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特許7679677フェノキシ樹脂、熱硬化性樹脂組成物、熱伝導性シート、樹脂基板、積層板、および電子装置
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  • 特許-フェノキシ樹脂、熱硬化性樹脂組成物、熱伝導性シート、樹脂基板、積層板、および電子装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】フェノキシ樹脂、熱硬化性樹脂組成物、熱伝導性シート、樹脂基板、積層板、および電子装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/40 20060101AFI20250513BHJP
   C08L 71/10 20060101ALI20250513BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250513BHJP
   C08G 59/24 20060101ALI20250513BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20250513BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20250513BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20250513BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20250513BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20250513BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20250513BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20250513BHJP
   H05K 1/05 20060101ALI20250513BHJP
【FI】
C08G65/40
C08L71/10
C08K3/013
C08G59/24
C08G59/62
H01L23/36 M
H01L23/30 R
H01L23/36 D
B32B15/08 U
B32B15/092
H05K1/05 A
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2021071013
(22)【出願日】2021-04-20
(65)【公開番号】P2022165610
(43)【公開日】2022-11-01
【審査請求日】2024-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】大葉 昭良
(72)【発明者】
【氏名】樫野 智將
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-196807(JP,A)
【文献】特開2020-204029(JP,A)
【文献】特開2006-053401(JP,A)
【文献】特開2011-046868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00- 59/72
65/00- 67/04
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00- 43/00
H01L 23/373
23/36
23/29
H05K 1/03
1/05
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのエポキシ基を有する2官能エポキシ化合物(A)と、
少なくとも2つのフェノール性水酸基を有する多官能フェノール化合物(B)と、を反応させて得られるフェノキシ樹脂であって、
前記2官能エポキシ化合物(A)は、式(d-EP)で表される化合物を含み、
【化1】
前記式(d-EP)中のXは、メソゲン骨格を有する2価の基であり、
前記多官能フェノール化合物(B)は、式(p1)~(p8)で表される化合物から選択される少なくとも1つであり、
【化2】
【化3】
前記式(p1)~(p8)において、R11およびR12は、独立して、水素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、または炭素数1~4の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基を表す、
フェノキシ樹脂。
【請求項2】
前記式(p1)~(p8)で表される多官能フェノール化合物(B)において、R11およびR12のすべてが水素原子である、請求項1に記載のフェノキシ樹脂。
【請求項3】
前記式(d-EP)におけるXが、式(2)で表される2価の基を含む、請求項1または2に記載のフェノキシ樹脂:
【化4】
式(2)において、R~Rは、独立して、水素原子または炭素数1~4の直鎖または分枝鎖のアルキル基を表し、*は連結位置を表す。
【請求項4】
前記式(2)で表される基において、R、R、R、およびRが炭素数1~4のアルキル基であり、R、R、R、およびRが水素原子である、請求項3に記載のフェノキシ樹脂。
【請求項5】
前記式(2)で表される基において、R、R、R、およびRがメチル基であり、R、R、R、およびRが水素原子である、請求項3に記載のフェノキシ樹脂。
【請求項6】
前記式(2)で表される基において、R~Rのすべてが水素原子である、請求項3に記載のフェノキシ樹脂。
【請求項7】
前記式(d-EP)におけるXの少なくとも1つが、R、R、R、およびRがメチル基であり、R、R、R、およびRが水素原子である前記式(2)で表される2価の基であり、かつ
前記式(d-EP)におけるXの少なくとも1つが、R~Rのすべてが水素原子である前記式(2)で表される2価の基である、請求項に記載のフェノキシ樹脂。
【請求項8】
前記多官能フェノール化合物(B)が、前記式(p1)~(p4)で表される化合物から選択される少なくとも1つであり、
当該フェノキシ樹脂が、式(1)で表される構造を有する、請求項1乃至7のいずれかに記載のフェノキシ樹脂:
【化5】
式(1)中、
nは繰り返し単位を表す数であり、2~50の整数を表し、
Xは、前記式(d-EP)中のXと同義であり、
Yは、独立して、以下式(y1)~(y4)から選択される少なくとも1つの2価の基であり、
【化6】
【化7】
式(y1)~式(y4)において、R11およびR12は、独立して、水素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、または炭素数1~4の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基を表し、*は連結位置を表す。
【請求項9】
重量平均分子量が、1,000以上10,000以下である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のフェノキシ樹脂。
【請求項10】
当該フェノキシ樹脂の硬化物の熱伝導率が、0.3W/(m・K)以上である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のフェノキシ樹脂。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のフェノキシ樹脂を含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
熱伝導性フィラーをさらに含む、請求項11に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
溶剤をさらに含む、請求項11または請求項12に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
式(d-EP)で表される、2つのエポキシ基を有する2官能エポキシ化合物(A)と、
少なくとも2つのフェノール性水酸基を有する多官能フェノール化合物(B)と、を含み、
前記多官能フェノール化合物(B)は、式(p1)~(p8)で表される化合物から選択される少なくとも1つである、熱硬化性樹脂組成物:
【化8】
前記式(d-EP)中のXは、メソゲン骨格を有する2価の基であり、
前記多官能フェノール化合物(B)は、式(p1)~(p8)で表される化合物から選択される少なくとも1つであり、
【化9】
【化10】
前記式(p1)~(p8)において、R11およびR12は、独立して、水素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、または炭素数1~4の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基を表す。
【請求項15】
前記式(p1)~(p8)で表される多官能フェノール化合物(B)において、R11およびR12のすべてが水素原子である、請求項14に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項16】
前記式(d-EP)におけるXが、式(2)で表される2価の基を含む、請求項14または15に記載の熱硬化性樹脂組成物:
【化11】
式(2)において、R~Rは、独立して、水素原子または炭素数1~4の直鎖または分枝鎖のアルキル基を表し、*は連結位置を表す。
【請求項17】
前記式(2)で表される基において、R、R、R、およびRが炭素数1~4のアルキル基であり、R、R、R、およびRが水素原子である、請求項16に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項18】
前記式(2)で表される基において、R、R、R、およびRがメチル基であり、R、R、R、およびRが水素原子である、請求項16に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項19】
前記式(2)で表される基において、R~Rのすべてが水素原子である、請求項16に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項20】
式(d-EP)で表される前記2官能エポキシ化合物が、
、R、R、およびRがメチル基であり、R、R、R、およびRが水素原子である式(2)で表される2官能エポキシ化合物と、
~Rのすべてが水素原子である式(2)で表される官能エポキシ化合物と、を含む、請求項16に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項21】
熱伝導性フィラーをさらに含む、請求項14乃至20のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項22】
顆粒状またはタブレット状である、請求項14乃至21のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項23】
電子部品を封止するための封止材を形成するために用いる、請求項14乃至22のいずれか一項の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項24】
基板と、
前記基板上に設けられた電子部品と、
前記電子部品を封止する封止材と、を備え、
前記封止材が、請求項14乃至23のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物よりなる、
電子装置。
【請求項25】
請求項11乃至21のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物より形成される、熱伝導性シート。
【請求項26】
請求項25に記載の熱伝導性シートの硬化物からなる樹脂基板。
【請求項27】
請求項26に記載の樹脂基板を備える電子装置。
【請求項28】
金属層と、
前記金属層の少なくとも一方の面に積層された樹脂層と、を備え、
前記樹脂層が、請求項25に記載の熱伝導性シートの硬化物からなる、積層板。
【請求項29】
請求項28に記載の積層板を備える電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノキシ樹脂、およびこれを含む熱硬化性樹脂組成物、ならびに当該熱硬化性樹脂組成物より製造される樹脂シート、樹脂基板および回路基板に関する。より詳細には、高熱伝導性材料として使用可能なフェノキシ樹脂およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の高集積化や電子機器の処理能力の急速な向上に伴い、処理能力の高い電子部品からは多くの熱が発生する。そのため電子部品から熱を効果的に外部へ放散させる熱対策が非常に重要な課題になっている。このような放熱対策として、プリント配線基板、半導体パッケージ、筐体、ヒートパイプ、放熱板、熱拡散板等の放熱部材には、金属、セラミックス、高分子組成物等の放熱材料からなる熱伝導性部材が適用されている。
【0003】
これらの放熱部材の中でも、エポキシ樹脂組成物から成形される熱伝導性エポキシ樹脂成形体は、電気絶縁性、機械的性質、耐熱性、耐薬品性、接着性等に優れているため、注型品、積層板、封止材、熱伝導性シート、接着剤等として電気電子分野を中心に広く使用されている。
【0004】
熱伝導性エポキシ樹脂成形体を構成するエポキシ樹脂組成物は、樹脂、ゴム等の高分子マトリックス材料中に、熱伝導率の高い熱伝導性充填剤を配合したものが知られている。熱伝導性充填剤としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、石英等の金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、炭化ケイ素等の金属炭化物、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、金、銀、銅等の金属、炭素繊維、黒鉛等が用いられている。
【0005】
さらに高い熱伝導性が要求される場合には、エポキシ樹脂に特殊な熱伝導性充填剤を配合した熱伝導性エポキシ樹脂組成物や熱伝導性エポキシ樹脂成形体が提案されている(たとえば、特許文献1)。また、エポキシ樹脂自体の熱伝導率や耐熱性を向上させることも提案されている(たとえば、特許文献2)。特許文献2では、メソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂等を重合することにより、熱伝導性を向上させた絶縁組成物を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-193504号公報
【文献】特願2004-331811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者が検討した結果、特許文献2に記載の樹脂組成物は、熱伝導性の点においてさらなる改善の余地を有することが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、特定の構造を有する新規なフェノキシ樹脂が高熱伝導性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、
2つのエポキシ基を有する2官能エポキシ化合物(A)と、
少なくとも2つのフェノール性水酸基を有する多官能フェノール化合物(B)と、を反応させて得られるフェノキシ樹脂であって、
前記2官能エポキシ化合物(A)は、式(d-EP)で表される化合物を含み、
【0010】
【化1】
【0011】
前記式(d-EP)中のXは、メソゲン骨格を有する2価の基であり、
前記多官能フェノール化合物(B)は、式(p1)~(p8)で表される化合物から選択される少なくとも1つであり、
【0012】
【化2】
【0013】
【化3】
【0014】
前記式(p1)~(p8)において、R11およびR12は、独立して、水素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、または炭素数1~4の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基を表す、フェノキシ樹脂が提供される。
【0015】
また本発明によれば、上記フェノキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【0016】
また本発明によれば、
式(d-EP)で表される、2つのエポキシ基を有する2官能エポキシ化合物(A)と、
少なくとも2つのフェノール性水酸基を有する多官能フェノール化合物(B)と、を含み、
前記多官能フェノール化合物(B)は、式(p1)~(p8)で表される化合物から選択される少なくとも1つである、熱硬化性樹脂組成物が提供される:
【0017】
【化4】
【0018】
前記式(d-EP)中のXは、メソゲン骨格を有する2価の基であり、
前記多官能フェノール化合物(B)は、式(p1)~(p8)で表される化合物から選択される少なくとも1つであり、
【0019】
【化5】
【0020】
【化6】
【0021】
前記式(p1)~(p8)において、R11およびR12は、独立して、水素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、または炭素数1~4の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基を表す。
【0022】
また本発明によれば、
基板と、
前記基板上に設けられた電子部品と、
前記電子部品を封止する封止材と、を備え、
前記封止材が、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物よりなる、電子装置が提供される。
【0023】
また本発明によれば、上記熱硬化性樹脂組成物より形成される、熱伝導性シートが提供される。
【0024】
また本発明によれば、上記熱伝導性シートの硬化物からなる樹脂基板が提供される。
【0025】
また本発明によれば、上記樹脂基板を備える電子装置が提供される。
【0026】
さらにまた本発明によれば、
金属層と、
前記金属層の少なくとも一方の面に積層された樹脂層と、を備え、
前記樹脂層が、上記熱伝導性シートの硬化物からなる、積層板が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高い熱伝導性を有するフェノキシ樹脂、およびこれを用いた樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態に係る金属ベース基板の構造を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。なお、本明細書中、「~」との記載は、特に断りがなければ「以上から以下」を表す。
【0030】
[フェノキシ樹脂]
本実施形態のフェノキシ樹脂は、
2つのエポキシ基を有する式(d-EP)(A)と、
少なくとも2つのフェノール性水酸基を有する多官能フェノール化合物(B)と、を反応させて得られる樹脂である。
より詳細には、本実施形態のフェノキシ樹脂は、2官能エポキシ化合物(A)が有するエポキシ基および多官能フェノール化合物(B)が有するフェノール性水酸基とが反応して架橋構造が生成することにより得られる重合体である。すなわち、本実施形態のフェノキシ樹脂は、2官能エポキシ化合物(A)由来の構造単位と、多官能フェノール化合物(B)由来の構造単位とを含む、フェノキシ樹脂である。
【0031】
本実施形態のフェノキシ樹脂の架橋構造を構成する2官能エポキシ化合物(A)は、式(d-EP)で表される化合物を含み、
【0032】
【化7】
【0033】
前記式(d-EP)中のXは、メソゲン骨格を有する2価の基である。
本実施形態のフェノキシ樹脂は、メソゲン骨格を有するエポキシ化合物(A)由来の構造単位を含むことにより、その硬化物が高い熱伝導性および高い耐熱性を有する。
【0034】
式(d-EP)中のX基が有するメソゲン骨格としては、ビフェニル骨格、ナフタレン骨格、フェニルベンゾエート骨格、アゾベンゼン骨格、スチルベン骨格、シクロヘキシルベンゼン骨格、およびそれらの誘導体が挙げられる。X基が上記のメソゲン骨格を有することにより、本実施形態のフェノキシ樹脂は、高い熱伝導性を有し得る。
【0035】
一実施形態において、式(d-EP)のX基の少なくとも1つは、式(2)で表される基である。式(2)で表されるメソゲン骨格を有する構造を含むことにより、本実施形態のフェノキシ樹脂は高い熱伝導性を有するとともに、優れた耐熱性を有する。
【0036】
【化8】
【0037】
一実施形態において、式(2)で表される基は、好ましくは、R、R、R、およびRが炭素数1~4のアルキル基であり、R、R、R、およびRが水素原子である基である。中でも、式(2)においてR、R、R、およびRが炭素数1のアルキル基であり、かつR、R、R、およびRが水素原子である基(「テトラメチルビフェニル基」と称する)が、得られるフェノキシ樹脂の熱伝導性と耐熱性とを優れたバランスで両立できる点で好ましい。
【0038】
一実施形態において、式(2)で表される基は、R、R、R、およびRが炭素数1のアルキル基であり、かつR、R、R、およびRが水素原子である基(「ビフェニル基」と称する)であってもよい。このような基を有することにより、フェノキシ樹脂は優れた熱伝導性と耐熱性とを有する。
【0039】
一実施形態において、式(d-EP)は、X基として、テトラメチルビフェニル基とビフェニル基とを含むことが好ましい。これらの基を組み合わせて含むフェノキシ樹脂は、熱伝導性と耐熱性とを優れたバランスで有し得る。
【0040】
本実施形態のフェノキシ樹脂の架橋構造を構成する多官能フェノール化合物(B)は、少なくとも2つのフェノール性水酸基を有するフェノール化合物であり、好ましくは、2つのフェノール性水酸基を有する2官能のフェノール化合物、または3つのフェノール性水酸基を有する3官能のフェノール性化合物であり、具体的には、式(p1)~(p8)で表される化合物から選択される少なくとも1つである。
【0041】
【化9】
【0042】
【化10】
【0043】
前記式(p1)~(p8)において、R11およびR12は、独立して、水素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、または炭素数1~4の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基を表す。
本実施形態のフェノキシ樹脂は、式(p1)~(p8)で表される化合物由来の構造単位を含むことにより、その硬化物が高い熱伝導性を有する。
なお、本実施形態において、式(P3)、(p4)、(p7)および(p8)で表されるフラバノン骨格を有する多官能フェノール化合物は、立体異性体を含む。具体的には、式(p3)および式(p7)のイソフラバノン化合物は、そのC2炭素が不斉炭素原子である立体異性体を含み、式(p4)および式(p8)のイソフラバノン化合物は、そのC3原子が不斉炭素原子である立体異性体を含む。
【0044】
一実施形態において、式(p1)~(p8)で表される化合物中のR11およびR12のすべてが水素原子である。このような構造を有する多官能フェノール化合物由来の構造単位を有するフェノキシ樹脂は、高い熱伝導性と耐熱性とを有し得る。
【0045】
本実施形態のフェノキシ樹脂は、当該フェノキシ樹脂の有する特性に影響を与えない範囲で、上記2官能エポキシ化合物(A)および多官能フェノール化合物(B)に加え、他の成分(C)由来の構造単位を含んでもよい。成分(C)としては、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、Bis-A型エポキシ化合物、Bis-E型エポキシ化合物、Bis-F型エポキシ化合物、Bis-S型エポキシ化合物、およびこれらの前駆体であるビスフェノール化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。本実施形態のフェノキシ樹脂が、成分(C)由来の構造単位を含む場合、その含有量は、フェノキシ樹脂を構成する全構造単位に対して、例えば、10モル%以下であり、好ましくは、5モル%以下である。
【0046】
一実施形態において、本発明のフェノキシ樹脂は、上記式(d-EP)で表される2官能エポキシ化合物と、上記式(p1)~(p4)で表される2官能フェノール化合物から選択される少なくとも1つとを反応させて得られる、以下の(1)で表される構造を有する樹脂である。
【化11】
【0047】
式(1)中、
nは繰り返し単位を表す数であり、2~50の整数を表し、好ましくは、5~40の整数であり、より好ましくは、6~30の整数であり、さらにより好ましくは、8~20の整数であり、
Xは、前記式(d-EP)中のXと同義であり、
Yは、独立して、以下式(y1)~(y4)から選択される少なくとも1つの2価の基であり、
【0048】
【化12】
【0049】
【化13】
【0050】
式(y1)~式(y4)において、R11およびR12は、独立して、水素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、または炭素数1~4の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基を表し、*は連結位置を表す。なお、式(y1)~式(y4)の基は、それぞれ、式(p1)~式(p4)の多官能フェノール化合物からから誘導される基である。
【0051】
本実施形態の式(1)で表される構造を有するフェノキシ樹脂は、その構造中に、式(1)中「X」として表されるメソゲン骨格を有する2価の有機基と、式(1)中「Y」として表される、イソフラボノイド骨格を有する式(y1)、フラボノイド骨格を有する式(y2)、フラバノン骨格を有する式(y3)、および式(y4)から選択される少なくとも1つの2価の基とを有する。このような構造を有することにより、フェノキシ樹脂の硬化物は高い熱伝導性を有する。
【0052】
式(1)で表されるフェノキシ樹脂は、上述のX基およびY基に加えて、当該フェノキシ樹脂の有する特性に影響を与えない範囲で、他の基を含んでもよい。
【0053】
本実施形態のフェノキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、たとえば、1,000~10,000であり、好ましくは、2,000~8,000であり、より好ましくは、3,000~7,000であり、さらにより好ましくは、3,500~6,500である。Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値を示す。Mwを上記範囲とすることで、フェノキシ樹脂の熱伝導性をより向上することができる。
【0054】
本実施形態において、フェノキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて分子量分布曲線を得ることにより測定できる。フェノキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分散度(PDI:Mw/Mn)は、GPC測定により得られる標準ポリスチレン(PS)の検量線から求めたポリスチレン換算値を用いて、算出する。
【0055】
GPCの測定条件は、たとえば以下の通りである。
東ソー(株)社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8320GPC
カラム:東ソー(株)社製TSK-GEL GMH、G2000H、SuperHM-M
検出器:液体クロマトグラム用RI検出器
測定温度:40℃
溶媒:THF
試料濃度:2.0mg/ミリリットル
【0056】
フェノキシ樹脂の分散度(Mw/Mn)は、例えば、1.00~5.00であり、好ましくは1.20~4.00であり、より好ましくは1.30~3.50である。分散度を上記範囲とすることで、フェノキシ樹脂の熱伝導性および流動性をより向上させることができる。
【0057】
フェノキシ樹脂は、重量平均分子量(Mw)が1000以下の低分子量フェノキシ樹脂を含んでもよい。フェノキシ樹脂が低分子量フェノキシ樹脂を含む場合、低分子量フェノキシ樹脂は、GPC測定により得られた分子量分布全体の全面積100%に占める、重量平均分子量Mwが1,000以下に該当する成分の面積総和の割合として、例えば、5%以上60%以下、好ましくは、5%以上50%以下の量である。上記範囲の量で、低分子量フェノキシ樹脂を含むフェノキシ樹脂は、流動性が改善され、取り扱い性に優れる。よって、たとえば、フェノキシ樹脂をシートまたはフィルムの形態に加工する場合の加工安定性が改善される。
【0058】
フェノキシ樹脂のエポキシ当量は、本発明の効果の観点から、例えば、300~6,000g/eqであり、好ましくは、350~5,000g/eqであり、より好ましくは、400~4,500g/eqである。
【0059】
本実施形態のフェノキシ樹脂は、上述の特定の構成を備えることにより、その硬化物の熱伝導性を向上することができる。本実施形態のフェノキシ樹脂の硬化物の熱伝導率は、例えば、0.3W/(m・K)以上であり、好ましくは、0.35W/(m・K)以上であり、より好ましくは、0.4W/(m・K)以上である。
【0060】
本実施形態のフェノキシ樹脂は、上述の特定の構造を有することにより、その硬化物が高い1%重量減少温度を有する。本実施形態のフェノキシ樹脂の硬化物の1%重量減少温度は、300℃以上であり、好ましくは、310℃以上であり、より好ましくは、320℃以上であり、さらにより好ましくは、330℃以上である。本実施形態のフェノキシ樹脂の硬化物の1%重量減少温度の上限値は、例えば、400℃以下である。
【0061】
[フェノキシ樹脂の製造]
本実施形態のフェノキシ樹脂は、上記式(d-EP)で表される2官能エポキシ化合物(A)と、上記式(p1)~(p8)で表される多官能フェノール化(B)の少なくとも1つとを反応させることで合成することができる。本実施形態のフェノキシ樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、これらの2官能エポキシ化合物(A)および多官能フェノール化合物(B)に加え、上述の成分(C)を用いて合成してもよい。
【0062】
上記の反応は、無溶媒下または反応溶媒の存在下で、反応触媒を用いて行うことができる。
【0063】
使用できる反応溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトフェノン、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、スルホラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノンなどを好適に用いることができる。反応溶媒を用いることで初期の粘度を低減させることができ、モノマーの反応性が向上する。
【0064】
上記反応触媒としては、従来公知の重合触媒を用いることができ、アルカリ金属水酸化物、第三アミン化合物、第四アンモニウム化合物、第三ホスフィン化合物、および第四ホスホニウム化合物、イミダゾール化合物が好適に使用される。
【0065】
具体的には、2官能エポキシ化合物(A)と、多官能フェノール化合物(B)と、反応触媒と、必要に応じて反応溶媒とを添加し、攪拌下に溶融混合する。溶融混合する際の加熱温度は90~120℃程度、混合時間は30分間~2時間程度、反応圧力は常圧で行われる。溶融混合後、混合溶液を昇温し、所定の反応温度において減圧または常圧下で重合反応を行う。反応温度は140~180℃程度、反応時間は2時間~10時間程度、反応圧力は1~760Torr程度で行われる。
【0066】
反応終了後に溶媒置換などを行なうことで好適な溶媒に溶解した樹脂として得ることが可能である。また、溶媒反応で得られたフェノキシ樹脂は、蒸発器等を用いた脱溶媒処理をすることにより、溶媒を含まない固形状の樹脂として得ることもできる。
【0067】
上記の合成方法における、出発物質の使用量、反応温度、反応時間等の反応条件を適宜選択して重合度を調整することにより、所望の重量平均分子量を有するフェノキシ樹脂を得ることができる。
【0068】
本実施形態のフェノキシ樹脂の合成に用いられる2官能エポキシ化合物(A)としては、4,4'-ジグリシジルビフェニル、又は4,4'-ジグリシジル-3,3',5,5'-テトラメチルビフェニル等が挙げられる。
【0069】
本実施形態のフェノキシ樹脂の合成に用いられる多官能フェノール化合物(B)としては、ルテオリン、アピゲニン、バイカレイン、スクテラレイン、トリセチン、ジオスメチン、ノビレチン等のフラボン;ダイゼイン、ゲニステイン等のイソフラボノイド;ナリンゲニン、ブチン、エリオジクチオール、ヘスペレチン、ホモエリオジクチオール、イソサクラネチン、ピノセムブリン、サクラネチン、ステルビン等のフラバノンが挙げられる。中でも、取扱い性が良好であり、また得られるフェノキシ樹脂が高い熱伝導性を有することから、ダイゼイン、ゲニステイン、ナリンゲニンを用いることが好ましい。
【0070】
[熱硬化性樹脂組成物]
(第一の実施形態)
第一の実施形態において、熱硬化性樹脂組成物は、上述のフェノキシ樹脂を含み、その用途に応じて、その他の成分を含む。以下、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を構成し得る成分について説明する。
【0071】
(フェノキシ樹脂)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述のフェノキシ樹脂を含む。本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を、例えば、放熱絶縁材料に用いる場合、フェノキシ樹脂の含有量は、以下で説明する無機充填材を含まない熱硬化性樹脂組成物の固形分(不揮発分)全体に対して、例えば、1質量%~70質量%、好ましくは2質量%~50質量%、より好ましくは3質量%~45質量%である。
【0072】
(熱伝導性フィラー)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、熱伝導性フィラーを含んでもよい。熱伝導性フィラーを配合することにより、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を、放熱部材を作製するための材料として使用することができる。熱伝導性フィラーは、たとえば、20W/m・K以上の熱伝導率を有する高熱伝導性無機粒子を含むことができる。高熱伝導性無機粒子としては、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、および酸化マグネシウムが挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
上記熱伝導性フィラーとして、窒化ホウ素を用いる場合、窒化ホウ素は、鱗片状窒化ホウ素の、単分散粒子、凝集粒子またはこれらの混合物を含むことができる。鱗片状窒化ホウ素は顆粒状に造粒されていてもよい。鱗片状窒化ホウ素の凝集粒子を用いることによって、得られる熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性をより一層高めることができる。凝集粒子は、焼結粒子であっても、非焼結粒子であってもよい。
【0074】
(熱硬化性樹脂)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述のフェノキシ樹脂以外の他の熱硬化性樹脂を含んでもよい。上記の他の熱硬化性樹脂としては、例えば、本実施形態の式(1)の構造を有するフェノキシ樹脂以外のエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、アクリル樹脂、フェノール誘導体またはこれらの誘導体等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1分子内に反応性官能基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
(硬化剤)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化剤を含んでもよい。上記硬化剤としては、熱硬化性樹脂の種類に応じて選択され、これと反応するものであれば特に限定されない。上記硬化剤としては、フェノール樹脂系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、メルカプタン系硬化剤等を挙げることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
(硬化促進剤)
上記熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化促進剤を含むことができる。
上記硬化促進剤の種類や配合量は特に限定されないが、反応速度や反応温度、保管性などの観点から、適切なものを選択することができる。
【0077】
上記硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール類、有機リン化合物、3級アミン類、フェノール化合物、有機酸等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、耐熱性を高める観点から、イミダゾール類などの窒素原子含有化合物を用いることが好ましい。
【0078】
(シランカップリング剤)
上記熱硬化性樹脂組成物は、シランカップリング剤を含んでもよい。これにより、熱硬化性樹脂組成物中における熱伝導性フィラーの相溶性を向上させることができる。カップリング剤は、熱硬化性樹脂組成物に添加してもよいし、熱伝導性フィラー表面に処理して使用してもよい。
【0079】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述した成分以外の他の成分を含むことができる。この他の成分としては、例えば、酸化防止剤、レベリング剤が挙げられる。
【0080】
(第二の実施形態)
第二の実施形態における熱硬化性樹脂組成物は、上記式(d-EP)で表される2官能エポキシ化合物(A)と、上記式(p1)~(p8)で表される多官能フェノール化(B)の少なくとも1つと、を含む。
【0081】
第二の実施形態における熱硬化性樹脂組成物は、第一の実施形態における熱硬化性樹脂組成物と同様に、その用途に応じて、その他の成分を含み得る。その他の成分としては、第一の実施形態における熱硬化性樹脂組成物に配合され得るものと同様の、熱伝導性フィラー、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤、シランカップリグ剤が挙げられる。
【0082】
[熱硬化性樹脂組成物の製造方法]
第一の実施形態および第二の実施形態における熱硬化性樹脂組成物は、上記の各成分を、溶剤中に溶解、混合、撹拌することにより樹脂ワニス(ワニス状の熱硬化性樹脂組成物)を調製することができる。この混合は、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、および自転公転式分散方式などの各種混合機を用いることができる。あるいは、第一の実施形態および第二の実施形態における熱硬化性樹脂組成物は、、上記の各成分を、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサー等のミキサーやブレンダー等で均一に混合した後、ニーダー、ロール、ディスパー、アジホモミキサー、及びプラネタリーミキサー等で加熱しながら混練することにより製造できる。なお、混練時の温度としては、硬化反応が生じない温度範囲である必要があり、例えば、70~150℃程度で溶融混練することが好ましい。混練後に冷却固化し、混練物を、粉粒状、顆粒状、タブレット状、またはシート状に加工してもよい。
【0083】
上記溶剤としては特に限定されないが、アセトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、セルソルブ系、カルビトール系、アニソール、およびN-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0084】
[熱硬化性樹脂組成物の用途]
(樹脂シート)
本実施形態の樹脂シートは、キャリア基材と、キャリア基材上に設けられた、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層と、を備える。本実施形態の樹脂シートは、放熱部材を作製するための熱伝導性樹脂シートとして使用することができる。本実施形態の熱伝導性シートは、たとえば、半導体チップ等の発熱体と当該発熱体を搭載するリードフレーム、配線基板(インターポーザ)等の基板との間、あるいは、当該基板とヒートシンク等の放熱部材との間に設けられる。
【0085】
上記樹脂シートは、たとえばワニス状の熱硬化性樹脂組成物をキャリア基材上に塗布して得られた塗布膜(樹脂層)に対して、溶剤除去処理を行うことにより得ることができる。上記樹脂シート中の溶剤含有率が、熱硬化性樹脂組成物全体に対して10重量%以下とすることができる。たとえば80℃~200℃、1分間~30分間の条件で溶剤除去処理を行うことができる。
【0086】
また、本実施形態において、上記キャリア基材としては、例えば、高分子フィルムや金属箔などを用いることができる。当該高分子フィルムとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、シリコーンシート等の離型紙、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂などの耐熱性を有した熱可塑性樹脂シート等が挙げられる。当該金属箔としては、特に限定されないが、例えば、銅および/または銅系合金、アルミおよび/またはアルミ系合金、鉄および/または鉄系合金、銀および/または銀系合金、金および金系合金、亜鉛および亜鉛系合金、ニッケルおよびニッケル系合金、錫および錫系合金などが挙げられる。
【0087】
(樹脂基板)
本実施形態の樹脂基板は、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物で構成された絶縁層を備える。この樹脂基板は、例えば、LED、パワーモジュールなどの電子部品を搭載するためのプリント基板の材料として用いることができる。
【0088】
(積層板)
本実施形態の樹脂基板の用途の一例として、積層板について図1に基づいて説明する。
図1は、樹脂シートの硬化物を備える金属ベース基板100の構成の一例を示す断面図である。
【0089】
上記金属ベース基板100は、図1に示すように、金属基板101と、金属基板101上に設けられた絶縁層102と、絶縁層102上に設けられた金属層103と、を備えることができる。この絶縁層102は、上記の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層、熱硬化性樹脂組成物の硬化物および積層板からなる群から選択される一種で構成することが可能である。これらの樹脂層、積層板のそれぞれは、金属層103の回路加工の前では、Bステージ状態の熱硬化性樹脂組成物で構成されていてもよく、回路加工の後では、それを硬化処理されてなる硬化体であってもよい。
【0090】
金属層103は絶縁層102上に設けられ、回路加工されるものである。この金属層103を構成する金属としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、鉄、錫等から選択される一種または二種以上が挙げられる。これらの中でも、金属層103は、好ましくは銅層またはアルミニウム層であり、特に好ましくは銅層である。銅またはアルミニウムを用いることで、金属層103の回路加工性を良好なものとすることができる。金属層103は、板状で入手できる金属箔を用いてもよいし、ロール状で入手できる金属箔を用いてもよい。
【0091】
金属層103の厚みの下限は、例えば、0.01mm以上であり、好ましくは0.035mm以上であれば、高電流を要する用途に適用できる。
また、金属層103の厚みの上限は、例えば、10.0mm以下であり、好ましくは5mm以下である。このような数値以下であれば、回路加工性を向上させることができ、また、基板全体としての薄型化を図ることができる。
【0092】
金属基板101は、金属ベース基板100に蓄積された熱を放熱する役割を有する。金属基板101は、放熱性の金属基板であれば特に限定されないが、例えば、銅基板、銅合金基板、アルミニウム基板、アルミニウム合金基板であり、銅基板またはアルミニウム基板が好ましく、銅基板がより好ましい。銅基板またはアルミニウム基板を用いることで、金属基板101の放熱性を良好なものとすることができる。
【0093】
金属基板101の厚さは、本発明の目的が損なわれない限り、適宜設定できる。
金属基板101の厚さの上限は、例えば、20.0mm以下であり、好ましくは5.0mm以下である。この数値以下の金属基板101を用いることで、金属ベース基板100の外形加工や切り出し加工等における加工性を向上させることができる。
【0094】
また、金属基板101の厚さの下限は、例えば、0.01mm以上であり、好ましくは0.6mm以上である。この数値以上の金属基板101を用いることで、金属ベース基板100全体としての放熱性を向上させることができる。
【0095】
本実施形態において、金属ベース基板100は、各種の基板用途に用いることが可能であるが、熱伝導性及び耐熱性に優れることから、LEDやパワーモジュールを用いるプリント基板として用いることが可能である。
【0096】
金属ベース基板100は、パターンにエッチング等することによって回路加工された金属層103を有することができる。この金属ベース基板100において、最外層に不図示のソルダーレジストを形成し、露光・現像により電子部品が実装できるよう接続用電極部が露出されていてもよい。
【0097】
(電子装置)
上述の本実施形態の樹脂シート、樹脂基板および積層体は、その上に電子部品を搭載するための基板として用いて電子装置を製造するために用いられる。あるいは、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、電子部品を封止するための封止材として用いることができる。
【0098】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例
【0099】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0100】
・エポキシ化合物1:下記式(3)で表されるテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)社製の「YX4000」)
【化14】
【0101】
・エポキシ化合物2:下記式(3)で表されるテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂と下記式(4)で表されるビフェニル型エポキシ樹脂との1:1混合物(三菱ケミカル(株)社製の「YL-6121」)
【化15】
【化16】
【0102】
(多官能フェノール化合物)
・フェノール化合物1:ダイゼイン(下記式(5)で表される2官能フェノール化合物)
【化17】
【0103】
・フェノール化合物2:ナリンゲニン(下記式(6)で表される3官能フェノール化合物)
【化18】
【0104】
(実施例1)
エポキシ化合物1を62重量部、フェノール化合物1を31重量部、トリフェニルホスフィン(TPP)0.05重量部、及び溶剤(シクロヘキサノン)7重量部を反応器に投下し、100℃~110℃で1時間溶融混合した。そして、混合液を180℃に昇温し、当該温度で減圧下にて溶剤を除去しながら反応させ、GPCで目的の分子量となることを確認し、反応を停止させ、下記式(1-1)で表されるフェノキシ樹脂を得た。反応は6時間行った。反応後、ジメチルホルムアミドを樹脂に対して100重量部添加して樹脂を溶解し室温まで冷却した。冷却後、メタノールを用いた再沈殿法により精製して、以下の式(1-1)で表されるフェノキシ樹脂(式(1-1)中の繰り返し単位数nの平均値は11であり、Xは式(3)のエポキシ化合物1由来の構造単位であり、Yはフェノール化合物1であるダイゼイン由来の構造単位である)を100重量部得た。
【0105】
【化19】
【0106】
(実施例2)
エポキシ化合物2を62重量部、フェノール化合物1を31重量部、トリフェニルホスフィン(TPP)0.05重量部、及び溶剤(シクロヘキサノン)7重量部を反応器に投下し、100℃~110℃で1時間溶融混合した。そして、混合液を180℃に昇温し、当該温度で減圧下にて溶剤を除去しながら反応させ、GPCで目的の分子量となることを確認し、反応を停止させ、下記式(1-2)で表されるフェノキシ樹脂を得た。反応は6時間行った。反応後、ジメチルホルムアミドを樹脂に対して100重量部添加して樹脂を溶解し室温まで冷却した。冷却後、メタノールを用いた再沈殿法により精製して、以下の式(1-2)で表されるフェノキシ樹脂(式(1-2)中の繰り返し単位数nの平均値は11であり、Xは式(3)のエポキシ化合物由来の構造単位および式4)のエポキシ化合物由来の構造単位であり、Yはフェノール化合物1であるダイゼイン由来の構造単位である)を100重量部得た。
【0107】
【化20】
【0108】
(比較例1)
フェノキシ樹脂として、直鎖型フェノキシ樹脂1:下記の式(7)で表されるビスフェノールA型フェノキシ樹脂(メソゲン構造なし、三菱ケミカル社製、YP-55)を使用した。
【0109】
【化21】
【0110】
(実施例3)
エポキシ化合物1を50重量部、フェノール化合物1を50重量部アルミカップに量り取り、150℃のホットプレート上で溶融し、触媒(2-メチルイミダゾール)2重量部を加え1分間混合し、樹脂組成物を得た。
【0111】
(実施例4)
エポキシ化合物1を50重量部、フェノール化合物2を50重量部アルミカップに量り取り、150℃のホットプレート上で溶融し、触媒(2-メチルイミダゾール)2重量部を加え1分間混合し、樹脂組成物を得た。
【0112】
(比較例2)
エポキシ化合物1を50重量部、フェノールノボラック樹脂(住友ベークライト社製、PR-55617)を50重量部アルミカップに量り取り、150℃のホットプレート上で溶融し、触媒(2-メチルイミダゾール)2重量部を加え1分間混合し、樹脂組成物を得た。
【0113】
実施例1、2および比較例1のフェノキシ樹脂の物性値を以下の方法で測定した。
(分子量、分散度、およびピーク面積)
GPCの測定条件は、以下の通りである。
・東ソー(株)社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8320GPC
・カラム:東ソー(株)社製TSK-GEL GMH、G2000H、SuperHM-M
・検出器:液体クロマトグラム用RI検出器
・測定温度:40℃
・溶媒:THF
・試料濃度:2.0mg/ミリリットル
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分散度(PDI:Mw/Mn)は、GPC測定により得られる標準ポリスチレン(PS)の検量線から求めたポリスチレン換算値を用いて、算出した。
上記GPC測定により得られた分子量に関するデータに基づき、GPC測定により得られた分子量分布の全面積を100%としたとき、測定対象のフェノキシ樹脂全体に含まれるMwが1k以下の低分子量フェノキシ樹脂に対応するピークについて、そのピーク面積の面積割合(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0114】
(熱伝導率)
・フェノキシ樹脂成形体の作製
実施例1、2または比較例1の各フェノキシ樹脂100重量部に触媒(2-メチルイミダゾール)2重量部を混合した混合物を、離型剤を塗布した金型にセットし、コンプレッション成形を180℃、30min行い、直径10mm×厚み1mmの樹脂成形物を得た。その後、オーブンにて180℃、180minの硬化を行い、樹脂成形体(熱伝導率測定用サンプル)を得た。
・樹脂組成物成形体の作成
実施例3、4または比較例2の樹脂組成物を、離型剤を塗布した金型にセットし、コンプレッション成形を180℃、30min行い、直径10mm×厚み1mmの樹脂成形物を得た。その後、オーブンにて180℃、180minの硬化を行い、樹脂組成物成形体(熱伝導率測定用サンプル)を得た。
【0115】
・成形体の熱伝導率の測定
得られた樹脂成形体から、厚み方向測定用として、直径10mm×厚み1mmに加工したものを試験片とした。次に、ULVAC社製のXeフラッシュアナライザーTD-1RTVを用いて、レーザーフラッシュ法により板状の試験片の厚み方向の熱拡散係数(α)の測定を行った。測定は、大気雰囲気下、25℃の条件下で行った。
樹脂成形体について、得られた熱拡散係数(α)、比熱(Cp)、密度(ρ)の測定値から、下記式に基づいて熱伝導率を算出した。結果を表1に示す。
熱伝導率[W/m・K]=α[m/s]×Cp[J/kg・K]×ρ[g/cm
【0116】
【表1】
【0117】
実施例の樹脂組成物の硬化物はいずれも、比較例1のものと比べ、高い熱伝導率を有していた。
【符号の説明】
【0118】
100 金属ベース基板
101 金属基板
102 絶縁層
103 金属層
図1