標成形体」に対応する)の形状(以降、「目標形状」と称呼される場合がある。)よりも若干大きく膨出した膨出部を有する成形体(前述した「予備成形体」に対応する)の形状に対応する内部空間を有する金型である。このような金型は「オーバードロー金型」と称呼される場合がある。従って、第1工程において作製される「第1成形体」は、前述した予備成形体に対応する成形体であり、目標形状よりも若干大きく膨出した膨出部を有する。
【0026】
「第1方向」は、第1工程において第1金型が板材を押圧する方向であり、プレス機械を使用するプレス絞り加工においては一般的に鉛直方向における下向きの方向である。
【0027】
第2工程(ステップS20)もまた、上述した第1工程と同様に実行することができる。但し、第2工程においては、第1工程において作製された第1成形体の膨出部の中央部の形状を拘束しつつ肩曲面部の少なくとも一部を第2金型によって第2方向に押圧することにより、第2成形体が作製される。
【0028】
「肩曲面部」は、上述したように、膨出部の稜線から側面に亘る部分である。ここで言う「稜線」は、膨出部の頂面と側面との境界を意味するが、必ずしも膨出部の頂面と側面との間に明確な境界が存在することを要件とするものではない。即ち、本明細書における稜線は、膨出部の頂面と側面との境界近傍に位置する突出した部分を意味する。従って、肩曲面部は、膨出部の頂面と側面との境界近傍から側面に亘る部分に位置する曲面を意味する。
【0029】
第1工程においては、第1金型によって第1方向に板材を押圧することにより、膨出部を含む成形体である第1成形体が作製される。この際、膨出部の形成に伴い肩曲面部の板厚は減少する(減肉する)。従って、従来方法と同じように第2工程においても第1工程と同じ第1方向に第1成形体の肩曲面部を押圧した場合、肩曲面部が金型によって第1方向に向かって擦られる(削ぎ落される)状態となる。即ち、肩曲面部において更に板厚が減少する(減肉する)。
【0030】
しかしながら、第1方法に含まれる第2工程においては、上述したように、第1方向よりも膨出部の内部に向かう方向である第2方向に向かって、肩曲面部の少なくとも一部が第2金型によって押圧される。従って、従来方法のように第1工程における押圧方向(第1方向)と同じ方向に肩曲面部が擦られるのではなく、第1方向よりも膨出部の内部に向かう方向に肩曲面部が押圧される。その結果、従来方法に比べて、肩曲面部を形成している材料のうち、第1方向に向かって流動する材料の割合が低減し、肩曲面部に留まったり肩曲面部の第1方向とは反対側に流動したりする材料の割合が増大する。即ち、第2成形体の肩曲面部における更なる減肉が効率的に低減される。
【0031】
尚、第2方向は、上述したように、第1方向よりも膨出部の内部に向かう方向である。例えば、第1方向が鉛直方向における下向きの方向である場合、第2方向は、水平方向において膨出部の中心に向かう成分を有する方向(例えば、斜め下に向かう方向)である。第2方向の具体的な角度は、例えば、第2金型によって押圧される肩曲面部の形状及び板厚、第2金型によって押圧された結果として形成される肩曲面部の目標形状、並びに第2工程における押圧負荷及びプレス機械の耐荷重等、様々な要因に基づいて適宜設定することができる。典型的には、第2方向は、肩曲面部の目標形状における主たる面の法線方向とすることができる。例えば、肩曲面部の目標形状における主たる面が座面を構成する場合、当該座面の法線方向を第2方向とすることができる。
【0032】
上記のような方向に第2金型を駆動するための手段及び方法は特に限定されない。典型的には、詳しくは後述するように、第2方向に傾斜する斜面を有するカムドライバ及び当該カムドライバに当接して当該斜面に沿って摺動するように構成されたカムスライダを含んでなるカム機構を備えるプレス機械において当該カム機構によって第2金型を第2方向に駆動することができる。この場合、カムドライバの斜面を第2方向に平行な角度に設定してカムスライダを第2方向に摺動させることにより、第2金型を第2方向に移動させて、第2金型によって肩曲面部を第2方向に押圧することができる。
【0033】
但し、肩曲面部の目標形状における主たる面の法線方向に正確に合致した斜面を有するカムドライバを個々の成形体に合わせて用意することは成形体の製造コストの増大に繋がる虞がある。従って、斯かる成形体の実際の製造工程においては、肩曲面部における減肉を効果的に低減することが可能である範疇において、既存のカムドライバの中から上記法線方向に近い角度にて傾斜する斜面を有するカムドライバを選択し使用してもよい。
【0034】
図2は、上記のようなプレス機械の構成、第2工程の進行に伴う第2金型の位置及びワーク(被成形体)の形状の変化を例示する模式図である。
図2の(a)に示すように、プレス機械100は、図面に向かって左右にそれぞれ1つずつ合計2つのラム110a及び110bを備える。更に、プレス機械100は、第2方向に傾斜する斜面を有するカムドライバ23a及び23b及び当該カムドライバ23a及び23bにそれぞれ当接して当該斜面に沿って摺動するように構成されたカムスライダ24a及び24bを含んでなるカム機構を備える。2つの第2金型22a及び22bは、それぞれカムスライダ24a及び24bを介して、2つのラム110a及び110bにそれぞれ取り付けられている。加えて、プレス機械100は、第1成形体11の膨出部の中央部の形状を拘束するためのパッド22cを備える。
【0035】
上記のような構成を有するプレス機械100を使用して第2工程が開始されると、図示しない駆動機構により2つのラム110a及び110bが駆動され、黒塗りの矢印によって示すように、第2金型22a及び22bが下降し始める。やがて、
図2の(b)に示すように、カムドライバ23a及び23bの斜面にカムスライダ24a及び24bがそれぞれ当接する。この時点以降は、
図2の(c)において白抜きの矢印によって示すように、カムドライバ23a及び23bの斜面上をカムスライダ24a及び24bがそれぞれ第2方向に摺動する。従って、カムスライダ24a及び24bに取り付けられた第2金型22a及び22bの移動方向もまた、それぞれ第2方向に移動し、第1成形体11の膨出部の肩曲面部を第2方向に押圧する。
【0036】
図3は、第1方法に含まれる第2工程における第2金型の位置及びワーク(被成形体)の形状の変化をより詳細に例示する模式図である。
図3の(a)は、上述した
図2の(a)に対応し、第2工程における第2金型の位置及びワーク(被成形体)の形状の変化を判り易くすることを目的として、ワーク(被成形体)としての第1成形体11、第2金型22a及び22b並びにパッド22cのみが描かれている。また、
図3の(b)乃至(e)は、第2工程が開始された以降の第2金型の位置及びワーク(被成形体)の形状の変化を段階的に示し、
図3の(f)は第2工程の結果として得られる第2成形体12を示す。尚、
図3の(b)乃至(f)においては、パッド22cは省略されており、パッド22cによって形状が拘束される膨出部の中央部の範囲が2本の破線によって示されている。
【0037】
第2工程が開始されると、
図3の(b)及び(c)に示すように、第2金型22a及び22bが下降し始める(黒塗りの矢印を参照)。やがて、
図2を参照しながら説明したように図示しないカム機構によって第2金型22a及び22bの移動方向が第2方向に変化する(白抜きの矢印を参照)。これにより、第1成形体11の膨出部の肩曲面部R2が第2方向に押圧され、第2成形体12が作製される。
【0038】
〈効果〉
以上のように、第1方法においては、第1工程において成形された第1成形体が含む膨出部の肩曲面部が第2工程において第1工程における押圧方向(第1方向)よりも膨出部の内部に向かう方向(第2方向)に押圧される。従って、前述した従来方法において起こるような肩曲面部における更なる減肉が効果的に低減される。即ち、第1方法によれば、膨出形状を有する部分である膨出部を含む成形体を作製するプレス絞り加工方法において、肩曲面部における減肉を効果的に低減することができる。
【0039】
《第2実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第2実施形態に係るプレス絞り加工方法(以降、「第2方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0040】
上述したように、第1方法によれば、第1工程において成形された第1成形体が含む膨出部の肩曲面部を第2工程において膨出部の内部に向かう方向(第2方向)に押圧することにより、肩曲面部における更なる減肉が効果的に低減される。その結果として得られる第2成形体が最終的な目標とする形状を有する場合は、当該第2成形体を最終的な製品たる成形体として使用することができる。
【0041】
しかしながら、例えば、第2金型によって押圧される肩曲面部の形状及び板厚、第2金型によって押圧された結果として形成される肩曲面部の目標形状、並びに第2工程における押圧負荷及びプレス機械の耐荷重等、様々な要因により、最終的な目標とする形状を第2工程によって達成することが困難である場合も想定される。
【0042】
〈構成〉
そこで、第2方法は、上述した第1方法であって、以下の第3工程を更に含むプレス絞り加工方法である。
第3工程:第2成形体の少なくとも一部を第3金型によって押圧することにより、目標とする形状を有する成形体である第3成形体を作製する工程。
【0043】
図4は、第2方法に含まれる各工程の流れを例示するフローチャートである。上記から明らかであるように、第2方法は、上述した第1方法に含まれる第1工程(ステップS10)及び第2工程(ステップS20)の後に上記第3工程(ステップS30)が実行される点を除き、上述した第1方法と同様のプレス絞り加工方法である。従って、第1工程及び第2工程については、上述した第1方法に関する説明において既に詳しく述べたので、ここでの説明は省略し、以下の説明においては主に第3工程について述べる。
【0044】
第3工程においては、上述したように、第2工程において作製された第2成形体の少なくとも一部を第3金型によって押圧することにより、目標とする形状を有する成形体である第3成形体が作製される。第3金型によって押圧される第2成形体の部位には、少なくとも第2工程によって最終的な目標とする形状を達成することができなかった部位が含まれる。このような部位の具体例としては、例えば、第2工程において目標形状へと近付いたものの目標形状には至らなかった肩曲面部及び第2工程における肩曲面部への押圧の影響により意図しない変形が生じた膨出部の肩曲面部以外の部位等を挙げることができる。
【0045】
従って、第3工程において使用される第3金型は、第2成形体を押圧することにより第2成形体を目標とする形状を有する成形体(第3成形体)とすることが可能な、目標形状に対応する内部空間を画定する成形面を有する金型である。尚、第3工程において第3金型によって第2成形体を押圧する方向は、上述した第1方向と同じ方向であってもよく、上述した第2方向と同じ方向であってもよく、或いは上述した第1方向及び第2方向の何れとも異なる方向であってもよい。
【0046】
〈効果〉
以上のように、第2方法は、上述した第1方法であって、第1工程及び第2工程の後に第3工程が実行されるプレス絞り加工方法である。第3工程においては、第2成形体の少なくとも一部を第3金型によって押圧することにより、目標とする形状を有する成形体である第3成形体が作製される。従って、第2方法によれば、例えば、上述したような様々な要因により、最終的な目標とする形状を第2工程によって達成することが困難である場合であっても、第3工程の実行により、最終的な目標とする形状を有する成形体を確実に得ることができる。
【0047】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。例えば、これまでの説明において参照した図面においては、第2工程において2つの肩曲面部が2つの第2金型によって同時に押圧される場合について例示した。しかしながら、第2工程において第2金型によって押圧される肩曲面部の数は1つであってもよく、或いは、3つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…予備成形体、2…金型(上型)、3…目標成形体、11…第1成形体(予備成形体)、12…第2成形体(目標成形体)、22a及び22b…第2金型、22c…パッド、23a及び23b…カムドライバ、24a及び24b…カムスライダ、100…プレス機械、並びに110a及び110b…ラム。