(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】サーミスタ付き水晶振動デバイス
(51)【国際特許分類】
H03H 9/02 20060101AFI20250513BHJP
【FI】
H03H9/02 K
H03H9/02 N
(21)【出願番号】P 2021182804
(22)【出願日】2021-11-09
【審査請求日】2024-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000149734
【氏名又は名称】株式会社大真空
(72)【発明者】
【氏名】森本 賢周
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-068288(JP,A)
【文献】特開2013-106054(JP,A)
【文献】特開2014-222812(JP,A)
【文献】特開平10-106808(JP,A)
【文献】国際公開第2020/012775(WO,A1)
【文献】特開2014-107778(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0103836(US,A1)
【文献】特開2015-211328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に励振電極が形成された単板の水晶振動板と、
表面に動作電極が形成された単板のサーミスタと、
前記水晶振動板と前記サーミスタを1つのパッケージに収納したことを特徴とするサーミスタ付き水晶振動デバイス。
【請求項2】
パッケージは1つの収納部を有し、前記水晶振動板と前記サーミスタが前記収納部に導電接合されたことを特徴とする請求項1記載のサーミスタ付き水晶振動デバイス。
【請求項3】
パッケージは基板を挟んで上下に各々開口する2つの収納部を有し、前記水晶振動板は一方の収納部に導電接合され、前記サーミスタは他方の収納部に導電接合され、前記水晶振動板と前記サーミスタは前記基板の表裏に対向して配置されていることを特徴とする請求項1記載のサーミスタ付き水晶振動デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッケージに水晶振動板とサーミスタを導電接合したサーミスタ付き水晶振動デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器の高精度化に伴い、環境温度の変化に伴う周波数変動を補償する温保補償型の水晶発振回路が求められており、これに対応する水晶振動デバイスとして、水晶振動子に温度センサとしてサーミスタが取り付けられたサーミスタ付き水晶振動デバイスが幅広く使用されている。
【0003】
水晶振動子の環境温度をサーミスタにて測定し、周波数情報と温度情報を外部実装された温度補償回路に伝送することにより、温度補償された周波数信号を得ることができ、電子機器の動作を高精度に保つことができる。
【0004】
このようなサーミスタ付き水晶振動デバイスはセラミックからなるパッケージに励振電極が形成された水晶振動板が収納されるとともに、その外側にサーミスタが取り付けられ、水晶振動子を取り巻く環境温度を検出する構成となっている。特許文献1参照。
【0005】
上記サーミスタは、複数のサーミスタ素材層と動作電極が複数積層された積層構成であり、厚さが0.3mm~0.1mm程度のものが上市され、使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のサーミスタは水晶振動子を取り巻く温度変化を、タイムラグ少なく検出することが求められる。しかしながら、これまで使用されていたサーミスタは積層構成ということもあり、一定の厚さ(高さ)が必要な構成となっていた。このような構成により、水晶振動子の温度と温度センサとしてのサーミスタの検出温度に差が生じることがあった。
【0008】
このような場合、水晶振動子に係る温度が正確に検出できず、温度補償回路における適切な温度補償ができないことがあり、正確な周波数信号を電子機器に提供できないことがあった。これにより電子機器の動作信頼性を低下させることがあった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、超小型化、超薄型化に対応するともに、水晶振動デバイスに係る温度変動を安定して適切に検出し、電気的特性に優れた温度センサ付き水晶振動デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるサーミスタ付き水晶振動デバイスは、表面に励振電極が形成された単板の
水晶振動板と、表面に動作電極が形成された単板のサーミスタと、前記水晶振動板と前記サーミスタを1つのパッケージに収納したことを特徴としている。
【0011】
水晶振動板の表面には励振電極が形成された構成であるとともに、サーミスタも単板構成であり、その表面に動作電極が形成された構成である。このように両者が単板構成であることにより、パッケージを介して外部から熱伝導がある場合、タイムラグが少ない状態で水晶振動板とサーミスタに昇温情報や降温情報が伝わる。これにより温度センサであるサーミスタの検出温度は、水晶振動板の温度との差異が極小となり、水晶振動板の周波数情報とサーミスタの温度情報に基づく温度補償処理が正確かつ適切に行うことができる。
【0012】
また、水晶振動板およびサーミスタへの電極膜形成はスパッタリング法や真空蒸着法等のPVD成膜法で行った場合、薄膜構成が実現でき電極膜による熱伝導性を向上させることができる。
【0013】
上記サーミスタは単板のサーミスタ素板の表面に電極が形成された構成であり、一主面に離隔した一対の動作電極が形成された構成であってもよい。これら動作電極に通電することにより、サーミスタ機能(温度に基づく電流変化量検出)を得る。
【0014】
またサーミスタ素板の他主面に中継電極を設けてもよい。当該中継電極は、前記動作電極に主面の表裏で対向する位置に形成されていてもよい。これによりサーミスタ素板に形成された一対の動作電極間で抵抗体としての端子を構成するが、導電経路は前記一方の動作電極から前記中継電極を介して前記他方の動作電極に流れる。このような構成により導電経路の断面積を大きく増し、また各動作電極と中継電極同士で対向する経路と出来る為、少ない面積で抵抗値を下げ、特性が安定しやすく、耐電圧も向上させることができる。
【0015】
また当該中継電極を熱伝導の良好な金属で構成し、サーミスタ素板の他主面の略全面に形成してもよい。
【0016】
この構成により、サーミスタの動作電極に伝わった熱は中継電極が伝熱部として機能するため、温度変化検出のタイムラグを極小にすることができる。
【0017】
また上記単板のサーミスタは厚さが0.05mm以下の厚さであってもよい。
【0018】
サーミスタの厚さを0.05mm以下とすることにより、動作電極に伝わった熱(温度変動情報)はサーミスタ素板を素早く伝わり、サーミスタとしての温度検出能を向上させることができる。
【0019】
ここで用いる導電接合は、水晶振動板の導電接合、サーミスタの導電接合とも導電性樹脂接着剤を用いてもよい。さらにここで用いる樹脂接着剤を両者同じ樹脂材を用いてもよい。
【0020】
パッケージの構成は多種の構成に対応できるが、例えば、パッケージは1つの収納部を有し、前記収納部に前記水晶振動板と前記サーミスタが前記収納部に導電接合された構成であってもよい。
【0021】
上記1つの収納部に収納する構成により、水晶振動板とサーミスタの搭載を近接させて行うことができ、これにより両者の熱変動の差を小さくすることができる。
【0022】
さらに1つの収納部の内部において導電性樹脂接着剤を用いることにより、接合後のガスが生じにくく、水晶振動板の特性を安定させることができる。従来、積層型のサーミスタの導電接合においては、はんだ接合により行っていたが、フラックス等の残留によりパッケージ内の雰囲気を汚染することがあったが、上述のとおり両者の接合に導電性樹脂接着剤を用いることにより、パッケージ内の雰囲気、例えば真空あるいは不活性ガス雰囲気を安定化させ、水晶振動板の特性(水晶振動子の動作)を安定させることができる。
【0023】
また同じ導電性樹脂接着剤を用いることにより、熱伝導の差も無くすことができ、温度検出精度を向上させることができる。
【0024】
パッケージ収納構成として、パッケージは基板を挟んで上下に各々開口する2つの収納部を有し、前記水晶振動板は一方の収納部に導電接合され、前記サーミスタは他方の収納部に導電接合され、前記水晶振動板と前記サーミスタは前記基板の表裏に対向して配置されている構成であってもよい。
【0025】
水晶振動板とサーミスタが基板の表裏に対向して配置された構成により、両者に係る熱伝導の差を無くし、温度検出精度を向上させることができる。
【0026】
なお、前記水晶振動板はATカットまたはSCカットの水晶振動板であってもよく、X-Yカットの水晶振動板等であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、超小型化、超薄型化に対応するともに、水晶振動デバイスに係る温度変動を適切に検出し、電気的特性に優れた温度センサ付き水晶振動デバイスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第一の実施形態にかかるサーミスタ付き水晶振動デバイスの各構成を示した分解斜視図である。
【
図3】
図1を組み立てた際のA-A線に沿った断面図である。
【
図4】水晶振動板に形成された電極膜構成を示す図である。
【
図5】サーミスタに形成された電極膜構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
第一の実施形態
第一の実施形態にかかるサーミスタ付き水晶振動デバイスXtlは、
図1乃至
図3に示すように、上部収納部11A,と下部収納部11Bを有するパッケージ1と、前記上部収納部11Aに収納される水晶振動板2と、前記下部収納部11Bに収納されるサーミスタ4と、上部収納部11Aを気密封止するリッド3とからなる。なお、
図3は
図2のA-A線に沿う断面図である。
【0031】
《パッケージの構成》
図3に示すように、パッケージ1はセラミックスからなり全体として直方体形状で、上方に開口する上部収納部11Aと下方に開口する下部収納部11Bを有している。これら上部収納部11Aと下部収納部11Bは、基板11Cに対して閉口部分(底部)が背中合わせになった構成である。
【0032】
上部収納部11Aは上方に開口する凹形の直方体収納構成で、上記上部収納部11Aの底部に金属膜からなる搭載電極16,17が形成されている。これら搭載電極16,17はパッケージの短辺方向に並んで形成されている。また上部収納部11Aの外周部分には前記底部より高い位置にある矩形上の封止部10が設けられ、封止部10には金属膜層が形成されている。
【0033】
各搭載電極16,17は複数の金属層からなり、W(タングステン)層、Ni(ニッケル)層、Au(金)層の順で積層されている。W層はパッケージを構成するセラミックス材料とともに焼成にて一体形成され、Ni層とAu層はメッキにてW層上に形成されている。封止部10も搭載電極16,17と同様の金属層構成でW層、Ni層、Au層の積層構成を有している。なお、後述する搭載電極18,19並びに実装電極12,13,14,15についても、同様の製法にて製造し、それぞれW層、Ni層、Au層の順で積層された層構成を有している。
【0034】
下部収納部11Bは下方に開口する凹形の直方体収納構成で、上記下部収納部11Bの底部には金属膜からなる搭載電極18,19が形成されている。これら搭載電極18,19は長辺と短辺を有する矩形形状で、パッケージの長辺に沿った方向で両搭載電極の長辺側が対向するよう形成されている。なお、これら両搭載電極をパッケージの短辺に沿った方向に並ぶように形成してもよい。
【0035】
また下部収納部11Bの4つの角部には前記底部より高い位置にある実装電極12,13,14,15が設けられている。これら各実装電極は矩形形状であり、このうち実装電極12、14は前記搭載電極16,17と、実装電極13、15は前記搭載電極18,19とパッケージ1の内部配線により電気的につながっている。
【0036】
《水晶振動板の構成》
水晶振動板2はATカット水晶振動板からなり、全体として矩形の板状である。水晶振動板1はその表裏の中央部分に励振電極21,22が形成されており、これら励振電極21,22は幅を有する帯状の引出電極21a,22aにより水晶振動板の外周部分に引き出されている。前記励振電極21,22は矩形形状であり、水晶振動板の一方の主面において励振電極21は、一つの短辺角部から引出電極21aにより、水晶振動板の一方の主面の短辺側に引き出され、水晶振動板の他方の主面において励振電極22は、一つの短辺角部から引出電極22aにより、水晶振動板の他方の主面の短辺側に引き出されている。これにより引出電極21a,22aは水晶振動板の一方の短辺に引き出されている。
【0037】
これら励振電極21,22と引出電極21a,22aは、薄膜の金属膜が積層形成された構成で、具体的には
図4に示すように、水晶振動板に接してTi(チタン)層が形成され、その上部にAu(金)層が形成された積層構成を有している。なお金属膜構成は上記構成以外であってもよく、例えば下地金属をCr(クロム)層としたり、上層をAg(銀)層とする等、周知の金属構成を用いることができる。
【0038】
水晶振動板に接してTi層やCr層を形成することにより、水晶振動板との金属膜の密着性が良好で、安定した励振電極の基礎を形成することができる。また表面層に主層としてのAu層を形成することにより、励振電極膜の長期的品質安定性を確保するとともに、熱伝導性も良好であるので、環境温度の変化をタイムラグ少なく水晶振動板に伝えることができる。
【0039】
なお、主層としてAu層を用いその上部に極薄のCr層を形成したり、熱拡散により下層の下地金属層を上層に表出させることにより、後述の導電性樹脂接着剤との接合性を向上させる構成(機能層の形成)を採用してもよい。
【0040】
これら励振電極および引出電極は、周知の真空蒸着法あるいはスパッタリング法などのPVD成膜法により両電極の金属膜層を一体的に積層成膜することにより得られる。
【0041】
なお、本実施の形態においては水晶振動板としてATカット水晶振動板を用いたが、SCカット水晶振動板やX-Yカットからなる音叉型水晶振動板を用いてもよい。
【0042】
《サーミスタの構成》
サーミスタ4は温度センサとして機能し、全体として薄型の単板状のNTCサーミスタである。サーミスタ4は矩形板状のサーミスタ素板40を基材とし、厚さG2を有している。前記サーミスタ素板40の一方の主面には、長辺方向に一定の間隔G1を持って矩形の動作電極41,42が形成されている。これら動作電極41,42は長辺と短辺を有する矩形構成であり、前記長辺はサーミスタ素板の短辺寸法に対応した寸法を有している。また前記サーミスタ素板40の他方の主面全面には矩形形状の中継電極43が形成されている。
【0043】
サーミスタ4は、サーミスタ素板40に形成された一方の動作電極41と他方の動作電極42で抵抗体としての端子を有する電子部品を構成するが、導電経路は前記一方の動作電極41から前記中継電極43を介して前記他方の動作電極42に流れる。このような構成により導電経路の断面積を大きく増し、また動作電極と中継電極の面同士で対向する経路と出来る為、少ない面積で抵抗値を下げ、特性が安定しやすく、耐電圧も向上させることができる。
【0044】
ところで、動作電極41,42が接近した構成とした場合、印加する電圧にも依存するが、導電経路が動作電極41から42への直接的な流路が支配的になり、所望の抵抗値が得られないことがあった。従って、実施においては、動作電極41と中継電極43間の距離G2aと動作電極42と中継電極43間の距離G2b、並びに動作電極41,42間距離G1とは、G2a+G2b<G1を満たすような設定としている。このような設定により、所望の抵抗値が得られ、温度センサとしての精度を安定化させることができる。
【0045】
また、サーミスタ4は前記パッケージ1との接触面積が大きいほど、また水晶振動板に近い配置とするほど水晶振動板に係る温度を正確に検出することができる。従って温度計測の側面からは、サーミスタに形成された動作電極はサーミスタ素板の面積に対して大きいほうが好ましい。これにより前記接触面積を大きくすることができる。しかしながら、前記面積が大きすぎると隣接する動作電極の短絡や導電接合材による短絡が生じやすくなる。また前記接触面積が小さくなると水晶振動板の温度検出精度が低下する。
【0046】
従って、所望する抵抗値にもよるが、各動作電極の合計面積はサーミスタ素板の一方の主面面積の40%~85%の大きさであると、安定的な温度検出を行うことができる。40%以下の大きさであると、サーミスタの動作電極が小さくなりすぎ、水晶振動板の温度情報を正確に検出することができなくなるとともに、サーミスタの抵抗値が高くなりすぎ、温度センサとしての温度検出能が低下する可能性がある。また85%以上の大きさであると前述した導電接合材を含めた短絡のリスクが増加し、短絡が生じると温度センサとして機能しなくなる。
【0047】
次にサーミスタの具体的な寸法例を以下に示す。サーミスタの外形サイズは長辺0.8mm、短辺0.6mm、厚さ0.05mmであり、その面積は0.48mm2となる。またサーミスタ素板に形成される各電極パッドの外形サイズは長辺0.52mm(サーミスタ素板の短辺側)、短辺0.3mm(サーミスタ素板の長辺側)であり、その面積は0.156mm2となる。このような構成により、各電極パッドの合計面積は温度センサの面積の65%程度に設定されており、また前記電極パッドと中継電極間の距離G2aと前記電極パッド42と中継電極43間の距離G2bはそれぞれ0.05mm、前記電極パッド間距離G1は0.12mmに設定しており、前記G2a+G2b<G1 が成り立つように設定している。
【0048】
他の具体例を以下に示す。サーミスタの外形サイズは長辺0.7mm、短辺0.6mm、厚さ0.04mmであり、その面積は0.42mm2となる。またサーミスタ素板に形成される各電極パッドの外形サイズは長辺0.58mm(サーミスタ素板の短辺側)、短辺0.3mm(サーミスタ素板の長辺側)であり、その面積は0.174mm2となる。このような構成により、各電極パッドの合計面積は温度センサの面積の83%程度に設定されており、また前記電極パッドと中継電極間の距離G2aと前記電極パッド42と中継電極43間の距離G2bはそれぞれ0.04mm、前記電極パッド間距離G1は0.09mmに設定しており、前記G2a+G2b<G1 が成り立つように設定している。なお、上記寸法は水晶振動デバイスのサイズ、特性や、温度センサ付き水晶振動デバイスの要求仕様に応じて適宜デザインすればよい。
【0049】
単板のサーミスタは、例えばMn-Fe-Ni-Ti系材料をバインダー等とともにスラリー状にし、スクリーン印刷技術あるいはドクターブレード技術等の厚膜形成技術を用いてサーミスタウェハのグリーンシートを作成し、これを焼成技術により板状のサーミスタウェハを焼結成形する。
【0050】
この単板サーミスタウェハに対して、電極膜(金属膜)をスパッタリングにて形成し、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングを行う。具体的な金属膜層(金属材料)としては、
図5に示すように、サーミスタ素板に接して下地層としてTi(チタン)層を形成し、その上層にバリア層としてTiO2(酸化チタン)層、その上層にNi(ニッケル)層とTi層の合金からなるNiTi層を形成し、表面に主層としてAu(金)層を形成した、積層膜構成を採用してもよい。
【0051】
前記Ti、TiO2、NiTi、Auの各層の積層膜構成を採用した場合、最終的にサーミスタを実装基板にハンダ接合した場合に、ハンダ喰われが生じにくく安定した導電接合を行うことができるという利点がある。なお、上記積層構成においてTiO2層を形成しない構成であってもよい。
【0052】
また、電極パッド41,42の金属膜構成と中継電極43の金属膜構成を異ならせてもよく、例えば、電極パッド41,42の金属膜構成を前記Ti膜とNiTi膜とAu膜の積層構成とし、中継電極の金属膜構成をTi膜とAu膜の積層構成としてもよい。金属膜の膜厚例として、動作電極41,42については、前記Ti膜が2500Å、NiTi膜が1500Å、Au膜が1500Åをあげることができる。また中継電極43については、前記Ti膜が50Å、1500Åをあげることができる。なお、動作電極41,42の厚さを前記Ti膜が50Å、1500Åと中継電極と同じ厚さとしてもよい。この場合、同一成膜環境で動作電極と中継電極を一度に形成することができる。
【0053】
あるいはサーミスタ素板に接して、Cr(クロム)層を形成し、その上層にNi層とCr層の合金からなるNiCr層を形成し、最上層にAu(金)層の積層膜構成を採用してもよい。
【0054】
サーミスタ素板に接してTi層やCr層を形成することにより、水晶振動板との金属膜の密着性が良好で、安定した励振電極の基礎を形成することができる。また最上層にAu層を形成することにより、励振電極膜の長期的品質安定性を確保するとともに、熱伝導性も良好であるので、環境温度の変化をタイムラグ少なくサーミスタ素板に伝えることができる。
【0055】
なお、上層としてAu層を用いその上部に極薄のCr層を形成したり、熱拡散により下層の下地金属層を上層に表出させることにより、後述の導電性樹脂接着剤との接合性を向上させる構成を採用してもよい。
【0056】
このように単板状のサーミスタ素板に、金属膜をスパッタリングまたは真空蒸着法等のPVD成膜法にて薄膜を形成することにより、極めて薄肉の板状サーミスタを得ることができる。なお、板状サーミスタはサーミスタウェハ状態でその表面をラッピング研磨することにより、その表面粗さを小さくしてもよい。このような構成により、電極膜(金属膜)を安定的に成膜でき、製造精度を向上させることができるので、温度センサとしての性能を高精度にすることができる。
【0057】
サーミスタ素板を単板構成とすることにより、動作電極等から入力した熱はサーミスタ素板を短時間で入力した熱温度にすることができる。すなわち単板のサーミスタ4は外部温度変化の検出をタイムラグ少なく行うことができる。特にサーミスタ素板の厚さを0.05mm以下に設定することより、動作電極に伝わった熱(温度変動情報)はサーミスタ素板を素早く伝わり、外部温度変化に対する追従を極めて早く行うことができる。
【0058】
またサーミスタ素板に形成した動作電極や中継電極にAuを使うことにより、熱伝導を良好にすることができ、上述のサーミスタ素板の単板構成と相まって、外部温度変化の検出をタイムラグ少なく行うことができる。
【0059】
また本実施の形態においては、サーミスタ素板の他主面に設けた中継電極で用いる金属膜が熱伝部として機能するため、サーミスタ全体の熱応答速度を向上させることができ、外部温度変化の検出をタイムラグ少なく行うことができる。
【0060】
特に動作電極および中継電極の主層にAu層を用いた構成においては、伝熱性能を向上させることができるので、よりタイムラグ少なく外部温度変化の検出を行うことができる。
【0061】
《リッドによる気密封止》
リッド3は薄型の金属板あるいはセラミック板からなり、前記パッケージの封止部10の外形サイズに対応した矩形形状を有している。なお、リッド並びに封止部の構成は、パッケージの気密封止方法によって構成が異なる。例えば、シーム溶接によりリッド3と封止部10を接合する場合は、リッドはコア材にコバールを用い、その表面にNiメッキ膜が形成された構成を採る。そして封止部にはリング状の金属枠をろう接した構成を用い、例えば真空雰囲気または不活性ガス雰囲気中でリッドと金属枠をシーム溶接にて接合する。これによりパッケージ内部(上部収納部内部)は真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の定常状態とすることができる。
【0062】
金属ろう材、例えばAuSnろう材でろう接により気密封止する場合は、例えばリッドにAuSnろう材を周状にプリフォーム形成しておき、また封止部上層にはAuメッキを施しておき、両者を所定雰囲気および温度環境化で加熱することにより、金属ろう接による気密封止をすることができる。
【0063】
《サーミスタ付き水晶振動デバイスのアッセンブリ》
サーミスタ付き水晶振動デバイスXtlのアッセンブリ例を以下に説明する。
パッケージの前記上部収納部11Aの搭載電極16,17にペースト状の導電性樹脂接着剤S1をディスペンサ等で塗布する。導電性樹脂接着剤S1は例えば金属フィラーが含まれたシリコーン樹脂接着剤からなるが、ポリイミド系の樹脂材等他の樹脂材を用いてもよい。
【0064】
前記塗布した導電性樹脂接着剤上に電極形成された水晶振動板2を搭載する。具体的には引出電極21a,22a部分が前記導電性樹脂接着剤S1と接合されるように水晶振動板を上部収納部内に搭載する。そして導電性樹脂接着剤を加熱により硬化させ水晶振動板2と搭載電極16,17を導電接合(電気的機械的接合)する。なお、導電性樹脂接着剤は必要に応じて、水晶振動板の上から再度塗布してもよい。本実施の形態においては再度塗布した構成を例示している。
【0065】
次にリッドにより、上部収納部を気密封止するが、リッド3を前記封止部に接合することにより気密封止を行う。本実施の形態においては金属ろう材(AuSnろう材)S2により金属ろう材封止を行っている。
【0066】
その後、下部収納部にサーミスタを導電接合する。前記搭載電極18,19上に導電性樹脂接着剤S1をディスペンサ等により塗布し、前記導電性樹脂接着剤上に前記動作電極41,42が対応するようにサーミスタを下部収納部に搭載する。そして導電性樹脂接着剤を加熱により硬化させサーミスタ4と搭載電極18,19を導電接合(電気的機械的接合)する。なお、サーミスタの導電接合はハンダ接合を行ってもよい。
【0067】
そして、前記下部収納部に樹脂材をディスペンサ等で注入してサーミスタ4を樹脂材Mで被覆し、その後、樹脂材Mを加熱により硬化させる。本実施の形態においては樹脂材Mとしてポリイミド系樹脂を用いているが、これ以外の樹脂材を用いてもよい。これによりサーミスタが外気から保護されるので、安定した温度検出を行うことができる。
【0068】
なお、サーミスタの導電接合をハンダ接合により行う場合は、上述のような前記Ti膜が2500Å、NiTi膜が1500Å、Au膜が1500Å程度の膜厚にすると好ましい。ハンダ接合後は動作電極表面のAu層はハンダに喰われて電極膜構成からは消滅している状態となる場合があるが、接合部分やNiTi膜そして下地層のTi膜により必要な電気的接合を確保することができる。なお、前記Ti膜上面に例えば5~30Å程度の膜厚TiO2膜を形成してもよい。この場合、下地層のTi層をハンダから保護することができる。
【0069】
なお、樹脂材Mを用いない構成であってもよいし、樹脂材Mを下部収納部の底部のみに注入した構成でもよい。この底部のみに注入した構成の場合、導電性樹脂接着剤で接合された搭載電極18,19、動作電極41,42部分が樹脂材で被覆保護され、中継電極43部分は露出した構成となるので、サーミスタ4の接合強度を確保するとともに、周囲温度の検出もタイムラグ少なく行うことができる。
【0070】
その後、所定の特性検査をへて、サーミスタ付き水晶振動デバイスXtlの完成となる。
【0071】
第一の実施形態においては、水晶振動板およびサーミスタが両者とも単板構成であり、その表面に金属膜層からなる電極膜が形成された構成である。そして両者の金属膜層の主層は同じAuを用いた構成としている。このような構成により、例えばパッケージを介して熱伝導がある場合においても、タイムラグが少ない状態で水晶振動板とサーミスタに昇温情報や降温情報が伝わる。これにより温度センサであるサーミスタの検出温度は、水晶振動板の温度との差異が極小となり、水晶振動板の周波数情報とサーミスタの温度情報に基づく温度補償処理が正確かつ適切に行うことができる。
【0072】
第二の実施形態
第二の実施形態について、
図6とともに説明する。
第二の実施形態においては、パッケージ5の収納部内部に水晶振動板2とサーミスタ4が収納された構成である。パッケージ5は内部配線が形成されたセラミックからなり、上部に開口を有する収納部51を有している。収納部51の底部には水晶振動板用の搭載電極54,55(55は図示せず)とサーミスタ用の搭載電極56,57が形成されている。底面には、実装電極52,53が形成されている。
【0073】
水晶振動板2は第一の実施形態と同じく矩形板状のATカット水晶振動板を基材とし、励振電極21,22並びに引出電極21a,22a(図示せず)が両主面に形成された構成である。サーミスタ4は一方の主面に一対の動作電極41,42が所定の間隔を隔てて形成された構成であり、第一の実施形態で示した中継電極は設けていない。これら水晶振動板およびサーミスタの電極膜形成はスパッタリング等のPVD成膜法で行っている。そして、水晶振動板2とサーミスタ4は同じ導電性樹脂接着剤S1で接合され、加熱硬化によりそれぞれ搭載電極に導電接合される。その後リッド3により気密封止接合される。
【0074】
第二の実施形態においては、単板の水晶振動板と単板のサーミスタを1つの収納部内に並列に並べて搭載した構成である。また両者にはPVD成膜法により主層としてAuを用いた金属膜層により電極形成した構成である。これにより両者が環境温度変化にタイムラグなく温度変動させることができるとともに、サーミスタ付き水晶振動デバイスの低背化を図ることができる。また同じ導電性樹脂接着剤により導電接合するので、気密封止した後の内部雰囲気が安定し、特性の変動が抑制できる。また接着剤の加熱硬化を一括で行ことができるので、生産性にも優れ、コスト低減を図ることができる。
【0075】
第三の実施形態
第三の実施形態について、
図7とともに説明する。
第三の実施形態においては、パッケージ6の収納部内部に水晶振動板2とサーミスタ4を高さ方向に並べて収納された構成である。パッケージ6は内部配線が形成されたセラミックからなり、上部に開口を有する収納部61を有している。収納部61には段差部61aが設けられ、当該段差部に搭載電極62,63(63は図示せず)が形成されている。また収納部61の底部にはサーミスタ用の搭載電極64,65が形成されている。底面には、実装電極67,68が形成されている。
【0076】
水晶振動板2は第一の実施形態と同じくATカット水晶振動板を基材とし、励振電極21,22並びに引出電極21a,22a(図示せず)が両主面に形成された構成である。サーミスタ4は一方の主面に一対の動作電極41,42が所定の間隔を隔てて形成された構成であり、他方の主面全面に中継電極43を設けている。なお本第三の実施形態において、一対の動作電極は各々長辺と短辺を有する矩形形状であるが、電極膜の端部がサーミスタ素板の端部に及んでいない無電極部41a,42aが設けられている。このような構成により、導電性樹脂接着剤の塗布量が多すぎたとしても、上部に形成された中継電極にまで及びにくく、導電性樹脂接着剤による電極間の短絡を防止できる。なお、この無電極部は中継電極側の外周に設けてもよい。
【0077】
さらに本第三の実施形態においては、水晶振動板に形成された励振電極21,22の下方には中継電極が配置された構成であり、また後述のリッドが金属材料であることと相まって、水晶振動板が上下方向で金属材料に挟まれている構成となっている。これにより外部ノイズが水晶振動板に及ばない電磁シールド効果を得ることができる。
【0078】
これら水晶振動板およびサーミスタの電極膜形成はスパッタリング等のPVD成膜法で行っている。そして、水晶振動板2とサーミスタ4は同じ導電性樹脂接着剤S1で接合され、加熱硬化によりそれぞれ搭載電極に導電接合される。その後リッド3により気密封止接合される。
【0079】
第三の実施形態においては、PVD成膜法により電極形成した単板の水晶振動板と単板のサーミスタを1つの収納部内に上下方向に並べて搭載する構成である。これにより両者が環境温度変化にタイムラグなく温度変動させることができる。また同じ導電性樹脂接着剤により導電接合するので、気密封止した後の内部雰囲気が安定し、特性の変動が抑制できる。また接着剤の加熱硬化を一括で行ことができるので、生産性にも優れ、コスト低減を図ることができる。
【0080】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1,5,6 パッケージ
11A 上部収納部
11B 下部収納部
12,13,14,15、52,53,67,68 実装電極
16,17,18,19、54,55,56,57,62,63,64,65 搭載電極
2 水晶振動板
21,22 励振電極
3 リッド
4 サーミスタ
41,42 動作電極
43 中継電極
S1 導電性樹脂接着剤
S2 金属ろう材
M 樹脂材