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特許7679626抗ウィルス性積層体及び抗ウィルス性容器
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  • 特許-抗ウィルス性積層体及び抗ウィルス性容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】抗ウィルス性積層体及び抗ウィルス性容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20250513BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20250513BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250513BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20250513BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
A01N25/10
B32B27/00 H
B65D65/40 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020216747
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102173
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】田中 義久
(72)【発明者】
【氏名】戸出 良平
(72)【発明者】
【氏名】村田 芳綱
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/084774(WO,A1)
【文献】特開2017-88586(JP,A)
【文献】特開2020-83774(JP,A)
【文献】特開2015-117187(JP,A)
【文献】特開2017-178942(JP,A)
【文献】特開2013-193966(JP,A)
【文献】特開2019-155812(JP,A)
【文献】特開2013-154945(JP,A)
【文献】特開2007-39063(JP,A)
【文献】特開2018-154601(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172041(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-85/88
A01N 1/00-65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に抗ウィルス性を有する塗布層と、耐摩コート層とを形成して成る抗ウィルス性積層体であって、
前記塗布層および耐摩コート層が中間介在層を介して前記基材上に積層されており、
前記中間介在層は、淡色を基調色とする絵柄インキ層であり、
前記塗布層が、樹脂バインダー中に抗ウィルス剤を分散させた組成物を塗布した層であり、このウィルス剤が粒子状であると共に、前記塗布層の表面に抗ウィルス剤が露出しており、この露出した抗ウィルス剤が塗布層表面の全面積の8.0%以上を占めており、
前記耐摩コート層は、前記抗ウィルス剤が分散されていない前記樹脂バインダー中にスリップ剤としてマイクロWAX、シリコーンオイル、および樹脂ビーズのいずれかが添加された層であり、
前記塗布層が前記スリップ剤を含まない、
抗ウィルス性積層体。
【請求項2】
前記基材が、紙、樹脂、金属、金属化合物、またはこれらの積層体から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項3】
前記樹脂バインダーが紫外線硬化性であり、かつ、前記塗布層が前記組成物を塗布した後、紫外線照射によって硬化させた層であることを特徴とする請求項1または2に記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項4】
前記塗布層の厚みが1.0μm以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項5】
元素記号がAg,Cu,Sb,Ir,Ti,Ge,Sn,Tl,Pt,Pd,Bi,Au,Fe,Co,Ni,Zn又はInで表される金属あるいはその化合物により、前記抗ウィルス剤が構成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体で構成した容器であって、前記塗布層および前記耐摩コート層が容器外表面に配置されていることを特徴とする抗ウィルス性容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウィルス性を有する積層体と、この積層体で構成された容器に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、現代の生活では容器は不可欠である。例えば、食品を初めとして、多くの商品が、紙、プラスチック、金属、ガラス等で製造された容器の中に収容されて販売されている。
【0003】
これらの商品は容器に収容された状態でスーパーマーケット等の店頭に並び、不特定多数の消費者が手に取って、その商品の内容、品質、消費期限、価格等を確認し、購入するか否か検討する。そして、このように取って検討した多くの商品のうち、一部の商品を購入し、その他の商品をもとに戻す。
【0004】
また最近では、商品やサービスをインターネット上で売買するビジネスモデル、いわゆるEC(Electronic Commerce:電子商取引)も盛んになり、物流で多くの場所・人を経由して自宅に輸送包材に包まれた商品が到着するという販路もある。
【0005】
ところで、現代生活はさまざまなウィルスに感染する危険に曝されている。これら多数のウィルスの中には、人間が感染しないものも多いが、人間が感染するものもある。人間がウィルスに感染する経路は、例えば、感染した人間が感染源として商品の容器に触れてウィルスを含む体液が容器外面に付着し、次に、別の人間がこの容器に触れて、前記体液中のウィルスを体内に取り込むことによっておこる。
【0006】
そこで、このように商品容器を媒介した間接的な接触感染を防ぐため、抗ウィルス剤を混練して製膜したフィルムが提案されている(特許文献1)。このフィルムで製造した容器においては、感染源となる感染者がこの容器に触れてその体液が付着した場合でも、体液中のウィルスの感染力を低下させることができるから、別の人間がこの容器に触れてもその感染の危険を低減することができる。
【0007】
しかし、体液が接触するのは容器の外表面のみであり、ウィルスの感染力を低下させる抗ウィルス剤は容器の外表面に位置する抗ウィルス剤だけである。これに対し、抗ウィルス剤は容器の全体に一様に分布しているから、ほとんどの抗ウィルス剤はその機能を発揮しない。このため、この容器においては、必要量をはるかに超える大量の抗ウィルス剤を要するという問題があった。
【0008】
一方、特許文献2は、粉末状の抗ウィルス剤をスプレー噴霧して表面に付着させたフィルムを提案している。このフィルムにおいては、特許文献1のフィルムと同様に、表面に付着したウィルスの感染力を低下させることができる。しかも、抗ウィルス剤はフィルム表面に付着しているだけなので、必要最小限の抗ウィルス剤を要するに過ぎない。
【0009】
しかし、このフィルムにおいては、粉末状の抗ウィルス剤が表面に付着しているだけなので、フィルム表面から抗ウィルス剤が脱離し易く、脱離によって抗ウィルス性能そのものが失われるという問題を有していた。
【0010】
また一方、特許文献3では、粉末状の抗ウィルス剤を、樹脂成分を含むニスに添加して基材表面に塗工することにより、加工基材が構成する製品表面に長期的に抗ウィルス剤を
分布させることができ、抗ウィルス性能を長期的に発現できる。
【0011】
しかしながら、抗ウィルス剤はAg,Cu等金属成分を含む無機粒子であり、特に流通輸送時の製品表面同士の擦れにより、表面に露出した無機粒子が摩耗し、擦れ傷や異物(無機粒子粉)が発生する等、製品品質の悪化が発生するという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2013/005446号
【文献】特開2018-134753号公報
【文献】特願2020-148913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、少量の抗ウィルス剤を使用した積層体であって、十分な抗ウィルス性能を発揮し、抗ウィルス剤が脱落し難く、更に輸送時の耐摩耗性を発現する積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、請求項1に記載の発明は、基材の表面に抗ウィルス性を有する塗布層と、耐摩コート層とを形成して成る抗ウィルス性積層体であって、
前記塗布層および耐摩コート層が中間介在層を介して前記基材上に積層されており、
前記中間介在層は、淡色を基調色とする絵柄インキ層であり、
前記塗布層が、樹脂バインダー中に抗ウィルス剤を分散させた組成物を塗布した層であり、このウィルス剤が粒子状であると共に、前記塗布層の表面に抗ウィルス剤が露出しており、この露出した抗ウィルス剤が塗布層表面の全面積の8.0%以上を占めており、
前記耐摩コート層は、前記抗ウィルス剤が分散されていない前記樹脂バインダー中にスリップ剤としてマイクロWAX、シリコーンオイル、および樹脂ビーズのいずれかが添加された層であり、前記塗布層が前記スリップ剤を含まないことを特徴とする抗ウィルス性積層体である。
【0015】
次に、請求項2に記載の発明は、前記基材が、紙、樹脂、金属、金属化合物、またはこれらの積層体から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性積層体である。
【0020】
次に、請求項3に記載の発明は、前記樹脂バインダーが紫外線硬化性であり、かつ、前記塗布層が前記組成物を塗布した後、紫外線照射によって硬化させた層であることを特徴とする請求項1または2に記載の抗ウィルス性積層体である。
【0021】
次に、請求項4に記載の発明は、塗布層の厚みが1.0μm以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体である。
【0022】
次に、請求項5に記載の発明は、元素記号がAg,Cu,Sb,Ir,Ti,Ge,Sn,Tl,Pt,Pd,Bi,Au,Fe,Co,Ni,Zn又はInで表される金属あるいはその化合物により、前記抗ウィルス剤が構成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体である。
【0023】
次に、請求項6に記載の発明は、請求項1~5のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体で構成した容器であって、前記塗布層および前記耐摩コート層が容器外表面に配置されていることを特徴とする抗ウィルス性容器である。
【発明の効果】
【0024】
本発明においては、抗ウィルス剤が積層体の全体に配合されているわけではなく、基材表面の塗布層に抗ウィルス剤が含まれるだけなので、少量の抗ウィルス剤を要するに過ぎない。しかし、その配置された位置はウィルスが付着する表面にごく近くであるため、付着するウィルスとの接触機会が多い。このため、低い配合率で高い抗ウィルス性能を発揮するのである。
【0025】
また、抗ウィルス剤は樹脂バインダー中に分散されているため、脱落することがなく、長期間に渡って優れた抗ウィルス性能を発揮するのである。
【0026】
そして更に、耐摩コート層には抗ウィルス剤が含有されていないことから、輸送時の擦れによる抗ウィルス剤の落下や製品表面の傷を回避し、製品品質を保つことができる。また、中間介在層に絵柄インキが含まれる場合、淡色を基調色として用いることにより、擦れ傷や異物(無機粒子粉)を目立たなくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1(a)~(c)は、それぞれ、本発明の積層体の具体例を示す断面図である。
図2図2(a)~(c)は、それぞれ、本発明の積層体の耐摩コート層を除いた例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本開示の具体例を説明する。図1(a)~(c)は、それぞれ、本発明の積層体の3つの具体例を示す断面図である。
【0029】
これら3つの具体例のうち、第1の具体例に係る積層体10Aは、基材11表面に抗ウィルス性を有する塗布層(抗ウィルス剤添加層)12と耐摩コート層13を形成して構成されたものである(図1(a)参照)。なお、抗ウィルス剤が添加された塗布層12と耐摩コート層13は単層構造であり、また、基材11表面とこの抗ウィルス剤が添加された塗布層12と耐摩コート層13との間に他の層を介在させることなく、抗ウィルス剤が添加された塗布層12と耐摩コート層13が基材11表面に直接積層されている。
【0030】
また、第2の具体例に係る積層体10Bは、基材11表面に中間介在層14を介して塗工層12、13を形成して構成されたものである(図1(b)参照)。
【0031】
また、第3の具体例に係る積層体10Cは、積層体10Aと同様に基材11表面に抗ウィルス性を有する下引き塗布層12と耐摩コート層13を直接形成して構成されたものであるが、抗ウィルス性を有する下引き塗布層12は2層構造を有しており、積層体10Cの表面に近い層12は基材11に近い層12に比較して抗ウィルス剤の濃度が高く構成されている(図1(c)参照)。なお、2層構造に限らず、抗ウィルス剤を添加した塗布層12を3層以上の多層構造とすることもできるが、この場合であっても、抗ウィルス性積層体10の表面に近い層ほど抗ウィルス剤の濃度が高いことが望ましい。ウィルスは積層体10の表面に付着するため、積層体10表面に近い層の抗ウィルス剤濃度が高いほど、抗ウィルス剤の抗ウィルス性能を生かすことができるからである。また、それぞれの層にはピンホールが発生することがあるが、このように多層構造とした場合には、各層のピンホールの位置が一致することはないから、多層構造の抗ウィルス全体としてピンホールを防止することができる。
【0032】
ここで、基材11は任意の物品でよいが、積層体10を包装容器の材料として使用する場合には、シート状であることが望ましい。また、その搬送性、塗工層12、13、および中間介在層14を塗布する際の塗工性の点から、厚み4.5μm以上のシート状であることが望ましい。さらに望ましくは12μm以上である。
【0033】
このようなシート状の基材11としては、例えば、紙製容器を構成する材料である場合には、その層構成中に紙を含むシートが例示できる。また、袋を構成する材料である場合には、通常、その層構成中に樹脂を含む。このほか、金属や金属化合物を含むものであってもよい。なお、樹脂としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアクリルニトリル、ポリイミド等が例示できる。また、金属としては、アルミニウム箔等の金属箔のほか、前記樹脂フィルムに蒸着した金属蒸着膜を使用できる。また、金属化合物としては酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の金属酸化物が例示でき、例えば、前記樹脂フィルムに蒸着した金属酸化物蒸着膜の形で使用できる。なお、この基材11には、印刷や印字を施すことも可能である。
【0034】
次に、抗ウィルス剤を添加した下引き塗布層12は、樹脂バインダー中に抗ウィルス剤を分散させた組成物を塗布して構成した層である。
【0035】
抗ウィルス剤は無機粒子であり、しかも、その一部は抗ウィルス剤を添加した塗布層12の表面に露出している必要がある。
【0036】
このような粒子状の抗ウィルス剤としては、元素記号がAg,Cu,Sb,Ir,Ti,Ge,Sn,Tl,Pt,Pd,Bi,Au,Fe,Co,Ni,Zn又はInで表される金属あるいはその化合物を使用することができる。
【0037】
金属又は金属化合物から成る抗ウィルス剤に含まれる金属原子は正の電荷を有している。ウィルスには脂質を含むエンベロープと呼ばれている膜で包まれているウィルスと、エンベロープを持たないウィルスとがあるが、これらのうちエンベロープで包まれているウィルスのエンベロープは負に帯電しており、このエンベロープを金属原子が引き付けて不活性化することにより、その感染力を奪うのである。また、この金属又はその化合物によって活性酸素が発生し、この活性酸素の作用により、ウィルスを不活性化してその感染力を奪うこともある。
【0038】
また、このような金属又はその化合物は、後述するように、紫外線硬化性の樹脂バインダーに紫外線照射して硬化させた場合にも安定であることから、紫外線照射の後にも抗ウィルス層12は高い抗ウィルス性能を発揮する。特に紫外線硬化型の樹脂をバインダーとしたコート剤の場合、紫外線照射により急速に硬化が進むことから塗工表面のレベリング
前に硬化する傾向があり、熱風乾燥方式や熱ロール乾燥方式と比べ、表面粗さが荒くなる傾向となる。これにより、塗工表面の表面積が増え、抗ウイルス効果が更に改善される傾向となることが筆者らの実験によりわかっている。
【0039】
金属又はその化合物から成るこのような粒子状抗ウィルス剤の中には、市販されているものもある。例えば、銀(Ag)系の抗ウィルス剤としては、(株)タイショーテクノス製;ビオサイドTB-B100、東亜合成(株)製;ノバロンIV1000、DIC(株)製;W260、東洋インキ製造(株)製;Z253コウキンAP10、大日精化工業(株)製;PCT-NT ANV添加剤等がある。また、銅(Cu)系の抗ウィルス剤としては、(株)NBCメッシュテック製;キュフィテック等がある。また、亜鉛(Zn)系の抗ウィルス剤としては、(株)タイショーテクノス製;3000Dが知られている。
【0040】
次に、この抗ウィルス剤を分散させる樹脂バインダーは、抗ウィルス剤を添加した塗布層12内の抗ウィルス剤の凝集性を高めると共に、この抗ウィルス剤を添加した塗布層12と基材11との密着力を高める機能を有するものである。また、この樹脂バインダーは抗ウィルス剤を添加した塗布層12の耐擦性を向上する。より耐摩性を高める部分には耐摩コートを行う。このように抗ウィルス剤を基材11表面に固定してその脱落を防止するため、例えば表面に手指等が接触した場合にも抗ウィルス剤が脱離することなく、その抗ウィルス性能を長期間に渡って維持することができる。なお、このように手指等の接触の有無に拘わらず抗ウィルス性能を維持できるため、この積層体10で商品容器を構成して、多数の人間が次々に接触した場合であっても、その感染を防止又は抑制できるのである。
【0041】
以上のような機能を発揮するため、樹脂バインダーは紫外線硬化性を有することが望ましい。このような紫外線硬化性樹脂バインダーは、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、あるいはポリアクリル系樹脂等の樹脂に光重合開始剤を配合して構成することができる。
【0042】
そして、これら紫外線硬化性樹脂バインダーを適当な溶媒に溶解又は分散させ、これに抗ウィルス剤を配合・分散させて塗布用組成物とし、この組成物を塗布し、乾燥の後、紫外線照射して硬化させることにより、抗ウィルス剤を添加した塗布層12を形成することができる。抗ウィルス剤の配合量は、塗布用組成物の固形分(塗布、乾燥、硬化後の抗ウィルス剤を添加した塗布層12に残る成分の合計量)に対して0.5質量%以上であることが望ましい。より望ましくは1.0質量%以上である。
【0043】
抗ウィルス剤の配合・分散方法としては公知の方法を採用してよい。例えば、プロペラで攪拌する分散方法、ホモジナイザーを使用する分散方法、ビーズミルを使用する分散方法等である。
【0044】
また、塗布方法も公知の方法を採用してよい。例えば、グラビアコーティング方法、ロールコーティング方法、ダイコーティング方法等である。
【0045】
また、紫外線照射方法も公知である。例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ等を使用して紫外線を照射することができる。
【0046】
こうして形成された抗ウィルス剤を添加した塗布層12の抗ウイルス性能を阻害することなく、再表面に露出する無機粒子からなる抗ウイルス剤の摩擦による落下および傷発生を防止する為に、耐摩性を高める部分には抗ウイルス剤を添加していない耐摩コート層13が必要である。
【0047】
次に、抗ウィルスを添加した塗布層12の厚みは0.5μm以上であることが望ましい。その厚みが0.5μm以上の場合、抗ウィルスを添加した塗布層12内に抗ウィルス剤の量を十分に確保することができ、このため、高い抗ウィルス性能を発揮することができる。もっとも、次に説明するように、基材11上に単層構造の抗ウィルスを添加した塗布層12を直接積層している場合には、この単層構造の抗ウィルスを添加した塗布層12のピンホールを防ぐため、1.0μm以上の厚みを有することが望ましい。
【0048】
すなわち、液体成分を含む体液(例えば汗、唾液、くしゃみ等)が積層体10表面に付着した場合には、基材11が紙等の吸水性材料で構成されていると、抗ウイルス剤を添加した塗布層12のピンホールを透過して、抗ウィルス性のない基材11に吸収されることがある。抗ウイルス剤を添加した塗布層12の厚みが1μm以上の場合、このように厚く塗布形成された抗ウイルス剤を添加した塗布層12にピンホールが生じるおそれは小さいから、積層体10表面に付着した液体成分が抗ウイルス剤を添加した塗布層12のピンホールを透過して基材11に吸収されることを防止することができる。このため、第1の具体例に係る積層体10Aのように、基材11上に単層構造の抗ウイルス剤を添加した塗布層12を直接積層して構成されている場合には、抗ウイルス剤を添加した塗布層12の厚みは1μm以上であることが望ましい。より望ましくは、2.0μm以上である。
【0049】
一方、第2の具体例に係る積層体10Bのように、基材11、中間介在層14及び抗ウイルス剤を添加した塗布層12か耐摩コート層13の3層で構成されている場合には、中間介在層14と抗ウイルス剤を添加した塗布層12と耐摩コート層13のいずれにもピンホールが発生することがあるが、各層14,12および14,13のピンホールの位置が一致することはないから、これら中間介在層14と抗ウイルス剤を添加した塗布層12と耐摩コート層13の厚みは、いずれも、1.0μmより薄いものであってよい。例えば、後述する実施例2のように、抗ウィルス層12の厚みが0.5μm以上で、この抗ウイルス剤を添加した塗布層12の厚みと中間介在層14の厚みと抗ウイルス剤を添加した塗布層12の厚みとの合計が1.0μmである。
【0050】
また、第3の具体例に係る積層体10Cのように、抗ウイルス剤を添加した塗布層12が基材11に近い層12と積層体10Cの表面に近い層12との2層構造を有している場合にも、各層12,12の厚みは、いずれも、1.0μmより薄くてよい。各層12,12のピンホールの位置が一致することはないからである。
【0051】
次に、中間介在層14は基材11と抗ウイルス剤を添加した塗布層12や耐摩コート層13との間に介在させる層である。この層14には抗ウィルス剤が含まれておらず、例えば、基材11と抗ウイルス剤を添加した塗布層12や耐摩コート層13との密着力を向上させる目的を有している。また、基材11が紙等の多孔質又は表面凹凸を有する場合には、その表面を平滑化する目止め層として設けることもできる。
【0052】
この中間介在層14としては、例えば、絵柄インキ層を積層することができる。擦れが発生する部分の絵柄インキ層に基調色として淡色を用い、擦れ傷や異物(無機粒子粉)を目立たなくすることができる。また、各種接着剤を塗布して形成することができる。例えば、ポリオールとイソシアネートとを配合した2液硬化型ドライラミネート用接着剤である。
【0053】
また、熱可塑性樹脂を溶融押出しコーティングして中間介在層14としたり、熱可塑性樹脂を溶剤中に溶解又は分散してコーティングして形成することもできる。このように熱可塑性樹脂によって中間介在層14とする場合には、この中間介在層14と抗ウイルス剤を添加した塗布層12や耐摩コート層13との密着力を向上させるため、中間介在層14の熱可塑性樹脂と抗ウイルス剤を添加した塗布層12や耐摩コート層13中の樹脂バイン
ダーとは同じタイプの樹脂であることが望ましい。例えば、抗ウイルス剤を添加した塗布層12や耐摩コート層13中の樹脂バインダーがポリエステル系樹脂であれば、中間介在層14を構成する熱可塑性樹脂もポリエステル系樹脂である。
【0054】
この中間介在層14も公知の方法で塗布形成することができる。中間介在層14を紫外線硬化性樹脂で構成する場合には、中間介在層14を構成する紫外線硬化性樹脂を塗布乾燥し、次に抗抗ウイルス剤を添加した塗布層12と耐摩コート層13の塗布用組成物を塗布乾燥した後、紫外線照射することにより、中間介在層14と抗ウイルス剤を添加した塗布層12、耐摩コート層13とを言い一括して硬化することが望ましい。
【0055】
この中間介在層14は任意の厚みでよく、その目的に応じて決定すればよい。
【0056】
なお、中間介在層14として予め製膜されたフィルムを使用することもできるが、この場合には、フィルムを基材11に接着して中間介在層14とすればよい。接着方法や厚みは任意である。
【0057】
前述のとおり、この積層体10は包装容器を構成する材料として利用できる。例えば、紙製容器、あるいは包装袋である。また、深絞り成型して容器としてもよい。いずれにしても、手指が接触する機会の多い容器外表面に前記抗ウイルス剤を添加した塗布層12を配置することが望ましい。また、より高い耐摩性を求める部分には耐摩コート層13を配置することが望ましい。
【実施例
【0058】
以下、実施例及び比較例によって本発明を説明する。
【0059】
これら実施例及び比較例においては、基材11として、坪量310g/mのコート紙(王子マテリア(株)製OKボール)を使用した。
【0060】
また、抗ウイルス剤を添加した塗布層12、耐摩コート層13を構成する樹脂バインダーとして、東洋インキ製造(株)製ACEOPニスを準備した。
【0061】
また、抗ウィルス剤としては、粒子状の銀(Ag)系抗ウィルス剤((株)タイショーテクノス製ビオサイドTB-B100)を準備した。
【0062】
(実施例1)
この例は第1の具体例に係る積層体10Aで、図1(b)に示すように、基材11と中間介在層14、抗ウイルス剤を添加した塗布層12か耐摩コート層13との3層で構成されるものである。
【0063】
すなわち、中間介在層14として絵柄インキ層を基材11のコート面表面に塗布した後、
前記ニスと抗ウィルス剤とを混合して塗布用組成物とし、中間介在層14表面に塗布しUV硬化することにより、抗ウイルス剤を添加した塗布層12を形成した。こうして形成した抗ウイルス剤を添加した塗布層12に含まれる抗ウィルス剤は、抗ウイルス剤を添加した塗布層12の10質量%である。また、抗ウイルス剤を添加した塗布層12の厚みは3.0μmである。より高い耐摩性を求める部分には、前記ニスを中間介在層14表面に塗布しUV硬化することにより、耐摩コート層13を形成した。絵柄インキ層の基調色は淡色とした。
【0064】
(実施例2)
この例は図2(b)に示すように、耐摩コート層13を用いなかったこと以外は、実施例1と等しい構成である。
【0065】
(比較例1)
この例も第2の具体例に係る積層体10Bで、図1(b)に示すように、基材11と中間介在層14、抗ウイルス剤を添加した塗布層12か耐摩コート層13との3層で構成されるものである。
【0066】
この例は絵柄インキ層の基調色に暗色を用いたこと以外は、実施例1と等しい構成である。
【0067】
(比較例2)
この例は図2(b)に示すように、耐摩コート層13を用いず絵柄インキ層の基調色に暗色を用いたこと以外は、実施例2と等しい構成である。
【0068】
(評価)
これら実施例1~2、比較例1~2の積層体を、2つの観点から評価した。抗ウィルス性能と耐摩耗性である。
【0069】
(耐摩耗性の評価方法)
JIS P8136 板紙の耐摩耗強さ試験方法に準拠して、耐摩耗耐性を評価した。すなわち、25mm幅にサンプリングした試料の塗工面を上面にしてしゅう動台に設置し、500gの錘表面に、対しゅう動台に設置した試料と塗工面同士が擦れるよう、20mm幅にサンプリングした試料を取り付けた。摩擦距離120mmを100回往復させた後、粉発生や塗工面の擦れ傷が目視で容易に確認できる場合は×、粉が発生せず、擦れ傷が容易に確認できない場合は〇とした。これを通常条件とした。
【0070】
前記の評価に加えて、10~20kgの荷重のかけて擦り合せることで、耐摩耗耐性を評価した。すなわち、150mm角にサンプリングした試料を抗ウイルス層同士、あるいは抗ウイルス層と耐摩コート層を合わせて手で10~20kgの力をかけて10往復擦り合わせを行った後、粉発生や塗工面の擦れ傷が目視で容易に確認できる場合は×、粉が発生せず、擦れ傷が容易に確認できない場合は〇とした。これを苛酷条件とした。
【0071】
(抗ウィルス性能の評価方法)
ISO 21702:2019に規定するウィルス感染価によって抗ウィルス性能を評価した。
【0072】
すなわち、ウィルスとして、インフルエンザウィルス(H3N2、A/Hong Kong/8/68)を使用し、これを5.0×10PFU/ml含む試料を、各実施例と比較例の耐摩耗性評価後の摩擦面表面に滴下した。滴下量は0.4mlである。
【0073】
そして、24時間経過した後、プラーク法にて、洗い出し液中のウィルス感染価を測定した。そして、そのウィルス感染価が2.0logPFUより少ない場合には「〇」と評価し、2.0logPFU以上の場合には「×」と評価した。
【0074】
(評価結果及び考察)
耐摩耗性および抗ウィルス性能の評価結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
この結果から、絵柄インキ層の基調色に暗色を用いる場合(比較例1,2)には耐摩耗
性が劣ることが分かる。
【0077】
これに対し、絵柄インキ層の基調色に淡色を用いた実施例1,2では、優れた耐摩擦性を発揮し、製品表面の品質を保持し、優れた抗ウィルス性能を維持することができる。
【0078】
さらに、耐摩コート層および絵柄インキ層の基調色に淡色を用いた実施例1では、苛酷条件でも優れた耐摩擦性を発揮し、製品表面の品質を保持し、優れた抗ウィルス性能を維持することができる。紙基材、フィルム基材でも効果を確認できたことから、紙器、段ボール、軟包材等の容器包装から、書籍、証券、カード等の製品まで幅広く展開が可能な技術である。
【符号の説明】
【0079】
10A,10B,10C:抗ウィルス性積層体
11:基材
12:抗ウイルス剤を添加した塗布層 121:基材に近い層 122:積層体の表面に近い層
13:耐摩コート塗布層
14:中間介在層
図1
図2