(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】車両ドア組付け装置及び組付け方法
(51)【国際特許分類】
B62D 65/06 20060101AFI20250513BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20250513BHJP
B23P 21/00 20060101ALI20250513BHJP
【FI】
B62D65/06 A
B60J5/04 L
B23P21/00 303B
(21)【出願番号】P 2021044534
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末長 昭大
(72)【発明者】
【氏名】矢野 栄次
(72)【発明者】
【氏名】友成 亮太
(72)【発明者】
【氏名】田中 直輝
【審査官】山▲崎▼ 歩美
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-193781(JP,A)
【文献】米国特許第10105853(US,B1)
【文献】独国特許出願公開第19605070(DE,A1)
【文献】特開2010-208526(JP,A)
【文献】特開昭54-005276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 65/06
B60J 5/04
B23P 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒンジを介して車体の開口部を開閉するドアを車体に組み付けるための組付け装置であって、
前記ドアを保持するマテハン治具と、
前記マテハン治具を支持し前記ドアを前記車体の開口部に搬送する作業ロボットと、を備え、
前記マテハン治具は、架台と、前記ドアを保持するドアホルダと、該架台に設けられ該ドアを前記車体に位置決めするときの該ドアホルダの移動を案内するスライドレールとを備え、
さらに、前記ドアを前記車体に対して位置決めする前に、前記ドアホルダを前記スライドレールにおいて摺動させる機構を備え、
前記スライドレールは前記車体の上下方向に延び、
前記マテハン治具は、前記ドアを前記車体に対して高さ方向において位置決めするときに前記ドアホルダを前記架台に浮動保持するフローティングシリンダを備え、
前記ドアホルダと前記架台とは、前記フローティングシリンダによって連結されており、
前記ドアホルダは前記架台よりも上方に突出し、
前記ドアホルダの下部が前記架台に前記スライドレールによって摺動可能に支持され、
前記機構が、前記ドアを前記車体に対して位置決めする前であって前記ドアホルダを架台に浮動保持する前に、前記フローティングシリンダを作動させて前記ドアホルダを前記スライドレールにおいて
前記架台に対して強制的に上下に摺動させることを特徴とする組付け装置。
【請求項2】
ヒンジを介して車体の開口部を開閉するドアをマテハン治具によって車体に組付ける車両ドアの組付け方法であって、
前記マテハン治具は、
架台と、
前記ドアを保持するドアホルダと、
前記架台に設けられ前記ドアを前記車体に位置決めするときの前記ドアホルダの移動を案内するスライドレールと、を備え、
前記ドアを前記ドアホルダに保持する工程と、
前記架台を移動させて前記ドアが前記車体に対する取付姿勢となるように位置付ける工程と、
前記ドアホルダを前記スライドレールにおいて摺動させながら前記ドアを前記車体に対して位置決めする工程と、
前記位置決めした状態で前記架台を前記車体に固定する工程と、
前記ドアを前記車体に前記ヒンジによって結合する工程と、を備え、
さらに、前記ドアを前記車体に位置決めする工程の前に、前記ドアホルダを前記スライドレールにおいて摺動させる工程を備え、
前記スライドレールは上下方向に延び、
前記ドアホルダは前記架台よりも上方に突出し、
前記ドアホルダの下部が前記架台に前記スライドレールによって摺動可能に支持され、
前記マテハン治具は、前記ドアを前記車体に対して高さ方向において位置決めするときに、前記ドアホルダを前記架台に浮動保持するフローティングシリンダを備え、
前記ドアホルダと前記架台とは、前記フローティングシリンダによって連結され、
前記ドアを前記車体に対して位置決めする工程の前であって前記ドアホルダを架台に浮動保持する工程の前に、前記フローティングシリンダを作動させて前記ドアホルダを前記スライドレールにおいて
前記架台に対して強制的に上下に摺動させることを特徴とする車両ドアの組付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ドアの組付けに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車体にドアをヒンジによって取り付けるときの、車体に対するドアの建付け方法が記載されている。この文献には、車体に上下2つのヒンジを固定しておき、ドアと上側ヒンジとの上下2カ所のねじ止め孔のうち、上側のねじ止め孔を基準孔としてドアを傾動させて車体に建て付けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ドアをそのインナー側からマテハン(マテリアルハンド)治具で把持し、ドアを開姿勢で車体に組付けるケースでは、マテハン治具にオーバーハング力が作用して円滑な組付けに支障が出てくるという問題がある。つまり、次のようなことである。
【0005】
車体位置のばらつきを吸収して、ドアを車体に対して位置決めするためには、マテハン治具はドアを保持するドアホルダを架台にスライドレールによって摺動自在に支持することが好ましい。ドアホルダ(ドア)を架台に対してスライドさせながら車体に位置決めするということである。
【0006】
一方、ヒンジで開閉するドアの場合、車体開口部を閉じた状態ではインナー側に傾いた姿勢にされるのが通常であるから、開姿勢での車体への組付けでは、インナー側からドアホルダに保持されたドアがアウター側に傾いた姿勢をとることになる。そのため、マテハン治具のスライドレールにドアからオーバーハング力(モーメント荷重)が作用し、スライドレールでの摺動が円滑でなくなる。その結果、ドアホルダ(ドア)の車体に対する位置決め性が悪化し、組付け不良或いはマテハン治具やドア等の損傷を招く懸念がある。
【0007】
特に、マテハン治具の小型化・軽量化、ひいてはマテハン治具を支持するロボットの小型化・軽量化の観点から、マテハン治具の架台の高さをドアホルダよりも低くしてスライドレールの位置を低くした場合に、上記オーバーハング力によるスライドレールの摺動性悪化が顕著になる。
【0008】
上記スライドレールの摺動性悪化の問題は、ドアをアウター側から保持して閉姿勢で車体に組付ける場合でも、閉姿勢ではドアがインナー側に傾いた状態になってドアからオーバーハング力がスライドレールに作用するから、同様に生じることになる。
【0009】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両ドア組付け時に発生する上記オーバーハング力によるスライドレールの摺動性悪化の問題を解決し、ドアの組付け性向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記スライドレールの摺動性悪化の問題について種々の実験を交えて検討したところ、ある条件下ではスライドレールに比較的大きなオーバーハング力が加わっていても、ドアホルダがスライドレールを円滑に摺動することを見出した。それは、事前にドアホルダをスライドレールに対して強制的に摺動させた場合である。つまり、ドアを車体に位置決めするときにドアホルダがスライドレールを円滑に摺動しないのは、スライドレールにオーバーハング力が作用した状態が続いて、両者の摺動面が互いに言わば固着した状態になっている場合である。ドアホルダを強制的に摺動させてその固着状態を解除すれば、ドアを車体に位置決めするときにドアホルダがスライドレール上を比較的円滑に摺動するということである。
【0011】
そこで、本発明は、ドアを車体に対して位置決めするとき、事前にドアホルダをスライドレールに対して強制的に摺動させるようにした。
【0012】
ここに開示する車両ドアの組付け装置は、ヒンジを介して車体の開口部を開閉するドアを車体に組み付ける装置であって、前記ドアを保持するマテハン治具と、前記マテハン治具を支持し前記ドアを前記車体の開口部に搬送する作業ロボットと、を備え、前記マテハン治具は、架台と、前記ドアを保持するドアホルダと、該架台に設けられ該ドアを前記車体に位置決めするときの該ドアホルダの移動を案内するスライドレールとを備え、さらに、前記ドアを前記車体に対して位置決めする前に、前記ドアホルダを前記スライドレールにおいて摺動させる機構を備え、前記スライドレールは前記車体の上下方向に延び、前記マテハン治具は、前記ドアを前記車体に対して高さ方向において位置決めするときに前記ドアホルダを前記架台に浮動保持するフローティングシリンダを備え、前記ドアホルダと前記架台とは、前記フローティングシリンダによって連結されており、前記ドアホルダは前記架台よりも上方に突出し、前記ドアホルダの下部が前記架台に前記スライドレールによって摺動可能に支持され、前記機構が、前記ドアを前記車体に対して位置決めする前であって前記ドアホルダを架台に浮動保持する前に、前記フローティングシリンダを作動させて前記ドアホルダを前記スライドレールにおいて前記架台に対して強制的に上下に摺動させる。
【0013】
また、ここに開示する車両ドアの組付け方法は、ヒンジを介して車体の開口部を開閉するドアをマテハン治具によって車体に組付ける車両ドアの組付け方法であって、前記マテハン治具は、架台と、前記ドアを保持するドアホルダと、前記架台に設けられ前記ドアを前記車体に位置決めするときの前記ドアホルダの移動を案内するスライドレールと、を備え、前記ドアを前記ドアホルダに保持する工程と、前記架台を移動させて前記ドアが前記車体に対する取付姿勢となるように位置付ける工程と、前記ドアホルダを前記スライドレールにおいて摺動させながら前記ドアを前記車体に対して位置決めする工程と、前記位置決めした状態で前記架台を前記車体に固定する工程と、前記ドアを前記車体に前記ヒンジによって結合する工程と、を備え、さらに、前記ドアを前記車体に位置決めする工程の前に、前記ドアホルダを前記スライドレールにおいて摺動させる工程を備え、前記スライドレールは上下方向に延び、前記ドアホルダは前記架台よりも上方に突出し、前記ドアホルダの下部が前記架台に前記スライドレールによって摺動可能に支持され、前記マテハン治具は、前記ドアを前記車体に対して高さ方向において位置決めするときに、前記ドアホルダを前記架台に浮動保持するフローティングシリンダを備え、前記ドアホルダと前記架台とは、前記フローティングシリンダによって連結され、前記ドアを前記車体に対して位置決めする工程の前であって前記ドアホルダを架台に浮動保持する工程の前に、前記フローティングシリンダを作動させて前記ドアホルダを前記スライドレールにおいて前記架台に対して強制的に上下に摺動させる。
【0014】
この組付け装置及び組付け方法各々によれば、ドアを車体に対して位置決めするときには、事前にドアホルダがスライドレールを摺動する。これにより、スライドレールにドアからオーバーハング力が作用してドアホルダがスライドレールに固着した状態になっていても、その固着が解かれる。従って、ドアを車体に対して位置決めするときのドアホルダのスライドレール上での摺動が円滑になり、車体に対するドアの位置決めを円滑に行うことができる。
【0016】
スライドレールが上下方向に延びているということは、このスライドレールを利用してドアを車体に対して高さ方向で位置決めするということである。このケースでは、ドアホルダに該ドアホルダ及びドアの荷重を相殺する力を加えながらドアの高さを調整することになる。このとき、ドアホルダがスライドレールに固着した状態になっていると、ドアホルダに前記相殺力を加えた状態にしてもドアホルダがスライドレール上を摺動しないからドアの高さ調整を行うことができない。これに対して、当該組付け装置によれば、事前にドアホルダをスライドレール上で摺動させて前記固着を解くから、ドアホルダに前記相殺力を加えれば、ドアを保持したドアホルダがスライドレールを小さな力で上下に摺動する浮動状態になる。よって、ドアの高さ調整(位置決め)を円滑に行うことができる。
【0018】
すなわち、フローティングシリンダによってドア及びドアホルダの荷重を相殺する力をドアホルダに加えて、このドアホルダを浮動保持するものである。事前にドアホルダがスライドレールを摺動することによって、ドアホルダのスライドレールに対する固着が解かれるから、フローティングシリンダによるドアホルダの浮動性が良くなる。よって、車体に対するドアの位置決めを円滑に行うことができる。また、前記固着の解除にフローティングシリンダを用いるから、固着解除のために専用機器を設ける必要はない。
【0020】
マテハン治具の小型化・軽量化、ひいてはマテハン治具を支持するロボットの小型化・軽量化の観点から、マテハン治具の架台の高さをドアホルダよりも低くしてスライドレールの位置を低くした場合、スライドレールに加わる前記オーバーハング力が大きくなる。この場合でも、この組付け装置によれば、事前にドアホルダをスライドレール上で摺動させて前記固着を解くから、ドアの高さ調整(位置決め)を円滑に行うことができる。換言すれば、マテハン治具の大型化や重量増を招くことなく、ドアホルダを円滑に上下にスライドさせてドアの高さ調整を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ドアを車体に位置決めするときのドアホルダの移動を案内するスライドレールにドアからオーバーハング力が作用していても、事前にドアホルダをスライドレール上で摺動させるから、ドアを車体に対して位置決めするときのドアホルダのスライドレール上での摺動が円滑になり、車体に対するドアの位置決めを円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】車両ドアのインナー面側から見た正面図である。
【
図9】車両ドアを保持したマテハン治具と車体とを示す斜視図である。
【
図10】位置決めされた後の車両ドアを保持したマテハン治具と車体とを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0024】
図1には、車体1の車体右側後方部が示されている。この車体1には、後述のドアのヒンジを締結するためのヒンジ締結部13が車体上下方向(図中で上下方向)に間隔をあけて2カ所に設けられている。この車体1には、車両ドアによって開閉される開口部12が設けられている。この開口部12の下側には、ボディ基準穴14が設けられている。
【0025】
図2には、前方開き後方側の車両ドア2がインナー面側から示されている。この車両ドア2は、車体右側後方に設けられるドアである。車両ドア2の図中における右側の端部には、車体上下方向(図中で上下方向)に間隔をあけた2つのヒンジ取付部23が設けられている。このヒンジ取付部23には、
図3に示すヒンジ21が固定される。車両ドア2に固定されたヒンジを車体1のヒンジ締結部13に締結することにより、車両ドアは、ヒンジ21を介して車体1の開口部12を開閉できるように組付けられる。車両ドア2のインナー面の左右方向における略中央部には、上下方向に間隔をあけて2つのドア基準穴22が設けられている。
【0026】
図3には、ヒンジ21が示されている。このヒンジ21は、ドア側ヒンジ部材211と車体側ヒンジ部材212とヒンジピン213とを備えている。ドア側ヒンジ部材211は、車両ドア2のヒンジ取付部23に固定される部材である。車体側ヒンジ部材212は、車体1のヒンジ締結部13にねじ止めされる部材である。ドア側ヒンジ部材211と車体側ヒンジ部材212とはヒンジピン213によって回動自在に連結されている。
【0027】
図4及び
図5には、車両ドア2を把持するためのマテハン治具3が示されている。本実施形態に係る車両ドアの組付け装置は、マテハン治具3と、マテハン治具3を支持して車両ドア2を車体1の開口部12に搬送する作業ロボット(
図9に作業ロボットのアーム7を示す)と、マテハン治具3及び作業ロボットの作動を制御する制御装置と、を備えている。作業ロボットは、マテハン治具3に保持した車両ドア2を車体1の開口部12にヒンジ締結部13が車体外側面(車幅方向外側面)に露出する開姿勢で位置付ける。
【0028】
以下のマテハン治具3の説明において、車体前方、車体後方及び車幅方向は、
図10の組付け時におけるマテハン治具3の姿勢での方向である。また、マテハン治具3の説明において、車幅方向の内側は
図10における車体1側であり、外側は車体1とは反対側である
マテハン治具3は、ドアホルダ31と架台32とによって構成されている。ドアホルダ31は、車両ドア2をそのインナー面側から把持するための部材である。架台32は、ロボットのアームに取り付けるための部材である。ドアホルダ31は、架台32よりも上方に突出するように設けられている。これらドアホルダ31と架台32とは、フローティングシリンダ4によって連結されている。フローティングシリンダ4によって、ドアホルダ31は架台32に対して浮動保持される。また、必要に応じてフローティングシリンダ4の駆動を介して、ドアホルダ31の保持する車両ドア2を、車体上下方向に移動できるように構成されている。
【0029】
ドアホルダ31は、保持メインフレーム311と保持サブフレーム312とによって構成されている。保持メインフレーム311は、車体上下方向に延びる略長方形状のフレームである。保持サブフレーム312は、車幅方向に延びる部材である。保持サブフレーム312の両端は、保持メインフレーム311の車幅方向の両辺夫々に固定されている。保持メインフレーム311には、車体上下方向に間隔をあけて3本の保持サブフレーム312が設けられている。このドアホルダ31には、ドアの複数個所各々をドアホルダ31に対して位置決めするドア位置決め手段が設けられている。また、ドアホルダ31には、マテハン治具3を、車体1に対してドアが開姿勢になるように位置決めする治具位置決め手段が設けられている。
【0030】
車体上下方向における一番上と中央とに位置する保持サブフレーム312には、シリンダ装置3141の作動により、車両ドア2のインナー面に向かって突出するドア基準ピン314が設けられている。このドア基準ピン314が、車両ドア2のドア基準穴22に挿入されることにより、ドアホルダ31に対する車両ドア2の位置決めが行われる。
【0031】
ドアホルダ31には、2つのドア受け・落下防止装置315が設けられている。ドア受け・落下防止装置315は、車両ドア2のインナー面に開口したサービスホールに入るドア受け部材3151と、このドア受け部材3151をサービスホールに出し入れするドア受け駆動シリンダ3152によって構成されている。ドア受け・落下防止装置315は、車体上下方向に間隔をあけて配置されている。上側のドア受け・落下防止装置315は、保持メインフレーム311と一番上の保持サブフレーム312との図中左側における結合点に固定されている。下側のドア受け・落下防止装置315は、一番下の保持サブフレーム312に固定されている。これらのドア受け・落下防止装置315のドア受け部材3151は、車両ドア2側へ向けられている。
【0032】
保持メインフレーム311の車体上下方向の下側端における車幅方向の内側(
図4で左側)には、シリンダ装置3131の作動により保持メインフレーム311から車幅方向の内側へ向けて突出するボディ基準ピン313が設けられている。このボディ基準ピン313は、車体1のボディ基準穴14に挿入され、マテハン治具3を車体1に対し車両ドア2が開姿勢になるように位置決めする治具位置決め手段として機能する。
【0033】
ドアホルダ31の車幅方向の外側(
図4で右側)には、車体上下方向に間隔をあけて2つのドア先クランプ装置316が設けられている。ドア先クランプ装置316は、クランプ部材3161とこのクランプ部材3161を駆動するためのクランプシリンダ装置3162とを備えている。ドア先クランプ装置316は、クランプ部材3161により、車両ドア2の前側のフランジをインナー側とアウター側とからクランプすることにより、ドア位置決め手段として機能する。このドア先クランプ装置316は、ドアホルダ31に固定され、クランプ部材3161がドアホルダ31から車幅方向の外側に向けて突出させられている。
【0034】
ドアホルダ31の車幅方向における内側(
図4で左側)には、ドア位置決め手段としての、ヒンジクランプ装置5が2つ設けられている。このヒンジクランプ装置5の個数は、車両ドア2に固定されるヒンジ21の個数に対応している。
【0035】
図6には、ヒンジ21を把持するヒンジクランプ装置5が示されている。ヒンジクランプ装置5は、ヒンジクランプベース51と固定当接部材52と可動当接部材53と駆動シリンダ534とにより構成されている。ヒンジクランプベース51はドアホルダ31に固定されている。これにより、ヒンジクランプ装置5はドアホルダ31に固定される。
【0036】
固定当接部材52は、車体前後方向(図中で左右方向)に延びる棒状の部材である。固定当接部材52の基端部はヒンジクランプベース51に固定されている。ヒンジクランプ装置5がヒンジ21を保持するときには、固定当接部材52の先端部がヒンジ21の車体側ヒンジ部材212に車体前方側(図中で左側)から当接させられる。
【0037】
可動当接部材53は、ヒンジクランプベース51に固定されている支持ブラケット531に車幅方向のピン532で回動自在に支持されている。この支持ブラケット531には、車幅方向のピン533により駆動シリンダ534が枢支されている。この可動当接部材53は駆動シリンダ534の作動によって回動させられる。この可動当接部材53は駆動シリンダ534の作動によって回動させられる。回動する可動当接部材53は、ヒンジ21の車体側ヒンジ部材212に車体後方側(図中で右側)から当接させられる。可動当接部材53が回動することにより、可動当接部材53と固定当接部材52とが相まって車体前後方向から、ヒンジ21の車体側ヒンジ部材212がクランプされる。
【0038】
架台32は
図4及び
図5に示すように、水平な矩形状のベース部材321と、ベース部材321から立ち上がった矩形状の垂直フレーム322と、によって構成されている。この垂直フレーム322の車幅方向両側の縦フレーム部には、スライドレール6が固定されている。ベース部材321は、作業ロボットのアーム7に支持されている。このアーム7の作動により、移動できるようになっている。
【0039】
ベース部材321の車幅方向における内側(
図4で左側)の端部にはボディクランプ装置323が設けられている。ボディクランプ装置323は、クランプ部材3231とボディクランプ駆動シリンダ3232とを有している。クランプ部材3231は、ボディクランプ駆動シリンダ3232の作動によって駆動される。車体1に車両ドア2を組付けるときには、車体1の開口部12の車体上下方向における下側が、ボディクランプ装置323のクランプ部材3231によってクランプされる。
【0040】
垂直フレーム322には、
図7に示すように、ドアホルダ31が車体上下方向(図で紙面垂直方向)に摺動できるように取り付けられている。垂直フレーム322のドアホルダ31と対向する側には、垂直フレーム322に沿って車体上下方向に延びるスライドレール6が設けられている。また、ドアホルダ31の垂直フレーム322と対向する側には、断面略C字状のブロック61が設けられている。このブロック61は、ジョイント部材62を介してドアホルダ31に固定されている。
【0041】
図8に示すように、垂直フレーム322には、車幅方向に間隔をあけて2本のスライドレール6が設けられている。このスライドレール6には、ブロック61が摺動できるように嵌合させられている。ブロック61は、スライドレール6各々に対して、車体上下方向に間隔をあけて2つずつ設けられている。ブロック61及びジョイント部材62は、ドアホルダ31の下部にもうけられ、ブロック61及びジョイント部材62を介して、ドアホルダ31の下部が、架台32にスライドレール6によって摺動可能に支持されている。
【0042】
制御装置によるマテハン治具3の作動について説明する。
【0043】
マテハン治具3が車両ドア2を把持するとき、車両ドア2のドア基準穴22各々には、ドアホルダ31のドア基準ピン314が夫々挿入される。また、車両ドア2のヒンジ部とは反対側が、ドアホルダ31のドア先クランプ装置316によりクランプされる。さらに、車両ドア2のヒンジ21がヒンジクランプ装置5によってクランプされる。これにより、車両ドア2はマテハン治具3に対して位置決めされて保持される。仮に、マテハン治具3に保持された車両ドア2が落下したときには、車両ドア2のインナー面に開口したサービスホール部分が、ドア受け・落下防止装置315のドア受け部材3151に引っ掛かるようになっている。
【0044】
マテハン治具3のボディ基準ピン313を車体1のボディ基準穴14に挿入し、ボディクランプ装置323によって車体1がクランプされることにより、車体1とマテハン治具3とが位置決めされる。また、車両ドア2は上述した6カ所の位置決め手段によってマテハン治具3に対して位置決めされている。このため、マテハン治具3を介することで、車両ドア2は車体1に対して位置決めされる。
【0045】
制御装置は、ボディ基準ピン313を車体1のボディ基準穴14に挿入する前に、フローティングシリンダ4を作動させてドアホルダ31を架台32に対して上下に所定量スライドさせ、しかる後にフローティングシリンダ4を、車両ドア2を保持したドアホルダ31を架台32に浮動保持する状態にする機構を備えている。
【0046】
<車両ドア組付け方法>
車両ドア2を車体1に組付けるための組付け手順を説明する。
【0047】
図9には、車両ドア2を保持したマテハン治具3と、車体1とが示されている。マテハン治具3は、車両ドア2を前述のように把持する。
【0048】
マテハン治具3に保持された車両ドア2は、作業ロボットの作動によって車体1の開口部12に搬送され、開口部12に開姿勢で位置付けられる。フローティングシリンダ4の作動によりドアホルダ31を架台32に対して強制的に上下に所定量スライドさせた後に、車両ドア2及びドアホルダ31の荷重を相殺するシリンダ圧がフローティングシリンダ4に加えられて、車両ドア2及びドアホルダ31が架台32に浮動保持される。この状態で、マテハン治具3のボディ基準ピン313を車体1のボディ基準穴14に挿入する。前記浮動保持により、ドアホルダ31がスライドレール6を上下にスライドして車体位置のばらつきが吸収され、車両ドア2が車体1に位置決めされる。この位置決め後、マテハン治具3のボディクランプ装置323により、車体1がクランプされ、車体1とマテハン治具3との位置が
図10のように固定される。フローティングシリンダ4によるドアホルダ31の強制的スライドから、前記浮動保持状態でのボディ基準ピン313のボディ基準穴14への挿入までの時間は約1秒である。この時間は10秒以下であること、さらには5秒以下であることが好ましい。
【0049】
マテハン治具3を介して、車体1に対して開姿勢で位置決めされた車両ドア2は、ヒンジ21が車体外側から車体1のヒンジ締結部13にねじ止めされる。これにより、車体1に車両ドア2が組付けられる。
【0050】
<マテハン装置の効果>
マテハン治具3により車両ドア2を保持した場合、マテハン治具3のスライドレール6には、車両ドア2からのオーバーハング力(モーメント荷重)が作用する。このオーバーハング力が作用した状態が続くと、スライドレール6とドアホルダ31との摺動面が互いに言わば固着した状態になる。これにより、ドアホルダ31がスライドレール6上で円滑に摺動しづらくなる。
【0051】
従って、前記実施形態では、車両ドア2を車体1に対して位置決めするときには、事前にフローティングシリンダ4を作動させることにより、ドアホルダ31がスライドレール6を上下に摺動させられる。これにより、スライドレール6に車両ドア2からオーバーハング力が作用してドアホルダ31がスライドレール6に固着した状態になっていても、その固着が解かれる。従って、車両ドア2を保持したドアホルダ31を架台32に浮動保持した状態でのボディ基準ピン313のボディ基準穴14への挿入において、ドアホルダ31のブロック61が架台32のスライドレール6を円滑に摺動することになる。すなわち、車両ドア2の車体1に対する位置決めを円滑に行うことができる。
【0052】
また、前記実施形態では、フローティングシリンダ4を、ドアホルダ31とスライドレール6との固着の解除に用いるため、固着解除のために専用機器を設ける必要がない。
【0053】
さらに、前記実施形態では、マテハン治具3の小型化・軽量化、ひいてはマテハン治具3を支持するロボットの小型化・軽量化の観点から、マテハン治具3の架台32の高さがドアホルダ31よりも低くし、スライドレール6の位置を低くしている。この場合、スライドレール6に加わる、車両ドア2からのオーバーハング力が大きくなる。この場合でも、事前にドアホルダ31をスライドレール6上で摺動させることにより、ドアホルダ31とスライドレール6との固着が解除されるため、車両ドア2の位置決めを円滑に行うことができる。換言すれば、マテハン治具3の大型化や重量化を招くことなく、ドアホルダ31を円滑にスライドさせて、車両ドア2の位置決めを行うことができる。
【符号の説明】
【0054】
1 車体
2 車両ドア
3 マテハン治具
31 ドアホルダ
32 架台
4 フローティングシリンダ
6 スライドレール